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くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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 客鳥\阿部學

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「猛禽類アセスメント」の実態!

阿部 學 2019-07-28

福岡県が行う林道工事等に関して、クマタカを主体に猛禽類の観察による生息影響調査を調査委託会社が行います。私・広塚忠夫は、その環境アセスメントにアドバイザーとして約6年間係わりました。当時、開発事業者にお墨付きを与える「事業ヤラセメント」ではないかと、批判的な声を耳にして気に掛かっていました。
この問題点を日本鳥学会2018年度大会自由集会で、“「猛禽類アセスメント」の実態!”として阿部 學氏が発表(日本鳥学会誌 2019 年 Vol. 68)しておられ、同内容をメールにてご紹介いただきました。
当会サイト「くまたか」に掲載し、環境アセスメントが希少種の猛禽類保全に真に役立つための検討資料と思い、ここに紹介させて頂きました。

紹介者:広塚忠夫(本会会員、日本鳥学会会員)

─ フォーラム─
日本鳥学会2018 年度大会自由集会報告
日本鳥学会誌 2019 年 Vol. 68, No. 1:105~107. W02
「猛禽類アセスメント」の実態!
阿部 學 :ラプタージャパン(日本猛禽類研究機構)
E-mail: raptor_abe @mac.com
  1. 集会主宰の動機

     大会前夜にも拘わらず会場は予期に反して満室で関心の高さを感じた.中には双眼鏡を操る人も居り,筆者の口癖「双眼鏡は役に立たない」という言動に対する強い憤りの発言もあった.しかし真意は「双眼鏡」が悪いのではなく,双眼鏡で行動圏を論じ,事業の影響を評価する「専門家」が問題である,と説明して得心されたようだ.さて,事業地に希少猛禽がいると,事業者は専門家を召集し調査費を計上し,検討会を設けて事業の影響評価を行い,必要に応じて保全策を講じる.専門家は事業者の諮問に応えて調査法,評価法,保全策を提言する責務を負うが,実態は双眼鏡で「飛翔の軌跡と巣の位置」(以下,飛跡)を地図に描かせ,これを眺めながら事業の影響を評価する.「飛跡」だけでは評価のしようがなく「想像」で影響の大小を論じることになる.その結果,影響ありと「感じたら」以下の金太郎飴式の保全策を提言する.
    • 1)非繁殖期に工事,
    • 2)重機の低騒音・低振動化,
    • 3)重機の塗色変更,
    • 4)作業員の隠蔽,
    • 5)トンネルに防音扉設置,
    • 6)コンディショニング,
    • 7)人工代替巣への移転,
    • 8)作業員の教育.
    問題は年間,一事業地で数千万円を投じて描いた「飛跡」と,これら保全策の間には全く脈絡がないことである.何れも頭の中で良かれと思いついたことども.しかも奥地山岳のイヌワシでも谷津田のサシバでも判で押したように同じで,これでは調査も専門家も不要で,最悪の費用対効果である.専門家が提言した保全策を冷静に分析すると,鬼の居ぬ間(非繁殖期)に,静かに(低騒音重機),隠れて(作業員隠蔽),目立たぬように(色彩変更),音と人に慣らして(コンディショニング),遠くに追いやった(人工代替巣)上で,営巣木を伐倒したり,餌生産場,採餌場,子育て場などを改変や消滅させ,粛々と棲めないようにしているに過ぎない.作業員教育に至っては笑止千万.本来,共存策とは事業完成後も棲み続けられる保全策,即ち「生息環境の保全」でなければならないが,専門家は雁首を揃えて事業者にお墨付を与える役割を演じているに過ぎない.さる国立の研究機関が筆者の提言を受けて,全国のアセス評価書を解析した結果,「飛跡」のみで本来の目的である「事業の影響評価」にも「対象個体の保全」にも貢献しないと評した.永年にわたり全国津々浦々の数十万個所で莫大な血税を投じてこの愚が繰り返されてきた.もし専門家が有効な提言をしていたなら,どれほどの有益な知見が得られたであろうことを考えると専門家の罪は重い.そこでこの実態を広く世に問うためと「専門家」の自覚を促すために敢えてこの集会を主宰した.
  2. 事業の影響評価基準

     猛禽検討会に招聘されて,その中身の余りのお粗末さに驚愕し,あるべき提言を行うが悉く専門家の反対を喰らう.すると事業者は渡りに船とばかり,我々は環境省の「猛禽類保護の進め方」(以後,進め方)に準拠している,と嘯く.即ち,事業者は「進め方」を影響評価の「マニュアル」と誤解しているのである.この「進め方」は現今,日本の鳥界をリードする錚々たる面々が衆知を集めて瀕絶滅種を「守る心得」を論じた書でしかない.なぜなら他分野の大気質,水質,騒音,臭気等を評価する単位(ppm,dB,mg,pH,%),即ち,「定量的な評価基準」がなく,猛禽界では専門家が「感じたレベル」が基準になるという原始的な分野である.「進め方」では,行動圏面積や利用環境の調査手法として双眼鏡によるバードウォッチングを是認しているが,街なかに住むスズメやカラスでさえ飛び去る行方を追うのは至難の業である.況してや奥地山岳地帯に住むイヌワシやクマタカ,地球規模で移動する渡り鳥に至っては言を俟たない.ニュージーランドでハトにGPS発信器を装着して人工衛星で追跡した結果,過去に得た行動圏の100-1,000倍もあったといい,地上の人海作戦では行動圏把握は不可能と断じている.しかし,わが国では未だに双眼鏡で行動圏を論じた論文が多々ある.欧米では半世紀も前から鳥類にGPSを装着して,行動圏,渡りなどの情報を蓄積しているのに対して,環境省の「進め方」では,今後とも双眼鏡によるバードウォッチングを推奨している.世界広しといえども双眼鏡で絶滅に瀕した種を救った例を知らない.環境省の「進め方」によると,オオタカの行動圏は巣を中心に半径3kmとあるが,筆者がGPSで追跡した結果,子育て中の繁殖期でさえ双眼鏡の56倍もあった.事業地では毎月,数日間の観察を義務づけているが,非繁殖期には毎年,関東から北海道や鹿児島に渡っている.筆者はこれまでに250個体余の各種猛禽にGPSを装着した結果,データもなく「想像」で創造された「定説」の多くが実態と大きく乖離していることを解明し当会で発表してきた.しかし「定説」は微動だにしなかった.
  3. 科学的な事業の影響評価法

     フロリダ半島に飛行場建設が持ち上がったとき,絶滅危惧カタツムリトビに対する爆音の繁殖への影響が懸念された.この半島は全域が川になっており飛行場建設により道路がこの流れを堰き止めてあらゆる自然環境に悪影響を及ぼすとして各分野の影響評価が行われた.トビはその中の一つであった.ノースウエスト航空が旅客機を提供して離着陸を模倣した.その間,実験区,対照区各々30数つがいの産卵数,抱卵生態,孵化率,給餌量,雛の成長,繁殖成功率等を収集し有意差検定を行った結果,有意差はなく航空機の騒音が繁殖成績に悪影響を与えることはない,と結論づけた.この事例のように影響評価は科学的,定量的であるべきである.ここで紹介した事業の評価法は,自然科学の分野では誰でも知っている伝統的な手法である.仮に,これを認識した上で事業者を慮って提言しなかったとすれば由々しき事態である.むしろ知らなかった方が罪は軽い.委員会において筆者が有効な調査法や必要なデータの収集法を提言すると,事業者は決まり文句として,それは環境省の所掌範囲であると嘯く.しかし,研究所のない環境省には無理難題である.事業者は現実的に瀕絶滅種の生息環境を改変,消滅させるので,法遵守の立場からデータの収集,蓄積は義務であり社会的責務である.
  4. 環境省の義務と有識者の役割

     野生生物管理を所掌している環境省は,かかる実態に鑑み早急に影響評価に資する調査法,評価法とこれを受けての保全策策定のためのマニュアルを作成すべきである.さもなくば今後とも「専門家」により莫大な血税と時間が浪費される上に,各事業現場で瀕絶滅種が次々と姿を消していくことは自明の理である.さらに生物多様性を初め,ワシントン,ラムサール,渡り鳥保護等々の国際条約を遵守していく上で欠くことの出来ないデータ生産の場,国立の研究所設立が喫緊の課題である.不幸なことにわが国には野生生物研究所がないがためにデータの生産が全く行われていない.レッドデータブックを作り「種の保存法」を制定しても,それを運用するための研究成果(データ)がなくては絵に描いた餅である.「法律と双眼鏡と掛け声」だけでは瀕絶滅種は救えない.現今のシカ,イノシシ,サルに見る「増えれば捕れ,減れば捕るな」という行政無策がその証左である.管理が機能しているミシガン州のシカの年間猟獲数は100年以上も16万頭前後で安定的に推移していた.環境省は,庁時代の数十年前から何度か研究所創設の予算要求をしてきたが,金勘定しか頭にない大蔵省の理解が得られなかった.その最大の理由は,欧米では鳥獣を林木,農産物などと同等の「大地の生産物」と位置づけている上に,経済的,科学的,レクリエーション的,景観的価値を評価して「資源」と位置づけているのに対して,わが国では認識不足から猟獲者に帰属する「無主物」と位置づけているからである.米国では狩猟ライセンス料,銃砲,弾薬,狩猟旅行(ホテル,燃料,食糧等)による支出が正当に評価され,鳥獣の高い経済的価値を認めている.わが国に天然林がないように野生鳥獣も人間の管理下で生かされている.その人間が管理を放棄したらたちまち絶滅の淵に追いやられる.その典型がトキとカワウソで,人間の庇護のない環境下で各種開発に曝され死に絶えた.生きものが数を減らすには原因がある.その要因を解明するのがデータで,それがあって初めて行政が機能する.問題意識を持った知的集団である関連学会や保護団体は,ことの重大さに鑑み「個別案件」ではなく「肝心要」のデータ生産の場(研究所)の欠損が問題の根幹であることに思いをいたし,環境省を支援して財務省に対して研究所設立に向けた積極的な働きかけを行うときに来ている.
  5. 事業の宿命

     事業は生きものを含む自然環境に少なからず「マイナス影響を与える」という前提に立つべきである.ダムの場合,営巣環境,採餌場,子育て場,餌生産場など対象種が生きていく上で不可欠な生息環境を広大な湛水域で水没させる.道路では路線上の営巣木を伐倒したり,インターチェンジのために広大な生息環境を破壊する.事業は我々の生活に利便性や快適性をもたらし,経済的にも有利に働く.その一方で物言わぬ生きものだけが割を食うのは理不尽である.かかるやり方はアセス法が制定される以前,戦後の復興期と何ら変わりがなく専門家の知恵を拝借するまでもない.専門家は国民の期待を背負って物言わぬ生きものの代弁者として,彼らに貢献する某かのデータを蓄積すべく事業者に働きかける職責を担っていることを自覚すべきである.筆者は科学的な影響評価を強く主張したことが原因で,さるダム事業地で年齢を理由に体よく委員長を解任された.残された物言わぬ専門家で事業者は安寧を貪っている.現地では県内唯一の歴史的なイヌワシ繁殖地からイヌワシが姿を消して久しい.保護団体の長を任ずる専門家が絶滅危惧種に背を向け,事業者に寄り添う国の猛禽類に未来はない.了
  • ラプタージャパン(日本猛禽類研究機構)NPO
  • 理事長 阿部 學 (Ph. D.)
  • 本部 〒102-0084 東京都千代田区二番町5  麹町駅プラザ703号
  • Tel. & Fax. 03-3262-0567
  • E-mail: raptor-japan @guitar.ocn.ne.jp
  • E-mail: raptor_abe @mac.com
  • URL:http://www.raptorjapan.org/raptor/index.html

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(2019-07-28掲載、紹介者:広塚忠夫)

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