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くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
 ホーム風切羽新・野鳥の学名入門
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更新:2024-07-12

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(日本鳥類目録 改訂第7版準拠+α)

新・野鳥の学名入門

加藤太一 (京都大学理学研究科)

(本ページの内容への問い合わせ先: tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

著者の所属する ML Kbird への投稿の形でも歓迎。他の方の意見も仰げるかも知れない)

(2024-07-11改訂)

◆ご紹介

本ページはくまたか/日本野鳥の会筑豊支部にかつて掲載された「野鳥の学名入門」を元に内容の改訂・備考の追記を行って作成しているものである。 日本鳥類目録 改訂第7版がベースとなっているが、日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、パブリックコメントへの回答、第二回パブリックコメントに向けた暫定リスト、日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント (2024年4月) を一部踏まえている。 掲載順は日本鳥類目録改訂第7版であるが、第8版で修正予定の学名の解説と#第8版新規掲載種 (最後に付記) も付記しており、(外来種は除く) 第8版用の亜種を含む学名辞典としても活用いただけると思う。 第8版で#検討種予定一覧と若干の考察も追記した。 作成に当たっては日本野鳥の会筑豊支部および (旧)「野鳥の学名入門」作者の了承を得ている。現在はまだ作業中であるが、すでに記述した部分だけでも有益な情報が含まれていると考えられるため、この段階で公開とともに逐次改訂を進める予定である。補足の大部分の記述は著者自身が調査したものであるが、一部の (主に伝聞) 情報には出典がわからなくなっているものも含まれており、適切な引用先をご存じの方はご一報いただければ幸いである。
本稿準備中に日本鳥学会による日本鳥類目録第8版和名・学名リスト公開 (2023年9月30日) が行われ、「やむを得ない場合の修正を除いて、第8版の掲載順や分類、和名については本リストに従います」とされている (このリストの掲載順は IOC 13.2 に準拠とのこと)。さらに第二回パブリックコメントに向けた暫定リスト (2023年10月31日。国内分布情報、学名の著者情報を追加) が発表されている。 その後「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) が発表された。 第2回パブリックコメントが発表された (2024年4月1日)。学名の一部修正と国内分布情報の追加が行われた。目録第8版の出版は2024年9月に予定されていることである。 ちなみに IOC は国際鳥類学委員会 (International Ornithological Committee) の略。現在は IOU 国際鳥類学者連合 (International Ornithologists' Union) の名前になっているが、チェックリストの名前を呼ぶ時は IOC が使われている。IOC World Bird List から最新の分類を知ることができる。 本稿では現状の改訂第7版時代の資料性も保持するため配列順 (および掲載種。一部例外を含む) は改訂第7版を維持し、学名等に関する記述も改訂第7版を基本とするものの、第8版に関わる情報も主に備考の形で含む形とした。最新の情報は「日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)」「日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント(2024)」して表記した。これは日本鳥類目録第8版の最終版を意味するわけでないことにご留意いただきたい (参考文献参照)。
索引は「野鳥の学名入門」をそのまま利用している。英名などの修正を行ったものでは索引と本文が対応していない場合があることをご理解いただきたい。
このページ内へのリンク (備考参照など) には # を付けて外部ページへのリンクと区別している。これらのリンク先は [別ウインドウで開く] などで見ていただければ使いやすいと思う。

最新情報へのリンク:
[#タカ類を新しい分類で見る] (2024.3) ← タカ類の最新の全分類はこちら
[#鳥類系統樹2024] (2024.4)

◆索引

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和名索引

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◆鳥類学名の読みと意味・名前のことなどさまざま

  • 種の学名は属名 (genus; generic name) と種小名 (specific name; species epithet; 学名を扱っていることが明らかな文脈では単純に epithet と略すこともある) から成っている。学名はカナで読みを示し、またそれぞれに意味などを説明している。[wikipedia 日本語版学名にもかなりの情報がある]。
  • 学名の読みをカナ書きで表記してあるが、日本語の発音に近似させたもので、ラテン語の発音を正しく表しているわけではない。
  • 本ページでは、「日本鳥類目録 改訂第7版」掲載の633種を同書の配列順により掲載している。また、参考のため福岡県で観察される野外識別が可能な亜種のうち、ツグミ亜種ウソ亜種を扱い、他種の亜種についても備考で触れている。「日本鳥類目録 改訂第7版」非記載の鳥(外来種)を掲載している。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、パブリックコメントへの回答、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト (目録第8版出版前段階のもの) も一部踏まえている。種名見出しでは目録第8版で種の分割、合体により学名が変化する見込みのものに注意を促す意味で注釈を加えた。属名のみの変更は記していない。
  • 和名による分類階級は、目・科・種(一部亜種)を記載し、日本鳥類目録第8版で新たに付く予定のもの以外の属名は省略している。
  • このページへの個々のご意見・ご質問等は上記執筆者メールアドレスか ML Kbird を通じてご連絡ください。サイトへの全般的ご意見・ご質問等は、[ご連絡]のページより、メッセージ先頭に「野鳥の学名入門」と記し送信してください。
  • 追記した備考では細分した中間的な分類概念をしばしば用いている。上位概念から順に (order) - 亜目 (suborder) - (family) - 亜科 (subfamily) - 族 (tribe) - (genus) - 亜属 (subgenus) - (species) - 亜種 (subspecies) のようになる(Taxonomic rank)。 太字が必須項目 (亜種まで記載する場合は亜種も必須になる)。亜種のない種を単形種 (または単型種、漢字の選択は日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に合わせた) と呼ぶ。英語では monotypic species。
    近年は分子遺伝学の進歩により従来単一であった属が単系統でないことが判明し、複数の属に分割されることも多くある。日本国内の種に限れば一属一種となるものも多く、属名から類縁関係を推測しにくくなっているケースもしばしばある。これらの場合に族などの中間的な分類概念を適切に使うことで分類的位置がわかりやすくなることもあり、実際に利用されている。 また非常に大きな分類群においては下位の中間的な分類概念を使うことは実用上も意義があり、従来も「ヒタキ科ツグミ亜科」のような使い方がなされてきた。近年の分類で亜科の分け方が大きく変わっているものもあるので (#ヨーロッパコマドリの備考参照) 注意が必要である。 種より上位の分類概念には定まった規則がないため、現在でも、そして今後も属の境界をどこに置くか、中間的な分類概念をどの段階に適用するかなど分類学者の間でも意見が分かれる場合もある (もちろん独立種と認めるか亜種とみなすかなどの議論もさまざまな形で存在する)。
    この (生物学的) 階級 (rank) の他に、上種 (superspecies)、例えばメボソムシクイ上種のように、近縁種をグループ化した名称 (species complex、例えば herring gull complex、sibling species 兄弟/姉妹種) もしばしば使われる (Species complex)。対応するラテン語用法に sensu lato (s.l.) 「広い意味で」があり、種名の後に s.l. を付けて類縁種を含むことを意味する。 〜の一種を意味する sp. は属名に付けて、その属の一種を意味するものだが、メボソムシクイ属のように大きな属の場合は、メボソムシクイ sp. のような使い方は望ましくないかもしれない。メボソムシクイ s.l. とすればメボソムシクイ上種を表すことができるであろう (が、分類専門家の意見を聞いたわけではないので正確ではないかも知れない)。近年提唱されている Accipiter属の分割が行われれば、これまでのハイタカ属 sp. のような表現は厳密には意味をなさなくなる。 sensu lato の反対の意味のラテン語は sensu stricto 「厳密な意味で」で、s.s. または s.str. と略される (が略号で使われるのをあまり見たことがない)。これらの用語を知っておくと海外の分類などを見る時に役立つだろう。
  • 亜種そのもの記述は属名・種小名・亜種小名からなる三名法を用いるのが正統的であるが、備考では亜種の解説などの際に煩雑になることを避けるため、亜種(小)名を主に用いている。
  • 外国語を記述する際に、非ラテン文字 (ギリシャ語、ロシア語など) は標準的なラテン文字転記で表示している。英語以外ラテン文字やラテン文字転記されたギリシャ語で広く使われるアクセント記号類は省略しているので、出版物などに用いられる場合はもとの綴りを確認されたい。 ロシア語のラテン文字転記はもとの表記に戻すことができるが、ギリシャ語ではアクセント記号類を省略しているためこのラテン文字転記からもとのギリシャ文字表記に戻すことはできない。なおドイツ語のウムラウトのみは標準表記に従い、e を追記して示している (同じ文字を使っていてもスウェーデン語では e を追記しないなどの不統一が発生するがご理解願いたい)。
  • 標準和名は日本鳥学会が定めた名称で、これ以外の名前を使ってはいけないわけではない (例えば分野によっては実用上の観点から古くから知られた別名が使われることもある)。論文などを記述する場合にはどのリストに従うかが示されていると思われるので、日本の鳥については標準和名を用い、それ以外については他のリストを用いることなどになるだろう。 この稿では備考などに登場する日本鳥学会のリストにない鳥については原則 Avibase の和名を用いている。英名はもっと事情が複雑で頻繁に変化すると考えてよい。学名も結構よく変化するので、日本の鳥に限って観察・記録する場合は標準和名を使っておくと後々名前の修正を行う手間が少なくて済むだろう。
  • 写真などを整理する時に、生物の階層分類に従ってファイルを整理するのは極めて自然なアイデアであるが、分類学の進歩に伴って大胆な分類変更が行われることがある (例えばウ類はかつてペリカン目だったものが現在はカツオドリ目に移されている、サギ類はコウノトリ目だったものがペリカン目になっている、ツグミ類とヒタキ類の再編が行われたなど)。 上位分類はもうあまり変わらないかも知れないが、属分類の変更は今後もあると思われるので、分類を基準に体系的な配置を行ってこられた方 (あるいは種の説明に上位分類まで記載されてきた方など) は最新分類を常時意識されるとよい。 思わぬところで思わぬ変更があったりする。あまり「がちがち」にデータベースを作ると変更に大変な思いをすることもあるので、柔軟に変更できる構造にしておくとよい。
  • 海外探鳥などをされる方は日本産鳥類ではカバーできないので IOC 分類などを用いられる方もあるだろうが、これもよく変更がある (1年に2回更新) ので最新版をフォローするのはなかなか大変である (それはそれで面白いわけだが)。もうちょっと高度 (超マニアック?) な楽しみとして、最新文献をチェックして次の分類変更を予測するなどもある。 海外にはそのように楽しんでいるバーダーや野鳥関係のフォーラムもあり、日本のバーダーも学会の判断を待つだけでなく、もっと関心を持つとよいのではないかと思う。 例えば日本鳥類目録第8版が出ても次の改訂には時間がかかるであろうから、海外の分類動向も変わってゆくであろう。(論文や出版物に使用する場合を除いて) その間に第8版の学名を使い続けるのか、海外のものに合わせてゆくかは個人の裁量の範囲であろう。 後の各種ごとの補足説明にもしばしば現れるが、日本周辺だけデータが不足していて分類が確定できないケースがある。バーダーがもっと関心を持って取り上げれば遺伝子解析などを行える専門家にとってもよい刺激になるのではないかと期待している (最初から余談ばかりであるが...以後脇道が多いので不要の方は読み飛ばしていただきたい)。
  • 海外の国のチェックリストはどう管理されているのかを知ることもよい刺激になるだろう。例えばフィリピンでは The Wild Bird Club of the Philippines (日本野鳥の会のような組織) が管理をしており、毎年更新されている: Checklists of the Birds of the Philippines。コメントを送ったこともあるが文献も付けてしっかり返事をもらえた。信頼できる野鳥のチェックリストがない国もあり、世界のデータベースなどを検索して気づかれるかも知れない。
  • 国レベルのチェックリストではないが、日本で言えば都道府県レベルのチェックリストを維持しているところも多くある。スウェーデンのサイト Vastmanlands faglar などは地域レベルの記録を管理されている方には興味深いだろう。個々の文献も収集してスキャンなどを公開している (Referenser から見られる)。
  • ドイツの鳥学会が世界の鳥のドイツ語リストを2022年に発行。Die Voegel der Erde で540ページの本を無料公開!
  • こちらはフランス語版世界の鳥リスト。IOC よりさらに先行してここで紹介しているような新学名にも対応! 改訂も頻繁に行われている模様。Noms francais normalises des oiseaux du monde - 2024 - version 6.3。 ダウンロードも可能。学名は Gaudin のものを使っているかも知れない。
  • 本稿ではさまざまな論文にリンクを張っているが、なるべくフリーアクセスできるものを優先した。ページから [Download PDF] などのメニューに従えば読めるものが多いと思う。 文脈や学術雑誌名からオープンアクセスに見えにくい場合のみ「オープンアクセス」と明示したものがあるが、その表示がなくても実際にはここで示した論文の多くは誰でもフリーで読むことができる。 アクセス制限が表示される場合は論文表題を用いて検索してみていただきたい。例えば著者レポジトリなどで全文が読めるかもしれない。また雑誌によっては一定期間後にオープンアクセスになるものがある。 報道記事などへのリンクはたどれなくなっているかもしれない。その場合はインターネットアーカイブなどで読めるかもしれないので試していただきたい。
  • そもそも学名を知って何の役に立つのだろうと思われる方も多いだろう。かつては「世界共通の名称なので海外の人に伝える時や海外図鑑を見る時などに役立つ」とも言われていたが、日本鳥類目録第7版以前で日本で使われていた学名は古いものもあり、世界のリストと異なる分類も採用されていたために実はあまり世界共通の名称として使えなかった。 目録第7版ではかなり世界の分類に近づいたが、それ以降に分類が改訂されたものなどは反映できていないため、ごく身近な鳥、例えばウグイスでさえも日本の学名が海外のものと合わなくなってしまった。1種が複数に分割された種などでは日本の学名で海外に出すと全然違う種類を指してしまうことも生じた。 海外図鑑を購入された時に和名を書き込む作業をされる方もあると思うが、学名がいかに異なるかを実感されたであろうと思う。目録第8版では世界のリストとほぼ同じになる見込みだが個々のケースでは注意が必要なものもある (それぞれの備考に記載)。
    実際上は英語のわかる海外バーダーであれば英名は把握していることが多いので、海外バーダーもそもそも知らない学名よりも英名の方が通じることが多く、この意味での学名の必要性はあまりなくなってしまったかも知れない (それでも亜種等の細かい話ではやはり学名を使わざるを得ない)。英語圏以外の場合は長い学名を使うよりもそれぞれの現地語を覚える方が手っ取り早いこともある。 それでも英語以外で書かれた海外の書物やウエブページを参照する場合は学名は一定の役に立つ。また画像や映像を検索する場合でも学名で検索すれば日本語や英語以外のページも多数ヒットするのでこの効用は大きい。もっとも検索程度であればその場でコピー・アンド・ペーストをすればよいので学名を記憶するほどの必要性は少ない。
    近年分子遺伝学の目覚ましい進歩で系統樹を見る機会が圧倒的に多くなった感じがする。例えばヒトの進化や新型コロナウイルスの新しい株の名前など、一般的なメディアでもよく見かけ、系統樹に馴染みのある人も増えているだろう。 ちなみにこのような目覚ましい進歩は次世代シーケンサー (Next Generation Sequencer, NGS) のような分析装置や、その結果から塩基配列を構成するコンピュータプログラムの進展によるものである。遺伝子やゲノムの解読は日常的に行われる時代であり、「ヒトゲノム計画」の時代には月着陸に匹敵する大偉業と呼ばれていたのとは隔世の感がある。 新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) が「新型肺炎」の形で最初に見つかった時に NGS が使われたことを後に知り、初期になぜあのような形 (まず SARS の再来が疑われた) で物事が進んだのかを納得できた。このあたりは報道に出てくることもまずなく、現代生物学のリテラシー不足によって疑似科学的な説を容易に受け入れてしまう原因にもなっているように感じる。
    事情は鳥類でももちろん同じで、全鳥類種のゲノム解読を行う野心的プロジェクト The Bird 10,000 Genomes (B10K) Project が走っている。 別種か、あるいは別亜種か、などの説明を見る時には分子系統樹を目にする機会が増えている。系統樹では一般向けに分かりやすく描き直したもの以外では通常学名しか出てこない。すなわち学名をある程度読めないと系統樹をまったく読めないのである (これは種や亜種分布の地図などでも同様)。 これは現代生物学の面白みを半分捨てているようなものである。ちようど辞書を引けば英語が読めるがそのままでは読めない状況に似ていて、手間をかけて知っている和名などに翻訳して書き込むか、そのままで読めるかの違いになる。後者の方がずっと気軽に扱えることは間違いないだろう。このような経験を通じれば学名も (見ればわかる程度には) 案外覚えてしまえるものである。
    また、海外の保護種 (レッドデータブック) リストなどで現地名と学名表記のことがある。知らない言語の場合は学名が手がかりになることは従来と同じである。
    それ以外にも、和名や英名と同様、学名にも命名者の思いが (時には勘違いも) 込められていることもある。それらも読み取って歴史を振り返る楽しみがあるだろう。
  • 作業を通じて改めてわかってきたのだが、現在は分子遺伝学による系統分類の大変革の時代のようである。日本鳥類目録 改訂第7版 で分類や学名が大きく変わったものがあり、第8版でも多くの属分類が変わる予定で、この傾向はまだしばらく続くであろう。 その昔は新しい地域を探検すれば新種や新亜種が次々と記載されて行ったが、その分子生物学版がまさに進行中で、昔で言えば探検に相当するであろう遺伝子やゲノムを調べれば系統にかかわる新しい知識が次々と生み出されていく段階に当たっている。 ただしこれも全種を十分調べればいずれは種レベルでは全系統がほぼ (種境界や解釈の難しい系統の問題などは残るだろうが) 明らかになって、ある程度の期間で落ち着くと思われる。第8版ではまだその段階に達しておらず、未処理部分が多く残っていて将来の改訂を待つことになるだろう。 次々と新種が発見されるように、これまでわかっていなかった系統関係が次々とわかってゆく現代に生きる者として、その面白さをリアルタイムに味わわないのはもったいないぐらいである。 ほとんどの情報は英語論文などの形になって残念ながら日本語のみではほとんどうかがい知れないだろう。 そのような英語論文や記事などの系統樹を読むにあたって、本記事が手引きの一つとなれば幸いである。 また遺伝情報はデータベース (GenBankなど: 学名検索もできるのでうまく使えばいろいろな情報にアクセスできる) で公開されており、それなりの計算機資源は必要だが分子系統樹を作ってみたい人は自分でも作ることができる。 科学のいろいろな分野でも同様であるが、最先端の情報は専門家だけのものの時代ではなくなっている。
  • 自分も詳しく知っているわけではないが、学名の命名には詳細な規約がある。現在使われる学名はその規約に基づいて了承されているものだが、そこに至る経緯は必ずしも平坦なものばかりではなかった。 学名には先取権 (priority) の原理があり、同じものに名前を付けた場合は早く付けられた名称が有効になる。後に付けられた名称はシノニム junior synonym となる (junior synonym の和訳は複数ありジュニア・シノニム、後行シノニム、新参シノニム。シノニムの部分も異名と訳されることもある。本稿では紛らわしいことはほとんどないので単純にシノニムと表記した)。 気づかずにすでに他で発表された学名と同じものを発表してしまうと無効な学名になる。 このあたりは常識的にも理解しやすいが、実際に学名が決まる過程はしばしば非常にややこしく、使われるようになってからかなり後にその名称がすでに使われていたことがわかって改名されたことや、 古い文献では綴りが違っていたり語尾が省略されていたりしたものが訂正されて使われていることもあって、どれが正しいのか議論が発生するなど様々なケースがある (サカツラガンの学名変更は未確定のケースにあたる)。 個々のケースでわかる範囲で説明を加えてあるので学名の世界を楽しんでいただきたい。 最近多い学名変更は分類の見直しによるもので、分子系統解析の結果1つの属が単系統でないことが判明して複数に分割されるケースなどが多い。我々が通常みかける学名変更はこのケースが多い。 ラテン語には文法上の性があるので、属変更の結果で属の性が変わると種小名の性もそれに合わせて変化する (形が変わらないこともある)。 また種の中の亜種が独立種とされる場合も種に相当する学名が付くことも容易に理解できるであろう。 その亜種がもとの種の基亜種 (その種で最初に記載された亜種) であった場合は2種に分離された場合に分離された種の方が学名を引き継ぐことになる。日本で通常記録される亜種が基亜種でない場合は日本で通常記録される種の学名の方が変わることになる (ツグミとハチジョウツグミ、アオジとシベリアアオジなど)。 ある亜種が別の種の亜種とするべきことが判明した場合は亜種の移動になるが、これも基亜種の移動の場合、移動先で基亜種になる場合は移動先の種の学名に影響が及ぶ。 これらは分類概念による部分があるので、異なる分類学者が異なる学名を用いる要因の一つとなる。 また現代では珍しいが、異なる属が統合された結果同じ属に同名の種小名が生じ、後に付けられた方の学名を変える必要が生じることもある。 これらも個々の事例でわかる範囲で説明を加えてある。
  • アメリカやカナダでは、個人名の付いた英語の鳥名の名称変更の動きがある。American Ornithological Society Will Change the English Names of Bird Species Named After People (2023年11月) はアメリカ鳥学会の動きであるが、特定の人名よりは鳥の特徴を表す名称に変えてゆくとのことである (現代では受け入れがたい価値観の個人にちなんで付けられたなどが問題となったことが発端にある。Bird Names for Birds 運動についての wikipedia 解説。スウェーデン鳥学会や NASA も名称や取り扱いを変更したとのこと)。 この動きは世界の英名、あるいは場合によっては他国語名にも影響を与えると考えられ、今後注視してゆくべきであろう。 日本ではむしろ和名の由来となった人物を紹介するなど行われているが、あるいは我々は個人名を鳥名に付ける議論への感度が低いのかも知れない。
    この動きを受けてアメリカでは早速「元オバマ大統領にちなんで付けられた鳥の名前はどうなる?」の議論が出ている。これはニシオオガシラ Nystalus obamai IOC 英名 Western Puffbird であるが、英名 (アメリカ名では Western Striolated Puffbird) に人名が入っていないことから変わらないそうである。学名はそのまま維持される。 英語以外の言語ではオバマを冠している名称もあるようである。 wikipedia 英語版によれば Mr. Donald Trump にちなんだ学名を持つ生物は複数あるそうだが、鳥は含まれていない。 ウイルソンアメリカムシクイ Cardellina pusilla (Wilson's Warbler) も改名の対象となっており、英名が変更された場合に和名はどうするだろうか。 改名に関する話題については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名]、#アホウドリの備考 [語源や関連する用例] もご覧いただきたい。
  • その後アメリカ鳥学会の動きが予期せぬ波紋をもたらしている。北米と南米の種の検討委員会 (南米は South American Classification Committee, SACC) は近年は20年以上協力して名称を決めていたが、アメリカ鳥学会の英名決定に SACC が関与できなくなったため協力関係を打ち切り、SACC は IOC と連携して世界の鳥のチェックリスト作成に関与することとなったとのこと (#ハヤブサの備考の [ハヤブサ目の系統分類] と紹介リンク先参照)。 北米と南米は共通の渡り鳥などがあるが、米国と南米で異なる英名が使われる事態も発生しそうである (深読みしたいこともあるのだが皆様のご想像にお任せしたい)。
  • 2024.5.13 上記 SACC のことも触れられ、パイロットプロジェクトで国外への影響の少ない種に絞ったパブリックコメントが開始された: AOS Pilot Project to Change Harmful English Common Bird Names
  • 世界に鳥が何種いるのか、面白い考察がある。Barrowclough et al. (2016) How Many Kinds of Birds Are There and Why Does It Matter? 種に形態的違いによって分けられた生物学的種から新世界の 200 種をサンプルして形態、遺伝情報、分布をもとに進化的種概念で種数を推定すると 18043 種 (95% 信頼区間 15845-20470 種) と推定され、現在用いられている分類学は種多様性を大幅に過小評価している可能性があるとのこと。 種数が2倍になっても過剰評価とは考えず、むしろ多様性の正しい理解の結果であり、保全にもより有効であると考えている。亜種は古く形態学的に記載されたものが多く、地理的なクラインなども多いためそのまま種に昇格が適当とも言えない。
  • Clements 2024 checklist update によれば、Clements 2024 の改訂草稿が公開されているとのこと (2024.6.25)。 Island Turush はなんと 17 種に分離! #アカハラの備考参照。 シジュウカラは Parus cinereus に含まれた: #シジュウカラの備考参照。IOC 14.2 もこれに従う予定。 タカ類の新分類を採用: #アカハラダカの備考参照。Say hello to Astur for Cooper's Hawk and American Goshawk for you Americans! (アメリカ人にとって Astur = オオタカ属さんこんにちは) とある。 アメリカのデラウエア自然史博物館も展示の学名変更に向けた記事を出している: Evolutionary Breakthrough of Hawks and Eagles (Accipitridae)。この博物館の学芸員が論文共著に入っているので率先して行われるのだろう。 birdforum.net の記事によればこれまでの Accipiter から分割された -spiza で終わる属名は女性名詞とのこと (ICZN Article 30.1.2, 30.1.3 による)。 個々の種の分離の話題などは birdforum.net のスレッドを参照。 IOC でも 14.2 に向けて Proposed Splits/Lumps, Taxonomic Updates などの改訂が順次発表されており、Clements 2024 を少し後追いする形となっているが、用いている文献が同一なのでほぼ同じものを採用している (例えば Island Turush は 17 種)。 14.2 に向けた改訂はまだ半ば段階のよう。
  • この解説を編集するにあたり、半ば積読状態にあった過去の本などを改めて読む機会があった。どこかの種の備考に入れてもよい話ではあるが、日本野鳥の会関連でもあるのでここで触れておきたい。 「柳生博 鳥と語る」(ぺんぎん書房 2005)。柳生博氏 (1937-2022) は 2004-2019 年日本野鳥の会の会長を務められて、皆さんもごくご存じであろう。 NHKの「生き物地球紀行」の取材とナレーションを担当し、「左手にサイエンス! 右手にロマン!」がポリシーだったとのこと (p. 43)。 柳生氏の考えられていたサイエンスとロマンとは少し違うかも知れないが、この解説の [備考] も柳生氏のポリシーと同様、サイエンス中心で時にロマンと、小むづかしいことも怪しいことも、時には気に障るかも知れないことも書いてあるかも知れないが、寛容の精神で見ていただければよいと思う。 サイエンス (なぜそうなっているのか) を突き詰めて理解にたどり着いた驚きは「ロマン」としか言い表せない場合もあると感じる。#アマツバメの備考で紹介する渡り鳥の磁気定位はまさしくそうだった。 偶然の発見に基づく理詰めからはこの分子しか考えにくい、と最有力とされていて、渡り鳥の目に磁場情報が見えているニュースも追跡していたが、何事も疑い深い自分にはまだまだ実証には程遠いと感じていた。 しかし 2024 年夏に発表されたゲノム系統解析の結果は驚くべきもので、確かにこの分子を渡り鳥が役立てていることは疑いないように思える。そしてその進化を考えてみると...。渡り鳥のロマンと最新科学がこのように結びつくとは! 続きはアマツバメの備考をお読みいただきたい。
    柳生氏も動物と話されていたのだと読み直して認識した (pp. 44-46)。本が出た当時は自分も同じようなことをやって鳥と遊んでいたので (#オオルリの備考参照)、それほど特殊とは思わず読み流してしまっていたらしいが、それ以降にハチクマの経験も経て柳生氏の言われていることを認識できるようになった模様。 会長職を引き受けるようになられた経緯も大変よくわかる気がする (p. 29)。しかしいながらにしてイヌワシがしばらく見られたとは何とぜいたくな。

    凡例

  • 標準和名
    • 学名:学名 (読み) 説明
    • 属名:属名の説明
    • 種小名:種小名の説明
    • 亜種小名:亜種小名の説明(一部に掲載)
    • 英名:英名 (やや古い英名も含まれている。IOC 準拠英名が異なるものは追記している)
    • 備考:備考。学名や亜種の追加説明。分類学情報や面白い関連情報(一般的な図鑑などで読める色彩や形態、分布、生態などは原則省略している)

    ― キジ目 GALLIFORMES キジ科 PHASIANIDAE 

  • エゾライチョウ
    • 学名:Tetrastes bonasia (テトゥラステス ボナシア) エゾライチョウまたはヤギュウの声のような音を出すライチョウの歌い手
    • 属名:Tetrastes < Tetrao ライチョウ < tetras Symmachus が記述した鳥の名前。食べられる狩猟鳥でおそらく Aristophanes 他が用いた tetrax と同一だが正体ははっきりしない (野ガモとする著者もある) (Gk) -astes (行うもの) (Gk); ライチョウの歌い手 (コンサイス鳥名事典, Gk)
    • 種小名:bonasia イタリア語でエゾライチョウ < 原意は bonasus < bonasos バイソン (Gk); ヤギュウの(声のような音を出す) (コンサイス鳥名事典)
    • 英名:Hazel Grouse
    • 備考:ユーラシアやや北部に広く分布し、11亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は vicinitas (近い、似ている)。基亜種に似ているが違う点もあると命名された。英名の hazel はハシバミ(属)。 キジ科は2亜科の分割されるが、日本のものは Phasianinae 亜科。 これは直立するかしないかで2クレードに分割される (erectile clade, nonerectile clade)。 日本に関係する種ではウズラが後者。ニワトリの野生種であるセキショクヤケイも後者。 erectile clade の中では Tetrastes属および Lagopus属 (日本に関係ある属のみを示す) は Tetraonini族 に分類される (この程度の分類を見ていただくと 族 tribe の意義や範囲がわかりやすいだろう)。 参考 Gutierrez et al. (2000) A classification of the grouse (Aves: Tetraoninae) based on mitochondrial DNA sequences。 ミヤマエゾライチョウ Tetrastes sewerzowi 英名 Chinese Grouse との遺伝的関係を調べた論文: Song et al. (2021) Demographic history and divergence of sibling grouse species inferred from whole genome sequencing reveal past effects of climate change。この2種は46-337万年前に分かれたとのこと。両種とも近年は実効個体数が減っている。
      英語圏では、冬に白い羽となるライチョウ属の種を ptarmigan、羽の色を変化させない種は grouse と呼び区別される (wikipedia 日本語版より)。ptarmigan はゲール語 tarmachan に由来し、意味は croaker (があがあ鳴くもの) だがそれ以上の語源は不明とのこと。pt- の綴りはギリシャ語由来と誤解され ptero- (翼 Gk) に合わせたものらしい (wiktionary)。英語でもライチョウ類総称では grouse。 grouse は1530年代には複数形で grows と呼ばれていたが起源にはいくつかの説がある。例えば中世フランス語でツルを表す grue、同じく中世ラテン語の gurta などが挙がっている (wiktionary)。 ロシア語ではライチョウ属は英語のような区別はなく様々な名前がある。エゾライチョウは ryabchik で ryaboj (斑点のある) に由来。 ライチョウ属の一部はロシア語で teterev と呼ばれ、遡れば Aristophanes 他が用いた tetrax になるらしい (Kolyada et al. 2016)。teterev から派生するロシア名に#オオタカ teterevyatnik がある。
      [クジャクの目玉模様は目立つか?] Kane et al. (2019) How conspicuous are peacock eyespots and other colorful feathers in the eyes of mammalian predators? の研究によれば、2色色覚型の哺乳類捕食者にとってはクジャクの目玉模様は目立たず、普通の距離ではパターンが検出限界以下になるとのこと。むしろ隠蔽色になっている可能性がある。哺乳類捕食者は色彩パターンよりも他の手がかりを用いている。 クジャクは捕食者回避能力も高く、野外研究でも哺乳類による捕食の頻度は低いとのこと。目玉模様が多いほど捕食されやすい傾向も見つかっておらず、長い上尾筒が逃走行動を邪魔している証拠もないとのこと。
  • ライチョウ
    • 学名:Lagopus muta (ラゴプス ムタ) 静かなライチョウ
    • 属名:lagopus (f) ライチョウ (lagos ノウサギ pous 足 Gk)
    • 種小名:muta (adj) 静かな (mutus)
    • 英名:Rock Ptarmigan
    • 備考:北半球高緯度に分布。23亜種が認められている(IOC)。日本に分布する亜種は japonica (日本の) とされる。 かつての学名は Lagopus mutus だったが、属名語尾は従来は男性名詞と思われていたが、古ギリシャ語由来でこれは女性名詞であるため、種小名が修正されたとのこと (wikipedia 英語版より)。 特別天然記念物。絶滅危惧 IB 類 (EN)。世界的に種全体では IUCN 3.1 LC 種 (LC は Least Concern で「低懸念」と訳されるが、「少し懸念がある」と読まれがちである。 本来の英語の意味は「ほとんどない」、例えば least likely は「ほとんどあり得ない」の意味で、「懸念なし」と解釈する方が意味は近いだろう。日本のレッドデータブックの分類ではランク外に相当する。ドイツ語訳では nicht gefaehrdet 懸念なし とされている)。
      ドイツ語名 Alpenschneehuhn (アルプスの雪のニワトリ)。ロシア語名 tundryanaya kuropatka (ツンドラの、後半は kur ニワトリから派生。ツンドラのニワトリと訳せそうである)。 スウェーデン語 fjallripa (fjal 山の ripa ライチョウ) など。
      [ライチョウ類の植物毒解毒] 日本の種とは近縁ではないが (エゾライチョウの方がやや近い?) 保全上でも話題となるためこちらに含めておく。 Kohl et al. (2016) Microbial detoxification in the gut of a specialist avian herbivore, the Greater Sage-Grouse キジオライチョウ Centrocercus urophasianus の植物毒の解毒の研究がある。ヨモギ属 Artemisia を食べるスペシャリストであるが有毒物質を含んでいる。 腸内細菌が分解しており、フェノールをピルビン酸に分解する生化学経路を明らかにした。この機能はニワトリや牛など草食哺乳類14種には認められなかった。 ヨモギ属の主な毒性成分であるモノテルペン (monoterpene) を分解する証拠はそこまで確実でないがこの代謝経路に関係する酵素をいくつか同定した。植物毒の解毒における腸内細菌の役割は草食哺乳類や昆虫に似ているとのこと。キジオライチョウ類では糞に排泄される植物由来物質濃度が低いことから腸内細菌の役割が示唆されていた。 また必須アミノ酸 (植物にはあまり含まれない) を腸内細菌が合成している可能性もあるが、これは今後の研究が必要である。論文のまとめ方は保全よりもライチョウ類の腸内細菌に応用上有用な特異な酵素が見つかることが期待できると実用的側面を示している。
      Sun et al. (2022) The avian gut microbiota: Diversity, influencing factors, and future directions に植物食の鳥の腸内細菌の役割についてレビュー論文がある。 ツメバケイではそのうでの発酵で解毒している証拠があり、ライチョウ類についても示唆されている: Dearing et al. (2005) The Influence of Plant Secondary Metabolites on the Nutritional Ecology of Herbivorous Terrestrial Vertebrates のレビュー参照。
      ニホンライチョウでは ニホンライチョウの味覚・解毒機能の高山環境適応機構の解明と保全に向けた飼料開発 (橋戸南美) の研究がおこなれているので今後成果が出てくるだろう。
      [足に羽毛の生える鳥] ライチョウそのもの研究は見つけられなかったが、足に羽毛の生える (ptilopody) 鳥についての遺伝子変異や制御の研究がある。 Bortoluzzi et al. (2020) Parallel Genetic Origin of Foot Feathering in Birds ニワトリとハトの飼育品種で足に羽毛を持つものは PITX1, TBX5 遺伝子の発現に共通の特徴が見られる。Fig. 1 を見ていただくとニワトリの品種でどのような形態変化があるか見ていただけるだろう。足に翼のような羽毛を持つ品種すらある。 ニワトリにおいては第 13 染色体 PITX1 の上流 200 kb に発現に関係すると思われる 17 kb の脱落があり、ハトでは同様に 44 kb の脱落があるとのこと。structural variant は両種で独立に何度も起きたとのこと。 PITX1 は通常は後肢にのみ発現し、前肢には発現しない。前肢と後肢の発生の違いを生み出している。 PITX1 は小型の羽毛の発育に主に関係し、TBX5 は大型の羽毛に主に関係するとの先行研究がある。 Boer et al. (2019) Pigeon foot feathering reveals conserved limb identity networks はハト品種での足の羽毛と遺伝子発現の関係を調べている。PITX1 と TBX5 が羊膜類で前肢・後肢を決める共通の遺伝子とのこと。 Li et al. (2020) Mutations Upstream of the TBX5 and PITX1 Transcription Factor Genes Are Associated with Feathered Legs in the Domestic Chicken もほぼ同様の研究で、ニワトリでは第 15 染色体の TBX5 遺伝子の上流に変異がある。後肢で PITX1 の発現が抑制され、TBX5 が異所的に発現することで羽毛の生えた足になる。 いずれも過去の研究で提唱されていたものを詳しい解析で確認したもの。過去の研究は引用文献を参照いただきたい [Takeuchi et al. (1999) Tbx5 and Tbx4 genes determine the wing/leg identity of limb buds の日本の研究もある]。 これらの表現型の特徴をニワトリでは ptarmigan、ハトでは grouse と呼ぶらしい。 ライチョウはニワトリに近縁なので制御メカニズムもおそらくよく似ているのだろう。
  • ウズラ
    • 学名:Coturnix japonica (コトゥルニクス ヤポニカ) 日本のウズラ
    • 属名:coturnix (f) ウズラ
    • 種小名:japonica (adj) 日本の (japonicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Japanese Quail
    • 備考:単形種。 かつては (現在の和名で) ヨーロッパウズラ Coturnix coturnix 英名 Common Quail の亜種とされた。 quail の語源は後世ラテン語の quaccola (ウズラ) に由来。 ロシア語は perepel で古ロシア語 pippalnis で鳥を意味する。ラテン語 papilio チョウ に由来とのこと (Kolyada et al. 2016)。日本のウズラは別名 nemoj perepel で、無言のウズラの意味だが現実とは合わないと解説がある。perepel から派生するロシア名に#ハイタカ perepelyatnik がある。
      ウズラの鳴き声 (さえずり) はアジャパーと聞きなしされることがあるが、(ヨーロッパウズラであるが) クラシック音楽にも出てくる。楽譜の読める方であればメシアンの メシアン 最大にして最高峰のピアノ独奏曲〜「ニワムシクイ」 のウズラのところを見ていただくと面白いと思う。手元に演奏可能な楽器をお持ちであれば特有のリズムをすぐ覚えられるだろう。 3月ごろに動物園の飼育個体がよく鳴いているのを聞いたことがあるが、少し離れたところで飼育員の方に「あれがウズラの声」と話してもさっぱりわからないとのこと。仕事で毎日のように聞かれているはずだが意識しないと印象に残りにくい声なのかも知れない。 独断と偏見の識別講座 第62回 Japanese Quail <ウズラ> (2018) に波多野邦彦氏の音声に関する記述がある。 参考までに Dement'ev and Gladkov (1952) が何と記述しているか調べてみると、ヨーロッパウズラであるが pod'polot', fit'pil'-vit' となっている。やはりどんな音かわかりそうもないが、メスが tyuryuryu または bribit と応じると記載されている。オスがこの声を出す行為を指す動詞が bit' だそうで訳語には「(時計などが) 打つ」のようなものがある。 「水鶏 (くいな = ヒクイナ) のたたき」という日本語があるが、「打つ」意味の動詞が独立に使われているのだろう。
  • ヤマドリ
    • 学名:Syrmaticus soemmerringii (シュルマティクス ゼメリンギイ) ゼメリンクの喪裾のついた衣服を着た鳥
    • 属名:syrmaticus (adj) 裳裾のついた衣服を着た (syrma -atis (n) 裳裾のついた衣服 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:soemmerringii (属) ゼメリンクの (ラテン語化 -ius を属格化) ドイツの解剖学者、科学者 Samuel Thomas von Soemmerring
    • 英名:Copper Pheasant
    • 備考:Syrmaticus属は尾の長いキジ類5種からなる。例えば台湾のミカドキジ Syrmaticus mikado 英名 Mikado Pheasant が有名。 この属の DNA 塩基配列の進化は特殊であり、詳しい系統関係は現在でもまだ十分に理解されていない [wikipedia 英語版; Zhan et al. (2005) Molecular Phylogeny of Avian Genus Syrmaticus Based on the Mitochondrial Cytochrome b Gene and Control Region; Reichenbach (1853) により属名Graphephasianus (graphe 絵画 Gk phasianos キジ Gk) も提唱されたことがあり (この場合一属一種になる)、将来の研究で正しいとされる可能性はあるものの、現在の証拠からは支持されていない]。 Phasianinae 亜科 Erectile clade の中では Syrmaticus属と Phasianus属は Phasianini族に属する。 ヤマドリには5亜種が認められている(IOC)。scintillans (輝く、明るい) 亜種ヤマドリ、subrufus (少し赤っぽい) ウスアカヤマドリ、intermedius (中間の) シコクヤマドリ、 soemmerringii (ドイツの解剖学者 Samuel Thomas von Soemmerring に由来) アカヤマドリ、ijimae (Isao Ijima 由来) コシジロヤマドリ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
      属名に使われる syrma は裾をひきずる長い衣装でギリシャやローマ時代に悲劇の役者が着たものを指す (wiktionary)。古ギリシャ語 surma (引きずっているもの) に由来。
  • キジ (分割で日本産学名も変わる予定)
    • 学名:Phasianus colchicus (パシアヌス コルキクス) コルキス地方のキジ (新学名でさまざまな色をしたキジ)
    • 属名:phasianus (m) キジ
    • 種小名:colchicus (adj) colchis地方 (黒海東岸、ジョージア西部) の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Green Pheasant (or) Japanese Pheasant, IOC: Copper Pheasant
    • 備考:新しい種小名は versicolor (さまざまな色をした)となる見通し。海外の主なチェックリストでは IOC version 1.5、Avibase 2013年以降、(HBW)/Birdlife 2014年以降、Howard and Moore 2nd edition以降、eBird 2022年以降はこの名称が使われている。 Phasianus versicolorであれば日本固有種となり、大陸のコウライキジ (旧名) Phasianus colchicus は対馬で自然分布の可能性があるが (ただし対馬でもコウライキジの人為移入が行われた)、日本の他の地域では移入分布となる [Brazil (2009) "Birds of East Asia"]。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Phasianus colchicus は外来種扱いでタイリクキジと新称を与え、対馬は自然分布として認めていない。日本固有種のキジは Phasianus versicolor に改名している。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。 亜種も従来通り与えられているが、人工放鳥によって亜種の境界が非常にわかりにくくなっていると言われる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント"分類学上疑問がある国内固有(亜)種について"の項目にも言及があり、鳥類目録の分類は、新たな研究が行われるまで現状維持されるという原則に基づくとのこと。 4亜種あり(IOC)。robustipes (robustus 強い pedis 足) 亜種キジ、tohkaidi (東海道が由来) トウカイキジ、tanensis (種子島が由来) シマキジ、versicolor キュウシュウキジ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
      キジ科 Phasianidae などの名称は黒海に注ぐ川の名前から (コンサイス鳥名事典)。The Key to Scientific Names によればキジ類が最初に見つかったのは黒海東岸、ジョージア西部コルキス地方の River Phasis / Rioni River (現 ジョージア) とのこと。ジョージア西部の主要河川。Phasis はこの川の古代ギリシャ語名。 Phasianus colchicus を見つけたのは Argonauts アルゴナウタイ。ギリシア神話においてコルキスの金羊毛を求めてアルゴー船で航海をした英雄たちの総称とのこと。金羊毛というのはギリシア神話に出てくる秘宝のひとつで、翼を持つ金色の羊の毛皮のこと。コルキスの王が所有し、眠らないドラゴンによって守られていたとのこと (wikipedia 日本語版より)。 コルキスはカフカース地方にあった古代グルジアの王国。コルキス人は、青銅器時代中期には既にカフカースに定住していたものと思われる。コルキス王国は、紀元前6世紀から紀元前1世紀にかけて存在した、最初のグルジア国家。川の名前は日本語ではファシス川となっている (wikipedia 日本語版より。地名はいずれもロシア読みのよう)。 語源が同地域に関連する種類に他に #ソリハシシギがある。
  •  カモ目 ANSERIFORMES カモ科 ANATIDAE 

  • リュウキュウガモ
    • 学名:Dendrocygna javanica (デンドゥロキュグナ ヤウァニカ) ジャワの樹洞に巣をつくる白鳥
    • 属名:dendrocygna (合) 樹洞に巣をつくる白鳥 (dendro 木 Gk、cygnus 白鳥)
    • 種小名:javanica (adj) ジャワの (javanicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Lesser Whistling Duck
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の配列では先頭になる見込みで、「カモ」の名前は付いているが系統は離れていることがわかる。 図鑑の識別点でもよく首と足が長いと書かれている。属名の由来に含まれる「白鳥」も首の長さを示したものであろう。文献 (#コブハクチョウの備考参照) によると Dendrocygna属で頸椎の数は17-18個とあり、カモ (従来の広い意味のAnas属で典型的には16個) とガン (Anser属で18-20個) の中間にあたる。リュウキュウガモのデータもあり17個とのこと。 別名フエフキガモとも呼ばれる (英名に対応)。
  • サカツラガン
    • 学名:Anser cygnoides (アンセル キュグノイデス) 白鳥に似たガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:cygnoides (adj) 白鳥に似た (cygnus 白鳥 -oides (接尾辞) 〜に似た)
    • 英名:Swan Goose
    • 備考: [学名の問題] 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Anser cygnoid となっているがこの学名を用いているのは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) で HBW/BirdLife 2014以降などはおそらくこれに由来 (#モリツバメの備考参照。モリツバメの場合には ICZN が Linnaeus の記載は短縮形と裁定したものだが、サカツラガンでは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では短縮形である文献の内部的な証拠は認められないと書いているのでモリツバメの裁定を意識して主張しているものかも知れない)。 IOC version 13.2, Clements などでは Anser cygnoides のまま。 "The Key to Scientific Names" によればオリジナルの学名は Anser cygnoides Linnaeus, 1758 であり、印刷時に -es が次の行に分割されないように "cygnoid." と印刷されたのが2種類の名称が生じている原因との説明がある。 Linnaeus 原典 (1758) Systema naturae per regna tria naturae: secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis, p. 122。 Linnaeus (1758) を命名の原典と考えると (学名の適格性の要件に 1758 年以降に公表されていることとある) には表記は ANAS の下、Cygnoid. 2. australis. と Cygnoid. β. orientalis. の2タイプが見出しの表記である。 見出しが Cygnoid. のように大文字で始まっているものと小文字のものがあるが、大文字のものは属名の意味というわけではなさそうである。 この種の歴史的経緯は A Brief History of the Swan Goose (Anser cygnoides) under Domestication in the West (Jonathan M. Thompson 2011) に詳しい。 かなり混乱があったようで17世紀に Anser cygnoides Hispanicus seu Guineensis とされていた図版は実はカナダガンであった。Comte Marsili (1726) が Anser Hispanicus seu Cygnoides としたものはリュウキュウガモの1種だったらしい。 Eleazar Albin (1731, 1734) が頭にこぶのあるガンに2種類あるとしており、Willughby (1676) と Albin の言う Anser cygnoides は同じ種類を指していることは確かとのこと。これらの記述の時期は 60 年離れているが記述はほぼ同じ。 Albin には図版があり、現代のサカツラガンそっくりのものを指して The Spanish Goose, or Swan Goose. Anser cygnoides のタイトルで表示している。 Albin は Moscovian Gander and Goose も紹介しており、これはアフリカのガンとの雑種とみられるが学名は与えていない。 Linnaeus (1758) の中に現れる Anser cygnoides. Alb. av. I. p. 89. t. 91 は Albin の Anser cygnoides を指すものであろう。 もう一つ Anser cygneus guineensis. Raj. av. 138. Will. orn. 275. が挙げられている。 いずれも Cygnoid. 2. australis. のタイトルの下に置いているが、 Linnaeus (1758) の言う2つめのタイプ orientalis に Anser chinensis, Anser moschoviticus が入っている。australisorientalis の地理的な意味と現行の分類の対応などもあまり釈然としない感じも残る。 Linnaeus (1758) の記載した他のガン類の学名では先人の種小名をそのまま用いているものもあるので Cygnoid. への変更の理由はよくわからない (変更されたものは大文字という意味でもなさそうに見える)。
      Dement'ev and Gladkov (1952) では Cygnopsis cygnoid の学名を用い (属名は下記参照)、protonym を Anas cygnoid Linnaeus, 1758 としている。 シノニムとして Anas orientalis Gmelin, 1788 を挙げているが Linnaeus 以前の Anser cygnoides Albin などは触れられていない。 birdforum.net AOS to discard patronyms in English names にも議論があり、2023.11.6 の投稿によれば、ICZN では言及されておらず Linnaeus の意図も実際は誰にもわからないが、モリツバメなどの ICZN 裁定を見れば ICZN の意図は明らかに見える (どちらが広く使われているかも議論の対象になるだろう)。しかし Anser cygnoides が公式に改名の対象と認められているというわけではない。 モリツバメなどの例も見た上で、自身の印象では cygnoid とするのは "pedantic" な改名に思える。
      [Howard and Moore Checklistについて] 今後の他の分類群にも関係があるので Howard and Moore Checklist of the Birds of the World (H&M) の意図と将来について調べた結果を少し紹介しておく。 このリストは Clements 5th edition が出るまで全亜種を扱った唯一のリストだった。 現在の最新版は 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2)。 Current concerns (H&M 公式サイト。2024年1月時点のものに基づいているが、少なくとも2022年段階でほぼ同じ内容だったらしい) によれば、2014年に IOC 総会が東京で開催された時に世界のチェックリストの共通化も議題となった。 同じ議題が2018年のバンクーバーの IOC 総会で取り扱われたが H&M リストの母体である The Trust for Avian Systematics (TAS) の代表は招待されなかった。H&M の副編集長の Les Christidis が代弁してくれると考えていたが利益相反の問題からそうならなかった。そのため TAS は2014年以降はこの問題に関わっていない。 世界のチェックリストの共通化をすべきか、可能かは現在も議論の対象である。 H&M は2003年から (それ以前は必ずしもそうでなかったが)「生物学的種概念」にできる限り忠実に従う方針で、多少緩めることはあっても2013/14段階でも同じ立場をとっていた。 H&M の編集者の哲学では異なる基準に基づくリストがあった方が (議論の余地があり) 科学の発展に役立つとの考えであった。しかし多くのバーダーはチェックリストの共通化を歓迎するだろうことは認める。 もちろん TAS はリストを知的財産として保護する義務もあるが現在ではオープンアクセスが当たり前になってきてウエブサイトで公開して維持するコストも問題となっている。 これらの理由から TAS は世界のチェックリストの共通化にはあまり関わらないと読める方針が述べられている。 15-20年後に H&M が存続するかどうかはユーザーがどう評価するか、どれだけ需要があるか次第である。
      Schweizer et al. (2023) The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the World: framework for species delimitation に種の境界をどのように扱っているかと今後の見込みに関する解説がある。 The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the World (5th Edition) への言及もある。H&M 5th edition では十分な生殖隔離をもって種とする方向性が示されている (ここまでが H&M/TAS の立場の説明)。
      2022年9月段階のスレッドであるが Howard and Moore downloadable spreadsheet (birdforum.net) によると H&M 4.0, 4.1 はチェックリストをスプレッドシートのファイルで公開していたが約1年前 (2021) に取りやめたとのこと (上記知的財産の問題らしい)。 (2022年段階の話で) 2016年以降改訂されておらず新しい種が入らないのでもはや興味がないとのユーザーの意見がある (気になって見てみると確かにオガサワラカワラヒワが別種になっておらずコメントもない)。 定期的更新がなく電子版が無料でなければユーザーは減るだけだろう。最後の更新には非常に手間がかかっているはずで TAS も大規模更新を「二度とやりたくない」と感じていても不思議でない。 世界のチェックリストの共通化こそ保護関係者、鳥類学者、バーダーの視点から進むべき道であると考えるが、知的財産の保護を必要とするグループはなじまないのだろうとの見解が出されている (かなり意訳しているが)。 一方で Howard and Moore が完全になくなってしまうのは惜しいとの意見もある。属より上のレベル (族や亜科) を取り入れているリストは他にない。 別のコメントですべての分類概念は Avibase がすでに網羅して番号を与えており、チェックリスト間の違いはそれを見ればよいだけ (Avibase の taxon grid)。ただ更新には多少のタイムラグがある。 IOC の Master Lists - IOC World Bird List が亜種までカバーした比較リストを出している との意見や情報が出ていた。
      個人的にはこの稿をまとめるにあたり H&M 4th (online) に文献情報も出ているのはありがたいが、新しいものが入っていないので有用性は少し古い情報に限られてしまう。 まとめると IOC と Clements が中心となって世界のチェックリストの共通化を検討しているところ。 H&M はそれには関与せず独自路線をとるが、しかしながらチェックリスト共通化の後追いもせざるを得ない部分もある。財政的には存続も危ぶまれている、というところだろうか。 H&M の初版 (書籍) は1980年出版で、昼行性猛禽類の大家である Leslie Brown が前文を書いている。また山階 (1986)「世界鳥類和名辞典」は H&M の分類に従っているなど我々が現在使っている名称にも関係が深い。初版から半世紀近くを経て役割も変わってきたと言えるだろうか。 このような大規模なチェックリストの維持・管理などは手作業レベルでも行えた昔とは異なり、計算機技術に長けた人材も不可欠だろう。Avibase の技術管理者レベルで作業を行える人材がいないと今では時代に追いつけないかも知れない [参考 Lepage et al. (2014) Avibase - a database system for managing and organizing taxonomic concepts]。
      McClure et al. (2020) Towards reconciliation of the four world bird lists: hotspots of disagreement in taxonomy of raptors にも世界のリストの共通化の必要が述べられている。この研究は猛禽類のみを調べているが、H&M と IOC で猛禽類の種類数 (学名の違いの数ではなく) が52も違うとのこと。特にフクロウ類で顕著だそうである。H&M の更新頻度が低いため新しい情報が取り込まれていないことも要因と考えている。 ただしこの論文の著者はほとんどがアメリカ、そしてカナダ、オーストラリアが1人ずつとアメリカのリスト (特に eBird や AOU) を念頭に置いている傾向も見られるので少し割り引いて考える必要もあるだろう。ヨーロッパの人は別の見解があるかも知れない。
      [家禽化] サカツラガンの家禽化で何が変わったか全ゲノム解析で調べた研究: Chen et al. (2023) Population Structure and Selection Signatures of Domestication in Geese ヨーロッパの家禽化されたガチョウの方が由来はより複雑で2系統にはシナガチョウも混ざっているとのこと。中国の Yili geese はハイイロガンの方に近い。ヨーロッパの Rhine goose は家禽化されてから両者がかけ合わされたものらしい。 Wen et al. (2023) Origins, timing and introgression of domestic geese revealed by whole genome data ではシナガチョウの家禽化は3499年前、ヨーロッパは7552年前と推定される。 家禽化への選択に伴い、神経に関係する遺伝子が強く選択されて向社会的行動 (prosocial behavior) を生み出しているのでは。 飛翔の必要がなくなり、酸素運搬に関わる遺伝子も変化している。家禽は視力も低いが、関連している可能性のある遺伝子も挙げられている。頭の見栄えの瘤も選択の結果だが、野生のツクシガモもこの瘤が社会的 地位を表しているとのこと。関連する遺伝子 (EXT1) 変異の候補が見つかっている。
      身近な家禽としてここに含めておくが、ニワトリの白色レグホンが毎日のように産卵できる仕組みについて: Johnson et al. (2015) The domestic chicken: Causes and consequences of an egg a day もちろんこの性質は人為的に選抜されたものであるが、白色レグホンでは他の動物ではあまり見られない卵巣ガンが見られ、2.5年で 30-35% の高率で発生するが、商用のニワトリではそこまで生かされないので通常は見られない。ホルモンや遺伝子の働きの概略を述べている。卵管上皮が反復する卵胞放出で破壊され修復されるため変異が起きやすくなるとの仮説もあるとのこと。
      産卵しても抱卵しないことで次の卵胞が発育できるのだが、抱卵する性質 (就巣性 broodiness) を支配する遺伝子は何か。Xu et al. (2010) The dopamine D2 receptor gene polymorphisms associated with chicken broodiness 抱卵する性質はポリジーンだが、遺伝的性質を調べた実験の結果は研究者により異なる。この研究ではドーパミン D2 受容体 (松果体経由でプロラクチンの分泌に関わる) を一つの候補と考えている。 ハトでも同様の研究がある: Yin et al. (2018) Association of Dopamine D2 Receptor Gene Polymorphisms with Reproduction Traits in Domestic Pigeons (Columba livia)。 最新の RNA 転写研究では複雑な機構も報告されている: Tan et al. (2024) Long noncoding RNAs and mRNAs profiling in ovary during laying and broodiness in Taihe Black-Bone Silky Fowls (Gallus gallus Domesticus Brisson)。 産業への応用のために盛んに調べられている分野ではあるが、分子機構まではまだ解明されていない模様。 Liu et al. (2018) Whole-transcriptome analysis of atrophic ovaries in broody chickens reveals regulatory pathways associated with proliferation and apoptosis 抱卵を行うニワトリで抱卵に伴う卵巣の萎縮機構。 抱卵鳥が抱卵に関係する遺伝子を何か失っているならば、非托卵性に戻ることはできないのでは、と考え抱卵に関係する遺伝子は托卵鳥でも変異があるのではと想像するが、探した範囲では研究は見つからなかった。
      卵の構造に「カラザ」があるが、「カラザ」とは?意味や役割などをご紹介 によれば英語由来ではなく、ラテン語 chalaza (霰) < ギリシア語 khalaza (塊) とのこと。英語の chalaza は語源は新ラテン語 chalaza (1695-1705) < ギリシア語 khalaza とのこと (wordreference.com)。 ポルトガル語でも同じなので日本に入ったのはこのルートかも? 多くの言語でそのまま使っているのである意味世界共通の用語と言える。
      多くの鳥類で片側の卵巣のみが発達する分子伝達機構が明らかにされた: (ニワトリ) Peng et al. (2023) A PITX2-HTR1B pathway regulates the asymmetric development of female gonads in chickens。 PITX2 (Paired-Like Homeodomain 2) は脊椎動物の左右非対称な発達に関与する因子。 (アヒル、ガチョウ) Ran et al. (2023) Exploring right ovary degeneration in duck and goose embryos by histology and transcriptome dynamics analysis
      [その他] サカツラガンは現在は Anser属に分類されているが、Cygnopsis属 (Johann Friedrich von Brandt 1836 < Cygnus ハクチョウ属の名前 opsis 外見 Gk) が使われていたこともある。これは最初 Cygnus属の亜属として提唱された名前で、つまりハクチョウ類とされていたことがある。 頸椎数19個とある。どちらにしても旧北区のガンの中ではハクチョウの体型に一番近いのでこのような分類になったのだろう。 シナガチョウ Anser cygnoides var. domesticus の原種。
      属名の Anser は菊池氏のオリジナルでは (m,f) であったが、anser (wiktionary) では m (男性名詞) とあり、学名でも男性名詞で扱われているようなのでそのようにした。ラテン語全体では女性名詞の用例もあるのかも知れない。 また多くの言語でガンとガチョウは単語レベルでは区別されていないのでガチョウと訳される場合も多いが、ここでは野生種を主に扱うのでガンとした。
      サカツラガンのロシア名 sukhonos は sukhoj 乾いた nos 嘴。Kolyada et al. (2016) によれば警戒時体をほとんど水に沈め、首から上だけを出すような行動を示すことから付いた名前ではないかとのこと。
  • ヒシクイ (オオヒシクイを独立種とする分類も多い)
    • 学名:Anser fabalis (アンセル ファバリス) 豆のガン (豆を食べるガン)
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:fabalis (adj) 豆の (faba (f) 豆 -alis (接尾辞) 〜に関連する)
    • 英名:Bean Goose, IOC: Tundra Bean Goose と Taiga Bean Goose に分離
    • 備考:IOC では (IOCで種)ヒシクイ Anser serrirostris (serra ぎざぎざの/鋸歯状の -rostris 嘴の) 英名 Tundra Bean Goose として2亜種を認めている。いずれも日本で記録され、この扱いでは基亜種 serrirostrisrossicus (ロシアの) ヒメヒシクイである。 (IOCで種) オオヒシクイ Anser fabalis 英名 Taiga Bean Goose として3亜種を認めている。日本で記録される亜種はこのうち middendorffii (ロシアの動物学者でシベリアや中央アジアを探検した Aleksandr Fedorovich von Middendorf に由来) オオヒシクイである。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではこれらを同種として扱い、Anser fabalis 種ヒシクイの亜種として3亜種を認める立場になっており、IOC 英名とは整合性が悪くなっている。 世界の主要リストでは Clements, AOU, IOC, eBird は種 Anser serrirostris を認める立場で、HBW/BirdLife と Howard and Moore が Anser fabalis serrirostris と亜種扱いにしている。 ロシアの現在のチェックリストも別種としていない。 分子系統学研究では Ruokonen et al. (2008) Taxonomy of the bean goose-pink-footed goose は コザクラバシガン Anser brachyrhynchus (brakhus 短い rhunkhos 嘴) 英名 Pink-footed Goose を含め、これら3種を3つのクレードに分かれ、系統が十分分離していて別種扱いでよいと述べている。3種の外見的類似性は似た環境での収斂進化によるものとみなしている。
      もう少し広い範囲のガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) A tree of geese: A phylogenomic perspective on the evolutionary history of True Geese が調べている。 この研究ではヒシクイとオオヒシクイの関係は新たに調べられておらず、研究当時の Clements 分類 (2015) に従ってオオヒシクイをヒシクイの亜種として分離した扱いはしていない。Ruokonen et al. (2008) は引用しており、コザクラバシガンを広義のヒシクイの姉妹種、これら全体を species complex としている。これらの間の進化的位置づけを再構成するにはもっと広範なデータが必要としている。 ヒシクイとオオヒシクイをそれぞれ独立種とすべきかについては特に情報のある論文ではない。個人的には独立種としてよい論文 Ruokonen et al. (2008) や海外リストを根拠としてヒシクイとオオヒシクイを別種として取り扱った方が実用的には利便性が高まると感じる (それぞれ識別困難な種類ではないこと、日本は分布の東端に位置するため両グループの中間型に悩まされることが少ないだろうことも理由に挙げられよう。「十分な量のデータ」が揃うのを待っていてはいつまでも決まらないような気がする...)。
      さらに Ottenburghs et al. (2023) Highly differentiated loci resolve phylogenetic relationships in the Bean Goose complexAnser brachyrhynchus コザクラバシガン、Anser fabalis ヒシクイ、Anser serrirostris の分類上の問題を扱っている。 A. fabalisA. serrirostris を同種にすると、A. brachyrhynchus を内包してしまって単系統にならないので、A. fabalisA. serrirostris は別種にするか、これら全部を1種にして違いは全部亜種扱いにするかのどちらかになる、ということのようである。ただしオオヒシクイは解析に含まれていない。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント "亜種和名の原則に関わる問題" で、(現状の) 種ヒシクイと亜種ヒシクイが同じ名称なので実際上も混乱の原因となっているため、亜種ヒシクイにハシブトヒシクイを与える提案がなされたが、長年使われてきた名称なので継続して使用するのが妥当、またハシブトヒシクイは Anser mentalis に対してすでに使われた和名のため不適当との回答であった。 Anser mentalis (顎に特徴がある) の再検討については Ruokonen and Aarvak (2011) Typology Revisited: Historical Taxa of the Bean Goose - Pink-Footed Goose Complex でなされ、遺伝子型は特定の亜種に同定するまでは至らなかったが独立種とする根拠はないとのことであった。
      ロシア名 gumennik で、gumno (穀物小屋) に由来 (Kolyada et al. 2016)。
      日本ではヒシクイは天然記念物。これも分類や名称をあまり細かく変更したくない理由の一つかも知れない。 亜種オオヒシクイは準絶滅危惧 (NT)、亜種ヒシクイは絶滅危惧II類 (VU)。世界的には IUCN 3.1 LC種。
  • ハイイロガン
    • 学名:Anser anser (アンセル アンセル) ガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:anser (トートニム)
    • 英名:Greylag Goose
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは rubrirostris (ruber 赤い -rostris 嘴の) とされる。 最初に記載された際は Anas anser Linnaeus, 1758 のカモ類とされていた。Anser属は1860年 Brisson により設けられた。 コンラート・ローレンツ (Konrad Lorenz) が「刷り込み」を発見した種類としても有名 (wikipedia 英語版)。ローレンツの行動学には当時の学問背景が色濃く現れているので多少注意が必要である (#ミサゴの備考 [feather taxis・頭かき] 参照)。 英名の greylag の由来は grey (色から) + lag [ガン (ガチョウ) の古名。これらの鳥を移動させる時に使われた音声に由来] (wiktionary)。つまり Greylag Goose の名称にはガンの意味が二重に入る。ガチョウの原種。
      [鳥の編隊飛行の仕組み] Newbolt et al. (2024) Flow interactions lead to self-organized flight formations disrupted by self-amplifying waves が鳥の群れ形成の仕組みを扱っている。どこに入れてもよいのだがここで扱われている種類がガン類などの大型種なのでここに含めておく。 模型を使った流体力学実験で、前方の個体の後報に位置する力 (位置がずれた場合に元の位置に戻す復元力) が働き結晶格子のような規則的配列を作る傾向があることが説明できる。しかし全体としては振動のモードがパターンとして生まれて flonons と呼んでいる (結晶中における音波に相当する格子振動を量子化したフォノンに類似の概念)。 この振動が成長すると衝突が起きたり群れを崩壊させることになる (この現象は実際の現象とも対応がある)。個体差を与えるとの個々の個体の位置にはばらつきが生まれるが、この振動の成長が抑制されることがわかった。これは現実でもそうなっているだろう (なお物理学では振動が成長するか否かが非常によく扱われるので物理の話を読む時の着眼点としてよい)。 個々の個体に働く力のミクロのメカニズムが大域的な構造形成を行う自己組織化として扱っている (自己組織化については [#鳥類系統樹2024] の記述も参照)。 流体中の群れについて一般的に成り立つ法則と考えられ、魚の群れの形成などもおそらく同様の構造形成が働くのだろう。もちろん個々の個体が意識を持って行動していないとは言っていない。エネルギー的に最も低い (つまり楽ができる) 位置を選択すれば自然にそのような構造が生まれると解釈するとよい。 これはやはり物理学 (分野的には物性か) の論文と言ってよいだろう。鳥の編隊飛行は結晶格子と同じように捉えることができる。 英文解説記事
      [コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz とハイイロガン] Lorenz がハイイロガンなどを用いて刷り込みを研究したことは非常に有名で、著作も多数ある。 その一つ Das Jahr der Graugans (1979) 英訳されて The Year of the Greylag Goose (1979) は邦訳されていないようなので紹介しておく。 いわば写真物語のような形、同一の写真は後の著作にもおそらく現れていて目にしたことがあるものもある。 少しハードルが高いかも知れないが、ロシア語訳 (1984) があって lorenz1984_god_serogo_gusya のようなファイル名で見つけられるのでないかと思う。Panov が前文を書いている。写真が多いので写真を見る分には何語でもそう違わないだろうし、機械翻訳でも十分読めそう。
      「ハイイロガンの動物行動学」(大川けい子訳 平凡社 1996) は原書 Hier bin ich - wo bist du? : Ethologie der Graugans (1988)。
      #イヌワシ備考の [コンラート・ローレンツのワシ類の記述] でも「ソロモンの指環」を中心に取り上げた。
      [首の短い鳥は危険?] 同じ模型でも動かす方向によってタカに見えたりガンに見えたりして、タカに見えるシルエットには逃避反応を示すローレンツとティンバーゲンによる有名な実験をご存じの方も多いだろう。自分が習った時代の本にはよく書いてあった。 その顛末が紹介されていた: Schleidt and Shalter (2011) The Hawk/Goose Story: The Classical Ethological Experiments of Lorenz and Tinbergen, Revisited ティンバーゲンの1951年の本に出てくるイラストとのこと。シチメンチョウに見せた場合の反応を調べた (Lorenz 1939)。 Oscar Heinroth がニワトリが首が短く尾の長いシルエットをより警戒するとの観察結果を受けて Lorenz が1937年に実験したの最初とのこと。つまり Heinroth が仮説の最初の提唱者とのこと。 Lorenz (1939) はシチメンチョウの反応しか述べていないが、Tinbergen はニワトリ類からカモやガンまで一般化してしまったとのこと。Lorenz は速度 (角速度) の遅さも要因と考えたが、 Tinbergen は首が短いことが一番重要な刺激だと結論し、Tinbergen "The Study of Instinct" (1951) の本には Heinroth の観察によると (首の短い) ヨーロッパアマツバメが渡ってきてすぐの時期はベルリン動物園の多くの鳥が逃避行動をとるとの記述まであるとのこと (!)。 Tinbergen の書物はこの世界ではバイブルであったため信じられていたが、1967年の実験で覆ってしまったとのこと。 Tinbergen の仮説を覆した実験やその後の追試結果や解釈なども述べられている。 Schleidt (1961) の観察では猛禽類よりもむしろ気象バルーンを警戒した。シュバシコウにも反応したのは "短い首仮説" にとって逆説的である。 Tinbergen は仮説を取り下げて selective habituation hypothesis を受け入れ、1965年にはひなは落ち葉も含め頭上を通り過ぎるものすべてに "生得的" に臆病だが、経験を積むにつれて当たり前の刺激に慣れて恐怖を感じなくなる。しかし猛禽類を見かけることはまれなので慣れが生じないと記していた。
      しかし1951年の著作があまりにも有名で、訂正が行われず再販されたり他の形で出版・引用されるなど1979年の教科書にも長く登場していたとのこと。 Lorenz が実験した当時の比較心理学は学習によるものに重点が置かれていて、"短い首" という単純な刺激で猛禽類を見分ける生得的能力があることが衝撃的に受け止められたことが背景にあるとのこと。 "短い首" 仮説を否定する過程そのものが "生得的" 認知 (本能的プログラム) を否定するプロセスそのものとなったとのこと。 著者の実験でも放し飼いのシチメンチョウは毎日出会う犬には慣れるが見慣れない犬には激しく反応するという。ヘビのような形の水撒き用のホースは他の家禽は関心を示さなかったが、シチメンチョウは激しく反 応したという。しかし数時間もすれば慣れてためらいなく上を横切るようになったとのこと。
      wikipedia 英語版にも対応する解説があった Hawk/goose effect。 参考になるかも知れない日本語のページ: 高校生物 テインバーゲン「本能の研究」を読む (池田博明 2012)。 Nikolaas Tinbergen の百科事典には Hawk/goose effect で知られているとの記述がある。
      なおハイイロガンが卵を転がす行動 (巣の外に出た卵を戻す行動で、途中で転がってしまっても観察者が卵を取り去ってもあたかも卵があるかのように行動を続ける) は Fixed Action Pattern (信号刺激) の典型例のように呼ばれるが、別の解釈も提案されている: Marken (2002) Looking at behavior through control theory glasses この著者によれば親鳥から卵が直接見えないので触覚に頼るしかない。突然刺激が消えた場合何が起きるか、人を被検者にしたネットのデモンストレーションサイトがあり、マウスで画面のものを動かす作業の最中に画面から突然マウスカーソルが消えた場合人がどのような行動をするか結果を比べてみよとのこと。
      Schleidt and Shalter (2011) の論文では (動かない) 猛禽の絵を貼って衝突防止に用いたり (この効果は Lorenz-Tinbergen でも調べられていないとのこと) 剥製を置くことがあまりにも頻繁に行われているが、1962年の Loehrl のレビューで意味がないことがすでに述べられているとのこと。 生物学的な方法は "選択的な慣れ" を簡単に起こすとのこと。猛禽があまりにも繁用されているので窓に加工するならばもう少し別のやり方があると述べられている。 参考までに 鳥がガラス窓に飛び込むのを防止するには (バードライフ・インターナショナル東京 2019) では「猛禽類の形のステッカーが、小鳥を怖がらせて追い払う」は俗説とある。猛禽類のデザインは「アート」と捉えた方が楽しめそう。
      日本語では「本能の研究」(N.ティンベルヘン著 永野為武訳 三共出版 1957) が最初の紹介のようだがその後の版も訳されているよう。直接この著書からでなくともいろいろな形で紹介されていたはずだが、自分が知ったのはいったいどのルートからだろうか。Tinbergen が仮説を取り下げた後であることは間違いない。今でもこの説が流通しているかも知れないので要注意だろう。
      コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz、カール・フォン・フリッシュ Karl von Frisch、ニコ・ティンバーゲン Nikolaas Tinbergen 個体的および社会的行動様式の組織化と誘発に関する発見 に与えられた1973年のノーベル生理学・医学賞は今から振り返ってみるどうなのだろうか、という論説もある: Dewsbury (2003) The 1973 Nobel Prize for Physiology or Medicine: Recognition for behavioral science? 行動学に対して初めて与えられたノーベル賞で、人の健康にかかわる行動学 (それゆえ生理学・医学賞) が今後受賞することが期待されたが一つもなかった。3人の受賞にまつわるできごとや論争、現代の視点から見た賞の意義を議論している。 Font (2023) 50 years of the Nobel Prize to Lorenz, Tinbergen, and von Frisch: integrating behavioral function into an ethology for the 21st century が受賞50周年となるはずなのだが動物行動学をやる者はほとんど気づいていない。学問の世界では現実の世界以上に無視されるようになった。Tinbergen の提唱した4つの「なぜ」のうち一つである行動生物学 (社会生物学) のみに置き換わってしまった。 "ethology" は死んだ、あるいは絶滅の縁にあるとすら言われるようになったが正しくない。学生や研究者も "ethologist" よりは自身を evolutionary biologists と呼んでいるなど、ethology の名称を避けている。1930-1940年代の ethology と連続性はあるが現在は異なるものなっており、他分野との関係など学問領域として定義も難しくなっている。 Tinbergen の提唱した4つの「なぜ」を追求する分野として ethology を用いてよいのではとのこと。 最後の部分の表題に使われている what’s in a name? は#アホウドリの備考参照。何と呼ぼうが動物の行動を解釈する学問であり、名前にそこまでこだわらなくてもよいのでは、の意味を込めているのだろう。
      Font (2023) に引用されている Alcock による2000年代初頭の本は、「社会生物学の勝利: 批判者たちはどこで誤ったか」(ジョン・オルコック著 長谷川眞理子訳 新曜社 2004; 原著 The triumph of sociobiology 2001) で読むことができる。 E. O. Wilson (1975) は "Sociobiology, The New Synthesis" (邦訳「社会生物学」) でいみじくも行動生物学の将来進展を予測し (訳本 図1-2; 「社会生物学の勝利」にも引用されている) 1950年には ethology が全盛であったものが1975年には社会生物学・行動生態学と統合的神経生理学に分離し、2000年には ethology が衰退しているだろう図を示している。 Alcock は社会生物学・行動生態学からさらに進化心理学の分野が広がったことも記している。 訳者の長谷川氏によると欧米では盛んに議論が起きていたが、日本では目立った議論にならなかったとのこと。文化背景の違いなども挙げられているが、日本にはそのような学問の素地がまだ希薄だったのかも知れない。 社会生物学が成功を収めた一つの背景として、研究者が互いに仮説を競わせることのできる学問構造が内在していた理由もあるだろう。#カッコウ類の托卵あるいは宿主の排除戦術の議論などを見ても大変面白く、新しい研究者にとっても魅力的だったのだろう。
  • マガン
    • 学名:Anser albifrons (アンセル アルビフロンス) 白い額のガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:albifrons (adj) 白い額の (albus (adj) 白い frons (f) 額)
    • 英名:Greater White-fronted Goose
    • 備考:5亜種あり(IOC)。 日本で記録されるものは基亜種 albifrons 亜種マガン、及び亜種不明とされる。 亜種 gambelli (アメリカの探検家・博物学者の William Gambel, Jr. に由来) オオマガン が検討亜種に含まれている。
  • カリガネ
    • 学名:Anser erythropus (アンセル エリュトゥロプス) 赤い足のガン
    • 属名:anser (m,f) ガン
    • 種小名:erythropus (合) 赤い足の (erythro- (接頭辞) 赤い pous足 Gk)
    • 英名:Lesser White-fronted Goose
    • 備考:単形種。 絶滅危惧IB類 (EN)。IUCN 3.1 でVU種。
  • インドガン
    • 学名:Anser indicus (アンセル インディクス) インドのガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:indicus (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bar-headed Goose
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
      [インドガンの高所適応] 標高 8000m 以上の低酸素環境のヒマラヤ山脈を超える、世界最高の高さを飛ぶ鳥として有名 (wikipedia 日本語版)。最近の文献では例えば Hawkes et al. (2011) The trans-Himalayan ights of bar-headed geese (Anser indicus) で衛星追跡の結果が見られる。風の助けを借りず、むしろ風の弱い条件で自身の飛行能力でヒマラヤ山脈を超えるとのことである。8000m の数字はおそらくやや誇張で、これらの研究によれば 6000m 以下の谷を主に通っているとのこと。7290m の記録はあるそうである (wikipedia 英語版)。 このためどのような生理機構で高所順応をしているのか注目され、古くから研究されている。 呼吸器の機能も低酸素状態でも働くように最適化され、心筋への毛細血管も低地に住む鳥に比べて多いとのこと。 血液中で酸素を運ぶヘモグロビンも他のガン類と異なる変異があり、酸素との結合性を増しているとのこと。[Natarajan et al. (2018) Molecular basis of hemoglobin adaptation in the high-flying bar-headed goose]。
      Butler (2016) The physiological basis of bird flight にも高所適応に限らず飛翔に必要な生理機能の総説がある。インドガンが定常的に高所を選んで飛んでいる証拠はないとのこと。それでも 5500m で自力の羽ばたき飛行を行えるのは大したものであると記されている。トラッキングデータから例外的に高く上昇する際に心拍数は上がらず、好適な風の助けで上昇したものであることを裏付けるとのこと。 ヒトなどでは過換気により血中の CO2 が下がると (hypocapnia) 脳への血流が下がるが、カモやインドガンでは起きないとのこと。カモやインドガンでは低酸素状態ではヒトなどより脳への血流が増し、これらの効果で哺乳類よりずっと高所での低酸素に強いとのこと。 低酸素・血中の CO2 低下でインドガンではよりアルカローシスが強く起きてヘモグロビンの酸素結合性との効果と合わさって組織への酸素供給を維持、あるいは高めることさえできるとのこと。 鳥には気嚢システムがあるため、との説明するのはおそらく不十分で、このような生理的適応の効果が大きい。原理的には他のガンにできない 9000m を飛行する能力はあるが実際にはわざわざ高いところを飛ぶわけではない。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (1)] このように生態・生理的には大変興味深い種であるが、"bar-headed goose" (インドガン) の名前はまったく違う分野の研究者にも大変よく知られていたことがある (現在でもそうかもしれない)。 近年世界のさまざまな地域で鳥類 (および一部の哺乳類) を危機に晒している鳥インフルエンザに関係する話である。 wikipedia 英語版の記事 2020-2023 H5N8 outbreak にあるように、2020年から2021年にかけて世界で大規模な感染爆発が起きたことは記憶に新しい。この時の株は H5N8 であったが、2021-2022年の冬から夏近くにかけて H5N1 株がヨーロッパで水鳥コロニーに壊滅的な被害を与えた。そしてヨーロッパから北米にも広がって多くの種類の鳥を犠牲にした。 Caliendo et al. (2022) Transatlantic spread of highly pathogenic avian influenza H5N1 by wild birds from Europe to North America in 2021 北大西洋の渡りでどのように運ばれたかが Fig. 4 に出ている。 (#ハクトウワシの備考も参照)。 ギリシャのペリカンコロニーで鳥インフルエンザ集団死 ハイイロペリカン600羽近くが死んだ。 Bird flu has killed nearly 1,500 threatened Caspian terns on Lake Michigan islands ミシガン州の湖で1500羽近いオニアジサシ (英名はカスピ海由来だが北米にも生息する) が犠牲となった。神経症状で震える姿や、それでも抱卵しようとする中で亡くなった姿が記録されている。 多数の経験豊富な成鳥を失い、個体群に与える影響がどれほどのものか想像がつかないとのこと。 オランダでサンドイッチアジサシ Thalasseus sandvicensis 英名 Sandwich Tern のコロニーが犠牲となり、長年保護に取り組んできたチームを嘆かせた。Rijks et al. (2022) Mass Mortality Caused by Highly Pathogenic Influenza A(H5N1) Virus in Sandwich Terns, the Netherlands, 2022、記事 Kolonie grote sterns op Texel weggevaagd door vogelgriep: テクセルの自然保護区 De Petten のサンドイッチアジサシの繁殖コロニーは、鳥インフルエン ザによって一掃された。7000羽の鳥のうち、3000羽が死んでいるのが発見された。残りは海で死んで浮いているか、離れて移動していると考えられる。 Avian Flu Threatens Seabird Nesting Colonies on Both Sides of the Atlantic (Audubon の記事): アジサシ類が特に壊滅的被害を受けている。 個体が長命で子の数の少ない生存戦略は、一時的な天候悪化や食物不足には有利だが鳥インフルエンザ流行のような場合にリスク要因になる。 病気そのもののコントロールは難しいが、人為要因による環境悪化などの他の要因が個体数回復を遅らせるのでそれを防ぐのはよい手段である。 同じように集団繁殖するニシツノメドリも心配である (メーン州で失われた個体群が1970年代に復元された) とのこと。 これはさらに南米に広がってペルーなどで大規模な集団死が発生した。 Bird flu kills almost 14,000 pelicans, seabirds in Peru (2022年11月の記事)、 Peru reports hundreds of sea lion deaths due to bird flu (アシカの集団死、2023年2月の記事)。 日本でも大きな影響を与えていることは報道でご存じであろう (幸いにこれまでのところヨーロッパやアメリカのような壊滅的な野鳥への影響は日本ではあまりないが、2022-2023年の鹿児島県出水では1月の段階でツル1421羽が回収され、越冬地を変えたツルもあるらしいと報道があった。また北海道でオジロワシなど貴重種も失われている)。
      2024年初頭に南米からさらに南極大陸本土に達してしまった。 'We’re going to see some haunting images': Bird flu has reached Antarctica (Candice Marshall, Australian Geographic 2024)。 Avian influenza virus is adapting to spread to marine mammals (2024年論文へのリンクもあり)。 気候変動の脅威に晒されている最中に病原体とも戦わねばならない。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (2) 高病原性と低病原性] 最近ではあまりに毎年のように起きているため、「野鳥は本来鳥インフルエンザウイルスを持っているもので、感染するのは運が悪いだけ」のような印象を持たれる方もあるだろう。 ヒトの場合にはインフルエンザウイルス (*1) が人から人への感染で維持されており、時折新型インフルエンザが現れてパンデミックとなる点は上記印象でほぼ合っていると考えてよい。有史以来、そしておそらく有史以前からこの関係は続いてきたのであろう。 それでは現在問題となっている鳥インフルエンザも同じように考えてよいのだろうか。忘れ去られた情報も多いと思われるのでここで少し整理しておきたい。
      まず報道などで使われる用語がかつて非常に紛らわしいものであったため改めて注意を促しておく (この時代に知識を得られた方は要再確認)。 高病原性鳥インフルエンザという用語があるが、これは行政用語であって科学的な概念や世界で使われる名称とは必ずしも対応していない (いなかった)。 この定義は家畜伝染病予防法でなされているもので、2011年4月に改正される以前は H5、H7亜型のウイルスをすべて高病原性鳥インフルエンザと呼んでいた。 当時はすでに鳥インフルエンザの世界進展の時期であり、日本の用語と海外の名称が異なるためややこしい状況が生じていた。現在の定義は 我が国における鳥インフルエンザの分類 を参照。 海外では強毒の高いものを HPAI (Highly Pathogenic Avian Influenza) そのまま訳すと高病原性鳥インフルエンザになるが、2011年以前の日本の用語では毒性にかかわらず H5、H7亜型のウイルスをすべてこう呼んでいた。 そのため「高病原性鳥インフルエンザ (HPAI)」のように略すのは少なくとも従来は間違っていたわけである。 これは H5、H7型のウイルスは最初はそもそも無害であっても養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化することがあることが知られていたためであり、無害であっても H5、H7亜型のウイルスを検出した場合は届け出て法律に定められた措置をとる必要があることによる。 国際的な分類では弱毒の鳥インフルエンザウイルスは LPAI (Low Pathogenic Avian Influenza) と呼ばれており毒性と名称が整合している。H5、H7型のように届け出を要するウイルスを意味する場合には N (notifiable) を補って LPNAI と呼ぶ。以前の日本の分類で高病原性鳥インフルエンザ (弱毒タイプ) が LPNAI に相当していた。 現在の日本の名称では LPNAI に相当するものは法定伝染病の低病原性鳥インフルエンザ (LPAI) となっていて、H5、H7亜型以外は届出伝染病の鳥インフルエンザとなっている。国際的な定義に合致するようになったのは HPAI の方のようである。この文書も含めて「鳥インフルエンザ」と言う場合は届出伝染病の鳥インフルエンザを指すわけではなく、もっと広い意味で使っていることはご注意いただきたい。 かつての報道では「強毒の」や「毒性の強い」をよく補っていたが、これは当時の高病原性鳥インフルエンザには弱毒のものも含まれていたためで、同じことを冗長に言っていたわけではない。 現在では少なくとも高病原性に関しては日本の用語と海外の用語が同じ意味になったため、高病原性鳥インフルエンザ (ウイルス) を指して HPAI を使うことにする。また強毒性の同意語として高病原性も使うことにする。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる] さて「養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化する」ことの分子機構も判明している。また生態学的には強毒のウイルスは通常生態学的に安定状態とならない (宿主を即座に殺してしまうと病原体自身も死滅してしまうため) が、養鶏場のような本来あり得ないほどの高密度であれば宿主が死ぬ前に別の個体に感染させることができて病原体自身も生き延びることができる。 これは野外のような通常の条件では低病原性しか生態学的には安定解を持たない、と表現しなおすこともできる。養鶏場のような特殊な条件でのみ高病原性の安定解が存在するのである。 [これはプラム「美の進化」(#エトロフウミスズメの備考参照) に対する批判「ランナウェイ過程は、メスに選別コストがわずかでもあると、大きな装飾の安定的な平衡点をもてない」と同じようなことを表していると考えていただいてよい。 自然界で高病原性のウイルスがたまたま生じても、それは平衡点にはなり得ないのでいずれ安定な低病原性に変異してゆくことを示している (それにどれだけの時間を要するかは平衡点理論は教えてくれない)]。
      (ここからしばらくは少し高度なので最初は飛ばしていただいてよい) 強毒化の分子機構についても多少補足しておこう。インフルエンザウイルスではヘマグルチニン (HA、後にもう少し詳しい説明あり) の遺伝子から翻訳されたタンパク質 (HA0) を持つウイルスそのものには感染性がなく、宿主の持つ酵素によって2つに分割され、HA1, HA2 となることで感染性を持つウイルス粒子となる。 この分離される部位のことを開裂部位 (cleavage site) と呼ぶ。HA0 を開裂するためには一部の臓器に存在する分解酵素トリプシンが必要である。一般的なインフルエンザウイルスが特定の臓器 (例えばヒトでは呼吸器、鳥では腸管) で主に増殖するのはこの性質による。 高病原性鳥インフルエンザでは開裂部位に塩基性アミノ酸 (リジン K、アルギニン R: それぞれ1文字略号も示す) が並び、塩基性アミノ酸 (basic amino acids) のアミノ基は水素イオンと結合して正の電荷を持って互いに反発しあうため、開裂がより容易に起きる。そのため特定の臓器だけでなくあらゆる臓器に存在する一般的なタンパク質分解酵素で簡単に開裂が起きてしまう。 これは高病原性鳥インフルエンザが全身のあらゆる細胞で増殖可能である原理である (海外のバーダーなども参加するメーリングリストでもこのような用語は普通に飛び交っていた。何のことかわからない人もあったかも知れない)。 全身のあらゆる細胞には中枢神経細胞も含まれ、高病原性鳥インフルエンザに感染した鳥に特有の神経症状が現れるのはこの性質による。 また心筋細胞や重要臓器でも増殖するため、命にかかわることも理解いただけるであろう。 HPAI H5N1 で死亡したヨーロッパノスリの研究がある: Caliendo et al. (2022) Pathology and virology of natural highly pathogenic avian influenza H5N8 infection in wild Common buzzards (Buteo buteo)。11羽中9羽に脳の壊死、7羽に心筋壊死が見られた。
      少なくとも H5 亜型においては低病原性ウイルスの HA 開裂部位の塩基配列に比較的少数の変異が加わるだけで塩基性アミノ酸が並ぶようになる。実験的にもニワトリに継代接種を行うことで LPAI が HPAI に変化することが示された [Ito et al. (2001) Generation of a Highly Pathogenic Avian Influenza A Virus from an Avirulent Field Isolate by Passaging in Chickens。これが実証されたのは世界初だったとのこと。10回弱程度の変異が起きると K と R ばかりが並ぶウイルスができ得る様子がわかる]。 これが H5、H7 亜型が強毒化しやすい原因と考えられる。 ただし毒性には他の遺伝子も関連があり (例えばウイルスを増殖させるポリメラーゼ遺伝子) HA の開裂部位のみが毒性や宿主特異性をすべて決定するわけではないが、上記メカニズムは現在問題の高病原性 H5 に関係するものなので話だけでも知っておいてよいだろう (*2)。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (4) 自然界の高病原性鳥インフルエンザの由来] ここまでの説明をある程度理解していただければ、自然界に高病原性鳥インフルエンザはもともと存在しないこと、そして人工的条件で生まれ、野生動物に持ち込まれた病気であることを納得していただけるであろう。 高病原性鳥インフルエンザとは人が家畜を扱うようになって生まれたもので、鳥インフルエンザウイルスは長年月に渡って水鳥にとってほとんど無害なもの (つまり低病原性の平衡状態) だったのである。 歴史的には高病原性鳥インフルエンザがかつて養鶏場から野外流出してアジサシ類の集団死が起きた程度のことはあったが、病原性があまりにも高かったためそれ以上に広がらず、現在のような異常な状態には至らなかった。現在の状況がいかに異常であるかは過去の事例が示してくれている。 現在の異常事態は自然に起きた「天災」ではなく、人為がもたらしたものであることを改めて理解しておきたいし、自信を持ってそのように説明していただいてよい。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (5) (鳥)インフルエンザの亜型の意味] さて、H5N1 とか H5N8 とかは何なのか、いったい何が違うのか、それとも実質同じものなのか疑問をお持ちの方も多いであろう。復習になる方も多いと思うがインフルエンザウイルスについて簡単に整理しておく。よくご存じの方は読み飛ばしていただいて構わない。インフルエンザウイルスには A-D の型があるが、ここで問題となるのはA型なのでA型のみを扱う (この「型」が「属」に対応していて、インフルエンザウイルス全体では4属4種だそうである)。鳥インフルエンザはA型。B型はほとんどヒトのみに感染し病原性も弱め、など。
      新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) もインフルエンザウイルスも一本鎖 RNA ウイルスである点は共通しているが、SARS-CoV-2 では1セグメントのみからなる遺伝子構造であるのに対して、インフルエンザウイルスは8個のセグメント (分節。別々の RNA 分子) からなるずっと複雑な構造を持っている。 SARS-CoV-2 の場合には RNA の複製の際に生じるエラーで変異が積み重なって新しい株が生まれる仕組みだが、インフルエンザウイルスの場合は複数のセグメントに分かれているために RNA の複製の際に生じるエラー以外にも新しいタイプのウイルスを作る機構が存在する。変異速度を上げて宿主の免疫から逃れて生き残るのがインフルエンザウイルスの生き残り戦略と言ってもよいだろう。
      同じ細胞が2つの異なったインフルエンザウイルスに同時感染した場合、複数のセグメントの間で入れ替わりが生じることがある (遺伝子再集合 reassortment という; お菓子などの「アソート」と同じ。ばらばらになった混ぜこぜのセグメントが再構成される時に新しい組み合わせが生じる *3)。遺伝子組み換えとは意味が違うので注意。 インフルエンザウイルスの H というのは ヘマグルチニン (HA: haemagglutinin) のことで、要するにウイルスが細胞に付着する機能を果たす部分である。 N は ノイラミニダーゼ (NA: neuraminidase) のことで、細胞内で増殖したウイルスが細胞表面に現れたものを切り出してウイルス粒子にする酵素のこと。つまりこの酵素を阻害すればウイルスの増殖を抑えることができ、ノイラミニダーゼ阻害剤という一連の薬剤 (商品名ではタミフルやリレンザなど) はこの酵素を標的としたものである (*4)。
      HA と NA には抗原性の異なる (現代では生物の分類と同様に分子系統樹を描いて分類する) いくつかの種類があり、番号を付けて呼ばれる。HA で16種、NA で9種が現在知られており (亜型という)、H5N1 などの名前はその組み合わせを表す。例えば同じ HA であっても少しずつ性質が異なるものがあることは生物の亜種と同様。原理的にはすべての HA, NA の組み合わせが可能であると考えられている。 ちなみにヒトで過去にパンデミックを起こしたことが知られているインフルエンザウイルスは H1, H2, H3 である。H5 にもその能力があるかははっきりわからないが、いくつかの変異を導入すると哺乳類から哺乳類 (実験室でよく使われるのはヒトに似た性質を示すフェレット) に感染するウイルスを作ることができることは実験的に確かめられており、哺乳類への感染が警戒されている所以である [参考: 哺乳類間で伝播しうる鳥インフルエンザウイルスリスクの高い研究に関する論文の掲載 (Nature 2012) のようにこの研究結果を公開すべきか議論を呼んだ] (*5)。
      HA と NA は異なるセグメントに乗っているため、遺伝子再集合で別々の HA と NA を持つウイルスが比較的簡単に作られる。つまり同じ H5 亜型であっても NA が入れ替わったウイルスも生じる。これが H5N1 が流行したり別の年には H5N2 や H5N8 に変わったりする仕組みである。 現在問題となっている H5 ははるか昔 (1996年ごろ) に生じた高病原性の系統が継続しているもので、NA は入れ替わることがあるが高病原性の性質は維持されている。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (6) 高病原性 H5N1 の出現] この高病原性 H5 (H5N1) が最初に (少なくとも世間的に) 明るみに出たのは (鳥インフルエンザなのに) なんと鳥ではなく、1997年香港で人が感染した事例に始まる。ちょうど同じ時期に香港のニワトリでも鳥インフルエンザの発生があり、香港中の150万羽のニワトリを1997年末までに処分することで流行は終息したが、18人が感染し6名が死亡した。この時はあるいは人から人感染かと懸念されたが人の間では大きな流行に至らなかった。 ちなみにタミフルは当時はまだ使えず、伝統的な抗インフルエンザ薬であったアマンタジンが使われた。 当時までは鳥インフルエンザは人に感染しない (いわゆる「種の壁」) と考えられていたため、防御も行わずに病気のニワトリをさばいたりしていたのであろう。 この株が最初に見つかったのは1996年に中国のガチョウから見出されたものであったため、現在問題となっている H5N1 の発見は1996年とされる。 その後しばらく小康状態が続いていたが (中国や東南アジアで局地的に発生していたものと思われる。2000年にはベトナムで多数のニワトリが死んでいた とのことで地方病のような状況だったらしい)、2003年に再度大規模な拡大があり、韓国の家禽で発生したしばらく後、2004年1月日本でも山口県の養鶏場で発生 (日本での HPAI 発生は79年ぶりのことであった)、2月大分県で小規模な発生があり、2-3月京都府の養鶏場で大規模な発生があった。 当時はこの時期に韓国から日本への渡り鳥のルートは知られておらず、何がウイルスを持ち込んだのか議論がなされていた (人の往来も十分多く、人が運んだ可能性もある *6)。 ほぼ同じころベトナムやカンボジアで人への感染も相次ぎ、1人感染がある度に報道されるぐらいであった。高病原性の定義は家禽に対するものであるが、人に対しても毒性が高く未治療では50%が死亡すると見積もられていた。毒性が高いままで人から人へ簡単に感染するようになるとどのようなことになるか、特に専門家の間では大変恐れられていた。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (6) 2005年青海湖の大事件] 日本での発生が一段落したため日本では鳥インフルエンザへの関心は次第に薄れて行ったが、2005年4月末から6月にかけて世界を震撼させる事件が中国青海省の青海湖で起きた [Chen et al. (2006) Properties and Dissemination of H5N1 Viruses Isolated during an Influenza Outbreak in Migratory Waterfowl in Western China を参照]。 この時に最初の感染例として見つかったのがインドガンであり、この論文によれば5月4日に2羽が死んでいるのが見つかり、翌日には105羽が死んだ。この感染爆発で最終的にインドガン3282羽、全体で6184羽の死体が回収されたとのこと。 ウイルスの系統解析の結果からインドガンが最初に保有していたウイルスが他の種類に感染したことが示されている。これ以来、鳥インフルエンザに関心を寄せる人たちの間でインドガンの名前は忘れられないものとなり、そしてそもそもなぜインドガンなのか不思議に思われていた。 これは高病原性鳥インフルエンザが渡り鳥に大規模感染を起こした前代未聞の事例となった。人に感染することもあって致死率が高いことはすでにわかっていたため、もし渡り鳥を通じて世界に拡散し、その経緯で人から人感染を起こすウイルスが生まれると大惨事になりかねないと考えられた。 養鶏場や地域感染にとどまっている間はまだともかく (当時までは東南アジアでの人感染が中心であったため、もしパンデミックが起きるならばそこから発生することを前提としたシミュレーションも行われていた。例えば東南アジアのある都市で人から人感染を起こす株が出現した場合、発生後何時間以内に半径何km以内の住民全員にタミフルを投与すれば拡大を防げるかなど調べられていたが、現実的にはほぼ達成不可能な数字が出るのみであった)、H5N1 はもはや制御不能と多くの専門家は考えた。
      当時 Nature がこの事象を受け、5月に早々と On a wing and a prayer との記事を出した。 渡り鳥に大規模感染が起きた以上パンデミックは時間の問題との認識が強かった。もはやアジアだけの問題はなく世界中どこで発生するかわからない。どこにいてもパンデミックからは逃れることはできない。 1918年に多くの人を犠牲とし、結果的に第一次世界大戦を終結させることになった通称「スペイン風邪」と呼ばれる新型インフルエンザを引き合いに出している。これは H1N1 亜型のパンデミックであったが、それでもまだ低病原性であり (1918年のパンデミックの前に野鳥や養鶏場で集団死があった報告などはなかった)、 1918年に比べて飛躍的に進んだ移動手段のある中で高病原性のパンデミックが起きればどうなるか、想像を絶するとの文脈である。 これほどの大事件であったにもかかわらず、日本での扱いは極めて小さかった (科学報道が重視されないことが痛感される)。 青海湖での発生が終結すると (つまり感染した鳥がすべて死ぬか移動していなくなった)、世界は一時的に平穏を取り戻していた。しかしこの間にロシアやモンゴルで感染が拡大していたのであった。 英文報道のような通常ルートで入ってきていた情報は8月にモンゴルのオオハクチョウでの感染が見つかったというもので、事例としても少なく、渡り鳥が運んだのか、あるいは人為的に運ばれた可能性があるのかなどの小規模な議論や現地調査にとどまっていた。 日本野鳥の会の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」「鳥インフルエンザ」 に収録 (北里大学農医連携学術叢書 3号) によれば野鳥一般に繁殖期であまり移動しない時期で、オオハクチョウは換羽でそもそも飛べない時期であり渡りで運ばれたと考えるのには無理があるとの考察がある。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (7) 2005年ロシアでの大進展] 事態をある意味で一変させたのが、Recombinomics社 (バイオのベンチャー企業?) の Henry L Niman によるもので、彼は協力者とともに海外ニュースを集めてロシアで鳥インフルエンザ感染が起きていることを見つけていた。 当時は現在のようなオンラインの機械翻訳サービスも限られていたが、彼らはその初期のサービスを用いてロシア語の現地ニュースを翻訳して読んでいたのだった。 Niman の論点は終始渡り鳥が H5N1 を運んでいるというもので、彼らはその文脈に合うニュースのみを選んで紹介していたのだった。 当時はまだウイルスを運ぶ主役は渡り鳥なのか人の移動によるものなのかよくわかっていない時代で、一方的視点だけでニュースを提供されると自然保護側としては看過できない状況であった。ロシアの農家による渡り鳥撃ち落とし計画なるものも報道され、それは日露渡り鳥条約にも関わる問題であるとの指摘も獣医師の方よりいただいた (話題作りの記事だったようで、実際には大規模には行われなかったようである)。 彼らと同じようにロシア語の現地ニュースを機械翻訳して読むと大規模養鶏場で発生したものが広がって、など彼らが紹介しない記事も多数あるため機械翻訳での紹介を始めたのが自分が鳥インフルエンザ問題に (世界的な文脈で) 関わったきっかけであった (ロシア語をしっかり勉強すべしと感じたのはこの後の話)。 ちなみに当時のロシアはまだソ連崩壊後の経済危機状態を脱しておらず、研究者も研究費を得るのが大変だった時期にあたる。当時のロシア発行の猛禽類保護の専門雑誌 Raptors Conservation に記事 Lapshin (2005) People, Birds and Viruses. What is the Arboviruses and Avian Influenza and How do they Threaten Raptors? があったが、鳥インフルエンザ騒動は少なくとも一部の研究者にとっては「救世主」のようなもので、渡り鳥に責任を押し付けることはウイルス研究者にとっても研究費獲得に有利で、野鳥保護関係者には迷惑な話であったとのこと (論文はロシア語・英語併記であるが上記肝心のところは英訳されていない。英語でニュアンスを伝えるのは難しかったのであろう)。 ロシアの経済状況は厳しいものであったが、情報公開には意外に熱心で最初の発生地であるノボシビルスク近郊の発生地点の詳細な地図までオンラインで入手することができた。 ロシアの野鳥に関係の深い英文のメーリングリストにも翻訳情報を投稿したりしていたが、 この活動が BirdLife の鳥インフルエンザ担当者の目にとまり、BirdLife が主宰するメーリングリストに加えてもらい、ボランティアによる国際的な感染症ホットラインである ProMED にも情報を提供するようになった。 ProMED は SARS の発生を最初に感知したり、新型コロナでも的確な情報を最初から提供するなど信頼性の高い感染症の情報源である。鳥インフルエンザはもちろん最も重要なテーマの一つであったが、あまりにも急速に進展してボランティアベースでは世界情報を追えなくなったり、それまではロシア在住の情報提供者があったがその時期はいなくなっていたと聞き、提供した情報は役立っていたようである。 そのメーリングリストは Nature の記者もオブザーバー参加していて、我々の活動に注目していたようである。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (8) そして2005-2006年ヨーロッパへの進展と新型インフルエンザ騒動] ロシア進展の間はほぼシベリア横断鉄道に沿うように西進していった。これも解釈に悩む要因となっていた。物流の大動脈であり周辺には養鶏場も当然ある。渡り鳥の移動に伴って拡大したものか、養鶏場で発生したものが人や物の移動に伴って運ばれていたのかを区別することは難しい。 この経路は Gauthier-clerc et al. (2007) Recent expansion of highly pathogenic avian influenza H5N1: a critical review にも示されており、ここでは人や物の移動に伴って運ばれたことを圧倒的に支持すると述べられている。 上記 Lapshin (2005) によれば検査のための物資が圧倒的に不足していて、現実の進展を反映していたものかもよくわからないようである。
      日本を含め、世界のメディアが注目したのは同年の10月にルーマニアなどヨーロッパで発生してからであった。この年には日本ではとある国政選挙があり、報道関係者はそちらの取材に忙殺されていたため世界がこんなことになっているとは知らなかった、と後に聞いた。 世界の一流誌はいずれもこのころ大特集を組んでいた。例えば TIME は青海湖でレンジャーの目の前でインドガンがよろめきながら死んで行く様子を生々しく伝えていた。

      同年 TIME 9/26号 "Avian Flu Death Threat" より冒頭の引用と抄訳:
      But for migratory birds, the island-actually a small peninsula protruding into Qinghai Lake, China's largest saltwater lake-is the avian equivalent of a busy international airport.
      人々にとっては秘境かも知れないが、青海湖の小さな半島は渡り鳥にとって込み 合った国際空港のようなものだった。
      his daily rounds near an area popular with bar-headed geese when he spotted something he'd never seen in his two decades at the reserve.
      青海湖のレンジャーは20年来観察を続けてきたが、それは初めて目にする光景 だった。
      "It was walking so strangely, wobbling from side to side as if it were drunk."
      群れから離れた1羽のインドガンが、まるで酔っ払っているかのように揺れな がら歩いていた。
      "This goose seemed to be shivering."
      あのガンは震えているのではないか・・
      その瞬間から起きた世界の戦慄の反応は、"If that sounds like an alarmist's hype, it's not." 警告家の誇張のように聞こえるかも知れない・・しかしそれは 本当なのだ。

      ルーマニアで発生となるとロシアとの間はどうであったのか気になるところであったが、報道をチェックするとウクライナでもそれを疑わせる事例がすでにあったらしいことがわかった。住民の証言レベルの話だったが当時のウクライナの体制がいかなるものであったを多少なりともうかがうことができた (現在なぜあのような事態になっているのかの遠因もわかるような気がした)。 ウクライナでの発生が正式に報告されたのはこの年も終わりに近づいてからのことであった。
      2005 年中のヨーロッパでの発生はまだ散発的であったが、2006 年に入ってから大発生が相次いだ。 ギリシャではアオガンの死亡もあり、当時 BirdLife 担当者の Richard Thomas が「養鶏場のウイルスがこんな貴重な鳥を殺している!」と怒り心頭のメッセージを記していた。 ドイツ北部のリューゲン島でハクチョウ類の集団死があり、真冬の最中に防護服を着て非常に重いハクチョウ類の死体を回収する担当者がどれだけ重労働であるかも述べられ、都市部で発生が起きた時には市内に幾重にも防疫線が引かれるなど日常生活への影響もかなりのものであったそうである。
      人々をさらに驚かせたのが2006年1月にアフリカのナイジェリアの農場で発生したことである。そして隣接するニジェール、カメルーン、ブルキナファソ、スーダン、コートジボワールへと2-4月にかけて次々と波及した。 設備の揃ったヨーロッパならばまだ封じ込めも可能であろうが、アフリカの最も貧しい国々に定着すると絶望的であると考えられた。食料も十分でないアフリカで先進国同様の家禽の処分を行わざるを得ず、関係者の苦悩も大変なことであっただろう。 先述の Gauthier-clerc et al. (2007) によれば感染地域からナイジェリアへひなの空輸があったことが BirdLife により報告されている (先述の BirdLife が主宰するメーリングリストでも空輸される現場を実際に見たとの目撃レポートが報告されていた)。
      あくまで当時の事情下ではあったが、H5N1 がもしヒトの間でパンデミックとなった場合の対応についてもさまざまな問題が投げかけられた。行動制限や感染者が増えて社会が回らなくなった場合の対応などシミュレーションも行われていたが、新型コロナウイルスに対して活かされただろうか。なお人と話をする時は最低2mの距離をとる、お互いの方を向いて話さない、などの対策も当時から提案されていたものである。 予防方法はワクチン (*8) となるが、当時はまだインフルエンザワクチンは従来の方法で作られていた (これを執筆中の現在も同様)。つまり発育鶏卵にウイルスを接種して培養し、そこから取り出したものを断片化してワクチンの原料とするものであった。 このような製造ラインはパンデミックが起きても簡単に増やせるものではなく、また鳥インフルエンザが流行している最中に必要な鶏卵をそもそも集めることができるのか、ウイルスの毒性が高すぎて発育鶏卵で十分に増殖しない、そもそもウイルスの出現からワクチンを作るまでには非常に時間がかかるなどの議論がなされていた。 当時の日本はある意味で先進的な対策を準備していて、「日本人しか使わないだろう」と言われたタミフルも迅速診断キットも日常的に用いられており、もし当時 H5N1 のヒトの間でのパンデミックが発生すれば世界でも最も準備が進んでいた国とされていた。タミフルも迅速診断キットも次のパンデミックが必ずいつか起きることを前提に戦略的に整備されていたものだったからである。 (それに比べると新型コロナウイルスに対してワクチンも海外から輸入せざるを得なかった日本の存在感のなさは一体何がそれほど変わってしまったのだろうと愚痴も言いたくなる)
      2006 年の春の時期にもまた 2005 年と春と同じような発生があった。 中国青海省ではやはりインドガンを中心とする集団死があった。 2006年6月にはロシア・モンゴルの国境にあるウヴス・ヌール (オブス) 湖で青海湖と同規模の水鳥の集団死が発生したが、情報はほとんど出て来なかった。後にこの発生に関する論文 L'vov (2006) が発表されたことを知って (もちろん一段落してから) 取り寄せてみたがまったく読めなかったため、この論文が文法的に完全に読めるようになろうと一発奮起したのがロシア語独習を本格的に始めたきっかけである (結果的に語学知識が鳥の情報を知るのに想像以上に役に立つことがわかったのは思わぬ副産物となった)。
      この当時にはまた注目の発見もあった。2005年10月に 1918 年の「スペイン風邪」が猛威をふるった時期のイヌイットの凍結状態の遺体からウイルス遺伝子の解読の成功が伝えられ、参考記事、H5N1 との類似性や、起源としての鳥インフルエンザが改めて注目されることとなった。 Kobasa et al. (2007) Aberrant innate immune response in lethal infection of macaques with the 1918 influenza virus はこの遺伝情報をもとにウイルスを再構築することに成功し (*5)、1918 年の「スペイン風邪」が宿主の免疫反応を狂わせて死に至らせるいかに凶悪なウイルスであったかを明らかにした。 同様のことが H5N1 でも起きるのではとの示唆を与える研究であった。 インフルエンザウイルス研究の世界の第一人者である河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) が出版されたのもこの時期で、さらに知りたい方はこの本をお読みいだだくとよい。 H5N1 の発生はいったん下火となり、2009 年にブタ起源 (遺伝子の一部は鳥インフルエンザ由来だった) の新型 H1N1 インフルエンザ [A(H1N1)pdm09] がパンデミックとなったことで H5N1 の話題はしばらく忘れ去られていた。 「スペイン風邪」の末裔 (正確には 1977 年に再登場したもので、保存されていたウイルスが流出したことが原因と言われる) にあたる H1N1 は当時まで流行が続いており、この株はタミフル耐性となっていたため厄介であった (医療現場で使われる迅速判定キットでは亜型まで判別されないため、タミフルを投与しても効かない確率も高かった)。 2009 年の新型 H1N1 インフルエンザは病原性も低く、また多くの人が H1 への基本的な免疫を持っていたため大きな被害は生まなかった。タミフル耐性となっていた従来の H1N1 を駆逐したため、ある意味ではよい面もあった。ただし「新型」ゆえに生活に制約が生まれたり社会的混乱があったことは記憶されておられる方も多いだろう。現在も流行が続いている H1N1 亜型はこの株である。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン] 自分もなぜインドガンが重要な役割を果たしたのだろうと関心を持っていた一人であったが、インドガンの生態を調べているうちに衝撃の情報を発見してしまった。 インドガンはチベットなどの高地に生息するため、英語で探しても繁殖地での情報がそれほどない。仕方なく中国語で検索をしていた (漢字文化圏の者にとっては種名ぐらいならば判別でき、むしろ比較的簡単であった)。 その最中にインドガンが養殖されている記事を見つけてしまったのである (記事さえ見つかれば機械翻訳で読めばよい。英語圏の者には簡単にできない芸当である)。当時国内・世界ともガン類の研究者はいたが、このことは誰一人知らなかったとのことである。 ガン類の研究者も後から考えると飼育は簡単なので確かに商業利用に使われることは考えても不思議でないと述べていた。 商業的な飼育は 2003 年にラサから 100 km ぐらい南の湖で始まり、さらに規模を拡大していたとのこと。野生個体数が減少していたので 2005 年には飼育個体の野外放鳥も行った (青海湖の発生の後ではあるが)。 珍味であり、消費地である都市部との流通ルートも確保されていたとのこと。 詳しくは以下の論文となっているので参照されたい (第2著者で共著論文となっている。筆頭著者が獣医、第3著者は BirdLife の鳥インフルエンザ担当者): Feare et al. (2010) Captive Rearing and Release of Bar-headed Geese (Anser indicus) in China: A Possible HPAI H5N1 Virus Infection Route to Wild Birds
      この発見はメーリングリストに参加していた Nature の担当者の目にもとまり、"Blogger reveals China's migratory goose farms near site of flu outbreak" Nature 2006 May 18; 441(7091):263 という記事としても掲載された。現在はオープンアクセスとなっているようなのでぜひお読みいただきたい。香港在住で中国の渡り鳥での感染論文を Nature に出した Yi Guan も噂は聞いたことがあったが知らなかったとのこと。
      2005-2006年の世界進展の時も話題となっていたのだが、この「青海湖株」には特異な変異がある。それはインフルエンザの遺伝子の一つ PB2 (ポリメラーゼのユニットの一つ) の627番目のアミノ酸がグルタミン酸 (E) からリジン (K) に変異しているもので、専門的な表現では PB2 E627K と表記される。この表記で検索するとすぐわかるが、これは鳥インフルエンザの哺乳類への感染力を高める変異としてよく知られたものである (*7)。 先述の1997年に香港で人に感染を起こした H5N1 ウイルスにもまさしく同じ変異があった。 この変異は鳥の間のみで感染を繰り返して生じるとは考えにくく、最も素直な解釈は途中に哺乳類への感染が起きたもので、家畜/家禽から獲得した可能性が高い。家禽の集団は上空からも見つけやすく、野生個体が容易に混じることができて、飼育/野生インドガン個体中に定着してインドガンへの感染に適応した株を生み出したと考えると納得が行く。 ラサ周辺ではその後も発生が続き、中国の研究者は渡り鳥が帰ってきたためと解釈しているが、家禽状態のインドガン個体群中に定着していた可能性も考えられる。
      BirdLife の組織は基本的に英語圏で漢字文化圏への障壁は高かったようで、日本人ならではの貢献となったかも知れない。BirdLife にも中国の協力者はいたが鳥インフルエンザへの関心は高くなかったようでこのような情報追求はできなかったようである。
      この話は実は深いところでここ数年の問題となっている新型コロナウイルスの起源にも関わっているのではないかと考えている (同じようなことに気づいている人はきっと他にもありそうだが)。 先に紹介の ProMED に 2021年3月15日に紹介されたものだが、 WHO Points To Wildlife Farms In Southern China As Likely Source Of Pandemic というアメリカの公共放送 (NPR) のインタビュー記事がある。残念ながら日本ではこのような情報はほとんど報道されないが、WHO の Peter Daszak が現地視察で何を知ったのか紹介されている。 Peter Daszak の言葉で印象的な発言を紹介しておこう (以下の article とは2020年 Scientific American の記事を指す):
      He praised her and defended her staunchly in the article, which notes that Shi and he are "long-term collaborators". Daszak said: "Shi leads a world-class lab of the highest standards... It's crystal clear that bats, once again, are the natural reservoir.
      "crystal clear" の表現があまりに印象的。(新型コロナウイルスがコウモリからやってきていることは) 水晶のように澄み切った、一点の曇りもない。
      中国では野生動物を捕獲して養殖する政策がこの20年行われてきて、都市部と農村の貧富の差の解消にに奏功していたとのこと。この成果については NPR が 2020年にすでに報道していた。 NPR はアメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネットワークと wikipedia にあり、これまでにも H5N1 は渡り鳥が運んでいるのか (2005-2006年当時の状況)、などの数々の重要な専門家インタビューを紹介してきていた信頼度も高いとされるメディアである。 Peter Daszak 氏は2020年 Scientific American の記事 How China's 'Bat Woman' Hunted Down Viruses from SARS to the New Coronavirus (2020年6月1日) で中国のコウモリのウイルス研究者の Shi Zhengli = 石正麗 (セキセイレイ) をインタビューし、高く評価していた。この記事は日経サイエンス7月号 (2020) に掲載されたとのこと (これは読んでいない)。 Shi Zhengli が新型コロナウイルスの発生報告を聞いた時どこにいて何をしていたのか、この記事に記載されているので (インドガンの話題から少し離れるが) 2020年3月11日にオンライン公開され、4月27日に改訂された当時の記事の部分抄訳を紹介しておく ([kbird:03001] コロナウイルスの起源 2020.5.6より): SARS の発生以来16年コウモリのウイルスを求めて遠征を行ってきたとのこと。初めて新型肺炎のニュースを聞いた時、もっと危険な中国南部ではなく中央部の武漢で発生するとは考えておらず、中央政府が何か間違えたのかと思ったとのこと。本当にコロナウイルスならばうちの研究所が起源の可能性があるかと考えた。
      (コウモリのウイルスを求めての遠征で) horseshoe bat species の3種に SARS に対する抗体を見つけたとのこと。Shitou Cave 洞窟へと絞り込み、5年の研究で多数のコウモリ由来のコロナウイルスを見つけた。多くのものは無害だったが SARS に近いものが 10 ぐらいあった。人間の肺細胞に感染し、ネズミで SARS に似た病気を起こした。 (これらの研究の結果、現在 SARS の起源とされる野性動物にたどり着いた)。
      この洞窟近くの村の住民を調べて3%に SARS 類似コロナウイルスへの抗体を持っていることを明らかにしたが症状はなかった。
      その3年前に鉱山で6人が肺炎になって2人が死んだ事件で調査を依頼され、鉱山で多数のコロナウイルスを見つけた。 コウモリの糞で地獄のようだった。その時の原因は真菌だったが閉鎖していなければコロナウイルスに感染するのは時間の問題だった。
      1年以上前に彼女らのチームは2本の総説論文を出版し、コウモリ由来のコロナウイルスの危険性を訴えていた。
      昨年12月30日武漢へ戻る列車の中で、患者のサンプルを検査する方法を同僚と相談していた。16年間自分が準備してきた最悪の悪夢と戦っているように感じた。PCR でコロナウイルスに共通の配列を確認。他の研究所に送って完全配列を解読。 その間に実験室の過去数年の記録と照合し、実験ミスで漏洩があったのかを調べた。 洞窟のサンプルに該当するものがなかったことがわかって胸をなでおろした。「心の重しがようやく取れました」「数日間一睡もできませんでした」
      2021年の調査 Daszak 氏の率いる WHO チームは中国の研究者とも長年の信頼関係があり、論文発表前の資料なども得られたのであろう。
      鳥インフルエンザに戻って、希少種インドガンを養殖して商用利用とともに野生個体を増やす事業が行われていたわけであるが、まさにこのプロジェクトの一つだったのではないかと考えると時期的にも非常によく符合するように思える。 あくまで想像に過ぎないが、もしインドガンに適応した H5N1 の株が生じていなかったら事態はどうなっていただろう。渡りのカモがやってくる状態でも HPAI H5N1 が出現した 1996年から長い間渡り鳥の間に大きな問題は生じていなかったので、もしかするとインドガンに人為が関わっていなければ今でも中国と東南アジアの風土病程度にとどまっていたのかも知れない。
      なお、現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬していることは明瞭である。日常的に発生するようになった時期からはそうでないかと思われる。特に最初に述べた2020年以降の拡大速度はそれまでにも増して大きく、既知の渡り経路にも沿うものになっている。 青海湖株の発生当初に比べて野鳥への毒性が弱まり、一部の鳥に適応して渡りながら感染を拡大させることができるようになったと考えられている。[野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる] で述べたような自然界では不安定な高病原性状態が次第に低病原性に移行してゆく過程を見ていると考えられる。 ただし現在問題となっている株は変異によって毒性を高めている。一部の宿主には毒性が低く容易に運搬できるものの他の種類には毒性が強いことはあり得る。
      現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬できるようになったとはいえ、これを過去まで遡って適用するのは拡大解釈であろう。2005-2006年の拡大パターンは渡り経路にも時期にも合わない点が多く、現時点の拡大パターンとはかなり異なっている。 現在では今も昔も同じように考えられがちであるが、当時の詳しい情報に基づく分析については前述の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」や Gauthier-clerc et al. (2007) をお読みいただければと思う。当時も指摘されていた点であるが、当時の鳥インフルエンザは同一国内ではすぐに広まるのに国境を越えるのには時間がかかったのは人や物の移動が関係していたことの表れとも言えるだろう。
      一時期「鶏インフルエンザ」の名前が使われたことがあったがこれはもちろん正式用語ではない。 Birder (2004) 18(7): 68-69 で編集部による記事で「野鳥と鳥インフルエンザ公開シンポ」の対談を取材した記事がある。主な感染相手はニワトリで「鳥インフルエンザ」と書くより「鶏インフルエンザ」と書くほうが正確だろう (動物衛生研究所 山口成夫氏の講演に基づく)。 野鳥関係者に対する講演なのでそのような表現を使われたかも知れないが、Birder のこの記事は「鶏インフルエンザ」とすべきところをマスコミが「鳥インフルエンザ」と報道したと誤解を招いた可能性があるように思う。 なお、海外でも「鶏インフルエンザ」に対応する poultry flu を世界進展の際に使われた方があったが、これは屈辱的な意味で用いられたもの。「養鶏場のウイルスがこんな貴重な鳥を殺している!」に相当する怒りの表現であった。日本で少し使われた用例とは意味が違い、当時の日本の鳥学者からもこのような見解はあまり聞かなかった。 2004年のことでまだ理解が進んでおらず、やむを得ない部分もあったかも知れない。
      Uyeki et al. (2024) Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus Infection in a Dairy Farm Worker で2024年3月家畜からヒトへの感染が確認された。PB2 E627K を持っており、哺乳類への感染力を高める変異があるが、HA の方は鳥タイプのもので哺乳類の間で効率的な感染する能力はなさそうだが注意は必要らしい。
      Restori et al. (2024) Risk assessment of a highly pathogenic H5N1 influenza virus from mink ミンクから分離された株はさらなる PB2 T271A の変異を持ち増殖能力を増しているが致死率は下げ、"空気" 感染をより容易にしている。 A/American wigeon/South Carolina/22-000345-001/2021 (アメリカヒドリ) は北米に導入された早期の株でフェレットに対して弱い病原性を示したが、A/Bald eagle/Florida/W22-134-OP/2022 (ハクトウワシ) は北米の LPAI と遺伝子再集合を起こしたものでフェレットに対して強い毒性を示したとのこと。 まだ効率的な空気感染の能力はないものの、2.3.4.4b H5N1 の系統に少し変異が加わるとパンデミック株になる能力を持つ可能性がある。インフルエンザに免疫を持たないフェレットを用いた実験だが、多くの人が H1N1 や H3N2 を経験していて H5N1 にどの程度の交差防御機能があるかも考察されている。
      Meade et al. (2024) Detection of clade 2.3.4.4b highly pathogenic H5N1 influenza virus in New York City ニューヨークの鳥でも1927検体中6例に検出された (カナダガン、猛禽類、ニワトリ)。
      Guan et al. (2024) Cow’s Milk Containing Avian Influenza A(H5N1) Virus - Heat Inactivation and Infectivity in Mice 感染した牛の生乳からマウスに感染する可能性が見つかったとのこと。牛のウイルスは1クレードで牛への導入は1回の現象だったとのこと。
      Carrasco et al. (2024) The mammary glands of cows abundantly display receptors for circulating avian H5 viruses (preprint) 牛やヤギの乳腺に H5 受容体機能 (鳥型のリセプター) がある。
      Eisfield et al. (2024) Pathogenicity and transmissibility of bovine H5N1 influenza virus 現在牛で広まっている HPAI H5N1 は乳腺を含めた全身の細胞で増える (ただし乳腺を好む傾向は HPAI H5N1 の古い株でも同様とのこと)。このウイルスはヒトの上気道の受容体に結合し、効率は悪いがフェレットの間で感染する。哺乳類に感染しやすい特徴を持っている可能性がある。
      備考:
      *1: そもそもヒトのインフルエンザと鳥インフルエンザの何が違うのかは、ヒトに感染しやすいインフルエンザウイルスをヒトのインフルエンザウイルスと呼び、主に鳥に感染するものを鳥インフルエンザウイルスと呼ぶ程度の違いである。 インフルエンザウイルスが宿主の細胞に付着して (後述の HA が関わる) 入り込む際に細胞表面の受容体 (receptor) が重要な役割を果たす。ヒト型のウイルスは α2-6 シアル酸の受容体に、鳥型は α2-3 シアル酸と少し構造が異なっている (よく鍵と鍵穴の関係と言われる)。 ブタは両方の受容体を持っているためどちらのウイルスにも感染することができることはよく知られていて、家禽とブタが一緒に飼育されているような環境でヒトにも感染するウイルスが生じやすいとみられている。 鳥型と言われる受容体はヒトが持っていないわけではなく肺の奥深くにあるとのことである。ヒトの上気道 (鼻や喉) では鳥インフルエンザウイルス感染が成立しにくいが、肺の奥深くまでウイルスが侵入できればその限りではない。2004年ごろベトナムなどで小児の感染が中心であったのは小児は気道が短いため肺の奥深くまでウイルスが届きやすいとの解釈が出ていたが、その後どう解釈されたかまでは調べていない。
      鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染しにくい理由のもうもう一つに体温の違いがある。ウイルス増殖も化学反応なので至適温度がある。ヒトのウイルスでは上気道のような低い温度 (33℃) で増えることができるが鳥のウイルスは鳥の高い体温に最適化されているためヒトの上気道のような低い温度では増えない [河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) では第1章 pp.32-33, p.44 参照。 (*8) で出てくる生ワクチンはこの増殖温度を25℃まで下げた株で、毒性がたまたま弱まったものとのこと]。 実際のところインフルエンザウイルスにとっては鳥もヒトも似たようなものなのである (恒温動物以外にはインフルエンザウイルス、あるいは類縁ウイルスはそもそもほとんど存在しない)。 水鳥のように冬季に群れをなす習性とヒトが集団生活 (特に冬場は多数の人を集めるイベントなども多数行われるなど) をする習性は非常に似ていて、ウイルスが他個体に伝播して数を増やすのに絶好の場を提供している。 水鳥はおしゃべりなどをするわけではないので感染経路は糞口感染でウイルスは腸管で増える。ヒトでは飛沫感染で呼吸器で増殖するのは鳥との行動の違いを考えればわかっていただけるであろう。ウイルスがそのような経路を望んで進化してきたのではなく、鳥でもヒトでもそれぞれの個体の行動がそのような感染経路に適応したウイルスを選抜してきた結果である。 逆に言えばそのような経路を意識して離断すれば感染拡大が防げることは新型コロナでも体験済みの通り。 宿主の行動がウイルスの感染経路を決めているように思える事例として HIV や狂犬病などを思いつくことができる。
      さらに考えると恒温動物の体内は温度もほぼ一定に保たれ栄養も十分にある培養器のようなものであり、放っておくと細菌やウイルスだらけになるだろう。それを防いでいるのが免疫で、鳥類と哺乳類が極めて優れた免疫系を独立に確立した背景にはそれがないと恒温動物として成り立たなかったからであろう。 例えば爬虫類は免疫グロブリンの IgM, IgY (IgG 相当) を持っているが抗体価はあまり高くならなず、抗原特異的抗体ではなく自然免疫の方が役割を果たしているのではとの研究がある。 鳥類は哺乳類同様の高度な獲得免疫システムを持っている。膨大な数の抗原に対応する抗体を作るいわゆる B 細胞というのは鳥類の総排泄孔近くの腸管が膨らんだファブリキウス嚢 bursa Fabricii の bursa の B が由来。鳥類においては B 細胞の成熟に必須の器官。哺乳類では独立した器官ではなく骨髄がファブリキウス嚢と同じ役割を果たしているとされている (哺乳類の話では bone marrow の B が B 細胞の由来と説明しているものもあるが、ちょっとこじつけっぽく感じる)。 膨大な数の抗原に対応する抗体は免疫グロブリンの遺伝子再構成 [V(D)J recombination, (somatic) gene conversion] という現象で作られ、鳥類ではファブリキウス嚢で起きる (これは家禽中心の話で、種類によって違うかも知れない。ハトではファブリキウス嚢除去でニワトリのように免疫不全にはならないとのこと)。 生物学の常識を覆すこの体細胞の遺伝子再構成現象は1976年利根川進らが発見し1987年のノーベル生理学・医学賞を受賞。 鳥類の免疫について説明している wikipedia 英語版 (Avian immune system) によれば羊水から母体免疫を得るが生まれた時点では自身では抗体を生成することができない。そのため生後数週間は病原体に弱い。生後6週間 (ニワトリの数字だろう) はファブリキウス嚢で盛んに遺伝子再構成が行われる。 遺伝子再構成に使われる遺伝子部位は哺乳類では複数の V, D, J の領域がある。鳥類ではこのうち一部の組み合わせがあるのみで理論的には鳥類の方が作ることのできる抗体の種類が少ないが、鳥類では上流の偽遺伝子群が遺伝子再構成に関わって抗体の多様性を高めている。 T 細胞の T は胸腺 thymus 由来で、これは鳥類・哺乳類に共通 (鳥類・哺乳類に共通のものは共通祖先の段階ですでに存在したことを意味する。共通でないものはそれぞれ独立に進化させたと考えればよい)。 卵にも母体由来の大量の抗体が含まれ、「ダチョウ抗体」で知られるように鳥類の免疫能力は高いと言われる。 鳥類は分泌型 IgA 抗体を持っていて粘膜に分泌し感染を防ぐ点は我々と同じ。 生後の発育においてニワトリでは粘膜の IgA は2週間後から急速に上がって3週間で定常値に達する。カモではもっと時間がかかるらしい。 爬虫類までの系統は IgA を持たないものもあり、IgA の役割は鳥類・哺乳類ほど明らかでない。鳥類・哺乳類のように子育てをする (まだ免疫の不十分な幼若な個体に乳汁として、あるいは餌と一緒に IgA を与えるなど) 必要性から一層の進化を遂げたものかも知れない (調べればどこかに書いてありそうな話だが)。 よく調べられている鳥類はニワトリのように早成性のものが多いので、晩成性の種類では免疫の発達に異なる点があるのかも知れない [Jacquin et al. (2012) Prenatal and postnatal parental effects on immunity and growth in 'lactating' pigeons ではハトのピジョンミルクが免疫形成に役立っている可能性を示している。小鳥の人工孵化でそのう抽出液を与える必要があった小西正一氏のエピソード (#ヒガシメンフクロウの備考参照) も関係があるかも知れない。 吐き戻して餌を与える種類 (ハゲワシ類、アマツバメ類を例に挙げている) で抗体を与えている可能性が考えられている文献があるとのこと (Apanius 1998)]。
      鳥類を含む主に瞬膜を持つ動物は (鳥では眼球の後ろ) 眼窩にリンパ組織であるハーダー腺 (Harderian gland) を持ち、頭部で IgA などを産生する主要組織となっている (ハーダー腺は霊長類にはほとんどないそうだが他にもヒトのマイボーム腺同様に目の潤滑物質などを分泌し、哺乳類では毛づくろいのための脂腺やフェロモン分泌器官などとしても働いている)。 この分泌物は目から鼻腔へと流れて上気道の免疫機能の一部を担っている。
      鳥類は哺乳類にある IgD (役割は不明)、IgE を持たない。IgD は系統進化的には古くからあるが、哺乳類では量も少なく遺残物のようなものかも知れない。IgE は哺乳類ではアレルギー反応に関係する。 鳥類にもアレルギー反応は存在し、IgY が IgE 同様の機能を果たしているとのこと。
      *2: 河岡「インフルエンザ危機」では第2章 さまざまなインフルエンザウイルス の後半参照。
      *3: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 p.35 に模式図がある。
      *4: 抗インフルエンザ薬には主に3系統がある。アマンタジン (amantadine) が最初に用いられたもので、A 型インフルエンザウイルスの M2 タンパク質のプロトンチャンネルを阻害し、ウイルスが細胞外に出るのを妨げる (現在では耐性のためほぼ使われていない)。 鳥インフルエンザは A 型なので本来効果があり、1997年にヒト感染した時にまだタミフルが臨床現場で用いられなかったので使われた (耐性は持っていなかった)。同じ系統の薬にリマンタジンがある。 ちなみにこれらの薬はアダマンタンという対称性の高い炭化水素骨格を持ち、炭素骨格がダイアモンドと同じであることからこの名前が付けられた。有機合成化学でも歴史的意義を持つ物質。 中国の鳥インフルエンザが問題となっていた時期、中国ではアマンタジンをニワトリに与えているとの噂が出ていたが真偽のほどは不明 (そんな高価な薬をニワトリに与えないだろうと言われていた)。 また中国では市販の風邪薬成分にアマンタジンを含むものがあって薬のパッケージ写真まで紹介されていたがこちらも真偽のほどは不明。 本文中にあるノイラミニダーゼ阻害薬がタミフルなど4種類。その後開発されたゾフルーザはウイルスの RNA ポリメラーゼの一部をなすキャップ依存性エンドヌクレアーゼに作用してウイルス複製を阻止する。 アビガンも RNA ポリメラーゼ阻害効果のある薬で新型コロナでも話題となったが期待されたほどの効果がなかったことはご存じの通り。現在市場流通していない。
      *5: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線 に基本的な技術の解説がある。インフルエンザウイルスの人工合成 (リバース・ジェネティックス reverse genetics) は著者のグループが1999年に最初に成功 (pp.129-133)。「スペイン風邪」ウイルスのリバース・ジェネティックスによる復元はこの著書の書かれた後に行われた。
      *6: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 新型インフルエンザの足音 pp.22-25 に考察がある。マスコミが「渡り鳥犯人説」を盛んに取り上げていたが、著者の考察はもう少し慎重である。 韓国で2003年に流行していたが当時は詳細が公表されず、事件や被害が報告されたのは2004年2月になってからであったことも記されている。 また食材として大量のニワトリを日本にも輸出していたタイも感染が広まっているにもかかわらず輸出先に知らせず、鳥インフルエンザに感染した子供がいることのリークがメディアにあってようやく2004年1月に公式に認めたことも書かれている。 この著書は2005年8月に書かれたもので、H5N1 HPAI のロシア進展の最中だった。「あとがき」でそのことも、日本ではほとんど話題になっていなかったことも触れられている。当時マスコミに出るウイルス学者は「渡り鳥犯人説」が主流であったが河岡氏は終始慎重な記述を行っていた。
      *7: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線「たった1個のアミノ酸がウイルスの毒性を左右した」(pp.122-126)。
      *8: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 新型インフルエンザから身を守るには に興味深い記述がある。(引用開始) 1962年から94年まで、日本中の小学校でインフルエンザワクチン接種が義務付けられていた。(中略) 学童のインフルエンザワクチン集団接種は、子供たちで増えるインフルエンザウイルスの量を減らすことにより、社会全体におけるインフルエンザウイルスの量を減らしていたわけだ。 こうしたシステムを採用していたのは日本だけで、国際的にも注目されていた。 しかし1994年に予防接種法が改正され、学童への集団接種は中止されてしまった。改正のきっかけになったのは、一部の人たちが「インフルエンザワクチンの集団接種は効いていない」という説を唱えたことだった。この説への対応が正しくなされなかったために、集団接種が任意接種に変更されてしまったのである 。 (中略) そしてその結果はというと、インフルエンザにかかる人が増加し、死亡者も増えてしまったのである。 一方的な解釈で「ワクチンは効かない」とした人の意見を通したために、多くの犠牲者がでてしまった。 ワクチン集団接種中止に関わったすべての関係者の責任は、ひじょうに重い。(中略) 今、インフルエンザ被害を最小に食い止めるためにワクチンが必要不可欠であることに異議を唱える専門家はほとんどいない。 しかし、世界に誇れるシステムであった学童への集団接種は、社会全体のインフルエンザ量を減らすために "子供を利用して" いるという理由から、再開されることはないだろう。(引用終わり)
      アメリカのワクチン事情、生ワクチンのことも記されている。アメリカでは2003年から (日本でも使われている) 不活化ワクチンに加えて年齢制限はあるが生ワクチンも接種可能となったこと、スーパーで簡単に接種を受けられ、相対的に安価で高齢者は無料であったとのこと。著者は一日も早く日本の子供たちが生ワクチンを接種できることを願っていると記している。
      前述のように呼吸器感染症のように外部から病原体が侵入する場合、粘膜の IgA が感染成立を防ぐ役割は大きい。抗原を注射するタイプのワクチンでは IgA 誘導能力は十分高くないのでしばしば感染を防ぐ効果よりも重症化を防ぐ効果が説かれる。新型コロナウイルスの mRNA ワクチンによる実験では IgG, IgA のいずれも誘導されたが IgA の方が早く低下したとのこと。 鼻腔や点眼で投与できるワクチン (上記のようなインフルエンザ生ワクチンや無害なウイルスに遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換えワクチンなど) の方が効果が高いと言われるゆえんである。鳥における鳥インフルエンザワクチンでも点眼、鼻腔で接種できるワクチンの研究が行われているとのこと。 これらの情報は報道記事などを読む時にも役立つかも知れない。
  • ハクガン
    • 学名:Anser caerulescens (アンセル カエルレスケンス) 青みがかったガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:caerulescens (adj) 青みがかった (caeruleus (adj) 青い)
    • 英名:Snow Goose
    • 備考:2亜種あり(IOC)。 日本で記録されるものは基亜種 caerulescens 亜種ハクガン とされる。亜種 atlanticus (大西洋の) オオハクガンは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で検討亜種。絶滅危惧IA類 (CR)。IUCN 3.1 LC種。
      1980年代から 「東アジアにおけるハクガン Anser caerulescens の復元計画」が行われた。以下の資料を参照。 ハクガン復元計画資料館・暫定版 (日本雁を保護する会 JAWGP)、 シジュウカラガン・ハクガンの回復・復元計画の経過と課題 (呉地正行)。
      ロシアのハクガンの繁殖地はウランゲル島が唯一知られているがそれらは米国に渡る。東アジアの渡り経路はほぼ消滅しているのにカムチャツカで群れが見られた カムチャツカのハクガンの報道 (2020)。家族で移動する習性があるのに親鳥がいないのは不思議だとのこと。 上記日本雁を保護する会の情報によれば2019年、2020年とも日本の越冬個体群が多く、繁殖が順調な年は幼鳥率も高いとのこと。繁殖成功率が高い年は、幼鳥だけの群れでさまよって、これまであまり見られなかった地域に出ることがよくあるとのこと [故シロエチコフスキー氏による。澤祐介氏 kbird:05134 (2022.7.15) からの情報による]。 サハリンと千島の記事 (2020) サハリンや千島での目撃例が増えているとある。Andrej Zdorikov が話を説明しており、保護区ができてから個体数が増えて、カムチャツカでは RDB にも記載された。 今年はサハリンや千島でハクガンだけの群れが見られるようになって、大陸の個体群の復活を意味するとある。 国後島で初のハクガンの群れの渡来 (2019)ロシア極北のガンはどこへ飛ぶ の記事 (2018) もあり、過去からの変遷や標識方法、繁殖地 (ヨーロッパ方面も含む) の写真などが出ている。いずれも機械翻訳で問題なく読めるだろう。 ハクガンのロシアでの分布はごく限られているので、我々が想像するようにロシアの人に身近な種類ではないようである。
  • ミカドガン
    • 学名:Anser canagicus (アンセル カナギクス) カナガ島のガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:canagicus アラスカのアリューシャン列島 Canaga 島/Kyktak 島/Kanaga (アリュート語)島 から。アラスカのエスキモーは自身を Kanagiamoot (Kanag の住民) と呼ぶとのこと (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Emperor Goose
    • 備考:単形種。カナガ島はタイプ標本の産地。
  • シジュウカラガン
    • 学名:Branta hutchinsii (ブランタ フチンシイ) ハッチンスの黒いガン
    • 属名:branta 古ノルド語 Brandgas (焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの (#コクガンの備考も参照)
    • 種小名:hutchinsii (属) ハッチンス (Thomas Hutchins 英国の外科医) の (ラテン語化 -iusを属格化)
    • 英名:(Canada Goose), IOC: Cackling Goose
    • 備考:4亜種が認められている(IOC)。 日本で認められる亜種は leucopareia (leukos 白い pareion ほお Gk) 亜種シジュウカラガン と minima (最小の) ヒメシュジュウカラガン、及び亜種不明とされる。 亜種 taverneri (カナダの鳥類学者 Percy Algernon Taverner に由来) アラスカシジュウカラガン (チュウシジュウカラガン) が検討亜種に含まれている。 かつてはカナダガン Branta canadensis 英名 Canada Goose と同種とされ、(外来種を含む) 現在のカナダガンを指してシジュウカラガンと呼ばれていた (またはその逆) ために混乱があった。現在の分類でのカナダガンには7亜種が認められている(IOC)。ガン類の分子系統分類については#ヒシクイの備考参照。Branta canadensisBranta hutchinsii は結構離れている。
      先崎 (2019) Birder 33(11): 46-49 にあるシジュウカラガンとカナダガンの分類を紹介しておく。 出典は Reeber (2015) "Waterfowl of North America, Europe and Asia" とのこと。

      種シジュウカラガン Branta hutchinsii
       亜種シジュウカラガン B. h. leucopareia
       ヒメシュジュウカラガン B. h. minima
       アラスカシジュウカラガン B. h. taverneri (検討亜種)
       (基亜種) B. h. hutchinsii (国内未記録)

      種カナダガン Branta canadensis
       チュウカナダガン B. c. parvipes (検討亜種)
       オオカナダガン B. c. moffitti (外来種)
       亜種カナダガン B. c. canadensis (国内未記録)
       ナイチカナダガン B. c. interior (国内未記録)
       オニカナダガン B. c. maxima (国内未記録)
       クロカナダガン B. c. occidentalis (国内未記録)
       オオクロカナダガン B. c. fulva (国内未記録)

      亜種シジュウカラガンは種 Anser leucopareius Brandt, 1836 として記載されたもの。 シジュウカラガンはかつて千島列島からアリューシャン列島で繁殖していたが 20 世紀初頭、毛皮目的でアカギツネやホッキョクギツネが繁殖地の島々に持ち込まれ激減した。更に渡りの途中や越冬地での狩猟圧も加わって、個体数は急激に減った。1938-1962 年まで観察記録が途絶え、絶滅したと考えられた。 1963 年にアリューシャン列島のバルディール島で偶然再発見され、保護活動が開始された (雁の里親友の会)。日本雁を保護する会と八木山動物公園・米国魚類野生生物局による保護計画が開始され、米国魚類野生生物局から譲渡された個体を八木山動物公園で飼育下繁殖させる試みが進められた (wikipedia 日本語版、呉地正行) が渡りの復元には至らなかった。 その後、日米露3国のプロジェクトとしてロシアのカムチャツカのゲラシモフ夫妻が飼育下繁殖させ、1995 年千島列島エカルマ島での放鳥を開始して現在の東アジアの渡りの復活につながっている。それ以前は亜種 minima ヒメシュジュウカラガンとともに迷鳥であった。 呉地正行・須川恒編「シジュウカラガン物語」(京都通信社 2021) で詳細を読むことができる。ゲラシモフ夫妻による (夫人は亡くなられた) 「ガンとともに 20 年」(ロシア語) に当時ロシアの厳しい状況や飼育の詳細、主にロシア側から見たシジュウカラガン復活プロジェクトなどが記されて公開されている。映像も多数含まれている
      英名の括弧内はカナダガンと分離される前の名前。ロシア語ではコクガン属のガンを kazarka、他を gus' と区別して呼んでいる。
  • コクガン
    • 学名:Branta bernicla (ブランタ ベルニクラ) エボシ貝から生まれた黒いガン
    • 属名:branta 古ノルド語 Brandgas(焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの
    • 種小名:bernicla (合) 伝説、エボシ貝から生まれた (barnacle エボシガイ 英)
    • 英名:Brant Goose
    • 備考:3亜種あり(IOC)。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版以降では亜種名は orientalis (東洋の) から nigricans (黒っぽい) に変更されている。 カオジロガン Branta leucopsis (英名 Barnacle goose)とコクガンは長く区別されていなかった。エボシ貝から生まれた伝説は12世紀まで遡り、John Gerard は貝から生まれるのを目撃したと伝えている。伝説は18世紀まで続いた (The Key to Scientific Names)。
      ガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) (#ヒシクイの備考参照) を参照。 現在どちらも Branta属 (コクガン属) であるが、黒っぽいコクガンの亜種グループとカナダガンのグループはそれなりによく分離した系統で分岐年代もコクガンとそれ以外が670万年前、アオガン Branta ruficollis 英名 Red-breasted Goose (日本鳥類目録改訂第8版で掲載予定) とカナダガンのグループとの分岐年代が 580万年前と見積もられている。 同じコクガン属であってもコクガンとカナダガンとはかなり系統が違っていることは意識しておいてよいだろう。ハワイガン Branta sandvicensis 英名および現地名 Nene (英名別名 Hawaiian goose) はこのうちカナダガンの方のグループで、初期に分化した種類と考えられる。野生での観察がなかなか難しいと言われるが至近で見た経験があるのがちょっとした自慢である (ハワイ島)。
  • コブハクチョウ
    • 学名:Cygnus olor (キュグヌス オロール) 白鳥のオロール
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:olor (m) 白鳥
    • 英名:Mute Swan
    • 備考:kuknos 白鳥 (Gk)。ギリシャ神話で Cycnus の名を持つ少なくとも3人が白鳥に変えられた。単形種。英名は他のハクチョウ類に比べて静かなの意味で、鳴かないわけではない。ヨーロッパや中央アジアに主に分布するがユーラシア東部にも離散した分布域がある。世界の他地域で移入種となっている。 系統的に最も近いのはオーストラリアのコクチョウ Cygnus atratus 英名 Black Swan と南米のクロエリハクチョウ Cygnus melancoryphus 英名 Black-necked Swan。少なくとも前者は世界の他地域にも移入されている。
      コブハクチョウは飛翔時に強い音を出す。これは夜間飛行の際の衝突を防ぐ効果があるとも言われる。 リヒャルト・ワーグナー作曲の「ニーベルングの指環」の第1幕の有名な「ワルキューレ」(Die Walkuere, Valkyries。皆もが聞いたことのある音楽だろう) はコブハクチョウの飛翔時の音に着想を得たとのこと [Peter Young "Swan" Reaktion (2008)]。 英語の swan の語源は遡るとサンスクリット語 svanos で音を意味するとのこと (同上)。
      近年になって絶滅した "swan" と呼ばれる鳥にモーリシャスの Mascarene Swan と呼ばれるものがある。現在はツクシガモに近い仲間と考えられ Alopochen mauritiana Mauritius Sheldgoose と呼ばれる。最後の目撃は1668年モーリシャス島、1670年レユニオン島とされる。外来種や生息環境の破壊が原因とされる。 ニュージーランドにも New Zealand Swan Cygnus sumnerensis が生息しており、こちらは Cygnus属で一時期はコクチョウのニュージーランド亜種と考えられていたが遺物の遺伝情報解析で別種となった [Rawlence et al. (2017) Ancient DNA and morphometric analysis reveal extinction and replacement of New Zealand's unique black swans]。 Alice Klein Mysterious mega-swan once waddled through New Zealand (New Scientist 2017)。 最後の個体群がチャタム島に生息していたが人が住むようになって1650年絶滅とのこと。 コクチョウよりもさらに大型でマオリ名では pouwa と呼ばれていた (wikipedia 英語版)。
      black swan theory ブラック・スワン理論というのは、「ありえなくて起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合、「予測できない」、「非常に強い衝撃を与える」という理論とのことである。 ヨーロッパでは白鳥は白い鳥だけと思われていたが、1697年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたとのこと (wikipedia 日本語版)。チャイコフスキーの「白鳥の湖」では黒鳥のオディールが出てきて、このバレエの見せ場の一つとなっているが、年代を考えるとチャイコフスキーは黒鳥のことは知っていたのだろうか。 コクチョウを黒くする遺伝子がごく最近同定された。Karawita et al. (2023) The swan genome and transcriptome, it is not all black and white。 これによれば SLC45A2 という遺伝子の違いがコクチョウを黒くすることを決めているとのこと。
      [鳥類の頸椎] 鳥類の頸椎が多いことはよく知られていて、11 (下の値は出典によって異なる) から25個と呪文のように覚えている人もあるだろう。最大値の25個はなぜか出典による違いはなく、しかも丁寧に「ハクチョウ(類)」と添えてあることがある (この原稿の執筆中に専門家の文章でタンチョウの頸椎が25個と書いてあるのを見つけてしまった。ハクチョウをタンチョウと書き間違えてしまったのかも知れないが、「首の長い鳥は25個」は案外広まっている誤解なのかも知れない)。 鳥類豆知識の好きな方にとってはこれは格好の題材で、ハクチョウ類を見てこのように説明されている方もあるだろう。実際はどうなのだろうかと調べてみたことがあるが、鳥類の頸椎数をまとめて表にしたような文献はなかなか見当たらず (科や目ぐらいの分類群ぐらいでは載っている本がある)、水鳥については Woolfenden (1961) Postcranial morphology of the waterfowl にまとまっている。 自分が調べた範囲では、ハクチョウ類で頸椎数25個はコクチョウとコブハクチョウの一部 (24-25個とある) だけで、間違いなく25個と言ってよさそうなのはコクチョウのみのようである。つまりに日本で普通に越冬する種類としてみかけるものは25個と言ってはいけない。 コハクチョウは22-23個、オオハクチョウは24個とのことである。それぞれ識別点にもなるぐらいでハクチョウ類(およびカモ類)では首の長さと頸椎数がよく相関していることがわかる。コブハクチョウやコクチョウはたまには野外で、また飼育されているものも多いので見る機会も多いだろう。コクチョウは日本のハクチョウ類に比べて一段と首が長いことがわかる。
      これだけでも普段の観察時に「マニアック知識」として役立ちそうだが、では他の首が長い鳥はどうなっているのか気になる方もあるだろう。別の出典ではフラミンゴは19個、ヘビウ20個などとある。首が長いサギ類 (Ardeae) は19-20個となっている (出典により多少異なり、後に出てくる Boehmer et al. の部分も参照)。ハクチョウ類は数で勝負、フラミンゴは骨を長くする戦略になっていることが読み取れる (なぜそうなっているのかは知らないが)。 ただし鳥類の頸椎数は「ヒトの頸椎は7個」のように単純に割り切れない部分もある。鳥類の頸椎下部には頸肋(骨) (cervical rib) が存在し、どこまでが頸椎でどこからが胸椎とするかは資料によって異なる。ここで用いた数字は肋骨が前方で完全に癒合するところからを胸椎とする数え方によっているが、頸肋骨のある脊椎を胸椎に数える著者もある。 この場合数が約2個異なる。13(2)個のような書き方は括弧内が頸肋骨のある脊椎の数を意味する。前者の数え方ではこの場合は 15個になる。「フクロウの首の骨はいくつ?」と聞かれても明瞭に答えにくいのはこういう事情もある (なおフクロウの首の骨が鳥類の中で多いわけではない。後の Boehmer et al. や #フクロウの備考参照)。 タンチョウとナベヅルの研究例があるので参考までに Hiraga et al. (2014) Vertebral Formula in Red-Crowned Crane (Grus japonensis) and Hooded Crane (Grus monacha)。 タンチョウ、ナベヅルともに17個が基本のようだが18個の個体もあるとのこと (この文献に他の種類の文献が出ているので必要な方は調べられるかも)。この数字は記述からはおそらく頸肋骨のある骨の数も含めていると想われるが、引用されている文献は必ずしもそうでなさそうである。
      鳥類の頸椎は頸椎数はまだともかく、長さの測定値があまりないようである。首の長さは生態や重心などを決める因子として大きく関係があるはずで、データベースがあればよいのだがどうもなさそうである (研究者も分析因子として使えないので困っている模様。 後の Boehmer et al. を参照して脚の長さで代用されることもあるがこれはちょっと...と感じる)。これは四肢の骨のような測定が難しいことと、真面目に調べようとすると多数の頸椎を測定して足し合わせる (化石生物だとこのようにするしかないが、軟骨や、哺乳類だと椎間板の厚みをどう評価するかなど一筋縄では行かないようである) ことが必要になって研究者があまり取り組みたくないテーマだろうことが背景にあることは想像できる。 3次元 CT を使えば多少は問題が緩和されることになるかも知れないが、調べられているのは少数に限られるようである。
      近年個々の頸椎を真面目に測定して足し合わせた論文 (上記のように軟骨が含まれないので生体ではもう少し長くなるはず) がある。Boehmer et al. (2019) Correlated evolution of neck length and leg length in birds で、詳しくはご覧いただきたい。 この文献は頸肋骨のある骨は数えていないので個数は上記のような数字より約2個少なくなっている (そのため最大23個になっている)。103種を調べた結果では鳥類の頸椎数は10-23個 (頸肋骨のある骨も数えると多分2増える) で、両端はごく少数で11-19個が一般的な範囲のようである (この文献はオウム類を多数調べているので数の少ない種類が多く、頻度分布はあまり参考にならない)。 鳥類の頸椎は進化にも関連して近年興味を持たれているテーマのようで、Marek and Felice (2023) The neck as a keystone structure in avian macroevolution and mosaicism の3次元 CT を使った論文が出ている (調べられた種類はまだ少ないようだが)。#クロハゲワシの備考も参照。 鳥類の環境への適応として頭部や翼の形状が重要なのは簡単にわかるが、それだけでは不十分で、頭部、首、翼を一体として捉える必要があるとのことである。頸椎の形態の進化速度も議論されていて、大きなグループの分岐点では進化も早いことが示されている。
      鳥類の頸椎数はこのように種類によって異なり、哺乳類では一部の例外を除いて7個であることもよく知られている。問題はむしろ哺乳類の頸椎がなぜそれほど厳格に7個に定まっているのかと言うこともできるだろう。これは哺乳類には横隔膜があるため、という説がある Buchholtz et al. (2012) Fixed cervical count and the origin of the mammalian diaphragm。 もしこの説が正しいならば、鳥類は優れた気嚢 (きのう、air sacs) システムがあるため横隔膜が必要ないところにまで由来を遡ることができることになる。 哺乳類は鳥類に比べて「呼吸器システムの初期設計を誤った」とも言われることがある通りで、インドガンのような高所活動はとてもできない (#インドガンの備考にあるようにそれ以外にも低酸素環境に対応できる哺乳類と異なる生理機構がある)。 鳥類の呼吸器システムの基本設計はさらに頸椎数の自由度を通じて多様な環境に適応できる一要因ともなっているのかも知れない。

      広い分類群において長い首は何のために進化したかを統一的に説明しようとしたレビュー: Wilkinson and Ruxton (2012) Understanding selection for long necks in different taxa 鳥類現世種ではおおむね採食行動に関係しているとされるが、水鳥やダチョウでは高さを増すためにまず足の長さを増したがそれに伴って首も長くなったとの解釈。魚食の鳥では逃げるのが速い獲物を捉えるための加速度を得る機構として進化したと考えられる (#カワウの備考 [ウの視力] とも整合する)。ハクチョウ類やハゲワシ類では食物に届くのに役立っている。 ガン類はこれでは説明できず遠くを監視する役割の方が大きそうだが、低い位置を採食する行動においてエネルギー的に有利かも知れない (草食恐竜などになされる説明と同様)。 首の長いハトの品種とキリンに関係して #ハチクマの備考 [フィリピンのハチクマの不思議] でも少し取り上げている (一度まとめたため記述が少し分散している。ハクチョウ類やガン類の話が含まれるためこちらに一部分離した)。 キリンの首では現在も性選択の論争が続いている。かつては恐竜でも性選択説も提唱されていたらしいがさすがに反論が多い模様。
      [鳥類の形態データベース] なお、近年の鳥類の形態データベースとして AVONET があり 11009種、90020個体の測定値が含まれているとのこと [Toblas et al. (2022) AVONET: morphological, ecological and geographical data for all birds]。これには頸椎の情報は含まれていない。 このデータベースは R のパッケージとして公開されており、生物学者の基本言語が圧倒的に R であることも感じさせる。このデータをダウンロードし、少し R で作図をすれば自分の興味ある分類群の生態と形態 (例えば脚の長さ)との関係などを手軽にプロットして楽しむことができる (#ハイタカの備考参照)。興味ある方は試していただきたい。
  • ナキハクチョウ
    • 学名:Cygnus buccinator (キュグヌス ブッキナトール) ラッパ手の白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:buccinator (m) 頬筋、bucinator (m) ラッパ手
    • 英名:Trumpeter Swan
    • 備考:単形種
  • コハクチョウ
    • 学名:Cygnus columbianus (キュグヌス コルムビアヌス) コロンビア川の白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:columbianus (adj) コロンビア川の (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(Whistling Swan これは通常アメリカコハクチョウを指す英名)。コハクチョウは Tundra Swan または Bewick's Swan が適切と思われる。IOC: Tundra Swan
    • 備考:2亜種とされる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では2亜種が記載されていた。 jankowskyi (jankowskii の綴りも使われる) ポーランドからシベリアに流刑され刑期を終えて居住した博物学者 Michal Jankowski に由来。Michal の最後の l は斜め棒が入るが、ポーランド語では英語の "w" に相当する発音になる。ポーランド語の w は [v] の発音になる。 ロシア綴りでは Mikhail Ivanovich Yankovskij となるが姓の部分の発音は同じ。 Jankowski の名前は極東地域の鳥類や他の分類群にもしばしば現れるので知っておくとよい。「ヤンコフスキー家の人々」(遠藤公男 講談社 2007) がある。コハクチョウと columbianus アメリカコハクチョウであるが、パブリックコメントにて前者は bewickii (英国木版画師 Thomas Bewick に由来) であるべきと指摘された。 多くのリストでは jankowskyibewickii のシノニムとしており、これが採用される見通し。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でそうなっている。C. c. jankowskii を用いて、他亜種との遺伝的違いを調べている論文はある [Wang et al. (2014) Complete mitochondrial genome of Tundra swan Cygnus columbianus jankowskii (Anseriformes: Anatidae)] が、亜種の妥当性を議論したものではなく、種小名の選択も適切でないように思える。 C. columbianusC. bewickii を別種とするリストもある (例えば Avibase)。Avibase では jankowskyiC. bewickii の亜種 C. b. jankowskyi としている。 2種を認め、亜種 jankowskyi を認める場合は、Dement'ev and Gladkov (1952) に示されているようにこの扱いが適切と思われる。論文にはいずれの表記も現れる。 2種を他の北極のハクチョウ類とともに亜属 Olor として扱う考えもある。
      Kbird にて須川恒氏より尾崎清明さんからの情報としてロシアのガンカモ類渡りのアトラス (英文) が紹介された: Kharitonov et al. (2024) Migration Atlas of European species of palearctic Anatidae with the population outline (from the data of the Bird Ringing Centre of Russia)
      Peter Young "Swan" Reaktion (2008) ではハクチョウ飛来地で3月に旅立ち前の催しが開催されるとして下田公園・間木堤 (八戸北丘陵下田公園) が紹介されているが東京の南西と書いてあって何か誤解されているようである。実際は青森県。
  • オオハクチョウ
    • 学名:Cygnus cygnus (キュグヌス キュグヌス) 白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:cygnus (トートニム)
    • 英名:Whooper Swan
    • 備考:単形種
  • ツクシガモ
    • 学名:Tadorna tadorna (タドルナ タドルナ) ツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorneツクシガモ 仏)
    • 種小名:tadorna (トートニム)
    • 英名:Common Shelduck
    • 備考:tadorne ツクシガモ (仏) の語源はケルト語で白黒の水鳥、英語の shelduck < sheld (染め分けた) duck とほぼ同意義。単形種。
  • アカツクシガモ
    • 学名:Tadorna ferruginea (タドルナ フェッルギネア) 鉄錆色のツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorneツクシガモ 仏)
    • 種小名:ferruginea (adj) 鉄錆色の (ferrugineus)
    • 英名:Ruddy Shelduck
    • 備考:主に中央アジアを中心に繁殖する種。アジアのものは冬はアジア南部に渡る。アフリカの一部に留鳥の孤立個体群が存在。単形種。
  • カンムリツクシガモ
    • 学名:Tadorna cristata (タドルナ クリスタータ) 冠のあるツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorneツクシガモ 仏)
    • 種小名:cristata (adj) 冠がある (crista (f) 冠 -tus (接尾辞) 〜備わっている)
    • 英名:Crested Shelduck
    • 備考:過去にも目撃回数が少ないが、かつては韓国から日本に輸出され、複数の写生画に登場する [柿澤・菅原 (1989) 江戸時代の写生図にみられる絶滅鳥カンムリツクシガモ Tadorna cristata (Kuroda)] などもっと広範に生息していたと考えられる。 1916年に韓国で撃たれた以来記録がなく一度は絶滅が宣言された。1943年に韓国中部で目撃事例があり、1964年にウラジオストク近郊のリムスキー-コルサコフ列島でシノリガモの小さな群れの中にメス2羽、オス1羽が目撃された。 1971年に北朝鮮の北岸、1985年にロシア東部で2羽の目撃例があるが、1971年の記録は信頼性が低いとされる。その後も散発的な可能性のある記録があるが、いずれも未確認。もし種が生存していても個体数は50羽以下であろうとの見積もりがある (wikipedia 英語版)。IUCN 3.1でCR種、絶滅した可能性があるとされる。環境省レッドリストでは絶滅種。単形種。
      Rutt et al. (2024) Global gaps in citizen-science data reveal the world's "lost" birds 過去 10年以上記録のない種類のリスト。144種が該当していたが調査開始で 126種まで減少。論文はオープンアクセスではないが、 Search for Lost Birds から一覧を見ることができる。日本に関係の深い種類ではカンムリツクシガモ (及び日本の記録に疑問が残るがシロハラチュウシャクシギ) が含まれている。
  • オシドリ
    • 学名:Aix galericulata (アイクス ガレリクラータ) 小さな帽子をかぶった水鳥
    • 属名:aix aigos (Gk) アリストテレスの記載した足に大きな水かきのある鳥の一種 (小型ガンか大型カモと考えられている)
    • 種小名:galericulata (adj) 小さな帽子をかぶった (galericulum (n) 小さな帽子 -tus (接尾辞) 〜備わっている)
    • 英名:Mandarin Duck
    • 備考:単形種。ヨーロッパ、アメリカ等に持ち込まれ、移入種となっている。ヨーロッパでは多数の個体が広く分布。 例えばベルギーでの評価 Aix galericulata - Mandarin duck。拡大中だが生態系へのインパクトがある程度高いグループには含まれていない。
      佐藤 (2020) Birder 34(12): 35 がドイツでつがい相手が生きている限りつがいが解消された証拠が今のところない研究を紹介している。 Maedlow (2018) Phenology of the Mandarin Duck Aix galericulata in the Potsdam area: population trends, non-breeding occurrence, moult, and mating がその論文 (英文要約あり)。 最大9つがいを標識して5年間観察した。7-8月はつがい関係が完全に途絶える。これまでカモ類は全般につがい関係が永続しない、Cramp and Simmmons (1977) はオシドリではそうではないなどさまざまに議論されてきたが一応の結論が出た模様。
  • ナンキンオシ
    • 学名:Nettapus coromandelianus (ネッタプス コロマンデリアヌス) インドのコロマンデル地方のカモの足の鳥
    • 属名:nettapus (合) カモの足 (ntak カモ pous 足 Gk)
    • 種小名:coromandelianus (adj) インドのコロマンデル地方の (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Cotton Pygmy Goose
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。Nettapus属はナンキンオシ属。 英名で Pygmy Goose と付くように小型のガンの扱いであった。アフリカマメガン Nettapus auritus 英名 African Pygmy Goose が足と体はカモ、嘴と首はガンに見えるとのことでこの属名が付けられた (The Key to Scientific Names)。 2亜種が認められている(IOC)。日本で記録された亜種は基亜種 coromandelianus とされる。
  • オカヨシガモ
    • 学名:Anas strepera (アナス ストゥレペラ) 騒々しいカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:strepera (adj) 騒々しい (strepo -ere (intr) 大きな音をたてる -a 女性形の形容詞にする)
    • 英名:Gadwall
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属 [Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類を意味する (ローマ伝説で Marica は川または水の精)]、に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Mareca属はヨシガモ属。 Gonzalez et al. (2009) Phylogenetic relationships based on two mitochondrial genes and hybridization patterns in Anatidae の分子系統研究で旧 Anas属が単系統でないことが示され、いくつかの属に分離された。
      全ゲノムを用いた解析によってこの取り扱いが適切でない可能性が示唆されている: Zhnag et al. (2024) Whole-genome sequences restore the original classification of dabbling ducks (genus Anas)。 伝統的な Anas属は単系統であり、必ずしも分割する必要はないとの見方。ハシビロガモやトモエガモも含めて 47 種が Anas属でよいのではとの見解。 カモ類は雑種が多いため遺伝子移入 (introgression) も多く、用いる遺伝部位によって異なる系統樹形態が可能であるとのこと。これを考慮すると複数の属に分ける必要はないとの考えのよう。 もともとは "北京ダック" などの家禽の起源を探る研究だった (#カルガモの備考参照) が範囲を広げるとカモ類分類まで再考した方がよい結論となった。Gonzalez et al. (2009) の根拠は否定される形となり、他の分類群でも議論されている、単系統ならば多種を含む属でもよいか、あるいは何らかの特徴で分割した方がよいかの程度問題となりそう。
      北半球中緯度に広く分布。2亜種あり、他の亜種はキリバスの Teraina 環礁に生息していた couesi (アメリカの軍医 Elliott Ladd Coues 由来)があったが絶滅した。英名の由来は不明だが、1666年にはすでに使われていた (wikipedia 英語版)。
  • ヨシガモ
    • 学名:Anas falcata (アナス ファルカータ) 鎌形の羽のあるカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:falcata (adj) 鎌形の (falcatus) 三列風切の鎌形の羽から
    • 英名:Falcated Duck
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。
  • ヒドリガモ
    • 学名:Anas penelope (アナス ペーネロペー) ペーネロペーを救ったカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:penelope (f) penelopis カモの一種 (Gk)
    • 英名:Eurasian Wigeon
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。 種小名の由来である penelops, penelopos (Gk) はギリシャ神話で両親がペーネロペーを海に投げ込んだ時に救って食べ物を与えた紫の縞のあるカモとされる Penelope < pene 編み紐、織物 opos 外見 でユリシーズの妻 (Gk) (The Key to Scientific Names, wikipedia 英語版)。 英名の Eurasian はアメリカヒドリの英名に対応させるため。Wigeon だけでもヒドリガモを指して使われる。単形種。 英名は16世紀初めにはすでに使われていたが、中世フランス語 vigeon 由来とされる。これは古フランス語 vignier (鼻を鳴らす、叫ぶ) -on (名詞化) とされる (Wiktionaryより)。
  • アメリカヒドリ
    • 学名:Anas americana (アナス アメリカーナ) アメリカのカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:American Wigeon
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。 ユーラシア北東端でも繁殖しているとのことである。参考記録 Beshkarev (1999初出、2018再掲) The American wigeon Anas americana in the upper reaches of the Pechora (p.4263)。 クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): p.27 に北米からシベリアにアメリカヒドリが進出しているとの記載がある。 Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) には繁殖種としての記載は特になく、迷鳥の扱いになっている。
  • マガモ
    • 学名:Anas platyrhynchos (アナス プラテュリュンコス) 幅広い嘴のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:platyrhynchos (合) 幅広い嘴の (platos 幅 rynchos 鼻口部 Gk)
    • 英名:Mallard
    • 備考:北半球に広く分布。2亜種が知られ(IOC)、日本の亜種は基亜種 platyrhynchos とされる。もう1亜種はグリーンランドの大型だが嘴は小さく色の淡い conboschas とされるがこの亜種を認めないこともある。英語の由来は古フランス語でオスの野ガモを表す malard, malart, mallart から (Wiktionaryより)。カルガモとの遺伝的関係については#カルガモの備考を参照。
      現在マガモとされるものが Linnaeus (1758) に2回登場する。#オオタカの備考も参照。 Anas platyrhynchosAnas boschas 後者に domestica が含まれているので、アヒルを表す学名として使われていたこともあったがシノニムとみなされ、先取権のある Anas platyrhynchos の方が使われるようになった。AOU も 2nd ed. (incl. 13th suppl.) まで Anas boschas を用いていた。 Donegan (2023) Towards a more rational and stable nomenclature for Mallard Anas platyrhynchos, Greylag Goose Anser anser and their domesticates, including various priority issues, designation of lectotypes, and a First Reviser act がこの問題を整理している。Linnaeus は野鳥を意図して Anas platyrhynchos を使っていた。Anas boschas には家禽と野鳥の両方が含まれていた。 ハイイロガンの学名も同様に扱われている。ガン・カモは家禽で多様な学名が使われており歴史的に複雑だったよう。
      川口 (2016) Birder 29(12): 48-49 でマガモの巻き羽が上尾筒か尾羽かを議論している。結論は後者とのこと。「生物進化とハンディキャップ原理: 性選択と利他行動の謎を解く」(Amotz Zahavi and Avishag Zahavi "The handicap principle: a missing piece of Darwin's puzzle" 1997 原著、アモツ・ザハヴィ、アヴィシャグ・ザハヴィ著; 大貫昌子訳 白揚社 2001) でザハヴィがクジャクの飾り羽を尾羽としている点をとりあげ、名のある鳥類学者でも、こんなものだ! と指摘している。 これは訳の問題ではないかと想像して調べてみると peacock's tail の表現は英語ではあまりに普通に使われ、peacock's tail-feathers の表現は英語的には特に間違いがあるわけではない。 クジャクの飾り羽を指す用語として "tail" または "train" が用いられるとのこと (wikipedia 英語版より)。鳥類学的に言えば tail covert とか補足してあると曖昧さがなかったのだろうが、あまりにも専門用語なので避けたのでは? 訳者もファインマンなどの物理の訳書を多く手がけており (E. O. ウィルソンの「生命の多様性」もこの方の訳)、鳥類学まではさすがに専門でなく訳者が注釈で補う必要も感じなかったのではと想像する。 rectrices とか専門用語で限定して書いてあるわけではないようなので、偉い学者が間違えているかどうかまでは判断できない気がする。
      [カモ類の気管球 (tracheal bulla)] 川口 (2018) Birder 32(1): 52-53 で、カモ類の性的二形に関係してオス・メスで声が違うことが紹介されている。多くのカモのオスには気管に特別な構造 (tracheal bulla 気管球, syringeal bulla などの名称がある) がある。 解剖学的には違いは明らかでもそれがどのように音声に影響を与えるかは、筋肉をどう制御するかの他の問題もあり簡単には結論できるものでもなさそうである。共鳴についても同様で音響学的シミュレーションをやってもわからないパラメータが多くてそう簡単には物が言えない。スズメ目でも同様。 オープンアクセスの研究を少し紹介しておく: Warner (1971) The structural basis of the organ of voice in the genera Anas and Aythya (Aves) Anas属ではおそらく共鳴に関与し、構造的にはオスの方が高いと想像される。Aythya属では (基音とは) 別の音を作る役割を持っているのではとのこと。 Miller et al. (2007) Allometry, bilateral asymmetry and sexual differences in the vocal tract of common eiders Somateria mollissima and king eiders S. spectabilis ケワタガモ類で同種内の tracheal bulla の大きさには差が少なく、体サイズが大きいものでもそれほど大きくなかった。tracheal bulla のサイズを一定に保つ選択が働いていると考えられる。
      川口氏の疑問は雌雄同色のカルガモでオス・メスで声がどのように違うかだが、マガモの声に似たもので雌雄で声が違うとの情報はあるがこの時点では詳しくはよくわからない模様。xeno-canto ではマガモのメスの声は明瞭に識別できることが周知事実となっていて (聞くだけでわかる) 多くの記録がある。 カルガモでは性別を入れている報告はほとんどなく (そもそも記録数も少ないが) 野外での音声による識別方法は確立されていないのだろう。マガモの雌雄と同様と考えて分類するだけでも意義がありそうに思えるがどうだろうか。
      [カモのひなはなぜ親鳥を追う?] カモのひなはなぜ親鳥を追うか? - と問われれば即座に「刷り込み」(imprinting) の回答が返ってくるだろう。 物事はそう単純でないことが示されているので紹介しておく。出典は #ミサゴの備考 [feather taxis・頭かき] で紹介の「本能はどこまで本能か: ヒトと動物の行動の起源」(マーク・S・ブランバーグ著; 塩原通緒訳 早川書房 2006) pp. 139-148。
      Gottlieb は孵化したばかりのひながそれぞれ自分の種の母親の呼び声を、母親と接触する前から聞き分ける能力を持つことを示し、Lorenz の言う刷り込みは呼び声に引きつけられる状況で副次的に生じるものとの解釈を1971年の研究会で示したとのこと。 その場に同席していた Lorenz は生得的 (本能的) なものと環境から入る情報 (刷り込み) の2つがあって、Gottlieb の発表は生得的なものの重要性を示したと聴衆に語ったという。大御所の解説で生得的なもの刷り込みの二分法、そして生得的な本能がいかに重要であるかが聴衆や科学界に刷り込まれたというわけである。 Gottlieb はそもそも Lorenz の考えに懐疑的であって実験を始めたものだったが、さらにマガモとアメリカオシドリを用いて実験を進め、
      ・親の声を聞かせないで育てても同種の声への好みは変わらず
      声の好みは本能だと信じ込んでいると、この実験結果でもう満足して終了にしてしまうだろう。Gottlieb の偉いところはここでまだ疑って実験を続けたことである。親の声を聞かなくても一緒に育てた卵の孵化の少し前から他の卵から聞こえる鳴き声を聞いている可能性に気づいた。
      ・卵の中で他の卵からの声を聞くことで選り好みが強まる
      ・他の卵からも含めて音声を完全に隔離する (自分の声も出せないように操作してある) と母鳥とニワトリの声を区別できない
      ・しかし自身の声を流して聞かせると好みが誘発された
      との驚くべき実験結果を出した。さらには
      ・音声隔離実験で他種の卵から聞こえる声を聞かせると他種を好む実験にも成功
      また音声を離断されて育つと知覚の発達がほとんど阻害されているように見えたとのこと。卵の中の声と親鳥の声は一見まったく似ていないので、よほど注意深い人でなければ関連性に気づかなかったことだろうとのこと。卵の中の声と親鳥の声の共通成分を抜き出して人工音声による実験を行い、意義がようやく判明したとのこと。 自然条件ではこれらの状況は起きないので親鳥の声に反応する結果、視覚刺激による刷り込みが起きる、という次第。Lorenz の古典的実験は相当割り引いて考えた方がよいらしい。 托卵鳥の音声認識 (#カッコウの備考 [托卵鳥の同種認識]) も併せて読まれたい。
      Gottlieb (1991) Experiential Canalization of Behavioral Development: Results に実験結果や主に自身の先行研究も紹介されている。 ここで使われている canalization は心理学用語で Conrad Hal Waddington (1942) が最初に用いたものとのこと。canal は水路のような意味で、水路づけ (運河化) とも訳される。 かつてベストセラーだった「頭の体操」(多湖輝 光文社 1966-?) でも用いられていたのでご存じの方もあるだろう。 この論文では卵から発せられる声を vocalizations in embryo と記述してあり、特別の用語はない模様。 他に Gottlieb (1992) Individual development and evolution: The genesis of novel behavior、 Gottlieb (1997) Synthesizing naturenurture: Prenatal roots of instinctive behavior の書籍が「本能はどこまで本能か」で紹介されている。
      日本でも使われる「胎教」の科学的根拠はもしかしてこれらの研究か、とも思ったのだが簡単に調べても見つけられなかった。古代中国ですでにあったとのこと。
      「本能はどこまで本能か」には他にも面白い話があるので紹介しておく (pp. 235-236)。 Wynn (1992) Addition and subtraction by human infants (Nature 論文)、 Wynn (1998) Psychological foundations of number: numerical competence in human infants で、鳥類や哺乳類のさまざまな種に数に対する識別能力を持っている。鳥類と哺乳類が分岐する前のどこかで生じたものかも知れないし、いくつかの分岐した種の中で別々に同じように進化したのかも知れないと述べているとのこと。 動物に数の概念があるとすればそういう議論にもなるだろうが、そもそも人間の幼児は数を認識しているのかどうかの問題はあまり明瞭でない。 Clearfield and Mix (1999) Number Versus Contour Length in Infants' Discrimination of Small Visual Sets がこの問題に挑戦し、数のような抽象的なものよりも (輪郭の長さのような) 基本的な知覚に訴える刺激をもとにしている結果を得たとのこと。数以外にも認知の手がかりがあるが十分実験されていない。 この考えに対する新しい反論論文 [例えば Xu et al. (2004) Number sense in human infants] もあるようでこの問題はまだ決着していないようだが、Nature 論文で世間に広まった情報を修正するのは容易なことではなく、学説としてはあまり知名度がないとのこと。Gottlieb がカモの実験で示したように、精緻な実験を行えば実は幼児も動物も数の概念を認識していない結果が出る可能性もあるのかも知れない。 ヒトでは大きな問題なので多くの研究が行われているが、鳥が数を数えられるかどうかはそこまで踏み込んだ議論にはなっていない模様。しかしこのような落とし穴があり得ることも考えておいてよいかも知れない。他の動物でも数を認識したとの研究が報道されることがあるがヒトの幼児ほどの厳密な実験が行えるとは思えず、少し割り引いて見た方がよいのだろう。 "Number sense in animals" wikipedia 英語版では霊長類での議論は多少出ている。approximate number system というものがあるそうで、1 と 2、2 と 4、4 と 8 のような Weber則 (#オオルリの備考 [オオルリはなぜ青い] で登場) に従う区別がなされるとのこと。 つまり比は判断できる (対数の引き算になる) が、数そのものの引き算はできていない、ということになる。 数を理解できると言われるカラスやオウムの話はもうちょっと割り引いて捉えた方がよさそう。
      進化とも関連しそうな面白い話が出ている。 Trut (1999) Early Canid Domestication: The Farm-Fox Experiment 旧ソ連時代のノボシビルスクで Dmitry Belyaev が動物の家畜化メカニズムを研究するためにアカギツネ Vulpes vulpes の色彩型であるギンギツネ (silver fox) をある特徴に従って継代選抜した (1959年開始) 結果短期間で家畜らしい他の特徴が同時に選抜されたという [Belyaev, D. K. (1969). Domestication of animals. Science 5: 47-52]。 Belyaev が実験を始めた時代背景も上記 Trut (1999) 論文を読むと理解しやすい (ソビエト時代、スターリンの支持の下のルイセンコ遺伝学から解き放たれた時代だったとのこと)。 Trut (1999) によれば Belyaev の死後もこの時点で40年も研究が引き継がれ、野生型にない特性なども現れたとのこと。当時のロシアの経済危機で実験の継続も危機的状況となり、実際に昨年は職員に給与すら支払えなかったとのこと。ペットとして売って費用をまかなっていたがそれも途絶えつつある。 ロシアの研究費制度も変わってこのような継続的研究が資金を獲得することが一層難しくなった。
      「本能はどこまで本能か」(pp. 296-300) ではこれは家畜化プロセスそのものを反映していないかも知れないが、結果的に発達速度の遅いものを選抜したことになっていると解釈している。 いわゆるネオテニー (幼形成熟) の形質を選抜したことになるのか。ヒトは自己家畜化した動物など使われることがあるがここではそちらには深入りしないでおく。 こんなに短期間に幼形成熟が起きるならば、島で飛ぶ必要のなくなった鳥が簡単に飛翔力を失っても不思議でないと思う次第だが実際にはそれほど簡単ではないのだろう。 なお鳥が幼形成熟で飛翔力を失うアイデアは古くからある。Condon (1957) Neoteny and the Evolution of the Ratites 参照。 新しい研究ではいろいろなプロセスが考えられていて、幼形成熟もその一つ Faux and Field (2017) Distinct developmental pathways underlie independent losses of flight in ratites。 この研究ではヒクイドリに対して可能性があるとしている。ガラパゴスコバネウと唯一の飛べないスズメ目の絶滅種スチーフンイワサザイ Traversia lyalli Stephens Island Wren については引用文献参照。 ゲノムレベルの研究では Sackton et al. (2019) Convergent regulatory evolution and loss of flight in paleognathous birds 古口蓋類 (古顎類) Palaeognathae (ダチョウ目など) で複数回の飛べない鳥への進化があった。これらは収斂進化と言え、ポリジーンかつタンパク質をコードする部位よりも調節部位 (ネットワーク) がかかわっていると考えられるとのこと。幼形成熟というよりはむしろ必要なくなったものに投資しなくなったと見るべきであろうか。
      Kukekova et al. (2018) Red fox genome assembly identifies genomic regions associated with tame and aggressive behaviours がゲノム解析をした結果、SorCS1 遺伝子がこの Belyaev のキツネに関与していることが明らかにされた。 従順か攻撃的かの遺伝子特定か、ペットのキツネで (ナショナル ジオグラフィック) で日本語解説が読める。
      もっとも Belyaev が用いたものは野生捕獲のギンギツネではなく、カナダで少なくとも1880年代から飼育されていたものであったが [Lord et al. (2019) The History of Farm Foxes Undermines the Animal Domestication Syndrome]、 Belyaev と共同研究者も最初はそれほど古くから家畜化されていたものとは気づいていなかった可能性がある。論文でも曖昧な表記だったため野生個体との誤解が広まっていたとのこと。広く使われる "家畜化" とはあまりにも単純化した見方ではないか。"家畜化症候群" はそもそも存在するのか、意味も問い直す必要があるとのこと。 「野鳥」2020年4月号 (No. 843) pp. 6-13 に岡ノ谷氏と上田氏の対談があり、その中でも岡ノ谷氏の仮説に関連して扱われている。かなり単純化して扱われているのでこの記事だけを読まれた方は多少注意が必要かも知れない。
      関連する遺伝子候補は見つかったものの、おそらく飛べない鳥への進化同様にポリジーンかつ調節部位がかかわってそうなので、タンパク質をコードする遺伝子だけを見ているとまだ尻尾を少し掴んだぐらいの段階だろうか。
      [レイサンマガモ] レイサンマガモ Anas laysanensis Laysan Duck はマガモに近縁のハワイのほとんど飛べないカモ。移入捕食者や植生破壊のために一時は絶滅寸前状態 (1912年に成鳥9羽の若鳥5羽) となったが移入捕食者の駆除で個体数を回復 (1950年代に500羽程度) したが、1993年のエルニーニョ現象による干ばつで100羽程度まで再度減少。現在は500羽を超えるまで回復した。 2004, 2005年に絶滅を避けるためにミッドウエイの環礁にも個体群移住が行われた。IUCN CR種。 レイサン島のみに残っていたが、かつてはハワイの広域に分布していた化石証拠がある。渡りのマガモが迷鳥として定着したとの解釈があったが、南半球のマガモの祖先由来とのこと (wikipedia 英語版)。
      [カモノハシ] マガモの学名から気づかれた方もあるかも知れない。カモノハシの英名 platypus は platus 平らな + pous 足 (Gk) で過去の学名由来。 Platypus anatinus Shaw, 1799 と記載されたもので、種小名もカモの Anas に由来している ("カモに似た" の意味)。 Ornithorhynchus paradoxus Blumenbach, 1800 が独立に記載しており、Platypus の属名がすでに甲虫に使われていることがすぐに判明したため Ornithorhynchus anatinus の学名となった。 Ornithorhynchus は ornith 鳥 rhunkhos 口吻、嘴 (Gk) に由来する。学名を見てもまるで鳥のような哺乳類。
      通常の哺乳類の XY 染色体が5対の性染色体をなし、X 染色体は爬虫類や鳥の持つ Z 染色体 と相同性が高く、鳥で Z 染色体にある DMRT1 遺伝子を X 染色体に持つとのこと。毒は爬虫類に似ている。 嘴は電気信号を出し、嘴にある4万個の受容体で電気的な餌探索を行うとのこと (wikipedia 英語版より)。 報道にあまりに誤解が多いとのことで出された解説: Interpreting Shared Characteristics: The Platypus Genome 爬虫類の毒とは独立に進化したものほか。授乳は鳥にはない点で、ハトのミルクなどは別の適応であるとしている。
      Zhou et al. (2021) Platypus and echidna genomes reveal mammalian biology and evolution も興味深い内容で、Fig. 8 に鳥類も含めた歯に関連する遺伝子がどのように失われたかわかる。ニワトリではここで示された8個の遺伝子が 1.2億-6500万年前の間にすべて失われ、カモノハシ等単孔類祖先ではもう少し遅い時期に4遺伝子、ハリモグラ科でさらに2遺伝子を失ったとのこと。
      ハプトグロビン (haptoglobin 赤血球から放出された遊離ヘモグロビンに高い親和性で結合して有害な酸化活性を阻害する; HP遺伝子) が走鳥類にはあるがその後のニワトリに至るどこかの系統で失われているらしいが、別の PIT54 が機能を果たしているとのこと。 HP遺伝子は単孔類でも失われていて CD163 遺伝子ファミリーによる別の仕組みを使っていると考えられる。旧世界サルではヒトも含めて重複 (HPR遺伝子) が起きている。
      カモノハシは潜水中目と鼻を閉じるそうで、視力・嗅覚は採食に役立たないため、電気的な餌探索に頼る必要があったのだろうとのこと。嗅覚遺伝子数も相対的に少ないとのこと。
      卵生だが、子宮内でも栄養を吸収するため、また (初期段階で栄養を卵黄から得る早世性の鳥類とは違って) 授乳できるので鳥類や爬虫類ほど卵のタンパク質に頼っていない。孵化までの日数も短いとのこと。
      哺乳類の乳にはカゼインが含まれるが、これを作る遺伝子は歯の形成にかかわる遺伝子と共通性があり、Ca 結合性のタンパク質として進化した可能性があるとのこと。鳥では歯を失った結果、哺乳類同等の乳は作ることができなかった?
      カモノハシは卵の期間は窒素を尿酸で排泄するという (wikipedia 日本語版より)。他の哺乳類でも砂漠に住む種では尿酸排泄のものがあるとのと: Dipodomys属 Kangaroo rats (wikipedia 英語版より)。さらに詳しい情報は #カワウの備考 [鳥類の窒素排泄・栄養状態ストレスとの関係] 参照。
      日本の研究者も含まれる共同研究なので日本語情報を探してみると、この話とは直接関係がないが意外なものが見つかったので紹介しておく: 佐藤・江積 (2023) 脊椎動物の変遷についての大学生の認識と 中学校および高等学校の教科書の記述 なんと哺乳類の祖先は鳥類と考える大学生は爬虫類と考える人と同じぐらい多いとのこと。鳥類から脊椎動物が進化したと捉える割合も (この選択肢では正解である魚類以外で) 他の分類群より多い。教科書にどう書かれているかは学習者の認識に影響を与えていないことを示唆するとある。 始祖鳥は習うので爬虫類と鳥類の関係はかなりよく把握されているとのこと。 しかし 哺乳類の胎盤獲得に至る分子進化プロセスの一端を解明 (2022) には「鳥類から哺乳類への進化」と書いてある。
      逆の意味で面白いタイトルの論文があったので紹介しておく: Scanes (2020) Avian Physiology: Are Birds Simply Feathered Mammals? 日本と欧米で違っているかも知れないが、"鳥類は羽の生えた哺乳類である" とのゼロ次近似は広く信じられているとのこと。飛翔への適応や卵生に由来する点は異なるが、他の点はだいたい同じように考えてよいとの考え (迷信?) がある (日本で鳥学をやっている人はむしろええっ? と思われるかも知れない)。 特に生理学者は暗黙の前提のように考えているが (*1) いくつか重要な違いがあることに注意が必要である。特に免疫システム (これはそれぞれかなり独自に進化したもの)、卵の形成など。消化器の違いも挙げているがそのうの有無など多少些細な違いかも知れない。 注意すべきは鳥類の (生理学) 情報の多くは家禽として選択を受けたものが由来なので、野鳥との違いを意識する必要がある。家禽研究者と野鳥研究者の交流が少なすぎるなど。 「鳥類から哺乳類への進化」の文言が際立って不自然に感じられないのも "鳥類は羽の生えた哺乳類である" 視点由来かも知れない。
      備考:
      *1: つまり生理学に馴染みのある者にとっては鳥類・哺乳類はそれぞれ互いにかなり外挿できる。遺伝子の働きなども同様。哺乳類、つまり代表的にはヒトの生理学や医学の知見がだいたい参考になる。哺乳類で何かの機能が見つかると鳥にも同じようなものがあるかを探すのはいかにもこの発想による。 自分も生理学に馴染みがあるので違いより共通性の高さの方が目につく感じがする (しかも違いに着目すると「気のう」や色覚のようにしばしば鳥類の方が機能が上だったりする)。 「鳥類は哺乳類のようなもの」と考えるのは生理学志向の強い人かも知れない (形態や系統を主に見ている人にとっては見え方が違うかも知れない。生理学は化石に残りにくくテーマになりにくいかも)。
      わかりやすい例を挙げると、両生類や爬虫類は毒を持っているものも多い。哺乳類でも毒を持つものは原始的な系統のものに限られるので、「高等動物ほど毒を持たない」が半ば常識となっていた。 それゆえに "毒鳥" の発見は衝撃を持って迎えられた次第。それでも毒を合成できる鳥は見つかっていないはず。 系統的に鳥類は爬虫類に含まれることを強調したい人は、鳥類がほとんど毒を持たないのはなぜかを考えてみるのもよいのではと思う。
      さらに例えば「ハチクマはハチに刺されてもなぜ大丈夫なのか?」のような疑問も、鳥類は哺乳類と同じような反応を示すだろうと暗黙に仮定していることに由来するだろう。系統的には爬虫類の方に近いのだから爬虫類の反応を調べる必要があるはずなどの問いかけは聞いたことがない。
      [白い大きなアヒルの起源] Wang et al. (2023) Duck pan-genome reveals two transposon insertions caused bodyweight enlarging and white plumage phenotype formation during evolution によれば、アヒルの全ゲノム解析により、トランスポゾン Gypsy の2か所の挿入によって体重が劇的に増加して (27.61% でこれほどの増加率は家禽でも最大とのこと) 白色の羽毛を獲得したとのこと。 マガモの家禽化は紀元前500年ごろの中国で行われたとのこと。IGF2BP1 の調節領域に挿入された Gypsy がエンハンサーの役割を果たしているとのこと。 MITF のイントロンに挿入された Gypsy が白色化に関連しているとのこと。トランスポゾンが多様な表現型に関わっていることが一層明らかになった (#ツリスガラ備考 [スズメ目の進化とレトロウイルス/トランスポゾン] も参照。
  • アカノドカルガモ
    • 学名:Anas luzonica (アナス ルゾニカ) ルソン島のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:luzonica (adj) フィリピンのルソン島の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Philippine Duck
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • カルガモ
    • 学名:Anas zonorhyncha (アナス ゾノリュンカ) 帯のある嘴のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:zonorhyncha (合) 帯のある嘴 (zona (f) 帯、rynchos 鼻口部 Gk)
    • 英名:Spotbill Duck (or) Spot-billed Duck, IOC: Eastern Spot-billed Duck
    • 備考:単形種。 以前は Anas poecilorhyncha 現英名 Indian Spot-billed Duck (その当時のこの種の英名は Spot-billed Duck、現在の和名はアカボシカルガモ) の亜種とされていた。当時は6亜種で Grey Duck の英名もあった (コンサイス鳥名事典。現在では Grey Duck の名称は事実上使われておらず、指す場合もオーストラリア・ニュージーランドの Grey Teal Anas gracilis を指すようである)。 1991年に Bradley Livezey が形態の研究から独立種として分離を提案、香港や中国南部でこれらの雑種ペアがまれであることから別種扱いとなった。アメリカ鳥学会が独立種としたのは2008年。 日本でも Anas poecilorhyncha の学名、Spot-billed Duck の英名が使われていた。Chinese Spot-billed Duck の英語別名もある (以上 wikipedia 英語版より)。 マガモ (日本野鳥の会京都支部) の解説によれば、西海功氏 (当時国立科学博物館研究主幹) によると、マガモとカルガモの (ミトコンドリア) DNA は全く同じとのこと。 この記事では「種が分化してまだ時間が経っていない。あるいは、両種が交雑して遺伝子が溶けてしまったと考えられる」と話しているとある。 出典は「分子が明かす鳥の世界 (6) 遺伝的違いが小さいのに別種 マガモとカルガモなどに事例」西海 (2013) 森と人の文化誌 (414): 2013.6 p. 22-23 とのこと。
      Saitoh et al. (2015) DNA barcoding reveals 24 distinct lineages as cryptic bird species candidates in and around the Japanese Archipelago に結果があり、ミトコンドリアのチトクローム c オキシダーゼ I (COI) の部分配列 (648 塩基) の解析による。 この論文で差の小さかった組み合わせは マガモとカルガモ (0%)、アカコッコとアカハラ (0.15%)、 カッコウとツツドリ (0.3% 互いに単系統でない結果が得られている)、シマセンニュウとウチヤマセンニュウ (0.63%)、ケイマフリとウミバト (0.85%)。 大雑把な目安は2%が種の境界程度とされる。
      核遺伝子も含めたもう少し詳しい解析は例えば Wang et al. (2018) Incomplete lineage sorting and introgression in the diversification of Chinese spot-billed ducks and mallards にあり、差異はあるが分離が不完全で、(この研究で調べた範囲の) 遺伝情報から2種のどちらに属するのかを判定することができないとの結論になった。 カルガモの方からマガモへの遺伝子浸透 [(genetic) introgression; 遺伝子移入などとも呼ばれる。解説は例えば長谷川 (2012) 鳥類における種間交雑と遺伝子浸透 参照] が非対称に起きているらしい。
      全ゲノムを扱った研究もなされている: Feng et al. (2021) Whole-genome resequencing provides insights into the population structure and domestication signatures of ducks in eastern China この2種はやはり遺伝的に非常に近いが分離されないほどではない程度の微妙な違いがある。遺伝的には非常に近いが外見は大きく異なるとのこと。この2つの研究ではアカボシカルガモは分析に含まれていないのでさらに調べる必要があるとのこと。 これらの研究は中国のアヒルの起源を調べるためのもので、マガモとカルガモの外見がなぜそれほど異なるのかは深入りしておらず、関心のある研究者が調べるべしというところであろう。 ハクセキレイの亜種で遺伝型と外見による亜種分類が整合しないことが知られているが (#ハクセキレイの備考参照)、ヨーロッパのハクセキレイでは顔の模様を決める遺伝領域が一部明らかになりつつある。 これに類似する状況かも知れない。
      「マガモとカルガモの遺伝子が同じ」話は日本の研究者によるもので比較的よく知られているため探鳥会などで話題になることもあるだろうが、外見を決める遺伝子が調べられているわけではないので「遺伝的に非常に近い」程度の表現にとどめておくのがよさそうである。
  • ミカヅキシマアジ
    • 学名:Anas discors (アナス ディスコルス) まだら顔のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:discors (adj) 不一致の、異なった
    • 英名:Blue-winged Teal
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula属 (spatula スプーン) に分離。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Spatula属はハシビロガモ属。南北アメリカに分布する種。単形種。 種小名の由来はオスのまだら顔の模様に由来。BOU (1915) は飛翔時の特異な翼の模様を挙げている。 Gruson (1972) は不調和な鳴き声を挙げているが、原記載には習性や声の記載はないとのこと (The Key to Scientific Names)。 原記載は確かに様々な色が挙げられていて色彩由来の印象を受ける。Linnaeus 以前の学名で亜種名に variegata を与えているものがあり、染め分けられた、変化に富むの意味。ヤマガラの記述に使われたものと同様だろうか。 伊藤・福田 (1996) Birder 10(3) 78-79 にミカヅキシマアジの日本初記録 (1996年1月) の紹介記事がある。伊藤 (2005) 日本におけるミカヅキシマアジの初記録
  • ハシビロガモ
    • 学名:Anas clypeata (アナス クリュペアータ) 盾で武装したカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:clypeata (adj) 盾で武装した (clypeatus) 嘴の形状に由来
    • 英名:(Common) Shoveler, IOC: Northern Shoveler
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。北半球に広く分布し、単形種。
  • オナガガモ
    • 学名:Anas acuta (アナス アクタ) 尾の先が尖ったカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:acuta (adj) 先の尖った (acutus)
    • 英名:Pintail, IOC: Northern Pintail
    • 備考:他の (旧、広義) Anas属のカモより首が長く骨も多いと図鑑にある。文献によるとオナガガモ17-19個、他の Anas属は16個とある (#コブハクチョウの備考参照)。採食習性と関連させて観察すると面白いであろう。北半球に広く分布し、単形種。
  • シマアジ
    • 学名:Anas querquedula (アナス クエルクエドゥーラ) クアークと鳴くカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:querquedula (f) Varro や Columella の述べたカモの一種。Skeat によれば声 (querq, kark) からの擬声語
    • 英名:Garganey
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。 ユーラシアに広く分布する単形種。ヨーロッパの個体群はサハラ以南のアフリカにも渡り、かつて強毒性鳥インフルエンザ (H5N1) のナイジェリアなどのアフリカへの拡大の際にこの種の渡り経路を例に解説されたことがあった (#インドガンの備考参照)。 英名の由来はロンバルド語 gargenei (garganell の複数形)。水面をすくように採食することかオスの特徴ある (ねじを巻くような音と形容される; 渡り途中に滞在中の個体でも聞くことができる) 声からか。イタリア語 garganella (瓶から連続的に飲む意味) にも似ている。 遡ると garg- 喉 (L)、あるいは gargling (うがいすること。日本語でもうがい薬をガーグルと言う) gargareon 口蓋垂、気管 (Gk) (American Heritage Dictionary)。
  • トモエガモ
    • 学名:Anas formosa (アナス フォルモサ) 美しいカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:formosa (adj) 美しい (formosus)
    • 英名:Baikal Teal
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Sibirionetta属 (Sibiria シベリア netta カモ) に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Sibirionetta属はトモエガモ属で一属一種。単形種。東シベリアに高緯度まで繁殖分布を持つ東洋特産のカモ。
      種小名に使われる formosa はここでは美しいの意味。ポルトガル語由来で台湾を指す Formosa があり、この意味で使われる場合は formosae (名詞の属格), formosana / formosanus の形になる。種小名になぜ formosa と formosae (アオバトなど) の両方があるのか気になる方もあるだろうが、このような事情による。 formos- の入っている日本の鳥の学名では、調べた範囲でトモエガモのみが「美しい」の形容詞が使われていた。
  • コガモ (アメリカコガモ が分離されることもある)
    • 学名:Anas crecca (アナス クレッカ) コガモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:crecca (合) コガモ Kricka、Kracha コガモ スウェーデン語 (声から擬声語)
    • 英名:Teal, IOC: Eurasian Teal
    • 備考:日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でもコガモに2亜種ある立場だが、世界の主要リストでは立場が分かれており、IOC、HBW/BirdLife などは carolinensis (カロライナの) を独立種アメリカコガモ Anas carolinensis (英名 Green-winged Teal) として認めている。この場合2種とも単形種となる。アメリカ鳥学会、Clements、eBird などでは亜種扱い。アメリカ鳥学会もかつては別種扱いとしていた。 もう1種近縁の種があり、キバシコガモ Anas flavirostris (英名 Yellow-billed Teal) があり、コガモ、アメリカコガモ、キバシコガモの関係は現在ある限られた遺伝情報だけでは解決できず、核 DNA の解析が必要とある (wikipedia 英語版)。ここではIOC分類に従った英名を挙げておく。
  • アカハシハジロ
    • 学名:Netta rufina (ネッタ ルフィナ) 赤みがかったカモ
    • 属名:netta (合) カモ (ntakカモ Gk)
    • 種小名:rufina (adj) 赤みがかった (rufinus)
    • 英名:Red-crested Pochard
    • 備考:カザフスタン、モンゴルなど中央アジアを中心に分布する種。日本でも定常的に迷行例があるが、ヨーロッパにも多数の迷行例がある。単形種。
  • オオホシハジロ
    • 学名:Aythya valisineria (アユテュア ウァリシネリア) セキショウモを好む海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:valisineria (合) セキショウモの (海草 vallisneria セキショウモの属名)
    • 英名:Canvasback
    • 備考:北米の種で単形種
  • アメリカホシハジロ
    • 学名:Aythya americana (アユテュア アメリカーナ) アメリカの海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Redhead
    • 備考:北米の種で単形種。 部分的な托卵 (任意托卵) が知られている。アニマ 1992年6月号 pp. 78-81 にこの種の研究の第一人者の Sorenson の解説の翻訳記事がある (#カッコウの備考 [托卵鳥の同種認識] も参照)。 托卵を行う/自身で育てる両方の戦略を持つ。1988 年の日照りの年は水位が低く、巣が見えやすくなってしまうためにほとんどのメスは托卵を行ったとのこと。抱卵中はメスにとっても危険なため、変わりやすい大草原の環境に適応した行動かとのこと。
  • ホシハジロ
  • アカハジロ
    • 学名:Aythya baeri (アユテュア バエリ) ベールの海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:baeri (属) baer の (プロイセンの発生生物学者でシベリアを探検した Karl Ernst von Baer Edler von Huthorn に由来。反ダーウィン派だったとのこと。ドイツ語でもウムラウトなしでそのまま Baer と綴るようだが、ロシア名も別にあってベールと読まれていたことがわかる。日本語読みはそれに従った)
    • 英名:Baer's Pochard
    • 備考:東アジア地域のみで繁殖する希少なカモ。単形種。メジロガモと同種と考えられたこともあった。アカハジロ、メジロガモを含む目の白い潜水ガモに亜属 Nyroca (メジロガモの学名語源参照)が提唱されたこともあった。Aythya属、Betta属などを Aythyini族とまとめることは受け入れられているが、アカハジロ、メジロガモの分子遺伝学的研究はまだ不十分である (wikipedia 記述の段階)。 現在ではゲノムアセンブリが報告されている [Zhang et al. (2023) Chromosome-level genome assembly of the critically endangered Baer’s pochard (Aythya baeri)。この論文の段階で個体数は 150 と 700 の間と見積もられている]。 メジロガモについても 2021 年段階でミトコンドリアゲノムが解読されており、分子系統解析が得られるのは時間の問題と思われる。 かつてはロシア南東部と中国東北部でも繁殖していて日本を含む南へ渡っていたとされる。現在は中国の北部から中部で留鳥。現在では世界の成鳥の個体数は 1000 羽を割っている可能があり、さらに減少中と考えられている。2010 年以降北京より北側では見られなくなったと報告されている。 繁殖個体数が越冬個体数よりも少ないため、未知の繁殖地があるとされており、中国で従来記載の繁殖地から遠く離れた新しい繁殖地の発見も報告されている。2010-2011 年以降中国本土以外での定常的な越冬個体群はなく、迷鳥となっている。中国本土の越冬地でも数が大きく減少している。 IUCN 3.1でCR種。East Asian-Australasian Flyway Partnership (EAAFP) による アカハジロタスクフォース が作られた。2021年中国の国家一級保護種に指定された (New protection for Baer’s Pochard in China)。 2022 年に北京動物園で飼育個体群が確立され、将来の野生再導入計画がある [Yong et al. (2022) The first captive population of Baer's pochard in China was established] (wikipedia 英語版)。 なお中国の国家保護種は 国家重点保護野生動物目録 (wikipedia 中国語版)で見ることができる (これらを見る時には学名のありがたみがわかる)。 この時に新たに指定された鳥類については China updates list of species with special protection に解説がある。 1989 年に「国家級保護動物」のリストが出されてから2種追加されただけだったそうである。2021 年の改訂が 32 年ぶり初めての大幅な見直しとなった。従来は大型種のように目立つものが対象だったが、研究が進んで (中国内の動物学者も圧倒的に増えた)、科学ベースのリストになり、経済的価値から生態系や生息地の保護へのシフトを明確にしたとのこと。 今後は5年程度で見直すことにした (A new hope for China’s endangered animals)。 シマアオジもこの時に登場。
      又野 (2019) アカハジロがヒシの実を食べる行動 (大阪の飛来数記録の表もあり)。 この種の音声記録は公表されているものでは世界にまだ1例もない (#コウライアイサの備考参照) が、おそらく飼育下で記録されているものと思われる。
  • メジロガモ
    • 学名:Aythya nyroca (アユテュア ニュロカ) 潜るカモ
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:nyroca (外) nyrok 潜る者 (< nyryat' 潜る) 露
    • 英名:Ferruginous Duck
    • 備考:東欧からロシア西部、中央アジア、中国西部、アフリカ北部などに主に分布する。単形種。日本で記録される数はアカハジロと同程度であるが、世界的個体数はメジロガモの方がずっと多く、IUCN 3.1で NT 種。#アカハジロの備考も参照。
  • クビワキンクロ
    • 学名:Aythya collaris (アユテュア コッラリス) 首輪のある海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:collaris (属) 首輪のある (collare -is (n) 首輪)
    • 英名:Ring-necked Duck
    • 備考:北米の種で単形種。かつて東京都不忍池で 1984 年から 1994 年に 11 年連続の飛来記録があり、(少なくとも関東在住の古参バーダーには) あまり珍しくなくなった印象を受けるが飛来はやはりまれ (当時の不忍池はカモ類の餌付けが行われており、一面カモだらけ、クビワキンクロも足元にいた光景もあり双眼鏡すら不要で全く珍しさを感じさせなかった。さらにコスズガモまで飛来していた。Birder 誌にも当時のいろいろな逸話が掲載されていた)。 日本鳥学会誌にも他所の記録論文が複数出ている。
  • キンクロハジロ
    • 学名:Aythya fuligula (アユテュア フリグラ) スス色の喉の海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:fuligula (f) スス色の喉の (fuligo (f) スス gula 喉)
    • 英名:Tufted Duck
    • 備考:属名の由来の aithuia はアリストテレス他の記載した未同定の海鳥。ミズナギドリ、ウ、カモ、ウミスズメなどの解釈がある。ギリシャ神話で水鳥に変えられた Cygnus の母親に Thyr (Thryie) があり関連する可能性がある (The Key to Scientific Names)。ユーラシアに広く分布する単形種。
  • スズガモ
    • 学名:Aythya marila (アユテュア マリラ) 少し黒い海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:marila (合) 少し黒い (mauro 黒い Gk、-illa (指小辞) 小さい)、charcoal embers
    • 英名:Scaup, IOC: Greater Scaup
    • 備考:2亜種あり、日本で記録されるものは従来基亜種 marila とされていたが、「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) にて nearctica (新北区の; 北米を指す) に変更された。 Howard and Moore では現在この分類になっている。 Marchowski and Leitner (2019) Conservation implications of extraordinary Greater Scaup (Aythya marila) concentrations in the Odra Estuary, Poland の解説によれば世界でフライウエイに応じたいくつかのグループがあり、(1) A. m. nearctica 北米のグループで4つのフライウエイ、(2) A. m. nearctica 東アジアのグループ、(3) A. m. marila アジア北西部とヨーローパ北東部で繁殖しカスピ海や黒海周辺で越冬、(4) A. m. marila ヨーローパ北東部で繁殖し北海やバルト海周辺で越冬、 の4つに分けられるとのこと。日本の個体群は (2) にあたるようである。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" でもこの亜種となっている。 東アジアの個体群はかつて中間にあたると考えられて mariloides (marila スズガモ -oides に似た Gk) が使われたことがあったがこれは本来コスズガモに与えられた学名で無効とのこと (wikipedia 英語版)。 文献: Banks (1986) Subspecies of the Greater Scaup and their names (それ以前の分類概念経緯も記載されている)。 この文献では東アジアの個体をヨーロッパのものと区別できないためユーラシアをまとめた marila としていた。 mariloides (学名の正統性はともかく) を認める立場であれば東アジアの個体群はこれに属するが、Avibase でも nearctica のシノニムとして扱っている。Howard and Moore は 2nd edition まで mariloides を認めていた。 コンサイス鳥名辞典では北ヨーローパから西シベリア北部をオオスズガモ A. m. marila、東シベリア、アラスカ、カナダ北部を A. m. mariloides としていた。 今後の基亜種の名前はオオスズガモかも知れない。
      他に Lesser Scaup (コスズガモ) が存在するため英名は Greater Scaup が望ましい。 scaup の語源はスコットランド語で貝類の繁殖場所 (shellfish bed) のことか、あるいは鳴き声からとのこと (wikipedia 英語版より)。ロシア語ではスズガモ類は chernet' で「黒いやつ」ぐらいの意味だろう。ドイツ語では Bergente < Berg (山) Ente (カモ) で生態をあまり反映していない? 北米での別名は Bluebill (北米に生息するコスズガモの Little Bluebill に対応)。 Marchowski and Leitner (2019) によれば基亜種は近年減少傾向が目立つとのこと。 wikipedia 英語版によれば1980年代から減少が始まったとのこと。
  • コスズガモ
    • 学名:Aythya affinis (アユテュア アッフィニス) スズガモに似た海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:affinis (adj) 隣の、姻戚関係の
    • 英名:Lesser Scaup
    • 備考:北米の種で単形種。 英名の別名 Little Bluebill, Broadbill。
  • コケワタガモ
    • 学名:Polysticta stelleri (ポリュスティクタ ステッラーイ) ステッラーの多くの斑のある鳥
    • 属名:polysticta (合) 多くの斑のある (poly- (接頭辞) 多くの stikos 斑 Gk、-tus (接尾辞) 〜を備えている)
    • 種小名:stelleri (属) ステッラーの (ドイツの博物学者 Georg Wilhelm Steller に由来)
    • 英名:Steller's Eider
    • 備考:極北の種で一属一種で単形種。英語 eider の語源はアイスランド語 aedr に由来すると考えられるがその語源は不明。
  • ケワタガモ
    • 学名:Somateria spectabilis (ソマテリア スペクタビリス) 美しい羊毛の体の鳥
    • 属名:somateria (合) 羊毛の体 (somatos 体 erion 羊毛 Gk)
    • 種小名:spectabilis (adj) 美しい、見える
    • 英名:King Eider
    • 備考:極北の種で単形種。この属ではヨーロッパ等に比較的普通のホンケワタガモ Somateria mollissima (英名 Common Eider) が世界的には有名。ケワタガモの名前はケワタガモの産座の綿羽が良質の保温材の採取対象とされてきたことによる。 コンサイス鳥名事典によれば執筆当時も商業利用されていたそうである。同書によれば別名アカハナケワタガモがあるとのこと。
  • シノリガモ
    • 学名:Histrionicus histrionicus (ヒストゥリオニクス ヒストゥリオニクス) 役者のような鳥
    • 属名:histrionicus (adj) 役者のような (histrio -onis (m) 役者 -icus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:histrionicus (トートニム)
    • 英名:Harlequin Duck (道化師の意味でフランス語由来)
    • 備考:一属一種で単形種。日本でも北海道と東北地方山地渓流で繁殖する。wikipedia 日本語版には「太平洋岸繁殖個体群を H. h. pacific として分割する説もあったが、有力ではない」とあるがpacificus (太平洋の) が正しい。現在の世界の主要リストではシノニムとされる。
      ロシアのハバロフスク地方のブレインスキー保護区で放棄された卵から育てて最終的に野外に放った事例が紹介されている (#ハチクマの備考も参照)。シノリガモの黒子ちゃん - またの名を 異類の中の同類、同類の中の異類に翻訳を掲載。
  • アラナミキンクロ
    • 学名:Melanitta perspicillata (メラニッタ ペルスピキッラータ) 眼鏡をかけた黒いカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い ntakカモ Gk)
    • 種小名:perspicillata (adj) 眼鏡をかけた (perspicillus眼鏡 -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Surf Scoter
    • 備考:主に北米の単形種
  • ビロードキンクロ (アメリカビロードキンクロ が分離される、ビロードキンクロの学名も変わる見込み)
    • 学名:Melanitta fusca (メラニッタ フスカ) 黒ずんだカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い ntakカモ Gk)
    • 種小名:fusca (adj) 黒ずんだ (fuscus)
    • 英名:White-winged Scoter, IOC: Stejneger's Scoter
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Melanitta stejnegeri となる。ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Stejneger にちなむ。 かつては Melanitta deglandi (フランスの鳥類学者 Come-Damien Degland にちなむ; こちらの英名は White-winged Scoter アメリカビロードキンクロ)と同種と考えられていた。 アメリカビロードキンクロは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で含まれた。いずれも単形種となる。 ビロードキンクロの新学名に対応する英名は Stejneger's Scoter または Siberian Scoter となる。現在の分類では Melanitta fusca はユーラシア西部の種類となり、英名は Velvet Scoter (ヨーロッパビロードキンクロ)。和名はこの種の英名に対応していて正確に使おうとすると大変ややこしい。ただ外国人バーダーも古い時代の velvet の名を知っていた人もあったためか、この英名でも通じた。 越冬時は海岸で観察されるため繁殖地も海に近いと考えそうだが、大陸奥深く内陸で繁殖する。ビロードキンクロはエニセイ川以東に広く分布。モンゴルでも繁殖個体群が観察される。アメリカビロードキンクロも同様でアラスカからカナダ西部の内陸で繁殖する。
  • クロガモ
    • 学名:Melanitta americana (メラニッタ アメリカーナ) アメリカの黒いカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い ntakカモ Gk)
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Black Scoter
    • 備考:北米からユーラシア北東部に分布。ビロードキンクロよりは沿岸に近い場所で繁殖する。単形種。 近縁種にヨーロッパクロガモ Melanitta nigra 英名 Common Scoter があり、かつては同種とされていた。 ロシア北極圏では両種が繁殖するがシベリア北部ではクロガモの方が多いらしい。クロガモの方が東寄りでヨーロッパクロガモは主にヨーロッパで越冬する。 サハリンでもクロガモの繁殖が知られている: Vshivtsev (1979初出、2012再掲) Nesting of the black scoter Melanitta nigra on the Sakhalin Island (pp. 2661-2665)。
  • コオリガモ
    • 学名:Clangula hyemalis (クラングーラ ヒュエマリス) 冬の声の響く鳥
    • 属名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
    • 種小名:hyemalis (合) 冬の (hiemalis (adj) 冬の hiems (f) 冬)
    • 英名:Long-tailed Duck
    • 備考:極北に広く分布する単形種。越冬中の群れは特徴的な歌うような声を出し、遠くからも聞こえるという The Key to Scientific Names の注釈に沿った訳とした。
  • ヒメハジロ
    • 学名:Bucephala albeola (ブケパラ アルベオーラ) 少し白い大きな頭の鳥
    • 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
    • 種小名:albeola (adj) 少し白い (albus (adj) 白い -ola (指小辞) 小さい)
    • 英名:Bufflehead
    • 備考:北米に分布する単形種
  • ホオジロガモ
    • 学名:Bucephala clangula (ブケパラ クラングーラ) 羽音の響く大きな頭の鳥
    • 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
    • 種小名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
    • 英名:Common Goldeneye
    • 備考:種小名の和訳は wikipedia 日本語版では「やかましく騒ぐ」となっている。
      ホオジロガモの羽音はよく響いて独特なのでそれを意味する可能性 (例えば日本語のスズガモの語源にように) を考えた。やはり羽音から "whistler" と呼ばれることを知った (羽音を whistling sound と呼ぶ)。 狩猟用語でカモの識別に役立つとのこと。Common Goldeneye。ディスプレイの声よりは羽音が目立つ気がするので、種小名の語源はおそらくこちらではないだろうか。「羽音の響く」と訳してみた。 clangere に関連する学名は #コオリガモ#カラフトワシ (可能性あり) も参照。 なお英名で whistling duck が付くものも別に存在する (リュウキュウガモなど)。こちらは鳴き声由来と説明がある (wikipedia 英語版から)。
      wikipedia 日本語版の「属名 Bucephala はアレクサンドロス3世 (大王) の馬の名前からつけられたもの」については出典を見つけられなかった。2亜種あり日本のものは基亜種 clangula とされる。もう1亜種 americana アメリカホオジロガモは北米に分布。
  • ミコアイサ
    • 学名:Mergellus albellus (メルゲッルス アルベッルス) 白くてかわいい小さなアイサ
    • 属名:mergellus (m) 小さいアイサ (mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥 -ellus (指小辞) 小さい)
    • 種小名:albellus (adj) 白くてかわいい (albus (adj) 白い bellus (adj) かわいい)
    • 英名:Smew
    • 備考:ユーラシアに広く分布する単形種。属名の由来は#カワアイサの備考も参照。 中国名白秋沙鴨で秋沙 (アイサ) の部分は和名に由来とのこと [福井・チャン (2003) Birder 17(8): 68-69]。
      "アイサ" と付く日本産種類の中でミコアイサのみが別属であるが、これはアイサ類の中で最も早く分岐した系統で、アイサ類の現代的な分子系統 (ただし mtDNA のみ) は以下のようになる。 この部分は最後3種の順序に不定性があるが他の部分は系統分岐順になっている。 他のグループで一番近縁なのはホオジロガモ類の Bucephala属の3種。

      カモ亜科 Anatinae: Ducks
       ミコアイサ? 族 Mergini: Sea Ducks (ミコアイサ系統のみ掲載)
        ミコアイサ属 Mergellus
         ミコアイサ Mergellus albellus Smew
        オウギアイサ属 Lophodytes
         オウギアイサ Lophodytes cucullatus Hooded Merganser (北米)
        ウミアイサ属 Mergus ("True" mergansers)
         ウミアイサ Mergus serrator Red-breasted Merganser
         コウライアイサ Mergus squamatus Scaly-sided Merganser
         クロアイサ Mergus octosetaceus Brazilian Merganser (ブラジル)
         オークランドアイサ Mergus australis New Zealand Merganser (ニュージーランド。絶滅種)
         カワアイサ Mergus merganser Common Merganser

      このグループの大半の種が北半球に広く分布しておりご存じお馴染みのものが多い。コウライアイサのみが非常に局地的に分布する。南半球では事情が異なっており2種が分かれて分布していたが1種が絶滅種であるため系統関係はわからなかった。 Rawlence et al. (2024) Ancient mitogenomes reveal evidence for the Late Miocene dispersal of mergansers to the Southern Hemisphere は保存状態のよい標本から南半球には少なとも700万年前から2回の独立の進出があったことを示した。 Mergus属は属内の種の分岐年代が古く、ホオジロガモ類やケワタガモ類とは対照的である。この論文にそれぞれの種類の分布図も出ている。 南半球の分布は北半球からの渡り個体に由来すると考えられる。
  • カワアイサ
    • 学名:Mergus merganser (メルグス メルガンセル) 少し沈んで泳ぐガン
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:merganser (m) 沈んで泳ぐガン (mergo (tr) 沈めるanser (m) ガン)
    • 英名:Common Merganser
    • 備考:属名に使われる mergus は Pliny などが用いた種類不明の水鳥 < mergere 潜る。北半球に広く分布し3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 merganser 亜種カワアイサとorientalis (東洋の) コカワアイサとされるが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では両亜種和名は検討中とのこと。 亜種 orientalis は「東洋の」の意味が適切でなく、アフガニスタンからチベット、中国南部で繁殖し、インドや中国南西部に渡る (Clements) とある。英語では Central Asian と形容され、こちらの方が分布をよく反映している。ちなみに orientalis の方がやや大きいとされる (wikipedia 英語版)。 ユーラシアでは Goosander の英名も使われる。これは goose (ガン) と gander (オスのガン) からの合成語で 1622年にすでに使われていた (wiktionary)。Merganser はアメリカでの名称。
  • ウミアイサ
    • 学名:Mergus serrator (メルグス セッラトール) 嘴にのこぎり状の突起のあるアイサ
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:serrator (adj) 嘴にのこぎり状の突起のある (serratus (adj) ギザギザのある -or (接尾辞) 状態の)
    • 英名:Red-breasted Merganser
    • 備考:愛媛の野鳥「はばたき」では種小名 serrator を「のこぎりで材木をひく人」と訳している。英訳の sawyer 由来かも知れない。 いずれも serra (のこぎり) に由来し嘴ののこぎり状の突起に由来する (wikipedia 英語版)。 原記載。 「長い嘴の」意味の学名も過去に使われ、いくつかの言語では標準名がこの意味になっている。カタラン語のように Bec de serra mitja のように嘴ののこぎり状の突起を表している名称もある。 北半球高緯度に広く分布。単形種。
  • コウライアイサ
    • 学名:Mergus squamatus (メルグス スクアマトゥス) 鱗模様のアイサ
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:squamatus (adj) 鱗で覆われた (squama (f) 鱗 -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Chinese Merganser, IOC: Scaly-sided Merganser
    • 備考:東アジアの狭い範囲に分布する比較的数の少ない鳥。個体群の多くはロシア極東部で繁殖していると考えられている。多くの海ガモと同様に樹洞営巣で、同地域のオシドリとの競争がある可能性がある。原生林地帯であり、個体数を調べるのは容易でない。IUCN 3.1でEN種 (wikipedia 英語版)。ロシアでの研究はそれなりの数の論文がある。 ごく最近まで音声記録は世界に1例もなかった。Veprintsev Phonotheka of Animal Voices (#エゾビタキの備考参照) にも含まれていなかった。 近縁のウミアイサでは求愛ポーズで特有のディスプレイの音声を出し、コウライアイサも同様と推定されるが [「山溪ハンディ図鑑 日本の野鳥」(初版 1998)] この音声はまだ録音されていない。上田秀雄氏による Ueda Nature Sound や Macaulay Library (eBirdの画像他のライブラリ) にも含まれていない。 中国で録音された唯一の音源はカモ類一般に聞かれるガッガッ...の音声であり、ディスプレイの音声ではない。鹿児島県で2011年12月から2012年4月にかけて最大で9羽が観察・撮影されており、3月には交尾行動も観察・撮影された [所崎 (2012) 「鹿児島県のコウライアイサの越冬記録」Birder 2012年11月号, p.46-47が出典。音声の記録はない] とのことで、ディスプレイの音声を記録できるチャンスは皆無ではないと思われる。可能性のある方は世界初記録にチャレンジしていただきたい。
  •  カイツブリ目 PODICIPEDIFORMES カイツブリ科 PODICIPEDIDAE 

  • カイツブリ
    • 学名:Tachybaptus ruficollis (タキュバプトゥス ルフィコッリス) 赤い首の速く潜る鳥
    • 属名:tachybaptus (合) 速く潜るもの (tachy- (接頭辞) 速く (Gk) bapto 潜る (Gk)、-tus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:ruficollis (adj) 赤い首の (rufus (adj) 赤い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Little Grebe
    • 備考:ユーラシアからアフリカに広く分布する。7亜種が認められている(IOC)。日本で記録される種類は poggei (中国滞在のドイツ人軍人。東プロイセンの森林官 Karl Pogge に由来) 亜種カイツブリと kunikyonis (大東島在住の日本人採集家 Kunihira Kunikyo 由来) ダイトウカイツブリが日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。 後者は世界のリストではほとんど認められておらず、poggei のシノニムとされるのが一般的。前者もおそらく亜種 japonicuspoggei のシノニムとなった結果。
      [音声] カイツブリにはさまざまな音声があり、短い地鳴きや警戒音 (知らないと何の声かと思ってしまう)、そしてよく聞く「さえずり」(キュルルルルーという声) がある (バードリサーチ鳴き声図鑑では地鳴きとしているが、世界的にはさえずりに分類するのが一般的)。この「さえずり」に非常に似た声をヒクイナも出す (#ヒクイナの備考参照)。探鳥会担当者などは即断で聞き慣れたカイツブリと判定してしまわないように注意が必要であろう。
      [パンくずを疑似餌に使うカイツブリ] 諸角 (1995) Birder 9(10): 56-58 に東京の不忍池で人が投げたパンを細かくして撒き餌のように用いるカイツブリ (1991) の紹介がある。(#ゴイサギの備考参照)
      [絶滅した飛べないカイツブリ類] カイツブリが空を飛ぶ印象は受けにくいが、渡りをする個体がある通り空を飛べる。夜間の渡り途中の地鳴き nocturnal flight call (NFC) (#マミチャジナイの備考参照) では頻繁に記録される種類である。 飛んでいるビデオを撮影したいと何度も試しているがなかなか成功していない。 しかしカイツブリ類が飛びにくいことは確かなようで、世界には飛べないカイツブリ類もある。その一つにマダガスカルのワキアカカイツブリ Tachybaptus rufolavatus 英名 Alaotra Grebe があり、1985 年の目撃が最後で外来魚によって絶滅 (2010 年に絶滅宣言された) したと考えられている。現存する写真は1枚のみとのこと (wikipedia 英語版による)。 属は異なるが、グアテマラのオオオビハシカイツブリ Podilymbus gigas 英名 Atitlan Grebe (現地名 poc ポック) も有名である。これも飛べないカイツブリで、外来魚、想定外の地震などの天災や他種との交雑もあり、Anne LaBastille による 25 年の保護努力により一時は個体数 210 (1973) まで回復したが 1989 年の目撃が最後となり、1990 年に絶滅宣言された (wikipedia 英語版による)。 Anne LaBastille による著書 "Mama Poc: An Ecologist's Account of the Extinction of a Species" (1990) があり、「絶滅した水鳥の湖」(幾島幸子訳 晶文社 1994) と邦訳されている。
      [Mirandornithes の系統分類] Boyd による Mirandornithes (フラミンゴ目 + カイツブリ目) の分類一覧を示す。

      フラミンゴ目 Phoenicopteriformes
       フラミンゴ科 Phoenicopteridae: Flamingos
        オオフラミンゴ属 Phoenicopterus
         チリフラミンゴ Phoenicopterus chilensis Chilean Flamingo
         オオフラミンゴ (旧名ヨーロッパフラミンゴ) Phoenicopterus roseus Greater Flamingo
         ベニイロフラミンゴ Phoenicopterus ruber American Flamingo

        コフラミンゴ属 Phoeniconaias
         コフラミンゴ (コガタフラミンゴ) Phoeniconaias minor Lesser Flamingo

        アンデスフラミンゴ属 Phoenicoparrus
         アンデスフラミンゴ Phoenicoparrus andinus Andean Flamingo
         コバシフラミンゴ Phoenicoparrus jamesi James's Flamingo

      いずれもどこが違うのかと思えるほどよく似た属学名になっている。 Phoenicopterus (phoinix, phoinikos 紅色の -pteros 翼の)、 Phoeniconaias は naias, naiados 水の妖精 naiad、 Phoenicoparrus は parrus, parra は不明の不吉な鳥 (ヨタカ、フクロウ、キツツキ、タゲリ、サバクヒタキ を指すとのさまざまな解釈がある) (The Key to Scientific Names)。 属和名はタイプ種を採用したが、オオフラミンゴの分布は近年東に広がっており [Zhu et al. (2017) Distribution of Greater Flamingo in China]、 自然分布で冬鳥としてしばしば記録されるようになるのも時間の問題かも知れない。すでに検討種扱いとなっている。この属のタイプ種はベニイロフラミンゴだが、この事情を考慮してオオフラミンゴを採用した。

      カイツブリ目 Podicipediformes
       カイツブリ科 Podicipedidae: Grebes
        オビハシカイツブリ属 Podilymbus
         オビハシカイツブリ Podilymbus podiceps Pied-billed Grebe
         オオオビハシカイツブリ Podilymbus gigas Atitlan Grebe (絶滅種)

        カイツブリ属 Tachybaptus
         ワキアカカイツブリ Tachybaptus rufolavatus Alaotra Grebe (絶滅種)
         カイツブリ Tachybaptus ruficollis Little Grebe
         * Tachybaptus tricolor Tricolored Grebe
         ノドグロカイツブリ Tachybaptus novaehollandiae Australasian Grebe
         マダガスカルカイツブリ Tachybaptus pelzelnii Madagascar Grebe
         ヒメカイツブリ Tachybaptus dominicus Least Greb

        シラガカイツブリ属 Poliocephalus
         シラガカイツブリ Poliocephalus poliocephalus Hoary-headed Grebe
         ニュージーランドカイツブリ Poliocephalus rufopectus New Zealand Grebe

        オオカイツブリ属 Podicephorus
         オオカイツブリ Podicephorus major Great Grebe (Podiceps属より分離)

        クビナガカイツブリ属 Aechmophorus
         クビナガカイツブリ (アメリカカイツブリ) Aechmophorus occidentalis Western Grebe
         クラークカイツブリ Aechmophorus clarkii Clark's Grebe

        カンムリカイツブリ属 Podiceps
         アカエリカイツブリ Podiceps grisegena Red-necked Grebe
         カンムリカイツブリ Podiceps cristatus Great Crested Grebe
         ミミカイツブリ Podiceps auritus Horned Grebe
         ミミジロカイツブリ Podiceps rolland White-tufted Grebe (Rollandia属を統合)
         コバネカイツブリ Podiceps micropterus Titicaca Grebe (Rollandia属を統合)
         パタゴニアカイツブリ Podiceps gallardoi Hooded Grebe
         ギンカイツブリ Podiceps occipitalis Silvery Grebe
         ペルーカイツブリ Podiceps taczanowskii Junin Grebe
         ハジロカイツブリ Podiceps nigricollis Black-necked Grebe
         * Podiceps californicus Eared Grebe (ハジロカイツブリより分離)
         コロンビアカイツブリ Podiceps andinus Colombian Grebe (絶滅種)

      属分割、統合は IOC などでは未採用。ただし日本産種への影響はほぼない。 Tachybaptus tricolor Tricolored Grebe はカイツブリから最近分離されたもので和名が見当たらない。そのまま訳せばサンショクカイツブリのような名前になるのだろうか (サンショクの用例はサンショクウミワシなどいろいろある)。 Podiceps californicus Eared Grebe については #ハジロカイツブリ参照。ハジロカイツブリの北米グループだが実際に種として扱われるようになるかは微妙な感じ。
      フラミンゴ目とカイツブリ目の関係が近いことに最初に気づいた研究は van Tuinen et al. (2001) Convergence and divergence in the evolution of aquatic birds で、Sibley and Ahlquist (1990) のデータも類縁性を示していたが、Sibley and Ahlquist は気づいていなかったとのこと。外見の類似性がほとんどなかったが後の研究でもこの関係は支持されることとなった。Sangster (2005) A name for the flamingogrebe clade は両者を称して Mirandornithes と名付けた (#ミサゴの備考参照)。 あまりに思いがけない類縁性の発見の意味も込めて表しているのだろうか。 系統関係が明らかになってから共通の形態特性なども発表されているが、後付けの感は否めない。 この分類概念は Phoenicopterimorphae (フラミンゴ上目?) と呼ばれることも多いが問題がある。後の解説参照。この点を考えると Mirandornithes と和名を用いた場合のフラミンゴ上目? は同じものを指しているわけだろうが、Mirandornithes に "上目" の意味は含まれないのでフラミンゴ上目? の和名はここでは使わないことにしておく。
      Exploring the relationship between flamingos and grebes: The wonderful birds (David J. Ringer 2013) でも興味深い歴史が読める。 Livezey は 2011 年事故死するまでこの考えを否定し、フラミンゴ類はコウノトリ類に近縁と考えていた。次の批判論文を読むことができる。過去の研究もまとめられているので役立つだろう。 Livezey (2010) Grebes and flamingos: standards of evidence, adjudication of disputes, and societal politics in avian systematics 自分が独自データも用いて解析するとフラミンゴ類はアビ類に一番近縁になった。論調は分子遺伝学に頼りすぎでコミュニティも結果をセンセーショナルに報道しすぎる、といったところだろうか。 系統分類に果たす分子遺伝学の役割があまりに急速な進歩を遂げたため生じた伝統的研究者の拒否感が現れているとも読める。 ハヤブサ類とオウム類、スズメ目の近縁性が明らかになった時期とほぼ同じころの時代背景と考えて読むと興味深い。 2012 年になって化石証拠が見つかり、骨学から原始的なフラミンゴ類と考えられるがカイツブリ類に似た巣と卵が見つかった: Grellet-Tinner et al. (2012) The First Occurrence in the Fossil Record of an Aquatic Avian Twig-Nest with Phoenicopteriformes Eggs: Evolutionary Implications
      驚異的な鳥たちだが、歴史も同じぐらい驚くべきであると結ばれている。
      [フラミンゴ類] Frias-Soler et al. (2022) Phylogeny of the order Phoenicopteriformes and population genetics of the Caribbean flamingo (Phoenicopterus ruber: Aves) にカリブ海フラミンゴ類を中心とした分子系統解析がある。フラミンゴ類は通常3属と扱われるが、この研究は2属になるとのこと (コフラミンゴ属をアンデスフラミンゴ属まとめるか。この分岐年代はオオフラミンゴ属内の種の分岐年代より新しい結果となった)。
      Sangster et al. (2022) Phylogenetic denitions for 25 higher-level clade names of birds がこのグループを何と呼ぶかについても例示して議論している。Mirandornithes と自分が正式に名付けたにもかかわらず別グループが別の名前で呼んだり、過去に使われた名前を別の概念に用いているので混乱を引き起こしているとのこと。
      フラミンゴ類は代表的な極限環境に生息する生物 (extremophiles。その中でも最大のものとのこと) でさまざまな適応を行っている: 参考ページ Tough Birds Fragile HomesAre Flamingos Extremophiles? (査読論文はあまり出ていないらしい)。
      Flamingos Are Totally Hardcore (Amy King 2024) によれば フラミンゴの群れを指す flamboyance (きらびやかさ、燃えるような華麗さ、建築様式のフランボワイヤン) との用語があるとのこと。高地の夜は寒くて凍ることもあるが、片足で立って放熱を抑えている。強いアルカリ性に対しては皮膚が厚いことで対応。塩分濃度の高さは塩腺による排出で対応とのこと。
      Byrne et al. (2024) Productivity declines threaten East African soda lakes and the iconic Lesser Flamingo によれば東アフリカのコフラミンゴが採食を行う塩湖の水位が上がり濃度が下がってプランクトンが不足しているとのこと。気候変動から予測される変動とも合っていて、これまでの環境破壊とも合わさって塩湖の特異な生態系は今後の維持が危ぶまれるとのこと。
  • アカエリカイツブリ
    • 学名:Podiceps grisegena (ポディケプス グリセゲナ) 灰色の頬の尻足の鳥
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:grisegena (adj) 灰色の頬の (griseus (adj) 灰色の gena (f) 頬)
    • 英名:Red-necked Grebe
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは holbollii (デンマークの動物学者 Carl Peter Holboll 由来) とされる。
      Osik et al. (2022) Nicotinamide adenine dinucleotide reduced (NADH) is a natural UV filter of certain bird lens (#トビの備考の [視覚特性] も参照) によれば、カイツブリ類は眼球のレンズに NADH 含有量が高く、紫外線フィルターとして作用しているらしいとのこと。 この文献で調べられているカイツブリ類はアカエリカイツブリ、カンムリカイツブリ、ミミカイツブリ、カイツブリ (日本とは異なる学名を用いている) で、いずれも高い値を示している。
  • カンムリカイツブリ
    • 学名:Podiceps cristatus (ポディケプス クリスタトゥス) 冠羽のあるカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門とpodium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:cristatus (adj) 冠羽のある
    • 英名:Great Crested Grebe
    • 備考:3亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 cristatus とされる。
  • ミミカイツブリ
    • 学名:Podiceps auritus (ポディケプス アウリトゥス) 耳の長いカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:auritus (adj) 耳の長い
    • 英名:Slavonian Grebe, IOC: Horned Grebe
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 auritus とされる。 旧英名の Slavonian はスラヴォニア (クロアチア語: Slavonija) 由来。クロアチアの東部の地域。
  • ハジロカイツブリ
    • 学名:Podiceps nigricollis (ポディケプス ニグリコッリス) 黒い首のカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:nigricollis (adj) 黒い首の (niger (adj) 黒い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Black-necked Grebe
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 nigricollis とされる。
      カイツブリ属 (Podiceps) の分子系統研究は Ogawa et al. (2015) Opposing demographic histories reveal rapid evolution in grebes (Aves: Podicipedidae) にある。Boyd はこれをもとに Podiceps californicus Eared Grebe (ハジロカイツブリの北米グループ) と Podiceps nigricollis ハジロカイツブリを分離しているがどうだろうか。 Ogawa et al. (2015) は前者を North American Black-necked Grebe と呼んでいる。 コロンビアカイツブリ Podiceps andinus Colombian Grebe (絶滅種) とハジロカイツブリ全体の間で単系統をなさず、このサンプルではコロンビアカイツブリがハジロカイツブリの北米グループと並ぶ形となっている。コロンビアカイツブリを種として維持するにはハジロカイツブリの北米グループを種と認めると都合がよいとの Boyd の判断だろう。 研究はまだ限定的なようでどのように判断されるだろうか。 Eared Grebe の名称はハジロカイツブリの別名として使われてきた (北米の) 英名を復活したものと思われるが、採用されるとミミカイツブリの和名との対応が紛らわしくなる可能性がある。 南アメリカの種で我々には関係が薄いが、ギンカイツブリ Podiceps occipitalis Silvery Grebe とペルーカイツブリ Podiceps taczanowskii Junin Grebe も単系統の関係をなしていない。これは個体群の保護的な意味も重視した分類が採用されたためだろう。
      普通種であるが、ハジロカイツブリの声を聞かれたことはあるだろうか。越冬中の声の記録は国内・国外の音声データベースでも意外に記録が少ない。鳴いているところに気づかれた場合は録音をお勧めしたい。
  •  ネッタイチョウ目 PHAETHONTIHORMES ネッタイチョウ科 PHAETHONTIDAE 

  • アカオネッタイチョウ
    • 学名:Phaethon rubricauda (パエトン ルブリカウダ) 赤い尾のパエトン
    • 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
    • 種小名:rubricauda (adj) 赤い尾の (ruber (adj) 赤い cauda (f) 尾)
    • 英名:Red-tailed Tropicbird
    • 備考:4亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは melanorhynchos (melanos 黒い rhunkhos 嘴) 英語で Black-billed Tropic Bird とも呼ぶ。
  • シラオネッタイチョウ
    • 学名:Phaethon lepturus (パエトン レプトゥルス) 細い尾のパエトン
    • 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
    • 種小名:lepturus (合) 細い尾の (leptos細い oura尾 Gk)
    • 英名:White-tailed Tropicbird
    • 備考:6亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは dorotheae (オーストラリアの発生学者 Henry Luke White の妹の Dorothy Ebsworth White 由来) とされる。
  •  サケイ目 PTEROCLIFORMES サケイ科 PTEROCLIDAE 

  • サケイ
    • 学名:Syrrhaptes paradoxus (シュルラプテス パラドクスス) 変な縫い合わされた指の鳥
    • 属名:syrrhaptes (合) 縫い合わされたもの (syrrapto 縫い合せる -tes (接尾辞) 〜するもの Gk) 羽の生えた足の指がつながっているため (Helm Dictionary)
    • 種小名:paradoxus (合) 予想外の、驚くべき、変わった (paradoxos 定説に逆らうものの意 Gk)
    • 英名:Sandgrous, IOC: Pallas's Sandgrouse (プロイセンの生物学者 Peter Simon Pallas に由来)
    • 備考:単形種。 Pallas (1773) の記述ではライチョウ属とノガン属の両方の特徴を示し、様々な点でそれぞれの属にない特別な特徴が見られるとのこと (The Key to Scientific Names)。 種小名の原意はこのように解釈するとよさそうである。 サケイはハトのように水を吸うことができると考えられていたが、そうではないとのこと: Cade et al. (1966) Drinking behavior of sandgrouse in the Namib aud Kalahari deserts, Africa。 サケイ目に最も近縁なグループはマダガスカルのクイナモドキ目 (Mesitornithidae)。これら2目とハト目 で Columbimorphae の系統をなす。 Hackett et al. (2008) A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History (#ミサゴの備考にも登場) ではサケイ目、クイナモドキ目、ハト目の順に分岐する結果が得られている。Prum et al. (2015) (#アマツバメの備考参照) では前2者が逆順になっている。 いずれもハト目とはまとまるが系統的にはかなり離れていると考えてよい。
      [#鳥類系統樹2024] の Stiller et al. (2024) によれば {クイナモドキ目 + サケイ目} がまとまったクレードをなし、ハト目と並ぶ形になる。これらの2クレードの分岐年代は 6300 万年前程度と相当古い。 ハト目は2系統に分かれ (2300 万年前ぐらい)、{Raphinae ドードー/アオバト?亜科 + Claravinae アルキバト亜科? (南米の地上性のハト類)} の系統と Columbinae (多くのハト類を含む) の系統となる。 2300 万年前ぐらいには果実食のハト類と地上性ハト類がすでに分かれていたことになる。Claravinae に属する代表的な種である南米のイチモンジバト Columbina picui Picui Ground-Dove は乾燥環境を中心に住むのでハト目では早く (例えば 2300 万年前ぐらい以降) から乾燥地適応は進んでいたのだろう。 サケイ目、クイナモドキ目も同様なので、Columbimorphae 全体にその傾向があり、果実食のハト類が生態的にはむしろ例外的と言えるかも知れない。ハト目内の系統について #ズアカアオバトに備考に続く。
      様々なところに名前の出てくる Pallas (カワガラスの種小名などにも現れる) の日本語での読み方はいろいろな表記があり、パラス、パーラス、パラースを見たことがある。 原語のドイツ語発音であればアクセントは最初なのでパーラスとしてもよいかも知れない。Pallas の広く活躍したロシアでの発音はアクセントが後になるようで、こちらを重視すればパラースとしてもよい。どの言語を用いるか次第の問題でどれも正しいと言って構わないようである。 なおギリシャ神話にも Pallas が登場し、男性は前アクセント、女性は後ろアクセントだそうである。 元素のパラジウム (Pd) の名称も直接の由来は小惑星パラスだが、遡れば神話で同じ語源になる。
  •  ハト目 COLUMBIFORMES ハト科 COLUMBIDAE 

  • ヒメモリバト
    • 学名:Columba oenas (コルンバ オエナス) ハト
    • 属名:Columba (f) ハト
    • 種小名:oenas < oinas, oinados ハト 古Gk, Aldrovandus (1599) が Oenas (Gk) と用いた
    • 英名:Stock Dove
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。 種小名に使われる oenas は他の種ムラサキサンジャクでワイン色の意味で使われるが、ギリシャ語の由来 (oinos) が異なる (The Key to Scientific Names)。2亜種あり(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明とされる。 英名の由来は雑木の切り株 (stock の古めの英語での意味) に群生する枝の間に巣をつくることから (コンサイス鳥名事典)。
  • カラスバト
    • 学名:Columba janthina (コルムバ ヤンティナ) 紫色のハト
    • 属名:Columba (f) ハト
    • 種小名:janthina (合) 紫色の(hyachinthus (m) ヒアシンス -inus 〜に属する)
    • 英名:Japanese Wood Pigeon
    • 備考:3亜種あり(IOC)。 基亜種 janthina 亜種カラスバト、nitens (輝く) アカガシラカラスバト、stejnegeri (ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Stejneger に由来) ヨナグニカラスバト。 種として天然記念物。 アカガシラカラスバトは絶滅危惧IA類 (CR)、ヨナグニカラスバトは絶滅危惧IB類 (EN)。 亜種カラスバトは準絶滅危惧(NT)。
  • オガサワラカラスバト
    • 学名:Columba versicolor (コルムバ ウェルシコロール) 変わる色のハト
    • 属名:columba (f) ハト
    • 種小名:versicolor (adj) 変わる色の、多彩な色の
    • 英名:Ogasawara Islands Wood Pigeon, IOC: Bonin Wood Pigeon
    • 備考:絶滅種
  • リュウキュウカラスバト
    • 学名:Columba jouyi (コルムバ ジョウイイ) ジョウイのハト
    • 属名:columba (f) ハト
    • 種小名:jouyi (属) jouyの (アメリカの博物学者 Pierre Louis Jouy 由来)
    • 英名:Ryukyu Wood Pigeon
    • 備考:絶滅種
  • キジバト
    • 学名:Streptopelia orientalis (ストゥレプトペリア オリエンタリス) 東洋の首飾りのあるハト
    • 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
    • 種小名:orientalis (adj) 東洋の (-alis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Oriental Turtle Dove
    • 備考:5亜種(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 orientalis 亜種キジバトと stimpsoni (アメリカの技師で北太平洋を探検した William Stimpson に由来) リュウキュウキジバト。 望月 (2021) mtDNA ハプロタイプが大きく2系統に分かれるキジバトの集団遺伝構造の解明 ミトコンドリア DNA と核 DNA のハプロタイプの遺伝構造の違いについての暫定的報告が紹介されている。 Birder 34(6): 70 に関連記事 (2020) がある。
      ヨーロッパに広く分布するコキジバト Streptopelia turtur European Turtle Dove に近縁。こちらの turtur は Linnaeus (1758) の記載 (Columba turtur) には生息地はインドとなっていたが誤りで実際は英国とされるとのこと。 Turtur属は上記 turtur ではなく、アオフバト Turtur afer Blue-spotted Wood Dove がタイプ種と実は結構ややこしい。Garsault (1764) がアオフバトに対して Turtur属を正しい二名法で先に用いていたと認定されたため。 Turtur属はアフリカ南部に生息。 Streptopelia属はシラコバトをタイプ種として Bonaparte (1855) が用いたもの。シラコバトの decaocto は記載時は変種名だったにもかかわらず亜種名と認められてタイプ種となり、先取権利の規則により最も普及していたはずの名称の turtur はタイプ種として残らなかった。 同様の事例が分類見直しで#ミソサザイで発生する可能性がある。
      英名の turtle はラテン語 turtur の変形で 1300 年ごろから使われているとのこと。一方カメを意味する方の turtle は由来不明のフランス語 tortue, tortre (13世紀) 由来で 1600 年ぐらいから使われているとのこと。tortoise の方が英語での用例は古く、これはラテン語 tartaruchus に遡ることができるとのこと (Ethymology Online)。
      turtur がラテン語のためヨーロッパ言語でも広く使われている。ロシア語やウクライナ語では gorlitsa, gorlitsya と系統が異なるが、これは gorlo (のど) が由来で、着眼点それほど違わない。クロアチア語やチェコ語なども子音交代が起きているが同様の単語を用いている。
      発声全般については #タンチョウの備考 [ツル類やハクチョウ類の気管・鳥の発声メカニズム] 参照。 #ウグイスの備考 [ウグイスは息を吸う時に声を出すか] でハト類を取り上げている。ハト類のこもったようなクーの声は息を吐きながら短い間隔で息継ぎをしつつ作っていると思われる。
  • シラコバト
    • 学名:Streptopelia decaocto (ストゥレプトペリア デカオクト) 18(デカオクト)と鳴くハト
    • 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
    • 種小名:decaocto (合) 18 (Gk)
    • 英名:Eurasian Collared Dove
    • 備考:鳴き声からギリシャ人は Decoctouri、フランス人は Dixhuit と名付けたと Sibthorp (1795) が記載している。こきつかわれた女中が年に 18 回コインしかもらえないことを嘆いていたが、ゼウス神によってハトに変えられて"Deca-octo"と嘆きの声で鳴き続けたとのギリシャの神話がある。 古代ローマの百人隊長が十字架上のイエスを憐れみ、価格が 18 コインであることを繰り返すことを主張した老婆から牛乳を買って捧げようとしたが17コインしか持っていなかった。強情な老婆は呪われて 18、18 としか鳴けないハトに変えられた。17 と鳴くと人間の姿に変えられるのだが、19 と鳴けば世界が終わりに近づく、とのギリシャの伝説がある (The Key to Scientific Names, wikipedia 英語版)。 単形種。天然記念物。
      亜種が用いられていたこともあり、森岡 (2003) Birder 17(11): 56 に石垣島で2003年1月に観察されたシラコバトの考察があり、亜種 stoliczkae に似ているが基亜種のシノニムとするのが妥当との見解がある。
  • ベニバト
    • 学名:Streptopelia tranquebarica (ストゥレプトペリア トゥランケバリカ) インドのトランケバールのハト
    • 属名:streptpelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 柔軟な (peleia)ハト Gk)
    • 種小名:tranquebarica (adj) インドのトランケバール Tranquebar の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Red Collared Dove
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録される亜種は humilis (小さい、つつましい、地面のなどの意味) とされる。
  • キンバト
    • 学名:Chalcophaps indica (カルコパプス インディカ) (東インド会社時代の) インドのブロンズ色ハト
    • 属名:chalcophaps (合) ブロンズ色ハト (khalkos ブロンズ phaps, phabos ハト Gk)
    • 種小名:indica (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する) 東インド会社時代の地名。備考参照。
    • 英名:Emerald Dove, IOC: Common Emerald Dove
    • 備考:6亜種あり(IOC)。日本の亜種は yamashinai (日本の鳥類学者 Yoshimaro Marquis Yamashina 由来) とされるが、世界の主要リストではほとんど認められておらず、基亜種 indica のシノニムとするのが一般的。
      種小名は indica で、インドにも分布するため意味の解釈は何の問題もないように見えるが、これは現在のインドではなく東インド会社時代の東インド由来とのこと (#サシバと同様) (wikipedia 英語版より)。 原記載 生息地は India orientalis (東洋のインド) となっている。ここが基産地となるが、マレーシア、インドネシア、フィリピンからインドにかけて基亜種が分布するため、亜種名を与える際にあまり問題が発生しなかったよう。 もしインド亜大陸と東南アジアが別亜種とされることがあれば、インド亜大陸の方の亜種名が変わる可能性がある。 基産地については Chalcophaps indica (Linnaeus, 1758) に解説があった。East Indies (as India orientali), Salvadori (1893) "Catalogue of the Birds in the British Museum" とのこと。 Stresemann が示している基産地 Amboina (アンボン島 インドネシア東部モルッカ諸島) はシノニムとなった学名の基産地で Linnaeus (1758) の原記載とは異なるとのこと。
      Hachisuka (1938) A new Race of Bronze-winged Dove (yamashinai の記載文献) では台湾のもの (Swinhoe による formosanus。これも現在は通常基亜種のシノニムとされる) と異なると述べている。India, Indo-China, S. E. China, Java と測定値を比較しているが、これらは基亜種とみなす記述になっている。台湾のものはこれらとは異なる可能性があると述べている。
      天然記念物 (指定名称は「リュウキュウキンバト」)。絶滅危惧 IB 類 (EN)。世界的には懸念なし (IUCN 3.1)。
  • アオバト
    • 学名:Treron sieboldii (トゥレロン シーボルディイ) シーボルトのハト
    • 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
    • 種小名:sieboldii (属) シーボルト Philipp Franz Balthasar Freiherr von Siebold (ドイツの医師、博物学者で、日本で 1823-1829年に採集活動を行った) の (ラテン語化した sieboldius を属格化)
    • 英名:Japanese Green Pigeon, IOC: White-bellied Green Pigeon
    • 備考:日本から中国南東部、台湾に分布。4亜種あり(IOC)。日本の亜種は基亜種 sieboldii とされる。 「アオバトのふしぎこまたん著 (エッチエスケー 2004) にアオバトの由来から特異な習性、繁殖などの興味深い情報が満載された本がある。巣を見つけることは非常に難しいようである。
      「アオバトのふしぎ」では中国の図鑑に基づきアオバトを4亜種に分けている。現在の IOC も亜種は同じなのでリストしておく:
      sieboldii (日本と中国東部)、 ・sororius (台湾)、 ・fopingensis (中国四川省東部から上海南部)、 ・murielae (中国南部中央からベトナム北部、中部、タイ北部)。
      「アオバトのふしぎ」によれば sieboldii の中国記録は 1933 年の1例で日本人が持ち込んだ飼い鳥らしいとの見解が中国の研究者により示されているそうである。 また九州以北の日本と台湾は不連続分布を示し、南西諸島にはズアカアオバトが分布する地図が 示されている。この地図では台湾近くの中国の分布を sororius としている。 sororiussieboldii を同一と捉える立場もある。Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) によれば別亜種とする根拠は Cheng Tso-hsin (1987) だが根拠は弱い (Collar 2004) との記載がある。
      神奈川県立生命の星・地球博物館のアオバトのページ
      [アオバトが海水を飲む行動の意義] 神奈川県大磯町照ヶ崎海岸でアオバトが海水を飲む行動はよく知られている。上記「アオバトのふしぎ」にも詳しいが、少なくとも英語圏にはほとんど情報が出ていないようで引用できる英語文献もほとんどないようである (「アオバトのふしぎ」を引用すればよいのだろうがあまりにも "in Japanese" 過ぎるのかも知れない)。
      Sundukov and Sundukova (2016) The white-bellied green pigeon Treron sieboldii in the Southern Kuriles (pp. 4203-4208。極東の鳥類43: 千島列島特集 で和訳が読める。この号にはアオバト情報がかなり含まれている) に千島でのアオバトの記録があるが海水を飲む行動は観察されていない。 サハリンでは記録があるとのこと: Zdorikov (2016) New data on some rare birds of Sakhalin Oblast (pp. 4038-4042, Smirnov による飲水写真があり、ビデオも撮影されたとのこと p. 4040)。 (千島のアオバト調査の記事) にも解説記事 (2017)がある。営巣は (確認が難しいことはわかっているが) 確認できなかった。 ロシアでも紹介ビデオがあり アオバト (ロシア語) 映像は日本のものだろうか。最もよく調べられている日本でさえも少数の巣が知られているのみとある。小犬のような、あるいはカエルのような声を出すと比喩されており、「笛吹きバト」の異名もあるとのこと。 アオバトは世界でも最も驚くべき鳥の一つで、研究者が将来秘密を明らかにしてくれるかも知れないと結んでいる。
      ハト類は一般に塩を好むことは知られていて、レース鳩に塩土を与える必要性が知られている (飼育小鳥用の塩土もあるがこちらはカルシウム補給の意義の方が大きそうである)。我々も塩を好むと言えばそう言えるように思え、 本当に必要な塩分量はずっと低い (無塩文化では一日 1 g で生活している。ナトリウム摂取が少ない場合には腎臓で再吸収される。基本的なメカニズムは脊椎動物で共通のようである) ことも知られているのでここでは考察範囲を野生のハト類とする。
      アメリカのナゲキバト Zenaida macroura 英名 Mourning Dove を捕らえる時のおびき餌として塩を使う情報があった。 鉱物を食べる (geophagy) 行動は果実食のコウモリで知られていてミネラルを補給するため、あるいは植物由来の毒を中和するためなどの役割が考えられていたが、Voigt et al. (2011) Nutrition or Detoxification: Why Bats Visit Mineral Licks of the Amazonian Rainforest によればミネラル補給よりも子育て時に大量の食物を摂食するため植物由来の有毒物質の中和に役立っているのではとのこと。 鳥類における鉱物食についてこの文献に触れられている研究は2つで Brightsmith and Munoz-Najar (2006) Avian Geophagy and Soil Characteristics in Southeastern Peru と Gilardi et al. (1999) Biochemical Functions of Geophagy in Parrots: Detoxification of Dietary Toxins and Cytoprotective Effects で前者はどちらかと言えば胃石関連、後者ではオウムに粘土を与えることで植物の有毒物質の吸収が大きく抑制された結果が出ている。 この文脈での研究は多少あるようだが、アオバトの事例とは異なるかも知れない。 Downs et al. (2019) More than eating dirt: a review of avian geophagy のレビューで6種類の役割が考えられている。系統的には散在して発生しており 2% の種にしか認められずまれな習性のよう。 比較的よく調べられてきたのは陽イオン交換でナトリウムやカルシウムイオンと陽イオンの植物由来の毒物 (例えばアルカロイド) を交換することで毒物を排泄する機能 (他の機能もあるが海水とは関係なさそうなので省略)。 鉱物食は果実食の鳥と関連があってナトリウム補給の意味がある研究が増えてきているとの記述がある。 ハト類での研究例として Sanders and Koch (2018) Band-Tailed Pigeon Use of Supplemental Mineral が挙がっている。この研究ではオビオバト Patagioenas fasciata 英名 Band-tailed Pigeon を実験に用いているがカルシウムよりもナトリウムを求めているとのこと。例えば卵にはそれなりの量のナトリウムが含まれるので果実食の鳥では食物以外に補助的なナトリウム源が必要である。 水分とカリウムの多い果実では水を大量に排泄するためその時にもナトリウムが失われる。ピジョンミルクを与える際にもナトリウムが失われる。 オビオバトの場合はナトリウムを求めてやってくるとのことで冬にも少ないが観察事例がある。この論文では特に卵やピジョンミルクにナトリウムが必要と考えている。 この研究の中でバードリサーチのアオバトのページ Japanese Green Pigeon [Bird Research News Vol. 8 No. 9 Osaka et al. (2011) 英文] への言及があり、オビオバトの状況と同様と考えられるが大磯のアオバトでは冬には海水を飲む行動は観察されないとのこと。
      [ハト類の飲水行動の由来] ハト類が水を飲む時に頭を上げずに吸うことができうことはよく知られていて、ピジョンミルクを飲むために発達した行動としばしば解釈される。 Hallager (1994) Drinking methods in two species of bustards によればハト類以外にも水を吸うことができる種類が散発的にあり、カエデチョウ科 Estrildidae、(Spermestidae 現在ではカエデチョウ科に統合されている)、ネズミドリ科 Coliidae、ミフウズラ科 Turnicidae、ノガン科 Otididae で報告例があるとのこと。吸い上げてから頭を上げて流し込む第3の方法もあるとのこと。 一般的には少ない水を効率的に利用する乾燥環境への適応と考えられているとのこと。
      Cade (1965) Relations between raptors and columbiform birds at a desert water hole のアフリカでの観察によれば、飲水行動中に猛禽類による捕食が危険で、ハト類はなるべく短時間に必要な水を飲む方法を発達させたと考えられるとのこと。水場に直接降りるハト類はおらず、近くに降りて安全を確認してから近寄るという。
      Cade et al. (1966) Drinking behavior of sandgrouse in the Namib aud Kalahari deserts, Africa がナミブ、カラハリ砂漠でのサケイの飲水を報告している。この行動が系統的に決まっているとの考えは Lorenz (1939) まで遡るとのこと [コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz が何を考えていたかも含め、#ハイイロガンの備考も参照]。 Wickler (1961) がカエデチョウ科 (オーストラリアのものだそうでいかにも乾燥地域) や ズグロムシクイ科 Sylviidae の鳥でも見られるとの過去の報告を取り上げ、系統で決まっているわけではないと主張。さらにネズミドリ科でも見つかった。 ハト類の中でも原始的とされたオオハシバト Didunculus strigirostris Tooth-billed Pigeon ではガンのように水を飲むとの反例を示した。 こんなところにもコンラート・ローレンツの動物行動学解釈の流れをめぐる議論があった。 この論文ではサケイ類のことが述べられているが、クロハラサケイ Pterocles orientalis Black-bellied Sandgrouse では 150 ml まで飲むことができるという伝説的な報告もある。この論文の観察では1回に飲む量は 1.5 ml ぐらいで7回繰り返し、しばらく間を置いて 3 ml を飲んだという。これが典型的な最大値だろうとのこと。
      Cade and Greenwald (1966) Drinking behavior of mousebirds in the Namib Desert, southern Africa にネズミドリ類についての報告。高温に晒すと同じタイプの飲水行動を示した。ハト類との驚くべき収斂進化としている。 Speckled Mousebirds drinking water by sucking and keeping the head down (チャイロネズミドリの飲水ビデオ)。
      特化した舌を利用して吸う行動は蜜を吸う鳥 (ハチドリ類、ミツスイ類) やオウム類で知られている。 こちらは比較的時流に乗っているようで研究をいくつか紹介しておく。 Rico-Guevara et al. (2015) Hummingbird tongues are elastic micropumps 毛細管現象との従来の解釈は誤り。 Rico-Guevara and Rubega (2017) Functional morphology of hummingbird bill tips: their function as tongue wringers 嘴の構造と舌の作用で送り込む。 Hewes et al. (2023) How do honeyeaters drink nectar? ミツスイ類の研究。ハチドリ類と類似点もある。
      通常の鳥類が哺乳類のように水を飲まない理由は食道の蠕動運動がないためとしばしば説明されるが、これも正しくないよう。ニワトリの食道蠕動の研究例: Bartlet (1973) Myogenic peristalsis in isolated preparations of chicken oesophagus など。 ハトの研究もあり Fileccia et al. (1984) Primary peristalsis in pigeon cervical oesophagus: two EMG patterns
      鳥類の食道は調べられている範囲で平滑筋で、哺乳類では横紋筋と平滑筋が混ざっているがその機能的違いはそれほどはっきりしていない。 Edeani et al. (2023) Effect of Inter-swallow Interval on Striated Esophagus Peristalsis; A Comparative Study with Smooth Muscle Esophagus のように横紋筋の方が急速な反復運動に適しているらしいとの実験結果が報告されている。これは主にヒトの誤嚥に関係して行われた研究。
      [その他] Siebold の読み方は多少注意が必要かも知れない。学名の発音は上記でよいと考えられるが、人名を表記する場合標準ドイツ語だとジーボルトとなる。wikipedia 日本語版によればオランダ国籍で入国しており、出身地方言での発音も濁音にならないことが多いそうで、日本語表記は通常使われるシーボルトとした。 ドイツ語ではジーボルトと読まれているだろう。文字から発音がわかるロシア語でも濁音で記載されている。
  • ズアカアオバト (分類次第で学名が変わる)
    • 学名:Treron formosae (トゥレロン フォルモサエ) 台湾のハト(分類によって非常に大きいハト)
    • 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
    • 種小名:formosae (属) 台湾の (formosa 台湾 < ポルトガル語で Ilha Formosa 美しい島 と名付けられた)
    • 英名:Whistling Green Pigeon, IOC: Ryukyu Green Pigeon (備考参照)
    • 備考:IOC では独立種 Treron permagnus (per- 非常に magnus 大きい) 英名 Ryukyu Green Pigeon とされ、Treron formosae 英名新称 Taiwan Green Pigeon に分離された (将来別種とされるならば和名はタイワンズアカアオバトが過去に使われている)。
      世界の主要リストでは IOC は 11.2 以降、HBW/BirdLife はこの分類を採用。Clements、Howard and Moore は Treron formosae の亜種としている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では後者の扱い。IOC の扱いではそれぞれ2亜種、2種を分離しない扱いでは4亜種となる。 日本で記録される亜種は permagnus [IOC の扱いでは Ryukyu Green Pigeon の基亜種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)の和名では亜種ズアカアオバト。過去には亜種リュウキュウズアカアオバトとも呼ばれていた] と medioximus (中央にある) チュウダイズアカアオバト とされる。後者は IOC 扱いでは Ryukyu Green Pigeon の亜種。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではタイワンズアカアオバトを検討亜種として扱っている。 和名ズアカアオバトの由来は後述。日本で記録される(亜)種は頭が赤くないので、IOC の分類に従えば現在の和名が特徴に一致しなくなる可能性が残る。
      [ハト類の系統分類] Nowak et al. (2019) A molecular phylogenetic analysis of the genera of fruit doves and their allies using dense taxonomic samplingが分子遺伝学的研究を行っている。これによれば日本のアオバトもサンプルに入っているが、ズアカアオバトは入っていない。 Treron 属の独立性はこの論文の系統樹からは問題なさそうであるが、日本周辺の関連種がサンプルされていないのでそれらとの関係はわからない。 アフリカの種類である Turtur 属と Oena 属も統合される可能性がありそうである。Treron 属とこれらのグループを含めて "fruit pigeons and doves" または "fruit doves" と呼ばれ、かつては亜科 Treroninae (おそらくアオバト亜科) をなすとされていたが、 遺伝系統研究で範囲が広がり先取権の原則から亜科 Raphinae (絶滅種ドードー Raphus cucullatus を含む) と呼ぶのが適当とされている (ドードー亜科、かつては独立科とされてドードー科だった。wikipedia 日本語版の出典はやや古いので、この 2019 年論文を参考にするのがよさそうである)。 もしこの分類階層を加えて記述すれば「ドードー亜科アオバト属」のようになる。後述のように 亜科 Raphinae の範囲をもっと狭める (細分化する) 分類もあり、その場合は 亜科 Treroninae の名称が復活する (例えば Boyd の分類)。 「ドードー亜科アオバト属」であればこれはこれで面白いであろう。どのぐらい過去の絶滅種まで現代の分類に取り入れるかは議論があるのかも知れないが、世界の主要リストはドードーを含めている。eBird でももし万一観察できれば報告できる扱いになっているのではないかと思われる。
      系統樹はまたハト類の他の属の位置づけに問題がある可能性を示している。他の文献などををよく調べたわけではないが、Streptopelia 属 (キジバト属) とColumba 属 (カワラバト属) は系統樹上で区別できない可能性がある。 もう少し研究が進めばキジバト属はカワラバト属に統一されるかも知れない (2019 年時点)。これらはこの文献では亜科 Columbinae (カワラバト亜科?) に属する。
      Oliver et al. (2023) Oligo-Miocene radiation within South-west Pacific arc terranes underpinned repeated upstream continental dispersals in pigeons (Columbiformes) fig. 2 に世界分布と分子系統樹があり、Supplementary data (figs. S4, S5) により詳しい分子系統樹がある (系統に関心のある方はぜひダウンロードしてこちらを見て欲しい。ただし伝統的な遺伝子を用いた解析)。 この研究で状況が改善され、Streptopelia 属、Columba 属はそれぞれ単系統をなしており問題ない。 Streptopelia 属、Columba 属ともに系統的には古めで、種分化年代も集中しておらず、特に草原の広がり (例えば C4 植物) に合わせて急激な種分化を果たしたグループではなさそう。 この部分が気になったのは「野鳥」1994年7月号 (No. 571) にハト類の特集があり、上田氏が果実食のハト類から草原で植物食のハト類が進化した可能性を推定されていたため (pp. 4-7)。以下の考察もこの記事を参考にした。 #サケイの備考のようにハト類を含む古い系統 (Columbimorphae) から乾燥地適応はすでにあったのだろう。 位置づけがまだはっきりしていないが、ハト類の最も古い系統と考えられるクロヒゲバト Starnoenas cyanocephala Blue-headed Quail-Dove / Blue-headed Partridge-Dove (キューバの低地にのみ生息し、絶滅が危ぶまれている) も森林の地上で採食しハト類の生活様式の原型に近いかも。
      メラネシアからフィリピンの果実食のハト類 (fruit doves) Ptilinopus (ヒメアオバト) 属 がむしろ比較的最近種分化を遂げている。アオバトの系統 Treron とは少し離れている。Ptilinopus 属 は単系統でハト類中でも大きなグループをなすことがわかる。これも "ドードー亜科" に含まれる。
      Treron 属はむしろ Turtur 属に近い関係となった。Treron 属そのものは単系統で問題なし。 これらをまとめたクレードの名称は Treroninae: Emerald and Wood Doves, Green-Pigeons (Boyd による。細分する場合はこのクレードを "アオバト亜科" と呼ぶのが適切そう)。
      Treron 属の適応放散は 1500 万年前以降と推定される。これらのハトが緑の色彩なのは空からの捕食者対策とする考えがある。広義 Accipiter 属を考えると (#カッコウの備考 [カッコウのタカへの擬態] 参照)、南方系の Tachyspiza 属が東南アジアに分布を広げたのが 700 万年前ぐらい (ただしアカハラダカは小型すぎる)。 狭義 Accipiter 属は日本ではハイタカの分布が重なるがあまり低緯度には分布しない。Astur 属のオオタカも同様。シロハラオオタカ Astur meyerianus Meyer's Goshawk はニューギニア付近では候補となる。 狭義 Accipiter 属、Astur 属 ともに適応放散は遅いので Treron 属以前から存在した捕食者ではなさそう。ハヤブサ類も遅く状況は同様。 クマタカ類などを含むイヌワシ亜科は 1500 万年前以降以降の系統で、特に問題となりそうなクマタカ類は 1000-500 万年前ごろに種分化を遂げている。やはり Treron 属より少し遅そう。より古い系統のチュウヒワシ亜科 Circaetinae、ハチクマ亜科 Perninae、さらに カタグロトビ亜科 Elaninae は時期的には可能性があるが現在ハト類を食べている種類はあまりなさそう。 緑色のハト類の保護色は空からの捕食者が現れてから後に身につけたものか、あるいはチュウヒワシ亜科や ハチクマ亜科にもハト類を食べる種類が存在したのか。チュウヒワシ亜科やハチクマ亜科 - カタグロトビ亜科につながる系統も強力な絶滅種を生んでいるので可能性は十分ありそう。 小鳥を捕まえるほど敏捷さが要求されないハト類は絶好の獲物で、初期のタカ類でもよい捕食者になっていたのかも。
      Xu et al. (2021) は分子遺伝学的には Treron 属はあまり研究されていないと述べ、ハシブトアオバト Treron curvirostra 英名 Thick-billed Green-Pigeon のミトコンドリアゲノムを解読したものが最初としている The mitochondrial genome and phylogenetic characteristics of the Thick-billed Green-Pigeon, Treron curvirostra: the first sequence for the genus で、Treron属と Hemiphaga属 (ニュージーランドバトともう1種) と類縁関係にあることが示された。 Chen et al. (2022) が オナガアオバト Treron sphenurus 英名 Wedge-tailed Green-Pigeon を同様に調べて同様の結論を得ている: Complete mitogenome of Treron sphenurus (Aves, Columbiformes): the first representative from the genus Treron, genomic comparisons and phylogenetic analysis of Columbidae。 この2論文は (日本には分布しないが) アジアの種を扱っている点は貴重である。しかし Nowak et al. (2019) をよく研究したものかどうかは疑問である。 音声的にも Ryukyu Green Pigeon と Taiwan Green Pigeon の間にそれほど違いがあるわけではないようである。同種にするか別種にするかは現代的なレベルの根拠のない段階で、どちらを採用するのがより適当かまでは議論できないようである。 Oliver et al. (2023) でも同様の位置づけでアオバトとは明瞭に分離できるが、Ryukyu Green Pigeon と Taiwan Green Pigeon は系統樹サポートは不完全。調べられた遺伝情報がまだ少なすぎる模様。
      [和名の由来] コンサイス鳥名事典では (当時の分類で) フィリピン産の亜種 T. f. australis は頭頂部が明るい赤銅色で、和名はそれに由来すると述べられている。しかしこの亜種名は現代の分類ではマダガスカルの Treron australis の名称であり、Treron formosae の亜種には出てこない(filipinus はある)。詳しい経緯を確認できなかった。またアオバトとズアカアオバトを含めて Sphenorus 属とすることもあったとの記載があった。
  • クロアゴヒメアオバト
    • 学名:Ptilinopus leclancheri (プティリノプス レクランケルリ) ルクランシェールの足に羽毛のある鳥
    • 属名:ptilinopus (合) 羽毛のある足 (ptilo 羽毛 pous 足 Gk)
    • 種小名:leclancheri (属) Charles Rene Augustin Leclancher (フランスの外科医、博物学者、探検家) の
    • 英名:Black-chinned Fruit Dove (= IOC, or) Leclancher's Dove
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。4亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは taiwanus (台湾の) とされる。
  •  アビ目 GAVIFORMES アビ科 GAVIDAE 

  • アビ
    • 学名:Gavia stellata (ガウィア ステッラータ) 星斑のある海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:stellata (adj) 星をちりばめた (stellatus)
    • 英名:Red-throated Diver, IOC: Red-throated Loon
    • 備考:単形種。英名 loon の由来は古英語 lumme、スウェーデン語 lom、スカンジナビア語 lum などが候補になっている。不具の、ぎこちないなどの意味で、陸上での動作を表したものであろう (wikipedia 英語版)。loon がアメリカ英語、diver がイギリス英語の呼称。 属名の gavia はラテン語でミコアイサを指すとのことで、白と黒で潜って魚を採る海鳥を古代ローマの人たちは区別していなかった可能性がある。 アビ類は18世紀までカモ類に分類されていて初期の博物学者は mergus (#カワアイサ参照) または colymbus (未同定の水鳥でカイツブリか? The Key to Scientific Names) と呼んでいた (wikipedia 英語版 Gavia 項目参照)。#ハシグロアビの備考も参照。 ここでは属名の解釈は The Key to Scientific Names に従って「未同定の海鳥」とした。 ロシア語名では gagara と声にちなんでわかりやすい。ドイツ語 Eistaucher (氷の潜水士)、ノルウェー語、スウェーデン語では islom で氷と上記 lom の合成。スペイン語では colimbo と colymbus が残っている。
  • オオハム
    • 学名:Gavia arctica (ガウィア アルクティカ) 北極の海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:arctica (adj) 北極の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Black-throated Diver, IOC: Black-throated Loon
    • 備考:2亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは viridigularis (viridis 緑の gularis のどの) とされる。
  • シロエリオオハム
    • 学名:Gavia pacifica (ガウィア パキフィカ) 太平洋の海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:pacifica (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Pacific Diver, IOC: Pacific Loon
    • 備考:単形種
  • ハシグロアビ
    • 学名:Gavia immer (ガウィア イムメル) ハシグロアビ
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:immer (外) ハシグロアビ ノルウエー語
    • 英名:Great Northern Diver (or) IOC: Common Loon
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。 記載時は属名 Colymbus が使われており、この属はアビ類の他にカイツブリ類も含んでおり、動物命名法国際審議会が Gavia属をアビ類に与えた1956年まで使われていた。 種小名の immer (ノルウエー語より) に近い他言語名はアイスランド語の himbrimi があり、語源をたどるとスウェーデン語 immer/emmer (灰) に、あるいはラテン語 immergo (浸す) または immersus (沈んだ) に由来する可能性があるとのこと (wikipedia 英語版より)。ドイツ語の immer (常に) と同じ綴りであるが語源の関連性はないようである。 普通に使われる単語ではないようだが英語 immer もアビ類を指す。
      Young Guns (2017) Birder 31(2): 44-47 にハシジロアビとハシグロアビの識別が出ている。 Common Loon の英名が示すように世界的にはハシグロアビが普通種で、ハシジロアビよりもデータはずっと豊富にあるが、日本ではハシグロアビの方がずっとまれ。
  • ハシジロアビ
    • 学名:Gavia adamsii (ガウィア アダムシイ) アダムスの海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:adamsii (属) アダムスの (ラテン語化して -iusを属格化) 発見者、英国の船医 Edward Adams
    • 英名:White-billed Diver, IOC: Yellow-billed Loon
    • 備考:単形種
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFOMES アホウドリ科 DIOMEDEIDAE 

  • コアホウドリ
    • 学名:Phoebastria immutabilis (ポエバストゥリア イムムタビリス) 色の変わらない女性の予言者のような鳥
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:immutabilis (adj) 不変の。一旦成鳥の羽衣になるとすぐに区別できるようになるため (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Laysan Albatross (ハワイ北西部レイサン島の)
    • 備考:単形種。 属名由来は Barwell (2012) What's In A Name? What Names For Albatross Genera Reveal About Attitudes To The Birds も参照。
  • クロアシアホウドリ
    • 学名:Phoebastria nigripes (ポエバストゥリア ニグリペス) 足の黒いアホウドリ
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:nigripes (adj) 足の黒い (niger (adj) 黒い pes (m) 足)
    • 英名:Black-footed Albatross
    • 備考:単形種。 気候変動の影響を大きく受けている種。These animals are racing towards extinction. A new home might be their last chance (Nature のニュース 2023)。 ハワイのクロアシアホウドリの移住が行われている。海水面に近いコロニーではすでに海面上昇と嵐によって多数のコロニーが失われている [出口 (2019) Birder 33(7): 32-33 にチャタムアホウドリと合わせて言及がある]。 同じニュースで扱われているオーストラリアの希少カメの場合について、科学者や保護団体には悩みもある。移住はほとんど最後の手段であり、費用もかかりリスクもある。移住が行われるカメの場合は (現時点で) 冷涼な気候で繁殖できるか未知の点がある。生育に非常に時間がかかるので成否が出るまでに (生息地の消失は危急の課題にもかかわらず) 長い年月を要する。
  • アホウドリ (センカクアホウドリ がこれまでの学名を引き継ぐ予定。学名未定のもう一種がアホウドリ)
    • 学名:Phoebastria albatrus (ポエバストゥリア アルバトゥルス) アホウドリ
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:albatrus (合) アホウドリ (Albatros アホウドリ 独)
    • 英名:Short-tailed Albatross
    • 備考:日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で2種に分離され、Phoebastria albatrusセンカクアホウドリ、もう一種は学名未定の和名アホウドリとなる見込み。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対してこの提案が出されていたが、その段階ではどちらが Phoebastria albatrus を引き継ぐか不明であったため保留とされた。 江田・樋口 (2012) 危急種アホウドリ Phoebastria albatrus は2種からなる!?、Eda et al. (2020) Cryptic species in a Vulnerable seabird: short-tailed albatross consists of two species、 Yamasaki et al. (2022) Neotype designation of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus (Pallas, 1769) (Aves: Procellariiformes: Diomedeidae) タイプ標本が失われているためかつて記載された Phoebastria albatrus がどちらを指すかわからなくなっていた。ここでネオタイプ標本を提示し、尖閣諸島で繁殖するより小型種を Phoebastria albatrus と再定義した。 鳥島などのより大型のもう1種については albatrus のシノニムから選ばれると思われるが、まだ確定できるまで(文献)調査が進んでいないということであろう。尖閣グループの鳥は鳥島も少数訪れるが行動も異なり、自身と同じグループの個体とつがいになるのを好むとのことである [Eda et al. (2016) Assortative mating in two populations of Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus on Torishima。 江田 (2021) Birder 35(6): 34-35 に「アホウドリは2種いると解明!」の記事がある。
      Royle et al. (2022) Documenting the short‐tailed albatross (Phoebastria albatrus) clades historically present in British Columbia, Canada, through ancient DNA analysis of archaeological specimens はカナダのブリティッシュコロンビアの古生物標本を調べ、鳥島グループ (Clade 1) が乱獲以前の過去にはずっと訪れていたが、少数は尖閣グループ (Clade 2) に属することを示した。両グループ (新分類では種) の分布は乱獲前においても違っていたことを意味する。 英名もいずれ修正されると思われる。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対して和名「オキノタユウ」への改名を求める意見も出されたが、変更した場合への影響が大きいと考えられるため変更しないとの見解になった (詳しくは原文参照)。不適切名称の改名の事例については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名] も参照。 長谷川 (2005) Birder 19(4): 26-27 はオキノタユウ (沖の太夫) の名称を解説し、記事全体もこの名称で記述している。 「オキノタユウの島で: 無人島滞在 "アホウドリ" 調査日誌」(長谷川博 偕成社 2015) は定年退職 (2014) に際してまとめられた本で、プロローグが「アホウドリからオキノタユウへ」となっている。自身が図鑑の名前を見て子ども心にもひどい名前をつけられた、かわいそうな鳥と思ったこと、 1990年代保護計画を小学校で紹介する際にデコイを見せると子どもたちがアホウと鳴くと考えたエピソードなどが語られている。この鳥の地球上での再生に見とおしが立った時点が、もっとふさわしい名前に変えるのによいのではないかと考えたことが述べられている。
      天然記念物。絶滅危惧II類 (VU)。IUCN 3.1 VU種。
      [語源や関連する用例] 種小名の由来は Albatros アホウドリ 独 とされ、The Key to Scientific Names にもそのようにあるが今一つすっきりしない。原記載 (Pallas 1769)。 属名 Albatrus が先に使用されていて (Brisson 1760。現在は使われない属名) こちらはフランス語 albatros 由来とある。言語出典までは必ずしも明確でなくて、ドイツ語でもフランス語でも albatros が同じように使われていて、記載者がドイツあるいはフランスだったのでそれぞれの言語由来と推定して割り当てただけかも知れない。
      ドイツ語の Albatros の由来は航海士の英語から入ったとのこと (wikipedia ドイツ語版より)。 スペイン語やポルトガル語の alcatraz で、現在は一般にはカツオドリ類を意味するが、もとは大型の水鳥、特にペリカンを指していたものが変形したと考えられるとのこと。 スペイン語やポルトガル語の alcatraz はアラビア語の al-qadus 水車の水をくむバケツ部分に由来し、ペリカンののど袋を連想されたらしいとのこと。あるいは al-ghattas "海のワシ" に由来すると考えられる (Etymology Online)。 alba- (albus) がラテン語で白の意味のため、おそらくこの影響を受けて語形が大きく変化したのではないかとのこと。 英語ではミズナギドリ目の鳥を指して使われており、以前にはグンカンドリ類も指していたとのこと。 フランス語の albatros も同じ語源の説明が書いてあってどこから入ったかは明確でなかった。
      wikipedia 英語版では In Hawaiian mythology, Laysan albatrosses are considered aumakua, being a sacred manifestation of the ancestors, and quite possibly also the sacred bird of Kane. Japanese mythology, by contrast, refers to the short-tailed albatross as ahodori, "fool bird", due to its habit of disregarding terrestrial predators, making it easy prey for feather collectors とハワイではコアホウドリが先祖を表す神聖な鳥との神話があるが、日本では "ばかな鳥" と扱っていて対照的であると記載されている。 同じページの西洋文化のところでは the most legendary of all birds (最も伝説的な鳥) で、神の創造の汚れない美しさを表したとされた。船乗りが実際には食べていたが、撃ったり殺したりすることは凶事につながると信じられていた。 死んだ船乗りの魂が宿っているとして捕まえたが放した事例などが紹介されている。
      伝説から転じて、albatross の語は逃れられない心理的な重荷 (呪い) の意味にも使われるようになった。出典は "The Rime of the Ancient Mariner" (1798) の詩からとのことだが一般的に使われるようになったのは1960年代からとのこと。現代でもさまざまな映画などで扱われる題材で、2011年には逃れられない重荷を表した "Albatross" という題の映画も英国で作られた (wikipedia 英語版)。
      和名に関しては The rare 'idiot bird' (Tobias Hayashi 2019) が語源を紹介している。英名の Short-tailed Albatross も (尾が短いことは他の Phoebastria, Diomedea属でも同じなので) 同様に silly (ばかげている) としている。 使われている What's in a name? は直訳すると「名前に込められたものは?」となるが、シェークスピアのロメオとジュリエットが由来らしい (名前というものにはどんな意義があるのか? とジュリエットが自問自答した部分。a rose by any other name どんな名前で呼んでもバラ、と続く)。 名前の意味を説明するとともに、掛詞のように用いておよそ実体を表していない和名であることを伝えたいのだろう (also silly のところで伝えたいことがわかる)。 What's in a name? のフレーズは学名解説でもしばしば現れる。ふさわしくない学名が付いてしまったが規約上変えられなく実体を反映しないものになっている場合を指す。 Barwell (2012) What's In A Name? What Names For Albatross Genera Reveal About Attitudes To The Birds (この文献は属名由来などの解説にもなっている) では、 英語の mollymawk (Thalassarche属などの一般名: オランダ語で mal ばか + mok カモメ 由来説がある)、gony/gooney (北太平洋の albatrosses を指した英語で OED では 1957, 1966年にも用例がある) などとともに also being the meaning of the Japanese words, aho-dori and baka-dori, "fool-bird", for the Short-tailed Albatross (Austin 284). The attitudes lying behind these sorts of names are those which legitimated the unrestrained exploitation of the environment, for profit, sport, or other motives, in the nineteenth and twentieth centuries. 19-20世紀の制約のない自然搾取時代の態度が残されたものとしている。
      この種の復活物語を英語に翻訳された The Recovery of the Short-Tailed Albatross: A Preservation Success Story (Ishi Hiroyuki 2017) 記事では "屈辱的な" を derogatory と訳してある。
      "アホウドリ" の名前は輸出され、何と海外 (ベトナム) でも使われていた: Galapagos Aho Dori - Wikipedia
      [鳥の繁殖開始年齢と繁殖様式の関係] Taylor and Prum (2023) Social Context and the Evolution of Delayed Reproducytion in Birds に preprint 段階であるが繁殖開始年齢と繁殖様式の関係の研究結果がある。 体のサイズと繁殖開始年齢の相関はこれまで知られていたが、共同繁殖を行ったりやレックを作る鳥の繁殖開始が遅い仮説を補強する証拠を見つけた。体の成熟に加えて採食行動を身につけるなど社会的行動を獲得するのに時間を要するとの考え方がある。社会性と成熟の遅さはいずれが原因と結果の関係になるかはわからない部分がある。 コロニーで繁殖するハイガシラアホウドリ Thalassarche chrysostoma Grey-headed Albatross の13年、共同繁殖をするヒゲワシで10年などのモデル推定値が得られた。ワタリアホウドリの野外研究では11年とのこと。 繁殖開始年齢と繁殖様式を含めた系統樹が示されているのでご覧いただきたい。 データは Data and code repository for the manuscript: Social context and the evolution of delayed reproduction in birds にあるので詳しく見ていただければ興味深い情報がみつかるかも知れない。文献から繁殖開始年齢を調査した一覧が data_raw_2023-07-23.xlsx にある。
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFORMES ミズナギドリ科 PROCELLARIIDAE 

  • フルマカモメ
    • 学名:Fulmarus glacialis (フルマルス グラキアリス) 氷の臭いカモメ
    • 属名:fulmarus (合) 臭いカモメ (Fulmar 古ノルド語で臭いカモメ; 英語の foul mew に対応)
    • 種小名:glacialis (adj) 氷の (glacies (f) 氷 -alis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Fulmar (or) IOC: Northern Fulmar
    • 備考:種小名「氷の」はこの種の場合スピッツベルゲン島を指す。3亜種(IOC)あり、日本で記録されるものはベーリング海近くに分布する rodgersii (アメリカ軍人で探検家の John Rodgers 由来)。属名の由来はミズナギドリ科の構成種は本種に限らず危険を感じると口から液体を吐き出す防御行動を取ることに由来する (wikipedia 日本語版)。
      Fulmarus属 (フルマカモメ属) は Northern Fulmar と Southern Fulmar Fulmarus glacialoides (ギンフルマカモメ、南半球南部の大陸沿岸から南極大陸沿岸にかけて分布) の2種のみ。姿はカモメ類に似ているが、系統的にはかなり異なり、ミズナギドリ目に属する。 トロール船の活動に伴って20世紀に分布を広げたとされ、世界の大部分の地域で個体数は増加している (wikipedia 英語版)。
      [におう鳥のリスト] 珍しい研究として Weldon and Rappole (1997) がアンケート調査によって (さまざまな意味で) においが感じられる、あるいは毒気を感じる (ヒトにとって不快な味がする *1) 鳥のリストを挙げている: A Survey of Birds Odorous or Unpalatable to Humans: Possible Indications of Chemical Defense。これは鳥類におけるにおい物質による化学防御やコミュニケーションの役割を考えるのに役立つ。 アンケートに応じた鳥類学者も好意的な反応で、常日頃知りたい、あるいは情報を残しておきたいと思いつつももまとまった研究がなかったので興味津々だったのかも知れない。 新世界カッコウの仲間の Ani (Crotophaga) は集団でいると数 m 離れていてもわかるぐらいだそうである。フルマカモメはもちろん、ツメバケイ、ヤツガシラのような有名な種も含まれている。 スズメ目ではムクドリモドキ (grackles, Quiscalus) はだいたいにおう。アンチルクロムクドリモドキ Quiscalus niger Greater Antillean Grackle は足がにおうとの報告があり、におい物質は尾脂腺由来と一般に考えられているのと異なる。オウム類は一般にもよく知られている通りで、この調査でもたくさん見つかっている。 新世界ハゲワシは嗅覚が優れているが、多くの人がにおいを報告している。死体のようなにおいがするのでハゲワシの肉は他のスカベンジャーも食べようとしないとされる。しかし旧世界ハゲワシはそうではない。 ミサゴ (これは救助個体などでよく知られている。#ミサゴの備考参照) とカラカラもにおう方に入っている。 同著者による Weldon (2023) Chemical aposematism: the potential for non-host odours in avian defence 化学防御のレビュー論文があり、さまざまな種類の鳥での分泌物質研究やカや寄生虫の防御などの情報がまとめられている。エトロフウミスズメやヤツガシラなどの分泌物質などもレビューされている (#エトロフウミスズメ#ヤツガシラの備考参照)。
      キツツキの仲間で Hemicircus属は腺でなく、背中のヒゲのような特殊な羽 (fat quill) からにおいを出す脂肪分を分泌している。Bock and Short Jr. (1971) "Resin Secretion" in Hemicircus (Picidae) が調べたところでは分泌している皮脂腺は見当たらなかった。 尾脂腺以外の鳥の皮膚からの分泌については、Menon and Menon (2000) Avian Epidermal Lipids: Functional Considerations and Relationship to Feathering によれば、鳥には尾脂腺以外の皮脂腺は知られていないが、皮膚に脂肪が含まれていて分泌される例もある (ニワトリのとさか、指の間の水かきなど)。脂肪を出して皮膚を防水するよりは水分蒸発で体を冷やす機能の方を優先している (皮膚が水分をよく通すことで高い体温を逃したり飛翔時に体を冷やすのに役立つ)。 毒鳥 (Pitohui) の分泌も皮膚機能の一つ。 皮膚からの色素分泌については#トキの備考も参照。
      Haeglin and Jones (2007) Bird Odors and Other Chemical Substances: A Defense Mechanism or Overlooked Mode of Intraspecific Communication? によればにおう鳥のすべてが尾脂腺を持っているわけではない。エトロフウミスズメも、フルーツのような甘い香りのするニュージーランドの飛べないオウムのフクロウオウム (カカポ) Strigops habroptila も尾脂腺から出たばかりの分泌物は人にはにおいを感じられなかったとのこと。 オウム類のいわゆる「インコ臭」では粉綿羽が役割を果たしている可能性がある。 なおオウム類と系統の近いハヤブサ類もオウム類ににおいが似ているとの記述がある ["Where Song Began" #ミサゴの備考も参照]。 海鳥類の (無臭の) 分泌物が細菌で分解されて酸やアルコールのにおい成分となっている可能性がある。 この研究の時点ではヤツガシラ類の悪臭が自然の天敵を遠ざける効果がある実験的検証はまだなされていなかったが、ネコなどに効果のある試験的データはあるとのこと。 哺乳類捕食者のいない島では強いにおいを持つ傾向があり (前述のカカポも同様。カカポは嗅覚遺伝子数も多く667とのこと)、ハワイミツスイ類 (Drepanidinae) ではほとんどの種の羽毛ににおいがある (wikipedia 英語版ではキャンバステント (canvas tent) のようなにおいがあるとのことで分類の系統にも関連があるらしい。 Pratt (1992) Is the Poo-uli a Hawaiian Honeycreeper (Drepanidinae)? では実際にさまざまな標本を使ってにおいを調べて、属の根拠としている。袋に入れて見えないようにしても区別できるという。著者によれば同様のにおいを持つ新世界スズメ目、特にヒワ亜科の標本はなかったとのこと。解剖学的分類中心の時代では一番有力な分類手段でもあったとのこと。
      コンサイス鳥名事典によれば南米のトキイロコンドル Sarcoramphus papa King Vulture は食後は悪臭がするが、ほかの時はジャコウの香りがするとのこと。 wikipedia 英語版によれば捕食者を遠ざけるために巣に悪臭があるとのこと。
      Haeglin and Jones (2007) に戻ると鳥類学者は3種の化学受容 (嗅覚、味覚、三叉神経システム) をあまり区別してこなかった。嗅覚の研究は比較的あるが他は少ない。 鳥類はヒト同様鋤鼻器 (vomeronasal organ 別名ヤコブソン器官 Jacobson's organ) を持たないのでフェロモンの役割は限られていると考えられてきたが神経端末は存在するのでフェロモンを感じる役割が否定されるわけではない。 尾脂腺の分泌は CD1 遺伝子が制御している可能性が指摘されており、これは MHC (major histocompatibility complex 主要組織適合遺伝子複合体) の祖先遺伝子にあたるので鳥類でもヒトでも嗅覚コミュニケーションはこれまで見過ごされた役割を持つかも知れない。
      鳥のにおい/嗅覚の話は最近少し注目を浴びているようで、こんな本も出ている。Whittaker (2022) "The Secret Perfume of Birds" (あるいは訳本が出ないかと期待しているが...)。 関連講演の YouTube 動画もある。 Feb 13, 2023 Secret Perfume of Birds Danielle Whittaker
      備考:
      *1: unpalatable は palate (口蓋、味覚 < ラテン語 palatum) 由来で、不快な味がする、おいしくないなどの意味。鳥類の生態学で "まずい" と出てくるのはこの単語の意味と考えてよさそう。 よく似た単語に impalpable があって (特に触覚で) 知覚できないの意味。語源は異なり、ラテン語 palpo そっと触れる由来 < インド・ヨーロッパ祖語語幹の *pal- 感じるが語源とも考えられている。医師の触診は palpation。
  • ハジロミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma solandri (プテロドゥロマ ソランドゥルイ) ソランデルの翼で走る鳥
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:solandri (属) solander の (スウェーデンの植物学者 Daniel Carl Solander、Linnaeus の弟子)
    • 英名:Providence Petrel
    • 備考:単形種。 英語の petrel の語源はおそらく Peter の指小形で、Saint Peter (ペトロ) が海の上を歩いたとの伝説に由来する (Matthew 14:29, wiktionaryより)。 フランツ・リストの音楽に「波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ」(St. Francois de Paule marchant sur les flots) という曲があり、「あなたは聖人だからキリストのように歩いて海の上を渡れるはずだろう」と船頭に言われ、船を出すのを断られた聖フランシスは、自分のマントと杖を筏 (いかだ) のように使い、メッシナ海峡を歩いて渡ったという」(「クラシックばっか 時空間」より)。 この曲は「2つの伝説」という2曲のうちの一つで、もう一つが「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」(St. Francois d'Assise: la predication aux oiseaux) と鳥が出てくるので紹介しておく。鳥の声を表現しているが特に何かを模した感じではない。 ピアノ曲としては前者が秀逸でよく演奏されるので、鳥には関係ないかも知れないが例えば petrels が波間に飛ぶの姿でも思い出していただきながら演奏ビデオを見ていただけるとよいだろう。クラシック音楽に関心のない方でも十分堪能していただける曲だと思う。 脱線ついでに紹介しておくと、邦楽で「新曲浦島」(坪内逍遥作、5世杵屋勘五郎・13世杵屋六左衛門作曲の長唄 1904。1906初演) がある。当時は洋楽も日本に入っており、西洋音楽を取り入れた要素も多くある。嵐の海を表現している点で上記リストの音楽とも共通するところがある。日本舞踊付きの舞台のビデオもYouTubeに掲載されており、海外の方に紹介すると大変喜ばれる。
  • オオシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma externa (プテロドゥロマ エクステルナ) 遥か彼方のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:externa (adj) 外の (externus)
    • 英名:Juan Fernandez Petrel (チリ沖合いのファン・フェルナンデス諸島由来)
    • 備考:Mas a Fuera 島で発見され、これはスペイン語で「遥か彼方」の意味 (The Key to Scientific Names)。現在は単形種。 かつてはクビワオオシロハラミズナギドリ (日本鳥類目録改訂第8版で掲載予定。改訂第7版では検討種だがすでに別種扱いとなっていた) が亜種とされていた。 そのため和名オオシロハラミズナギドリに相当するかつての英名は White-necked Petrel だった。 現在はこの英名はクビワオオシロハラミズナギドリを指すものとなっている。
  • カワリシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma neglecta (プテロドゥロマ ネグレクタ) 無視されたミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:neglecta (adj) 無視された (neglectus)
    • 英名:Kermadec Petrel (ケルマディック諸島の)
    • 備考:IOCでは2亜種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明。
  • ハワイシロハラミズナギドリ (分割で日本産学名も変わる予定)
    • 学名:Pterodroma phaeopygia (プテロドゥロマ パエオピュギア) 灰色の腰のミズナギドリ (新学名ではサンドウィッチ伯爵のミズナギドリ)
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:phaeopygia (合) 灰色の腰の鳥 (phaios 灰色の -pugios 腰の Gk)
    • 英名:Hawaiian Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Pterodroma sandwichensis となる。John Montagu 4th Earl of Sandwich (第4代サンドウィッチ伯爵、英国の貴族・政治家。料理の「サンドウィッチ」も同語源) に由来。 Pterodroma phaeopygia (現在ガラパゴスシロハラミズナギドリ、Galapagos Petrel) の亜種から独立種となる。新分類で単形種。ガラパゴスシロハラミズナギドリとハワイシロハラミズナギドリとは海上で識別不能と言われる。
  • マダラシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma inexpectata (プテロドゥロマ イネックスペクタータ) 思いがけないミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:inexpectata (adj) 思いがけない [inexpectatus; Foster (1844) が記述の際に (猟師が) 思いがけない新種の喜びをもたらしたとした (The Key to Scientific Names)]
    • 英名:Mottled Petrel
    • 備考:単形種
  • ハグロシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma nigripennis (プテロドゥロマ ニグリペンニス) 黒い翼のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:nigripennis (adj) 黒い翼の (niger (adj) 黒い pennis (f) 羽 翼)
    • 英名:Black-winged Petrel
    • 備考:単形種
  • シロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma hypoleuca (プテロドゥロマ ヒュポレウカ) 腹が白いミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:hypoleuca (合) 下部が白い (hypo- (接頭辞) 下の leukos白い Gk)
    • 英名:Bonin Petrel (bonin 無人、小笠原諸島)
    • 備考:単形種
  • ヒメシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma longirostris (プテロドゥロマ ロンギロストゥリス) 長い嘴のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:longirostris (adj) 長い嘴の (longus (adj) 長い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Stejneger's Petrel (ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Stejneger にちなむ)
    • 備考:単形種
  • オオミズナギドリ
  • オナガミズナギドリ
    • 学名:Puffinus pacificus (プッフィヌス パキフィクス) 太平洋のツノメドリのような鳥/ミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリのような鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:pacificus (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Wedge-tailed Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属 (ダイオミード諸島の鳥の名前、ベーリング海峡の中間にあたる; ardenna, artenna ミズナギドリのイタリア語方言の説もある) に分離。Ardenna pacifica となる。 以下の備考の Ardenna属について、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同様。Ardenna属はハシボソミズナギドリ属となる。 Reichenbach (1853) が用いた名称で、Ardenna gravis ズグロミズナギドリ (英名 Great Shearwater) がタイプ種。オナガミズナギドリは IOC では単形種だが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種 cuneata (楔形の) としている。この亜種を認めているのは世界ではアメリカ鳥学会など少数。 海鳥類の分子系統樹は Obiol et al. (2022) Palaeoceanographic changes in the late Pliocene promoted rapid diversification in pelagic seabirds を参照。この研究ではオナガミズナギドリに最も近縁な種類はミナミオナガミズナギドリと判明し、superspecies を形成するとされる。
  • ミナミオナガミズナギドリ
    • 学名:Puffinus bulleri (プッフィヌス ブルラーイ) ブラーのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:bulleri (属) buller の (ニュージーランドの法律家で鳥類学者の Walter Lawry Buller に由来)
    • 英名:Buller's Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。
  • ハイイロミズナギドリ
    • 学名:Puffinus griseus (プッフィヌス グリセウス) 灰色のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:griseus (adj) 灰色の
    • 英名:Sooty Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。Ardenna grisea となる。単形種。
  • ハシボソミズナギドリ
    • 学名:Puffinus tenuirostris (プッフィヌス テヌイロストゥリス) 細い嘴のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:tenuirostris (adj) 細い嘴の (tenuis (adj) 細い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Short-tailed Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。
  • シロハラアカアシミズナギドリ
    • 学名:Puffinus creatopus (プッフィヌス クレアトプス) 肉色の足のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:creatopus (合) 肉色の足の (kreas, kreos 肉、pous足 Gk)
    • 英名:Pink-fooded Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。 矢吹・森岡 (2009) Birder 24(3): 51-52 に銚子沖での日本初のシロハラアカアシミズナギドリの記録が掲載され、この属 (新分類では Ardenna属) の識別についての記述・考察がある。
  • アカアシミズナギドリ
    • 学名:Puffinus carneipes (プッフィヌス カルネイペス) 肉色の足のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:carneipes (adj) 肉色の足の (carneus (adj) 肉の pes (m) 足)
    • 英名:Flesh-footed Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。
  • コミズナギドリ
    • 学名:Puffinus nativitatis (プッフィヌス ナティウィタティス) クリスマス島生まれのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:nativitatis (属) 起源の (nativitas -atis (f) 起源)
    • 英名:Christmas Shearwater (クリスマス島の)
    • 備考:Ardenna属の分離に伴い、Puffinus属はハイイロミズナギドリ属からセグロミズナギドリ属に改名予定だが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では和名検討中とのこと (セグロミズナギドリそのものは日本産鳥類から外れる。#セグロミズナギドリ/オガサワラミズナギドリの備考参照)。単形種。
      種小名は「生まれの」(英語 native に相当)。Capt. James Cook が 1777年のクリスマスイブに訪れたためクリスマス島と名前が付いた太平洋の島が由来 (The Key to Scientific Names)。 この由来は英名によく表れている。
  • マンクスミズナギドリ (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Puffinus puffinus (プッフィヌス プッフィヌス) ツノメドリのような鳥
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:puffinus (トートニム)
    • 英名:Manx Shearwater (マン島の)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版で検討種に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。世界的には2亜種ある(IOC)が、日本鳥類目録では亜種の記載はない。
  • ハワイセグロミズナギドリ
    • 学名:Puffinus newelli (プッフィヌス ニュウェルイ) ニュウェルのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:newelli (属) newellの (命名者 ハワイの宣教師 Matthias Newell)
    • 英名:Newell's Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • セグロミズナギドリ (オガサワラミズナギドリとなる見込み)
    • 学名:Puffinus lherminieri (プッフィヌス ルヘルミニアーイ) レルミニアーのミズナギドリ/バンナーマンのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:lherminieri (属) L'herminier の (フランスの薬剤師 Felix Louis l’Herminier)
    • 英名:(Audubon's Shearwater), IOC: Bannerman's Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Puffinus bannermani オガサワラミズナギドリ (英名 Bannerman's Shearwater)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名はスコットランドの鳥類学者 David Armitage Bannerman に由来。川上他(2019) 日本鳥類目録におけるセグロミズナギドリ和名変更の提案; 参考記事。 英名の Audubon's Shearwater は日本鳥類目録改訂第7版まで Puffinus lherminieri に含まれていた時期のもの。新分類ではセグロミズナギドリ Puffinus lherminieri (英名: Audubon's Shearwater) とオガサワラミズナギドリ Puffinus bannermani (英名: Bannerman's Shearwater) に区別されることになり、前者は日本産鳥類から外れる。単形種。
  • オガサワラヒメミズナギドリ
  • アナドリ
    • 学名:Bulweria bulwerii (ブルウェリア ブルウェリイ) ブルウァーの鳥
    • 属名:bulweria (合) bulwerの鳥 (-ia (接尾辞) 人名の属名化に使用する)
    • 種小名:bulwerii (属) bulwerの (ラテン語化して -iusを属格化) 発見者 マデイラ島 (クロコシジロウミツバメも参照) 在住のスコットランドの牧師、博物学者 Revd. James Bulwer に由来。
    • 英名:Bulwer's Petrel
    • 備考:単形種
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFORMES ウミツバメ科 HYDROBATIDAE 

  • アシナガウミツバメ
    • 学名:Oceanites oceanicus (オケアニテス オケアニクス) 大洋の鳥
    • 属名:oceanites (合) 大洋の鳥 (oceanus -i (m) 大洋、-tes (接尾辞) 〜するもの Gk)
    • 種小名:oceanicus (adj) 大洋の (oceanus -i (m) 大洋 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Wilson's Storm Petrel
    • 備考:3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは exasperatus (苛立たしい) とされる。亜種の語源は、記載者が過去の標本の計測値が過去に記載された名前の特徴と合致しないため、本来は別名を付けるつもりではなかったのではないかと考えたため (The Key to Scientific Names)。
  • クロコシジロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma castro (オケアノドゥロマ カストゥロ) 大洋を走る (新学名で水を歩く) 鳥カストロ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:castro (外) カストロ [マデイラ諸島での呼び名、鳥の声を変化させた呼び名との考えがある (The Key to Scientific Names)]
    • 英名:Madeiran Storm-petrel, IOC: Band-rumped Storm Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属 (hudro- 水を bates 歩く Gk)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でオーストンウミツバメ属の名前が与えられている。種小名は変化なし。単形種。
  • ヒメクロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma monorhis (オケアノドゥロマ モノリス) 鼻孔が一つのウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:monorhis (合) 鼻孔が一つ (mono- (接頭辞) 一つのris鼻 Gk)
    • 英名:Swinhoe's Storm Petrel (英国博物学者 Robert Swinhoe に由来)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。
  • コシジロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma leucorhoa (オケアノドゥロマ レウコロア) 腰の白いウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:leucorhoa (合) 白い腰の (leucorrhoea -ae (f) 白帯下)
    • 英名:Leach's Storm-Petrel (英国動物学者 William Elford Leach による)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。学名は Hydrobates leucorhous となる。2亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 leucorhous とされる。
  • オーストンウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma tristrami (オケアノドゥロマ トゥリストゥラムイ) トリストラムのウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:tristrami (属) tristramの
    • 英名:Tristram's Storm-Petrel (英国の聖職者 Henry Baker Tristram による)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。和名はアラン・オーストン (Alan Owston) 由来でもとは Cymochorea owstoni。現在はシノニムとなったが和名は維持された [川田 (2016) アラン・オーストン基礎資料]。単形種。
  • クロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma matsudairae (オケアノドゥロマ マツダイラエ) 松平のウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:matsudairae (属) 松平頼孝の (matsudaira -ae) 発見者
    • 英名:Matsudaira's Storm Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。
  • ハイイロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma furcata (オケアノドゥロマ フルカータ) 叉木状の尾のウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:furcata (adj) 叉木状の (furca (f) 叉木 -tus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 英名:Fork-tailed Storm Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。学名は Hydrobates furcatus となる。2亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 furcata とされる。
  •  コウノトリ目 CICONIIFORMES コウノトリ科 CICONIIDAE 

  • ナベコウ
    • 学名:Ciconia nigra (キコニア ニグラ) 黒いコウノトリ
    • 属名:ciconia (f) コウノトリ
    • 種小名:nigra (adj) 黒い (niger)
    • 英名:Black Stork
    • 備考:単形種
  • コウノトリ
    • 学名:Ciconia boyciana (キコニア ボイシアナ) ボイスのコウノトリ
    • 属名:ciconia (f) コウノトリ
    • 種小名:boyciana (adj) Robert Henry Boyce (英国の調査官、上海でも仕事を行った) の (boyce (m) を形容詞化して boycianus 更に女性形にして boyciana)
    • 英名:Oriental Stork
    • 備考:かつては シュバシコウ Ciconia ciconia 英名 White Stork の亜種とされた。分離され現在は単形種。
      [シュバシコウの嗅覚] シュバシコウで刈られたばかりの芝生から出る揮発性化合物 (Z)-3-hexenal, (Z)-3-hexenol, hexenyl acetate がシュバシコウを引きつけるとの研究があった: Wikelski et al. (2021) Smell of green leaf volatiles attracts white storks to freshly cut meadows 我々でも青草の匂いを感じるので不思議ではないが、鳥類は一般に嗅覚に乏しいと考えられていた従来の考えからは思いつかない結果だったかも知れない。風向きを考慮すると視覚よりもむしろ匂いを感じて集まってくる証拠が得られ、人工的な散布実験でも同じ結果が得られた。嗅覚により遠方の食物を探る能力は鳥類で普通にあるのかも知れないとのこと。
      [渡りを止めたシュバシコウ] Andrade et al. (2024) Mechanisms underlying the loss of migratory behaviour in a long-lived bird (preprint) イベリア半島のシュバシコウは 1995-2020 年の間に渡りをしない個体が 18% から 68-83% に急増した。生態的な究極要因は明らかにされている (これは遺伝的背景を示唆するもの) が、遺伝的メカニズムなどは不明だった。 全ゲノム解析を行ったところ、渡りを行う個体も行わないものも区別ができず、(例えば自然選択による) ゲノムの変化ではなく行動の可塑性によるものと考えられる。
      Delmore et al. (2020) The evolutionary history and genomics of European blackcap migration 遺伝的な変化でズグロムシクイが渡りを止めるようになった遺伝的基盤を提唱している。 渡りをするグループは種分化途中の段階ではないか (3万年前ぐらいから分化開始、5000年前ぐらいに留鳥グループと再度交流あり)。候補となった遺伝部位は他の渡りの鳥で指摘されているものとは異なっていたとのこと。 de Zoeten and Pulido (2020) How migratory populations become resident が理論的な個体群シミュレーションを行っている。 この話にはさらに続きがあり、こちらは遺伝子そのものよりも構造多型による調節機構が関わっている: #ハシボソガラスの備考の Delmore et al. (2023) を参照。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES グンカンドリ科 FREGATIDAE 

  • オオグンカンドリ
    • 学名:Fregata minor (フレガータ ミノール) 小さなフリゲート艦
    • 属名:fregata (外) fregate 敏捷で獰猛なグンカンドリ類のフランス航海者による名前 < fregate, frigate フリゲート艦 < fregata 伊 だが語源は不明
    • 種小名:minor (adj) 小さい
    • 英名:Great Frigatebird
    • 備考:5亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 minor とされる。 和名や英名と学名が整合しないが、John Latham が "A General Synopsis of Birds" (1785) に Gmelin が "lesser frigate pelican" Pelecanus minor と記述し (1789)、Linnaeus が採用した (原記載) ためこの学名になったとのこと (wikipedia 英語版)。 他言語では "大きい" を付けているものが多いがポーランド語のように "中間の" を付けているものもある。シロハラグンカンドリ Fregata andrewsi Christmas (Island) Frigatebird の方がより大きいとのこと。ポーランド語の "中間の" はこの意味かとも思ったが、シロハラグンカンドリに "大きい" を付けているわけではなく色で表している。 オオグンカンドリはドイツ語では Bindenfregattvogel だが、これは "ネクタイをした" の意味だろうか。 赤い喉袋の色素は 85% がアスタキサンチンで、これほど濃度の高い鳥は他にないとのこと [wikipedia ドイツ語版から知った。出典は Joula et al. (2008) Carotenoids and throat pouch coloration in the great frigatebird (Fregata minor)]。
      [オオグンカンドリの飛行中の睡眠・鳥類の睡眠の話題] ヒトを含む哺乳類では急速眼球運動を伴うレム REM (rapid eye movement) 睡眠がよく知られているが、レム睡眠とノンレム (NREM) 睡眠は鳥類でも脳波ではっきり確認できる。この2種類の睡眠がはっきり分化しているのは鳥類と哺乳類のみである。
      Rattenborg et al. (2016) Evidence that birds sleep in mid-flight はオオグンカンドリの脳波や加速度を測定し、飛行中に NREM 睡眠と REM 睡眠が見られることを明らかにした。 目からの信号がほぼ完全に反対側の脳に送られるため、片側の脳で NREM 睡眠を行いつつももう片側で注意を怠らないことを可能にしている。旋回方向に対して外側に目を開ける形の半球睡眠となっているとのこと。 飛んでいる時は 2.9% の時間しか寝ないのに対し、地上では 53% の時間を睡眠に使っている。 飛んでいる時は夜も注意を払う必要があり長時間、あるいは深い睡眠には限界がある。 飛んでいる時に短時間しか睡眠を取ることのできない悪影響が考えられるが、どのように克服しているのか。 飛んでいる時の脳波で睡眠が確認されたのはこれが初めてとのこと (#アマツバメの備考 [アマツバメは飛びながら寝る?] も参照。こちらは直接検証はできていない)。
      Rattenborg (2017) Sleeping on the wing が他のグループの鳥も含めた長時間連続飛行中の睡眠についてトラッキングデータをもとに考察している。 アマツバメ類は有名だがこの著者の解釈はかなり慎重で、横向きになって翼を動かしていないことが必ずしも飛びながら寝ている証拠にはなっていないとしている。 ヨーロッパアマツバメは繁殖期にとまって寝るが、立って寝ることも横になって寝ることもある。 4分に1点のサンプリングでその間にとまって寝ている可能性は否定できない。 渡りの時期でも体を立てて動きを止める部分もあり、崖にとまって寝ているかも知れない。 長期間飛べることを示したもので、飛びながら眠っている証拠を示したものではない。 飛びながら寝ることはオオグンカンドリで初めて明確に示されたことを強調する意味もあるだろうが、指摘は説得力があるように見える。アマツバメ類の空中睡眠について言及する際は、古くからの推測や一般向け記事などは一旦忘れて「可能性がある」としておくのがよさそう。 長距離の海上を渡るシギ類でも考えられるが、長距離無着陸の飛行を特に選んでいるわけではない。 グンカンドリ類は連続で飛ぶが、アホウドリ類は着水できるので飛びながら寝る必要は少ないかも知れない。 タカ・ハヤブサ類は主に昼間に渡るので普通は寝る機会は十分あるはず。アカアシチョウゲンボウは 5.4 日かけてインド洋 5600 km を横切る。この論文では同じ空を渡るトンボを食べている可能性も考えているが確かめられていない。アカアシチョウゲンボウが飛びながら寝ることができるかはわからない。 スズメ目ではあまりよくわからないが眠りに関係して警戒度が落ちて建物にぶつかったりしているかも知れない。声を出しているから寝ていないとは言い切れない。声を出している合間に半球睡眠をとっている可能性はある。実験室内の渡りの小鳥では渡りの不穏時期に夜は寝ていないが、昼は居眠りをして過ごし、昼に休憩できるならば夜は寝なくても大丈夫なのかも知れない。 無着陸の渡りの要因として、そもそも着陸できる場所がない場合と、途中で休憩を入れずに目的地に早く到着する方が効率的な戦略として選ばれている側面もある。 鳥は寝ながら立てることは知られているので (有蹄類では REM 睡眠中は横になるとのこと) ソアリングや滑空状態を維持して眠ることもできるかも知れないし、羽ばたきさえできるかも知れない。しかし REM 睡眠中の羽ばたきはより難しいだろうとのこと。数秒の REM 睡眠で滑空しているかも知れない。 ハトでの実験では3時間の睡眠が奪われるだけでも起こしておくのに連続した刺激が必要だったとのことで、グンカンドリは睡眠不足に対する特殊な適応を行っていることが示唆される。
      一方で一夫多妻のアメリカウズラシギは極北で3週間のつがい形成時期にほとんど寝なくても能力が維持されていることが示されている: Lesku et al. (2012) Adaptive Sleep Loss in Polygynous Pectoral Sandpipers。 この場合は睡眠時間の短い個体ほど子孫を残せる結果となっている。 しかしアメリカウズラシギでもグンカンドリでも最小限の睡眠はとっており限界があることを示唆する。 全般的には数日間の連続飛行において渡り鳥が寝ないでやり過ごせるかどうかはまだ結論が出ていない。 飛びながら寝るのは鳥にとっても簡単な、あるいは生理的の好ましいことではないようで、多くの鳥は飛行中は大部分起きていて、一部の種が生態的要求に迫られて行っている論調に感じられる。いかに鳥とはいえできればとまって寝たいのだろう。 アメリカウズラシギのように競争により睡眠時間がとれないのはその昔受験勉強で言われた「四当五落」(1950-1980 年代によく使われた用語) を思い出してしまう。生態学的要求はなかなか厳しい。
      半球睡眠は特殊な能力と考えられがちだが、ヒトでも "first night effect" (最初の夜の影響) が知られていて、睡眠中の音に対する反応が最初の晩は左が悪く、よく寝られた翌晩からから非対称性が消えるという [Tamaki et al. (2016) Night Watch in One Brain Hemisphere during Sleep Associated with the First-Night Effect in Humans]。 新しい環境に即してヒトでも部分的な半球睡眠を行っている可能性がある (蛇足的に付け加えておくと片目を開けた場合は鳥類とは違って大脳両半球に信号が行くため、両目を閉じないと半球睡眠にはならないだろうと想像する)。
      "REM" の名前はヒトを含む哺乳類の眼球運動に対して名付けられたものであったが、鳥類でも眼球運動を伴っているかどうかを調べるのは案外難しい。ごく最近になって半透明なまぶたを持つハトの目を赤外線カメラで記録し (しかし頭を羽にうずめてしまうと記録できない)、脳波とともに fMRI (磁気共鳴機能画像法) で脳のどの部分が働いているかを調べることができるようになった。 Ungurean and Rattenborg (2023) A mammal and bird's-eye-view of the pupil during sleep and wakefulness を見ると、哺乳類とはパターンは異なるが REM 睡眠の時にやはり目が動いていることがわかる (比較に用いている哺乳類は夜行性だがその影響はどうであろうか?)。 また NREM 睡眠中に瞳孔が最大に広がっているがこの点は哺乳類と逆になっているとのこと (寝る時に頭を羽にうずめてしまう種類が多いので、外敵の存在に気づける程度の光が網膜に達するようにするためではないかとこの論文では推測している)。 鳥では起きている時ではリラックスすると瞳孔が大きくなる。 Ungurean et al. (2023) Wide-spread brain activation and reduced CSF flow during avian REM sleep では NREM 睡眠中に脳脊髄液がよく流れて老廃物を排泄しているらしい点は哺乳類と同じであること、REM 睡眠中にに脳が起きている時のように活発に活動していることを示している。 活発に活動する部位は視覚情報処理に関係する部分で、飛んでいる時に働く部分も働いていて飛んでいる夢を見ているのではないかとの推測も報道された。 研究の舞台裏もあってハトを MRI に入れるとすぐ寝てしまうので、鳥を起こしておくのに工夫した とか (クラシック音楽を大音量で聞かせたとか、研究者の好みが出てそうである)。 寝ている時の眼球の動きが見えるようにまぶたが透けて見えるハトの品種を用いたとのこと。 いずれにしても鳥類でも眼球は動き、睡眠中の急速眼球運動もある、そして REM 睡眠中に夢も見ているのではとの最新研究結果も出ている。
      Rial et al. (2022) The Birth of the Mammalian Sleep のような面白い提案もあるので紹介しておく。 鳥類・哺乳類が共通の睡眠を示すことは共通祖先の段階からあったものか、それとも独立に進化したものか。この著者によれば爬虫類が眠るという過去の報告は実験条件に問題があり、真の睡眠と呼べるものはないのではないかと結論している (なお俗に言われるように瞼がないので寝ないとは言いきれない。鳥類・哺乳類でも目を開けて NREM 睡眠をとることもある。やはり脳波を見ないとわからないよう)。 そうであれば鳥類・哺乳類の睡眠は独自に進化した (収斂進化) ものとなる。 この著者は哺乳類の睡眠の起源を恐竜支配下の夜行性時代に求めている。夜行性に適応した目には昼の光は明るすぎて目を閉じる必要があり、それが睡眠の進化につながったのではないかとのこと。鳥類はそのような解釈ができないので別の機構が必要になるだろう。皆さんはどう考えられるだろうか。
      Rattenborg and Ungurean (2022) The evolution and diversification of sleep ではもっと原始的な系統でも REM / NREM 睡眠に似た現象の報告があるが違いも大きい。1種類の睡眠は相当古くまで遡ることができるが、2種類の睡眠の起源はまだまだ研究途上のよう。
      日本のグループの研究もあり Yamazaki et al. (2020) Evolutionary Origin of Distinct NREM and REM Sleep こちらは共通祖先段階から生じたものではないかとの考えを示している。 半球睡眠を行う動物 (オオグンカンドリ、オットセイ) では REM 睡眠が非常に少ないという。水中や空中で REM 睡眠を行うのはあまりに危険との考え方もできる。 NREM 睡眠で脳活動の低下 (脳温度低下など) が起きるが REM 睡眠によって周期的に脳温度を上げる作用があるのでは (恒温動物で見られる理由になる) とも考えられるが変温動物に REM 睡眠的なものが見られてこの仮説に疑問も投げかけられている。哺乳類の REM 睡眠中で働くものと同等のニューロンが爬虫類にも存在し起源はもっと古い可能性がある。ただし2種類の睡眠の機能は恒温動物と異なるかも知れない。
      Siegel (2023) REM sleep function: mythology vs. reality のレビューも脳温度を上げる作用を考えており、哺乳類を中心に調べて体温の低い動物ほど REM 睡眠の量が多く (カモノハシは REM 睡眠が8時間もあり、1日 14 時間寝ている)、鳥類で短いのはその延長上で解釈できか、と述べている。大型の動物ほど睡眠サイクルが長いのも冷却に要する時間で説明できるという。 クジラ・イルカ類は REM 睡眠がないとのことで、絶対的に必須のものでもなさそう。REM 睡眠の割合と知的能力の高さとは関係ないと考えている。
      van Hasselt et al. (2024) Sleep and Thermoregulation in Birds: Cold Exposure Reduces Brain Temperature but Has Little Influence on Sleep Time and Sleep Architecture in Jackdaws (Coloeus monedula) 哺乳類では低温環境で REM 睡眠が減少するが、ニシコクマルガラスではそうならなかった。哺乳類では REM 睡眠中に体温調節機能 (ふるえ、あえぎなど) がほぼ失われるが、鳥類では異なっている可能性がある。外気温が下がると脳の温度も下がり、REM 睡眠中は脳の温度が上がることは確かめられたが、これは体温調節機能の有無を示す証拠ではない。 鳥類では REM 睡眠中に筋肉活動がほぼ完全に失われることはなく、筋肉での熱産生による体温調節が可能なのでは。頸筋の脱力 (うなだれる) は測定していたが胸筋は測っていなかったのでこの実験からは判断できないとのこと。
      Lyamin et al. (2021) Sleep in ostrich chicks (Struthio camelus) ダチョウ成鳥では鳥類の中で最も REM 睡眠の比率が高い (24%) とのこと。ひなではもっと多いかと調べたら逆だった。これは他の鳥類・哺乳類の傾向とは逆とのこと。 ダチョウの群れ生活では成鳥は同時に食べたり休んだりせず、集団による外敵への警戒に役立っている。 NREM 睡眠の時にも両目を開けているが REM 睡眠では閉じるとの報告がある。目を開けるのは危険に素早く反応するためで多くの鳥類・哺乳類でも観察されている現象。上述のハトの目で NREM 睡眠中に瞳孔が最大に広がる研究でも同じ解釈が紹介されている。 カモなどで見られる半球睡眠の代わりとなる戦略だろうとのこと (この記載によればすべての鳥が半球睡眠をするわけではなさそう)。 ダチョウのひなは成鳥に比べて NREM 睡眠の時に目を閉じていることが多い。生後3か月ぐらい経過しないと警戒能力が発達しないとのことで関連している可能性がある。成鳥が外敵に対して危険な長時間の REM 睡眠を行う適応的意味は不明とのこと。
  • コグンカンドリ
    • 学名:Fregata ariel (フレガータ アリエール) 空気の精のグンカンドリ
    • 属名:fregata (外) fregate 敏捷で獰猛なグンカンドリ類のフランス航海者による名前 < fregate, frigate フリゲート艦 < fregata 伊 だが語源は不明
    • 種小名:ariel (外) 中世伝承で空気の精 (遡ると神のライオン ヘブライ語 に由来?)
    • 英名:Lesser Frigatebird
    • 備考:3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 ariel とされる。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES カツオドリ科 SULIDAE 

  • アオツラカツオドリ
    • 学名:Sula dactylatra (スラ ダクテュラトゥラ) 指(羽の先)の黒いカツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:dactylatra (合) 指の黒い (dachtylo 指 Gk、ater (adj) 黒い) 初列風切が黒いことを意味する
    • 英名:Masked Booby
    • 備考:属名の sula はノルウエー語で古ノルド語の sula から来ている。sulao 盗む Gk あるいは souler ゲール語 に由来するとする説は誤り。 古ノルウエー語の sula または sulu は山岳部で現在も使われており、ツバメを意味するとのこと (The Key to Scientific Names) この単語はゲルマン祖語の swalwo に由来し、カツオドリとツバメはいずれも楔形の尾に由来する Kroonen の説があるが他説もあり (wiktionary)。 4亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは personata (仮面をかぶった) とされる。
      [兄弟殺し] Bizberg-Barraza et al. (2024) Parental overproduction allows siblicidal bird to adjust brood size to climate-driven prey variation によるアオアシカツオドリ Sula nebouxii Blue-footed Booby の兄弟殺し (#イヌワシ備考 [兄弟殺し] 参照) の研究がある。 生後 5-9日から最初のひなによる兄弟への攻撃が始まり、3-4週でピークを迎えるとのこと。親は争いに介入せず、食物の少ない時に闘争が激しくなるという。 人工的に孵化タイミングを調整した実験では間隔を短くしても長くしても兄弟殺しの割合は変わらず、餌運びが増える結果となった研究が紹介されている (Guerra and Drummond 1995)。Guerra and Drummond (1995) の研究では、自然状態の孵化間隔で親による餌運びのコストが最適化されていると考えている。アオアシカツオドリは逆サイズ性的二形を示し猛禽類と共通点があるが、ひなを捕食する捕食者には対抗手段を持たない。 ひなの生存状況を追跡することで余分に子供を作る要因として resource-tracking hypothesis (資源量に応じた対応仮説)、insurance hypothesis (保険仮説)、facilitation hypothesis (最後のひながいることで兄弟の適応度を高める) を調べた。 resource-tracking hypothesis がよく支持される結果となったが、保険仮説はひなが3羽の時には生き残った最後のひなの生存率が高まることで支持されたが、2羽の時は支持されなかった。facilitation hypothesis を支持する証拠はなかったとのこと。 アオアシカツオドリの戦略は条件が思わしくない時に早期にひなを減らして親の負担を減らし、ある程度予測可能性のある翌シーズンに備える長いタイムスケールの気象変動には適しているが、極端気象のように頻繁にひなを減らす必要がある状況には向いていない可能性があるとのこと。
  • アカアシカツオドリ
    • 学名:Sula sula (スラ スラ) カツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:sula (トートニム)
    • 英名:Red-fooded Booby
    • 備考:3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは rubripes (ruber 赤い pes 足) とされる。
  • カツオドリ
    • 学名:Sula leucogaster (スラ レウコガステル) 白い腹のカツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:leucogaster (合) 白い腹の (leuko- (接頭辞) 白い Gk、gaster (f) 腹)
    • 英名:Brown Booby
    • 備考:4亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは plotus (平らな足の) 亜種カツオドリ と brewsteri (アメリカ鳥類学者 William Brewster に由来) シロガシラカツオドリ とされる。
      [カツオドリ類の飛び込み時にかかる力] シロカツオドリ Morus bassanus Northern Gannet が水面に頭から飛び込む時の速度は 24 m/s (86 km/h) に達し、水面下 10-20 m の魚を捕る [この深度まで到達するために大きな運動量 (物理用語の momentum の方) が必要] とのこと。 このダイビング時にかかる力を推定した研究: Chang et al. (2016) How seabirds plunge-dive without injuries によれば、 頭部が水面に接触した瞬間は頭部が急速な減速を受けるが、胴はまだ水面に接しておらず等速で落下しており、首が損傷を受ける可能性が一番高い。カツオドリ類では頭部の長さと首の長さがほぼ等しい。頭部が水中に入った時に水中にできる空泡が胴体が入った時に閉じられるとのこと。 発生する波の安定性解析 (波が成長するかどうか) を行っていて実験とよく合うとのこと。速度が速いと buckling (座屈 という用語があるらしい) が起きる。 曲げに対する首の筋肉の力があると buckling がさらに抑制される。後頭部と頸椎の連結部の筋肉がよく発達していてこの筋肉を収縮させると頭と首を安定できる。 モデルを用いて計算すると筋肉の力で 3400 N まで耐えられると推定された。 実際の飛び込み時に受ける静水圧と抵抗による力 30 N よりもずっと大きいので十分余裕を持って耐えられ、損傷を受けずに済むとのこと。80 m/s だと損傷が起きる予想結果となった。
      Pandey et al. (2022) Slamming dynamics of diving and its implications for diving-related injuries はヒトにおける飛び込み時衝撃が中心だがカツオドリ類も比較考察されている。 嘴が鋭角に尖っているため衝撃力 (大まかに開き角の半分の tan の3乗に比例: 2乗が断面積、残り1乗が水に接する面の傾きに相当) が小さく、首をまっすぐ伸ばした状態で飛び込むので受ける衝撃が小さいとのこと。 こちらの研究は主に簡単に見積ることのできる衝撃力を扱っていて、Chang et al. (2016) の方が少し踏み込んだ流体・生体力学的考察になっている。
      Bhar et al. (2019) How localized force spreads on elastic contour feathers は胸や肩、腹にかかる圧力を推定しており、長く伸びた体羽の層があることで圧力が 1/3 になっていると見積もっている。
      Chang et al. (2016) に紹介されている情報ではこのような飛び込みで怪我をした例は鳥同士の衝突以外では知られていないとのこと。よく噂される飛び込みに失敗して首の骨を折るというのはどうも俗説のよう。 カツオドリ類の鳥同士の衝突については Gannet study reveals perils of high-speed diving の解説ページがある。魚の群れを狙って複数の個体がどのように飛び込んでくるか、同じ目標を狙うために衝突したり、獲物を奪い合うなどの水中映像のビデオが紹介されている。 論文: Capuska et al. (2011) Evidence for fatal collisions and kleptoparasitism while plunge-diving in Gannets。 頭蓋骨に他の鳥の嘴が突き刺さった事例がある。首に刺さった事例もあるがこれは獲物を奪おうとした結果か。ビデオ撮影では空中でぶつかった証拠はない。 水中でぶつかる時も大部分は減速して翼で推進している時期で、水面突入時期にぶつかったのは2例とのこと。事故リスクより利益が上回っていると解釈している。
      水中で視力を使って魚を捕まえているかについては、Machovsky-Capuska et al. (2012) Visual accommodation and active pursuit of prey underwater in a plunge-diving bird: the Australasian gannet の研究があり、頭が水中に入るとすぐに目の調節能力で水中で失われる 45 D 以上相当の角膜の屈折能力を補っているらしいとのこと (この点は #カワウの備考 [ウの視力] と異なるよう)。 水中での捕食の大部分は翼で推進している時期に起きており、視力で獲物を捕まえていることを示唆するとのこと。 これらの論文から推定してまとめると、水中で獲物を捕まえるために首はある程度長いことが有利だろうが、飛び込み時に buckling を防ぐためには長さに上限値があり、その兼ね合いで形態が決まっていると解釈するとよさそうに見える。ウ類は飛び込まないので首が長くても構わずよりサギ型に近い捕食方法が可能と考えられる。 このような習性・形態の類似性をみると、現代の系統分類で ウ科 Phalacrocoracidae と カツオドリ科 Sulidae がカツオドリ目 Suliformes に含まれるのはそれほど不思議でないかも知れない (#クロトキ備考 [ペリカン目やトキ科などの系統について])。 「野鳥」2022年7・8月号 (No. 859) pp. 4-5 の上田氏の記事に「謎が多いウの分類」があり、どのような点でウ科とカツオドリ科に共通点があるかを考察されている。皆さんも考えてみていただくと面白いかも。 gannet skeleton など (水中を泳ぐと時の姿勢などを再現した骨格もある) で画像検索していただくと確かにウに似ている感じがする。 #クロトキ備考の [ペリカン目やトキ科などの系統について] も参照。[#鳥類系統樹2024]の結果によれば グンカンドリ科 Fregatidae がこの系統の最も古い分岐にあたり、ウ科とあまり似ていないのは理解できる。 これらは4科はまとまった系統をなすが、他の系統の系統間の関係見直し次第ではカツオドリ目は目にふさわしくない可能性も残る。単系統性やレトロトランスポゾン解析の結果、分岐年代をどの程度重視するか次第。
      Tyler and Younger (2022) Diving into a dead-end: asymmetric evolution of diving drives diversity and disparity shifts in waterbirds が潜水する鳥の系統解析を行っている。(1) 翼を推力とするペンギン類など、(2) 足を推力とするウ類など、(3) 飛び込み型のカツオドリ類などの3種類は別々に進化したもので、一度潜水方法が決まると別のタイプへの進化はなく、潜水型への移行したものが祖先型に戻ることもなかった。水鳥の中で少なくとも 14 回独立に進化している。
      なおカワガラス類はスズメ目で唯一潜水するグループで翼を推力をしている (#カワガラス参照。他のグループも含めた潜水する鳥の系統樹もある)。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES ウ科 PHALACROCORACIDAE 

  • ヒメウ
    • 学名:Phalacrocorax pelagicus (パラクロコラックス ペラギクス) 海の頭の白いワタリガラス (または新学名で海のウ)
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:pelagicus (adj) 海の (pelagus -i (n) 大海 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Pelagic Cormorant
    • 備考:Kennedy and Spencer (2014) の分子遺伝学研究 Classification of the cormorants of the worldによると Urile pelagicus となる。 #チシマウガラスの備考参照。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で採用され、ヒメウ属の和名が与えられている。 2亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 pelagicus とされる。
  • チシマウガラス
    • 学名:Phalacrocorax urile (パラクロコラックス ウリレ) 千島列島の頭の白いワタリガラス (新学名で千島列島のウ)
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:urile (合) 千島列島の
    • 英名:Red-faced Cormorant
    • 備考:Kennedy and Spencer (2014) の分子遺伝学研究 Classification of the cormorants of the world でウ類の系統が見直され、Urile属が提唱されている。Charles Lucien Bonaparte がチシマウガラスの種小名として用いた (1856) ものを属名に昇格。すなわちチシマウガラス (この分類でUrile urile) がタイプ種となる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版ではまだ採用されていなかったが、世界の多くのチェックリスト [IOC 11.2以降、HBW 2018以降、AOU 7th ed. (incl. 62nd suppl.)、eBird 2021以降] ですでに採用されており、wikipedia 英語版にも反映されている。
      日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で採用され、ヒメウ属の和名が与えられている。名称の由来は Steller (1774) によるカムチャツカでのチシマウガラスの名称からとある。ロシアの地方名由来で、おそらく千島列島を指したもの (The Key to Scientific Names)。 wikipedia ロシア語版によると地方名として Uril が挙げられている。単形種。
      Phalacrocorax bicristatus Pallas, 1811 のシノニムもあり、Temminck and Schegel (1850) Fauna Japonica ではこの学名で紹介されている。bicristatus は2つの冠のある、の意味。他文献でもしばしば現れ、英名別名の Double-crested Cormorant の由来にもなる。
      #カワウの備考で英名について取り上げたが、この種はまさにその問題がある。形態を重視する英名では Red-faced Shag と呼ばれ、どちらも使われている。 チシマウミガラスと誤って書かれていることもあるので注意。こちらの方が日本語的には自然な感じがするので自分も間違っていたことがある。別名としてあるわけではなさそうである。
  • カワウ
    • 学名:Phalacrocorax carbo (パラクロコラックス カルボ) 炭のように黒い頭の白いワタリガラス
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:carbo (m) 炭
    • 英名:Common Cormorant, IOC: Great Cormorant
    • 備考: 原記載時は Pelecanus Carbo Linnaeus, 1758 とペリカン類の扱いだったが、Brisson (1760) が整理して Phalacrocorax属を与えた。 カワウをタイプ種として Carbo を属名に用いたのは de Lacepede (1799) で (The Key to Scientific Names)、#ウミウなどの記載にはこの属名が用いられたが、Phalacrocorax の使用が早いためにこちらに統一された模様。
      ユーラシア、オーストラリア、北大西洋沿岸に分布し、5亜種あるとされる(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)によれば日本で記録される亜種は hanedae (千葉県の地名「羽田」が由来。カワウの亜種では最も小型) 亜種カワウ と sinensis (中国の) シナカワウ (和名検討中) 、及び亜種不明とされる。 hanedae の記載は黒田 (1925) 日本産ウミウに就て
      [当時は ウミウ (カハツ = カワウの旧名) と表記されていた]。
      Moores (2015) Identification Challenge: Korea's Cormorant Conundrum にカワウの亜種の妥当性の検討がある。 韓国では亜種 sinensis が繁殖するとされるが、hanedae も日本に近い地域では記録されていると思われる。識別は可能なのか、それとも hanedaesinensis は同一タクソンとみなした方がよいのか。 日本の個体群にも sinensis は含まれていないのかなどの疑問を呈している。もし亜種 hanedae が確固たるものであれば、種レベルよりも亜種レベルの保全面の考慮が必要になる。
      茂田 (2002) Birder 16(6): 12-15 によれば1955年5月11日に八丈島でシロハラコビトウ Microcarbo melanoleucos (現在の学名による) Little Pied Cormorant の亜種シロハラヒメウ melvillensis (現在通常は基亜種のシノニムとされる) の撮影記録があるが日本産とは認められていないとのこと。
      英語 cormorant の語源はラテン語 corvus marinus (海のカラス) あるいはコーンウォール語 (Cornish language) で海の巨人を意味する Cormoran に由来すると考えられている英語で shag (冠羽のことを意味する)と呼ばれるものもウ類であるが、この2つの単語には厳密な区別はなく (例えば eagle と hawk 同様)、同じ種類を cormorant とも shag とも呼ぶことがあるそうである (wikipedia 英語版)。
      Marion and Le Gentil (2006) (ウミウの備考参照) にカワウとウミウの関連の考察がある。亜種 sinensis は1500-1800年ごろにバルト海に進出し、本来のヨーロッパ亜種 carbo に次第に取って代わるようになった可能性がある。 ヨーロッパでは sinensis 1930-1960年ごろに個体数の大幅な減少を体験したとのこと。日本でも似た時期に個体数の減少があり1971年には全国3か所のコロニーに3000羽以下が残るのみとなったとのこと [福田他 (2002) 日本におけるカワウの生息状況の変遷]。 カワウの一時的な衰退は世界的現象だったのだろうか (この文献にもヨーロッパでの個体数変動への言及がある)。カワウを見るために遠くまで出かけた話は古い時代のバーダーからも聞くことがある。
      [ウの視力] 「鵜の目鷹の目」と言われるが、ウの視力が本当に良いのか調べた研究があった。White et al. (2007) Vision and Foraging in Cormorants: More like Herons than Hawks?。タイトルを見る限りでは西洋でもタカの目のようによいと考えられているのかもしれない。カワウの視力を調べると水中でゴーグルなしの人間の視力と大差なく、タカの目にははるかに劣るとのこと。 獲物は 1 m ぐらいの距離でしか認識できないようで、視力で獲物を捕まえるよりも、サギ型に近い捕食方法で、獲物を見つけて首を瞬時に伸ばす。 ウ類の頸椎数の多さ [20 個、サギ類は 18-20 個; いずれもある文献によるが、Boehmer et al. (2019, #コブハクチョウの備考を参照) では ケルゲレンヒメウ Phalacrocorax verrucosus で 17 個、アオサギ 16 個とあるので数え方の違いの2個を加えればだいたい合っているようである - もこの捕食方法に適応したものか] を進化させることで効率よく獲物を獲っているとのこと。 解説付きのスライドもある。 Strod et al. (2004) Cormorants keep their power: visual resolution in a pursuit-diving bird under amphibious and turbid conditions では空中視力も調べられており他の鳥より低いとのこと。空中でも「鷹の目」ではなかった。ウが黒いのはあまりよくない視力でも同種を見つけやすくするためなのかも知れない。
      Borges et al. (2015) Gene loss, adaptive evolution and the co-evolution of plumage coloration genes with opsins in birds によれば色覚に関係する遺伝子ではカワウはフクロウと同じパターンになっていて、あるいは水中深いところでの暗所視に適応しているのかも知れない (ただし技術的な問題で検出できないものもあるとの記載もあり、遺伝子だけで語るのは危ないかも知れない。網膜の細胞の顕微鏡的研究や、行動実験で視力や色覚を調べる必要があるだろう)。 Hansen et al. (2017) Great cormorants (Phalacrocorax carbo) can detect auditory cues while diving によれば、カワウの水中聴力は意外に良く、アザラシやクジラなみであるとのこと。水中で獲物を獲るために聴覚が発達している可能性もある。空中での聴力もこれまで考えられていたよりよいそうである (これは違う可能性がある)。 川口 (2012) Birder 33(6): 53 によればカワウの外耳口は小さく 1 mm ほどしかないとのこと。これは潜水への適応らしいが、空中聴力はあまりよくないのかも。水中では骨伝導で音を聞いているのだろうか。 Gremillet et al. (2005) Cormorants dive through the Polar night によればグリーンランドで越冬するカワウは極夜でも潜って魚を獲るとのこと。しかも季節によって行動パターンはあまり変化しない (他の潜水性魚食の水鳥とは異なる)。(少なくとも極夜では) 触覚か聴覚に頼っている可能性があり調べる必要がある。
      Zeyl et al. (2022) Aquatic birds have middle ears adapted to amphibious lifestyles によれば、潜水する鳥は特有の中耳の形態的適応があるとのこと。水中で音を聞くのに適した特性 (以下の音響インピーダンス参照) になっている可能性と、潜水に伴う圧力変化に耐えるため複数系統で進化したと考えられる。 空中の耳の感度はカワウとメンフクロウで 44 dB も違うとのことで、前述の「空中での聴力もこれまで考えられていたよりよいそうである」と同じ文献 [Maxwell et al. (2017) In-air hearing of the great cormorant (Phalacrocorax carbo)] を引いているのにニュアンスがまったく違う。 Maxwell et al. (2017) の論文をチェックしてみると同様のサイズの鳥との比較をしており、シチメンチョウやカモ類を用いている。陸鳥を比較対象に用いていないのでこのような結論になった模様。 Zeyl et al. (2022) によれば潜水性のペンギンも外耳道が狭い。水鳥では cochlear aqueduct が広がっており、骨伝導や水中での音の定位に役立っている可能性が指摘されているとのこと。 比較対象のメンフクロウは特に聴力がよいが、カワウは構造的にも一般的な陸鳥と比べると空中ではあまり聞こえていないと言ってよさそう。 Johansen et al. (2016) In-Air and Underwater Hearing in the Great Cormorant (Phalacrocorax carbo sinensis) も空中聴力は相対的に良くないとの結果を得ている。ただし脳幹反応を用いた測定は行動実験で測定した聴力より悪く出るとの研究もある。 これら一連の研究はまだ途上段階で少し割り引いて読んだ方がよいかも。
      水中聴覚による音源定位は原理的問題がある。水中の音速は速い (1500 m/s 程度) ので左右の時間差がほとんどない。さらに空気と生体とは違い、水と生体は性質 (音響インピーダンス) が似ているので検出に不利。空中と同じ方法では音源定位がほとんど無理と考えられてきた。 この常識を破って魚が音の方向を聞き分けることが明らかとなった: Veith et al. (2024) The mechanism for directional hearing in fish ヒトが音を聞く時は振動を感知しているが、この魚では圧力と分子運動を検知しているとのこと。考え方によってはヒトより豊かな音環境を感受している可能性もある。魚の一部は Weberian apparatus という器官を持っていて浮き袋 (swim bladder) から内耳に音を伝える中耳に似た役割を果たしているとのこと。 Dooling and Therrien (2012) Hearing in birds: what changes from air to water は潜水性の鳥で中耳の空気が浮き袋と同様の役割を果たしている可能性に触れている。
      Gomez-Laich et al. (2015)
      Selfies of Imperial Cormorants (Phalacrocorax atriceps): What Is Happening Underwater?はズグロムナジロヒメウ (現在の学名は Leucocarbo atriceps) にカメラを付けて行動記録をしたもの。 やはり 1 m 以内しか見ていないようで、追い出したものの動きを捉えて捕食しているらしい。移動時にハトの歩行時首振りと同様の動作が見られ、視覚に頼っていることは間違いない (#ハチクマ備考の [嗅覚 (タカ・ハヤブサ類)・視覚・脳のサイズ] 紹介の Gutierrez-Ibanez et al. (2012) による脳の ION 核の発達度と合わないかも知れない)。 しかし最も深く潜る時には光が届かないため視覚に頼れないと思われ、視覚以外の感覚を利用している可能性がある。
      熊田 (2012) Birder 26(7): 28-29 にもカワウが水中でどの距離まで見えているか、水中採食方法についての考察がある。 書物によっては潜水する鳥は瞬膜で調節して水中で物を鮮明に見ていると解説してあるものもあるが、これは誤りだそうである [Sivak et al. (1978) The refractive significance of the nictitating membrane of the bird eye]。
      [カワウを使った日本と中国の鵜飼] 日本でもカワウを使った鵜飼が水深の浅い九頭竜川、相模川で以前に行われていたとのこと (コンサイス鳥名事典)。 中国でカワウのことを魚鷹 (=ミサゴ) とも呼び、英訳されると osprey fishing という妙な表現になるが、これはミサゴに魚を捕らせるのではなく鵜飼のこと。 中国の鵜飼の記事 にも使われている。綱をつけずに放すそうで、これは世界でもまれだとのこと。 調べると何と本当にミサゴを使って挑戦している人があった。以下 #ミサゴの備考 [ミサゴに魚を捕らせることは可能か?] へ。
      鵜飼のカワウを用いて7まで数を数えることができるとの報告がある: Egremont and Rothschild (1979) The calculating cormorants [茂田 (2002) の記事で紹介]。原始的で今では認めてもらえそうもない実験だろうが。
      「野鳥」2022年7・8月号 (No. 859) pp. 6-10 に卯田宗平氏と上田氏の対談「鵜飼から見る日本と中国の自然観・動物観の違い」がある。卯田氏は「鵜と人間 日本と中国、北マケドニアの鵜飼をめぐる鳥類民俗学」(東京大学出版会 2022) を出されている。 自分はこの本は読んでいないが、この記事に北マケドニア (注: 国名。マケドニア北部の意味ではない。湖は北マケドニア共和国の南端にあり、ギリシャ国境に近い。地中海性気候とのこと) の湖で旧ユーゴスラビア時代に大規模な鵜飼が行われていたことが紹介されている。 冬季に飛来するカワウを捕獲し、定置網に魚を追い込むために利用していたとのこと。カワウの捕獲道具にはカンムリカイツブリやカワアイサなどもかかるが、それらも一緒に利用していたとのこと。春先にはすべて放鳥していたと記述されている。
      この件に興味があって少し調べてみると Beike (2012) The history of Cormorant fishing in Europe にヨーロッパの鵜飼の歴史が述べられている。16世紀から記録があるが主に貴族の楽しみ (sports) と行われてた。 北マケドニアのドイラン (Dojran) 湖のものはヨーロッパ他地域とは独自に発展したもので手法も異なり、いつ始まったかはわかわらないとのこと。mandra (複数 mandri) と呼ばれるアシでできた柵 (定置網) で行う。 Apostolski and Matvejev (1955) が紹介していたが、彼らが示唆したように紀元前からの記録があるわけではない模様。魚の非常に豊富な湖で、この記述を見ると古くから追い込み猟で魚を捕らえていたようだが (動物をこのように追い込むのは石器時代から行われて知られていたとのこと)。 魚が追い込まれて集まると野鳥が狙ってやってくるのでそれを追い払うためにひもの先に石をつけたものを投げていた。現代のドイラン湖では鳥は狙わず、鳥と mandri の間に (構造は後述) 投げるという。野生の鳥も追い込みに役立つため。 この時点では観光客対象に「伝統的鵜飼」と称して中国をモデルに行われているようだが Apostolski and Matvejev (1955) によれば漁に使われた 30% の鳥が死ぬとか、20% は逃げる、また風切羽を切られているので春の渡りができない、との記述があるとのこと。実際に犠牲になった鳥はもっと多いのではないかと懸念している。 卯田氏の記事の春先にはすべて放鳥とあるが、Beike (2012) では少し違って否定的なニュアンスの報告になっている (1950年代のやり方と異なっているのかも知れない)。
      (Dojran Lake) にも旅行者のレポート (言語判定をするとブルガリア語と出た) によるドイラン湖の鵜飼の記述があり、カワウの訓練は2週間しかかからないとのこと。魚をとって戻ってくるとのことで中国で行われるものと同様とある。「伝統的鵜飼」と称しているがこれは中国のやり方を真似て観光目的で行われているものかも。 (Dojransko Lake) こちらはマケドニア語。 伝統的方法では10月から3月まで行われる漁法。 11月にウがやってくる。魚を狙って mandri に近づくが、漁師が魚が十分あると判断すれば mandri の湖側を閉じる。polokatnik と呼ばれる区画で鳥を捕まえ風切羽を切る。羽を切った鳥は argati (同名のブルガリア語では男性の農夫、男性の召使いの意味でトルコ語、さらには古代ギリシャ語に遡る、から借用とのこと) と呼ばれる。鳥の役割は柵の外に魚を逃さないこと。そして柵の間隔を次第に狭めていって kotets と呼ばれる小さな区画から魚を捕獲する。 この記述を見ると羽が切られているのでやはり渡りはできないのでは? Talevski et al. (2024) Fish and Fisheries of the Republic of North Macedonia, Current Situation, and its Perspective の論文にも登場するようだが中身までは見ていない。
      このように見ると、石器時代のヒトに起源を遡るまでもなくペリカンの行う追い込み猟、あるいはハシビロガモの共同採食のような習性と、定置網を用いた人の追い込み猟がたまたま (あるいは収斂進化? または水鳥のやり方から学んだ?) よく似ていて、人の追い込み猟にカワウなどの水鳥がやってくるのを最初は追い払っていたが、次第にもっと効率的に追い込みに協力させる方法に気づき進化した猟法なのかも知れないと思った。 水鳥に一般的な習性と人の思惑がうまく一致したものか? ウに獲物を捕らえて戻ってこさせるにはもう一段階の飛躍が必要そうだが、魚を食道に蓄えて吐き戻して与える種類では行動的には自然な習性を利用しているようにも見える。食道の構造や機能も関係しているだろう。 「野鳥」の対談で猛禽類とは違って (おそらく鷹狩りなどを想定したものだろう) カワウが短時間で慣れることについて上田氏は「一般的に晩成性の鳥は知能が高いといわれているようですが」と受けられているが、少し違うような気がする。インプリントされた鳥が食物を食べて帰ってくる (人が少し操作して全部飲み込めないようにしている) だけでそれほど特別なことをやっているわけでないのでは。 ミサゴは獲物は足で捕らえることと、そのまま飲み込むわけではない点が大きく違うので同じようなことをするのははるかに難しいだろう。猛禽類とは生活様式も違うし、知能はあまり関係ないような気がするがどうだろうか。
      [コルヌリン遺伝子を失ったウ類] ウ類、タカ類、鳴禽類の共通点は何かあるだろうか? Feng et al. (2020) Dense sampling of bird diversity increases power of comparative genomics によればこの3系統が食道から口腔上皮に関係するコルヌリン遺伝子 (cornulin, CRNN) を失っているとのこと。 この論文では鳴禽類では食道上皮が柔軟になることで複雑な音声発声に役立っている可能性を指摘している。ウ類はいかにも食道が膨れても大丈夫そうだが、タカ類はウ類ほどは丸のみしないので関係あるだろうか。あるいはこの遺伝子を失ったことが鵜飼を可能にしているのかも?
      この論文で用いられている分類では Accipitriformes は新世界ハゲワシ類を含まないヘビクイワシから始まる系統。新世界ハゲワシ類はこの遺伝子を持っている。 ペリットを吐くことにも関係があるかも知れないが、フクロウ類、ハヤブサ目の多くではこの遺伝子が働いているので別の理由かも。ヘビクイワシまで含まれるならば相当古い時期に機能を失ったと考えられるが、半分ぐらいの種で偽遺伝子 (働かない遺伝子) として検出されているのも不思議 (cf. 鳴禽類ではほとんど見つからない。タカ類は鳴禽類より世代が長い、不要となった遺伝子を鳴禽類の方が積極的に除去している可能性などが考えられそう)。 ハヤブサ目ではワキスジハヤブサで偽遺伝子となっているが、近縁のハヤブサも含めて調べられた範囲で他は働いている。
      ウ系統では Sula (カツオドリ類) 以降の系統で偽遺伝子 (働かない) となっている。グンカンドリ類以前の系統では存在する。{カツオドリ類 + ヘビウ類 + ウ類} の共通祖先段階で偽遺伝子となったものと思われる (これまで推定された系統関係の正しさもわかる)。
      散発的に偽遺伝子となっているものにヤツガシラ、シロチドリ、カンムリカイツブリがある。これらはいずれも近縁種が働く遺伝子を持っているので散発的に生じたものと考えられる (ゲノムアセンブリ精度次第で単純に検出できていないだけの場合もあると考えられるので、散発例は偽遺伝子が見つかったもののみを扱った)。
      鳴禽類では早い段階で失われたようで偽遺伝子すら見つかっていない。最も古い系統の一つであるコトドリ Menura novaehollandiae Superb Lyrebird のみ偽遺伝子が見つかっている。これらは遺伝子が検出されていないものでも系統的に広く検出されないので技術的問題で検出できないのではなく失われたと考えられる。 亜鳴禽類では働く遺伝子が検出されているものが多く、大規模には失われていないよう。 ヒトでも機能があまりよくわかっていない遺伝子だが、鳥類での系統的パターンから機能が判明してくる可能性があるのかも。
      [リンの起源] 海鳥のどこかに入れてもよい項目だが、身近なところでリンを陸地に運ぶ重要な役割を果たしている魚食性の身近な鳥のところで紹介しておく。参考: 鵜と上野間小学校。 リンが生命に必須で、しかも陸上では比較的希少な資源であることから枯渇が問題となっていることはご存じであろう。かつては海鳥の糞 (グアノ) から大量にリン資源を得て輸出したものの資源が枯渇した悲劇の物語もよく知られている。 リン酸塩は水溶性が低く、海に蓄積した陸に循環してくるには地球化学的時間がかかり非常に効率が悪い。 海で生物を捕食した鳥が陸に運んでリン循環に大いに貢献している次第である。
      海鳥やカワウとは関係がないが、オウギワシで面白い研究があった: de Miranda et al. (2023) Long-term concentration of tropical forest nutrient hotspots is generated by a central-place apex predator オウギワシはアマゾン森林に生息するが土壌は一般的に低栄養な地域。営巣木周辺の栄養を調べたところ巣の下の土壌は低栄養で、周辺の樹冠部が高栄養だったとのこと。糞が地上に届く前に葉で栄養が吸収されていると考えられる。これはオウギワシが営巣に必要とする巨木に栄養を与える一種の共生となっていると言える。
      しかしなぜリンなのだろう。生物を構成している元素は H, C, N, O と水素以外は星が作る元素で、CNO サイクルと呼ばれる元素合成反応があるようにそもそも存在量が多い。それ以上は原子番号が2増える (α元素と言われる) 反応が中心で原子番号が奇数の元素はもともと存在量が少ない (#オオワシの備考 [鳥類、特に猛禽類の鉛中毒] 参照)。 タンパク質を構成する硫黄 S はこのα元素で存在量が多い。生命の進化初期に H, C, N, O, S と存在量の多い元素が用いられたのは極めて自然であったが、リン P はリン酸がつながることができる (ポリリン酸など) 特異な性質があるため、ATP, ADP, RNA, DNA といった生命に必須の物質に採用されたものと考えられる (*1)。
      なぜリンが採用されたかは化学的特性から理解できるが、リンはどこからやってきたのだろうか。上記のように星の内部ではそれほど多量に作られず超新星爆発でも現在の存在量を説明できるほど放出されない。最近の研究で面白い可能性が浮上してきた。 Bekki and Tsujimoto (2024) Phosphorus Enrichment by ONe Novae in the Galaxy; リンは新星爆発が生み出した - 必須元素の起源に迫る - (日本語プレスリリース。ただしこの想像図は恐ろしく間違っているのでそのままの印象を残されないように)。 連星の中の白色矮星に相手の星 (この想像図よりもずっと小さい) から降り注いだガスが暴走的に核融合反応を起こす新星 (nova) 現象があるが、白色矮星が酸素・ネオンからなるタイプのもの (白色矮星のなかでも少数) の場合に多量のリンが合成されるとのこと。これらの新星爆発の発生は80億年前にピークを迎え、地球で生命誕生が可能となった46億年前に間に合ったとの仮説 [新星の解説は 新星とはいったいどのような天体でしょうか (2013年記事。同サイトの他の記事も参照。命名規則など学名の話とも関係する話題もあり) もどうぞ]。 同時に塩素 Cl も作られることが期待されるが、こちらはまだ観測的には検証されていないとのこと。まだ仮説段階ではあるが、生命を作る元素の起源に宇宙がどのようにつながっているかまた一つ面白い材料が増えた。いろいろな話を知っておくと科学は一層面白くなる。 Taguchi et al. (2023) Spectra of V1405 Cas at the Very Beginning Indicate a Low-mass ONeMg White Dwarf Progenitor の研究もよいところを行っていたが、連星進化理論との整合性がむしろ問題となっていて宇宙生物学との関連までは意識されていなかった。第3周期元素と聞いたところで思い浮かべればよかったのかも知れない (論文で扱われているアルミニウムとリンは原子番号2違うだけ)。 生物学的視点からは Bekki and Tsujimoto (2024) が扱っている新星よりも Taguchi et al. (2023) の扱ったものの方がさらによい供給源かも。天文学者も生命で何が問題となっているかよく知っておいた方がよさそう。
      補足:
      *1: 「進化の特異事象: あなたが生まれるまでに通った関所」ド・デューブ [#鳥類系統樹2024] で紹介 でも特異事象として挙げられている。同書 pp. 35-37。リン酸が2個つながったピロリン酸は生物によっては ATP の機能を一部代替しているものがあるとのことで、ピロリン酸は ATP の起源と考えられるとのこと。 火山性環境でみられるポリリン酸をエネルギー源として初期生命が誕生した可能性があるとのこと。
      ここで名前の出るもう一つの必須元素である硫黄 S はチオエステル結合を作ることで電子伝達系 (酸化還元、ATP を用いて化学反応を進める) の起源となったと考えられる。硫黄も火山性環境に多い元素で、生命誕生の場としてふさわしい (pp. 62-63)。 鉄 Fe はこの硫黄に結合する形で二次的に取り込まれるようになり、機能の中心が次第に (現在のように) 鉄に移ったものと考えられるとのこと。 鉄は多量に存在するため選択されたこと、d 軌道電子を持つ遷移元素であるため複数の酸化数をとりやすく (Fe 2+/Fe 3+) 電子移動を伴う酸化還元には都合がよかったのであろう。ここでもルイス酸・塩基の特性が現れていると思う (#オオワシの備考 [鳥類、特に猛禽類の鉛中毒] 参照)。硫黄の負イオンは代表的な軟らかい塩基で、鉄イオンは典型元素金属イオンより軟らかい酸のため相性がよい。
      銅 Cu にも似た性質があり、いくつかの酵素で用いられている。エビ・カニ・昆虫の一部 等の節足動物、貝の一部やイカ・タコ等の軟体動物に銅を中心とするヘモシアニン (hemocyanin) が呼吸色素として存在する。エボシドリ類の銅を含む色素の由来にも関係するかも知れない。Cu と Fe の原子番号は2違うだけである。 亜鉛 Zn は Cu の次の原子番号だが、これは生体で広く使われているのはご存じの通り。 Fe の次の元素コバルト Co はビタミン B12 の成分で、役割は Fe とは少し違ってメチル基転移を行う。 バナジウム V もホヤが用いていることなど有名。これらの元素はいずれも Fe に近い原子番号のもので、星の進化で比較的作りやすいために採用されたものだろう。 モリブデン Mo は原子番号 42 と Fe よりもだいぶ原子番号が大きく存在量も少ないが、マメ科植物の根に共生する根粒菌の窒素固定を行うニトロゲナーゼ (nitrogenase) が用いているのが有名であり、他にもいくつも酵素が知られている (Mo の起源はオオワシの備考で紹介の s 過程と連星中性子星合体が半々ぐらいと見積もられている)。 もともとは Fe を使っていたのだが、Mo の方がより機能が高いためそちらが選択されてきたのか。 Mo を持つキサンチンオキシダーゼ (xanthine oxidase) は我々も用いていて核酸代謝産物の尿酸合成にかかわっている。他にも生物が用いる金属元素があり、例えば wikipedia 英語版の Metalloprotein などをご覧いただきたい。
      [鳥類の窒素排泄・栄養状態ストレスとの関係] 尿酸合成から糞の話に戻ると、爬虫類や鳥類では窒素を尿酸で、両生類 (成体) や哺乳類は尿素、さらに魚類ではアンモニアで排泄する違いがある (いずれも大雑把な話) ことはよく知られている。生化学機構は Raidal et al. (2007) The Advantages and Disadvantages of Excreting Uric Acid の解説がわかりやすい。尿素合成の回路は哺乳類でも同じだが、多くの哺乳類はさらにより無害なアラントインまで酸化するとのこと。 哺乳類でも霊長類やイヌのダルメシアン (Dalmatian) 品種は最後の段階の酵素を失っていて尿酸を排泄するとのこと。鳥類も同じ酵素を欠いている。 一部の霊長類は尿酸の抗酸化能力によりビタミン C の合成能力を必要としなくなった (直鼻猿亜目) 話もある (#クロハゲワシ備考の [猛禽類の植物食] でも少し触れる)。 鳥類で尿酸が酸化ストレスで酸化され、アラントインとして排泄されることも知られている [cf. Tsahar et al. (2006) The relationship between uric acid and its oxidative product allantoin: a potential indicator for the evaluation of oxidative stress in birds]。 これは抗酸化物質として消費された証拠となる。
      アンモニアの解毒回路は鳥類と哺乳類で多少違っていて、鳥類では主に哺乳類ミトコンドリアで働いている Carbamoyl phosphate synthetase I (CPSI *1) の代わりにグルタミンシンテターゼ (グルタミン合成酵素) glutamine synthetase が同様の役割を果たしているとある [参照: Stern and Mozdziak (2019) Differential ammonia metabolism and toxicity between avian and mammalian species, and effect of ammonia on skeletal muscle: A comparative review および参考文献]。
      アンモニアを代謝する最初の主なステップが異なり、後はどちらにも存在する代謝経路で尿素になったり尿酸になったりする模様。 しかし鳥類にも尿素回路の酵素は存在していて、ある種の鳥では低温環境でよりエネルギーの必要な尿素合成を節約して尿素排泄が増えるとのこと。さらに水分が十分あればハチドリ類は半分近くをアンモニアのまま排泄できるという (ハチドリ類は食物に水分が非常に多いため、尿もあまり濃縮する必要がない)。鳥類・哺乳類の絶対的な違いというよりある程度相対的なものらしい。 ヒヨドリ類では水分を多量に摂取している場合はアンモニア排泄が中心になるとのこと: Tsahar et al. (2005) Can birds be ammonotelic? Nitrogen balance and excretion in two frugivores (アラビアヒヨドリ Pycnonotus xanthopygos White-spectacled Bulbul で調べられたもの)。ハチドリ類だけの特技ではなかった。 尿酸は排泄物であると同時に抗酸化物質でもあるので、余分な窒素を他に捨てる経路があるならば尿酸を再吸収して利用している可能性があるとのこと。
      そういえば捕食者のない地上性の離島の鳥でアンモニア臭があるものがあるらしいが、もしかしてアンモニアも排泄していないだろうか。
      2023 年の伊吹山のイヌワシ子育て生中継で餌がほとんど運ばれず、猛禽類は何日絶食できるか ML Kbird で話題となった (スタッフによる介入直前ぐらいの段階)。その時に調べた文献から紹介:
      Ferrer and Dobado-Berrios (1998) Factors affecting plasma chemistry values of the Spanish Imperial Eagle, Aquila adalberti のスペインカタシロワシの研究によれば、栄養状態が悪いと尿素 (尿酸も) の血中濃度が際立って高まるとのこと。絶食によって自身のタンパク質を異化した代謝産物であると考える文献を引用している。再度タンパク質の豊富な餌を与えられるとこれらの高い値は正常値以下に下がる。
      ちょっとかわいそうな話だが、ヨーロッパノスリの人工的飢餓実験があるとのこと。 Garcia-Rodriguez et al. (1987) Metabolic responses of Buteo buteo to long-term fasting and refeeding この実験では 13 日間の絶食で7羽での実験。この実験でも尿素 (尿酸も) が急上昇してゆくとのことで、種による違いがあってペンギンではそうならなかった (ペンギンでは絶食がそもそもライフサイクルの中に入っていて、より効率のよい脂肪燃焼で絶食期を過ごす。食物不足時の猛禽類とペンギンでは戦略がそもそも違う)。 猛禽類ではタンパク質を異化することでエネルギーをまかなうらしい。血中タンパク質量は大きく減らなかったがグロブリンが減ってアルブミンが維持された (アルブミンが栄養を体に送るのに働いている。グロブリンが減ると免疫能力は低下するかも知れない)。 13 日めには血中グルコースが上昇。長期絶食で血糖コントロールシステムが緩んだ (変調をきたした) 可能性がある。この実験では (正常状態の個体で飼育環境で管理されている) 13 日の絶食に耐えることが示された。その後正常に食物を食べることができたとのこと。
      これらの研究でなぜ尿素が急上昇したのか昨年のイヌワシ子育てライブの時点では気づかなかったが、上に示したような窒素排泄経路を考えると納得が行く。エネルギーの必要な尿素合成を節約して尿素に回すことになったのだろう。尿素排泄には尿酸より多くの水分を必要とするため、伊吹山のイヌワシひなのように水分もとれない状況では排泄できず尿素濃度が高くなって中毒になるだろう。
      Spee et al. (2010) Should I stay or should I go? Hormonal control of nest abandonment in a long-lived bird, the Adelie penguin アデリーペンギンではタンパク質を燃焼させる段階に入ると抱卵放棄すると考えられていた。 この文献ではそれだけが要因ではなくて、プロラクチン (哺乳類では乳汁分泌作用のあるホルモンでこの名前が付いた) 濃度が低いことと組み合わさると放棄することになるとのこと。 伊吹山のイヌワシも両親が食物不足でタンパク質を燃焼させる段階になると育児放棄が発生しやすくなるのかも、などの議論をしていた。 Angelier and Chastel (2009) Stress, prolactin and parental investment in birds: a review 栄養状態のストレスでプロラクチンレベルが下がる (これは個体の生存を考えれば適応的な反応) ので、栄養状態でプロラクチンレベルも介して抱卵 (育児も?) 放棄につながる関連が読み取れる。
      Riou et al. (2010) Stress and parental care: Prolactin responses to acute stress throughout the breeding cycle in a long-lived bird 海鳥でよく調べられていて、子育ての間はプロラクチンレベルは高いまま、とのこと。 ストレスに対してプロラクチンレベルが下がる反応は抱卵時には弱い (俗な言葉で言えばたとえば母性本能が強いように見える)。ひなを育てる時期の後の方にこのストレス反応が高まる (育児放棄が起きやすい)。これは渡り鳥の研究なので、親自身の生存可能性を高めるための反応と考えれば理解できるかも、とのこと。
      備考:
      *1: 尿素回路またはオルニチン回路 (ちなみにオルニチン ornithine の名前は 1877 年 Jaffe にニワトリの糞から発見されたことに由来する) よりに入る手前の反応に関わる酵素。 ニワトリのゲノム解析の結果では CPSI 遺伝子は失っていないが、ミトコンドリアに輸送するための補因子 (cofactor。両生類や哺乳類でアロステリックに酵素活性を補強するように働く) となると考えられる N-acetyl glutamate synthase (NAGS) の遺伝子は失っており、哺乳類のような機能は果たせないとみなされている。 このため生成されたアンモニアはグルタミンシンテターゼによる尿酸生成に向かう。ニワトリでは尿素回路の遺伝子は発現しているが弱いとのこと。 Wertman (2012) Poultry Evolution: A Concentration on NAG, CPSI and the Urea Cycle および wikipedia 英語版を参照した。
      Haskins et al. (2008) Inversion of allosteric effect of arginine on N-acetylglutamate synthase, a molecular marker for evolution of tetrapods にも考察があり、ニワトリに CPSI や ornithine transcarbamylase (OTC 尿素回路でオルニチン + cambamyl phosphate からシトルリンを合成する酵素) があるのは、祖先が尿素排出をしていた名残りであろうとしている。爬虫類でもワニ、トカゲ、ヘビで CPSI が失われているがカメには存在するとのこと。 NAGS が CPSI に対してアロステリックに働くかは条件次第で、働かないものもあるらしい (哺乳類での働きから想像されているものなので必ずしも必須ではないかも知れない)。鳥類では CPSI, OTC 遺伝子は存在するので効率は悪いが尿素合成の回路は持っているということか。前述の例を見ると条件次第で使っているかも知れない。 NAGS 遺伝子はアルギニン代謝に関係しており、NAGS を持たないことはニワトリの餌のアルギニン必要量と合うとのこと。 CPSIII は魚に存在し、陸上生活に伴って CPSI に役割が入れ替わった。これは脳に対するアンモニア毒性を素早く取り除くのに役立ったのだろうとのこと。
      なお、ヒトの尿酸は窒素代謝物というより核酸代謝物である点は異なる。腎臓以外に腸管でも行われる。 大内他 (2015) 尿酸代謝異常 にも参考情報あり。
      尿素回路またはオルニチン回路はハンス・クレブス (Hans Krebs 原語読みではクレプスとなる。クレブスは英語読み) が発見した回路の一つで、1932 年に、1937 年のクエン酸回路 (TCA 回路) に先駆けて発見されたもの。後者が一般にクレブス回路と呼ばれる (1953 年 ノーベル生理学・医学賞)。 Krebs はさらに2種類の回路を発見しており glyoxylate cycle (グリオキシル酸回路 Krebs and Kornberg 1957) そして尿酸サイクル (Mapes and Krebs 1978 Rate-limiting factors in urate synthesis and gluconeogenesis in avian liver; グリオキシル酸回路を共同発見した Kornberg は Kreb の発見した回路は3つと数えていて、忘れられたクレブス回路とも言われる)。
      代謝経路にはこのように冗長性があるため、尿素排泄から尿酸排泄への進化は比較的簡単に行えたのだろう [#鳥類系統樹2024] 紹介の Ng et al. (2023) も参照。
  • ウミウ
    • 学名:Phalacrocorax capillatus (パラクロコラックス カピッラトゥス) 頭の羽毛に特徴がある頭の白いワタリガラス
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:capillatus (adj) 髪の豊かな (capillus (m) 髪の毛 -tus (接尾辞) 〜が備わっている); 棘毛の多い (愛媛の野鳥「はばたき」)
    • 英名:Japanese Cormorant
    • 備考:単形種。 原記載 Carbo capillatus Temminck and Schlegel, 1850。Holthuis and Sakai (1970) によれば 1849 が正しいとのこと。 別の図版。 当時の属名は Carbo でカワウをタイプ種とする属を指していた。Temminck and Schlegel は Carbo filamentosus (フィラメント状の意味) の別学名でも紹介しており、 Le Cormoran Chevelu. Carbo Filamentosus. Pl. 83, en plumage d'amour ... Habit de noces: ... Dessus de la tete et partie superieure du cou garnis, outre le petit plumage noir, de plumes plus longues, soyeuses ou filamenteuses et d'un blanc tirant au jaunatre. と記載している (The Key to Scientific Names)。
      これから派生した学名 Phalacrocorax filamentosus も使われていたが、現在は通常こちらがシノニムとされる。 Temminck and Schlegel の Fauna Japonica (1850) の同じ文献で filamentosus の方が本文中、capillatus は図版に用いられており、図と本文で学名が違うことになる。どちらを用いるかおそらく見解が分かれていたらしく、Dement'ev and Gladkov (1951) は前者を採用している。 現在の世界のチェックリストは capillatus を用いているが、2000年以降の論文でも Phalacrocorax filamentosus の学名が使用されているものがある。 例えば越智・綿貫 (2008) ウミウの採餌トリップ長の個体変異が繁殖成績に及ぼす影響 のように日本鳥学会誌でも用いられていたので、少なくとも当時はこの学名も普通に用いられていたものと考えられる。
      H&M4 vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2 の解説によれば、Morioka et al. (2005) が capillatus を選択したが、Mlikovsky (2012) The dating of Temminck & Schlegel's Fauna Japonica: Aves, with implications for the nomenclature of birds によれば図版の方が本文より先に出版され、capillatus にそもそも先取権があるため、特に選択を考える必要はないとのこと。
      現在の属名に含まれる phalakros "はげ頭の、頭の白い" と種小名の "髪の豊かな" が矛盾するように見えるが、これは原記載時に使われた Carbo属より先取権のある Phalacrocorax Brisson, 1760 に変更されたことも要因の一つであろう。 Temminck and Schlegel の記載では頭の羽毛が伸びて「フィラメント状」(英語ならば例えば thread に対応) になっていることを意図していたと考えられ、capillatus を「髪の豊かな」とする訳は少しニュアンスが異なるかも知れない。 英語で毛細血管や毛細管を示す capillary も同じ語源で「毛のような」の意味から発したもの。もとは capillus (指小形) < caput (頭) なので、「頭の羽毛に特徴がある」ぐらいの意味に訳してよいかも知れない。 カワウの亜種とされたこともある。
      英名は Temminck's cormorant とも呼ばれる。 Moores (2015) Identification Challenge: Korea's Cormorant Conundrum によれば分布を考え、またほぼ日本固有とされるカワウ亜種 Phalacrocorax carbo hanedae があるので英名の Japanese Cormorant はあまりふさわしい名前でなく、Temminck's cormorant の方がよいのでは、とのこと。 海外の名称を見て見ると多くが "日本の" を付けている (英名からの翻訳か)。ロシア語では "日本の" とともに "ウスリーの" の名称もある。中国語では 暗背 のウ (中国語のウの漢字は難しい) または 丹氏 (Temminck) を冠している。"日本の" の付いた中国名もある模様。 フランス語では Cormoran de Temminck になっている。
      [カワウとウミウの関係] Young Guns (2016) Birder 30(5): 44-47 にカワウとウミウの識別がある。 この記事によればヨーロッパ北部のカワウにウミウに近い遺伝子型があり、亜種が提案されているとのこと。これは Marion and Le Gentil (2006) Ecological segregation and population structuring of the Cormorant Phalacrocorax carbo in Europe, in relation to the recent introgression of continental and marine subspecies で、カワウの亜種 sinensis とヨーロッパの亜種はよく分離されるが、ヨーロッパの亜種は北部・西部の2系統があって、西部のものは本来のカワウの基亜種 carbo であるものの、北部はウミウに近く、氷河期に大陸東西に分離されたものの遺存の可能性を示唆している。この個体群はほとんど渡りを行わないとのこと。 この文献では同個体群にカワウの亜種 norvegicus を提案しているが、世界の主要リストでは carbo のシノニムとされている。
      Sangster and Luksenburg (2023) The importance of voucher specimens: misidentification or previously unknown mtDNA diversity in Phalacrocorax capillatus (Aves: Phalacrocoracidae)? は Honda et al. (2022) Complete mitochondrial genome of the Japanese Cormorant Phalacrocorax capillatus (Temminck & Schlegel, 1850) (Suliformes: Phalacrocoracidae) が解読したウミウとされる (2010年青森市で救助されたが死亡した) 個体のミトコンドリアゲノムがカワウグループに属することを示した。これがこれまで知られていない日本における遺伝子浸透の結果なのか種名の誤りなのかは検証のための標本が残されていないため判定できないとのこと。Honda et al. (2022) の系統樹でもカワウとほとんど差がないことが示されていた。
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES ペリカン科 PELECANIDAE 

  • モモイロペリカン
    • 学名:Pelecanus onocrotalus (ペレカヌス オノクロタルス) ペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:onocrotalus (m) ペリカン < onokrotalos ペリカン (Gk)
    • 英名:White Pelican, IOC: Great White Pelican
    • 備考:単形種。和名の由来は繁殖期の色から。 ペリカン類の分子系統研究は Kennedy et al. (2013) The phylogenetic relationships of the extant pelicans inferred from DNA sequence data を参照。 従来考えられてきたような白色の種類と茶色の種類で系統が違うのではなく、旧世界とオーストラリアを含む系統と新世界の系統に分かれる。ハイイロペリカン、ホシバシペリカンは前者のグループ、モモイロペリカンは少し離れるが前者に属する。
      ["ペリカンと少年"] 「ペリカンと少年」という旧ソ連の映画があった。何かの機会にTVで2回見ることがあって (もちろん日本語吹き替えで、原作ごろよりずっと後の時代に) 印象に残っているのだが、原作は1963年で原題は Slepaya Ptitsa (盲目の鳥) とのこと。ペリカンと少年にストーリーのほぼ全解説がある。 Slepaya Ptitsa で原作を見ることができる (データベースでは65分とあり、英語版でのみ見られるシーンがあるため原作よりわずかに短縮されているかも知れない)。 The Blind Bird - Slepaya Ptitsa - Russian Children's Movie from 1963 で英語版が見られるが若干編集・短縮されており、原作にない部分に音楽が入っていたりする。英語版ではあるが1960年代アメリカ流脚色付きと言ってよいかも知れない。日本版はどうなっていたのか再度見たいところであるが...。 上記記載で内容はほぼわかるが、原作や解説情報を見た上でもう少し詳しめに紹介しておく。この程度のストーリーがあれば原作のままでもかなり理解いただけるのではないだろうか。
      映画はペリカンの繁殖コロニー調査で生態映像で始まる。足環標識をするために追い込んでいるところ。 そこでワーシャが逃げないペリカンに気づいた。「こいつ怖がらないよ?」、鳥類学者のおじいさんは手をかざして「目が見えないんだ」。ここから Slepaya Ptitsa (盲目の鳥) が始まる。 (解説記事には「ペリカン島」とあるがどこかはわからない) 連れて帰りペリカと名前を付けてワーシャはいつも一緒に行動。学校にも連れていって騒動もあり。 ペリカと一緒に外で食べていた時包装紙の新聞記事に目がとまる。モスクワのアルバートフ教授が手術で盲目の人の視力を取り戻したという。 そして仲間のペリカンは渡って行き、雪の積もる中ワーシャとペリカは部屋の中で一緒に冬を越す。 本を読みながら冬は暖かい地域に渡ることを知り、遠くへの思いを馳せる。 また季節がめぐってきたころワーシャはレニングラードのおばあさんのところに行くことになり、剥製のペリカンを代わりに置いてペリカをこっそり箱に入れて連れて列車に乗った。 乗客が腐った魚の臭いに気づき、 乗務員が「規則により客車に生きた鳥は持ち込んではいけません」。不潔でもし伝染病を持っていたらどうするんだとうるさい乗客と騒動となる。「人に慣れているのだし」とか擁護する乗客もいる。規則を持ち出した乗務員もなぜか顔は笑っている (うるさいのはむしろ一部乗客だけだったりする描写が面白い)。 「オウムかい?」「ペリカンです」。 そして親切な車掌さんの部屋へ。「なぜ乗せてるんだ」「目が見えないんだ」「そうなんだ」(中略) 何度も名前を聞いているはずの車掌さん「えっと何というんだっけ?」「ペリカン」「そうそうペリカン」あたりのやりとりが面白い。「何か食べさせてやりたいんだ」「安心して、食べ物は何とかするから」。 そして列車にはキッチンがあり、「魚おくれ」「了解」メニューを並べるシェフの言葉に「いやそんなのでなく...新鮮な凍ったのを...」「え、生で?」と驚くシェフ。「これは内緒」でお互い納得。次に現れた客もためらいつつ「すみませんが生で、できたら2つ」と魚を注文。 親切な乗客にも助けられてモスクワで下車。翌朝また来ればレニングラードに連れてあげるからと伝えられる。 いろいろなところで道を訪ねたりするが、そのうち都会の少年たちに目をつけられ「箱の中身を見せろ」と追いかけられることに。 一度は逃げることに成功したが結局みつかってしまい、箱を開けた。ペリカンに一同驚き、少年たちも協力してくれることになった。 公園のベンチで夜を過ごす間にペリカンはいなくなっていたがまた再会を果たす。 しかし餌がなく通りすがりの少年の持っていた金魚にお金を払うなどしていた。その少年も返しに戻ってくるあたりの描写も細かい。道を歩いていると婦人の持っていた荷物の魚が気になって仕方がない。あの一匹でもあれば...頼んでみようか...くれそうもないや...今日中に教授が見つからなかったらレニングラードに行こうか...。 そこで魚がすべり落ち、拾ったところで泥棒扱いされ警察 (補導官?) へ。 警察で事情を説明しペリカンを出してみせると (この部分が上記紹介の原作に抜けているようで一部カットされている可能性がある。英語版から補充) その婦人も協力してくれ魚やワーシャにも食べ物も与えてくれた。 その間に警察がアルバートフ教授に電話し、「いやこの子の目が見えないのではなくて...」そして 無事に医師のもとへ。しかし一旦は断られ、「新聞記事は嘘か?」「いや本当だ」。鳥の手術などやったことがない。落ち込み帰りかけたワーシャに、レントゲンを撮ってみようかと教授は声をかける。 レントゲン写真を前に猟銃の弾が神経を圧迫していると説明。治る可能性はあるが神経がやられているとだめだ。「説明は全部わかるか」「わかります。手術をお願いします」「保証はできないが」、 そして手術がうまく行かず「もし死んだら?」...ワーシャはしばらくの沈黙の後「一生見えないよりも」。「任せてくれるか」「はい」。「それでは決断しよう」「決断します」。 手術中の待合室、そしてアルバートフ教授が現れ「これが弾だ。君のペリカンは素晴らしい。手術にこの上なくよく耐えた。10日もすれば結果がわかるだろう」。 そしてしばらく後に包帯が取れて診察室へ。「やはり見えてないですか?」「うむ」。 しばらく沈黙の後、教授は「できる限りのことはしたはずだなのだが...」。 そしてお礼の後、これほど面倒なことをお願いしてごめんなさいと涙を流すワーシャを抱擁する教授。
      家に戻ったワーシャとペリカ。あるところからペリカの目が見えていることに気づく。 アルバートフ教授にペリカの目が見えるようになったと手紙を書くワーシャ「暖かい地域に行けるように明日おじいさんと放しに行きます」。 そしておじいさんとボートで野生ペリカンのところへ。ワーシャとペリカはすでに親友でもう別れ難い。しかし放さないといけない。 おじいさんの「友達にお別れをするんだ」。「放して!」の一声で放されたペリカはためらいつつも飛び立ち、そして見事な飛翔で群れに加わってゆく。羽根1枚だけを残して。
  • ホシバシペリカン
    • 学名:Pelecanus philippensis (ペレカヌス ピリッペンシス) フィリピンのペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:philippensis (adj) フィリピンの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Spot-billed Pelican
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。フィリピンペリカンとも呼ばれた。 森岡 (1999) Birder 13(5): 66-69 に考察があり、Pelecanus crispus はかつて Pelecanus philippensis の亜種とされた。 フィリピンは基産地ではあるが [Gmelin (1789) の 原記載]、現在の繁殖分布でも通常の越冬分布でもないのでフィリピンペリカンの名称は適切でないと述べられていた。 現在の世界の他言語でもフィリピンの名前はほとんど用いられていない。"東洋の" を付ける言語もあり、ヨーロッパからはわかりやすい名前だろう。
  • ハイイロペリカン
    • 学名:Pelecanus crispus (ペレカヌス クリスプス) 髪がちじれたペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:crispus (adj) ちじれた (後頭部の羽毛がよじれている)
    • 英名:Dalmatian Pelican (ダルマチア: 現在はクロアチアのアドリア海沿岸地域一帯)
    • 備考:ニシハイイロペリカンとも呼ばれる。単形種だが化石亜種 palaeocrispus が知られている。 ペリカン類で最大種。飛べる鳥の中でも最大に近い。 かつてはホシバシペリカンと同種とする考えもあった。Bruch (1932) の 原記載 の方が遅いので同種にする場合は Pelecanus philippensis の亜種になる。 Pelecanus roseus Gmelin, 1789 (原記載) との関係も問題になる (Pelecanus philippensis と同年なので) が、森岡 (1999) Birder 13(5): 66-69 はシノニムとして扱う考えを紹介している。 Clements 1st, Howard and Moore 2nd edition, Peters' Check-list of the Birds は別種扱い (Southern White Pelican) としていたが、現在の世界のチェックリストは無効な種学名として扱っている模様。別種モモイロペリカン Pelecanus onocrotalus の亜種 roseus として使われることがあったが、これも現在は使われていない。
      「和漢三才図会」(わかんさんさいずえ) や「本草綱目」にもペリカンが登場し、ハイイロペリカンと考えられるとのこと (コンサイス鳥名事典)。「伽藍鳥」(ガランテウ/ガランチョウ) が当時の古名で、 江戸時代の博物誌 珍禽奇獣異魚によれば、「永享2年 (1430) に京都伏見の舟津で捕えられたのが日本における最古の記録ですが、江戸時代にはかなりの数の記録があり、しばしば見世物にも出されていました。 この図は右下に「文久二年 (1862) 壬戌秋八月 於尾張熱田沖 桜新田海岸 捕之」とあります。このペリカンはおそらく台風に運ばれてきた迷鳥でしょう。著者の清水淇川は尾張の画家です」 と記されている。 志村 (1994) Birder 8(11): p. 76 によれば中国語では鵜の漢字をペリカンに用いる。
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES サギ科 ALDEIDAE 

  • サンカノゴイ
    • 学名:Botaurus stellaris (ボタウルス ステッラリス) 星斑のある雄牛のようなヨシゴイ
    • 属名:botaurus (合) 雄牛のようなヨシゴイ (botor ヨシゴイ類 taurus (m) 雄牛)
    • 種小名:stellaris (adj) 星の (stella (f) 星 -aris (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bittern, IOC: Eurasian Bittern
    • 備考:ユーラシアに広く分布し、アフリカにも局所的に分布する。2亜種あり、日本で記録されるものは基亜種 stellaris とされる。 英名の由来はラテン語 butio (ヨシゴイ類) taurus (雄牛) から合成。学名の由来と同じ。 botor/butio はもともとは bos (m) 雄牛に由来する。
      [サギ類の系統分類] Hruska et al. (2023) Ultraconserved elements resolve the phylogeny and corroborate patterns of molecular rate variation in herons (Aves: Ardeidae) に UCE (ultraconserved elements) を含めた詳細な分子系統解析が発表された。 種のサンプルはまだ十分ではないが、少なくとも系統関係に関してはタカ類に匹敵する精度で系統樹を議論できるようになった (#アカハラダカの備考参照)。 従来通りミトコンドリア遺伝子のみを使うと結果が少し異なるとのこと (同文献 fig. 3) だが、核遺伝情報ではここに示された系統が支持されるとのこと。 特に 2021 年ぐらいよりこのような系統解析が普通に発表されるようになってきており、これが世界標準になりそうである。 これまでの系統樹と多少異なる点があるので、他の文献も用いて全種の系統を網羅した Boyd の分類に従った最新分類を紹介する。Boyd によれば古い研究はもう忘れてもよいぐらいで、新しい分子系統分類は形態特徴に基づく系統分類ともよく一致するとのこと。 これまで部分的な遺伝情報に頼って属間の移動が行われたりしたが、多少の修正が必要になりそうである。 Hruska et al. (2023) によって アカハラサギ亜科 Agamiinae (アカハラサギのみ) が新設された。
      分類、学名、順序は Boyd による。英名はわずかな綴り調整以外 Boyd の表記をそのまま採用した。 IOC 英名とは少し違うところもあるので統一的な英名を必要とされる方はご確認いただきたい。
      Boyd によれば Mendales (2023) の修士論文で分子系統解析でササゴイが複数種に分離される証拠があり、ここでは色彩に基づいて暫定的に5種 (南米のものは分子系統で確実に分かれるとのこと) に分けたとのこと。これらは Boyd の解説しているところの「時には未発表データも取り入れて」系統樹を検討した例である。 これまでのササゴイの基亜種 striata が南米のものなので、もし分離されれば日本のササゴイも学名が変わる。 この分類によればアジア地域で最も早い記載により Butorides javanica となる。南米のものを別種とするならば学名変更は避けられない。 American Striated Heron の名称が与えられているが、そのまま和訳のアメリカササゴイはすでに別種に使われているので暫定的にナンベイササゴイとしてみた。他の新和名も暫定である。
      ダイサギも Raty (2014) の DNA バーコーディングにより複数種に分けられる証拠があり、4亜種の繁殖期の羽衣の色彩がすべて異なるため4種としたとのこと。アフリカダイサギ? Casmerodius melanorhynchos のみは DNA を用いている。 この分類に従えばダイサギとチュウダイサギが別種となり、チュウサギと一緒に1系統を形成することになる。これまでの分類に比べ、我々の直感とも合っている感じがするが学名は大きく変わる。
      広義 Ardea 属のままでも単系統をなすが、特徴のあるアマサギ属 Bubulcus の名称を残したいならばこの分離は必須になる。 ダイサギ系とアオサギ系はだいぶ違いが感じられるのでこの分け方で妥当かも知れない。 属名の性が変わることで種小名が変わるものも多数ある。 ロシア沿海地方でダイサギの繁殖を紹介している Gluschenko et al. (2024) The great egret Casmerodius albus in the south of Russian Far East (pp. 939-961) でもこの学名を採用している。ロシアでは以前から使われていた属名らしい。 英語圏のリストでは Ardea が使われているがとの言及付き。 "シラサギ属" の和名はかつて使われていたものだが、現在では分類概念が異なっているのでここでは使わないことにしておく。
      Ardea occidentalis Great White Heron はオオアオサギからの分離候補で AOU, HBW/BirdLife では古くから分離している。英名はこの名称が定着しているようだが、ダイサギの英名として使われることもある Great White Egret と大変紛らわしい。 和名を付けるにも悩ましそうでオオアオサギより大きいのならばオニアオサギかと思えばすでに他種で使われている上に姿の印象とかなり違う。 真っ白なんだからオオダイサギでよいかと言えばこれは亜種ダイサギの旧名。シロオオアオサギ? のような矛盾した (?) 名前を付けるか、分布が南フロリダからカリブ海なので地名を付ける? かつてから種扱いもあったので何か和名があったかも知れないが調べられていないと思って探してみるとオオシロサギの名前がコンサイス鳥名辞典にあった。"シラサギ" でなく "シロサギ" が紛らわしくならないポイントだろうか。 オオアオサギのうち、この亜種または種のみが "白色型" で中間型も知られているとのこと。 アオサギの白色型とは? どんな感じに見えるかは画像検索などしてみていただきたい。 #クロサギでは白色型は morph で分類上異なるわけではないが、オオアオサギでは異なることが提唱されている。この2種で白色型の意味がどう違うのかなど調べると面白いだろう。
      なおサギ類は世界的に非常に分布の広い種が多数ある。日本で観察できる印象と前後の種で名称から分布がずいぶん違っているように見えることもあるが、分布図を見ていただければ近い関係にあってもおかしくないことを理解いただけるだろう。
      サギ科の系統分類について、用いられた資料は少し古いが日本語の解説がある。サギ科の系統分類 (アオサギを議論するページ 2015)。Prum et al. (2015) が使われており、サギ科の位置づけの理解は現在もこの通りだろう。 サギ科内は新しい研究でやはり様相が変わっており、Ardeinae 亜科の下位の階層分類と考えられていた Nycticoracini, Ardeni, Egrettini 族のうち Nycticoracini, Egrettini は現代的な分子遺伝分類では単系統にならない。 単系統性に基づく概念を設けることはできるが Hruska et al. (2023) は亜科以外の分類を特に示していないのでここでは取り扱わないことにする。 過去に提唱されていた Ardeni 族は単系統であるが、日本語でシラサギと言われるグループに特に対応するわけでなく、ササゴイも含まれる。 ミゾゴイ、ヨシゴイ、ササゴイがサギ科の中でもすべて違うグループに属することも注目しておいてよいだろう。

      (Boyd の分類による)

      トラフサギ亜科 Tigriornithinae: Tiger-Herons
       アフリカトラフサギ属 Tigriornis
        アフリカトラフサギ Tigriornis leucolopha White-crested Tiger-Heron

       トラフサギ属 Tigrisoma
        トラフサギ Tigrisoma lineatum Rufescent Tiger-Heron
        ハゲノドトラフサギ Tigrisoma mexicanum Bare-throated Tiger-Heron
        ズグロトラフサギ Tigrisoma fasciatum Fasciated Tiger-Heron

      ヒロハシサギ亜科 Cochleariinae: Boat-billed Heron
       ヒロハシサギ属 Cochlearius
        ヒロハシサギ Cochlearius cochlearius Boat-billed Heron

      アカハラサギ亜科 Agamiinae: Agami Heron
       アカハラサギ属 Agamia
        アカハラサギ Agamia agami Agami Heron

      サンカノゴイ/ヨシゴイ亜科 Botaurinae: Bitterns
       コビトトラフサギ属 Zebrilus
        コビトトラフサギ Zebrilus undulatus Zigzag Heron

       サンカノゴイ属 Botaurus
        ナンベイヨシゴイ Botaurus involucris Stripe-backed Bittern (Ixobrychusより移動)
        コヨシゴイ Botaurus exilis Least Bittern (Ixobrychusより移動)
        サンカノゴイ Botaurus stellaris Eurasian Bittern
        オーストラリアサンカノゴイ Botaurus poiciloptilus Australasian Bittern
        アメリカサンカノゴイ Botaurus lentiginosus American Bittern
        ナンベイサンカノゴイ Botaurus pinnatus Pinnated Bittern

       ヨシゴイ属 Ixobrychus
        タカサゴクロサギ Ixobrychus flavicollis Black Bittern
        リュウキュウヨシゴイ Ixobrychus cinnamomeus Cinnamon Bittern
        オオヨシゴイ Ixobrychus eurhythmus Von Schrenck's Bittern
        クロヨシゴイ Ixobrychus sturmii Dwarf Bittern
        ヒメヨシゴイ Ixobrychus minutus Little Bittern
        ヨシゴイ Ixobrychus sinensis Yellow Bittern
        セグロヨシゴイ Ixobrychus dubius Black-backed Bittern
        オーストラリアヨシゴイ Ixobrychus novaezelandiae New Zealand Bittern (絶滅種)

      ゴイサギ亜科 Nycticoracinae: Night-Herons
       ミゾゴイ属 Gorsachius
        ズグロミゾゴイ Gorsachius melanolophus Malayan Night-Heron
        ミゾゴイ Gorsachius goisagi Japanese Night-Heron

       シラガゴイ属 Nyctanassa
        シラガゴイ Nyctanassa violacea Yellow-crowned Night-Heron
        バーミューダゴイサギ Nyctanassa carcinocatactes Bermuda Night-Heron (絶滅種)

       ゴイサギ属 Nycticorax
        ハシブトゴイ Nycticorax caledonicus Nankeen Night-Heron
        ゴイサギ Nycticorax nycticorax Black-crowned Night-Heron
        アセンションゴイサギ? Nycticorax olsoni Ascension Night-Heron (絶滅種)
        レユニオンゴイサギ? Nycticorax duboisi Reunion Night-Heron (絶滅種)
        モーリシャスゴイサギ? Nycticorax mauritianus Mauritius Night-Heron (絶滅種)
        ロドリゲスゴイサギ? Nycticorax megacephalus Rodrigues Night-Heron (絶滅種)

      アオサギ亜科 Ardeinae: Egrets and Herons
       セジロミゾゴイ属 Calherodius
        セジロミゾゴイ Calherodius leuconotus White-backed Night-Heron (Gorsachius属より移動)

       ハイナンミゾゴイ属 Oroanassa
        ハイナンミゾゴイ Oroanassa magnifica White-eared Night-Heron (Gorsachius属より移動)

       シロゴイサギ属 Pilherodius
        シロゴイサギ Pilherodius pileatus Capped Heron

       キムネゴイ属 Syrigma
        キムネゴイ Syrigma sibilatrix Whistling Heron

       コサギ属 Egretta
        ムナジロクロサギ Egretta picata Pied Heron
        カオジロサギ Egretta novaehollandiae White-faced Heron
        ヒメアカクロサギ Egretta caerulea Little Blue Heron
        サンショクサギ Egretta tricolor Tricolored Heron
        アカクロサギ Egretta rufescens Reddish Egret
        ユキコサギ Egretta thula Snowy Egret
        コサギ Egretta garzetta Little Egret
        アフリカクロサギ Egretta gularis Western Reef-Heron
        マダガスカルクロサギ Egretta dimorpha Dimorphic Egret
        クロコサギ Egretta ardesiaca Black Heron
        ノドアカクロサギ Egretta vinaceigula Slaty Egret
        カラシラサギ Egretta eulophotes Chinese Egret
        クロサギ Egretta sacra Pacific Reef-Heron

       ササゴイ属 Butorides
        ナンベイササゴイ? Butorides striata American Striated Heron
        アメリカササゴイ Butorides virescens Green Heron
        ガラパゴスササゴイ Butorides sundevalli Lava Heron
        アフリカササゴイ? Butorides atricapilla African Striated Heron (Butorides striata より分離)
        アラビアササゴイ? Butorides brevipes Arabian Striated Heron (Butorides striata より分離)
        ササゴイ Butorides javanica Asian Striated Heron (Butorides striata より分離)
        オーストラリアササゴイ? Butorides macrorhyncha Australasian Striated Heron (Butorides striata より分離)

       パプアトラフサギ属 Zonerodius
        パプアトラフサギ Zonerodius heliosylus Forest Bittern

       アカガシラサギ属 Ardeola
        クロアマサギ Ardeola rufiventris Rufous-bellied Heron
        カンムリサギ Ardeola ralloides Squacco Heron
        マダガスカルカンムリサギArdeola idae Malagasy Pond-Heron
        アカガシラサギ Ardeola bacchus Chinese Pond-Heron
        インドアカガシラサギ Ardeola grayii Indian Pond-Heron
        ジャワアカガシラサギ Ardeola speciosa Javan Pond-Heron

       ダイサギ/チュウサギ属 Casmerodius
        シロガシラサギ Casmerodius pacificus White-necked Heron (Ardea属より移動)
        アフリカチュウサギ? Casmerodius brachyrhynchus Yellow-billed Egret (Ardea intermedia より分離)
        チュウサギ Casmerodius intermedius Intermediate Egret Ardea属より移動)
        オーストラリアチュウサギ Casmerodius plumiferus Plumed Egret (Ardea intermedia より分離)
        チュウダイサギ Casmerodius modestus Eastern Great Egret (Ardea alba より分離)
        ダイサギ Casmerodius albus Great White Egret (Ardea属より移動)
        アフリカダイサギ? Casmerodius melanorhynchos African Great Egret (Ardea alba より分離)
        アメリカダイサギ? Casmerodius egretta American Egret (Ardea alba より分離)

       アマサギ属 Bubulcus
        ニシアマサギ Bubulcus ibis Western Cattle Egret
        アマサギ Bubulcus coromandus Eastern Cattle Egret

       アオサギ属 Ardea
        マダガスカルサギ Ardea humbloti Humblot's Heron
        シロハラサギ Ardea insignis White-bellied Heron
        スマトラサギ Ardea sumatrana Great-billed Heron
        ムラサキサギ Ardea purpurea Purple Heron
        オニアオサギ Ardea goliath Goliath Heron
        ズグロアオサギ Ardea melanocephala Black-headed Heron
        アオサギ Ardea cinerea Grey Heron
        ナンベイアオサギ Ardea cocoi Cocoi Heron
        オオアオサギ Ardea herodias Great Blue Heron
        オオシロサギ Ardea occidentalis Great White Heron (Ardea herodias より分離)
  • ヨシゴイ
    • 学名:Ixobrychus sinensis (イクソブリュクス シネンシス) 中国の葦原で大声で鳴く鳥
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:sinensis (adj) 中国の (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Chinese Little Bittern, IOC: Yellow Bittern
    • 備考:属名は「蘆笛を吹き鳴らす」との優雅な意訳もある (愛媛の野鳥「はばたき」)。Botaurus属に比べて小型のヨシゴイ類を指す。単形種。
      茂田 (1993) Birder 7(8): 36-40 によると Ixobrychus exilis 英名 Least Bittern、 Ixobrychus minutus 英名 Little Bittern と上種 (superspecies) を形成するとのこと。上記2種の和名はコヨシゴイ、ヒメヨシゴイが現在与えられているようであるが、これは山階 (1986) による名前。黒田 (1966) は逆の名称を与えており、茂田氏はこちらの方がふさわしいとの見解である (英名とも対応がよい)。 茂田 (1993) によれば日本鳥学会 (1974) はヨシゴイに亜種を認め、亜種 bryani マリアナヨシゴイをリストに含めていた。この記録 (1937) の論文は三島 (1961) ミクロネシア、朝鮮、日本からの新記録の鳥
      [粉綿羽と櫛状の爪] 茂田 (1993) Birder 7(7): 36-41 はヨシゴイを題材にサギ類の分類とその変遷を取り扱っている。粉綿羽区 (powder down patches; powder down の別称 pulviplumes) の分布も分類上重要な要素であり、この羽毛は絶えず伸び続けて先端が粉綿羽 (bloom 鳥類学用語というより一般の意味で「白い粉」) を形成する。 サギ類は中趾にある櫛状の爪 [pectinate(d) claw, または櫛歯] で粉を他の羽毛に付けて羽毛の状態を整えると言われている。 茂田 (1993) によれば同様の櫛状の爪を持つ系統として他にカツオドリ科、グンカンドリ科、シュモクドリ科、イシチドリ科、メンフクロウ亜科、ヨタカ科を挙げている。 川口 (2014) Birder 28(5): 51 はヨタカの足を取り上げ、同様の特徴を持つ種類としてサギ類があるが生態がかなり異なるので収斂進化と考えるのは無理があり、ヨタカとサギ類がある程度近縁で共通祖先が 櫛歯を持っていたのではとの解釈を述べている。 現代的な系統樹 (#鳥類系統樹2024) によればいずれも Elementaves ではあるがこの系統関係であれば通常は独立に獲得したもの (収斂進化) と解釈されるだろう。 Elementaves には水鳥が多く、その中にかつてはフクロウ類に近いとされていたヨタカ目が入っているのがむしろ意外で系統的に大きく飛んでいるように見えているだけかも知れない。
      Cattle Egret Pectinate Claw (YC Wee 2021) に鮮明な写真と、Clayton et al (2010) が118科を調べて17科のみに見られた研究を紹介している。 機能は外部寄生虫除去に役立つと考えられるが、古くなった粉綿羽の除去や顔の口ひげ状の羽毛を整えるのにも役立つと記しているとのことである (確かにヨタカの場合は最後に挙げられた機能が役立つかも知れない: #ヨタカの備考参照)。この著者は実際にそのように使っているのを見たことがないとのこと。 言及されている論文は以下: Clayton et al. (2010) How Birds Combat Ectoparasites。 この文献ではカワガラス類のメキシコカワガラス Cinclus mexicanus、アメリカグンカンドリ Fregata magnificens 英名 Magnificent Frigatebird の写真が示されている。 Table I に櫛状の爪の有無を調べた結果が出ているが、結構いろいろなグループで見られている。カイツブリ類、ウ類、サギ類、カツオドリ類、ヨタカ類は保有率が高いようであるが、他の分類群でも散発的に見られるものがある。陸鳥では少なくスズメ目では例がなさそうである。ヨタカ類は例外的のようである。 猛禽類ではメンフクロウ亜科のみに見られるのも何か意味があるのだろう。 表を見て何か共通点を考えて見られるのも面白いかも知れない。 Table II に粉の出る鳥のリスト (完全なものではない) や、砂浴び、日光浴なども紹介されており、行動面でも読んで面白そうな論文である。
      文献では粉綿羽はサギ類や一部のタカ類で発達していると書かれているものがあるが、タカ類の粉綿羽についてはあまり情報が見当たらない。Bildstein (2017) "Raptors" p. 23 によれば (昼行性猛禽類の) 多くの種が持っていて体に散在しているとのこと。猛禽類では獲物などとの接触する羽の汚れを粉が吸収するのに役立つとある。 How many feathers do hawks, eagles and falcons have? にもほぼ同じ記述があって出典は同じなのだろうと想像できるが一次文献がわからない。
  • オオヨシゴイ
    • 学名:Ixobrychus eurhythmus (イクソブリュクス エウリュトゥムス) バランスのよい (羽衣の) ヨシゴイ
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:eurhythmus (合) eurhuthmos 優雅な、バランスのよい < rhuthmos 調和、形
    • 英名:Schrenck's Little Bittern (ロシアの博物学者 Leopold von Schrenck から), IOC: Von Schrenck's Bittern
    • 備考:単形種。 絶滅危惧IA類 (CR)。世界的には特に懸念なしとされる (IUCN)。
      英名に現れる人名表記の扱いについては Minor on Chloris kittlitzi (Seebohm, 1890) and others を参照。"von" はプロイセン時代に称号として与えられたもので人名の一部とみなすかが議論になっている。 学位論文では Leopold Schrenk となっているとのこと。人名由来の英名を排除する動きもあるが学名からよい英名を思いつかないとのこと。学名の eurhythmus は Swinhoe (1873) が成鳥は美しい鳥で、若鳥の羽衣に独特の特徴があることしたから、とのこと (The Key to Scientific Names)。
      原記載図版 では今一つよくわからない。 ドイツ名は満州のゴイサギに相当するがこれも分布をよく反映していないとのこと。 v. Schrenck の Reisen und Forschungen im Amur-Lande in den Jahren 1854-1856 での記述 (Ardetta cinnamomea = 現在はリュウキュウヨシゴイ の学名になっている)。 Swinhoe (1873) は v. Schrenck は幼鳥を観察したと考え、Ardetta cinnamomea (リュウキュウヨシゴイ) からは区別できるので新種として記載したとの流れのよう。
  • リュウキュウヨシゴイ
    • 学名:Ixobrychus cinnamomeus (イクソブリュクス キンナモメウス) シナモン色のヨシゴイ
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:cinnamomeus (adj) シナモンのような (cinnamomum (n) シナモン -eus (接尾辞) 〜色の)
    • 英名:Cinnamon Bittern
    • 備考:単形種
  • タカサゴクロサギ
    • 学名:Ixobrychus flavicollis (イクソブリュクス フラウィコッリス) 黄色い首のヨシゴイ
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:flavicollis (adj) 黄色い首の (flavus (adj) 黄色のcollum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Black Bittern
    • 備考:3亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 flavicollis とされる。
  • ミゾゴイ
    • 学名:Gorsachius goisagi (ゴルサキウス ゴイサギ) ゴイサギ
    • 属名:gorsachius (合) ゴイサギから
    • 種小名:goisagi (外) ゴイサギ (事実上トートニム)
    • 英名:Japanese Night Heron
    • 備考:単形種。 Nycticorax goisagi Temminck, 1836。原記載。 中で出てくる Bihoreau (gris) はゴイサギ Nycticorax nycticorax のことで、これは日本にも生息しているが、Goisagi はヨーロッパにもいる Bihoreau より少し小さいとか色が違うなど記述している。 フランス名は現在でも bihoreau goisagi となっているが、他言語では "日本の" が多く、色を用いたもの (ドイツ名 Rotscheitelreiher 頭の赤いサギ、中国名で栗または麻のサギ) もある。
      Temminck (1836) では日本語の名称は Awogoisagi または略して Goisagi と記述しており、アオゴイサギが本来の名前だったのを略してしまったのかも知れない。この日本語の名称は見つけられなかったが、 青鷺火 (あおさぎび、あおさぎのひ) は、サギの体が夜間などに青白く発光するという日本の怪現象 (wikipedia 日本語版。中国語版にも紹介されている)。これはアオサギではなくゴイサギを指すとされるとのこと。関係があるかも知れない。古くはゴイサギなどを含むサギ類を広く五位鷺と呼んでいたらしい。
      属名は Botaurus [こちらは Reichenow? (有名な Anton Reichenow だと年代が合わない) による分類、現在はこの名称はサンカノゴイ属] または Gorsachius (フランス動物学者 Jacques Pucheran による分類で種小名から作られたもの) とも名付けられていたものを Bonaparte (1855) が整理して記述したもの。Goisakius, Goisachius の綴りもあって (この綴りであれば由来がよくわかる) シノニムとされる (The Key to Scientific Names)。 Jobling の記述が完全に理解できないが、Gorsachius が r になっているのは Nycticorax の r を借用してギリシャ語化したという意味だろうか。
  • ズグロミゾゴイ
    • 学名:Gorsachius melanolophus (ゴルサキウス メラノロプス) 黒い冠羽のゴイサギ
    • 属名:gorsachius (合) ゴイサギから
    • 種小名:melanolophus (合) 黒い冠羽の (melano- (接頭辞) 黒い lophos 丘、冠羽 Gk)
    • 英名:Malaysian Night Heron, IOC: Malayan Night Heron
    • 備考:単形種
  • ゴイサギ
    • 学名:Nycticorax nycticorax (ニュクティコラックス ニュクティコラックス) 夜のワタリガラス
    • 属名:nycticorax (合) 夜のカラス (nychta 夜 Gk、corax (m) ワタリガラス)
    • 種小名:nycticorax (トートニム)
    • 英名:Night Heron, IOC: Black-crowned Night Heron
    • 備考:ユーラシア、アフリカ、南北アメリカの中・低緯度帯に広く分布。4亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 nycticorax とされる。 nycticorax はラテン語で不明の鳥、おそらくフクロウ類 < nuktikorakos (Gk) アリストテレスなどが用いた不吉な鳥でおそらくフクロウ類の一種と思われるが、長らくゴイサギと考えられてきた (The Key to Scientific Names)。
      [疑似餌を使うゴイサギ] サギ類の中で採食行動に疑似餌を使うものがあることが知られている。アメリカササゴイ Butorides virescens 英名 Green Heron でまず発見され、近縁のササゴイでも見つかった。 Combs and Reglade (2022) Black-crowned Night Heron (Nycticorax nycticorax) bait-fishes with aninedible lure in Vietnam によればベトナムのゴイサギで同様の事例が発見されたとのこと。 諸角 (1995) Birder 9(10): 56-58 に東京の不忍池で人が投げたパンを利用して魚を捉えるゴイサギ (1991) の記載がある。この場合は自身が疑似餌として投げたものではないが類似例として興味深い。同記事にはコサギも同様の行動をするとのこと。またカイツブリはパンを細かくして撒き餌のように用いるとのこと。
  • ハシブトゴイ
    • 学名:Nycticorax caledonicus (ニュクティコラックス カレドニクス) カレドニアの夜のワタリガラス
    • 属名:nycticorax (合) 夜のカラス (nychta 夜 Gk、corax (m) ワタリガラス)
    • 種小名:caledonicus (adj) カレドニアの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Rufous Night Heron, IOC: Nankeen Night Heron
    • 備考:フィリピンからオーストラリアに分布。6亜種が認められているが1亜種は絶滅(IOC)。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)によれば日本で記録される亜種に crassirostris (crassus 厚い -rostris 嘴の) がリストされるがかつて小笠原諸島に生息していた 1827, 1828, 1889 年の標本があるのみの絶滅亜種 (コンサイス鳥名事典)。他に亜種不明がリストされている。 かつては 亜種 crassirostris をオガサワラハシブトゴイと呼んでいたが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)によればこの亜種をハシブトゴイと呼ぶ。 現在観察されているものは亜種不明のもの。川上他 (2015) 小笠原諸島母島におけるハシブトゴイ Nycticorax caledonicus の記録 によれば亜種 hilli (オーストラリアの昆虫学者 Gerald Freer Hill に由来。オーストラリアの亜種) または pelewensis (Pelew/Palau/Belau ミクロネシアのパラウ島由来、ナンヨウハシブトゴイの和名あり) の迷行が考えられるとのこと。 ちなみにフィリピンの亜種 manillensis (マニラの、マニラハシブトゴイの和名がある) は色彩などの特徴から否定されるとのこと。 絶滅亜種 crassirostris は 亜種 hilli に近いとある (コンサイス鳥名事典)。
      IOC 英名の nankeen は中国由来の薄い黄色の絹の織物を指す。織物の由来した南京 (Nanjing) から (wikipedia 英語版)。
  • ササゴイ
    • 学名:Butorides striata (ブトリデス ストッリアータ) 条斑のあるサンカノゴイに似ているサギ
    • 属名:butorides (合) サンカノゴイに似ている鳥 (かつてあったサンカノゴイ類を示す Butor属、-oides (接尾辞) 〜に似ている)
    • 種小名:striata (adj) 条斑のある (striatus)
    • 英名:(Green-backed Heron), IOC: Striated Heron
    • 備考:Green-backed Heron の英名はかつて同種とされた Butorides virescens 英名 Green Heron アメリカササゴイ と Butorides sundevalli 英名 Lava Heron ガラパゴスササゴイ が分離される以前のもの。これらが別種とされる以前は北半球・南半球の中・低緯度に汎世界的に分布する種類であった。 ササゴイは21亜種(IOC)が認められている。日本で記録される亜種は amurensis (アムールの) とされる。
      #サンカノゴイの備考にあるように、2023年の分子遺伝解析結果からササゴイが分割される可能性が高い (上記アメリカササゴイの分割とは別物)。 現在の名称のササゴイの分布は非常に広く、世界各地のサンプルが調べられたわけではないのでどのように分割すべきかはまだ確定していないが、南米を別種とすべき点はほぼ確実とのこと。 基亜種 striata は南米のものなので、分割されれば日本のササゴイを含めて残りのグループの種小名が変わることになる。 以下記載年代順による名前。南米以外がもしすべて同種とされれば Butorides atricapilla となるだろうがこの亜種はアフリカのもの。もしアフリカのものも別種とされればアジアのものが Butorides javanica とまとめられることになり、Boyd はこの学名を採用している。 問題となるのは日本周辺の夏鳥の亜種 amurensis とアジア熱帯地域の留鳥亜種の javanica グループとどの程度違うかであろう。 もし亜種相当でよければ Butorides javanica amurensis となるが、種扱いであれば Butorides amurensis となることもあり得る。これは DNA を調べないとわからないだろう。
      アメリカササゴイの CT scan データが公開されている: Green heron (Florida Museum oVert)。
  • アカガシラサギ
    • 学名:Ardeola bacchus (アルデオーラ バックス) ブドウ酒色の小さなアオサギ
    • 属名:ardeola (f) 小さなアオサギ (ardea (f) アオサギ -ola (指小辞) 小さい)
    • 種小名:bacchus (m) 酒神バッカス、ブドウ酒
    • 英名:Chinese Pond Heron
    • 備考:単形種
  • アマサギ (リスト次第で亜種が分離されて独立種となる)
    • 学名:Bubulcus ibis (ブブルクス イービス) トキのような牛追い (採用する分類次第でコロマンデル地方の牛追い)
    • 属名:bubulcus (m) 牛飼い、(牛を使って耕作する) 農夫)
    • 種小名:ibis (属) トキの (ibis -is (f) トキ科の鳥。備考参照)
    • 英名:Cattle Egret, IOC: Eastern Cattle Egret (IOC 分類に従った場合)
    • 備考:IOC は古くから2種に分割しており、Clements、eBird が 2023 年にこの分類に変更。 Howard and Moore と HBW/BirdLife は分離していないが最新リストは 2022 年あるいはそれ以前のものである。 分離した場合は Bubulcus coromandus (インドのコロマンデル地方の) 英名 Eastern Cattle Egret (日本のものはこちら) と Bubulcus ibis 英名 Western Cattle Egret (ニシアマサギの和名があるらしい) となり、どちらも単形種となる。 分離しない場合 (従来通り) は日本のものは亜種名まで含めて Bubulcus ibis coromandus となる。 SACC (2024) Treat Cattle Egret Bubulcus ibis as two species の検討。 これまでの研究の概要も含まれている。世界の潮流に合わせてほぼ賛成意見だが、形態 (色彩) と声だけでなく遺伝情報がもっと欲しいとの意見もある。
      ibis の意味は本来はエジプトのアフリカクロトキ Threskiornis aethiopicus (英名 African Sacred Ibis) であるが、エジプトでこのトキが絶滅しつつある状況で、鳥類学者はコウノトリ類やサギ類に似た鳥にもこの名称を使うようになったとのこと (The Key to Scientific Names)。誤命名とされることもある (Helm Dictionary)。
      日本鳥類目録 改訂第8版の第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開 (2023年10月) ではアマサギ属 Bubulcus としているが、サギ類の現代的な分子系統分類 (#サンカノゴイの備考参照) では Bubulcus 属を残すためには Ardea 属の分割が必要になる。 Hruska et al. (2023) は Ardea 属に含めている。世界の主要リストも Hruska et al. (2023) にまだ追いついていないが、近々反映されて学名に影響が及ぶと考えられるので現代的な分子系統分類を検討しておく必要があるだろう。
      アフリカクロトキは豊穣をもたらすナイル川に伴って現れることから神聖な鳥とされたが、現在ではエジプトにいないとこのこと (コンサイス鳥名事典)。
      Western Cattle Egret (ニシアマサギ) は当初は南スペインとポルトガル、熱帯・亜熱帯アフリカと熱帯西アジアに地域的に分布していたが、19 世紀の終わりに南アフリカに急速に分布を広げ、南アメリカに 1877 年に目撃 (自然飛来と考えられる)、1930 年代に南アメリカに定着、北アメリカでは 1941 年に最初に記録され、その後も急速に分布を広げた。 この種はもともと野生の大型草食動物に頼った生活をしていたが、放牧が拡大するとともに家畜に頼って急速に分布を広げたと考えられる。
      Eastern Cattle Egret も同様に 1940 年代にオーストラリアで急速に分布を広げた (wikipedia 英語版)。 日本でもかつては珍鳥だった。桑原 (1991) 日本の生物 5(5): 33 によれば「日本鳥類図説」(内田清之助 1913) では本州ではまれだが台湾にはとても多いと記載されているそうである。 大西 (2008) Birder 22(5): 60 にアマサギは第二次世界大戦後に急に数が増えたが、熱帯林の大規模伐採でアマサギの好む牧草地が増えたとの説明がある。Western Cattle Egret (ニシアマサギ) も含んだ記述かも知れない。
      Rasmussen and Anderton (2005) "Birds of South Asia: the Ripley guide" が繁殖期の羽衣と音声の違いからこれらを2種に分類することを提案したものである。 これら2(亜)種および亜種の可能性のあるセーシェル (インド洋) の個体群の比較検討は Ahmed (2011) Subspecific identification and status of Cattle Egret にある。2(亜)種は繁殖期の羽衣や計測値で区別することができるとしているが、音声についてはまだ検討の余地があるとのこと。
      大橋 (2020) Birder 34(5): 66-67 が和名の由来の考察を行っている。和名のすでに存在した時期には海外由来の「亜麻」はまだ知られておらず、伝統的な色の名称である「飴色」が由来であろうとのこと。コンサイス鳥名事典では両方の説を紹介しているが、「亜麻色」の渡来時期についての考察はない。 鳥名の漢字表記はいずれでもなく「黄毛鷺」と書く。 大橋 (2020) によればドビュッシーの名曲「亜麻色の髪の乙女」がこの名称で翻訳されて紹介されたことなどで亜麻色の名称がよく知られるようになったとのこと。原曲は La fille aux cheveux de lin で1910年に前奏曲集のうちの1曲として出版された。cheveux de lin が亜麻色の髪で白に近い金髪を指すと辞書に記載されている。
      ショウジョウサギ (ショウジョウ 猩猩、猩々: 中国に古くから伝わる酒が大好きな霊獣、能の演目で猩々が酩酊して舞う様子から赤みを帯びた生物の名称に使われるとのこと) の別名があるそうである。 「ショウジョウサギ」の名称が現れる論文は例えば高島 (1952) クロトキに関する知見
  • アオサギ
    • 学名:Ardea cinerea (アルデア キネレア) 灰色のアオサギ
    • 属名:ardea (f) アオサギ
    • 種小名:cinerea (adj) 灰白色の (cinereus)
    • 英名:Grey Heron
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は jouyi (アメリカの博物学者 Pierre Louis Jouy 由来) とされる。
      [アオサギの亜種の問題] 4亜種のうち1-2亜種は分離されることもある: Ardea monicae Mauritanian Heron、firasa (マダガスカル)。 これらを別と考えて、日本で観察されるアオサギが jouyi なのか cinerea なのかについてはあまりすっきりしない。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" ではユーラシア東北部に夏鳥として飛来する、また日本で留鳥のアオサギを jouyi とし、アジアでは中国の大部分で留鳥のアオサギを "おそらく" cinerea としている。 Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) ではシベリアの大部分が cinerea でバイカル湖以東がより明るい色の jouyi とある。 Dement'ev and Gladkov (1951) では cinerea を北方型で日本もこの分布に含めている。jouyi は中国と朝鮮半島、インドに分布する南方型の扱いになっており、区分概念が少し異なっている。 jouyiArdea cinerea jouyi Clark, new subspecies に原記載があり、韓国での3個体によるものとのこと。 基亜種に比べて白っぽい色で、クロヅルの東方亜種 Grus grus lilfordi に対応するとのこと。クロヅルのこの亜種を認めているリストは現在あまりなく IOC では単形種としている (#クロヅルの備考も参照)。 アオサギの亜種については調べられた文献もあまり見当たらず、あまり検討されないまま過去の分類を引き続き使っているだけでそれほど意味のある亜種分類ではないのかも知れない。
      参考までに冬鳥で普通種であるフィリピンのリストでは Ardea cinerea jouyi 別名 Ardea (cinerea) cinerea としているが後者は記入ミスかも。東アジアから渡ってくるものは jouyi と判断している模様。 Trivedi and Parasharya (2019) Inland nesting of grey heron Ardea cinerea: An important record for Gujarat state, India のインドの文献では cinerea を時々やってくる冬鳥、jouyi を繁殖する亜種で日本も分布域に含めている。 分布の基本情報は Heron Conservation によるものだが、Trivedi and Parasharya (2019) の Taxonomic Status のところにはインドの亜種がどちらかわからない。この2亜種はクラインの大陸の両端の表しているとの考えも紹介している (その場合は連続分布)。 インドでは亜種 restirostris として記載されていた。従来の分布の考えに従って jouyi のシノニムとされたが、 HBW では最近はインド、スリランカを cinerea に分類し、jouyi はロシア極東・日本南部から... (Russian Far East and Japan S to N Myanmar, Indochina,...) の表記に読め、北海道は別亜種と意識しているものかも知れない。省略形で書かれているので原意は確実ではないがどなたかご確認いただきたいところ。 これに従えばインドの亜種を jouyi と素直に書けないので困った事態になっている模様。一部の標本を見て亜種が区別できないなどの断片的研究はあるが、インドの個体についての系統的な亜種の検討はなされていない。さもなければこんなことははるか昔に決着しているはずだ、と書いている。この状況は東アジアでもあまり違わないのかも知れない。 Heron Conservation のページでは jouyi の分布に関係して Matsunaga et al. (2000) Changing Trends in Distribution and Status of Grey Heron Colonies in Hokkaido, Japan, 1960-1999 が引用されているが北海道 (夏鳥) の繁殖コロニーの変遷の論文で亜種にかかわる記述はない。 Ye et al. (2018) First Description of Grey Heron Ardea cinerea Migration Recorded by GPS/GSM Transmitter に中国からロシア・中国東北部に渡るアオサギのルートが調べられている。この文献では jouyi は中国に広く分布としているが、1世代前の HBW の記述に基づくよう。この論文の時点ではアオサギの渡り経路の研究は初とのこと。
      [アオサギ、サギ類の日本語情報源] 日本語の興味深い情報源として アオサギを議論するページ を紹介しておく。 このサイトの著者の英語論文もある: Matsunaga (2018) Changes of the nesting sites of Grey Herons (Ardea cinerea) in Hokkaido, northern Japan
      アオサギを議論するページの アオサギの名 にギリシャ語の由来が示されていたので調べてみた。 古代ギリシャ語で erodios で、語末 -ios は他の鳥の名前と共通性があるとのこと。 aigupios (ハゲワシ)、aigolios (小型のフクロウの1種)、kharadrios (イシチドリまたは神話の鳥で治癒力のある caladrius)。-ios は日本語の鳥名語尾の "メ" のような役割か。 古代ギリシャ語の別型があり aroidios, rhoidios。ラテン語の ardea (サギ)、セルビア-クロアチアの roda (コウノトリ) との類似性が無関係とは考えにくいとのこと。複数の形態があるのでギリシャ語以前に起源があるのではとのこと (wikitionary)。Beekes (2010) の語源研究の本が出ているとのこと。 この解説のページでは エロス (Eros) の関係は出てこなかった。Eros の -os から想定すると誤る可能性があるということだろうか。 ラテン語の ardea の方は The Key to Scientific Names は Friedman (2022) Archives Nat. Hist., 49 (1), p. 19 の説を採用していてローマ神話で Ardea の町が燃えたときに灰から立ち上がった鳥。ardere は燃えるの意味で、燃える糞をしてタカもそれに触れると体が腐ってしまうとの伝説があるとのこと。 wikitionary の解説はそこまで書いてなくて、古代ギリシャ語の erodios と セルビア-クロアチアの roda との関係、インド・ヨーロッパ祖語に遡る可能性があるがおそらく異なる言語の接触によって音が変わった可能性がより考えやすいとしている。こちらでは ardeo (ardere 燃える、が変化形) は別系統の単語 (古イタリア語 *azideo 由来) とみなしている。
      アオサギの他言語の名称調査では「アオサギを議論するページ」とほぼ同じ結果になった。 スペイン語、ポルトガル語で使われる real は2語義があって、一つは英語と同じ「真の」だがもうひとつは「王の」(英語の royal に相当)。イヌワシ (aguila real) は後者の例とされるので、スペイン語 garza real もそちらの意味かも。ムラサキサギを garza imperial と呼んでいるので、スペイン人は堂々とした体格を「王」で表している可能性が高いとみた。
      英語の heron は 1300 年ごろから使われ、古フランス語 harion, eron (12世紀) 由来とのこと。古英語の hraga は中世には生き残らなかった。egret も中世フランス語の aigrette 由来で14世紀半ばから使われている (Online Etymology Dictionary)。 OED によれば 1340 年 heyrone, 1405 or 1395 年に heron の用例があるとのこと。"heron" の音は 1300 年ごろから使われていたがおそらく文字にする時は揺れがあったのだろう。
      [食用アオサギ?] 食としてのサギ にも面白い話があって「サハリンではアオサギが食用としてマーケットに並んでいる」とある (2001)。wikipedia ロシア語版を見てみると、中世に鷹狩りで狩られていたことは同様に記述されている。 Tugarinov and Portenko (1952) によれば、肉は美味しくなく魚の臭いがして他の狩猟目的の副産物として狩られる程度であったとある。一方で Evgen'evich (2011) Bolotnye ptitsym tsaplya は逆に肉の質はよいとしている。 2009 年の法改正で狩猟鳥から外されており、現在ではアオサギを目的とした狩猟は行われていないとのこと。現在ならばマーケットに並べば違法になるだろう。
      Evgen'evich (2011) のページにはアオサギの狩猟方法が記されていて多少歴史的な側面も出ているので紹介しておくと、食用の他に (それよりむしろ?) 装飾用の羽根 (天国の羽根と呼ばれたそう) 目当てに狩猟されていたとのこと。鷹狩りで好まれたのはアオサギが反撃するため見せ物として好適だったためとのこと。 「鷹狩りの書」(フリードリッヒ二世著 吉越英之訳 文一総合出版 2016) pp. 138-142 にハヤブサ類による狩りとサギなどによる反撃、ツルとノガンの図版が紹介されている。
  • ムラサキサギ
    • 学名:Ardea purpurea (アルデア プルプレア) 紫色のアオサギ
    • 属名:ardea (f) アオサギ
    • 種小名:purpurea (adj) 紫色の (purpureus)
    • 英名:Purple Heron
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は manilensis (マニラの) とされる。 原記載 紫色との記述は胸と腹部が栗色と紫色を帯びている点に注目。Brisson が Ardea cristata pupurascens (紫色を帯びた冠のあるサギ) の学名を使っていた。
      ムラサキサギの雌雄識別は可能か、という論文がある。Fasola et al. (2023) Exploratory Analyses of Sexual Size Dimorphism (SSD) and Sexual Dichromatism (SD) in Free-Living Adult Purple Herons (Ardea purpurea) 経験を積めば野外でもかなりの確率で識別可能な違いがあるそうである。
      他言語の名称がやや面白くスペイン語で Garza Imperial (皇帝のサギ) となっている。#アオサギとともに、堂々とした風格を表す意味だろうか。 ポルトガル語では garca-roxa でスペイン語と共通ではない。roxa は roxo (濃赤) の女性形でラテン語 russeus なのでニュウナイスズメの英名と関係がある。ムラサキサギの名称に色を用いているところでは紫が多いが、赤もかなりの数がある。
      Gluschenko et al. (2024) Breeding birds of Primorsky Krai: the purple heron Ardea purpurea (pp. 1331-1347) ロシア沿海地方 (ハンカ湖。周辺でも記録例がある) での繁殖生態。亜種は manilensis となっている。 最初の記録が 1912 年で、その後繁殖が確認された。1926 年には多いと記録されていたが古い記録は他種との混同の可能性も残る。現在では毎年繁殖しているわけではない。ハンカ湖の水位が近年は低くその影響で数が少ないように思われるとのこと。
  • ダイサギ
    • 学名:Ardea alba (アルデア アルバ) 白いアオサギ
    • 属名:ardea (f) アオサギ
    • 種小名:alba (adj) 白い (albus)
    • 英名:Great Egret
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 alba 亜種ダイサギ (冬鳥として渡来とされる。過去の別名オオダイサギ、モモジロ) と modesta (中庸の) チュウダイサギ (国内繁殖するものはこちらとされる。過去の別名コモモジロ)、及び亜種不明とされる。
      サギ類の現代的な分子系統分類 (#サンカノゴイの備考参照) ではダイサギを Ardea属とすることとアマサギを Bubulcus属に残すことは相容れないこととなる (#アマサギの備考参照)。 ダイサギの世界分布が広く、個々の亜種が異なった繁殖期の羽衣を持つこと、Raty (2014) の DNA バーコーディングによる部分的証拠から世界4地域に分かれた複数種の分割が提案されている。 ダイサギとチュウダイサギも繁殖域などが大きく異なり外見も違うので種分割は妥当に思える。 これらが採用された場合は別種となるので、記録を残す場合もできるかぎりこの2つを区別して残すことが望ましい。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" もこれらが別種相当と述べ、英名に Great White Egret (ダイサギ) と Eastern Great White Egret (チュウダイサギ) の名称を与えている。 属名も Boyd のリストと同じく Casmerodius 属を採用していたが、当時はチュウサギが同じグループに属することが判明しておらず、Mesophoyx 属とされていた (この属は最新分子系統が判明するまで Boyd も用いていた)。
      Gluschenko et al. (2024) The great egret Casmerodius albus in the south of Russian Far East (pp. 939-961) によればロシア沿海地方のハンカ湖ででは両方がコロニーで繁殖し、繁殖生態や営巣習性も異なり、別種が適切であろうとのこと。この論文では別種として扱い、日本の表記では亜種ダイサギの繁殖生態のみを報告している。数は近年増えている。
  • チュウサギ
    • 学名:Egretta intermedia (エグレッタ インテルメディア) 中間のサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigrette シラサギ 仏)
    • 種小名:intermedia (adj) 中間の (intermedius)
    • 英名:Ietermediate Egret
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardea属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。この変更は一世代前の分子系統樹 (#トキの備考参照) では納得できるものであった。 サギ類の現代的な分子系統分類 (#サンカノゴイの備考参照) ではチュウサギを Ardea属とすることとアマサギを Bubulcus属に残すことは相容れないこととなる (#アマサギの備考参照)。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" では Mesophoyx属とされていた (#ダイサギの備考参照)。現代的な分子系統分類ではダイサギと同属とするのが適切である。 3亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 intermedia とされる。亜種 plumiferus を種 Plumed Egret オーストラリアチュウサギ と分離する考えがあり、IOC, eBird, BirdLife で採用されている。 亜種 brachyrhynchus を種 Yellow-billed Egret とする考えもあって IOC 等同様であるが和名が見当たらないため、オーストラリアチュウサギの例に従ってアフリカチュウサギの名称を仮に与えてある。 plumiferus も Plumed も「羽で着飾った」のよい名前をもらっているので、和名はもう少し凝ってもよい気がする。
  • コサギ
    • 学名:Egretta garzetta (エグレッタ ガルゼッタ) シラサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigrette シラサギ 仏)
    • 種小名:garzetta (外) garzetta/sgarzetta コサギ 伊
    • 英名:Little Egret
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 garzetta とされる。 旧世界に広範に分布するが大部分は亜種 garzetta とされ、スンダ列島からオーストラリア、ニュージランドの亜種が nigripes とされる。世界の多くのリストが同じ分類を採用している。 この意味では日本もアフリカも同じ亜種となる。
      コンサイス鳥名事典の時点の亜種は少し違っていて garzetta がヨーロッパ南部、アフリカ、南アジア。 nigripes がジャワ、ニューギニア、フィリピン。 immaculata がオーストラリア。 dimorpha がマダガスカルとアルダブラ諸島とあり、マダガスカルクロサギ Egretta dimorpha に対応する。 Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) はこの亜種を種として分離していないため、コサギは3亜種になる。 immaculata は現在は通常 nigripes のシノニムとされる次第である。
      アフリカ東部やマダガスカルに灰色の暗色型が存在し、東京の多摩川 (1978)、名古屋の庄内川 (1978-1983) に暗色型が記録されたとのこと (コンサイス鳥名事典)。 2012-2013年東京都町田市の記録が見られる コサギ 暗色型 (「ミツユビカモメと仲間たち」の探鳥記録)。 コサギ (2021年茨城県 kobori)。 コサギ暗色種 (森の自然誌) ではアフリカからインドに棲息する亜種と書かれている。 Little Egret (HeronConservation) では多数の亜種を記載しているので、それをふまえた解説かも知れない。これによればこれら提唱されている "亜種" 間の形態、遺伝的違いなどはあまり調べられていないとのことで分類に関する最近の情報はなさそうに読める。 Ashkenazi (1993) Dark-Morph Individuals of Egretta spp. in Israel にイスラエルでの暗色型の報告がある。
  • クロサギ
    • 学名:Egretta sacra (エグレッタ サクラ) 神聖なシラサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigretteシラサギ 仏)
    • 種小名:sacra (adj) 神聖な (sacer)
    • 英名:Eastern Reef Heron, IOC: Pacific Reef Heron
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 sacra とされる。 国内の「白色型」の地域分布について調べた論文: Itoh (1991) Geographical Variation of the Plumage Polymorphism in the Eastern Reef Heron (Egretta sacra) この研究では白色型は南西諸島で見られ、赤道から遠ざかるほど白色型の比率が減る。白黒2型の多形を説明する仮説も紹介されているが、どれも十分満足できる説明ではないとのこと。
  • カラシラサギ
    • 学名:Egretta eulophotes (エグレッタ エウロポテス) 立派な冠羽のシラサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigretteシラサギ 仏)
    • 種小名:eulophotes (合) 立派な冠羽を持ったもの (eu (int) よい、lophos 丘、冠 -otes (接尾辞) 〜の質の Gk)
    • 英名:Chinese Egret
    • 備考:単形種
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES トキ科 THRESKIORNITHIDAE 

  • クロトキ
    • 学名:Threskiornis melanocephalus (トゥレスキオルニス メラノケパルス) 黒い頭の神聖な鳥
    • 属名:threskiornis (合) 神聖な鳥 (thriskeia 宗教 ornis 鳥 Gk) 古エジプトではトキ (アフリカクロトキ) は神聖な鳥とされた
    • 種小名:melanocephalus (合) 黒い頭の (melano- (接頭辞) 黒い kephali 頭 Gk)
    • 英名:Oriental (White) Ibis, IOC: Black-headed Ibis
    • 備考:単形種。 トキ科 Threskiornithidae の学名は実は自明なものではなかった。かつては Ibis属に基づいて Ibididae と呼ばれていたが Ibis が最初に使われたのはトキ科でなくコウノトリ類の Mycteria だった。 そのため科の学名を変える必要が生じた。Eudociminae の方が古く使われた名前 (シロトキ、真紅のショウジョウトキの属名由来) であったが ICZN が最終的に Threskiornithidae と決定した (Boyd)。 Ibis属 の名称も現在の属名には使われていない。
      [ペリカン目やトキ科などの系統について] Gibb et al. (2013) Beyond phylogeny: pelecaniform and ciconiiform birds, and long-term niche stability によればトキ類とサギ類は従来考えられていたような単系統をなさない。 Boyd はそれぞれを目にすれば話が簡単であると以下のようにしている (ここでは紹介のみを意図とする。後に述べるように必ずしもすぐに推奨できるものではない)。 和名があるものは 山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) 鳥類の目と科の新しい和名 (1) 非スズメ目・イワサザイ類・亜鳴禽類 に従っている。包含される中身は同一ではない場合があるので注意。

      コウノトリ目 Ciconiiformes
       コウノトリ科 Ciconiidae: Storks

      カツオドリ目 Suliformes
       グンカンドリ科 Fregatidae: Frigatebirds
       カツオドリ科 Sulidae: Gannets, Boobies
       ヘビウ科 Anhingidae: Anhingas
       ウ科 Phalacrocoracidae: Cormorants

      ヘラサギ/トキ目? Plataleiformes
       トキ科 Threskiornithidae

      ペリカン目 Pelecaniformes
       シュモクドリ科 Scopidae: Hamerkop
       ハシビロコウ科 Balaenicipitidae: Shoebill
       ペリカン科 Pelecanidae: Pelicans

      サギ目 Ardeiformes
       サギ科 Ardeidae: Herons, Egrets, Bitterns

      ヘラサギ/トキ目? (目の学名は先取権による。文字そのままだとヘラサギ目になるがトキ科のみが含まれることを考えるとトキ目とも呼べる) とサギ目を独立させることがポイントで、このようにすればトキ科やサギ科をどこにするか悩むことはない。一つの解決法だろう。 他の系統はこれまでの分類そのままである。 Kuramoto et al. (2015) Determining the Position of Storks on the Phylogenetic Tree of Waterbirds by Retroposon Insertion Analysis レトロポゾンの挿入比較に基づく水鳥類の系統解析 (蔵本多恵 2016 博士論文) では Gibb et al. (2013) の系統樹サポートは低いことも指摘されており、レトロトランスポゾンの解析 [この方法はオウム類とハヤブサ類の近縁性を明らかにする (2011) のにも用いられた。#ハヤブサの備考参照] でペリカン類、トキ類、サギ類は系統が近く、サギ科とトキ科は分岐初期に交雑があり (初期に急速に種分化したと考えられる) レトロトランスポゾンの解析で系統分離が不完全になっていることも示唆されている。 従来の研究でも示唆はあったがコウノトリ目とカツオドリ目を独立させるのはこの論文の結果で十分で、この研究はペリカン類、トキ類、サギ類が近縁であることを支持する結果となっている。 Gibb et al. (2013) の研究ではサギ類とコウノトリ類が同一の枝にまとまる結果となったがこれは否定されることになった。 この結果を見るとペリカン類、トキ類、サギ類をペリカン目にまとめることが適切のようにも見えるが、レトロトランスポゾンを用いる方法は系統はわかるが分岐年代はわからないので別情報が必要になる。 Gibb et al. (2013) の fig. 3 を見ると分けてもよい印象も受ける。目をどの程度の単位と考えるか次第だろう。
      Gibb et al. (2013) の結果ではタカ類が捕食性の水鳥グループの祖先にあたる系統樹となっていて現代の認識とは異なる。水鳥とタカ類 (他はわずかで陸鳥を含まず) のみを含めた解析なのでこのような結果になっているのだろう。タカ類とハヤブサ類の系統が離れていることが明らかになった後ぐらいの研究なので、タカ類をどこに置くかはまだ自由度があったのだろう。 かつては水鳥とワシタカ類 (ハヤブサ類も含む) の系統が近いと考えられていたので、捕食性の水鳥の祖先にタカ類が位置する結果は比較的大きな獲物をとる肉食グループとなって水鳥の系統を研究する者には理解しやすかったと思われる。 かつてはワシタカ類 (ハヤブサ類も含む) はカモ類とキジ類の間に置かれていたが、その場所よりも捕食性の水鳥と一緒にすると解釈に都合がよいとのアイデアになる。結果的にはこれは多分正しくないのだが、 #ミサゴの備考にあるように捕食性の陸鳥の祖先に猛禽類を置くアイデアに近く、タカ類など猛禽類はさまざまなものの祖先となり得るまことに都合のよいグループなのだろう。 この系統樹と年代推定ではタカ類は恐竜絶滅を生き延びていたことになってこれはこれで面白い。Accipitriformes の総称一般名に accipiters が使われていて、この方面はあまり詳しくないだろうことも想像できる。
      Kimball et al. (2013) Identifying localized biases in large datasets: A case study using the avian tree of life にも含まれている種のサンプルは少ないが広範な分類群を含む分子系統解析がある。これもコウノトリ類がこのグループの最初の分岐であることをうかがわせるが、Kuramoto et al. (2015) の方がより決定的な結果となっている。 Kuramoto et al. (2015) および博士論文によれば、用いた遺伝子数は増えたものの種のサンプルは少なく、解析に用いる種の選定などが系統推定を誤らせた可能性があるとのこと。 Boyd は上位分類を最初は Gibb et al. (2013) (面白い結果の提案であったが) にかなり頼ってしまっていたが、結果的に Gibb et al. (2013) の精度が低かったことに引きずられることになった模様である。Kuramoto et al. (2015) 以前にこの部分が書かれていて、十分に再検討が行われていなかったのかも知れない。

      さて最新の#鳥類系統樹2024の系統樹によれば Elementaves の中の最後の系統になる。以下 Stiller et al. (2024) の系統樹配列順。

      ネッタイチョウ目 Phaethontiformes
       ネッタイチョウ科 Phaethontidae
      ジャノメドリ目 Eurypygiformes
       ジャノメドリ科 Eurypygidae
       カグー科 Rhynochetidae

      がまとまった系統をなす。これらからツル目は分離され、Elementaves の中の古い系統に移動。最新分類ではツル目とジャノメドリ科、カグー科は別の系統となった。

      アビ目 Gaviiformes は独立した系統。

      以下2系統に分かれ、
      (1)
      ペンギン目 Sphenisciformes が最も古い分岐
      ミズナギドリ目 Procellariiformes
       アホウドリ科 Diomedeidae
       アシナガウミツバメ科 Oceanitidae
       ウミツバメ科 Hydrobatidae
       ミズナギドリ科 Procellariidae
      (2) Stiller et al. (2024) は以下全体を ペリカン目 Pelecaniformes としている
      コウノトリ科 Ciconiidae が最も古い分岐
      トキ科 Threskiornithidae (ヘラサギ類は調べられていないがここに入るだろう)
      サギ科 Ardeidae
      以下の3つはまとまった系統をなす。
       ハシビロコウ科 Balaenicipitidae
       ペリカン科 Pelecanidae
       シュモクドリ科 Scopidae
      以下もまとまった系統をなす。
       グンカンドリ科 Fregatidae (最も古い分岐。以下の3系統は比較的近い)
       カツオドリ科 Sulidae
       ヘビウ科 Anhingidae
       ウ科 Anhingidae

      目の範囲の扱い次第だが、現在のペリカン目とカツオドリ目を認めるならば、コウノトリ、トキ、サギもそれぞれ目扱いが適切であることがわかる (Boyd の分類の通り)。そうでなければ従来通り全部をペリカン目とするかどうかの問題。Stiller et al. (2024) は上記の (2) の系統がまとまっていること、レトロトランスポゾンの結果も考慮して全体をペリカン目として扱ったのかも知れない。 分岐年代的には (2) の中の分岐は少し新しい (5500 万年前ぐらい) のでそれ以前の系統ほどは分ける必然性は高くないかも知れない。全体をペリカン目とする扱いとするか、レトロトランスポゾンの共通性は多少容認して実用的にトキ、サギを目扱いとするか。 コウノトリ目のみ分けて残りをペリカン目とする扱いも考えられる。細分しない限りカツオドリ目が消滅してしまう可能性があるがどうだろうか。
      カツオドリ目とされていた中でグンカンドリ科だけはあまり似ていない印象を受けるが、分子系統解析からも縁がやや遠いことがわかり納得できる結果となった。 この系統関係については #カワウの備考 [コルヌリン遺伝子を失ったウ類] の情報も参照。
  • トキ
    • 学名:Nipponia nippon (ニッポニア ニッポン) 日本の鳥 (原学名で日本のトキ)
    • 属名:nipponia (種小名から作られた属名)
    • 種小名:nippon (外) 日本
    • 英名:Japanese Crested Ibis, IOC: Crested Ibis
    • 備考:記載時の学名は Ibis nippon Temminck, 1835。IBIS NIPPON (Nouveau recueil de planches coloriees d'oiseaux, pour servir de suite et de complement aux planches enluminees de Buffon, edition in-folio et in-4° de l'Imprimerie Royale, 1770: 600 gravures coloriees)。 シーボルトが持ち帰ったもので、和名のトキも紹介されている。 Reichenbach が 1852年提案した分類 Nipponia temmincki [Handb. Spec. Orn. Die Voegel (1852) p.14]。 属名の記載年は Reichenbach, 1853 (Avium Systema Naturale) の Genera et species typicae の p. XIV: トキ類を細かく属に分けている) とされる。 この時点では Nipponia temminckii, Reichenbach。 属名の Nipponia は特に意味を持たせたというより、種小名から語尾を属名に昇格しただけと考えるとよさそうである。 これに基づき、Gray が 1871 年に用いた Nipponia nippon が使われるようになったとある (wikipedia 日本語版など)。 Reichenbach (1853) は当時の扱いで属を細かくわけていたが、トキは旧広義 Ibis 属の中でも分離した系統だったためにここで付けられた属名が現在に至るまで使わてきた次第だろう。 一属一種。単形種。
      [Nipponia属の位置づけ] Boyd のページによるとトキ類の約半数をサンプルした Krattinger (2010) の研究 (修士論文) では Bostrychia, Lophotibis, Nipponia の分離は十分でないが、 Chesser et al. (2010) Molecular phylogeny of the spoonbills (Aves: Threskiornithidae) based on mitochondrial DNA と整合性はあるとのこと。 Ramirez et al. (2013) Molecular phylogeny of Threskiornithidae (Aves: Pelecaniformes) based on nuclear and mitochondrial DNA にも研究があるが、主に新世界のトキ類が中心で東洋のトキ類の系統について新しいことがわかったわけではなさそうである。 De Pietri (2013) Interrelationships of the Threskiornithidae and the phylogenetic position of the Miocene ibis 'Plegadis' paganus from the Saint-Gerand-le-Puy area in central France に化石を含めた形態学による系統研究があり、現在通常受け入れられているトキ亜科 Threskiornithinae とヘラサギ亜科 Plataleinae の関係は単純でなく、ヘラサギ亜科がトキ亜科の Threskiornis 属に内包される形になっている。 ヘラサギ亜科とトキ亜科に分離することが分子系統学的に支持されない可能性は Chesser et al. (2010) にも記されている。 トキ属については言及がないがこのグループとは別系統になる可能性もある。 Gibb et al. (2013) (#クロトキの備考参照)、 Treutlein et al. (2014) Phylogeny of water birds inferred from mitochondrial DNA sequences of nine protein coding genes で {Threskiornis属 + Platalea (ヘラサギ) 属} の外に Nipponia 属がある驚きの関係になっている。 あまりにもサンプルが少ないが、旧世界 (アフリカなど) のトキ類とヘラサギ類を合わせたものとトキの縁が遠い可能性がある。他のトキ類が調べられていないのでトキ属が独立系統になるかどうかまではわからない。 Kim et al. (2019) The complete mitochondrial genome of an Asian crested ibis Nipponia nippon (Pelecaniformes, Threskiornithidae) from South Korea も参照。 Threskiornis属と異なることは他の研究同様に明瞭である。 サギ類についても分子系統樹がある程度わかる。
      現在までの研究をまとめると、トキ科の中の系統は Threskiornis (クロトキ) 属とヘラサギ類がまとまる可能性が高く、従来の分類を見直す必要がありそうとのこと。 トキはこの系統からは遠いが他の関連属との関係はまだ明らかでない。
      これを調べたのは、Nipponia nippon はあまりにもよく知られた学名であるが、他の種類で学名が変化しているケースがあるので将来の分類変更で学名が変わる可能性があるのか気になったため。 種小名の nippon の方は亜種などもなく変わる恐れはないだろう。 現在のところ系統関係が十分分離できていないとされる Bostrychia, Lophotibis はいずれも Nipponia と同じ文献で Reichenbach (1853) が細かく分けた結果生まれた属名であるため将来統合される可能性がまったくないとは言い切れない。 同じ文献なので先取権は何とも言えず、もしどれかのグループが統合された場合の判断は誰かが行うことになるだろう。 Bostrychia 属は5種が含まれアフリカの種類。見かけはトキに特に似ているわけではない。 Lophotibis 属は1種でマダガスカルトキ Lophotibis cristata White-winged Ibis (Madagascar ibis, Madagascar Crested Ibis) で色彩などはトキに特に似ていないが、属名は lophotos 冠のある ibis トキ (Gk) なので日本のトキの属名はこれでもふさわしいものになっている。 Nipponia 属は見かけなどは大きく違うのでおそらく別属だろうと想像するが、こればかりは分子系統解析を待つしかないだろう。マダガスカルトキも Kuramoto et al. (2015) (#クロトキの備考) でトキグループの1種として調べられているだけなので他のトキ類との類似性はわからない。
      [トキの遺伝的多様性] 日本では野生絶滅し、中国から再導入されたがどの程度「同じトキ」と言えるのか関心をお持ちの方も多いだろう。 「日中トキ、やはり同一種 DNA分析で確認」(2003)、「能登、佐渡のトキは同一種 県など、DNA鑑定で確認「能里」の子孫、里帰りへ」(2009) の報道が wikipedia 日本語版に出ている。
      以下はさらに詳しい研究で、Feng et al. (2019) The Genomic Footprints of the Fall and Recovery of the Crested Ibis がこの疑問にある程度答えてくれる。 1841-1922 年の過去の分布域の 57 標本の分子遺伝学解析を行ったところ、かつて持っていた遺伝的多様性のほぼ半分が失われ、過去に分布していた複数の系統が失われたことが明らかになった (つまりかつての日本からロシア極東の個体群と、現存する個体群のもとになった中国中央部の個体群、及び中国東部、中国北西部の個体群は互いに独立した個体群と分離できる程度には違っていたことがわかる)。 過去の実効個体数推定の結果では人為的影響は 600 年前には始まっていたと推定される。この種にとって過酷な状況は 100 年程度続いたようである。現存の個体群は2繁殖つがいからもたらされたもので、個体数のボトルネック効果は非常に大きく、近親交配と遺伝的浮動によってかつての多形性が大きく失われることになった。
      2009 年の日本の報道(上記)では金沢市城北児童会館の剥製ではこれまでに発見されている4種類の遺伝子系統とは別の新しい系統であることがわかったともある。国内産トキの間でも多形性があったことがわかる。 トキの野生復帰の現状〜佐渡の現場から では「中国のトキと日本にいたトキのミトコンドリア DNA は 0.06% しか違わない。これは、個体間の変異程度である」と書かれているが、Feng et al. (2019) の解析によれば同一クレード内の個体による違い (これを個体間の変異に相当するものとしてよいだろう) に比べ、クレード間の距離はずっと大きい。「個体間の変異程度である」との表現は現在では正しくないと思われる。 これらを見るとトキの遺伝的多様性にとって日本の系統が失われてしまったことは非常に残念なことだったと思える。最近では中国由来の個体の増殖が進み、過去のことは忘れ去られがちであるが、やや古い書物ではトキの人工授精の試みの失敗の生々しい記述も見られる。これらを読むと日本の系統を保存できるチャンスは実は何度もあったのではないかと感じる。 日本産トキを救えなかったことについて、日本に内在する構造的問題 (これは現代にも通じるものがありそうである) があったことを小林照幸「朱鷺の遺言」(中央公論社 1998) が指摘している (内容には正確でない部分もあるようである。wikipedia 日本語版注釈も参照)。 wikipedia 日本語版によれば、「ミドリ」や「キン」の組織は冷凍保存されており、この2羽の皮膚細胞から人工多能性幹細胞 (iPS 細胞) を作り、日本産の遺伝子を受け継ぐ個体を復活させる取り組みを、国立環境研究所が 2012 年から開始しているとのことである。 絶滅危惧鳥類における iPS 細胞の作成はヤンバルクイナ、ライチョウ、シマフクロウですでに報告されている [Katayama et al. (2022) Induced pluripotent stem cells of endangered avian species]。 トキでもおそらく成功するであろうが、鳥類は哺乳類と同様の技術ではクローニングができない。卵黄が大きすぎて顕微鏡下の操作ができないためである (Audubon の解説)。そのため iPS 細胞が確立されても個体 (群) の復活に結びつけるにはまだ道が遠そうである。
      [中国のトキの再発見] 日本で全羽捕獲され野生絶滅となった時 (1981年1月)、ちょうど中国でトキの再発見 (1981年4月) の知らせがあった。その再発見物語を中国の研究者の劉蔭増が「美人鳥朱鷺」(湖南少年児童出版社 1988) として著し、桂千恵子によって翻訳された「トキが生きていた - 国際保護鳥トキ再発見の物語」[ポプラ・ノンフィクション(58) 1992] がある。 当時中国ではトキは絶滅したと考えられており、絶滅を確認するための調査であった。広大な中国のどこを捜索すればよいか、またわずかな手がかりから生息の可能性に迫る過程など、科学者の着想がいかんなく発揮されたことが記述され、児童書とはいえ厚みのある内容となっている。また絶滅に瀕した他のトキ類への温かい眼差しも感じられ、機会があればぜひお読みいただきたい本である。 また、例えば劉蔭増第一発見者で発見 40 周年 (2021) の報道が読める。
      [繁殖時の色変わり] 繁殖期は頸部の皮膚が内分泌により黒くなり、ここから剥がれ落ちた皮膚を上半身に塗り付けるため黒灰色になる (wikipedia 日本語版より)。Delhey et al. (2017) Cosmetic Coloration in Birds: Occurrence, Function, and Evolution によれば鳥類で皮膚からの色素分泌が知られているのはトキのみで、特異であるとは記述されているがそれ以上調べられていないと記されている。 論文になっているものでは、Wingfield et al. (2000) Biology of a critically endangered species, the Toki (Japanese Crested Ibis) Nipponia nippon があり、皮膚の分泌部位の写真が示されているが、この論文の時点では成分 (メラニン?) や実際にどのように分泌されるかはわかっていなかったようである。 同じ論文の紹介であるが、Avian Integument では表皮細胞の脂質が分泌されると解説している。他の鳥の表皮構造・機能などとも比較してこの機構が妥当であろうと説明されているものと思う。 この研究者による総説もあって Ritchison (2023) Integument (in "In a Class of Their Own", Fascinating Life Sciences book series, Springer) 基本的に同じことが書かれている。 なお初期の論文は Uchida (1970) On the color change in Japanese Crested Ibis にある (羽毛の鞘を取り囲む細胞から分泌されているとの考えで、上記解説とは多少違いがある)。 森本 (2015) Birder 29(10): 70 にトキの「化粧色」と題して記事がある。換羽や摩耗による以外の色変わりは発見当時はなかなか受け入れられなかったことも記されている。この記事によれば研究が行われているようなので結果に期待したい。
      [過去の生息地の再導入] 韓国の報道 (英文) Crested ibises return to wild in S. Korea 40 years after going extinct (2019)。
      ロシア: ハバロフスクでの報道 (2020 ロシア語) 絶滅したトキがハバロフスクの自然保護区のシンボルに
      [その他] Xu et al. (2024) Evolution and expression patterns of the neo-sex chromosomes of the crested ibis にトキの高精度の染色体レベルのゲノム解読の報告がある。古い性染色体と小型染色体の融合があって neo-sex chromosome になっているとのこと。クロツラヘラサギでも同様と思われる結果が出ており、トキ科の共通祖先の段階で起きたと考えられる。
  • ヘラサギ
    • 学名:Platalea leucorodia (プラタレア レウコロディア) 白いサギのヘラサギ
    • 属名:platalea (f) ヘラサギ (platos 幅 Gk)
    • 種小名:leucorodia (合) 白いサギの (leuko- (接頭辞) 白い erodios サギ Gk)
    • 英名:Spoonbill, IOC: Eurasian Spoonbill
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 leucorodia とされる。
  • クロツラヘラサギ
    • 学名:Platalea minor (プラタレア ミノール) 小さなヘラサギ
    • 属名:platalea (f) ヘラサギ (platos幅 Gk)
    • 種小名:minor (adj) より小さい
    • 英名:Black-faced Spoonbill
    • 備考:単形種。 Gluschenko and Korobov (2023) Interesting ornithological observations and finds in the southwest of Primorsky Krai in 2023 (pp. 5038-5057) によれば 2023 年夏から秋にロシア沿海地方でヘラサギとの混群が見られた。雑種とみられる個体も記録された (fig. 13 右)。親に食物をねだる若鳥も記録された (fig. 16)。
  •  ツル目 GRUIFORMES ツル科 GRUIDAE 

  • ソデグロヅル
    • 学名:Grus leucogeranus (グルス レウコゲラヌス) 白いツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:leucogeranus (合) 白いツルの (leuko- (接頭辞) 白い geranos ツル Gk)
    • 英名:Siberian Crane
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Leucogeranus属。種小名より昇格し、種小名も変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じで、属名はソデグロヅル属となる。単形種。
      世界的希少種。 分布図を見ていただければ東西の2個体群があることがわかる。中央にもかつては個体群があったが絶滅した。 大型の渡り鳥の衛星追跡が日本で行われるようになった初期の1995-1996年、日本野鳥の会が関わったソデグロヅルの渡りルート解明が行われた。Kanai et al. (2002) Migration routes and important resting areas of Siberian cranes (Grus leucogeranus) between northeastern Siberia and China as revealed by satellite tracking, が論文。これは東の個体群に対応する。 Kanai et al. (2002) Discovery of breeding grounds of a Siberian Crane Grus leucogeranus flock that winters in Iran, via satellite telemetry が西の個体群の繁殖地を衛星追跡で明らかにした論文。 日本語の解説記事などがもう少し Web で読めるかと期待したが、時代が少し古いこともあって見つけられなかった。 代わりに2017年に千葉県に飛来したソデグロヅルの記事があった。 珍鳥 vs カメラマン(奴賀) (バードリサーチブログから)。
      西の個体群は絶滅に瀕している。比較的最近世界的にも話題となった ロシアのプーチン自身が音頭をとって超軽量飛行機に乗ってソデグロヅルの若鳥に渡りルートを教えるプロジェクト "flight of hope" (ロシア語 polet nadezhdy) が2012年9月に始まったが頓挫したとのことである プーチン大統領のツル誘導飛行、大失敗に終わる 日本語訳された報道記事 (2012)。 Russian Effort To Save Cranes Fails To Get Off The Ground (2017年の記事)。 当時のプーチンは絶滅に瀕する種類の保護に前向きな姿勢を示していたが、その後はどうなったのあろうか...
      以下に2011年のインドの記事と映像資料がある Technology to bring back Siberian crane to India。 ツルは生まれた時から渡りルートを知っているわけではなく、何らかの方法で教わる必要がある。 The "Lily of Birds" A Journey To Help the Most Unique and Endangered of Cranes (CMS booklet) によれば卵から孵化させたツルをロシアの繁殖地などで放鳥する、あるいは仮親を使う試みが1990年代中盤より行われ約15年で100羽が放された。生存率は20%を超えなかった。仮親について渡りをしたがその後行方不明となり越冬地では1羽も観察されなかった。 イランやインドで放鳥された鳥は渡りをせず姿も見られなくなったそうである。
      イタリアの飛行家、冒険家。ハンググライダー、無機関・無動力の超軽量飛行機などを使用した冒険飛行で世界記録を保持していた Angelo d'Arrigo アンジェロ・ダリーゴ は2001年鳥とともに飛行する冒険を開始し、2002年ソデグロヅルの群れとともにシベリアからカスピ海を経て、イランに抜ける飛行を行った (この飛行も polet nadezhdy "flight of hope" と呼ばれている。wikipedia 日本語版/ロシア語版より追記。wikipedia ロシア語版にも2012年以降のことは記載がない)。 当時の英語記事例 Hanging With the Cranes (Los Angeles Times)。 アンジェロ・ダリーゴは2006年航空ショーの最中に墜落死したそうである。
      なお上記の "プーチンの失敗" 記事は多少尾ひれが付いているようで、cyclowikiの記事 によれば 最初の飛行では全部が飛び立たなかった。2回目では全部が飛び立った。全部がすぐに飛び立たなかったのはリーダーの責任で、速度と高度を早く上げすぎた。群れをなして飛ばなかった。とプーチンが述べている。2012年11月に1羽がカザフスタンで見つかってロシアに戻されたとのこと。 プーチンのソデグロヅルはどこへ行った? の2018年の記事では、プロジェクトが途中で終わったのは資金不足のためで、1機のモーターグライダーでは不十分で地上部隊も必要だがロシアの鳥類学者にはそのお金がなかった。 しかしあきらめたわけではなく、育った鳥は野生個体群に加えており、費用さえあればプロジェクトは再開されると期待している。ツルの増殖施設で働いている人は大変よくやっている、とのこと。
      ソデグロヅルを救う の Interfax 2019年の記事では、 1990年代の終わりには放鳥を開始した。それまで個体数は急減していたが横ばいになった。西シベリアの個体群は20羽に過ぎず、手を貸さなければ残っていなかっただろう。 ソデグロヅルは通常2卵を産むが1羽しか育たない。ソデグロヅルにも「兄弟殺し」があるらしい。2羽めを育てる余裕はない。 アフガニスタンやパキスタンの方に飛んでゆくとハンターに撃たれてしまうのでそれとは違うルートを覚えさせる必要がある (安全な越冬地をウズベキスタンのアムダリア川流域に確保したいとの目的が上記文献にも含まれていた)。 ヤマル半島での放鳥は10年前に途絶えた。資金不足となった。 クロヅルに道案内をさせようとしているが、実際どこに飛んで行っているのかよくわからない。 資金さえ予定通りに入ってくれば計画は再開できると考えている。最初の渡り個体群が確立できれば後は個体を追加するだけでずっと費用がかからず回復できるだろうとのこと。
      飛行機で誘導してツルに渡りルートを教える方法はアメリカシロヅル Grus americana 英名 Whooping Crane で使われた。この種はアメリカの自然保護のシンボルとも言える鳥。この分野の古典と言える「復活 - アメリカシロヅル絶滅への挑戦」(原書 The Whooping Crane F・マックナルティ; 藤原英司訳 どうぶつ社 1978) では「絶滅の危機に直面した鳥、アメリカシロヅルがいま124羽まで復活した。生命の賛歌を歌い上げたアメリカ自然保護の生きた見本」とある。 渡辺 (1996) Birder 10(1): 36-39 の記事にアメリカシロヅル保護活動の初期からの状況が載っている。この記事によれば軽飛行機で誘導する試みは1995年に始まったものとのこと。
      ソデグロヅルのロシア名は sterkh (カタカナではスチェルフとしか書けないが音はだいぶ違うかも)。何か由緒ありそうな名前だがドイツ語の Storch コウノトリが語源とのこと。白くて似ているために動物学者の Pallas が与えた名前であろうと考えられている。
  • カナダヅル
    • 学名:Grus canadensis (グルス カナデンシス) カナダのツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:canadennsis (adj) カナダの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Sandhill Crane
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Antigone属。Antigone はトロイの Laomedon 王の娘でコウノトリに変えられた。Linnaeus はこの神話とツルに変えられた Gerana の神話を混同した。両者とも lese-majeste (英語で a crime against The Crown の意味に相当する中世フランス語)の罪を犯したとされる (The Key to Scientific Names)。 Antigone は首をつって自殺したので首が赤く裸出するオオヅル Antigone antigone (英名 Sarus Crane)にこの名を与えたのだろうとの解釈もある (コンサイス鳥名事典)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では同じ分類の扱いで、Antigone属はマナヅル属となる。種小名は変化なし。 5亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 canadennsis とされる。 クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): p. 27 に北米からシベリアにカナダヅルが進出しているとの記載がある。
  • マナヅル
    • 学名:Grus vipio (グルス ウィピオ) 食用のツルの一種
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:vipio バレアレス言語で食用のツルの一種
    • 英名:White-naped Crane
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Antigone属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。 ハチ類に Vipio属 (寄生蜂 コマユバチ科 Braconidae) が存在する。
  • タンチョウ
    • 学名:Grus japonensis (グルス ヤポネンシス) 日本のツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:japonensis (adj) 日本の (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Japanese Crane, IOC: Red-crowned Crane
    • 備考:単形種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では日本産の Grus属は3種のみとなる (分類について#アネハヅルの備考参照)。 属名の和名はツル属となっているが和名検討中とのことで変わる可能性もある。注意すべきはマナヅルとナベヅルは別属となることで、厳密に書けばこの2種のいずれかを指して「Grus属の一種 (または sp.)」と書けなくなる。
      原記載 では Ardea (Grus) Japonensis Mueller, 1776 と Ardea (grus) の位置づけだった。サギ類の中にツル類が含まれる認識だった。Japanische Kraninich (日本のツル) として紹介されたもの。 現在のドイツ名は Mandschurenkranich (満州のツル) となっている。他のヨーロッパ言語では日本の、中国の、満州のが混在しているが色 (黒と白など) を用いているものもある。英語の Red-crowned Crane に相当するものは意外に少ない。
      ツル類の系統と行動の関係を調べた研究がある: Novakova and Robovsky (2021) Behaviour of cranes (family Gruidae) mirrors their phylogenetic relationships どの系統でどの行動が生まれ、あるいは消滅したかが示されている。例えば Grus属では交尾時の声が現れた。Grus属内でタンチョウが分岐した後の系統 (クロヅル、ナベヅルなど) で「蝶のポーズ」が出現したとのこと。
      ディスプレイ行動の系統進化は他の系統でも知られており、神経機構の進化との関連が示唆されるようになってきている [#オウチュウ備考の [さえずりの進化] の Schwark et al. (2022)。この論文ではマイコドリのディスプレイが扱われている]。
      [ツル類やハクチョウ類の気管・鳥の発声メカニズム] ツル類やハクチョウ類の中には胸骨の中でとぐろを巻く長い気管を持っている種類がある。 「行動・生態の進化」(岩波書店 2006) p. 163 では鳥についての解説ではないが、声道の長さは音声のフォルマント周波数に影響を与え、哺乳類では体サイズや齢のよい指標となることが示されている。 アカゲザル (アカシカとなっている) では発声時に喉頭を下げ、できるだけ声道を長くして共鳴した声を作っているとのこと。フォルマント周波数が低いオスは体も大きく繁殖成功率も高いとのこと。 紹介されていた論文は Fitch (1997) Vocal tract length and formant frequency dispersion correlate with body size in rhesus macaques。 同じ研究者による Fitch (2006) Acoustic exaggeration of size in birds via tracheal elongation: comparative and theoretical analyses に鳥類の長い気管が体サイズを誇張しているのではないかとの理論的考察がある。 アメリカアリゲーター (ミシシッピワニ) での研究があり、こちらは読みやすそう: Reber et al. (2017) Formants provide honest acoustic cues to body size in American alligators。 ツル類の体内部の長い気管は、渡りに際しては体は小さい方が有利だが、音声は大きくして社会的あるいは性選択に有利とする要請の両方を満たすために進化した仮説がある: Jones and Witt (2014) Migrate small, sound big: functional constraints on body size promote tracheal elongation in cranes
      長い気管は死腔 (dead space) となって呼吸効率が悪くなる可能性がある。 Ludders (2001) Inhaled Anesthesia for Birds によれば同じサイズの哺乳類に比べて長さで 2.9 倍、太さで 1.29 倍とのことで、空気抵抗は哺乳類と違いがないが死腔は 4.5 倍とのこと。鳥は呼吸が深く呼吸数も少ない (哺乳類の 1/3 とのこと) ことでこの問題を解決しているとある。単位時間あたりの気管の流量は哺乳類の 1.5-1.9 倍程度に過ぎないとのこと (もちろん鳥類の肺の優れたシステム、血液と空気の間の障壁が非常に薄くガス交換の効率の良いことで呼吸効率を上げている)。 この文献にはいくつかの種類の気管の図も紹介されているので参考になるだろう。 「鳥類のデザイン 骨格・筋肉が語る生態と進化」(カトリーナ・ファン・グラウ、監訳 川上和人 みすず書房 2021) にも長大な気管の例が出ている。原著 "The Unfeathered Bird" (Katrina van Grouw, Princeton University Press, 2013) で世界的にも有名となったもの。 同じ著者による書物に "Unnatural Selection" (Princeton University Press, 2018) (日本語訳本は出ていない?) があり、鳥類のみではないが人為選択により作られた奇抜な形態などが紹介されている (ダーウィンも夢中になったハトの品種など)。 表紙は人類進化を模式的に (しかし不正確に) 表す "Ascent of Man" で有名になった図版 (Ascent of Man image should be 'the other way around', leading expert in human evolution says 参照) の鳥類版になっている [ちなみにオリジナルは Darwin's Descent of Man and Selection in Relation to Sex (1871)]。 Prange et al. (1985) Respiratory responses to acute heat stress in cranes (Gruidae): the effects of tracheal coiling によれば、気管が長いことで高温時のあえぎによる熱放出に役立ったり呼吸性アルカローシスを防ぐ役割も考えられるがその効果は弱く、音声増強が主たる役割だろうとのこと。
      それでは首の長い鳥の音声は全部そうだろうかと微妙に気になってくる。代表的な種類ならばアオサギの声には皆さん驚かれたことがあろう通りで、大型サギ類は総じて美声とは言い難いだろう。サギ類でもミゾゴイなどの音声が低いのは関係があるのか? 動物園で聞くフラミンゴの声もあれだけ優美な姿からは想像しにくい。そういえばカンムリカイツブリも繁殖時派手な声を出すが、フラミンゴと系統関係がある (Mirandornithes: #カイツブリ備考参照) ことに由来しているのか? コウノトリは成鳥は鳴かないのでわからないが、ハゲコウ類は声を出す。ダチョウも音程が低すぎてわかりにくいようなものを含めていろいろ声を出す。いずれも美声とは言い難い感じがする。ウの仲間もご存じの通り。ヘビウの音声はそれほど低くないが雑音みたいに聞こえる。ノガンもカモのような声。ホロホロチョウはそれほど悪声ではないがとにかくうるさい (笑)。 トキはカラスの声かと思った。コンドル類は鳴管がないがコンドルは大きな声が記録されている。 しかしヒメコンドル Cathartes aura Turkey Vulture では数少ない音声記録でも喉頭の呼吸音のような感じがする。系統によるのかも知れない。 旧世界ハゲワシ類も悪い声と言ってよいだろう。優美な外見の印象から意外だったのがヘビクイワシで、ほとんど大型サギ類のような声を出す (どんな声を想像していたのかと聞かれても何とも言えないが、猛禽類の他種からはこの声は想定外。もっとも 6000万年ぐらい前とも推定される非常に古い分岐なので全然違っていても不思議ではないが)。 網羅的に調べたわけではないがこの規則はもしかすると例外がないのだろうか。 ノガンモドキ類を見ておくとこちらは低い声ではなく番犬代わりになる大声とのこと。 そう言えばオオワシなどの海ワシ類など大声で鳴く種類は後ろに反り返るが、これは声道を長くするためだろうか、と思ってみるとカモでは関連する話があった:
      潜水ガモで一部の種で気管軟骨が骨化しているが、これは水圧に耐えるためと考えられる。しかし一部の種ではそうではなく、反り返りディスプレイの際に気管が柔軟な方が有利で、オウギアイサ Lophodytes cucullatus Hooded Merganser では 110mm の気管を 155mm まで伸ばせたとの実験結果がある。 これは音声の質を変えるのに役立っていると考えられる。潜水ガモ一般にこの能力があるのではとのこと [Miller et al. (2007) Allometry, bilateral asymmetry and sexual differences in the vocal tract of common eiders Somateria mollissima and king eiders S. spectabilis およびその参考文献から。オウギアイサの実験は Beard (1951) The Trachea of the Hooded Merganser. Including a Comparison with the Tracheae of Certain Other Mergansers で読める。上記論文では cm になっていたが mm の間違いだった]。
      鳥の発声器官の鳴管が気管支付近と気道下部にあるのは、喉頭で発声して重心から離れたところを重くするのはバランス的に不利でその方向に進化が進まなかったかも知れないが (調べていない)、結果的に喉頭で発声するより共鳴可能な気道の容積を増やす効率的な方法になっている。 Yoshida et al. (2023) An ankylosaur larynx provides insights for bird-like vocalization in non-avian dinosaurs (日本語資料: 世界初! 恐竜の喉化石を発見)。 の引用文献でも同じように触れられている模様。この文献によれば恐竜化石ではまだ鳴管は見つかっていないとのこと。 喉頭にある輪状軟骨 (cricoid cartilage。我々でも甲状軟骨の下に表面から触れることができる。上記プレスリリースでは輪状骨となっている。ヒトでは最初は骨化していないので軟骨の名称が使われる。鳥類でも輪状軟骨などの名称が用いられるが年齢とともに骨化するとのこと。ヒトでは甲状軟骨は30-65歳ぐらいで骨化するが輪状軟骨は一部起きるのみとのこと) や披裂軟骨 (arytenoid cartilage) まわりの構造が発達していて、もしかすると音声調節に役立っていたのではないかと推論。この論文の図を見ると鳥の喉頭は確かに音声を調節しているらしいことがわかる。 恐竜が声を出していても大型種ではダチョウのような声だったのだろうか。ヒメコンドルのような例をみると系統次第だろうがほとんど声を出していなかった可能性もあるかも。 「鳥類学者無謀にも恐竜を語る」(川上和人 2013, 2018) pp. 159-165 に上記化石の発見前だが考察がある。比較対象にワニを取り上げ、恐竜の Parasaurolophus の「とさか」に音響効果があった可能性を取り上げている。 Parasaurolophus の wikipedia 英語版によれば内耳の構造はもっと高音の声に反応するとの指摘があるが、Weishampel はそれは親と幼体のコミュニケーションに役立っているので矛盾しないと言っているとのこと。 Weishampel (1981) Acoustic Analysis of Vocalization of Lambeosaurine Dinosaurs (Reptilia: Ornithischia) がその論文とのこと。1998年の研究 Scientists Use Digital Paleontology to Produce Voice of Parasaurolophus Dinosaur。 その他にもいろいろな機能が提唱されてきて、嗅覚のため、温度調節の機能、種内の視覚的認識のためなどが挙がっている。
      ワニは喉頭で発声とのことで Riede et al. (2015) Functional morphology of the Alligator mississippiensis larynx with implications for vocal production に解剖学がある。神経支配は迷走神経と舌下神経のようなので哺乳類に似ている [cf. Lessner and Holliday (2020) A 3D ontogenetic atlas of Alligator mississippiensis cranial nerves and their significance for comparative neurology of reptiles; Schmidt and Wild (2014) The respiratory-vocal system of songbirds: Anatomy, physiology, and neural control]。 鳥類の鳴管は完全に舌下神経支配 (外部筋肉は2種類で musculus tracheolateralis と musculus sternotrachealis。鳴管周辺のみに存在する筋肉 intrinsic syringeal muscles を発達させているグループもある) で、現生種では鳥類のみが異なるよう。 #オウチュウの備考 [さえずりの進化] の Schwark et al. (2022) で、鳥類と哺乳類の中枢神経から末梢コントロールで異なる点として鳥類では舌下神経以外に胸部や腹部の呼吸筋も支配していることを挙げている。 ワニと哺乳類の類似性を考えるとこれが祖先形で、鳥類では鳴管での発声コントロールと同時に複雑な呼吸動作の高度な統合 [後述 Schmidt and Wild (2014) 参照] を行う必要が生まれ、鳥類で新たに追加された神経回路かも知れない。
      Jorgemich-Cohen et al. (2022) Common evolutionary origin of acoustic communication in choanate vertebrates に choanates (カメやハイギョなどを含む) の発声の系統研究がある。4億年前に起源を遡ることができるという。 大部分の系統で喉頭が主な発声部位だが鳥の鳴管は発生学的に別のものを利用している。鳥でも喉頭で音 (hissing sound) を出すことができるとのこと: Policht et al. (2020) Hissing of geese: caller identity encoded in a non-vocal acoustic signal。 コウノトリ成鳥でもクラタリングの際に声らしいものが聞こえるが、こちらが発声機構なのかも。 Kingsley et al. (2018) Identity and novelty in the avian syrinx に脊椎動物の発声の進化が取り上げられている。不完全な気管支の軟骨と連続呼吸は鳥の (祖先のどこか) 系統で獲得したもので、他にはない独自のものとのこと。喉頭の構造は基本的にどれも共通とのこと。 interclavicular air sac (鎖骨間にある対をなさない気のう) が鳴管での発声に役割を果たしていることが指摘されているが、気のうと鳴管のどちらが先に進化したかはわからない。 鳥とワニの共通祖先では喉頭を用いていたのだろうが、鳥に至る進化段階のどこかの段階で両方を用いるようになったのか、それとも一度声を失った時期もあったのか。 Goller (2022) The syrinx のレビューもフリーで読める。 鳴管は最初は息を止める (*1) 機能として進化した可能性があるが起源はよくわかっていない。いずれにしても気のうに囲まれた場所で音を出す効率が高く、上部気道を共鳴に使えるため喉頭よりこちらを使う方が有利だったのだろうと推測している。 喉頭と鳴管は発生学的には異なるが、気道を形作る遺伝子制御機構は共通のものがあり収斂進化の産物と言ってもよいとのこと。 鳴管の音源は通常2つ (左右1対) だが、1つのものもある (ハト類やオウム類など独立に進化したと考えられる)。3つのものもある (tracheophone suboscines カマドドリ科など)。いずれも何らかの選択圧が働いていると考えられる。 音声学習はあるかないかというよりもっと連続的なものと考えられる。 通常音声学習を行わないとされるグループに属するスズドリ類 [スズドリ Procnias albus White Bellbird は鳥の中で最も大きな声 125 dB が記録されたという cf. Podos and Cohn-Haft (2019) Extremely loud mating songs at close range in white bellbirds] などで音声学習のある程度の証拠が知られているなど書かれている。
      鳥類で喉頭でなく鳴管が使われるようになった解釈について Riede et al. (2019) The evolution of the syrinx: An acoustic theory も面白い (レビューの著者の Goller も含まれている)。 実験と物理モデルで喉頭と鳴管で発声した声がどのように気道の長さで影響を受けるか調べた。最適値があって体重 20-30 kg だと 40-70 cm ぐらいが適切か。 鳥類では気のうシステムがあって呼吸機能に余裕があり、長い気道を持つことは哺乳類に比べて負担にならず、祖先型もより多くの頸椎を持っている [Mueller et al. (2009) Homeotic effects, somitogenesis and the evolution of vertebral numbers in recent and fossil amniotes で祖先型の推定をしており、鳥類祖先にあたる Saurischia 竜盤類では頸椎10個とのこと。羊膜類の祖先型は6個とのこと]。 気道が 50-100cm の場合では鳴管で発声する仕組みの方が有利であるとの考え。哺乳類では気道が短く、ヒトの場合も共鳴周波数とよく合っておらず、発音体を鳴管に相当する場所に置いてもあまり効果がない。 小型の鳥には当てはまらないのではの疑問については制約から逃れるいくつかメカニズムが提唱されているとのこと。 Aureliano et al. (2022) The absence of an invasive air sac system in the earliest dinosaurs suggests multiple origins of vertebral pneumaticity では common avemetatarsalian ancestor (2.33億年前) には気のうシステムがなかったようで、気のうシステムは複数回進化したことになる。系統の離れた翼竜 Pterosauria も気のうを持っていた。
      鳴管の構造研究が最近進んだ: Birdsong and Human Voice Built from Same Genetic Blueprint 鳴管と哺乳類の喉頭の構造形成に同じ遺伝子メカニズムがかかわっている。 Chiappone et al. (2023) Ostrich (Struthio camelus) syrinx morphology and vocal repertoire across postnatal ontogeny and sex: Implications for understanding vocal evolution in birds ダチョウの鳴管構造、雌雄差の研究。ヒス音と通常の音声を同時に出すことができる。嘴を閉じたまま boom 音を出すのはオスのみ。 Legendre et al. (2024) Evolution of the syrinx of Apodiformes, including the vocal-learning Trochilidae (Aves: Strisores) 音声学習を行うハチドリと同じ鳴管構造がヨタカ類、アマツバメ類にも見つかった (現代の分子系統学ではこれらはいずれも近縁 Strisores とされる)。ハチドリ類が音声学習を行う上で前適応があったとも言える。 ハチドリ類は通常の鳥には聞こえない高い声を聞く能力もある: Duque et al. (2020) High-frequency hearing in a hummingbird エクアドルヤマハチドリ Oreotrochilus chimborazo Ecuadorian Hillstar は中心周波数 13.4 kHz でさえずり、これまで記録されている最も高い声のさえずりとのこと。 クロハチドリ Florisuga fusca Black Jacobin は Olson et al. (2018) Black Jacobin hummingbirds vocalize above the known hearing range of birds で声も聞くことができるが、 こちらは xeno-canto に上記論文著者のデータがあり、さえずりを聞くことができる (XC898140 など オンラインで聞く声は .mp3 に変換されているので音声ファイルをダウンロードして原音のまま聞いていただきたい)。192 kHz サンプリングで録音している。80 kHz まで達する高次の倍音まで発声されており、この点ではヤブサメのさえずりと性質が異なる。 以下にスパースモデリングによる高解像度ソノグラムを作ってみた [Kato (2021) A code for two-dimensional frequency analysis using the Least Absolute Shrinkage and Selection Operator (Lasso) for multidisciplinary use のコード、
      XC898140 を読み取り、
      pgm <- getpergrmlasso2(d,28.4,36,1,60,200,0.15,0.03)
      drawpgmlasso(pgm,0,0,5,3,xlab="Time (msec)",ylab="Frequency (kHz)")
      のパラメータを使用した (使い方は論文参照)]。
      上が波形。正弦波でないため高次の倍音が現れるが波の波形そのものは複雑ではない。自分が IC レコーダーで記録したヤブサメはこのようなきれいな結果にはならかなったので、やはり超音波を記録できる性能のマイクロフォンだけのことはあるように見える。
      Longtine et al. (2024) Homology and the evolution of vocal folds in the novel avian voice box 組織発生学的には喉頭と鳴管は異なっているが、発生に共通の遺伝子メカニズムが働いている。 鳥類祖先で鳴管に音源が2つあったことが想像されるが、非鳥類型恐竜ではまだ鳴管は見つかっていない。 μCT が使われるようになって鳴管研究が活発になっている模様。また鳥類の系統関係が明らかになったことで鳴管の系統研究なども興味深いテーマとなってきたよう。 Gladman and Elemans (2024) Male and female syringeal muscles exhibit superfast shortening velocities in zebra finches によればキンカチョウの鳴管の筋肉は1秒に 100-250 回収縮できて、他の筋肉や鳥類以外の骨格筋の収縮速度を上回るとのこと。メスの方が筋力は弱いが最大速度はオスと同様とのこと。
      参考までに哺乳類ではどのような研究が行われているか: Janik and Knornschild (2021) Vocal production learning in mammals revisited 鳥ではよく調べられているが哺乳類の研究は不十分であるとのこと (鳥の方が先行している研究分野があるのは面白い)。音声学習がある・なしではなく段階的なものを考えている。 コウモリで特によく知られているが call convergence の概念があり、他の個体の周波数に合わせることができる。コウモリの オオシマサシオコウモリ Saccopteryx bilineata Greater Sac-winged Bat (霊長類以外で鳥での "ぐぜり" に相当する発声が見つかった最初の例とのこと) が歌を学習する過程は鳴禽類と類似している。 マウスでも歌 (song) の表現が使われているが、大脳皮質のないマウスでも歌を発することができ、より下位の神経機構で作られている。
      鳥が息を吸う時も発声できるとしばしば言われるが、根拠はあまりはっきりしない。前述の Schmidt and Wild (2014) のレビュー論文では、キンカチョウでは1音ごとに息を吐く筋肉が活動している (expiratory pulse または pulsatile expiration)。シラブルやフレーズの間に約 30ms の短い息継ぎをしており、発声中に失われた空気を補充するのに十分であるとのこと。 早い連続音 (trill) の際はこの息継ぎが失われ、気嚢の圧力も何十倍にも上がる。この時には腹筋が働いているとのこと。 チャイロツグミモドキ Toxostoma rufum Brown Thrasher は左右の鳴管を独立に制御して2音を重ねて出すことができる。左右の気管支の空気の流量も異なっている。途中に短い息継ぎがあってその時は気嚢の圧力も下がって発声していない。 この論文ではほとんど音声は息を吐く時に出るとある。 鳴禽類では左右の鳴管は種類によるが同側の脳の RA 核 (robust nucleus of the Arcopallium) が支配しており、左右の大脳半球を直接結ぶ構造 (脳梁) がないので左右をどのように統合しているか不明であるが呼吸と関連した部分が統合を行っている可能性があるとのこと。
      ハトが鳴く時に前後の気嚢の圧力が少し違うことが報告されており、気嚢を個別にコントロールできる可能性はあるとのこと (以下 #ウグイスの備考 [ウグイスは息を吸う時に声を出すか] へ)。
      備考:
      *1: 息をこらえる。例えば産卵や排泄、複雑な飛行などの行動の際に役立つ可能性があるが実証されていないとある。 複雑な飛行というのは急に向きを変えるなど瞬間的に強い力を出す必要がある場合などを想定したものか。我々も力を出す時や細かい作業をする時に息をこらえることがあるが、飛行中の鳥でも瞬間的に力を出す必要がある場合に息をこらえたりするのだろうか。 排泄については多少思い当たるところがあって、タカ類が糞を飛ばす時にどこに力を入れるのかと考えると体腔内圧ぐらいしか思い浮かばない。詳細な映像であれば呼吸の様子も見えることもあるので、糞を飛ばす時に息をこらえているか調べてみるのも面白いだろう。タカ類以外でも糞を飛ばす鳥はあるのだろうか、行動の系統進化は?
      潜水する鳥や哺乳類はもちろん息を止めるが、それ以外の地上性動物が自発的に息を止められるか調べられた研究が見当たらない。すべての鳥や哺乳類は息を止める能力があるはずだが、どのようにすれば止めてもらえるのかわからない、と書かれているページもあり、質問コーナーでも回答が出ていなかったりするのでそもそも研究がないのかも。
      哺乳類では横隔神経 (phrenic nerve) が横隔膜の運動を支配している。ヒトでは C4 の脊髄神経が中心で、イヌ類では C5-C7 とのこと。いずれにしても胸部・腹部を分ける位置なのに胸部の脊髄神経ではなく頸部が支配している。肺がエラから進化した名残り。 鳥類には横隔膜がないので胸郭を動かすことで呼吸を制御している (我々も用いている) が、その筋肉の付着部位として肋骨の鉤状突起 uncinate process も役立っている。骨格を見た時にこれは何だろうと思う突起 (思わないか?)。 骨性の鉤状突起は鳥類特有とのことで、始祖鳥にはないとの話もあるが、あるとの話もある [Codd et al. (2008) Avian-like breathing mechanics in maniraptoran dinosaurs]。持たない鳥 (サケビドリ類) もないわけではない。 気のうの進化も含めた進化過程の構築の試みは Wang et al. (2023) Deep reptilian evolutionary roots of a major avian respiratory adaptation にある。鳥の祖先系統のさらに以前に遡ることができる?
      鳥類の呼吸と発声の関係は Schimidt and Wild (2014) The respiratory-vocal system of songbirds: Anatomy, physiology, and neural control で見られるが、呼吸の制御は胸部の脊髄神経を用いているよう。鳥類に横隔膜がないことは横隔神経核がないことに関連している可能性があるがよくわからないとのこと。哺乳類では横隔膜の神経支配から呼吸器は頸部由来の内蔵から発達したものとも言えたが鳥類を見るとそこまですっきりしない感じ。 呼吸筋の神経支配は哺乳類とは違いがある模様。どちらも延髄にある上位の呼吸中枢が脊髄神経を制御している。 ちなみに大胸筋はヒトでは C5-C7 が支配、鳥類でも頸部下部の脊髄が支配で同様 (どちらも brachial plexus) で、発生的には頸部由来となる。頸部の上部から動く舌 (第XII脳神経の舌下神経が支配、これは C0 に対応するとも言われる) が生まれ、下部から上肢の一部が生まれたことになる [「くびは何のためにあるか」(山田宗睦編 風人社 1995) を参照]。 鳥類では迷走神経は鳴管の制御にはかかわらないが、気のうなどに関わる神経として発声に関与している可能性はあるとのこと [Wild et al. (2009) Avian Nucleus Retroambigualis: Cell Types and Projections to Other Respiratory-Vocal Nuclei in the Brain of the Zebra Finch (Taeniopygia guttata) この文献では鳥類・哺乳類の呼吸に関わる神経の対応関係などが示されている]。
      [水鳥などはなぜ一本足で立って眠るか] 最近になって物理的に一本足で立つ方が安定して筋力も少なくて済む説明もなされるようになってきたが、出典は Chang and Ting (2017) Mechanical evidence that flamingos can support their body on one leg with little active muscular force この研究はフラミンゴを用いたものだがツルでよく議論されるテーマなのでここに含めておく。 これまでよく行われていた説明では熱の放出を抑制するものでこれが否定されているわけではない。 この研究ではフラミンゴが最小限の筋力による調整で一本足で立つことが可能か (whether it is possible と原文にある) を調べたもので、鳥において passive, gravity-driven body weight support mechanism (重力により受動的に体重を支えるメカニズム) の存在を知る範囲では初めて示したもの、との位置づけで、実験的証拠はまだないが一本足で立つ方が筋肉制御に必要なエネルギー量が少ないのではとの仮説を提唱する、とある。 ウマでは受動的に体重を支えるメカニズムでエネルギー消費を減らしているとある。 熱帯の水鳥では熱の放出の抑制はそれほど重要でないと考えられるので、あるいは受動的に体重を支えるメカニズムの方がより効いているのではないか、との可能性を提唱したもの。著者も査読者もフラミンゴの生息地の環境を多分あまり知らないらしい (#カイツブリの備考参照)。
      この種の話は尾ひれが付きがちだが、上記のように論文著者も可能性を述べる仮説のレベルとしているもので、体温を逃さない従来の解釈は引き続き有効なので説明される時はご注意を。
      この論文では非常に単純な物理モデルを使っているが、Abourachid et al. (2023) An upright life, the postural stability of birds: a tensegrity system によれば関節と一本の筋肉を真似たシステムは物理的に安定でない (1要素では多分制御できない)。4本にすると安定となって生体工学的要請を満たすことができるとのこと。この特性は鳥の解剖学的特性と関係する部分もあり、鳥が発明したとも言えるとのこと。一本足ロボットへの応用ができるかを考えている。一本足で立った方が自動的に安定になるというわけではない模様。
      Anderson and Williams (2013) Why do flamingos stand on one leg? によれば温度が上がるとフラミンゴが一本足で立つ割合が減り、温度調節にとって重要であることを強く示唆するとのこと。
      [中国の国鳥] 中国の国鳥はタンチョウと書いてあるものも、未定とあるものもあり調べてみた。 (2021年の記事) によれば 2003年に国鳥を定める動きが高まり、投票の結果タンチョウ (中国では "仙鶴" としてよく知られている) が最多得票を得て一度は決定しかけたがネットで異論が出て定まらなかったとのこと。 英名が Japanese Crane だったためともここでは述べられている。 大航海時代の清は西側に門戸を開いておらず、日本の方がむしろ西洋とつながりがあった。そのため日本に固有の鳥と考えられていた。 鳳凰のモデルとも言われるキンケイ Chrysolophus pictus Golden Pheasant もよい候補だが知らない人が多いのが難点。 (2008年の記事) によれば2008年時点でタンチョウが最終的に選ばれないならば理由は日本の名前が入っていることと報道された模様。この時点ではタンチョウが唯一の国鳥の候補であると述べられたことはなく、国鳥選定のどの段階にあるかは申し上げられないが決まり次第公表したいと答えたとのこと。 (2022年のキンケイの記事)(2020年のタンチョウの記事) は学名が「日本のツル」である理由を説明している。日本と西洋とつながりについてはこの記事の方が正確か。この学名のために中国の国鳥になれないが、英名は Manchurian Crane の方が使われるようになってきているので心配することはないともある。 他の記事では英名が変わったので学名も変わらないかと期待しているニュアンスも多少あるが、それはさすがに変わらない (ここまで詳しく解説している記事は少ない)。インターネットの中国の記事ではタンチョウは日本では冬鳥としてのみ見られる、あるいは日本では絶滅したとの誤った情報が広く知られているよう。トキと混同されている部分があるかも知れない。 (2024年の記事) 中国の国鳥は未確定が正解のよう。キンケイが一時期使われたことがあったが正式ではなかった。 1990年代から国鳥を決めようとの動きがあったらしい。キジやカササギも候補に挙がっていたとのこと。 2001年の北京オリンピックの際に各国の代表団がそれぞれの国鳥のロゴを示したが、中国はキンケイを代わりに使ったとのこと (その時の写真あり)。国鳥を早く決める必要性が認識されたとのこと。 タンチョウについては上記の通りの説明になっている。スズメも選ばれたそうだがさすがに、となった模様。 キンケイについては中国名に「ニワトリ」を意味する文字が含まれるので品位に問題があるとされた。 トキは個体数が少なく不安定要素もあるので国を代表する重役は適さないかも知れない問題がある。 これらの有名な鳥はいずれも高い支持率を得ているが、最近はインターネットで議論が盛り上がっていて、それ以外にも国鳥にふさわしい候補がいくつも出てきたとのこと。 最近になって急浮上してきたのが "ギンノドエナガ" (直接調べると Aegithalos glaucogularis Silver-throated Tit となるが写真を見る限りではおそらく現地名でエナガの大陸亜種のことでは?) でも皆が可愛いと盛り上がっているとのこと (中国語でも "萌" 属性 と呼ばれるらしい)。 しかしこのような流行で決めるわけにもいかないだろうし... 中国は国土も文化も膨大で、地域によって馴染みの種類も異なり、これまであまり注目されていなかった国鳥にふさわしい種類がまだまだあるのではと選びきれていない模様。 やはりタンチョウがふさわしいとの意見も出ていてまとまりきらない様子。
      タンチョウの除外に関連して (2009年の記事) "日本" の名前が含まれることで国鳥にふさわしくないとするのはもはや科学の問題ではなく、むしろわが国の文化の成熟度が問われている。日本でさえも「日本鶴」とは呼ばずにタンチョウと呼んでいるではないか。世界の湿地保護のシンボルともなっている。 単なる名前を問題にするのは "仙鶴" と呼んできた自国の歴史と文化を無視するようなもので世界から笑われるだろう、という冷静な見解も出ていた。
      オグロヅルこそふさわしいとの2024年提案 初期は人気投票的要素が強かったが、新しい時代になって推薦根拠をより科学・文化的に挙げるようになってきている。 ここまで議論が長引くと、国鳥にふさわしい条件をすべて満たすか、また何か少しでも欠点がないか (他国文化に悪い印象がないかなど) など条件が厳しくなっている状況のよう。少々のことでは決められなくなっているかも。
  • クロヅル
    • 学名:Grus grus (グルス グルス) ツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:grus (トートニム)
    • 英名:Common Crane
    • 備考:ユーラシアに広く分布する。単形種(IOC)。2亜種とする考えもあり、日本鳥類目録 改訂第8版第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開ではこちらに従って亜種 lilfordi (英国鳥類学者 Thomas Lyttleton Powys 4th Baron Lilford にちなむ) を採用している。 世界の主要リストでこの亜種を採用しているものは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) なので (ただし may not be diagnosable と付記されている) 日本鳥学会の見解もおそらくこれに基づくものと思われる。IOC も 4.3 まではこの亜種を用いていた。
      Species Review: Eurasian Crane (Grus grus) (IUCN SSC Crane Specialist Group) では4亜種とみなし、基亜種と lilfordi の境界はウラル山脈で後者に英名 Eastern Eurasian Crane を与えている。 コーカサスの Transcaucasian Eurasian Crane (G. g. archibaldi)、チベットの Tibetan Eurasian Crane (G. g. korelovi) が他の2亜種。これらが実際に単系統か evolutionarily significant unit (進化的に意義のある単位: ESU) に値するかはさらなる研究が必要としている。
      クロヅルの東個体群の渡りの衛星追跡の最近の研究は Erdenechimeg et al. (2023) Migration Pattern, Habitat Use, and Conservation Status of the Eastern Common Crane (Grus grus lilfordi) from Eastern Mongolia で見ることができる。モンゴル東部で繁殖し、渤海沿岸、黄河デルタなどで越冬する経路が記録されている。
      「ツル」の語源は新谷 (1983) による ユーラシア比較言語学の試み IV - ツルとカラスの語源学 - がある。タヅとの関係は不詳とのこと。 その後も研究が進められて別説が出ているかも知れないが、「コンサイス鳥名事典」では朝鮮語のトゥルミー (上記 turumi と同じ) を提案している。この事典にデンマーク、スウェーデン、アイスランドで同じような音の名前があるとのことで調べてみることにした。 デンマーク語 trane スウェーデン語 trana アイスランド語 (gra)trana で、古ノルド語の trana が起源とのこと (wiktionary)。 北部ドイツ語の trana 由来で Kran(ich) が音韻変化したものと説明されているとのこと (参照)。gr → tr への音変化は意外であるとのこと。 インド・ヨーロッパ祖語では Reconstruction:Proto-Indo-European/gerh2- とのこと。東アジアの音声については検討外の模様であるが turumi/tsuru と古ノルド語との直接の関係はなさそうである。
      英語 crane は OED によれば 1275年ごろ (おそらく 1200年ごろ) にすでに用例があるとのこと。ツル以外のサギやコウノトリも指す語義の方が新しく、1678年に用例があるとのこと。 建設などに用いられるクレーンの語義は 1487年 (おそらく 1380年ごろには) 用例がある。 Online Etymology Dictionary によれば後者の建設機械の意味は 13世紀遅くに登場するとのことで、ドイツ語、フランス語などと共通とのこと。現代のドイツ語では使い分けていて、鳥の方は Kranich、建設機械は Kran。 語源的には鳥の方が古いが、建設機械に用いられたのは中世オランダ語の krane が最初とのこと (Wiktionary)。 ドイツ祖語の krano はインド・ヨーロッパ祖語の *gerh2- の "荒っぽい声で鳴く" に由来するとのこと。 ロシア語のツルの zhurabl' が大きく違うので確認しておくと擬音語の ger、ギリシャ語 geranos などが語源とのこと (Kolyada et al. 2016)。学名に使われる Grus と縁が近かった。元をたどるといずれも声が由来か。
  • ナベヅル
    • 学名:Grus monacha (グルス モナカ) 修道女のツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:monacha (f) 修道女 (monachus (m) 修道士)
    • 英名:Hooded Crane
    • 備考:単形種
  • アネハヅル
    • 学名:Anthropoides virgo (アントゥロポイデス ウィルゴ) 乙女のようなツル
    • 属名:anthropos 女性 (Gk); 人の形をした (コンサイス鳥名事典)
    • 種小名:virgo (adj) 未婚の (f) 乙女
    • 英名:Demoiselle Crane, IOC: White-naped Crane
    • 備考:属名は日本鳥類目録改訂第7版時代からアネハヅル属。単形種。
      ツル類の分子系統研究は Krajewski et al. (2010) Complete Mitochondrial Genome Sequences and the Phylogeny of Cranes (Gruiformes: Gruidae)Anthropoides属を認めるかどうかは分類学者次第で、IOC は version 2.5 まで認めていたが以降は Grus属に統合している。Howard and Moore は 3rd edition まで認めていたがその後は Grus属。 IOC 14.1 では Grus属だが、Perhaps best separated into Anthropoides と注釈があり、属の分離も正当化できる見解のようである。 Clements は2005年まで Grus属だったがそれ以降 Anthropoides属。 もう1つ問題となる属があり Bugeranus属でホオカザリヅル (英名 Wattled Crane) 1種のみを含み、Anthropoides属の前の分岐に相当する。 Anthropoides属を認める立場 (例えば日本鳥学会 日本鳥類目録 改訂第7版や第8版の予定) ならばこの属も認める必要があり、この種の学名は Bugeranus carunculatus となる。 原理的にはこの種もまとめて Anthropoides属とすることは可能だが、そのような用例は見当たらないので Anthropoides属を認めるならば Bugeranus属も認めることになるだろう。 これら全体と残りの Grus属をまとめても単系統となるので、これらをすべて Grus属としても差し支えなく、現在の IOC と Howard and Moore はその立場と考えてよいだろう。 その場合はアネハヅルの学名は Grus virgo となる。現在の海外のページなどでは IOC に準拠してこちらが主に使われているので検索などの際は注意。現在の IOC 分類では Grus属は8種になる。 属をどの程度細かく分けるかの自由度の問題と言える。 Antigone属を認める立場 (例えば日本鳥学会 日本鳥類目録 第8版の予定) ではマナヅルは Antigone属になって、Anthropoides属を認めるか否かにかかわらずナベヅルと別属になる。 古い分類ではこれらもすべて含めて Grus属としていたが、現代の知識ではそれに内包される Anthropoides属 と Bugeranus属を別属にしていたことになる。
      Anthropoides属を認める場合はこの属にもう1種あり、種小名 paradisea のハゴロモヅル 英名 Blue Crane がある (IOC 学名では Grus paradisea)。 このツルは Tetrapteryx の属名が用いられたことがあり、「4つの翼 (羽)」なのでもしかして後肢に羽が生えているのかと期待したがそうではなく、地面に届くほど伸びた3列風切を指したものとのこと。
      英名の一つの demoiselle は Marie Antoinette 女王が姿から名付けたもの (wikipedia 英語版)。英語の demoiselle はフランス語に由来。
      アネハヅルはヒマラヤを超える渡りをするツルとして有名。1981年10月にヒマラヤの上空を飛んでいるのが日本の登山隊に目撃され、編隊飛行している写真が発表されたことがある。 当時はソデグロヅルと言われていたが、これは後にアネハヅルと判断された [科学ドキュメント ヒマラヤを越えるツル マナスル登山隊の記録 1982(30分)NHK総合: 出典]。
      [ツル科・ツル目の系統分類] 上記の分類上の検討をふまえ、日本鳥学会 日本鳥類目録 第8版の予定と整合性のある分類 (eBird/Clements 2023 に一致する) でツル科 Gruidae の分類を示しておく。 もちろん日本で見られない種類も多いが、動物園などで比較的よく飼育されているため見る機会も多いだろう。参考にしていただきたい。 学名の後に (*) があるものは IOC 14.1 では Grus属。

      ツル科 Gruidae
       カンムリヅル亜科 Balearicinae
        カンムリヅル属 Balearica
         ホオジロカンムリヅル Balearica regulorum Grey Crowned Crane
         カンムリヅル Balearica pavonina Black Crowned Crane

       ツル亜科 Gruinae
        ソデグロヅル属 Leucogeranus
         ソデグロヅル Leucogeranus leucogeranus Siberian Crane
        マナヅル属 Antigone
         カナダヅル Antigone canadensis Sandhill Crane
         マナヅル Antigone vipio White-naped Crane
         オオヅル Antigone antigone Sarus Crane
         オーストラリアヅル Antigone rubicunda Brolga
        ホオカザリヅル属 Bugeranus
         ホオカザリヅル Bugeranus carunculatus (*) Wattled Crane (アフリカ)
        アネハヅル属 Anthropoides
         ハゴロモヅル Anthropoides paradiseus (*) Blue Crane (アフリカ)
         アネハヅル Anthropoides virgo (*) Demoiselle Crane (ユーラシア)
        ツル属 (和名検討中) Grus
         タンチョウ Grus japonensis Red-crowned Crane
         アメリカシロヅル Grus americana Whooping Crane
         クロヅル Grus grus Common Crane
         ナベヅル Grus monacha Hooded Crane
         オグロヅル Grus nigricollis Black-necked Crane

      なおツル目 Gruiformes の中の位置づけは以下のようになる。絶滅科を含めた構成は wikipedia 英語版による。 科の和名は山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) 鳥類の目と科の新しい和名 (1) 非スズメ目・イワサザイ類・亜鳴禽類 による。ツル科 Gruidae と クイナ亜目 Ralli で大きく形態が異なるが、ツルモドキやラッパチョウ類がどの程度ツルに似ているかは画像検索などで確かめていただきたい。

      ツル目 Gruiformes
       ツル亜目 Grui
        ツル上科 Gruoidea
         ? Geranoididae (絶滅科)
         ? Parvigruidae (絶滅科)
         ツルモドキ科 Aramidae (北米南部から南米)
          ツルモドキ属 Aramus
           ツルモドキ Aramus guarauna Limpkin
         ラッパチョウ科 Psophiidae (アマゾン地域)
          ラッパチョウ属 Psophia
           ラッパチョウ Psophia crepitans Psophia crepitans
           ハジロラッパチョウ Psophia leucoptera Psophia leucoptera
           アオバネラッパチョウ Psophia viridis Psophia viridis
         ツル科 Gruidae (前記)

       クイナ亜目 Ralli (#クイナの備考参照)

      ツル目に属すると考えられる絶滅種にニュージーランドの大型種 Aptornis属 (Adzebills) があり大型バンとも呼ばれることがある。記載した Richard Owen はモアの小型種と考えたとのこと。 全長 80cm、体重 18kg と推定され飛べない鳥でマオリ族による狩猟、ポリネシア人の持ち込んだネズミやイヌによって絶滅したと考えられる。 Musser and Cracraft (2019) A new morphological dataset reveals a novel relationship for the adzebills of New Zealand (Aptornis) and provides a foundation for total evidence neoavian phylogenetics が分子系統と形態解析でラッパチョウ属との関連性を明らかにしている。このぐらい大型だとツル類と飛べないクイナ類の類縁関係も垣間見えるような気がする。
      Worthy et al. (2011) Fossils reveal an early Miocene presence of the aberrant gruiform Aves: Aptornithidae in New Zealand にも形態と系統の詳しい解析がある。
      モーリシャスに生息したとされる Leguatia gigantea Schlegel, 1858 も体高 1.5m の巨大クイナ (super-rail) とされることもあるが、現在ではコウノトリ目に入れられていることもある (Reunion Stork の名前がある)。 Francois Leguat が記述した le geant は実際に何を見たか明瞭でなく、フラミンゴだったとの説もある Giant water hen。 Angst and Buffetaut Paul Carie, Mauritian naturalist and forgotten collector of dodo bones BirdLife は種として認めておらず絶滅種に含まれていない。Extinct Species (BirdLiefe Data Zone) によればコウノトリ属の骨の化石が1個みつかっているとの主張 Cowles (1987) があるが、この種? のものではない可能性が高いとのこと。ツルのようなクイナが生息していた可能性があるが目撃談にとどまっている模様。
      かつてのツル目には クイナモドキ科 Mesitornithidae (現在はクイナモドキ目 Mesitornithiformes、ハト目、サケイ目を含むクレード Columbimorphae に属する)、 ミフウズラ科 Turnicidae と クビワミフウズラ科 Pedionomidae (現在はチドリ目 Charadriiformes)、 カグー科 Rhynochetidae、ジャノメドリ科 Eurypygidae [現在はジャノメドリ目 Eurypygiformes。系統的位置づけはよくわからず単独系統をなす。Jarvis (2014) によればネッタイチョウ目の遠い親戚か。最新の [#鳥類系統樹2024] Stiller et al. (2024) によればネッタイチョウ目とまとまった系統をなすことがわかった。 ジャノメドリの英名は Sunbittern とかつてはサギの仲間とされていたことがわかる。大変特徴的な種類なので画像検索などで見ていただきたい]、 ノガンモドキ科 Cariamidae (現在はノガンモドキ目 Cariamaformes で近代的な陸鳥の方に含まれハヤブサ目を含むクレードに属する。猛禽類としても扱われる)、 ノガン科 Otididae (現在はノガン目 Otidiformes。カッコウ目、エボシドリ目を含むクレード Otidimorphae に属する) が含まれていて、Boyd に言わせると「ゴミ箱」状態だったとのこと。 ノガンモドキ目以外は近代的な陸鳥グループには含まれない。

      Stiller et al. (2024) による Elementaves の系統分類:

      (Elementaves その1)
      ツメバケイ目 Opisthocomiformes
       ツメバケイ科 Opisthocomidae

      (Elementaves その2 Cusorimorphae)
      ツル目 Gruiformes
       (系統 1 = クイナ亜目に相当)
       ヒレアシ科 Heliornithidae
       クイナ科 Rallidae
       (系統 2 = ツル亜目に相当)
       ラッパチョウ科 Psophiidae
       ツルモドキ科 Aramidae
       ツル科 Gruidae
      チドリ目 Charadriiformes

      (Elementaves その3 Strisores: ヨタカ、アマツバメ、ハチドリ類)
      (Elementaves その4 Phaethoquornithes: #クロトキ備考へ)
  •  ツル目 GURIFORMES クイナ科 RALLIDAE 

  • シマクイナ
    • 学名:Coturnicops exquisitus (コトゥルニコプス エクスクイシトゥス) 非常に美しいウズラのような鳥
    • 属名:coturnicops (m) ウズラの外観をした (coturnix (f) ウズラ, ops, opus 外観 Gk)
    • 種小名:exquisitus (adj) 類いまれな; 非常に美しい (コンサイス鳥名事典)
    • 英名:IOC: Swinhoe's Rail (英国博物学者 Robert Swinhoe が記載した)
    • 備考:単形種。旧英名の Yellow Rail は現在 IOC では Coturnicops noveboracensis アメリカシマクイナ に使われる。同種扱いだった時代の名残り。
      三戸 (2007) Birder 21(1): 20-22 に青森県仏沼 (オオセッカ繁殖地で有名) における「シマクイナ発見記」が記載されている。「クル、クル、グー」というカエルのような聞いたことのない声を発見の始まり。音声再生 (プレイバック playback) によって正体を確認した。鳴き声以外での発見はほとんど不可能と記載されている。 プレイバック法による関東地方での調査、音声の記述などについては高橋他 (2018) 関東地方におけるシマクイナ Coturnicops exquisitus の冬季の生息状況 が参考になる。 図2に示されているシマクイナとヒクイナの非繁殖期の声の声紋は#カイツブリ#ヒクイナの備考で紹介した両種間で類似する音声に対応する。この論文では特徴的な「キュルルルルー」と聞こえる尻下がりの鋭い声と記載されている。 他にも福田他 (2019) 茨城県におけるシマクイナの生息状況、 Senzaki et al. (2021) Breeding evidence of the vulnerable Swinhoe's Rail (Coturnicops exquisitus) in Japan、 北沢、吉岡 (2021) 九州北部におけるシマクイナの越冬を示唆する記録 の研究があり、プレイバック法により各地での生息・越冬が明らかになっている 研究誌新着論文:九州北部におけるシマクイナの越冬を示唆する記録 (バードリサーチニュース 2021)。
      これまでも (目視は難しいとしても) 音声を聞いて他種と判定されていた例があるかも知れない。 絶滅危惧IB類 (EN)。
  • オオクイナ
    • 学名:Rallina eurizonoides (ラッリーナ エウリゾノイデス) ナンヨウオオクイナに似たクイナ
    • 属名:rallina (合) クイナに似た鳥 [Rallus属 (クイナ属) の指小形]
    • 種小名:ナンヨウオオクイナに似た (備考参照)
    • 英名:Slaty-legged Crake
    • 備考:種小名は ナンヨウオオクイナ Rallina fasciata 英名 Red-legged Crake の旧学名 Gallinula eurizona Temminck, 1826 (綴りが変更され euryzona になった。この種小名の意味は eurus 広い zone 帯) に -oides (接尾辞) 〜に類似の の意味 (The Key to Scientific Names)。
      7亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は sepiaria (生け垣の < sepis, saepes, saepis 生け垣) とされる。
  • ヤンバルクイナ
    • 学名:Gallirallus okinawae (ガッリラッルス オキナワエ) 沖縄のヤケイのようなクイナ (新学名では沖縄の下に小さな帯のあるクイナ)
    • 属名:gallirallus (合) ヤケイのようなクイナ Gallus属 (ニワトリのもとになったセキショクヤケイなどを含む属) と Rallus属 (クイナ属) から合成された、当初は亜属の名称だったものを属名とした (The Key to Scientific Names)。 記載時は Rallus属だった。
    • 種小名:okinawae (属) 沖縄の (okinawa -ae)
    • 英名:Okinawa Rail
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hypotaenidia属 (hupo 下 tainidion 小さな帯 Gk) で小さな島固有種クイナを多く含む属。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じで、Hypotaenidia属はヤンバルクイナ属。旧 Gallirallus属はニュージーランドクイナ属と呼ばれることもあった [尾崎 (2003) Birder 17(11): 41]。 単形種。 絶滅危惧IA類 (CR)。IUCN 3.1 EN種。
      [外来種マングースについて] ヤンバルクイナといえば意図的に導入されたマングースの問題がよく知られているが、これは 1910 年にハブの駆除目的で導入されたもの。今から見るとどんな動物学者が考えたのかと思ってしまうが、ジャマイカで成功例とされたものがあったらしい。 Island Mongoose: Conservation Villain or Scapegoat? Or Both? (Matthew L. Miller 2015, 2018 The Nature Conservancy) によれば、19世紀半ばのジャマイカでサトウキビのプランテーションがネズミの被害に困っていたとのこと。 インドの入植者がフイリマングース Urva auropunctata (Small Indian mongoose かつてはジャワマングースと同種とされ、Herpestes javanicus の学名だった) が効率よくネズミを食べることを見つけてジャマイカに導入 (1872) したとのこと。 収穫は上がったらしいが因果関係は不明とのこと。 wikipedia 英語版のフイリマングースのページではサトウキビのプランテーションは世界各地で行われていて、トリニダード島の導入 (1870) はネズミのコントロールには有効でなかったと報告されている。1900年代にハワイに導入され、ネズミの数は減らせたが在来の鳥などに影響を及ぼした (ことが後にわかった)。 沖縄の事例 (1910) も紹介されていてハブ Protobothrops flavoviridis やネズミなど (こちらもサトウキビが重要な収入源) 有害動物を減らすためで、同じ目的で奄美大島にも1979年放獣された (ただし以下参照) とあるが、結果的にマングース自身が有害動物となったとある。 ダルマチアの島 (現クロアチア) にもハナダカクサリヘビ Vipera ammodytes (horned viper) を減らす目的で同じ1910年、当時のオーストリア=ハンガリー帝国政府が導入したとのこと。
      当時は生物農薬 (生物的防除 biological pest control) が導入され始めた時代で1870年代から始まったと wikipedia 英語版にある。ネコやメンフクロウもネズミ類の駆除に用いられたことがあるとのこと。 このページにも The Nature Conservancy のページにもあるがネズミは夜行性なのにマングースは昼行性でむしろ鳥の方を捕食した (ただし下記 Hays and Conant も参照)。ネズミもマングースも鳥の卵を食べるので捕食圧が増してしまった。マングースの導入事例はこの関係が理解されていない時期 (生物学者は誰も予見しなかったのか?) に行われたものと説明されている。
      1910年当時は動物学の権威であった東京大学・渡瀬庄三郎 (1862-1929) の発案と2016年5月3日の The Page の記事にある (国立環境研究所の五箇公一解説)。報道でも「期待の星 (ホープ) 来る!」と宣伝されたとある。 この記事では導入にかかわる真実かどうか不明の逸話が紹介されているが、上記のような時代背景を振り返ると欧米の学問をそのまま輸入したのだろうか [後の金子 (2021) の歴史研究では当時明確に触れられていなかったらしい]。海外でも弊害が認識されずに行われていた時期で、この研究者の発想の貧困に即つながることではなさそうに見える。
      金子 (2021) 渡瀬庄三郎による沖縄島へのフイリマングース導入に関連する 1910 年前後刊行の外来種文献の史料的検討 ("瀬" の文字は異字) に詳しい歴史研究があり、中川(1900) がジャマイカの事例やその後の経緯も紹介していたとのこと。生物間相互作用は当時はまだ仮説なり哲学の問題だったのかも知れない印象を受けた。「どんな動物学者が考えたのか」は正直感じることなので、最新の知見に基づくこの論文を参照していただくのがよいだろう。
      クロアチアの事例 (2000 年の導入 90 周年を記念した報告。クロアチア語) では 1927 年にはヘビとネズミがマングースの主要な獲物で、ドイツの探検者は島で毒蛇をまったく見かけなかったと 1961 年に報告している。この成果を受けて 1920 年代に他所にも放獣されたとのこと。 ヘビが減ったためマングースは別の獲物をターゲットとして特にヨーロッパウズラ、ゴイサギなどが捕食されたとのこと。上記 1961 年のドキュメンタリーでマングースがヘビを食べることが成功談として紹介されている。 20 年で個体数が増えてしまってヘビの駆除に成功したため、1949 年に狩猟の保護対象から外されたとのこと。 ここでは在来の鳥や渡り鳥の捕食はバランスを崩した程度の書き方で、むしろヘビの駆除には成功し、マングース自身も狩猟家のよい獲物となって狩猟圧も高くそこまで数を増やせなかった模様 (このあたりは狩猟の盛んな地中海ならではで日本とはだいぶ事情が違う。狩猟家も撃っているのでヨーロッパウズラなども特に問題にならなかったのかも)。 1959 年には干ばつで多くの個体が死亡したとのこと。低温の冬を乗り越えられないなども沖縄と異なる制約要因となっているのだろう。 Tvrtkovic and Krystufek (1990) Small Indian mongoose Herpestes auropunctatus (Hodgson, 1836) on the Adriatic Islands of Yugoslavia の方では野鳥も含めた食害は 1927, 1928, 1949 年の報告があるとのこと。ただしおそらく国外には知られていなかっただろう。ワシミミズクによるマングースの捕食が確認されている。ワシミミズクは普通にみられるとのことでさらに高次の捕食者が存在したことも日本の事例と違っているのだろう。 ちなみに 1990 年にはクロアチアはまだユーゴスラビアの一部だった。今となっては懐かしい名前。
      Hays and Conant (2006) Biology and Impacts of Pacific Islands Invasive Species. 1. A Worldwide Review of Effects of the Small Indian Mongoose, Herpestes javanicus (Carnivora: Herpestidae) に総説があり、ハワイのものはジャマイカから導入。 フィジーではフィジークイナ Hypotaenidia poeciloptera Bar-winged Rail は1875年には普通だったが、1883年にマングースが導入されて数年以内に絶滅したという (Gorman 1975)。wikipedia 英語版では1973年が最後の未確認報告とのこと。 ジャマイカではジャマイカミズナギドリ Pterodroma caribbaea Jamaica Petrel は 18 世紀には多数生息していたが 1872 年のマングース導入後、1893 年以降見られていないとのこと (Collar et al. 1992)。wikipedia 英語版では 1936 年ごろ絶滅とある。 この2例が因果関係が最もはっきりしてと考えられているもののようで、ジャマイカコヨタカ Siphonorhis americana Jamaican Poorwill は1859年以来確認されておらず Bangs and Kennard (1920) はマングースによるものと考えたが、マングース導入以前に絶滅していたと思われ、Collar et al. (1992) は (プランテーションに伴う) 森林伐採とネズミによるものと考えている。 ハワイで鳥の巣を襲って食べている示唆は早くからあったが実証はなかなかなされず、Baldwin et al. (1952) がミズナギドリを捕食している証拠を見つけた。 King and Gould (1967) も証拠は示さなかったがハワイの主な島でハワイセグロミズナギドリ Puffinus newelli Newell's Shearwater を絶滅させた要因とした。1968年にはハワイマガモ Anas wyvilliana Hawaiian Duck の地域絶滅の要因とも指摘された。 マングースのいない島のみ一部のクイナ類が残っているとの報告 (Gorman 1975) があり、ジャマイカでチャバラクイナ Amaurolimnas concolor Uniform Crake が1881年以降のある時点で絶滅したとのことで、Raffaele et al. (1998) はマングースの影響が大きい可能性があると指摘した。 セント・クロイ島 (カリブ海) ではオオテリハウズラバト Geotrygon mystacea Bridled Quail-Dove は元来地上性でマングース導入47年後の1921年に絶滅したと考えられマングースが原因とされたが、樹上に営巣するようになりまた増えたという (Nellis and Everard 1983)。 セントビンセント島 (カリブ海) では Geotrygon属のハトがマングースにより絶滅したという (Allen 1911)。 プエルトリコで5種類の地上営巣性の鳥の減少をマングースのためとされた (Wetmore 1927) が、絶滅したと考えられた種類が生存していることが後にわかり、マングースのいる島いない島いずれにも生存していたがいる島の方が少なかったという。 減少したとされるコミミズクの亜種はハワイにもマングースと同所的に生息するが特に影響は報告されていないとのこと。マングースとの因果関係がかなりはっきりしている事例もあるが、必ずしも根拠ある推論がなされていたわけではなくはっきりしない事例も多い模様。 セントルシア島とマルティニーク島 (カリブ海) ではムナジロツグミモドキ Ramphocinclus brachyurus White-breasted Thrasher への捕食圧を増したのではないかと考えられるが、Collar et al. (1992) は生息地破壊の方が重要な要因で、アフリカ由来の外来種であるキメジリオリーブツグミ Turdus tephronotus Bare-eyed Thrush との競争の影響もあるのではと考えている。 トリニダード島 (南米ベネズエラの北に位置する) では61年後でも絶滅した鳥はないとのこと (Urich 1931)。
      マングース導入以外の人為的要因 (ネズミ、野生化したネコやイヌ、生息地への人の進出など) が鳥の個体数の減少にどのような影響があったかを見積もることは難しく、現在マングースと一緒に暮らしているハワイの鳥は1世紀以上その状態を保っていることは注目に値する。 カリブ海では地上性の鳥とある種の平衡状態が保たれている可能性がある (Westermann 1953) が、地上性の鳥のかつての生息域への再導入の障壁となっていることは確かである。
      絶滅との因果関係がはっきりしているとされるのは上記2種の鳥とヘビの Hispaniola racer Alsophis melanichnus のみであるが、これら事例のいずれも他の要因も十分ある。 マングースは多数の場所に導入され、生態的には比較的脆弱な種類であることを考えると、マングースの役割はそれほど大きくなく、もっと普通の人為的外来種となっているネコやイヌ、ネズミの方が影響が大きかったのではないか。マングースの導入時期はこれらより比較的遅く、すでに劣化していた生態系にさらなる負荷を与えたと考えるのが妥当ではないかとのこと。 カリブ海の爬虫類への影響などは誇張されすぎていると考えている (外来種に責任を押し付けてしまうのはいかにも考えやすい)。 Hays and Conant (2006) でも Tvrtkovic and Krystufek (1990) は引用されているが、クロアチアの "成功" とされる事例は詳しい情報がなく言葉の壁などが厚かったのかも知れない。
      この論文を見ると1979年の奄美大島への導入は世界でも最後の事例となるわけだが、環境省 奄美野生生物保護センター の「平成18年度奄美群島の概況」 資料 によれば聞き取り調査の結果 1949 年 (米軍時代) にはすでに導入があったらしいが 1979 年に2例の目撃例があるまで情報はなく、このころに島内で放されたものが奄美大島で定着したと考えられるとのこと。 マングースの分布拡大には土地の造成などマングースの定着しやすい環境を創出していたとみることができるとある。しかし、定着後、マングースは奄美大島の様々な環境に適応し、1990 年代前半には奄美市金作原原生林へも分布を拡大していると記載されている。
      1979 年に放獣されたこともネットや文献で取り上げられているが誰が行ったかも含めてどうもそれほど明瞭ではないらしい。この件を調べておくと、 阿部他 (1991) 第34回シンポジウム記録「1990年代の人間活動と哺乳動物界」奄美大島におけるマングース (Herpestes sp.) の定着 に聞き取り調査と考察があり、1949 年に放獣が行われたらしいことはある程度の信頼性はあるが失敗に終わったと考えられる。 1979 年頃当時は赤崎鳥獣保護区は市街地隣接地域で、公園の整備や「県立奄美少年自然の家」の建設に伴う土地の造成などが頻繁に、しかも広い範囲にわたって行われていたとのこと。現在のような分布は林道建設や森林伐採の影響で自然環境が貧弱になったことで侵入が容易となった要因がある可能性があると分析している。
      Yamada and Sugimura (2004) Negative Impact of an Invasive Small Indian Mongoose Herpestes javanicus on Native Wildlife Species and Evaluation of a Control Project in Amami-Ohshima and Okinawa Islands, Japan でも 30 頭が放獣されたと言われるが公式の記録はないとのこと。 この文献で紹介されている Simberloff et al. (2000) にもクロアチアは図示されておらず、やはり当時はあまり知られていなかったことがうかがえる。 Yamada and Sugimura は2004 年段階の論文なので、Hays and Conant (2006) はもちろん参照していない。伝え方も少し違うところがあり、2000 年ごろに外来種問題がクローズアップされた時流も反映していた印象を受ける。 2000 年 IUCN 世界の侵略的外来種ワースト 100 (100 of the World's Worst Invasive Alien Species)。日本ではよく知られているが海外での関心はそれほどでもないようで wikipedia でも14言語にとどまっている。日本は島国なので関心が高い (さらに捕食者の外来種の意味は一般的にもわかりやすい) ことは理解できないこともない。 この Invasive Species Specialist Group (ISSG) のページでは 1979 年に奄美大島に放されて在来種を脅かしていることは述べられているが、1910 年の沖縄への導入については特に言及がない。 引用されている文献は Watarai et al. (2008) Effects of exotic mongoose (Herpestes javanicus) on the native fauna of Amami-Oshima Island, southern Japan, estimated by distribution patterns along the historical gradient of mongoose invasion。 その後 2005 年 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行。このころブラックバスの扱いなどよく報道があり、他の環境問題を若干覆い隠してしまったかのような印象も受けた。
      当時の状況は「外来種ハンドブック」(日本生態学会50周年記念出版 地人書館 2002) でも読むことができる。生物利用に伴う侵入の「無法地帯」といえる日本 (p. 33, 村上・鷲谷) との記述があり、海外に比べても大きく遅れていた模様。日本生態学会も1997年から部会を設けて外来種問題に取り組むことになったとのこと。
      Yagihashi et al. (2021) Eradication of the mongoose is crucial for the conservation of three endemic bird species in Yambaru, Okinawa Island, Japan にも山原地方の経緯が述べられているが、マングースがヤンバルクイナ減少に関与しているとの文字の記述は意外に新しいようで 尾崎他 (2002) ヤンバルクイナの生息域の減少 にある。 この引用文献でも Harato and Ozaki (1993) Roosting Behavior of the Okinawa Rail (この中では可能性のある捕食者の一つとして挙げられている)、 尾崎清明 (1996) クイナ類の保護 - ロードハウクイナ - ヤンバルクイナシンポジウム、 日本野鳥の会やんばる支部 (1997) 沖縄島北部における貴重動物と移入動物の生息状況及び移入動物による貴重動物への影響報告書 が出てくるもので、ヤンバルクイナ減少に対するマングースの寄与が大きいことがわかったのは比較的最近のことらしい。「外来種ハンドブック」の記載でも 1990 年代前半ぐらいに可能性が指摘されていたもので、理解が含まったのは 1990 年代後半のよう。 コンサイス鳥名事典 (1988) でも野生化したネコ、イヌの方が取り上げられ (これはもちろん現在に至っても大きな問題だが)、マングースはまだ挙げられていなかった。
      Watari et al. (2010) New detection of a 30-year-old population of introduced mongoose Herpestes auropunctatus on Kyushu Island, Japan すでに30年前に九州にも導入があった。 阿部 (2021) Birder 35(8): 32-35 に奄美大島のマングース対策の記事がある。参考として読むべき日本語の文献も示されている。
      まとめておくと、日本の経緯については
      ・1910年の導入については 金子 (2021)
      ・奄美大島については阿部他 (1991); Yamada and Sugimura (2004); Yagihashi et al. (2021)
      世界では
      ・Hays and Conant (2006)
      をまず見ておくとよさそう。足りない部分を他の資料から補えばよい感じがする。世界最悪の侵略的外来種との見方もやや一面的過ぎる印象を受ける。 1910 年の導入を決めた学者を評価するにあたっては金子 (2021) に目を通して当時どこまで知られていたのか、何を考えたのだろうか納得しておくのがよいだろう。
      外来種関係でここで紹介: Hsu et al. (2024) Free ride without raising a thumb: A citizen science project reveals the pattern of active ant hitchhiking on vehicles and its ecological implications 台湾の外来アリ Dolichoderus thoracicus black cocoa ant などは車に便乗して分布を広げているとのこと。
  • ミナミクイナ
    • 学名:Gallirallus striatus (ガッリラッルス ストゥリアトゥス) 条斑のあるヤケイのようなクイナ (新学名で条斑のあるリューインのクイナ)
    • 属名:gallirallus (合) ヤケイのようなクイナ Gallus属 (ニワトリのもとになったセキショクヤケイなどを含む属) と Rallus属 (クイナ属) から合成された、当初は亜属の名称だったものを属名とした (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:striatus (adj) 条斑がある
    • 英名:Slaty-breasted Rail
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Lewinia属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。英国の彫刻師、博物学者でオーストラリアに入植した John William Lewin に由来。 学名は Lewinia striata となる (語尾が変わるので注意)。Lewinia属はミナミクイナ属。ハシナガクイナの別名もあった。 英名で Lewin's Rail はまた別にある オーストラリアクイナ Lewinia pectoralis。この種の記載時学名が Rallus lewinii Swainson, 1837。種小名が変わったのは Rallus pectoralis Temminck, 1831 の記載の方が早かったため。 6亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは亜種不明とされる。
  • クイナ
    • 学名:Rallus aquaticus (ラッルス アクアティクス) 水辺にいるクイナ (新学名でインドのクイナ)
    • 属名:rallus (合) クイナ [ralleクイナ 独 (これもフランス語 rale 由来とも言われる。声を示す)、rasle/rale クイナ 中世仏 (これも音声由来とされる) 由来の両説がある。The Key to Scientific Names, wiktionary。備考参照]
    • 種小名:aquaticus (adj) 水の (aqua (f) 水)
    • 英名:(Water Rail), IOC: Brown-cheeked Rail
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Rallus aquaticus indicus から種に昇格され Rallus indicus となり亜種はなくなる (indicus インドの)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 旧英名の Water Rail は IOC では分離された Rallus aquaticus ヨーロッパクイナ の名前となる。
      [属名の由来] The Key to Scientific Names によればおそらく中世フランス語 rasle, rale (Sundevall 1873: "Nomen Rallus, primum Rasle, Belon, dein Rale ..." の文献があり、BOU 1915 は "the latinized form of the French Rale, our Rail, Dutch Ral" としている)。 Gessner 1555 がこの鳥を指して Rallus とする用例があるようで、Macleod 1954 は "Latinized form of German ralle, rail (bird)" としている。Rallus がドイツ語由来説はこれが出所と思われる。Gessner がドイツ人であるためにドイツ語由来らしいとされた模様。 Rallus Linnaeus, 1758 だが Linnaeus 以前にすでに用いられていた属名で、"Rallus aquaticus" of Willughby 1676, and "Water Rail. Rallus Aquaticus" of Albin 1731 の用例があった。
      [音声] 様々な鳴き声を示し、姿が見えにくいので水辺の探鳥会などで音声同定に悩まされる種類の一つ。クイナ (バードリサーチ鳴き声図鑑) などを参照して声に馴染んでおくとよい。声がわかれば (適切な時期と場所であれば) 結構な個体数がいることがわかる。
      [クイナ類の系統分類] 分子系統学に基づくクイナ類の分類は Kirchman et al. (2021) Phylogeny based on ultra-conserved elements clarifies the evolution of rails and allies (Ralloidea) and is the basis for a revised classification を参照。 これは核遺伝情報 (UCE) も用いた新しいタイプの系統分類 (#アカハラダカの備考参照)。 Kirchman et al. (2022) Corrigendum to: Phylogeny based on ultra-conserved elements clarifies the evolution of rails and allies (Ralloidea) and is the basis for a revised classification に訂正がある。Rufirallus属の再編成にあたってどちらの属に先取権があるかを判断していなかった。訂正は以下のリストには影響がない。 同年に Garcia-R. and Matzke (2021) Trait-dependent dispersal in rails (Aves: Rallidae): Historical biogeography of a cosmopolitan bird clade (図は見られる) も系統樹を出していて、Boyd はこちらを主に用いている。 この文献は現状ではオープンアクセスでないのと、UCE を用いた方が一般的に精度が高いと考えられるので Kirchman et al. (2021) をベースとした分類を紹介する。 日本産種類の日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版の属変更はこの論文に一致しているので「何がなんだかわからない」クイナ類の分類変更の意味はこの論文を見ていただければよいだろう。 この論文の順序はクイナ科以降は分岐順をあまり意識していない (分岐時期が近すぎて判定できないのだろう) ので科以下の配置順序は任意性があると思って見ていただくとよい。 IOC、あるいは日本鳥類目録 改訂第8版分類順とは一致していない。
      科名については山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) 鳥類の目と科の新しい和名 (1) 非スズメ目・イワサザイ類・亜鳴禽類から用いてある。属名は日本産の種のある属は日本鳥類目録 改訂第8版の第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開 (2023年10月) による。それ以外については自動的に決まるものやほぼ推測できるものを仮に入れてある。 属移動に際して性変更に伴って起きたと思える種小名の語尾の違いがあり、他のリストの間でも統一されていない。ここでは IOC 14.1 の語形を示し、Kirchman et al. (2021) の表記をかっこに入れてある。和名は山崎・亀谷 (2022) アフリカクイナ科・クイナ科の新しい種和名から。
      クイナ類は過去にすでに多数の属に細分化されており、従来の分類と分子系統研究の結果が入り組んでおり、過去の属名をなるべく活かすためには複雑な移動や分離が必要になった模様である。山崎・亀谷 (2022) で用いられた IOC の2020年段階ともかなり変化がある。 日本鳥類目録 改訂第8版の第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開に記載されている種 (第8版掲載見込み種) は緑字で示してある。この他にも検討種扱いが少数存在する。

      Kirchman et al. (2021) 準拠の分類による:
      ツル目 クイナ亜目 Ralli
       ヒレアシ科 Heliornithidae
        アフリカヒレアシ属 Podica
         アフリカヒレアシ Podica senegalensis
        アジアヒレアシ属 Heliopais
         アジアヒレアシ Heliopais personatus Masked Finfoot
        アメリカヒレアシ属 Heliornis
         アメリカヒレアシ Heliornis fulica Sungrebe

       ? 科 Aptornithidae (絶滅科)
        ? 属 Aptornis (adzebills、ニュージーランド)

       (アフリカクイナ)科 (*) Sarothruridae
        マダガスカルクイナ属 Mentocrex
         マダガスカルクイナ Mentocrex kioloides Madagascar Wood Rail
         ハリヤマクイナ (ツィンギクイナも使われた) Mentocrex beankaensis Tsingy Wood Rail
        ニューギニアクイナ?属 Rallicula
         アカパプアクイナ Rallicula rubra Chestnut Forest Rail
         セスジパプアクイナ Rallicula leucospila White-striped Forest Rail
         セグロパプアクイナ Rallicula forbesi Forbes's Forest Rail
         クリイロパプアクイナ Rallicula mayri Mayr's Forest Rail
        ? 属 Sarothrura (アフリカに分布)
         シラボシクイナ Sarothrura pulchra White-spotted Flufftail
         キボシクイナ Sarothrura elegans Buff-spotted Flufftail
         ムネアカシマクイナ Sarothrura rufa Red-chested Flufftail
         クリガシラシマクイナ Sarothrura lugens Chestnut-headed Flufftail
         アカエリシマクイナ Sarothrura boehmi Streaky-breasted Flufftail
         クリオシマクイナ Sarothrura affinis Striped Flufftail
         マダガスカルシマクイナ Sarothrura insularis Madagascar Flufftail
         アフリカシマクイナ Sarothrura ayresi White-winged Flufftail
         マダガスカルムジクイナ Sarothrura watersi Slender-billed Flufftail

       クイナ科 Rallidae
        ウロコクイナ亜科 Himantornithinae
         ウロコクイナ族 Himantornithini
          ウロコクイナ属 Himantornis (アフリカ)
           ウロコクイナ Himantornis haematopus Nkulengu Rail

         ? 族 Gymnocrecini
          ? 属 Gymnocrex (インドネシア、ニューギニア)
           アオメクイナ Gymnocrex rosenbergii Blue-faced Rail
           メジロクイナ (タラウドクイナも使われた) Gymnocrex talaudensis Talaud Rail
           アカメクイナ Gymnocrex plumbeiventris Bare-eyed Rail

         オオバン族 Fulicini
          ワキジロバン属 Porphyriops (南米)
           ワキジロバン Porphyriops melanops Spot-flanked Gallinule
          サンクリストバルオグロバン/サモアオグロバン属 Pareudiastes (Gallinulaから分離。ソロモン地域離島)
           サンクリストバルオグロバン Pareudiastes silvestris Makira Woodhen
           サモアオグロバン Pareudiastes pacifica Samoan Woodhen (絶滅種)
          オグロバン属 Tribonyx (オーストラリア)
           オグロバン Tribonyx ventralis Black-tailed Nativehen
           タスマニアオグロバン Tribonyx mortierii Tasmanian Nativehen
          コモンクイナ属 Porzana (北半球)
           カオグロクイナ Porzana carolina Sora
           コモンクイナ Porzana porzana Spotted Crake
           ミナミヒメクイナ Porzana fluminea Australian Crake
          ヒメバン属 Paragallinula (アフリカ)
           ヒメバン Paragallinula angulata Lesser Moorhen
          バン属 Gallinula (世界に分布)
           ネッタイバン Gallinula tenebrosa Dusky Moorhen
           アメリカバン Gallinula galeata Common Gallinule
           ゴーフバン (ゴフバンも使われた) Gallinula comeri Gough Moorhen
           トリスタンバン Gallinula nesiotis Tristan Moorhen (絶滅種)
           バン Gallinula chloropus Common Moorhen
          オオバン属 Fulica (世界に分布)
           アカビタイオオバン Fulica rufifrons Red-fronted Coot
           ツノオオバン Fulica cornuta Horned Coot
           ナンベイオオバン Fulica armillata Red-gartered Coot
           オニオオバン Fulica gigantea Giant Coot
           アフリカオオバン Fulica cristata Red-knobbed Coot
           オオバン Fulica atra Eurasian Coot
           (チャタムオオバン)? Fulica chathamensis (絶滅種)
           アメリカオオバン Fulica americana American Coot
           ハワイオオバン Fulica alai Hawaiian Coot
           ハジロオオバン Fulica leucoptera White-winged Coot
           アンデスオオバン (ハイイロオオバンも使われた) Fulica ardesiaca Andean Coot
           Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
           マスカリンオオバン Fulica newtonii Mascarene Coot (絶滅種)

         セイケイ族 Porphyrionini
          セイケイ属 Porphyrio [世界の熱帯から南半球。Kirchman et al. (2021) で属名綴り間違い]
           アメリカムラサキバン Porphyrio martinica (martinicus?) Purple Gallinule
           ナンベイバン (ナンベイムラサキバン) Porphyrio flavirostris Azure Gallinule
           アフリカムラサキバン Porphyrio alleni Allen's Gallinule
           ヨーロッパセイケイ (セイケイも使われた) Porphyrio porphyrio Western Swamphen
           ロードハウセイケイ Porphyrio albus White Swamphen (絶滅種)
           オオタカヘ (モホとも呼ばれる) Porphyrio mantelli North Island Takahe (絶滅種)
           タカヘ (ノトルニス) Porphyrio hochstetteri South Island Takahe
           Kirchman et al. (2021) には記載がないが以下はヨーロッパセイケイの亜種から分離されたもの:
           アフリカセイケイ Porphyrio madagascariensis African Swamphen
           セイケイ Porphyrio poliocephalus Grey-headed Swamphen
           スンダセイケイ Porphyrio indicus Black-backed Swamphen
           フィリピンセイケイ Porphyrio pulverulentus Philippine Swamphen
           ナンヨウセイケイ Porphyrio melanotus Australasian Swamphen

         シマクイナ/コビトクイナ?族 Laterallini
          ズアカコビトクイナ属? Rufirallus (属の再編成。南米)
           アカシロクイナ Rufirallus leucopyrrhus Red-and-white Crake (Laterallus属より移動)
           クロジマコビトクイナ Rufirallus fasciatus Black-banded Crake (Laterallus属より移動)
           セボシクイナ Rufirallus schomburgkii Ocellated Crake (Micropygia属より移動)
           ズアカコビトクイナ Rufirallus viridis Russet-crowned Crake (もと Rufirallus属はこの1種のみ)
          シマクイナ属 Cotunicops (アメリカにも分布)
           アメリカシマクイナ Cotunicops noveboracensis Yellow Rail [Kirchman et al. (2021) 学名綴り間違い]
           シマクイナ Cotunicops exquisitus Swinhoe's Rail
           ダーウィンシマクイナ Cotunicops notatus Speckled Rail
          ? 属 Hapalocrex (新属。南米)
           キムネヒメクイナ Hapalocrex flaviventer Yellow-breasted Crake (Laterallus属より移動)
           ハイムネコビトクイナ Hapalocrex exilis Grey-breasted Crake (Laterallus属より移動)
          コビトクイナ属? Laterallus (南米・北米の8種)
           クロコビトクイナ Laterallus jamaicensis Black Rail
           アルゼンチンヒメクイナ Laterallus spiloptera (spilopterus?) Dot-winged Crake
           マメクロクイナ Laterallus rogersi Inaccessible Island Rail
           ガラパゴスコビトクイナ Laterallus spilonota Galapagos Crake
           ノドジロコビトクイナ Laterallus melanophaius Rufous-sided Crake
           ズグロコビトクイナ Laterallus ruber Ruddy Crake
           キタノドジロコビトクイナ Laterallus albigularis White-throated Crake
          ? 属 (新属) (Laterallus属から分離。属学名未定。南米)
           ワキアカコビトクイナ "Laterallus" levraudi Rusty-flanked Crake
           シロオビコビトクイナ "Laterallus" xenopterus Rufous-faced Crake
         Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
          [Boyd は Laterallus属から分離された Creciscus属に他種とまとめているが、Kirchman et al. (2021) はそれらの種に異なる属を与えている。以下の絶滅属についてはそのままにしておく]
          アセンションクイナ属 Mundia
           アセンションクイナ Mundia elpenor Ascension Crake (絶滅種)
          セントヘレナクイナ属 Aphanocrex
           セントヘレナクイナ Aphanocrex podarces St. Helena Rail (絶滅種)

         シロハラクイナ族 Amaurornithini
          マミジロクイナ属 Poliolimnas
           マミジロクイナ Poliolimnas White-browed Crake
          パプアクイナ属 Megacrex
           パプアクイナ Megacrex inepta New Guinea Flightless Rail
          チャバラヒメクイナ属 Aenigmatolimnas (アフリカ)
           チャバラヒメクイナ Aenigmatolimnas marginalis Striped Crake
          ツルクイナ属 Gallicrex
           ツルクイナ Gallicrex cinerea Watercock
          シロハラクイナ属 Amaurornis (東南アジア、東・南アジアの一部、オーストラリア北部)
           チャバネクイナ Amaurornis akool Brown Crake (Zapornia属から移動)
           フィリピンバンクイナ (バンクイナも使われた) Amaurornis olivacea Plain Bush-hen
           シロハラクイナ Amaurornis phoenicurus White-breasted Waterhen
           チャバラバンクイナ Amaurornis isabellina Isabelline Bush-hen
           バンクイナ (アカオクイナも使われた) Amaurornis moluccana Pale-vented Bush-hen
           タラウドバンクイナ Amaurornis magnirostris Talaud Bush-hen

         ヒメクイナ族 Zapornini
          オオクイナ属 Rallina (東南アジア、東・南アジアの一部、オーストラリア北部)
           ミナミオオクイナ Rallina tricolor Red-necked Crake
           アンダマンオオクイナ Rallina canningi Andaman Crake
           ナンヨウオオクイナ Rallina fasciata Red-legged Crake
           オオクイナ Rallina eurizonoides Slaty-legged Crake
          ヒメクイナ属 Zapornia
           アフリカクロクイナ Zapornia flavirostra Black Crake
           ヒクイナ Zapornia fusca Ruddy-breasted Crake
           コウライクイナ (コウライヒクイナ) Zapornia paykullii Band-bellied Crake
           コクイナ Zapornia parva Little Crake
           ヒメクイナ Zapornia pusilla Baillon's Crake
           レイサンクイナ Zapornia palmeri Laysan Rail (絶滅種)
           マダガスカルクロクイナ Zapornia olivieri Sakalava Rail
           オグロクイナ Zapornia bicolor Black-tailed Crake
           ハワイクイナ Zapornia sandwichensis Hawaiian Rail (絶滅種)
           ヘンダーソンクイナ Zapornia atra Henderson Crake
           ミナミクロクイナ Zapornia tabuensis Spotless Crake
           ナンヨウコクイナ Zapornia monasa Kosrae Crake
           Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
           セントヘレナヒメクイナ (セントヘレナクイナも使われた) Zapornia astrictocarpus St. Helena Crake (絶滅種)
           タヒチヒメクイナ (タヒチクイナも使われた) Zapornia nigra Tahiti Crake (絶滅種)

        クイナ亜科 Rallidae
         クイナ族 Rallini
          アフリカクイナ?属 Canirallus
           アフリカクイナ Canirallus oculeus Grey-throated Rail
          クイナ属 Rallus (オーストラリアを除く世界に分布)
           ニシオニクイナ Rallus obsoletus Ridgway's Rail
           ヒガシオニクイナ Rallus crepitans Clapper Rail
           メキシコクイナ (アステッククイナも使われた) Rallus tenuirostris Aztec Rail
           ミナミオニクイナ (種分割される前はオニクイナ) Rallus longirostris Mangrove Rail
           オウサマクイナ Rallus elegans King Rail
           ムジオニクイナ Rallus wetmorei Plain-flanked Rail
           コオニクイナ Rallus limicola Virginia Rail
           ナンベイクイナ Rallus semiplumbeus Bogota Rail
           ミナミコオニクイナ (ミナミクイナも使われた) Rallus antarcticus Austral Rail
           ニシクイナ (ヨーロッパクイナも使われた) Rallus aquaticus Water Rail
           クイナ Rallus indicus Brown-cheeked Rail
           アカハシクイナ Rallus caerulescens African Rail
           チャムネクイナ Rallus madagascariensis Madagascar Rail
           Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
           オニクイナ Rallus crepitans Clapper Rail (ミナミオニクイナの亜種とされていた)
           エクアドルコオニクイナ Rallus aequatorialis Ecuadorian Rail (コオニクイナの亜種とされることもある)
          アビシニアクイナ属 Rougetius (エチオピア)
           アビシニアクイナ Rougetius rougetii Rouget's Rail
          アフリカウズラクイナ属 Crecopsis
           アフリカウズラクイナ Crecopsis egregia African Crake
          ノドジロクイナ属 Dryolimnas (マダガスカル地域)
           ノドジロクイナ Dryolimnas cuvieri White-throated Rail
           レユニオンクイナ Dryolimnas augusti Reunion Rail
          ウズラクイナ属 Crex
           ウズラクイナ Crex crex Corn Crake
          セレベスクイナ属 Aramidopsis
           セレベスクイナ Aramidopsis plateni Snoring Rail

          ミナミクイナ属 Lewinia (東南アジア・南アジアからオーストラリア)
           ミナミクイナ (ハシナガクイナ) Lewinia striata Slaty-breasted Rail
           ルソンクイナ Lewinia mirifica Brown-banded Rail
           オーストラリアクイナ Lewinia pectoralis Lewin's Rail
           オークランドクイナ Lewinia muelleri Auckland Rail
          カラヤンクイナ属 Aptenorallus (新属。フィリピン北のカラヤン島)
           カラヤンクイナ Aptenorallus calayanensis Calayan Rail (Gallirallus属より分離)
          ハルマヘラクイナ属 Habroptila (インドネシアのハルマヘラ島)
           ハルマヘラクイナ Habroptila wallacii Invisible Rail
          Kirchman et al. (2021) には記載がないが次の2絶滅属はこの付近か:
          ロドリゲスクイナ属 Erythromachus (Boyd は Habroptila属と Aptenorallus属の間に置いている)
           ロドリゲスクイナ Erythromachus leguati Rodrigues Rail (絶滅種)
          ワレカウリクイナ属 Diaphorapteryx (Boyd は Habroptila属と Aptenorallus属の間に置いている)
           ワレカウリクイナ属 Diaphorapteryx hawkinsi Hawkins’s Rail (絶滅種)
          ニュージーランドクイナ/ニューカレドニアクイナ属 Gallirallus
           ニュージーランドクイナ Gallirallus australis Weka
           ニューカレドニアクイナ Gallirallus lafresnayanus New Caledonian Rail (Cabalus属より移動)
          マングローブクイナ属 Eulabeornis (オーストラリア北部)
           マングローブクイナ Eulabeornis castaneoventris Chestnut Rail
          ヤンバルクイナ属 Hypotaenidia (ヤンバルクイナなど8種と絶滅種4種)
           ヤンバルクイナ Hypotaenidia okinawae Okinawa Rail
           ムナオビクイナ (クビワクイナも使われた) Hypotaenidia torquata Barred Rail
           ニューブリテンクイナ Hypotaenidia insignis Pink-legged Rail
           フィジークイナ Hypotaenidia poeciloptera Bar-winged Rail (絶滅種)
           ウッドフォードクイナ Hypotaenidia woodfordi Woodford's Rail
           グアムクイナ Hypotaenidia owstoni Guam Rail
           ソロモンクイナ Hypotaenidia rovianae Roviana Rail
           チャタムクイナ Hypotaenidia modesta Chatham Rail (Cabalus属より移動。絶滅種)
           ウェーククイナ Hypotaenidia wakensis Wake Island Rail (絶滅種)
           チャタムオビクイナ Hypotaenidia dieffenbachii Dieffenbach's Rail (絶滅種)
           ロードハウクイナ Hypotaenidia sylvestris Lord Howe Woodhen
           ナンヨウクイナ Hypotaenidia philippensis Buff-banded Rail
           Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
           タヒチクイナ Hypotaenidia pacificus Tahiti Rail (絶滅種)
          Kirchman et al. (2021) には記載がないが以下の属はこの分類か:
          モーリシャスクイナ属 Aphanapteryx [Boyd はチャタムクイナと同属としてこれらを Aphanapteryx属としている。このままとしておく]
           モーリシャスクイナ Aphanapteryx bonasia Red Rail (絶滅種)

         マダラクイナ族? Pardirallini
          ムネアカクイナ属 Anurolimnas (南米)
           ムネアカクイナ Anurolimnas castaneiceps Chestnut-headed Crake (Rufirallus属より移動)
          チャバラクイナ属 Amaurolimnas (中南米)
           チャバラクイナ Amaurolimnas concolor Uniform Crake
          モリクイナ属? Aramides (主に中南米。タイプ種はコンゴウクイナ)
           オオモリクイナ Aramides ypecaha Giant Wood Rail
           チャイロモリクイナ Aramides wolfi Brown Wood Rail
           ヒメモリクイナ Aramides mangle Little Wood Rail
           コンゴウクイナ (ハイクビモリクイナ) Aramides cajaneus Grey-cowled Wood Rail
           ズアカモリクイナ (シロハラモリクイナも使われた) Aramides albiventris Russet-naped Wood Rail
           チャクビモリクイナ Aramides axillaris Rufous-necked Wood Rail
           アカバネモリクイナ Aramides calopterus Red-winged Wood Rail
           ハイムネモリクイナ Aramides saracura Slaty-breasted Wood Rail
          ナンベイヒメクイナ属? Mustelirallus (南米)
           ナンベイヒメクイナ Mustelirallus albicollis Ash-throated Crake
           コロンビアヒメクイナ Mustelirallus colombianus Colombian Crake (Neocrex属より移動)
           アカアシヒメクイナ Mustelirallus erythrops Paint-billed Crake (Neocrex属より移動)
          マダラクイナ属? Pardirallus (中南米)
           ハイイロクイナ Pardirallus sanguinolentus Plumbeous Rail
           キタハイイロクイナ Pardirallus nigricans Blackish Rail
           マダラクイナ Pardirallus maculatus Spotted Rai

         キューバクイナ族 (族学名未定)
          キューバクイナ属 Cyanolimnas
           キューバクイナ Cyanolimnas cerverai Zapata Rail (かつて Mustelirallus属)

      山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) の Sarothruridae, 新和名: アフリカクイナ科 はアフリカクイナの種名を持つもの (Canirallus oculeus) が新分類のクイナ科 Rallidae に移動したためため、名称を変える方が望ましいだろう。
      この分類での Zapornia属のタイプ種は Zapornia minuta Leach, 1816 = Rallus parvus Scopoli だが、第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開では Zapornia pusilla にヒメクイナを与えているのでタイプ種とは一致していない。 Zapornia parva にはコクイナの名前があるが日本では記録されていないため、どの種を属名に用いるかは任意性もある。知名度も遭遇頻度も高く、先に記載されたヒクイナ Zapornia fusca (Linnaeus, 1766) があえて選ばれていないのは何か理由があるのだろうか。 ただし和名ヒメクイナ属は当時の属 Porzana に対して改訂第7版よりすでに使われている。ちなみに Porzana属だった時代はコモンクイナがタイプ種だった (現在の Porzana属でもタイプ種)。 Porzana属からまとまって移動された際に属和名もそのまま移行したものかも知れない。
      Boyd の提案によれば Zapornia属をさらに細分してヒクイナに Limnobaenus fuscus の学名を与えている (2種のみ)。 Kirchman et al. (2021) の系統樹ではヒクイナとコクイナの遺伝的距離は近いのでここではこの細分類は取り扱わないことにする。
      Lewinia属は Kirchman et al. (2021) では3種のみがリストされており、オークランドクイナ Lewinia muelleri Auckland Island Rail が含まれていない。本文中にも言及がないが、オーストラリアクイナの亜種とされることもあるためだろう。 Rallus aequatorialis Ecuadorian Rail も同様でコオニクイナ Rallus limicola の亜種とすることもある。エクアドルクイナのような名称が想定できるが探した範囲ではみつからなかった。
      Cabalus属は分割され消滅。旧 Neocrex属は統合で消滅 (Mustelirallus属のシノニムとなる)。
      シマクイナ/コビトクイナ?族 Laterallini の和名は日本産種を重視すれば前者、もとになった属を重視すれば後者となるだろうか。ニューギニアクイナ?属 Rallicula属の名称はパプアクイナが別属に存在するため、分布からニューギニアを与えてみた。 パプアクイナとなっている種も英名はニューギニア飛べないクイナなので新分類を見た上で和名を調整した方がよいかも知れない。 この種の種小名 inepta は「適さない」を意味するラテン語から愚かななどの意味として使われているようである。飛べないことなどが由来になっているかも知れない。 フランス名では Rale geant で geant は英語 giant に相当し、属名の由来となった「巨大なクイナ」となっている。 キューバクイナは和名からはキューバに広く生息している印象を受けるが、Zapata ザパタ半島の沼地のごく限られた場所にのみ生息し、IUCN CR種である。
      Porphyrio mantelli North Island Takahe と Porphyrio hochstetteri South Island Takahe は同種とされることもあり和名は両者を指してタカヘとしていることが多いと思う。
      カラヤンクイナ (フィリピン北のカラヤン島) が2004年に発見された時はヤンバルクイナに (最も) 近縁かと話題になったが、現代的な分子系統研究では別属が適切となった。これらの知見は IOC ではすでに取り入れられている。 Oliveros et al. (2011) カラヤンクイナの巣および卵の初記載。 Allen (2005) Birder 19(1): 36-39 (Birder 編集部訳、尾崎監訳) カラヤンクイナ発見記 がある。
      Oswald et al. (2021) Ancient DNA from the extinct Haitian cave-rail (Nesotrochis steganinos) suggests a biogeographic connection between the Caribbean and Old World によればカリブ海ハイチの絶滅クイナ Nesotrochis steganinos の近縁種はアフリカの種類だったとのこと。祖先が飛翔性があって渡りをしていたものと考えられる。 上記分類では (アフリカクイナ)科 Sarothruridae のグループになり、アフリカ、ニューギニアに分布。ニュージーランドの Aptornithidae (絶滅科) がその前の分枝となり、世界に広く分布していたことがわかる。
  • シロハラクイナ
    • 学名:Amaurornis phoenicurus (アマウロルニス ポエニクルス) 尻の赤い(赤紫の)暗色の鳥
    • 属名:amaurornis (合) 暗色の鳥 (amauros 暗色の ornis 鳥 Gk)
    • 種小名:phoenicurus (合) ジョウビタキ (床屋の看板の赤色から赤い鳥の意); 赤紫の (コンサイス鳥名事典)
    • 英名:White-breasted Waterhen
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 phoenicurus とされる。
  • ヒメクイナ
    • 学名:Porzana pusilla (ポルザナ プシッラ) ごく小さいクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:pusilla (adj) ごく小さい (pusillus)
    • 英名:Tiny Crake, IOC: Baillon's Crake (フランスの博物学者 Louis Antoine Francois Baillon に由来)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Zapornia属。これは Porzana のアナグラム (Stephens, 1824)。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 Zapornia属はヒメクイナ属。 6亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 pusilla とされる。 英名変更の理由は Little Crake Zapornia parva コクイナ と紛らわしいためかも知れないが、Baillon's Crake の名称は過去から使われていた。
  • コモンクイナ (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Porzana porzana (ポルザナ ポルザナ) クイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:porzana (トートニム)
    • 英名:Spoted Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。第7版で使われた Porzana属は分子遺伝学解析で単系統でないことがわかり、多くの種が Zapornia属他に移された。 日本産とされていた種で Porzana属にとどまるのはタイプ種のコモンクイナのみ。コモンクイナは日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では検討種 (文献で類似種との識別点の記載がない) に移動で、Porzana属は日本産リストから消える可能性がある。 コモンクイナはヨーロッパからモンゴルにかけて主に分布する種類で、ロシア極東にも記録がある。Porzana属の日本鳥類目録改訂第7版での名称はヒメクイナ属であったが、これは Zapornia属の名称となる予定のため、異なる名前が必要が必要になる。#クイナの備考に記載のリストではコモンクイナ属 (日本でも知名度がありタイプ種でもある) としてある。 和名のコモンは「小紋」とのこと。チュウクイナの別名があった (コンサイス鳥名事典)。
  • ヒクイナ
    • 学名:Porzana fusca (ポルザナ フスカ) 黒ずんだクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:fusca (adj) 黒ずんだ (fuscus)
    • 英名:Ruddy Crake, IOC: Ruddy-breasted Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Zapornia属。これは Porzana のアナグラム (Stephens, 1824)。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 4亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は erythrothorax (eruthros 赤い thorax, thorakos 胸板 Gk) 亜種ヒクイナ と phaeopyga (phaios 褐色の -pugos 腰の) リュウキュウヒクイナ とされる。
      さまざまな音声を出す。ヒクイナ (バードリサーチ鳴き声図鑑) などを参照して声に馴染んでおくとよい。よく「クイナの叩き」と言われる音声は一般的に「さえずり」に分類される。ここにも書かれているが、カイツブリに似たギュルルルルという声も出す。この図鑑では威嚇 (あるいは警戒音) 栃木県渡良瀬 2009-05-11 の音声が参考になる。 この音声はカイツブリの「さえずり」に大変よく似ていてつい (より普通に聞く) カイツブリと判定してしまうが、特に相手が見えていない場合ヒクイナの声の可能性はないかを念頭に置くべき識別対象である。紛らわしい場合はソノグラム (*1) も併用するとよい。#シマクイナの備考も参照。
      (注釈)
      *1: 音声を時間軸と周波数で2次元表示したもの。スペクトル表示 (sound spectrogram, spectrograph) などとも呼ぶ。日本では先人が「ソナグラム」をよく用いていたためこちらの名称の方がよく使われるようだが、英語では sonogram あるいは sonagram で、どちらも使われている。前者の方が使用頻度が高いため、この文書ではよく使われる方の英語の綴りを反映する意味で「ソノグラム」と記す。 専門的論文でも sonogram (sonagram) は問題なく使われているので学術用語として普通に用いてよいはずである。 sonograph, sonagraph の名称もあるが、これは少し古い時期に (高価な専用機材の名称とともに) よく使われていたもの。 なお一般の英語では sonogram (こちらも sonagram の使用頻度の方が低い) は医学などの超音波検査を指すものとして使われることが多い。厳密に表現したい場合は spectrogram や spectrum (複数 spectra) を含めた名称を使うのがよいだろう (これらの表現は音響学以外でも普通に使われる Spectrogram)。 時間とともに変化する信号の2次元スペクトル表示を指す名称として、他に dynamic spectrum という表現もあり、物理や工学の専門用語として使われる。生物の音を扱う学問は生物音響学 (bioacoustics) と呼ばれる。
      鳥の音声をスペクトル表示できるソフトはさまざまなものがあるが、フリーソフトウェアかつさまざまな編集作業のできるソフトとして Audacity が特にヨーロッパのバーダーによく使われている。 Raven (Lite) のように鳥の音声に特化したものではないので、最もよく見えるようにウインドウ幅を簡単に調整する機能などはないが、適切なパラメータを与えておけばほとんどの場合用が足りる。 Raven (Lite) で試された方は経験されているだろうがウインドウ幅を小さくする (時間分解能を上げる) と周波数の分解能は低下する。逆もまた真であり、スペクトルのどの部分に注目するか目的によってウインドウ幅を決めるものである。 「適切なパラメータを与えておけばほとんどの場合用が足りる」と書いたのは主にさえずりに対するもので、短時間の地鳴きの場合はウインドウ幅を小さくするのが適切、また音程の非常に低いあるいは高いものにはウインドウ幅を周波数に合わせて変更する。 時間分解能と周波数分解能の間の関係は (広義の) ハイゼンベルクの不確定性原理で決まっている。時間分解能と周波数分解能を同時に高めることは原理的にできない。つまり非常に短い音の周波数を正確に決めるのには限度がある。 少し専門的になるが、スペクトル表示を行う多くのソフトは短時間フーリエ変換 (Short-time Fourier transform, STFT) という手法を使っている。ウインドウ幅が 256, 512 のように2のべき乗になっているのはこの場合に高速に計算できる手法が知られているためである。 wikipedia 日本語版の短時間フーリエ変換 に重要な情報はほぼ含まれているので音声解析をされる方は参照されるとよい。 すなわち音声のスペクトル表示をする論文であればウインドウ幅と窓関数に何を使ったかは記述しておいた方がよい (窓関数は通常 Hanning を使っておけば十分。結果にはあまり影響はない)。 古めの出版物などに掲載されているソノグラムで信号の周波数幅が妙に広いものを時々見受けるが、これは過剰に時間分解能を高めすぎて (= ウインドウ幅を小さくし過ぎて) 周波数方向に幅ができてしまっていると思われる。 このような場合は窓関数の影響も受け、適切な窓関数を使わないと疑似的な信号も現れる (サイドローブ sidelobe)。逆に言えばこのような極端な使い方をしない場合は窓関数は結果にはあまり影響を与えない。これらの過剰に時間分解能を高めた表示を見習うべきではないし、原理や限界も知って使うのがよい。
      またフーリエ変換の知識が多少あると目的信号に影響を (ほぼ) 与えないやってよい操作 (例えばハイパスフィルター high-pass filter、ローパスフィルター low-pass filter) と目的信号を変えてしまうやるべきでない操作 (ノイズ除去、ノイズリダクション noise reduction) の違いが理解できると思う。 日本の鳥声録音では先駆者の影響もあってノイズリダクションを使いすぎの場面が目立つように感じる。 海外では (少なくとも研究に使われる可能性のある録音に対して) このような編集が好ましくないことは常識となっていて、Audio preparation and upload guidelines eBird/Macaulay Library (ML) の投稿ガイドにもきちんと記載されている (8. Avoid filters and cosmetic editing: Noise reduction and other extreme editing techniques should never be used when editing your recordings for upload to the archive)。 「人に聞いてもらうために必要」な考えや、音源として販売するにはノイズリダクションが必要なこともあるかも知れないが、一般的に使わない方がよいと考えていただいてよい。また xeno-canto などにアップロードする場合にノイズリダクションを使いたい場合は処理後のものと元音源を両方アップロードしておくとよい。研究者は必要になれば後者を使うことができる (eBird/ML ではそもそも受け付けないかも知れない)。 この eBird のガイドには Audacity の使い方 (ただし英文かスペイン語) ガイドもあるので一読されるとよい。 費用のかかるソフトを使わなくても野鳥録音の編集は十分行える。
      録音には (例えばメモ程度の場合でも) できる限りリニア PCM (LPCM) 録音をすべきで (一般的には .wav 形式となる)、.mp3 形式では情報が失われる。どの程度失われるかは設定 (ビットレート) や背景音によって異なるが、現在の世界の主要音声データベースは .wav 形式に対応しているので最初から LPCM で録音し、.wav 形式でアップロードすべきである。 .mp3 形式などに変換すると例えば中心周波数に系統誤差が発生することも知られており、特に研究に用いる場合は低品質 (圧縮度が高い、背景音が大きいなど) .mp3 の使用は注意が必要である。 .mp3 形式などの不可逆的圧縮では重要でない部分の情報を捨てている。例えばバックでセミが大きく鳴いているような場合には情報がそちらに奪われてしまい、もっと低い周波数の鳥の声にわずかな情報量しか残らないことがある。LPCM で記録しておけば低い周波数の鳥の声に影響を与える不必要な高い周波数のセミの声をローパスフィルターで除去できるが .mp3 では鳥の声の部分だけを取り出しても貧弱なものになってしまう。 この点はビデオに記録された音声についても同様で、ビデオに音声も記録されているので大丈夫と考えると必ずしもそうでないこともある。ビデオを記録していても可能ならば同時に LPCM 録音をしておくこととおすすめする。 なぜ LPCM 録音が必要かは eBird/ML の Why wave (.wav) files? にも説明がある。
      (さらに専門的になるので興味ある方以外は読み飛ばしていただいて構わない) ソフトにはソースコードが公開されているオープン・ソースのものがあり、Audacity もそうである。 この場合は中でどのような処理が行われているか外部からも検証可能である。そうでないソフトはある意味ブラックボックスとして使うことになる。そのため自分がソフトを推奨する時はオープン・ソースのものを優先している (サンプルを紹介している R もそうである)。 世界的な音声データベース (現在では鳥以外も扱われ、生物の発する音全般を目指しているとのこと) の一つである xeno-canto はデータベース本体のソースコードを公開している GitLab xenocanto。 xeno-canto で使われているソノグラムの作成ソフトのソースコードも公開されており (GitLab soundprint/sonogen)、GitHub GStreamer のスペクトル生成機能を用いている。 プログラミングのできる人であればこれらを改良することも可能であろうし、技術継承のためにも有益であろう。
      知的財産の考え方にも違いがあるのだろうが、少なくとも鳥の分野ではソースコードなどの公開やデータの Creative Commons (CC, リンク先は wikipedia日本語版) 扱いについてヨーロッパが一歩進んでいるように思える (画像についても CC 扱いがよく行われている)。 Movebank というドイツの Max Planck Institute of Animal Behavior がホストとなっている移動性動物の経路追跡データベースがある。多くの種類が公開されており (Data -> Explore Map -> Search で学名などを入れると検索できる)、カムチャツカのカッコウ (#カッコウの備考参照) の渡り経路も公開されている。 オホーツク海を横切ってほぼ最短経路を飛び、インド洋も少し横切っていることがわかる。 この研究は CC ライセンスが与えられていないが、他の研究では CC ライセンスのものもいくつもあり、これらは出典を明示すれば複製などの利用ができる。例えばヨーロッパハチクマではフィンランドデータの追跡測位などが CC-BY ライセンスで公開されており、誰でも解析に用いることができる。 くまたか/日本野鳥の会筑豊支部でもさまざまな情報を積極的に公開されており、大変好ましいと感じている。
  • コウライクイナ
    • 学名:Porzana paykullii (ポルザナ パイクルイ) パイクルのクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:paykullii (属) paykull の (スウエーデンの詩人で鳥類学者 Gustaf Friherre von Paykull に由来)
    • 英名:Band-bellied Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Zapornia属。これは Porzana のアナグラム (Stephens, 1824)。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。単形種。「世界鳥類和名辞典」(山階 1986) ではコウライヒクイナとされていた。 渡辺 (2005) Birder 19(5): 59-65 にクイナ類の解説と識別が記載されている。 先崎 (2017) Birder 31(2): p.31 に 2013年5月の北海道天売島での記録例がある。
  • マミジロクイナ
    • 学名:Porzana cinerea (ポルザナ キネレア) 灰白色のクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:cinerea (adj) 灰白色の (cinereus)
    • 英名:White-browed Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Poliolimnas属。polio 灰色の (Gk) limnas クイナ < limnas 沼地の (Gk)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。Poliolimnas属はマミジロクイナ属。 学名は Poliolimnas cinereusとなる(語尾が変わるので注意)。分子系統学に基づくクイナ類の分類は Kirchman et al. (2021) Phylogeny based on ultra-conserved elements clarifies the evolution of rails and allies (Ralloidea) and is the basis for a revised classification を参照。 Amaurornithini族 Poliolimnas属の一属一種となっている。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)での亜種は brevipes (短い脚) で、この亜種を認めている世界の主要リストは Avibase のみで、一般的には単形種とされる。この亜種は Ingram, C (1911) の記載による硫黄島のもので、英名では Iwo Jima Rail, Iwo Jima White-Browed Crake と書かれる。日本鳥類目録では亜種マミジロクイナとなる。1911年の採集以降の確実な記録がないとのこと。マミジロクイナの絶滅 (山階鳥類研究所の解説)。 wikipedia 英語版によれば、最終観察は1924年 T. T. Moniyama によるものとのこと。亜種としては doubtfully valid (正統性が疑わしい) と記述されているが、世界の絶滅(亜)種一覧の項目として記載がある。 山階鳥類研究所の上記解説では島のクイナ類が絶滅しやすいことを説明している。この中でウェーククイナ Hypotaenidia wakensis 英名 Wake Island Rail (ヤンバルクイナ属) は第二次世界大戦の間接的結果により失われたことは記憶にとどめておくべきであろう (ウェーククイナの wikipedia 日本語版、英語版を参照。この歴史は世界の鳥類学の中でもよく知られている)。
  • ツルクイナ
    • 学名:Gallicrex cinerea (ガッリクレックス キネレア) 灰白色のヤケイのようなクイナ
    • 属名:gallicrex (合) ヤケイのようなクイナ Gallus属 (ニワトリのもとになったセキショクヤケイなどを含む属) と Crex属 [ウズラクイナなどを含む属 < Crex (Gk) 鳴き声由来 (コンサイス鳥名事典)] から合成された属名 (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:cinerea (adj) 灰白色の
    • 英名:Water Cock, IOC: Watercock
    • 備考:一属一種で単形種
  • バン
    • 学名:Gallinula chloropus (ガッリヌラ クロロプス) 緑色の足のクイナまたはバン
    • 属名:gallinula (f) クイナまたはバン (< gallina (f) めんどり -ula (指小辞) 小さいもの)
    • 種小名:chloropus (合) 緑色の足の (chloros 緑色の pous 足 Gk)
    • 英名:Moorhen, IOC: Common Moorhen
    • 備考:属名は中世ラテン語でクイナまたはバン。ニワトリのような尾と立ち止まる動作から名付けられた (The Key to Scientific Names)。 5亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 chloropus とされる。 他の亜種は離島またはアフリカ以南のもの。
  • オオバン
    • 学名:Fulica atra (フリカ アトラ) 黒いオオバン
    • 属名:fulica (f) オオバン (fuligo (f) すす)
    • 種小名:atra (adj) 黒い (ater)
    • 英名:Coot, IOC: Eurasian Coot
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 atra とされる。
  •  ノガン目 OTIDIFORMES ノガン科 OTIDIDAE 

  • ノガン
    • 学名:Otis tarda (オティス タルダ) 動きの鈍いノガン
    • 属名:Otis (f) ノガン
    • 種小名:tarda (adj) 動きの鈍い (tardus)
    • 英名:Great Bustard
    • 備考:「コンサイス鳥名事典」や Helm Dictionary を含むいくつかの出典で、種小名はスペイン語でノガンの意味とあるが、現在はこの意味では使われておらず avutarda の単語が使われる。 これも avis tarda で動きの鈍い (ゆっくり歩く) 鳥を意味する。古スペイン語で tarda が使われたが、これもラテン語の「遅い」に由来する (ノガンの wikipedia スペイン語版より)。このため語源は原意のラテン語を採用した。 一属一種。2亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは dybowskii (ポーランドの動物学者でシベリアへ流刑された Benedykt Tadeusz Dybowski に由来) とされる。 英語の bustard は古フランス語 bistarda だが、遡ればいずれも avis tarda に由来する。 ノガン科はかつて3亜科に分けられ、ノガンは Otidinae亜科に属するとされていたが現在ではこの概念はあまり使われないよう。 かつてはツル目に含められていたが、近年の分子系統解析ではカッコウ目が最も近縁となった。
      ノガンは世界各国で減少しており、人工増殖などの取り組みが行われている。 いくつかの映像を紹介しておく ドイツの事例ザクセンのノガン保護施設絶滅に瀕した美 カザフスタンの事例で12:15あたりから人工増殖の様子、 23:30あたりから渡りの話で、越冬先の国際的な保護体制も重要である。 カザフスタン南部でのノガン放鳥の様子アブダビのノガン増殖施設と戻ってきたノガン
      [Otidimorphae の系統分類] Neoaves で出現した2番めのクレードである Columbaves に含まれる (#鳥類系統樹2024参照)。 ここでは Stiller et al. (2024) の系統順に従って Boyd の分類を紹介する。 エボシドリ目の最近の分子系統研究は Perktas et al. (2020) Phylogeography, Species Limits, Phylogeny, and Classification of the Turacos (Aves: Musophagidae) Based on Mitochondrial and Nuclear DNA Sequences がある。 エボシドリ族? Musophaginae を中心に扱ったもの。Criniferinae とノガン (コウノトリも) が近い位置にあるが Musophaginae はやや離れていて、カンムリエボシドリは中間に近い。ただし用いた遺伝子は限られたものでツルも近い位置に来てしまうため、Criniferinae と Musophaginae が結構離れている程度に見ておくのがよさそう。
      ノガン目の分子系統研究は Cohen (2011) The phylogenetics, taxonomy and biogeography of African arid zone terrestrial birds: the bustards (Otididae), sandgrouse (Pteroclidae), coursers (Glareolidae) and Stone Partridge (Ptilopachus) (学位論文)。 このグループの系統研究は他系統に比べてまだあまり行われていない。 1種または少数の種しか含まない属が多いが、Cohen (2011) によれば形態的には十分違いがあって自身もよく検討したのでそれぞれ属扱いが適当とのこと。属の取り扱いによって異なる分類の扱いも紹介している。 ヒメノガン属 Tetrax などの位置づけは暫定的のようで今後変わるかも知れない (属統合など。ただかなり離れているとの認識のようなのでこの属で固定になるかも)。 全体の傾向は現れているはずなので、ノガン目の中での進化の傾向などはこのリストでほぼ理解できそう。

      (エボシドリ系統)
      エボシドリ目 Musophagiformes
       エボシドリ科 Musophagidae: Turacos
        カンムリエボシドリ族 Corythaeolinae: Great Blue Turaco
         カンムリエボシドリ属 Corythaeola (アフリカ赤道部)
          カンムリエボシドリ Corythaeola cristata Great Blue Turaco

        ハイイロエボシドリ族? Criniferinae: Go-away-birds and Plantain-eaters
         シロハラハイイロエボシドリ属 Criniferoides
          シロハラハイイロエボシドリ Criniferoides leucogaster White-bellied Go-away-bird (アフリカ東部赤道部)
         (ムジハイイロエボシドリ)属 Corythaixoides
          ムジハイイロエボシドリ Corythaixoides concolor Grey Go-away-bird (アフリカ中央・南部)
          クロガオハイイロエボシドリ Corythaixoides personatus Bare-faced Go-away-bird (アフリカ東部赤道部)
         ハイイロエボシドリ属 Crinifer (アフリカ赤道部)
          ハイイロエボシドリ Crinifer piscator Western Plantain-eater
          ヒガシハイイロエボシドリ Crinifer zonurus Eastern Plantain-eater

        エボシドリ族? Musophaginae: Turacos
         ズグロエボシドリ属 Gallirex (アフリカ南東部)
          ズグロエボシドリ Gallirex porphyreolophus Purple-crested Turaco
          アカエリエボシドリ Gallirex johnstoni Rwenzori Turaco
         ホオジロエボシドリ属 Menelikornis
          ホオジロエボシドリ Menelikornis leucotisWhite-cheeked Turaco (エチオピア)
         ハシブトエボシドリ属 Pseudopoetus
          ハシブトエボシドリ Pseudopoetus macrorhynchus Yellow-billed Turaco (アフリカ西部赤道部)
         (ムラサキエボシドリ)属 Musophaga (アフリカ赤道部)
          ニシムラサキエボシドリ Musophaga violacea Violet Turaco
          ムラサキエボシドリ Musophaga rossae Ross's Turaco
         (アカガシラエボシドリ)属 Proturacus (アフリカ赤道部)
          ニシアカガシラエボシドリ Proturacus bannermani Bannerman's Turaco
          シロガシラエボシドリ Proturacus leucolophus White-crested Turaco
          アカガシラエボシドリ Proturacus erythrolophus Red-crested Turaco
         エボシドリ属 Tauraco (アフリカ中南部)
          ハシグロエボシドリ Tauraco schuettii Black-billed Turaco
          シャローエボシドリ Tauraco schalowi Schalow's Turaco
          オウカンエボシドリ Tauraco hartlaubi Hartlaub's Turaco
          シラガエボシドリ Tauraco ruspolii Ruspoli's Turaco
          ギニアエボシドリ Tauraco persa Guinea Turaco
          エボシドリ Tauraco corythaix Knysna Turaco
          リビングストンエボシドリ Tauraco livingstonii Livingstone's Turaco
          フィッシャーエボシドリ Tauraco fischeri Fischer's Turaco

      (ノガン + カッコウ系統)
      ノガン目 Otidiformes
       ノガン科 Otididae: Bustards
        クロハラチュウノガン属 Lissotis (アフリカ)
         クロハラチュウノガン Lissotis melanogaster Black-bellied Bustard
         クロビタイチュウノガン Lissotis hartlaubii Hartlaub's Bustard
        アラビアオオノガン属 Ardeotis
         ヌビアチュウノガン Ardeotis nuba Nubian Bustard (Neotis属を統合)
         アフリカチュウノガン Ardeotis denhami Denham's Bustard (Neotis属を統合)
         ナンアチュウノガン Ardeotis ludwigii Ludwig's Bustard (Neotis属を統合)
         チュウノガン Ardeotis heuglinii Heuglin's Bustard (Neotis属を統合)
         アラビアオオノガン Ardeotis arabs Arabian Bustard
         アフリカオオノガン Ardeotis kori Kori Bustard
         インドオオノガン Ardeotis nigriceps Great Indian Bustard
         オーストラリアオオノガン Ardeotis australis Australian Bustard
        ヒメノガン属 Tetrax
         ヒメノガン Tetrax tetrax Little Bustard (ユーラシア中西部)
        ノガン属 Otis
         ノガン Otis tarda Great Bustard (ユーラシア)
        フサエリショウノガン属 Chlamydotis (アフリカ北部)
         フサエリショウノガン Chlamydotis undulata Houbara Bustard
         サバクフサエリショウノガン Chlamydotis macqueenii Macqueen's Bustard
        ベンガルショウノガン属 Houbaropsis
         ベンガルショウノガン属 Houbaropsis bengalensis Bengal Florican (ベンガル、インドシナに局所的)
        インドショウノガン属 Sypheotides
         インドショウノガン Sypheotides indicus Lesser Florican (インド)
        カンムリショウノガン属 Lophotis
         カンムリショウノガン Lophotis ruficrista Red-crested Korhaan (アフリカ南部)
         ニシカンムリショウノガン Lophotis savilei Savile's Bustard (セネガル)
         キタカンムリショウノガン Lophotis gindiana Buff-crested Bustard (エチオピアからタンザニア)
        ノドグロショウノガン属 Heterotetrax
         カッショクショウノガン Heterotetrax humilis Little Brown Bustard (エチオピアからソマリア)
         コノドグロショウノガン Heterotetrax rueppelii Rueppell's Korhaan (ナミビアからアンゴラ)
         ノドグロショウノガン Heterotetrax vigorsii Karoo Korhaan (南アフリカ)
        クロエリショウノガン属 Afrotis (主に南アフリカ)
         ハジロクロエリショウノガン Afrotis afraoides Northern Black-Korhaan
         クロエリショウノガン Afrotis afra Southern Black-Korhaan
        セネガルショウノガン属 (タイプ種より) Eupodotis
         アオショウノガン Eupodotis caerulescens Blue Korhaan (南アフリカ)
         セネガルショウノガン Eupodotis senegalensis White-bellied Bustard

      カッコウ目 Cuculiformes (亜科までリスト)
       カッコウ科 Cuculidae: Cuckoos
        オオハシカッコウ亜科 Crotophaginae: Anis
        アメリカジカッコウ亜科 Neomorphinae: Ground-Cuckoos, Roadrunners
        マダガスカルジカッコウ亜科 Couinae: Couas
        バンケン亜科 Centropodinae: Coucals
        カッコウ亜科 Cuculinae: Cuckoos

      Musophaga の名称は Musa (Linnaeus の導入したバナナ類の属名) < mauz (アラビア語のバナナ) -phagos を食べる (Gk)。 Go-away-bird は和名では全てエボシドリの名前が付いているが英名では比較的細かく分けている。"go away" は擬声語とのこと。単独個体の音声記録を聞いてもわかりにくいが、群れの録音を聞くとなるほどそのようにも聞こえる。 捕食者さえ追い払う (猛禽類でも嫌がる声はあるのだろうか?) 程度にうるさいのだろう。 Musophaga属のタイプ種はニシムラサキエボシドリの方になるが、名前が長いので (ムラサキエボシドリ) としておいた。 Proturacus属のタイプ種はニシアカガシラエボシドリの方になるが、名前が長いので (アカガシラエボシドリ) としておいた。 これら2属は Tauraco属から分離されたもの。Musophaga属は過去にも別属だったが一度 Tauraco属に統合され、最近の研究で復活となった。 エボシドリ類とノガン類の多くはアフリカに分布するが、我々がよく目にする名前は南アフリカ共和国で見られる種類に圧倒的に偏っている。そのため和名のベースとなった種と属のタイプ種がしばしば異なる。
      エボシドリ目は圧倒的にアフリカの種類だが、北米でも古い系統の化石が見つかっている: Field and Hsiang (2018) A North American stem turaco, and the complex biogeographic history of modern birds。 古第三紀 (Paleogene period) の南北アメリカ大陸間の橋を通じて新大陸にも分散したとの考えがある (North American Gateway hypothesis)。現代の鳥類がゴンドワナ大陸で進化したとの見方に少し修正を迫り、北米が鳥類進化に与えた影響も従来考えられていたより大きい。 この研究の時代には南米に生息するツメバケイとエボシドリ目の外見的類似性が注目されていて、生物地理学的な関係も考えられていたが、[#鳥類系統樹2024] の結果では別系統となり、そこまでの類縁性はなかった。
      カッコウ目、カッコウ科はかつてはホトトギス目、ホトトギス科とも呼ばれた。
  • ヒメノガン
    • 学名:Tetrax tetrax (テトゥラックス テトゥラックス) 狩猟鳥の類
    • 属名:tetrax tetrax, tetracis 不明の狩猟鳥 < tetrax, tetragos (Gk) 食べられる狩猟鳥で確実に同定されていない (ライチョウ類かホロホロチョウの類か)。中世ラテン語で tetrex は大きいガンの一種か (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:tetrax (トートニム)
    • 英名:Little Bustard
    • 備考:一属一種で単形種。#ノガンの備考で紹介したように系統的には比較的微妙な位置で、将来の研究で他の属と統合される可能性もあるかもしれない。現在の系統樹では ノガン属 Otis (ノガンのみ) の少し古い分岐にあたっていて、単系統性を保つためこの2種がそれぞれ別属となっている。
  •  カッコウ目 CUCULIFORMES カッコウ科 CUCULIDAE 

  • バンケン
    • 学名:Centropus bengalensis (ケントウロプス ベンガレンシス) ベンガルの長い後爪のある足の鳥
    • 属名:centropus (合) 長い後爪のある足 (kentro刺す pous足 Gk)
    • 種小名:bengalensis (adj) ベンガルの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Lesser Coucal
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。6亜種あり(IOC)。日本で記録された亜種は lignator (lignatoris 木を切るもの < lignum, ligni 木) とされる。
      Maurer et al. (2011) Breaking the rules: sex roles and genetic mating system of the pheasant coucal によればキジバンケン Centropus phasianinus Pheasant Coucal ではオスはメスよりずっと小さいが子育てはほとんどオスが行う珍しい形態をとっているとのこと。 配偶形態の理論的解釈は難しいが、一妻多夫への進化の途上かあるいはかつて一妻多夫だった名残りの可能性を考えている。 バンケン類では配偶形態は多様なようで Safari and Goymann (2018) Certainty of paternity in two coucal species with divergent sex roles: the devil takes the hindmost によればムナグロバンケン Centropus grillii Black Coucal は晩成性の鳥で唯一オスのみが子育てをするとのこと。この例ではつがい外交尾で産まれるひなは最後のひなであることであることが多く (生存率が低い)、メスが抱卵を開始するとオスがメスをつがい外交尾を阻止する能力が下がる可能性がある。 メスにとってつがい外交尾はよい遺伝子を得ることより次のつがい相手へのアピールのためか。 バンケン類はオスが子育てをする傾向があり (性比とも関係?) このような配偶様式は比較的容易に進化するのではとのこと。
  • カンムリカッコウ
    • 学名:Clamator coromandus (クラマトール コロマンドゥス) コロマンデルの大声で叫ぶ鳥
    • 属名:clamator (m) 大声で叫ぶ人 (clamo (tr) 叫ぶ -tor (接尾辞) 行為者を表す)
    • 種小名:coromandus (adj) インドのコロマンデル地方の
    • 英名:Chestnut-winged Cuckoo
    • 備考:単形種。 Clamator属はすべて絶対的な (obligate) 托卵性。

      (Boyd の分類による。IOC と同じ)
      カッコウ科 Cuculidae: Cuckoos
       カッコウ亜科 Cuculinae: Cuckoos
        (カンムリカッコウ) 族 Phaenicophaeini: Malkohas, Clamator, American Cuckoos
         カンムリカッコウ属 Clamator
          カンムリカッコウ Clamator coromandus Chestnut-winged Cuckoo
          マダラカンムリカッコウ Clamator glandarius Great Spotted Cuckoo
          ムナフカンムリカッコウ Clamator levaillantii Levaillant's Cuckoo
          #クロシロカンムリカッコウ Clamator jacobinus Jacobin Cuckoo

      マダラカンムリカッコウ Clamator glandarius Great Spotted Cuckoo の托卵習性については #カッコウの備考参照。マフィア的な行動とともに、ひな (宿主の卵やひなを排除しない) が悪臭物質を出し外敵を追い払うとのこと。
  • オニカッコウ
    • 学名:Eudynamys scolopaceus (エウドュナミュス スコロパケウス) ヤマシギに似た色彩の大変強力な鳥
    • 属名:eudynamys (合) 大変能力のある (eu (int) よい、dunamis 能力、強さ Gk) ふしょと足が特に強力と記述された (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:scolopaceus (adj) ヤマシギのような (scolopax (f) ヤマシギ ceu (adv) 〜のように -s (語尾) 〜な) 体全体が濃灰色と濃褐色との記述 (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Asian Koel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。5亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは亜種不明とされる。 英名の Koel の由来はヒンディー語の koyal (声から) で、Eudynamys属などの広い種類を指す。 かつては スラウェシオニカッコウ Eudynamys melanorhynchus Black-billed Koel オーストラリアオニカッコウ Eudynamys orientalis Pacific Koel と同種とされた。遠方からの可能性は低いだろうが古い時代の記録はこれらが別種されていないものがあるはずなので多少の注意が必要だろう。 繁殖地ではごく普通の種類で、アジアの野外映像の背景に声を頻繁に聞くことができる。慣れておけば声で当地初記録も可能かと期待しているがまだ実現していない。コウライウグイスがいろいろな声を出してやや紛らわしい。
      坂梨 (2012) 熊本県熊本市におけるオニカッコウ Eudynamys scolopaceus の落鳥記録 の事例では亜種 chinensis の可能性が高いとのこと。 浜地他 (2017) 宮古諸島におけるカッコウ科鳥類2種の観察記録 ではオニカッコウは複数羽での長期滞在で繁殖の可能性もあるとのこと。
      「世界の鳥 行動の秘密」(バートン 1985) にによればオニカッコウのオスは宿主のイエガラス Corvus splendens に似ていて、イエガラスがテリトリーを守ろうとしてオスのオニカッコウを追いかけ、メスはその間に托卵するという。 Nahid et al. (2021) No evidence of host-specific egg mimicry in Asian koels によればオニカッコウが宿主の卵に似せている証拠は見つからなかったとのこと。
      オニカッコウは雑食性だが、多くの脊椎動物にとって有毒な Cascabela thevetia の実を食べるという。実には Cardenolide (ステロイド毒。メカニズムは Na/K ATPase 阻害なので #カッコウ備考の [カッコウ類の植物毒耐性?] 同様) の Thevetin A, B が含まれている。 食べても無害な種類として タイヨウチョウ科 Nectariniidae、オニカッコウ、コウラウン Pycnonotus jocosus Red-whiskered Bulbul、 マミジロヒヨドリ Pycnonotus luteolus White-browed Bulbul、シリアカヒヨドリ Pycnonotus cafer Red-vented Bulbul、 ズグロムクドリ Sturnia pagodarum Brahminy Starling、 インドハッカ Acridotheres tristis Common Myna、 インドコサイチョウ Ocyceros birostris Indian Grey-Hornbill が知られている (wikipedia 英語版)。
      Nahid et al. (2024) Asian koel rapidly locates host breeding in novel nest sites によれば宿主が巣を変えた場合オニカッコウは迅速に対応するとのこと。宿主の動きをよく観察しているらしいとのこと。
  • キジカッコウ
    • 学名:Urodynamis taitensis (ウロドュナミス タイテンシス) タヒチの立派な尾羽の鳥
    • 属名:urodynamis (合) 立派な尾羽の (oura 尾羽 dynamis 能力 Gk)
    • 種小名:taitensis (adj) タヒチの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Long-tailed Koel, IOC: Pacific Long-tailed Cuckoo
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。ニュージーランドで繁殖し太平洋離島で越冬。 かつては Koel (オニカッコウ類) に分類されていたが、分子系統解析の結果カッコウ類に近いことがわかって英名も変わった。 縦縞で、英語別名に sparrow hawk, home owl などがあって少なくとも人にはタカを連想させるところがあるらしい (wikipedia 英語版など)。#カッコウ備考 [カッコウのタカへの擬態] でも検討。 ニューギニアやオーストラリア沿岸部のオオオニカッコウ Scythrops novaehollandiae Channel-billed Cuckoo はこの種に系統が近いと考えられる。
      ニュージーランドで繁殖し越冬のために北に渡るカッコウ類は2種で、もう1種はヨコジマテリカッコウ Chrysococcyx lucidus Shining Bronze-Cuckoo でこちらがはるかに小型 (GPS 追跡も行われている Tracking shining cuckoos)。 ニュージーランドのカッコウ類の渡りや進化は興味深いので今後の進展に注目したい。 Mystery, migration and mucous membranes: 5 curious facts about the shining cuckoo のような記事もある。心毒性のある虫を食べてもなぜ大丈夫なのかなどいろいろ疑問がある。 ニュージーランドにはハイイロオオタカ Tachyspiza novaehollandiae Grey Goshawk (オオタカの名は付くが系統は違う) が生息するので縞模様はタカへの擬態の解釈は成り立つ (隠蔽色との解説もある)。キジカッコウの容貌や音声は擬態なのか収斂進化なのか?
      Gill et al. (2018) Post-mortem examinations of New Zealand birds. 2. Long-tailed cuckoos (Eudynamys taitensis, Aves: Cuculinae) に死体を用いた食性などの研究がある。昆虫が多くを占め、若鳥が成鳥より数か月遅れてニュージーランドを離れるのはセミなどの大型昆虫の発生に合わせているためか。トカゲ類、鳥の卵やひなも多少食べる (過去記録事例の一覧も出ている)。タカ類ではカッコウハヤブサ類 Aviceda の食性に似ている感じがする。 鳥のひなをそのまま飲み込む能力に驚いたなどの古い記載も出ている。 食性はヒジリショウビン Todiramphus sanctus Sacred Kingfisher に似ているとのこと。 カワセミ類は Telluraves でそもそも捕食性のある系統だが、キジカッコウは最初の陸鳥系統 Columbaves の Otidimorphae 系統に属するのでこの食性はもっと注目してよいだろう。
      羽賀・奴賀 (2009) 千葉県銚子市におけるキジカッコウ Eudynamys taitensis の日本初記録
  • オオチュウカッコウ (第8版で削除の見込み)
    • 学名:Surniculus lugubris (スルニクルス ルグブリス) 喪服色の (縞模様の) 不吉なカッコウ
    • 属名:surniculus (合) 不吉なカッコウ (フクロウを意味する属名 Surnia 不吉なの意味と Cuculus属から合成)
    • 種小名:lugubris (adj) 悲しげな、喪服色の、不気味な
    • 英名:(Drongo Cuckoo), IOC: Square-tailed Drongo-Cuckoo
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。かつてはエンビオウチュウカッコウ Surniculus dicruroides Fork-tailed Drongo-cuckoo の亜種とされていたが、形態や音声の違いから別種となった。 lugubris の意味はほぼ黒いヒメオウチュウ Dicrurus aeneus Bronzed Drongo に比べて白い縞などが目立つことを意味したのではと考察した (#ヤマセミの備考参照)。全面の黒さを意識させるだろう「喪服色の」に加えてこの解釈を学名訳のかっこ内に追記した。 3亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは亜種不明とされる。かっこ内の英名は分離前のもの。 日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント(2024)で種の分割に伴って削除とのこと。 国内記録は古いものが多く、2種に分割後のどちらの種に該当するのか明確な判断の示された記録がないためではないかと想像するが詳しいことは不明。海外データベースでも過去記録の扱いが問題となった種類。 改めて確実な日本初記録と認定できる報告論文を出して欲しい意味と考えた。
      形態はオウチュウに似ているが、ちょうどジュウイチがタカに似ているように托卵に有利に働くとの説がある。 Thorogood and Davies (2013) (#カッコウの備考参照) によれば、オオチュウカッコウ類はオオチュウ類に托卵すると考えられていたことがあったが実際にはあまり托卵せず、攻撃的なオオチュウ類を模して宿主を脅しているらしい (Johnsgard 1997)。 「動物たちの地球 鳥類 I 10 カッコウ・ホトトギス・エボシドリほか」(週刊朝日百科 朝日新聞社 1991) p. (6) 310 では仮親に似た形態や色彩をし、なわばりをもった仮親がこの種のオスを侵入者として追い払っている間に、メスが托卵を成功させるとある (丸武志解説)。
      鳥の長い尾は性選択が考えられがちだが他の可能性もある。航空力学的なもの、捕食者に対する信号など。不安定なアシの上で採食時のバランスに役立っていると考えられるケースもある。 Are long tails all about sex? (Zhou 2023)。論文は Zhou et al. (2023) Functions of avian elongated tails, with suggestions for future studies
      性選択を実証するために尾の長さを人工操作した古典的実験: Andersson (1982) Female choice selects for extreme tail length in a widowbird (Nature論文へのリンク)。 扱われている種はコクホウジャク Euplectes progne Long-tailed Widowbird。 「世界の鳥 行動の秘密」(バートン 1985) p. 118 ではオドリホウオウ Euplectes jacksoni Jackson's Widowbird となっている。別のページにディスプレイの写真があるがあまりにも雌雄差が著しく同じ種に見えない。wikipedia 英語版では前者の種に記述されている。 長い尾と赤いパッチ (epaulette 肩章) があり、Andersson (1994) "Sexual Selection" (Princeton University Press) はコクホウジャクでは尾の長さが、アカエリホウオウ Euplectes ardens では赤色が性選択要素と考えたが、 Pryke et al. (2001) Sexual Selection of Multiple Handicaps in The Red-Collared Widowbird: Female Choice of Tail Length but not Carotenoid Display (Andersson も著者に含まれる) によればアカエリホウオウでも長い尾が重要で、カロテノイド色素が性選択に働いている証拠は得られなかったとのこと。このぐらい派手な違いがある種類でないと実験してもなかなか有意な結果にならないかも (出典情報など wikipedia 英語版より)。
      いつのことかすでに調べられなくなっているのだが、20年ぐらい前? に京都大学の生物の入試問題でこれが取り上げられたことがあった。振り返ってみるとこの時代ぐらいから分子生物学が急進展して高校教育にも大幅に取り入れられ、理科の科目の中でも生物の難易度が一番上がったような気がする。かなり昔には生物は履修していなくてもそこそこ解けてしまうようなのどかな科目だったような気がするのだが...。
  • オオジュウイチ
    • 学名:Hierococcyx sparverioides (ヒエロコッキュクス スパルウェリオイデス) ハイタカに似たタカのようなカッコウ
    • 属名:hierococcyx (m) タカのようなカッコウ ヒエロ王 (hiero (m) ヒエロ王、転じて hierakos タカ coccyx (m) カッコウ)
    • 種小名:sparverioides (adj) sparverius ハイタカ < スズメのようなタカ (Catesby 1731 によるアメリカチョウゲンボウの種小名「小さなタカ」から) -oides (接尾辞) 〜に似た
    • 英名:Large Hawk-Cuckoo
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
      [Hierococcyx (ジュウイチ) 属の系統分類] 順序は Boyd による。

      カッコウ科 Cuculidae: Cuckoos
       カッコウ亜科 Cuculinae: Cuckoos
        カッコウ族 Cuculini: Old World Parasitic Cuckoos
         ジュウイチ属 Hierococcyx
          (系統 1)
          チャイロジュウイチ Hierococcyx vagans Moustached Hawk-Cuckoo (マレー半島、ジャワ島、ボルネオ島など。留鳥)
          (系統 2)
          クロジュウイチ Hierococcyx bocki Dark Hawk-Cuckoo (マレー半島、ジャワ島、ボルネオ島の主に標高の高いところ)
          オオジュウイチ Hierococcyx sparverioides Large Hawk-Cuckoo (中国からネパール周辺まで夏鳥。東南・南アジアで越冬)
          ハイタカジュウイチ Hierococcyx varius Common Hawk-Cuckoo (インド、バングラデシュ。留鳥)
          (系統 3)
          ジュウイチ Hierococcyx hyperythrus Rufous Hawk-Cuckoo (ロシア極東部・日本・中国の主に東北部で夏鳥)
          フィリピンジュウイチ Hierococcyx pectoralis Philippine Hawk-Cuckoo (フィリピン)
          マレーシアジュウイチ Hierococcyx fugax Malaysian Hawk-Cuckoo (マレー半島、ジャワ島、ボルネオ島。留鳥)
          インドシナジュウイチ Hierococcyx nisicolor Hodgson's Hawk-Cuckoo (中国南部、インドシナ半島北部から西部の一部で夏鳥)

      わずかな順序の違いがあるが IOC でも同じ。系統的にはチャイロジュウイチが古い分岐で、他は2系統に分かれる。クロジュウイチとジュウイチがそれぞれの系統の中で最も古い分岐になる。 カッコウ類はそれほど詳細な分子系統研究がなされていないようで、ジュウイチ属については現在でも Sorenson and Payne (2005) "Molecular systematics: cuckoo phylogeny inferred from mitochondrial DNA sequences" in Bird Families of the World: Cuckoos が使われている模様。 属レベルの系統樹は Krueger et al. (2009) Does coevolution promote species richness in parasitic cuckoos? で見られる。 #カッコウ備考で紹介の Thorogood and Davies (2013) Hawk mimicry and the evolution of polymorphic cuckoos でカッコウ亜科の系統樹が見られる。
      チャイロジュウイチはジュウイチの音声とは少し異なるが2音のパターンは似ている。また繰り返し音を高めてゆく音声がある (alarming song とも呼ばれ、ジュウイチの音声の原型かも?) 点は似ているが音程はジュウイチよりだいぶ低い。宿主はハシブトムジチメドリ Malacocincla abbotti Abbott's Babbler と チャバネアカメヒタキ Philentoma pyrhoptera Rufous-winged Philentoma が記述されている。 チャバネアカメヒタキはオスの上半身が青く翼から尾は褐色でオオハシモズ科 (生物地理学的に別とされることもある。#モリツバメの備考参照)。日本の鳥ではモリツバメに近い系統。
      クロジュウイチはかつてオオジュウイチと同種とされた。
      オオジュウイチの擬態相手は wikipedia 英語版には書いてないが、ハイタカジュウイチ同様にタカサゴダカを想定してもよさそうに見える。鳴き声はハイタカジュウイチ (あるいはジュウイチ) のようにピッチを上げて終わらないとある。音声は反復が長めだが単純で、それほどタカの声は似ていないように聞こえる。 宿主はチメドリ科やソウシチョウ科が多いとのことだが他にも数多く知られている (wikipedia 英語版に2003年文献に基づくリストあり)。 Yang et al. (2015) Coevolution between the large hawk-cuckoo (Cuculus sparverioides) and its two sympatric Leiothrichidae hosts: evidence for recent expansion and switch in host use? にもヒゲチメドリ Pterorhinus lanceolatus Chinese Babax、カオジロガビチョウ Pterorhinus sannio White-browed Laughingthrush への托卵の研究があり (いずれの宿主も学名が変わっており、属統合が行われた模様)、 ヒゲチメドリの卵の色はあまり似ていないので最近宿主の範囲を広げたのではとの考察がある。
      ハイタカジュウイチはタカサゴダカ [高野 (1973) ではミナミハイタカ] Tachyspiza badia Shikra への擬態が顕著とのこと。鳴き声から brainfever bird と呼ばれる ("brain-fever" と聞きなす。日本のジュウイチのようにピッチを上げて終わるとのこと) 主な宿主はツチイロヤブチメドリ Argya striata Jungle Babbler と キバシヤブチメドリ Argya affinis Yellow-billed Babbler とのこと (旧 Turdoides 属より分離)。宿主はほぼこの属に限られるとのこと。いずれも色彩は地味な種類 (wikipeida英語版より)。 タカサゴダカの声が似ているか確認してみたところ、それなりに近いジュウイチ類に近いタイプの音声も記録されている。日本では最も近縁のツミとは少し違う感じがする。
      ジュウイチ以降の4種はかつて同種とされていたものが分離されたもの。 マレーシアジュウイチの宿主としてアカハラシキチョウ Copsychus malabaricus White-rumped Shama (サメビタキ亜科? Muscicapinae シキチョウ族? Copsychini) と ハイガシラヒタキ Culicicapa ceylonensis Grey-headed Canary-Flycatcher (センニョヒタキ科 Stenostiridae、カラ類に近い) が挙げられている (wikipeida英語版より)。 アカハラシキチョウのオスは上半身が黒っぽい青。ハイガシラヒタキのオスも頭に青みがある。
      タカサゴダカはマレー半島の北部に分布するのみなので、ジャワ島、ボルネオ島、フィリピンなど島しょ部での擬態は別のタカを考える必要がある。ミナミツミ Tachyspiza virgata Besra は有力候補だろう。ジャワ島、ボルネオ島では主に標高の高いところに分布するのでマレーシアジュウイチでは少し合わないところがあるかも知れない。 Besra (Birds of Thailand: Siam Avifauna) と Malaysian Hawk Cuckoo (Cuculus fugax) 確かに似ている。
      ジュウイチの擬態相手のタカは日本ではツミでよいのだろう。これらのジュウイチ類縁種が多分タカに擬態していることは、縞模様のある他の托卵性カッコウ類同様宿主を怖がらせる意味があるのだろう。 間接的だが日本のジュウイチの宿主もツミを恐れている証拠になるだろうか。 「決定版 日本の野鳥 650」(真木広造写真; 大西敏一, 五百澤日丸解説 平凡社 2014) では「他のカッコウ類よりもツミやハイタカの雄に似ている」とある。ジュウイチの系統が違っていること、ジュウイチ類 (系統 3) の主な相棒のタカも現在の分類では Tachyspiza 属となる違いが現れているのだろう。 ツミは西日本では関東ほど馴染みの繁殖種ではないし、ハイタカも北方が多い。ジュウイチの国内分布も東日本が多いようだがツミの分布と関係があるだろうか。
  • ジュウイチ
    • 学名:Hierococcyx hyperythrus (ヒエロコッキュクス ヒュペリュトゥルス) 腹が赤いタカのようなカッコウ
    • 属名:hierococcyx (m) タカのようなカッコウ ヒエロ王 (hiero (m) ヒエロ王、転じて hierakos タカ coccyx (m) カッコウ)
    • 種小名:hyperythrus (合) 下が赤い (hyp- (接頭辞) 下の erythros 赤い Gk)
    • 英名:(Hodgson's Hawk Cuckoo), IOC: Rufous Hawk-Cuckoo
    • 備考:旧英名の由来は英国博物学者 Brian Houghton Hodgson。この英名は現在インドシナジュウイチ Hierococcyx nisicolor に対して使われ、ジュウイチの現在の通常の英名は Rufous Hawk-Cuckoo または Northern Hawk-Cuckoo。 かつての学名は Cuculus fugax (fugax は「逃げ足の早い」; 音楽のフーガも同根で「逃げ去る旋律を追うように奏される」のような比喩も使われる) だった。分割されていずれも単形種となった。 現在種小名 fugax を継承しているものはマレーシアジュウイチ Hierococcyx fugax (英名 Malaysian Hawk-Cuckoo)。 ジュウイチの和名が鳴き声由来であることは有名だが、ジュウイチの完全なさえずりはジュウイチ、ジュウイチ...とトーンを上げてゆき、ピピピピ...と鳴いて終わる。 もと Hodgson's Hawk Cuckoo に分類されていたジュウイチ類は同様のパターンで鳴くが (音程などは異なる)、フィリピンジュウイチ Hierococcyx pectoralis (英名 Philippine Hawk-Cuckoo) のみは「ジュウイチ」の部分は2音ではなく、ホトトギスのような複数音からなる。
      英語の Hawk-Cuckoo は現在の属名 Hierococcyx の意味とよく対応しているように見えるが英名の付いた時期はまだ Cuculus属だったかも知れない。他言語では十分多彩でドイツ語 Fluchtkuckuck と逃走 (ラテン語 fugax に対応)、マレーシアの地名を付けたもの、スロバキア語やウクライナ語など「翼の広い」などいろいろある。 オランダ語は Maleise Sperwerkoekoek、スウェーデン語 hokgok (hok タカ gok カッコウ) などは英語に合わせている。
      [ジュウイチのひなの分身の術] Tanaka and Ueda (2005) ジュウイチのひなが口の黄色と翼角の黄色を用いた視覚刺激によって宿主から多くの餌を得ている有名な Science 論文へのリンク: Horsfield's Hawk-Cuckoo Nestlings Simulate Multiple Gapes for Begging。 そして Tanaka et al. (2005) Yellow wing-patch of a nestling Horsfield's hawk cuckoo Cuculus fugax induces miscognition by hosts: mimicking a gape?の研究がある。 田中啓太「ジュウイチのヒナの騙し戦略と感覚生態学」in 上田恵介(編)「野外鳥類学を楽しむ」(海游舎 2016) 4章に苦労話なども詳しく述べられている。 さらに同書13章に「テリカッコウとその宿主の托卵を巡る攻防」(佐藤望) がある。 Lotem (1993) Learning to recognize nestlings is maladaptive for cuckoo Cuculus canorus hosts (論文サイト) にかかわる研究もある (p. 246)。「なぜホストはカッコウの卵は拒否するのに,自種のヒナと外観が全く異なるカッコウのヒナを排除しないのか」についてのオリジナルのアイデアは「ホスト親がヒナを識別するのは学習によるしかない。卵なら托卵されていても自分の卵を見る機会が必ずあるが、 カッコウのヒナはホストの卵を排除してしまうので托卵されていると自分のヒナを学習できずにカッコウのヒナを自種のヒナと誤学習してしまうリスクがある。そしてこの誤学習は生涯適応度をゼロにしてしまうほどコストが大きい。だからホストはそもそも学習してヒナ排除しようとしない方が合理的なのだ」 「行動・生態の進化」(岩波書店 2006) で該当する解説が pp. 201-203 にある。
      オーストラリアでテリカッコウ類の托卵に対して卵排除せずにヒナ排除するホスト種 [Sato et al. (2010) Evicting cuckoo nestlings from the nest: a new anti-parasitism behaviour] とこれに対抗するテリカッコウ類のヒナ擬態 [Sato et al. (2015) Nestling polymorphism in a cuckoo-host system] が見つかったことで再考が必要になったとのこと (「Cuckoo」 "shorebird 進化心理学中心の書評など" の解説より)。詳しくはこのページか書物「カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック」pp. 191-198 をお読みいただきたい。 この本の pp. 197-198 には Lotem (1993) の理論的解釈に反してオーストラリアの宿主で托卵ひなの見分けが進化した理由として、渡り鳥の宿主では繁殖期間にゆとりがなくやり直しが行いにくいので、見分けて放棄することはリスクが大きいことや、 ルリオーストラリアムシクイ Malurus cyaneus Superb Fairywren は寿命が長いのでリスクの大きい行動も取れることを挙げている。 オーストラリアのスズメ目の寿命の長さについては #ミサゴ備考の Tim Low "Where Song Began" (2014) の解説も参照。その要因の一つとして挙げられる「北半球の生存条件の過酷さ」には北半球には小鳥食のタカの種類が多いことも挙げられるだろう (小鳥食のタカがアフリカやユーラシアから進化して適応放散したためオーストラリアには少ない)。
      「鳥の行動生態学」第7章「騙しを見破るテクニック 卵の基準、雛の基準」江口和洋 (京都大学学術出版会 2016) 「視覚の認知生理学」第4章「色を操る悪魔の子 - 托卵鳥ジュウイチの雛: - 鳥類における色を用いたコミュニケーションと、寄生者による搾取」種生物学会編 (文一総合出版 2014) でも日本語解説が読めるとのこと (いずれの本も持っていないのでタイトルのみ紹介しておく)。 Tanaka (2015) A colour to birds and to humans: why is it so different? 英文総説。
      Grim et al. (2008) Wing-shaking and wing-patch as nestling begging strategies: their importance and evolutionary origins はジュウイチのひなのシグナル進化を考えていて、餌をねだる行動は晩成性の鳥では普遍的にみられるもので、それに対する宿主の反応を引き出しジュウイチのパッチはそれを増強する効果があって進化したと考えている。
      「カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック」p. 206 ではジュウイチでひなが何羽もいるようなトリックを音声よりも視覚刺激で行うのは、宿主の巣 (地上性) が音から位置を突き止める捕食者に特に弱いためとの解釈が紹介されている。 同書 pp. 208-209 ではカッコウでは巣内ひなでも猛禽類に似た防御を行うとのことで、口内のオレンジ色はこれに役立つ可能性が挙げられている (猛禽類の足はなぜ黄色いのか: [#鳥類系統樹2024]にある)。 黄色を認識できる捕食者 (主に鳥か霊長類?) に有効なのだろう。 Jenner (1788) XIV. Observation on the natural history of the cuckoo. By Mr. Edward Jenner. In a letter to John Hunter, Esq. F. R. S. が出典とのこと。 またカッコウのひなに触れると悪臭ある茶色い液体の糞を排泄するという。
      [分身の術の2例目] ジュウイチのひな類似の2例目があるとのこと: Luo et al. (2019) Novel instance of brood parasitic cuckoo nestlings using bright yellow patches to mimic gapes of host nestlings インドシナジュウイチ Hierococcyx nisicolor Hodgson's Hawk-Cuckoo による コチャバラオオルリ Niltava sundara Rufous-bellied Niltava への托卵。これぐらい系統が近いと同じような習性があっても不思議でなさそう。2種みつかると解釈もしてみたくなる。 コチャバラオオルリではひなの口内は明るい黄色とのこと。反射スペクトルまで出ていないのでルリビタキのひなとどの程度違うのかわからないが (#カッコウの備考に Tanaka et al. (2011) Rethinking visual supernormal stimuli in cuckoos: visual modeling of host and parasite signals へのリンクあり)、ジュウイチ系統は熱帯の種類が中心で、チャバラオオルリ類などがこの系統の本来宿主で、たとえばジュウイチのひなの口内もそれに似せている可能性も気になった。 系統分類 (#オオジュウイチの備考) のところでも旧ジュウイチから4種に分離されたものでは青い部分のある鳥の宿主がよく現れる感じがする。 チャイロジュウイチでも青い部分のある鳥への托卵があるが、狭義ジュウイチ類 (系統 3) 以外の系統はチメドリ類など主に地味な鳥を托卵相手に選んでいる模様。狭義ジュウイチ類 (系統 3) で宿主を地上営巣性の青い鳥に広げて新たな分野に進出したのかも知れない。 これには短い波長を一層好むなど宿主側の色彩感覚も関係しているかも知れない (オプシン遺伝子の系統解析をすればわかるかも?)。 宿主の系統を考えるとオオルリ系統の方がルリビタキより一層ジュウイチ系統に向いた宿主の可能性があるかも知れない。ルリビタキやコルリは巻き添え (笑) ? もっとも卵の色の類似性から逆かも知れない。 ジュウイチがなぜ青い鳥に托卵するのか (最も適した宿主に似たものを選んでいる?)、この系統を考えると理解できる気もする。これら青い鳥が卵識別能力を進化させていない (かどうか知らないが) 理由も何かあるのだろう (留鳥の方が卵識別能力を進化させやすい理由は [ジュウイチのひなの分身の術] のように提案されているが、ここでも当てはまるのかも)。 熱帯の青い鳥グループからオオルリが進化して渡るようになったものに合わせて渡るようになったのがジュウイチ? (ほんとうか?)。#オオルリ備考の [オオルリはなぜ青い] も考えるとオオルリ系統は紫外線シグナルに特に感受性が高く進化していて、狭義ジュウイチ類はそれに特に適応したシグナルを発しているとか (このあたりになると妄想レベルだが...)。
      [オオルリはなぜ青い] で検討したように、小鳥食のタカ類が適応放散した結果、それに対応して熱帯スズメ目の青い形質が選抜されたりカッコウ類のタカ類、特に Tachyspiza 属 (ユーラシアでは主に熱帯から温帯) や狭義 Accipiter 属 (ユーラシアでは北方から温帯) への擬態が進化した可能性が考えられるが、 カッコウ類の分岐年代はタカ類ほと明らかでなくまだ議論が難しいかも知れない。Tachyspiza 属と Accipiter 属の共通祖先で 2200 万年前ぐらい [Catanach et al. (2024) の年代による]。 Tachyspiza 属がアジアに分布を広げたのが 1500-1000 万年前ぐらいと考えられるので、カッコウ類のうち最も新しい2属 (カッコウ属 Cuculus + ジュウイチ属 Hierococcyx) が特にタカ類に似ていることと対応しているようで興味深い [Thorogood and Davies (2013) Hawk mimicry and the evolution of polymorphic cuckoos (#カッコウの備考)]。
      小鳥食のタカ類が生じたことでスズメ目がタカ類への警戒を強め、その結果カッコウ類の托卵戦略に有利に働いたならばタカがカッコウ類を托卵への進化を推し進めたのかも知れない。年代考証などは定かでないがタカがカッコウを生んだ?? (古い時代にはカッコウは冬にはタカに変わるとされていたが、実は結構関係があるのかも知れない)。 古い時代のカッコウ類 (エボシドリ目、ノガン目 とともに Otidimorphae に属する) はタカに似た生態を持つ捕食者だった可能性も考えられ (#カッコウ備考の [カッコウ類の足と近縁系統])、 趾の立派な爪を持たないカッコウ類は新しく現れたタカ類に地位を奪われたかも知れない。捕食者だった時代の隠蔽色の基本的な祖先形質が引き継がれてタカに似た模様が出しやすいとか (森林での捕食者だった時代は縞模様だったとか...ほんとうか??)。続きは#カッコウ備考 [カッコウのタカへの擬態] へ。
  • ホトトギス
    • 学名:Cuculus poliocephalus (ククルス ポリオケパルス) 灰色の頭のカッコウ
    • 属名:cuculus (m) カッコウ
    • 種小名:poliocephalus (合) 灰色の頭の (polio- (接頭辞) 灰白色の kephali 頭 Gk)
    • 英名:IOC: Lesser Cuckoo
    • 備考:単形種。 世界の多くの言語で英語と同様に小さいカッコウの名前になっている。中国語も同様。ドイツ語では比較的珍しく小さいの意味は含まれておらず Gackelkuckuck (声由来) または Roetelkuckuck (色彩由来)。 英語旧名の Little Cuckoo は現在は南米からパナマのヒメリスカッコウ Coccycua minuta に使われる (我々の想像するカッコウとは似ていない)。
      [Cuculus (カッコウ) 属の系統分類] 現在の標準的な系統分類を紹介しておく。

      カッコウ科 Cuculidae: Cuckoos
       カッコウ亜科 Cuculinae: Cuckoos
        カッコウ族 Cuculini: Old World Parasitic Cuckoos (Boyd)
         カッコウ属 Cuculus
          クロカッコウ Cuculus clamosus Black Cuckoo (アフリカ中南部)
          チャムネカッコウ Cuculus solitarius Red-chested Cuckoo (アフリカ赤道以南で繁殖)
          ホトトギス Cuculus poliocephalus Lesser Cuckoo
          セレベスジュウイチ Cuculus crassirostris Sulawesi Cuckoo
          セグロカッコウ Cuculus micropterus Indian Cuckoo (インドから東アジア)
          マダガスカルホトトギス (a) Cuculus rochii Madagascar Cuckoo
          アフリカカッコウ (a) Cuculus gularis African Cuckoo (アフリカ中南部)
          ヒマラヤツツドリ (b) Cuculus saturatus Himalayan Cuckoo (パキスタンからミャンマー、中国)
          ツツドリ (b) Cuculus optatus Oriental Cuckoo
          スンダツツドリ (b) Cuculus lepidus Sunda Cuckoo
          カッコウ Cuculus canorus Common Cuckoo

      セグロカッコウまではそれぞれ分岐順。(a) マダガスカルホトトギス、アフリカカッコウ、(b) ヒマラヤツツドリ、ツツドリ、スンダツツドリ (これらは最近分割されたもの) はそれぞれで系統を作る。カッコウの位置は最後でなく、(b) の系統の前でもよい。 このように見るとカッコウ属の中でもホトトギスが古い系統にあたること、起源がアフリカであることがわかる。
      [分類と亜種] 亜種 assamicus (インド、アッサム地方由来) も記載されているが通常は poliocephalus のシノニムとされる。 インド亜大陸の個体群は高所 (標高 1500-3200m) で繁殖し、冬はインド亜大陸の低所や南部に広く移動するとある。
      Dement'ev and Gladkov (1951) では他に亜種 lepidus (スンダ列島)、insulindae (ボルネオ) が含められているが、この扱いは Check-list of the Birds of the World (Peters 1940) に従っている。 その後この2亜種はツツドリとともに Cuculus saturatus の亜種として扱われていたが、現在はこれらはスンダツツドリ Cuculus lepidus Sunda Cuckoo と分離されている。 比較的最近までホトトギスの分布域 (越冬地?) に東南アジアを含めている書物 (複数の亜種に分かれ、などの形で紹介されていた) もあったが、この時代の分類の名残りかも知れない。
      近縁の種類の一つにマダガスカルホトトギス Cuculus rochii Madagascar Cuckoo があり、同種とされたこともあるが、近年の系統樹ではホトトギスの方が古い分枝にあたり、それほど近いわけではない。 Becking (1988) The taxonomic status of the Madagascar cuckoo Cuculus (poliocephalus) rochii and its occurrence on the African mainland, including southern Africa がこれらを別種とした論文。 マダガスカルホトトギスはマダガスカルで繁殖するが非繁殖期はアフリカ大陸赤道部、インド洋の島にも渡るとのこと。アルダブラタイヨウチョウ Cinnyris sovimanga Souimanga Sunbird への托卵例が知られている。 音声はホトトギスと少し異なってあまり抑揚のない3-4音からなる。似ているといえば多少似ているが、この論文では音声の違いも別種の根拠としている。
      [渡りと越冬地] インド亜大陸の低所や南部以外の他の既知の越冬地はサハラ以南の東から南アフリカ。アフリカ越冬地では通常はあまり出会う鳥ではないが、ケニア、タンザニアの沿岸の林で南半球の夏遅くから秋の早い時期にまとまった数が観察されているとのこと。 先述の Becking (1988) ではホトトギスの渡りと越冬地も考察されており、日本を含む東の個体群はアンダマン諸島を通ってスリランカ、西の個体群は南インドに渡ると考えている。南インドではかなりの数が冬に見られる。 スリランカではアフリカや周辺の島に渡る前に特に多いとのこと。スリランカの標本は9月から2月初め、4月から5月に採集されているとのこと。 アフリカは海岸部のケニア、タンザニアまたはその北部にまず渡り、11月から4月に記録されるとのこと。アフリカ中央部でも多くの記録があるとのこと。越冬地では鳴かなく潜行性なので気づきにくいが実際には多くの数がいると考えられる。 一部のホトトギスは経由地としてセーシェル (秋、春の渡りとも) を用いているとのこと。
      南アフリカでの赤色型 (hepatic/rufous morph) の報告例もある [Davies and Dvir (2020) Cuculus poliocephalus in South Africa, and the field identification of this morph in the Afrotropics]。
      日本など東アジア個体群がどこで越冬しているかはよく調べられていないが Becking (1988) の考察のようにカッコウ同様にインド洋を越えているのかも知れない。多くの国のカッコウのアフリカへの渡りについては#カッコウの備考参照。 Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol. 1-2) によれば越冬域はアフリカ南東部が示され、(南アジア?) が付記されている。
      ホトトギス、カッコウともにアフリカが起源らしいこと、両者とも広義ハイタカ Accipiter 属に擬態しているらしいことからホトトギスの進化を考えてみると、アフリカからマダガスカルに渡るようになったものがマダガスカルホトトギス (マダガスカルで進化したものでも構わない)、さらに遠くまで分布を広げたものがホトトギスと考えることができるだろう (なお現代の系統樹はホトトギスの方が先に進化したことを示唆する)。 この状況はカッコウに非常によく似ている。カッコウの場合はハイタカが東に分布を広げるのを利用してユーラシア東端まで到着、しかしどちらかと言えば北方系 (#カッコウの備考 [カッコウのタカへの擬態] 参照。ツツドリは北方にも分布だがアフリカとは縁が切れている)。 ホトトギスは主に南方系のツミ属またはアカハラダカ属 Tachyspiza の分布拡大を利用したように見える。ホトトギスのインド亜大陸の個体群がもしインド南部で越冬するならばカッコウの亜種 subtelephonus, bakeri に対応しており、長い渡りを省略するようになったものか。 マダガスカルには狭義ハイタカ属のマダガスカルハイタカ Accipiter madagascariensi が生息する。 Tachyspiza 属の北限がツミで、ホトトギスが世界的にもあまり北に分布を広げなかった要因にもなっているかも知れない。 広義ハイタカ Accipiter 属中、Tachyspiza 属の方が狭義ハイタカ Accipiter 属より少し早く分岐した系統で、ホトトギスの方がカッコウより古い系統であることにも対応しているかも知れない。
      ホトトギスの社会構造の研究があり、同一地域に遺伝的に近縁でない複数のオス・メスが存在し、乱婚状態らしい。この形態は高等脊椎動物では珍しいとのこと: Yun et al. (2019) Home range overlap and its genetic correlates in an avian brood parasite, the lesser cuckoo Cuculus poliocephalus。 電波トラッキングも行われているのでそのうち渡り経路も解明されるか? 韓国済州島で環境嗜好性を調べた論文: Yun et al. (2020) Habitat selection in the lesser cuckoo, an avian brood parasite breeding on Jeju Island, Korea
      中国東部でカッコウ類が鳴く時間帯を調べた論文: Mei et al. (2022) Diurnal and Seasonal Patterns of Calling Activity of Seven Cuculidae Species in a Forest of Eastern China。 ホトトギスは夜にも鳴く印象が強いが、計測してみると夜明け前数時間に集中的に鳴く。夜も鳴くが昼間はそれほど鳴かない。カッコウは圧倒的に昼に鳴きやはり夜明け前に急ピークを迎えるが夜間もわずかに鳴く。 ヒマラヤツツドリが最も昼間に限定されている。夕方に再度ピークがある (これらの点はツツドリも同様か?)。セグロカッコウはやや不規則とのこと。 夜に鳴く役割には渡り途中のメスを引きつける効果、夜間は音声面で他の鳥と競合しにくい、夜間の方が音声が遠くまで届く、捕食者が少ないなどの理由が提案されているとのこと。 季節変化も調べられており我々の印象にも近い。ホトトギスの飛来が一番遅い点は我々と同じよう。論文には特に述べられていないがカッコウ同様遠くから渡ってくるためだろうか。
  • セグロカッコウ
  • ツツドリ
    • 学名:Cuculus optatus (ククルス オプタトゥス) 待望のカッコウ
    • 属名:cuculus (m) カッコウ
    • 種小名:optatus (adj) 望ましい
    • 英名:Oriental Cuckoo
    • 備考:長らくヒマラヤツツドリ (現名称) Cuculus saturatus (英名 Himalayan Cuckoo) の亜種と考えられており、現在でもこの学名や対応する現地名を使っている出版物も多い (日本、海外とも)。 これらが別種とされていなかった時代には3種類 [ツツドリ、ヒマラヤツツドリ、スンダツツドリ Cuculus lepidus (英名 Sunda Cuckoo)] は Cuculus saturatus の亜種として扱われていた。 しかしこれらを指す英名が Oriental Cuckoo とされていたため、狭義の Cuculus saturatus が Oriental Cuckooと呼ばれることも多く、しばしば誤解の原因となっている。分離されてこれらはすべて単形種となった。 Oriental Cuckoo のタイプ標本はヒマラヤ産なので、Cuculus saturatus を "Oriental Cuckoo" と呼ぶことは論理的にはふさわしい (wikipedia 英語版より)。日本語で扱っている範囲では誤解の心配はないが、英語で記述する際は新旧いずれの分類に基づいているかを明確にするために種小名 (optatus) を添えておくとよい。
      Xia et al. (2016) Song Characteristics of Oriental Cuckoo Cuculus optatus and Himalayan Cuckoo Cuculus saturatus and Implications for Distribution and Taxonomy 公開データを用いた中国と周辺のツツドリ、ヒマラヤツツドリの音声による分布の検討。中国本土では北部と南部で種が違うが、ヒマラヤツツドリの分布に隣接する台湾のものはツツドリ。
      [種小名の由来] 種小名が saturatus だった時代には「濃い色の」の意味であまり問題にならなかったが、「望ましい」の語源はわかりにくい。Gould (1848) Cuculus optatus, Gould., Australian Cuckoo によれば、オーストラリアに英国より入植があったが、故郷の鳥がまったくいないので寂しく思っていた (もっと派手な鳥がいるのに)。 おかげで外来種もたくさん入植したわけであるが、さすがにカッコウは持ち込めなかった。そこで発見された「待望の」(故郷のものに似た) カッコウだったことが由来とのこと。 Cuculus saturatus の亜種とされていた時は Cuculus saturatus horsfieldi (英名 Horsfield's Cuckoo) とされており、Cuculus horsfieldi の学名もしばしば使われたが、通常は Cuculus optatus のシノニムとされる [Cuculus horsfieldi Moore, 1857 なので Cuculus saturatus optatus Blyth, 1843 より遅い]。 英名の Horsfield's Cuckoo は現在でも別名として使われることがある。ヒマラヤツツドリは台湾まで分布しており、日本でも記録される可能性がある。
      Bachurin and Kapitonova (2010 初出, 2023 再掲) To the reproduction of the Oriental cuckoo Versiculus horsfieldi on Sakhalin (pp. 1751-1752) にサハリンのツツドリ (用いられている学名があまりに違うので何かわからないぐらい) の生態がある。2008-2009 年の観察で見つかった托卵相手はカラフトムジセッカ、キマユムシクイだったとのこと。アオジの巣はたくさん見つかったが托卵されていなかった。
      ツツドリは英名から東アジア地域の種の印象を受けるが、シベリアの分布は西にも広く、レニングラード州まで記録されている: Kharabry (2023) New registration of the Oriental cuckoo Cuculus optatus in the Leningrad Oblast (pp. 2716-2717)。 分布の西端はよく調べられておらず、2023年6月のこの記録はおそらく漂行と考えているが Lapsin (2015) がすでに白海に隣接するカレリア共和国でツツドリを記録したように、分布拡大過程を見ている可能性もある。ルリビタキ、ヒメウタイムシクイ、マキノセンニュウ、コムシクイもここにいる、と記述されており、托卵候補種を指している模様だが、同様に過去に分布拡大を果たしたらしい種も入っている。
      アフリカのザンビアで赤色型ツツドリの記録がある [Mann (2013) First record of Oriental Cuckoo Cuculus saturatus optatus in Africa]。
      Mikula et al. (2024) Climate change is associated with asynchrony in arrival between two sympatric cuckoos and both host arrival and prey emergence ロシアのモスクワとウラル山脈の間ぐらいに位置する Kazan' ではカッコウとツツドリが渡来する。ここではカッコウの方が先に到着する。1988-2023 年の間の渡来 (初認ではなくテリトリー行動に着目して調べている) はいずれも早くなっているが、宿主の渡来時期の変化の方が大きいとのこと。 もっとも図を見ると調べられた種類で早くなっていないものも多数あるので、気候変動が一律に渡り時期に影響しているわけではなさそう。カッコウ類の宿主となる種は早くなる傾向が強い。 具体的な数字は論文を見ていただきたい。ヨーロッパのカッコウについては同様の研究は過去からあるがツツドリが含まれる点が目新しい。
      [ツツドリとカッコウの中間のような鳴き声] ロシアでも極東からカムチャツカに広く分布し、ロシア語名は glukhaya kukushka (低い、あるいは深い声のカッコウ)。The song of birds (ウスリー地方のタイガの鳥の声)に収録されている (この音声ビデオは日本との共通種が多いので楽しく聞けるだろう) が、日本で聞くツツドリとは少し違う声に感じる。 この声とも類似する点が感じられるが、ツツドリとカッコウの中間のような鳴き声は極東でよく聞かれ (舳倉島でも海外バーダーによる記録がある)、ツツドリとカッコウの雑種ではないかとの推測もあったが、飼育下実験も含めて正体が判明した [Meshcheryagina and Opaev (2021) Previously unknown behavior in parasitic cuckoo females: male-like vocalization during migratory activity]。 飼育下実験で紫外線量を変化させて季節を模倣したところ、ツツドリ (仮親の巣から採取) のメスが春の渡りに相当する時期にこの声を出すことが判明した。野外でこの声が記録された場所や時期とも整合する。なお1羽は飼育下産卵も行った。日本内地でも渡り時期にこの声が聞かれる可能性があり注意が必要であろう。もし離島や大陸でしか聞かれない音声ならばさらに別の要因の考察が必要になるだろう。
      [ツツドリのさまざまな声] 松田 (2022) Birder 36(5): 32 に日本海側でのツツドリのイヌのような声を紹介している。 この音声と同一かどうかはわからないが、上記 Meshcheryagina and Opaev (2021) のメスのツツドリの声が紹介されている XC624322 と備考参照。「犬鳴き」と言えるような気がする。この研究者が複数のデータを提供しているので同リンク先を見ていただきたい。 これもメスの別タイプの声 XC624316。 以下は別の観察者による野外録音でさえずりの一種としている XC376538。 次は北海道で記録されたオス・メスのコンタクト中と思われる音声 XC286245。次もツツドリの変わった声とのこと XC114546 (プロジェクトM2024/鳥獣保護区をあるく 2024年度夜間録音調査報告 (真鍋直嗣 2024.7.7)「今年はツツドリにも数種の鳴き声があるのではという疑問が録音を聞いていて湧いた」に対応して音源へのリンクを追加)。
      蒲谷 (1995)「野鳥」1995年11月号 (No. 585) p. 42 にツツドリのオスが最初「クワッ、クワッ」という低い声を出すことが多く、他のツツドリが近くにやってくると「クワッ、クワッ、カッカッ」と興奮したように鳴くと説明している。蒲谷氏によるホトトギス、カッコウ、ツツドリのメス (およびオス) のソノグラムが比較掲載されている。 デュエットの際のカッコウの3音節鳴き (#カッコウの備考 [カッコウの声の話題]) もソノグラムに記録されている。
  • カッコウ
    • 学名:Cuculus canorus (ククルス カノルス) 声の美しいカッコウ
    • 属名:cuculus (m) カッコウ
    • 種小名:canorus (adj) 声の美しい
    • 英名:Cuckoo, IOC: Common Cuckoo
    • 備考:4亜種が認められている(IOC)。 多くの言語でカッコウの声をそのまま取り入れた名称が使われていることはよく知られているが、ウクライナ語では違っていた。zozulya (発音規則からはおそらくズズーリャまたはゾズーリャと読む)。 カッコウまたはオカリナの意味があるようだが語源的関連は不明。子音交代 (k → z) の起きた類似単語もあるので、あるいはもとをたどれば音声由来かも知れないがそこまではわからなかった。
      [カッコウの衛星追跡] カッコウはなぜ他の鳥に比べて比較的遅く渡ってくるのか、あるいはヨーロッパのカッコウ (日本と同種) はなぜ日本より早く渡ってくるのかに疑問を持たれた方もあるだろう。図鑑のカッコウの分布図では東南アジアやインドにも越冬域が示されていて、日本のカッコウはそこで越冬していると考えるのも自然であろう。 実際に Cramp (1985) The Birds of the Western Palearctic Vol. 4 によれば、ヨーロッパで繁殖する個体群はアフリカに渡り、中国、モンゴル、極東シベリアで繁殖するものはインド南部や中国、ベトナム、マレーシア、インドネシアで越冬するに違いないと考えられていた。
      最近の衛星追跡による研究で東/北東アジアのカッコウもヨーロッパと同じくアフリカのサハラ以南で越冬していることが次々と明らかになりつつある: The Beijing Cuckoo Project (2016) (北京)、The Mongolian Cuckoo Project (2019) (モンゴル)、 カムチャツカのカッコウは 17000 km にも及ぶ渡りを行っている: Sokolov et al. (2017初出の速報論文, 2020再掲) Migration routes and wintering places of European and Asian populations of the common cuckoo Cuculus canorus (pp. 2150-2153)。 これによればカムチャツカで春に捕獲 (成鳥、若鳥とも)。秋の渡りではヨーロッパ個体群と異なりバルカン半島を通過。サハラ砂漠を通過した後はいずれの個体群も同様でサヘル地域にしばらく滞在したとのこと。 カムチャツカの個体群はヨーロッパ個体群より南のアンゴラで越冬したとのこと。 北京近郊で標識されたカッコウの記録も触れられていて、5羽のうち少なくとも2羽は基亜種に属するとのこと。さらに春の飛行を続けてバイカル湖とモンゴルの間で夏を過ごし、8-9月に秋の渡りを始めて南へ渡り、ミャンマーに到着後西に移動、インドで1か月を超える休息をとり、アラビア海を超えて11月初めにはアフリカのソマリに到着。その後南に向きを変えてアフリカ東岸に沿うように南下してモザンビークで越冬。 春の渡りは秋のコースをほぼ逆行するものであった。これらの結果は東シベリアで繁殖するカッコウもこれまで考えられていた東南アジアやインドでなく、アフリカ東部で越冬することが明らかになった。 Lee et al. (2023) Long-distance migration of Korean common cuckoos with different host specificities (韓国)。 韓国のケースでは渡りルートは行き帰りともほぼ同じ。越冬地は3月に出発するが途中でしばらくとどまる。海を越えるための風の条件などが必要。
      これらの事例を見ると日本のカッコウもおそらく同様と考えられ、ヨーロッパに比べて日本へのカッコウの渡来が遅いのはアフリカからの距離が遠いことを反映している可能性がありそうである。
      なおヨーロッパのカッコウの渡りについてはよく知られていて、例えば Cuckoo Tracking Project のように公開されている。 東欧やロシア西部の例: Sokolov et al. (2023) Migration Routes and Wintering Grounds of Common Cuckoos (Cuculus canorus, Cuculiformes, Cuculidae) from the Southeastern Part of the Baltic Region (Based on Satellite Telemetry)
      The cuckoo sheds new light on the scientific mystery of bird migration の記事によれば捕獲されたデンマークからスペインに移動して放した個体が正しいルートで渡ったとの実験がある。捕獲された場所に一度戻った個体もある。成鳥なのですでに渡りを経験済みと考えられ、完全に本能のみで渡る幼鳥でも調べる必要がある。 同様の実験はカムチャツカ個体についても行われており、同様の結果となっている (上記 Sokolov et al. 2017)。
      こちらは移動して放したものではないが、カッコウ若鳥の渡り追跡: Vega et al. (2016) First-Time Migration in Juvenile Common Cuckoos Documented by Satellite Tracking 若鳥でも問題なく越冬地に到着し、成鳥とはタイミングが異なっていた。若鳥が自身の本能のみで越冬地に到着できることを示したもの。
      捕獲、標識、追跡タグ付けのビデオが紹介されている。カッコウの捕獲の難しさは悪評があるぐらいだそうである。解説: カッコウをどのように捕獲するか。網から簡単に逃げてしまい、羽毛の性状からかすみ網にかかりにくい。 ビデオ: How to Tag a Cuckoo
      [日本のカッコウ亜種の問題] 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では日本の亜種は telephonus (これは現在は通常 subtelephonus のシノニムとして扱われている) とされているが、Avibase (情報出典 Clements checklist) では基亜種 canorus がヨーロッパからシベリア、日本にかけて分布し、アフリカで越冬するとされていて日本鳥学会の見解と異なる。 亜種 subtelephonus はトルキスタンからモンゴル南部で越冬地は南アジアとアフリカ、亜種 bakeri は中国西部、北インド、ネパール、ミャンマー、タイ北西部の分布としている (長い渡りをしない)。
      Brazil (2009) の "Birds of East Asia" でも亜種 canorus は中国北東、日本、(シベリアから)チュコト半島、カムチャツカ、コマンドル島まで普通の夏鳥で、台湾では迷鳥とされており、この書物の扱う範囲では亜種 subtelephonus の記載はない。 Dement'ev and Gladkov (1951) の分布図でもシベリア東部、朝鮮半島、日本は亜種 canorus の扱いである (越冬分布にインドネシアやマレーシアも含まれているので越冬地では別種との混同があった可能性がある)。亜種 telephonus についても記述があり、腹部の縞が比較的狭く、やや小型であるとされているが、年齢や個体差もあって Dement'ev and Gladkov は亜種として区別できないとしている。 なおこの亜種名は Cuculus telephonus Heine, 1863 に由来する。同書では中国東部は亜種 fallax の扱いとなっているが、この亜種は現在は 亜種 bakeri のシノニムとして扱われている。この分布図と上記 Clements checklist での bakeri の現代的な分布の記載との整合性はあまりよくない。
      Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol. 1-2) による亜種区分では日本北部は canorus の分布域となっており、アフリカに渡るとされる。 同リストでは subtelephonus の分布域は南ウラル、中央アジア、カザフスタン、アフガニスタン、パキスタン、中国北西部でこれらもアフリカに渡るとされている。 他亜種も含めて同リストではアフリカ以外の越冬域は示されていない。
      日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント(2024)で日本産亜種は canorus となった。
      [青い卵を産むカッコウ] 青い卵を産むカッコウが知られている。Fossoy et al. (2016) Ancient origin and maternal inheritance of blue cuckoo eggsおよび日本語解説 によれば、この「青い卵」の遺伝子は母性遺伝することが明らかになった。ミトコンドリアの系統樹ではこの「青い卵」は他のカッコウ類 (例えばツツドリ) が種分化する以前に現れていた (ミトコンドリアで系統樹を描くと核 DNA による系統樹と別になってしまう)。他の点は全てカッコウだが、青い卵だけは別種相当ぐらい違っている、との驚くべき結果となった。
      [カッコウの渡来時期は何で決まる?] ヨーロッパのカッコウであるが、Davies et al. (2023) Spring arrival of the common cuckoo at breeding grounds is strongly determined by environmental conditions in tropical Africa 多数の個体を衛星追跡した結果、ヨーロッパへの到来時期を決めているのは従来想像されていたような渡り途中の条件ではなく、アフリカの越冬地をいつ出発するかが重要であることがわかった。 多数の個体が同じ時期に移動することがわかり、越冬地からサハラ砂漠を越える渡りに適した条件に許される幅が狭く、あまり融通が効かないのだろうとのこと。また前年の秋の渡りからの持ち越し効果も考えられるとのこと。
      森下 (2005) Birder 19(5): 38-39 によれば 1998 年のカッコウやホトトギスの渡来が1か月ほど遅れたが翌年は平常だった報告がある。古い話なので検索しても当時の状況が出てこないが、カッコウの出発が越冬地で決まり、日本のカッコウも (ホトトギスも?) アフリカで越冬するならば当時のアフリカの気象などを調べればヒントが得られるのかも知れない。 この年は最も強力なエル・ニーニョ現象が起きており 199798 El Nino event 越冬地の出発時期に影響を与える事象があったのかも知れない。 同年にヨーロッパのカッコウの渡来が遅い記事は探した範囲で見つからなかったが、極東のカッコウは東アフリカが経路になりそうなので気候の影響はヨーロッパの個体群とは違うかも知れない。
      [カッコウの声の話題] Moskat and Hauber (2021) Male common cuckoos use a three-note variant of their "cu-coo" call for duetting with conspecific females オスのカッコウはメスがいる時には3音節のフレーズでデュエットをする。メスは "bubbling calls" を用いる。 Moskat and Hauber (2022) Syntax errors do not disrupt acoustic communication in the common cuckoo オスのカッコウの2音 ("cu-coo") の順序を入れ替えたりして反応を調べた。オスは最初の "cu" 音の1音だけでも反応し、入れ替えても "cu" 音があれば反応したとのこと。メスがいる時に出す3音節のフレーズには反応しなかったとのこと。この声は少し音程が高く間隔が短く、通常の "cu-coo" とは異なる役割を持っていると考えられる。
      [カッコウのタカへの擬態] カッコウ類の模様がタカへの擬態となり托卵に有利に働いたりタカに捕食を防ぐとの考えは昔からあったが宿主がどのように反応するかを調べた研究がある。 Davies and Welbergen (2008) Cuckoo-hawk mimicry? An experimental test。 下面の模様をハトのようにすると小鳥 (ヨーロッパシジュウカラやアオガラ) の警戒が激減し、カッコウの模様をハイタカのように認識している証拠が初めて得られた。これらカラ類はカッコウによる托卵を経験することはなく、カッコウをタカと誤認していることがわかる。 ちなみにタカの横縞は枝の中では目立たない (Newton 1986)。タカとカッコウの収斂進化による模様との考えもある。タカへの擬態でタカに捕食を防ぐ考えは Wallace (1889) に始まる。 タカと誤認させることによる行動で宿主が巣の位置を明らかにしてしまう (Craib 1994) など。
      Ma et al. (2018) Hawk mimicry does not reduce attacks of cuckoos by highly aggressive hosts によれば攻撃的な宿主 (ここではオオヨシキリ) に対して、宿主はカッコウと無害な鳥を区別するがカッコウへの攻撃は減らずタカへの擬態はあまり有効でない結果が得られた。宿主によって反応が異なる模様。 Zhao et al. (2022) Fatal mobbing and attack of the common cuckoo by its warbler hosts によればオオヨシキリの攻撃で死んだカッコウがあるとのこと。 Wang et al. (2023) Importance of cooperation: How host nest defenses effectively prevent brood parasitism from the cuckoos によればオオヨシキリが3羽以上で協力すればカッコウの托卵を効率的に防ぐことができるとのこと。宿主と同種個体の協力行動まで関係してきた。
      Attwood et al. (2023) Aggressive hosts are undeterred by a cuckoo's hawk mimicry, but probably make good foster parents のように、攻撃的な宿主に托卵する方がその後の巣の防衛など托卵側にとっても有利な点がある議論もある (この論文ではアフリカカッコウ Cuculus gularis African Cuckoo とクロオウチュウ Dicrurus adsimilis Fork-tailed Drongo の関係を扱っている)。
      我々もしばしば猛禽類のように思ってしまう (?) カッコウ類の地鳴きもメスが托卵する際にタカを音声で擬態して宿主を脅している可能性も指摘されているそうである: York and Davies (2017) Female cuckoo calls misdirect host defences towards the wrong enemy。 ヨーロッパヨシキリ Acrocephalus scirpaceus Eurasian Reed-Warbler はオスのカッコウの声には特に反応を示さないが、メスの声に対してタカの声同様に注意するとのこと。 なお Tryjanowski et al. (2018) Functional significance of cuckoo Cuculus canorus calls: responses of conspecifics, hosts and non-hosts によればオスのカッコウの声への反応は種によって違いがあり、ヨーロッパヨシキリの上記結果は一般則というわけではなさそう。 この論文では人の居住地近くに営巣する種類はカッコウの托卵や猛禽類が近づくのを防ぐ意味があると説明している (#ジョウビタキの備考も参照)。 [カッコウの声の話題] の項目も参照すると3音節のフレーズの意義がまだわかっていなかった時代の研究のため、実験デザインや解釈は少し注意が必要かも知れない。
      Wang et al. (2022) Female Cuckoo Calls Deceive Their Hosts by Evoking Nest-Leaving Behavior: Variation under Different Levels of Parasitism によればメスのカッコウの声で宿主が巣を離れる行動が観察され、托卵を有利に進めているとのことだが、必ずしもタカの声を真似ているわけではなく、音声の質が注意を逸らせる結果になっている可能性もある。 Moskat and Hauber (2023) On the sparrowhawk-like calls of female common cuckoos: testing for heterospecific vocal mimicry in a conspecific functional context。 カッコウのオスがカッコウのメスの声、ハイタカの声などに反応するかを調べた研究。 基本周波数は似ているが倍音が異なるためにカッコウのオスは音の質で同種メスを聞き分けている模様。 ハイタカの声も倍音をそれらしく操作するとカッコウのオスの反応が増したとのこと。 タカに音声で擬態するとともに同種内の信号として役立てているらしい。
      猛禽類の音声に対する忌避反応については #カンムリワシ備考の [霊長類はなぜヘビを恐れるか] も参照。霊長類の例だが 50-100 年間被食経験がないと音声を警戒しなくなったとのこと。カッコウ類の宿主でも過去に猛禽類に襲われる、あるいは他個体の逃避反応を通じて音声との関連を学習した個体がタカらしい声に反応しているかも知れない。
      Medina and Langmore (2015) Coevolution is linked with phenotypic diversification but not speciation in avian brood parasites にも紹介がある。 托卵性のカッコウ類では非托卵性のものに比べて色の進化は3倍早く、下面の縞模様、黄色の目と足などのタカに似た形質は速く進化するがそれ以外の色彩進化は速くなかった。色彩でタカに似ているのは偶然ではなく有利との仮説を裏付ける。 アカメテリカッコウ Chrysococcyx minutillus Little Bronze-Cuckoo では縞模様があるが、近縁のミミグロカッコウ Chrysococcyx osculans Black-eared Cuckoo では失われているなど (擬態に必要な) 進化が短時間で起きることを裏付ける (なおミミグロカッコウはオーストラリア内陸部に分布で小鳥食のタカ類が少ない)。 オオチュウカッコウ類 Surniculus がオウチュウに擬態していると考えられることもカッコウ類では多様な種に対する擬態が色彩進化 (ただし種分化にそのままつながるわけではない) を促した可能性が考えられる。 しかしながら、同じく托卵性のミツオシエ類 (キツツキ目) では逆の傾向になっていて、色彩も目立たない。隠蔽色が托卵に有利かどうか検証が必要である。 広範な種類を托卵相手にするグループほど表現形が多様と予測できるが、托卵相手が一番多様なミツオシエ類では逆になっている。 宿主の種類 (ここでは属) が広範かつ地理的に分布が重なっている托卵種 (例えばオーストラリアの托卵種) の間で競争があり、その結果より精密な擬態が進んで表現形の進化が速い可能性がある。 カッコウ Cuculus 属では托卵性カッコウ類の中でも表現形の進化が比較的遅いが、これは托卵種の間で宿主の重なりが小さく、地理的に広範に分布している (旧世界に広く分布) ためとも解釈できる。 この論文で調査対象となったのは世界の3大托卵系統である托卵性カッコウ類、ミツオシエ類、テンニンチョウ科 Viduidae とのこと。他の系統にも托卵種は存在するがここでは解析対象とはなっていない。
      Gluckman and Mundy (2013) Cuckoos in raptors' clothing: barred plumage illuminates a fundamental principle of Batesian mimicry カッコウ類の縞模様は同所的に生息するタカに似ている。他の地域のものとは関連がないとのこと。
      さらにカッコウ類の系統進化と模様の進化、色彩の多形の関係を調べた論文: Thorogood and Davies (2013) Hawk mimicry and the evolution of polymorphic cuckoos タカに似ているかどうかの系統樹を見るだけで十分面白いと思う (この文献の系統樹でカッコウ類全体の系統関係もわかる)。我々が日本で普通に出会うカッコウ類は カッコウ属 Cuculus とジュウイチ属 Hierococcyx で、カッコウ類の一番新しい系統になる。 これらの系統は #ジュウイチの備考で考察のように Tachyspiza 属や狭義 Accipiter 属の分布とよく合っているため、我々が普通に出会うカッコウ類は皆タカに似て見えるのだろう。 この文献ではジュウイチはタカに似ているマークが付いていないが、種が分離された後の情報をチェックしていないのか? フィリピンジュウイチもマークが付いていないがミナミツミでよいだろう (#ジュウイチの備考)。 これらも含めるとカッコウ属、ジュウイチ属 (すべて托卵性) でタカに似ていないのは系統的には最も古いクロカッコウ Cuculus clamosus Black Cuckoo (アフリカ南部) 1種のみとなる。サバンナ型と森林性の2亜種があり、サバンナのものは黒いとのこと (サバンナには小鳥食のタカがいないと思えば納得できる)。 森林性のものは喉が赤く腹は縞模様ものがあるようで Cuco negro (Cuculus clamosus) のようで、"Hawk-like, polymorphic" に分類してよさそう。 Coucou criard - Cuculus clamosus でも写真が見られる。 対応するタカ類は複数考えられるが ムネアカオオタカ Aerospiza toussenelii、同種ともされる アフリカオオタカ Aerospiza tachiro、ニシアフリカツミ Tachyspiza erythropus Red-thighed Sparrowhawk などが有力か。広義 Accipiter 属は熱帯ほど赤みの多い種類が増えるので色の対応はよい。
      以降の話は Catanach et al. (2024) の系統樹と比較しながら見ていただくとわかりやすいだろう。 広義 Accipiter 属の最初に分化したアフリカオオタカ属 Aerospiza はアフリカで適応放散を遂げたため、同地で適応放散したカッコウ属には非常に都合がよかった可能性がある。ツミ属またはアカハラダカ属 Tachyspiza もアフリカ由来系統。 カッコウ属 + ジュウイチ属の共通祖先 (おそらくアフリカ発祥) でタカ類の適応放散に合わせた擬態を確立させたのだろう。 TimeTree のツールを使ってみるとカッコウとジュウイチの分岐年代は1270万年前ぐらいとなる [文献は Price et al. (2014) Niche filling slows the diversification of Himalayan songbirds とのこと]。タカ類のアフリカでの適応放散時期とよく合っている。
      他の托卵系統のカッコウ類では Surniculus 属 (オオチュウカッコウ類) はタカではなくオオチュウ類に。ただし擬態が有効かどうかはよくわからない。Surniculus 属の分布域にも現在はタカは存在するので、タカがいないのでオオチュウ類に、というわけではなさそう。 オオチュウ類 (Dicruridae) の適応放散の時期は見積もられていて [Pasquet et al. (2007) Evolutionary history and biogeography of the drongos (Dicruridae), a tropical Old World clade of corvoid passerines] アジアで 1190 万年前、アフリカで 1330 万年前とのこと。広義 Accipiter属もあまり違わないのでオオチュウ類の方が先に現れてそちらが先に選ばれたのかも知れない。 オオチュウ類はスズメ目のカラスにつながる系統で、常識的に考えればタカの方がずっと古くからいるように思えるが、実はどちらが早いか微妙なぐらいにタカは結構新しい。Surniculus 属はアジアに分布なので、おそらくアジアのオオチュウ類の適応放散に合ったものだろう。 Surniculus 属に近縁の Cercococcyx 属 (オナガカッコウ類) はアフリカに分布でタカのような縞模様。 Cercococcyx 属 + Surniculus 属 の系統はいずれもタカかオオチュウ類を真似ているようだが、後者がアジア (タカ類到着が少し遅れたかも) だったためオオチュウ類を選択したかも。
      さらに系統を遡ると Cacomantis 属 (ヒメカッコウなど) でアジアからオーストラリアに分布。多くはタカのような模様があるが、古い系統の種にはないものもあり、Cacomantis 属の中でも新しいものがタカのような模様を生じた模様。 タカのような模様がないとされる古い方の系統は ハイイロカッコウ Cacomantis pallidus (オーストラリア)、 ユキボウシカッコウ Cacomantis leucolophus (ニューギニア)、 クリハラヒメカッコウ Cacomantis castaneiventris (ニューギニア)、 ウチワヒメカッコウ Cacomantis flabelliformis (オーストラリア、ニューギニアの一部から太平洋島しょ部) と確かにタカ類の種類が少ないか到達が遅れた地域になる。この地域の主要種は Tachyspiza 属でアカハラダカに近い系統が何度か定着したよう。最も古い系統のアカハラダカで 700 万年前で、オーストラリア地域への分散はさらに新しくて 300 万年前前後程度 (そんなに新しいの? と思えるぐらい)。 Tachyspiza 属はアフリカで誕生したため到着に時間がかかったこと、他の小鳥食系統タカ類は比較的寒冷な気候への適応や大陸がつながっていないことなどが理由で赤道を簡単に越えられなかったのだろう。 こちらで種分化したハイイロカッコウなどの初期系統の段階ではタカがまだいなかったかも。
      もっとも北半球のカッコウも実は大差なく、こちらは主にハイタカ (+ 他の広義 Accipiter 属) のユーラシア進出に助けられて分布を広げた (?)。ハイタカが現在カムチャツカまで分布していることと整合性がよい。より北方はオオタカ、南方はツミやアカハラダカ系統が補っていると考えることが可能そう。 ハイタカがいつごろ分布を広げたかについて、北米のアシボソハイタカとの分岐が 400 万年前ぐらいで、このころにはユーラシアの東端まで到達していて、アフリカの一番近い祖先と分岐したのが 800 万年前ぐらい。 この間にユーラシアに分布を広げたのだろう (こちらもそんなに新しいの? と思えるぐらい)。
      Chrysococcyx 属 (テリカッコウ類など) も事情は似ていて太平洋地域のものはタカがまだいなかったかも。 タカ模様がある ブロンズミドリカッコウ Chrysococcyx caprius と キノドミドリカッコウ Chrysococcyx flavigularis はいずれもアフリカの種でタカと一緒にいたと考えると話が合う。 カッコウとの分岐年代は 2390 万年前と推定されるので、この系統の一部しか小鳥食のタカ類と重複がなく、系統全部がタカ類に似ているわけでないことも整合性がありそう。小鳥食のタカ類が出てきてからタカ類への擬態が複数系統で独立に進化したと読める。 とはいえ Hawk-like に分類されていない ミドリテリカッコウ Chrysococcyx maculatus、ヨコジマテリカッコウ Chrysococcyx lucidus にもしっかり縞模様があるのでジュウイチ同様用いられた情報が不十分なだけかも知れない。
      古い系統の中でニュージランドの托卵性のキジカッコウ Urodynamis taitensis Pacific Long-tailed Cuckoo は Hawk-like に分類されていないが、縦縞で、英語別名に sparrow hawk, home owl などがあって少なくとも人にはタカを連想させるところがあるらしい。音声はジュウイチと似たところがある。 この種と非常に系統が近いと思われるニューギニアやオーストラリア沿岸部のオオオニカッコウ Scythrops novaehollandiae Channel-billed Cuckoo もいかにもタカ類やフクロウの地鳴きを思わせる声もある。 タカに似た力強い飛び方で、ほかの鳥を襲うこともある (コンサイス鳥名事典)、また世界一大きな托卵鳥で、非托卵性も含めたカッコウ類で最大であるとのこと。ほとんどタカのような飛び方で、メスは縞模様がより強い。果実食中心とのことで、鳥のひなや卵を食べることは書かれているが鳥を食べるまでは書かれていない (wikipedia 英語版)。 Thorogood and Davies (2013) では Hawk-like らしさが感じられないが、おそらく色彩の判定基準に絞り込み過ぎで、これはほとんどタカのようなものなのではないだろうか (後述 [Otidimorphae とはいったい何者?] のようにカッコウ類はタカになりかけたがなり切れなかった?)。 それならばこの種のタカらしさは収斂進化で獲得したものか? カッコウ類のタカ類への擬態の側面だけでなく、タカ類の音声進化の解釈にも関係してくるかも知れない。 ジュウイチ類の例も含め Thorogood and Davies (2013) は文献資料が中心で実際に画像を探してみていないかも? この論文の分類に頼り切らず検証した方がよさそう。
      完全に托卵性のものだけがまとまっているカッコウ類最後のクレード以外では、カンムリカッコウ属 Clamator (4種) がすべて托卵性でいずれもタカ類に似ていないとなっている。 アフリカ、ヨーロッパ南部からアジアまで分布しており、タカ類の分布とも重なっているがこちらの方は特に擬態しなかった模様。マダラカンムリカッコウ Clamator glandarius Great Spotted Cuckoo は托卵相手のカササギに似ているとのこと。 #オニカッコウ備考に、オニカッコウが宿主イエガラス真似てテリトリー防衛を利用して托卵する話があり、マダラカンムリカッコウとカササギでも同じようなことが起きているのかも知れない感じがした。
      まとめるとカッコウ類の完全托卵系統は初期のもの (あるいは小鳥食のタカ類がいなかった地域) はタカ類と無関係だったようだが、小鳥食のタカ類が出現してからは積極的に擬態を利用しているものが卓越している模様。少なくとも対応する小鳥食のタカ類のいる地域では擬態率がかなり高そう。 托卵性そのものの起源ではないだろうが、小鳥食のタカ類の出現が托卵性カッコウ類の適応度を上げた、言い換えれば托卵性カッコウ類はタカ類の威を借りて現在の姿になった (他の鳥の威を借り過ぎ) ? もし小鳥食のタカ類が生まれていなければ? - カッコウ類の托卵は今ほどありふれた現象ではなかったかも。それどころかカッコウ類がタカ類に準じる生態的地位を占めていたかも (どちらにしても小動物には厄介者だったかも?)。 精度の良いタカ類系統樹が得られたことがどれほど役に立つかわかっていただけると思う。 まさしく「鷹の目で見る鳥類進化」とも呼んでもよさそうだが、本質的でもありえらくカッコいい。そのまま科研費の研究課題名に使えそうである (笑)。
      川口 (2016) Birder 30(6): 50-51 はカッコウはタカへの擬態でない? 議論を行っており、根拠の一つとして田中 (2015) Birder 29(6): 28-29 で野外観察でタカに擬態して有利との証拠はないと紹介されていることを挙げている。野外観察にどこまで含めるかによるだろうが Davies (2011) Cuckoo adaptations: trickery and tuning のレビュー論文や Welbergen and Davies (2011) A parasite in wolf's clothing: hawk mimicry reduces mobbing of cuckoos by hosts の研究はすでになされていたので「証拠はない」はおそらく過剰であろう (*1)。
      タカへの擬態の話は托卵鳥ではカッコウ類系統のみのようで、同じようにアフリカで托卵を行うミツオシエ類には当てはまらない。 こちらの方 (キツツキ目。ネズミドリ類から始まる Telluraves の系統の最後に当たる) がタカ類より一見新しい系統に思えるが、ミツオシエ科とキツツキ科の分岐年代は 3600 万年程度とかなり古く (この数字もかなり不定性がある)、小鳥食のタカ類の方が後に出現してもおかしくない。 ミツオシエ科の中ではいつ適応放散が起きたのかあまり資料が見当たらないが、Fleischer (2011) Ladies and gentes: Maternally inherited DNA and ancient honeyguide host races ではノドグロミツオシエ Indicator indicator Greater Honeyguide では樹上性と地上性の托卵系統で少なくとも 300 万年の違いがあるとのこと。1種内でこの数字なのでミツオシエ科は小鳥食のタカ類より早い時期に種分化していたかも。 また、カッコウ類がタカに似ることができたのはやはりミツオシエ類とは異なる祖先系統の性質を引き継いでいるのでは? ミツオシエ類も原理的にはタカに似ることができたかも知れないが、系統的制約で似た模様を作るのが難しくて隠蔽色の方に進化した。それほど大きな鳥ではないので怖がってくれないなど。
      ここでは小鳥食のタカ類である広義 Accipiter 属を主に扱ったが、少し気にしておいてよい系統が他にある。カッコウハヤブサ属 Aviceda でこちらは系統が古いのでカッコウ類より先に現れていた可能性がある。 カッコウ類に似た縞模様などがあり、クロカッコウハヤブサがより弱い鳥であるカッコウに擬態することで捕食を容易にする説の可能性も紹介されているぐらい (#ハチクマの備考 [ハチクマ亜科の他種] 参照)。カッコウがタカと間違われて避けられるぐらいならばこの説の信憑性も怪しい気がする。時期的にも縞模様のカッコウ類がやってきた方が後になると思える。 カッコウハヤブサ属はアフリカとアジアからオーストラリアに分布し、いずれもカッコウに似ている。カッコウハヤブサ属内の分岐年代 (アフリカとアジア・オーストラリア) は 1800 万年前ぐらい [Catanach et al. (2024) の数字による] で、この時代にはカッコウに似た模様はすでに共通に持っていたと考えられる。 アフリカカッコウハヤブサ Aviceda cuculoides African Cuckoo-Hawk の画像を見ればわかっていただけると思うが、異様にカッコウ類に似て見える。インドなどのハイタカジュウイチとよく似ているのだが地理的には合わない。 系統的にはハチクマ類の遠い親戚だが、目が比較的側面についている (これはそれぞれ別の適応の結果と考えられる) 以外は外見はあまり似ておらず、かなり遠い系統 (分岐年代 3000 万年前弱ぐらい) であろうことは想像できる。 タカに似たカッコウ類が広がったのはもっと後の時代が考えやすいので、カッコウハヤブサ属が共通祖先段階からカッコウ類に擬態している可能性は低そうに思う。逆の方ならば小鳥食のタカ類の出る前でもカッコウ類にとってモデルとなる種類が存在していたことになるが、カッコウハヤブサ属は少なくとも現在はそれほど強力な捕食者ではないので小鳥があまり恐れなかったかも。 その時代にはカッコウ類の方が強かったということはさすがにないだろうが...、もしかするとカッコウに似ることは多少のメリットがあるかも ([カッコウ類の植物毒耐性?] 参照)。 カッコウハヤブサ属が現在はアフリカとアジアからオーストラリア隔離分布になっているが、かつては連続分布していて途中の系統が気候変動や新しいタイプの猛禽類との競争で消滅したのかも知れない。 あるいはヨーロッパハチクマとハチクマのように共通祖先から分岐し、それぞれが北方まで渡りをしていたものが熱帯にのみ定着すれば現在のような分布になるかも知れないが想像に過ぎない。 カッコウハヤブサ属はこのような分岐年代になるがハチクマ類も古いのかといえばよくわからない。現世種はヨーロッパハチクマとハチクマ系統の2系統に分かれ、この分岐年代は 800 万年前ぐらいと意外に新しい。 もっと古い系統が消滅した可能性が高いが、ハチの子食生活が繁栄 (現在の系統の進展と分離) をもたらしたならば起源は案外新しい可能性も考えられる。我々の身近にやってきた時期はハイタカとあまり違わない可能性もある。 カッコウハヤブサ属とカッコウ類の関係同様、タカ類 (に限らないが) がいつから存在したのかは系統樹をよく検討して判断すべきだろう。学名で系統樹を読むことができる有難さが感じられる場面である...と最初の話題に戻しておこう。
      補足:
      *1: 別系統でもカッコウに似た種類があることに関連して、川口 (2016) はカッコウハヤブサを取り上げている。これはすでに紹介した。 オナガバトMacropygia属他数属 Cuckoo-Doves は尾が長いだけで特にカッコウに似た模様というわけではない。pheasant pigeon の別名もあり、この英語をそのまま訳せば "キジバト" になる。着眼点はやはり尾の長さだろう。 ヨコジマオナガバト Macropygia unchall Barred Cuckoo-Dove などは細かい縞模様があるがそれほどカッコウに似ていない。
      マダガスカルのオオブッポウソウは #ブッポウソウの備考参照。
      Cuckooshrikes (Campephaginae: Cuckooshrikes。南・東南アジアからオーストラリアに分布) も挙げられているが、#アサクラサンショウクイの備考にあるようにカッコウ類に似た主に青灰色の背中を持つことやカッコウ類に似た飛び方をすることが由来とのこと。 ヨコジマカッコウサンショウクイ Coracina lineata Barred Cuckooshrike / Yellow-eyed Cuckooshrike が例に挙げられていて下面に密な縞模様がある。 Ripley (1941) Notes on the Genus Coracina に比較表があるが、この系統の一部で腹部に縞模様があるとのこと。 一部の種類のみで縞模様がある理由は見つけられなかった。縞模様がある種類は虹彩が黄色のものが多く、アフリカカッコウハヤブサと雰囲気が似ている (特に正面姿) と言えば似ている気もするが、これをタカへの擬態と考えるのは多分考えすぎだろう。現在この地域に生息するクロカッコウハヤブサとはあまり似ていない。過去の種類まではわからない。 他にもタカに似た種類があるかどうかはカッコウがタカに擬態しているかどうかを左右する主要な問題ではないので現状よくわからないとしておこう。
      なお cuckooshrikes にすべてサンショウクイの付く和名が与えられているだけなので、サンショウクイの習性を外挿してそのまま想像しない方がよいだろう。サンコウチョウを見てオウチュウの習性を予測できないのと同様。昔に付けられた名前でやむを得なかったかも知れないが、全部サンショウクイの付く和名でなく系統ごとに特徴を加味して違う系統の名前を変えた方がわかりやすかったのだろう。 英語でもサンショウクイは cuckooshrike とは呼んでおらず、cuckooshrikes 全体を日本語で表す時にやや困る気がする。 系統的には捕食者も多いカラス小目 Corvida に属し、小動物を捕食する報告もある。それほどおとなしい鳥ではなさそうなのでタカみたいにも見える外見は例えば巣の防衛など何か別の役に立つのかも。
      [カッコウ類の植物毒耐性?] #ヤマガラ備考 [ヤマガラの植物毒耐性] で考察するように意外な可能性が浮かび上がってきた。 Na/K ポンプの α-サブユニットの遺伝子解析により、非托卵性のものも含めてカッコウ科はある程度の植物毒 (毒虫) 耐性を持っている可能性が考えられる。カッコウ科は植物毒を持つ虫やそれに擬態する虫への特別な適応を遂げて他の鳥があまり食べない食物を食べる生態的地位を開拓したのかも知れない。 #オニカッコウ は有毒な植物の実を食べられるとのことでこの解釈に当てはまる。 毒虫を食べた場合はカッコウ類自身も多少の毒性を持つ可能性があり、タカ類にはこの耐性はなさそうなので、カッコウ類を食べて気分が悪くなったタカ類がカッコウ類のパターンを忌避しているかも知れない。タカ類にあまり妨害されずタカ類への擬態を成功させる要因の一つになっている可能性があるかも。 もしカッコウ類が多少なりとも有毒なのならば、カッコウ類に擬態することは捕食を避ける理由になり得るかも知れない (前述のカッコウハヤブサ類など)。いずれも実験的検証はないだろうが遺伝子からは想像可能に思える。 カッコウ科以外の托卵系統でタカ類への擬態が見られない (そもそも擬態する適切なタカ類がいない場合もあるだろうが) 一つの要因になるかも知れない。
      田仲 (2023)「野鳥」2023年5・6月号 (No. 804) pp. 28-29 にインドネシアでオオバンケン Centropus sinensis Greater Coucal に薬効があるとされており、巣のひなの足を意図的に折り、親がひなに薬草を運ぶのを巣ごと捕えてオイルが販売されているとのこと。 薬効は迷信かも知れないが、耐毒性があるかも知れないことを考えると薬草を運ぶ行為は実際にあるのかも知れない気がした。鳥自身の色彩も黒と茶色で、毒性があって警告色になっている可能性もあるのかも? wikipedia 英語版によれば、民間薬として結核や肺病に効くとして肉が食べられたことがあったとの記述がある。 Species Spotlight: The Greater Coucal (Hailey Brophy 2023) によれば有毒なヘビ Banded Krait, Saw-scaled Viper を食べているのが観察されている。 また有毒な Oleander fruits を食べることが知られているという。 ここでも田仲氏の紹介された現地の薬効について記述されている。 しかし英国からの入植者時代はオオバンケンの形態がキジ類に似ているため美味しいだろうと考えたが、ひどい味だったと驚いたという (毒性があるかも?)。
      「動物たちの地球 鳥類 I 10 カッコウ・ホトトギス・エボシドリほか」(週刊朝日百科 朝日新聞社 1991) p. (6) 310 の丸武志氏の解説記事で、カッコウ科は前胃は壁が厚く、毒を無毒化する液を分泌するようだとある。この効果もあるかも知れないが、遺伝子レベルで植物毒耐性を持っていればより本質的で有利だろう。
      [カッコウ類雌雄の擬態の進化] Merondun et al. (2024) Evolution and genetic architecture of sex-limited polymorphism in cuckoos に興味深い研究が報告された。Color variants in cuckoos: The advantages of rareness (英文解説記事)。 色彩多形 (polymorphism) を示すカッコウとツツドリで研究者たちが灰色形と呼んでいるタカに似た模様のものと、赤色形 (rufous plumage, hepatic 肝臓色とも呼ばれる) があることはよく知られている。オスは赤色形を示さないが、赤色形はメスのみで見られる (ヨーロッパのカッコウでは一般的なようだが日本のカッコウでは聞いたことがない気がする)。 宿主が産卵に訪れるメスと擬態相手のタカ類を見分ける能力を持ったことによる選択圧の結果と考えられ、宿主の目を欺きやすいめったにみられない赤色形を遺伝子プールに持つことが有利であると考えられていた。 「カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック」(ニック・デイヴィス、中村浩志、永山淳子訳 地人書館 2016、原著 "Cuckoo: Cheating by Nature" Nick Davies, Bloomsbury Publishing 2015) にも記述がある (訳書 pp. 171-172)。幼鳥と紛らわしい色彩であると指摘する研究もある。 上記 Thorogood and Davies (2013) も参照。
      ゲノム解析の結果色彩多形は W 性染色体で決まっており、メスのみが赤色型を示す理由が明らかになった。系統解析の結果、この特徴はカッコウとツツドリが種分化する前に獲得されたものと考えられる。 ホトトギスは系統樹に出てくるが赤色形は図には現れていない。赤色形の存在するホトトギスも同様に解析すればあるいは系統をさらに遡ることになるかも知れないが、(色彩多形を聞いたことがない) セグロカッコウが途中の系統になる。どうだろうか。 ツツドリと同種とされていたヒマラヤツツドリ Cuculus saturatus もツツドリ同様の赤色形がある。この研究で用いられたツツドリのサンプルはロシアのもの。
      この結果の面白い点は、[青い卵を産むカッコウ] で紹介したように「青い卵」の遺伝子はミトコンドリアにある点とも整合性がよく (この類似点は論文でも言及されている)、いずれも托卵を行うメスへの選択圧を強く示唆すること、種分化以前に獲得された形質であることが共通点として挙げられる。 さらに Medina and Langmore (2015) の色彩の進化速度の研究もあわせて、宿主はやはりタカらしい鳥を避けているらしい傍証になるのだろう。 なお卵擬態の系統の遺伝子がミトコンドリアにあることはより早くから知られていた: Gibbs et al. (2000) Genetic evidence for female host-specific races of the common cuckoo; Marchetti et al. (1998) Host-Race Formation in the Common Cuckoo も参照。
      メスの色彩多形の解釈には赤色形はチョウゲンボウへの擬態である解釈もかなり受け入れられていた模様: Trnka and Grim (2013) Color plumage polymorphism and predator mimicry in brood parasites。 宿主による識別実験に加え、スロバキアではハイタカよりもチョウゲンボウの分布の方が連続的でこの仮説を支持するとのこと。赤色形の比率が低いことを説明できているわけではないようだが、色彩多形の問題はまだ決着していないかも知れない。 また Lee et al. (2019) Common cuckoo females may escape male sexual harassment by color polymorphism で紹介されているように、"harassment avoidance hypothesis" 仮説 (オスからの過剰なアプローチを避ける) もある。
      Lee et al. (2021) Host-dependent dispersal demonstrates both-sex host specificity in cuckoos の韓国の研究によればカッコウの宿主嗜好性はメスだけではなくオスにもある。オスの方が早く渡ってきてメス不在の状況で宿主密度の高いところを見つける必要があるので、オスにも宿主嗜好性がある要因となる。W 性染色体を通じて宿主嗜好性が伝わるメカニズムのみではこの結果を説明できない。 これまでの考えではオスには W 染色体がないので宿主嗜好性による種分化が起きない理由と考えられてきたが、オス・メスの交配がランダムに起こることで種分化を防いでいる可能性がある。 成長の過程で宿主または場所への刷り込みが起きるメカニズムも提案されている。 この論文ではこの時点で未発表データでこれらの個体群がアフリカに渡ることが判明しているとのこと [前出 Lee et al. (2023) で発表]。ホトトギスについては明瞭な根拠は示されていないがやはりアフリカに渡ることを想定している模様。
      Langmore et al. (2024) Coevolution with hosts underpins speciation in brood-parasitic cuckoos カッコウ類全般において托卵性が高く卵排除を行うもの (highly virulent cuckoo "強毒性カッコウ" と呼んでいる) ほど種分化頻度が高い (Cuculus属など)。 宿主がとる対抗手段が種分化を促していると考えられる。 またオセアニアのテリカッコウ類を用いて、同じ托卵相手を用いる種でも assortative mating が起きている遺伝的証拠を見つけたとのこと。この解釈の一つにオス・メスともに宿主や環境への刷り込みが考えられる。 テリカッコウ類では (オス・メスいずれでも) ひなの色調が宿主に関連しており、母系だけでない複数の遺伝子が関与しているはず。 いずれも共進化が種分化を促す生物学でおそらく普遍的な現象を明らかにする結果となっている。 Study shows cuckoos evolve to look like their hosts―and form new species in the process (一般向け英語解説)。
      [カッコウ類の足と近縁系統] カッコウ類は対趾足 (zygodactyl) で前後に2本ずつの趾がある。 現生鳥類では少なくとも3回独立に進化したとのこと。キツツキ類、オウム類とカッコウ類で Telluraves 以外ではカッコウ類とエボシドリ類 (後者は semizygodactyl) が唯一とのこと [Botelho et al. (2014) The developmental origin of zygodactyl feet and its possible loss in the evolution of Passeriformes]。 この論文はセキセイインコの足の発生を調べたものでカッコウ類は特に詳しく扱われてはいない。 エボシドリ類は果実食への適応で、外趾の関節が柔軟で前後に動き、細い枝先にも止まることができるとある (コンサイス鳥名事典)。 #鳥類系統樹2024 によればカッコウ目 Cuculiformes と エボシドリ目 Musophagiformes は単系統ではなく、カッコウ目に最も近縁なのはノガン目 Otidiformes となる。ノガン目では後趾がないが地上を走行する鳥では失われる傾向がある。 ノガン目では地上生活への適応で再度失われたなどの経緯があるのだろう。 Luo et al. (2023) A high-quality genome assembly highlights the evolutionary history of the great bustard (Otis tarda, Otidiformes) とは異なる系統樹となっている。
      なお dos Santos et al. (2020) Chromosomal evolution and phylogenetic considerations in cuckoos (Aves, Cuculiformes, Cuculidae) によればこれら3目の間で染色体構成が大きく異なっている報告がある。同様の事象はコンドル類・ミサゴ・タカ類の間でも生じているので、染色体構成から系統関係を述べるのは難しいのだろう。それぞれの系統が離れていて、しかも染色体再構成が短期間に大きく起きたグループなのだろう。 Kretschmer et al. (2024) Understanding the chromosomal evolution in cuckoos (Aves, Cuculiformes): a journey through unusual rearrangements によればカッコウ目の中でも見られるとのこと。これは dos Santos et al. (2020) にもあってカッコウ目は最低3グループに分けられるとのこと。 O’Connor et al. (2024) A Bird’s-Eye View of Chromosomic Evolution in the Class Aves にも (当時の) 分子系統樹と染色体再構成の関係が出ている。あるグループで染色体再構成の頻度が高い理由は新しい生態的地位を占める過程に関係するかも知れないがよくわからない。 2020年の研究と同じグループなので、分子系統研究によってこれら3目の間の関係がより支持されるようになってきて解釈を変えざるを得ないのだろう。
      ハイイロエボシドリ Crinifer piscator Western Plantain-eater は掛川花鳥園の人気者になっているが [北條 (2021) Birder 35(6): 46-47 参照]、容貌も猛禽類に似たところもあって人懐こく Telluraves 以前の系統なのにずいぶん賢く見えて気になっている。 記載時は何と Falco piscator Boddaert, 1783 と広い意味でタカの仲間にされていたのもうなずける。初期に記載された図版はこの鳥よりもサンショクウミワシではないかとの疑いも持たれたこともある (wikipedia 英語版より)。 物まねがうまいとコンサイス鳥名事典にある。Telluraves 以前の系統で音声模倣をするならば画期的 (#ハクトウワシの備考も参照) なのだが文献が見当たらない。賢そうな表情を見るとそのような能力があってもよさそうにも見えるが。 ten Cate (2021) Re-evaluating vocal production learning in non-oscine birds の非スズメ目の音声学習の論文にも出てこない。カッコウ目で餌乞いの声を真似るとの報告はあるが関係はあるだろうか (もちろん托卵で生まれたひなには有利に働くだろうが)。 カッコウ目とは印象がだいぶ違う感じがするので独立した系統となったことは理解しやすい感じがするが、カッコウ目とノガン目があまり似ているようにも見えないのが不思議。 ノガン目 + エボシドリ目 + カッコウ目 には特有の祖先形質があって音声学習なども可能にできたのかも知れないが、変わったグループだけが現存しているため一見関係がわからないだけかも知れない。 ten Cate (2021) の系統樹では音声学習がよく知られているハチドリ類に並ぶが、現代の知見では Elementaves と Columbaves レベルの違いがあって直接の系統的類縁性はなさそう。
      エボシドリ目 (turacos) では緑と赤の色彩に銅を中心としたポルフィリンである turacoverdin と turacin をそれぞれ用いており、鳥類で唯一知られる緑の色素とのこと。生息地は銅の産地としても有名、天敵からの保護色の役割が考えられている。 銅は生体に有害であるが鉄ポルフィリンを多く含む食物を食べることで無害化して色素として用いているなどの記述がある (wikipedia 英語版)。いずれも比較的古くから記述されているが現代的な研究はあまりなされていない模様。 Porphyrins: The Colors of Life。 エボシドリ目では幼鳥の翼に爪があって登るのに用いるという。この点からツメバケイとの類似性が示唆されたが最新研究で関係がないことがわかった。群れで生活し、大声で警告音を出して天敵を追い払うという (wikipedia 英語版から)。
      カッコウ科に属するミチバシリ類オオミチバシリ Geococcyx californianus Greater Roadrunner と コミチバシリ Geococcyx velox Lesser Roadrunner はほぼ地上性であるが対趾足で X 字の足跡が残るという。 樹上性ではないが木にはとまる。Roadrunner: Meet the Real Bird Behind the Cartoon (Justine E. Hausheer 2021, 2023)。巣も樹上に造る。外趾は走行の邪魔になるとよく言われるが、ミチバシリ類のこの形態は高速走行に適した足なのだろうか。 同様の形態を持つ化石鳥類があった: Earliest zygodactyl bird feet: evidence from Early Cretaceous roadrunner-like tracks 最初の対趾足の鳥類 (5000 万年前) の記録で、ミチバシリと同様の生態的地位を占めていたのでは。 この論文によれば樹上性の鳥での収斂進化の産物と考えられており (カッコウ類も同様)、ミチバシリは祖先系統を受け継いだものと考えている。この化石鳥類はキツツキ類の足の適応とは多分異なる。足跡だけでどの系統に属するかを考察するのは難しいとしている。
      [カッコウは変温動物?] ミチバシリ (350 g) は夜には体温を大きく下げることが知られている (砂漠に近い条件で夜は冷える)。 Vehrencamp (1982) Body Temperatures of Incubating Versus Non-incubating Roadrunneers によれば抱卵中でも体温が下がる。夜の抱卵はほとんどオスが行う。外気温 10 ℃ になる朝方は体温は 34 ℃ まで下がる。抱卵するメスも同様だが、抱卵していないメスの方がさらに下がるとのこと。このタイプの夜間に体温を下げる鳥では抱卵に余分なエネルギーを要することを示している。 なお捕獲にはネズミを餌にした猛禽類用のトラップなどを用いたとそうで、習性は確かに猛禽類に近いよう。 McKenchnie et al. (2002) Avian Facultative Hypothermic Responses: A Review に体温を下げる報告のある鳥の一覧がある。ハチドリ類は有名だが他にもいくつか例があるとのこと。 リストはかなりまぜこぜのようで、1 ℃ ぐらい下がるだけのものも含まれているようで測定法も多分まちまち。カッコウ類に多いのかと気にしてみたが、他に出ているのはオオハシカッコウ Crotophaga ani Smooth-billed Ani のみで数字的にはミチバシリと同じぐらい。もっと派手に体温を下げるものもあるのでそれほど目立っていない。 同著者による学位論文 (2001): Patterns, Mechanisms and Evolution of Avian Facultative Hypothermic responses: a southern African perspective。 McKenchnie et al. (2023) Avian Heterothermy: A Review of Patterns and Processes に新しい総説があるが、異温性 (heterothermy) の強い種は古い系統に多いとのこと。スズメ目強い異温性が見られない理由はよくわかっていない。
      カッコウ類の托卵習性は体温を保つ能力が低いことに由来するとの仮説をどこかで読んだことがあって調べたものだが最初は文献を見つけられなかった。後に調べて Ando (1995) Fluctuation of body temperature and cuckoo brood parasitism と判明。
      その後日本語で読める資料に気づいた: 「動物たちの地球 鳥類 I 10 カッコウ・ホトトギス・エボシドリほか」(週刊朝日百科 朝日新聞社 1991) p. (6) 309 に安藤滋氏の解説がある。温度センサーと送信機を付けて野外生活中に測定したもの。1日に 10 ℃ 近近い温度差があっては恒温性がよいとはいえない。爬虫類に近い特性である、と記されている。 この測定は体表面で行われているので外気温の影響をかなり受けそうである (我々でも体が冷え切った場合に通常の方法で体温を測ると 35 ℃ ぐらいしか出なくて測定値にならないことも体験する)。 卵が体の割に小さいことも夜の低体温から説明できるのではとしている。 この変温性のアイデアは爬虫類の残存特徴として考えられたもので、「変温性」の残存特徴を持つ鳥がいても驚くに当たらないと考えて研究を始めたとのこと。哺乳類の方が冬眠する種類は結構あるがそれが爬虫類的との解釈は聞いたことがない、爬虫類とのアナロジーを強調しすぎの感じがする。 「知っているようで知らない鳥の話」(細川博昭 SBクリエイティブ 2017) p. 61 でも紹介されている。 派生する研究が見当たらないので、世界的には広く受け入れられている仮説ではないのだろうか。 「カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック」 p. 182 にはカッコウは産卵前に 24 時間の体内抱卵を行って産卵から孵化までの時間を短縮しているとある。その時のメスの中心体温は 40 ℃ で 24 時間の体内抱卵で相当の時間が稼げる、宿主に抱卵される時は 36-37 ℃ とあり。 体内抱卵のアイデアを最初に取り上げたのは Montagu (1802) Ornithological Dictionary が最初とのこと。Birkhead et al. (2011) Internal incubation and early hatching in brood parasitic birds が複数の系統の托卵種を用いた実験的検証を行っている。 中心体温は 40 ℃ というのはカッコウの実測値ではなく一般的な文献値のよう。40 ℃ の孵卵器で実験したキンカチョウの胚の発達がカッコウの胚で予測される発達段階とよく似ているので、おおよそこのように考えて構わないだろうとのこと。 托卵しないカッコウ類でも産卵間隔は2日で、托卵のために進化したというより受け継いだ形質が有利に働いていると解釈されている (predisposed の表現はおおよそ前適応 preadaptation のようなものと解釈してよいだろう。Preadaptation may render some species predisposed for evolutionary response to new pressures のような文脈で使われる。Birkhead et al. では early hatching may have predisposed certain species to become brood parasitic)。 体温を保つ能力が低い説はどうも否定的なよう。Ando (1995) はこの文献でも引用されておらず、おそらくほとんど知られていないのだろう。もしかすると日本でのみ知られている仮説か? ミチバシリの体温変化は昼と夜の温度差が極端な乾燥気候への一般的適応のように見える。
      参考までに Bildstein (2017) "Raptors" から猛禽類で夜間体温を下げる (topor) の事例をチェックしておくと、上記文献をそのまま使っているようで新旧大陸ハゲワシ類が挙げられている。これは昼夜の気温差の大きい乾燥気候で裸出部の多いハゲワシ類がエネルギー消費を抑える生理的対応でよいだろう。 そのため朝は日光を浴びて体温を上げる行動もあるとのこと。アカオノスリで2℃下がる報告もあるが、猛禽類ではそもそもあまり調べられていない。
      川口 (2010) Birder 24(10): 60 で「鳥の足は変温的で冷たい水につかっていると0℃近くになることもあるとか。それでも凍傷にならないのだ。形態だけでなく生理的にも爬虫類的ってこと」とある。 鳥類学、あるいはもっと一般的な生物学の教科書にも書いてあるだろうと思うが、多くの鳥にとって熱が最も逃げやすい足を冷やしてエネルギー消費を抑えている。むしろ恒温動物的ということ。 奇網 (rete mirabile) と呼ばれる動静脈からなる構造が対向流交換器 (countercurrent exchanger) この場合熱交換器 (heat exchanger) として働いて冷たい血流が中心体温を下げるのを防いでいる。他にも動静脈シャント (短絡) もある。 対向流交換器は熱交換以外にも塩腺のナトリウム排泄に使われる。鳥以外の生物でも用いられているが、水鳥の末梢温の制御は特に有名。「生態学入門」(日本生態学会 2004) ではイルカのヒレが取り上げられている。イルカが生理的に爬虫類的と言う人はさすがにいないだろう。
      鳥ももちろん凍傷になる。Wellehan (2003) Frostbite in Birds: Pathophysiology and Treatment 上記のような適応限界を超える寒冷に晒されると血管が収縮して、時々血管が拡張することで組織損傷を防ぐ (hunting reflex)。さらに寒冷状態が続くと血管拡張が起きなくなって主に虚血性の組織障害が起きる (いずれもヒトの場合と同じ)。 足に起きることが多いが、手でも起きる (wing tip oedema, distal wing necrosis #ハチクマの備考 *2: Wing tip oedema in raptors を参照)。 足は交互に暖めることができても手はそうもいかない。これはさすがにかわいそうに思える。 (主に足の凍傷の) 治療も述べられていて哺乳類と同様に迅速に暖める方が効率的とのこと。マッサージは外傷の原因になるので避けるべき。病態も同じで微小血栓が組織壊死の原因となる。そのため抗血液凝固作用のある (プロスタグランジン合成を阻害する) 非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) が用いられる。鎮痛剤 (ここではカモの例が出てくるので水鳥も凍傷になる) や感染症防止の抗菌剤も有効である。基本的にヒトの医学と同じ。 野鳥におけるリスク原因としては異常な天候、治療のための麻酔などの措置、金属の足環、渡りコースから外れた場合などが挙げられている。 鳥はほとんど凍傷にならないなど書いてあるサイトもみつかるが、エビデンスのある情報を探しましょう。
      [Otidimorphae とはいったい何者?] 系統に関係して、そういえば海外の鳥の写真を見る時に時々タカっぽく見えて種類をチェックしてしまうことがあるのだが (別項で述べるようにまるでサギのように見えたタカがあったため多少気をつけている)、しばしばひっかかる種類がバンケンの仲間 (coucals) とタカへの擬態とも言われるカッコウ類である。 この系統はそもそも現在のタカに類似した生態的地位に適応放散したのではないかと考えると都合がよいように思える。当時は後続の猛禽類はまだ現れていないし、樹上に最初に適応したハト類の祖先グループ (Columbaves) から現在における各種の生態的地位を持つ鳥が現れていたのかも知れない。 大部分の系統は Telluraves の適応放散で置き換わってしまったが一部残ったのではないだろうか。 そう思ってみてみるとカッコウ目系統は結構猛禽類的なところがある。バンケン類はトカゲ類やカエル類も食べる。アマゾンカッコウ Guira guira Guira Cuckoo (姿はカッコウと特に似ていないし托卵性でもない) もトカゲ、ネズミ、他種の鳥の卵を食べるという (コンサイス鳥名事典、wikipedida英語版)。 キバシカッコウ Coccyzus americanus Yellow-billed Cuckoo (アメリカ合衆国南部。姿はカッコウと特に似ていないし托卵性でもない) は樹上性カエル、トカゲ、他種の鳥の卵も食べるとのこと (コンサイス鳥名事典、wikipedida英語版)。 ミチバシリ類は地上を走ってトカゲ・ヘビなどを食べる。系統はまったく異なるがいかにも現代のノガンモドキ目やヘビクイワシに似ている。生態的地位は似ていると言ってよいのではないだろうか。 かつて広く分布していたとも想像されるヘビクイワシ (そしてノガン類系統) のいなかった新大陸でミチバシリ類が進化したと考えると話が整合する感じもする。 ノガンとノガンモドキの類似性は表面的なもの (収斂進化) だったが、ノガン類も食性は雑食で小型脊椎動物など小動物も食べる。 ノガン類と (我々のよく知っている旧世界の托卵性の) カッコウ類とはあまりにも似ていない気がするが、どちらも地上性の捕食者の最初の系統 (それぞれ開けた環境と森林) と思えば類似性が理解できるような気がする。地上性に適応して大型化すればノガン類のような形になるだろう。 ヘビクイワシやノガンモドキと小型のタカ・ハヤブサをいきなり比べても類似性がわかりにくいのと同様? エボシドリ目は果実食に特化したが足の構造などは Telluraves 同様に器用さを備えているのだろう。 Remsen et al. (1990) A classication scheme for foraging behavior of birds in terrestrial habitats では Telluraves 以外の系統では珍しくミチバシリ類は嘴と足を使って獲物を殺すという (ノガンモドキに似ている)。Gutierrez-Ibanez et al. (2023) "Online repositories of photographs and videos provide insights into the evolution of skilled hindlimb movements in birds" (#ハチクマの備考参照) ではオオバンケン Centropus sinensis Greater Coucal がグループの中でも足の器用な利用を発達させたとのこと。この研究では1種のみを取り上げているが観察記録が限られているだけで同系統の他の種類でも例があるのかも知れない。
      このように考えると Otidimorphae は陸鳥最初の猛禽に似た系統で恐竜絶滅後いろいろな環境に進出したのだろうが、生きた動物の捕食者であることの難しさもあって、Telluraves 由来の高性能の猛禽類に追い抜かれ、一部の特殊な系統のみが現存して相互にあまり似ていないと解釈できるかも知れない (これも誰かが考えてそうな話だが...)。 姿には往時の習性の名残りがあってタカに似た形質 (旧世界の托卵性のカッコウ類) も出しやすいとか (ほんとうか?)。 Telluraves のタカ類と似た選択圧が働いて染色体再構成に共通性がある?
      上記考察とは直接関係ないかも知れないが、 動物たちの地球 鳥類 I 10 カッコウ・ホトトギス・エボシドリほか」(週刊朝日百科 朝日新聞社 1991) p. (6) 308 に上田恵介氏が 「カッコウ科の鳥というと托卵習性だけが取り上げられるが、主に地上に近いところでトカゲなどの小動物を食べて生活するというニッチ (生活空間) を開拓した中型から大型の非托卵性のカッコウ類のほうが、このグループの性格をよく表していると思うのだが、どうだろうか」と述べている。同感である。 新しい情報も含めて付け加えると、上田氏の述べる空間的・捕食性のニッチに加えて、より特異的には [カッコウ類の植物毒耐性?] で述べたように植物毒を持つ虫への特別な適応を遂げ、他の鳥があまり食べない食物を食べる生態的地位を開拓し、それが現在まで受け継がれている可能性があるだろう。
      なおノガン類は粉綿羽が豊富で尾脂腺もないとのこと。参考: Collar and Morales (2022) The Little Bustard and Its Family: An Overview of Relationships。 このような特徴はハト類に似たところがあり、Columbaves に属することは納得できる面もある (あるいは乾燥環境への適応と関係があるのかも?)。
      [托卵と宿主の行動の進化] 日本語でも資料が十分あるので省略していたが、「これからの鳥類学」(裳華房 2002) 8章に数理生態学と鳥類学 - 托卵を題材にして - (高須夫悟) があり、当時の雑誌などでもしばしば取り扱われて、記事や論文を見る時に役立ちそうなので一度まとめておきたい。 宿主が卵やひなを排除しない理由はいくつかの説があり (簡単な方から順番に)、
      (1) Evolutionary Lag 説 (Rothstein 1990 A Model System for Coevolution: Avian Brood Parasitism) 宿主の卵識別能力がまだ進化していない。
      (2) Evolutionary Snapshot 説 (Davies and Brooke 1989 An Experimental Study of Co-Evolution Between the Cuckoo, Cuculus canorus, and its Hosts. I. Host Egg Discrimination) 宿主の卵識別能力が集団に広まるのに数千年程度を要し、現在はその進化途上を見ている。
      (3) Evolutionary Equilibrium 説 (Lotem et al. 1992 下記, 1995) 現在すでに平衡状態となっている。托卵拒否のコストと托卵による損害が釣り合っている。
      カッコウ類の托卵を議論している話はおおむねこれらの仮説のどれが当てはまるかを調べようとするものとおおむね考えてよいだろう。高須氏によれば数理生態学のモデルでは集団に広まるのは100年程度ともっと短いと考えられる。 特にヨーロッパでよく調べられているでも宿主ごとの gens ("家系" とも訳される。#オオタカの学名由来で考察しているものと同系語。 異なった色の卵を産むメスの系統) があって、それぞれの gens では宿主の受け入れ率 100% 近い平衡状態にあるのでは? 「カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック」pp. 226-228 にもカッコウの托卵系統が存在することが実証されているとある。オナガへの托卵を始めた日本のカッコウの中村浩志氏の研究も紹介されている (pp. 235-237 など)。 ヨーロッパでは人による環境の分断化が進みカッコウの gens の区別が少しずつなくなりつつあるかも (p. 234)。 なおオナガへのカッコウの托卵が始まって 30 年ほどでオナガの卵識別能力を発達させてオナガへのカッコウの托卵は見られなくなり、カッコウ卵が線模様を失いオナガ卵に似る (新しい gen ができる) 進化までは確認できなかったとのことである。 参考関連論文:
      山岸・藤岡 (1986) カッコウ Cuculus canorus によるオナガ Cyanopica cyana への高頻度の托卵
      中村 (1990) 日本におけるカッコウの托卵状況と新しい宿主オナガへの托卵開始
      Nakamura (1990) Brood Parasitism by the Cuckoo Cuculus canorus in Japan and the Start of New Parasitism on the Azure-winged Magpie Cyanopica cyana
      Nakamura et al. (1998) Co-evolution between the cuckoo Cuculus canorus and the azure-winged magpie Cyanopica cyana: rapid development of egg discrimination by a new host. In S. I. Rothstein and S. K. Robinson eds. "Parasitic Birds and Their Hosts; Studies in Coevolution" pp. 94-112
      Marchetti et al. (1998) (中村氏も共著) Host-Race Formation in the Common Cuckoo
      Andou et al. (2005) Characteristics of brood parasitism by Common Cuckoos on Azure-winged Magpies, as illustrated by video recordings
      Aviles (2004) Egg rejection by Iberian azure-winged magpies Cyanopica cyanus in the absence of brood parasitism イベリア半島のオナガはカッコウによる托卵がなくても卵識別能力があった。同種内托卵に対抗するため進化したものか?
      Liu et al. (2023) Egg rejection and egg recognition mechanism in a Chinese Azure-winged Magpie (Cyanopica cyanus) population 中国のオナガの卵排除 (セグロカッコウ、オニカッコウに托卵される) の研究。ウズラ卵は排除したが自身の卵も排除したものもあった。托卵種が多い地域とそうでない地域で違いがある?
      Lotem et al. (1992) (中村氏も共著) Rejection of cuckoo eggs in relation to host age: a possible evolutionary equilibrium ではニシオオヨシキリでは年をとると自分の産んだ卵を覚えて卵識別能力が高まるらしい。卵識別能力は従来考えられていたように遺伝的なものではないと考えられ、卵識別能力は遺伝によって伝わるものではなさそう。 中村 (1992) アニマ 1992年6月号 pp. 60-67 に記事があり (この号の特集は「托卵の謎」)、コウウチョウのように最近分布を広げた種類では (1) が当てはまるものがあるかも知れないが、カッコウ類ではおそらく違っている? と述べられている。 Evolutionary Lag 説の根拠として、Rothstein はカッコウに托卵されなくなったモズの一種が高い卵識別能力を持っていることを挙げているとのこと。
      1990 年代前半は盛んに取り上げられていたが、オナガへの托卵を行わなくなって話題も下火になったかも知れない。ネットに思ったほど最近の日本語記事がないのもそのためか。もっとも西日本ではオナガは身近な鳥ではなく、またカッコウが見聞できるところも限られているので自分にはやや縁が遠い話題だった。
      卵識別の視覚情報処理については日本語の解説 卵の模様でカッコウの托卵に対抗、 論文は Stoddard et al. (2014) Pattern recognition algorithm reveals how birds evolve individual egg pattern signatures パターン認識ソフトを用いて卵認識を模倣した点が新しいが、実際にそのように認識しているかは不明。
      [托卵は相利共生となるか?] 「行動・生態の進化」(岩波書店 2006) p. 200 によればマダラカンムリカッコウ (ひなが宿主の卵やひなを排除しない) がカササギに托卵する際、托卵された卵を実験的に取り除いた方が捕食圧が高まるとのこと。捕食者は何と托卵を行ったマダラカンムリカッコウだったとのこと。カササギが托卵排除を諦める方が進化的に安定とのこと。 出典論文: Solar et al. (1995) Magpie Host Manipulation by Great Spotted Cuckoos: Evidence for an Avian Mafia?。 マダラカンムリカッコウの略奪行動はカッコウ類は捕食者系統から進化? ([Otidimorphae とはいったい何者?] 参照) とも話が合う気がする。 なお、状況はもう少し複雑そうで、必ずしも観察されない地域もある模様。Chakra (2016) Coevolutionary interactions between farmers and mafia induce host acceptance of avian brood parasites の理論的考察があり、仕返し (mafia; 先述の Evolutionary Equilibrium 説を生む根拠ともなった。マフィア仮説は必ずしも完全に認められているわけではないらしい) または略奪 (farming) 行動の托卵者が多い場合は受け入れる方が有利になるが、逆の場合は排除する行動が有利になって安定状態がなく、両者の間を振動するとのこと。条件付きで托卵を受け入れる戦略が有利になることもあるらしい。 また Canestrari et al. (2014) From Parasitism to Mutualism: Unexpected Interactions Between a Cuckoo and Its Host によればズキンガラスへの托卵でマダラカンムリカッコウのひなが悪臭物質を出して捕食者を追い払い、宿主側も利益を得ているとの研究がある。総排泄孔から焼け付くような感触のある腐った悪臭にある液体を出し、哺乳類も猛禽類も嫌うらしい (猛禽類側の感覚は #ハチクマ備考 [嗅覚 (タカ・ハヤブサ類)・視覚・脳のサイズ] も参照)。 Trnka et al. (2015) Chemical defence in avian brood parasites: production and function of repulsive secretions in common cuckoo chicks にさらなる研究がある。 同様の物質を出す行動はカッコウ科で広く報告があるらしく、カッコウ自身でも例があるとのこと。カッコウのひなは目立つので捕食も受けやすいと考えられるが、物質を出すコストも高いので捕食圧の高い時に適応的だろうとのこと。この実験ではカッコウのひなの分泌物を用いている。カッコウのひなが9日齢から分泌が増えてゆくとのこと。 鳥類捕食者 (実験で使われたものはオオタカ、ワキスジハヤブサ、トラフズク、ワシミミズク、カササギ、ニシコクマルガラス、ズキンガラス、ミヤマガラス) より哺乳類 (イヌ、ネコ) に対する効果の方が強いとのこと。猛禽類でも4割ぐらいを食べている。カラス類はあまり反応しないとの意外な結果も得られた。カラス類はスカベンジャーで臭いを避けていないのではとのこと。 Canestrari et al. (2014) はカラス類が避ける逆の結果を得ているが、人工的に臭いを付けた実験では結果も違うとのこと。まだあまりすっきりしていない。ヘビでも実験したが食べてくれなくて失敗とのこと。 オオハシカッコウ類 Crotophaga、バンケン類 Centropus でも分泌があるので托卵のために進化した形質ではないと考えられるとのこと。 Soler et al. (2017) Great spotted cuckoo nestlings have no antipredatory effect on magpie or carrion crow host nests in southern Spain では南スペインで、マダラカンムリカッコウのひなに捕食者を追い払う効果は予測通りではなかったとのこと。 Canestrari et al. (2017) Formal comment to Soler et al.: Great spotted cuckoo nestlings have no antipredatory effect on magpie or carrion crow host nests in southern Spain のコメントがあり、地域により捕食者が違う (カラス類が臭いに鈍感な証拠はある)。実験デザインの問題もある? 最初に想像されたよりは複雑であることは明らかになったが、宿主側も利益を得ている仮説を否定するわけではない。
      悪臭物質は Schmiedova et al. (2020) Gut microbiota in a host-brood parasite system: insights from common cuckoos raised by two warbler species によればカッコウのひなの腸内細菌が作っているらしい。糞と悪臭物質は異なるもので、それぞれ別の細菌叢を持っている。宿主のスズメ目に比べてカッコウ類は長い盲腸を持っていて、悪臭物質は盲腸から排泄されたものと想像されるが確認が必要である。細菌には哺乳類で悪臭物質を放つものとも共通のものがある。 カッコウでは宿主によって細菌叢が異なる部分があるがあまりすっきりした結果にはなっていない。
      鳥類の盲腸についての比較研究は Hunt et al. (2019) Phylogeny and herbivory are related to avian cecal size で見られる。論文そのもの結論は従来も言われていたことだが植物食とはよい相関があるが、飛翔能力とは特に関係が見られず、飛翔によって制約されるものではないだろう。 Supplementary information に種別の情報があるので見ていただくとよいだろう (植物食のものがあまりにも長いために論文の図ではあまりよくわからない)。カッコウ科が長い盲腸を持っていることわかる。 盲腸の長さが食性だけで決まっているわけではないことは、似た食性のタカ類ではほとんど発達していないのに比べてフクロウ類でよく発達していることからも明らか (フクロウ類の盲腸糞は有名)。この猛禽2系統は系統的にも関連があると考えられるのでなぜ片方のみ発達しているのか興味あるところである。この論文では他に栄養のことを考えているが、カッコウ類が捕食者を追い払う役割などは考えていない模様。 樹洞営巣性であるいは捕食者を追い払う時に使う可能性があるのか (実際に使っているかは調べていない) と見てみるとその傾向はあるようにも思えるが、カワセミ類やキツツキ類は盲腸がほとんど発達していないのでこの解釈が当てはまるものがあるとしても一部に限られそう。
      [カッコウのひなの口は超常刺激か] カッコウのひなの赤い口は超常刺激 (supernormal stimulus) となって親鳥に多くの餌を運ばせるアイデアは古くからあるが [例えば Dawkins (1976) は as if it were a helpless drug addict と記述した。Dawkins and Krebs (1979) Arms races between and within species]、 典型的宿主の3種について人工操作の実験結果から超常刺激とは言えないとの研究もある: Noble et al. (1999) The red gape of the nestling cuckoo (Cuculus canorus) is not a supernormal stimulus for three common hosts。 Kilner et al. (1999) Signals of need in parent-offspring communication and their exploitation by the common cuckoo では視覚・聴覚刺激両方を用いることで単独では得られない効果を得ている研究もある。 日本の研究で Tanaka et al. (2011) Rethinking visual supernormal stimuli in cuckoos: visual modeling of host and parasite signals ジュウイチとルリビタキの関係で調べたものがある。Noble et al. (1999) は否定的な考えを示したが、紫外線が見えることを考慮していない。ジュウイチのひなの口と翼のパッチは宿主よりも紫外線反射率が高く、色彩のためのコストを考えると役に立っているだろうと考えるのが自然であろう。ジュウイチの反応まではわからないが超常刺激として働いている可能性もあるだろうとのこと。
      この論文で "receptor noise" の表現を見た時には検出器ノイズ (フォトンノイズ、検出器の電気雑音など) を想像したのだが、概念が違うらしいことを知った。ヴェーバー-フェヒナーの法則 Weber-Fechner law (#オオルリの備考 [オオルリはなぜ青い] で登場) も含まれた定式化とのことで、 luminance discrimination threshold は色識別のしきい値を表すとのこと。[オオルリはなぜ青い] で触れたが天文学では伝統的に色指数の概念があって対数で定義されている (等級の概念がヴェーバー-フェヒナーの法則に由来する対数なので)。すなわち天文学者が天体の色を議論する時にはヴェーバー-フェヒナーの法則が暗黙に含まれている。 天文学でも複数の波長 (フィルター、バンド) で測定した等級を求めて対象の弁別を行ったりするが (遠方銀河を探すなどよくよく使われる)、伝統的なバンドならば UBV (それぞれの色の頭文字)、CCD ならば BVRI などが使われる (遠方銀河などの場合はさらに長い波長を使う)。 3バンドの場合の表示は2色図という2次元空間の図になり、4バンドだと2色図を通常2セットになる。 感覚生態学でも対数スケールでこれらの表示を試してみると面白いのではと感じた。Tanaka et al. (2011) で採用されている Weber fraction は 0.05 で、天文学では 0.05 等級に対応する。人が認知できる等級差は 0.1 等級ぐらい (実際にはよい条件ではもう少しよい) と言われるのでよく合っている。1 等級も違うと誰の目にも明らかなので1等星、2等星のようなランクに分けられた次第。 色指数の方もだいたい 0.1 違えば色の違いとして認知されると思う。 Vorobyev and Osorio (1998) Receptor noise as a determinant of colour thresholds が引用されている文献。田中啓太「ジュウイチのヒナの騙し戦略と感覚生態学」in 上田恵介(編)「野外鳥類学を楽しむ」(海游舎 2016) 4章で扱われている。 たまたまこの人たちがこのように定式化したもので、他の人が違う式を使って定式化したものが使われてもおかしくなかった。式が少々違っていてもおそらく同じような結果になっていただろう (Vorobyev は原語読みではヴァラビヨーフが近いだろうか。最後を伸ばしたのはアクセントがここにあるため。ヴォロビエフは英語綴りの読み方。原語ではスズメの複数生格 = 複数対格で、"スズメたちの"、または "スズメたちを" の意味になる。ロシアの人名ではこのようなケースが結構あり、Baklanov は同様にウの複数生格 = 複数対格 など)。 同じような定式化が色指数を用いて弁別を行っていた天文学の方ですでに行われていたのではないかと想像する次第。
      [托卵鳥の同種認識] カッコウ類などが育ての親を同種と認識してしまわないのはカッコウ類のさえずりなどの行動が本能的なものであるためなどの解釈がよく聞かれる。 「本能はどこまで本能か: ヒトと動物の行動の起源」ブランバーグ著 (#ミサゴの備考 [feather taxis・頭かき] 参照) によれば、大御所の Ernst Mayr (1974) Behavior Programs and Evolutionary Strategies は将来の交配相手を適切に見分けるプログラムがもともとの受精卵に完全に組み込まれていると考え。これを閉じた遺伝子プログラム (genetically "closed" behavior program) と呼び、動物における種の認識はほぼ例外なく閉じた遺伝子プログラムによると考えたとのこと (訳書 pp. 186-191)。 コンピュータが身近に登場した時代で、ソフトウエアとハードウエアの比喩が抵抗なく受け入れられやすかったことを反映しているとのこと。ただしこのような考えは Mayr 独自のものというより1961年ごろにすでに広まっていた考えで、Jacob and Monod (1961)、Ernst Mayr (1961) が同じような意味で使っている [Peluffo (2015) The "Genetic Program": Behind the Genesis of an Influential Metaphor]。
      カッコウ類ではこれで説明できるかも知れないが、音声学習を行い、しかも絶対的托卵性のスズメ目の鳥にも同じ説明が当てはまるかは明らかでない。北米のコウウチョウ類 (cowbirds, ムクドリモドキ科 コウウチョウ属 Molothrus) が有名で (旧世界のカッコウ類のようにタカへの擬態はなく、隠蔽色で托卵を成功させているらしい)、 コウウチョウ Molothrus ater Brown-headed cowbird がよく調べられている。200 種以上への托卵が知られている。
      West and King (1977) Species Identification in the North American Cowbird: Appropriate Responses to Abnormal Song がコウウチョウを用いて実験を行い、驚くべき結果を発表した。 完全に人の手で育てたコウウチョウは本来の歌を歌えないが、メスはむしろそれをより好むように見えた。West and King (1977) は超常刺激 (supernormal stimulus) となっていると解釈し、繁殖期に確実に種を識別できるようにデザインされた独自のシステムを発見したとした。そしてそれは托卵種のメカニズムとして非常に都合よく見えた。 これは当時の考え方にあまりに合っていたため広く受け入れられることとなったが、その後問題点が見つかった。このようなオスはメスとうまく交尾できないことがわかり、また当時の実験手法に由来する問題点が明らかになって超常刺激ではないことがわかった。 極めつけは生後 50-100 日のコウウチョウを2グループに分け、一方はコウウチョウと、もう一方はカナリアと飼育した結果、繁殖時期である 10 か月後にはカナリアと飼育したものはカナリアに求愛し、一緒にいるコウウチョウを無視したのである。 West and King も生得的プログラム説を自ら却下せざるを得なかった。実は社会的交流を通じて同種を認識したのである。 さらに興味深いことにコウウチョウのオスに歌を教えるのはメスの役割で、若いオスから追いかけられた時に示す行動 (一度だけ羽ばたく) によって交配成功の方法を教えてゆくとのこと。 [West and King (1988) Female visual displays affect the development of male song in the cowbird および参考文献; West and King (2001) Science Lies Its Way to the Truth ... Really]。 (ここまで「本能はどこまで本能か: ヒトと動物の行動の起源」から抜粋と文献紹介。現代でもコンピュータとの比喩は有効で生得的プログラム説は語られやすいが、それほど簡単なものではないことを知っておいてよいだろう)
      Lynch et al. (2017) A neural basis for password-based species recognition in an avian brood parasite の導入部分でこの問題が紹介されている。 パスワード仮説 (password hypothesis) があり、何らかのパスワードに晒された以降、同種の声や姿、社会性などを認識するとの仮説である。そのパスワードは学習で得るものではないはずである。 この論文は音声学習にかかわる脳内神経機構を同定したというもの。同種の "chatter" (餌要求などの地鳴き) には反応する回路は早くから存在するが、さえずりに反応する回路は同種の声を聞く経験で誘導されるらしい。 同種の声を聞くことなく宿主の声に長時間晒された場合は同種への神経反応を示さず刷り込みが起きる証拠も見られた。同種の "chatter" を頼りに同種の集団を聞き分け、その声に長時間晒されることで同種のさえずりを学習するらしいことがわかった。 "chatter" がパスワードの有力候補とする考えは過去にもあったが神経回路の発達の研究で裏付けられたことになる。音声学習の回路の働きを変えることで誤った刷り込みを避ける機能を進化させたらしい。
      Louder et al. (2019) An Acoustic Password Enhances Auditory Learning in Juvenile Brood Parasitic Cowbirds にも関連研究がある。パスワードとセットであれば異種のさえずりでも学習の対象になるとのこと。 托卵鳥しかこのメカニズムを使わないとも考えにくく、音声学習を行う鳥で同様のパスワードを見つけらるか興味ある課題である。 ここで調べているものは候補となっていた音声のみなので、他のパスワードが存在することを否定するものではない。 時に異種への托卵を行うカモで誤った刷り込みが起きた事例を説明できるかも知れないとのこと: Sorenson et al. (2010) Sexual imprinting misguides species recognition in a facultative interspecific brood parasite (アメリカホシハジロからオオホシハジロへの托卵例)。 なお南米のズグロガモ Heteronetta atricapilla Black-headed Duck はカモ類で唯一の絶対的托卵性で、孵化後すぐに宿主の巣を離れて独立するという [「世界の鳥 行動の秘密」(バートン 1985) p. 182]。
      「世界の鳥 行動の秘密」p. 183 によれば、中南米のツリスドリ類 (Psarocolius属) Oropendolas は鳥に寄生するハエ Philornis属 (学名由来は "鳥好き") 俗名 "bot flies" によるひなの死亡率が高い。 Philornis downsi 俗名 "avian vampire fly" でガラパゴスの侵略的外来種となっている。 O'Connor et al. (2009) Philornis downsi parasitism is the primary cause of nestling mortality in the critically endangered Darwin’s medium tree finch (Camarhynchus pauper) によるとダーウインフィンチの一種 (種和名もダーウィンフィンチのよう) のひなの死亡の最大要因となっている大変困ったハエらしい。 Bulgarella et al. (2022) Persistence of the invasive bird-parasitic fly Philornis downsi over the host interbreeding period in the Galapagos Islands 1960年代にはすでに入っていたと考えられる。鳥の種を選ばず宿主とする。どのように冬を生き延びているかいくつかの仮説が提唱されている段階。 ツリスドリ類はミツバチやスズメバチ類の巣の近くで営巣 (和名の通り吊り巣で集団営巣) することで寄生ハエによる被害を軽減しているとのこと。ツリスドリ類そのものはミツバチやスズメバチ類に刺されても免疫があると書かれている (具体的情報は見当たらず)。 オオコウウチョウ Molothrus oryzivorus Giant Cowbird に托卵されるとハエの幼虫を食べてひなの死亡率が90%減少するとこの本にはある。 Smith (1968) The Advantage of being Parasitized が最初の報告のようで、オオコウウチョウとキゴシツリスドリ Cacicus cela Yellow-rumped Cacique の間で記述されたとのこと。 托卵が相利共生となっているように見えるが、Webster (1994) Interspecific Brood Parasitism of Montezuma Oropendolas by Giant Cowbirds: Parasitism or Mutualism? によればオオツリスドリ Psarocolius montezuma Montezuma Oropendola (どちらが学名でどちらが英名か区別が付かない?) でははまれな現象とのこと。 オオツリスドリでは積極的にオオコウウチョウを排除し、ミツバチやスズメバチ類の近くにも営巣しないので繁殖成功率が低いという。クリガシラオオツリスドリ Psarocolius wagleri Chestnut-headed Oropendola では起きているようで、種にもよるらしい (wikipedia 英語版)。
      アフリカ中央部のスズメ目テンニンチョウ科 シコンチョウ Vidua chalybeata Village Indigobird はオスが育ての親の歌を学習することで、それを好むメスとつがいになり托卵相手の種に対応する系統が維持されるとのこと (「カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック」pp. 223-225)。 Payne et al. (2000) Imprinting and the origin of parasite-host species associations in brood-parasitic indigobirds, Vidua chalybeata。メカニズムは異なるがこちらも生得的プログラムではないことがわかった。 テンニンチョウ類の野外識別は難しく、オスの識別でも困難でメスや若鳥ではほとんど不可能である。シコンチョウの場合は宿主 コウギョクチョウ Lagonosticta senegala Red-billed Firefinch と一緒にいること、人家の近くに生息することが識別の手がかりとなる (wikipedia 英語版)。 Klein and Payne (1998) Evolutionary associations of brood parasitic finches (Vidua) and their host species: Analyses of mitochondrial DNA restriction sitesVidua 属の分子系統研究があり、歌の学習により宿主に対応した種分化が起きている (種ごとに托卵相手が決まっていることは以前から知られていた)。 Sorensen et al. (2003) Speciation by host switch in brood parasitic indigobirds、 Sorensen et al. (2004a) Clade-Limited Colonization in Brood Parasitic Finches (Vidua spp.)、 Sorensen et al. (2004b) Song mimicry of Black-bellied Firefinch Lagonosticta rara and other finches by the brood-parasitic Cameroon Indigobird Vidua camerunensis in West Africa。 メスのみが宿主に対応した系統を持つカッコウとは異なる。托卵する側も宿主もスズメ上科 Passeroidea - 系統 1 Estrildid カエデチョウ clade に位置する互いに近縁のグループで、日本の種類ではスズメ科に近い (#ツリスガラの備考 [スズメ小目 Passerida の系統分類] を参照)。 托卵する側と宿主の類縁関係が近いので、もとは同一グループで同種内托卵があったものが種分化の要因となり片方が托卵系統、片方が宿主系統に分かれたのかと少し考えたが、科レベルで違っていて単一系統に乗るほど近いものではなかった。この2系統の分岐年代は 1690 万年前ぐらいとなる (そのころから托卵習性があっても悪くないのかも知れないが)。 宿主の種分化と対応して種分化したことも想像されるが、分子系統解析の結果は否定的だった。ただし系統樹のトポロジーに似たところもある (Sorensen et al. 2004a)。Vidua属は 19 種。シコンチョウはさらに分割される可能性もあるとのこと。 Sorensen et al. (2004b) によれば複数の宿主を持つカメルーンシコンチョウ Vidua camerunensis Cameroon Indigobird グループの間で異なる歌を模倣するグループの間で形態的違いは認められなかったとのこと。
      Phoebe Barnard (アニマ 1992年6月号 pp. 68-72 に翻訳記事) によるとテンニンチョウ類はひなの口蓋のマークを宿主のひな似せているが、これは托卵する側と宿主の系統が近いため擬態の鋳型があらかじめ存在して (前適応)、擬態は必ずしも複雑で特別な適応を示していると言えないとある。この系統の近さは現代の分子系統研究で裏付けられている。 田中 (2003) Birder 17(5): 82-83 にテンニンチョウ類の歌学習の解説がある。
      托卵をする鳥にもカッコウ類とは異なるいろいろなものがあることがわかる。なお「カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック」ではカッコウ類でも宿主の刷り込みが起きているのではないかと推測しているが、飼育実験などが非常に難しいために解明は難しいとのこと。 托卵性への進化はいろいろなメカニズムがかかわっていたのだろう。 種固有の歌を持つわけではなく模倣で得た歌もやはり song なのだろうが、mimicry song と呼ばれているらしい。他種でも音声模倣はあるので托卵種だけで起きる現象なのだろうか、それとも音声模倣がつがい相手の選択に役立っているケースがあるのだろうかと想像が膨らむ結果である。 模倣された音声が識別の手がかりとなると生身の人間の識別能力を超えるかも知れない。ムシクイ類のように「鳴けばわかる」レベルなのだろうか。生殖隔離は起きているので生物学的種概念は満たしているだろうが不思議な気もする。
      Colombelli-Negrel et al. (2012) Embryonic Learning of Vocal Passwords in Superb Fairy-Wrens Reveals Intruder Cuckoo Nestlings ルリオーストラリアムシクイ Malurus cyaneus Superb Fairywren では抱卵中に親が地鳴きを出したものを学習し (こちらもパスワードと呼んでいる)、孵化後にその構成要素を発することで托卵宿主のマミジロテリカッコウ Chrysococcyx basalis Horsfield's Bronze-Cuckoo のひなと区別している研究結果がある。 実験的にはおそらく有意な結果なのだろうが、コウウチョウのパスワードほどは神経的なメカニズムはわかっていないはずで、コウウチョウ同様に神経発達のメカニズムも調べられてより明確になってゆくのだろう。
      コウウチョウでは特に場所記憶などに重要な脳の海馬のサイズに雌雄差があるとの報告がある: Sherry et al. (1993) Females have a larger hippocampus than males in the brood-parasitic brown-headed cowbird 托卵先の巣を探すのはメスだけが行うもので、場所を記憶して後に托卵に訪れるために海馬が発達しているとのこと。非托卵性のコウウチョウ類よりも大きいらしい。 飼育下では不必要なため小さくなるとのこと: Day et al. (2008) Sex Differences in the Effects of Captivity on Hippocampus Size in Brown-Headed Cowbirds (Molothrus ater obscurus)
  •  ヨタカ目 CAPRIMULUGIFORMES ヨタカ科 CAPRIMULGIDAE 

  • ヨタカ (分割で日本産学名も変わる予定)
    • 学名:Caprimulgus indicus (カプリムルグス インディクス) インドのヨタカ (新学名ではヨタカ)
    • 属名:caprimulgus (m) ヨタカ (capra (f) 牝ヤギ mulgeo (tr) 乳をしぼる)
    • 種小名:indicus (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(Jungle Nigthjar), IOC: Grey Nightjar
    • 備考:goat-suckerとも呼ばれ、ヤギの乳を吸うと考えられた。鳥 (オス、春に) を標本にする時に強いヤギの臭いを出すことに気づいて、ヤギの乳を吸うとの迷信も理解できると Coues (1874) は述べた。 現在は以前の2亜種 jotakahazarae が分離され、Caprimulgus jotaka (英名 Grey Nightjar) に含まれる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ扱い。 日本で記録されるヨタカは亜種まで含めた学名で Caprimulgus jotaka jotaka となる。旧英名の Jungle Nigthjar は IOC では分離された Caprimulgus indicus ジャングルヨタカ が引き継ぐ。これは Indian Jungle Nightjar とも呼ばれる。
      繁殖生態について、福丸 (2021) Birder 35(6): 38-41 「貴重な求愛シーンを記録![ヨタカ観察レポート]」に求愛や交尾などの行動や音声について報告されている。
      Chen and Field (2020) Phylogenetic definitions for Caprimulgimorphae (Aves) and major constituent clades under the International Code of Phylogenetic Nomenclature ヨタカ、アマツバメ、ハチドリなどの系統と分類群の名称の提案の論文がある。 過去の分類ではこれらはフクロウ類の後に並べられており、夜行性グループがなんとなくまとまっている感じがあったが、現代の分子系統樹は全く異なっている。ヨタカ、アマツバメ、ハチドリが共通の系統に属することの意義について#アマツバメの備考を参照。
      [ヨタカ類の視覚特性] ヨタカ類の視覚特性は他の鳥と大きく違っていることが知られている。 Salazar et al. (2020) Anatomical Specializations Related to Foraging in the Visual System of a Nocturnal Insectivorous Bird, the Band-Winged Nightjar (Aves: Caprimulgiformes) 後方にも両眼視のできる視野を持っているが神経数から視力は悪いと考えられる。視力だけで獲物を捉えることは難しく、口を大きく開けると捕食対象が正面で見えないので、口ひげ状の羽毛が横方向にあってセンサーになっているのではと考えている (他に聴覚を使っている可能性も議論されている)。 ごく大雑把に比喩的に言えばヨタカ類の目は昆虫の複眼に近い機能で、虫がいることを検知すると後は触覚で対応しているのかも知れない。 #ヨシゴイの備考で櫛状の爪 [pectinate(d) claw, または櫛歯] がヨタカ類で発達していることを示す文献を紹介しているが、口ひげ状の羽毛が捕食に特に重要な役割を果たしているためそれを整える意義があるのかも知れない。
      ヨタカ類の一部には網膜に「反射板」(tapetum lucidum) があり、光の利用効率を高めている [Nicol and Arnott (1974) Tapeta lucida in the eyes of goatsuckers (Caprimulgidae)]。
      [反響定位を行うアブラヨタカ] 日本の鳥ではないがヨタカ目アブラヨタカ科に アブラヨタカ Steatornis caripensis 英名 Oilbird という種類がある。 Brinkov et al. (2017) Oilbirds produce echolocation signals beyond their best hearing range and adjust signal design to natural light conditions によれば夜行性で、洞窟に住んでコウモリのように反響定位 (echolocation エコーローケーション。エコロケーションの表記も使われるが原語や綴りを反映するためにエコーを使う方がよいと思う) を行う (食物は脂肪に富んだ果実)。 反響定位の音はコウモリに比べて低いが音の性質はよく似ている。人の可聴域にも入る。 アブラヨタカが高い音を聞き取る能力は他の鳥よりよいわけではなく、反響定位の音のピークとは一致しない。実際に聞いているのは 8 kHz 以下の部分であろうとのこと。 また目の感度は脊椎動物で最も優れており、瞳孔も 9mm まで広がるそうである。 Birkhead による "Bird Sense: What It's Like to Be a Bird" (2012)、邦訳されてティム・バークヘッド著; 沼尻由起子訳「鳥たちの驚異的な感覚世界」(2013 河出書房新社) によればアナツバメ類にも反響定位を行うものがあるそうである。
      音は光と同様に波であり (光は電磁波で可視光の波長は1ミクロンより小さい。音は空気中の粗密波である点は違いがある)、光の回折限界が視力の上限を決めるように (#イヌワシの備考参照) どのぐらい小さな目標を反響定位できるかは音の波長で決まる (波長よりずっと小さなものは音を反射することができない)。 常温での音速は 340 m/s 程度で、2 kHz の音だと波長は 340/2000 = 0.17 m = 17 cm となる。「鳥たちの驚異的な感覚世界」によればアブラヨタカは電線のコードを避けることはできず、20 cm より小さいものは反響定位で認識できていないようでこの見積もりとよく合う (反響定位の音のピーク周波数もその程度で、もっと高い音は聞こえていないか反響定位に有効に用いられていないのだろう)。 コウモリが反響定位にずっと周波数の高い超音波を用いているのはこのため。例えば 50 kHz の超音波だと 7 mm ぐらいのものを検出することができる。鳥類の聴覚には哺乳類に比べて内耳の蝸牛が短いことによる物理的限界があり、コウモリレベルの反響定位は行うことができない。 鳥類 (+ 爬虫類) と 哺乳類の耳は独自の進化を遂げたもので構造も少し異なる。鳥類は祖先段階から昼行性で視覚に頼り、哺乳類は夜行性を経験して聴覚を発達される必要性が現れているのかも知れない。 Tucker (2017) Major evolutionary transitions and innovations: the tympanic middle ear によれば鼓膜を持つ中耳は鳥類・哺乳類の共通祖先段階では存在せず、それぞれが独自に進化させたとの考えが広く受け入れられているとのこと。爬虫類でもヘビやカメレオンのあるものでは鼓膜を失っている。ヘビは音よりも振動を感じ取っているとのこと。 哺乳類では噛む行動に関連して関節を安定させるために軟骨を発達させているが、鳥類では二次的な軟骨を独自に発達させた。これに関連して中耳の構造も違うと考えている。中耳の骨の骨化は鳥類・爬虫類で1片、哺乳類で3片で独自に進化したと考えられる。
      音が波であって回折を伴うことは鳥類学の他の分野にも関係するので合わせて紹介しておく。例えば樹木があると幹の両側を通った音が回折を受けて干渉する。これは幹の太さと音の波長の関係で決まるので、幹の太さよりずっと長い波長の音 (低い音) はこの効果をほとんど受けずそのまま通過することができて遠くまで届く。 幹の太さ程度の波長の音は干渉の影響が大きく何度も干渉を受けることで急速に減衰して遠くまで届かない。森林性の鳥で遠くまで伝わる声とそうでない声があるのはこの原理による。 カラ類などの警戒音であるシー音は音源定位の難しい音なので捕食者にわかりにくいとされるが、飼育下のスズメフクロウとオオタカを用いた実験では定位ができてスピーカーの方向を向いたという [「世界の鳥 行動の秘密」(バートン 1985) p. 125]。 この本ではこの音は木々の間で急激に衰えるので頭上の猛禽類には届かないとの説明がある。 文献は、Marler (1955)、Konishi (1973) Locatable and Nonlocatable Acoustic Signals for Barn Owls が音源定位の難しい声についての議論。バンド幅の小さい音は定位しにくのでは。しかし、 Shalter and Schleidt (1977) The Ability of Barn Owls Tyto Alba to Discriminate and Localize Avian Calls はメンフクロウでの実験で定位できることを示した。 Shalter (1978) Localization of Passerine Seeet and Mobbing Calls by Goshawks and Pygmy Owls がスズメフクロウとオオタカが定位可能なことを示した。
      樹木などでさえぎられた遠くの鳥の声の音質が本来と変わって聞こえるのもこのためである。すぐ近くで直接聞けば識別できる地鳴きが樹木を通すと識別不能 (例えばシロハラとウグイスの地鳴きが区別できない) になることはしばしば経験する。 森林性の鳥の声の音程もだいたいの傾向として届かせたい距離に合ったものになっている。
      [その他] ズクヨタカ科 (Aegothelidae, Owlet-nightjars) と呼ばれるヨタカに似た形態と習性を持つグループがありヨタカ目に含まれるか長く議論の対象だった、現在では この科単独でズクヨタカ目 Aegotheliformes を形成する。ヨタカ目よりアマツバメ目に近縁。 和名の由来はズクがミミズクから (コンサイス鳥名事典)。 #アマツバメ備考の [アマツバメやハチドリは夜行性を体験したか?] で Feng et al. (2020) のオプシン遺伝子データをもとにこれらの系統関係を多少振り返っている。
      南米のスナイロアメリカヨタカ Chordeiles rupestris Sand-colored Nighthawk は捕食者対策として アマゾンアジサシ Sternula superciliaris Yellow-billed Tern、オオハシアジサシ Phaetusa simplex Large-billed Tern、 クロハサミアジサシ Rynchops niger Black Skimmer の近くに営巣して巣の防衛に役立てるとのこと (wikipedia 英語版)。
  •  アマツバメ目 APODIFORMES アマツバメ科 APODIDAE 

  • ヒマラヤアナツバメ (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Aerodramus brevirostris (アエロドゥラムス ブレウィロストゥリス) 短い嘴の大空を走る鳥
    • 属名:aerodramus (合) 大空を走るもの (aer (m) 大空、dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:brevirostris (adj) 短い嘴の (brevis (adj) 短い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) の)
    • 英名:Himalayan Swiftlet
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版で検討種に移動 (同定に確実性なし)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。3亜種あり(IOC)。
      五百沢・岡部 (2004) Birder 18(10): 67-69 にヒマラヤアナツバメ? の 1999 年の記録が紹介され、過去の 13 件のヒマラヤアナツバメ? の記録のリストがある。
      アナツバメ類における反響定位 (#ヨタカの備考参照): Kevin and Clayton (2004) The evolution of echolocation in swiftlets。 従来は Aerodramus 属と Collocalia 属は反響定位の能力の有無で分けられていたが、Collocalia 属にも反響定位を行う種類が見つかったとのこと。
  • ハリオアマツバメ
    • 学名:Hirundapus caudacutus (ヒルンダプス カウダクトゥス) 先の尖った尾のツバメのようなアマツバメ
    • 属名:hirundapus (合) ツバメのようなアマツバメ (Hirundo (ツバメ) 属と Apus (アマツバメ) 属の合成)
    • 種小名:caudacutus (adj) 先の尖った尾の (cauda (f) 尾 acutus (adj) 先の尖った)
    • 英名:White-throated Needle-tailed Swift, IOC: White-throated Needletail
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 caudacutus とされる。
      Ruaux et al. (2023) Drink safely: common swifts (Apus apus) dissipate mechanical energy to decrease flight speed before touch-and-go drinking 生物ではエネルギー効率を最適にする行動戦略がよくとられる。ヨーロッパアマツバメが水飲みをする際にエネルギー効率を最適にして (位置エネルギーを運動エネルギーに転換する) 高速で水面に接触するか不明であったが、高速撮影によって実際は減速してエネルギーを失っていることが明らかになった。 急速な方向転換による抗力で一部説明できるが不十分であり、何らかの追加の減速を行っているはず。接触面は数 mm のはずで非常に細かな運動のコントロールが必要。高速で接触すると姿勢を乱したり損傷の危険もある。別の種で水に落ちる事故もあったとのこと。いろいろなトレードオフの中で最適速度が決まっているのだろう。
  • アマツバメ
    • 学名:Apus pacificus (アプス パキフィクス) 太平洋の足のない鳥
    • 属名:apus (合) 足無し (a 無い pous 足 Gk)
    • 種小名:pacificus (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(White-rumped Swift), IOC: Pacific Swift
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では kurodae 亜種アマツバメ と pacificus キタアマツバメ となっている。IOC では kurodaekanoi (日本の人類学者 Tadao Kano に由来) にシノニムに含めている。これは Yamashina (1942) で記載されたもの。
      [分類と亜種] Dement'ev and Gladkov (1951) の扱いでは当時3亜種で、Apus pacificus pacificus Latham, 1811 (北に分布)、A. p. leuconyx Blyth, 1845 (ヒマラヤとデカン高原)、A. p. cooki Harrington, 1913 (インドスタン) であった。 同書で A. p. pacificus のシノニムとされていたものは、Hirundo apus var. leucopyga (バイカル)、Micropus pacificus kurodae Domaniewski, 1933 (日本)、Micropus pacificus kamtschaticus Domaniewski, 1933 (カムチャツカのペトロパブロフスク) となっていた。
      Leader (2010) Taxonomy of the Pacific Swift Apus pacificus Latham, 1802, complex は亜種 pacificus, kanoi, cooki, leuconyx, kurodae, salimali (いずれも当時の亜種名)の標本を用いて計測値や羽衣で識別可能かを調べた。 cooki, salimali, leuconyx はそれぞれ他と容易に識別できる(生態にも異なる点がある)。kanoikurodaepacificus と区別できるが、kanoikurodae は区別できなかった。 なお kurodae のホロタイプ標本は戦災で失われたため、ホロタイプ間での比較は不可能である。kurodae の採集地は日本としか記されていない。kanoikurodae はシノニムの関係にあり、先取権の原則からは亜種名は kurodae であるべきとしている。
      Leader (2010) は当時のアマツバメを4種に分ける提案を行い、これは現在 IOC でも採用されている。Pacific Swift Apus pacificus, Salim Ali's Swift Apus salimalii サリムアリアマツバメ, Blyth's Swift Apus leuconyx ブライスアマツバメ, Cook's Swift Apus cooki クックアマツバメ。 Apus cooki はかつてアマツバメの亜種とされていた Dark-rumped Swift Apus acuticauda セグロアマツバメ と上記4種の間をつなぐ位置にあるとのこと。4種に分離されたうちのアマツバメの英名として、(かつて使われた) Fork-tailed Swift はふさわしくない (同属のほとんどの種類がこの特徴を持つため) としている。 wikipedia 英語版にも記載があり、南部の亜種は kurodae に先取権利があるため Clements は現在 (2011) こちらを用いているとの注釈がある。2023 年現在もこの扱いであり、もし北部と南部で亜種が分かれるのであれば IOC より日本鳥類目録の扱いが正しいように思われる。 なお Leader (2010) は Dement'ev and Gladkov (1951) で当時の亜種 pacificus のシノニムとされた他のものは調査していない。
      Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では4亜種で leuconyxsalimalii を独立種としていない点が IOC と異なる。 この分類では kurodae について、pacificus に含まれる可能性を挙げ亜種リストには入れていない。
      旧英名 White-rumped Swift はもともとセグロアマツバメ (Dark-rumped Swift) を アマツバメから分離する際に導入された名称だが、同じ英名は IOC では アフリカコシジロアマツバメ Apus caffer に使われている。
      亜種の分布域については必ずしも明瞭でない。Clements では kurodae は日本南部、中国東部、台湾、フィリピン北部としている。Brazil (2009) "Birds of East Asia" では対応する kanoi は中国南東部、台湾、蘭嶼 (Lanyu島) で繁殖する留鳥となっているが、この文献は Leader (2010) 以前に書かれたものであることにも注意が必要であろう。海外の観察者の報告を見ると、この地域の留鳥を kanoi と判断している印象を受ける。 亜種分類や分布についてはまだ明確と言い切れないようである。
      アマツバメ類の分子遺伝学研究は Paeckert et al. (2012) Molecular phylogeny of Old World swifts (Aves: Apodiformes, Apodidae, Apus and Tachymarptis) based on mitochondrial and nuclear markers にあるが、種レベルの系統である (当時はアマツバメはまだ4種に分割されておらず、亜種の扱いで pacificus, cooki のみが調べられている。 現在の分類で Apus cookiApus acuticauda に近縁である結果となっており、Leader (2010) の見解とは整合性があるが、過去に Apus pacificus の亜種とされていたこととは整合性の悪い結果となっている。Leader (2010) の分離した他の種、アマツバメとして残された亜種との関係を今後調べる必要があるのだろう。
      Leader (2010) にもたびたび登場するが、アマツバメ類の研究家としてデイヴィッド・ラック (David Lack) とその著書、丸武志訳「天上の鳥アマツバメ」(平河出版社 1997) を挙げておく必要があるだろう。 原著 "Swifts in the Tower" (1956)、2018 年に改訂版が再版された。これほど身近だった鳥だが英国では営巣場所の減少で個体数が減少しているとのこと。 ラックは他にも多数の本を著しており、古典的名著も多く邦訳もいくつもある。 これはヨーロッパアマツバメ Apus apus 英名 Common Swift を扱ったものでヨーロッパでは非常にありふれた鳥である。分布を見ると東アジア近くまで広がっていることにやや驚かされるが、日本でも記録があるとされているが類似種との識別の記載がないため検討種になっている。提案されている亜種は pekinensis (北京の) である。
      [アマツバメは飛びながら寝る?] シロハラアマツバメ Tachymarptis melba Alpine Swift について Liechti et al. (2013) First evidence of a 200-day non-stop flight in a bird の研究が有名になったが、調べたものは次のヨーロッパアマツバメと同じ。アクトグラムに羽ばたきのない期間があることと、長時間無着陸で睡眠のない状態を維持することは不可能と考えられることから、飛びながら眠っていると考えられるが、直接確かめられたわけではない。 Hedenstrom et al. (2016) Annual 10-Month Aerial Life Phase in the Common Swift Apus apus がヨーロッパアマツバメの繁殖期の行動をアクトグラムとジオロケータで調べており、99% 以上の時間を空で過ごしている。一部の個体はずっと飛んでいたが、時々飛行活動が弱まることがあった。ほとんどの個体が夜間短時間着陸したとのこと。時々ねぐらをとることがあるとしても大部分の生活は空中とのこと。 飛びながら寝ているかどうかまではまだ調べられない。 鳥類における飛行中の確実な睡眠については#オオグンカンドリの備考を参照。これら2つのアマツバメ類の研究については同項目の Rattenborg (2017) の批判的解釈も参考に。鳥はあまり寝なくても大丈夫も含めて、巷で言われる話は誇張され過ぎている可能性がある。
      [星空の Apus] 天文ファンであれば Apus の名前を見るとむしろ「ふうちょう座」を想像するかも知れない (星座の学名もラテン語である)。この「ふうちょう」はもちろんフウチョウ (風鳥。極楽鳥の別名もあり、英語名はこちらに対応) のことであり、フウチョウ科 Paradisaeidae の学名とは全く異なる。 16世紀、ヨーロッパに初めてオオフウチョウがもたらされた時、各個体は剥製にする際に交易用に翼と足を切り落とされた状態で運ばれていた。そのため、この鳥は一生枝にとまらず、風にのって飛んでいる bird of paradise (天国の鳥) と考えられた (wikipedia 日本語版から) ので、足のない (a-pus) のラテン語の起源は同じである。 「ふうちょう座」の wikipedia 日本語版にはいろいろ面白いことも書かれているのでご覧いただくとよい。ハチを意味する Apis (ヨーロッパハチクマの学名に登場する) と間違われたこともあるとのこと。なお日本からは (事実上) 見えない南半球の星座である。 鳥の名前の星座はいくつかあるが (はくちょう座、わし座などが有名で神話に基づく)、多くは南半球にあって日本からは見えないか見えにくいものが多い。これらは南方から珍しいものがヨーロッパにもたらされるようになった時期に作られたものが多い (鳥の世界とは違って今後新しい公式の星座が作られることはない)。南半球の天文ファンは夜空を見て鳥ばかり見ていることになり、北半球の鳥ファンにとってはうらやましい。 公式の星座名には現れないが「こぎつね座」はもと「ガチョウをくわえた小キツネ」であって星座絵にはガチョウが描かれている。こと座の一等星ベガ (Vega、織女星) は「落ちるワシ」(アラビア語の降下するワシ、ラテン語に訳され Vultur Cadens となった) の意味で、こと座の星座絵には琴を抱えたワシがよく描かれている。 つまり「夏の大三角」と呼ばれる一等星はすべて鳥と縁がある。この付近の星座絵を見ると鳥ばかりで図案的にも面白いので星座絵の代表的部分としてよく利用される。
      [アマツバメやハチドリは夜行性を体験したか?] そろそろ飽きて来られた方もありそうなので鳥の話に戻ろう。日本にはハチドリがいないので身近な鳥ではないが、アメリカではごく身近な鳥で庭に (日本の家の庭の規模を想像してはいけないが) 当たり前にフィーダーが置いてあったりする。蜜を吸っているところを見てあまりに鳥らしくないのでもっと近づいて見ようとすると逃げられて、やはり鳥なのだと認識させてくれる。 日本産の鳥のうち、ハチドリに最も近い系統がアマツバメ目である。これらは分子遺伝学による現世鳥類の系統分類ではヨタカ類が最初に分岐した枝に含まれる。新しい分類に基づく図鑑ではこれらの種類が一緒に並べられているのはそのためである。この分類群を Strisores (和名があるのかは知らないが、中国語名では夜鳥類と呼んでいる。英名の別名も nightbirds) と呼ぶ。 Prum et al. (2015) A comprehensive phylogeny of birds (Aves) using targeted next-generation DNA sequencing に系統樹が出ているのでご覧いただきたい。なおこの Prum プラム は#エトロフウミスズメの備考「美の進化」に出てくるのと同一研究者である。
      系統解析からの最も "単純な解釈" では、ハチドリは夜行性のヨタカ類の枝に含まれていて、800万年の夜行性生活の後に再度昼行性 (アマツバメ、ハチドリ) を獲得したことになる。 夜行性だったことの影響はどのように現れているかは (この論文の時点で) 未知であると書かれている。 哺乳類では長く夜行性生活を体験したために本来視覚にあったはずの4原色のうち2原色を失い、大半の種で2原色であることはよく知られている。鳥でも夜行性のものは4原色の一つである紫外線の受容体を失う傾向がある (例えばフクロウ類。#フクロウ#カタグロトビの備考も参照)。 しかしハチドリ類が優れた色覚を持っていると考えられる証拠がある。例えば Venable et al. (2022) Hummingbird plumage color diversity exceeds the known gamut of all other birds。夜行性を経験した後でも優れた色覚を保持していたのか、あるいは失った後に獲得したのか、それとも夜行性を経験しない進化経路を経ていたのか、大変興味深いことである。 アマツバメ類についても同様の視点からぜひ調べるべきであろう ← ヨーロッパヨタカとハチドリ類は後にデータがあることを知った (#オオルリの備考 [オオルリはなぜ青い] 参照)。この系統の少なくともいくつかの種は夜行性を経験した後でも紫外線知覚を失っていなかった。
      Feng et al. (2020) Dense sampling of bird diversity increases power of comparative genomics にさらにデータがあり、ヨタカ類でも紫外線知覚を失っているものもあった [なお以下の議論はオプシン遺伝子の有無のみで判定している。長波長オプシンには紫外線感度もあるので、フクロウ類のようにこちらを用いて紫外線を活用している可能性がある]。 コアメリカヨタカ Chordeiles acutipennis Lesser Nighthawk (渡りをする)、チャックウィルヨタカ Antrostomus carolinensis Chuck-will's-widow (渡りをする) では失われていた。この2種は近縁系統でこの系統で失われたものと思われる。 サビイロタチヨタカ Phyllaemulor bracteatus Rufous Potoo でも失われているが比較的単独に失われたもの。 ハチドリ類の属する系統の早い分岐に当たるシロエリズクヨタカ Aegotheles bennettii Barred Owlet-Nightjar では失われている。 同じ系統の次の枝にあたるエントツアマツバメ Chaetura pelagica Chimney Swift、コシラヒゲカンムリアマツバメ Hemiprocne comata Whiskered Treeswift では OPN1sw1 (紫外線) は失われているが OPN1sw2 (青) が残っている。 この系統につながるハチドリ類も同じパターンで、祖先が夜行性系統だった一定の影響を受けている模様。 シロエリズクヨタカでは完全に夜行性になってしまって完全に失われてしまったのだろう。 逆のパターンもあって OPN1sw1 が残っているものもある。アブラヨタカなど。
      Strisores では夜行性傾向があって紫外線知覚を失う傾向があり、ハチドリ類のように昼行性に適応したものは紫外線知覚を失っていないものや、青の知覚機能を活用しているように見える。
      Otidimorphae も散発的に紫外線知覚を失う傾向があり、一部の系統は夜行性を体験しているかも知れない。アフリカオオノガン Ardeotis kori Kori Bustard やキバシバンケンモドキ Ceuthmochares aereus Yellowbill では失われている。 他に Mirandornithes も失う傾向が目立っており OPN1sw2 が失われている (フラミンゴ)。カンムリカイツブリやオビハシカイツブリではさらに OPN1sw1 も失われて青から紫外線知覚を持たないよう。この系統はあるいは夜行性傾向があるのだろうか。 ガン・カモはごく散発的に片方を失っているものがあるが (サカツラガン。家禽化の影響もあるかも知れない)、全体的には紫外線受容体だけ見ると昼行性のものと同じパターンのように見える。本来は昼行性だが狩猟圧が高くて夜行性行動をとっている仮説の方を支持するように見える。
      暗所視に重要なロドプシンの遺伝子は調べられたすべての鳥にみつかった (程度問題はあるだろうが調べられた範囲で暗所視能力のない鳥はいないと言える)。ただし RH1, RH2 (Rhodopsin-like 2。哺乳類にはない) の片側のみ欠損のものが数種あったとのこと。 メンフクロウは紫外線受容体の双方とともに長波長オプシン (OPN1lw)、さらに RH2 も失っており、色覚はほとんどないものと思われる [#ハヤブサ備考の [視覚特性・薄明かりや夜間の狩り] に出てくる Wu et al. (2016) と異なる点もあるので正しくないかも知れない]。1種類の視覚受容体のみでほとんど音の世界とモノクロ視力で生きているよう。 よく調べられているメンフクロウの研究をもとに他のフクロウ類も同様と考えるとかなり飛躍が生じる可能性がある。 同様の意味で視覚にあまり頼っていない (2種類の視覚受容体のみ) ように見える種類にアビがある。
      タカ類でも2種類 (OPN1lw, OPN1sw2) を欠いているクロクマタカ Spizaetus tyrannus Black Hawk-Eagle があり、タカ類の色覚が優れていると一概に言えない可能性がある。色彩にあまり敏感でないかも知れない (成熟すると黒でタカ類でよくみられる褐色味があまりないのも関係があるかも)。 なお光受容オプシンの表記は動物種によって異なるので多少ややこしい。LWS, SWS1, SWS2, RH2, RH1 とも表記される (RH1 が Scotopsin の名称を持つロドプシンで桿体細胞 rod cell にあって暗所視に働く。RH2 は 錐体細胞 cone cell にある)。 ヒトなど霊長類では LWS が遺伝子重複の後2色に分かれ、OPN1LW (赤), OPN1MW (緑) の名称となっている。
      ただしこの論文を用いた議論はゲノムアセンブリの精度依存で、個々に見ると存在する遺伝子が検出されないだけの場合もあり得る。この論文にもあるが、過去に失われたと考えられた遺伝子が見つかった事例も多くあるとのこと。 系統として傾向のあるもの (Strisores など) はおおむね上記にように考えてよさそうだが個々の種の議論は今後の解析で変わるかも知れない。
      [渡り鳥における磁気定位] ごく最近になって思わぬ方向からこれにも関係した知見が得られている。 ご存じの通り、渡り鳥、特に夜に渡る渡り鳥がどのように方向を定めているのか (定位)、長らく研究が続けられてきた。プラネタリウムも用いた実験により調べられた夜空の星の回転方向から方角を定める方法、日の出・日の入りの太陽の方向、薄明時の空の偏光が知られており、いずれも実験的証拠がある。
      渡り鳥が地球磁場を感じていることも実験で示され、かつてはハトの嘴の付け根にある磁鉄鉱が磁気を感じているなどの仮説があったが、現在最も有力と考えられ、盛んに研究されているものは網膜に存在するクリプトクロム (*1) である。 主にヨーロッパコマドリを使った実験が行われているが、光を与えないと磁気定位ができないそうである (まったく暗黒では寝てしまうそうで実験ができないわけであるが)。その時に赤い光では磁気定位ができず、青い光が必要との実験的証拠が得られている。 このような光依存、波長依存性のある磁気感応物質として現在生体で知られている唯一のものがクリプトクロムであり、それが鳥の網膜に存在していることで、磁場を視覚で感知している可能性が高いことが明らかになった。
      この先しばらくは分子の話など非常に難しくなり読み飛ばしていただいても構わないが、現在の「鳥の渡りの科学」の到達点の一つにもなりそうなので、少し頑張って読んでいただくとよいと思う (英語の大丈夫な方ならば、文章だけよりも後半に紹介されている YouTube 動画の説明を聞くとよい)。 クリプトクロムの中にあるフラビン色素 (flavin) とクリプトクロムタンパク質中のトリプトファン残基の間で、光を受けることでラジカル対が生成される (トリプトファン残基からフラビンに電子が1個移動してそれぞれの分子に不対電子ができる。光子のエネルギーが波長で決まる (*2) ことから青い光でないとこの反応が起きない)。 ラジカル対の寿命がそのままでは非常に短いため磁気検出に用いることができない。ところがクリプトクロムの中では3次元的に畳み込まれたタンパク質分子の中で4つのトリプトファン (*3) 残基が並び、電子伝達を行って片方の電子を遠く運ぶことで (*4) ラジカル対の寿命を大幅に延ばすことができて生体が磁場を感知することを可能にしていると考えられている。 フラビン色素にある方の不対電子は電子の持つスピン (後のもう少し詳しい説明を参照) と、フラビン色素を構成する一部の原子核の持つスピンとの間で相互作用を起こす (古くから知られている電子スピン共鳴に用いられるもの)。 この影響が引き離されたもう1個の不対電子と相関を通じて別の分子に伝わって 、何らの過程を経て神経の信号となり、磁場情報として取り出されると考えられている。 この部分を最初に書いたころは、この部分の具体的機構はまだ未解明と記していたが、最近の分子動力学計算により、電子を失ったトリプトファン残基の角度が変わることで分子全体の形が変化し、ClCry4 複合体部位の構造が変わって下流に情報が伝えられる可能性が提案されている: Schuhmann et al. (2024) Structural Rearrangements of Pigeon Cryptochrome 4 Undergoing a Complete Redox Cycle
      磁場感知に関係するクリプトクロムは鳥が一般に持つ網膜の4種の色覚受容体細胞のうち、紫外線を感受する細胞にあると考えられている。クリプトクロムは網膜全体に分布していることが知られており (視覚にそれほど役に立たないような眼球周辺部にもセンサーがあることはこの目的には役に立つ。また網膜にセンサーがあるとはいえ、映像として磁場方向を見ているとは言い切れない。眼球の形状は主に視覚への適応だろうが磁気知覚への適応の影響も考える必要があるだろう)、 眼球内で全方向を向いて整列分布することによって磁場の方向を検知することができると考えられている。この部分の具体的な処理機構はまだ未解明。 磁力線の方向はわかるが、N極・S極を区別することはできない。これは鳥の行動実験結果とも合っている。磁場の方向はわかっても南北はわからないことは、もしかすると逆方向への渡り (迷鳥) のメカニズムにも関係しているかも知れない。
      実験室での渡り鳥の光依存、波長依存性行動はラジカル対仮説を裏付けるものであるが、さらにもう一つ実験的証拠がある。ラジカル対仮説では電波がラジカル対に影響を与えることが期待されるが (*5)、この影響も実験とほぼ合致した。 ちなみに渡り鳥の磁気定位を乱す電波の周波数上限は 120-220 MHz と理論的に見積もられていた。新しい実験で 116 MHz が上限と求められた。渡り鳥の定位に対して提唱されている他のメカニズムでこのような現象を説明することはできない。 Leberecht et al. (2023) Upper bound for broadband radiofrequency field disruption of magnetic compass orientation in night-migratory songbirds。 ちなみに現在使われている携帯電話などの電波は影響を与えない領域にあり、携帯電話の電波が渡り鳥の行動を乱すとの説は現在では根拠がない。
      以下はしばらく歴史の話になる。 Wiltschko and Wiltschko (2022) The discovery of the use of magnetic navigational information の歴史のレビューも読める。Wiltschko のかかわる 1960 年代の仮説発表当時は世の中の反応は非常に懐疑的なものだった、かごの中で磁場を操作して仮想的な渡りを行わせる実験などなど。
      渡り鳥が磁場を感じるメカニズムとしてのスピン状態 (*6) の可能性が提案されたのは意外に古く、Leask (1977) が色素 (当時は網膜で光を感じる色素のロドプシンが想定されていた) のスピン状態の変化が関わっている可能性を指摘していた。渡り鳥が磁場を感知する機構としてスピンを提唱した最初の研究を挙げる場合はこの Leask (1977) がふさわしい。 そして Schulten et al. (1978) が「ラジカル対」を提唱したが、あまりにも時代の先を行き過ぎていて理解されなかった。1970年代では化学者にとってさえもラジカル対の研究は始まったばかりであった。「鳥の渡りの謎」(1994 ベーカー、原書 1985) では「スピン状態」としてすでに言及されていた。 色素のスピン状態が関連しているアイデアは Hong (1977) がすでに出していたが、実験室で磁場がラジカル対化学反応に与える影響や光合成する細菌への影響なども確かめられた結果、Schulten et al. (1978)のアイデアにたどりついた模様である。 渡りの定位が周囲の光の波長に依存することは 1990 年代には知られていた。Gwinner (1974) "Endogenous temporal control of migratory restlessness in warblers" によると光がない状態では渡りの不穏 (*7) も止まるとのこと。 事態を一変させたのは Ritz, Adem, Schulten (2000) が生物学者にも読める形でクリプトクロムの関与する磁気受容を提唱したことに始まる (A Model for Photoreceptor-Based Magnetoreception in Birds)。
      タンパク質のアミノ酸配列は遺伝子を解析すれば決まるが、タンパク質の3次元構造はすぐわかるわけではない。コンピュータプログラムの進歩でかなり正確な予測ができるようになっているが、やはり正確な構造決定にはタンパク質を結晶化させて (これには大変高度な技術が必要である)、そのX線などによる解析で3次元構造を知るのが王道である。 脊椎動物 (ハト) のクリプトクロム (Cry4) の結晶化に初めて成功したのが Zoltowski et al. (2019) Chemical and structural analysis of a photoactive vertebrate cryptochrome from pigeon で、上記の解釈で想定されていた化学的性質を示すことが確認された。 このあたりはさまざまな分野の研究者 (化学者や物理学者および生物学者) の協力が必要で、現在最先端で盛んに研究が行われる集学的テーマとなっている。地球磁場程度の弱い磁場をいかに感知することが可能かどうかも最先端の量子化学計算で調べられている (鳥の渡りの研究はもはや生物学者だけのものではなくなってしまった)。
      クリプトクロムは現在「本命」であるが、生物学者サイドから疑問 (批判的視点) も含めて渡り鳥の磁気定位についてレビューされた論文もある。Nimpf and Keays (2022) Myths in magnetosensation。 この中の疑問は現在では解決されている、あるいは有力な解決法が提案されているものもあり、生物学者が理解困難な領域であまりにも急速に進展したこの分野に対する「焦り」のようなものも感じられる。
      クリプトクロムにも何種類かあり、一部は体内時計 (概日リズム、サーカディアンリズム) の維持に役立っているとされているが、夜に渡る渡り鳥 (*8) の磁場感知に最も関係が深いと考えられているものに Cry4 がある。 Frederiksen et al. (2023) Mutational Study of the Tryptophan Tetrad Important for Electron Transfer in European Robin Cryptochrome 4a が 362 種の鳥類ゲノムを調べ、322 種で Cry4 の遺伝子を検出し、そのすべてで4つのトリプトファンが完全に保存されていた (いかに重要な機能を果たしているかがわかる)。 Cry1, Cry2 は鳥類の間でほとんど同一で、強く保存されていることがわかる。これらは概日リズムに関係する遺伝子で、生命維持に不可欠なのだろう (#イヌワシの備考参照)。 哺乳類でも Cry1, Cry2 遺伝子は概日リズムに必要であることがわかっている: van der Horst et al. (1999) Mammalian Cry1 and Cry2 are essential for maintenance of circadian rhythms
      磁気受容の中心と考えられている Cry4 はもっと変化が大きい。例えばハチドリ、オウム、Tyranni (タイランチョウ類、日本ではヤイロチョウが含まれる) で失われている。 スズメ目に至るまでは変異速度が速かった、スズメ目では遅くなっている。これは (例えば渡りのコンパスの) 機能が成熟して、あまり進化する必要がないためと考えられる。 Cry4 は何度も失われており、渡りを行わなくなった (あるいは飛べない) 種類では (必要でなくなるため) 比較的簡単に機能を喪失する可能性がある。また前記記述のように磁場感知に関係するクリプトクロムは色覚受容体細胞のうち、紫外線を感受する細胞にあると考えられている。夜行性の鳥では紫外線受容体細胞が失われる傾向にあり、一緒に Cry4 を失うことも考えられるだろう。 クリプトクロムと渡りの定位の研究はスズメ目のヨーロッパコマドリで調べられてきたもので、それより前に分岐した (系統的に古い) グループでの役割が同じかどうかまではわからないが、得られた結果をみるとハチドリ、アマツバメ類のようにヨタカグループのものに遺伝子を失ったり一部失われているものが集まっているように見える。 フクロウ類でも不完全に失われている系統があるようである。これらから想像すると、ハチドリ、アマツバメ類はやはり夜行性を体験していたのであろうか (前述記述で追加のように夜行性は体験したがヨーロッパヨタカも含めて紫外線受容体は失われていなかった模様)。
      フクロウ類に留鳥性の高いものが多いのもこれで説明できるのかもしれない。渡りをするアオバズクやヨタカ、ヤイロチョウではどうなっているのか、ゲノム解析が待たれるところである。亜鳴禽類は Tyranni (タイランチョウ類、日本ではヤイロチョウが含まれる) にあるように Cry4 を失う傾向が強く見られる。 このグループの鳥が日本にあまり縁がないのもこのためかも知れない。 Frederiksen et al. (2023) の論文中 Pitta属で調べられているものが唯一あり、ズグロヤイロチョウ Pitta sordida 英名 Western Hooded Pitta で、この種は Cry4 が失われていた。 種の記述では渡りをするか不明瞭とされている。また東洋では Ninox属、Asio属に渡りをするフクロウ類がいるが、これらの種は調べられていない。 一方で昼行性猛禽類 (タカ、ハヤブサ) の Cry4 は渡りの有無にかかわらず調べられた範囲で完璧に存在する。タカ、ハヤブサ類は必要があれば渡ることができる性質を持ち合わせていることを意味する (例えば恒温動物以外を主食とする種類も進化できる) のだろうか。 フクロウ類の多くの系統で夜行性適応のために紫外線受容体とともに Cry4 を失い、食性の範囲もタカ、ハヤブサほどには広げることができなかった、などの妄想も膨らむ (もっとも初期のフクロウ類はタカのような昼行性であった証拠もある。#ミサゴの備考参照)。 スズメ目の祖先形が Cry4 を失わなかった系統だったのでが大規模な渡りを行えるような形に進化できたのかも知れない。そうでなければ昆虫食のスズメ目が温帯にはあまりやって来ず、我々が満喫しているような夏鳥のコーラスは温帯では聞けなかったのかも知れない。 また鳥類祖先系統から (最適化はされていなかったかも知れないが) Cry4 システムを持っていたと考えることができるので、鳥類の祖先となる系統も磁場情報を用いていたことが想像できる。
      これらの知見はゲノム生物学、分子系統学、量子化学や物理学の現代最先端の手法を組み合わせることで可能になった実に驚くべき結果で、渡りの進化や生態を考える上でも大変示唆に富むものと思う。 日本語で読める資料がほとんどないので少し詳しく解説させていただいた。 もちろん定位は磁場だけが関与するわけではないので、種類によっては磁場を頼りにせず渡っているのかも知れない。渡りをするアマツバメ類はどのようにしているのか。いずれもこれからの研究の題材となるだろう。
      また地磁気逆転などの現象もあり、地球磁場の弱い時期を渡り鳥はどのように乗り切ってきたのかなども興味深い。これらは「地球磁場はあてにならない」反論の根拠の一つとなっている。 同様の状況は夜空をコンパスとして利用する場合も、天の北極が変化する (歳差運動) ことが問題になる。この問題は特定の星を目印にするのではなく、ひなの時期に回転中心 (天の北極) を学習することによって回避できることがすでに実験で確かめられている。地球磁場の方はそのような簡単な法則性がないのでまだ議論の最中である。
      地球磁場の時間変動が営巣地への帰還に関係があるか (つまり磁場が変化すると巣に戻れないのではないか)、などの研究がある: Wynn et al. (2022) How might magnetic secular variation impact avian philopatry?。モデル計算では地球磁場で2次元地図を持つとむしろ不利になるのでは。他の手がかりと1次元の磁場情報を組み合わせて用いる方が有利だろう。2次元地図を持っているかそうではないかはこれまでも繰り返し議論されてきた問題。 磁気嵐 (太陽活動による) をどう乗り切るか: Bianco et al. (2019) Magnetic storms disrupt nocturnal migratory activity in songbirds 磁気嵐を感じると活動が鈍る?
      Schneider et al. (2023) Sense of doubt: inaccurate and alternate locations of virtual magnetic displacements may give a distorted view of animal magnetoreception ability (解説) 人工的に磁場を操作することで誤った位置を認識させる (渡りの向きが変化する) とのこれまでの実験は問題点が多い。 Schneider et al. (2024) Reply to: Animal magnetic sensitivity and magnetic displacement experiments 普通に考えると同じ位置に戻るには驚くべき地磁気測定精度が必要であまり現実的でないように見える。しかし 0.6° の精度しかなくても 100 日くり返して測定すれば 0.05° の精度で位置を定めることができるとのシミュレーション結果。 100 回測定すればノイズが正規分布ならば 100 の平方根で 10 倍精度が上がる仕組み (しかし移動しながら違う場所で測定した場合に理論通りの精度が出るかは自分も疑問を感じる)。
      なお、この分野の専門家 (物理化学) である Peter Hore の招待講演が YouTube にある。Peter Hore on Radical pair mechanism of magnetoreception (2017)。講演者自身は冒頭で「鳥のことは何一つわからないが」とスライドを示して聴衆の笑いを買っている。 上記のようなラジカル対を通じた磁気受容のメカニズムはスピンを持たない原子核のみからなる分子では働かない。例えば生体を形成する炭素や酸素のほぼ全体を占める同位体の原子核はスピンを持たない。メカニズムに関係するのは水素および窒素の原子核で、量子化学計算によればフラビン分子内に存在する窒素の原子核が関わっていることが示されている (上記公演の 22:50 あたり)。 地球磁場程度の弱い磁場に反応するこの電子-原子核のスピン相互作用 (hyperfine interaction) には方向性があり、これによって分子に対する磁場の向きに応じた反応を示すとのことである。自分も前半しか見ていないので、上記の分子レベルのメカニズム説明もちょっと怪しいところがあるかも知れない。お気づきの点があればご指摘いただきたい。 なお地球磁場程度の弱い磁場に影響を受ける化学反応はかつては知られていなかったが、Maeda et al. (2008) Chemical compass model of avian magnetoreception は人工的な化学物質ではあるが弱い磁場に影響を受け、渡り鳥の磁気コンパスのモデル分子となり得るものを発見した。この研究には前述の Peter Hore も関わっており、彼はクリプトクロムも同様であることをおそらく疑っていないだろう。
      (注釈)
      *1: cryptochrome ギリシャ語で「隠れた色」。フォトリアーゼ系のタンパク質でフォトリアーゼは細菌からすでに存在していたもので、紫外線による DNA 損傷回復に関与する。植物と動物では独自に進化し植物の光への反応に関係している。同じものを違う機能に進化させることは生物でよくみられるが、そんなものが長距離を渡る鳥を生み出すことになろうとは、神様? でも考えなかったであろう。
      *2: 光には波 (電磁波) としての性質も粒子としての性質もある。後者を指して光子 (フォトン) と呼ぶ。皆様がお世話になっているカメラも、レンズ部分では光の波としての性質を、センサー部分では光子としての性質を利用している。光だけではなく物質も同じように波としての性質を持ち、量子力学の根幹をなす概念。 アインシュタインがノーベル賞を受賞したのも、有名な相対性理論の方ではなくて、光が粒子としての性質も示すことを示した業績によるもの。格好良く書けば光子1個のエネルギー E=hν ここで h はプランク定数、ν は光の振動数。赤い光 (振動数が小さい) は青い光 (振動数が大きい) に比べて E が小さい。 青い光でないと起きない (光量子のかかわる、センサーでもよい) 現象に対して、赤い光をいくら強めても現象が起きないのはこの原理による。 鳥の世界でも色素による色彩は光子としての光の性質に、構造色は波としての性質による。 我々も鳥も色を知覚できるのは (というよりそもそも光が見えるのは) 光子としての光の性質による。
      *3: トリプトファンは一般的なタンパク質では存在量が最も少ないアミノ酸で、これほどトリプトファンが連なるのは特殊な役割を果たしていると考えるのが自然である。トリプトファンをコードするコドンは 64 種のうち1つのみで、生命進化の初期段階ではおそらく必須のアミノ酸でなかった。 チロシンとトリプトファンについては、20-24 億年前の酸素増大イベント (大酸化イベント) に耐えるために獲得された可能性を、量子化学計算と生化学実験から提示した研究が発表されており、アミノ酸の機能的特性が遺伝暗号を決定づけていたことを示唆している (wikipedia 日本語版より)。
      *4: このように引き離された (といってもタンパク質分子程度のスケールだが) の2つの電子の間には離れていても相互の状態に相関があり、「量子もつれ」(qunatum entanglement) の状態にあるとも表現される。ちなみに「量子もつれ」は 2022 年ノーベル物理学賞のテーマであった。 世の中で普通に出てくる「量子もつれ」は一般に光子と光子の間のもので、遠距離でも光子と光子の間に相関を持たせる実験に成功している。渡り鳥のラジカル対の場合は電子と電子の間のもので、世の中一般によく言われるものとは異なるので注意。これは光子の場合と異なり (一般的でない環境、しかも特別な条件下でやっと実現可能) ごく短距離の間でしか量子もつれの効果は現れない。
      *5: 我々がスピン (*6 参考) のお世話になっているものに医学で使われる MRI がある。渡り鳥における磁気定位メカニズムに関連がある (と思われる) のは電子のスピン、およびそれに影響を与える原子核のスピンであるが、MRI の場合は水素原子核のスピンを測定している。 磁場中のスピンが (古典力学的に言えば) 周期的に向きを変える (みそすり運動と言う) ことでそれに対応する電波が発生し、電波の周波数と強度を測定して画像にしている。もっとも磁石の原理もスピンなので、すでに誰もがお世話になっているわけであるが、ここでは電波との関係を示すために MRI を例示した。
      *6: 電子や一部の原子核には古典力学の回転 (電子は大きさを持たないので回転の比喩は正しくない)、正確には角運動量、に対応する「スピン」と呼ばれる量子力学の概念があり、よく上向きスピン、下向きスピンのような表現が使われる。おそらく大学1年程度の化学で習うが、元素や周期律に興味のある方にはもっと早い時期にお馴染みかも知れない。 大学入試の「化学」を暗記科目にしないために高校段階でもスピンを教えているところもあるはずである。 ただスピンがなぜあるのか、という質問には大学で物理を学んでもそうすぐには教えてもらえない。物理系の3-4回生で選択科目次第で習える程度だろうか (さわりだけでも見ておきたい方は wikipedia 日本語版で「ディラック方程式」の冒頭をどうぞ)。「いったい何なのか」には深入りせずにそういうものがあると思っておくのがおすすめ。 渡り鳥を扱った本でも三重項状態 (triplet) とか一重項状態 (singlet) のような専門用語が登場することがある。これはスペクトル線の特徴から名付けられた用語だが、上向きスピン、下向きスピンの表現を用いれば2つの電子が同じ向きなのが三重項状態、逆向きなのが一重項状態となる。 有名なところでは酸素分子 (O2) の結合電子は通常は三重項状態の方がエネルギーが低く (分子軌道の対称性に起因する)、酸素分子は通常は2つの不対電子を持つ (液体酸素は磁石にくっつく)。一重項酸素はよりエネルギーの高い励起状態で活性酸素の一種。ロドプシンが磁場を感知すると考えられた初期の解釈では、ロドプシン分子内での仮想的な一重項/三重項の遷移を考えていた。
      *7: 渡り鳥が渡りの時期にかごの中で夜間に渡る方角を向いて動作する行動。古典的には鳥の足にインクを付けて足跡の方向を見ることで渡りの定位を研究していた。ドイツ語の Zugunruhe (原語読み ツークウンルーエ。合成語なのでツークで切って g は無声化。-gu- は続けて読まない) は英語でもよく使われる。 ツーグンルーエの読み [おそらく中村司氏による。cf. 樋口 (2019) 中村 司先生を偲ぶ] が知られているが、これは英語・ドイツ語の読みが混ざっているのでおそらく正しくない。 Zug 牽引、行進、渡り鳥の群れのことなど。cf. Zugvogel 渡り鳥。こちらはツークフォーゲルと読む。Unruhe 不穏。落ち着かないこと。渡りの衝動と書いてあるものもあるが、原意を考えると不穏の方が適切だろう。Unruhe はもちろん Un + Ruhe ルーエ 平穏、落ちつきなどの意味。 ツークウンルーエと読めないとドイツ語の先生から読めていないときっと訂正されるだろう。ドイツ語 (に限らないだろうが) の授業ではテキスト音読で実力はかなりわかってしまう。 #ハチクマの備考にある飼育下での渡り時期の記述もおそらく同様と思われるが、主に昼間に渡りをするハチクマがそういう衝動を起こすとすれば面白い。
      *8: 磁気定位に光が必要なのになぜ夜間に渡りができるのか、という根源的疑問があるだろう。これは研究者も気にしているようで、闇夜でなければ磁気定位が可能などの理論計算を行っている。これはまだ十分に解決されていない。

      ハチドリについてもう一つ話題を紹介しておく。Osipova et al. (2023) Loss of a gluconeogenic muscle enzyme contributed to adaptive metabolic traits in hummingbirds の研究によればハチドリがホバリング飛行を進化させるにあたって FBP2 という筋肉で糖新生を行う酵素を失ったとのこと。この酵素を失うことで糖分解やミトコンドリア能力が高まることが実験的に示されており、高いエネルギー生産が必要なホバリング飛行が可能になる一つのステップであったと考えられる (もちろんそのために常時糖分を補給する必要性が生じたわけだが)。
      ハチドリの超高音の音声と聴覚については#タンチョウの備考 [ツル類やハクチョウ類の気管・鳥の発声メカニズム] も参照。
  • ヒメアマツバメ
    • 学名:Apus nipalensis (アプス ニパレンシス) ネパールの足のない鳥
    • 属名:apus (合) 足無し (a 無い pous 足 Gk)
    • 種小名:nipalensis (adj) ネパールの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:House Swift
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは kuntzi (アメリカの軍医、採集家 Robert Elroy Kuntz に由来) とされる (しかし下記参照)。
      [分類と亜種の問題] かつては Apus affinis の亜種とされ、古い図鑑でもこの学名であった。このうちインドより東のものが Apus nipalensis ヒメアマツバメ House Swift と分離され、多くのリストがこれに従っている。 分離する場合 Apus affinis Little Swift にはニシヒメアマツバメの和名が与えられている (日本で記録がないため亜種を考えた場合は同じ名前がどの亜種を指すかは自明でない)。 Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では Rasmussen and Anderton (2005) "Birds of South Asia: The Ripley Guide" ではこれらのグループの中で複数種の証拠を見いだせなかったため同種に戻し、 nipalensis を独立種でなく、Apus affinis Little Swift/House Swift の亜種としている。この場合は全体で10亜種。 両者の分布するインドおよび南アジアのリスト (2022) は IOC を採用し2種としている Taxonomic updates to the checklists of birds of India, and the South Asian region - 2022。 Paeckert et al. (2012) (#アマツバメの備考参照) では遺伝系統解析でこの2種の系統の分離は不完全 (wikipedia 英語版 incomplete lineage sorting。日本語版もある) としている。 将来の研究により同一種に戻される可能性もあるかも知れないが、このグループの研究はまだかなり不完全である。 なお Saitoh et al. (2015) GenBank: AB843360.1 では東京のサンプルについて Apus affinis Little Swift の名称で登録している。関連する研究は Saitoh et al. (2015) (#カルガモの備考参照)。 より古い時期に日本から Apus nipalensis の名称での登録もあり、日本の研究者の間でも分類の扱いが必ずしも一貫していないようである。
      Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) の記載では kuntzi は台湾の亜種で、日本は nipalensis であるとしている。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" も同じ見解で kuntzi との外見の区別を記載している。 台湾の扱いでは Clements v2022 をベースとして kuntzi を固有亜種としている: The 2023 TWBF Checklist of the Birds of Taiwan。 フィリピンのリスト (2023) では nipalensis, subfurcatus を留鳥亜種としており、伝統的にはフィリピンの亜種は subfurcatus とされていたのでこれも nipalensis の島嶼への分布拡大を示唆しているのかも知れない。
      さらに興味深いことに2012年カナダのブリティッシュコロンビアで瀕死の状態で到着したヒメアマツバメの記録がある: Szabo et al. (2017) First Record of House Swift (Apus nipalensis) in the Americas。 この論文ではミトコンドリア COI ハプロタイプは日本の1個体、(ニシヒメアマツバメとされる) インドの2個体とまったく同じであり affinis/nipalensis と DNA 判定している。 論文中では日本はニシヒメアマツバメの分布の東端の可能性もある書き方になっている。 この文献では2010年代前半にヒメアマツバメが北海道東端にまで進出していることにも言及している。 Researchers untangle mystery of tiny bird’s trans-Pacific flight の記事も参照。嵐で運ばれたか渡りのコンパスに異常があったのかなどの可能性が考えられているが、太平洋を越えるのは容易でないだけで、分布を広げる先駆的な個体であった可能性であるようにも思える。 またアマツバメ類はヨタカ類の夜行性系統に関係があるため、あるいはそもそも渡りの磁気定位能力があまり高くなく (#アマツバメの備考参照)、長距離の渡りに適していないかも知れない。つまり渡りのコンパスに異常というより種として渡りのコンパスの精度が低い可能性である。 またヒメアマツバメとニシヒメアマツバメの遺伝情報 (ここで比較された短い部分だけであるが) が同じであったことも注目に値しそうである。
      カタグロトビの確認初期にそうであったようにヒメアマツバメの繁殖確認時期に地理的に最も近い亜種が想定されたものがそのまま残っているものかも知れないが、現在の世界のリストの扱いと異なったものとなっている。 留鳥性の比較的高い種であり、台湾は固有亜種 (他の種でもよく見られる現象) で、日本の個体群は大陸の個体群の分布拡大に従った結果と考えると海外リストの見解の方が正しいかも知れない。 Paeckert et al. (2012) ではアマツバメ類は既存の亜種区分にも問題があるとのことで、将来研究が進めば亜種分類の見直しもあるかも知れない。 日本鳥類目録改訂第8版ではヒメアマツバメとニシヒメアマツバメが別種扱いとなる可能性が高いが、もし世界の趨勢の変化などで将来これが同一種 Apus affinis に戻された場合はニシヒメアマツバメの名前は基亜種 Apus affinis affinis のみを指す可能性もあり現在の名称が指す範囲とかなり異なってくるかも知れない。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES チドリ科 CHARADRIIDAE 

  • タゲリ
    • 学名:Vanellus vanellus (ワネッルス ワネッルス) 小さな唐箕
    • 属名:vanellus (合) vanellus タゲリ [小さな唐箕 (とうみ) (vannus (f) 唐箕 -ellus (指小辞) 小さい]。フランス語で穀物をあおぎ分ける箕。飛翔時のゆっくりした羽ばたきから (コンサイス鳥名事典)
    • 種小名:vanellus (トートニム)
    • 英名:Lapwing, IOC: Northern Lapwing
    • 備考:単形種。
      [チドリ目の系統分類] チドリ目は巨大な目で日本鳥類目録改訂第7版、第8版の配列 (順序は IOC 13.2。学名は必ずしも一致するわけではない) を見てもどのように分類されているのか想像しにくい。Boyd の用いている上位分類を紹介しておく。IOC 分類順とは多少異なっている。 wikipedia 英語版は Kuhl et al. (2021) (#ミサゴの備考 [近代的な陸鳥の進化] 参照) をもとにしており、Boyd の提案はこれとも異なっている。Kuhl et al. (2021) のサンプルも十分多いわけではないので個々の属の位置には不定性がある。 Boyd は Cerny and Natale (2022) Comprehensive taxon sampling and vetted fossils help clarify the time tree of shorebirds (Aves, Charadriiformes) を参照しており、この系統樹 (問題点もあり、他の項目の解説も参照) を見ればこれまで大きくまとめられていたものが日本鳥類目録改訂第8版でかなり変わる予定であることも理解できる。
      なお Cerny and Natale (2022) のこの論文は自身でデータを取ったのではなく、GenBank に公開されている塩基配列を解析したもの。 ここで紹介する分類の科の名称は山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) 鳥類の目と科の新しい和名 (1) 非スズメ目・イワサザイ類・亜鳴禽類によるが、それ以外の和名は仮に与えてある。 [#鳥類系統樹2024] の Stiller et al. (2024) でも主要系統がサンプルされているが膨大なチドリ目の中では一部のみで、調べられたものがここで示したものと矛盾する結果にはなっていないので Cerny and Natale (2022) を用いた Boyd のものを紹介しておく。
      まず最上位の分類を示す。

      チドリ目 Charadriiformes
       チドリ亜目 Charadrii
       シギ亜目 Limicoli
       ミフウズラ亜目 Turnici
       カモメ亜目 Lari

      含まれる個々の分類群は分類によって違いがあってもこの亜目の分割は納得いただけるであろう。 wikipedia 英語版ではシギ亜目に相当するものが Scolopaci となっている。 Boyd によれば Scolopaci よりも Limicoli の方がずっと先取権があり、歴史的にも長く使われてきた (科名 Limicolae としての用例も含む) とのこと。 ミフウズラ科は従来 Lari に含まれていた (wikipedia 英語版でも) が、最新研究で非常に古い系統と判明して分離された (#ミフウズラの備考参照)。

      チドリ亜目 Charadrii
       サヤハシチドリ小目 Chionida
        (サヤハシチドリ科) Chionidae: Sheathbills
         マゼランチドリ亜科? Pluvianellinae: Magellanic Plover
         サヤハシチドリ亜科 Chionidae: Sheathbills
        イシチドリ科 Burhinidae: Thick-knees
       ナイルチドリ小目 Pluvianida: Egyptian Plover
        ナイルチドリ科 Pluvianidae: Egyptian Plover

       チドリ小目 Charadriida
        セイタカシギ上科 Recurvirostroidea
         トキハシゲリ科 Ibidorhynchidae: Ibisbill
         セイタカシギ科 Recurvirostridae: Stilts, Avocets (セイタカシギ属は#セイタカシギの備考参照。ソリハシセイタカシギ属は#ソリハシセイタカシギの備考参照)
         ミヤコドリ科 Haematopodidae: Oystercatchers (ミヤコドリ属は#ミヤコドリの備考参照)
        チドリ上科 Charadrioidea: Plovers
         ムナグロ科 Pluvialidae: Golden-Plovers (独立科に)
         チドリ科 Charadriidae: Plovers, Dotterels
          ノドアカコバシチドリ亜科: Oreopholinae (Boyd 独自)
          チドリ亜科 Charadriinae (日本産の大部分のチドリが入る。#ハジロコチドリの備考参照)
          タゲリ亜科 Vanellinae: Lapwings
          シロチドリ/メダイチドリ亜科? Anarhynchinae (日本産ではシロチドリ、メダイチドリ、オオメダイチドリ、オオチドリが入る。#シロチドリの備考参照)

      シギ亜目 Limicoli
       レンカク小目? Parrida
        ヒバリチドリ上科? Thinocoroidea
         クビワミフウズラ科 Pedionomidae: Plains-wanderer
         ヒバリチドリ科 Thinocoridae: Seedsnipes
        レンカク上科 Jacanoidea
         タマシギ科 Rostratulidae: Painted-snipes
         レンカク科 Jacanidae: Jacanas

       シギ小目 Scolopaci
        シギ上科 Scolopacoidea
         シギ科 Scolopacidae: Sandpipers, Snipes
          ダイシャクシギ亜科 Numeniinae: Curlews (#ダイシャクシギの備考参照)
          オグロシギ亜科 Limosinae: Godwits (#オグロシギの備考参照)
          ヤマシギ亜科 Scolopacinae: Dowitchers, Snipe, and Woodcock (#ヤマシギの備考参照)
          クサシギ亜科 Tringinae: Phalaropes and Shanks (#クサシギの備考参照)
          キョウジョシギ亜科 Arenariinae: Turnstones and Stints (#キョウジョシギの備考参照)

      ミフウズラ亜目 Turnici
       ミフウズラ科 Turnicidae: Buttonquail

      カモメ亜目 Lari
       ツバメチドリ小目 Glareolida
        カニチドリ科 Dromad