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くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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更新:2024-10-10

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(日本鳥類目録 改訂第7版準拠+α+#第8版配列)

新・野鳥の学名入門

加藤太一 (京都大学理学研究科)

(本ページの内容への問い合わせ先: tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

著者の所属する ML Kbird への投稿の形でも歓迎。他の方の意見も仰げるかも知れない)

(2024-10-10改訂)

◆ご紹介

本ページはくまたか/日本野鳥の会筑豊支部にかつて掲載された「野鳥の学名入門」を元に内容の改訂・備考の追記を行って作成しているものである。 日本鳥類目録 改訂第7版がベースとなっているが、日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、パブリックコメントへの回答、第二回パブリックコメントに向けた暫定リスト、日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント (2024年4月) を一部踏まえている。 掲載順は日本鳥類目録改訂第7版であるが、第8版で修正予定の学名の解説と#第8版新規掲載種 (最後に付記) も付記しており、(外来種は除く) 第8版用の亜種を含む学名辞典としても活用いただけると思う。 第8版で#検討種予定一覧と若干の考察も追記した。
第8版に移行中で#第8版配列のリンクも活用いただきたい。
作成に当たっては日本野鳥の会筑豊支部および (旧)「野鳥の学名入門」作者の了承を得ている。現在はまだ作業中であるが、すでに記述した部分だけでも有益な情報が含まれていると考えられるため、この段階で公開とともに逐次改訂を進める予定である。補足の大部分の記述は著者自身が調査したものであるが、一部の (主に伝聞) 情報には出典がわからなくなっているものも含まれており、適切な引用先をご存じの方はご一報いただければ幸いである。
本稿準備中に日本鳥学会による日本鳥類目録第8版和名・学名リスト公開 (2023年9月30日) が行われ、「やむを得ない場合の修正を除いて、第8版の掲載順や分類、和名については本リストに従います」とされている (このリストの掲載順は IOC 13.2 に準拠とのこと)。さらに第二回パブリックコメントに向けた暫定リスト (2023年10月31日。国内分布情報、学名の著者情報を追加) が発表されている。 その後「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) が発表された。 第2回パブリックコメントが発表された (2024年4月1日)。学名の一部修正と国内分布情報の追加が行われた。目録第8版の出版は2024年9月に予定されていることである。 ちなみに IOC は国際鳥類学委員会 (International Ornithological Committee) の略。現在は IOU 国際鳥類学者連合 (International Ornithologists' Union) の名前になっているが、チェックリストの名前を呼ぶ時は IOC が使われている。IOC World Bird List から最新の分類を知ることができる。 本稿では現状の改訂第7版時代の資料性も保持するため配列順 (および掲載種。一部例外を含む) は改訂第7版を維持し、学名等に関する記述も改訂第7版を基本とするものの、第8版に関わる情報も主に備考の形で含む形とした。 最新の情報は「日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)」「日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント(2024)」して表記した。これは日本鳥類目録第8版の最終版を意味するわけでないことにご留意いただきたい (参考文献参照)。
索引は「野鳥の学名入門」をそのまま利用している。英名などの修正を行ったものでは索引と本文が対応していない場合があることをご理解いただきたい。
このページ内へのリンク (備考参照など) には # を付けて外部ページへのリンクと区別している。これらのリンク先は [別ウインドウで開く] などで見ていただければ使いやすいと思う。

最新情報へのリンク:
[#タカ類を新しい分類で見る] (2024.3; 2024.8 小さな修正あり) ← タカ類の最新の全分類はこちら (世界の共通リストを目指す WGAC でも採用され 2025 年初頭にリリース予定。IOC 14.2 でも採用)
[#鳥類系統樹2024] (2024.4)

◆索引

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和名索引

英名索引

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◆鳥類学名の読みと意味・名前のことなどさまざま

  • 種の学名は属名 (genus; generic name) と種小名 (specific name; species epithet; 学名を扱っていることが明らかな文脈では単純に epithet と略すこともある) から成っている。学名はカナで読みを示し、またそれぞれに意味などを説明している。[wikipedia 日本語版学名にもかなりの情報がある]。 それに引き続き命名者と年を記述するのが完全な形式になるが本文中では大部分省略している。 日本産種については改訂第8版準拠の#リンク集に命名者と記載年を含めた学名が収められているので参考にしていただきたい。若干長くなって面倒だがこの形式が図鑑などでも標準的に用いられるようになればもう少し普及するだろう。 (Linnaeus, 1758) のように "命名者, 記載年" 部分が丸かっこで囲まれるものは記載時学名から属が変化したもの。命名者部分に丸かっこの付く学名が多いがこれは補足的な意味で使われた丸かっこではなく別の意味がある。
  • 学名の読みをカナ書きで表記してあるが、日本語の発音に近似させたもので、ラテン語の発音を正しく表しているわけではない。ラテン語の発音について詳しいわけではないが、アクセント位置は後ろから2つめまたは3つめの音節に来るとのこと。 カナ書きで読むと任意の場所にアクセントを置きがちであるが、語末や子音に対応するカナにはアクセントを置かないように。2音節以上の単語では最後の音節には長音であってもアクセントは現れない。 語末が2重母音であってもアクセントはない。例えば ardea のアクセントは "ルデア"。
    ラテン語は現役言語ではないので何と読んでもよさそうではあるが、せっかく学名を覚えるならば古典式ラテン語の発音規則に合わせるのも外国語を扱う上での一つの見識と考えてよいだろう。 自己流でアクセントを置いたり長母音にするよりは多少の根拠があると見ていただくとよいだろう。
    よく現れる具体的な例を挙げておくと、minor, major は長音があるがアクセントは冒頭 (2音節しかないので自動的に決まる)。"ミノール" とカナ書きにすると "ノー" アクセントを置きがちだが、英語の minor, major のアクセントと同じで読み方だけが異なる (ノール、ヨール) と考えるとわかりやすい。
    wikipedia 日本語版の解説によれば

     1. 後ろから2番目の音節が閉音節である場合、および、長母音もしくは二重母音を含む音節である場合、強勢は後ろから2番目の音節に置かれる。
     2. 上記以外の場合、後ろから3番目の音節に置かれる。但し、2音節しか持たない単語の場合は後ろから2番目の音節に置かれる。

    とのこと。閉音節とは子音で終わる音節とのこと。また多くの学名に現れる -cola の "コーラ" とアクセントを置いて読みたくなるが、-co- は短母音で2.に当てはまりここにはアクセントがなく "コラ" と短く読んでその前の音節にアクセントを置くとよい。 一方で motacilla は -cil- が子音で終わるので1.に当てはまり -cilla (ルラ) の方にアクセントがある (英語読みではモタシーラ)。
    accipiter は -pi- が閉音節でないため -ci- にアクセントがある。英語でもアクセント位置は同じで2つめの c の発音だけが異なると考えれば近い音であることがわかる (アクピテル。英語読みでも実用上多分構わない)。
    よく使われるところでは emberiza を何と読むか問題になりそうだが、規則によれば -be- がアクセントで、発音の聞けるページを参照するとそのようになっている。 "エムベーリザ" (本来は長音ではないが "ベ" にアクセントを置くためこの表記とした。アクセントに慣れれば短音に戻していただいてもよい) のような読み方がよいのだろう [イタリア語の同じ綴りの単語は -iddza のリズムと解釈され "リ" の方にアクセントがあるとのこと]。 "Emberiza 某" 等名乗る方はこのような細部もこだわっていただきたい。
    ラテン語で h を発音するかどうかは時代にもよるようで読まない場合もあるらしい (ラテン語起源のフランス語などでは発音しない)。ここでは "h + 母音" は h を発音する表記を採用した。学名記載などに使われる (著者) 自身を指す mihi の h は時代によらず必ず発音されるとのこと (h の音を外せば英語の me に対応することがわかりやすい)。
    si の発音はラテン語ではおそらく "shi" の音は出てこないので紛らわしいことはないが、アクセント母音やその前、二重母音になる場合などは "スィ" と表記して注意を促すこととした。表記が煩雑になるのでアクセントに関係ない場合などは "シ" の表記を残しているが音は "si" である点は少し注意。
    2重子音は分けて読むのが本来の読み方。前述 (-cil-la, ac-ci-) のようにここで音節が分離されることが多いので基本的に分けて表記している。ただしカナで表記困難な場合は促音 (詰まる音) を用いている。
    ここに示した長音の読みは古典式で、後の時代では短くなる傾向があるので短く読んでいただいても問題ない。しかし長音かつアクセント母音となる造語語尾 (-atus, -ata など) は覚えやすいので積極的に長音を活用していただくとよいだろう。また "尾" 由来の -urus, -ura、"足" 由来の -pus のように統一して発音すると意味も理解しやすくなる。 -phone のように長音と短音で意味が違うこともある。 解説では英語などに合わせて "長母音" の用語を用いているがラテン語やギリシャ語では正しい用語ではないかも知れない。これは例えばギリシャ文字の ε を "イプシロン/エプシロン" と短く読み、η を "エータ" と長く読むのに対応していると考えていただいてよい。ギリシャ語由来の学名で η は長母音と表記している。
    (個々の種は現在作業途中。第7版掲載種の後半は検討済み)
  • 本ページでは、「日本鳥類目録 改訂第7版」掲載の 633 種を同書の配列順により掲載している。改訂第8版準拠の#リンク集も用意している。 亜種についても備考で触れている。「日本鳥類目録 改訂第7版」非記載の鳥 (外来種) を掲載している。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、パブリックコメントへの回答、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト (目録第8版出版前段階のもの) も踏まえている。種名見出しでは目録第8版で種の分割、合体により学名が変化するものに注意を促す意味で注釈を加えた。属名のみの変更は記していない。
  • 和名による分類階級は、目・科・種を記載し、日本鳥類目録第8版で新たに付く予定のもの以外の属名は省略している。
  • このページへの個々のご意見・ご質問等は上記執筆者メールアドレスか ML Kbird を通じてご連絡ください。サイトへの全般的ご意見・ご質問等は、[ご連絡] のページより、メッセージ先頭に「野鳥の学名入門」と記し送信してください。
  • 追記した備考では細分した中間的な分類概念をしばしば用いている。上位概念から順に (order) - 亜目 (suborder) - (family) - 亜科 (subfamily) - 族 (tribe) - (genus) - 亜属 (subgenus) - (species) - 亜種 (subspecies) のようになる (Taxonomic rank)。 太字が必須項目 (亜種まで記載する場合は亜種も必須になる)。亜種のない種を単形種 (または単型種、漢字の選択は日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に合わせた) と呼ぶ。英語では monotypic species。
    近年は分子遺伝学の進歩により従来単一であった属が単系統でないことが判明し、複数の属に分割されることも多くある。日本国内の種に限れば一属一種となるものも多く、属名から類縁関係を推測しにくくなっているケースもしばしばある。これらの場合に族などの中間的な分類概念を適切に使うことで分類的位置がわかりやすくなることもあり、実際に利用されている。 また非常に大きな分類群においては下位の中間的な分類概念を使うことは実用上も意義があり、従来も「ヒタキ科ツグミ亜科」のような使い方がなされてきた。近年の分類で亜科の分け方が大きく変わっているものもあるので (#ヨーロッパコマドリの備考参照) 注意が必要である。 種より上位の分類概念には定まった規則がないため、現在でも、そして今後も属の境界をどこに置くか、中間的な分類概念をどの段階に適用するかなど分類学者の間でも意見が分かれる場合もある (もちろん独立種と認めるか亜種とみなすかなどの議論もさまざまな形で存在する)。
    この (生物学的) 階級 (rank) の他に、上種 (superspecies)、例えばメボソムシクイ上種のように、近縁種をグループ化した名称 (species complex、例えば herring gull complex、sibling species 兄弟/姉妹種) もしばしば使われる (Species complex)。対応するラテン語用法に sensu lato (s.l.) 「広い意味で」があり、種名の後に s.l. を付けて類縁種を含むことを意味する。 〜の一種を意味する sp. は属名に付けて、その属の一種を意味するものだが、メボソムシクイ属のように大きな属の場合は、メボソムシクイ属 sp. のような使い方は望ましくないかもしれない。メボソムシクイ s.l. とすればメボソムシクイ上種を表すことができるであろう (が、分類専門家の意見を聞いたわけではないので正確ではないかも知れない)。
    近年提唱されているこれまでの Accipiter 属の分割が行われれば、これまでのハイタカ属 sp. のような表現は厳密には意味をなさなくなる (eBird では 2024.10.22 よりこの表現が廃止される)。 sensu lato の反対の意味のラテン語は sensu stricto 「厳密な意味で」で、s.s. または s.str. と略される (が分類学の論文以外で略号で使われるのをあまり見たことがない)。これらの用語を知っておくと海外の分類などを見る時に役立つだろう。
  • 亜種そのもの記述は属名・種小名・亜種小名からなる三名法を用いるのが正統的であるが、備考では亜種の解説などの際に煩雑になることを避けるため、亜種(小)名を主に用いている。
  • 外国語を記述する際に、非ラテン文字 (ギリシャ語、ロシア語など) は標準的なラテン文字転記で表示している。英語以外ラテン文字やラテン文字転記されたギリシャ語で広く使われるアクセント記号類は省略しているので、出版物などに用いられる場合はもとの綴りを確認されたい。 ロシア語のラテン文字転記は基本的にもとの表記に戻すことができるが、ギリシャ語ではアクセント記号類を省略しているためこのラテン文字転記からもとのギリシャ文字表記に戻すことはできない。なおドイツ語のウムラウトのみは標準表記に従い、e を追記して示している (同じ文字を使っていてもスウェーデン語では e を追記しないなどの不統一が発生するがご理解願いたい)。
  • 標準和名は日本鳥学会が定めた名称で、これ以外の名前を使ってはいけないわけではない (例えば分野によっては実用上の観点から古くから知られた別名が使われることもある)。論文などを記述する場合にはどのリストに従うかが示されていると思われるので、日本の鳥については標準和名を用い、それ以外については他のリストを用いることなどになるだろう。 この稿では備考などに登場する日本鳥学会のリストにない鳥については原則 Avibase の和名を用いている。英名はもっと事情が複雑で頻繁に変化すると考えてよい。学名も結構よく変化するので、日本の鳥に限って観察・記録する場合は標準和名を使っておくと後々名前の修正を行う手間が少なくて済むだろう。
  • 写真などを整理する時に、生物の階層分類に従ってファイルを整理するのは極めて自然なアイデアであるが、分岐分類学の進歩に伴って大胆な分類変更が行われることがある (例えばウ類はかつてペリカン目だったものが現在はカツオドリ目に移されている、サギ類はコウノトリ目だったものがペリカン目になっている、ツグミ類とヒタキ類の再編が行われたなど)。 上位分類はもうあまり変わらないかも知れないが、属分類の変更は今後もあると思われるので、分類を基準に体系的な配置を行ってこられた方 (あるいは種の説明に上位分類まで記載されてきた方など) は最新分類を常時意識されるとよい。 思わぬところで思わぬ変更があったりする。あまり「がちがち」にデータベースを作ると変更に大変な思いをすることもあるので、柔軟に変更できる構造にしておくとよい。
  • 海外探鳥などをされる方は日本産鳥類ではカバーできないので IOC 分類などを用いられる方もあるだろうが、これもよく変更がある (1年に2回更新) ので最新版をフォローするのはなかなか大変である (それはそれで面白いわけだが)。もうちょっと高度 (超マニアック?) な楽しみとして、最新文献をチェックして次の分類変更を予測するなどもある。 海外にはそのように楽しんでいるバーダーや野鳥関係のフォーラムもあり、日本のバーダーも学会の判断を待つだけでなく、もっと関心を持つとよいのではないかと思う。
    例えば日本鳥類目録第8版が出ても次の改訂には時間がかかるであろうから、海外の分類動向も変わってゆくであろう。(用いるリストが指定されている論文や出版物に使用する場合を除いて) その間に第8版の学名を使い続けるのか、海外のものに合わせてゆくかは個人の裁量の範囲であろう。 日本鳥類目録第8版の編集について [西海功 (目録編集委員長) 日本鳥学会 鳥学通信 2022] で西海氏も「IOC Listを基本にして著者の判断も加えながら独自の分類でフィールドガイドを作ることもできる。このような図鑑を良く思わない人もいるが、私はむしろ歓迎したい」と書かれている。 日本のサービスでも IOC 分類をベースに定期的に分類を更新しているものもある (例 https://zoopicker.com/)。
    後の各種ごとの補足説明にもしばしば現れるが、日本周辺だけデータが不足していて分類が確定できないケースがある。バーダーがもっと関心を持って取り上げれば遺伝子解析などを行える専門家にとってもよい刺激になるのではないかと期待している (最初から余談ばかりであるが...以後脇道が多いので不要の方は読み飛ばしていただきたい)。
  • 海外の国のチェックリストはどう管理されているのかを知ることもよい刺激になるだろう。例えばフィリピンでは The Wild Bird Club of the Philippines (日本野鳥の会のような組織) が管理をしており、毎年更新されている: Checklists of the Birds of the Philippines。コメントを送ったこともあるが文献も付けてしっかり返事をもらえた。信頼できる野鳥のチェックリストがない国もあり、世界のデータベースなどを検索して気づかれるかも知れない。
  • 国レベルのチェックリストではないが、日本で言えば都道府県レベルのチェックリストを維持しているところも多くある。スウェーデンのサイト Vastmanlands faglar などは地域レベルの記録を管理されている方には興味深いだろう。個々の文献も収集してスキャンなどを公開している (Referenser から見られる)。
  • ドイツの鳥学会が世界の鳥のドイツ語リストを 2022 年に発行。Die Voegel der Erde で 540 ページの本を無料公開!
  • こちらはフランス語版世界の鳥リスト。IOC よりさらに先行してここで紹介しているような新学名にも対応! 改訂も頻繁に行われている模様。Noms francais normalises des oiseaux du monde - 2024 - version 6.3。 ダウンロードも可能。学名は Gaudin のものを使っているかも知れない。
  • 本稿ではさまざまな論文にリンクを張っているが、なるべくフリーアクセスできるものを優先した。ページから [Download PDF] などのメニューに従えば読めるものが多いと思う。 文脈や学術雑誌名からオープンアクセスに見えにくい場合のみ「オープンアクセス」と明示したものがあるが、その表示がなくても実際にはここで示した論文の多くは誰でもフリーで読むことができる。 アクセス制限が表示される場合は論文表題を用いて検索してみていただきたい。例えば著者レポジトリなどで全文が読めるかもしれない。また雑誌によっては一定期間後にオープンアクセスになるものがある。 報道記事などへのリンクはたどれなくなっているかもしれない。その場合はインターネットアーカイブなどで読めるかもしれないので試していただきたい。 (論文以外の) ロシア語の書物は原則リンクを張っていないが、ここで挙げてある文献はほぼオンラインで見ることができる。探し方は最後の参考文献の部分を参照。
  • そもそも学名を知って何の役に立つのだろうと思われる方も多いだろう。かつては「世界共通の名称なので海外の人に伝える時や海外図鑑を見る時などに役立つ」とも言われていたが、日本鳥類目録第7版以前で日本で使われていた学名は古いものもあり、世界のリストと異なる分類も採用されていたために実はあまり世界共通の名称として使えなかった。 目録第7版ではかなり世界の分類に近づいたが、それ以降に分類が改訂されたものなどは反映できていないため、ごく身近な鳥、例えばウグイスでさえも日本の学名が海外のものと合わなくなってしまった。1種が複数に分割された種などでは日本の学名で海外に出すと全然違う種類を指してしまうことも生じた。 海外図鑑を購入された時に和名を書き込む作業をされる方もあると思うが、学名がいかに異なるかを実感されたであろうと思う。目録第8版では世界のリストとほぼ同じになる見込みだが個々のケースでは注意が必要なものもある (それぞれの備考に記載)。
    実際上は英語のわかる海外バーダーであれば英名は把握していることが多いので、海外バーダーもそもそも知らない学名よりも英名の方が通じることが多く、この意味での学名の必要性はあまりなくなってしまったかも知れない (それでも亜種等の細かい話ではやはり学名を使わざるを得ない)。英語圏以外の場合は長い学名を使うよりもそれぞれの現地語を覚える方が手っ取り早いこともある。 それでも英語以外で書かれた海外の書物やウエブページを参照する場合は学名は一定の役に立つ。また画像や映像を検索する場合でも学名で検索すれば日本語や英語以外のページも多数ヒットするのでこの効用は大きい。もっとも検索程度であればその場でコピー・アンド・ペーストをすればよいので学名を記憶するほどの必要性は少ない。
    近年分子遺伝学の目覚ましい進歩で系統樹を見る機会が圧倒的に多くなった感じがする。例えばヒトの進化や新型コロナウイルスの新しい株の名前など、一般的なメディアでもよく見かけ、系統樹に馴染みのある人も増えているだろう。 ちなみにこのような目覚ましい進歩は次世代シーケンサー (Next Generation Sequencer, NGS) のような分析装置や、その結果から塩基配列を構成するコンピュータプログラムの進展によるものである。遺伝子やゲノムの解読は日常的に行われる時代であり、「ヒトゲノム計画」の時代には月着陸に匹敵する大偉業と呼ばれていたのとは隔世の感がある。 新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) が「新型肺炎」の形で最初に見つかった時に NGS が使われたことを後に知り、初期になぜあのような形 (まず SARS の再来が疑われた) で物事が進んだのかを納得できた。このあたりは報道に出てくることもまずなく、現代生物学のリテラシー不足によって疑似科学的な説を容易に受け入れてしまう原因にもなっているように感じる。
    事情は鳥類でももちろん同じで、全鳥類種のゲノム解読を行う野心的プロジェクト The Bird 10,000 Genomes (B10K) Project が走っている。 別種か、あるいは別亜種か、などの説明を見る時には分子系統樹を目にする機会が増えている。系統樹では一般向けに分かりやすく描き直したもの以外では通常学名しか出てこない。すなわち学名をある程度読めないと系統樹をまったく読めないのである (これは種や亜種分布の地図などでも同様)。 これは現代生物学の面白みを半分捨てているようなものである。ちようど辞書を引けば英語が読めるがそのままでは読めない状況に似ていて、手間をかけて知っている和名などに翻訳して書き込むか、そのままで読めるかの違いになる。後者の方がずっと気軽に扱えることは間違いないだろう。このような経験を通じれば学名も (見ればわかる程度には) 案外覚えてしまえるものである。
    また、海外の保護種 (レッドデータブック) リストなどで現地名と学名表記のことがある。知らない言語の場合は学名が手がかりになることは従来と同じである。
    それ以外にも、和名や英名と同様、学名にも命名者の思いが (時には勘違いも) 込められていることもある。それらも読み取って歴史を振り返る楽しみがあるだろう。
  • 作業を通じて改めてわかってきたのだが、現在は分子遺伝学による系統分類の大変革の時代のようである。日本鳥類目録 改訂第7版 で分類や学名が大きく変わったものがあり、第8版でも多くの属分類が変わる予定で、この傾向はまだしばらく続くであろう。 その昔は新しい地域を探検すれば新種や新亜種が次々と記載されて行ったが、その分子生物学版がまさに進行中で、昔で言えば探検に相当するであろう遺伝子やゲノムを調べれば系統にかかわる新しい知識が次々と生み出されていく段階に当たっている。 ただしこれも全種を十分調べればいずれは種レベルでは全系統がほぼ (種境界や解釈の難しい系統の問題などは残るだろうが) 明らかになって、ある程度の期間で落ち着くと思われる。第8版ではまだその段階に達しておらず、未処理部分が多く残っていて将来の改訂を待つことになるだろう。 次々と新種が発見されるように、これまでわかっていなかった系統関係が次々とわかってゆく現代に生きる者として、その面白さをリアルタイムに味わわないのはもったいないぐらいである。 ほとんどの情報は英語論文などの形になって残念ながら日本語のみではほとんどうかがい知れないだろう。 そのような英語論文や記事などの系統樹を読むにあたって、本記事が手引きの一つとなれば幸いである。 また遺伝情報はデータベース (GenBankなど: 学名検索もできるのでうまく使えばいろいろな情報にアクセスできる) で公開されており、それなりの計算機資源は必要だが分子系統樹を作ってみたい人は自分でも作ることができる。 科学のいろいろな分野でも同様であるが、最先端の情報は専門家だけのものの時代ではなくなっている。
  • 自分も詳しく知っているわけではないが、学名の命名には詳細な規約がある。現在使われる学名はその規約に基づいて了承されているものだが、そこに至る経緯は必ずしも平坦なものばかりではなかった。 学名には先取権 (priority) の原理があり、同じものに名前を付けた場合は早く付けられた名称が有効になる。後に付けられた名称はシノニム junior synonym となる (junior synonym の和訳は複数ありジュニア・シノニム、後行シノニム、新参シノニム。シノニムの部分も異名と訳されることもある。本稿では紛らわしいことはほとんどないので単純にシノニムと表記した)。 気づかずにすでに他で発表された学名と同じものを発表してしまうと無効な学名になる。 このあたりは常識的にも理解しやすいが、実際に学名が決まる過程はしばしば非常にややこしく、使われるようになってからかなり後にその名称がすでに使われていたことがわかって改名されたことや、 古い文献では綴りが違っていたり語尾が省略されていたりしたものが訂正されて使われていることもあって、どれが正しいのか議論が発生するなど様々なケースがある (サカツラガンの学名変更は未確定のケースにあたる)。 個々のケースでわかる範囲で説明を加えてあるので学名の世界を楽しんでいただきたい。
    最近多い学名変更は分類の見直しによるもので、分子系統解析の結果1つの属が単系統でないことが判明して複数に分割されるケースなどが多い。我々が通常みかける学名変更はこのケースが多い。 ラテン語には文法上の性があるので、属変更の結果で属の性が変わると種小名の性もそれに合わせて変化する (形が変わらないこともある)。 また種の中の亜種が独立種とされる場合も種に相当する学名が付くことも容易に理解できるであろう。 その亜種がもとの種の基亜種 (その種で最初に記載された亜種) であった場合は2種に分離された場合に分離された種の方が学名を引き継ぐことになる。日本で通常記録される亜種が基亜種でない場合は日本で通常記録される種の学名の方が変わることになる (ツグミとハチジョウツグミ、アオジとシベリアアオジなど)。
    ある亜種が別の種の亜種とするべきことが判明した場合は亜種の移動になるが、これも基亜種の移動の場合や移動先で基亜種になる場合は種の学名に影響が及ぶ。 これらは分類概念による部分があるので、異なる分類学者が異なる学名を用いる要因の一つとなる。 また現代では珍しいが、異なる属が統合された結果同じ属に同名の種小名が生じ、後に付けられた方の学名を変える必要が生じることもある。 これらも個々の事例でわかる範囲で説明を加えてある。
  • アメリカやカナダでは、個人名の付いた英語の鳥名の名称変更の動きがある。American Ornithological Society Will Change the English Names of Bird Species Named After People (2023年11月) はアメリカ鳥学会の動きであるが、特定の人名よりは鳥の特徴を表す名称に変えてゆくとのことである (現代では受け入れがたい価値観の個人にちなんで付けられたなどが問題となったことが発端にある。Bird Names for Birds 運動についての wikipedia 解説。スウェーデン鳥学会や NASA も名称や取り扱いを変更したとのこと)。 この動きは世界の英名、あるいは場合によっては他国語名にも影響を与えると考えられ、今後注視してゆくべきであろう。 日本ではむしろ和名の由来となった人物を紹介するなど行われているが、あるいは我々は個人名を鳥名に付ける議論への感度が低いのかも知れない。
    この動きを受けてアメリカでは早速「元オバマ大統領にちなんで付けられた鳥の名前はどうなる?」の議論が出ている。これはニシオオガシラ Nystalus obamai IOC 英名 Western Puffbird であるが、英名 (アメリカ名では Western Striolated Puffbird) に人名が入っていないことから変わらないそうである。学名はそのまま維持される。 英語以外の言語ではオバマを冠している名称もあるようである。 wikipedia 英語版によれば Mr. Donald Trump にちなんだ学名を持つ生物は複数あるそうだが、鳥は含まれていない。 ウイルソンアメリカムシクイ Cardellina pusilla (Wilson's Warbler) も改名の対象となっており、英名が変更された場合に和名はどうするだろうか。 改名に関する話題については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名]、#アホウドリの備考 [語源や関連する用例] もご覧いただきたい。
    学名に関する規則は違うが、植物では 2026 年から一部の学名を変えることが決まった。Hundreds of racist plant names will change after historic vote by botanists (Nature news)。差別的な名称に基づく理由で生物の学名が変わるのは史上初めてとのこと。
  • その後アメリカ鳥学会の動きが予期せぬ波紋をもたらしている。北米と南米の種の検討委員会 (南米は South American Classification Committee, SACC) は近年は 20 年以上協力して名称を決めていたが、アメリカ鳥学会の英名決定に SACC が関与できなくなったため協力関係を打ち切り、SACC は IOC と連携して世界の鳥のチェックリスト作成に関与することとなったとのこと (#ハヤブサの備考の [ハヤブサ目の系統分類] と紹介リンク先参照)。 北米と南米は共通の渡り鳥などがあるが、米国と南米で異なる英名が使われる事態も発生しそうである (深読みしたいこともあるのだが皆様のご想像にお任せしたい)。
  • 2024.5.13 上記 SACC のことも触れられ、パイロットプロジェクトで国外への影響の少ない種に絞ったパブリックコメントが開始された: AOS Pilot Project to Change Harmful English Common Bird Names。 AOC/AOU の動きに連動して分離などで種に新しい英名を用いる際は人名を排除する傾向が強まっており、後述の WGAC でも合わせる動きがある。#カツオドリ#セグロミズナギドリの備考など参照。
    Winker (2024) Bird names as critical communication infrastructure in the contexts of history, language, and culture (特に人名由来の) 英語鳥名の変更の動きについての議論。歴史的な様々な経緯がある。英名の方が学名より安定している。 確かにハクトウワシが "Bald Eagle" と呼ばれるのは適切な名前ではないが、変更するとより多くの人とのコミュニケーション上支障をきたす可能性があるので、著者としては不本意ではあるが受け入れるなど (決断して変えればいずれは定着するのだろうが...)。 種英名を大文字で始める習慣は (本来はどちらでも構わないが)、種名を固有名詞のように扱って一般的記述と区別しやすくできる利点がある (日本の例だと white wagtail は白いセキレイだが、White Wagtail と書けば種ハクセキレイを表していることが区別できるなど)。
  • 世界に鳥が何種いるのか、面白い考察がある。Barrowclough et al. (2016) How Many Kinds of Birds Are There and Why Does It Matter? 種に形態的違いによって分けられた生物学的種から新世界の 200 種をサンプルして形態、遺伝情報、分布をもとに進化的種概念で種数を推定すると 18043 種 (95% 信頼区間 15845-20470 種) と推定され、現在用いられている分類学は種多様性を大幅に過小評価している可能性があるとのこと。 種数が2倍になっても過剰評価とは考えず、むしろ多様性の正しい理解の結果であり、保全にもより有効であると考えている。亜種は古く形態学的に記載されたものが多く、地理的なクラインなども多いためそのまま種に昇格が適当とも言えない。
  • Clements 2024 checklist update によれば、Clements 2024 の改訂草稿が公開されているとのこと (2024.6.25)。2024年10月に発表の予定。 Island Thrush はなんと 17 種に分離! #アカハラの備考参照。 シジュウカラは Parus cinereus に含まれた: #シジュウカラの備考参照。IOC 14.2 もこれに従っている。 タカ類の新分類を採用: #アカハラダカの備考参照。Say hello to Astur for Cooper's Hawk and American Goshawk for you Americans! (アメリカ人にとって Astur = オオタカ属さんこんにちは) とある。
    アメリカのデラウエア自然史博物館も展示の学名変更に向けた記事を出している: Evolutionary Breakthrough of Hawks and Eagles (Accipitridae)。この博物館の学芸員が論文共著に入っているので率先して行われるのだろう。 birdforum.net の記事によればこれまでの Accipiter から分割された -spiza で終わる属名は女性名詞とのこと (ICZN Article 30.1.2, 30.1.3 による)。 個々の種の分離の話題などは birdforum.net のスレッドを参照。
    IOC でも 14.2 に向けて Proposed Splits/Lumps, Taxonomic Updates などの改訂が順次発表されており、Clements 2024 を少し後追いする形となっているが、用いている文献が同一なのでほぼ同じものを採用している (例えば Island Thrush は 17 種)。 その後 14.2 が発表されたが、一部改訂は 15.1 に回ることとなるとのこと。
    Working Group Avian Checklists (WGAC, 世界の統一チェックリスト。次項目参照), version 0.04 もタカ類の新分類を採用。世界の主要リストの学名が一気に変わるだろう。 2024.8.2 IOC 14.2 もこれまでの Accipiter を5属に分割 (一安心)。 2024.8.14 IOC 14.2 に移行開始とのこと。v14.2 red, Excel File を公開。 2024.8.19 IOC 14.2 に移行 v14.2 Excel File。 wikipedia 英語版も新しい学名を用いている (2024.8.29)。2024年9月上旬段階でドイツ語版、オランダ語版、スウェーデン語版、韓国語版などでもオオタカの学名が新しいものになっていた。 従来の国内独自分類を採用するかと思えたロシア語版も9月下旬に IOC 14.2 を採用。分離された属の解説ページもすでに作られていた。 Balatskij Birds of Northern Eurasia の分類では 2023 年にすでにこれら分類が採用されていた。なんとロシアでも新しいタカ類分類が早々と標準学名となっていた。 属名のロシア語表記は種名と異なる部分もあるが、Tachyspiza 属の種はもともと tyuvik と呼ばれており、ロシア語慣用名段階でこれまでの Accipiter 属はすでに分割されていたのでまったく違和感がなかったのだろう。Tachyspiza 属の新しいロシア語名は "趾の短いタカ" に相当する。 Clanga 属も慣用名段階で別扱いとなっていた。
    日本周辺では中国のみがまだ動向がわからないが、Lophospiza (カンムリオオタカ属) は wikipedia 中国語版ですでに使われており、Catanach et al. (2024) の研究にも言及があるので時間の問題で取り入れられてゆくのではないだろうか。 これまでの Accipiter 属からの変更点が多いので一気に処理できていないものと想像できる。 さて日本語版はどうする?
    2024.10.7 IOC 15.1 ではタカ類内配列を Catanach et al. (2024) に合わせることにした。コンゴヘビワシの学名が IOC 14.2 では古いままだったがこちらも合わせることになった。 この記事に紹介済みのタカ類の新分類通りの順になると思われる。 日本産種ではそれほど大きな変更があるわけではないが、クロハゲワシとカンムリワシ、アカハラダカとツミが逆順になるなどが想定される。 カタグロトビも記録種と認定されればハチクマの前になる。 チュウヒ類内部は多少入れ替えがあってチュウヒは最後になると考えられる。オジロワシ類の間も多少の入れ替えが考えられる。ノスリ類はあまり変わらず日本のノスリが最後になると想定される。 いずれも最新知見による系統関係を反映するもので、単なる分類学的順序変更以上に系統関係や生物地理学 (より新しく現れた系統はどちらかなど) を意識するのに役立つだろう。他の系統ではルリカケスのような遺存固有がいくつか見られるが、タカ類では (日本でこれまで調べられた範囲では) 遺存的な種類は見られないよう。 全般的には日本のタカ類は比較的遅くユーラシア東端の新天地に到着した描像が想像できる。 ツミの方が原型に近く、アカハラダカが渡り能力を活かして後にアジアからオセアニアの島に分散した描像となり、順序もそれを反映するものになる。 Tachyspiza 属はそれなりに分岐が深いので属内の構造を考えることも多少意義があるだろう。その場合はツミとミナミツミが姉妹種の関係になる。アカハラダカから始まるクレードはちょうどハヤブサ類の上種 Hierofalco の概念に対応する位置づけとなる。 単に順序が入れ替わっただけではなく、分類や新学名にはこれほどの情報が込められており活用して楽しまない理由はない。 タカ類や分類や学名については世界的にもあまり異論なく決断できるレベルまで確定してきたと考えられる。タカ類については IOC 15.1 がしばらく標準で使われ今後は細かい調整レベルと推定される。
    2023 年の研究を受けてサギ類の分類や学名も世界的にはかなり変わるのでご注意を。例えば#アマサギは新しい海外学名を見ても何かわからないかも知れない。英名は統一の対象外だが#チュウサギの WGAC 英名は分類変更を受けてこれまで親しんだものとは変わる。 #タヒバリも新大陸と分離され学名・英名ともに変わる。
  • Toward a Unified List of the World’s Bird Species 世界の鳥の統一リスト作りが始められている (2024.7.1 のニュース)。2025 年初めにも統一リストを公開する見込みとのこと。Clements 2024 と IOC 14.2 が同じ改訂を採用しているのはこの動きが背景にあるとのこと。その後も毎年1回ぐらいの改訂を出すだろうとのこと。
    過去提唱されながら実現されなかった試みで、現在は一番ホットな時期に立ち会っていることになる。 Working Group Avian Checklists (IOU の部会) 英名も含めた慣用名は統一視野外。eBird/Clements, IOC は WGAC のこれらの改訂を採用する。Clements の移行が少し先行しているよう。 WGAC が公開されるとすぐに移行する準備を進めている。今後は分類と学名は WGAC 準拠に移行となりそう。WGAC の検討の終わった科の一覧も出ている。6月の時点でタカ目は終わったがハヤブサ目はまだなどの状況。 BirdLife も多くを採用する予定とのことだが、IUCN リストとの統一もあり作業は多少時間がかかるとのこと。
    Clements 2024 checklist update に2024年9月末の続報があり、eBird の分類は 2024.10.22 に全面変更とのこと。後述の WGAC が 2025 年初めに発行するリストは AviList とのことで、eBird/Clements の分類・学名はそれに従うとのこと。 WGAC の名称よりは呼びやすいと歓迎のコメントあり。北米 AOS-NACC と南米の SACC の微妙な関係についても述べられており、SACC は AOS のパートナーではなくなっていることも表記から明瞭になっている。 2024 Taxonomy Update-COMING SOON (eBird の解説 2024.9.24)。'Accipiter sp.' No More もはやこれまでのように Accipiter sp. と報告できなくなるので注意。 前々から予期されていたことではあったが今年ついに分離された。 属が分離されたことによって識別が容易になるわけではないが、属固有の行動 (特にディスプレイ) に注目するよい機会である。 eBird では候補種が2種の場合は / で区切って "どちらか" の形で報告を受け付ける。本当にわからない場合は Accipitrine hawk sp. と報告する逃げ道は残してある。 日本の場合では "オオタカまたはハイタカ" のような表記とすることになるだろうか。
    日本鳥類目録改訂第8版の出版予定に相前後して世界の分類がおおよそ統合される形となる。海外の種と比較したり未記録の鳥の名前や学名が必要となることもあるだろうから、日本産種のみは日本の学名で、海外種は海外の学名と使い分けるのも不自然に思える。 和名は日本鳥類目録を用い、分類と学名は世界の動向に合わせて WGAC に従うなどのハイブリッド利用が現実的なものになって行くかも知れない。その場合は例えばオオトラツグミは種扱いとなる。 執筆中の現段階では WGAC のリストも作成途上で作業途上の誤りも含まれている模様。予想される WGAC の学名はかなり確定したと思われるものを中心に紹介している。
    Conix et al. (2024) Measuring and explaining disagreement in bird taxonomy。分類における各種リストの相違を調べて特に種境界などを議論した意見論文。IOC, Clements などの動き以前の議論と見てよいだろう。
  • この解説を編集するにあたり、半ば積読状態にあった過去の本などを改めて読む機会があった。どこかの種の備考に入れてもよい話ではあるが、日本野鳥の会関連でもあるのでここで触れておきたい。 「柳生博 鳥と語る」(ぺんぎん書房 2005)。柳生博氏 (1937-2022) は 2004-2019 年日本野鳥の会の会長を務められて、皆さんもごくご存じであろう。 NHKの「生き物地球紀行」の取材とナレーションを担当し、「左手にサイエンス! 右手にロマン!」がポリシーだったとのこと (p. 43)。 柳生氏の考えられていたサイエンスとロマンとは少し違うかも知れないが、この解説の [備考] も柳生氏のポリシーと同様、サイエンス中心で時にロマンと、小むづかしいことも怪しいことも、時には気に障るかも知れないことも書いてあるかも知れないが、寛容の精神で見ていただければよいと思う。 サイエンス (なぜそうなっているのか) を突き詰めて理解にたどり着いた驚きは「ロマン」としか言い表せない場合もあると感じる。#アマツバメの備考で紹介する渡り鳥の磁気定位はまさしくそうだった。 偶然の発見に基づく理詰めからはこの分子しか考えにくい、と最有力とされていて、渡り鳥の目に磁場情報が見えているニュースも追跡していたが、何事も疑い深い自分にはまだまだ実証には程遠いと感じていた。 しかし 2024 年夏に発表されたゲノム系統解析の結果は驚くべきもので、確かにこの分子を渡り鳥が役立てていることは疑いないように思える。そしてその進化を考えてみると...。渡り鳥のロマンと最新科学がこのように結びつくとは! 続きはアマツバメの備考をお読みいただきたい。
    柳生氏も動物と話されていたのだと読み直して認識した (pp. 44-46)。本が出た当時は自分も同じようなことをやって鳥と遊んでいたので (#オオルリの備考参照)、それほど特殊とは思わず読み流してしまっていたらしいが、それ以降にハチクマの経験も経て柳生氏の言われていることを認識できるようになった模様。 会長職を引き受けるようになられた経緯も大変よくわかる気がする (p. 29)。しかしいながらにしてイヌワシがしばらく見られたとは何とぜいたくな。
参考までに作成してみた。日本鳥類目録改訂第8版の出版物そのものではなく、「日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント(2024)」のファイルより暫定的に作成したもの。英名もこのファイルの表記を用いている。IOC 14.2 と英名が異なるもののみ IOC 英名を追記してある。 外来種は含まれていない。 記載者の後に * マークのあるものはアクセント記号などが省かれた、ウムラウトを2文字表記としたなどもとの綴りそのままではないもの。 "第7版学名より変更"、"IOC 14.2 分類または学名と相違あり" などが記されているものの学名解説は備考の項目も参照いただきたい。 第7版で種扱いではなかったものは "第7版学名より変更" は付いていない。
なお日本鳥類目録改訂第8版の配列順は IOC 13.2 準拠のため、高次分類概念や配列順は必ずしも最新のものに一致していない可能性がある。
IOC 14.2 との対比などは機械的に作成したもののため、対応関係などに不十分な点があればご容赦いただきたい。 例えば IOC 14.2 ではオオトラツグミはミナミトラツグミに含まれないが対応する学名が存在するので特に注記は付いていない。 本文解説は第7版をベースに作成したものなので、第8版で検討種や外来種に移行したものはこのリンク集には含まれないが、第7版のみ掲載種に十分な解説の含まれる項目もあるのでぜひお見逃しなく。

    - カモ目 Anseriformes -

    - カモ目 Anseriformes カモ科 Anatidae -

  • #リュウキュウガモ
    • 第8版学名: Dendrocygna javanica (Horsfield, 1821)
    • 英名: Lesser Whistling Duck
  • #コクガン
    • 第8版学名: Branta bernicla (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Brant Goose
  • #アオガン
    • 第8版学名: Branta ruficollis (Pallas, 1769)
    • 英名: Red-breasted Goose
  • #カナダガン
    • 第8版学名: Branta canadensis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Canada Goose
  • #シジュウカラガン
    • 第8版学名: Branta hutchinsii (Richardson, 1832)
    • 英名: Cackling Goose
  • #インドガン
    • 第8版学名: Anser indicus (Latham, 1790)
    • 英名: Bar-headed Goose
  • #ミカドガン
    • 第8版学名: Anser canagicus (Sevastianov, 1802)
    • 英名: Emperor Goose
  • #ハクガン
    • 第8版学名: Anser caerulescens (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Snow Goose
  • #ハイイロガン
    • 第8版学名: Anser anser (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Greylag Goose
  • #サカツラガン
    • 第8版学名: Anser cygnoid (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更、IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Swan Goose
  • #ヒシクイ
    • 第8版学名: Anser fabalis (Latham, 1787)
    • 英名: Bean Goose (IOC 14.2: Taiga Bean Goose)
  • #マガン
    • 第8版学名: Anser albifrons (Scopoli, 1769)
    • 英名: Greater White-fronted Goose
  • #カリガネ
    • 第8版学名: Anser erythropus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Lesser White-fronted Goose
  • #コブハクチョウ
    • 第8版学名: Cygnus olor (Gmelin, 1789)
    • 英名: Mute Swan
  • #ナキハクチョウ
    • 第8版学名: Cygnus buccinator Richardson, 1831
    • 英名: Trumpeter Swan
  • #コハクチョウ
    • 第8版学名: Cygnus columbianus (Ord, 1815)
    • 英名: Tundra Swan
  • #オオハクチョウ
    • 第8版学名: Cygnus cygnus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Whooper Swan
  • #ツクシガモ
    • 第8版学名: Tadorna tadorna (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Shelduck
  • #アカツクシガモ
    • 第8版学名: Tadorna ferruginea (Pallas, 1764)
    • 英名: Ruddy Shelduck
  • #カンムリツクシガモ
    • 第8版学名: Tadorna cristata (Kuroda, 1917)
    • 英名: Crested Shelduck
  • #オシドリ
    • 第8版学名: Aix galericulata (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Mandarin Duck
  • #ナンキンオシ
    • 第8版学名: Nettapus coromandelianus (Gmelin, 1789)
    • 英名: Cotton Pygmy Goose
  • #トモエガモ
    • 第8版学名: Sibirionetta formosa (Georgi, 1775) (第7版学名より変更)
    • 英名: Baikal Teal
  • #シマアジ
    • 第8版学名: Spatula querquedula (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Garganey
  • #ミカヅキシマアジ
    • 第8版学名: Spatula discors (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
    • 英名: Blue-winged Teal
  • #ハシビロガモ
    • 第8版学名: Spatula clypeata (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Northern Shoveler
  • #オカヨシガモ
    • 第8版学名: Mareca strepera (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Gadwall
  • #ヨシガモ
    • 第8版学名: Mareca falcata (Georgi, 1775) (第7版学名より変更)
    • 英名: Falcated Duck
  • #ヒドリガモ
    • 第8版学名: Mareca penelope (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Eurasian Wigeon
  • #アメリカヒドリ
    • 第8版学名: Mareca americana (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
    • 英名: American Wigeon
  • #アカノドカルガモ
    • 第8版学名: Anas luzonica Fraser, 1839
    • 英名: Philippine Duck
  • #カルガモ
    • 第8版学名: Anas zonorhyncha Swinhoe, 1866
    • 英名: Eastern Spot-billed Duck
  • #マガモ
    • 第8版学名: Anas platyrhynchos Linnaeus, 1758
    • 英名: Mallard
  • #オナガガモ
    • 第8版学名: Anas acuta Linnaeus, 1758
    • 英名: Northern Pintail
  • #コガモ
    • 第8版学名: Anas crecca Linnaeus, 1758
    • 英名: Green-winged Teal (IOC 14.2: Eurasian Teal)
  • #アカハシハジロ
    • 第8版学名: Netta rufina (Pallas, 1773)
    • 英名: Red-crested Pochard
  • #オオホシハジロ
    • 第8版学名: Aythya valisineria (Wilson, 1814)
    • 英名: Canvasback
  • #アメリカホシハジロ
    • 第8版学名: Aythya americana (Eyton, 1838)
    • 英名: Redhead
  • #ホシハジロ
    • 第8版学名: Aythya ferina (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Pochard
  • #アカハジロ
    • 第8版学名: Aythya baeri (Radde, 1863)
    • 英名: Baer's Pochard
  • #メジロガモ
    • 第8版学名: Aythya nyroca (Guldenstadt*, 1770)
    • 英名: Ferruginous Duck
  • #クビワキンクロ
    • 第8版学名: Aythya collaris (Donovan, 1809)
    • 英名: Ring-necked Duck
  • #キンクロハジロ
    • 第8版学名: Aythya fuligula (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Tufted Duck
  • #スズガモ
    • 第8版学名: Aythya marila (Linnaeus, 1761)
    • 英名: Greater Scaup
  • #コスズガモ
    • 第8版学名: Aythya affinis (Eyton, 1838)
    • 英名: Lesser Scaup
  • #コケワタガモ
    • 第8版学名: Polysticta stelleri (Pallas, 1769)
    • 英名: Steller's Eider
  • #ケワタガモ
    • 第8版学名: Somateria spectabilis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: King Eider
  • #シノリガモ
    • 第8版学名: Histrionicus histrionicus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Harlequin Duck
  • #アラナミキンクロ
    • 第8版学名: Melanitta perspicillata (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Surf Scoter
  • #アメリカビロードキンクロ
    • 第8版学名: Melanitta deglandi (Bonaparte, 1850)
    • 英名: White-winged Scoter
  • #ビロードキンクロ
    • 第8版学名: Melanitta stejnegeri (Ridgway, 1887)
    • 英名: Stejneger's Scoter
  • #クロガモ
    • 第8版学名: Melanitta americana (Swainson, 1832)
    • 英名: Black Scoter
  • #コオリガモ
    • 第8版学名: Clangula hyemalis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Long-tailed Duck
  • #ヒメハジロ
    • 第8版学名: Bucephala albeola (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Bufflehead
  • #ホオジロガモ
    • 第8版学名: Bucephala clangula (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Goldeneye
  • #ミコアイサ
    • 第8版学名: Mergellus albellus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Smew
  • #オウギアイサ
    • 第8版学名: Lophodytes cucullatus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Hooded Merganser
  • #カワアイサ
    • 第8版学名: Mergus merganser Linnaeus, 1758
    • 英名: Common Merganser
  • #ウミアイサ
    • 第8版学名: Mergus serrator Linnaeus, 1758
    • 英名: Red-breasted Merganser
  • #コウライアイサ
    • 第8版学名: Mergus squamatus Gould, 1864
    • 英名: Scaly-sided Merganser

    - キジ目 Galliformes -

    - キジ目 Galliformes キジ科 Phasianidae -

  • #エゾライチョウ
    • 第8版学名: Tetrastes bonasia (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Hazel Grouse
  • #ライチョウ
    • 第8版学名: Lagopus muta (Montin, 1781)
    • 英名: Rock Ptarmigan
  • #ヤマドリ
    • 第8版学名: Syrmaticus soemmerringii (Temminck, 1830)
    • 英名: Copper Pheasant
  • #キジ
    • 第8版学名: Phasianus versicolor Vieillot, 1825 (第7版学名より変更)
    • 英名: Green Pheasant
  • #ウズラ
    • 第8版学名: Coturnix japonica Temminck & Schlegel, 1849
    • 英名: Japanese Quail

    - ヨタカ目 Caprimulgiformes -

    - ヨタカ目 Caprimulgiformes ヨタカ科 Caprimulgidae -

  • #ヨタカ
    • 第8版学名: Caprimulgus jotaka Temminck & Schlegel, 1844 (第7版学名より変更)
    • 英名: Grey Nightjar

    - アマツバメ目 Apodiformes -

    - アマツバメ目 Apodiformes アマツバメ科 Apodidae -

  • #ハリオアマツバメ
    • 第8版学名: Hirundapus caudacutus (Latham, 1801)
    • 英名: White-throated Needletail
  • #クロビタイハリオアマツバメ
    • 第8版学名: Hirundapus cochinchinensis (Oustalet, 1878)
    • 英名: Silver-backed Needletail
  • #アマツバメ
    • 第8版学名: Apus pacificus (Latham, 1801)
    • 英名: Pacific Swift
  • #ヒメアマツバメ
    • 第8版学名: Apus nipalensis (Hodgson, 1837)
    • 英名: House Swift

    - ノガン目 Otidiformes -

    - ノガン目 Otidiformes ノガン科 Otididae -

  • #ノガン
    • 第8版学名: Otis tarda Linnaeus, 1758
    • 英名: Great Bustard
  • #ヒメノガン
    • 第8版学名: Tetrax tetrax (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Little Bustard

    - カッコウ目 Cuculiformes -

    - カッコウ目 Cuculiformes カッコウ科 Cuculidae -

  • #バンケン
    • 第8版学名: Centropus bengalensis (Gmelin, 1788)
    • 英名: Lesser Coucal
  • #カンムリカッコウ
    • 第8版学名: Clamator coromandus (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Chestnut-winged Cuckoo
  • #オニカッコウ
    • 第8版学名: Eudynamys scolopaceus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Asian Koel
  • #キジカッコウ
    • 第8版学名: Urodynamis taitensis (Sparrman, 1787)
    • 英名: Pacific Long-tailed Cuckoo
  • #ヒメカッコウ
    • 第8版学名: Cacomantis merulinus (Scopoli, 1786)
    • 英名: Plaintive Cuckoo
  • #オオジュウイチ
    • 第8版学名: Hierococcyx sparverioides (Vigors, 1832)
    • 英名: Large Hawk-Cuckoo
  • #ジュウイチ
    • 第8版学名: Hierococcyx hyperythrus (Gould, 1856)
    • 英名: Northern Hawk-Cuckoo
  • #ホトトギス
    • 第8版学名: Cuculus poliocephalus Latham, 1790
    • 英名: Lesser Cuckoo
  • #セグロカッコウ
    • 第8版学名: Cuculus micropterus Gould, 1838
    • 英名: Indian Cuckoo
  • #ツツドリ
    • 第8版学名: Cuculus optatus Gould, 1845
    • 英名: Oriental Cuckoo
  • #カッコウ
    • 第8版学名: Cuculus canorus Linnaeus, 1758
    • 英名: Common Cuckoo

    - サケイ目 Pterocliformes -

    - サケイ目 Pterocliformes サケイ科 Pteroclidae -

  • #サケイ
    • 第8版学名: Syrrhaptes paradoxus (Pallas, 1773)
    • 英名: Pallas's Sandgrouse

    - ハト目 Columbiformes -

    - ハト目 Columbiformes ハト科 Columbidae -

  • #ヒメモリバト
    • 第8版学名: Columba oenas Linnaeus, 1758
    • 英名: Stock Dove
  • #カラスバト
    • 第8版学名: Columba janthina Temminck, 1830
    • 英名: Black Wood Pigeon
  • #オガサワラカラスバト
    • 第8版学名: Columba versicolor Kittlitz, 1832
    • 英名: Bonin Wood Pigeon
  • #リュウキュウカラスバト
    • 第8版学名: Columba jouyi (Stejneger, 1887)
    • 英名: Ryukyu Wood Pigeon
  • #キジバト
    • 第8版学名: Streptopelia orientalis (Latham, 1790)
    • 英名: Oriental Turtle Dove
  • #シラコバト
    • 第8版学名: Streptopelia decaocto (Frivaldszky, 1838)
    • 英名: Eurasian Collared Dove
  • #ベニバト
    • 第8版学名: Streptopelia tranquebarica (Hermann, 1804)
    • 英名: Red Collared Dove
  • #キンバト
    • 第8版学名: Chalcophaps indica (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Emerald Dove
  • #アオバト
    • 第8版学名: Treron sieboldii (Temminck, 1835)
    • 英名: White-bellied Green Pigeon
  • #ズアカアオバト
    • 第8版学名: Treron formosae Swinhoe, 1863
    • 英名: Whistling Green Pigeon (IOC 14.2: Taiwan Green Pigeon)
  • #クロアゴヒメアオバト
    • 第8版学名: Ptilinopus leclancheri (Bonaparte, 1855)
    • 英名: Black-chinned Fruit Dove

    - ツル目 Gruiformes -

    - ツル目 Gruiformes クイナ科 Rallidae -

  • #クイナ
    • 第8版学名: Rallus indicus Blyth, 1849 (第7版学名より変更)
    • 英名: Brown-cheeked Rail
  • #ウズラクイナ
    • 第8版学名: Crex crex (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Corn Crake
  • #ミナミクイナ
    • 第8版学名: Lewinia striata (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
    • 英名: Slaty-breasted Rail
  • #ヤンバルクイナ
    • 第8版学名: Hypotaenidia okinawae (Yamashina & Mano, 1981) (第7版学名より変更)
    • 英名: Okinawa Rail
  • #バン
    • 第8版学名: Gallinula chloropus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Moorhen
  • #オオバン
    • 第8版学名: Fulica atra Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Coot
  • #シマクイナ
    • 第8版学名: Coturnicops exquisitus (Swinhoe, 1873)
    • 英名: Swinhoe's Rail
  • #ヒクイナ
    • 第8版学名: Zapornia fusca (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
    • 英名: Ruddy-breasted Crake
  • #コウライクイナ
    • 第8版学名: Zapornia paykullii (Ljungh, 1813) (第7版学名より変更)
    • 英名: Band-bellied Crake
  • #ヒメクイナ
    • 第8版学名: Zapornia pusilla (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
    • 英名: Baillon's Crake
  • #オオクイナ
    • 第8版学名: Rallina eurizonoides (Lafresnaye, 1845)
    • 英名: Slaty-legged Crake
  • #マミジロクイナ
    • 第8版学名: Poliolimnas cinereus (Vieillot, 1819) (第7版学名より変更)
    • 英名: White-browed Crake
  • #ツルクイナ
    • 第8版学名: Gallicrex cinerea (Gmelin, 1789)
    • 英名: Watercock
  • #シロハラクイナ
    • 第8版学名: Amaurornis phoenicurus (Pennant, 1769)
    • 英名: White-breasted Waterhen
  • - ツル目 Gruiformes ツル科 Gruidae -

  • #ソデグロヅル
    • 第8版学名: Leucogeranus leucogeranus (Pallas, 1773) (第7版学名より変更)
    • 英名: Siberian Crane
  • #カナダヅル
    • 第8版学名: Antigone canadensis (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Sandhill Crane
  • #マナヅル
    • 第8版学名: Antigone vipio (Pallas, 1811) (第7版学名より変更)
    • 英名: White-naped Crane
  • #アネハヅル
    • 第8版学名: Anthropoides virgo (Linnaeus, 1758) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Demoiselle Crane
  • #タンチョウ
    • 第8版学名: Grus japonensis (Mueller*, 1776)
    • 英名: Red-crowned Crane
  • #クロヅル
    • 第8版学名: Grus grus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Crane
  • #ナベヅル
    • 第8版学名: Grus monacha Temminck, 1835
    • 英名: Hooded Crane

    - カイツブリ目 Podicipediformes -

    - カイツブリ目 Podicipediformes カイツブリ科 Podicipedidae -

  • #カイツブリ
    • 第8版学名: Tachybaptus ruficollis (Pallas, 1764)
    • 英名: Little Grebe
  • #アカエリカイツブリ
    • 第8版学名: Podiceps grisegena (Boddaert, 1783)
    • 英名: Red-necked Grebe
  • #カンムリカイツブリ
    • 第8版学名: Podiceps cristatus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Great Crested Grebe
  • #ミミカイツブリ
    • 第8版学名: Podiceps auritus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Horned Grebe
  • #ハジロカイツブリ
    • 第8版学名: Podiceps nigricollis Brehm, 1831
    • 英名: Black-necked Grebe

    - チドリ目 Charadriiformes -

    - チドリ目 Charadriiformes ミフウズラ科 Turnicidae -

  • #ミフウズラ
    • 第8版学名: Turnix suscitator (Gmelin, 1789)
    • 英名: Barred Buttonquail
  • - チドリ目 Charadriiformes ミヤコドリ科 Haematopodidae -

  • #ミヤコドリ
    • 第8版学名: Haematopus ostralegus Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Oystercatcher
  • - チドリ目 Charadriiformes セイタカシギ科 Recurvirostridae -

  • #セイタカシギ
    • 第8版学名: Himantopus himantopus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black-winged Stilt
  • #オーストラリアセイタカシギ
    • 第8版学名: Himantopus leucocephalus Gould, 1837
    • 英名: Pied Stilt
  • #ソリハシセイタカシギ
    • 第8版学名: Recurvirostra avosetta Linnaeus, 1758
    • 英名: Pied Avocet
  • - チドリ目 Charadriiformes チドリ科 Charadriidae -

  • #タゲリ
    • 第8版学名: Vanellus vanellus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Northern Lapwing
  • #ケリ
    • 第8版学名: Vanellus cinereus (Blyth, 1842)
    • 英名: Grey-headed Lapwing
  • #ヨーロッパムナグロ
    • 第8版学名: Pluvialis apricaria (Linnaeus, 1758)
    • 英名: European Golden Plover
  • #ムナグロ
    • 第8版学名: Pluvialis fulva (Gmelin, 1789)
    • 英名: Pacific Golden Plover
  • #ダイゼン
    • 第8版学名: Pluvialis squatarola (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Grey Plover
  • #ハジロコチドリ
    • 第8版学名: Charadrius hiaticula Linnaeus, 1758
    • 英名: Common Ringed Plover
  • #ミズカキチドリ
    • 第8版学名: Charadrius semipalmatus Bonaparte, 1825
    • 英名: Semipalmated Plover
  • #イカルチドリ
    • 第8版学名: Charadrius placidus Gray & Gray, 1863
    • 英名: Long-billed Plover
  • #コチドリ
    • 第8版学名: Charadrius dubius Scopoli, 1786
    • 英名: Little Ringed Plover
  • #シロチドリ
    • 第8版学名: Charadrius alexandrinus Linnaeus, 1758 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Kentish Plover
  • #オオメダイチドリ
    • 第8版学名: Charadrius leschenaultii Lesson, 1826 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Greater Sand Plover
  • #メダイチドリ
    • 第8版学名: Charadrius mongolus Pallas, 1776 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Siberian Sand Plover
  • #オオチドリ
    • 第8版学名: Charadrius veredus Gould, 1848 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Oriental Plover
  • #コバシチドリ
    • 第8版学名: Eudromias morinellus (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Eurasian Dotterel
  • - チドリ目 Charadriiformes タマシギ科 Rostratulidae -

  • #タマシギ
    • 第8版学名: Rostratula benghalensis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Greater Painted-snipe
  • - チドリ目 Charadriiformes レンカク科 Jacanidae -

  • #レンカク
    • 第8版学名: Hydrophasianus chirurgus (Scopoli, 1786)
    • 英名: Pheasant-tailed Jacana
  • - チドリ目 Charadriiformes シギ科 Scolopacidae -

  • #ハリモモチュウシャク
    • 第8版学名: Numenius tahitiensis (Gmelin, 1789)
    • 英名: Bristle-thighed Curlew
  • #チュウシャクシギ
    • 第8版学名: Numenius phaeopus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Whimbrel (IOC 14.2: Eurasian Whimbrel)
  • #コシャクシギ
    • 第8版学名: Numenius minutus Gould, 1841
    • 英名: Little Curlew
  • #ホウロクシギ
    • 第8版学名: Numenius madagascariensis (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Far Eastern Curlew
  • #シロハラチュウシャクシギ
    • 第8版学名: Numenius tenuirostris Vieillot, 1817
    • 英名: Slender-billed Curlew
  • #ダイシャクシギ
    • 第8版学名: Numenius arquata (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Curlew
  • #オオソリハシシギ
    • 第8版学名: Limosa lapponica (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Bar-tailed Godwit
  • #オグロシギ
    • 第8版学名: Limosa limosa (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black-tailed Godwit
  • #アメリカオグロシギ
    • 第8版学名: Limosa haemastica (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Hudsonian Godwit
  • #キョウジョシギ
    • 第8版学名: Arenaria interpres (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Ruddy Turnstone
  • #オバシギ
    • 第8版学名: Calidris tenuirostris (Horsfield, 1821)
    • 英名: Great Knot
  • #コオバシギ
    • 第8版学名: Calidris canutus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Red Knot
  • #エリマキシギ
    • 第8版学名: Calidris pugnax (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Ruff
  • #キリアイ
    • 第8版学名: Calidris falcinellus (Pontoppidan, 1763) (第7版学名より変更)
    • 英名: Broad-billed Sandpiper
  • #ウズラシギ
    • 第8版学名: Calidris acuminata (Horsfield, 1821)
    • 英名: Sharp-tailed Sandpiper
  • #アシナガシギ
    • 第8版学名: Calidris himantopus (Bonaparte, 1826)
    • 英名: Stilt Sandpiper
  • #サルハマシギ
    • 第8版学名: Calidris ferruginea (Pontoppidan, 1763)
    • 英名: Curlew Sandpiper
  • #オジロトウネン
    • 第8版学名: Calidris temminckii (Leisler, 1812)
    • 英名: Temminck's Stint
  • #ヒバリシギ
    • 第8版学名: Calidris subminuta (Middendorff, 1853)
    • 英名: Long-toed Stint
  • #ヘラシギ
    • 第8版学名: Calidris pygmaea (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Spoon-billed Sandpiper
  • #トウネン
    • 第8版学名: Calidris ruficollis (Pallas, 1776)
    • 英名: Red-necked Stint
  • #ミユビシギ
    • 第8版学名: Calidris alba (Pallas, 1764)
    • 英名: Sanderling
  • #ハマシギ
    • 第8版学名: Calidris alpina (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Dunlin
  • #チシマシギ
    • 第8版学名: Calidris ptilocnemis (Coues, 1873)
    • 英名: Rock Sandpiper
  • #ヒメウズラシギ
    • 第8版学名: Calidris bairdii (Coues, 1861)
    • 英名: Baird's Sandpiper
  • #ヨーロッパトウネン
    • 第8版学名: Calidris minuta (Leisler, 1812)
    • 英名: Little Stint
  • #コシジロウズラシギ
    • 第8版学名: Calidris fuscicollis (Vieillot, 1819)
    • 英名: White-rumped Sandpiper
  • #コモンシギ
    • 第8版学名: Calidris subruficollis (Vieillot, 1819) (第7版学名より変更)
    • 英名: Buff-breasted Sandpiper
  • #アメリカウズラシギ
    • 第8版学名: Calidris melanotos (Vieillot, 1819)
    • 英名: Pectoral Sandpiper
  • #ヒメハマシギ
    • 第8版学名: Calidris mauri (Cabanis, 1857)
    • 英名: Western Sandpiper
  • #シベリアオオハシシギ
    • 第8版学名: Limnodromus semipalmatus (Blyth, 1848)
    • 英名: Asian Dowitcher
  • #オオハシシギ
    • 第8版学名: Limnodromus scolopaceus (Say, 1822)
    • 英名: Long-billed Dowitcher
  • #アメリカオオハシシギ
    • 第8版学名: Limnodromus griseus (Gmelin, 1789)
    • 英名: Short-billed Dowitcher
  • #ヤマシギ
    • 第8版学名: Scolopax rusticola Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Woodcock
  • #アマミヤマシギ
    • 第8版学名: Scolopax mira Hartert, 1916
    • 英名: Amami Woodcock
  • #コシギ
    • 第8版学名: Lymnocryptes minimus (Bruennich*, 1764)
    • 英名: Jack Snipe
  • #アオシギ
    • 第8版学名: Gallinago solitaria Hodgson, 1831
    • 英名: Solitary Snipe
  • #オオジシギ
    • 第8版学名: Gallinago hardwickii (Gray, 1831)
    • 英名: Latham's Snipe
  • #ハリオシギ
    • 第8版学名: Gallinago stenura (Bonaparte, 1831)
    • 英名: Pin-tailed Snipe
  • #チュウジシギ
    • 第8版学名: Gallinago megala Swinhoe, 1861
    • 英名: Swinhoe's Snipe
  • #タシギ
    • 第8版学名: Gallinago gallinago (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Snipe
  • #ソリハシシギ
    • 第8版学名: Xenus cinereus (Guldenstadt*, 1775)
    • 英名: Terek Sandpiper
  • #アメリカヒレアシシギ
    • 第8版学名: Phalaropus tricolor (Vieillot, 1819)
    • 英名: Wilson's Phalarope
  • #アカエリヒレアシシギ
    • 第8版学名: Phalaropus lobatus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Red-necked Phalarope
  • #ハイイロヒレアシシギ
    • 第8版学名: Phalaropus fulicarius (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Red Phalarope
  • #イソシギ
    • 第8版学名: Actitis hypoleucos (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Sandpiper
  • #アメリカイソシギ
    • 第8版学名: Actitis macularius (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Spotted Sandpiper
  • #クサシギ
    • 第8版学名: Tringa ochropus Linnaeus, 1758
    • 英名: Green Sandpiper
  • #メリケンキアシシギ
    • 第8版学名: Tringa incana (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
    • 英名: Wandering Tattler
  • #キアシシギ
    • 第8版学名: Tringa brevipes (Vieillot, 1816) (第7版学名より変更)
    • 英名: Grey-tailed Tattler
  • #コキアシシギ
    • 第8版学名: Tringa flavipes (Gmelin, 1789)
    • 英名: Lesser Yellowlegs
  • #アカアシシギ
    • 第8版学名: Tringa totanus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Redshank
  • #コアオアシシギ
    • 第8版学名: Tringa stagnatilis (Bechstein, 1803)
    • 英名: Marsh Sandpiper
  • #タカブシギ
    • 第8版学名: Tringa glareola Linnaeus, 1758
    • 英名: Wood Sandpiper
  • #ツルシギ
    • 第8版学名: Tringa erythropus (Pallas, 1764)
    • 英名: Spotted Redshank
  • #アオアシシギ
    • 第8版学名: Tringa nebularia (Gunnerus, 1767)
    • 英名: Common Greenshank
  • #カラフトアオアシシギ
    • 第8版学名: Tringa guttifer (Nordmann, 1835)
    • 英名: Nordmann's Greenshank
  • #オオキアシシギ
    • 第8版学名: Tringa melanoleuca (Gmelin, 1789)
    • 英名: Greater Yellowlegs
  • - チドリ目 Charadriiformes ツバメチドリ科 Glareolidae -

  • #ツバメチドリ
    • 第8版学名: Glareola maldivarum Forster, 1795
    • 英名: Oriental Pratincole
  • - チドリ目 Charadriiformes カモメ科 Laridae -

  • #クロアジサシ
    • 第8版学名: Anous stolidus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Brown Noddy
  • #ヒメクロアジサシ
    • 第8版学名: Anous minutus Boie, 1844
    • 英名: Black Noddy
  • #ハイイロアジサシ
    • 第8版学名: Anous ceruleus (Bennett, 1840) (第7版学名より変更)
    • 英名: Blue Noddy
  • #シロアジサシ
    • 第8版学名: Gygis alba (Sparrman, 1786)
    • 英名: White Tern
  • #ミツユビカモメ
    • 第8版学名: Rissa tridactyla (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black-legged Kittiwake
  • #アカアシミツユビカモメ
    • 第8版学名: Rissa brevirostris (Bruch, 1855)
    • 英名: Red-legged Kittiwake
  • #ゾウゲカモメ
    • 第8版学名: Pagophila eburnea (Phipps, 1774)
    • 英名: Ivory Gull
  • #クビワカモメ
    • 第8版学名: Xema sabini (Sabine, 1819)
    • 英名: Sabine's Gull
  • #ハシボソカモメ
    • 第8版学名: Chroicocephalus genei (Breme*, 1839) (第7版学名より変更)
    • 英名: Slender-billed Gull
  • #ボナパルトカモメ
    • 第8版学名: Chroicocephalus philadelphia (Ord, 1815) (第7版学名より変更)
    • 英名: Bonaparte's Gull
  • #チャガシラカモメ
    • 第8版学名: Chroicocephalus brunnicephalus (Jerdon, 1840) (第7版学名より変更)
    • 英名: Brown-headed Gull
  • #ユリカモメ
    • 第8版学名: Chroicocephalus ridibundus (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
    • 英名: Black-headed Gull
  • #ズグロカモメ
    • 第8版学名: Saundersilarus saundersi (Swinhoe, 1871) (第7版学名より変更)
    • 英名: Saunders's Gull
  • #ヒメカモメ
    • 第8版学名: Hydrocoloeus minutus (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
    • 英名: Little Gull
  • #ヒメクビワカモメ
    • 第8版学名: Rhodostethia rosea (MacGillivray, 1824)
    • 英名: Ross's Gull
  • #ワライカモメ
    • 第8版学名: Leucophaeus atricilla (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Laughing Gull
  • #アメリカズグロカモメ
    • 第8版学名: Leucophaeus pipixcan (Wagler, 1831) (第7版学名より変更)
    • 英名: Franklin's Gull
  • #ゴビズキンカモメ
    • 第8版学名: Ichthyaetus relictus (Lonnberg*, 1931) (第7版学名より変更)
    • 英名: Relict Gull
  • #オオズグロカモメ
    • 第8版学名: Ichthyaetus ichthyaetus (Pallas, 1773) (第7版学名より変更)
    • 英名: Pallas's Gull
  • #ウミネコ
    • 第8版学名: Larus crassirostris Vieillot, 1818
    • 英名: Black-tailed Gull
  • #カモメ
    • 第8版学名: Larus canus Linnaeus, 1758
    • 英名: Common Gull
  • #ワシカモメ
    • 第8版学名: Larus glaucescens Naumann, 1840
    • 英名: Glaucous-winged Gull
  • #シロカモメ
    • 第8版学名: Larus hyperboreus Gunnerus, 1767
    • 英名: Glaucous Gull
  • #アイスランドカモメ
    • 第8版学名: Larus glaucoides Meyer, 1822
    • 英名: Iceland Gull
  • #セグロカモメ
    • 第8版学名: Larus vegae Palmen*, 1887 (第7版学名より変更)
    • 英名: Vega Gull
  • #オオセグロカモメ
    • 第8版学名: Larus schistisagus Stejneger, 1884
    • 英名: Slaty-backed Gull
  • #ニシセグロカモメ
    • 第8版学名: Larus fuscus Linnaeus, 1758
    • 英名: Lesser Black-backed Gull
  • #ハシブトアジサシ
    • 第8版学名: Gelochelidon nilotica (Gmelin, 1789)
    • 英名: Gull-billed Tern
  • #オニアジサシ
    • 第8版学名: Hydroprogne caspia (Pallas, 1770) (第7版学名より変更)
    • 英名: Caspian Tern
  • #オオアジサシ
    • 第8版学名: Thalasseus bergii (Lichtenstein, 1823) (第7版学名より変更)
    • 英名: Greater Crested Tern
  • #ベンガルアジサシ
    • 第8版学名: Thalasseus bengalensis (Lesson, 1831) (第7版学名より変更)
    • 英名: Lesser Crested Tern
  • #コアジサシ
    • 第8版学名: Sternula albifrons (Pallas, 1764) (第7版学名より変更)
    • 英名: Little Tern
  • #アメリカコアジサシ
    • 第8版学名: Sternula antillarum Lesson, 1847
    • 英名: Least Tern
  • #コシジロアジサシ
    • 第8版学名: Onychoprion aleuticus (Baird, 1869) (第7版学名より変更)
    • 英名: Aleutian Tern
  • #ナンヨウマミジロアジサシ
    • 第8版学名: Onychoprion lunatus (Peale, 1849) (第7版学名より変更)
    • 英名: Spectacled Tern
  • #マミジロアジサシ
    • 第8版学名: Onychoprion anaethetus (Scopoli, 1786) (第7版学名より変更)
    • 英名: Bridled Tern
  • #セグロアジサシ
    • 第8版学名: Onychoprion fuscatus (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
    • 英名: Sooty Tern
  • #ベニアジサシ
    • 第8版学名: Sterna dougallii Montagu, 1813
    • 英名: Roseate Tern
  • #エリグロアジサシ
    • 第8版学名: Sterna sumatrana Raffles, 1822
    • 英名: Black-naped Tern
  • #アジサシ
    • 第8版学名: Sterna hirundo Linnaeus, 1758
    • 英名: Common Tern
  • #キョクアジサシ
    • 第8版学名: Sterna paradisaea Pontoppidan, 1763
    • 英名: Arctic Tern
  • #クロハラアジサシ
    • 第8版学名: Chlidonias hybrida (Pallas, 1811)
    • 英名: Whiskered Tern
  • #ハジロクロハラアジサシ
    • 第8版学名: Chlidonias leucopterus (Temminck, 1815)
    • 英名: White-winged Tern
  • #ハシグロクロハラアジサシ
    • 第8版学名: Chlidonias niger (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black Tern
  • - チドリ目 Charadriiformes トウゾクカモメ科 Stercorariidae -

  • #オオトウゾクカモメ
    • 第8版学名: Stercorarius maccormicki Saunders, 1893
    • 英名: South Polar Skua
  • #トウゾクカモメ
    • 第8版学名: Stercorarius pomarinus (Temminck, 1815)
    • 英名: Pomarine Jaeger
  • #クロトウゾクカモメ
    • 第8版学名: Stercorarius parasiticus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Parasitic Jaeger
  • #シロハラトウゾクカモメ
    • 第8版学名: Stercorarius longicaudus Vieillot, 1819
    • 英名: Long-tailed Jaeger
  • - チドリ目 Charadriiformes ウミスズメ科 Alcidae -

  • #ヒメウミスズメ
    • 第8版学名: Alle alle (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Little Auk
  • #ハシブトウミガラス
    • 第8版学名: Uria lomvia (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Thick-billed Murre
  • #ウミガラス
    • 第8版学名: Uria aalge (Pontoppidan, 1763)
    • 英名: Common Murre
  • #ウミバト
    • 第8版学名: Cepphus columba Pallas, 1811
    • 英名: Pigeon Guillemot
  • #ケイマフリ
    • 第8版学名: Cepphus carbo Pallas, 1811
    • 英名: Spectacled Guillemot
  • #マダラウミスズメ
    • 第8版学名: Brachyramphus perdix (Pallas, 1811)
    • 英名: Long-billed Murrelet
  • #ウミスズメ
    • 第8版学名: Synthliboramphus antiquus (Gmelin, 1789)
    • 英名: Ancient Murrelet
  • #カンムリウミスズメ
    • 第8版学名: Synthliboramphus wumizusume (Temminck, 1836)
    • 英名: Japanese Murrelet
  • #アメリカウミスズメ
    • 第8版学名: Ptychoramphus aleuticus (Pallas, 1811)
    • 英名: Cassin's Auklet
  • #ウミオウム
    • 第8版学名: Aethia psittacula (Pallas, 1769)
    • 英名: Parakeet Auklet
  • #コウミスズメ
    • 第8版学名: Aethia pusilla (Pallas, 1811)
    • 英名: Least Auklet
  • #シラヒゲウミスズメ
    • 第8版学名: Aethia pygmaea (Gmelin, 1789)
    • 英名: Whiskered Auklet
  • #エトロフウミスズメ
    • 第8版学名: Aethia cristatella (Pallas, 1769)
    • 英名: Crested Auklet
  • #ウトウ
    • 第8版学名: Cerorhinca monocerata (Pallas, 1811)
    • 英名: Rhinoceros Auklet
  • #ツノメドリ
    • 第8版学名: Fratercula corniculata (Naumann, 1821)
    • 英名: Horned Puffin
  • #エトピリカ
    • 第8版学名: Fratercula cirrhata (Pallas, 1769)
    • 英名: Tufted Puffin

    - ネッタイチョウ目 Phaethontiformes -

    - ネッタイチョウ目 Phaethontiformes ネッタイチョウ科 Phaethontidae -

  • #アカオネッタイチョウ
    • 第8版学名: Phaethon rubricauda Boddaert, 1783
    • 英名: Red-tailed Tropicbird
  • #シラオネッタイチョウ
    • 第8版学名: Phaethon lepturus Daudin, 1802
    • 英名: White-tailed Tropicbird

    - アビ目 Gaviiformes -

    - アビ目 Gaviiformes アビ科 Gaviidae -

  • #アビ
    • 第8版学名: Gavia stellata (Pontoppidan, 1763)
    • 英名: Red-throated Loon
  • #オオハム
    • 第8版学名: Gavia arctica (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black-throated Loon
  • #シロエリオオハム
    • 第8版学名: Gavia pacifica (Lawrence, 1858)
    • 英名: Pacific Loon
  • #ハシグロアビ
    • 第8版学名: Gavia immer (Bruennich*, 1764)
    • 英名: Common Loon
  • #ハシジロアビ
    • 第8版学名: Gavia adamsii (Gray, 1859)
    • 英名: Yellow-billed Loon

    - コウノトリ目 Ciconiiformes -

    - コウノトリ目 Ciconiiformes コウノトリ科 Ciconiidae -

  • #ナベコウ
    • 第8版学名: Ciconia nigra (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black Stork
  • #コウノトリ
    • 第8版学名: Ciconia boyciana Swinhoe, 1873
    • 英名: Oriental Stork

    - カツオドリ目 Suliformes -

    - カツオドリ目 Suliformes グンカンドリ科 Fregatidae -

  • #オオグンカンドリ
    • 第8版学名: Fregata minor (Gmelin, 1789)
    • 英名: Great Frigatebird
  • #コグンカンドリ
    • 第8版学名: Fregata ariel (Gray, 1845)
    • 英名: Lesser Frigatebird
  • - カツオドリ目 Suliformes カツオドリ科 Sulidae -

  • #アオツラカツオドリ
    • 第8版学名: Sula dactylatra Lesson, 1831
    • 英名: Masked Booby
  • #アカアシカツオドリ
    • 第8版学名: Sula sula (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Red-footed Booby
  • #カツオドリ
    • 第8版学名: Sula leucogaster (Boddaert, 1783) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Brown Booby
    • 備考: IOC 14.2 ではさらに2種に分離
  • - カツオドリ目 Suliformes ウ科 Phalacrocoracidae -

  • #チシマウガラス
    • 第8版学名: Urile urile (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
    • 英名: Red-faced Cormorant
  • #ヒメウ
    • 第8版学名: Urile pelagicus (Pallas, 1811) (第7版学名より変更)
    • 英名: Pelagic Cormorant
  • #ウミウ
    • 第8版学名: Phalacrocorax capillatus (Temminck & Schlegel, 1849)
    • 英名: Japanese Cormorant
  • #カワウ
    • 第8版学名: Phalacrocorax carbo (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Great Cormorant

    - ペリカン目 Pelecaniformes -

    - ペリカン目 Pelecaniformes トキ科 Threskiornithidae -

  • #クロトキ
    • 第8版学名: Threskiornis melanocephalus (Latham, 1790)
    • 英名: Black-headed Ibis
  • #トキ
    • 第8版学名: Nipponia nippon (Temminck, 1835)
    • 英名: Crested Ibis
  • #ブロンズトキ
    • 第8版学名: Plegadis falcinellus (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Glossy Ibis
  • #ヘラサギ
    • 第8版学名: Platalea leucorodia Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Spoonbill
  • #クロツラヘラサギ
    • 第8版学名: Platalea minor Temminck & Schlegel, 1849
    • 英名: Black-faced Spoonbill
  • - ペリカン目 Pelecaniformes サギ科 Ardeidae -

  • #サンカノゴイ
    • 第8版学名: Botaurus stellaris (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Bittern
  • #ヨシゴイ
    • 第8版学名: Ixobrychus sinensis (Gmelin, 1789) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Yellow Bittern
  • #オオヨシゴイ
    • 第8版学名: Ixobrychus eurhythmus (Swinhoe, 1873) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Von Schrenck's Bittern
  • #リュウキュウヨシゴイ
    • 第8版学名: Ixobrychus cinnamomeus (Gmelin, 1789) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Cinnamon Bittern
  • #タカサゴクロサギ
    • 第8版学名: Ixobrychus flavicollis (Latham, 1790) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Black Bittern
  • #ミゾゴイ
    • 第8版学名: Gorsachius goisagi (Temminck, 1836)
    • 英名: Japanese Night Heron
  • #ズグロミゾゴイ
    • 第8版学名: Gorsachius melanolophus (Raffles, 1822)
    • 英名: Malayan Night Heron
  • #ゴイサギ
    • 第8版学名: Nycticorax nycticorax (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black-crowned Night Heron
  • #ハシブトゴイ
    • 第8版学名: Nycticorax caledonicus (Gmelin, 1789)
    • 英名: Nankeen Night Heron
  • #ササゴイ
    • 第8版学名: Butorides striata (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Striated Heron
  • #アカガシラサギ
    • 第8版学名: Ardeola bacchus (Bonaparte, 1855)
    • 英名: Chinese Pond Heron
  • #アマサギ
    • 第8版学名: Bubulcus ibis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Cattle Egret (IOC 14.2: Eastern Cattle Egret )
  • #アオサギ
    • 第8版学名: Ardea cinerea Linnaeus, 1758
    • 英名: Grey Heron
  • #ムラサキサギ
    • 第8版学名: Ardea purpurea Linnaeus, 1766
    • 英名: Purple Heron
  • #ダイサギ
    • 第8版学名: Ardea alba Linnaeus, 1758
    • 英名: Great Egret
  • #チュウサギ
    • 第8版学名: Ardea intermedia Wagler, 1829 (第7版学名より変更)
    • 英名: Intermediate Egret (IOC 14.2: Medium Egret )
  • #コサギ
    • 第8版学名: Egretta garzetta (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Little Egret
  • #クロサギ
    • 第8版学名: Egretta sacra (Gmelin, 1789)
    • 英名: Pacific Reef Heron
  • #カラシラサギ
    • 第8版学名: Egretta eulophotes (Swinhoe, 1860)
    • 英名: Chinese Egret
  • - ペリカン目 Pelecaniformes ペリカン科 Pelecanidae -

  • #モモイロペリカン
    • 第8版学名: Pelecanus onocrotalus Linnaeus, 1758
    • 英名: Great White Pelican
  • #ホシバシペリカン
    • 第8版学名: Pelecanus philippensis Gmelin, 1789
    • 英名: Spot-billed Pelican
  • #ハイイロペリカン
    • 第8版学名: Pelecanus crispus Bruch, 1832
    • 英名: Dalmatian Pelican

    - タカ目 Accipitriformes -

    - タカ目 Accipitriformes ミサゴ科 Pandionidae -

  • #ミサゴ
    • 第8版学名: Pandion haliaetus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Osprey
  • - タカ目 Accipitriformes タカ科 Accipitridae -

  • #ハチクマ
    • 第8版学名: Pernis ptilorhynchus (Temminck, 1821)
    • 英名: Crested Honey Buzzard
  • #クロハゲワシ
    • 第8版学名: Aegypius monachus (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Cinereous Vulture
  • #カンムリワシ
    • 第8版学名: Spilornis cheela (Latham, 1790)
    • 英名: Crested Serpent Eagle
  • #クマタカ
    • 第8版学名: Nisaetus nipalensis Hodgson, 1836
    • 英名: Mountain Hawk-Eagle
  • #カラフトワシ
    • 第8版学名: Clanga clanga (Pallas, 1811) (第7版学名より変更)
    • 英名: Greater Spotted Eagle
  • #カタシロワシ
    • 第8版学名: Aquila heliaca Savigny, 1809
    • 英名: Eastern Imperial Eagle
  • #イヌワシ
    • 第8版学名: Aquila chrysaetos (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Golden Eagle
  • #アカハラダカ
    • 第8版学名: Accipiter soloensis (Horsfield, 1821) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Chinese Sparrowhawk
  • #ツミ
    • 第8版学名: Accipiter gularis (Temminck & Schlegel, 1845) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Japanese Sparrowhawk
  • #ハイタカ
    • 第8版学名: Accipiter nisus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Sparrowhawk
  • #オオタカ
    • 第8版学名: Accipiter gentilis (Linnaeus, 1758) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Eurasian Goshawk
  • #チュウヒ
    • 第8版学名: Circus spilonotus Kaup, 1847
    • 英名: Eastern Marsh Harrier
  • #ハイイロチュウヒ
    • 第8版学名: Circus cyaneus (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Hen Harrier
  • #アメリカハイイロチュウヒ
    • 第8版学名: Circus hudsonius (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Northern Harrier
  • #マダラチュウヒ
    • 第8版学名: Circus melanoleucos (Pennant, 1769)
    • 英名: Pied Harrier
  • #トビ
    • 第8版学名: Milvus migrans (Boddaert, 1783)
    • 英名: Black Kite
  • #オオワシ
    • 第8版学名: Haliaeetus pelagicus (Pallas, 1811)
    • 英名: Steller's Sea Eagle
  • #オジロワシ
    • 第8版学名: Haliaeetus albicilla (Linnaeus, 1758)
    • 英名: White-tailed Eagle
  • #ハクトウワシ
    • 第8版学名: Haliaeetus leucocephalus (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Bald Eagle
  • #サシバ
    • 第8版学名: Butastur indicus (Gmelin, 1788)
    • 英名: Grey-faced Buzzard
  • #ケアシノスリ
    • 第8版学名: Buteo lagopus (Pontoppidan, 1763)
    • 英名: Rough-legged Buzzard
  • #オオノスリ
    • 第8版学名: Buteo hemilasius Temminck & Schlegel, 1844
    • 英名: Upland Buzzard
  • #ノスリ
    • 第8版学名: Buteo japonicus Temminck & Schlegel, 1844 (第7版学名より変更)
    • 英名: Eastern Buzzard

    - フクロウ目 Strigiformes -

    - フクロウ目 Strigiformes フクロウ科 Strigidae -

  • #アオバズク
    • 第8版学名: Ninox japonica (Temminck & Schlegel, 1845) (第7版学名より変更)
    • 英名: Northern Boobook
  • #キンメフクロウ
    • 第8版学名: Aegolius funereus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Boreal Owl
  • #コノハズク
    • 第8版学名: Otus sunia (Hodgson, 1836)
    • 英名: Oriental Scops Owl
  • #リュウキュウコノハズク
    • 第8版学名: Otus elegans (Cassin, 1852)
    • 英名: Ryukyu Scops Owl
  • #オオコノハズク
    • 第8版学名: Otus semitorques Temminck & Schlegel, 1844 (第7版学名より変更)
    • 英名: Japanese Scops Owl
  • #トラフズク
    • 第8版学名: Asio otus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Long-eared Owl
  • #コミミズク
    • 第8版学名: Asio flammeus (Pontoppidan, 1763)
    • 英名: Short-eared Owl
  • #シロフクロウ
    • 第8版学名: Bubo scandiacus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Snowy Owl
  • #ワシミミズク
    • 第8版学名: Bubo bubo (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Eagle-Owl
  • #シマフクロウ
    • 第8版学名: Ketupa blakistoni (Seebohm, 1884)
    • 英名: Blakiston's Fish Owl
  • #フクロウ
    • 第8版学名: Strix uralensis Pallas, 1771
    • 英名: Ural Owl

    - サイチョウ目 Bucerotiformes -

    - サイチョウ目 Bucerotiformes ヤツガシラ科 Upupidae -

  • #ヤツガシラ
    • 第8版学名: Upupa epops Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Hoopoe

    - ブッポウソウ目 Coraciiformes -

    - ブッポウソウ目 Coraciiformes ブッポウソウ科 Coraciidae -

  • #ブッポウソウ
    • 第8版学名: Eurystomus orientalis (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Oriental Dollarbird
  • - ブッポウソウ目 Coraciiformes カワセミ科 Alcedinidae -

  • #アカショウビン
    • 第8版学名: Halcyon coromanda (Latham, 1790)
    • 英名: Ruddy Kingfisher
  • #ヤマショウビン
    • 第8版学名: Halcyon pileata (Boddaert, 1783)
    • 英名: Black-capped Kingfisher
  • #ナンヨウショウビン
    • 第8版学名: Todiramphus chloris (Boddaert, 1783)
    • 英名: Collared Kingfisher
  • #ミヤコショウビン
    • 第8版学名: Todiramphus miyakoensis (Kuroda, 1919) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Miyako Island Kingfisher (IOC 14.2: 種や亜種として認めず名称なし)
  • #カワセミ
    • 第8版学名: Alcedo atthis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Kingfisher
  • #ミツユビカワセミ
    • 第8版学名: Ceyx erithaca (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Oriental Dwarf Kingfisher (IOC 14.2: Black-backed Dwarf Kingfisher)
  • #ヤマセミ
    • 第8版学名: Megaceryle lugubris (Temminck, 1834)
    • 英名: Crested Kingfisher
  • - ブッポウソウ目 Coraciiformes ハチクイ科 Meropidae -

  • #ルリオハチクイ
    • 第8版学名: Merops philippinus Linnaeus, 1767
    • 英名: Blue-tailed Bee-eater
  • #ハチクイ
    • 第8版学名: Merops ornatus Latham, 1801
    • 英名: Rainbow Bee-eater

    - キツツキ目 Piciformes -

    - キツツキ目 Piciformes キツツキ科 Picidae -

  • #アリスイ
    • 第8版学名: Jynx torquilla Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Wryneck
  • #コゲラ
    • 第8版学名: Yungipicus kizuki (Temminck, 1835) (第7版学名より変更)
    • 英名: Japanese Pygmy Woodpecker
  • #ミユビゲラ
    • 第8版学名: Picoides tridactylus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Three-toed Woodpecker
  • #コアカゲラ
    • 第8版学名: Dryobates minor (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Lesser Spotted Woodpecker
  • #チャバラアカゲラ
    • 第8版学名: Dendrocopos hyperythrus (Vigors, 1831)
    • 英名: Rufous-bellied Woodpecker
  • #アカゲラ
    • 第8版学名: Dendrocopos major (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Great Spotted Woodpecker
  • #ノグチゲラ
    • 第8版学名: Dendrocopos noguchii (Seebohm, 1887) (第7版学名より変更)
    • 英名: Okinawa Woodpecker
  • #オオアカゲラ
    • 第8版学名: Dendrocopos leucotos (Bechstein, 1802)
    • 英名: White-backed Woodpecker
  • #キタタキ
    • 第8版学名: Dryocopus javensis (Horsfield, 1821)
    • 英名: White-bellied Woodpecker
  • #クマゲラ
    • 第8版学名: Dryocopus martius (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Black Woodpecker
  • #アオゲラ
    • 第8版学名: Picus awokera Temminck, 1836
    • 英名: Japanese Green Woodpecker
  • #ヤマゲラ
    • 第8版学名: Picus canus Gmelin, 1788
    • 英名: Grey-headed Woodpecker

    - スズメ目 Passeriformes -

    - スズメ目 Passeriformes ヤイロチョウ科 Pittidae -

  • #ズグロヤイロチョウ
    • 第8版学名: Pitta sordida (Mueller*, 1776)
    • 英名: Hooded Pitta (IOC 14.2: Western Hooded Pitta)
  • #ヤイロチョウ
    • 第8版学名: Pitta nympha Temminck & Schlegel, 1850
    • 英名: Fairy Pitta
  • - スズメ目 Passeriformes モリツバメ科 Artamidae -

  • #モリツバメ
    • 第8版学名: Artamus leucorynchus (Linnaeus, 1771)
    • 英名: White-breasted Woodswallow
  • - スズメ目 Passeriformes サンショウクイ科 Campephagidae -

  • #サンショウクイ
    • 第8版学名: Pericrocotus divaricatus (Raffles, 1822)
    • 英名: Ashy Minivet
  • #リュウキュウサンショウクイ
    • 第8版学名: Pericrocotus tegimae Stejneger, 1887
    • 英名: Ryukyu Minivet
  • #アサクラサンショウクイ
    • 第8版学名: Lalage melaschistos (Hodgson, 1836) (第7版学名より変更)
    • 英名: Black-winged Cuckooshrike
  • - スズメ目 Passeriformes コウライウグイス科 Oriolidae -

  • #コウライウグイス
    • 第8版学名: Oriolus chinensis Linnaeus, 1766
    • 英名: Black-naped Oriole
  • - スズメ目 Passeriformes オウチュウ科 Dicruridae -

  • #カンムリオウチュウ
    • 第8版学名: Dicrurus hottentottus (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Hair-crested Drongo
  • #ハイイロオウチュウ
    • 第8版学名: Dicrurus leucophaeus Vieillot, 1817
    • 英名: Ashy Drongo
  • #オウチュウ
    • 第8版学名: Dicrurus macrocercus Vieillot, 1817
    • 英名: Black Drongo
  • - スズメ目 Passeriformes カササギヒタキ科 Monarchidae -

  • #クロエリヒタキ
    • 第8版学名: Hypothymis azurea (Boddaert, 1783)
    • 英名: Black-naped Monarch
  • #サンコウチョウ
    • 第8版学名: Terpsiphone atrocaudata (Eyton, 1839)
    • 英名: Black Paradise Flycatcher
  • - スズメ目 Passeriformes モズ科 Laniidae -

  • #オオカラモズ
    • 第8版学名: Lanius sphenocercus Cabanis, 1873
    • 英名: Chinese Grey Shrike
  • #オオモズ
    • 第8版学名: Lanius borealis Vieillot, 1808 (第7版学名より変更)
    • 英名: Northern Shrike
  • #チゴモズ
    • 第8版学名: Lanius tigrinus Drapiez, 1828
    • 英名: Tiger Shrike
  • #セアカモズ
    • 第8版学名: Lanius collurio Linnaeus, 1758
    • 英名: Red-backed Shrike
  • #アカモズ
    • 第8版学名: Lanius cristatus Linnaeus, 1758
    • 英名: Brown Shrike
  • #モズ
    • 第8版学名: Lanius bucephalus Temminck & Schlegel, 1845
    • 英名: Bull-headed Shrike
  • #タカサゴモズ
    • 第8版学名: Lanius schach Linnaeus, 1758
    • 英名: Long-tailed Shrike
  • - スズメ目 Passeriformes カラス科 Corvidae -

  • #カケス
    • 第8版学名: Garrulus glandarius (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Jay
  • #ルリカケス
    • 第8版学名: Garrulus lidthi Bonaparte, 1850
    • 英名: Lidth's Jay
  • #オナガ
    • 第8版学名: Cyanopica cyanus (Pallas, 1776)
    • 英名: Azure-winged Magpie
  • #カササギ
    • 第8版学名: Pica serica Gould, 1845 (第7版学名より変更)
    • 英名: Oriental Magpie
  • #ホシガラス
    • 第8版学名: Nucifraga caryocatactes (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Spotted Nutcracker (IOC 14.2: Northern Nutcracker)
  • #ニシコクマルガラス
    • 第8版学名: Corvus monedula Linnaeus, 1758 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Western Jackdaw
  • #コクマルガラス
    • 第8版学名: Corvus dauuricus Pallas, 1776 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Daurian Jackdaw
  • #ミヤマガラス
    • 第8版学名: Corvus frugilegus Linnaeus, 1758
    • 英名: Rook
  • #ハシボソガラス
    • 第8版学名: Corvus corone Linnaeus, 1758
    • 英名: Carrion Crow
  • #ハシブトガラス
    • 第8版学名: Corvus macrorhynchos Wagler, 1827
    • 英名: Large-billed Crow
  • #ワタリガラス
    • 第8版学名: Corvus corax Linnaeus, 1758
    • 英名: Northern Raven
  • - スズメ目 Passeriformes レンジャク科 Bombycillidae -

  • #キレンジャク
    • 第8版学名: Bombycilla garrulus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Bohemian Waxwing
  • #ヒレンジャク
    • 第8版学名: Bombycilla japonica (Siebold, 1824)
    • 英名: Japanese Waxwing
  • - スズメ目 Passeriformes シジュウカラ科 Paridae -

  • #ヒガラ
    • 第8版学名: Periparus ater (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Coal Tit
  • #キバラガラ
    • 第8版学名: Pardaliparus venustulus (Swinhoe, 1870) (第7版学名より変更)
    • 英名: Yellow-bellied Tit
  • #ヤマガラ
    • 第8版学名: Sittiparus varius (Temminck & Schlegel, 1845) (第7版学名より変更)
    • 英名: Varied Tit
  • #オリイヤマガラ
    • 第8版学名: Sittiparus olivaceus Kuroda, 1923
    • 英名: Iriomote Tit
  • #ハシブトガラ
    • 第8版学名: Poecile palustris (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Marsh Tit
  • #コガラ
    • 第8版学名: Poecile montanus (Conrad von Baldenstein, 1827)
    • 英名: Willow Tit
  • #ルリガラ
    • 第8版学名: Cyanistes cyanus (Pallas, 1770)
    • 英名: Azure Tit
  • #シジュウカラ
    • 第8版学名: Parus cinereus Vieillot, 1818 (第7版学名より変更)
    • 英名: Cinereous Tit
  • - スズメ目 Passeriformes ツリスガラ科 Remizidae -

  • #ツリスガラ
    • 第8版学名: Remiz consobrinus (Swinhoe, 1870) (第7版学名より変更)
    • 英名: Chinese Penduline Tit
  • - スズメ目 Passeriformes ヒゲガラ科 Panuridae -

  • #ヒゲガラ
    • 第8版学名: Panurus biarmicus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Bearded Reedling
  • - スズメ目 Passeriformes ヒバリ科 Alaudidae -

  • #ヒバリ
    • 第8版学名: Alauda arvensis Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Skylark
  • #ハマヒバリ
    • 第8版学名: Eremophila alpestris (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Horned Lark
  • #ヒメコウテンシ
    • 第8版学名: Calandrella brachydactyla (Leisler, 1814)
    • 英名: Greater Short-toed Lark
  • #クビワコウテンシ
    • 第8版学名: Melanocorypha bimaculata (Menetries*, 1832)
    • 英名: Bimaculated Lark
  • #コウテンシ
    • 第8版学名: Melanocorypha mongolica (Pallas, 1776)
    • 英名: Mongolian Lark
  • #コヒバリ
    • 第8版学名: Alaudala cheleensis Swinhoe, 1871 (第7版学名より変更)
    • 英名: Asian Short-toed Lark
  • - スズメ目 Passeriformes ヒヨドリ科 Pycnonotidae -

  • #ヒヨドリ
    • 第8版学名: Hypsipetes amaurotis (Temminck, 1830)
    • 英名: Brown-eared Bulbul
  • #シロガシラ
    • 第8版学名: Pycnonotus sinensis (Gmelin, 1789)
    • 英名: Light-vented Bulbul
  • - スズメ目 Passeriformes ツバメ科 Hirundinidae -

  • #ショウドウツバメ
    • 第8版学名: Riparia riparia (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Sand Martin
  • #タイワンショウドウツバメ
    • 第8版学名: Riparia paludicola (Vieillot, 1817)
    • 英名: Brown-throated Martin
  • #リュウキュウツバメ
    • 第8版学名: Hirundo tahitica Gmelin, 1789
    • 英名: Pacific Swallow (IOC 14.2: Tahiti Swallow)
  • #ツバメ
    • 第8版学名: Hirundo rustica Linnaeus, 1758
    • 英名: Barn Swallow
  • #イワツバメ
    • 第8版学名: Delichon dasypus (Bonaparte, 1850)
    • 英名: Asian House Martin
  • #コシアカツバメ
    • 第8版学名: Cecropis daurica (Laxmann, 1769) (第7版学名より変更)
    • 英名: Red-rumped Swallow (IOC 14.2: Eastern Red-rumped Swallow)
  • - スズメ目 Passeriformes ウグイス科 Cettiidae -

  • #ウグイス
    • 第8版学名: Horornis diphone (Kittlitz, 1830) (第7版学名より変更)
    • 英名: Japanese Bush Warbler
  • #チョウセンウグイス
    • 第8版学名: Horornis canturians (Swinhoe, 1860)
    • 英名: Manchurian Bush Warbler
  • #ヤブサメ
    • 第8版学名: Urosphena squameiceps (Swinhoe, 1863)
    • 英名: Asian Stubtail
  • - スズメ目 Passeriformes エナガ科 Aegithalidae -

  • #エナガ
    • 第8版学名: Aegithalos caudatus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Long-tailed Tit
  • - スズメ目 Passeriformes ムシクイ科 Phylloscopidae -

  • #モリムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus sibilatrix (Bechstein, 1792)
    • 英名: Wood Warbler
  • #キマユムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus inornatus (Blyth, 1842)
    • 英名: Yellow-browed Warbler
  • #シセンムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus yunnanensis La Touche, 1922
    • 英名: Chinese Leaf Warbler
  • #カラフトムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus proregulus (Pallas, 1811)
    • 英名: Pallas's Leaf Warbler
  • #カラフトムジセッカ
    • 第8版学名: Phylloscopus schwarzi (Radde, 1863)
    • 英名: Radde's Warbler
  • #ムジセッカ
    • 第8版学名: Phylloscopus fuscatus (Blyth, 1842)
    • 英名: Dusky Warbler
  • #キタヤナギムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus trochilus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Willow Warbler
  • #チフチャフ
    • 第8版学名: Phylloscopus collybita (Vieillot, 1817)
    • 英名: Common Chiffchaff
  • #センダイムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus coronatus (Temminck & Schlegel, 1847)
    • 英名: Eastern Crowned Leaf Warbler (IOC 14.2: Eastern Crowned Warbler)
  • #イイジマムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus ijimae (Stejneger, 1892)
    • 英名: Ijima's Leaf Warbler
  • #ヤナギムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus plumbeitarsus Swinhoe, 1861
    • 英名: Two-barred Warbler
  • #エゾムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus borealoides Portenko, 1950
    • 英名: Sakhalin Leaf Warbler
  • #アムールムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus tenellipes Swinhoe, 1860
    • 英名: Pale-legged Leaf Warbler
  • #メボソムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus xanthodryas (Swinhoe, 1863)
    • 英名: Japanese Leaf Warbler
  • #オオムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus examinandus Stresemann, 1913
    • 英名: Kamchatka Leaf Warbler
  • #コムシクイ
    • 第8版学名: Phylloscopus borealis (Blasius, 1858)
    • 英名: Arctic Warbler
  • - スズメ目 Passeriformes ヨシキリ科 Acrocephalidae -

  • #オオヨシキリ
    • 第8版学名: Acrocephalus orientalis (Temminck & Schlegel, 1847)
    • 英名: Oriental Reed Warbler
  • #コヨシキリ
    • 第8版学名: Acrocephalus bistrigiceps Swinhoe, 1860
    • 英名: Black-browed Reed Warbler
  • #スゲヨシキリ
    • 第8版学名: Acrocephalus schoenobaenus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Sedge Warbler
  • #マンシュウイナダヨシキリ
    • 第8版学名: Acrocephalus tangorum La Touche, 1912
    • 英名: Manchurian Reed Warbler
  • #ヤブヨシキリ
    • 第8版学名: Acrocephalus dumetorum Blyth, 1849
    • 英名: Blyth's Reed Warbler
  • #ハシブトオオヨシキリ
    • 第8版学名: Arundinax aedon (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
    • 英名: Thick-billed Warbler
  • #ヒメウタイムシクイ
    • 第8版学名: Iduna caligata (Lichtenstein, 1823)
    • 英名: Booted Warbler
  • - スズメ目 Passeriformes センニュウ科 Locustellidae -

  • #エゾセンニュウ
    • 第8版学名: Locustella amnicola Stepanyan, 1972 (第7版学名より変更、IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Sakhalin Grasshopper Warbler
  • #オオセッカ
    • 第8版学名: Locustella pryeri (Seebohm, 1884) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Marsh Grassbird
  • #シベリアセンニュウ
    • 第8版学名: Locustella certhiola (Pallas, 1811) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Pallas's Grasshopper Warbler
  • #シマセンニュウ
    • 第8版学名: Locustella ochotensis (Middendorff, 1853) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Middendorff's Grasshopper Warbler
  • #ウチヤマセンニュウ
    • 第8版学名: Locustella pleskei Taczanowski, 1890 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Styan's Grasshopper Warbler
  • #マキノセンニュウ
    • 第8版学名: Locustella lanceolata (Temminck, 1840)
    • 英名: Lanceolated Warbler
  • - スズメ目 Passeriformes セッカ科 Cisticolidae -

  • #セッカ
    • 第8版学名: Cisticola juncidis (Rafinesque, 1810)
    • 英名: Zitting Cisticola
  • - スズメ目 Passeriformes ズグロムシクイ科 Sylviidae -

  • #コノドジロムシクイ
    • 第8版学名: Curruca curruca (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Lesser Whitethroat
  • - スズメ目 Passeriformes メジロ科 Zosteropidae -

  • #メグロ
    • 第8版学名: Apalopteron familiare (Kittlitz, 1830)
    • 英名: Bonin White-eye
  • #チョウセンメジロ
    • 第8版学名: Zosterops erythropleurus Swinhoe, 1863
    • 英名: Chestnut-flanked White-eye
  • #メジロ
    • 第8版学名: Zosterops japonicus Temminck & Schlegel, 1845
    • 英名: Warbling White-eye
  • - スズメ目 Passeriformes キクイタダキ科 Regulidae -

  • #キクイタダキ
    • 第8版学名: Regulus regulus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Goldcrest
  • - スズメ目 Passeriformes ミソサザイ科 Troglodytidae -

  • #ミソサザイ
    • 第8版学名: Troglodytes troglodytes (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Wren
  • - スズメ目 Passeriformes ゴジュウカラ科 Sittidae -

  • #ゴジュウカラ
    • 第8版学名: Sitta europaea Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Nuthatch
  • - スズメ目 Passeriformes キバシリ科 Certhiidae -

  • #キバシリ
    • 第8版学名: Certhia familiaris Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Treecreeper
  • - スズメ目 Passeriformes ムクドリ科 Sturnidae -

  • #ギンムクドリ
    • 第8版学名: Spodiopsar sericeus (Gmelin, 1789)
    • 英名: Red-billed Starling
  • #ムクドリ
    • 第8版学名: Spodiopsar cineraceus (Temminck, 1835)
    • 英名: White-cheeked Starling
  • #シベリアムクドリ
    • 第8版学名: Agropsar sturninus (Pallas, 1776)
    • 英名: Daurian Starling
  • #コムクドリ
    • 第8版学名: Agropsar philippensis (Pennant, 1781)
    • 英名: Chestnut-cheeked Starling
  • #カラムクドリ
    • 第8版学名: Sturnia sinensis (Gmelin, 1788)
    • 英名: White-shouldered Starling
  • #バライロムクドリ
    • 第8版学名: Pastor roseus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Rosy Starling
  • #ホシムクドリ
    • 第8版学名: Sturnus vulgaris Linnaeus, 1758
    • 英名: Common Starling
  • - スズメ目 Passeriformes ツグミ科 Turdidae -

  • #ハイイロチャツグミ
    • 第8版学名: Catharus minimus (Lafresnaye, 1848)
    • 英名: Grey-cheeked Thrush
  • #トラツグミ
    • 第8版学名: Zoothera aurea (Holandre, 1825) (第7版学名より変更)
    • 英名: White's Thrush
  • #ミナミトラツグミ
    • 第8版学名: Zoothera dauma (Latham, 1790)
    • 英名: Scaly Thrush
  • #オガサワラガビチョウ
    • 第8版学名: Cichlopasser terrestris (Kittlitz, 1830) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Bonin Thrush
  • #マミジロ
    • 第8版学名: Geokichla sibirica (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
    • 英名: Siberian Thrush
  • #オレンジジツグミ
    • 第8版学名: Geokichla citrina (Latham, 1790)
    • 英名: Orange-headed Thrush
  • #ウタツグミ
    • 第8版学名: Turdus philomelos Brehm, 1831
    • 英名: Song Thrush
  • #ヤドリギツグミ
    • 第8版学名: Turdus viscivorus Linnaeus, 1758
    • 英名: Mistle Thrush
  • #クロウタドリ
    • 第8版学名: Turdus mandarinus Bonaparte, 1850
    • 英名: Chinese Blackbird
  • #ワキアカツグミ
    • 第8版学名: Turdus iliacus Linnaeus, 1758
    • 英名: Redwing
  • #クロツグミ
    • 第8版学名: Turdus cardis Temminck, 1831
    • 英名: Japanese Thrush
  • #カラアカハラ
    • 第8版学名: Turdus hortulorum Sclater, 1863
    • 英名: Grey-backed Thrush
  • #マミチャジナイ
    • 第8版学名: Turdus obscurus Gmelin, 1789
    • 英名: Eyebrowed Thrush
  • #シロハラ
    • 第8版学名: Turdus pallidus Gmelin, 1789
    • 英名: Pale Thrush
  • #アカハラ
    • 第8版学名: Turdus chrysolaus Temminck, 1832
    • 英名: Brown-headed Thrush
  • #アカコッコ
    • 第8版学名: Turdus celaenops Stejneger, 1887
    • 英名: Izu Thrush
  • #ノハラツグミ
    • 第8版学名: Turdus pilaris Linnaeus, 1758
    • 英名: Fieldfare
  • #ノドグロツグミ
    • 第8版学名: Turdus atrogularis Jarocki, 1819
    • 英名: Black-throated Thrush
  • #ツグミ
    • 第8版学名: Turdus eunomus Temminck, 1831
    • 英名: Dusky Thrush
  • #ハチジョウツグミ
    • 第8版学名: Turdus naumanni Temminck, 1820
    • 英名: Naumann's Thrush
  • - スズメ目 Passeriformes ヒタキ科 Muscicapidae -

  • #エゾビタキ
    • 第8版学名: Muscicapa griseisticta (Swinhoe, 1861)
    • 英名: Grey-streaked Flycatcher
  • #サメビタキ
    • 第8版学名: Muscicapa sibirica Gmelin, 1789
    • 英名: Dark-sided Flycatcher
  • #ミヤマヒタキ
    • 第8版学名: Muscicapa ferruginea (Hodgson, 1845)
    • 英名: Ferruginous Flycatcher
  • #チャムネサメビタキ
    • 第8版学名: Muscicapa muttui (Layard, 1854)
    • 英名: Brown-breasted Flycatcher
  • #コサメビタキ
    • 第8版学名: Muscicapa dauurica Pallas, 1811
    • 英名: Asian Brown Flycatcher
  • #ムナフヒタキ
    • 第8版学名: Muscicapa striata (Pallas, 1764)
    • 英名: Spotted Flycatcher
  • #オオルリ
    • 第8版学名: Cyanoptila cyanomelana (Temminck, 1829)
    • 英名: Blue-and-white Flycatcher
  • #ロクショウヒタキ
    • 第8版学名: Eumyias thalassinus (Swainson, 1838)
    • 英名: Verditer Flycatcher
  • #ヨーロッパコマドリ
    • 第8版学名: Erithacus rubecula (Linnaeus, 1758)
    • 英名: European Robin
  • #オガワコマドリ
    • 第8版学名: Luscinia svecica (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Bluethroat
  • #ノゴマ
    • 第8版学名: Calliope calliope (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
    • 英名: Siberian Rubythroat
  • #コルリ
    • 第8版学名: Larvivora cyane (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
    • 英名: Siberian Blue Robin
  • #コマドリ
    • 第8版学名: Larvivora akahige (Temminck, 1835) (第7版学名より変更)
    • 英名: Japanese Robin
  • #アカヒゲ
    • 第8版学名: Larvivora komadori (Temminck, 1835) (第7版学名より変更)
    • 英名: Amami Robin (IOC 14.2: Ryukyu Robin)
  • #ホントウアカヒゲ
    • 第8版学名: Larvivora namiyei (Stejneger, 1887)
    • 英名: Okinawa Robin
  • #シマゴマ
    • 第8版学名: Larvivora sibilans Swinhoe, 1863 (第7版学名より変更)
    • 英名: Rufous-tailed Robin
  • #マミジロキビタキ
    • 第8版学名: Ficedula zanthopygia (Hay, 1845)
    • 英名: Yellow-rumped Flycatcher
  • #キビタキ
    • 第8版学名: Ficedula narcissina (Temminck, 1836)
    • 英名: Narcissus Flycatcher
  • #リュウキュウキビタキ
    • 第8版学名: Ficedula owstoni (Bangs, 1901)
    • 英名: Ryukyu Flycatcher
  • #ムギマキ
    • 第8版学名: Ficedula mugimaki (Temminck, 1836)
    • 英名: Mugimaki Flycatcher
  • #ニシオジロビタキ
    • 第8版学名: Ficedula parva (Bechstein, 1792)
    • 英名: Red-breasted Flycatcher
  • #オジロビタキ
    • 第8版学名: Ficedula albicilla (Pallas, 1811)
    • 英名: Taiga Flycatcher
  • #マダラヒタキ
    • 第8版学名: Ficedula hypoleuca (Pallas, 1764)
    • 英名: European Pied Flycatcher
  • #ルリビタキ
    • 第8版学名: Tarsiger cyanurus (Pallas, 1773)
    • 英名: Red-flanked Bluetail
  • #セアカジョウビタキ
    • 第8版学名: Phoenicurus erythronotus (Eversmann, 1841)
    • 英名: Eversmann's Redstart
  • #カワビタキ
    • 第8版学名: Phoenicurus fuliginosus Vigors, 1831
    • 英名: Plumbeous Water Redstart
  • #クロジョウビタキ
    • 第8版学名: Phoenicurus ochruros (Gmelin, 1774)
    • 英名: Black Redstart
  • #シロビタイジョウビタキ
    • 第8版学名: Phoenicurus phoenicurus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Redstart
  • #ジョウビタキ
    • 第8版学名: Phoenicurus auroreus (Pallas, 1776)
    • 英名: Daurian Redstart
  • #ヒメイソヒヨ
    • 第8版学名: Monticola gularis (Swinhoe, 1863)
    • 英名: White-throated Rock Thrush
  • #コシジロイソヒヨドリ
    • 第8版学名: Monticola saxatilis (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Common Rock Thrush
  • #イソヒヨドリ
    • 第8版学名: Monticola solitarius (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Blue Rock Thrush
  • #ヤマザキヒタキ
    • 第8版学名: Saxicola ferreus Gray & Gray, 1847
    • 英名: Grey Bush Chat
  • #マミジロノビタキ
    • 第8版学名: Saxicola rubetra (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Whinchat
  • #クロノビタキ
    • 第8版学名: Saxicola caprata (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Pied Bush Chat
  • #ノビタキ
    • 第8版学名: Saxicola stejnegeri (Parrot, 1908) (第7版学名より変更)
    • 英名: Amur Stonechat
  • #ハシグロヒタキ
    • 第8版学名: Oenanthe oenanthe (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Northern Wheatear
  • #イナバヒタキ
    • 第8版学名: Oenanthe isabellina (Temminck, 1829)
    • 英名: Isabelline Wheatear
  • #サバクヒタキ
    • 第8版学名: Oenanthe deserti (Temminck, 1825)
    • 英名: Desert Wheatear
  • #セグロサバクヒタキ
    • 第8版学名: Oenanthe pleschanka (Lepechin, 1770)
    • 英名: Pied Wheatear
  • - スズメ目 Passeriformes カワガラス科 Cinclidae -

  • #カワガラス
    • 第8版学名: Cinclus pallasii Temminck, 1820
    • 英名: Brown Dipper
  • - スズメ目 Passeriformes スズメ科 Passeridae -

  • #ニュウナイスズメ
    • 第8版学名: Passer cinnamomeus (Gould, 1836) (第7版学名より変更)
    • 英名: Russet Sparrow
  • #スズメ
    • 第8版学名: Passer montanus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Tree Sparrow
  • #イエスズメ
    • 第8版学名: Passer domesticus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: House Sparrow
  • - スズメ目 Passeriformes イワヒバリ科 Prunellidae -

  • #イワヒバリ
    • 第8版学名: Prunella collaris (Scopoli, 1769)
    • 英名: Alpine Accentor
  • #ヤマヒバリ
    • 第8版学名: Prunella montanella (Pallas, 1776)
    • 英名: Siberian Accentor
  • #カヤクグリ
    • 第8版学名: Prunella rubida (Temminck & Schlegel, 1845)
    • 英名: Japanese Accentor
  • - スズメ目 Passeriformes セキレイ科 Motacillidae -

  • #イワミセキレイ
    • 第8版学名: Dendronanthus indicus (Gmelin, 1789)
    • 英名: Forest Wagtail
  • #ニシツメナガセキレイ
    • 第8版学名: Motacilla flava Linnaeus, 1758
    • 英名: Western Yellow Wagtail
  • #ツメナガセキレイ
    • 第8版学名: Motacilla tschutschensis Gmelin, 1789 (第7版学名より変更)
    • 英名: Eastern Yellow Wagtail
  • #キガシラセキレイ
    • 第8版学名: Motacilla citreola Pallas, 1776
    • 英名: Citrine Wagtail
  • #キセキレイ
    • 第8版学名: Motacilla cinerea Tunstall, 1771
    • 英名: Grey Wagtail
  • #ハクセキレイ
    • 第8版学名: Motacilla alba Linnaeus, 1758
    • 英名: White Wagtail
  • #セグロセキレイ
    • 第8版学名: Motacilla grandis Sharpe, 1885
    • 英名: Japanese Wagtail
  • #マミジロタヒバリ
    • 第8版学名: Anthus richardi Vieillot, 1818
    • 英名: Richard's Pipit
  • #コマミジロタヒバリ
    • 第8版学名: Anthus godlewskii (Taczanowski, 1876)
    • 英名: Blyth's Pipit
  • #マキバタヒバリ
    • 第8版学名: Anthus pratensis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Meadow Pipit
  • #ヨーロッパビンズイ
    • 第8版学名: Anthus trivialis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Tree Pipit
  • #ビンズイ
    • 第8版学名: Anthus hodgsoni Richmond, 1907
    • 英名: Olive-backed Pipit
  • #セジロタヒバリ
    • 第8版学名: Anthus gustavi Swinhoe, 1863
    • 英名: Pechora Pipit
  • #ウスベニタヒバリ
    • 第8版学名: Anthus roseatus Blyth, 1847
    • 英名: Rosy Pipit
  • #ムネアカタヒバリ
    • 第8版学名: Anthus cervinus (Pallas, 1811)
    • 英名: Red-throated Pipit
  • #タヒバリ
    • 第8版学名: Anthus rubescens (Tunstall, 1771) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
    • 英名: Buff-bellied Pipit (IOC 14.2: Siberian Pipit)
  • - スズメ目 Passeriformes アトリ科 Fringillidae -

  • #ズアオアトリ
    • 第8版学名: Fringilla coelebs Linnaeus, 1758
    • 英名: Eurasian Chaffinch
  • #アトリ
    • 第8版学名: Fringilla montifringilla Linnaeus, 1758
    • 英名: Brambling
  • #シメ
    • 第8版学名: Coccothraustes coccothraustes (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Hawfinch
  • #コイカル
    • 第8版学名: Eophona migratoria Hartert, 1903
    • 英名: Chinese Grosbeak
  • #イカル
    • 第8版学名: Eophona personata (Temminck & Schlegel, 1845)
    • 英名: Japanese Grosbeak
  • #ギンザンマシコ
    • 第8版学名: Pinicola enucleator (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Pine Grosbeak
  • #ウソ
    • 第8版学名: Pyrrhula pyrrhula (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Eurasian Bullfinch
  • #ハギマシコ
    • 第8版学名: Leucosticte arctoa (Pallas, 1811)
    • 英名: Asian Rosy Finch
  • #アカマシコ
    • 第8版学名: Carpodacus erythrinus (Pallas, 1770)
    • 英名: Common Rosefinch
  • #オガサワラマシコ
    • 第8版学名: Carpodacus ferreorostris (Vigors, 1829) (第7版学名より変更)
    • 英名: Bonin Grosbeak
  • #ベニマシコ
    • 第8版学名: Carpodacus sibiricus (Pallas, 1773) (第7版学名より変更)
    • 英名: Siberian Long-tailed Rosefinch
  • #オオマシコ
    • 第8版学名: Carpodacus roseus (Pallas, 1776)
    • 英名: Pallas's Rosefinch
  • #カワラヒワ
    • 第8版学名: Chloris sinica (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Oriental Greenfinch
  • #オガサワラカワラヒワ
    • 第8版学名: Chloris kittlitzi (Seebohm, 1890)
    • 英名: Bonin Greenfinch
  • #ベニヒワ
    • 第8版学名: Acanthis flammea (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Common Redpoll (IOC 14.2: Redpoll)
  • #イスカ
    • 第8版学名: Loxia curvirostra Linnaeus, 1758
    • 英名: Red Crossbill
  • #ナキイスカ
    • 第8版学名: Loxia leucoptera Gmelin, 1789
    • 英名: Two-barred Crossbill
  • #マヒワ
    • 第8版学名: Spinus spinus (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
    • 英名: Eurasian Siskin
  • - スズメ目 Passeriformes ツメナガホオジロ科 Calcariidae -

  • #ツメナガホオジロ
    • 第8版学名: Calcarius lapponicus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Lapland Longspur
  • #ユキホオジロ
    • 第8版学名: Plectrophenax nivalis (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Snow Bunting
  • - スズメ目 Passeriformes ホオジロ科 Emberizidae -

  • #キアオジ
    • 第8版学名: Emberiza citrinella Linnaeus, 1758
    • 英名: Yellowhammer
  • #シラガホオジロ
    • 第8版学名: Emberiza leucocephalos Gmelin, 1771
    • 英名: Pine Bunting
  • #ホオジロ
    • 第8版学名: Emberiza cioides Brandt, 1843
    • 英名: Meadow Bunting
  • #イワバホオジロ
    • 第8版学名: Emberiza buchanani Blyth, 1845
    • 英名: Grey-necked Bunting
  • #ズアオホオジロ
    • 第8版学名: Emberiza hortulana Linnaeus, 1758
    • 英名: Ortolan Bunting
  • #シロハラホオジロ
    • 第8版学名: Emberiza tristrami Swinhoe, 1870
    • 英名: Tristram's Bunting
  • #ホオアカ
    • 第8版学名: Emberiza fucata Pallas, 1776
    • 英名: Chestnut-eared Bunting
  • #コホオアカ
    • 第8版学名: Emberiza pusilla Pallas, 1776
    • 英名: Little Bunting
  • #キマユホオジロ
    • 第8版学名: Emberiza chrysophrys Pallas, 1776
    • 英名: Yellow-browed Bunting
  • #カシラダカ
    • 第8版学名: Emberiza rustica Pallas, 1776
    • 英名: Rustic Bunting
  • #ミヤマホオジロ
    • 第8版学名: Emberiza elegans Temminck, 1836
    • 英名: Yellow-throated Bunting
  • #シマアオジ
    • 第8版学名: Emberiza aureola Pallas, 1773
    • 英名: Yellow-breasted Bunting
  • #シマノジコ
    • 第8版学名: Emberiza rutila Pallas, 1776
    • 英名: Chestnut Bunting
  • #ズグロチャキンチョウ
    • 第8版学名: Emberiza melanocephala Scopoli, 1769
    • 英名: Black-headed Bunting
  • #チャキンチョウ
    • 第8版学名: Emberiza bruniceps Brandt, 1841
    • 英名: Red-headed Bunting
  • #ノジコ
    • 第8版学名: Emberiza sulphurata Temminck & Schlegel, 1848
    • 英名: Yellow Bunting
  • #シベリアアオジ
    • 第8版学名: Emberiza spodocephala Pallas, 1776
    • 英名: Black-faced Bunting
  • #アオジ
    • 第8版学名: Emberiza personata Temminck, 1836
    • 英名: Masked Bunting
  • #クロジ
    • 第8版学名: Emberiza variabilis Temminck, 1836
    • 英名: Grey Bunting
  • #シベリアジュリン
    • 第8版学名: Emberiza pallasi (Cabanis, 1851)
    • 英名: Pallas's Reed Bunting
  • #コジュリン
    • 第8版学名: Emberiza yessoensis (Swinhoe, 1874)
    • 英名: Ochre-rumped Bunting
  • #オオジュリン
    • 第8版学名: Emberiza schoeniclus (Linnaeus, 1758)
    • 英名: Common Reed Bunting
  • - スズメ目 Passeriformes ゴマフスズメ科 Passerellidae -

  • #ゴマフスズメ
    • 第8版学名: Passerella iliaca (Merrem, 1786)
    • 英名: Fox Sparrow (IOC 14.2: Red Fox Sparrow)
  • #ミヤマシトド
    • 第8版学名: Zonotrichia leucophrys (Forster, 1772)
    • 英名: White-crowned Sparrow
  • #キガシラシトド
    • 第8版学名: Zonotrichia atricapilla (Gmelin, 1789)
    • 英名: Golden-crowned Sparrow
  • #サバンナシトド
    • 第8版学名: Passerculus sandwichensis (Gmelin, 1789)
    • 英名: Savannah Sparrow
  • #ウタスズメ
    • 第8版学名: Melospiza melodia (Wilson, 1810)
    • 英名: Song Sparrow
  • - スズメ目 Passeriformes アメリカムシクイ科 Parulidae -

  • #カオグロアメリカムシクイ
    • 第8版学名: Geothlypis trichas (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Common Yellowthroat
  • #キヅタアメリカムシクイ
    • 第8版学名: Setophaga coronata (Linnaeus, 1766)
    • 英名: Yellow-rumped Warbler (IOC 14.2: Myrtle Warbler)

    凡例

  • 標準和名
    • 学名:学名 (読み) 説明 (第8版、第7版、IOC で相違がある場合は併記している)
    • 属名:属名の説明 (同上)
    • 種小名:種小名の説明 (同上)
    • 英名:英名 (やや古い英名も含まれている。IOC 準拠英名が異なるものは追記している)
    • 備考:備考。学名や亜種の追加説明。分類学情報や面白い関連情報(一般的な図鑑などで読める色彩や形態、分布、生態などは原則省略している)

    ― キジ目 GALLIFORMES キジ科 PHASIANIDAE 

  • エゾライチョウ
    • 学名:Tetrastes bonasia (テトゥラステース ボナーシア) エゾライチョウまたはヤギュウの声のような音を出すライチョウの歌い手
    • 属名:Tetrastes < Tetrao ライチョウ < tetras Symmachus が記述した鳥の名前。食べられる狩猟鳥でおそらく Aristophanes 他が用いた tetrax と同一だが正体ははっきりしない (野ガモとする著者もある) (Gk) -astes (行うもの) (Gk); ライチョウの歌い手 (コンサイス鳥名事典, Gk)
    • 種小名:bonasia イタリア語でエゾライチョウ < 原意は bonasus < bonasos バイソン (Gk); ヤギュウの(声のような音を出す) (コンサイス鳥名事典)
    • 英名:Hazel Grouse
    • 備考: tetrastes は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は tetras は短母音。-astes は e が長母音でそれを反映した。-ras- がアクセント音節と考えられる (テトゥステース)。 bonasia は bonasus に従えば a が長母音でアクセントもある (ボナーシア)。
      ユーラシアやや北部に広く分布し、11 亜種が認められている (IOC)。日本で記録される亜種は vicinitas (近い、似ている)。基亜種に似ているが違う点もあると命名された。英名の hazel はハシバミ(属)。 キジ科は2亜科の分割されるが、日本のものは Phasianinae 亜科。 これは直立するかしないかで2クレードに分割される (erectile clade, nonerectile clade)。 日本に関係する種ではウズラが後者。ニワトリの野生種であるセキショクヤケイも後者。 erectile clade の中では Tetrastes 属および Lagopus 属 (日本に関係ある属のみを示す) は Tetraonini 族 に分類される (この程度の分類を見ていただくと 族 tribe の意義や範囲がわかりやすいだろう)。 参考 Gutierrez et al. (2000) A classification of the grouse (Aves: Tetraoninae) based on mitochondrial DNA sequences。 ミヤマエゾライチョウ Tetrastes sewerzowi 英名 Chinese Grouse との遺伝的関係を調べた論文: Song et al. (2021) Demographic history and divergence of sibling grouse species inferred from whole genome sequencing reveal past effects of climate change。この2種は 46-337 万年前に分かれたとのこと。両種とも近年は実効個体数が減っている。
      英語圏では、冬に白い羽となるライチョウ属の種を ptarmigan、羽の色を変化させない種は grouse と呼び区別される (wikipedia 日本語版より)。ptarmigan はゲール語 tarmachan に由来し、意味は croaker (があがあ鳴くもの) だがそれ以上の語源は不明とのこと。pt- の綴りはギリシャ語由来と誤解され ptero- (翼 Gk) に合わせたものらしい (wiktionary)。英語でもライチョウ類総称では grouse。 grouse は 1530 年代には複数形で grows と呼ばれていたが起源にはいくつかの説がある。例えば中世フランス語でツルを表す grue、同じく中世ラテン語の gurta などが挙がっている (wiktionary)。 ロシア語ではライチョウ属は英語のような区別はなく様々な名前がある。エゾライチョウは ryabchik で ryaboj (斑点のある) に由来。 ライチョウ属の一部はロシア語で teterev と呼ばれ、遡れば Aristophanes 他が用いた tetrax になるらしい (Kolyada et al. 2016)。teterev から派生するロシア名に#オオタカ teterevyatnik がある。
      [クジャクの目玉模様は目立つか?] Kane et al. (2019) How conspicuous are peacock eyespots and other colorful feathers in the eyes of mammalian predators? の研究によれば、2色色覚型の哺乳類捕食者にとってはクジャクの目玉模様は目立たず、普通の距離ではパターンが検出限界以下になるとのこと。むしろ隠蔽色になっている可能性がある。哺乳類捕食者は色彩パターンよりも他の手がかりを用いている。 クジャクは捕食者回避能力も高く、野外研究でも哺乳類による捕食の頻度は低いとのこと。目玉模様が多いほど捕食されやすい傾向も見つかっておらず、長い上尾筒が逃走行動を邪魔している証拠もないとのこと。
  • ライチョウ
    • 学名:Lagopus muta (ラゴープース ムーター) 静かなライチョウ
    • 属名:lagopus (f) ライチョウ (lagos ノウサギ pous 足 Gk)
    • 種小名:muta (adj) 静かな (mutus)
    • 英名:Rock Ptarmigan
    • 備考: lagopus は#ケアシノスリ参照 (ラゴープース)。 muta はいずれも長母音 (ムーター)。派生する他言語では伸ばさないものが多いが英語 mute は長音。
      北半球高緯度に分布。23 亜種が認められている (IOC)。日本に分布する亜種は japonica (日本の) とされる。 かつての学名は Lagopus mutus だったが、属名語尾は従来は男性名詞と思われていたため。古ギリシャ語由来でこれは女性名詞であるため、種小名が修正されたとのこと (wikipedia 英語版より)。 特別天然記念物。絶滅危惧 IB 類 (EN)。世界的に種全体では IUCN 3.1 LC 種 (LC は Least Concern で「低懸念」と訳されるが、「少し懸念がある」と読まれがちである。 本来の英語の意味は「ほとんどない」、例えば least likely は「ほとんどあり得ない」の意味で、「懸念なし」と解釈する方が意味は近いだろう。日本のレッドデータブックの分類ではランク外に相当する。ドイツ語訳では nicht gefaehrdet 懸念なし とされている)。
      ドイツ語名 Alpenschneehuhn (アルプスの雪のニワトリ)。ロシア語名 tundryanaya kuropatka (ツンドラの、後半は kur ニワトリから派生。ツンドラのニワトリと訳せそうである)。 スウェーデン語 fjallripa (fjal 山の ripa ライチョウ) など。
      [ライチョウ類の植物毒解毒] 日本の種とは近縁ではないが (エゾライチョウの方がやや近い?) 保全上でも話題となるためこちらに含めておく。 Kohl et al. (2016) Microbial detoxification in the gut of a specialist avian herbivore, the Greater Sage-Grouse キジオライチョウ Centrocercus urophasianus の植物毒の解毒の研究がある。ヨモギ属 Artemisia を食べるスペシャリストであるが有毒物質を含んでいる。 腸内細菌が分解しており、フェノールをピルビン酸に分解する生化学経路を明らかにした。この機能はニワトリや牛など草食哺乳類 14 種には認められなかった。 ヨモギ属の主な毒性成分であるモノテルペン (monoterpene) を分解する証拠はそこまで確実でないがこの代謝経路に関係する酵素をいくつか同定した。植物毒の解毒における腸内細菌の役割は草食哺乳類や昆虫に似ているとのこと。キジオライチョウ類では糞に排泄される植物由来物質濃度が低いことから腸内細菌の役割が示唆されていた。 また必須アミノ酸 (植物にはあまり含まれない) を腸内細菌が合成している可能性もあるが、これは今後の研究が必要である。論文のまとめ方は保全よりもライチョウ類の腸内細菌に応用上有用な特異な酵素が見つかることが期待できると実用的側面を示している。
      Sun et al. (2022) The avian gut microbiota: Diversity, influencing factors, and future directions に植物食の鳥の腸内細菌の役割についてレビュー論文がある。 ツメバケイではそのうでの発酵で解毒している証拠があり、ライチョウ類についても示唆されている: Dearing et al. (2005) The Influence of Plant Secondary Metabolites on the Nutritional Ecology of Herbivorous Terrestrial Vertebrates のレビュー参照。
      ニホンライチョウでは ニホンライチョウの味覚・解毒機能の高山環境適応機構の解明と保全に向けた飼料開発 (橋戸南美) の研究がおこなれているので今後成果が出てくるだろう。
      [足に羽毛の生える鳥] ライチョウそのもの研究は見つけられなかったが、足に羽毛の生える (ptilopody) 鳥についての遺伝子変異や制御の研究がある。 Bortoluzzi et al. (2020) Parallel Genetic Origin of Foot Feathering in Birds ニワトリとハトの飼育品種で足に羽毛を持つものは PITX1, TBX5 遺伝子の発現に共通の特徴が見られる。Fig. 1 を見ていただくとニワトリの品種でどのような形態変化があるか見ていただけるだろう。足に翼のような羽毛を持つ品種すらある。 ニワトリにおいては第 13 染色体 PITX1 の上流 200 kb に発現に関係すると思われる 17 kb の脱落があり、ハトでは同様に 44 kb の脱落があるとのこと。structural variant (構造変異) は両種で独立に何度も起きたとのこと。 タンパク質をコードする遺伝子だけを比べてもわからないだろう。 PITX1 は通常は後肢にのみ発現し、前肢には発現しない。前肢と後肢の発生の違いを生み出している。 PITX1 は小型の羽毛の発育に主に関係し、TBX5 は大型の羽毛に主に関係するとの先行研究がある。 Boer et al. (2019) Pigeon foot feathering reveals conserved limb identity networks はハト品種での足の羽毛と遺伝子発現の関係を調べている。PITX1 と TBX5 が羊膜類で前肢・後肢を決める共通の遺伝子とのこと。 Li et al. (2020) Mutations Upstream of the TBX5 and PITX1 Transcription Factor Genes Are Associated with Feathered Legs in the Domestic Chicken もほぼ同様の研究で、ニワトリでは第 15 染色体の TBX5 遺伝子の上流に変異がある。後肢で PITX1 の発現が抑制され、TBX5 が異所的に発現することで羽毛の生えた足になる。 いずれも過去の研究で提唱されていたものを詳しい解析で確認したもの。過去の研究は引用文献を参照いただきたい [Takeuchi et al. (1999) Tbx5 and Tbx4 genes determine the wing/leg identity of limb buds の日本の研究もある]。 これらの表現型の特徴をニワトリでは ptarmigan、ハトでは grouse と呼ぶらしいことも面白い。 ライチョウはニワトリに近縁なので制御メカニズムもおそらくよく似ているのだろう。
      [鳥類と爬虫類のうろこは別物] 鳥類の足の "うろこ" と爬虫類のうろこが同じ起源かどうか長く議論されてきた。 Wu et al. (2018a) Comprehensive molecular and cellular studies suggest avian scutate scales are secondarily derived from feathers, and more distant from reptilian scales は発生過程の鳥類の足の "うろこ" は羽毛の発生の早い段階に類似していることを見出した。分子レベルでも羽毛、うろこにそれぞれ特徴的な遺伝子の発現を調べることでワニのうろことニワトリの羽毛や "うろこ" とは異なることが示された。形態的にはワニとニワトリの "うろこ" は似ているが、幹細胞の分布、そしておそらく働きも異なり両者の "うろこ" は収斂進化の結果と考えられる。 つまり論文表題が示すように鳥類の足の "うろこ" は羽毛から二次的に生じたものと考えられ、爬虫類への先祖返りを見ているというわけでも、「鳥が爬虫類であることの証拠」というわけでもない。
      鳥類の足の "うろこ" が羽毛から二次的に生じたものとの考えは Dhouailly (2009) A new scenario for the evolutionary origin of hair, feather, and avian scales で提唱されていた。 この論文では羊膜類の中でも鳥類の皮膚は羽毛、哺乳類の皮膚は毛と最も複雑な付属物を作る機能に共通の遺伝子が働いているとのこと。実験でもニワトリで単純なうろこ、マウスで単純な (付属) 腺 (gland) のみを生じさせることはできなかった。まず羽毛や毛が発生するプログラムが働き、これを抑制する機構でより単純な構造 (皮膚の角質は両者に共通) が生じるとの考え方。 足の "うろこ" が比較的簡単な遺伝子制御機構の変化で羽毛に変わり得る現代の知見とも整合性がよい。
      Wu et al. (2018b) Multiple Regulatory Modules Are Required for Scale-to-Feather Conversion によればうろこから羽毛への進化は何段階もの制御モジュール再構築が必要である。この論文が羽毛に特徴的な遺伝子を同定したもの。
      ふしょの "うろこ" (scutate scales) と足の裏の reticulate scales とは異なっているとのこと。reticulate scales は α ケラチンからなる。 確かに足に羽毛が生えるニワトリやハトの飼育品種でも足の裏は羽毛にならないことが知られている。 Liu et al. (2023) Molecular and Cellular Characterization of Avian Reticulate Scales Implies the EvoDevo Novelty of Skin Appendages in Foot Sole 鳥の足の裏の皮膚の構造は哺乳類の tactile skin (外界を接触感知する皮膚。例えばヒトの手のひらや足の裏) と類似点があるとのこと。 著者は圧力に対する構造的適応で、常時摩耗するため細胞更新の頻度を高めることに適した幹細胞の分布となっていて (羽毛や毛は換羽のような更新サイクルがある) 傷を治すのに十分な速度となっているが、reticulate scales のような大きな構造物を再生するのには十分でないと考えている。
      Cooper et al. (2019) Conserved gene signalling and a derived patterning mechanism underlie the development of avian footpad scales はこの研究に先行するものだが、鳥の足の裏の皮膚の特殊性を取り上げている。恐竜の "うろこ" についてはまだ学説が固まっていないが、現在の系統研究に基づけば reticulate scales は鳥類の起源以前に遡る可能性があるとのこと。
      Dhouailly (2023) Evo Devo of the Vertebrates Integument 脊椎動物の皮膚付属物の進化のレビュー論文。 鳥類の足の "うろこ" が羽毛から生じ、逆ではない証拠は集積しつつある。 すべての鳥は足の裏に reticula を持っているがフクロウ類など少数は pedal scales を持たないことも述べられている [cf. 川口 (2024) Birder 38(8): 52-53]。 鳥類・哺乳類に共通する Shh/BMP のバランスのメカニズムによって羽毛・毛皮になるか裸の皮膚になるかが決まる。足の裏が発達することで地上生活に適応した。哺乳類の毛は化石に残りにくいので進化過程は羽毛以上にあまりよくわかっていないが古くからあった模様。 爬虫類のうろこ、鳥類の reticula、哺乳類の指紋は dermal condensate (原基内での細胞集積) ではなく intra-epidermal signaling (上皮内のシグナル伝達) で形成されるものとのこと。これらはパターン形成的には同じように作られるものと考えてよさそう。上皮内のシグナル伝達で形成される (指紋は原文で fingerprints。日本語の方が語彙が豊富なようで、解剖学的には皮膚紋理の用語がある。皮膚の構造の名称も皮溝 sulcus cutis 皮丘 crista cutis 皮野 area cutanea も日本語は詳しい)。 そういえば鳥肌が立つというのはそういうことか、と妙に納得できてしまう。 Nogare and Chitnis (2017) Self-organizing spots get under your skin に入門者向けの皮膚のパターン形成のレビューがある。"your skin" とあるが羽毛のこともずいぶん述べている。 鳥類の羽毛発生と哺乳類の毛の発生が非常によく似ていることは出てくるが爬虫類については出てこない。羽毛の発生はそれだけよく調べられているのだろう。鳥肌はほぼ鳥の肌と考えて大きな間違いはなさそう。 このようなパターン形成のアイデアは Alan Turing アラン・チューリング「コンピュータ科学の父」が 1952 年に数学的理論として提唱したもので、近距離で促進、遠距離で抑制的に働く作用を考えるだけでパターンを再現できる。"The Chemical Basis of Morphogenesis" (形態形成の化学的基礎) の論文。 斑点や縞模様などの規則性も同じように考えられるのだろう。
      Youn et al. (2024) Tissue-scale in vitro epithelial wrinkling and wrinkle-to-fold transition ヒトの細胞を用いたものだが "しわ" の形成に働く力。
      bumblefoot (バンブルフット ulcerative pododermatitis) 趾瘤症は猛禽類に起きやすい疾患と思っていたが、哺乳類にも共通しているようで Bajwa (2016) Canine pododermatitis のような獣医学のレビューもある。足の裏の収斂進化の産物と思ってよいのだろうか。 もしかすると何かの参考になるかも知れないのでメモしておくと Schwehn et al. (2024) Blood Vessel Topography of the Feet in Selected Species of Birds of Prey and Owls に猛禽類の足の血管系を比較研究した論文がある。足の裏の血液供給がタカ類とハヤブサ類に多少違いがあるそうで、ハヤブサ類の方が足の裏の血管が少なめでバンブルフットが起きやすい原因にもなっているかも知れないとのこと。タカ類では調べられた範囲で共通性が高く、ヨーロッパノスリ、ハイタカ、ヨーロッパハチクマ、オオタカともに同じ動脈のパターンでグループ2に属するとのこと。 グループ1がハヤブサ類、グループ3がフクロウ類 (足から趾への動脈がどこで分岐するかで区別している)。ハヤブサ目でもカラカラでは趾への動脈供給がニワトリと似ているとのこと。
      皮膚はどこかの段階で爬虫類型から鳥類型に進化したはずだが、化石研究から経緯を探ったもの: Yang et al. (2024) Cellular structure of dinosaur scales reveals retention of reptile-type skin during the evolutionary transition to feathers 皮膚部分の保存状態のよい Psittacosaurus の化石で皮膚構造を調べた。羽毛のない皮膚を現代の鳥の "うろこ" のない裸出した皮膚と比べると現在の鳥のケラチン層の方がずっと厚く、むしろ現生の爬虫類に近いものだった。 現代の鳥では羽毛のない部分にメラニン着色はほとんどないが Psittacosaurus では着色に用いていてメラニン分布はワニと共通性があるとのこと。 皮膚の構造は外気温に対する適応などいろいろな解釈が考えらえるが、四足歩行の爬虫類に比べて二足歩行によって地上から体が離れ、物理的な保護の必要性が下がったのではとの解釈も挙げている。 羽毛進化の最初の段階では羽毛のない部分には爬虫類に似た皮膚を残しておく必要性があったのでは、などの議論が出ている。今の鳥類の皮膚は哺乳類型とも共通性のある鳥類型になっていて爬虫類型の特徴は残っていないと考えてよいのだろう。
      Holthaus et al. (2018) Comparative Analysis of Epidermal Differentiation Genes of Crocodilians Suggests New Models for the Evolutionary Origin of Avian Feather Proteins 上皮形成に関係する Epidermal Differentiation Complex (EDC) の遺伝子群は羊膜類内の系統ごとにすべて違いがある。カメ、ワニが共通でもっている EDPQ は鳥類では失われている。 EDCRP は鳥類・ワニ類の共通祖先で生じたものだが、鳥類で特に発達 (リピート数の増加) して羽毛をもたらすことになった。ワニ類の EDCRP ではシステイン残基が最大で 22 なのに対してニワトリでは 160 ある (羽毛にシステインが多いのはジスルフィド結合で強度を高めるためと考えられている)。 羽毛を燃やす時の特有の悪臭はシステインに起因する硫黄が多いため。また羽毛の発育には多量のシステインを必要とするため、換羽時には他の生理学的要求と競合が生じ、生理学的要求が大きい時に換羽の中断などの現象にもつながるなど換羽の理解にも役立つ。 哺乳類の毛にもシステインが多いが、タンパク質が異なって収斂進化の結果とのこと: Strasser et al. (2015) Convergent evolution of cysteine-rich proteins in feathers and hair; Ehrlich et al. (2020) Convergent Evolution of Cysteine-Rich Keratins in Hard Skin Appendages of Terrestrial Vertebrates。 Strasser et al. (2015) の結果ではワキスジハヤブサやシロエリヒタキのリピート数が多く、これは羽毛強度がそれだけ重要なことを意味するのだろうか。 羽毛より起源の古い subperiderm に羽毛に関連する祖先的な遺伝子の発現があり、羽毛はここから進化したのではとの考え。 2.4 億年前の共通祖先の段階では羽毛を持っておらず、どのような役割で進化したものか興味あるとのこと [Lachner et al. (2019) Immunolocalization and phylogenetic profiling of the feather protein with the highest cysteine content]。
      Davis and Greenwold (2021) Evolution of an Epidermal Differentiation Complex (EDC) Gene Family in Birds に鳥類内での EDC の進化の研究がある。ニワトリやカッコウでは遺伝子数も多くて複雑だったものが、アデリーペンギン、ハクトウワシ (この2種はよく似ている) では遺伝子数が少ない。キンカチョウではさらに1つ失っている。進化段階をたどると水鳥の多かった系統では羽毛形成の遺伝子が重要だったが、陸に移るにつれて次第に必要性が下がったのだろうか。 ペンギンは水中生活に適応して水鳥に近いかと思ったが意外にも遺伝子は陸鳥型だった。陸から海に戻ったが遺伝子は祖先型に戻すことはできなかったらしい。 論文では生態との相関は見つけることができず、完全な遺伝子の検出が不十分なのでよりデータが必要とのこと。
      Kane et al. (2019) Successful, Full-Thickness Skin Graft in a Bald Eagle (Haliaeetus leucocephalus) おそらく感電で頭部の皮膚を失ったハクトウワシに腿部から自家皮膚全層移植に成功したとの報告があった。羽毛が正しい向きに生えるように方向も注意したなど。6週間で放鳥に至った。このような事例は鳥類で初とのこと。 これをもとに調べてみると Stroud et al. (2003) The Use of Skin Flaps and Grafts for Wound Management in Raptors のような文献もあって、鳥類の皮膚は哺乳類のものと似ている。羽毛がある点は違う (これは当たり前か)。 汗腺がない点は異なるが、皮膚に holocrine glands (全分泌腺。ホロクリン腺) を持っていて sebokeratinocytes が皮膚に脂肪を分泌する。尾脂腺、総排泄孔、外耳道にもあるとのことで、形態は違うものの哺乳類の脂腺と同じような部位に分布して似た機能を果たしていると考えてよさそう (他の文献を見ても哺乳類と同じような役割を果たすと書かれている)。 哺乳類の乳腺が汗腺由来であると同様、ピジョンミルクを生成する上皮も皮膚分泌腺の延長と考えてよさそう。これは #フルマカモメの備考の [におう鳥のリスト] の記述と大きく違うわけではないが、哺乳類と似た進化を遂げたらしいことがよりわかりやすい。 海に住む哺乳類では sebokeratinocytes と類似の lipokeratinocytes を持っているとのこと [Eias et al. (1987) Avian sebokeratocytes and marine mammal lipokeratinocytes: Structural, lipid biochemical, and functional considerations]。 哺乳類は夜行性を体験して嗅覚コミュニケーションの役割が増えて汗腺が重要になったが、昼行性で水分喪失を避けつつ空冷が重要な鳥類では少し違う形になったと解釈すればよいだろうか。
      Stettenheim (2000) The Integumentary Morphology of Modern Birds-An Overview に鳥の皮膚付属物のレビューがあり、個々にはそれほど深くはないが守備範囲が広く、オープンアクセスなので見ておいてよさそう (当然のことながら近年の遺伝子発現の研究などは入っていない)。 鳥の皮膚全体が皮脂分泌器官として働いているが尾脂腺、外耳道腺は特化している。尾脂腺の分泌物は化学的にも皮膚の分泌物と異なってエステルが中心。鳥にも耳垢に相当する分泌がある。 総排泄孔腺はムコタンパク質のみを分泌し受精に役立っていると考えられる。 シチメンチョウでは首の基部から垂れ下がる "beard" ("ひげ") があり羽毛とは違って伸び続ける (最長 677 mm)。羽毛のように follicle (羽のう) から発生するのではなく、皮膚の肥厚部から直接生じるとのこと。ということで生えるものはすべて羽毛が変形したものというわけでもなさそう。 ツメバケイが重いそのうを枝に乗せる部位は sternal callus と呼ばれる肥厚構造になっているそう。 嘴を覆う rhamphotheca も皮膚が特殊化して厚くなったもので、真皮 (dermis) も存在して触覚の知覚センサーがある。触覚センサーの数や分布は最食様式や種類によって大きく異なっている (よく知られているようにカモ類やシギ類、オウム類で触覚が発達している)。ツカツクリ類では温度センサーとしても知られている。 鼻孔部の nare やその一部であるろう膜 cere も rhamphotheca の一種。オウム類の舌先端のケラチン化した lingual nail も組織的には rhamphotheca に似ているが構造は β ケラチンがフィラメント状に並んで scutellate scales (趾表面の "うろこ") に似ている。
      蹴爪 (spur) についても簡単な言及がある。またレンカクなどの wing spur は蹴爪同様に骨から出た突起 (ツメバケイなどの wing claw とは別物)。
      Widelitz et al. (2007) Mammary glands and feathers: Comparing two skin appendages which help define novel classes during vertebrate evolution 一見意味がないように見えるが羽毛と乳腺の類似性の比較。最近の遺伝子発現などの証拠は含まれていないので想像による図になっているが皮膚付属物を進化させることで鳥類・哺乳類の2大系統に繁栄をもたらした。根底にあるメカニズムは似ている。
      尾脂腺のまだ発達していないひよこを使って羽毛 (ダウン) の脂肪成分を調べてみると尾脂腺とは成分が異なっていた: Zeisler-Diehl et al. (2020) Detection of endogenous lipids in chicken feathers distinct from preen gland constituents。 尾脂腺の成分とは決定的に異なっている。未発表だが他の種でも見られるとのことで鳥類全般で成り立つのではとのこと。各種羽毛にも存在する証拠があり、濃度は低いが役割を果たしていると考えられる。 組成からは疎水機能があることはほぼ自明で、ウなどではどうなっているか調べるのは興味があるとのこと。 羽毛は死んだ組織なので血流で除かれることなく長期間安定に存在できる。 (これまでは尾脂腺の分泌物の組成などを中心に研究されてきたが) 羽毛の脂分は尾脂腺のみに由来すると考えてはいけないよう。 この論文では疎水機能を中心に議論しているがおそらく他にも機能があるのだろう。 また粉綿羽も調べているわけではないのでこちらも調べると興味深い結果になるかも。
      こちらは少し違う系統だが鳥 (調べられたのはスズメ目。ヨーロッパの研究なので日本と共通または近縁種も多い) の羽毛の細菌叢が羽毛を劣化させる細菌に対する抗菌物質を作っている: Javurkova et al. (2019) Unveiled feather microcosm: feather microbiota of passerine birds is closely associated with host species identity and bacteriocin-producing bacteria 宿主の系統とともに共進化がみられる。StreptococcusLactobacillus の割合が高かった。Streptococcus (レンサ球菌) はヒトも含めて多くの脊椎動物の皮膚に普遍的に存在するが、Lactobacillus (ラクトバチルス属。乳酸菌群の一つ) が皮膚の細菌叢を形成しているのはこれまでヒトと霊長類のみでしか知られていなかったとのこと。 鳥の皮膚/羽毛の細菌叢の研究は始まったばかりとのこと。
      [ライチョウの換羽] 年1回換羽を行う鳥が多いが、極北の鳥類・哺乳類では年2回 molt を行う (以下アメリカ綴りで表記する。英語では哺乳類でも同じ用語を使うらしい。日本語では換毛の用語があるが、鳥類・哺乳類に共通した用語はない?)。 総説論文: Beltran et al. (2018) Convergence of biannual moulting strategies across birds and mammals fig. 1 に環境要求に応じた molt の進化がまとめられている。鳥類を例にとると、
      (1) 季節による環境条件が変化しない場合: 連続した molt が可能 (ネズミドリ類で知られている)
      (2) 羽毛損傷に季節性がない場合: 年1回の換羽
      (3) 羽毛損傷に季節性があり、断熱性の必要性に季節変動がない場合:
       (3a) 色彩による配偶者選択の要求がない場合: 年1回の換羽
       (3b) 色彩による配偶者選択の要求がある場合: 不完全な年2回の換羽
      (4) 羽毛損傷に季節性があり、断熱性の必要性に季節変動がある場合:
       (4a) カモフラージュ必要性に季節変動がない場合: 不完全な年2回の換羽
       (4b) カモフラージュ必要性に季節変動がある場合: 完全な年2回の換羽
      のようになる。ライチョウは (4b) にあたる。table 1 に molt 様式がまとめられていて、continuous shedding (上記 1)、annual molt (年1回の換羽): 変形として catastrophic molt (ペンギン類)、simultaneous molt (ガン・カモの一部など)、 complete biannual molting (完全な年2回の換羽)、 incomplete biannual molting (不完全な年2回の換羽)、 split molt (中断のある場合。哺乳類では知られていないとのこと)。 対応種や引用文献などは見ていただきたい。極地の特に哺乳類を中心とする論文なので我々が普通に出会う中緯度帯の鳥の換羽についてはそれほど詳しくない。
      極地では molt に適した期間が短く、捕食危険性や断熱効果を損なうことに伴うエネルギーコストの増加のため熱帯の動物に比べて短時間に molt を行う。molt のコストが高いのでこのような制約が少ない熱帯のような場合はゆっくり molt を行う。このような環境要因から鳥類・哺乳類で molt の戦略に収斂進化が起きていると考えているとのこと。 他に考えるべき要因として、メラニンを含有した羽はケラチン層も厚く摩耗に強い。日光の吸収も強く病原体の増殖に適した温度以上を保ちやすい。結果的に低緯度の色の濃い Gloger (グロージャー) の法則となる。 極地の夏は紫外線が強く、冬は低温でいずれも損傷が進みやすい。そのため環境要因のみで年2回の molt が起き得る理由になる。 白色の羽毛は開けた環境で繁殖する種では日光を吸収しにくいため有利に働く。一方で高速飛行時の対流冷却を起こしにくく、熱負荷の大きい条件では体温を逃がすのに不利に働く可能性がある。
      日本のライチョウは体羽は年3回の換羽を行うとのこと (初列風切は1回)。ライチョウ (Bird Research News 2012)。この記事での出典は 西野優子・中村浩志 2011。年3回換羽するライチョウの換羽時期と様式。鳥学会 2011 年度大会要旨集。
      Pyle (2007) Revision of Molt and Plumage Terminology in Ptarmigan (Phasianidae: Lagopus spp.) Based on Evolutionary Consideration によれば Lagopus 属は年3回の換羽を行うと考えられてきた: "spring molt" (2-6 月の display plumage への換羽)、"summer molt" (7-9 月の隠蔽色への換羽)、"fall molt" (9-11 月の白い羽衣への換羽)。 3回目の換羽について十分記載されてこなかったこと、Humphrey-Parkes の用語 (#カタグロトビの備考 [タカ・ハヤブサ類の初列風切の換羽様式] で紹介) と整合性がよくないのでここで記述とともに用語を整理したとのこと。
      この論文では Humphrey-Parkes システムを修正して Lagopus 属に対応する prealternate molt, presupplemental molt, prebasic molt の名称を提案。prebasic molt の名称は他の分類群と共通。 性により前2者の順序が異なり、種によって一部のみのものもある。 オスのライチョウが年4回換羽するとの過去の報告 (Johnsen 1929) は確かめられなかった。 複数回の換羽でもたらされる色彩変化による適応的意義については以前から指摘されている通りであろう。 マガモではオス・メスが別の時期に prealternate molt を行うとのことで多少対応性がある。
      コオリガモも年3回換羽するとのこと (wikipedia ロシア語版 "羽衣" より)。 Payne et al. (2015) Patterns of Molt in Long-Tailed Ducks (Clangula hyemalis) during Autumn and Winter in the Great Lakes Region, Canada では秋の換羽を中断するとの解釈のよう。
  • ウズラ
    • 学名:Coturnix japonica (コートゥルニークス ヤポニカ) 日本のウズラ
    • 属名:coturnix (f) ウズラ
    • 種小名:japonica (adj) 日本の (japonicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Japanese Quail
    • 備考: coturnix は o, i が長母音で -tur- がアクセント音節 (コートゥルニークス)。 japonica は短母音のみ (ヤニカ)。ほとんど学名のみに使われる。伸ばす発音もあり、アクセント部分を伸ばしてもよい。
      単形種。 かつては (現在の和名で) ヨーロッパウズラ Coturnix coturnix 英名 Common Quail の亜種とされた。 quail の語源は後世ラテン語の quaccola (ウズラ) に由来。 ロシア語は perepel で古ロシア語 pippalnis で鳥を意味する。ラテン語 papilio チョウ に由来とのこと (Kolyada et al. 2016)。日本のウズラは別名 nemoj perepel で、無言のウズラの意味だが現実とは合わないと解説がある。perepel から派生するロシア名に#ハイタカ perepelyatnik がある。
      ウズラとヨーロッパウズラの現代的な種分化の研究は Dey et al. (2024) Mitogenomic Insights into the Evolution, Divergence Time, and Ancestral Ranges of Coturnix Quails。 分岐年代は 225 (118-357) 万年前と推定。チベット高原が障壁となって分散過程で分化したものと考えられるが系統的には近く野外で交雑帯の研究も望まれるとのこと。
      ウズラの鳴き声 (さえずり) はアジャパーと聞きなしされることがあるが、(ヨーロッパウズラであるが) クラシック音楽にも出てくる。楽譜の読める方であればメシアンの メシアン 最大にして最高峰のピアノ独奏曲〜「ニワムシクイ」 のウズラのところを見ていただくと面白いと思う。手元に演奏可能な楽器をお持ちであれば特有のリズムをすぐ覚えられるだろう。 3月ごろに動物園の飼育個体がよく鳴いているのを聞いたことがあるが、少し離れたところで飼育員の方に「あれがウズラの声」と話してもさっぱりわからないとのこと。仕事で毎日のように聞かれているはずだが意識しないと印象に残りにくい声なのかも知れない。 独断と偏見の識別講座 第62回 Japanese Quail <ウズラ> (2018) に波多野邦彦氏の音声に関する記述がある。 参考までに Dement'ev and Gladkov (1952) が何と記述しているか調べてみると、ヨーロッパウズラであるが pod'polot', fit'pil'-vit' となっている。やはりどんな音かわかりそうもないが、メスが tyuryuryu または bribit と応じると記載されている。オスがこの声を出す行為を指す動詞が bit' だそうで訳語には「(時計などが) 打つ」のようなものがある。 「水鶏 (くいな = ヒクイナ) のたたき」という日本語があるが、「打つ」意味の動詞が独立に使われているのだろう。
      [キジ目と鳥インフルエンザ] ニワトリは鳥インフルエンザウイルスへの感受性が特に高いことが知られており、巷では単一品種を人為的に選抜したもののためなどの説も出ているが、キジ目共通に生じた免疫応答機能の欠如が原因である可能性が指摘されている。#インドガン備考の [野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン] 以下の "最新状況" コーナーに紹介した。 この起源は非常に古くキジ目内で 4500-6500 万年前に起きたと推定されている。キジ目の進化と病原体対応にかかわる選択圧にも関係するものと考えられ、生態的にも興味深いのでキジ目内での遺伝子進化や鳥類他系統との類似性などここで紹介された文献で見ていただきたい。
      [鳥類に性的興奮はあるか] 外見で性的興奮状態が判別しやすい哺乳類とは異なり、鳥類が性的興奮を感じているかどうかの客観的判断は難しい。Ball and Balthazart (2011) Sexual arousal, is it for mammals only? がウズラを用いた研究のレビュー論文を書いている。交尾が期待できる状況 (性的興奮とは言い切れないが) でウズラは食欲を示す行動をとる。この時の脳の活動部位 (当時は放射性標識)、遺伝子発現、ドーパミン放出の関連性から哺乳類同様に性的興奮を感じているのではないかと推定。 オスにメスを見せると medial preoptic areas (視床下部に位置するが発生起源は大脳。哺乳類でも対応部位が食欲、攻撃、不安、生殖に関係する) でドーパミンが増えたとの実験がある。同じ条件で交尾を行わなかった個体もあり、ドーパミンが増えなかったとの結果がある。 fMRI などで脳の活動部位を調べる研究が望まれるとのこと (MRI 装置の中で交尾を期待するか??)。 Sachs (2007) A contextual definition of male sexual arousal 哺乳類でも勃起を伴わなくても性的興奮を感じている可能性もある。また REM 睡眠のように性的興奮がなくても勃起が起きるので実は定義が難しい。
      [鳥類胚の形成に働く力] Caldarelli et al. (2024) Self-organized tissue mechanics underlie embryonic regulation によるウズラ胚の発生初期の研究で、近距離力である物理的な力 (actomyosin による収縮) が自己組織化的に働いて遠距離の構造形成に関わっている。体の軸の前後はこのように作られる。
      [その他] 外来種でここでは項目として取り上げていないが、コリンウズラ Colinus virginianus Northern Bobwhite (北米が原産) の属学名の由来はウズラ類を指すアステカの言葉 Zolin に由来。 Hernandez (1651) が Colinicuiltic を用いたが de Buffon 1770-1783 がフランス名 "Colin" と短縮したとのこと。Colinus の属名は Goldfuss (1820) が用いたとのこと (The Key to Scientific Names)。 和名も英名とはまったく関係なくこの名称に由来するが、漢字では「古林」と書かれる。漢字での名称を見ると由緒あるように思えてしまうが当て字のよう。
  • ヤマドリ
    • 学名:Syrmaticus soemmerringii (シュルマティクス ソエムメルリンギイ) ゼメリンクの喪裾のついた衣服を着た鳥
    • 属名:syrmaticus (adj) 裳裾のついた衣服を着た (syrma -atis (n) 裳裾のついた衣服 < 引きずる -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:soemmerringii (属) ゼメリンクの (ラテン語化 -ius を属格化) ドイツの解剖学者、科学者 Samuel Thomas von Soemmerring
    • 英名:Copper Pheasant
    • 備考: syrmaticus は短母音のみで -ma- がアクセント音節 (シュルティクス)。 soemmerringii はラテン語読みならば -rin- がアクセント音節と考えられる (ソエムメルンギイ) 語末は i が2つ並ぶ発音になる。 原音はアクセントが冒頭だが、ラテン語読みならばここにはアクセントはあり得ないと割り切った方が単純。 旧属名に使われる phasianus は#キジ参照。
      かつてはキジと同属で Phasianus soemmerringii Temminck, 1830 が記載時学名。 Syrmaticus 属の記載は Wagler (1832) による。これによると対応するドイツ語は Schleppe (引き裾)。 Schleppe によれば syrma との直接の語源的関係はなさそう。 Erlkoenig によればドイツ語で古く syrma の用例はあり、長い尾との関連があり、schleppe とも説明されている。ラテン語同義に peniculamentum がある。 この syrma はラテン語から取り込んだもののよう。OED によれば英語でも 1753 年に syrma の用例がありラテン語由来とのこと。Wagler (1832) の時代には言語を問わずそれなりに知られた用語だったのかも知れない。ここでは由来となっているラテン語を採用しておく。 syrma は裾をひきずる長い衣装でギリシャやローマ時代に悲劇の役者が着たものを指す (wiktionary)。古ギリシャ語 surma (引きずっているもの) に由来。
      Soemmerring は多才な科学者だったようで wikipedia 英語版によれば外科医、解剖学者、人類学者、古生物学者 (化石の記載も行っている) となっている。ヒトの目の黄斑の発見者。23 歳で脳神経の記述を行い学位の一部となった。この研究は現在でも正しいと認められている。 Soemmerring の綴りはドイツ語でも -oe- と o のウムラウト表記の両方がある。 日本名ではゼンメリング、ゾンメリング、ゼマリングなどとも表記されるが、Sommer は英語 summer に相当するもので -mm- は2音に分けて発音しない方が適切だろう。プロイセン出身で出生地は Thorn (Torun) トルン (トルニ) とありポーランド中北部。 ニシコクマルガラスの亜種名にも soemmerringii がある。The Key to Scientific Names によれば鳥の学名に現れるのはヤマドリとこの亜種のみとのこと。 wikipedia ドイツ語版には Soemmerring の学名を持つガゼルなどいくつかの生物学名が紹介されているが、日本固有種のヤマドリに気づく人は少ないようで英語版ともに記述がない。
      [Syrmaticus 属の系統分類] Syrmaticus 属は尾の長いキジ類5種からなる。例えば台湾のミカドキジ Syrmaticus mikado 英名 Mikado Pheasant が有名。 Zhan et al. (2005) Molecular Phylogeny of Avian Genus Syrmaticus Based on the Mitochondrial Cytochrome b Gene and Control Region。wikipedia 英語版の情報は少し古く、以下の研究がその後出ている。
      Lee et al. (2018) Whole-genome de novo sequencing reveals unique genes that contributed to the adaptive evolution of the Mikado pheasant ミカドキジの全ゲノム解析が行われ、台湾には約 347 (278-471) 万年前に北から定着したと考えられる。 この論文の fig. 4 に全5種の分子系統樹がある。ヤマドリとの分岐はかなり古く 1059 (900-1448) 万年前と推定される。 この系統解析からは Syrmaticus 属は オナガキジ、ヤマドリ、ミカドキジ、{カラヤマドリ + ビルマカラヤマドリ} の順になる。最後の2種はほとんど差がない。 オナガキジは中国内陸部に生息するので、この系統を起源としてまだ陸続きであった時代の日本、台湾、中国南部から東南アジア北部に分布し、陸続きでなくなった順に種分化が進んだと考えることができる。 台湾のミカドキジは暗色型で創始個体群が小さかったと考えられる (wikipedia 英語版)。 ミカドキジの現在の標準的な中国名は黒長尾雉 (帝雉も使われる)。 学名命名由来は 原記載。Ogilvie-Grant (1906) により狩猟者から受け取った尾の羽2枚のみを、既知のどの種とも異なることからタイプ標本として記載された。 東京の帝 (明治天皇) がつがいを飼育していると伝えられたが Rothschild は実際に見ることはできなかった。これらの鳥は青くて足が赤いと伝えられ、同じく台湾に生息するサンケイ Lophura swinhoii (現学名) Swinhoe's Pheasant ではないかと推測している。
      ややこしいことに英名でほぼ同じような意味となる Imperial Pheasant Lophura imperialis が記載されて使われていた (和名テイオウキジ)。 こちらはベトナムの王朝阮朝 (Nguyen) の第 12 代の皇帝 Khai Dinh に基づくとのこと (The Key to Scientific Names)。 2003 年の研究で雑種と判明し、現在の分類には現れない。中国名では Imperial に "皇" の文字を用いており (wikipedia 英語版、中国語版)、"帝雉" は紛らわしいこともあってミカドキジの方の名称が変更されたのかも知れない。 ミカドキジの wikipedia ロシア語版にある記述は中国語でこれら2者がほぼ同じ意味となることを意味していると考えられる。出典は Beebe (1990) A monograph of the pheasants. Volume 3 とのこと。 mikado の学名は他にヒメミフウズラ Turnix sylvatica Small Buttonquail の亜種名に現れ、こちらは昭和天皇を指すとのこと (The Key to Scientific Names)。現在は通常亜種 davidi のシノニムとされる。
      Reichenbach (1853) によりヤマドリに属名 Graphephasianus (graphe 絵画 Gk phasianos キジ Gk) も提唱されたことがあり (この場合一属一種になる)、将来の研究で正しいとされる可能性はあるものの、一般的には支持されていない。 上記分子系統樹からは独立属とすることは可能で分岐年代的には他の事例と比較して微妙なところ。もし別属にする場合はオナガキジも一属一種になる。Syrmaticus 属の系統分類は以下のようになる。分岐が少し古いところに空行を入れてある。

      ヤマドリ属 Syrmaticus
       オナガキジ Syrmaticus reevesii Reeves's Pheasant

       ヤマドリ Syrmaticus soemmerringii Copper Pheasant

       ミカドキジ Syrmaticus mikado Mikado Pheasant
       カラヤマドリ Syrmaticus ellioti Elliot's Pheasant
       ビルマカラヤマドリ Syrmaticus humiae Mrs. Hume's Pheasant

      Li et al. (2023) The draft genome of the Temminck's tragopan (Tragopan temminckii) with evolutionary implications にもゲノム解析によるキジ類の属レベルの分子系統樹がある。この図を見ても分岐年代 1000 万年前を別属にするかちょうど微妙なところにあたることがわかる。
      Phasianinae 亜科 Erectile clade の中では Syrmaticus 属と Phasianus 属は Phasianini 族に属する。この族には他に日本に分布しない属も含まれる。
      ヤマドリには5亜種が認められている (IOC)。scintillans (輝く、明るい) 亜種ヤマドリ、subrufus (少し赤っぽい) ウスアカヤマドリ、intermedius (中間の) シコクヤマドリ、 soemmerringii (ドイツの解剖学者 Samuel Thomas von Soemmerring に由来) アカヤマドリ、ijimae (Isao Ijima 由来) コシジロヤマドリ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。 上記の種レベルの分子系統関係を見ても分散能力が非常に低そうなので島レベルで隔離されて比較的簡単に亜種が分化するのだろう。現行の亜種は分布範囲が明確でなく再検討が必要とされる。
  • キジ (分割された)
    • 第8版学名:Phasianus versicolor (パスィアーヌス ウェルシーコロル) さまざまな色をしたキジ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Phasianus colchicus (パスィアーヌス コルキクス) コルキス地方のキジ
    • 属名:phasianus (m) キジ
    • 第8版種小名:versicolor (さまざまな色をした)
    • 第7版種小名:colchicus (adj) colchis 地方 (黒海東岸、ジョージア西部) の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Green Pheasant (or) Japanese Pheasant, IOC: Green Pheasant
    • 備考: phasianus は2つの a が長母音で2つめの a にアクセントがある (パースィアーヌス)。 起源となるギリシャ語では phasianos で冒頭が長音。Phasis 川の (鳥) の意味 Phasis の冒頭が長音 (wiktionary より)。ラテン語では帰属の接尾辞 -anus の冒頭が長音のためこの発音になっていると推定できる。 versicolor は短母音のみで -si- がアクセント音節 (ウェルシーコロル)。伸ばす発音でもアクセント音節を伸ばす。ラテン語の color は英語とは違って短母音のみ。 colchicus は短母音のみで冒頭にアクセント (ルキクス)。
      新しい種小名は versicolor (さまざまな色をした) となる。海外の主なチェックリストでは IOC version 1.5 以降、HBW/Birdlife 2014 年以降、Howard and Moore 2nd edition 以降、eBird 2022 年以降はこの名称が使われている。 Phasianus versicolor は日本固有種となり、大陸のコウライキジ (旧名) Phasianus colchicus は対馬で自然分布の可能性があるが (ただし対馬でもコウライキジの人為移入が行われた)、日本の他の地域では移入分布となる [Brazil (2009) "Birds of East Asia"]。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Phasianus colchicus は外来種扱いでタイリクキジと新称を与え、対馬は自然分布として認めていない。日本固有種のキジは Phasianus versicolor に改名している。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。 亜種も従来通り与えられているが、人工放鳥によって亜種の境界が非常にわかりにくくなっていると言われる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント"分類学上疑問がある国内固有(亜)種について"の項目にも言及があり、鳥類目録の分類は、新たな研究が行われるまで現状維持されるという原則に基づくとのこと。
      4亜種あり(IOC)。robustipes (robustus 強い pedis 足) 亜種キジ、tohkaidi (東海道が由来) トウカイキジ、tanensis (種子島が由来) シマキジ、versicolor キュウシュウキジ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" の時代にはキジとコウライキジ (旧名。新称 タイリクキジ) は別種扱いとなっていた。後者の分布は対馬とされていた。
      キジ科 Phasianidae などの名称は黒海に注ぐ川の名前から (コンサイス鳥名事典)。The Key to Scientific Names によればキジ類が最初に見つかったのは黒海東岸、ジョージア西部コルキス地方の River Phasis / Rioni River (現 ジョージア) とのこと。ジョージア西部の主要河川。Phasis はこの川の古代ギリシャ語名。 Phasianus colchicus を見つけたのは Argonauts アルゴナウタイ。ギリシア神話においてコルキスの金羊毛を求めてアルゴー船で航海をした英雄たちの総称とのこと。金羊毛というのはギリシア神話に出てくる秘宝のひとつで、翼を持つ金色の羊の毛皮のこと。コルキスの王が所有し、眠らないドラゴンによって守られていたとのこと (wikipedia 日本語版より)。 コルキスはカフカース地方にあった古代グルジアの王国。コルキス人は、青銅器時代中期には既にカフカースに定住していたものと思われる。コルキス王国は、紀元前6世紀から紀元前1世紀にかけて存在した、最初のグルジア国家。川の名前は日本語ではファシス川となっている (wikipedia 日本語版より。地名はいずれもロシア読みのよう)。 語源が同地域に関連する種類に他に #ソリハシシギ (ただし黒海でなくカスピ海沿岸) がある。
  •  カモ目 ANSERIFORMES カモ科 ANATIDAE 

  • リュウキュウガモ
    • 学名:Dendrocygna javanica (デンドゥロキュグナ ヤウァニカ) ジャワの樹洞に巣をつくる白鳥
    • 属名:dendrocygna (合) 樹洞に巣をつくる白鳥 (dendro 木 Gk、cygnus 白鳥)
    • 種小名:javanica (adj) ジャワの (javanicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Lesser Whistling Duck
    • 備考: dendrocygna は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみで長母音は現れないと考えられる。-cyg- がアクセント音節と考えられる (デンドゥロキュグナ)。 javanica は短母音のみで "ヤウァニカ"。-va- を伸ばす発音もあるようなので伸ばしても間違いでない。
      単形種。日本鳥類目録改訂第8版の配列では先頭になる見込みで、「カモ」の名前は付いているが系統は離れていることがわかる。 図鑑の識別点でもよく首と足が長いと書かれている。属名の由来に含まれる「白鳥」も首の長さを示したものであろう。文献 (#コブハクチョウの備考参照) によると Dendrocygna 属で頸椎の数は 17-18 個とあり、カモ (従来の広い意味の Anas 属で典型的には 16 個) とガン (Anser 属で 18-20 個) の中間にあたる。リュウキュウガモのデータもあり 17 個とのこと。 別名フエフキガモとも呼ばれる (英名に対応)。
      Dendrocygna 属を含むカモ類の分子系統解析は Sun et al. (2017) Rapid and recent diversification patterns in Anseriformes birds: Inferred from molecular phylogeny and diversification analyses も参照。系統的にはカモ類の中で最初に分岐した古いもので、学名から想像されるように典型的なカモ類とハクチョウ類の中間に位置するわけではない。ハクチョウ類は大きく分けるとガン類に含まれ、ハクチョウ類の長い首は採食のために頸椎数を増やして (二次的に) 進化したことがわかる。
      きっと誰か調べてそうだが、#コブハクチョウ備考の [鳥類の頸椎] の Woolfenden (1961) Postcranial morphology of the waterfowl の数字を見ながらこの論文の系統樹 (fig. 2) を眺めると大変わかりやすい (コブハクチョウ備考の後に調べたため順序が逆転している。鳥類の頸椎全般についてはコブハクチョウを先にお読みいただくとよい)。
      カモ類系統の頸椎数の祖先型はおそらく 16 個で、カモ類の多くも 16 個 (水面採食ガモ) や 17 個 (潜水ガモ。潜水して食物を探すのに多少便利なのだろう) である。オナガガモは例外的でハクチョウ類との一種の収斂進化と言えるかも。一見中間的に見えるツクシガモでも 16 個。 ハクチョウ類の含まれるクレードの古い系統でも Biziura, Nomonyx, Oxyura, Malacorhynchus はいずれも 16 個である (1961 年当時は系統関係がよくわかっていなかこともわかる)。 これを見るとガン・ハクチョウ類も最初は首が長くなかったことがわかる。頸椎数は実は進化に伴って結構よく保存されている。 変化が見えるのは {ロウバシガン Cereopsis novaehollandiae Cape Barren Goose (オーストラリア) の 19-20 個 + カモハクチョウ Coscoroba coscoroba Coscoroba Swan (南米) の 21 個} (この2種がクレードを作る。これらの学名などで画像検索していただくとあまり馴染みない印象の鳥を見ることができる) からで、この種を含むクレードから首の長いガン・ハクチョウ類が始まったと考えるとわかりやすい。この後ハクチョウ類とガン類の2つのクレードに分かれるが、ガン類で 18-20 個、ハクチョウ類で 22-25 個とハクチョウ類が特に水面下採食に特化したことがわかる。 ガン類はこの系統 (ロウバシガン以降) の祖先型に近く「もともと首が長かった」形質をそのまま引き継いでいるよう。もちろん他にも役に立つ面があるので (少なくともこの系統では) 首が短くなる方への進化は起きにくかったのだろう。 新しい系統樹を用いて見ると面白い発見が隠れてそう。
      このグループでは非常に古く (5600 万年前程度) 分岐して外群に近い位置にあたるカササギガン Anseranas semipalmata Magpie Goose (オーストラリアからニューギニア) は 19-20 個で独自に進化したものらしい。 この系統には (分岐年代 4400 万年前程度と相当離れている) カモらしくないツノサケビドリ Anhima cornuta Horned Screamer と カンムリサケビドリ Chauna torquata Southern Screamer が含まれるがカモらしくないためか Woolfenden (1961) では調べられていない。別の出典ではサケビドリは 20 個とあった。 ここに出てくる種類やコクチョウなど、オーストラリアや南米で首の長い水鳥を進化させやすい理由があったのだろうか (たとえば放熱役割は期待できるかも知れない)。 そう思ってみるとツルでもオーストラリアの種類の方が首が長いように見える。参考写真 オーストラリアヅル: Brolga (James Berry 2024)。
  • サカツラガン
    • 第8版学名:Anser cygnoid (アンセル キュグノイド) 白鳥に似たガン
    • 第7版学名:Anser cygnoides (アンセル キュグノイーデース) 白鳥に似たガン
    • IOC 学名:Anser cygnoides
    • 属名:anser (m) ガン
    • 第8版種小名:cygnoid (adj) 白鳥に似た (cygnus 白鳥 -oides (接尾辞) 〜に似た)
    • 第7版種小名:cygnoides (adj) 白鳥に似た (cygnus 白鳥 -oides (接尾辞) 〜に似た)
    • 英名:Swan Goose
    • 備考: anser は#ハイイロガン参照。 cygnoides の場合は発音は自明で -oides の i, e が長母音となるため "キュグノイーデース" と典型的なラテン語アクセントと発音になる。 cygnoid の場合はそのような規則がなく (-oid は英語では普通だがラテン語的語尾でない)、綴りから o を長母音となる積極的要素もないため、発音規則により冒頭にアクセントになる (キュグノイド または キュグノイード)。 英語風に "シグノイド" と読むと (アクセントは冒頭かも知れないが) i より o にアクセントを置く発音になるため原学名の読み方からはやや離れてしまう。 発音上も cygnoides の方が自然なものになる。やはり伝統的なこちらの方がよいのでは?
      [学名の問題] 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Anser cygnoid となっているがこの学名を用いているのは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) で HBW/BirdLife 2014 以降などはおそらくこれに由来 (#モリツバメの備考参照。モリツバメの場合には ICZN が Linnaeus の記載は短縮形と裁定したものだが、サカツラガンでは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では短縮形である文献の内部的な証拠は認められないと書いているのでモリツバメの裁定を意識して主張しているものかも知れない)。 IOC version 13.2, Clements などでは Anser cygnoides のまま。IOC 14.2 でも同じ学名が使われている。 "The Key to Scientific Names" によればオリジナルの学名は Anser cygnoides Linnaeus, 1758 であり、印刷時に -es が次の行に分割されないように "cygnoid." と印刷されたのが2種類の名称が生じている原因との説明がある。 Linnaeus 原典 (1758) Systema naturae per regna tria naturae: secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis, p. 122。 Linnaeus (1758) を命名の原典と考えると (学名の適格性の要件に 1758 年以降に公表されていることとある) には表記は ANAS の下、Cygnoid. 2. australis. と Cygnoid. β. orientalis. の2タイプが見出しの表記である。 見出しが Cygnoid. のように大文字で始まっているものと小文字のものがあるが、大文字のものは属名の意味というわけではなさそうである (追記: 名詞の種小名は大文字としていた時代があったことを後に知った)。
      この見出しは1行のみで、次の行には小見出しが入るため "-es が次の行に分割されないように" (分割して2行に分けることができない) の説明は通用する気がする。他で短い語尾でも分割を行っている見出しは2行使える状況になっている。この種では説明が短く、小見出しがすぐ始まるため短縮せざるを得なかったと解釈できる感じがする。小見出しが入る種は少ない。
      この種の歴史的経緯は A Brief History of the Swan Goose (Anser cygnoides) under Domestication in the West (Jonathan M. Thompson 2011) に詳しい。 かなり混乱があったようで17世紀に Anser cygnoides Hispanicus seu Guineensis とされていた図版は実はカナダガンであった。Comte Marsili (1726) が Anser Hispanicus seu Cygnoides としたものはリュウキュウガモの1種だったらしい。 Eleazar Albin (1731, 1734) が頭にこぶのあるガンに2種類あるとしており、Willughby (1676) と Albin の言う Anser cygnoides は同じ種類を指していることは確かとのこと。これらの記述の時期は 60 年離れているが記述はほぼ同じ。 Albin には図版があり、現代のサカツラガンそっくりのものを指して The Spanish Goose, or Swan Goose. Anser cygnoides のタイトルで表示している。 Albin は Moscovian Gander and Goose も紹介しており、これはアフリカのガンとの雑種とみられるが学名は与えていない。 Linnaeus (1758) の中に現れる Anser cygnoides. Alb. av. I. p. 89. t. 91 は Albin の Anser cygnoides を指すものであろう。 もう一つ Anser cygneus guineensis. Raj. av. 138. Will. orn. 275. が挙げられている。 いずれも Cygnoid. 2. australis. のタイトルの下に置いているが、 Linnaeus (1758) の言う2つめのタイプ orientalis に Anser chinensis, Anser moschoviticus が入っている。australisorientalis の地理的な意味と現行の分類の対応などもあまり釈然としない感じも残る。 Linnaeus (1758) の記載した他のガン類の学名では先人の種小名をそのまま用いているものもあるので Cygnoid. への変更の理由はよくわからない。
      Dement'ev and Gladkov (1952) では Cygnopsis cygnoid の学名を用い (属名は下記参照)、protonym を Anas cygnoid Linnaeus, 1758 としている。 シノニムとして Anas orientalis Gmelin, 1788 を挙げているが Linnaeus 以前の Anser cygnoides Albin などは触れられていない。 birdforum.net AOS to discard patronyms in English names にも議論があり、2023.11.6 の投稿によれば、ICZN では言及されておらず Linnaeus の意図も実際は誰にもわからないが、モリツバメなどの ICZN 裁定を見れば ICZN の意図は明らかに見える (どちらが広く使われているかも議論の対象になるだろう)。しかし Anser cygnoides が公式に改名の対象と認められているというわけではない。 モリツバメなどの例も見た上で、自身の印象では cygnoid とするのは "pedantic" な改名に思える。
      Anatidae (birdforum.net) がさらにこの問題を検討しており (2024.7.19 から)、Linnaeus は Fauna Svecica (1761)、 Systema naturae の 1766 年版 Caroli a Linne... systema naturae per regna tria naturae, secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis では Cygnoides と表記しているとのこと。 Linnaeus は省略形として使っていたらしいが、同一文献内でない根拠をどのように判断するかなどまだ難しい問題が残ってそうである。 他の例で Psittacus haematod. Linnaeus 1771 を haematodus と裁定された例が紹介されている。 この問題は HBW/BirdLife が変更した時点から取り上げられていたようで、HBW-BirdLife Version 3.0 (November 2018) (2018.11.24) にもある。
      [Howard and Moore Checklistについて] 今後の他の分類群にも関係があるので Howard and Moore Checklist of the Birds of the World (H&M) の意図と将来について調べた結果を少し紹介しておく。 このリストは Clements 5th edition が出るまで全亜種を扱った唯一のリストだった。 現在の最新版は 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2)。 Current concerns (H&M 公式サイト。2024年1月時点のものに基づいているが、少なくとも 2022 年段階でほぼ同じ内容だったらしい) によれば、2014年に IOC 総会が東京で開催された時に世界のチェックリストの共通化も議題となった。 同じ議題が 2018 年のバンクーバーの IOC 総会で取り扱われたが H&M リストの母体である The Trust for Avian Systematics (TAS) の代表は招待されなかった。H&M の副編集長の Les Christidis が代弁してくれると考えていたが利益相反の問題からそうならなかった。そのため TAS は 2014 年以降はこの問題に関わっていない。 世界のチェックリストの共通化をすべきか、可能かは現在も議論の対象である。 H&M は 2003 年から (それ以前は必ずしもそうでなかったが)「生物学的種概念」にできる限り忠実に従う方針で、多少緩めることはあっても 2013/14 段階でも同じ立場をとっていた。 H&M の編集者の哲学では異なる基準に基づくリストがあった方が (議論の余地があり) 科学の発展に役立つとの考えであった。しかし多くのバーダーはチェックリストの共通化を歓迎するだろうことは認める。 もちろん TAS はリストを知的財産として保護する義務もあるが現在ではオープンアクセスが当たり前になってきてウエブサイトで公開して維持するコストも問題となっている。 これらの理由から TAS は世界のチェックリストの共通化にはあまり関わらないと読める方針が述べられている。 15-20 年後に H&M が存続するかどうかはユーザーがどう評価するか、どれだけ需要があるか次第である。
      Schweizer et al. (2023) The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the World: framework for species delimitation に種の境界をどのように扱っているかと今後の見込みに関する解説がある。 The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the World (5th Edition) への言及もある。H&M 5th edition では十分な生殖隔離をもって種とする方向性が示されている (ここまでが H&M/TAS の立場の説明)。
      2022年9月段階のスレッドであるが Howard and Moore downloadable spreadsheet (birdforum.net) によると H&M 4.0, 4.1 はチェックリストをスプレッドシートのファイルで公開していたが約1年前 (2021) に取りやめたとのこと (上記知的財産の問題らしい)。 (2022 年段階の話で) 2016 年以降改訂されておらず新しい種が入らないのでもはや興味がないとのユーザーの意見がある (気になって見てみると確かにオガサワラカワラヒワが別種になっておらずコメントもない)。 定期的更新がなく電子版が無料でなければユーザーは減るだけだろう。最後の更新には非常に手間がかかっているはずで TAS も大規模更新を「二度とやりたくない」と感じていても不思議でない。 世界のチェックリストの共通化こそ保護関係者、鳥類学者、バーダーの視点から進むべき道であると考えるが、知的財産の保護を必要とするグループはなじまないのだろうとの見解が出されている (かなり意訳しているが)。 一方で Howard and Moore が完全になくなってしまうのは惜しいとの意見もある。属より上のレベル (族や亜科) を取り入れているリストは他にない。 別のコメントですべての分類概念は Avibase がすでに網羅して番号を与えており、チェックリスト間の違いはそれを見ればよいだけ (Avibase の taxon grid)。ただ更新には多少のタイムラグがある。 IOC の Master Lists - IOC World Bird List が亜種までカバーした比較リストを出している との意見や情報が出ていた。
      個人的にはこの稿をまとめるにあたり H&M 4th (online) に文献情報も出ているのはありがたいが、新しいものが入っていないので有用性は少し古い情報に限られてしまう。 まとめると IOC と Clements が中心となって世界のチェックリストの共通化を検討しているところ。 H&M はそれには関与せず独自路線をとるが、しかしながらチェックリスト共通化の後追いもせざるを得ない部分もある。財政的には存続も危ぶまれている、というところだろうか。 H&M の初版 (書籍) は 1980 年出版で、昼行性猛禽類の大家である Leslie Brown が前文を書いている。また山階 (1986)「世界鳥類和名辞典」は H&M の分類に従っているなど我々が現在使っている名称にも関係が深い。初版から半世紀近くを経て役割も変わってきたと言えるだろうか。 このような大規模なチェックリストの維持・管理などは手作業レベルでも行えた昔とは異なり、計算機技術に長けた人材も不可欠だろう。Avibase の技術管理者レベルで作業を行える人材がいないと今では時代に追いつけないかも知れない [参考 Lepage et al. (2014) Avibase - a database system for managing and organizing taxonomic concepts]。
      McClure et al. (2020) Towards reconciliation of the four world bird lists: hotspots of disagreement in taxonomy of raptors にも世界のリストの共通化の必要が述べられている。この研究は猛禽類のみを調べているが、H&M と IOC で猛禽類の種類数 (学名の違いの数ではなく) が 52 も違うとのこと。特にフクロウ類で顕著だそうである。H&M の更新頻度が低いため新しい情報が取り込まれていないことも要因と考えている。 ただしこの論文の著者はほとんどがアメリカ、そしてカナダ、オーストラリアが1人ずつとアメリカのリスト (特に eBird や AOU) を念頭に置いている傾向も見られるので少し割り引いて考える必要もあるだろう。ヨーロッパの人は別の見解があるかも知れない。
      [家禽化] サカツラガンの家禽化で何が変わったか全ゲノム解析で調べた研究: Chen et al. (2023) Population Structure and Selection Signatures of Domestication in Geese ヨーロッパの家禽化されたガチョウの方が由来はより複雑で2系統にはシナガチョウも混ざっているとのこと。中国の Yili geese はハイイロガンの方に近い。ヨーロッパの Rhine goose は家禽化されてから両者がかけ合わされたものらしい。 Wen et al. (2023) Origins, timing and introgression of domestic geese revealed by whole genome data ではシナガチョウの家禽化は 3499 年前、ヨーロッパは 7552 年前と推定される。 家禽化への選択に伴い、神経に関係する遺伝子が強く選択されて向社会的行動 (prosocial behavior) を生み出しているのでは。 飛翔の必要がなくなり、酸素運搬に関わる遺伝子も変化している。家禽は視力も低いが、関連している可能性のある遺伝子も挙げられている。頭の見栄えの瘤も選択の結果だが、野生のツクシガモもこの瘤が社会的 地位を表しているとのこと。関連する遺伝子 (EXT1) 変異の候補が見つかっている。
      身近な家禽としてここに含めておくが、ニワトリの白色レグホンが毎日のように産卵できる仕組みについて: Johnson et al. (2015) The domestic chicken: Causes and consequences of an egg a day もちろんこの性質は人為的に選抜されたものであるが、白色レグホンでは他の動物ではあまり見られない卵巣ガンが見られ、2.5 年で 30-35% の高率で発生するが、商用のニワトリではそこまで生かされないので通常は見られない。ホルモンや遺伝子の働きの概略を述べている。卵管上皮が反復する卵胞放出で破壊され修復されるため変異が起きやすくなるとの仮説もあるとのこと。
      産卵しても抱卵しないことで次の卵胞が発育できるのだが、抱卵する性質 (就巣性 broodiness) を支配する遺伝子は何か。Xu et al. (2010) The dopamine D2 receptor gene polymorphisms associated with chicken broodiness 抱卵する性質はポリジーンだが、遺伝的性質を調べた実験の結果は研究者により異なる。この研究ではドーパミン D2 受容体 (松果体経由でプロラクチンの分泌に関わる) を一つの候補と考えている。 ハトでも同様の研究がある: Yin et al. (2018) Association of Dopamine D2 Receptor Gene Polymorphisms with Reproduction Traits in Domestic Pigeons (Columba livia)。 最新の RNA 転写研究では複雑な機構も報告されている: Tan et al. (2024) Long noncoding RNAs and mRNAs profiling in ovary during laying and broodiness in Taihe Black-Bone Silky Fowls (Gallus gallus Domesticus Brisson)。 産業への応用のために盛んに調べられている分野ではあるが、分子機構まではまだ解明されていない模様。 Liu et al. (2018) Whole-transcriptome analysis of atrophic ovaries in broody chickens reveals regulatory pathways associated with proliferation and apoptosis 抱卵を行うニワトリで抱卵に伴う卵巣の萎縮機構。 抱卵鳥が抱卵に関係する遺伝子を何か失っているならば、非托卵性に戻ることはできないのでは、と考え抱卵に関係する遺伝子は托卵鳥でも変異があるのではと想像するが、探した範囲では研究は見つからなかった。
      卵の構造に「カラザ」があるが、「カラザ」とは?意味や役割などをご紹介 によれば英語由来ではなく、ラテン語 chalaza (霰) < ギリシア語 khalaza (塊) とのこと。英語の chalaza は語源は新ラテン語 chalaza (1695-1705) < ギリシア語 khalaza とのこと (wordreference.com)。 ポルトガル語でも同じなので日本に入ったのはこのルートかも? 多くの言語でそのまま使っているのである意味世界共通の用語と言える。
      多くの鳥類で片側の卵巣のみが発達する分子伝達機構が明らかにされた: (ニワトリ) Peng et al. (2023) A PITX2-HTR1B pathway regulates the asymmetric development of female gonads in chickens。 PITX2 (Paired-Like Homeodomain 2) は脊椎動物の左右非対称な発達に関与する因子。 (アヒル、ガチョウ) Ran et al. (2023) Exploring right ovary degeneration in duck and goose embryos by histology and transcriptome dynamics analysis
      [その他] サカツラガンは現在は Anser 属に分類されているが、Cygnopsis 属 (Johann Friedrich von Brandt 1836 < Cygnus ハクチョウ属の名前 opsis 外見 Gk) が使われていたこともある。これは最初 Cygnus属の亜属として提唱された名前で、つまりハクチョウ類とされていたことがある。 頸椎数 19 個とある。どちらにしても旧北区のガンの中ではハクチョウの体型に一番近いのでこのような分類になったのだろう。 シナガチョウ Anser cygnoides var. domesticus の原種。
      属名の Anser は菊池氏のオリジナルでは (m,f) であったが、anser (wiktionary) では m (男性名詞) とあり、学名でも男性名詞で扱われているようなのでそのようにした。ラテン語全体では女性名詞の用例もあるのかも知れない。 また多くの言語でガンとガチョウは単語レベルでは区別されていないのでガチョウと訳される場合も多いが、ここでは野生種を主に扱うのでガンとした。
      サカツラガンのロシア名 sukhonos は sukhoj 乾いた nos 嘴。Kolyada et al. (2016) によれば警戒時体をほとんど水に沈め、首から上だけを出すような行動を示すことから付いた名前ではないかとのこと。
  • ヒシクイ (オオヒシクイを独立種とする分類も多い)
    • 学名:Anser fabalis (アンセル ファバーリス) 豆の (収穫期にやってくる) ガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:fabalis (adj) 豆の (faba (f) 豆 -alis (接尾辞) 〜に関連する)
    • 英名:Bean Goose, IOC: Tundra Bean Goose と Taiga Bean Goose に分離
    • 備考: anser は#ハイイロガン参照。 fabalis は2つめの a が長母音でアクセントもここにある (ファバーリス)。 亜種名の発音は serrirostris は "セルリローストリス" と考えらえる。 middendorffii はラテン語風だと "ミドデンルフフィイ" と考えらえるが、よく知られた人名でドイツ語またはロシア語的発音 (日本語の読み方と同じ) で構わないだろう。
      種小名の由来は Pennant (1768)、Latham (1785) の時代から Bean Goose の名前があった。豆の収穫期になるとやってくると Strickland (1858) が記述している (The Key to Scientific Names)。 フランス名では Oie des moissons と明確に小麦なども含む "収穫期" (moisson) を用いている。 ドイツ名は Saatgans と種 (英語 seed に対応) を用いている。 ロシア名 gumennik で gumno (穀物小屋) に由来 (Kolyada et al. 2016)。
      IOC では (IOC で種。14.2 でも同様) ヒシクイ Anser serrirostris (serra ぎざぎざの/鋸歯状の -rostris 嘴の) 英名 Tundra Bean Goose として2亜種を認めている。いずれも日本で記録され、この扱いでは基亜種 serrirostrisrossicus (ロシアの) ヒメヒシクイである。 (IOC で種。14.2 でも同様) オオヒシクイ Anser fabalis 英名 Taiga Bean Goose として3亜種を認めている。日本で記録される亜種はこのうち middendorffii (ロシアの動物学者でシベリアや中央アジアを探検した Aleksandr Fedorovich von Middendorf に由来) オオヒシクイである。
      日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではこれらを同種として扱い、Anser fabalis 種ヒシクイの亜種として3亜種を認める立場になっており、IOC 英名とは整合性が悪くなっている。
      世界の主要リストでは Clements, AOU, IOC, eBird は種 Anser serrirostris を認める立場で、HBW/BirdLife と Howard and Moore が Anser fabalis serrirostris と亜種扱いにしている。 Working Group Avian Checklists では最初から Anser serrirostris としており、世界的には分離が主流になりそう。 ロシアの現在のチェックリストは別種としていない。
      分子系統学研究では Ruokonen et al. (2008) Taxonomy of the bean goose-pink-footed goose は コザクラバシガン Anser brachyrhynchus (brakhus 短い rhunkhos 嘴) 英名 Pink-footed Goose を含め、これら3種を3つのクレードに分かれ、系統が十分分離していて別種扱いでよいと述べている。3種の外見的類似性は似た環境での収斂進化によるものとみなしている。
      もう少し広い範囲のガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) A tree of geese: A phylogenomic perspective on the evolutionary history of True Geese が調べている。 この研究ではヒシクイとオオヒシクイの関係は新たに調べられておらず、研究当時の Clements 分類 (2015) に従ってオオヒシクイをヒシクイの亜種として分離した扱いはしていない。Ruokonen et al. (2008) は引用しており、コザクラバシガンを広義のヒシクイの姉妹種、これら全体を species complex としている。これらの間の進化的位置づけを再構成するにはもっと広範なデータが必要としている。 ヒシクイとオオヒシクイをそれぞれ独立種とすべきかについては特に情報のある論文ではない。個人的には独立種としてよい論文 Ruokonen et al. (2008) や海外リストを根拠としてヒシクイとオオヒシクイを別種として取り扱った方が実用的には利便性が高まると感じる (それぞれ識別困難な種類ではないこと、日本は分布の東端に位置するため両グループの中間型に悩まされることが少ないだろうことも理由に挙げられよう。「十分な量のデータ」が揃うのを待っていてはいつまでも決まらないような気がする...)。
      さらに Ottenburghs et al. (2023) Highly differentiated loci resolve phylogenetic relationships in the Bean Goose complexAnser brachyrhynchus コザクラバシガン、Anser fabalis ヒシクイ、Anser serrirostris の分類上の問題を扱っている。 A. fabalisA. serrirostris を同種にすると、A. brachyrhynchus を内包してしまって単系統にならないので、 A. fabalisA. serrirostris は別種にするか、これら全部を1種にして違いは全部亜種扱いにするかのどちらかになる、ということのようである。 また使用する遺伝領域によって結果が異なり、強く分化した部位を使うとこの系統関係になるが他の部位を使うと遺伝子浸透の影響も生じて相互に単系統にならないなどの相違が生じる。 ただしこの解析にはオオヒシクイは含まれていない。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント "亜種和名の原則に関わる問題" で、(現状の) 種ヒシクイと亜種ヒシクイが同じ名称なので実際上も混乱の原因となっているため、亜種ヒシクイにハシブトヒシクイを与える提案がなされたが、長年使われてきた名称なので継続して使用するのが妥当、またハシブトヒシクイは Anser mentalis に対してすでに使われた和名のため不適当との回答であった。 Anser mentalis (顎に特徴がある) の再検討については Ruokonen and Aarvak (2011) Typology Revisited: Historical Taxa of the Bean Goose - Pink-Footed Goose Complex でなされ、遺伝子型は特定の亜種に同定するまでは至らなかったが独立種とする根拠はないとのことであった。
      日本ではヒシクイは天然記念物。これも分類や名称をあまり細かく変更したくない理由の一つかも知れない。 亜種オオヒシクイは準絶滅危惧 (NT)、亜種ヒシクイは絶滅危惧 II 類 (VU)。世界的には IUCN 3.1 LC 種。
  • ハイイロガン
    • 学名:Anser anser (アンセル アンセル) ガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:anser (トートニム)
    • 英名:Greylag Goose
    • 備考: anser は短母音のみで規則通り "ンセル"。冒頭を伸ばす発音もある。ここでは短母音のみを採用した。
      2亜種あり (IOC)。日本で記録されるものは rubrirostris (ruber 赤い -rostris 嘴の) とされる。 最初に記載された際は Anas anser Linnaeus, 1758 のカモ類とされていた。Anser 属は 1860 年 Brisson により設けられた。 コンラート・ローレンツ (Konrad Lorenz) が「刷り込み」を発見した種類としても有名 (wikipedia 英語版)。ローレンツの行動学には当時の学問背景が色濃く現れているので多少注意が必要である (#ミサゴの備考 [feather taxis・頭かき] 参照)。 英名の greylag の由来は grey (色から) + lag [ガン (ガチョウ) の古名。これらの鳥を移動させる時に使われた音声に由来] (wiktionary)。つまり Greylag Goose の名称にはガンの意味が二重に入る。ガチョウの原種。
      Li et al. (2020) Annual migratory patterns of Far East Greylag Geese (Anser anser rubrirostris) revealed by GPS tracking 日本と同亜種ハイイロガンの中国の衛星追跡。
      [鳥の編隊飛行の仕組み] Newbolt et al. (2024) Flow interactions lead to self-organized flight formations disrupted by self-amplifying waves が鳥の群れ形成の仕組みを扱っている。どこに入れてもよいのだがここで扱われている種類がガン類などの大型種なのでここに含めておく。 模型を使った流体力学実験で、前方の個体の後報に位置する力 (位置がずれた場合に元の位置に戻す復元力) が働き結晶格子のような規則的配列を作る傾向があることが説明できる。しかし全体としては振動のモードがパターンとして生まれて flonons と呼んでいる (結晶中における音波に相当する格子振動を量子化したフォノンに類似の概念)。 この振動が成長すると衝突が起きたり群れを崩壊させることになる (この現象は実際の現象とも対応がある)。個体差を与えるとの個々の個体の位置にはばらつきが生まれるが、この振動の成長が抑制されることがわかった。これは現実でもそうなっているだろう (なお物理学では振動が成長するか否かが非常によく扱われるので物理の話を読む時の着眼点としてよい)。 個々の個体に働く力のミクロのメカニズムが大域的な構造形成を行う自己組織化として扱っている (自己組織化については [#鳥類系統樹2024] の記述も参照)。 流体中の群れについて一般的に成り立つ法則と考えられ、魚の群れの形成などもおそらく同様の構造形成が働くのだろう。もちろん個々の個体が意識を持って行動していないとは言っていない。エネルギー的に最も低い (つまり楽ができる) 位置を選択すれば自然にそのような構造が生まれると解釈するとよい。 これはやはり物理学 (分野的には物性か) の論文と言ってよいだろう。鳥の編隊飛行は結晶格子と同じように捉えることができる。 英文解説記事
      [コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz とハイイロガン] Lorenz がハイイロガンなどを用いて刷り込みを研究したことは非常に有名で、著作も多数ある。 その一つ Das Jahr der Graugans (1979) 英訳されて The Year of the Greylag Goose (1979) は邦訳されていないようなので紹介しておく。 いわば写真物語のような形、同一の写真は後の著作にもおそらく現れていて目にしたことがあるものもある。 少しハードルが高いかも知れないが、ロシア語訳 (1984) があって lorenz1984_god_serogo_gusya のようなファイル名で見つけられるのでないかと思う。Panov が前文を書いている。写真が多いので写真を見る分には何語でもそう違わないだろうし、機械翻訳でも十分読めそう。
      「ハイイロガンの動物行動学」(大川けい子訳 平凡社 1996) は原書 Hier bin ich - wo bist du? : Ethologie der Graugans (1988)。
      #イヌワシ備考の [コンラート・ローレンツのワシ類の記述] でも「ソロモンの指環」を中心に取り上げた。
      [首の短い鳥は危険?] 同じ模型でも動かす方向によってタカに見えたりガンに見えたりして、タカに見えるシルエットには逃避反応を示すローレンツとティンバーゲンによる有名な実験をご存じの方も多いだろう。自分が習った時代の本にはよく書いてあった。 その顛末が紹介されていた: Schleidt and Shalter (2011) The Hawk/Goose Story: The Classical Ethological Experiments of Lorenz and Tinbergen, Revisited ティンバーゲンの 1951 年の本に出てくるイラストとのこと。シチメンチョウに見せた場合の反応を調べた (Lorenz 1939)。 Oscar Heinroth がニワトリが首が短く尾の長いシルエットをより警戒するとの観察結果を受けて Lorenz が 1937 年に実験したの最初とのこと。つまり Heinroth が仮説の最初の提唱者とのこと。 Lorenz (1939) はシチメンチョウの反応しか述べていないが、Tinbergen はニワトリ類からカモやガンまで一般化してしまったとのこと。Lorenz は速度 (角速度) の遅さも要因と考えたが、 Tinbergen は首が短いことが一番重要な刺激だと結論し、Tinbergen "The Study of Instinct" (1951) の本には Heinroth の観察によると (首の短い) ヨーロッパアマツバメが渡ってきてすぐの時期はベルリン動物園の多くの鳥が逃避行動をとるとの記述まであるとのこと (!)。 Tinbergen の書物はこの世界ではバイブルであったため信じられていたが、1967 年の実験で覆ってしまったとのこと。 Tinbergen の仮説を覆した実験やその後の追試結果や解釈なども述べられている。 Schleidt (1961) の観察では猛禽類よりもむしろ気象バルーンを警戒した。シュバシコウにも反応したのは "短い首仮説" にとって逆説的である。 Tinbergen は仮説を取り下げて selective habituation hypothesis を受け入れ、1965 年にはひなは落ち葉も含め頭上を通り過ぎるものすべてに "生得的" に臆病だが、経験を積むにつれて当たり前の刺激に慣れて恐怖を感じなくなる。しかし猛禽類を見かけることはまれなので慣れが生じないと記していた。
      しかし 1951 年の著作があまりにも有名で、訂正が行われず再販されたり他の形で出版・引用されるなど1979 年の教科書にも長く登場していたとのこと。 Lorenz が実験した当時の比較心理学は学習によるものに重点が置かれていて、"短い首" という単純な刺激で猛禽類を見分ける生得的能力があることが衝撃的に受け止められたことが背景にあるとのこと。 "短い首" 仮説を否定する過程そのものが "生得的" 認知 (本能的プログラム) を否定するプロセスそのものとなったとのこと。 著者の実験でも放し飼いのシチメンチョウは毎日出会う犬には慣れるが見慣れない犬には激しく反応するという。ヘビのような形の水撒き用のホースは他の家禽は関心を示さなかったが、シチメンチョウは激しく反 応したという。しかし数時間もすれば慣れてためらいなく上を横切るようになったとのこと。
      wikipedia 英語版にも対応する解説があった Hawk/goose effect。 参考になるかも知れない日本語のページ: 高校生物 テインバーゲン「本能の研究」を読む (池田博明 2012)。 Nikolaas Tinbergen の百科事典には Hawk/goose effect で知られているとの記述がある。
      なおハイイロガンが卵を転がす行動 (巣の外に出た卵を戻す行動で、途中で転がってしまっても観察者が卵を取り去ってもあたかも卵があるかのように行動を続ける) は Fixed Action Pattern (信号刺激) の典型例のように呼ばれるが、別の解釈も提案されている: Marken (2002) Looking at behavior through control theory glasses この著者によれば親鳥から卵が直接見えないので触覚に頼るしかない。突然刺激が消えた場合何が起きるか、人を被検者にしたネットのデモンストレーションサイトがあり、マウスで画面のものを動かす作業の最中に画面から突然マウスカーソルが消えた場合人がどのような行動をするか結果を比べてみよとのこと。
      Schleidt and Shalter (2011) の論文では (動かない) 猛禽の絵を貼って衝突防止に用いたり (この効果は Lorenz-Tinbergen でも調べられていないとのこと) 剥製を置くことがあまりにも頻繁に行われているが、1962 年の Loehrl のレビューで意味がないことがすでに述べられているとのこと。 生物学的な方法は "選択的な慣れ" を簡単に起こすとのこと。猛禽があまりにも繁用されているので窓に加工するならばもう少し別のやり方があると述べられている。 参考までに 鳥がガラス窓に飛び込むのを防止するには (バードライフ・インターナショナル東京 2019) では「猛禽類の形のステッカーが、小鳥を怖がらせて追い払う」は俗説とある。猛禽類のデザインは「アート」と捉えた方が楽しめそう。
      日本語では「本能の研究」(N.ティンベルヘン著 永野為武訳 三共出版 1957) が最初の紹介のようだがその後の版も訳されているよう。直接この著書からでなくともいろいろな形で紹介されていたはずだが、自分が知ったのはいったいどのルートからだろうか。Tinbergen が仮説を取り下げた後であることは間違いない。今でもこの説が流通しているかも知れないので要注意だろう。
      コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz、カール・フォン・フリッシュ Karl von Frisch、ニコ・ティンバーゲン Nikolaas Tinbergen 個体的および社会的行動様式の組織化と誘発に関する発見 に与えられた 1973 年のノーベル生理学・医学賞は今から振り返ってみるどうなのだろうか、という論説もある: Dewsbury (2003) The 1973 Nobel Prize for Physiology or Medicine: Recognition for behavioral science? 行動学に対して初めて与えられたノーベル賞で、人の健康にかかわる行動学 (それゆえ生理学・医学賞) が今後受賞することが期待されたが一つもなかった。3人の受賞にまつわるできごとや論争、現代の視点から見た賞の意義を議論している。 Font (2023) 50 years of the Nobel Prize to Lorenz, Tinbergen, and von Frisch: integrating behavioral function into an ethology for the 21st century が受賞50周年となるはずなのだが動物行動学をやる者はほとんど気づいていない。学問の世界では現実の世界以上に無視されるようになった。Tinbergen の提唱した4つの「なぜ」のうち一つである行動生物学 (社会生物学) のみに置き換わってしまった。 "ethology" は死んだ、あるいは絶滅の縁にあるとすら言われるようになったが正しくない。学生や研究者も "ethologist" よりは自身を evolutionary biologists と呼んでいるなど、ethology の名称を避けている。1930-1940 年代の ethology と連続性はあるが現在は異なるものなっており、他分野との関係など学問領域として定義も難しくなっている。 Tinbergen の提唱した4つの「なぜ」を追求する分野として ethology を用いてよいのではとのこと。 最後の部分の表題に使われている what’s in a name? は#アホウドリの備考参照。何と呼ぼうが動物の行動を解釈する学問であり、名前にそこまでこだわらなくてもよいのでは、の意味を込めているのだろう。
      Font (2023) に引用されている Alcock による2000年代初頭の本は、「社会生物学の勝利: 批判者たちはどこで誤ったか」(ジョン・オルコック著 長谷川眞理子訳 新曜社 2004; 原著 The triumph of sociobiology 2001) で読むことができる。 E. O. Wilson (1975) は "Sociobiology, The New Synthesis" (邦訳「社会生物学」) でいみじくも行動生物学の将来進展を予測し (訳本 図1-2; 「社会生物学の勝利」にも引用されている) 1950 年には ethology が全盛であったものが1975年には社会生物学・行動生態学と統合的神経生理学に分離し、2000 年には ethology が衰退しているだろう図を示している。 Alcock は社会生物学・行動生態学からさらに進化心理学の分野が広がったことも記している。 訳者の長谷川氏によると欧米では盛んに議論が起きていたが、日本では目立った議論にならなかったとのこと。文化背景の違いなども挙げられているが、日本にはそのような学問の素地がまだ希薄だったのかも知れない。 社会生物学が成功を収めた一つの背景として、研究者が互いに仮説を競わせることのできる学問構造が内在していた理由もあるだろう。#カッコウ類の托卵あるいは宿主の排除戦術の議論などを見ても大変面白く、新しい研究者にとっても魅力的だったのだろう。
  • マガン
    • 学名:Anser albifrons (アンセル アルビフロンス) 白い額のガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:albifrons (adj) 白い額の (albus (adj) 白い frons (f) 額)
    • 英名:Greater White-fronted Goose
    • 備考: anser は#ハイイロガン参照。 albifrons は albus は短母音で frons は短母音、長母音両方の読みがある。いずれも短母音を採用すれば "アルフロンス" と考えられる。 発音の聞けるページでは日本語同様アクセントの目立たない発音もあったが、アクセントを置く分 "ビ" を若干長めに発音している例があった。どちらでもよいだろう。
      5亜種あり (IOC)。 日本で記録されるものは基亜種 albifrons 亜種マガン、及び亜種不明とされる。 亜種 gambelli (アメリカの探検家・博物学者の William Gambel, Jr. に由来) オオマガン が検討亜種に含まれている。
  • カリガネ
    • 学名:Anser erythropus (アンセル エリュトゥロプース) 赤い足のガン
    • 属名:anser (m,f) ガン
    • 種小名:erythropus (合) 赤い足の (erythro- (接頭辞) 赤い pous 足 Gk)
    • 英名:Lesser White-fronted Goose
    • 備考: anser は#ハイイロガン参照。 erythropus は -ry- の音節にアクセントがある (エリュトゥロプース)。-pus は#ナンキンオシ参照。伸ばす方を採用した。
      単形種。 絶滅危惧 IB 類 (EN)。IUCN 3.1 で VU 種。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" によればマガンの別名がカリガネで、現在のカリガネはコカリガネの名前が付けられていた。 多数のマガンの中でカリガネを探すのが困難なほど似ていることを考えると、カリガネとコカリガネの旧名称は納得できる。 カリガネの声は聞いたことがないが (マガンの群れの中で鳴いても多分気づいていない)、もともとはマガンを指していたと考えると音声由来も納得できる。
  • インドガン
    • 学名:Anser indicus (アンセル インディクス) インドのガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:indicus (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bar-headed Goose
    • 備考: anser は#ハイイロガン参照。 indicus は短母音のみで冒頭にアクセントがある (ンディクス)。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
      [インドガンの高所適応] 標高 8000 m 以上の低酸素環境のヒマラヤ山脈を超える、世界最高の高さを飛ぶ鳥として有名 (wikipedia 日本語版)。最近の文献では例えば Hawkes et al. (2011) The trans-Himalayan ights of bar-headed geese (Anser indicus) で衛星追跡の結果が見られる。風の助けを借りず、むしろ風の弱い条件で自身の飛行能力でヒマラヤ山脈を超えるとのことである。8000 m の数字はおそらくやや誇張で、これらの研究によれば 6000 m 以下の谷を主に通っているとのこと。7290 m の記録はあるそうである (wikipedia 英語版)。 このためどのような生理機構で高所順応をしているのか注目され、古くから研究されている。 呼吸器の機能も低酸素状態でも働くように最適化され、心筋への毛細血管も低地に住む鳥に比べて多いとのこと。 血液中で酸素を運ぶヘモグロビンも他のガン類と異なる変異があり、酸素との結合性を増しているとのこと。[Natarajan et al. (2018) Molecular basis of hemoglobin adaptation in the high-flying bar-headed goose]。
      Butler (2016) The physiological basis of bird flight にも高所適応に限らず飛翔に必要な生理機能の総説がある。インドガンが定常的に高所を選んで飛んでいる証拠はないとのこと。それでも 5500 m で自力の羽ばたき飛行を行えるのは大したものであると記されている。トラッキングデータから例外的に高く上昇する際に心拍数は上がらず、好適な風の助けで上昇したものであることを裏付けるとのこと (ローラーコースターのようなものとの比喩も使われる)。
      ヒトなどでは過換気により血中の CO2 が下がると (hypocapnia) 脳への血流が下がるが、カモやインドガンでは起きないとのこと。カモやインドガンでは低酸素状態ではヒトなどより脳への血流が増し、これらの効果で哺乳類よりずっと高所での低酸素に強いとのこと。 低酸素・血中の CO2 低下でインドガンではよりアルカローシスが強く起きてヘモグロビンの酸素結合性との効果と合わさって組織への酸素供給を維持、あるいは高めることさえできるとのこと。 鳥には気のうシステムがあるため、との説明するのはおそらく不十分で、このような生理的適応の効果が大きい。原理的には他のガンにできない 9000 m を飛行する能力はあるが実際にはわざわざ高いところを飛ぶわけではない。 Hawkes et al. (2017) Do Bar-Headed Geese Train for High Altitude Flights? 渡りの前に人間のような高所トレーニングが必要か。そもそも余力がある感じに見えるがホルモンによる季節変動など関心が持たれている。
      Parr et al. (2019) Tackling the Tibetan Plateau in a down suit: insights into thermoregulation by bar-headed geese during migration 高所の寒冷な場所を飛ぶ時も体温の日内変動パターンはあまり変わらず安定している。極度な環境変化にも適応できる体温調節を行っていると考えられる。
      Wang et al. (2020) First de novo whole genome sequencing and assembly of the bar-headed goose 初のゲノム解析。正の選択を受けている遺伝子の候補など。 Zhang et al. (2022) Chromosome-level genome assembly of the bar-headed goose (Anser indicus) もより高精度な解析。臓器固有の発現も調べられているが機能の解析はこれからの段階か。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (1)] このように生態・生理的には大変興味深い種であるが、"bar-headed goose" (インドガン) の名前はまったく違う分野の研究者にも大変よく知られていたことがある (現在でもそうかもしれない)。 近年世界のさまざまな地域で鳥類 (および一部の哺乳類) を危機に晒している鳥インフルエンザに関係する話である。 wikipedia 英語版の記事 2020-2023 H5N8 outbreak にあるように、2020 年から 2021 年にかけて世界で大規模な感染爆発が起きたことは記憶に新しい。この時の株は H5N8 であったが、2021-2022 年の冬から夏近くにかけて H5N1 株がヨーロッパで水鳥コロニーに壊滅的な被害を与えた。そしてヨーロッパから北米にも広がって多くの種類の鳥を犠牲にした。 Caliendo et al. (2022) Transatlantic spread of highly pathogenic avian influenza H5N1 by wild birds from Europe to North America in 2021 北大西洋の渡りでどのように運ばれたかが Fig. 4 に出ている。 (#ハクトウワシの備考も参照)。 ギリシャのペリカンコロニーで鳥インフルエンザ集団死 ハイイロペリカン 600 羽近くが死んだ。 Bird flu has killed nearly 1,500 threatened Caspian terns on Lake Michigan islands ミシガン州の湖で 1500 羽近いオニアジサシ (英名はカスピ海由来だが北米にも生息する) が犠牲となった。神経症状で震える姿や、それでも抱卵しようとする中で亡くなった姿が記録されている。 多数の経験豊富な成鳥を失い、個体群に与える影響がどれほどのものか想像がつかないとのこと。 オランダでサンドイッチアジサシ Thalasseus sandvicensis 英名 Sandwich Tern のコロニーが犠牲となり、長年保護に取り組んできたチームを嘆かせた。Rijks et al. (2022) Mass Mortality Caused by Highly Pathogenic Influenza A(H5N1) Virus in Sandwich Terns, the Netherlands, 2022、記事 Kolonie grote sterns op Texel weggevaagd door vogelgriep: テクセルの自然保護区 De Petten のサンドイッチアジサシの繁殖コロニーは、鳥インフルエンザによって一掃された。7000 羽の鳥のうち、3000 羽が死んでいるのが発見された。残りは海で死んで浮いているか、離れて移動していると考えられる。 Avian Flu Threatens Seabird Nesting Colonies on Both Sides of the Atlantic (Audubon の記事): アジサシ類が特に壊滅的被害を受けている。 個体が長命で子の数の少ない生存戦略は、一時的な天候悪化や食物不足には有利だが鳥インフルエンザ流行のような場合にリスク要因になる。 病気そのもののコントロールは難しいが、人為要因による環境悪化などの他の要因が個体数回復を遅らせるのでそれを防ぐのはよい手段である。 同じように集団繁殖するニシツノメドリも心配である (メーン州で失われた個体群が1970年代に復元された) とのこと。 これはさらに南米に広がってペルーなどで大規模な集団死が発生した。 Bird flu kills almost 14,000 pelicans, seabirds in Peru (2022年11月の記事)、 Peru reports hundreds of sea lion deaths due to bird flu (アシカの集団死、2023年2月の記事)。 日本でも大きな影響を与えていることは報道でご存じであろう (幸いにこれまでのところヨーロッパやアメリカのような壊滅的な野鳥への影響は日本ではあまりないが、2022-2023 年の鹿児島県出水では1月の段階でツル 1421 羽が回収され、越冬地を変えたツルもあるらしいと報道があった。また北海道でオジロワシなど貴重種も失われている)。
      2024 年初頭に南米からさらに南極大陸本土に達してしまった。 'We’re going to see some haunting images': Bird flu has reached Antarctica (Candice Marshall, Australian Geographic 2024)。 Avian influenza virus is adapting to spread to marine mammals (2024 年論文へのリンクもあり)。 気候変動の脅威に晒されている最中に病原体とも戦わねばならない。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (2) 高病原性と低病原性] 最近ではあまりに毎年のように起きているため、「野鳥は本来鳥インフルエンザウイルスを持っているもので、感染するのは運が悪いだけ」のような印象を持たれる方もあるだろう。 ヒトの場合にはインフルエンザウイルス (*1) が人から人への感染で維持されており、時折新型インフルエンザが現れてパンデミックとなる点は上記印象でほぼ合っていると考えてよい。有史以来、そしておそらく有史以前からこの関係は続いてきたのであろう。 それでは現在問題となっている鳥インフルエンザも同じように考えてよいのだろうか。忘れ去られた情報も多いと思われるのでここで少し整理しておきたい。
      まず報道などで使われる用語がかつて非常に紛らわしいものであったため改めて注意を促しておく (この時代に知識を得られた方は要再確認)。 高病原性鳥インフルエンザという用語があるが、これは行政用語であって科学的な概念や世界で使われる名称とは必ずしも対応していない (いなかった)。 この定義は家畜伝染病予防法でなされているもので、2011年4月に改正される以前は H5、H7 亜型のウイルスをすべて高病原性鳥インフルエンザと呼んでいた。 当時はすでに鳥インフルエンザの世界進展の時期であり、日本の用語と海外の名称が異なるためややこしい状況が生じていた。現在の定義は 我が国における鳥インフルエンザの分類 を参照。 海外では強毒の高いものを HPAI (Highly Pathogenic Avian Influenza) そのまま訳すと高病原性鳥インフルエンザになるが、2011 年以前の日本の用語では毒性にかかわらず H5、H7 亜型のウイルスをすべてこう呼んでいた。 そのため「高病原性鳥インフルエンザ (HPAI)」のように略すのは少なくとも従来は間違っていたわけである。 これは H5、H7 型のウイルスは最初はそもそも無害であっても養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化することがあることが知られていたためであり、無害であっても H5、H7 亜型のウイルスを検出した場合は届け出て法律に定められた措置をとる必要があることによる。 国際的な分類では弱毒の鳥インフルエンザウイルスは LPAI (Low Pathogenic Avian Influenza) と呼ばれており毒性と名称が整合している。H5、H7 型のように届け出を要するウイルスを意味する場合には N (notifiable) を補って LPNAI と呼ぶ。以前の日本の分類で高病原性鳥インフルエンザ (弱毒タイプ) が LPNAI に相当していた。 現在の日本の名称では LPNAI に相当するものは法定伝染病の低病原性鳥インフルエンザ (LPAI) となっていて、H5、H7 亜型以外は届出伝染病の鳥インフルエンザとなっている。国際的な定義に合致するようになったのは HPAI の方のようである。この文書も含めて「鳥インフルエンザ」と言う場合は届出伝染病の鳥インフルエンザを指すわけではなく、もっと広い意味で使っていることはご注意いただきたい。 かつての報道では「強毒の」や「毒性の強い」をよく補っていたが、これは当時の高病原性鳥インフルエンザには弱毒のものも含まれていたためで、同じことを冗長に言っていたわけではない。 現在では少なくとも高病原性に関しては日本の用語と海外の用語が同じ意味になったため、高病原性鳥インフルエンザ (ウイルス) を指して HPAI を使うことにする。また強毒性の同意語として高病原性も使うことにする。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる] さて「養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化する」ことの分子機構も判明している。また生態学的には強毒のウイルスは通常生態学的に安定状態とならない (宿主を即座に殺してしまうと病原体自身も死滅してしまうため) が、養鶏場のような本来あり得ないほどの高密度であれば宿主が死ぬ前に別の個体に感染させることができて病原体自身も生き延びることができる。 これは野外のような通常の条件では低病原性しか生態学的には安定解を持たない、と表現しなおすこともできる。養鶏場のような特殊な条件でのみ高病原性の安定解が存在するのである。 [これはプラム「美の進化」(#エトロフウミスズメの備考参照) に対する批判「ランナウェイ過程は、メスに選別コストがわずかでもあると、大きな装飾の安定的な平衡点をもてない」と同じようなことを表していると考えていただいてよい。 自然界で高病原性のウイルスがたまたま生じても、それは平衡点にはなり得ないのでいずれ安定な低病原性に変異してゆくことを示している (それにどれだけの時間を要するかは平衡点理論は教えてくれない)]。
      (ここからしばらくは少し高度なので最初は飛ばしていただいてよい) 強毒化の分子機構についても多少補足しておこう。インフルエンザウイルスではヘマグルチニン (HA、後にもう少し詳しい説明あり) の遺伝子から翻訳されたタンパク質 (HA0) を持つウイルスそのものには感染性がなく、宿主の持つ酵素によって2つに分割され、HA1, HA2 となることで感染性を持つウイルス粒子となる。 この分離される部位のことを開裂部位 (cleavage site) と呼ぶ。HA0 を開裂するためには一部の臓器に存在する分解酵素トリプシンが必要である。一般的なインフルエンザウイルスが特定の臓器 (例えばヒトでは呼吸器、鳥では腸管) で主に増殖するのはこの性質による。 高病原性鳥インフルエンザでは開裂部位に塩基性アミノ酸 (リジン K、アルギニン R: それぞれ1文字略号も示す) が並び、塩基性アミノ酸 (basic amino acids) のアミノ基は水素イオンと結合して正の電荷を持って互いに反発しあうため、開裂がより容易に起きる。そのため特定の臓器だけでなくあらゆる臓器に存在する一般的なタンパク質分解酵素で簡単に開裂が起きてしまう。 これは高病原性鳥インフルエンザが全身のあらゆる細胞で増殖可能である原理である (海外のバーダーなども参加するメーリングリストでもこのような用語は普通に飛び交っていた。何のことかわからない人もあったかも知れない)。 全身のあらゆる細胞には中枢神経細胞も含まれ、高病原性鳥インフルエンザに感染した鳥に特有の神経症状が現れるのはこの性質による。 また心筋細胞や重要臓器でも増殖するため、命にかかわることも理解いただけるであろう。 HPAI H5N1 で死亡したヨーロッパノスリの研究がある: Caliendo et al. (2022) Pathology and virology of natural highly pathogenic avian influenza H5N8 infection in wild Common buzzards (Buteo buteo)。11羽中9羽に脳の壊死、7羽に心筋壊死が見られた。
      少なくとも H5 亜型においては低病原性ウイルスの HA 開裂部位の塩基配列に比較的少数の変異が加わるだけで塩基性アミノ酸が並ぶようになる。実験的にもニワトリに継代接種を行うことで LPAI が HPAI に変化することが示された [Ito et al. (2001) Generation of a Highly Pathogenic Avian Influenza A Virus from an Avirulent Field Isolate by Passaging in Chickens。これが実証されたのは世界初だったとのこと。10回弱程度の変異が起きると K と R ばかりが並ぶウイルスができ得る様子がわかる]。 これが H5、H7 亜型が強毒化しやすい原因と考えられる。 ただし毒性には他の遺伝子も関連があり (例えばウイルスを増殖させるポリメラーゼ遺伝子) HA の開裂部位のみが毒性や宿主特異性をすべて決定するわけではないが、上記メカニズムは現在問題の高病原性 H5 に関係するものなので話だけでも知っておいてよいだろう (*2)。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (4) 自然界の高病原性鳥インフルエンザの由来] ここまでの説明をある程度理解していただければ、自然界に高病原性鳥インフルエンザはもともと存在しないこと、そして人工的条件で生まれ、野生動物に持ち込まれた病気であることを納得していただけるであろう。 高病原性鳥インフルエンザとは人が家畜を扱うようになって生まれたもので、鳥インフルエンザウイルスは長年月に渡って水鳥にとってほとんど無害なもの (つまり低病原性の平衡状態) だったのである。 歴史的には高病原性鳥インフルエンザがかつて養鶏場から野外流出してアジサシ類の集団死が起きた程度のことはあったが、病原性があまりにも高かったためそれ以上に広がらず、現在のような異常な状態には至らなかった。現在の状況がいかに異常であるかは過去の事例が示してくれている。 現在の異常事態は自然に起きた「天災」ではなく、人為がもたらしたものであることを改めて理解しておきたいし、自信を持ってそのように説明していただいてよい。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (5) (鳥)インフルエンザの亜型の意味] さて、H5N1 とか H5N8 とかは何なのか、いったい何が違うのか、それとも実質同じものなのか疑問をお持ちの方も多いであろう。復習になる方も多いと思うがインフルエンザウイルスについて簡単に整理しておく。よくご存じの方は読み飛ばしていただいて構わない。 インフルエンザウイルスには A-D の型があるが、ここで問題となるのは A 型なので A 型のみを扱う (この「型」が「属」に対応していて、インフルエンザウイルス全体では4属4種だそうである)。鳥インフルエンザは A 型。B 型はほとんどヒトのみに感染し病原性も弱め、など。
      新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) もインフルエンザウイルスも一本鎖 RNA ウイルスである点は共通しているが、SARS-CoV-2 では1セグメントのみからなる遺伝子構造であるのに対して、インフルエンザウイルスは8個のセグメント (分節。別々の RNA 分子) からなるずっと複雑な構造を持っている。 SARS-CoV-2 の場合には RNA の複製の際に生じるエラーで変異が積み重なって新しい株が生まれる仕組みだが、インフルエンザウイルスの場合は複数のセグメントに分かれているために RNA の複製の際に生じるエラー以外にも新しいタイプのウイルスを作る機構が存在する。変異速度を上げて宿主の免疫から逃れて生き残るのがインフルエンザウイルスの生き残り戦略と言ってもよいだろう。
      同じ細胞が2つの異なったインフルエンザウイルスに同時感染した場合、複数のセグメントの間で入れ替わりが生じることがある (遺伝子再集合 reassortment という; お菓子などの「アソート」と同じ。ばらばらになった混ぜこぜのセグメントが再構成される時に新しい組み合わせが生じる *3)。遺伝子組み換えとは意味が違うので注意。 インフルエンザウイルスの H というのは ヘマグルチニン (HA: haemagglutinin) のことで、要するにウイルスが細胞に付着する機能を果たす部分である。 N は ノイラミニダーゼ (NA: neuraminidase) のことで、細胞内で増殖したウイルスが細胞表面に現れたものを切り出してウイルス粒子にする酵素のこと。つまりこの酵素を阻害すればウイルスの増殖を抑えることができ、ノイラミニダーゼ阻害剤という一連の薬剤 (商品名ではタミフルやリレンザなど) はこの酵素を標的としたものである (*4)。
      HA と NA には抗原性の異なる (現代では生物の分類と同様に分子系統樹を描いて分類する) いくつかの種類があり、番号を付けて呼ばれる。HA で 16 種、NA で9種が現在知られており (亜型という)、H5N1 などの名前はその組み合わせを表す。例えば同じ HA であっても少しずつ性質が異なるものがあることは生物の亜種と同様。原理的にはすべての HA, NA の組み合わせが可能であると考えられている。 ちなみにヒトで過去にパンデミックを起こしたことが知られているインフルエンザウイルスは H1, H2, H3 である。H5 にもその能力があるかははっきりわからないが、いくつかの変異を導入すると哺乳類から哺乳類 (実験室でよく使われるのはヒトに似た性質を示すフェレット) に感染するウイルスを作ることができることは実験的に確かめられており、哺乳類への感染が警戒されている所以である [参考: 哺乳類間で伝播しうる鳥インフルエンザウイルスリスクの高い研究に関する論文の掲載 (Nature 2012) のようにこの研究結果を公開すべきか議論を呼んだ] (*5)。
      HA と NA は異なるセグメントに乗っているため、遺伝子再集合で別々の HA と NA を持つウイルスが比較的簡単に作られる。つまり同じ H5 亜型であっても NA が入れ替わったウイルスも生じる。これが H5N1 が流行したり別の年には H5N2 や H5N8 に変わったりする仕組みである。 現在問題となっている H5 ははるか昔 (1996年ごろ) に生じた高病原性の系統が継続しているもので、NA は入れ替わることがあるが高病原性の性質は維持されている。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (6) 高病原性 H5N1 の出現] この高病原性 H5 (H5N1) が最初に (少なくとも世間的に) 明るみに出たのは (鳥インフルエンザなのに) なんと鳥ではなく、1997 年香港で人が感染した事例に始まる。ちょうど同じ時期に香港のニワトリでも鳥インフルエンザの発生があり、香港中の 150 万羽のニワトリを 1997 年末までに処分することで流行は終息したが、18 人が感染し6名が死亡した。この時はあるいは人から人感染かと懸念されたが人の間では大きな流行に至らなかった。 ちなみにタミフルは当時はまだ使えず、伝統的な抗インフルエンザ薬であったアマンタジンが使われた。 当時までは鳥インフルエンザは人に感染しない (いわゆる「種の壁」) と考えられていたため、防御も行わずに病気のニワトリをさばいたりしていたのであろう。 この株が最初に見つかったのは 1996 年に中国のガチョウから見出されたものであったため、現在問題となっている H5N1 の発見は 1996 年とされる。 その後しばらく小康状態が続いていたが (中国や東南アジアで局地的に発生していたものと思われる。2000年にはベトナムで多数のニワトリが死んでいた とのことで地方病のような状況だったらしい)、2003 年に再度大規模な拡大があり、韓国の家禽で発生したしばらく後、2004年1月日本でも山口県の養鶏場で発生 (日本での HPAI 発生は 79 年ぶりのことであった)、2月大分県で小規模な発生があり、2-3月京都府の養鶏場で大規模な発生があった。 当時はこの時期に韓国から日本への渡り鳥のルートは知られておらず、何がウイルスを持ち込んだのか議論がなされていた (人の往来も十分多く、人が運んだ可能性もある *6)。 ほぼ同じころベトナムやカンボジアで人への感染も相次ぎ、1人感染がある度に報道されるぐらいであった。高病原性の定義は家禽に対するものであるが、人に対しても毒性が高く未治療では 50% が死亡すると見積もられていた。毒性が高いままで人から人へ簡単に感染するようになるとどのようなことになるか、特に専門家の間では大変恐れられていた。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (6) 2005 年青海湖の大事件] 日本での発生が一段落したため日本では鳥インフルエンザへの関心は次第に薄れて行ったが、2005年4月末から6月にかけて世界を震撼させる事件が中国青海省の青海湖で起きた [Chen et al. (2006) Properties and Dissemination of H5N1 Viruses Isolated during an Influenza Outbreak in Migratory Waterfowl in Western China を参照]。 この時に最初の感染例として見つかったのがインドガンであり、この論文によれば5月4日に2羽が死んでいるのが見つかり、翌日には 105 羽が死んだ。この感染爆発で最終的にインドガン 3282 羽、全体で 6184 羽の死体が回収されたとのこと。 ウイルスの系統解析の結果からインドガンが最初に保有していたウイルスが他の種類に感染したことが示されている。これ以来、鳥インフルエンザに関心を寄せる人たちの間でインドガンの名前は忘れられないものとなり、そしてそもそもなぜインドガンなのか不思議に思われていた。 これは高病原性鳥インフルエンザが渡り鳥に大規模感染を起こした前代未聞の事例となった。人に感染することもあって致死率が高いことはすでにわかっていたため、もし渡り鳥を通じて世界に拡散し、その経緯で人から人感染を起こすウイルスが生まれると大惨事になりかねないと考えられた。 養鶏場や地域感染にとどまっている間はまだともかく (当時までは東南アジアでの人感染が中心であったため、もしパンデミックが起きるならばそこから発生することを前提としたシミュレーションも行われていた。例えば東南アジアのある都市で人から人感染を起こす株が出現した場合、発生後何時間以内に半径何km以内の住民全員にタミフルを投与すれば拡大を防げるかなど調べられていたが、現実的にはほぼ達成不可能な数字が出るのみであった)、H5N1 はもはや制御不能と多くの専門家は考えた。
      当時 Nature がこの事象を受け、5月に早々と On a wing and a prayer との記事を出した。 渡り鳥に大規模感染が起きた以上パンデミックは時間の問題との認識が強かった。もはやアジアだけの問題はなく世界中どこで発生するかわからない。どこにいてもパンデミックからは逃れることはできない。 1918 年に多くの人を犠牲とし、結果的に第一次世界大戦を終結させることになった通称「スペイン風邪」と呼ばれる新型インフルエンザを引き合いに出している。これは H1N1 亜型のパンデミックであったが、それでもまだ低病原性であり (1918 年のパンデミックの前に野鳥や養鶏場で集団死があった報告などはなかった)、 1918 年に比べて飛躍的に進んだ移動手段のある中で高病原性のパンデミックが起きればどうなるか、想像を絶するとの文脈である。 これほどの大事件であったにもかかわらず、日本での扱いは極めて小さかった (科学報道が重視されないことが痛感される)。 青海湖での発生が終結すると (つまり感染した鳥がすべて死ぬか移動していなくなった)、世界は一時的に平穏を取り戻していた。しかしこの間にロシアやモンゴルで感染が拡大していたのであった。 英文報道のような通常ルートで入ってきていた情報は8月にモンゴルのオオハクチョウでの感染が見つかったというもので、事例としても少なく、渡り鳥が運んだのか、あるいは人為的に運ばれた可能性があるのかなどの小規模な議論や現地調査にとどまっていた。 日本野鳥の会の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」「鳥インフルエンザ」 に収録 (北里大学農医連携学術叢書 3号) によれば野鳥一般に繁殖期であまり移動しない時期で、オオハクチョウは換羽でそもそも飛べない時期であり渡りで運ばれたと考えるのには無理があるとの考察がある。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (7) 2005 年ロシアでの大進展] 事態をある意味で一変させたのが、Recombinomics 社 (バイオのベンチャー企業?) の Henry L Niman によるもので、彼は協力者とともに海外ニュースを集めてロシアで鳥インフルエンザ感染が起きていることを見つけていた。 当時は現在のようなオンラインの機械翻訳サービスも限られていたが、彼らはその初期のサービスを用いてロシア語の現地ニュースを翻訳して読んでいたのだった。 Niman の論点は終始渡り鳥が H5N1 を運んでいるというもので、彼らはその文脈に合うニュースのみを選んで紹介していたのだった。 当時はまだウイルスを運ぶ主役は渡り鳥なのか人の移動によるものなのかよくわかっていない時代で、一方的視点だけでニュースを提供されると自然保護側としては看過できない状況であった。ロシアの農家による渡り鳥撃ち落とし計画なるものも報道され、それは日露渡り鳥条約にも関わる問題であるとの指摘も獣医師の方よりいただいた (話題作りの記事だったようで、実際には大規模には行われなかったようである)。 彼らと同じようにロシア語の現地ニュースを機械翻訳して読むと大規模養鶏場で発生したものが広がって、など彼らが紹介しない記事も多数あるため機械翻訳での紹介を始めたのが自分が鳥インフルエンザ問題に (世界的な文脈で) 関わったきっかけであった (ロシア語をしっかり勉強すべしと感じたのはこの後の話)。 ちなみに当時のロシアはまだソ連崩壊後の経済危機状態を脱しておらず、研究者も研究費を得るのが大変だった時期にあたる。当時のロシア発行の猛禽類保護の専門雑誌 Raptors Conservation に記事 Lapshin (2005) People, Birds and Viruses. What is the Arboviruses and Avian Influenza and How do they Threaten Raptors? があったが、鳥インフルエンザ騒動は少なくとも一部の研究者にとっては「救世主」のようなもので、渡り鳥に責任を押し付けることはウイルス研究者にとっても研究費獲得に有利で、野鳥保護関係者には迷惑な話であったとのこと (論文はロシア語・英語併記であるが上記肝心のところは英訳されていない。英語でニュアンスを伝えるのは難しかったのであろう)。 ロシアの経済状況は厳しいものであったが、情報公開には意外に熱心で最初の発生地であるノボシビルスク近郊の発生地点の詳細な地図までオンラインで入手することができた。 ロシアの野鳥に関係の深い英文のメーリングリストにも翻訳情報を投稿したりしていたが、 この活動が BirdLife の鳥インフルエンザ担当者の目にとまり、BirdLife が主宰するメーリングリストに加えてもらい、ボランティアによる国際的な感染症ホットラインである ProMED にも情報を提供するようになった。 ProMED は SARS の発生を最初に感知したり、新型コロナでも的確な情報を最初から提供するなど信頼性の高い感染症の情報源である。鳥インフルエンザはもちろん最も重要なテーマの一つであったが、あまりにも急速に進展してボランティアベースでは世界情報を追えなくなったり、それまではロシア在住の情報提供者があったがその時期はいなくなっていたと聞き、提供した情報は役立っていたようである。 そのメーリングリストは Nature の記者もオブザーバー参加していて、我々の活動に注目していたようである。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (8) そして 2005-2006 年ヨーロッパへの進展と新型インフルエンザ騒動] ロシア進展の間はほぼシベリア横断鉄道に沿うように西進していった。これも解釈に悩む要因となっていた。物流の大動脈であり周辺には養鶏場も当然ある。渡り鳥の移動に伴って拡大したものか、養鶏場で発生したものが人や物の移動に伴って運ばれていたのかを区別することは難しい。 この経路は Gauthier-clerc et al. (2007) Recent expansion of highly pathogenic avian influenza H5N1: a critical review にも示されており、ここでは人や物の移動に伴って運ばれたことを圧倒的に支持すると述べられている。 上記 Lapshin (2005) によれば検査のための物資が圧倒的に不足していて、現実の進展を反映していたものかもよくわからないようである。
      日本を含め、世界のメディアが注目したのは同年の 10 月にルーマニアなどヨーロッパで発生してからであった。この年には日本ではとある国政選挙があり、報道関係者はそちらの取材に忙殺されていたため世界がこんなことになっているとは知らなかった、と後に聞いた。 世界の一流誌はいずれもこのころ大特集を組んでいた。例えば TIME は青海湖でレンジャーの目の前でインドガンがよろめきながら死んで行く様子を生々しく伝えていた。

      同年 TIME 9/26 号 "Avian Flu Death Threat" より冒頭の引用と抄訳:
      But for migratory birds, the island-actually a small peninsula protruding into Qinghai Lake, China's largest saltwater lake-is the avian equivalent of a busy international airport.
      人々にとっては秘境かも知れないが、青海湖の小さな半島は渡り鳥にとって込み 合った国際空港のようなものだった。
      his daily rounds near an area popular with bar-headed geese when he spotted something he'd never seen in his two decades at the reserve.
      青海湖のレンジャーは 20 年来観察を続けてきたが、それは初めて目にする光景 だった。
      "It was walking so strangely, wobbling from side to side as if it were drunk."
      群れから離れた1羽のインドガンが、まるで酔っ払っているかのように揺れな がら歩いていた。
      "This goose seemed to be shivering."
      あのガンは震えているのではないか・・
      その瞬間から起きた世界の戦慄の反応は、"If that sounds like an alarmist's hype, it's not." 警告家の誇張のように聞こえるかも知れない・・しかしそれは 本当なのだ。

      ルーマニアで発生となるとロシアとの間はどうであったのか気になるところであったが、報道をチェックするとウクライナでもそれを疑わせる事例がすでにあったらしいことがわかった。住民の証言レベルの話だったが当時のウクライナの体制がいかなるものであったを多少なりともうかがうことができた (現在なぜあのような事態になっているのかの遠因もわかるような気がした)。 ウクライナでの発生が正式に報告されたのはこの年も終わりに近づいてからのことであった。
      2005 年中のヨーロッパでの発生はまだ散発的であったが、2006 年に入ってから大発生が相次いだ。 ギリシャではアオガンの死亡もあり、当時 BirdLife 担当者の Richard Thomas が「養鶏場のウイルスがこんな貴重な鳥を殺している!」と怒り心頭のメッセージを記していた。 ドイツ北部のリューゲン島でハクチョウ類の集団死があり、真冬の最中に防護服を着て非常に重いハクチョウ類の死体を回収する担当者がどれだけ重労働であるかも述べられ、都市部で発生が起きた時には市内に幾重にも防疫線が引かれるなど日常生活への影響もかなりのものであったそうである。
      人々をさらに驚かせたのが2006年1月にアフリカのナイジェリアの農場で発生したことである。そして隣接するニジェール、カメルーン、ブルキナファソ、スーダン、コートジボワールへと2-4月にかけて次々と波及した。 設備の揃ったヨーロッパならばまだ封じ込めも可能であろうが、アフリカの最も貧しい国々に定着すると絶望的であると考えられた。食料も十分でないアフリカで先進国同様の家禽の処分を行わざるを得ず、関係者の苦悩も大変なことであっただろう。 先述の Gauthier-clerc et al. (2007) によれば感染地域からナイジェリアへひなの空輸があったことが BirdLife により報告されている (先述の BirdLife が主宰するメーリングリストでも空輸される現場を実際に見たとの目撃レポートが報告されていた)。
      あくまで当時の事情下ではあったが、H5N1 がもしヒトの間でパンデミックとなった場合の対応についてもさまざまな問題が投げかけられた。行動制限や感染者が増えて社会が回らなくなった場合の対応などシミュレーションも行われていたが、新型コロナウイルスに対して活かされただろうか。なお人と話をする時は最低 2 m の距離をとる、お互いの方を向いて話さない、などの対策も当時から提案されていたものである。 予防方法はワクチン (*8) となるが、当時はまだインフルエンザワクチンは従来の方法で作られていた (これを執筆中の現在も同様)。つまり発育鶏卵にウイルスを接種して培養し、そこから取り出したものを断片化してワクチンの原料とするものであった。 このような製造ラインはパンデミックが起きても簡単に増やせるものではなく、また鳥インフルエンザが流行している最中に必要な鶏卵をそもそも集めることができるのか、ウイルスの毒性が高すぎて発育鶏卵で十分に増殖しない、そもそもウイルスの出現からワクチンを作るまでには非常に時間がかかるなどの議論がなされていた。 当時の日本はある意味で先進的な対策を準備していて、「日本人しか使わないだろう」と言われたタミフルも迅速診断キットも日常的に用いられており、もし当時 H5N1 のヒトの間でのパンデミックが発生すれば世界でも最も準備が進んでいた国とされていた。タミフルも迅速診断キットも次のパンデミックが必ずいつか起きることを前提に戦略的に整備されていたものだったからである。 (それに比べると新型コロナウイルスに対してワクチンも海外から輸入せざるを得なかった日本の存在感のなさは一体何がそれほど変わってしまったのだろうと愚痴も言いたくなる)
      2006 年の春の時期にもまた 2005 年と春と同じような発生があった。 中国青海省ではやはりインドガンを中心とする集団死があった。 2006年6月にはロシア・モンゴルの国境にあるウヴス・ヌール (オブス) 湖で青海湖と同規模の水鳥の集団死が発生したが、情報はほとんど出て来なかった。後にこの発生に関する論文 L'vov (2006) が発表されたことを知って (もちろん一段落してから) 取り寄せてみたがまったく読めなかったため、この論文が文法的に完全に読めるようになろうと一発奮起したのがロシア語独習を本格的に始めたきっかけである (結果的に語学知識が鳥の情報を知るのに想像以上に役に立つことがわかったのは思わぬ副産物となった)。
      この当時にはまた注目の発見もあった。2005年10月に 1918 年の「スペイン風邪」が猛威をふるった時期のイヌイットの凍結状態の遺体からウイルス遺伝子の解読の成功が伝えられ、参考記事、H5N1 との類似性や、起源としての鳥インフルエンザが改めて注目されることとなった。 Kobasa et al. (2007) Aberrant innate immune response in lethal infection of macaques with the 1918 influenza virus はこの遺伝情報をもとにウイルスを再構築することに成功し (*5)、1918 年の「スペイン風邪」が宿主の免疫反応を狂わせて死に至らせるいかに凶悪なウイルスであったかを明らかにした。 同様のことが H5N1 でも起きるのではとの示唆を与える研究であった。 インフルエンザウイルス研究の世界の第一人者である河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) が出版されたのもこの時期で、さらに知りたい方はこの本をお読みいだだくとよい。 H5N1 の発生はいったん下火となり、2009 年にブタ起源 (遺伝子の一部は鳥インフルエンザ由来だった) の新型 H1N1 インフルエンザ [A(H1N1)pdm09] がパンデミックとなったことで H5N1 の話題はしばらく忘れ去られていた。 「スペイン風邪」の末裔 (正確には 1977 年に再登場したもので、保存されていたウイルスが流出したことが原因と言われる) にあたる H1N1 は当時まで流行が続いており、この株はタミフル耐性となっていたため厄介であった (医療現場で使われる迅速判定キットでは亜型まで判別されないため、タミフルを投与しても効かない確率も高かった)。 2009 年の新型 H1N1 インフルエンザは病原性も低く、また多くの人が H1 への基本的な免疫を持っていたため大きな被害は生まなかった。タミフル耐性となっていた従来の H1N1 を駆逐したため、ある意味ではよい面もあった。ただし「新型」ゆえに生活に制約が生まれたり社会的混乱があったことは記憶されておられる方も多いだろう。現在も流行が続いている H1N1 亜型はこの株である。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン] 自分もなぜインドガンが重要な役割を果たしたのだろうと関心を持っていた一人であったが、インドガンの生態を調べているうちに衝撃の情報を発見してしまった。 インドガンはチベットなどの高地に生息するため、英語で探しても繁殖地での情報がそれほどない。仕方なく中国語で検索をしていた (漢字文化圏の者にとっては種名ぐらいならば判別でき、むしろ比較的簡単であった)。 その最中にインドガンが養殖されている記事を見つけてしまったのである (記事さえ見つかれば機械翻訳で読めばよい。英語圏の者には簡単にできない芸当である)。当時国内・世界ともガン類の研究者はいたが、このことは誰一人知らなかったとのことである。 ガン類の研究者も後から考えると飼育は簡単なので確かに商業利用に使われることは考えても不思議でないと述べていた。 商業的な飼育は 2003 年にラサから 100 km ぐらい南の湖で始まり、さらに規模を拡大していたとのこと。野生個体数が減少していたので 2005 年には飼育個体の野外放鳥も行った (青海湖の発生の後ではあるが)。 珍味であり、消費地である都市部との流通ルートも確保されていたとのこと。 詳しくは以下の論文となっているので参照されたい (第2著者で共著論文となっている。筆頭著者が獣医、第3著者は BirdLife の鳥インフルエンザ担当者): Feare et al. (2010) Captive Rearing and Release of Bar-headed Geese (Anser indicus) in China: A Possible HPAI H5N1 Virus Infection Route to Wild Birds
      この発見はメーリングリストに参加していた Nature の担当者の目にもとまり、"Blogger reveals China's migratory goose farms near site of flu outbreak" Nature 2006 May 18; 441(7091): 263 という記事としても掲載された。現在はオープンアクセスとなっているようなのでぜひお読みいただきたい。香港在住で中国の渡り鳥での感染論文を Nature に出した Yi Guan も噂は聞いたことがあったが知らなかったとのこと。
      2005-2006 年の世界進展の時も話題となっていたのだが、この「青海湖株」には特異な変異がある。それはインフルエンザの遺伝子の一つ PB2 (ポリメラーゼのユニットの一つ) の 627 番目のアミノ酸がグルタミン酸 (E) からリジン (K) に変異しているもので、専門的な表現では PB2 E627K と表記される。この表記で検索するとすぐわかるが、これは鳥インフルエンザの哺乳類への感染力を高める変異としてよく知られたものである (*7)。 先述の 1997 年に香港で人に感染を起こした H5N1 ウイルスにもまさしく同じ変異があった。 この変異は鳥の間のみで感染を繰り返して生じるとは考えにくく、最も素直な解釈は途中に哺乳類への感染が起きたもので、家畜/家禽から獲得した可能性が高い。家禽の集団は上空からも見つけやすく、野生個体が容易に混じることができて、飼育/野生インドガン個体中に定着してインドガンへの感染に適応した株を生み出したと考えると納得が行く。 ラサ周辺ではその後も発生が続き、中国の研究者は渡り鳥が帰ってきたためと解釈しているが、家禽状態のインドガン個体群中に定着していた可能性も考えられる。
      BirdLife の組織は基本的に英語圏で漢字文化圏への障壁は高かったようで、日本人ならではの貢献となったかも知れない。BirdLife にも中国の協力者はいたが鳥インフルエンザへの関心は高くなかったようでこのような情報追求はできなかったようである。
      この話は実は深いところでここ数年の問題となっている新型コロナウイルスの起源にも関わっているのではないかと考えている (同じようなことに気づいている人はきっと他にもありそうだが)。 先に紹介の ProMED に 2021年3月15日に紹介されたものだが、 WHO Points To Wildlife Farms In Southern China As Likely Source Of Pandemic というアメリカの公共放送 (NPR) のインタビュー記事がある。残念ながら日本ではこのような情報はほとんど報道されないが、WHO の Peter Daszak が現地視察で何を知ったのか紹介されている。 Peter Daszak の言葉で印象的な発言を紹介しておこう (以下の article とは 2020 年 Scientific American の記事を指す):
      He praised her and defended her staunchly in the article, which notes that Shi and he are "long-term collaborators". Daszak said: "Shi leads a world-class lab of the highest standards... It's crystal clear that bats, once again, are the natural reservoir.
      "crystal clear" の表現があまりに印象的。(新型コロナウイルスがコウモリからやってきていることは) 水晶のように澄み切った、一点の曇りもない。
      中国では野生動物を捕獲して養殖する政策がこの 20 年行われてきて、都市部と農村の貧富の差の解消にに奏功していたとのこと。この成果については NPR が 2020 年にすでに報道していた。 NPR はアメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネットワークと wikipedia にあり、これまでにも H5N1 は渡り鳥が運んでいるのか (2005-2006 年当時の状況)、などの数々の重要な専門家インタビューを紹介してきていた信頼度も高いとされるメディアである。 Peter Daszak 氏は 2020 年 Scientific American の記事 How China's 'Bat Woman' Hunted Down Viruses from SARS to the New Coronavirus (2020年6月1日) で中国のコウモリのウイルス研究者の Shi Zhengli = 石正麗 (セキセイレイ) をインタビューし、高く評価していた。この記事は日経サイエンス7月号 (2020) に掲載されたとのこと (これは読んでいない)。 Shi Zhengli が新型コロナウイルスの発生報告を聞いた時どこにいて何をしていたのか、この記事に記載されているので (インドガンの話題から少し離れるが) 2020年3月11日にオンライン公開され、4月27日に改訂された当時の記事の部分抄訳を紹介しておく ([kbird:03001] コロナウイルスの起源 2020.5.6より): SARS の発生以来 16 年コウモリのウイルスを求めて遠征を行ってきたとのこと。初めて新型肺炎のニュースを聞いた時、もっと危険な中国南部ではなく中央部の武漢で発生するとは考えておらず、中央政府が何か間違えたのかと思ったとのこと。本当にコロナウイルスならばうちの研究所が起源の可能性があるかと考えた。
      (コウモリのウイルスを求めての遠征で) horseshoe bat species の3種に SARS に対する抗体を見つけたとのこと。Shitou Cave 洞窟へと絞り込み、5年の研究で多数のコウモリ由来のコロナウイルスを見つけた。多くのものは無害だったが SARS に近いものが 10 ぐらいあった。人間の肺細胞に感染し、ネズミで SARS に似た病気を起こした。 (これらの研究の結果、現在 SARS の起源とされる野性動物にたどり着いた)。
      この洞窟近くの村の住民を調べて 3% に SARS 類似コロナウイルスへの抗体を持っていることを明らかにしたが症状はなかった。
      その3年前に鉱山で6人が肺炎になって2人が死んだ事件で調査を依頼され、鉱山で多数のコロナウイルスを見つけた。 コウモリの糞で地獄のようだった。その時の原因は真菌だったが閉鎖していなければコロナウイルスに感染するのは時間の問題だった。
      1年以上前に彼女らのチームは2本の総説論文を出版し、コウモリ由来のコロナウイルスの危険性を訴えていた。
      昨年12月30日武漢へ戻る列車の中で、患者のサンプルを検査する方法を同僚と相談していた。16 年間自分が準備してきた最悪の悪夢と戦っているように感じた。PCR でコロナウイルスに共通の配列を確認。他の研究所に送って完全配列を解読。 その間に実験室の過去数年の記録と照合し、実験ミスで漏洩があったのかを調べた。 洞窟のサンプルに該当するものがなかったことがわかって胸をなでおろした。「心の重しがようやく取れました」「数日間一睡もできませんでした」
      2021 年の調査 Daszak 氏の率いる WHO チームは中国の研究者とも長年の信頼関係があり、論文発表前の資料なども得られたのであろう。
      鳥インフルエンザに戻って、希少種インドガンを養殖して商用利用とともに野生個体を増やす事業が行われていたわけであるが、まさにこのプロジェクトの一つだったのではないかと考えると時期的にも非常によく符合するように思える。 あくまで想像に過ぎないが、もしインドガンに適応した H5N1 の株が生じていなかったら事態はどうなっていただろう。渡りのカモがやってくる状態でも HPAI H5N1 が出現した 1996 年から長い間渡り鳥の間に大きな問題は生じていなかったので、もしかするとインドガンに人為が関わっていなければ今でも中国と東南アジアの風土病程度にとどまっていたのかも知れない。
      なお、現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬していることは明瞭である。日常的に発生するようになった時期からはそうでないかと思われる。特に最初に述べた 2020 年以降の拡大速度はそれまでにも増して大きく、既知の渡り経路にも沿うものになっている。 青海湖株の発生当初に比べて野鳥への毒性が弱まり、一部の鳥に適応して渡りながら感染を拡大させることができるようになったと考えられている。[野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる] で述べたような自然界では不安定な高病原性状態が次第に低病原性に移行してゆく過程を見ていると考えられる。 ただし現在問題となっている株は変異によって毒性を高めている。一部の宿主には毒性が低く容易に運搬できるものの他の種類には毒性が強いことはあり得る。
      現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬できるようになったとはいえ、これを過去まで遡って適用するのは拡大解釈であろう。2005-2006 年の拡大パターンは渡り経路にも時期にも合わない点が多く、現時点の拡大パターンとはかなり異なっている。 現在では今も昔も同じように考えられがちであるが、当時の詳しい情報に基づく分析については前述の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」や Gauthier-clerc et al. (2007) をお読みいただければと思う。当時も指摘されていた点であるが、当時の鳥インフルエンザは同一国内ではすぐに広まるのに国境を越えるのには時間がかかったのは人や物の移動が関係していたことの表れとも言えるだろう。
      Yang et al. (2024) Synchrony of Bird Migration with Global Dispersal of Avian Influenza Reveals Exposed Bird Orders のウイルスゲノムの研究で 2.3.2.1 (過去の系統) では渡りとの相関があまり見られなかったが、2.3.4.4 (2010-2017) で相関が見られるようになり、2.3.4.4 (2018-2023) では相関が一層強まり、渡り鳥が主な運び屋になったのは 2.3.4.4 以降のよう。2.3.2.1 では移動に季節性が見られなかった。 ただし渡り鳥の経路についてはよくわかっていない部分も多く限界もある。著者はカモ目に加えてタカ目も渡りで運ぶ可能性も考えているようだが (ミサゴの写真が使われている)、2次感染や重点サンプリング種などの考察は不十分でやや誤解を招く可能性がある印象を受ける。
      Zhang et al. (2022) Airborne Avian Influenza Virus in Ambient Air in the Winter Habitats of Migratory Birds 越冬期の水鳥周辺の空気に含まれるウイルスを検出したもの。オナガガモ、コガモなどとの相関が高かった。もちろんウイルスが含まれているからと言って空気感染する可能性があるとは言えないことに注意。
      一時期「鶏インフルエンザ」の名前が使われたことがあったがこれはもちろん正式用語ではない。 Birder (2004) 18(7): 68-69 で編集部による記事で「野鳥と鳥インフルエンザ公開シンポ」の対談を取材した記事がある。主な感染相手はニワトリで「鳥インフルエンザ」と書くより「鶏インフルエンザ」と書くほうが正確だろう (動物衛生研究所 山口成夫氏の講演に基づく)。 野鳥関係者に対する講演なのでそのような表現を使われたかも知れないが、Birder のこの記事は「鶏インフルエンザ」とすべきところをマスコミが「鳥インフルエンザ」と報道したと誤解を招いた可能性があるように思う。 なお、海外でも「鶏インフルエンザ」に対応する poultry flu を世界進展の際に使われた方があったが、これは屈辱的な意味で用いられたもの。「養鶏場のウイルスがこんな貴重な鳥を殺している!」に相当する怒りの表現であった。日本で少し使われた用例とは意味が違い、当時の日本の鳥学者からもこのような見解はあまり聞かなかった。 2004 年のことでまだ理解が進んでおらず、やむを得ない部分もあったかも知れない。
      Uyeki et al. (2024) Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus Infection in a Dairy Farm Worker で2024年3月家畜からヒトへの感染が確認された。PB2 E627K を持っており、哺乳類への感染力を高める変異があるが、HA の方は鳥タイプのもので哺乳類の間で効率的な感染する能力はなさそうだが注意は必要らしい。
      Restori et al. (2024) Risk assessment of a highly pathogenic H5N1 influenza virus from mink ミンクから分離された株はさらなる PB2 T271A の変異を持ち増殖能力を増しているが致死率は下げ、"空気" 感染をより容易にしている。 A/American wigeon/South Carolina/22-000345-001/2021 (アメリカヒドリ) は北米に導入された早期の株でフェレットに対して弱い病原性を示したが、A/Bald eagle/Florida/W22-134-OP/2022 (ハクトウワシ) は北米の LPAI と遺伝子再集合を起こしたものでフェレットに対して強い毒性を示したとのこと。 まだ効率的な空気感染の能力はないものの、2.3.4.4b H5N1 の系統に少し変異が加わるとパンデミック株になる能力を持つ可能性がある。インフルエンザに免疫を持たないフェレットを用いた実験だが、多くの人が H1N1 や H3N2 を経験していて H5N1 にどの程度の交差防御機能があるかも考察されている。
      Meade et al. (2024) Detection of clade 2.3.4.4b highly pathogenic H5N1 influenza virus in New York City ニューヨークの鳥でも 1927 検体中6例に検出された (カナダガン、猛禽類、ニワトリ)。
      Guan et al. (2024) Cow’s Milk Containing Avian Influenza A(H5N1) Virus - Heat Inactivation and Infectivity in Mice 感染した牛の生乳からマウスに感染する可能性が見つかったとのこと。牛のウイルスは1クレードで牛への導入は1回の現象だったとのこと。
      Carrasco et al. (2024) The mammary glands of cows abundantly display receptors for circulating avian H5 viruses (preprint)、 Nelli et al. (2024) Sialic Acid Receptor Specificity in Mammary Gland of Dairy Cattle Infected with Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus 牛やヤギの乳腺に H5 受容体機能 (鳥型のリセプター) がある。
      Eisfield et al. (2024) Pathogenicity and transmissibility of bovine H5N1 influenza virus 現在牛で広まっている HPAI H5N1 は乳腺を含めた全身の細胞で増える (ただし乳腺を好む傾向は HPAI H5N1 の古い株でも同様とのこと)。このウイルスはヒトの上気道の受容体に結合し、効率は悪いがフェレットの間で感染する。哺乳類に感染しやすい特徴を持っている可能性がある。
      Caserta et al. (2024) Spillover of highly pathogenic avian influenza H5N1 virus to dairy cattle。疫学的に牛から牛への効率的な感染が起きている証拠があり、一見健康に見える牛を別の州に運ぶことで感染が広がったと考えられる。
      実験により牛の呼吸器ではあまり増殖しないが乳腺からミルクが主なルートとなっている: Halwe et al. (2024) H5N1 clade 2.3.4.4b dynamics in experimentally infected calves and cows

      アメリカミズーリ州で家畜との接触歴のない人の感染があった: Is bird flu spreading among people? Data gaps leave researchers in the dark (Nature news 2024.9.19)。
      最新状況 (2024.9.24 Nature review の原稿事前公開): Peacock et al. (2024) The global H5N1 influenza panzootic in mammals 現状いくつかの哺乳類の間で感染が起きており panzootic 状態となっている。次がヒトの可能性はあるのか。 従来はブタが鳥インフルエンザをヒトのインフルエンザに変える宿主と考えられてきたが、現在問題となっている牛やミンクなどが知られていなかった経路になる可能性はあるのか。
      ポリメラーゼ遺伝子は簡単に変異してすぐ哺乳類宿主に適応できるが、今のところ HA 遺伝子は変異に対して比較的選択圧がかかっているようで現在問題となっている哺乳類の間で感染する株はそれらの宿主で長期維持されていない (もちろんどこかで突破される可能性は残る)。 野生の哺乳類間は長期間維持されないが畜産動物はより大きな役割を果たしていると思われる。 これから秋を迎えるにあたり、ヒトの間で流行するインフルエンザとの間で遺伝子再集合を起こすリスクはある。アメリカでは H5N1 がブタで見つかっていない点は朗報である。
      事態が変わってきている現状で家禽にワクチンを投与すべきかの問題もある。野生動物に経口的に与えられる H5N1 ワクチンは存在しない。家禽のワクチンは感染を防止することはできないが症状を和らげる (ウイルス量を減らす) 効果はあり、中国の国家的な家禽のワクチン接種は H5, H7 に対して一定の効果を収めている。一方メキシコの H5N2 ワクチンなどはあまり成功しなかった。 家禽にワクチンを接種することで感染が潜在化したり抗原性の変異を速めるおそれも指摘されている。
      ワクチンを接種すると家禽の輸出が制限されるので輸出国はワクチンを使いたがらないが、野鳥の間で enzootic (地域流行) になっている現状では輸出制限規定を見直すべきでは。 World Organization of Animal Health (WOAH 世界動物保健機関。フランス名だった OIE 国際獣疫事務局が 2022 年に改称された) は 2023 年に家禽へのインフルエンザワクチン接種が安全な貿易の制約となるべきではないとの声明も出している。 ワクチン接種を行う場合はヒトで行われているようなモニタリングやワクチン株の更新は欠かせない。 いずれは多様なインフルエンザ株に対する万能ワクチンが開発されることが期待されるがまだ研究の初期段階である。
      現在の 2.3.4.4b 系統の H5 ワクチンは確保されており mRNA 技術を用いて大量生産は可能である (COVID-19 の例を見ると実際に使われるまでには結構かかりそうな感じはするが...)。 ヒトのパンデミックとなった場合の重症度はよくわからない。(これまでも言われてきたが) 高齢者は過去の H1N1, H2N2 感染で "刷り込み (imprinting)" (免疫の刷り込みについては 感染したインフルエンザの亡霊 nature ダイジェスト 2018 を参照 - 原著者の Declan Butler はインドガン事件の時のレポーターでもあった) があって部分的免疫を持っている可能性がある。 1968 年の H3N2 パンデミック以降の者は (抗原性が違うので) より感受性が高い可能性も指摘されている。 2009 年の H1N1 パンデミック (いわゆる当時の新型インフルエンザ) によって部分的免疫があるかも知れない。
      図にどの動物からどの動物へ感染が伝わったか、それに伴う遺伝的変化も示されていてわかりやすい。 現在問題となっている北米の株はヨーロッパのものそのままではなく、北米の野鳥の LPAI と遺伝子再集合を起こしたもの。南米にはその株が到達したが、北米では野鳥の LPAI とさらに遺伝子再集合を起こして現在牛などの間で流行する株になっている。 ヨーロッパではユーラシアの LPAI と遺伝子再集合を起こして 2.3.4.4b (そしてこれが北米に広まった)、そしてさらにユーラシアの LPAI と遺伝子再集合で 2.3.4.4b (AB) となり、さらにカモメ類に適応した H13/H16 と別の遺伝子再集合が起きて、2.3.4.4b (BB) となった。 これが現在ヨーロッパで問題となっている株 (想像: ヨーロッパで遺伝子再集合が起きやすかったのはシベリアに比べてカモメ類との接点が比較的多かったのかも)。
      オーストラリアではなぜまだ発生していないのか: Nature news Why hasn't deadly bird flu reached Australia yet? (2024.10.4)。いくつかの説が考えられているがよくわかっていない。 オーストラリアは生きた家禽を輸入しておらず、オーストラリアの多くの鳥は固有種で感染地域に渡らない。 しかし渡ってくる鳥は感染している可能性があり、ミズナギドリ類を捕獲して調べている。 カモ類がウイルスを広げている可能性が考えられているが、カモ類の上皮には RIG-I と呼ばれる "センサー" があって免疫反応 (インターフェロン) を活性化して通常はインフルエンザウイルスを排除する。 カモ類はアジアで複数回の LPAI 感染を起こすことでこのような防御機構を発達させた可能性があるとのこと。カモ類は H5N1 で発病しないかも知れないがウイルスを運ぶことはできる。
      生物地理学的理由も考えられウォレス線 (Wallace Line) でスンダ地域と生態系が隔離されており、ウォレス線の西側の種は鳥インフルエンザによく適応している一方、東側では遺伝的な違いによって鳥インフルエンザがあまり適応していないのかも知れないが実証されていない。
      この地域の多くのカモ類は長い渡りをしないが、マミジロカルガモ Anas superciliosa Pacific Black Duck や シラボシリュウキュウガモ Dendrocygna guttata Spotted Whistling Duck のような種類もあってカモ類が導入する可能性は否定できない。 オーストラリアの種の H5N1 への感受性はほとんどわからないがおそらく感受性があると推定され、ウイルスの導入があると大きな影響が及ぶ可能性がある。
      カモ類の RIG-I が自然免疫として働いている件については Barber et al. (2010) Association of RIG-I with innate immunity of ducks to influenza。 ニワトリは RIG-I が失われているとのこと。参考: Krchlkova et al. (2021) Repeated MDA5 Gene Loss in Birds: An Evolutionary Perspective。ニワトリの各種ウイルスへの抵抗力の弱さの原因の一つと考えられる。 Magor et al. (2013) Defense genes missing from the flight division も鳥類免疫の特性についての情報。いくつかの系統 (主に家禽) で失われたり部分的になった機能がある。鳥類は接する病原体の種類が比較的少ないのかも知れない。 Krchlkova et al. (2023) Dynamic Evolution of Avian RNA Virus Sensors: Repeated Loss of RIG-I and RIPLET が鳥類での系統進化を調べている。散発的に何度も失われているが意外にも古い系統の方が多く失われている。 スズメ目はほぼ完全に持っている。オウム目もほぼ完全に持っているがハヤブサ目では失われている。タカ目やフクロウ目ではほぼ完全に持っているなどここでも猛禽類の中でハヤブサ目の免疫の特異性が目立つ (ただし調べられている種類の範囲で)。オウム目とハヤブサ目は同じ系統をなすが相互にそれほど近いわけでないこともわかる。 ハヤブサ目の方が獲物由来の病原体暴露が多そうだがなぜ不要になったのか不思議な点もある。 ペンギン目やミズナギドリ目でもほぼ失われている。それぞれ系統特異的に失われたものらしい。 ツル目は別系統 (MDA5) を失っている。出水のツルで集団発生にも免疫的特性が関係しているのかも知れない (ツル目にはクイナ類も含まれることも注意。カモと一緒に暮らすことの多いオオバンにも影響があるかも)。 非特異的免疫には他のルートのものもあって冗長性に富んでいるので1系統をたまたま失ってもそれほど支障がなかったのかも。 カモ類やチドリ類はインフルエンザウイルスへの暴露が多いので保存される方向の選択圧が働いているかも (論文ではこれらの点はあまり議論されていない)。興味の中心は家禽で、キジ目で失われたのはかなり古く 4500-6500 万年前と推定されている。ニワトリでは RIG-I の遺伝子の痕跡も残っていないとのこと。代わりに MDA5 の経路が進化している可能性が述べられている。
      Salve et al. (2023) Concurrent loss of ciliary genes WDR93 and CFAP46 in phylogenetically distant birds によれば繊毛の非特異的免疫にかかわる遺伝子が離れた系統で何度も失われていることを示している。キジ目はこちらも失っているが、カモ類とガン類では異なっていてガン類の方がウイルス感受性の高い理由になり得るとのこと。 キジ目の RIG-I に比べると失われた時期が遅く、カモ類とガン類の分岐以降に起きた現象となる。 Neoaves でも散発的に失われているものがある。鳥インフルエンザと関係のありそうな種類ではエリマキシギが失っており、鳥インフルエンザの通常の研究対象外で役割はよくわかっていないがチドリ目にもウイルス保有に関係のある種類があるかも知れないとのこと。 ニュージーランドの渡りをしないミドリイワサザイ Acanthisitta chloris Rifleman でも失われており、渡り鳥が病原体を持ち込んだ場合に保全上の問題となり得る。 チャイロネズミドリ Colius striatus Speckled Mousebird は MDA5 遺伝子も失っておりどのような機構で病原体に対応しているか興味深いとのこと。
      鳥インフルエンザに対する反応がカモとニワトリでなぜ違うのかなどに関連して盛んに調べられている分野のようで、Campbell et al. (2023) Evolution and expression of the duck TRIM gene repertoire のような研究もある。 ゲノムデータを利用してどの系統や種でどの遺伝子が生じたり失われているかわかりつつある段階のよう。免疫にかかわる TRIM 遺伝子ファミリーで爬虫類特異的なものは少なめだが (爬虫類 + 鳥類共通のものはかなりあり、哺乳類を含めたすべてに共通するものも多くある)、鳥類や哺乳類に特異的なものは多く見つかっており鳥類や哺乳類の大規模な適応放散に応じて独立に生じたものと考えられる。 ここでも TRIM 類似の RNF135 はニワトリやウズラ、ペンギン、ハヤブサで共通して失われているとのこと。
      マガモが鳥インフルエンザの自然宿主として耐性を持つ理由の一つとして提案されているもの: Huang et al. (2013) The duck genome and transcriptome provide insight into an avian influenza virus reservoir species。 自然宿主としてウイルスと平衡関係を保ってきたメカニズムの一端と考えられるが HPAI の出現でマガモの免疫機能が突破された (現在のように渡りで長距離運ばれるようになる以前の研究である点は注意)。
      関連してヤンバルクイナでは MDA5 遺伝子に変異があって培養細胞で自然免疫の発動が遅いとの日本の研究がある: Katayama et al. (2023) Cultured fibroblasts of the Okinawa rail present delayed innate immune response compared to that of chicken。 ツル目共通のものかはもう少し調査が必要かも知れない。こちらもキジ目の RIG-I に比べると失われた時期が遅いと考えられる。 離島の鳥はまだあまり調べられていないだろうが、ミドリイワサザイの例もあり、系統的に調べれば離島の鳥の免疫特性などに共通性が見つかるかも知れない。
      備考:
      *1: そもそもヒトのインフルエンザと鳥インフルエンザの何が違うのかは、ヒトに感染しやすいインフルエンザウイルスをヒトのインフルエンザウイルスと呼び、主に鳥に感染するものを鳥インフルエンザウイルスと呼ぶ程度の違いである。 インフルエンザウイルスが宿主の細胞に付着して (後述の HA が関わる) 入り込む際に細胞表面の受容体 (receptor) が重要な役割を果たす。ヒト型のウイルスは α 2-6 シアル酸の受容体に、鳥型は α 2-3 シアル酸と少し構造が異なっている (よく鍵と鍵穴の関係と言われる)。 ブタは両方の受容体を持っているためどちらのウイルスにも感染することができることはよく知られていて、家禽とブタが一緒に飼育されているような環境でヒトにも感染するウイルスが生じやすいとみられている。 鳥型と言われる受容体はヒトが持っていないわけではなく肺の奥深くにあるとのことである。ヒトの上気道 (鼻や喉) では鳥インフルエンザウイルス感染が成立しにくいが、肺の奥深くまでウイルスが侵入できればその限りではない。2004 年ごろベトナムなどで小児の感染が中心であったのは小児は気道が短いため肺の奥深くまでウイルスが届きやすいとの解釈が出ていたが、その後どう解釈されたかまでは調べていない。
      鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染しにくい理由のもうもう一つに体温の違いがある。ウイルス増殖も化学反応なので至適温度がある。ヒトのウイルスでは上気道のような低い温度 (33 ℃) で増えることができるが鳥のウイルスは鳥の高い体温に最適化されているためヒトの上気道のような低い温度では増えない [河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) では第1章 pp. 32-33, p. 44 参照。 (*8) で出てくる生ワクチンはこの増殖温度を 25 ℃ まで下げた株で、毒性がたまたま弱まったものとのこと]。 実際のところインフルエンザウイルスにとっては鳥もヒトも似たようなものなのである (恒温動物以外にはインフルエンザウイルス、あるいは類縁ウイルスはそもそもほとんど存在しない)。 水鳥のように冬季に群れをなす習性とヒトが集団生活 (特に冬場は多数の人を集めるイベントなども多数行われるなど) をする習性は非常に似ていて、ウイルスが他個体に伝播して数を増やすのに絶好の場を提供している。 水鳥はおしゃべりなどをするわけではないので感染経路は糞口感染でウイルスは腸管で増える。ヒトでは飛沫感染で呼吸器で増殖するのは鳥との行動の違いを考えればわかっていただけるであろう。ウイルスがそのような経路を望んで進化してきたのではなく、鳥でもヒトでもそれぞれの個体の行動がそのような感染経路に適応したウイルスを選抜してきた結果である。 逆に言えばそのような経路を意識して離断すれば感染拡大が防げることは新型コロナでも体験済みの通り。 宿主の行動がウイルスの感染経路を決めているように思える事例として HIV や狂犬病などを思いつくことができる。
      さらに考えると恒温動物の体内は温度もほぼ一定に保たれ栄養も十分にある培養器のようなものであり、放っておくと細菌やウイルスだらけになるだろう。それを防いでいるのが免疫で、鳥類と哺乳類が極めて優れた免疫系を独立に確立した背景にはそれがないと恒温動物として成り立たなかったからであろう。 例えば爬虫類は免疫グロブリンの IgM, IgY (IgG 相当) を持っているが抗体価はあまり高くならなず、抗原特異的抗体ではなく自然免疫の方が役割を果たしているのではとの研究がある。
      鳥類は哺乳類同様の高度な獲得免疫システムを持っている。膨大な数の抗原に対応する抗体を作るいわゆる B 細胞というのは鳥類の総排泄孔近くの腸管が膨らんだファブリキウス嚢 bursa Fabricii の bursa の B が由来。鳥類においては B 細胞の成熟に必須の器官。哺乳類では独立した器官ではなく骨髄がファブリキウス嚢と同じ役割を果たしているとされている (哺乳類の話では bone marrow の B が B 細胞の由来と説明しているものもあるが、ちょっとこじつけっぽく感じる)。 膨大な数の抗原に対応する抗体は免疫グロブリンの遺伝子再構成 [V(D)J recombination, (somatic) gene conversion] という現象で作られ、鳥類ではファブリキウス嚢で起きる (これは家禽中心の話で、種類によって違うかも知れない。ハトではファブリキウス嚢除去でニワトリのように免疫不全にはならないとのこと)。 生物学の常識を覆すこの体細胞の遺伝子再構成現象は 1976 年利根川進らが発見し 1987 年のノーベル生理学・医学賞を受賞。
      鳥類の免疫について説明している wikipedia 英語版 (Avian immune system) によれば羊水から母体免疫を得るが生まれた時点では自身では抗体を生成することができない。そのため生後数週間は病原体に弱い。生後6週間 (ニワトリの数字だろう) はファブリキウス嚢で盛んに遺伝子再構成が行われる。 遺伝子再構成に使われる遺伝子部位は哺乳類では複数の V, D, J の領域がある。鳥類ではこのうち一部の組み合わせがあるのみで理論的には鳥類の方が作ることのできる抗体の種類が少ないが、鳥類では上流の偽遺伝子群が遺伝子再構成に関わって抗体の多様性を高めている。 T 細胞の T は胸腺 thymus 由来で、これは鳥類・哺乳類に共通 (鳥類・哺乳類に共通のものは共通祖先の段階ですでに存在したことを意味する。共通でないものはそれぞれ独立に進化させたと考えればよい)。 卵にも母体由来の大量の抗体が含まれ、「ダチョウ抗体」で知られるように鳥類の免疫能力は高いと言われる。
      鳥類は分泌型 IgA 抗体を持っていて粘膜に分泌し感染を防ぐ点は我々と同じ。 生後の発育においてニワトリでは粘膜の IgA は2週間後から急速に上がって3週間で定常値に達する。カモではもっと時間がかかるらしい。 爬虫類までの系統は IgA を持たないものもあり、IgA の役割は鳥類・哺乳類ほど明らかでない。鳥類・哺乳類のように子育てをする (まだ免疫の不十分な幼若な個体に乳汁として、あるいは餌と一緒に IgA を与えるなど) 必要性から一層の進化を遂げたものかも知れない (調べればどこかに書いてありそうな話だが)。
      よく調べられている鳥類はニワトリのように早成性のものが多いので、晩成性の種類では免疫の発達に異なる点があるのかも知れない [Jacquin et al. (2012) Prenatal and postnatal parental effects on immunity and growth in 'lactating' pigeons ではハトのピジョンミルクが免疫形成に役立っている可能性を示している。小鳥の人工孵化でそのう抽出液を与える必要があった小西正一氏のエピソード (#ヒガシメンフクロウの備考参照) も関係があるかも知れない。 吐き戻して餌を与える種類 (ハゲワシ類、アマツバメ類を例に挙げている) で抗体を与えている可能性が考えられている文献があるとのこと (Apanius 1998)]。
      鳥類を含む主に瞬膜を持つ動物は (鳥では眼球の後ろ) 眼窩にリンパ組織であるハーダー腺 (Harderian gland) を持ち、頭部で IgA などを産生する主要組織となっている (ハーダー腺は霊長類にはほとんどないそうだが他にもヒトのマイボーム腺同様に目の潤滑物質などを分泌し、哺乳類では毛づくろいのための脂腺やフェロモン分泌器官などとしても働いている)。 この分泌物は目から鼻腔へと流れて上気道の免疫機能の一部を担っている。
      鳥類は哺乳類にある IgD (役割は不明)、IgE を持たない。IgD は系統進化的には古くからあるが、哺乳類では量も少なく遺残物のようなものかも知れない。IgE は哺乳類ではアレルギー反応に関係する。 鳥類にもアレルギー反応は存在し、IgY が IgE 同様の機能を果たしているとのこと。
      *2: 河岡「インフルエンザ危機」では第2章 さまざまなインフルエンザウイルス の後半参照。
      *3: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 p. 35 に模式図がある。
      *4: 抗インフルエンザ薬には主に3系統がある。アマンタジン (amantadine) が最初に用いられたもので、A 型インフルエンザウイルスの M2 タンパク質のプロトンチャンネルを阻害し、ウイルスが細胞外に出るのを妨げる (現在では耐性のためほぼ使われていない)。
      鳥インフルエンザは A 型なので本来効果があり、1997 年にヒト感染した時にまだタミフルが臨床現場で用いられなかったので使われた (耐性は持っていなかった)。同じ系統の薬にリマンタジンがある。 ちなみにこれらの薬はアダマンタンという対称性の高い炭化水素骨格を持ち、炭素骨格がダイアモンドと同じであることからこの名前が付けられた。有機合成化学でも歴史的意義を持つ物質。 中国の鳥インフルエンザが問題となっていた時期、中国ではアマンタジンをニワトリに与えているとの噂が出ていたが真偽のほどは不明 (そんな高価な薬をニワトリに与えないだろうと言われていた)。 また中国では市販の風邪薬成分にアマンタジンを含むものがあって薬のパッケージ写真まで紹介されていたがこちらも真偽のほどは不明。
      本文中にあるノイラミニダーゼ阻害薬がタミフルなど4種類。その後開発されたゾフルーザはウイルスの RNA ポリメラーゼの一部をなすキャップ依存性エンドヌクレアーゼに作用してウイルス複製を阻止する。 アビガンも RNA ポリメラーゼ阻害効果のある薬で新型コロナでも話題となったが期待されたほどの効果がなかったことはご存じの通り。現在市場流通していない。
      *5: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線 に基本的な技術の解説がある。インフルエンザウイルスの人工合成 (リバース・ジェネティックス reverse genetics) は著者のグループが 1999 年に最初に成功 (pp. 129-133)。「スペイン風邪」ウイルスのリバース・ジェネティックスによる復元はこの著書の書かれた後に行われた。
      *6: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 新型インフルエンザの足音 pp. 22-25 に考察がある。マスコミが「渡り鳥犯人説」を盛んに取り上げていたが、著者の考察はもう少し慎重である。 韓国で 2003 年に流行していたが当時は詳細が公表されず、事件や被害が報告されたのは2004年2月になってからであったことも記されている。 また食材として大量のニワトリを日本にも輸出していたタイも感染が広まっているにもかかわらず輸出先に知らせず、鳥インフルエンザに感染した子供がいることのリークがメディアにあってようやく2004年1月に公式に認めたことも書かれている。 この著書は2005年8月に書かれたもので、H5N1 HPAI のロシア進展の最中だった。「あとがき」でそのことも、日本ではほとんど話題になっていなかったことも触れられている。当時マスコミに出るウイルス学者は「渡り鳥犯人説」が主流であったが河岡氏は終始慎重な記述を行っていた。
      *7: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線「たった1個のアミノ酸がウイルスの毒性を左右した」(pp. 122-126)。 この変異が哺乳類への適応を高める分子機構が明らかになった: Arragain et al. (2024) Structures of influenza A and B replication complexes give insight into avian to human host adaptation and reveal a role of ANP32 as an electrostatic chaperone for the apo-polymerase
      *8: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 新型インフルエンザから身を守るには に興味深い記述がある。(引用開始) 1962 年から 94 年まで、日本中の小学校でインフルエンザワクチン接種が義務付けられていた。(中略) 学童のインフルエンザワクチン集団接種は、子供たちで増えるインフルエンザウイルスの量を減らすことにより、社会全体におけるインフルエンザウイルスの量を減らしていたわけだ。 こうしたシステムを採用していたのは日本だけで、国際的にも注目されていた。 しかし 1994 年に予防接種法が改正され、学童への集団接種は中止されてしまった。改正のきっかけになったのは、一部の人たちが「インフルエンザワクチンの集団接種は効いていない」という説を唱えたことだった。この説への対応が正しくなされなかったために、集団接種が任意接種に変更されてしまったのである 。 (中略) そしてその結果はというと、インフルエンザにかかる人が増加し、死亡者も増えてしまったのである。 一方的な解釈で「ワクチンは効かない」とした人の意見を通したために、多くの犠牲者がでてしまった。 ワクチン集団接種中止に関わったすべての関係者の責任は、ひじょうに重い。(中略) 今、インフルエンザ被害を最小に食い止めるためにワクチンが必要不可欠であることに異議を唱える専門家はほとんどいない。 しかし、世界に誇れるシステムであった学童への集団接種は、社会全体のインフルエンザ量を減らすために "子供を利用して" いるという理由から、再開されることはないだろう。(引用終わり)
      アメリカのワクチン事情、生ワクチンのことも記されている。アメリカでは 2003 年から (日本でも使われている) 不活化ワクチンに加えて年齢制限はあるが生ワクチンも接種可能となったこと、スーパーで簡単に接種を受けられ、相対的に安価で高齢者は無料であったとのこと。著者は一日も早く日本の子供たちが生ワクチンを接種できることを願っていると記している。 [追記: 2023年3月 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの 2 歳から 19 歳未満に対する使用について、薬事承認された。厚生労働省ページより]
      前述のように呼吸器感染症のように外部から病原体が侵入する場合、粘膜の IgA が感染成立を防ぐ役割は大きい。抗原を注射するタイプのワクチンでは IgA 誘導能力は十分高くないのでしばしば感染を防ぐ効果よりも重症化を防ぐ効果が説かれる。新型コロナウイルスの mRNA ワクチンによる実験では IgG, IgA のいずれも誘導されたが IgA の方が早く低下したとのこと。 鼻腔や点眼で投与できるワクチン (上記のようなインフルエンザ生ワクチンや無害なウイルスに遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換えワクチンなど) の方が効果が高いと言われるゆえんである。鳥における鳥インフルエンザワクチンでも点眼、鼻腔で接種できるワクチンの研究が行われているとのこと。 これらの情報は報道記事などを読む時にも役立つかも知れない。
      鳥インフルエンザ同様、鳥類・哺乳類に共通するウイルスとしてウエストナイル熱ウイルス (西ナイル熱ウイルス, West Nile Virus, WNV) がよく知られていて、1999 年北米に毒性の高い株がおそらく人為 (イスラエルで分離された株に最も似ていた) によって持ち込まれ惨劇をもたらした (現在も継続している) ことはよく知られている通り。 レビュー論文: Saiz et al. (2021) Pathogenicity and virulence of West Nile virus revisited eight decades after its first isolation。 WNV は温暖化の影響も受けてヨーロッパ (イタリア北部低地やバルカン半島など) で拡大している: Erazo et al. (2024) Contribution of climate change to the spatial expansion of West Nile virus in Europe。 蚊が媒介するため niche modelling は他の生物分布の推定と基本的に同じ。
      西ナイル熱ウイルスに近縁のウイルスはよく知られたところでは日本脳炎ウイルスがあるが、他にも西部ウマ脳炎 (Western Equine Encephalitis Virus, WEEV) などもあり、これも感染環は鳥と蚊の間で維持されており、哺乳類にも感染する。日本の感染症法では日本脳炎、ウエストナイル熱同様に4類感染症に分類されている。 WEEV は 1930 年に発見されたウイルスで 1960 年代にはアメリカで多くの患者が出たが近年は見られなくなった。その原因を明らかにした論文が発表された。Li et al. (2024) Shifts in receptors during submergence of an encephalitic arbovirus。 哺乳類受容体への結合能力を失ったが鳥の受容体への結合能力は引き続き持っている。爬虫類にも存在するとのこと。この変化が農業様式の変化で農地のウマが減ったためなどの要因で哺乳類感染の適応度が減少したことによるものか、ウイルス自身の遺伝的浮動によるものかはよくわからないが、再度感染力を持つ株が現れる可能性もあるとのこと。
      鳥とは関係がないが、新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) の分子系統解析によって、ヒトからの感染で野生動物に広まっていることが判明。特に 2023 年には顕著。 野生動物側からは自分たちにとって外来病原体を増殖してばらまく困った宿主に見えるだろう: Goldberg et al. (2024) Widespread exposure to SARS-CoV-2 in wildlife communities
  • ハクガン
    • 学名:Anser caerulescens (アンセル カエルレースケーンス) 青みがかったガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:caerulescens (adj) 青みがかった (caeruleus (adj) 青い) #カタグロトビの備考参照
    • 英名:Snow Goose
    • 備考: anser は#ハイイロガン参照。 caerulescens は後半の2つの e が長母音で前者にアクセントがあると考えられる (カエルレースケーンス)。学名に使われるのみのようで古典式発音は確かでないが文字表記より推定。最後に長音が現れるのはおそらく scena あるいはギリシャ語 skene に長母音が含まれるためだろう。 中央に長音が現れるのは例えば quiescens (英語でも quiescent は e にアクセント) などと同様か。ラテン語接尾辞で -esco, -escere 由来ならば e は長母音。
      2亜種あり (IOC)。 日本で記録されるものは基亜種 caerulescens 亜種ハクガン とされる。亜種 atlanticus (大西洋の) オオハクガンは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で検討亜種。絶滅危惧 IA 類 (CR)。IUCN 3.1 LC 種。
      1980年代から 「東アジアにおけるハクガン Anser caerulescens の復元計画」が行われた。以下の資料を参照。 ハクガン復元計画資料館・暫定版 (日本雁を保護する会 JAWGP)、 シジュウカラガン・ハクガンの回復・復元計画の経過と課題 (呉地正行)。
      ロシアのハクガンの繁殖地はウランゲル島が唯一知られているがそれらは米国に渡る。東アジアの渡り経路はほぼ消滅しているのにカムチャツカで群れが見られた カムチャツカのハクガンの報道 (2020)。家族で移動する習性があるのに親鳥がいないのは不思議だとのこと。 上記日本雁を保護する会の情報によれば 2019 年、2020 年とも日本の越冬個体群が多く、繁殖が順調な年は幼鳥率も高いとのこと。繁殖成功率が高い年は、幼鳥だけの群れでさまよって、これまであまり見られなかった地域に出ることがよくあるとのこと [故シロエチコフスキー氏による。澤祐介氏 kbird:05134 (2022.7.15) からの情報による]。 サハリンと千島の記事 (2020) サハリンや千島での目撃例が増えているとある。Andrej Zdorikov が話を説明しており、保護区ができてから個体数が増えて、カムチャツカでは RDB にも記載された。 今年はサハリンや千島でハクガンだけの群れが見られるようになって、大陸の個体群の復活を意味するとある。 国後島で初のハクガンの群れの渡来 (2019)ロシア極北のガンはどこへ飛ぶ の記事 (2018) もあり、過去からの変遷や標識方法、繁殖地 (ヨーロッパ方面も含む) の写真などが出ている。いずれも機械翻訳で問題なく読めるだろう。 ハクガンのロシアでの分布はごく限られているので、我々が想像するようにロシアの人に身近な種類ではないようである。
  • ミカドガン
    • 学名:Anser canagicus (アンセル カナギクス) カナガ島のガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:canagicus アラスカのアリューシャン列島 Canaga 島/Kyktak 島/Kanaga (アリュート語)島 から。アラスカのエスキモーは自身を Kanagiamoot (Kanag の住民) と呼ぶとのこと (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Emperor Goose
    • 備考: anser は#ハイイロガン参照。 canagicus はすべて短母音としてラテン語読みならば "カギクス" と推定される。
      単形種。カナガ島はタイプ標本の産地。
  • シジュウカラガン
    • 学名:Branta hutchinsii (ブランタ フトゥキンスィイ) ハッチンスの黒いガン
    • 属名:branta 古ノルド語 Brandgas (焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの (#コクガンの備考も参照)
    • 種小名:hutchinsii (属) ハッチンス (Thomas Hutchins 英国の外科医) の (ラテン語化 -iusを属格化)
    • 英名:[Canada Goose 分離前の名称], IOC: Cackling Goose
    • 備考: branta は外来語由来で発音はよくわからないが短母音と考えれば日本語の通常の読み通り "ブンタ" と推定される。 hutchinsii はラテン語的読み方では "フトゥンスィイ" と推定される。"ハッチンス" の音とはだいぶ違うが、英語の母音の発音の方が特異なためでここではラテン語的読みを採用しておく。 canadensis は "カナンシス" または "カナデーンシス"。 亜種名の leucopareia はギリシャ語からの合成語で発音は明確でないが、pareion の e が長母音のためここを長母音とするとアクセント的にも都合がよい (レウコパレーイア)。
      4亜種が認められている (IOC)。 日本で認められる亜種は leucopareia (leukos 白い pareion ほお Gk) 亜種シジュウカラガン と minima (最小の) ヒメシュジュウカラガン、及び亜種不明とされる。 亜種 taverneri (カナダの鳥類学者 Percy Algernon Taverner に由来) アラスカシジュウカラガン (チュウシジュウカラガン) が検討亜種に含まれている。 かつてはカナダガン Branta canadensis 英名 Canada Goose と同種とされ、(外来種を含む) 現在のカナダガンを指してシジュウカラガンと呼ばれていた (またはその逆) ために混乱があった。現在の分類でのカナダガンには7亜種が認められている (IOC)。ガン類の分子系統分類については#ヒシクイの備考参照。Branta canadensisBranta hutchinsii は結構離れている。
      先崎 (2019) Birder 33(11): 46-49 にあるシジュウカラガンとカナダガンの分類を紹介しておく。 出典は Reeber (2015) "Waterfowl of North America, Europe and Asia" とのこと。

      種シジュウカラガン Branta hutchinsii
       亜種シジュウカラガン B. h. leucopareia
       ヒメシュジュウカラガン B. h. minima
       アラスカシジュウカラガン B. h. taverneri (検討亜種)
       (基亜種) B. h. hutchinsii (国内未記録)

      種カナダガン Branta canadensis
       チュウカナダガン B. c. parvipes (検討亜種)
       オオカナダガン B. c. moffitti (外来種)
       亜種カナダガン B. c. canadensis (国内未記録)
       ナイチカナダガン B. c. interior (国内未記録)
       オニカナダガン B. c. maxima (国内未記録)
       クロカナダガン B. c. occidentalis (国内未記録)
       オオクロカナダガン B. c. fulva (国内未記録)

      亜種シジュウカラガンは種 Anser leucopareius Brandt, 1836 として記載されたもの。 シジュウカラガンはかつて千島列島からアリューシャン列島で繁殖していたが 20 世紀初頭、毛皮目的でアカギツネやホッキョクギツネが繁殖地の島々に持ち込まれ激減した。更に渡りの途中や越冬地での狩猟圧も加わって、個体数は急激に減った。1938-1962 年まで観察記録が途絶え、絶滅したと考えられた。 1963 年にアリューシャン列島のバルディール島で偶然再発見され、保護活動が開始された (雁の里親友の会)。日本雁を保護する会と八木山動物公園・米国魚類野生生物局による保護計画が開始され、米国魚類野生生物局から譲渡された個体を八木山動物公園で飼育下繁殖させる試みが進められた (wikipedia 日本語版、呉地正行) が渡りの復元には至らなかった。 その後、日米露3国のプロジェクトとしてロシアのカムチャツカのゲラシモフ夫妻が飼育下繁殖させ、1995 年千島列島エカルマ島での放鳥を開始して現在の東アジアの渡りの復活につながっている。それ以前は亜種 minima ヒメシュジュウカラガンとともに迷鳥であった。 呉地正行・須川恒編「シジュウカラガン物語」(京都通信社 2021) で詳細を読むことができる。ゲラシモフ夫妻による (夫人は亡くなられた) 「ガンとともに 20 年」(ロシア語) に当時ロシアの厳しい状況や飼育の詳細、主にロシア側から見たシジュウカラガン復活プロジェクトなどが記されて公開されている。映像も多数含まれている
      英名の括弧内はカナダガンと分離される前の名前。ロシア語ではコクガン属のガンを kazarka、他を gus' と区別して呼んでいる。
  • コクガン
    • 学名:Branta bernicla (ブランタ ベルニクラ) エボシ貝から生まれた黒いガン
    • 属名:branta 古ノルド語 Brandgas (焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの
    • 種小名:bernicla (合) 伝説、エボシ貝から生まれた (barnacle エボシガイ 英)
    • 英名:Brant Goose
    • 備考: bernicla は外来語由来で発音が明確でないが、規則からは冒頭がアクセント考えられる (ルニクラ)。英語の barnacle も冒頭アクセントなので対応はよい。
      3亜種あり (IOC)。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版以降では亜種名は orientalis (東洋の) から nigricans (黒っぽい) に変更されている。 カオジロガン Branta leucopsis (英名 Barnacle goose) とコクガンは長く区別されていなかった。エボシ貝から生まれた伝説は 12 世紀まで遡り、John Gerard は貝から生まれるのを目撃したと伝えている。伝説は 18 世紀まで続いた (The Key to Scientific Names)。
      ガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) (#ヒシクイの備考参照) を参照。 現在どちらも Branta 属 (コクガン属) であるが、黒っぽいコクガンの亜種グループとカナダガンのグループはそれなりによく分離した系統で分岐年代もコクガンとそれ以外が 670 万年前、アオガン Branta ruficollis 英名 Red-breasted Goose (日本鳥類目録改訂第8版で掲載予定) とカナダガンのグループとの分岐年代が 580 万年前と見積もられている。 同じコクガン属であってもコクガンとカナダガンとはかなり系統が違っていることは意識しておいてよいだろう。ハワイガン Branta sandvicensis 英名および現地名 Nene (英名別名 Hawaiian goose) はこのうちカナダガンの方のグループで、初期に分化した種類と考えられる。野生での観察がなかなか難しいと言われるが至近で見た経験があるのがちょっとした自慢である (ハワイ島)。
  • コブハクチョウ
    • 学名:Cygnus olor (キュグヌス オロル) 白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:olor (m) 白鳥
    • 英名:Mute Swan
    • 備考: cygnus は#オオハクチョウ参照。 olor は短母音のみで語末は伸ばさない (ロル)。
      kuknos 白鳥 (Gk)。ギリシャ神話で Cycnus の名を持つ少なくとも3人が白鳥に変えられた。単形種。英名は他のハクチョウ類に比べて静かなの意味で、鳴かないわけではない。ヨーロッパや中央アジアに主に分布するがユーラシア東部にも離散した分布域がある。世界の他地域で移入種となっている。 系統的に最も近いのはオーストラリアのコクチョウ Cygnus atratus 英名 Black Swan と南米のクロエリハクチョウ Cygnus melancoryphus 英名 Black-necked Swan。少なくとも前者は世界の他地域にも移入されている。
      種小名の olor はインド・ヨーロッパ祖語の *hiel- (水鳥の一種) に由来とのこと。古ノルド語 alka (後の auk) とも同根とのこと (wkitionary)。ラテン語では主にハクチョウの詩的な表現で使われるとのこと。olor には英語 odor に対応する語義がある (スペイン語の olor はこちらの意味) が語源が別とのこと。
      コブハクチョウは飛翔時に強い音を出す。これは夜間飛行の際の衝突を防ぐ効果があるとも言われる。 リヒャルト・ワーグナー作曲の「ニーベルングの指環」の第1幕の有名な「ワルキューレ」(Die Walkuere, Valkyries。皆もが聞いたことのある音楽だろう) はコブハクチョウの飛翔時の音に着想を得たとのこと [Peter Young "Swan" Reaktion (2008)]。 英語の swan の語源は遡るとサンスクリット語 svanos で音を意味するとのこと (同上)。
      近年になって絶滅した "swan" と呼ばれる鳥にモーリシャスの Mascarene Swan と呼ばれるものがある。現在はツクシガモに近い仲間と考えられ Alopochen mauritiana Mauritius Sheldgoose と呼ばれる。最後の目撃は 1668 年モーリシャス島、1670 年レユニオン島とされる。外来種や生息環境の破壊が原因とされる。 ニュージーランドにも New Zealand Swan Cygnus sumnerensis が生息しており、こちらは Cygnus属で一時期はコクチョウのニュージーランド亜種と考えられていたが遺物の遺伝情報解析で別種となった [Rawlence et al. (2017) Ancient DNA and morphometric analysis reveal extinction and replacement of New Zealand's unique black swans]。 Alice Klein Mysterious mega-swan once waddled through New Zealand (New Scientist 2017)。 最後の個体群がチャタム島に生息していたが人が住むようになって 1650 年絶滅とのこと。 コクチョウよりもさらに大型でマオリ名では pouwa と呼ばれていた (wikipedia 英語版)。
      black swan theory ブラック・スワン理論というのは、「ありえなくて起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合、「予測できない」、「非常に強い衝撃を与える」という理論とのことである。 ヨーロッパでは白鳥は白い鳥だけと思われていたが、1697 年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたとのこと (wikipedia 日本語版)。チャイコフスキーの「白鳥の湖」では黒鳥のオディールが出てきて、このバレエの見せ場の一つとなっているが、年代を考えるとチャイコフスキーは黒鳥のことは知っていたのだろうか。 コクチョウを黒くする遺伝子がごく最近同定された。Karawita et al. (2023) The swan genome and transcriptome, it is not all black and white。 これによれば SLC45A2 という遺伝子の違いがコクチョウを黒くすることを決めているとのこと。
      [鳥類の頸椎] 鳥類の頸椎が多いことはよく知られていて、11 (下の値は出典によって異なる) から 25 個と呪文のように覚えている人もあるだろう。最大値の 25 個はなぜか出典による違いはなく、しかも丁寧に「ハクチョウ(類)」と添えてあることがある (この原稿の執筆中に専門家の文章でタンチョウの頸椎が 25 個と書いてあるのを見つけてしまった。ハクチョウをタンチョウと書き間違えてしまったのかも知れないが、「首の長い鳥は 25 個」は案外広まっている誤解なのかも知れない)。 鳥類豆知識の好きな方にとってはこれは格好の題材で、ハクチョウ類を見てこのように説明されている方もあるだろう。実際はどうなのだろうかと調べてみたことがあるが、鳥類の頸椎数をまとめて表にしたような文献はなかなか見当たらず (科や目ぐらいの分類群ぐらいでは載っている本がある)、水鳥については Woolfenden (1961) Postcranial morphology of the waterfowl にまとまっている。 自分が調べた範囲では、ハクチョウ類で頸椎数 25 個はコクチョウとコブハクチョウの一部 (24-25 個とある) だけで、間違いなく 25 個と言ってよさそうなのはコクチョウのみのようである。つまりに日本で普通に越冬する種類としてみかけるものは 25 個と言ってはいけない。 コハクチョウは 22-23 個、オオハクチョウは 24 個とのことである。それぞれ識別点にもなるぐらいでハクチョウ類(およびカモ類)では首の長さと頸椎数がよく相関していることがわかる。コブハクチョウやコクチョウはたまには野外で、また飼育されているものも多いので見る機会も多いだろう。コクチョウは日本のハクチョウ類に比べて一段と首が長いことがわかる。
      これだけでも普段の観察時に「マニアック知識」として役立ちそうだが、では他の首が長い鳥はどうなっているのか気になる方もあるだろう。別の出典ではフラミンゴは 19 個、ヘビウ 20 個などとある。首が長いサギ類 (Ardeae) は 19-20 個となっている (出典により多少異なり、後に出てくる Boehmer et al. の部分も参照)。ハクチョウ類は数で勝負、フラミンゴは骨を長くする戦略になっていることが読み取れる (なぜそうなっているのかは知らないが)。 ただし鳥類の頸椎数は「ヒトの頸椎は7個」のように単純に割り切れない部分もある。鳥類の頸椎下部には頸肋(骨) (cervical rib) が存在し、どこまでが頸椎でどこからが胸椎とするかは資料によって異なる。ここで用いた数字は肋骨が前方で完全に癒合するところからを胸椎とする数え方によっているが、頸肋骨のある脊椎を胸椎に数える著者もある。 この場合数が約2個異なる。13(2) 個のような書き方は括弧内が頸肋骨のある脊椎の数を意味する。前者の数え方ではこの場合は 15 個になる。「フクロウの首の骨はいくつ?」と聞かれても明瞭に答えにくいのはこういう事情もある (なおフクロウの首の骨が鳥類の中で多いわけではない。後の Boehmer et al. や #フクロウの備考参照)。 タンチョウとナベヅルの研究例があるので参考までに Hiraga et al. (2014) Vertebral Formula in Red-Crowned Crane (Grus japonensis) and Hooded Crane (Grus monacha)。 タンチョウ、ナベヅルともに 17 個が基本のようだが 18 個の個体もあるとのこと (この文献に他の種類の文献が出ているので必要な方は調べられるかも)。この数字は記述からはおそらく頸肋骨のある骨の数も含めていると想われるが、引用されている文献は必ずしもそうでなさそうである。
      鳥類の頸椎は頸椎数はまだともかく、長さの測定値があまりないようである。首の長さは生態や重心などを決める因子として大きく関係があるはずで、データベースがあればよいのだがどうもなさそうである (研究者も分析因子として使えないので困っている模様。 後の Boehmer et al. を参照して脚の長さで代用されることもあるがこれはちょっと...と感じる)。これは四肢の骨のような測定が難しいことと、真面目に調べようとすると多数の頸椎を測定して足し合わせる (化石生物だとこのようにするしかないが、軟骨や、哺乳類だと椎間板の厚みをどう評価するかなど一筋縄では行かないようである) ことが必要になって研究者があまり取り組みたくないテーマだろうことが背景にあることは想像できる。 3次元 CT を使えば多少は問題が緩和されることになるかも知れないが、調べられているのは少数に限られるようである。
      近年個々の頸椎を真面目に測定して足し合わせた論文 (上記のように軟骨が含まれないので生体ではもう少し長くなるはず) がある。Boehmer et al. (2019) Correlated evolution of neck length and leg length in birds で、詳しくはご覧いただきたい。 この文献は頸肋骨のある骨は数えていないので個数は上記のような数字より約2個少なくなっている (そのため最大 23 個になっている)。103 種を調べた結果では鳥類の頸椎数は 10-23 個 (頸肋骨のある骨も数えると多分2増える) で、両端はごく少数で 11-19 個が一般的な範囲のようである (この文献はオウム類を多数調べているので数の少ない種類が多く、頻度分布はあまり参考にならない)。 鳥類の頸椎は進化にも関連して近年興味を持たれているテーマのようで、Marek and Felice (2023) The neck as a keystone structure in avian macroevolution and mosaicism の3次元 CT を使った論文が出ている (調べられた種類はまだ少ないようだが)。#クロハゲワシの備考も参照。 鳥類の環境への適応として頭部や翼の形状が重要なのは簡単にわかるが、それだけでは不十分で、頭部、首、翼を一体として捉える必要があるとのことである。頸椎の形態の進化速度も議論されていて、大きなグループの分岐点では進化も早いことが示されている。
      水鳥はかなりよく調べられていて、#リュウキュウガモの備考で現代的な分子系統樹に基づく考察を行ってみた。
      鳥類の頸椎数はこのように種類によって異なり、哺乳類では一部の例外を除いて7個であることもよく知られている。問題はむしろ哺乳類の頸椎がなぜそれほど厳格に7個に定まっているのかと言うこともできるだろう。これは哺乳類には横隔膜があるため、という説がある Buchholtz et al. (2012) Fixed cervical count and the origin of the mammalian diaphragm。 もしこの説が正しいならば、鳥類は優れた気のう (air sacs) システムがあるため横隔膜が必要ないところにまで由来を遡ることができることになる。 哺乳類は鳥類に比べて「呼吸器システムの初期設計を誤った」とも言われることがある通りで、インドガンのような高所活動はとてもできない (#インドガンの備考にあるようにそれ以外にも低酸素環境に対応できる哺乳類と異なる生理機構がある)。 鳥類の呼吸器システムの基本設計はさらに頸椎数の自由度を通じて多様な環境に適応できる一要因ともなっているのかも知れない。

      広い分類群において長い首は何のために進化したかを統一的に説明しようとしたレビュー: Wilkinson and Ruxton (2012) Understanding selection for long necks in different taxa 鳥類現世種ではおおむね採食行動に関係しているとされるが、水鳥やダチョウでは高さを増すためにまず足の長さを増したがそれに伴って首も長くなったとの解釈。魚食の鳥では逃げるのが速い獲物を捉えるための加速度を得る機構として進化したと考えられる (#カワウの備考 [ウの視力] とも整合する)。ハクチョウ類やハゲワシ類では食物に届くのに役立っている。 ガン類はこれでは説明できず遠くを監視する役割の方が大きそうだが、低い位置を採食する行動においてエネルギー的に有利かも知れない (草食恐竜などになされる説明と同様)。 首の長いハトの品種とキリンに関係して #ハチクマの備考 [フィリピンのハチクマの不思議] でも少し取り上げている (一度まとめたため記述が少し分散している。ハクチョウ類やガン類の話が含まれるためこちらに一部分離した)。 キリンの首では現在も性選択の論争が続いている。かつては恐竜でも性選択説も提唱されていたらしいがさすがに反論が多い模様。
      [鳥類の形態データベース] なお、近年の鳥類の形態データベースとして AVONET があり 11009 種、90020 個体の測定値が含まれているとのこと [Toblas et al. (2022) AVONET: morphological, ecological and geographical data for all birds]。これには頸椎の情報は含まれていない。 このデータベースは R のパッケージとして公開されており、生物学者の基本言語が圧倒的に R であることも感じさせる。このデータをダウンロードし、少し R で作図をすれば自分の興味ある分類群の生態と形態 (例えば脚の長さ)との関係などを手軽にプロットして楽しむことができる (#ハイタカの備考参照)。興味ある方は試していただきたい。
  • ナキハクチョウ
    • 学名:Cygnus buccinator (キュグヌス ブクキナートル) ラッパ手の白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:buccinator (m) 頬筋、bucinator (m) ラッパ手
    • 英名:Trumpeter Swan
    • 備考: cygnus は#オオハクチョウ参照。 buccinator は a が長母音でアクセントもここにある (ブクキナートル)。 英語にも同じ綴りの単語があり、アクセントは冒頭で a は2重母音で発音するなど全体の音はだいぶ違う。
      単形種。
  • コハクチョウ
    • 学名:Cygnus columbianus (キュグヌス コルムビアーヌス) コロンビア川の白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:columbianus (adj) コロンビア川の (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(Whistling Swan これは通常アメリカコハクチョウを指す英名)。コハクチョウは Tundra Swan または Bewick's Swan が適切と思われる。IOC: Tundra Swan
    • 備考: cygnus は#オオハクチョウ参照。 columbianus は a が長母音でアクセントもここにある (コルムビアーヌス)。接尾辞 -anus の一般的読み方。
      2亜種とされる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では2亜種が記載されていた。 jankowskyi (jankowskii の綴りも使われる) ポーランドからシベリアに流刑され刑期を終えて居住した博物学者 Michal Jankowski に由来。Michal の最後の l は斜め棒が入るが、ポーランド語では英語の "w" に相当する発音になる。ポーランド語の w は [v] の発音になる。 ロシア綴りでは Mikhail Ivanovich Yankovskij となるが姓の部分の発音は同じ。 Jankowski の名前は極東地域の鳥類や他の分類群にもしばしば現れるので知っておくとよい。「ヤンコフスキー家の人々」(遠藤公男 講談社 2007) がある。コハクチョウと columbianus アメリカコハクチョウであるが、パブリックコメントにて前者は bewickii (英国木版画師 Thomas Bewick に由来) であるべきと指摘された。 多くのリストでは jankowskyibewickii のシノニムとしており、これが採用される見通し。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でそうなっている。C. c. jankowskii を用いて、他亜種との遺伝的違いを調べている論文はある [Wang et al. (2014) Complete mitochondrial genome of Tundra swan Cygnus columbianus jankowskii (Anseriformes: Anatidae)] が、亜種の妥当性を議論したものではなく、種小名の選択も適切でないように思える。 C. columbianusC. bewickii を別種とするリストもあった。 現在の世界のリストでは同種として扱われるようになった。
      2種を認め、亜種 jankowskyi を認める場合は、Dement'ev and Gladkov (1952) に示されているように C. bewickii の亜種とする扱いが適切と思われる。論文にはいずれの表記も現れる。 2種を他の北極のハクチョウ類とともに亜属 Olor として扱う考えもある。
      Kbird にて須川恒氏より尾崎清明さんからの情報としてロシアのガンカモ類渡りのアトラス (英文) が紹介された: Kharitonov et al. (2024) Migration Atlas of European species of palearctic Anatidae with the population outline (from the data of the Bird Ringing Centre of Russia)
      Peter Young "Swan" Reaktion (2008) ではハクチョウ飛来地で3月に旅立ち前の催しが開催されるとして下田公園・間木堤 (八戸北丘陵下田公園) が紹介されているが東京の南西と書いてあって何か誤解されているようである。実際は青森県。
  • オオハクチョウ
    • 学名:Cygnus cygnus (キュグヌス キュグヌス) 白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:cygnus (トートニム)
    • 英名:Whooper Swan
    • 備考: cygnus は短母音のみで発音上の問題なし。英語読みだと "シグナス"。
      単形種。 Cygnus 属は Bechstein (1803) が導入した Ornithologisches Taschenbuch von und fuer Deutschland
  • ツクシガモ
    • 学名:Tadorna tadorna (タドルナ タドルナ) ツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorne ツクシガモ 仏)
    • 種小名:tadorna (トートニム)
    • 英名:Common Shelduck
    • 備考: tadorna は外来語由来で発音はよくわからないがアクセント位置は -dor- と考えられる。すべて短母音とすれば日本語の自然な読みと同様 "タルナ"。この単語の存在するポルトガル語でも同じ発音になっている。
      tadorne ツクシガモ (仏) の語源はケルト語で白黒の水鳥、英語の shelduck < sheld (染め分けた) duck とほぼ同意義。単形種。
  • アカツクシガモ
    • 学名:Tadorna ferruginea (タドルナ フェルルーギネア) 鉄錆色のツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorne ツクシガモ 仏)
    • 種小名:ferruginea (adj) 鉄錆色の (ferrugineus)
    • 英名:Ruddy Shelduck
    • 備考: tadorna は#ツクシガモ参照。 ferruginea は u が長母音でアクセントもここにある (フェルルーギネア)。-rr- を単音とする発音もあるが u が長母音でアクセントがある点は変わらない (フェルーギネア)。
      主に中央アジアを中心に繁殖する種。アジアのものは冬はアジア南部に渡る。アフリカの一部に留鳥の孤立個体群が存在。単形種。
      #カンムリツクシガモの標本の記述で気づいたが、Tadorna casarca または Casarca casarca の学名が使われていた時代があった。 これは Anas casarca Linnaeus, 1768 で用いられた学名で、 Anas ferruginea Pallas, 1764 (Vroeg's Cat. Adumbr. で無記名で記載した学名。おそらくそのため後世もしばらく Linnaeus の学名が使われていたのだろうか) の方が早かったためこちらが採用されるようになった。 casarca はロシア語由来で小型のガン (シジュウカラガン) やツクシガモ類を指す kazarka から。タタール語の karakchas (黒いカモ) に由来するとのこと。この種小名を昇格した属名 Casarca も使われていたことがあった (The Key to Scientific Names)。
      #カンムリツクシガモに登場する Nowak (1983) もドイツ名 Kazarka と呼んでおり、現在でもいくつかの言語に残っている (イタリア語やオランダ語 Casarca など)。ロシア名は ogar' (obgorat' 焼ける) と色に由来、ドイツ名は Rostgans, Rostkasarka で赤いガンのような名前になっている。 Kolyada et al. (2016) は kazarka の語源ははっきりしないとある。こちらではロシア語でコントラストのはっきりした小型のガン類一般を指すと記述。ポーランド語では kazarka はアカツクシガモを指すとのこと。Dement'ev and Gladkov (1952) のアカツクシガモの別名にも kazarka は現れないので本家とされるロシア語ではアカツクシガモに対して使われていなかったのかも。
  • カンムリツクシガモ
    • 学名:Tadorna cristata (タドルナ クリスタータ) 冠のあるツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorne ツクシガモ 仏)
    • 種小名:cristata (adj) 冠がある (crista (f) 冠 -atus (接尾辞) 〜備わっている)
    • 英名:Crested Shelduck
    • 備考: tadorna は#ツクシガモ参照。 cristata は最初の a が長母音でアクセントもある (クリスタータ)。
      過去にも目撃回数が少ないが、かつては韓国から日本に輸出され、複数の写生画に登場する。 柿澤・菅原 (1989) 江戸時代の写生図にみられる絶滅鳥カンムリツクシガモ Tadorna cristata (Kuroda) などもっと広範に生息していたと考えられる。 1916 年に韓国で撃たれた以来世界的に記録がなく一度は絶滅が宣言された。1943 年に韓国中部で目撃事例があり、1964 年にウラジオストク近郊のリムスキー-コルサコフ列島でシノリガモの小さな群れの中にメス2羽、オス1羽が目撃された。 1971 年に北朝鮮の北岸、1985 年にロシア東部で2羽の目撃例があるが、1971 年の記録は信頼性が低いとされる。その後も散発的な可能性のある記録があるが、いずれも未確認。もし種が生存していても個体数は 50 羽以下であろうとの見積もりがある (以上 wikipedia 英語版より抜粋。情報の多くは BirdLife International 由来)。 IUCN 3.1 で CR 種、絶滅した可能性があるとされる。環境省レッドリストでは絶滅種。単形種。
      世界に3点しかない絶滅鳥 - カンムリツクシガモ (ガンカモ目ガンカモ科) - (山階鳥類研究所の解説)。
      [記載と歴史について] Crested Shelduck (1890) で 1877 年ウラジオストク近郊で採集され、Philip Lutley Sclater (1829-1913) がアカツクシガモとヨシガモの雑種と考えてラベルを付けた標本を含めた世界で3体の標本を見ることができる。 Sclater (1890) の標本写真は 図版 およびその次ページから解説を見ることができる。
      Nowak (1983) Die Schopfkasarka, Tadorna cristata (Kuroda 1917) - eine vom Aussterben bedrohte Tierart (Wissensstand und Vorschlaege zum Schutz) に年を追った詳しい歴史が紹介されている。 世界的な歴史についてはこの文献が最も詳しいものではないだろうか。
      Nowak (1983) によれば Sclater はそれまでにも多数の新種を命名してきたが、"種は不変" の概念の擁護者として晩年には新しい種を認めることに慎重であったとのこと。 ちょうど進化思想 (「種の起源」の発表が 1859 年) が興隆してきたころで亜種の概念を用いた三名法の流れもあったが、Sclater は保守的な分類学者でこれらの動きには反対していたとのこと。 彼の立場では新種と記載するには良質の十分な研究に基づいた確実な証拠が必要で、それには不十分でああった。"型" や "亜種" のような憶測を排する彼の考えでは雑種と記載するほかなかったと Nowak (1983) が推論している。 Sclater が新しい考えを取り入れてもし亜種名を与えていれば第一標本の記載が先取権を持っていたことになる。 日本から新種を記載できたことは当時の進化思想の興隆に逆らう慎重で保守的なヨーロッパの分類学者の考えにも助けられていたらしい。黒田長礼氏が Sclater の判断をどのようにとらえていたかは以下の Kuroda (1924) に見ることができる。 黒田 (1889-1978) 氏は Nowak (1983) の推論を目にすることなく世を去っている。
      黒田氏の記載論文では Pseudotadorna cristata Kuroda, 1917 の学名で On one new Genus and three new Species of Birds from Corea and Tsushima が原記載。 1916年12月に採集されたメス1羽による記載。 Nowak (1983) では 1916年3月に朝鮮半島北西沿岸で Akagawa (赤川) という猟師が6羽の群れを見て3羽を捕獲した。過去にこのような鳥を見たことがないと黒田に伝え、記述から黒田はカンムリツクシガモだったと結論したが、獲物は科学者の手に渡ることはなかったと記述されている。 この件はさまざまに記述されているが、黒田から Dement'ev への私信によれば残念なことにその標本は残っていない (Dement'ev and Gladkov 1952) とある。Nowak (1983) はロシアの研究者にも情報が正しく届いていなかったと推定している。 この件について黒田氏の直接の言及 (日本語) は以下の Kuroda (1924) pp. 179-180 にある。異形の海鴨とあり色彩をどのように判定したかなどは原文を参照。当時は珍しいものがあればまず採集の時代であったらしく、海岸にいた6羽の群れから2羽を撃ちとり、海に逃げて戻ってきたもう1羽を撃ったとのこと。
      Kuroda (1917) のこの論文で新属も提唱された。当時は Sclater はすでに世を去っており、以下の議論には関与していない。新種ではなく雑種とした理由は Sclater 本人から確かめることはできず推論に頼るしかない。
      Hartert (1920) に Kuroda (1917) の論文をもとに解説があるが、項目にも使われている Pseudotadorna cornuta Kuroda は間違いとのこと (The Key to Scientific Names)。 1877 年標本のことも触れられ雑種にかかわる議論もなされている。
      ヨーロッパでは過去にカモ類雑種に新たな学名を付けた例がいくつもあり慎重だったようで、1920 年代に独立種か雑種かの議論がなされていた。 Nowak (1983) を見てヨーロッパでは分類学の歴史が長く、怪しいものは証拠が出るまではまず疑う姿勢があったのではないかと感じた。すでに標本が存在していたことを知らなかった黒田氏にとっても世界のこの反応は予想外だったのではないだろうか。当時 Hartart が Sclater の報告を見て黒田氏に送られた手紙の内容は柿澤・菅原 (1989) で紹介されている。
      1924 年に黒田がもう1個体の標本を記述 On a third Specimen of rare Pscuidotadorna cristata Kuroda。ここまでの3体が現在残る全て。
      1940 年にかけて日本から過去の写生画なども発表され、世界でも独立種と認められるようになり、世界の水鳥の権威 Franzose Jean Delacour と Peter Scott が 1954 年の書物 "The waterfowl of the world. Vol. 1" に種として掲載したとのこと。 しかしその間、その後も種に値するか、あるいは分類学的な位置の議論は数多く行われていた。現在考えられているほど自明ではない時代が長く続いていた模様。 Dement'ev and Gladkov (1952) では種の扱いとしていた。 Nowak (1983) が述べている最後の確実な目撃記録とされるものは Labzyuk (1972, 2017 再掲) The crested shelduck Tadorna cristata in the southern Primorye (pp. 133-135) で読むことができる。1964.5.16 のこと。 飛び立つ時の様子や色彩などかなり詳しい記述が残っている。1964, 1967 年に再度調査したが見つからなかったとのこと。 沿海地方でカモに詳しい猟師などにもアンケートを行ったが確認につながる結果は得られなかった。著者は図版を見てこの種に違いないと確証するに至ったとのこと。記述内容を訳したものが Nowak (1983) に含まれている。
      このように見るとほとんどの記録が朝鮮半島など国外で、日本での写生も基本的に朝鮮半島から持ち込まれたもの。日本産鳥類と言えるのかと感じるが、1822年10月に函館市亀田で捕獲された雌雄の写生画に基づくとのこと。この写生画が現存する日本唯一の記録とのこと。 「鳥学の100年」(井田徹治著、日本鳥学会、山階鳥類研究所協力 2012) p. 109 によれば色彩図「鳥之種類」の小冊子に収められていたことが 1939 年に判明したとのこと。Nowak (1983) の図 11 の8の点にあたる。 論文は Kuroda (1940) An Old Record for a Pair of Pseudotadorna cristata obtained near Hakodate (カンムリツクシガモ函館にて捕獲の古記録)。 Nowak (1983) は信頼に値する記録と判定しており、場所も特定されて実際に観察された (リアルタイムではないが) 世界初の記録と位置づけている。その次が 1877 年採集された標本。 この小冊子が見つかっていなければ日本人が命名した鳥であったが日本産とは認められなかったであろうことになる。
      Nowak (1983) は遺存種と考え、人為開発の著しい地域で残っていたことは奇跡的であった捉え方になっている。wikipedia 英語版では (おそらく) 絶滅したとされる要因に Beacham and World Wildlife Fund (1997) を引いて生息地の減少、狩猟の他に overcollection も挙げている。 他種でもしばしばあったように絶滅に近づいた鳥を学術的に確実な標本に残すために鳥類学者が奮闘した結果が絶滅の一つの要因になり得ただろう状況をここにも見ることができる。
      Rutt et al. (2024) Global gaps in citizen-science data reveal the world's "lost" birds 過去 10 年以上記録のない種類のリスト。144 種が該当していたが調査開始で 126 種まで減少。論文はオープンアクセスではないが、 Search for Lost Birds から一覧を見ることができる。日本に関係の深い種類ではカンムリツクシガモ (及び日本の記録に疑問が残るがシロハラチュウシャクシギ) が含まれている。
  • オシドリ
    • 学名:Aix galericulata (アイクス ガレーリクラータ) 小さな帽子をかぶった水鳥
    • 属名:aix aigos (Gk) アリストテレスの記載した足に大きな水かきのある鳥の一種 (小型ガンか大型カモと考えられている)
    • 種小名:galericulata (adj) 小さな帽子をかぶった (galericulum (n) 小さな帽子 -atus (接尾辞) 〜備わっている)
    • 英名:Mandarin Duck
    • 備考: aix は他に読み方を考えにくいが "イクス"。 galericulata は e と語末の -ata の冒頭が長母音で -cu- にアクセントがあると考えられる (ガレーリラータ)。e の長母音は galerum (帽子) の e が長母音のため。
      単形種。ヨーロッパ、アメリカ等に持ち込まれ、移入種となっている。ヨーロッパでは多数の個体が広く分布。 例えばベルギーでの評価 Aix galericulata - Mandarin duck。拡大中だが生態系へのインパクトがある程度高いグループには含まれていない。
      佐藤 (2020) Birder 34(12): 35 がドイツでつがい相手が生きている限りつがいが解消された証拠が今のところない研究を紹介している。 Maedlow (2018) Phenology of the Mandarin Duck Aix galericulata in the Potsdam area: population trends, non-breeding occurrence, moult, and mating がその論文 (英文要約あり)。 最大9つがいを標識して5年間観察した。7-8月はつがい関係が完全に途絶える。これまでカモ類は全般につがい関係が永続しない、Cramp and Simmmons (1977) はオシドリではそうではないなどさまざまに議論されてきたが一応の結論が出た模様。現在では「オシドリのつがい関係を調べた人はいないので」とは言えなくなった。
  • ナンキンオシ
    • 学名:Nettapus coromandelianus (ネーッタプース コロマンデリアーヌス) インドのコロマンデル地方のカモの足の鳥
    • 属名:nettapus (合) カモの足 (netta カモ pous 足 Gk)
    • 種小名:coromandelianus (adj) インドのコロマンデル地方の (-ianus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Cotton Pygmy Goose
    • 備考: nettapus は外来語由来の合成語のため発音は明確でないが、起源となるギリシャ語 netta では e が長母音。pous に由来する -pus も長母音でも構わない (例 apus)。"ネーップース" を採用してみた。 学名のために作られた言葉で古典ラテン語ではないのでこの読みに必ずしも従わなくてもよい。"足" の意味の -pus を伸ばすかどうかは両方の用例があるので好み次第でよいだろう。"足" の場合は "プース" と統一して読むのも一つの考え方。 coromandelianus は前半が地名で特に長音では読まれていないよう。-ianus の接尾辞は a が長母音でアクセントがある (コロマンデリアーヌス)。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。Nettapus 属はナンキンオシ属。 英名で Pygmy Goose と付くように小型のガンの扱いであった。アフリカマメガン Nettapus auritus 英名 African Pygmy Goose が足と体はカモ、嘴と首はガンに見えるとのことでこの属名が付けられた (The Key to Scientific Names)。 和名もかつてはマメガン属の名称があった (コンサイス鳥名事典)。 2亜種が認められている (IOC)。日本で記録された亜種は基亜種 coromandelianus とされる。
      [分子系統研究による位置づけ] 最新の分子系統研究で典型的なカモ類との類縁関係はなく、むしろハクチョウやガンの系統とそれに先立つ分岐のリュウキュウガモ類の間に位置することがわかった。ナンキンオシ属とオタテガモ属 Oxyura の系統関係は近い (#オカヨシガモの備考参照)。 日本鳥類目録改訂第8版 = IOC 13.2 の配列ではオシドリの次の中途半端な場所に含められているが近い将来変更されるだろう。
  • オカヨシガモ
    • 第8版学名:Mareca strepera (マレカ ストゥレペラ) 騒々しいカモ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas strepera (アナス ストゥレペラ) 騒々しいカモ
    • 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:strepera (adj) 騒々しい (strepo -ere (intr) 大きな音をたてる -a 女性形の形容詞にする)
    • 英名:Gadwall
    • 備考: mareca は外来語で発音がよくわからないが短母音のみであれば "レカ"。 strepera は発音はよくわからないが strepere は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。アクセント位置は -re- (ストゥペラ)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属 [Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類を意味する (ローマ伝説で Marica は川または水の精)]、に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Mareca 属はヨシガモ属。 Gonzalez et al. (2009) Phylogenetic relationships based on two mitochondrial genes and hybridization patterns in Anatidae の分子系統研究で旧 Anas 属が単系統でないことが示され、いくつかの属に分離された。
      北半球中緯度に広く分布。2亜種あり、他の亜種はキリバスの Teraina 環礁に生息していた couesi (アメリカの軍医 Elliott Ladd Coues 由来)があったが絶滅した。英名 Gadwall の由来は不明だが、1666 年にはすでに使われていた (wikipedia 英語版)。
      [Anas 属の分割は必要か] 全ゲノムを用いた解析によってこの取り扱いが適切でない可能性も示唆されている: Zhnag et al. (2024) Whole-genome sequences restore the original classification of dabbling ducks (genus Anas)。 伝統的な Anas 属は単系統であり、必ずしも分割する必要はないとの見方。ハシビロガモやトモエガモも含めて 47 種が Anas 属でよいのではとの見解。 カモ類は雑種が多いため遺伝子浸透 (introgression) も多く、用いる遺伝部位によって異なる系統樹形態が可能であるとのこと。これを考慮すると複数の属に分ける必要はないとの考えのよう。
      もともとは "北京ダック" などの家禽の起源を探る研究だった (#カルガモの備考参照) が範囲を広げるとカモ類分類まで再考した方がよい結論となった。Gonzalez et al. (2009) の根拠は否定される形となり、他の分類群でも議論されている、単系統ならば多種を含む属でもよいか、あるいは何らかの特徴で分岐年代も参考に分割した方がよいかの程度問題となりそう。
      Zhnag et al. (2024) のトポロジーを見る限り、もし 47 種すべてを Anas 属としない場合は、ハシビロガモやトモエガモは順序は変わる可能性はあるものの現行の属を変える必要はあまりないように見える。 Mareca と現行の狭義 Anas の関係が相互に単系統にならない可能性があるが、現行全ゲノムまで調べられた種類が少ないのでまだ様子見段階であろう。 属に分割した上でオナガガモが狭義 Anas に収まらなければ古い属名の Dafila (#オナガガモの備考参照) が復活する可能性もあるだろう。
      近年は単系統性が非常に重視されており、新しい分子系統研究も比較的早く取り入れられる傾向があるので、あるいはこの提案はすでに議論の俎上に載せられているかも知れない。個人的には種サンプルを増やした後に判定した方がよいと感じるが、全体を Anas にまとめ直すこと自体は問題ないので案外簡単に受け入れられるかも知れない。 日本鳥類目録改訂第8版で変えたばかりの段階で世界が元に戻すこともあり得ないことではない。
      なお MarecaAnas 属を分離したチェックリストは Howard and Moore 4th edition とのことで、アメリカの the 58th AOS Supplement でも採用されたとのこと (Boyd)。
      系統と形態進化を調べた研究: Chatterji et al. (2024) Dietary specialization drives adaptation, convergence, and integration across the cranial and appendicular skeleton in Waterfowl (Anseriformes) (preprint) Anatidae カモ科は 10 系統あり、それぞれ族にふさわしい。 この系統樹では MarecaAnas が互いに単系統の関係になっている。 MarecaAnas を分ける場合は単系統性の要請よりは分岐年代などに由来すると解釈されることになるなろうか。ほとんど違わない分岐年代 (1000 万年前ぐらい) で Anas 属が 3-4 系統に分かれているので微妙なところ。少し古い Gonzalez et al. (2009) を根拠とする分類は多少見直しが迫られるかも。 Netta 属が単系統になっておらず、アカハシハジロの学名は影響を受けないが、もし分離する場合はベニバシガモ Netta peposaca Rosy-billed Pochard と ネッタイハジロ Netta erythrophthalma Southern Pochard をアカハシハジロとは別属になる可能性がある。 Boyd はこれら2種をそれぞれを別属にしているがそこまでの必要性はなさそう。 サザナミガモ Salvadorina waigiuensis Salvadori's Teal は Boyd は不明に分類していたが Anas 属に落ち着きそう。 潜水性など習性は複数の系統で独立に進化し、形態もそれらに応じた収斂進化を遂げている。 カルガモはマガモと同種レベルとして扱われたのかも知れないが登場しない。
  • ヨシガモ
    • 第8版学名:Mareca falcata (マレカ ファルカータ) 鎌形の羽のあるカモ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas falcata (アナス ファルカータ) 鎌形の羽のあるカモ
    • 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:falcata (adj) 鎌形の (falcatus) 三列風切の鎌形の羽から
    • 英名:Falcated Duck
    • 備考: mareca は#オカヨシガモ参照。 falcata は最初の a が長母音でアクセントもここにある (ファルカータ)。falx を -ata 持っている と分解できる。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。
  • ヒドリガモ
    • 第8版学名:Mareca penelope (マレカ ペーネロペー) ペーネロペーを救ったカモ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas penelope (アナス ペーネロペー) ペーネロペーを救ったカモ
    • 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:penelope (f) penelopis カモの一種 (Gk)
    • 英名:Eurasian Wigeon
    • 備考: mareca は#オカヨシガモ参照。 Penelope (固有名詞) は2つの e が長母音。-ne- にアクセントがある (ペーロペー)。英語では長母音ではないがアクセント位置はラテン語と同じ。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。
      種小名の由来である penelops, penelopos (Gk) はギリシャ神話で両親がペーネロペーを海に投げ込んだ時に救って食べ物を与えた紫の縞のあるカモとされる Penelope < pene 編み紐、織物 opos 外見 でユリシーズの妻 (Gk) (The Key to Scientific Names, wikipedia 英語版)。
      Penelope 属が別にあり、キジ目ホウカンチョウ科のシチメンチョウに似た南米の属で、英語では一般名 guan と呼ばれる。 和名はシャクケイ (舎久鶏) で鷹司信輔が付けた名称とのこと (コンサイス鳥名事典)。 こちらの Penelope の由来もよくわかっていないとのことだが、Teixeira (1995) 他は模様を指したものではないか (pene 糸、網 + -ope 外見 Gk)、あるいは冠状に見えるため (pene ほとんど L + lophos 冠 Gk) との解釈があるとのこと (The Key to Scientific Names)。
      英名の Eurasian はアメリカヒドリの英名に対応させるため。Wigeon だけでもヒドリガモを指して使われる。単形種。 英名 wigeon は 16 世紀初めにはすでに使われていたが、中世フランス語 vigeon 由来とされる。これは古フランス語 vignier (鼻を鳴らす、叫ぶ) -on (名詞化) とされる (Wiktionaryより)。
  • アメリカヒドリ
    • 第8版学名:Mareca americana (マレカ アメリカーナ) アメリカのカモ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas americana (アナス アメリカーナ) アメリカのカモ
    • 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:American Wigeon
    • 備考: mareca は#オカヨシガモ参照。 americana は1つめの a が長母音でアクセントもここにある (アメリカーナ)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。
      ユーラシア北東端でも繁殖しているとのことである。参考記録 Beshkarev (1999 初出、2018 再掲) The American wigeon Anas americana in the upper reaches of the Pechora (p. 4263)。 クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): 27 に北米からシベリアにアメリカヒドリが進出しているとの記載がある。 Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) には繁殖種としての記載は特になく、迷鳥の扱いになっている。 森岡 (2005) Birder 19(11): 53 にコメントがあり「日本の野鳥 山渓カラー名鑑」に記載されていたアメリカヒドリとヒドリガモが一緒に繁殖している記述は NHK 取材の時にコンドラチェフ博士から聞いた情報であったとのこと。
      Rohwer et al. (2022) Interspecific forced copulations generate most hybrids in broadly sympatric ducks によればアメリカ西岸で多くの場合オスのヒドリガモがアメリカヒドリと雑種形成 (F1 個体からの判定) を行い、多数のアメリカヒドリの中でメスのヒドリガモが相棒を見つけるのが難しいため雑種形成が起きる仮説は否定的とのこと。北米のカモの雑種は強制交尾が主因との説を支持する。
  • マガモ
    • 学名:Anas platyrhynchos (アナス プラテュリュンコス) 幅広い嘴のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:platyrhynchos (合) 幅広い嘴の (platos 幅 rynchos 鼻口部 Gk)
    • 英名:Mallard
    • 備考: anas は他に発音は考えにくいが "ナス"。現代のイタリア式発音では伸ばすこともあるそうで、冒頭を長音で読んでも間違いとは言えない。逆に "ナ" を伸ばす方はおそらく受け入れられない。 platyrhynchos は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-rhyn- がアクセント音節と考えられる (プラテュリュンコス)。
      北半球に広く分布。2亜種が知られ (IOC)、日本の亜種は基亜種 platyrhynchos とされる。もう1亜種はグリーンランドの大型だが嘴は小さく色の淡い conboschas とされるがこの亜種を認めないこともある。 英語の由来は古フランス語でオスの野ガモを表す malard, malart, mallart から (Wiktionaryより)。カルガモとの遺伝的関係については#カルガモの備考を参照。
      現在マガモとされるものが Linnaeus (1758) に2回登場すると言われる。#オオタカの備考も参照。 Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" も Anas boschas の学名を用いていた。この時点では Linnaeus (1758) の Anas platyrhynchos のシノニムとは気づかれていなかった模様 (他学名としてリストされていない)。
      Anas platyrhynchosAnas boschas 後者に domestica が含まれているので、アヒルを表す学名として使われていたこともあったがシノニムとみなされ、先取権のある Anas platyrhynchos の方が使われるようになった。AOU も 2nd ed. (incl. 13th suppl.) まで Anas boschas を用いていた。 さらに Anas adunca の家禽品種も含まれていて Linnaeus (1758) に3回登場とのこと。
      Donegan (2023) Towards a more rational and stable nomenclature for Mallard Anas platyrhynchos, Greylag Goose Anser anser and their domesticates, including various priority issues, designation of lectotypes, and a First Reviser act がこの問題を整理している。Linnaeus は野鳥を意図して Anas platyrhynchos を使っていた。Anas boschas には家禽と野鳥の両方が含まれていた。 Linnaeus はさらに混乱していたようで Anas platyrhynchos とハシビロガモ (当時の学名で Anas clypeata) をシノニムの関係にあると考えていた。 Linnaeus の発表後 150 年以上も経過して、Lonnberg (1906) が Anas platyrhynchos はメスで、Anas boschas は主にオスを指すことに気づき、前者の方が先に現れるので先取権があるとした。 しかし長期間使われていた学名が保護される規則もある。これは Lonnberg (1906) の提案を無効にするわけではなく、結果的に 20-21 世紀の大部分の分類学者がこの提案を受け入れることで現在の学名に落ち着いている。 ハイイロガンの学名も同様に扱われている。ガン・カモは家禽で多様な学名が使われており歴史的に複雑だったよう。
      川口 (2016) Birder 29(12): 48-49 でマガモの巻き羽が上尾筒か尾羽かを議論している。結論は後者とのこと。「生物進化とハンディキャップ原理: 性選択と利他行動の謎を解く」(Amotz Zahavi and Avishag Zahavi "The handicap principle: a missing piece of Darwin's puzzle" 1997 原著、アモツ・ザハヴィ、アヴィシャグ・ザハヴィ著; 大貫昌子訳 白揚社 2001) でザハヴィがクジャクの飾り羽を尾羽としている点をとりあげ、名のある鳥類学者でも、こんなものだ! と指摘している。 これは訳の問題ではないかと想像して調べてみると peacock's tail の表現は英語ではあまりに普通に使われ、peacock's tail-feathers の表現は英語的には特に間違いがあるわけではない。 クジャクの飾り羽を指す用語として "tail" または "train" が用いられるとのこと (wikipedia 英語版より)。鳥類学的に言えば tail covert とか補足してあると曖昧さがなかったのだろうが、あまりにも専門用語なので避けたのでは? 訳者もファインマンなどの物理の訳書を多く手がけており (E. O. ウィルソンの「生命の多様性」もこの方の訳)、鳥類学まではさすがに専門でなく訳者が注釈で補う必要も感じなかったのではと想像する。 rectrices とか専門用語で限定して書いてあるわけではないようなので、偉い学者が間違えているかどうかまでは判断できない気がする。
      [カモ類の気管球 (tracheal bulla)] 川口 (2018) Birder 32(1): 52-53 で、カモ類の性的二形に関係してオス・メスで声が違うことが紹介されている。多くのカモのオスには気管に特別な構造 (tracheal bulla 気管球, syringeal bulla などの名称がある) がある。 解剖学的には違いは明らかでもそれがどのように音声に影響を与えるかは、筋肉をどう制御するかの他の問題もあり簡単には結論できるものでもなさそうである。共鳴についても同様で音響学的シミュレーションをやってもわからないパラメータが多くてそう簡単には物が言えない。スズメ目でも同様。 オープンアクセスの研究を少し紹介しておく: Warner (1971) The structural basis of the organ of voice in the genera Anas and Aythya (Aves) Anas 属ではおそらく共鳴に関与し、構造的にはオスの方が高いと想像される。Aythya 属では (基音とは) 別の音を作る役割を持っているのではとのこと。 Miller et al. (2007) Allometry, bilateral asymmetry and sexual differences in the vocal tract of common eiders Somateria mollissima and king eiders S. spectabilis ケワタガモ類で同種内の tracheal bulla の大きさには差が少なく、体サイズが大きいものでもそれほど大きくなかった。tracheal bulla のサイズを一定に保つ選択が働いていると考えられる。
      川口氏の疑問は雌雄同色のカルガモでオス・メスで声がどのように違うかだが、マガモの声に似たもので雌雄で声が違うとの情報はあるがこの時点では詳しくはよくわからない模様。xeno-canto ではマガモのメスの声は明瞭に識別できることが周知事実となっていて (聞くだけでわかる) 多くの記録がある。 カルガモでは性別を入れている報告はほとんどなく (そもそも記録数も少ないが) 野外での音声による識別方法は確立されていないのだろう。マガモの雌雄と同様と考えて分類するだけでも意義がありそうに思えるがどうだろうか。
      [カモ類の嘴の触覚] (一部#ハチクマの備考の脳の構造より) Gutierrez-Ibanez et al. (2009) The independent evolution of the enlargement of the principal sensory nucleus of the trigeminal nerve in three different groups of birds。 によれば、三叉神経の感覚に関係する脳の principal sensory nucleus of the trigeminal nerve (PrV) この核のサイズを見れば採食に触覚をどの程度用いているか推定できる模様で、直感的にもわかりやすい結果になっている。嘴で探索を行うシギ類、水鳥 (特にろ過して食物を得るカモ類など)、オウム、キーウイなどでよく発達しており、嘴の感覚が鋭敏であることとよく対応している。 味蕾 (みらい taste bud) も嘴の先端にあって味を感じている (#メジロの備考 [鳥類の味覚] 参照)。
      Ziolkowski et al. (2022) Tactile sensation in birds: Physiological insights from avian mechanoreceptors によれば鳥類と哺乳類の間で触覚はよく保存されている。Grandry (Meissner) と Herbst (Pacinian) 小体 (かっこ内が哺乳類での名称) が触覚センサーで嘴で探索を行う種類で嘴の皮膚に触覚センサーが高密度に分布している。これらの種類の嘴の皮膚の繊細なセンサーは舌や咽頭にも及ぶこともあるとのこと。
      Schneider et al. (2017) Molecular basis of tactile specialization in the duck bill にカモの嘴先端の触覚の分子メカニズムが同定されている。Piezo2 チャンネルが関与しており、マウスの触覚以上の役割を果たすとのこと。嘴先端には Grandry, Herbst 小体が多数ある。脊椎動物の中でも特に触覚に特化していると言える。 Syeda (2017) Dabbling with Piezo2 for mechanosensation の解説記事。カモ類は嗅覚や視覚よりも触覚に頼って食物を探す。霊長類が指先の触覚を用いて探すのと同様。 運動センサーに関連する TrkB 遺伝子発現も視覚で食物を探すニワトリとは対照的な結果となった。 なお TrkA は温度や痛み感覚に関連し、カモでは TrkB 遺伝子発現の方が圧倒的に多かった。触覚を用いて食物を探すセンサーに最適化されていると考えられる。
      [マガモの雌雄の頭の色を決める遺伝子] Ma et al. (2021) Transcriptome Analysis Reveals Genes Associated With Sexual Dichromatism of Head Feather Color in Mallard によればトランスクリプトーム解析によって TYR, TYRP1 遺伝子が頭部羽毛のメラニン形成に関与しており、オスではメスより TYRP1 の発現が 256 倍強かったという。メラニンによる構造色であることも改めてわかる。Z 染色体関連遺伝子がオス (ZZ) でより多く発現して TYRP1 のプロモーター領域に働いている可能性があるとのこと。
      [カモ類の翼鏡] 翼鏡 (speculum) は構造色だが、その微細構造を調べた研究: Eliason and Shawkey (2012) A photonic heterostructure produces diverse iridescent colours in duck wing patches 発色の機構は論文に譲るとして、気になるのは役割だろう。この論文で引用されている研究では実はあまりよくわかっていない。 マガモから取り除いても繁殖には影響がなかった: Omland (1996) Female mallard mating preferences for multiple male ornaments - II. Experimental variation。 マガモとコガモでは体の状態 (栄養状態など) と相関がある: Legagneux et al. (2010) Condition dependence of iridescent wing flash-marks in two species of dabbling ducks。 種認識に役立っているのでは: Ritchie (2007) Sexual Selection and Speciation (これはレビュー論文で役割の提案)。 カモ類の多くの種類は交配して雑種を残せるが同所的に複数種が存在することは交配前の生殖隔離が存在することを示唆する。もし雑種が子孫を残す能力が低ければ翼鏡の色へ種分化のための適応となり得る。そうでなければ色そのものの浮動によって種分化につながる可能性がある。この例は Carduelis 属のフィンチ類で知られているとのこと。
      学術用語では英語でもラテン語の speculum もそのまま使われるが、語源は specio (見る) + -ulum (道具) から鏡や (比較的歴史的な) 医療用具で開口部を広げて中を見るものを指す (現在は何とかスコープなどと呼ぶことが多い)。複数形 specula または speculums。 英語でそのままの意味で mirror の名称も使われる。こちらはカモメ類の初列風切の白斑も指して使われることはご存じの通り。
      [白い大きなアヒルの起源] Wang et al. (2023) Duck pan-genome reveals two transposon insertions caused bodyweight enlarging and white plumage phenotype formation during evolution によれば、アヒルの全ゲノム解析により、トランスポゾン Gypsy の2か所の挿入によって体重が劇的に増加して (27.61% でこれほどの増加率は家禽でも最大とのこと) 白色の羽毛を獲得したとのこと。 マガモの家禽化は紀元前 500 年ごろの中国で行われたとのこと。IGF2BP1 の調節領域に挿入された Gypsy がエンハンサーの役割を果たしているとのこと。 MITF のイントロンに挿入された Gypsy が白色化に関連しているとのこと。トランスポゾンが多様な表現型に関わっていることが一層明らかになった (#ツリスガラ備考 [スズメ目の進化とレトロウイルス/トランスポゾン] も参照。
      マガモで特によく調べられているが、カモ類は鳥インフルエンザウイルスの自然宿主となっている。なぜ自然宿主となり得るのか、ニワトリは何が違うのか、免疫にかかわる仮説は#インドガン備考の [野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン] 以下の "最新状況" コーナーに紹介した。
      [カモのひなはなぜ親鳥を追う?] カモのひなはなぜ親鳥を追うか? - と問われれば即座に「刷り込み」(imprinting) の回答が返ってくるだろう。 物事はそう単純でないことが示されているので紹介しておく。出典は #ミサゴの備考 [feather taxis・頭かき] で紹介の「本能はどこまで本能か: ヒトと動物の行動の起源」(マーク・S・ブランバーグ著; 塩原通緒訳 早川書房 2006) pp. 139-148。
      Gottlieb は孵化したばかりのひながそれぞれ自分の種の母親の呼び声を、母親と接触する前から聞き分ける能力を持つことを示し、Lorenz の言う刷り込みは呼び声に引きつけられる状況で副次的に生じるものとの解釈を 1971 年の研究会で示したとのこと。 その場に同席していた Lorenz は生得的 (本能的) なものと環境から入る情報 (刷り込み) の2つがあって、Gottlieb の発表は生得的なものの重要性を示したと聴衆に語ったという。大御所の解説で生得的なもの刷り込みの二分法、そして生得的な本能がいかに重要であるかが聴衆や科学界に刷り込まれたというわけである。 Gottlieb はそもそも Lorenz の考えに懐疑的であって実験を始めたものだったが、さらにマガモとアメリカオシドリを用いて実験を進め、
      ・親の声を聞かせないで育てても同種の声への好みは変わらず
      声の好みは本能だと信じ込んでいると、この実験結果でもう満足して終了にしてしまうだろう。Gottlieb の偉いところはここでまだ疑って実験を続けたことである。親の声を聞かなくても一緒に育てた卵の孵化の少し前から他の卵から聞こえる鳴き声を聞いている可能性に気づいた。
      ・卵の中で他の卵からの声を聞くことで選り好みが強まる
      ・他の卵からも含めて音声を完全に隔離する (自分の声も出せないように操作してある) と母鳥とニワトリの声を区別できない
      ・しかし自身の声を流して聞かせると好みが誘発された
      との驚くべき実験結果を出した。さらには
      ・音声隔離実験で他種の卵から聞こえる声を聞かせると他種を好む実験にも成功
      また音声を離断されて育つと知覚の発達がほとんど阻害されているように見えたとのこと。卵の中の声と親鳥の声は一見まったく似ていないので、よほど注意深い人でなければ関連性に気づかなかったことだろうとのこと。卵の中の声と親鳥の声の共通成分を抜き出して人工音声による実験を行い、意義がようやく判明したとのこと。 自然条件ではこれらの状況は起きないので親鳥の声に反応する結果、視覚刺激による刷り込みが起きる、という次第。Lorenz の古典的実験は相当割り引いて考えた方がよいらしい。 托卵鳥の音声認識 (#カッコウの備考 [托卵鳥の同種認識]) も併せて読まれたい。
      Gottlieb (1991) Experiential Canalization of Behavioral Development: Results に実験結果や主に自身の先行研究も紹介されている。 ここで使われている canalization は心理学用語で Conrad Hal Waddington (1942) が最初に用いたものとのこと。canal は水路のような意味で、水路づけ (運河化) とも訳される。 かつてベストセラーだった「頭の体操」(多湖輝 光文社 1966-?) でも用いられていたのでご存じの方もあるだろう。 この論文では卵から発せられる声を vocalizations in embryo と記述してあり、特別の用語はない模様。 他に Gottlieb (1992) Individual development and evolution: The genesis of novel behavior、 Gottlieb (1997) Synthesizing naturenurture: Prenatal roots of instinctive behavior の書籍が「本能はどこまで本能か」で紹介されている。
      日本でも使われる「胎教」の科学的根拠はもしかしてこれらの研究か、とも思ったのだが簡単に調べても見つけられなかった。古代中国ですでにあったとのこと。
      「本能はどこまで本能か」には他にも面白い話があるので紹介しておく (pp. 235-236)。 Wynn (1992) Addition and subtraction by human infants (Nature 論文)、 Wynn (1998) Psychological foundations of number: numerical competence in human infants で、鳥類や哺乳類のさまざまな種に数に対する識別能力を持っている。鳥類と哺乳類が分岐する前のどこかで生じたものかも知れないし、いくつかの分岐した種の中で別々に同じように進化したのかも知れないと述べているとのこと。 動物に数の概念があるとすればそういう議論にもなるだろうが、そもそも人間の幼児は数を認識しているのかどうかの問題はあまり明瞭でない。 Clearfield and Mix (1999) Number Versus Contour Length in Infants' Discrimination of Small Visual Sets がこの問題に挑戦し、数のような抽象的なものよりも (輪郭の長さのような) 基本的な知覚に訴える刺激をもとにしている結果を得たとのこと。数以外にも認知の手がかりがあるが十分実験されていない。 この考えに対する新しい反論論文 [例えば Xu et al. (2004) Number sense in human infants] もあるようでこの問題はまだ決着していないようだが、Nature 論文で世間に広まった情報を修正するのは容易なことではなく、学説としてはあまり知名度がないとのこと。Gottlieb がカモの実験で示したように、精緻な実験を行えば実は幼児も動物も数の概念を認識していない結果が出る可能性もあるのかも知れない。 ヒトでは大きな問題なので多くの研究が行われているが、鳥が数を数えられるかどうかはそこまで踏み込んだ議論にはなっていない模様。しかしこのような落とし穴があり得ることも考えておいてよいかも知れない。他の動物でも数を認識したとの研究が報道されることがあるがヒトの幼児ほどの厳密な実験が行えるとは思えず、少し割り引いて見た方がよいのだろう。 "Number sense in animals" wikipedia 英語版では霊長類での議論は多少出ている。approximate number system というものがあるそうで、1 と 2、2 と 4、4 と 8 のような Weber 則 (#オオルリの備考 [オオルリはなぜ青い] で登場) に従う区別がなされるとのこと。 つまり比は判断できる (対数の引き算になる) が、数そのものの引き算はできていない、ということになる。 数を理解できると言われるカラスやオウムの話はもうちょっと割り引いて捉えた方がよさそう。
      進化とも関連しそうな面白い話が出ている。 Trut (1999) Early Canid Domestication: The Farm-Fox Experiment 旧ソ連時代のノボシビルスクで Dmitry Belyaev が動物の家畜化メカニズムを研究するためにアカギツネ Vulpes vulpes の色彩型であるギンギツネ (silver fox) をある特徴に従って継代選抜した (1959 年開始) 結果短期間で家畜らしい他の特徴が同時に選抜されたという [Belyaev, D. K. (1969). Domestication of animals. Science 5: 47-52]。 Belyaev が実験を始めた時代背景も上記 Trut (1999) 論文を読むと理解しやすい (ソビエト時代、スターリンの支持の下のルイセンコ遺伝学から解き放たれた時代だったとのこと)。 Trut (1999) によれば Belyaev の死後もこの時点で 40 年も研究が引き継がれ、野生型にない特性なども現れたとのこと。当時のロシアの経済危機で実験の継続も危機的状況となり、実際に昨年は職員に給与すら支払えなかったとのこと。ペットとして売って費用をまかなっていたがそれも途絶えつつある。 ロシアの研究費制度も変わってこのような継続的研究が資金を獲得することが一層難しくなった。
      「本能はどこまで本能か」(pp. 296-300) ではこれは家畜化プロセスそのものを反映していないかも知れないが、結果的に発達速度の遅いものを選抜したことになっていると解釈している。 いわゆるネオテニー (幼形成熟) の形質を選抜したことになるのか。ヒトは自己家畜化した動物など使われることがあるがここではそちらには深入りしないでおく。 こんなに短期間に幼形成熟が起きるならば、島で飛ぶ必要のなくなった鳥が簡単に飛翔力を失っても不思議でないと思う次第だが実際にはそれほど簡単ではないのだろう。
      なお鳥が幼形成熟で飛翔力を失うアイデアは古くからある。Condon (1957) Neoteny and the Evolution of the Ratites 参照。 新しい研究ではいろいろなプロセスが考えられていて、幼形成熟もその一つ Faux and Field (2017) Distinct developmental pathways underlie independent losses of flight in ratites。 この研究ではヒクイドリに対して可能性があるとしている。ガラパゴスコバネウと唯一の飛べないスズメ目の絶滅種スチーフンイワサザイ Traversia lyalli Stephens Island Wren については引用文献参照。 ガラパゴスコバネウはゲノムレベルの追加情報があり、#カワウ備考の [ガラパゴスコバネウの進化] に追記した。
      ゲノムレベルの研究では Sackton et al. (2019) Convergent regulatory evolution and loss of flight in paleognathous birds 古口蓋類 (古顎類) Palaeognathae (ダチョウ目など) で複数回の飛べない鳥への進化があった。これらは収斂進化と言え、ポリジーンかつタンパク質をコードする部位よりも調節部位 (ネットワーク) がかかわっていると考えられるとのこと。幼形成熟というよりはむしろ必要なくなったものに投資しなくなったと見るべきであろうか。
      Kukekova et al. (2018) Red fox genome assembly identifies genomic regions associated with tame and aggressive behaviours がゲノム解析をした結果、SorCS1 遺伝子がこの Belyaev のキツネに関与していることが明らかにされた。 従順か攻撃的かの遺伝子特定か、ペットのキツネで (ナショナル ジオグラフィック) で日本語解説が読める。
      もっとも Belyaev が用いたものは野生捕獲のギンギツネではなく、カナダで少なくとも1880年代から飼育されていたものであったが [Lord et al. (2019) The History of Farm Foxes Undermines the Animal Domestication Syndrome]、 Belyaev と共同研究者も最初はそれほど古くから家畜化されていたものとは気づいていなかった可能性がある。論文でも曖昧な表記だったため野生個体との誤解が広まっていたとのこと。広く使われる "家畜化" とはあまりにも単純化した見方ではないか。"家畜化症候群" はそもそも存在するのか、意味も問い直す必要があるとのこと。 「野鳥」2020年4月号 (No. 843) pp. 6-13 に岡ノ谷氏と上田氏の対談があり、その中でも岡ノ谷氏の仮説に関連して扱われている。かなり単純化して扱われているのでこの記事だけを読まれた方は多少注意が必要かも知れない。
      関連する遺伝子候補は見つかったものの、おそらく飛べない鳥への進化同様にポリジーンかつ調節部位がかかわってそうなので、タンパク質をコードする遺伝子だけを見ているとまだ尻尾を少し掴んだぐらいの段階だろうか。
      [レイサンマガモ] レイサンマガモ Anas laysanensis Laysan Duck はマガモに近縁のハワイのほとんど飛べないカモ。移入捕食者や植生破壊のために一時は絶滅寸前状態 (1912 年に成鳥9羽の若鳥5羽) となったが移入捕食者の駆除で個体数を回復 (1950 年代に 500 羽程度) したが、1993 年のエルニーニョ現象による干ばつで 100 羽程度まで再度減少。現在は 500 羽を超えるまで回復した。 2004, 2005 年に絶滅を避けるためにミッドウエイの環礁にも個体群移住が行われた。IUCN CR 種。 レイサン島のみに残っていたが、かつてはハワイの広域に分布していた化石証拠がある。渡りのマガモが迷鳥として定着したとの解釈があったが、南半球のマガモの祖先由来とのこと (wikipedia 英語版)。
      [カモノハシ] マガモの学名から気づかれた方もあるかも知れない。カモノハシの英名 platypus は platus 平らな + pous 足 (Gk) で過去の学名由来。 Platypus anatinus Shaw, 1799 と記載されたもので、種小名もカモの Anas に由来している ("カモに似た" の意味)。 Ornithorhynchus paradoxus Blumenbach, 1800 が独立に記載しており、Platypus の属名がすでに甲虫に使われていることがすぐに判明したため Ornithorhynchus anatinus の学名となった。 Ornithorhynchus は ornith 鳥 rhunkhos 口吻、嘴 (Gk) に由来する。学名を見てもまるで鳥のような哺乳類。
      通常の哺乳類の XY 染色体が5対の性染色体をなし、X 染色体は爬虫類や鳥の持つ Z 染色体 と相同性が高く、鳥で Z 染色体にある DMRT1 遺伝子を X 染色体に持つとのこと。毒は爬虫類に似ている。 嘴は電気信号を出し、嘴にある4万個の受容体で電気的な餌探索を行うとのこと (wikipedia 英語版より)。 報道にあまりに誤解が多いとのことで出された解説: Interpreting Shared Characteristics: The Platypus Genome 爬虫類の毒とは独立に進化したものほか。授乳は鳥にはない点で、ハトのミルクなどは別の適応であるとしている。
      Zhou et al. (2021) Platypus and echidna genomes reveal mammalian biology and evolution も興味深い内容で、Fig. 8 に鳥類も含めた歯に関連する遺伝子がどのように失われたかわかる。ニワトリではここで示された8個の遺伝子が 1.2 億 - 6500 万年前の間にすべて失われ、カモノハシ等単孔類祖先ではもう少し遅い時期に4遺伝子、ハリモグラ科でさらに2遺伝子を失ったとのこと。
      ハプトグロビン (haptoglobin 赤血球から放出された遊離ヘモグロビンに高い親和性で結合して有害な酸化活性を阻害する; HP 遺伝子) が走鳥類にはあるがその後のニワトリに至るどこかの系統で失われているらしいが、別の PIT54 が機能を果たしているとのこと。 HP 遺伝子は単孔類でも失われていて CD163 遺伝子ファミリーによる別の仕組みを使っていると考えられる。旧世界サルではヒトも含めて重複 (HPR 遺伝子) が起きている。
      カモノハシは潜水中目と鼻を閉じるそうで、視力・嗅覚は採食に役立たないため、電気的な餌探索に頼る必要があったのだろうとのこと。嗅覚遺伝子数も相対的に少ないとのこと。
      卵生だが、子宮内でも栄養を吸収するため、また (初期段階で栄養を卵黄から得る早成性の鳥類とは違って) 授乳できるので鳥類や爬虫類ほど卵のタンパク質に頼っていない。孵化までの日数も短いとのこと。
      哺乳類の乳にはカゼインが含まれるが、これを作る遺伝子は歯の形成にかかわる遺伝子と共通性があり、Ca 結合性のタンパク質として進化した可能性があるとのこと。鳥では歯を失った結果、哺乳類同等の乳は作ることができなかった?
      カモノハシは卵の期間は窒素を尿酸で排泄するという (wikipedia 日本語版より)。他の哺乳類でも砂漠に住む種では尿酸排泄のものがあるとのと: Dipodomys属 Kangaroo rats (wikipedia 英語版より)。さらに詳しい情報は #カワウの備考 [鳥類の窒素排泄・栄養状態ストレスとの関係] 参照。
      日本の研究者も含まれる共同研究なので日本語情報を探してみると、この話とは直接関係がないが意外なものが見つかったので紹介しておく: 佐藤・江積 (2023) 脊椎動物の変遷についての大学生の認識と 中学校および高等学校の教科書の記述 なんと哺乳類の祖先は鳥類と考える大学生は爬虫類と考える人と同じぐらい多いとのこと。鳥類から脊椎動物が進化したと捉える割合も (この選択肢では正解である魚類以外で) 他の分類群より多い。教科書にどう書かれているかは学習者の認識に影響を与えていないことを示唆するとある。 始祖鳥は習うので爬虫類と鳥類の関係はかなりよく把握されているとのこと。 しかし 哺乳類の胎盤獲得に至る分子進化プロセスの一端を解明 (2022) には「鳥類から哺乳類への進化」と書いてある。
      逆の意味で面白いタイトルの論文があったので紹介しておく: Scanes (2020) Avian Physiology: Are Birds Simply Feathered Mammals? 日本と欧米で違っているかも知れないが、"鳥類は羽の生えた哺乳類である" とのゼロ次近似は広く信じられているとのこと。飛翔への適応や卵生に由来する点は異なるが、他の点はだいたい同じように考えてよいとの考え (迷信?) がある (日本で鳥学をやっている人はむしろええっ? と思われるかも知れない)。 特に生理学者は暗黙の前提のように考えているが (*1) いくつか重要な違いがあることに注意が必要である。特に免疫システム (これはそれぞれかなり独自に進化したもの)、卵の形成など。消化器の違いも挙げているがそのうの有無など多少些細な違いかも知れない。 注意すべきは鳥類の (生理学) 情報の多くは家禽として選択を受けたものが由来なので、野鳥との違いを意識する必要がある。家禽研究者と野鳥研究者の交流が少なすぎるなど。 「鳥類から哺乳類への進化」の文言が際立って不自然に感じられないのも "鳥類は羽の生えた哺乳類である" 視点由来かも知れない。
      備考:
      *1: つまり生理学に馴染みのある者にとっては鳥類・哺乳類はそれぞれ互いにかなり外挿できる。遺伝子の働きなども同様。哺乳類、つまり代表的にはヒトの生理学や医学の知見がだいたい参考になる。哺乳類で何かの機能が見つかると鳥にも同じようなものがあるかを探すのはいかにもこの発想による。 自分も生理学に馴染みがあるので違いより共通性の高さの方が目につく感じがする (しかも違いに着目すると「気のう」や色覚のようにしばしば鳥類の方が機能が上だったりする)。 「鳥類は哺乳類のようなもの」と考えるのは生理学志向の強い人かも知れない (形態や系統を主に見ている人にとっては見え方が違うかも知れない。生理学は化石に残りにくくテーマになりにくいかも)。
      わかりやすい例を挙げると、両生類や爬虫類は毒を持っているものも多い。哺乳類でも毒を持つものは原始的な系統のものに限られるので、「高等動物ほど毒を持たない」が半ば常識となっていた。 それゆえに "毒鳥" の発見は衝撃を持って迎えられた次第。それでも毒を合成できる鳥は見つかっていないはず。 系統的に鳥類は爬虫類に含まれることを強調したい人は、鳥類がほとんど毒を持たないのはなぜかを考えてみるのもよいのではと思う。
      さらに例えば「ハチクマはハチに刺されてもなぜ大丈夫なのか?」のような疑問も、鳥類は哺乳類と同じような反応を示すだろうと暗黙に仮定していることに由来するだろう。系統的には爬虫類の方に近いのだから爬虫類の反応を調べる必要があるはずなどの問いかけは聞いたことがない。
  • アカノドカルガモ
    • 学名:Anas luzonica (アナス ルッゾニカ) ルソン島のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:luzonica (adj) フィリピンのルソン島の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Philippine Duck
    • 備考: anas は#マガモ参照。 luzonica は -icus が短母音のみ。発音を調べると luz-zo-ni-ca と z を分割し、-zo- がアクセント音節とのこと (ルッニカ)。新しめのイタリア式発音でも分割している。外来語の z を分割することがあるのか、アクセント位置の関係でこのような発音になるのか不明。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • カルガモ
    • 学名:Anas zonorhyncha (アナス ゾーノリュンカ) 帯のある嘴のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:zonorhyncha (合) 帯のある嘴 (zona (f) 帯、rynchos 鼻口部 Gk)
    • 英名:Spotbill Duck (or) Spot-billed Duck, IOC: Eastern Spot-billed Duck
    • 備考: anas は#マガモ参照。 platyrhynchos は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は zone が長母音のみ。ラテン語 zona は冒頭のみ長母音。-rhyn- がアクセント音節と考えられる (ゾーノリュンカ)。長母音を伸ばさなくても構わないだろうが#マガモ同様でアクセント位置は合わせた方がよいだろう。
      単形種。 以前は Anas poecilorhyncha 現英名 Indian Spot-billed Duck (その当時のこの種の英名は Spot-billed Duck、現在の和名はアカボシカルガモ) の亜種とされていた。 当時は6亜種で Grey Duck の英名もあった (コンサイス鳥名事典。現在では Grey Duck の名称は事実上使われておらず、指す場合もオーストラリア・ニュージーランドの Grey Teal Anas gracilis を指すようである。
      1991 年に Bradley Livezey が形態の研究から独立種として分離を提案、香港や中国南部でこれらの雑種ペアがまれであることから別種扱いとなった。アメリカ鳥学会が独立種としたのは 2008 年。 日本でも Anas poecilorhyncha の学名、Spot-billed Duck の英名が使われていた。Chinese Spot-billed Duck の英語別名もある (以上 wikipedia 英語版より)。 マガモ (日本野鳥の会京都支部) の解説によれば、西海功氏 (当時国立科学博物館研究主幹) によると、マガモとカルガモの (ミトコンドリア) DNA は全く同じとのこと。 この記事では「種が分化してまだ時間が経っていない。あるいは、両種が交雑して遺伝子が溶けてしまったと考えられる」と話しているとある。 出典は「分子が明かす鳥の世界 (6) 遺伝的違いが小さいのに別種 マガモとカルガモなどに事例」西海 (2013) 森と人の文化誌 (414): 2013.6 p. 22-23 とのこと。
      Saitoh et al. (2015) DNA barcoding reveals 24 distinct lineages as cryptic bird species candidates in and around the Japanese Archipelago に結果があり、ミトコンドリアのチトクローム c オキシダーゼ I (COI) の部分配列 (648 塩基) の解析による。 この論文で差の小さかった組み合わせは マガモとカルガモ (0%)、アカコッコとアカハラ (0.15%)、 カッコウとツツドリ (0.3% 互いに単系統でない結果が得られている)、シマセンニュウとウチヤマセンニュウ (0.63%)、ケイマフリとウミバト (0.85%)。 大雑把な目安は 2% が種の境界程度とされる。
      核遺伝子も含めたもう少し詳しい解析は例えば Wang et al. (2018) Incomplete lineage sorting and introgression in the diversification of Chinese spot-billed ducks and mallards にあり、差異はあるが分離が不完全で、(この研究で調べた範囲の) 遺伝情報から2種のどちらに属するのかを判定することができないとの結論になった。 カルガモの方からマガモへの遺伝子浸透 [(genetic) introgression; 遺伝子移入などとも呼ばれる。解説は例えば長谷川 (2012) 鳥類における種間交雑と遺伝子浸透 参照] が非対称に起きているらしい。
      全ゲノムを扱った研究もなされている: Feng et al. (2021) Whole-genome resequencing provides insights into the population structure and domestication signatures of ducks in eastern China この2種はやはり遺伝的に非常に近いが分離されないほどではない程度の微妙な違いがある。遺伝的には非常に近いが外見は大きく異なるとのこと。この2つの研究ではアカボシカルガモは分析に含まれていないのでさらに調べる必要があるとのこと。 これらの研究は中国のアヒルの起源を調べるためのもので、マガモとカルガモの外見がなぜそれほど異なるのかは深入りしておらず、関心のある研究者が調べるべしというところであろう。 ハクセキレイの亜種で遺伝型と外見による亜種分類が整合しないことが知られているが (#ハクセキレイの備考参照)、ヨーロッパのハクセキレイでは顔の模様を決める遺伝領域が一部明らかになりつつある。 これに類似する状況かも知れない。
      「マガモとカルガモの遺伝子が同じ」話は日本の研究者によるもので比較的よく知られているため探鳥会などで話題になることもあるだろうが、外見を決める遺伝子が調べられているわけではないので「遺伝的に非常に近い」程度の表現にとどめておくのがよさそうである。
  • ミカヅキシマアジ
    • 第8版学名:Spatula discors (スパトゥラ ディスコルス) まだら顔のスプーン(の嘴) (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas discors (アナス ディスコルス) まだら顔のカモ
    • 第8版属名:spatula (f) スプーン
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:discors (adj) 不一致の、異なった
    • 英名:Blue-winged Teal
    • 備考: spatula は#ハシビロガモ参照。 discors は短母音のみで "ディスコルス"。語源は dis- 離れる cor 心臓 とのこと。同じ意味で英語の discord とアクセント位置が一致する。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula 属 (spatula スプーン) に分離。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Spatula 属はハシビロガモ属。南北アメリカに分布する種。単形種。 種小名の由来はオスのまだら顔の模様に由来。BOU (1915) は飛翔時の特異な翼の模様を挙げている。 Gruson (1972) は不調和な鳴き声を挙げているが、原記載には習性や声の記載はないとのこと (The Key to Scientific Names)。 原記載は確かに様々な色が挙げられていて色彩由来の印象を受ける。Linnaeus 以前の学名で亜種名に variegata を与えているものがあり、染め分けられた、変化に富むの意味。ヤマガラの記述に使われたものと同様だろうか。
      伊藤・福田 (1996) Birder 10(3) 78-79 にミカヅキシマアジの日本初記録 (1996年1月) の紹介記事がある。伊藤 (2005) 日本におけるミカヅキシマアジの初記録
  • ハシビロガモ
    • 第8版学名:Spatula clypeata (スパトゥラ クリュペアータ) 盾で武装したスプーン(の嘴) (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas clypeata (アナス クリュペアータ) 盾で武装したカモ
    • 第8版属名:spatula (f) スプーン
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:clypeata (adj) 盾で武装した (clypeatus) 嘴の形状に由来
    • 英名:(Common) Shoveler, IOC: Northern Shoveler
    • 備考: spatula は短母音のみで冒頭にアクセント (ストゥラ)。 clypeata は1つめの a が長母音でアクセントがある (クリュペアータ)。この場合の -ata は所有の語尾ではなく clypeo (盾で武装する) の変化形とのこと。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula 属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。北半球に広く分布し、単形種。 英名に Northern が付くのはオーストラリア・ニュージーランドに ミカヅキハシビロガモ Spatula rhynchotis Australian Shoveler、南アフリカに ケープハシビロガモ Spatula smithii Cape Shoveler、南米に アカハシビロガモ Spatula platalea Red Shoveler が存在するため。 これら3種が単系統をなしているわけではなく、ミカヅキシマアジなど "Teal" の付く一部の種類と類縁関係がある。 後述のようにカモ類の嘴の形態進化の速度が速いので系統的に近縁であっても嘴の形が必ずしも似ていないこともあるのだろう。(シマアジや) ミカヅキシマアジとハシビロガモがそれほど似て見えないのに同属になったのは分子系統解析の結果を反映したもの。 シマアジを含むクレードとアカハシビロガモから始まるクレードを分けることは可能で、この場合は "ハシビロガモ" の名前のつく種は後者のみに含まれる。別属にするほどの分岐ではなかったため分けられなかったのだろう。
      [鳥類の嘴の形態進化速度] ハシビロガモの嘴の形が特異なのでここに含めておくが、鳥類全体で嘴の形態進化速度を比較した研究: Conney et al. (2017) Mega-evolutionary dynamics of the adaptive radiation of birds 系統樹を見てどのグループが形態進化速度が速いか見るだけでも十分面白い。カモ類は全般に進化速度が早く嘴が非常に重要な役割を果たしていることがわかる。 チドリ類は一部の系統。サイチョウ類やオウム類も速い。スズメ目ではカラス小目の最後、すなわちモズやカラス類、種子食の鳥で速いことがわかり常識ともよく一致する。昆虫食のスズメ目ではそれほどでない。 孤立系統でではフラミンゴ類など予想される通り。他は目レベルで全体的傾向のあるグループが多いが細かく見ると面白いところもありそう。
      分子系統解析の結果、チドリ類の広義 Charadrius 属が単系統でないことが判明して IOC 14.1 以降一部の種が Anarhynchus 属となっている (#タゲリの備考参照)。 これは先取権の原則に基づくものではあるが、本来はハシマガリチドリ1種を指す属名なので非常に違和感がある。しかしこのように嘴の形態の進化は速い場合もあるのでそれほど目くじらを立てるほどではないのかも知れない。 嘴の形態は黙認して系統関係を重視することになるのか。
  • オナガガモ
    • 学名:Anas acuta (アナス アクータ) 尾の先が尖ったカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:acuta (adj) 先の尖った (acutus)
    • 英名:Pintail, IOC: Northern Pintail
    • 備考: acuta は u が長母音でアクセントもある (アクータ)。英語の acute も同じように長母音でアクセントがある。英語の acute をラテン語風に発音すればよい。
      北半球に広く分布し、単形種だが亜種 (tzitzihoa メキシコ、modesta 太平洋離島の旧名 Sydney Island 現在キリバスの Manra 島) が記載されたこともあった (記載)。 この亜種は Tristram's pintail とも呼ばれ絶滅亜種とも考えられるが基亜種と区別できないとされた (wikipedia 英語版より)。 標本は3体残っているそうで原理的には DNA 判定をすることが可能なはずとのこと。 近縁種にインド洋南部の離島に生息する イートンオナガガモ Anas eatoni Eaton's Pintail があり、渡りによる長距離分散で定着して種分化した経緯が想像できる。
      かつては Anas eatoni はオナガガモの亜種とされ亜種和名がつけられていた。ケルゲレン島の eatoni にコオナガガモ、クローゼット島の drygalskii にホソフコオナガガモ (コンサイス鳥名事典)。 現代のチェックリストでは別種 Anas eatoni とされている。Kerguelen Pintail, Southern Pintail の英語別名もある (このためオナガガモに "Northern" がつくことになる)。
      ドイツ名 Spiessente (槍のカモ)、フランス名では Canard pilet で canard はカモで問題ないが、pilet はあまり使われる単語ではなく辞書に現れない。ラテン語 pilus (髪) あるいは pila (柱) 由来か。イタリア名は codone でこれもおそらく coda (尾。音楽用語にもある) 由来。 ロシア名は shilokhvost' で shilo (錐) khvost (尾)。中国語でも尖尾鴨または針尾鴨ですぐにわかる範囲の言語ではほぼ世界共通の名称のよう。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では Dafila acuta の学名が用いられていた。これはブラジルのカモに学名 Dafila caudacuta を与えて Stephens (1824) が用いた属名。後にオナガガモのシノニムと判定された。 新 Anas 属をさらにクレードに分ける可能性も考えられ、その場合は Dafila 属が生きるとのこと (Boyd の系統樹参照)。古い概念で根拠のない属名というわけではない。 Pintail Duck (Gould 1837) にあるように両学名は長期間併用されていた模様。Gould (1837) では Dafila 属は Leach によるものとしているが、これは手稿段階で正式に用いたものは Stephens とのことらしい (The Key to Scientific Names)。 尾が特徴的なので別属にしても不自然でない状態が続いていた模様。
      他の (旧、広義) Anas 属のカモより首が長く骨も多いと図鑑にある。文献によるとオナガガモ 17-19 個、他の Anas 属は 16 個とある (#コブハクチョウの備考参照)。採食習性と関連させて観察すると面白いであろう。
      Kaup (1829) が 記載 でオナガガモ1種に Trachelonetta 属を提唱している。trackhelos 首 netta カモ (Gk) の意味で、現在はもちろん使われていないがやはり細長い首 (Enten mit sehr langem, duennem Hals...) に注目した学名が存在した。 記載ではもちろん中央尾羽が長く伸びていることも特徴としている。
  • シマアジ
    • 第8版学名:Spatula querquedula (スパトゥーラ クゥェルクゥェドゥラ) クアークと鳴くスプーン(の嘴) (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas querquedula (アナス クゥェルクゥェドゥラ) クアークと鳴くカモ
    • 第8版属名:spatula (f) スプーン
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:querquedula (f) Varro や Columella の述べたカモの一種。Skeat によれば声 (querq, kark) からの擬声語
    • 英名:Garganey
    • 備考: spatula は#ハシビロガモ参照。 querquedula は短母音のみで2つめの音節にアクセントがある (クゥェルクゥェドゥラ)。-du- は長音でもなくアクセントもない。 que の音は kwe のように w を添える発音 (国名のクゥエートの発音同様)。"クゥェ" の表記で短く発音すればカモの声にも近そう。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula 属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。 一見矛盾するような属変更については#ハシビロガモの備考参照。 和名のシマは縞、アジは味がよいことからとされる。トモエガモの別名がアジガモだったことからも納得できる。 大橋 (2021) Birder 35(1): 66-67 にトモエガモの語源とともに考察があり、シマは島 (遠くから来る) と考える説もあるとのこと。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" での学名は Querquedula circia だった。Querquedula については#トモエガモの備考参照。 Anas Querquedula原記載Anas Circia はこの次のページで 記載。circia kirke (Gk) は不明の鳥でおそらく空想上のものか (The Key to Scientific Names)。 Fauna svicica の 111. が Anas Circia に該当する種で基産地はこの文献からスウェーデンと判定された、Linnaeus (1758) は Anas Querquedula を追加で挙げた経緯のよう。 おそらく Anas Circia が先に認識 (記述) されたとの考えからだろうか、Anas circia の学名はかなり使われていたようで、アメリカコガモがこの学名の種の亜種とされることもあった。後に同じものと判明したらしい。
      ユーラシアに広く分布する単形種。ヨーロッパの個体群はサハラ以南のアフリカにも渡り、かつて強毒性鳥インフルエンザ (H5N1) のナイジェリアなどのアフリカへの拡大の際にこの種の渡り経路を例に解説されたことがあった (#インドガンの備考参照)。
      英名の由来はロンバルド語 gargenei (garganell の複数形)。水面をすくように採食することかオスの特徴ある (ねじを巻くような音と形容される; 渡り途中に滞在中の個体でも聞くことができる) 声からか。イタリア語 garganella (瓶から連続的に飲む意味) にも似ている。 遡ると garg- 喉 (L)、あるいは gargling (うがいすること。日本語でもうがい薬をガーグルと言う) gargareon 口蓋垂、気管 (Gk) (American Heritage Dictionary)。
  • トモエガモ
    • 第8版学名:Sibirionetta formosa (シビリオネーッタ フォールモーサ) 美しいシベリアのカモ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Anas formosa (アナス フォールモーサ) 美しいカモ
    • 第8版属名:sibirionetta シベリアのカモ Sibiria シベリア (L) netta カモ (Gk)
    • 第7版属名:anas (f) カモ
    • 種小名:formosa (adj) 美しい (formosus)
    • 英名:Baikal Teal
    • 備考: sibirionetta は外来語を含む合成語で発音はよくわからないが、ギリシャ語 netta の冒頭は長母音なので伸ばすかも知れない。この音はアクセント音節 -net- とも一致するのでわかりやすさを重視して伸ばす方を採用した (シビリオネーッタ)。 formosa は「美しい」の形容詞では前2つが長母音。2番めにアクセントがある (フォールモーサ)。固有名詞で台湾の意味の Formosa も発音は同じとのこと。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Sibirionetta 属 (Sibiria シベリア L netta カモ Gk) に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。 Sibirionetta 属はトモエガモ属で一属一種。単形種。東シベリアに高緯度まで繁殖分布を持つ東洋特産のカモ。 属の記載は Boetticher (1929) による。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では現在の学名が用いられているが、Nettion formosum を別名としていた。 nettion は小さなカモ (Gk)。Nettion 属はコガモをタイプ種として Kaup (1829) が設けたもの。Entchen (小さなカモ) と意味が記述されている (The Key to Scientific Names)。 同じく別学名とされていた Anas glocitans Pallas, 1779 (glocitans コッコッなどの声を出す) も広く用例があり、Bemaculated Duck の英名で呼ばれていた。 最初に紹介したのが Pennant だったため、こちらの学名が優先されることになった模様。Bemerk. Reise Russ. Reich に出版で記載年は後に 1775 と判定された。 Baikal Teal (Historical Rare Birds)。 Querquedula formosa の学名も使われていたことがわかる。この属はシマアジをタイプ種として Stephens (1824) が用いたもの。しかし同じ属名はコガモをタイプ種として Eyton (1838) が用いるなど混乱していた模様 (The Key to Scientific Names)。 これらの属名は古く使われていたものの、シマアジやコガモなど異なった系統を指していたためかなり後になるが Sibirionetta が採用された模様。
      種小名に使われる formosa はここでは美しいの意味。ポルトガル語由来で台湾を指す Formosa があり、この意味で使われる場合は formosae (名詞の属格), formosana / formosanus の形になる。種小名になぜ formosa と formosae (アオバトなど) の両方があるのか気になる方もあるだろうが、このような事情による。 formos- の入っている日本の鳥の学名では、調べた範囲でトモエガモのみが「美しい」の形容詞が使われていた。
      Ogawa (1908) に別学名としてリストされている Nettion formosum はかなり用例があり広く使われていたよう。この学名で Nettion を中性名詞、formosum を形容詞と考えて活用させていたことがわかる。
      ロシア名は klotkun (または chirok-klotkun) でこれも klokhtat' というかつてニワトリが卵に呼びかける声 (vo-kvo, klyu...klyu...) 由来とのこと (Kolyada et al. 2016)。 Dement'ev and Gladkov (1952) にも音声の記述があり、klo, klo, ... と鳴くとのことで遠くからも聞こえるとのこと。春にはオスは飛んでいる時もとまっている時もずっと鳴いている。メスの声はマガモに似ているとのこと。 もう一つ学名シノニムが掲載されており、Anas cucullata Fischer, 1831。カムチャツカで記載。cucullatus フードをかぶった。
      XC380276 (Andrew Spencer 2017) に繁殖地 (ヒメクビワカモメの繁殖地) での音声がある。越冬地での録音は難しいようでバードリサーチ鳴き声図鑑にも2024年9月現在収録されていない。 トモエガモの鳴き声 (hideo suzuki 2023) に動画あり。 石川県片野鴨池に例年多く越冬し何度も訪問したが距離も遠くて音声が記録できる印象を受けなかった。むしろ少数個体が近くで見られる条件で渡り前の春に声を聞くことができることがあるかも。Anas glocitans やロシア名の由来となっている繁殖地で鳴き続けるような声は越冬地で聞くことは無理かも知れない。
      中国名は中国の戯曲 (英語で chinese opera) で使われる色彩を施した顔 (painted face) に相当する単語を用いる名称が一般的のよう。画像検索で見ていただく方がわかりやすい。
  • コガモ (アメリカコガモ が分離されることもある)
    • 学名:Anas crecca (アナス クレッカ) コガモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:crecca (合) コガモ Kricka、Kracha コガモ スウェーデン語 (声から擬声語)
    • 英名:Teal, IOC: Eurasian Teal, WGAC: Green-winged Teal
    • 備考: anas は#マガモ参照。 原記載 (Linnaeus 1758)。Fauna svicica の 109. とのことで Linnaeus (1746) は当初は Anas fusca の学名を用いていた。 スウェーデン語では Swarta とある。どちらにも種小名由来は明確に示されていないので学名由来は後世の研究によるものらしい。スウェーデン語の現在の名称は kricka だが Linnaeus は使っていなかったように見え、語源関係は逆順なのかも知れない。しかし当時から俗名として存在したかも知れない。 歴史的なスウェーデン語名称では arta (最初の a の上に丸が付く。wikipedia スウェーデン語版より) で Linnaeus の時代にはこちらの方が学術的に使われていたかも知れない。 "クレッカ" 以外の読みは考えにくい気がする。 carolinensis は i が長母音、-nen- がアクセント音節で短母音 (カロリーンスィス)、長母音 (カロリーネーンスィス) のいずれもある。場所の -ensis は伸ばすとすれば後者だろうか。
      日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でもコガモに2亜種ある立場だが、世界の主要リストでは立場が分かれており、IOC、HBW/BirdLife などは carolinensis (カロライナの) を独立種アメリカコガモ Anas carolinensis (英名 Green-winged Teal) として認めている。この場合2種とも単形種となる。 アメリカ鳥学会、Clements、eBird などでは亜種扱い。アメリカ鳥学会もかつては別種扱いとしていた。 オナガガモに Dafila 属を認める立場であればコガモやアメリカコガモは Dafilonettion 属となる (Boyd の系統樹参照)。
      もう1種近縁の種があり、キバシコガモ Anas flavirostris (英名 Yellow-billed Teal) があり、コガモ、アメリカコガモ、キバシコガモの関係は現在ある限られた遺伝情報だけでは解決できず、核 DNA の解析が必要とある (wikipedia 英語版)。ここでは IOC 分類に従った英名を挙げておく。
      SACC Split Anas crecca (Green-winged Teal/Common or Eurasian Teal) into two species: A. crecca (Common Teal or Eurasian Teal) and A. carolinensis (Green-winged Teal) ではこれまで通り亜種として扱う判断。文献も示されている。 Working Group Avian Checklists では version 0.04 より亜種扱いで、おそらく IOC もこれに従うと考えられるので世界的には同種の扱いにまとまりそう。その場合は英名は Green-winged Teal。 IOC 14.2 はまだ従来通り2種に分けている。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では Nettion 属だった (#トモエガモの備考参照)。
      [飛べないカモの進化] 南半球 Anas 属でコガモに近い飛べないカモの分子系統研究: Rosinger et al. (2024) The radiation of Austral teals (Aves: Anseriformes) and the evolution of flightlessness。 ハイイロガモ Anas gracilis Grey Teal (ニューギニア、ニューカレドニア、オーストラリア、ニュージーランド) と アオクビコガモ Anas castanea Chestnut Teal は分子系統的には互いに単系統の関係になく同種とみなすのが適切になりそう。 統一された場合は Anas castanea となるが、世界のリストではまだ別種扱い。分子系統的な関係と表現型の違いをどのように解釈するかここでも問題となりそう (互いに単系統の関係にないので単純に亜種ともできない)。 #ミコアイサの備考のように、長距離を渡るカモ類から南半球へ複数回の進出があった。
      カモ類は一般に non-sequential molt で一時的に飛べなくなるが、飛べないカモも結構ある (渡りをしないので馴染みがないだけのよう)。 Terrill (2020) Simultaneous Wing Molt as a Catalyst for the Evolution of Flightlessness in Birds のように翼の同時換羽は例えば島や開けたニッチで迅速に飛翔性を失う前適応か、との議論がある (#ハチクマ備考の [タカ・ハヤブサ類の初列風切の換羽様式] から)。
  • アカハシハジロ
    • 学名:Netta rufina (ネーッタ ルーフィナ) 赤みがかったカモ
    • 属名:netta (合) カモ (netta, nessa カモ Gk。The Key to Scientific Names)
    • 種小名:rufina (adj) 赤みがかった (rufinus)
    • 英名:Red-crested Pochard
    • 備考: netta は起源のギリシャ語に従えば長母音で "ネーッタ"。 rufina は u が長母音でアクセントもここにある (ルーフィナ)。
      カザフスタン、モンゴルなど中央アジアを中心に分布する種。日本でも定常的に迷行例があるが、ヨーロッパにも多数の迷行例がある。単形種。 Netta 属、Aythya 属のカモ類のロシア名は nyrok (潜るもの)。
      10 秒以内の短く浅い潜水で Aythya 属よりも水中生活に適していない。嘴の形もむしろ淡水ガモに近い。Aythya 属と淡水ガモの中間的な性質を持つ (コンサイス鳥名事典)。 最新の分子系統研究では Netta 属は単系統でない可能性があり、アカハシハジロ (タイプ種) のみが Netta 属に残る可能性がある (#オカヨシガモの備考参照)。
      アカハシハジロの祖先系統にあたるバライロガモ Rhodonessa caryophyllacea Pink-headed Duck は IUCN CR 種。かつてはインド、バングラデシュ、ミャンマーに生息していたが 1950 年代より目撃がなく絶滅した可能性がある。 可能性のある地域で調査されているが確認されていない。証拠不十分な目撃事例がないわけではない。 最後の写真は 1925 年ごろに撮られたもの (wikipedia 英語版より)。 人為由来で絶滅した可能性が考えられるが、Ericson et al. (2017) A genomic perspective of the pink-headed duck Rhodonessa caryophyllacea suggests a long history of low effective population size によれば 280 万年前に分岐し、少なくとも過去 10 万年は実効個体数は低いままであったことが判明した。生態的理由などで個体数を増やすことができなかった可能性があるが詳細は不明。 もともとまれな種であったが人為的影響で簡単に滅んでしまったのだろうか。
      ちなみにアカハシハジロはかつては数が減少しつつあると考えられていたが、近年はヨーロッパの目撃例が増えており (参考: Red-crested Pochard BTO。英国では著明に増加。飼育個体由来も考えられる)、数はむしろ増えていると推定されている。 ヨーロッパ繁殖地でも見つかりにくい種だそうで、日本の最近の目撃例の増加は個体数が増えたのか観察者が増えた効果なのか判断が難しいかも。
  • オオホシハジロ
    • 学名:Aythya valisineria (アユテュア ウァルリスィネリア) セキショウモを好む海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:valisineria (合) セキショウモの (海草 vallisneria セキショウモの属名)
    • 英名:Canvasback
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 valisineria の発音はよくわからないがすべて短母音とすると -ne- がアクセント音節で、"ウァルリスィリア" となる。
      北米の種で単形種。
  • アメリカホシハジロ
    • 学名:Aythya americana (アユテュア アメリカーナ) アメリカの海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Redhead
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 americana は -ca- の a が長母音でアクセントもある (アメリカーナ)。
      北米の種で単形種。 部分的な托卵 (任意托卵) が知られている。アニマ 1992年6月号 pp. 78-81 にこの種の研究の第一人者の Sorenson の解説の翻訳記事がある (#カッコウの備考 [托卵鳥の同種認識] も参照)。 托卵を行う/自身で育てる両方の戦略を持つ。1988 年の日照りの年は水位が低く、巣が見えやすくなってしまうためにほとんどのメスは托卵を行ったとのこと。抱卵中はメスにとっても危険なため、変わりやすい大草原の環境に適応した行動かとのこと。
  • ホシハジロ
    • 学名:Aythya ferina (アユテュア フェリーナ) 食用にされた海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:ferina (adj) 野獣の肉の (ferinus)
    • 英名:Pochard, IOC: Common Pochard
    • 備考: aythya は外来語由来で発音は明確でないが、すべて短母音とすれば "アテュア" のアクセントになる。短い単語なのに4つも母音があり、これは起源のギリシャ語も同様。 "y" の発音は "ィユ" と表記されることもある。 ferina は i が長母音でアクセントもある (フェリーナ)。
      ユーラシアに広く分布する。単形種。 #アメリカホシハジロ同様に種内托卵が高率で見られるとのこと: Petrzelkova et al. (2013) Conspecific Brood Parasitism and Host Clutch Size in Common Pochards Aythya ferina; Sovicek et al. (2013) High rates of conspecific brood parasitism revealed by microsatellite analysis in a diving duck, the common pochard Aythya ferina。 後者によると 39% の卵が種内托卵で、巣の 89% に托卵が見られたという。他のカモ類でも種内托卵が高率で見られるものがあり、ホオジロガモで 36%、ホンケワタガモで 6-18%、マガモで 11% など。オカヨシガモは 0% とのことで、Anatini 族は比較的少なく、Mergini 族に多い模様。 論文はフリーで読めるので日本産種以外にも興味をお持ちの方は確認いただきたい。
  • アカハジロ
    • 学名:Aythya baeri (アユテュア バエーリ) ベールの海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:baeri (属) baer の (プロイセンの発生生物学者でシベリアを探検した Karl Ernst von Baer Edler von Huthorn に由来。反ダーウィン派だったとのこと。ドイツ語でもウムラウトなしでそのまま Baer と綴るようだが、ロシア名も別にあってベールと読まれていたことがわかる。日本語読みはそれに従った)
    • 英名:Baer's Pochard
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 baeri は e を長母音として発音するか次第だが、"エリ" または "バエーリ"。後者の方が原音に近い可能性があるためこちらを採用した。
      東アジア地域のみで繁殖する希少なカモ。単形種。メジロガモと同種と考えられたこともあった。アカハジロ、メジロガモを含む目の白い潜水ガモに亜属 Nyroca (メジロガモの学名語源参照)が提唱されたこともあった。Aythya 属、Betta 属などを Aythyini 族とまとめることは受け入れられているが、アカハジロ、メジロガモの分子遺伝学的研究はまだ不十分である (wikipedia 記述の段階)。 現在ではゲノムアセンブリが報告されている [Zhang et al. (2023) Chromosome-level genome assembly of the critically endangered Baer’s pochard (Aythya baeri)。この論文の段階で個体数は 150 と 700 の間と見積もられている]。 メジロガモについても 2021 年段階でミトコンドリアゲノムが解読されており、分子系統解析が得られるのは時間の問題と思われる。
      かつてはロシア南東部と中国東北部でも繁殖していて日本を含む南へ渡っていたとされる。現在は中国の北部から中部で留鳥。現在では世界の成鳥の個体数は 1000 羽を割っている可能があり、さらに減少中と考えられている。2010 年以降北京より北側では見られなくなったと報告されている。 繁殖個体数が越冬個体数よりも少ないため、未知の繁殖地があるとされており、中国で従来記載の繁殖地から遠く離れた新しい繁殖地の発見も報告されている。2010-2011 年以降中国本土以外での定常的な越冬個体群はなく、迷鳥となっている。中国本土の越冬地でも数が大きく減少している。
      IUCN 3.1で CR 種。East Asian-Australasian Flyway Partnership (EAAFP) による アカハジロタスクフォース が作られた。2021 年中国の国家一級保護種に指定された (New protection for Baer’s Pochard in China)。 2022 年に北京動物園で飼育個体群が確立され、将来の野生再導入計画がある [Yong et al. (2022) The first captive population of Baer's pochard in China was established] (wikipedia 英語版)。 なお中国の国家保護種は 国家重点保護野生動物目録 (wikipedia 中国語版) で見ることができる (これらを見る時には学名のありがたみがわかる)。 この時に新たに指定された鳥類については China updates list of species with special protection に解説がある。
      1989 年に「国家級保護動物」のリストが出されてから2種追加されただけだったそうである。2021 年の改訂が 32 年ぶり初めての大幅な見直しとなった。従来は大型種のように目立つものが対象だったが、研究が進んで (中国内の動物学者も圧倒的に増えた)、科学ベースのリストになり、経済的価値から生態系や生息地の保護へのシフトを明確にしたとのこと。 今後は5年程度で見直すことにした (A new hope for China’s endangered animals)。 シマアオジもこの時に登場。
      又野 (2019) アカハジロがヒシの実を食べる行動 (大阪の飛来数記録の表もあり)。 この種の音声記録は公表されているものでは世界にまだ1例もない (#コウライアイサの備考参照) が、おそらく飼育下で記録されているものと思われる。
  • メジロガモ
    • 学名:Aythya nyroca (アユテュア ニュローカ) 潜るカモ
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:nyroca (外) nyrok 潜る者 (< nyryat' 潜る) 露
    • 英名:Ferruginous Duck
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 nyroca は任意の読み方が可能だが、原音を活かすならば "ニュローカ" と伸ばしてここにアクセントを置くとよい。 ラテン語化 (おそらく女性形を意識) して語尾が変えられているが、ロシア語で nyroka の綴りの場合はアクセントが移動して o は短く、語末の -a がアクセントになる。 原記載 は原形 (主格) を採用している。女性名詞の当時の属 Anas に置くために -a を追加したものと思われる。 Aythya 属も女性名詞のため一見わからないが、もし男性名詞の属に変わっていたら語尾の不整合を感じたかも知れない。
      東欧からロシア西部、中央アジア、中国西部、アフリカ北部などに主に分布する。単形種。日本で記録される数はアカハジロと同程度であるが、世界的個体数はメジロガモの方がずっと多く、IUCN 3.1で NT 種。#アカハジロの備考も参照。
  • クビワキンクロ
    • 学名:Aythya collaris (アユテュア コルラーリス) 首輪のある海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:collaris (属) 首輪のある (collare -is (n) 首輪)
    • 英名:Ring-necked Duck
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 collaris は中央が長母音でアクセントがある (コルラーリス)。
      北米の種で単形種。かつて東京都不忍池で 1984 年から 1994 年に 11 年連続の飛来記録があり、(少なくとも関東在住の古参バーダーには) あまり珍しくなくなった印象を受けるが飛来はやはりまれ (当時の不忍池はカモ類の餌付けが行われており、一面カモだらけ、クビワキンクロも足元にいた光景もあり双眼鏡すら不要で全く珍しさを感じさせなかった。さらにコスズガモまで飛来していた。Birder 誌にも当時のいろいろな逸話が掲載されていた)。 日本鳥学会誌にも他所の記録論文が複数出ている。
  • キンクロハジロ
    • 学名:Aythya fuligula (アユテュア フーリーグラ) スス色の喉の海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:fuligula (f) スス色の喉の (fuligo (f) スス gula 喉)
    • 英名:Tufted Duck
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 fuligula は fuligo (フーリーゴ) すす と長母音が並ぶ (#カワビタキも参照)。gula は短母音。i にアクセントがあり "フーリーグラ"。 母音を伸ばさない場合もアクセントはこの位置。
      属名の由来の aithuia はアリストテレス他の記載した未同定の海鳥。ミズナギドリ、ウ、カモ、ウミスズメなどの解釈がある。ギリシャ神話で水鳥に変えられた Cygnus の母親に Thyr (Thryie) があり関連する可能性がある (The Key to Scientific Names)。ユーラシアに広く分布する単形種。
  • スズガモ
    • 学名:Aythya marila (アユテュア マリラ) 少し黒い海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:marila (合) 少し黒い (mauro 黒い Gk、-illa (指小辞) 小さい)、charcoal embers
    • 英名:Scaup, IOC: Greater Scaup
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 marila はすべて短母音のみと考えられ "リラ"。
      2亜種あり、日本で記録されるものは従来基亜種 marila とされていたが、「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) にて nearctica (新北区の; 北米を指す) に変更された。 Howard and Moore では現在この分類になっている。 Marchowski and Leitner (2019) Conservation implications of extraordinary Greater Scaup (Aythya marila) concentrations in the Odra Estuary, Poland の解説によれば世界でフライウエイに応じたいくつかのグループがあり、(1) A. m. nearctica 北米のグループで4つのフライウエイ、(2) A. m. nearctica 東アジアのグループ、(3) A. m. marila アジア北西部とヨーローパ北東部で繁殖しカスピ海や黒海周辺で越冬、(4) A. m. marila ヨーローパ北東部で繁殖し北海やバルト海周辺で越冬、 の4つに分けられるとのこと。日本の個体群は (2) にあたるようである。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" でもこの亜種となっている。 東アジアの個体群はかつて中間にあたると考えられて mariloides (marila スズガモ -oides に似た Gk) が使われたことがあったがこれは本来コスズガモに与えられた学名で無効とのこと (wikipedia 英語版)。 文献: Banks (1986) Subspecies of the Greater Scaup and their names (それ以前の分類概念経緯も記載されている)。 この文献では東アジアの個体をヨーロッパのものと区別できないためユーラシアをまとめた marila としていた。 mariloides (学名の正統性はともかく) を認める立場であれば東アジアの個体群はこれに属するが、Avibase でも nearctica のシノニムとして扱っている。Howard and Moore は 2nd edition まで mariloides を認めていた。 コンサイス鳥名辞典では北ヨーローパから西シベリア北部をオオスズガモ A. m. marila、東シベリア、アラスカ、カナダ北部を A. m. mariloides としていた。 今後の基亜種の名前はオオスズガモかも知れない。
      他に Lesser Scaup (コスズガモ) が存在するため英名は Greater Scaup が望ましい。 scaup の語源はスコットランド語で貝類の繁殖場所 (shellfish bed) のことか、あるいは鳴き声からとのこと (wikipedia 英語版より)。ロシア語ではスズガモ類は chernet' で「黒いやつ」ぐらいの意味だろう。ドイツ語では Bergente < Berg (山) Ente (カモ) で生態をあまり反映していない? 北米での別名は Bluebill (北米に生息するコスズガモの Little Bluebill に対応)。 Marchowski and Leitner (2019) によれば基亜種は近年減少傾向が目立つとのこと。 wikipedia 英語版によれば1980年代から減少が始まったとのこと。
  • コスズガモ
    • 学名:Aythya affinis (アユテュア アフフィーニス) スズガモに似た海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:affinis (adj) 隣の、姻戚関係の
    • 英名:Lesser Scaup
    • 備考: aythya は#ホシハジロ参照。 affinis は -fi- の i が長母音でアクセントもここにある (アフフィーニス)。ad + finis が語源。-ff- を単音で、i を短母音にする英語読みでも実用上問題ないだろう。
      北米の種で単形種。 英名の別名 Little Bluebill, Broadbill。
  • コケワタガモ
    • 学名:Polysticta stelleri (ポリュスティクタ ステルレリ) シュテラーの多くの斑のある鳥
    • 属名:polysticta (合) 多くの斑のある (poly- (接頭辞) 多くの stikos 斑 Gk、-tus (接尾辞) 〜を備えている)
    • 種小名:stelleri (属) ステッラーの (ドイツの博物学者 Georg Wilhelm Steller に由来)
    • 英名:Steller's Eider
    • 備考: polysticta は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-stic- と区切るならば "ポリュスティクタ" (#ハギマシコの考察参照)。 stelleri は人名由来だがラテン語風に読んで stel-le-ri と区切れば "スルレリ" となる。"レ" を伸ばすなど原語の音を優先するかは好み次第でよいだろう。
      極北の種で一属一種で単形種。英語 eider の語源はアイスランド語 aedr に由来すると考えられるがその語源は不明。
  • ケワタガモ
    • 学名:Somateria spectabilis (ソーマテリア スペクタービリス) 美しい羊毛の体の鳥
    • 属名:somateria (合) 羊毛の体 (somatos 体 erion 羊毛 Gk)
    • 種小名:spectabilis (adj) 美しい、見える
    • 英名:King Eider
    • 備考: somateria は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は somatos の冒頭が長母音。アクセントは -te- の音節と考えられる (ソーマリア)。このギリシャ語由来の多くの単語は so- を長音としているので (英語の -some で終わる生物用語) 同様に伸ばすのが適切と思える。 spectabilis は a が長母音でアクセントもここにある (スペクタービリス)。
      極北の種で単形種。この属ではヨーロッパ等に比較的普通のホンケワタガモ Somateria mollissima (英名 Common Eider) が世界的には有名。ケワタガモの名前はケワタガモの産座の綿羽が良質の保温材の採取対象とされてきたことによる。 コンサイス鳥名事典によれば執筆当時も商業利用されていたそうである。同書によれば別名アカハナケワタガモがあるとのこと。
  • シノリガモ
    • 学名:Histrionicus histrionicus (ヒストゥリオーニクス ヒストゥリオーニクス) 役者のような鳥
    • 属名:histrionicus (adj) 役者のような (histrio -onis (m) 役者 -icus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:histrionicus (トートニム)
    • 英名:Harlequin Duck (道化師の意味でフランス語由来)
    • 備考: histrionicus は o が長母音でアクセントもここにある (ヒストゥリオーニクス)。histrio の最後が長音。
      一属一種で単形種。日本でも北海道と東北地方山地渓流で繁殖する。 wikipedia 日本語版には「太平洋岸繁殖個体群を H. h. pacific として分割する説もあったが、有力ではない」とあるが pacificus (太平洋の) が正しい。現在の世界の主要リストではシノニムとされる。
      Scribner et al. (2024) A phylogeographical study of the discontinuously distributed Harlequin Duck (Histrionicus histrionicus) に氷河期の大西洋の refugia から各地の個体群に広がって太平洋由来の個体群と二次的に接触した描像が得られた。
      ロシアのハバロフスク地方のブレインスキー保護区で放棄された卵から育てて最終的に野外に放った事例が紹介されている (#ハチクマの備考も参照)。シノリガモの黒子ちゃん - またの名を 異類の中の同類、同類の中の異類 に翻訳を掲載。
      シノリガモは流れの速い河川のそばに営巣し、まったく系統の異なるカワガラス類と習性や隠蔽色が似ているとのこと: 参考 Gray Camouflage: Dippers and Female Harlequin Ducks (Bob Sundstrom, BirdNote 2019)。 ここで扱われている種類はメキシコカワガラス Cinclus mexicanus American Dipper でヨーロッパのムナジロカワガラス Cinclus cinclus White-throated Dipper に対応するとされているが、日本のカワガラスも同様に考えてよいだろう。 シノリガモやカワガラス類の生息しない南米ではヤマガモ Merganetta armata Torrent Duck が同じニッチを占めるとのこと。日本の種ではツクシガモの系統が比較的近い。シノリガモはアイサ類に近い系統で異なっている。 ニュージーランドのアオヤマガモ Hymenolaimus malacorhynchos Blue Duck も同様。古く分岐したものだがアカハシハジロや Aythya 属などの潜水ガモの祖先に相当する系統と考えられている。
      高地で潜水するヤマガモの生理学的適応については例えば Dawson et al. (2016) Mitochondrial physiology in the skeletal and cardiac muscles is altered in torrent ducks, Merganetta armata, from high altitudes in the Andes
  • アラナミキンクロ
    • 学名:Melanitta perspicillata (メラニッタ ペルスピキルラータ) 眼鏡をかけた黒いカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い netta カモ Gk)
    • 種小名:perspicillata (adj) 眼鏡をかけた (perspicillum 眼鏡 -ata (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Surf Scoter
    • 備考: melanitta は#ビロードキンクロ参照。 perspicillata は perspicillum は短母音のみ (ガリレオが 1610 年に作った単語とのこと)。 -ata は所有で冒頭が長母音でアクセントもある (ペルスピキルラータ)。
      主に北米の単形種。
  • ビロードキンクロ (アメリカビロードキンクロ が分離された。ビロードキンクロの学名も変わった)
    • 第8版学名:Melanitta stejnegeri (メラニッタ ステイネゲリ) シュタイネゲルのカモ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Melanitta fusca (メラニッタ フスカ) 黒ずんだカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い netta カモ Gk)
    • 第8版種小名:stejnegeri ノルウエーの動物学者 Leonhard Hess Stejneger の
    • 第7版種小名:fusca (adj) 黒ずんだ (fuscus)
    • 英名:(White-winged Scoter アメリカビロードキンクロ), IOC: Stejneger's Scoter
    • 備考: melanitta は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は netta ならば冒頭が長母音で同様に伸ばすかも知れない。-nit- にアクセントがあることは疑いないので "メラニッタ" としておく。"メラニータ" でもおそらく構わない。 stejnegeri は規則通りであれば "ステイゲリ" のアクセントになる。-ge- を伸ばせばこちらがアクセントとなる (ステイネゲーリ)。 名前のアクセントは冒頭らしくどちらにしてもアクセント位置は変わる。ラテン語読みと理解することにする。原語に合わせた読み方でもおそらく実用上問題ない。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Melanitta stejnegeri となる。ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Hess Stejneger にちなむ。 Steineger 家だったが、1870 年ごろより Stejneger の綴りを用い生涯使ったとのこと (wikipedia 英語版)。英語読みでは "スタジンガー" や "スタジネガー" のような発音が多い。 シュと読むのはドイツ系の名字であるためか (Stein 石)。現代のノルウエー語でも同様らしい。 ちなみにロシア語でもシュと表記しており、実際にどのように読まれていたかは問わず慣用としてシュタイネゲルの名前を残しておく。
      かつては Melanitta deglandi (フランスの鳥類学者 Come-Damien Degland にちなむ; こちらの英名は White-winged Scoter アメリカビロードキンクロ) と同種と考えられていた。 アメリカビロードキンクロは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で含まれた。いずれも単形種となる。IOC 9.2, Clements 2019 以降別種。
      ビロードキンクロの新学名に対応する英名は Stejneger's Scoter または Siberian Scoter となる (後者は AOU の名称)。 現在の分類では Melanitta fusca はユーラシア西部の種類となり、英名は Velvet Scoter (ヨーロッパビロードキンクロ)。和名はこの種の英名に対応していて現在の分類で正確に使おうとすると大変ややこしい。ただ外国人バーダーも古い時代の velvet の名を知っていた人もあったためか、この英名でも通じた。 越冬時は海岸で観察されるため繁殖地も海に近いと考えそうだが、大陸奥深く内陸で繁殖する。ビロードキンクロはエニセイ川以東に広く分布。モンゴルでも繁殖個体群が観察される。アメリカビロードキンクロも同様でアラスカからカナダ西部の内陸で繁殖する。
      Cadiz et al. (2024) Demographic History and Inbreeding in Two Declining Sea Duck Species Inferred From Whole-Genome Sequence Data の全ゲノム研究によれば、コオリガモは過去の実効個体群サイズが比較的安定していたが Velvet Scoter (ヨーロッパビロードキンクロ) は減少傾向が見られる。分布範囲が狭いため氷河期に生息域がより縮小した可能性がある。両種とも過去数千年に実効個体群サイズの減少が認められ人為的圧力となっている可能性がある。 2種の間無視できないレベルの交雑があり、個体数減少に伴って近年生じたよりは過去から存在していたと考えられる。さらなる個体数減少があれば交雑による遺伝的劣化の恐れも考えられる。
  • クロガモ
    • 学名:Melanitta americana (メラニッタ アメリカーナ) アメリカの黒いカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い netta カモ Gk)
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Black Scoter
    • 備考: melanitta は#ビロードキンクロ参照。 americana は1つめの a が長母音でアクセントもここにある (アメリカーナ)。
      北米からユーラシア北東部に分布。ビロードキンクロよりは沿岸に近い場所で繁殖する。単形種。 近縁種にヨーロッパクロガモ Melanitta nigra 英名 Common Scoter があり、かつては同種とされていた。 ロシア北極圏では両種が繁殖するがシベリア北部ではクロガモの方が多いらしい。クロガモの方が東寄りでヨーロッパクロガモは主にヨーロッパで越冬する。 サハリンでもクロガモの繁殖が知られている: Vshivtsev (1979初出、2012再掲) Nesting of the black scoter Melanitta nigra on the Sakhalin Island (pp. 2661-2665)。
  • コオリガモ
    • 学名:Clangula hyemalis (クラングラ ヒュエマーリス) 冬の声の響く鳥
    • 属名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
    • 種小名:hyemalis (合) 冬の (hiemalis (adj) 冬の hiems (f) 冬)
    • 英名:Long-tailed Duck
    • 備考: clangula は -ula の指小辞発音に従えば長母音が現れない (#キクイタダキ学名などと同様)。規則によれば "クングラ" のアクセントになる。 hyemalis は a が長母音でここにアクセントがある (ヒュエマーリス)。
      極北に広く分布する単形種。越冬中の群れは特徴的な歌うような声を出し、遠くからも聞こえるという The Key to Scientific Names の注釈に沿った訳とした。 属名とホオジロガモの種小名の関係については#ホオジロガモの備考参照。どちらも音が由来と考えられるがそれぞれ独立に付けられたもので意味は同じとは限らない。
  • ヒメハジロ
    • 学名:Bucephala albeola (ブーケパラ アルベオラ) 少し白い大きな頭の鳥
    • 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
    • 種小名:albeola (adj) 少し白い (albus (adj) 白い -ola (指小辞) 小さい)
    • 英名:Bufflehead
    • 備考: bucephala は#ホオジロガモ参照。 albeola は -ola の指小辞発音を考慮すると長母音は生じないと思われる (アルオラ)。
      北米に分布する単形種。英名の由来については#ホオジロガモの備考参照。
  • ホオジロガモ
    • 学名:Bucephala clangula (ブーケパラ クラングラ) 羽音の響く大きな頭の鳥
    • 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
    • 種小名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
    • 英名:Common Goldeneye
    • 備考: bucephala は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語の bous の長音を採用すれば "ブーパラ" (#モズ参照)。 clangula は#コオリガモ参照。
      種小名の和訳は wikipedia 日本語版では「やかましく騒ぐ」となっている。
      ホオジロガモの羽音はよく響いて独特なのでそれを意味する可能性 (例えば日本語のスズガモの語源にように) を考えた。やはり羽音から "whistler" と呼ばれることを知った (羽音を whistling sound と呼ぶ)。 狩猟用語でカモの識別に役立つとのこと。Common Goldeneye。ディスプレイの声よりは羽音が目立つ気がするので、種小名の語源はおそらくこちらではないだろうか。「羽音の響く」と訳してみた。 clangere に関連する学名は #コオリガモ#カラフトワシ (可能性あり) も参照。 #オオジシギ備考の [タシギ類のドラミング] で紹介の Clark and Prum (2015) にも含まれている。 なお英名で whistling duck が付くものも別に存在する (リュウキュウガモなど)。こちらは鳴き声由来と説明がある (wikipedia 英語版から)。 "wing whistle" の用語も用いられることがあるが、上記 Clark and Prum (2015) によればあまり適切でない用語とのこと。
      wikipedia 日本語版の「属名 Bucephala はアレクサンドロス3世 (大王) の馬の名前からつけられたもの」については当初出典を見つけられなかったのだが、 Bucephalus Bucephalus or Bucephalas に馬の記述があり、牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk) の由来はおそらく同じよう。
      属名の原記載には意味は特に現れないが、 この Baird (1858) は (同属でタイプ種の) ヒメハジロの英名について "The name buffle head is a corruption of buffalo head, under which name it is mentioned by Bartram, in 1791" と説明しているので「牛の頭」でよさそう。そのままギリシャ語由来の属名としたものだろう。アレクサンドロス3世はおそらく関係がない。不釣り合いに頭が大きいの意味と OED には説明がある。 Why are they called Bufflehead? (Birdful) にも英名由来の考察がある。Baird の属名の意味は上記でよいと思われるが、Bartram (1791) ですでに使われている英名なので、英名は起源がさらに古く議論の余地が残るのだろう。 Baird (1858) では "whistle wing" がホオジロガモの別名になっているので、種小名に使われる clangula はやはり翼の音と解釈するのが適切そう。
      種小名に clangula が使われているのに、なぜ Clangula (コオリガモ) 属に含まれないのか疑問を持たれるだろうが、Clangula 属は Anas glacialis で最初に使われたためこのグループの名称には使えないとの説明が Baird (1858) にある。 Baird (1858) の時点では Clangula glacialis Boie, 1822 に対応していて、これはコオリガモを指していたが Clangula glacialis Leach, 1819 の属の用例が見つかり (コオリガモがタイプ種になる) こちらが採用された。 種の記載そのものは Linnaeus が最初に行ったため学名は Clangula hyemalis (Linnaeus, 1758) となる。 ここで Boie の用いた種小名の glacialis は現在 Anas 属でハイイロガモ Grey Teal に使われている。属が違うので衝突しないのだろうが非常にややこしい。Anas glacialis は現在はハイイロガモを指すが、コオリガモのシノニムにも挙がっている。古い文献を読む時にはよほど注意しないと間違えそう。
      ホオジロガモは Anas Clangula Linnaeus, 1758 と記載されたもの (原記載)。この中には Clangula. Gesn. av. 119 とあるので、Clangula はすでに1語の学名として使われていたもので Linnaeus はこれを利用したよう。 属名の Clangula と種小名の clangula は別々に付けられたものでそもそも直接の関係はなかった (Leach も単純に挙げているだけで他種はリストされていない)。カモ類を分類する過程で整理された結果、一見矛盾する現在の学名となった。 まとめると以下のようになる。太字が採用されたもの。
      ホオジロガモ コオリガモ ヒメハジロ
      Linnaeus (1758) Anas Clangula
      = Anas bucephala
      = Anas Glaucion
      Anas hyemalis Anas Albeola
      Leach (1819) Clangula glacialis
      Baird (1858) Bucephala americana
      (亜種アメリカホオジロガモ)
      Bucephala albeola
      (タイプ種)

      2亜種あり日本のものは基亜種 clangula とされる。もう1亜種 americana アメリカホオジロガモは北米に分布。
  • ミコアイサ
    • 学名:Mergellus albellus (メルゲルルス アルベルルス) 白くてかわいい小さなアイサ
    • 属名:mergellus (m) 小さいアイサ (mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥 -ellus (指小辞) 小さい)
    • 種小名:albellus (adj) 白くてかわいい (albus (adj) 白い bellus (adj) かわいい)
    • 英名:Smew
    • 備考: mergellus は長母音を持たないと考えられ、-gel- がアクセント音節となる (メルルルス)。 albellus は長母音を持たないと考えられ、-bel- がアクセント音節となる (アルルルス)。
      ユーラシアに広く分布する単形種。属名の由来は#カワアイサの備考も参照。 中国名白秋沙鴨で秋沙 (アイサ) の部分は和名に由来とのこと [福井・チャン (2003) Birder 17(8): 68-69]。
      "アイサ" と付く日本産種類の中でミコアイサのみが別属であるが、これはアイサ類の中で最も早く分岐した系統で、アイサ類の現代的な分子系統 (ただし mtDNA のみ) は以下のようになる。 この部分は最後3種の順序に不定性があるが他の部分は系統分岐順になっている。 他のグループで一番近縁なのはホオジロガモ類の Bucephala 属の3種。

      カモ亜科 Anatinae: Ducks
       ミコアイサ? 族 Mergini: Sea Ducks (ミコアイサ系統のみ掲載)
        ミコアイサ属 Mergellus
         ミコアイサ Mergellus albellus Smew
        オウギアイサ属 Lophodytes
         オウギアイサ Lophodytes cucullatus Hooded Merganser (北米)
        ウミアイサ属 Mergus ("True" mergansers)
         ウミアイサ Mergus serrator Red-breasted Merganser
         コウライアイサ Mergus squamatus Scaly-sided Merganser
         クロアイサ Mergus octosetaceus Brazilian Merganser (ブラジル)
         オークランドアイサ Mergus australis New Zealand Merganser (ニュージーランド。絶滅種)
         カワアイサ Mergus merganser Common Merganser

      このグループの大半の種が北半球に広く分布しておりご存じお馴染みのものが多い。コウライアイサのみが非常に局地的に分布する。南半球では事情が異なっており2種が分かれて分布していたが1種が絶滅種であるため系統関係はわからなかった。 Rawlence et al. (2024) Ancient mitogenomes reveal evidence for the Late Miocene dispersal of mergansers to the Southern Hemisphere は保存状態のよい標本から南半球には少なとも 700 万年前から2回の独立の進出があったことを示した。 Mergus 属は属内の種の分岐年代が古く、ホオジロガモ類やケワタガモ類とは対照的である。この論文にそれぞれの種類の分布図も出ている。 南半球の分布は北半球からの渡り個体に由来すると考えられる。
  • カワアイサ
    • 学名:Mergus merganser (メルグス メルガンセル) 少し沈んで泳ぐガン
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:merganser (m) 沈んで泳ぐガン (mergo (tr) 沈める anser (m) ガン)
    • 英名:Common Merganser
    • 備考: mergus は短母音のみ (ルグス)。 merganser は短母音のみと考えられ -gan- がアクセント音節 (メルンセル)。
      属名に使われる mergus は Pliny などが用いた種類不明の水鳥 < mergere 潜る。 北半球に広く分布し3亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 merganser 亜種カワアイサとorientalis (東洋の) コカワアイサとされるが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では両亜種和名は検討中とのこと。 亜種 orientalis は「東洋の」の意味が適切でなく、アフガニスタンからチベット、中国南部で繁殖し、インドや中国南西部に渡る (Clements) とある。英語では Central Asian と形容され、こちらの方が分布をよく反映している。ちなみに orientalis の方がやや大きいとされる (wikipedia 英語版)。 ユーラシアでは Goosander の英名も使われる。これは goose (ガン) と gander (オスのガン) からの合成語で 1622年にすでに使われていた (wiktionary)。Merganser はアメリカでの名称。
  • ウミアイサ
    • 学名:Mergus serrator (メルグス セルラートル) 嘴にのこぎり状の突起のあるアイサ
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:serrator (adj) 嘴にのこぎり状の突起のある (serratus (adj) ギザギザのある -or (接尾辞) 状態の)
    • 英名:Red-breasted Merganser
    • 備考: mergus は#カワアイサ参照。 serrator は a が長母音でアクセントがある (セルラートル)。語末は長音にならないので注意。
      愛媛の野鳥「はばたき」では種小名 serrator を「のこぎりで材木をひく人」と訳している。英訳の sawyer 由来かも知れない。 いずれも serra (のこぎり) に由来し嘴ののこぎり状の突起に由来する (wikipedia 英語版)。 原記載。 「長い嘴の」意味の学名も過去に使われ、いくつかの言語では標準名がこの意味になっている。カタラン語のように Bec de serra mitja のように嘴ののこぎり状の突起を表している名称もある。 北半球高緯度に広く分布。単形種。
  • コウライアイサ
    • 学名:Mergus squamatus (メルグス スクアマートゥス) 鱗模様のアイサ
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:squamatus (adj) 鱗で覆われた (squama (f) 鱗 -atus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Chinese Merganser, IOC: Scaly-sided Merganser
    • 備考: mergus は#カワアイサ参照。 squamatus は -ma- の a が長母音でここにアクセントがある (スクアマートゥス)。所有の -atus。
      東アジアの狭い範囲に分布する比較的数の少ない鳥。個体群の多くはロシア極東部で繁殖していると考えられている。多くの海ガモと同様に樹洞営巣で、同地域のオシドリとの競争がある可能性がある。原生林地帯であり、個体数を調べるのは容易でない。IUCN 3.1 で EN 種 (wikipedia 英語版)。ロシアでの研究はそれなりの数の論文がある。
      ごく最近まで音声記録は世界に1例もなかった。Veprintsev Phonotheka of Animal Voices (#エゾビタキの備考参照) にも含まれていなかった。 近縁のウミアイサでは求愛ポーズで特有のディスプレイの音声を出し、コウライアイサも同様と推定されるが [「山溪ハンディ図鑑 日本の野鳥」(初版 1998)] この音声はまだ録音されていない。上田秀雄氏による Ueda Nature Sound や Macaulay Library (eBirdの画像他のライブラリ) にも含まれていない。 中国で録音された唯一の音源はカモ類一般に聞かれるガッガッ...の音声であり、ディスプレイの音声ではない。鹿児島県で2011年12月から2012年4月にかけて最大で9羽が観察・撮影されており、3月には交尾行動も観察・撮影された [所崎 (2012) 「鹿児島県のコウライアイサの越冬記録」Birder 2012年11月号, pp. 46-47 が出典。音声の記録はない] とのことで、ディスプレイの音声を記録できるチャンスは皆無ではないと思われる。可能性のある方は世界初記録にチャレンジしていただきたい。
  •  カイツブリ目 PODICIPEDIFORMES カイツブリ科 PODICIPEDIDAE 

  • カイツブリ
    • 学名:Tachybaptus ruficollis (タキュバプトゥス ルーフィコルリス) 赤い首の速く潜る鳥
    • 属名:tachybaptus (合) 速く潜るもの (tachy- (接頭辞) 速く (Gk) bapto 潜る (Gk)、-tus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:ruficollis (adj) 赤い首の (rufus (adj) 赤い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Little Grebe
    • 備考: tachybaptus は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-bap- がアクセント音節と考えられる (タキュプトゥス)。tachy- に慣れていればそこまで難しくないが和名や英名に比べて長くて難解であることは否めない。 ruficollis は冒頭が長母音 (rufus ルーフス)。-col- がアクセント音節で "ルーフィルリス"。アカエリカイツブリの方により適した種小名と思えるがこちらに付いている。
      ユーラシアからアフリカに広く分布する。7亜種が認められている (IOC)。 日本で記録される種類は poggei (中国滞在のドイツ人軍人。東プロイセンの森林官 Karl Pogge に由来) 亜種カイツブリと kunikyonis (大東島在住の日本人採集家 Kunihira Kunikyo 由来) ダイトウカイツブリが日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。 後者は世界のリストではほとんど認められておらず、poggei のシノニムとされるのが一般的。前者もおそらく亜種 japonicuspoggei のシノニムとなった結果。
      Tachybaptus Reichenbach, 1853 (図版) が属の原記載とされる。
      [他言語語源] カイツブリ類英名の grebe は 16 世紀フランス語の grebe 由来とのことだがその語源はあまりよくわかっていない。一部の種には冠羽があるので krib (くし) に関係がある可能性があるとのこと (Etymology Online)。 ドイツ名は Taucher で潜るもの (tauchen 潜る) とそのままの名前になっている (#メジロガモの学名由来や#アカハシハジロのロシア名なども関連する)。 ロシア名は poganka で poganyj (食べられないなど悪い意味を指す) に由来。肉が脂ぎっていて魚臭いとのこと。もう一つ解釈があって poganka には (同じ意味から) 毒キノコを指す意味もあり、カンムリカイツブリが浮かんでいる姿がキノコに似ているためとの説もある (Kolyada et al. 2016)。 非常によく似た名前に peganka があり、こちらはツクシガモ類を指す。語源は pegij (まだらの。意味は英語の pied に似ている感じがする) で、マダラチュウヒのロシア名にも登場する。
      [音声] カイツブリにはさまざまな音声があり、短い地鳴きや警戒音 (知らないと何の声かと思ってしまう)、そしてよく聞く「さえずり」(キュルルルルーという声) がある (バードリサーチ鳴き声図鑑では地鳴きとしているが、世界的にはさえずりに分類するのが一般的)。この「さえずり」に非常に似た声をヒクイナも出す (#ヒクイナの備考参照)。探鳥会担当者などは即断で聞き慣れたカイツブリと判定してしまわないように注意が必要であろう。
      [パンくずを疑似餌に使うカイツブリ] 諸角 (1995) Birder 9(10): 56-58 に東京の不忍池で人が投げたパンを細かくして撒き餌のように用いるカイツブリ (1991) の紹介がある。(#ゴイサギの備考参照)
      [絶滅した飛べないカイツブリ類] カイツブリが空を飛ぶ印象は受けにくいが、渡りをする個体がある通り空を飛べる。夜間の渡り途中の地鳴き nocturnal flight call (NFC) (#マミチャジナイの備考参照) では頻繁に記録される種類である。 飛んでいるビデオを撮影したいと何度も試しているがなかなか成功していない。 しかしカイツブリ類が飛びにくいことは確かなようで、世界には飛べないカイツブリ類もある。その一つにマダガスカルのワキアカカイツブリ Tachybaptus rufolavatus 英名 Alaotra Grebe があり、1985 年の目撃が最後で外来魚によって絶滅 (2010 年に絶滅宣言された) したと考えられている。現存する写真は1枚のみとのこと (wikipedia 英語版による)。
      属は異なるが、グアテマラのオオオビハシカイツブリ Podilymbus gigas 英名 Atitlan Grebe (現地名 poc ポック) も有名である。これも飛べないカイツブリで、外来魚、想定外の地震などの天災や他種との交雑もあり、Anne LaBastille による 25 年の保護努力により一時は個体数 210 (1973) まで回復したが 1989 年の目撃が最後となり、1990 年に絶滅宣言された (wikipedia 英語版による)。
      Anne LaBastille による著書 "Mama Poc: An Ecologist's Account of the Extinction of a Species" (1990) があり、「絶滅した水鳥の湖」(幾島幸子訳 晶文社 1994) と邦訳されている。 交雑により poc が飛べるようになった (絶滅を意味する) ことなど、#カワウ備考の [ガラパゴスコバネウの進化] で飛翔能力を失った進化経緯なども合わせて考えると面白い。飛翔能力を失った初期段階では交雑による遺伝子ネットワークの変化を飛翔力を取り戻すこともあり得るのだろう。
      [Mirandornithes の系統分類] Boyd による Mirandornithes (フラミンゴ目 + カイツブリ目) の分類一覧を示す。

      フラミンゴ目 Phoenicopteriformes
       フラミンゴ科 Phoenicopteridae: Flamingos
        オオフラミンゴ属 Phoenicopterus
         チリフラミンゴ Phoenicopterus chilensis Chilean Flamingo
         オオフラミンゴ (旧名ヨーロッパフラミンゴ) Phoenicopterus roseus Greater Flamingo
         ベニイロフラミンゴ Phoenicopterus ruber American Flamingo

        コフラミンゴ属 Phoeniconaias
         コフラミンゴ (コガタフラミンゴ) Phoeniconaias minor Lesser Flamingo

        アンデスフラミンゴ属 Phoenicoparrus
         アンデスフラミンゴ Phoenicoparrus andinus Andean Flamingo
         コバシフラミンゴ Phoenicoparrus jamesi James's Flamingo

      いずれもどこが違うのかと思えるほどよく似た属学名になっている。 Phoenicopterus (phoinix, phoinikos 紅色の -pteros 翼の)、 Phoeniconaias は naias, naiados 水の妖精 naiad、 Phoenicoparrus は parrus, parra は不明の不吉な鳥 (ヨタカ、フクロウ、キツツキ、タゲリ、サバクヒタキ を指すとのさまざまな解釈がある) (The Key to Scientific Names)。 属和名はタイプ種を採用したが、オオフラミンゴの分布は近年東に広がっており [Zhu et al. (2017) Distribution of Greater Flamingo in China]、 自然分布で冬鳥としてしばしば記録されるようになるのも時間の問題かも知れない。すでに検討種扱いとなっている。この属のタイプ種はベニイロフラミンゴだが、この事情を考慮してオオフラミンゴを採用した。

      カイツブリ目 Podicipediformes
       カイツブリ科 Podicipedidae: Grebes
        オビハシカイツブリ属 Podilymbus
         オビハシカイツブリ Podilymbus podiceps Pied-billed Grebe
         オオオビハシカイツブリ Podilymbus gigas Atitlan Grebe (絶滅種)

        カイツブリ属 Tachybaptus
         ワキアカカイツブリ Tachybaptus rufolavatus Alaotra Grebe (絶滅種)
         カイツブリ Tachybaptus ruficollis Little Grebe
         * Tachybaptus tricolor Tricolored Grebe
         ノドグロカイツブリ Tachybaptus novaehollandiae Australasian Grebe
         マダガスカルカイツブリ Tachybaptus pelzelnii Madagascar Grebe
         ヒメカイツブリ Tachybaptus dominicus Least Greb

        シラガカイツブリ属 Poliocephalus
         シラガカイツブリ Poliocephalus poliocephalus Hoary-headed Grebe
         ニュージーランドカイツブリ Poliocephalus rufopectus New Zealand Grebe

        オオカイツブリ属 Podicephorus
         オオカイツブリ Podicephorus major Great Grebe (Podiceps属より分離)

        クビナガカイツブリ属 Aechmophorus
         クビナガカイツブリ (アメリカカイツブリ) Aechmophorus occidentalis Western Grebe
         クラークカイツブリ Aechmophorus clarkii Clark's Grebe

        カンムリカイツブリ属 Podiceps
         アカエリカイツブリ Podiceps grisegena Red-necked Grebe
         カンムリカイツブリ Podiceps cristatus Great Crested Grebe
         ミミカイツブリ Podiceps auritus Horned Grebe
         ミミジロカイツブリ Podiceps rolland White-tufted Grebe (Rollandia属を統合)
         コバネカイツブリ Podiceps micropterus Titicaca Grebe (Rollandia属を統合)
         パタゴニアカイツブリ Podiceps gallardoi Hooded Grebe
         ギンカイツブリ Podiceps occipitalis Silvery Grebe
         ペルーカイツブリ Podiceps taczanowskii Junin Grebe
         ハジロカイツブリ Podiceps nigricollis Black-necked Grebe
         * Podiceps californicus Eared Grebe (ハジロカイツブリより分離)
         コロンビアカイツブリ Podiceps andinus Colombian Grebe (絶滅種)

      属分割、統合は IOC などでは未採用。ただし日本産種への影響はほぼない。 Tachybaptus tricolor Tricolored Grebe はカイツブリから最近分離されたもので和名が見当たらない。そのまま訳せばサンショクカイツブリのような名前になるのだろうか (サンショクの用例はサンショクウミワシなどいろいろある)。 Podiceps californicus Eared Grebe については #ハジロカイツブリ参照。ハジロカイツブリの北米グループだが実際に種として扱われるようになるかは微妙な感じ。
      フラミンゴ目とカイツブリ目の関係が近いことに最初に気づいた研究は van Tuinen et al. (2001) Convergence and divergence in the evolution of aquatic birds で、Sibley and Ahlquist (1990) のデータも類縁性を示していたが、Sibley and Ahlquist は気づいていなかったとのこと。外見の類似性がほとんどなかったが後の研究でもこの関係は支持されることとなった。Sangster (2005) A name for the flamingogrebe clade は両者を称して Mirandornithes と名付けた (#ミサゴの備考参照)。 あまりに思いがけない類縁性の発見の意味も込めて表しているのだろうか。 系統関係が明らかになってから共通の形態特性なども発表されているが、後付けの感は否めない。 この分類概念は Phoenicopterimorphae (フラミンゴ上目?) と呼ばれることも多いが問題がある。後の解説参照。この点を考えると Mirandornithes と和名を用いた場合のフラミンゴ上目? は同じものを指しているわけだろうが、Mirandornithes に "上目" の意味は含まれないのでフラミンゴ上目? の和名はここでは使わないことにしておく。
      Exploring the relationship between flamingos and grebes: The wonderful birds (David J. Ringer 2013) でも興味深い歴史が読める。 Livezey は 2011 年事故死するまでこの考えを否定し、フラミンゴ類はコウノトリ類に近縁と考えていた。次の批判論文を読むことができる。過去の研究もまとめられているので役立つだろう。 Livezey (2010) Grebes and flamingos: standards of evidence, adjudication of disputes, and societal politics in avian systematics 自分が独自データも用いて解析するとフラミンゴ類はアビ類に一番近縁になった。論調は分子遺伝学に頼りすぎでコミュニティも結果をセンセーショナルに報道しすぎる、といったところだろうか。 系統分類に果たす分子遺伝学の役割があまりに急速な進歩を遂げたため生じた伝統的研究者の拒否感が現れているとも読める。 ハヤブサ類とオウム類、スズメ目の近縁性が明らかになった時期とほぼ同じころの時代背景と考えて読むと興味深い。 2012 年になって化石証拠が見つかり、骨学から原始的なフラミンゴ類と考えられるがカイツブリ類に似た巣と卵が見つかった: Grellet-Tinner et al. (2012) The First Occurrence in the Fossil Record of an Aquatic Avian Twig-Nest with Phoenicopteriformes Eggs: Evolutionary Implications
      驚異的な鳥たちだが、歴史も同じぐらい驚くべきであると結ばれている。
      [フラミンゴ類] Frias-Soler et al. (2022) Phylogeny of the order Phoenicopteriformes and population genetics of the Caribbean flamingo (Phoenicopterus ruber: Aves) にカリブ海フラミンゴ類を中心とした分子系統解析がある。フラミンゴ類は通常3属と扱われるが、この研究は2属になるとのこと (コフラミンゴ属をアンデスフラミンゴ属まとめるか。この分岐年代はオオフラミンゴ属内の種の分岐年代より新しい結果となった)。
      Sangster et al. (2022) Phylogenetic denitions for 25 higher-level clade names of birds がこのグループを何と呼ぶかについても例示して議論している。Mirandornithes と自分が正式に名付けたにもかかわらず別グループが別の名前で呼んだり、過去に使われた名前を別の概念に用いているので混乱を引き起こしているとのこと。
      フラミンゴ類は代表的な極限環境に生息する生物 (extremophiles。その中でも最大のものとのこと) でさまざまな適応を行っている: 参考ページ Tough Birds Fragile HomesAre Flamingos Extremophiles? (査読論文はあまり出ていないらしい)。
      Flamingos Are Totally Hardcore (Amy King 2024) によれば フラミンゴの群れを指す flamboyance (きらびやかさ、燃えるような華麗さ、建築様式のフランボワイヤン) との用語があるとのこと。高地の夜は寒くて凍ることもあるが、片足で立って放熱を抑えている。強いアルカリ性に対しては皮膚が厚いことで対応。塩分濃度の高さは塩腺による排出で対応とのこと。
      Byrne et al. (2024) Productivity declines threaten East African soda lakes and the iconic Lesser Flamingo によれば東アフリカのコフラミンゴが採食を行う塩湖の水位が上がり濃度が下がってプランクトンが不足しているとのこと。気候変動から予測される変動とも合っていて、これまでの環境破壊とも合わさって塩湖の特異な生態系は今後の維持が危ぶまれるとのこと。
  • アカエリカイツブリ
    • 学名:Podiceps grisegena (ポーディケプス グリーセゲナ) 灰色の頬の尻足の鳥
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:grisegena (adj) 灰色の頬の (griseus (adj) 灰色の gena (f) 頬)
    • 英名:Red-necked Grebe
    • 備考: podiceps は#カンムリカイツブリ参照。 grisegena は griseus の i が長母音、gena は短母音。-se- がアクセント音節と考えられる (グリーゲナ)。
      2亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは holbollii (デンマークの動物学者 Carl Peter Holboll 由来) とされる。
      [目に紫外線フィルターのあるカイツブリ類] Osik et al. (2022) Nicotinamide adenine dinucleotide reduced (NADH) is a natural UV filter of certain bird lens (#トビの備考の [視覚特性] も参照) によれば、カイツブリ類は眼球のレンズに NADH 含有量が高く、紫外線フィルターとして作用しているらしいとのこと。 この文献で調べられているカイツブリ類はアカエリカイツブリ、カンムリカイツブリ、ミミカイツブリ、カイツブリ (日本とは異なる学名を用いている) で、いずれも高い値を示している。
      [飛べないひなを運んだ? アカエリカイツブリ] Kloskowski and Fraczek (2017) A novel strategy to escape a poor habitat: red-necked grebes transfer flightless young to other ponds 食物の少ない場所でひなとともに移住したと思われるアカエリカイツブリの報告。池の傾斜は強くてひなが自力で登るのは難しかった。親が背中に乗せて移動した可能性もあるが地上の移動はカイツブリ類は得意でなく非常に危険。ひなを乗せて飛んで移動した可能性も考えられ、カンムリカイツブリでそのような逸話が残されているとのこと。
  • カンムリカイツブリ
    • 学名:Podiceps cristatus (ポーディケプス クリスタートゥス) 冠羽のあるカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:cristatus (adj) 冠羽のある
    • 英名:Great Crested Grebe
    • 備考: podiceps は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、ラテン語 podex の冒頭が長音のため冒頭は長母音が適切と考えられる。アクセント音節もこの位置と考えられ伸ばすとアクセント位置に合う (ポーディケプス)。 cristatus は a が長母音でアクセントもある (クリスタートゥス) 所有の -atus。
      3亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 cristatus とされる。 ロシア名は bolishaya poganka (大きなカイツブリ) の他によく使われる chomga の名称がある。語源はよくわかっていないとのこと。古い文献ではこの名称は広くカイツブリ類 (= 単数形では poganka) を指していた (Kolyada et al. 2016)。ユーラシアではごく馴染みの種類でよく現れるので知っておいてよい名称。 カイツブリ類他種は poganka に形容詞を付けて表しているので現代の用法ではカンムリカイツブリが別格扱いとなる。
      カイツブリ類、特にカンムリカイツブリの弁足の流体力学的働きを調べた論文: Johansson and Norberg (2001) Lift-Based Paddling in Diving Grebe 水の抵抗を利用しているとこれまで考えられてきたが、揚力を用いているらしい。抵抗を用いて推進する場合に予想される方向と異なる方向に動かしている。 水かきで水面を推進するカモ類とは別の形態や足の動かし方になっている。 カイツブリ類は非常に古い系統で過去から形態もあまり変化しておらず、この方法は十分に最適化された推進方法の一種と考えられる。 同じ著者によるもので Johansson and Norberg (2003) Delta-wing function of webbed feet gives hydrodynamic lift for swimming propulsion in birds は航空力学の延長上で解釈できるとした。カイツブリ類は「漕いでいる」のではなく「水中を飛んでいる」とも言える。 水中の速度 1 m/s ではレイノルズ数は 10^5 のオーダーで空中を飛ぶ鳥の場合とあまり違わない (#アホウドリの備考 [海鳥の翼先端にはなぜスロットがない?] も参照)。
  • ミミカイツブリ
    • 学名:Podiceps auritus (ポーディケプス アウリートゥス) 耳の長いカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:auritus (adj) 耳の長い
    • 英名:Slavonian Grebe, IOC: Horned Grebe
    • 備考: podiceps は#カンムリカイツブリ参照。 auritus は i が長母音でアクセントもある (アウリートゥス)。所有の -itus 由来。
      2亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 auritus とされる。 旧英名の Slavonian はスラヴォニア (クロアチア語: Slavonija) 由来。クロアチアの東部の地域。
  • ハジロカイツブリ
    • 学名:Podiceps nigricollis (ポーディケプス ニグリコルリス) 黒い首のカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:nigricollis (adj) 黒い首の (niger (adj) 黒い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Black-necked Grebe
    • 備考: podiceps は#カンムリカイツブリ参照。 nigricollis は短母音のみで -col- にアクセントがある (ニグリルリス)。
      2亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 nigricollis とされる。
      カイツブリ属 (Podiceps) の分子系統研究は Ogawa et al. (2015) Opposing demographic histories reveal rapid evolution in grebes (Aves: Podicipedidae) にある。Boyd はこれをもとに Podiceps californicus Eared Grebe (ハジロカイツブリの北米グループ) と Podiceps nigricollis ハジロカイツブリを分離しているがどうだろうか。 Ogawa et al. (2015) は前者を North American Black-necked Grebe と呼んでいる。 コロンビアカイツブリ Podiceps andinus Colombian Grebe (絶滅種) とハジロカイツブリ全体の間で単系統をなさず、このサンプルではコロンビアカイツブリがハジロカイツブリの北米グループと並ぶ形となっている。コロンビアカイツブリを種として維持するにはハジロカイツブリの北米グループを種と認めると都合がよいとの Boyd の判断だろう。 研究はまだ限定的なようでどのように判断されるだろうか。 Eared Grebe の名称はハジロカイツブリの別名として使われてきた (北米の) 英名を復活したものと思われるが、採用されるとミミカイツブリの和名との対応が紛らわしくなる可能性がある。 南アメリカの種で我々には関係が薄いが、ギンカイツブリ Podiceps occipitalis Silvery Grebe とペルーカイツブリ Podiceps taczanowskii Junin Grebe も単系統の関係をなしていない。これは個体群の保護的な意味も重視した分類が採用されたためだろう。
      普通種であるが、ハジロカイツブリの声を聞かれたことはあるだろうか。越冬中の声の記録は国内・国外の音声データベースでも意外に記録が少ない。鳴いているところに気づかれた場合は録音をお勧めしたい。
  •  ネッタイチョウ目 PHAETHONTIHORMES ネッタイチョウ科 PHAETHONTIDAE 

  • アカオネッタイチョウ
    • 学名:Phaethon rubricauda (パエトーン ルブリカウダ) 赤い尾のパエトン
    • 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
    • 種小名:rubricauda (adj) 赤い尾の (ruber (adj) 赤い cauda (f) 尾)
    • 英名:Red-tailed Tropicbird
    • 備考: Phaethon は o が長母音で冒頭にアクセントがある (エトーン)。 rubricauda は短母音のみと考えられる。-ca- がアクセント位置と考えられる (ルブリウダ)。
      4亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは melanorhynchos (melanos 黒い rhunkhos 嘴) 英語で Black-billed Tropic Bird とも呼ぶ。
  • シラオネッタイチョウ
    • 学名:Phaethon lepturus (パエトーン レプトゥールス) 細い尾のパエトン
    • 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
    • 種小名:lepturus (合) 細い尾の (leptos細い oura尾 Gk)
    • 英名:White-tailed Tropicbird
    • 備考: Phaethon は o が長母音で冒頭にアクセントがある (エトーン)。 lepturus は u が長母音 (尾のギリシャ語 oura 由来) でアクセントがある (レプトゥールス)。学名のみに使われる。
      6亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは dorotheae (オーストラリアの発生学者 Henry Luke White の妹の Dorothy Ebsworth White 由来) とされる。
  •  サケイ目 PTEROCLIFORMES サケイ科 PTEROCLIDAE 

  • サケイ
    • 学名:Syrrhaptes paradoxus (シュルラプテス パラドクスス) 変な縫い合わされた指の鳥
    • 属名:syrrhaptes (合) 縫い合わされたもの (syrrapto 縫い合せる Gk の変化形 surrhaptos 由来) 羽の生えた足の指がつながっているため (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:paradoxus (合) 予想外の、驚くべき、変わった (paradoxos 定説に逆らうものの意 Gk)
    • 英名:Sandgrous, IOC: Pallas's Sandgrouse (プロイセンの生物学者 Peter Simon Pallas に由来)
    • 備考: syrrhaptes は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語には長音は含まれない。The Key to Scientific Names の説明通りにギリシャ語の変化形をそのまま用いたものであれば短母音のみと考えられる。 -tes がギリシャ語起源のラテン語接尾辞と考えると e が長母音となる可能性がある。いずれの場合でも -rhap- がアクセント音節であることは変わりない (シュルプテス または シュルプテース)。 paradoxus は短母音のみで -dok- がアクセント音節 (パラクスス)。
      単形種。 Pallas (1773) の記述ではライチョウ属とノガン属の両方の特徴を示し、様々な点でそれぞれの属にない特別な特徴が見られるとのこと (The Key to Scientific Names)。 種小名の原意はこのように解釈するとよさそうである。
      [サケイ目の系統] サケイ目に最も近縁なグループはマダガスカルのクイナモドキ目 (Mesitornithidae)。これら2目とハト目 で Columbimorphae の系統をなす。 Hackett et al. (2008) A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History (#ミサゴの備考にも登場) ではサケイ目、クイナモドキ目、ハト目の順に分岐する結果が得られている。Prum et al. (2015) (#アマツバメの備考参照) では前2者が逆順になっている。 いずれもハト目とはまとまるが系統的にはかなり離れていると考えてよい。
      [#鳥類系統樹2024] の Stiller et al. (2024) によれば {クイナモドキ目 + サケイ目} がまとまったクレードをなし、ハト目と並ぶ形になる。これらの2クレードの分岐年代は 6300 万年前程度と相当古い。 ハト目は2系統に分かれ (2300 万年前ぐらい)、{Raphinae ドードー/アオバト?亜科 + Claravinae アルキバト亜科? (南米の地上性のハト類)} の系統と Columbinae (多くのハト類を含む) の系統となる。 2300 万年前ぐらいには果実食のハト類と地上性ハト類がすでに分かれていたことになる。Claravinae に属する代表的な種である南米のイチモンジバト Columbina picui Picui Ground-Dove は乾燥環境を中心に住むのでハト目では早く (例えば 2300 万年前ぐらい以降) から乾燥地適応は進んでいたのだろう。 サケイ目、クイナモドキ目も同様なので、Columbimorphae 全体にその傾向があり、果実食のハト類が生態的にはむしろ例外的と言えるかも知れない。ハト目内の系統について #ズアカアオバトに備考に続く。
      [飲水と羽毛で水を運ぶ行動] サケイはハトのように水を吸うことができると考えられていたが、そうではないとのこと: Cade et al. (1966) Drinking behavior of sandgrouse in the Namib aud Kalahari deserts, Africa
      一方サケイ類が羽毛に水を含ませて遠方まで運ぶ能力があることはよく知られているが、そのための羽毛の微細構造の特殊化: Mueller and Gibson (2023) Structure and mechanics of water-holding feathers of Namaqua sandgrouse (Pterocles namaqua) クリムネサケイを用いた micro-CT による研究で、羽毛の異なる部位の硬さにそれぞれ特殊化があり、表面張力で微細構造に水を保ちつつそれを支える強度があるとのこと。
      [Pallas の読み方] 様々なところに名前の出てくる Pallas (カワガラスの種小名などにも現れる) の日本語での読み方はいろいろな表記があり、パラス、パーラス、パラースを見たことがある。 原語のドイツ語発音であればアクセントは最初なのでパーラスとしてもよいかも知れない。Pallas の広く活躍したロシアでの発音はアクセントが後になるようで、こちらを重視すればパラースとしてもよい。どの言語を用いるか次第の問題でどれも正しいと言って構わないようである。 なおギリシャ神話にも Pallas が登場し、男性は前アクセント、女性は後ろアクセントだそうである。 元素のパラジウム (Pd) の名称も直接の由来は小惑星パラスだが、遡れば神話で同じ語源になる。
  •  ハト目 COLUMBIFORMES ハト科 COLUMBIDAE 

  • ヒメモリバト
    • 学名:Columba oenas (コルムバ オエナス) ハト
    • 属名:columba (f) ハト
    • 種小名:oenas < oinas, oinados ハト 古 Gk, Aldrovandus (1599) が Oenas (Gk) と用いた
    • 英名:Stock Dove
    • 備考: columba は短母音のみで -lum- がアクセント音節 (コムバ)。 oenas は由来となるギリシャ語には長母音は現れない。-e- がアクセント位置と考えられる (オナス)。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。 種小名に使われる oenas は他の種ムラサキサンジャクでワイン色の意味で使われるが、ギリシャ語の由来 (oinos) が異なる (The Key to Scientific Names)。2亜種あり (IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明とされる。 英名の由来は雑木の切り株 (stock の古めの英語での意味) に群生する枝の間に巣をつくることから (コンサイス鳥名事典)。
  • カラスバト
    • 学名:Columba janthina (コルムバ イアンティナ) 紫色のハト
    • 属名:Columba (f) ハト
    • 種小名:janthina (合) 紫色の ianthinos Gk (wiktionary) 由来
    • 英名:Japanese Wood Pigeon
    • 備考: columba は#ヒメモリバト参照。 janthina は短母音のみで -an- がアクセント音節 (インティナ)。ianthinus の別綴りとのことで ja を分割した表示にした。アクセント音節なので "ンティナ" の方が音が近いかは微妙なところ。ンティナ" の場合も前に短い i を補うつもりで発音するとよいのだろう。
      3亜種あり (IOC)。 基亜種 janthina 亜種カラスバト、nitens (輝く) アカガシラカラスバト、stejnegeri (ノルウェー生まれのアメリカの鳥類学者 Leonhard Stejneger に由来) ヨナグニカラスバト。 種として天然記念物。 アカガシラカラスバトは絶滅危惧 IA 類 (CR)、ヨナグニカラスバトは絶滅危惧 IB 類 (EN)。 亜種カラスバトは準絶滅危惧 (NT)。
      記載時は Columba janthina Temminck, 1830 だったが、その後カラスバトをタイプ種とする Janthaenas 属 (ianthos 紫色の oinas, oinados ハト Gk) (Reichenbach 1853) とされていた (The Key to Scientific Names)。
      カラスバト、リュウキュウカラスバト (絶滅) を含む分子系統解析は Soares et al. (2016) Complete mitochondrial genomes of living and extinct pigeons revise the timing of the columbiform radiation を参照。カラスバトとリュウキュウカラスバトは非常に近い関係だった。現在の属名にも現れているように系統的には (アオバトやキジバトとは異なり) カワラバト系統に属するが分岐年代 1000 万年程度なので別属にしても構わない程度。
      Oliver et al. (2023) (#ズアカアオバト備考参照) の系統樹を見ると、カラスバト、リュウキュウカラスバトをカワラバト系統から分離するならば タイワンジュズカケバト Columba pulchricollis Ashy Wood Pigeon、カノコモリバト Columba elphinstonii Nilgiri Wood Pigeon (インド) が同じクレードに属する。写真を見ると確かに多少似たところもあるように見える。
      さらに古い分岐にあたるクレード (レモンバト Eastern Lemon Dove など) は Aplopelia 属に分けられることが多く [Oliver et al. (2023) では Columba に含まれている]、カラスバト類を別属にするかどうかは境界領域のよう。 Aplopelia 属への分離は近年のことで (IOC 14.2 では未採用。WGAC version 0.02 から採用など IOC は次回改訂で盛り込まれるかも)、 あるいは将来遺伝情報がより確かなものになった場合、分類改訂で Janthaenas 属が復活するかも知れない。"Janthaenas" グループの方が bootstrap 確率 100% とこちらの方が系統樹形態はよりしっかりしている。
  • オガサワラカラスバト
    • 学名:Columba versicolor (コルムバ ウェルシーコロル) 色の変わるハト
    • 属名:columba (f) ハト
    • 種小名:versicolor (adj) 変わる色の、多彩な色の
    • 英名:Ogasawara Islands Wood Pigeon, IOC: Bonin Wood Pigeon
    • 備考: columba は#ヒメモリバト参照。 versicolor は#キジ参照。
      絶滅種。原記載。小笠原でカラスバトは頻繁に見かけたがオガサワラカラスバトと一緒に生息していた。 図版
      4標本が知られるとのことでイギリス大英博物館、ドイツのフランクフルトの Senckenberg Naturmuseum、ロシアのサンクトペテルブルクの博物館に収蔵、もう1体は所在不明とのこと (コンサイス鳥名事典。場所の記載は現在のものに合わせた)。同事典の光線によりさまざまな光沢を示すとの記述から "色の変わる" 訳を採用した。
  • リュウキュウカラスバト
    • 学名:Columba jouyi (コルムバ イオウィイ) ジョウイのハト
    • 属名:columba (f) ハト
    • 種小名:jouyi (属) jouy の (アメリカの博物学者 Pierre Louis Jouy 由来)
    • 英名:Ryukyu Wood Pigeon
    • 備考: columba は#ヒメモリバト参照。 jouyi はラテン式で#カラスバト同様に "イウィイ" のアクセントを想定して jo の部分を分けた表記としてみた。"ヨウイ" や "ヨウィ イ" でもよいと思われる。アクセント位置は確実でないが "オ" か "ウ" と考えられる。 ラテン式にこだわらず原音に近い音でも構わないと思われる。
      絶滅種。 原記載。当時はカラスバトとともに Fruit-Pigeon, Janthaenas 属に分類されていた。 Soares et al. (2016) (#カラスバト備考) の推定分岐年代をみると独立種に値するか微妙なところ。
      wikipedia 英語版によれば沖縄で最後に記録されたのが 1904 年で、おそらく狩猟で絶滅したと推定される。大東諸島では 1936 年以降に姿を消し、これらの小さな島は第二次世界大戦前に樹木が完全に伐採され建物が建てられたために絶滅したと考えられる。狩猟圧が高かったようだが離島の生息地が失われたのは第二次世界大戦のための間接的影響とも言えるのだろう。 沖縄の他の島に残っている可能性が考えられたが再発見されなかった。 沖縄の山には十分な生息地が残っているはずだが目撃されなかった。トカラ島には森林がほぼそのまま残っているのにまったく記録がないのは不思議である。座間味島は沖縄から遠く離れ過去に記録があるのに残存していないのは不思議であると記述されている。
  • キジバト
    • 学名:Streptopelia orientalis (ストゥレプトペリア オリエンターリス) 東洋の首飾りのあるハト
    • 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
    • 種小名:orientalis (adj) 東洋の (-alis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Oriental Turtle Dove
    • 備考: streptopelia は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は含まれないと考えられる。-pe- がアクセント音節と考えられる (ストゥレプトリア)。 orientalis は a が長母音でアクセントもある (オリエンターリス)。
      5亜種 (IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 orientalis 亜種キジバトと stimpsoni (アメリカの技師で北太平洋を探検した William Stimpson に由来) リュウキュウキジバト。 望月 (2021) mtDNA ハプロタイプが大きく2系統に分かれるキジバトの集団遺伝構造の解明 ミトコンドリア DNA と核 DNA のハプロタイプの遺伝構造の違いについての暫定的報告が紹介されている。 Birder 34(6): 70 に関連記事 (2020) がある。
      ヨーロッパに広く分布するコキジバト Streptopelia turtur European Turtle Dove に近縁。こちらの turtur は Linnaeus (1758) の記載 (Columba turtur) には生息地はインドとなっていたが誤りで実際は英国とされるとのこと。 Turtur属は上記 turtur ではなく、アオフバト Turtur afer Blue-spotted Wood Dove がタイプ種と実は結構ややこしい。Garsault (1764) がアオフバトに対して Turtur 属を正しい二名法で先に用いていたと認定されたため。 Turtur 属はアフリカ南部に生息。 Streptopelia 属はシラコバトをタイプ種として Bonaparte (1855) が用いたもの。シラコバトの decaocto は記載時は変種名だったにもかかわらず亜種名と認められてタイプ種となり、先取権利の規則により最も普及していたはずの名称の turtur はタイプ種として残らなかった。 同様の事例が分類見直しで#ミソサザイで発生する可能性がある。
      英名の turtle はラテン語 turtur の変形で 1300 年ごろから使われているとのこと。一方カメを意味する方の turtle は由来不明のフランス語 tortue, tortre (13 世紀) 由来で 1600 年ぐらいから使われているとのこと。tortoise の方が英語での用例は古く、これはラテン語 tartaruchus に遡ることができるとのこと (Ethymology Online)。
      turtur がラテン語のためヨーロッパ言語でも広く使われている。ロシア語やウクライナ語では gorlitsa, gorlitsya と系統が異なるが、これは gorlo (のど) が由来で、着眼点それほど違わない。クロアチア語やチェコ語なども子音交代が起きているが同様の単語を用いている。
      発声全般については #タンチョウの備考 [ツル類やハクチョウ類の気管・鳥の発声メカニズム] 参照。 #ウグイスの備考 [ウグイスは息を吸う時に声を出すか] でハト類を取り上げている。ハト類のこもったようなクーの声は息を吐きながら短い間隔で息継ぎをしつつ作っていると思われる。
  • シラコバト
    • 学名:Streptopelia decaocto (ストゥレプトペリア デカオクトー) 18(デカオクト)と鳴くハト
    • 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
    • 種小名:decaocto (合) 18 (Gk)
    • 英名:Eurasian Collared Dove
    • 備考: streptopelia は#キジバト参照。 decaocto は語末の o が長母音 (octo も同様) でアクセントは1つめの o にある (デカクトー)。いずれにしてもギリシャ語由来。 タコを意味する英語の octopus は短母音のみだが、ラテン語では語源通り "オクトープース" になる。
      鳴き声からギリシャ人は Decoctouri、フランス人は Dixhuit と名付けたと Sibthorp (1795) が記載している。こきつかわれた女中が年に 18 回コインしかもらえないことを嘆いていたが、ゼウス神によってハトに変えられて"Deca-octo"と嘆きの声で鳴き続けたとのギリシャの神話がある。 古代ローマの百人隊長が十字架上のイエスを憐れみ、価格が 18 コインであることを繰り返すことを主張した老婆から牛乳を買って捧げようとしたが 17 コインしか持っていなかった。強情な老婆は呪われて 18、18 としか鳴けないハトに変えられた。17 と鳴くと人間の姿に変えられるのだが、19 と鳴けば世界が終わりに近づく、とのギリシャの伝説がある (The Key to Scientific Names, wikipedia 英語版)。 単形種。天然記念物。
      亜種が用いられていたこともあり、森岡 (2003) Birder 17(11): 56 に石垣島で2003年1月に観察されたシラコバトの考察があり、亜種 stoliczkae に似ているが基亜種のシノニムとするのが妥当との見解がある。
  • ベニバト
    • 学名:Streptopelia tranquebarica (ストゥレプトペリア トゥランクゥエバリカ) インドのトランケバールのハト
    • 属名:streptpelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
    • 種小名:tranquebarica (adj) インドのトランケバール Tranquebar の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Red Collared Dove
    • 備考: streptopelia は#キジバト参照。 tranquebarica は外来語由来で発音はよくわからないが特に長母音が生じる理由はなさそうに思える。 Tranquebar の地名はデンマーク人渡来の時期のものでデンマーク語では特に長音はないとのこと。また b は p の音になる (wikipedia 英語版より)。トランケバールは英語経由の日本語読みと考えてよさそう。 原記載 (Hermann 1804) では地名はラテン語で Tranquebaria と記載されている。wikipedia 英語版によれば英国に売却されたのが 1845 年とのこと。まだデンマーク時代だった時期に記載されたものと考えられる。 ここでは短母音のみを採用し、"トゥランクゥエリカ" とした。
      2亜種ある (IOC)。日本で記録される亜種は humilis (小さい、つつましい、地面のなどの意味) とされる。
  • キンバト
    • 学名:Chalcophaps indica (カルコパプス インディカ) (東インド会社時代の) インドのブロンズ色ハト
    • 属名:chalcophaps (合) ブロンズ色ハト (khalkos ブロンズ phaps, phabos ハト Gk)
    • 種小名:indica (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する) 東インド会社時代の地名。備考参照。
    • 英名:Emerald Dove, IOC: Common Emerald Dove
    • 備考: chalcophaps は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は含まれないと考えられる。-co- がアクセント音節と考えられる (カルコプス)。 indica は冒頭にアクセント (ンディカ)。
      6亜種あり (IOC)。日本の亜種は yamashinai (日本の鳥類学者 Yoshimaro Marquis Yamashina 由来) とされるが、世界の主要リストではほとんど認められておらず、基亜種 indica のシノニムとするのが一般的。
      種小名は indica で、インドにも分布するため意味の解釈は何の問題もないように見えるが、これは現在のインドではなく東インド会社時代の東インド由来とのこと (#サシバと同様) (wikipedia 英語版より)。 原記載 生息地は India orientalis (東洋のインド) となっている。ここが基産地となるが、マレーシア、インドネシア、フィリピンからインドにかけて基亜種が分布するため、亜種名を与える際にあまり問題が発生しなかったよう。 もしインド亜大陸と東南アジアが別亜種とされることがあれば、インド亜大陸の方の亜種名が変わる可能性がある。 基産地については Chalcophaps indica (Linnaeus, 1758) に解説があった。East Indies (as India orientali), Salvadori (1893) "Catalogue of the Birds in the British Museum" とのこと。 Stresemann が示している基産地 Amboina (アンボン島 インドネシア東部モルッカ諸島) はシノニムとなった学名の基産地で Linnaeus (1758) の原記載とは異なるとのこと。
      Hachisuka (1938) A new Race of Bronze-winged Dove (yamashinai の記載文献) では台湾のもの (Swinhoe による formosanus。これも現在は通常基亜種のシノニムとされる) と異なると述べている。India, Indo-China, S. E. China, Java と測定値を比較しているが、これらは基亜種とみなす記述になっている。台湾のものはこれらとは異なる可能性があると述べている。
      天然記念物 (指定名称は「リュウキュウキンバト」)。絶滅危惧 IB 類 (EN)。世界的には懸念なし (IUCN 3.1)。
  • アオバト
    • 学名:Treron sieboldii (トゥレーローン スィエボルディイ) シーボルトのハト
    • 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
    • 種小名:sieboldii (属) シーボルト Philipp Franz Balthasar Freiherr von Siebold (ドイツの医師、博物学者で、日本で 1823-1829年に採集活動を行った) の (ラテン語化した sieboldius を属格化)
    • 英名:Japanese Green Pigeon, IOC: White-bellied Green Pigeon
    • 備考: treron は由来のギリシャ語では2つとも長母音。"トゥレーローン" が適切と考えられる。短く読む場合でもアクセントは冒頭になる。 sieboldii は規則から "スィエルディイ" のアクセント位置と考えられる。人名なので sie- を "シー" と読んでも構わないだろうが最後に i が2つ並ぶことは意識して発音するとよい。
      日本から中国南東部、台湾に分布。4亜種あり(IOC)。日本の亜種は基亜種 sieboldii とされる。
      アオバトのふしぎこまたん著 (エッチエスケー 2004) にアオバトの由来から特異な習性、繁殖などの興味深い情報が満載された本がある。巣を見つけることは非常に難しいようである。
      「アオバトのふしぎ」では中国の図鑑に基づきアオバトを4亜種に分けている。現在の IOC も亜種は同じなのでリストしておく:
      sieboldii (日本と中国東部)
      sororius (台湾)
      fopingensis (中国四川省東部から上海南部)
      murielae (中国南部中央からベトナム北部、中部、タイ北部)
      「アオバトのふしぎ」によれば sieboldii の中国記録は 1933 年の1例で日本人が持ち込んだ飼い鳥らしいとの見解が中国の研究者により示されているそうである。 また九州以北の日本と台湾は不連続分布を示し、南西諸島にはズアカアオバトが分布する地図が 示されている。この地図では台湾近くの中国の分布を sororius としている。 sororiussieboldii を同一と捉える立場もある。Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) によれば別亜種とする根拠は Cheng Tso-hsin (1987) だが根拠は弱い (Collar 2004) との記載がある。
      神奈川県立生命の星・地球博物館のアオバトのページ
      [アオバトが海水を飲む行動の意義] 神奈川県大磯町照ヶ崎海岸でアオバトが海水を飲む行動はよく知られている。上記「アオバトのふしぎ」にも詳しいが、少なくとも英語圏にはほとんど情報が出ていないようで引用できる英語文献もほとんどないようである (「アオバトのふしぎ」を引用すればよいのだろうがあまりにも "in Japanese" 過ぎるのかも知れない)。
      Sundukov and Sundukova (2016) The white-bellied green pigeon Treron sieboldii in the Southern Kuriles (pp. 4203-4208。極東の鳥類43: 千島列島特集 で和訳が読める。この号にはアオバト情報がかなり含まれている) に千島でのアオバトの記録があるが海水を飲む行動は観察されていない。 サハリンでは記録があるとのこと: Zdorikov (2016) New data on some rare birds of Sakhalin Oblast (pp. 4038-4042, Smirnov による飲水写真があり、ビデオも撮影されたとのこと p. 4040)。 (千島のアオバト調査の記事) にも解説記事 (2017)がある。営巣は (確認が難しいことはわかっているが) 確認できなかった。 ロシアでも紹介ビデオがあり アオバト (ロシア語) 映像は日本のものだろうか。最もよく調べられている日本でさえも少数の巣が知られているのみとある。小犬のような、あるいはカエルのような声を出すと比喩されており、「笛吹きバト」の異名もあるとのこと。 アオバトは世界でも最も驚くべき鳥の一つで、研究者が将来秘密を明らかにしてくれるかも知れないと結んでいる。
      ハト類は一般に塩を好むことは知られていて、レース鳩に塩土を与える必要性が知られている (飼育小鳥用の塩土もあるがこちらはカルシウム補給の意義の方が大きそうである)。我々も塩を好むと言えばそう言えるように思え、 本当に必要な塩分量はずっと低い (無塩文化では一日 1 g で生活している。ナトリウム摂取が少ない場合には腎臓で再吸収される。基本的なメカニズムは脊椎動物で共通のようである) ことも知られているのでここでは考察範囲を野生のハト類とする。
      アメリカのナゲキバト Zenaida macroura 英名 Mourning Dove を捕らえる時のおびき餌として塩を使う情報があった。 鉱物を食べる (geophagy) 行動は果実食のコウモリで知られていてミネラルを補給するため、あるいは植物由来の毒を中和するためなどの役割が考えられていたが、Voigt et al. (2011) Nutrition or Detoxification: Why Bats Visit Mineral Licks of the Amazonian Rainforest によればミネラル補給よりも子育て時に大量の食物を摂食するため植物由来の有毒物質の中和に役立っているのではとのこと。
      鳥類における鉱物食についてこの文献に触れられている研究は2つで Brightsmith and Munoz-Najar (2006) Avian Geophagy and Soil Characteristics in Southeastern Peru と Gilardi et al. (1999) Biochemical Functions of Geophagy in Parrots: Detoxification of Dietary Toxins and Cytoprotective Effects で前者はどちらかと言えば胃石関連、後者ではオウムに粘土を与えることで植物の有毒物質の吸収が大きく抑制された結果が出ている。 この文脈での研究は多少あるようだが、アオバトの事例とは異なるかも知れない。
      Downs et al. (2019) More than eating dirt: a review of avian geophagy のレビューで6種類の役割が考えられている。系統的には散在して発生しており 2% の種にしか認められずまれな習性のよう。 比較的よく調べられてきたのは陽イオン交換でナトリウムやカルシウムイオンと陽イオンの植物由来の毒物 (例えばアルカロイド) を交換することで毒物を排泄する機能 (他の機能もあるが海水とは関係なさそうなので省略)。
      鉱物食は果実食の鳥と関連があってナトリウム補給の意味がある研究が増えてきているとの記述がある。 ハト類での研究例として Sanders and Koch (2018) Band-Tailed Pigeon Use of Supplemental Mineral が挙がっている。この研究ではオビオバト Patagioenas fasciata 英名 Band-tailed Pigeon を実験に用いているがカルシウムよりもナトリウムを求めているとのこと。例えば卵にはそれなりの量のナトリウムが含まれるので果実食の鳥では食物以外に補助的なナトリウム源が必要である。 水分とカリウムの多い果実では水を大量に排泄するためその時にもナトリウムが失われる。ピジョンミルクを与える際にもナトリウムが失われる。 オビオバトの場合はナトリウムを求めてやってくるとのことで冬にも少ないが観察事例がある。この論文では特に卵やピジョンミルクにナトリウムが必要と考えている。 この研究の中でバードリサーチのアオバトのページ Japanese Green Pigeon [Bird Research News Vol. 8 No. 9 Osaka et al. (2011) 英文] への言及があり、オビオバトの状況と同様と考えられるが大磯のアオバトでは冬には海水を飲む行動は観察されないとのこと。
      [ハト類の飲水行動の由来] ハト類が水を飲む時に頭を上げずに吸うことができうことはよく知られていて、ピジョンミルクを飲むために発達した行動としばしば説明される。 Hallager (1994) Drinking methods in two species of bustards によればハト類以外にも水を吸うことができる種類が散発的にあり、カエデチョウ科 Estrildidae、(Spermestidae 現在ではカエデチョウ科に統合されている)、ネズミドリ科 Coliidae、ミフウズラ科 Turnicidae、ノガン科 Otididae で報告例があるとのこと。吸い上げてから頭を上げて流し込む第3の方法もあるとのこと。 一般的には少ない水を効率的に利用する乾燥環境への適応と考えられているとのこと。
      Cade (1965) Relations between raptors and columbiform birds at a desert water hole のアフリカでの観察によれば、飲水行動中に猛禽類による捕食が危険で、ハト類はなるべく短時間に必要な水を飲む方法を発達させたと考えられるとのこと。水場に直接降りるハト類はおらず、近くに降りて安全を確認してから近寄るという。
      Cade et al. (1966) Drinking behavior of sandgrouse in the Namib aud Kalahari deserts, Africa がナミブ、カラハリ砂漠でのサケイの飲水を報告している。この行動が系統的に決まっているとの考えは Lorenz (1939) まで遡るとのこと [コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz が何を考えていたかも含め、#ハイイロガンの備考も参照]。 Wickler (1961) がカエデチョウ科 (オーストラリアのものだそうでいかにも乾燥地域) や ズグロムシクイ科 Sylviidae の鳥でも見られるとの過去の報告を取り上げ、系統で決まっているわけではないと主張。さらにネズミドリ科でも見つかった。 ハト類の中でも原始的とされたオオハシバト Didunculus strigirostris Tooth-billed Pigeon ではガンのように水を飲むとの反例を示した。 こんなところにもコンラート・ローレンツの動物行動学解釈の流れをめぐる議論があった。 この論文ではサケイ類のことが述べられているが、クロハラサケイ Pterocles orientalis Black-bellied Sandgrouse では 150 ml まで飲むことができるという伝説的な報告もある。この論文の観察では1回に飲む量は 1.5 ml ぐらいで7回繰り返し、しばらく間を置いて 3 ml を飲んだという。これが典型的な最大値だろうとのこと。
      Cade and Greenwald (1966) Drinking behavior of mousebirds in the Namib Desert, southern Africa にネズミドリ類についての報告。高温に晒すと同じタイプの飲水行動を示した。ハト類との驚くべき収斂進化としている。 Speckled Mousebirds drinking water by sucking and keeping the head down (チャイロネズミドリの飲水ビデオ)。
      特化した舌を利用して吸う行動は蜜を吸う鳥 (ハチドリ類、ミツスイ類) やオウム類で知られている。 こちらは比較的時流に乗っているようで研究をいくつか紹介しておく。 Rico-Guevara et al. (2015) Hummingbird tongues are elastic micropumps 毛細管現象との従来の解釈は誤り。 Rico-Guevara and Rubega (2017) Functional morphology of hummingbird bill tips: their function as tongue wringers 嘴の構造と舌の作用で送り込む。 Hewes et al. (2023) How do honeyeaters drink nectar? ミツスイ類の研究。ハチドリ類と類似点もある。
      通常の鳥類が哺乳類のように水を飲まない理由は食道の蠕動運動がないためとしばしば説明されるが、これも正しくないよう。ニワトリの食道蠕動の研究例: Bartlet (1973) Myogenic peristalsis in isolated preparations of chicken oesophagus など。 ハトの研究もあり Fileccia et al. (1984) Primary peristalsis in pigeon cervical oesophagus: two EMG patterns。 ペリットを吐く行動も peristaltic egestion と呼ばれる (Bildstein 2017)。Houston and Duke Gastrointestinal Physiology (レビュー)。 ペリットを吐く行動は胃の動きと食道の逆方向蠕動によるもので、哺乳類の嘔吐や反芻とはかなり違うとのこと [Duke et al. (1976) Mechanism of pellet egestion in great-horned owls (Bubo virginianus)]。
      鳥類の食道は調べられている範囲で平滑筋で、哺乳類では横紋筋と平滑筋が混ざっているがその機能的違いはそれほどはっきりしていない。 Edeani et al. (2023) Effect of Inter-swallow Interval on Striated Esophagus Peristalsis; A Comparative Study with Smooth Muscle Esophagus のように横紋筋の方が急速な反復運動に適しているらしいとの実験結果が報告されている。これは主にヒトの誤嚥に関係して行われた研究。
      [その他] Siebold の読み方は多少注意が必要かも知れない。学名の発音は上記でよいと考えられるが、人名を表記する場合標準ドイツ語だとジーボルトとなる。wikipedia 日本語版によればオランダ国籍で入国しており、出身地方言での発音も濁音にならないことが多いそうで、日本語表記は通常使われるシーボルトとした。 ドイツ語ではジーボルトと読まれているだろう。文字から発音がわかるロシア語でも濁音で記載されている。
  • ズアカアオバト (分類次第で学名が変わる)
    • 第8版学名:Treron formosae (トゥレーローン フォールモーサエ) 台湾のハト
    • IOC 学名:Treron permagnus (トゥレーローン ペルマグヌス) 非常に大きいハト
    • 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
    • 第8版種小名:formosae (属) 台湾の (formosa 台湾 < ポルトガル語で Ilha Formosa 美しい島 と名付けられた)
    • IOC 種小名:permagnus 非常に大きい per- 非常に magnus 大きい
    • 英名:Whistling Green Pigeon, IOC: Ryukyu Green Pigeon (備考参照)
    • 備考: treron は#アオバト参照。 formosae は2つの o が長母音で後者にアクセントがある (フォールモーサエ)。 permagnus は短母音のみで -mag- がアクセント音節 (ペルマグヌス)。
      IOC では独立種 Treron permagnus (per- 非常に magnus 大きい) 英名 Ryukyu Green Pigeon とされ、Treron formosae 英名新称 Taiwan Green Pigeon に分離された (将来別種とされるならば和名はタイワンズアカアオバトが過去に使われている)。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" の時代にはアオバト類は3種に分けられていて、当時の学名で Sphenocorcus permagnus (原記載) Amami-Oshima, Okinawashima, Yakushima にリュウキュウアオバト、 Sphenocorcus medioximus (原記載) Ishigakishima, Iriomoteshima にチュウダイアオバトの和名が記されていた。
      世界の主要リストでは IOC は 11.2 以降、HBW/BirdLife はこの分類を採用。Clements、Howard and Moore は Treron formosae の亜種としている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では後者の扱い。 IOC 14.2 の扱いでは Treron formosae が4亜種、Treron permagnus が2亜種としている。 日本で記録される亜種は permagnus [IOC の扱いでは Ryukyu Green Pigeon の基亜種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)の和名では亜種ズアカアオバト。過去には亜種リュウキュウズアカアオバトとも呼ばれていた] と medioximus (中央にある) チュウダイズアカアオバト とされる。後者は IOC 扱いでは Ryukyu Green Pigeon の亜種。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではタイワンズアカアオバトを検討亜種として扱っている。 和名ズアカアオバトの由来は後述。日本で記録される(亜)種は頭が赤くないので、IOC の分類に従えば現在の和名が特徴に一致しなくなる可能性が残る。
      [ハト類の系統分類] Nowak et al. (2019) A molecular phylogenetic analysis of the genera of fruit doves and their allies using dense taxonomic sampling が分子遺伝学的研究を行っている。これによれば日本のアオバトもサンプルに入っているが、ズアカアオバトは入っていない。 Treron 属の独立性はこの論文の系統樹からは問題なさそうであるが、日本周辺の関連種がサンプルされていないのでそれらとの関係はわからない。 アフリカの種類である Turtur 属と Oena 属も統合される可能性がありそうである。Treron 属とこれらのグループを含めて "fruit pigeons and doves" または "fruit doves" と呼ばれ、かつては亜科 Treroninae (おそらくアオバト亜科) をなすとされていたが、 遺伝系統研究で範囲が広がり先取権の原則から亜科 Raphinae (絶滅種ドードー Raphus cucullatus を含む) と呼ぶのが適当とされている (ドードー亜科、かつては独立科とされてドードー科だった。wikipedia 日本語版の出典はやや古いので、この 2019 年論文を参考にするのがよさそうである)。
      もしこの分類階層を加えて記述すれば「ドードー亜科アオバト属」のようになる。後述のように 亜科 Raphinae の範囲をもっと狭める (細分化する) 分類もあり、その場合は 亜科 Treroninae の名称が復活する (例えば Boyd の分類)。 「ドードー亜科アオバト属」であればこれはこれで面白いであろう。どのぐらい過去の絶滅種まで現代の分類に取り入れるかは議論があるのかも知れないが、世界の主要リストはドードーを含めている。eBird でももし万一観察できれば報告できる扱いになっているのではないかと思われる。
      なおドードーをベースとした系統名は広く使われているが、タイプ標本が指定されていないなど命名規約上の不安定さが残るとのこと: Young et al. (2024) The systematics and nomenclature of the Dodo and the Solitaire (Aves: Columbidae), and an overview of columbid family-group nomina
      系統樹はまたハト類の他の属の位置づけに問題がある可能性を示している。他の文献などををよく調べたわけではないが、Streptopelia 属 (キジバト属) とColumba 属 (カワラバト属) は系統樹上で区別できない可能性がある。 もう少し研究が進めばキジバト属はカワラバト属に統一されるかも知れない (2019 年時点)。これらはこの文献では亜科 Columbinae (カワラバト亜科?) に属する。
      Oliver et al. (2023) Oligo-Miocene radiation within South-west Pacific arc terranes underpinned repeated upstream continental dispersals in pigeons (Columbiformes) fig. 2 に世界分布と分子系統樹があり、Supplementary data (figs. S4, S5) により詳しい分子系統樹がある (系統に関心のある方はぜひダウンロードしてこちらを見て欲しい。ただし伝統的な遺伝子を用いた解析)。 この研究で状況が改善され、Streptopelia 属、Columba 属はそれぞれ単系統をなしており問題ない。 Streptopelia 属、Columba 属ともに系統的には古めで、種分化年代も集中しておらず、特に草原の広がり (例えば C4 植物) に合わせて急激な種分化を果たしたグループではなさそう。
      この部分が気になったのは「野鳥」1994年7月号 (No. 571) にハト類の特集があり、上田氏が果実食のハト類から草原で植物食のハト類が進化した可能性を推定されていたため (pp. 4-7)。以下の考察もこの記事を参考にした。 #サケイの備考のようにハト類を含む古い系統 (Columbimorphae) から乾燥地適応はすでにあったのだろう。 位置づけがまだはっきりしていないが、ハト類の最も古い系統と考えられるクロヒゲバト Starnoenas cyanocephala Blue-headed Quail-Dove / Blue-headed Partridge-Dove (キューバの低地にのみ生息し、絶滅が危ぶまれている) も森林の地上で採食しハト類の生活様式の原型に近いかも。
      メラネシアからフィリピンの果実食のハト類 (fruit doves) Ptilinopus (ヒメアオバト) 属 がむしろ比較的最近種分化を遂げている。アオバトの系統 Treron とは少し離れている。Ptilinopus 属 は単系統でハト類中でも大きなグループをなすことがわかる。これも "ドードー亜科" に含まれる。
      Treron 属はむしろ Turtur 属に近い関係となった。Treron 属そのものは単系統で問題なし。 これらをまとめたクレードの名称は Treroninae: Emerald and Wood Doves, Green-Pigeons (Boyd による。細分する立場の場合はこのクレードを "アオバト亜科" と呼ぶのが適切そう)。
      Treron 属の適応放散は 1500 万年前以降と推定される。これらのハトが緑の色彩なのは空からの捕食者対策とする考えがある。広義 Accipiter 属を考えると (#カッコウの備考 [カッコウのタカへの擬態] 参照)、南方系の Tachyspiza 属が東南アジアに分布を広げたのが 700 万年前ぐらい (ただしアカハラダカは小型すぎる)。 狭義 Accipiter 属は日本ではハイタカの分布が重なるがあまり低緯度には分布しない。Astur 属のオオタカも同様。シロハラオオタカ Astur meyerianus Meyer's Goshawk はニューギニア付近では候補となる。 狭義 Accipiter 属、Astur 属 ともに適応放散は遅いので Treron 属以前から存在した捕食者ではなさそう。ハヤブサ類も遅く状況は同様。 クマタカ類などを含むイヌワシ亜科は 1500 万年前以降以降の系統で、特に問題となりそうなクマタカ類は 1000-500 万年前ごろに種分化を遂げている。やはり Treron 属より少し遅そう。より古い系統のチュウヒワシ亜科 Circaetinae、ハチクマ亜科 Perninae、さらに カタグロトビ亜科 Elaninae は時期的には可能性があるが現在ハト類を食べている種類はあまりなさそう。 緑色のハト類の保護色は空からの捕食者が現れてから後に身につけたものか、あるいはチュウヒワシ亜科や ハチクマ亜科にもハト類を食べる種類が存在したのか。チュウヒワシ亜科やハチクマ亜科 - カタグロトビ亜科につながる系統も強力な絶滅種を生んでいるので可能性は十分ありそう。 小鳥を捕まえるほど敏捷さが要求されないハト類は絶好の獲物で、初期のタカ類でもよい捕食者になっていたのかも。 哺乳類捕食者にとってはもっと見分けにくい色のはずだがアオバト類を捕食する哺乳類をあまり思いつかないのでここでは特に検討していない。
      Xu et al. (2021) は分子遺伝学的には Treron 属はあまり研究されていないと述べ、ハシブトアオバト Treron curvirostra 英名 Thick-billed Green-Pigeon のミトコンドリアゲノムを解読したものが最初としている The mitochondrial genome and phylogenetic characteristics of the Thick-billed Green-Pigeon, Treron curvirostra: the first sequence for the genus で、Treron属と Hemiphaga属 (ニュージーランドバトともう1種) と類縁関係にあることが示された。 Chen et al. (2022) が オナガアオバト Treron sphenurus 英名 Wedge-tailed Green-Pigeon を同様に調べて同様の結論を得ている: Complete mitogenome of Treron sphenurus (Aves, Columbiformes): the first representative from the genus Treron, genomic comparisons and phylogenetic analysis of Columbidae。 この2論文は (日本には分布しないが) アジアの種を扱っている点は貴重である。しかし Nowak et al. (2019) をよく研究したものかどうかは疑問である。 音声的にも Ryukyu Green Pigeon と Taiwan Green Pigeon の間にそれほど違いがあるわけではないようである。同種にするか別種にするかは現代的なレベルの根拠のない段階で、どちらを採用するのがより適当かまでは議論できないようである。 Oliver et al. (2023) でも同様の位置づけでアオバトとは明瞭に分離できるが、Ryukyu Green Pigeon と Taiwan Green Pigeon は系統樹サポートは不完全。調べられた遺伝情報がまだ少なすぎる模様。
      [和名の由来] コンサイス鳥名事典では (当時の分類で) フィリピン産の亜種 T. f. australis は頭頂部が明るい赤銅色で、和名はそれに由来すると述べられている。 しかしこの亜種名は現代の分類ではマダガスカルの Treron australis の名称であり、Treron formosae の亜種には出てこない (filipinus はある)。詳しい経緯を確認できなかった。 またアオバトとズアカアオバトを含めて Sphenorus 属とすることもあったとの記載があった。
  • クロアゴヒメアオバト
    • 学名:Ptilinopus leclancheri (プティリノプース レクランケリ) ルクランシェールの足に羽毛のある鳥
    • 属名:ptilinopus (合) 羽毛のある足 (ptilon 羽毛 pous 足 Gk)
    • 種小名:leclancheri (属) Charles Rene Augustin Leclancher (フランスの外科医、博物学者、探検家) の
    • 英名:Black-chinned Fruit Dove (= IOC, or) Leclancher's Dove
    • 備考: ptilinopus は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語および他事例から足を表す -pus は長母音と考えられる。-li- がアクセント音節と考えられる (プティノプース)。 leclancheri は規則通りならば "レクンケリ" のアクセント位置と考えられる。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。4亜種あり (IOC)。日本で記録されたものは taiwanus (台湾の) とされる。
  •  アビ目 GAVIFORMES アビ科 GAVIDAE 

  • アビ
    • 学名:Gavia stellata (ガーウィア ステールラータ) 星斑のある海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:stellata (adj) 星をちりばめた (stellatus)
    • 英名:Red-throated Diver, IOC: Red-throated Loon
    • 備考: gavia は冒頭が長母音でアクセントもここにある (ガーウィア)。 stellata は最初の2母音が長母音で最初の a にアクセントがある (ステールラータ)。stella 星 の冒頭が長母音で、所有の -ata の冒頭も長母音のため。
      単形種。英名 loon の由来は古英語 lumme、スウェーデン語 lom、スカンジナビア語 lum などが候補になっている。不具の、ぎこちないなどの意味で、陸上での動作を表したものであろう (wikipedia 英語版)。loon がアメリカ英語、diver がイギリス英語の呼称。 属名の gavia はラテン語でミコアイサを指すとのことで、白と黒で潜って魚を採る海鳥を古代ローマの人たちは区別していなかった可能性がある。
      アビ類は 18 世紀までカモ類に分類されていて初期の博物学者は mergus (#カワアイサ参照) または colymbus (未同定の水鳥でカイツブリか? The Key to Scientific Names) と呼んでいた (wikipedia 英語版 Gavia 項目参照)。#ハシグロアビの備考も参照。 ここでは属名の解釈は The Key to Scientific Names に従って「未同定の海鳥」とした。
      ロシア語名では gagara と声にちなんでわかりやすい。ドイツ語 Eistaucher (氷の潜水士)、ノルウェー語、スウェーデン語では islom で氷と上記 lom の合成。スペイン語では colimbo と colymbus が残っている。
      [アビ類が地上を歩くのに向かない理由] Clifton et al. (2017) Comparative hindlimb myology of foot-propelled swimming birds に下肢の比較解剖がある。足のひれで水中を推進する鳥では下肢の下部しか体外に出ておらず (水中抵抗を少なくして流線型のラグビーボールのような体型になる)、下肢の上部をあまり動かせない。立っている時の体の重心は体外に出た下肢よりはるか上で、動かせる部分が少ないために姿勢をうまく制御できない。 カイツブリ類も同様。 カモ類のように足のひれで水面を推進する鳥ではここまでの特殊化はない。ウ類は中間にあたるとのこと。
      潜水能力の非常に高い鳥は足を動かす筋肉の付着部位である膝蓋骨 (patella。膝の皿。現生爬虫類の多くは持たない) や tibiotarsus (脛足根骨。日本語名称はそれほど使われないかも知れない。ヒトでは 脛骨 tibia 腓骨 fibula の用語が使われるが、鳥類では腓骨はかなり退化している。両生類と爬虫類の多くは腓骨と脛骨が同じ太さなので、後ろ足で力強いジャンプができないと wikipedia 日本語版にある) の近位にある突起 tibiotarsal cnemial crest が発達しているとのこと。 付着する主な筋肉である femorotibialis medius (中大腿脛骨筋) が泳ぐ時に膝の屈曲運動を抑制し、水中を推進する際に足が受ける抗力による膝関節を曲げるモーメントに対抗する働きがあると考えられる。 足の最も大きな筋肉である gastrocnemius (腓腹筋)、digital flexor muscles (趾の屈筋群) も付着し、足のひれで推進する力を生み出している。 骨格だけを解説した書物よりもこのような筋肉も含めたレビューを読むと水中推進への適応がよりわかりやすいだろう。 足で泳ぐ鳥以外にも足の力の必要な猛禽類でもこれら突起は比較的発達しているので骨格写真を見て確認いただきたい。
  • オオハム
    • 学名:Gavia arctica (ガーウィア アルクティカ) 北極の海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:arctica (adj) 北極の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Black-throated Diver, IOC: Black-throated Loon
    • 備考: gavia は#アビ参照。 arctica は短母音のみでアクセントは冒頭 (ルクティカ)。
      2亜種あり (IOC)、日本で記録されるものは viridigularis (viridis 緑の gularis のどの) とされる。
  • シロエリオオハム
    • 学名:Gavia pacifica (ガーウィア パーキフィカ) 太平洋の海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:pacifica (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Pacific Diver, IOC: Pacific Loon
    • 備考: gavia は#アビ参照。 pacifica は "パーフィカ" (#アマツバメ参照)。
      単形種。
  • ハシグロアビ
    • 学名:Gavia immer (ガーウィア イムメル) ハシグロアビ
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:immer (外) ハシグロアビ ノルウエー語
    • 英名:Great Northern Diver (or) IOC: Common Loon
    • 備考: gavia は#アビ参照。 immer は外来語で発音がわからないが "ムメル" と推定される。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。 記載時は属名 Colymbus が使われており、この属はアビ類の他にカイツブリ類も含んでおり、動物命名法国際審議会が Gavia 属をアビ類に与えた 1956 年まで使われていた (wikipedia 英語版)。
      The Key to Scientific Names にはもう少し詳しい説明があり、Linnaeus の用いた Colymbus 属はオオハム、カンムリカイツブリなど3種類の (現在 Podiceps 属の) カイツブリ類を含んでいた。Linnaeus はタイプ種を指定したわけでも意図を示す記述も残さなかったとのこと。 Brisson (1760) が Colymbus をカイツブリ類、Mergus をアビ類に用いる提案を行って、この属の first reviser の役割を果たしたかのように見えたが、Brisson は二名法による分類を採用しておらず、Linnaeus の仕事を引用しているわけでもないので first reviser には値しない。 Latham (1787) は Colymbus をアビ類に、Podiceps をカイツブリ類に用いた。この属名が長年標準的に使われていたが、1915 年には BOU が問題を提起した。ICZN が 1956 年に Colymbus を用いない判断を下した。
      種小名の immer (ノルウエー語より) に近い他言語名はアイスランド語の himbrimi があり、語源をたどるとスウェーデン語 immer/emmer (灰) に、あるいはラテン語 immergo (浸す) または immersus (沈んだ) に由来する可能性があるとのこと (wikipedia 英語版より)。 ドイツ語の immer (常に) と同じ綴りであるが語源の関連性はないようである。 普通に使われる単語ではないようだが英語 immer もアビ類を指す。
      Young Guns (2017) Birder 31(2): 44-47 にハシジロアビとハシグロアビの識別が出ている。 Common Loon の英名が示すように世界的にはハシグロアビが普通種で、ハシジロアビよりもデータはずっと豊富にあるが、日本ではハシグロアビの方がずっとまれ。
  • ハシジロアビ
    • 学名:Gavia adamsii (ガーウィア アダムスィイ) アダムスの海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:adamsii (属) アダムスの (ラテン語化して -ius を属格化) 発見者、英国の船医 Edward Adams
    • 英名:White-billed Diver, IOC: Yellow-billed Loon
    • 備考: gavia は#アビ参照。 adamsii は "アムスィイ"。
      単形種。
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFOMES アホウドリ科 DIOMEDEIDAE 

  • コアホウドリ
    • 学名:Phoebastria immutabilis (ポエバストゥリア イムームタービリス) 色の変わらない女性の予言者のような鳥
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:immutabilis (adj) 不変の。一旦成鳥の羽衣になるとすぐに区別できるようになるため (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Laysan Albatross (ハワイ北西部レイサン島の)
    • 備考: phoebastria は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語を参考にすると短母音で読むと考えられる。-bas- がアクセント音節と考えられる (ポエストゥリア)。-ia の接尾辞にも長母音はない。 immutabilis は u, a が長母音で後者にアクセントがある (イムームタービリス)。英語の mutate も似た発音なので把握しやすい。 意味は上述の通りだが原記載に記述されている。
      mutabilis を学名に持つ種類は限られていてミナミミドリモズ Vireolanius eximius mutabilis Yellow-browed Shrike-Vireo の亜種名が現行のもの。 摩耗によって基亜種に比べてより青緑色が強いと考えられたもの (The Key to Scientific Names)。
      旧属名の Diomedea はギリシャ神話由来でギリシャ語発音に従えば "ディオメーデア"。この属名は一部のリストで最近まで使われていた。現在の分類では日本に関係する種では#ワタリアホウドリのみがこの属。 科の名称 (Diomedeidae) には引き続き使われる。
      単形種。 属名由来は Barwell (2012) What's In A Name? What Names For Albatross Genera Reveal About Attitudes To The Birds も参照。
  • クロアシアホウドリ
    • 学名:Phoebastria nigripes (ポエバストゥリア ニグリペース) 足の黒いアホウドリ
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:nigripes (adj) 足の黒い (niger (adj) 黒い pes (m) 足)
    • 英名:Black-footed Albatross
    • 備考: phoebastria は#コアホウドリ参照。 nigripes は e が長母音で冒頭にアクセントがある (グリペース)。
      単形種。 気候変動の影響を大きく受けている種。These animals are racing towards extinction. A new home might be their last chance (Nature のニュース 2023)。 ハワイのクロアシアホウドリの移住が行われている。海水面に近いコロニーではすでに海面上昇と嵐によって多数のコロニーが失われている [出口 (2019) Birder 33(7): 32-33 にチャタムアホウドリと合わせて言及がある]。 同じニュースで扱われているオーストラリアの希少カメの場合について、科学者や保護団体には悩みもある。移住はほとんど最後の手段であり、費用もかかりリスクもある。移住が行われるカメの場合は (現時点で) 冷涼な気候で繁殖できるか未知の点がある。生育に非常に時間がかかるので成否が出るまでに (生息地の消失は危急の課題にもかかわらず) 長い年月を要する。
  • アホウドリ (センカクアホウドリ がこれまでの学名を引き継ぐ予定。学名未定のもう一種がアホウドリ)
    • 学名:Phoebastria albatrus (ポエバストゥリア アルバトゥルス) アホウドリ
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:albatrus (合) アホウドリ (Albatros アホウドリ 独)
    • 英名:Short-tailed Albatross
    • 備考: phoebastria は#コアホウドリ参照。 albatrus は外来語のため発音はよくわからないが、規則通りに読めば -bat- がアクセント音節 (アルトゥルス)。ドイツ語の Albatros や英語の albatross は冒頭がアクセント。フランス語では特にアクセントはないが、語末は長音 (アルバトゥロース)。英語でも語末を長音で読む発音もある。
      日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で2種に分離され、Phoebastria albatrusセンカクアホウドリ、もう一種は学名未定の和名アホウドリとなる見込み。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対してこの提案が出されていたが、その段階ではどちらが Phoebastria albatrus を引き継ぐか不明であったため保留とされた。 江田・樋口 (2012) 危急種アホウドリ Phoebastria albatrus は2種からなる!?、Eda et al. (2020) Cryptic species in a Vulnerable seabird: short-tailed albatross consists of two species、 Yamasaki et al. (2022) Neotype designation of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus (Pallas, 1769) (Aves: Procellariiformes: Diomedeidae) タイプ標本が失われているためかつて記載された Phoebastria albatrus がどちらを指すかわからなくなっていた。ここでネオタイプ標本を提示し、尖閣諸島で繁殖するより小型種を Phoebastria albatrus と再定義した。 鳥島などのより大型のもう1種については albatrus のシノニムから選ばれると思われるが、まだ確定できるまで(文献)調査が進んでいないということであろう。尖閣グループの鳥は鳥島も少数訪れるが行動も異なり、自身と同じグループの個体とつがいになるのを好むとのことである [Eda et al. (2016) Assortative mating in two populations of Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus on Torishima。 江田 (2021) Birder 35(6): 34-35 に「アホウドリは2種いると解明!」の記事がある。
      Royle et al. (2022) Documenting the short‐tailed albatross (Phoebastria albatrus) clades historically present in British Columbia, Canada, through ancient DNA analysis of archaeological specimens はカナダのブリティッシュコロンビアの古生物標本を調べ、鳥島グループ (Clade 1) が乱獲以前の過去にはずっと訪れていたが、少数は尖閣グループ (Clade 2) に属することを示した。両グループ (新分類では種) の分布は乱獲前においても違っていたことを意味する。 英名もいずれ修正されると思われる。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対して和名「オキノタユウ」への改名を求める意見も出されたが、変更した場合への影響が大きいと考えられるため変更しないとの見解になった (詳しくは原文参照)。不適切名称の改名の事例については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名] も参照。 長谷川 (2005) Birder 19(4): 26-27 はオキノタユウ (沖の太夫) の名称を解説し、記事全体もこの名称で記述している。 「オキノタユウの島で: 無人島滞在 "アホウドリ" 調査日誌」(長谷川博 偕成社 2015) は定年退職 (2014) に際してまとめられた本で、プロローグが「アホウドリからオキノタユウへ」となっている。自身が図鑑の名前を見て子ども心にもひどい名前をつけられた、かわいそうな鳥と思ったこと、 1990 年代保護計画を小学校で紹介する際にデコイを見せると子どもたちがアホウと鳴くと考えたエピソードなどが語られている。この鳥の地球上での再生に見とおしが立った時点が、もっとふさわしい名前に変えるのによいのではないかと考えたことが述べられている。
      天然記念物。絶滅危惧 II 類 (VU)。IUCN 3.1 VU 種。
      [語源や関連する用例] 種小名の由来は Albatros アホウドリ 独 とされ、The Key to Scientific Names にもそのようにあるが今一つすっきりしない。原記載 (Pallas 1769)。 属名 Albatrus が先に使用されていて (Brisson 1760。現在は使われない属名) こちらはフランス語 albatros 由来とある。言語出典までは必ずしも明確でなくて、ドイツ語でもフランス語でも albatros が同じように使われていて、記載者がドイツあるいはフランスだったのでそれぞれの言語由来と推定して割り当てただけかも知れない。
      ドイツ語の Albatros の由来は航海士の英語から入ったとのこと (wikipedia ドイツ語版より)。 スペイン語やポルトガル語の alcatraz で、現在は一般にはカツオドリ類を意味するが、もとは大型の水鳥、特にペリカンを指していたものが変形したと考えられるとのこと。 スペイン語やポルトガル語の alcatraz はアラビア語の al-qadus 水車の水をくむバケツ部分に由来し、ペリカンののど袋を連想されたらしいとのこと。あるいは al-ghattas "海のワシ" に由来すると考えられる (Etymology Online)。 alba- (albus) がラテン語で白の意味のため、おそらくこの影響を受けて語形が大きく変化したのではないかとのこと。 英語ではミズナギドリ目の鳥を指して使われており、以前にはグンカンドリ類も指していたとのこと。 フランス語の albatros も同じ語源の説明が書いてあってどこから入ったかは明確でなかった。
      wikipedia 英語版では In Hawaiian mythology, Laysan albatrosses are considered aumakua, being a sacred manifestation of the ancestors, and quite possibly also the sacred bird of Kane. Japanese mythology, by contrast, refers to the short-tailed albatross as ahodori, "fool bird", due to its habit of disregarding terrestrial predators, making it easy prey for feather collectors とハワイではコアホウドリが先祖を表す神聖な鳥との神話があるが、日本では "ばかな鳥" と扱っていて対照的であると記載されている。 同じページの西洋文化のところでは the most legendary of all birds (最も伝説的な鳥) で、神の創造の汚れない美しさを表したとされた。船乗りが実際には食べていたが、撃ったり殺したりすることは凶事につながると信じられていた。 死んだ船乗りの魂が宿っているとして捕まえたが放した事例などが紹介されている。
      伝説から転じて、albatross の語は逃れられない心理的な重荷 (呪い) の意味にも使われるようになった。出典は "The Rime of the Ancient Mariner" (1798) の詩からとのことだが一般的に使われるようになったのは1960年代からとのこと。現代でもさまざまな映画などで扱われる題材で、2011年には逃れられない重荷を表した "Albatross" という題の映画も英国で作られた (wikipedia 英語版)。
      和名に関しては The rare 'idiot bird' (Tobias Hayashi 2019) が語源を紹介している。英名の Short-tailed Albatross も (尾が短いことは他の Phoebastria, Diomedea 属でも同じなので) 同様に silly (ばかげている) としている。 使われている What's in a name? は直訳すると「名前に込められたものは?」となるが、シェークスピアのロメオとジュリエットが由来らしい (名前というものにはどんな意義があるのか? とジュリエットが自問自答した部分。a rose by any other name どんな名前で呼んでもバラ、と続く)。 名前の意味を説明するとともに、掛詞のように用いておよそ実体を表していない和名であることを伝えたいのだろう (also silly のところで伝えたいことがわかる)。
      What's in a name? のフレーズは学名解説でもしばしば現れる。ふさわしくない学名が付いてしまったが規約上変えられなく実体を反映しないものになっている場合を指す。 Barwell (2012) What's In A Name? What Names For Albatross Genera Reveal About Attitudes To The Birds (この文献は属名由来などの解説にもなっている) では、 英語の mollymawk (Thalassarche 属などの一般名: オランダ語で mal ばか + mok カモメ 由来説がある)、gony/gooney (北太平洋の albatrosses を指した英語で OED では 1957, 1966 年にも用例がある) などとともに also being the meaning of the Japanese words, aho-dori and baka-dori, "fool-bird", for the Short-tailed Albatross (Austin 284). The attitudes lying behind these sorts of names are those which legitimated the unrestrained exploitation of the environment, for profit, sport, or other motives, in the nineteenth and twentieth centuries. 19-20 世紀の節操ない自然搾取時代の態度が残されたものとしている。
      この種の復活物語を英語に翻訳された The Recovery of the Short-Tailed Albatross: A Preservation Success Story (Ishi Hiroyuki 2017) 記事では "屈辱的な" を derogatory と訳してある。
      "アホウドリ" の名前は輸出され、何と海外 (ベトナム) でも使われていた: Galapagos Aho Dori - Wikipedia
      [鳥の繁殖開始年齢と繁殖様式の関係] Taylor and Prum (2023) Social Context and the Evolution of Delayed Reproducytion in Birds に preprint 段階であるが繁殖開始年齢と繁殖様式の関係の研究結果がある。 古典的な生活史戦略はできるだけ早く繁殖を開始する選択が働くはずだが、発育が可能であれば繁殖開始を遅らせる戦略も有利になり得る。鳥類・哺乳類で体のサイズと繁殖開始年齢の相関はこれまで知られていたが、鳥類はほとんどの場合すぐに成鳥と同じ大きさになるのでこの説明は直接適用できない。 いくつかの種においては体の発育ではなく行動 (社会行動、採食行動など) の発育に時間がかかり繁殖開始が遅れる例が報告されている。オナガセアオマイコドリ Chiroxiphia linearis Long-tailed Manakin は体重 20 g しかないが、メスは1-2年めに繁殖するののに比べ、オスは身体の発育が終わっても社会的順位を確立し、オスの集団ディスプレイを発達させるのに 10 年を要するとのこと。
      共同繁殖を行ったりやレックを作る鳥でレックでの雌雄の役割に対応して雌雄で繁殖開始が異なることが最近明らかになった。 Ancona et al. (2020) Sex differences in age‐to‐maturation relate to sexual selection and adult sex ratios in birds によれば一夫多妻、オスの方が重い、集団の性比がメスに偏っているほどオスの繁殖開始が遅れる傾向が見られた。
      Taylor and Prum (2023) は調査範囲を広げて系統・生活史と繁殖開始年齢の関係を調べたもの。 コロニー性の鳥で繁殖開始年齢の遅れが大きく、共同繁殖でも弱い傾向があり一夫多妻・一妻多夫の性差の傾向も確かめられたが。生態の多様性が大きく、簡単なカテゴリー変数を用いたモデルでは系統モデルを取り入れても現実を説明するのは十分ではない可能性がある。 コロニーで繁殖するハイガシラアホウドリ Thalassarche chrysostoma Grey-headed Albatross の 13 年、共同繁殖をするヒゲワシで 10 年などのモデル推定値が得られた。ワタリアホウドリの野外研究では 11 年とのこと。 繁殖開始年齢と繁殖様式を含めた系統樹が示されているのでご覧いただきたい。 データは Data and code repository for the manuscript: Social context and the evolution of delayed reproduction in birds にあるので詳しく見ていただければ興味深い情報がみつかるかも知れない。文献から繁殖開始年齢を調査した一覧が data_raw_2023-07-23.xlsx にある。
      Schoenjahn et al. (2022) Delayed juvenile behavioral development and prolonged dependence are adaptations to desert life in the grey falcon によればオーストラリアのハイイロハヤブサでは体サイズから推定すると 12 か月で繁殖可能になると考えられるがその時期でもまだ親と一緒にいるとのこと。他の Falco 属に比べてこの種では行動発育が特に遅い。オーストラリアの暑く乾燥した夏を乗り越えて生まれたその年に繁殖を始めても生存する可能性は極めて低いための特徴と考えている。
      [海鳥の翼の上面はなぜ黒い] Rogalla et al. (2021) The evolution of darker wings in seabirds in relation to temperature-dependent flight efficiency 海鳥の翼の上面は黒っぽいものが多いが、これは空気が熱せられることによって揚力/抵抗の比率が上がり、長距離の滑空に有利であるとの解釈がある (もちろん紫外線防御、摩耗耐性、寄生虫耐性など他にも要因があるだろう)。この研究では滑空時の沈下速度との相関、風洞実験でその効果を実際に確かめた。 カツオドリ類で若鳥で黒く、成鳥で一部白くなるものがあるが風洞実験での飛行効率への影響は翼の下げ角が大きい時に認められた。 黒い翼の航空力学的利点は長距離を渡る鳥や長距離を羽ばたかず飛ぶコンドルなどにも同様にあると考えられるとのこと。ウ類からカモメ類までを含む水鳥で調べられているので図を見ると他にも思いつくことがありそう。
      Hassanalian et al. (2017) Role of wing color and seasonal changes in ambient temperature and solar irradiation on predicted flight efficiency of the Albatross によれば季節で色の変わるアホウドリ類でも黒い色の方が飛行効率がよいいとのこと。
      Goumas (2022) Dark wing pigmentation as a mechanism for improved flight efficiency in the Larinae によれば羽ばたき飛行のカモメ類でも成り立つとのこと。風切先端の黒色も翼面荷重 (wing loading) と相関がある。 大型種ほど翼面荷重が大きくなるので翼を幅広くする (アスペクト比を下げる) 必要があり、操縦性能と長距離飛行効率との兼ね合いで進化した可能性がある。黒い翼はは体温調節に有利との考え方もあって独立に働くだろうとのこと。この論文では飛べるようになったカモメ類では保護色として働く必要はないと考えている。 なおカウンターシェーディング (countershading) の考え方は古くから (*1) 提唱されていて有効であることは特に疑われていないが、(獲物からは見えない) 上面の黒さの説明はあまり満足なものがなかった。例えばカモメ類では翼だけ黒くて他は白っぽい種類も多い理由が説明できなかったが、航空力学的効果を考えると説明が与えられるかも知れないという趣旨。
      備考:
      *1: 川口 (2017) Birder 31(1): 50-51 では Thayer (1896) The Law Which Underlies Protective Coloration が紹介されているが、wikipedia 英語版によればさらに早くから知られていたようで Poulton (1890) "The Colours of Animals" で昆虫の色彩を記述しているとのこと。 The Colours of Animals (wikipedia 英語版) によれば当時すでに警告色や擬態、進化メカニズムも議論されていて現代的なテーマがすでに出揃っていた模様。当時はまだ遺伝学の理論も未発展だった。Wallace は性選択を支持していることを批判したとのこと。 The Colours of Animals: Their Meaning and Use Especially Considered in the Case of Insects (archive.org) で読める。 出版当時から批判も含めた評判が高かったようで、Abbott (1896) もこれに刺激されて鳥に応用したと考えるのが妥当そう。 Abbott Handerson Thayer の wikipedia 英語版 の記事にも "father of camouflage" (カモフラージュの父) と呼ばれることもあるが彼が発明したわけではないとある。当時まさに議論の対象のころで、そのうちの一人で早い時期に系統的に研究を行ってまとめた著書を執筆していることは確か。 同ページには Thayer はすべての動物がカウンターシェーディングになっているとの誤った考えに取り憑かれていたとある。
      [海鳥の翼先端にはなぜスロットがない?] タカ類などでは初列風切先端の羽毛の (anterior vane) emargination (外弁欠刻) と (posterior vane) notch (内弁欠刻) (emargination は総称的にも使われる) で スロット状の構造 (論文から採用した記述的表現では emarginated, vertically separated primary feathers や slotted distal primary feathers のように使われている。 emargination は個々の羽毛にかかわる用語なので wing を修飾するのは適当でなく、この用語を使う場合は wings with emarginated primaries のような長い表現になってしまう) があって滑空中に抗力を小さくするのに有利などの解釈がなされるが、長時間の滑空を行う海鳥にはなぜないのかなど説明しにくい部分もある。
      van Oorschot et al. (2016) Aerodynamic consequences of wing morphing during emulated take-off and gliding in birds は実験により、高速の滑空中よりもむしろ飛び立ちなど速度が遅い時に役立っているのではとの仮説を提唱。海鳥は飛び立ちの頻度が少ないが猛禽類は地上から頻繁に飛び立つ必要があるので異なる適応を遂げているのではとのこと。
      過去に猛禽類を用いた実験では Tucker (1993) Gliding Birds: Reduction of Induced Drag by Wing Tip Slots Between the Primary Feathers (induced drag = 誘導抗力、後の解説参照) や Tucker (1995) Drag Reduction by Wing Tip Slots in a Gliding Harris' Hawk, Parabuteo Unicinctus のように滑空中に注目した研究が中心だったが他の点に着目したものはあまりなかったよう。 van Oorschot による学位論文 (2017) Aerodynamics and Ecomorphology of Flexible Feathers and Morphing Bird Wings も読める。
      KleinHeerenbrink et al. (2017) Multi-cored vortices support function of slotted wing tips of birds in gliding and flapping flight のニシコクマルガラスを用いた研究もあり、従来から想定されていた滑空中の航空力学的効率を上げる効果、羽ばたき時の効果の両者を確認できた。いずれの場合にも vortex spreading (翼端に生ずる渦を分散させる効果) が生じて抗力を弱める効果があった。 ソアリングも滑空も行わない系統にも見られることなどから滑空のために進化した構造というより、もっと一般的な意味があって、初期は羽ばたき効率を上げるために進化したのではないかとのこと。
      Liu et al. (2021) A Brief Review on Aerodynamic Performance of Wingtip Slots and Research Prospect にウィングレットの役割にかかわる過去の研究も紹介されている。 この文献では prominent and separated feathers at wingtip called wingtip slots と表現している。"突出"、"分離" のどちらもふさわしい使われ方になっており、翼先分離でも翼先突出のどちらの用語でも表現上は構わない感じがする。"fingers" は英語でも普通に使われるので "翼指" でも差し支えないように思える。 wingtip slots は一般的に使われるが、この数で識別などを表記したものは見つけられなかった。 KleinHeerenbrink et al. (2017) では number of slotted feathers of the wing tip の表現になっていて翼先分離/翼先突出/翼指数に対応する (おそらく適切な学術用語がない)。 この表現を見ると「隙間があって流れを分割する」ことが本質的なようなので、"翼先分離" の方がメカニズムにより対応した名称になっているだろうか。
      航空力学について、誘導抗力やアスペクト比などの説明は 人力飛行機を実現する原理[プラントルの揚力線理論](アスペクト比と揚力/誘導抗力比) が参考になりそう。 ウィングレットの項目に大型陸鳥の初列風切羽についての言及がある。 仕組みの日本語解説があるが非常に難しい。自分も流体力学を勉強したことはなく、このような数式をすらすら読める必要はないのでご安心を (*1)。鳥関係で物理学が難しいので...と言われるのはおそらくいきなり飛翔のメカニズムに入ろうとするためではないだろうか。 この解説を見ると流体力学は直感に反する部分が多々あり、完全に演繹的な物理学でもないので初めて取り組むには難しすぎて挫折する恐れ濃厚。
      日本語の 空気力学、航空力学 のどちらも英語では aerodynamics なのでそれほど違うわけではない。空気を媒質とする流体力学。ここでは英語で aerodynamics とある場合、飛翔に関係する場面では主に航空力学と訳してある。空気力学的効果のような使い方は聞いたことがないので流体力学的効果としている。
      関連して 渦抵抗 (カルマン渦列と抗力) の解説もある。 3. 渦動後流と物体が受ける抗力 (円柱の場合) の解説部分も渦の効果が直感的にわかりやすい部分があり参考になる感じがした。 また「流れの中に置かれた弦などは一定の振動数で振動し音を発するが、このような音響的現象は古くから知られていた」の部分は、羽毛と空気の相互作用で音を発生する種類でも起きているかも知れない (羽毛と羽毛をこすり合わせて音を出る音とは別物 *2)。 現実の鳥の飛行でのレイノルズ数は 25000-375000 の範囲程度とのこと: Alerstam et al. (2007) Flight Speeds among Bird Species: Allometric and Phylogenetic Effects。 「渦抵抗 (カルマン渦列と抗力)」のページに「レイノルズ数が小さい領域 (30 以下) で抵抗係数 C_D が増大するのは、圧力の項より粘性による物体表面の摩擦の効果が勝ってくるから」に該当するのは鳥では着陸・着地の時あたりの超低速飛行の時。 Gowree et al. (2018) Vortices enable the complex aerobatics of peregrine falcons によればレイノルズ数は 5.8 x 10^5 (22.5 m/s) とあり、このあたりが上限と思ってよさそう。先のページではこの領域では「レイノルズ数が 10^5 を超えると抵抗係数 C_D は急激に減少し ... この抵抗係数の変化は乱流が発生して流れの様子が全く異なった様相を呈するためで、この稿でした渦列の議論は全く成り立たなくなる。抵抗係数急減の説明には乱流境界層の考え方が必要で」 に対応する。Gowree et al. (2018) でもこの領域を扱っており、Prandtl (1931) も引用している。flow separation, re-attachment and vortex generation と乱流境界層がハヤブサの高速飛行を助けているとのこと。
      小翼羽 (alula) と渦発生にかかわる過去研究も含めたものは Linehan and Mohseni (2020) Scaling trends of bird's alular feathers in connection to leading-edge vortex flow over hand-wing で読める。低速飛行中で翼を大きい角度に保った場合に 揚力/抗力の比 を最大にする (13% ぐらい上昇するとのこと) 場所に alula があるとのこと。もっと体に近い位置にあると揚力を完全に失ってしまう結果が得られた。 翼全体の形で最適場所が少し異なり、楕円形のスズメ目の Zimmerman wing では少し内よりに、矩形の猛禽類の翼では中央より少し外側にあるのが最適とのことでほぼ現実を再現している。
      Matloff et al. (2020) How flight feathers stick together to form a continuous morphing wing 羽毛の微細構造の方向性のある鈎が "directional Velcro" (方向性のあるファスナー) のように確率的に絡み合うことで隙間を埋めて自動的に理想的な流体力学的構造を作る。ただし無音飛行を行う種類にはこの構造がない (ファスナーを閉じる時のような音がしない)。 高輝度 X 線によるスキャンで明らかになった。10 分以内のスキャンで数千本の羽毛の構造が得られるとのこと。時間もかからないので多数の種を調べることができたとのこと。 アルゴンヌ国立研究所 (Argonne National Laboratory) の運用する高輝度 X 線の研究機関で行われたもの。 Hooks on the feathers stick together: Visualizing how birds form continuous wings in flight (一般向け解説)。 この研究室は他にも構造色の機構の研究などを行っている。
      備考:
      *1: ただし古い時代の教科書は持っているので、一般的な流体力学の教科書にどのように書かれているかを確認してみた。 粘性のない流体の場合は流れに対して等速度運動している物体には抵抗力が働かないため (D'Alembert's paradox ダランベールのパラドックス として有名)、 翼に働く抵抗を考察するには流体の粘性を扱う必要がある。粘性のない流体にはよく完備した理論があるので、大学で流体力学を勉強する場合には体系立てて理論を学べるこれを主に扱い (出てくる数学は大学で理系の1-2回生段階が中心だがおそらく選択科目なので分野によっては学ばない人も多いかも)、 最後の方で粘性のある流体を扱うのが一般的のよう (ただし単純な場合のレイノルズ数などの概念はもっと早い段階から扱う)。 粘性のある流体中で働く力などは数学的な厳密解が得られないためコンピュータを用いた数値計算や風洞実験などが必要で、学習段階としても後回しになるよう。この場合も円柱や球など理想的な形状を扱っていて翼など複雑な形状は "お話" 程度に出てくるぐらい。また乱流は主に大学院生程度で学ぶのが一般的とのこと。 大学 (理学部を想定) でたとえ物理を勉強したとしても、鳥の翼の流体力学を系統的に学ぶには専門課程ぐらいの知識が必要になる模様。このぐらい専門的な内容になると日本語の専門書や記事を探すよりは英語の教科書を見た方がてっとりばやい、となるのだろう。 論文などのイントロダクションから定性的な話をまず読み取り、必要に応じて上記で紹介したようなページなどを参照して、応用 (現実) と理屈の間を行きつ戻りつ理解を深めてゆくのが現実的そう。
      揚力の発生を生徒にどう説明するか (山本明利 2019) も興味深いので紹介しておく。変化球などのマグヌス効果も同様の現象。「誤った、あるいは誤解を招きやすい説明」の項目は注意しておいてよさそう。「ベルヌーイの定理説」の問題点は因果関係が逆転しているということのよう。 説明されているものは Kutta-Joukowski theorem (クッタ・ジューコフスキーの定理)。 この説明は粘性のない流体に対するものだが (ただし以下参照)、現実の流体でも定常流で剥離が発生しない場合はよく成り立つとのこと (wikipedia 英語版より)。まずは粘性のない流体に対する説明を理解するのが多分よいのだろう。
      いつまで見られるかわからないが有意義な解説があった。 飛行機の飛ぶ訳 (流体力学の話) (京都大学 OCW 早川尚男)。「しかしこの問を理論物理を研究している大学院生に聞いてみても殆んどはかばかしい答えが帰って来ない」とのこと。物理を専門とする学生でも普通は知らないと思って差し支えなさそう (少し安心)。 ベルヌーイの定理に基づく説明が全く間違っている事にはならないが...あたりも参考になる (ベルヌーイの定理を用いて解説しているものを読む時には、多分ちょっと間違いやごまかしがあってもっと適切な説明があることを知っておくとよい)。 完全流体 (粘性はない) ではそもそも Kutta-Joukowski theorem で言うところの "循環" (circulation, 渦度) が生じない問題も答えが書かれていて、正しい解答は... 以下を参照。 大域的な揚力の発生は粘性がない流体の説明を使ってよいが、そのための渦を発生させるミクロなメカニズムは、物体と流体の接点で現実には物体と流体の速度差が0になるまで流体が減速されるため (この説明は自分にはわかりやすい。boundary layer)。 "循環" は力学の角運動量に対応する概念と対比させると確かに多少わかりやすい感じがする。
      これらを知った上で、より大局的な渦の発生や (翼端の渦や翼面の渦の剥離など) それに伴う抗力の発生を把握し、鳥の翼や飛翔羽の形状の適応を考えるのがよさそう。 我らがギルの「鳥類学」の訳本を見ると全体にそれらしい書き方になっているが (ベルヌーイの定理は一部を説明しているに過ぎないなど)、通読しても意味がわからないかも知れない (そもそも循環の意味がわからない)。これらの訳文では原語も添えてあった方が手がかりも得やすい気がする。
      *2: #タシギ備考の [タシギ類のドラミング] にまとめた。
      [ソアリングの分類] 海鳥類が dynamic soaring (ダイナミックソアリング) を行っている説明はよく読むが、上昇気流によるソアリングとは何が違うのか図があってもわかりにくい。ギルの「鳥類学」(訳本) でもあまり詳しくない。 Mohamed et al. (2022) Opportunistic soaring by birds suggests new opportunities for atmospheric energy harvesting by flying robots のレビューがあり、流体力学効果による揚力の説明より簡単に理解できるようにに思えたので紹介しておく。力はもちろん流体力学効果が関係するが、ここでは力学で説明できる範囲を扱っているため (まだ) 理解しやすい表現になっている。
      一見面倒に感じるが式 2.1 を見るのがわかりやすい。この式は単位時間、単位質量あたりのエネルギー獲得率を表している。最初の項はソアリングとは関係なく推進力と抗力によるものでここでは考えなくてよい。以降は空中の物体 (質点) に働く力を考えた場合のエネルギー獲得を説明していると思って読んでおおよそ正しいはず。 風の流れに対する相対速度を作るのは鳥の役割で姿勢のコントロールなど流体力学効果を用いているわけだが、それはあるものとして定式化している。
      2つめが static soaring を表すもので、上昇気流の上向き成分があればその速度で上昇できる (航空力学的な力のみを考えているので重力で落下する項は含まれない)。力学の最初の方で習うように位置エネルギーは mgh なので単位質量あたりとすると m が消えて gh、単位時間あたりにすれば高度 h を時間で微分するので上昇速度になりこの式が得られる。 static soaring の項は上昇気流が時間や場所によって変化しなくても生じる。
      第3項が dynamic soaring で、気流が時間 (t) や場所 (ここでは飛行経路 s に沿ったもの) で変化することで生じる成分。風の強さが変化する時、概念的にはエネルギー獲得率は風の速度の変化率 (= 加速度。F = ma から力と思えばよい) と鳥の対空速度 (力の方向に移動すればエネルギーを得る) の積となる [なお鳥の対地速度 ground velocity は対空速度 air velocity (V) + 風の対地速度 wind velocity (W) いずれもベクトル量 に対応するが単純な足し算にはならないよう]。 この効果を風の速度の時間変化 (後述 gust soaring) と移動経路の沿った風の速度の変化の成分 (後述 gradient soaring) に分けたもの。dynamic soaring を2種類の成分に分けるための表式と考えてよい。 なお進行方向と風の向きによって違うのでは、というのはもっともな疑問で、力と垂直に移動してもエネルギーは得られない。"進行方向の風の加速度成分" のような複雑な表現をとる代わりに内積で表現している。
      static soaring のメカニズムを thermal soaring (熱気泡によるソアリング)、orographic soaring (地形によって風が曲がる効果) に分けている。
      dynamic soaring は1つめが gradient soaring (風速勾配による効果): ここでは3つ例を挙げていて (a) 海面近くはこちらも boundary layer の効果で風が遅いが海面から離れると速くなる、(b) 海面に波が立つ場合の風が曲がる効果、(c) 地形で生じる風の乱れ。 いずれも場所によって風の速度が異なるため速度勾配が生じる。海鳥の dynamic soaring はこの gradient soaring の効果が中心。 実際にはそれほど穏やかな空気の流れがあるわけではなく、波が立てば乱流も発生するだろうと考えるのは自然で、ここは物事を理解するための単純化と考えていただければよいだろう。 また「勾配」(gradient) と聞くだけで難しそうに感じる。日常的に普通に使われる "勾配" は地表面の高さの傾きのことだが (地表面の高さを水平距離で微分したもの)、風速を地表面の高さと同様に考えて距離で微分したもの。速度勾配の概念は流体ぐらいしか出てこないのでどうしても難しくなる。 速度と速度勾配、あるいは圧力と圧力勾配はよく混同して使われるので、ここは意識して "勾配" のことと捉えるとよい。
      2つめが gust soaring (乱流による一時的な風の変化を利用したソアリング)。上昇気流の起きにくい地表付近や森林上空でも活用できるもので多くの鳥が使える時 (opportunistic) に用いている。 地表近くを揺れながら飛ぶチュウヒ類 (#チュウヒの備考 [チュウヒ類の飛翔形] 参照) や不安定な飛行で有名なダルマワシ (#カンムリワシの備考参照) も用いていると考えられている。チュウヒの備考では安定化機構として浅い V 字型をとる仮説を紹介したが、static soaring が期待できない条件でのソアリングのため (羽ばたき飛行に比べてエネルギー消費が少なく獲物にも気づかれにくい) の適応の一つとも言えるのかも。 Mallon et al. (2016) In-flight turbulence benefits soaring birds は地表付近を飛ぶハゲワシで乱流が役に立っているだろうと提案している (チュウヒ類は出てこない)。
      このような概念的なエネルギー獲得率が実際に成り立っているかどうかは議論もあるらしい。Richardson et al. (2018) Flight speed and performance of the wandering albatross with respect to wind はワタリアホウドリのトラッキングでどのようにソアリングを行っているか調べている。風が比較的弱い時は理論の予測する効果が現れているようだが、風が強い時は対空速度を抑えていて制御のための筋力や翼の制約で翼の形を変えて対応しているのではとのこと。 風速に応じて上昇時・下降時の速度を制御することで対地速度を稼ぎ、単位時間あたりに採食のために探索できる範囲を広げている可能性がある。 Richardson and Wakefield (2022) Observations and models of across-wind flight speed of the wandering albatross も同じグループによる研究で、dynamic soaring が可能な理論値より低い風速でも飛行を行っている。波による風速の変化 [Mohamed et al. (2022) にある上記分類の (b)] からエネルギーを得ているのではと推論。風の強い場合の制約は Richardson et al. (2018) と同様の結果となっている。
      翼竜 (pterosaurs, 鳥類とは別系統) が種によりソアリング、羽ばたきを用いていた可能性を示唆する化石証拠: Rosenbach et al. (2024) New pterosaur remains from the Late Cretaceous of Afro-Arabia provide insight into flight capacity of large pterosaurs。 海上で thermal soaring を行っていたのではと推定。
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFORMES ミズナギドリ科 PROCELLARIIDAE 

  • フルマカモメ
    • 学名:Fulmarus glacialis (フルマルス グラキアーリス) 氷の臭いカモメ
    • 属名:fulmarus (合) 臭いカモメ (Fulmar 古ノルド語で臭いカモメ; 英語の foul mew に対応)
    • 種小名:glacialis (adj) 氷の (glacies (f) 氷 -alis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Fulmar (or) IOC: Northern Fulmar
    • 備考: fulmarus は外来語由来で発音がよくわからないが、短母音のみで -rus- で音節が区切られるならばここにアクセントがある (フルルス)。アクセントを長音で発音しても差し支えないと思える (フルマールス)。英語の fulmar は冒頭にアクセント。 glacialis は -alis の a が長母音でアクセントがある (グラキアーリス)。-alis の接尾辞の発音による。
      種小名「氷の」はこの種の場合スピッツベルゲン島を指す。3亜種 (IOC) あり、日本で記録されるものはベーリング海近くに分布する rodgersii (アメリカ軍人で探検家の John Rodgers 由来)。属名の由来はミズナギドリ科の構成種は、本種に限らず危険を感じると口から液体を吐き出す防御行動を取ることに由来する (wikipedia 日本語版)。
      Fulmarus 属 (フルマカモメ属) は Northern Fulmar と Southern Fulmar Fulmarus glacialoides (ギンフルマカモメ、南半球南部の大陸沿岸から南極大陸沿岸にかけて分布) の2種のみ。姿はカモメ類に似ているが、系統的にはかなり異なり、ミズナギドリ目に属する。 トロール船の活動に伴って 20 世紀に分布を広げたとされ、世界の大部分の地域で個体数は増加している (wikipedia 英語版)。
      [におう鳥のリスト] 珍しい研究として Weldon and Rappole (1997) がアンケート調査によって (さまざまな意味で) においが感じられる、あるいは毒気を感じる (ヒトにとって不快な味がする *1) 鳥のリストを挙げている: A Survey of Birds Odorous or Unpalatable to Humans: Possible Indications of Chemical Defense。これは鳥類におけるにおい物質による化学防御やコミュニケーションの役割を考えるのに役立つ。 アンケートに応じた鳥類学者も好意的な反応で、常日頃知りたい、あるいは情報を残しておきたいと思いつつももまとまった研究がなかったので興味津々だったのかも知れない。 新世界カッコウの仲間の Ani (Crotophaga) は集団でいると数 m 離れていてもわかるぐらいだそうである。フルマカモメはもちろん、ツメバケイ、ヤツガシラのような有名な種も含まれている。 スズメ目ではムクドリモドキ (grackles, Quiscalus) はだいたいにおう。アンチルクロムクドリモドキ Quiscalus niger Greater Antillean Grackle は足がにおうとの報告があり、におい物質は尾脂腺由来と一般に考えられているのと異なる。オウム類は一般にもよく知られている通りで、この調査でもたくさん見つかっている。 新世界ハゲワシは嗅覚が優れているが、多くの人がにおいを報告している。死体のようなにおいがするので新世界ハゲワシの肉は他のスカベンジャーも食べようとしないとされる (トキイロコンドル、ヒメコンドルについては別文献から後述)。しかし旧世界ハゲワシはそうではない。 ミサゴ (これは救助個体などでよく知られている。#ミサゴの備考参照) とカラカラもにおう方に入っている。 同著者による Weldon (2023) Chemical aposematism: the potential for non-host odours in avian defence 化学防御のレビュー論文があり、さまざまな種類の鳥での分泌物質研究やカや寄生虫の防御などの情報がまとめられている。エトロフウミスズメやヤツガシラなどの分泌物質などもレビューされている (#エトロフウミスズメ#ヤツガシラの備考参照)。
      キツツキの仲間で Hemicircus 属は腺でなく、背中のヒゲのような特殊な羽 (fat quill) からにおいを出す脂肪分を分泌している。 Bock and Short Jr. (1971) "Resin Secretion" in Hemicircus (Picidae) が調べたところでは分泌している皮脂腺は見当たらなかった。 尾脂腺以外の鳥の皮膚からの分泌については、Menon and Menon (2000) Avian Epidermal Lipids: Functional Considerations and Relationship to Feathering によれば、鳥には尾脂腺以外の皮脂腺は知られていないが、皮膚に脂肪が含まれていて分泌される例もある (ニワトリのとさか、指の間の水かきなど)。 粉綿羽 (powder downs) も羽毛による皮脂分泌に含まれている。 毒鳥 (Pitohui) の分泌も皮膚機能の一つ。 皮膚からの色素分泌については#トキの備考も参照。 脂肪を出して皮膚を防水するよりは水分蒸発で体を冷やす機能の方を優先している (皮膚が水分をよく通すことで高い体温を逃したり飛翔時に体を冷やすのに役立つ)。 皮膚の脂肪の分子配列構造の温度変化で水分の通りやすさが調節されている: Champagne et al. (2018) Presence and persistence of a highly ordered lipid phase state in the avian stratum corneum。 哺乳類よりも脂肪を構成する脂肪酸分子が長く、より高い体温に対応している可能性があるとのこと。
      コウモリでも皮膜に鳥類同様の皮膚角化組織にセレブロシド (cerebroside, スフィンゴ糖脂質) が蓄積して水分含有量を調整している。通常の (病的でない状態の) 哺乳類の角化組織には含まれず、収斂進化と考えられるとのこと: Ben-Hamo et al. (2016) The cutaneous lipid composition of bat wing and tail membranes: a case of convergent evolution with birds。 この研究は鳥類にあるならば飛ぶ哺乳類にもあるだろうと予測してその通りだった事例。
      Haeglin and Jones (2007) Bird Odors and Other Chemical Substances: A Defense Mechanism or Overlooked Mode of Intraspecific Communication? によればにおう鳥のすべてが尾脂腺を持っているわけではない。エトロフウミスズメも、フルーツのような甘い香りのするニュージーランドの飛べないオウムのフクロウオウム (カカポ) Strigops habroptilus も尾脂腺から出たばかりの分泌物は人にはにおいを感じられなかったとのこと。 オウム類のいわゆる「インコ臭」では粉綿羽が役割を果たしている可能性がある。 なおオウム類と系統の近いハヤブサ類もオウム類ににおいが似ているとの記述がある ["Where Song Began" #ミサゴの備考も参照]。 海鳥類の (無臭の) 分泌物が細菌で分解されて酸やアルコールのにおい成分となっている可能性がある。 この研究の時点ではヤツガシラ類の悪臭が自然の天敵を遠ざける効果がある実験的検証はまだなされていなかったが、ネコなどに効果のある試験的データはあるとのこと。 哺乳類捕食者のいない島では強いにおいを持つ傾向があり (前述のカカポも同様。カカポは嗅覚遺伝子数も多く 667 とのこと)、ハワイミツスイ類 (Drepanidinae) ではほとんどの種の羽毛ににおいがある (wikipedia 英語版ではキャンバステント (canvas tent) のようなにおいがあるとのことで分類の系統にも関連があるらしい。 Pratt (1992) Is the Poo-uli a Hawaiian Honeycreeper (Drepanidinae)? では実際にさまざまな標本を使ってにおいを調べて、属の根拠としている。袋に入れて見えないようにしても区別できるという。著者によれば同様のにおいを持つ新世界スズメ目、特にヒワ亜科の標本はなかったとのこと。解剖学的分類中心の時代では一番有力な分類手段でもあったとのこと。
      コンサイス鳥名事典によれば南米のトキイロコンドル Sarcoramphus papa King Vulture は食後は悪臭がするが、ほかの時はジャコウの香りがするとのこと。 wikipedia 英語版によれば捕食者を遠ざけるために巣に悪臭があるとのこと。 Maraci et al. (2018) Olfactory Communication via Microbiota: What Is Known in Birds? の総説によればヒメコンドル Cathartes aura Turkey Vulture の皮膚は特別の細菌叢 (おそらく獲物由来) を持っていてにおいに関係していると考えられるが、嗅覚コミュニケーションに関係があるかは不明とのこと。
      Haeglin and Jones (2007) に戻ると鳥類学者は3種の化学受容 (嗅覚、味覚、三叉神経システム) をあまり区別してこなかった。嗅覚の研究は比較的あるが他は少ない。 鳥類はヒト同様鋤鼻器 (vomeronasal organ 別名ヤコブソン器官 Jacobson's organ) を持たないのでフェロモンの役割は限られていると考えられてきたが神経端末は存在するのでフェロモンを感じる役割が否定されるわけではない (この点は最近進展があり #エトロフウミスズメ備考の [鳥類の嗅覚] 参照)。 尾脂腺の分泌は CD1 遺伝子が制御している可能性が指摘されており、これは MHC (major histocompatibility complex 主要組織適合遺伝子複合体) の祖先遺伝子にあたるので鳥類でもヒトでも嗅覚コミュニケーションはこれまで見過ごされた役割を持つかも知れない。
      鳥のにおい/嗅覚の話は最近少し注目を浴びているようで、こんな本も出ている。Whittaker (2022) "The Secret Perfume of Birds" (あるいは訳本が出ないかと期待しているが...)。 関連講演の YouTube 動画もある。 Feb 13, 2023 Secret Perfume of Birds Danielle Whittaker
      嗅覚に関連する話の続きは #エトロフウミスズメ備考の [鳥類の嗅覚] にまとめた。
      備考:
      *1: unpalatable は palate (口蓋、味覚 < ラテン語 palatum) 由来で、不快な味がする、おいしくないなどの意味。鳥類の生態学で "まずい" と出てくるのはこの単語の意味と考えてよさそう。 よく似た単語に impalpable があって (特に触覚で) 知覚できないの意味。語源は異なり、ラテン語 palpo そっと触れる由来 < インド・ヨーロッパ祖語語幹の *pal- 感じるが語源とも考えられている。医師の触診は palpation。
      [2018 年カリフォルニアのフルマカモメ集団死] Greenwald et al. (2024) Investigation of a Mass Stranding Event Reveals a Novel Pattern of Cascading Comorbidities in Northern Fulmars (Fulmarus glacialis) が報告をまとめている。フルマカモメやウミガラス、アメリカウミスズメ Ptychoramphus aleuticus Cassin's Auklet の集団漂着が見られ神経症状が見られた。 藻が生成する有毒なドウモイ酸 (domoic acid。グルタミン酸受容体に結合) やサキシトキシン (saxitoxin。有毒渦鞭毛藻が生成し Na+ チャネルを阻害。テトロドトキシンと同じ機序でフグ毒の成分の一つともなる) が認められ、環境中の異常な高濃度の記録とも一致した。尿路系にも強い影響を与えて感染症による腎炎などを併発していたとのこと。 wikipedia 日本語版によればドウモイ酸は徳之島で駆虫薬として用いられていた紅藻ハナヤナギから分離・命名されたとのこと。
      1961年8月18日カリフォルニア沿岸のキャピトラ、サンタクルーズに錯綜した海鳥の群れが出現し、ヒッチコックの「鳥」はこの事例から着想を得たと言われる。この事象もドウモイ酸中毒と推定されている (wikipedia 英語版より)。 参照: Bargu et al. (2011) Mystery behind Hitchcock's birds。 中枢神経が侵されるため他の動物でも人を襲った事例などもあるらしい。
      極端気候によりアメリカ西岸でドウモイ酸発生が起きやすくなっている: Trainer et al. (2020) Climate Extreme Seeds a New Domoic Acid Hotspot on the US West Coast 海水温が 4 ℃上がるとドウモイ酸発生量が 11 倍に増えたとの実験結果がある: Xu et al. (2023) Plastic responses lead to increased neurotoxin production in the diatom Pseudo-nitzschia under ocean warming and acidification。 この場合は酸性化より温暖化の効果の方が大きかった。
  • ハジロミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma solandri (プテロドゥロマ ソランドゥルィ) ソランデルの翼で走る鳥
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:solandri (属) solander の (スウェーデンの植物学者 Daniel Carl Solander、Linnaeus の弟子)
    • 英名:Providence Petrel
    • 備考: pterodroma は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-ro- がアクセント音節と考えられる (プテドゥロマ)。 solandri は -lan- がアクセント音節と考えられる (ソンドゥルィ)。
      単形種。 英語の petrel の語源はおそらく Peter の指小形で、Saint Peter (ペトロ) が海の上を歩いたとの伝説に由来する (Matthew 14:29, wiktionaryより)。 フランツ・リストの音楽に「波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ」(St. Francois de Paule marchant sur les flots) という曲があり、「あなたは聖人だからキリストのように歩いて海の上を渡れるはずだろう」と船頭に言われ、船を出すのを断られた聖フランシスは、自分のマントと杖を筏 (いかだ) のように使い、メッシナ海峡を歩いて渡ったという」(「クラシックばっか 時空間」より)。 この曲は「2つの伝説」という2曲のうちの一つで、もう一つが「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」(St. Francois d'Assise: la predication aux oiseaux) と鳥が出てくるので紹介しておく。鳥の声を表現しているが特に何かを模した感じではない。 ピアノ曲としては前者が秀逸でよく演奏されるので、鳥には関係ないかも知れないが例えば petrels が波間に飛ぶの姿でも思い出していただきながら演奏ビデオを見ていただけるとよいだろう。クラシック音楽に関心のない方でも十分堪能していただける曲だと思う。 脱線ついでに紹介しておくと、邦楽で「新曲浦島」(坪内逍遥作、5世杵屋勘五郎・13 世杵屋六左衛門作曲の長唄 1904。1906 初演) がある。当時は洋楽も日本に入っており、西洋音楽を取り入れた要素も多くある。嵐の海を表現している点で上記リストの音楽とも共通するところがある。日本舞踊付きの舞台のビデオも YouTube に掲載されており、海外の方に紹介すると大変喜ばれる。
      petrels のロシア名は tajfunik (台風の者)。この種も tajfunik Solandera (Solandra) と呼ばれる。
  • オオシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma externa (プテロドゥロマ エクセテルナ) 遥か彼方のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:externa (adj) 外の (externus)
    • 英名:Juan Fernandez Petrel (チリ沖合いのファン・フェルナンデス諸島由来)
    • 備考: pterodroma は#ハジロミズナギドリ参照。 externa は短母音のみで x を分割した -se- の音節にアクセントがある (エクテルナ)。
      Mas a Fuera 島で発見され、これはスペイン語で「遥か彼方」の意味 (The Key to Scientific Names)。現在は単形種。 かつてはクビワオオシロハラミズナギドリ (日本鳥類目録改訂第8版で掲載。改訂第7版では検討種だがすでに別種扱いとなっていた) が亜種とされていた。 そのため和名オオシロハラミズナギドリに相当するかつての英名は White-necked Petrel だった。 現在はこの英名はクビワオオシロハラミズナギドリを指すものとなっている。
  • カワリシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma neglecta (プテロドゥロマ ネグレークタ) 無視されたミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:neglecta (adj) 無視された (neglectus)
    • 英名:Kermadec Petrel (ケルマディック諸島の)
    • 備考: pterodroma は#ハジロミズナギドリ参照。 neglecta は2つめの e が長母音でアクセントもある (ネグレークタ)。
      IOC では2亜種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明。
  • ハワイシロハラミズナギドリ (分割された)
    • 第8版学名:Pterodroma sandwichensis (プテロドゥロマ サンドウィケーンシス) サンドウィッチ伯爵のミズナギドリ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Pterodroma phaeopygia (プテロドゥロマ パエオピュギア) 灰色の腰のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 第8版種小名:sandwichensis John Montagu 4th Earl of Sandwich (第4代サンドウィッチ伯爵) の
    • 第7版種小名:phaeopygia (合) 灰色の腰の鳥 (phaios 灰色の -pugios 腰の Gk)
    • 英名:Hawaiian Petrel
    • 備考: pterodroma は#ハジロミズナギドリ参照。 sandwichensis は接尾辞 -ensis の e が長母音でアクセントもある (サンドウィケーンシス)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Pterodroma sandwichensis となる。John Montagu 4th Earl of Sandwich (第4代サンドウィッチ伯爵、英国の貴族・政治家。料理の「サンドウィッチ」も同語源) に由来。 Pterodroma phaeopygia (現在ガラパゴスシロハラミズナギドリ、Galapagos Petrel) の亜種から独立種となる。新分類で単形種。ガラパゴスシロハラミズナギドリとハワイシロハラミズナギドリとは海上で識別不能と言われる。
  • マダラシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma inexpectata (プテロドゥロマ イネックスペクタータ) 思いがけないミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:inexpectata (adj) 思いがけない [inexpectatus; Foster (1844) が記述の際に (猟師が) 思いがけない新種の喜びをもたらしたとした (The Key to Scientific Names)]
    • 英名:Mottled Petrel
    • 備考: pterodroma は#ハジロミズナギドリ参照。 inexpectata は1つめの a が長母音でアクセントがある (イネックスペクタータ)。所有の -ata ではなく変化形由来。
      単形種。
  • ハグロシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma nigripennis (プテロドゥロマ ニグリペンニス) 黒い翼のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:nigripennis (adj) 黒い翼の (niger (adj) 黒い pennis (f) 羽 翼)
    • 英名:Black-winged Petrel
    • 備考: pterodroma は#ハジロミズナギドリ参照。 nigripennis は短母音のみで -pen- がアクセント音節 (ニグリンニス)。
      単形種。
  • シロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma hypoleuca (プテロドゥロマ ヒュポレウカ) 腹が白いミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:hypoleuca (合) 下部が白い (hypo- (接頭辞) 下の leukos 白い Gk)
    • 英名:Bonin Petrel (bonin 無人、小笠原諸島)
    • 備考: pterodroma は#ハジロミズナギドリ参照。 hypoleuca は短母音のみで -le- がアクセント音節 (ヒュポウカ)。hypoleuca はマダラヒタキの種小名にも使われ、ヨーロッパではお馴染みの名前。
      単形種。
  • ヒメシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma longirostris (プテロドゥロマ ロンギローストゥリス) 長い嘴のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (pteron 羽 翼 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:longirostris (adj) 長い嘴の (longus (adj) 長い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Stejneger's Petrel (ノルウェー生まれのアメリカの鳥類学者 Leonhard Stejneger にちなむ)
    • 備考: pterodroma は#ハジロミズナギドリ参照。 longirostris は -ros- の o が長母音でアクセントもここにある (ロンギローストゥリス)。rostrum の発音に由来。
      単形種。
  • オオミズナギドリ
    • 学名:Calonectris leucomelas (カロネークトゥリス レウコメラース) 白黒の高貴なミズナギドリ
    • 属名:calonectris (合) 高貴なミズナギドリ (kalos 高貴な Nectris Kuhl, 1820 はミズナギドリに対して与えられた属名 < nektris 泳ぐもの Gk)
    • 種小名:leucomelas (合) 白黒の (leuko- (接頭辞) 白い melas 黒い Gk)
    • 英名:Streaked Shearwater
    • 備考: calonectris は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は Nectris の起源となる nektris (泳ぎ手) の e が長母音のためここを長母音とするのが適切と考えられる。母音の長さに関係なく -nec- がアクセント音節と考えられる (カロネークトゥリス)。 leucomelas は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は a が長母音でこれが長音となると考えられる。-me-las と分割されるようでアクセント音節は -co- と考えられる (レウメラース)。
      単形種。京都府舞鶴市の冠島などの繁殖地が天然記念物に指定されている。
      依田 (2018) Birder 32(4): 68-69 にオオミズナギドリの山越えの記事がある。若鳥は山越えで渡りをし、成鳥は山を迂回して海上を渡るとのこと。若鳥がしばしば内陸で救護される [オオミズナギドリ 11月ごろとのこと。日本野鳥の会京都支部] のは渡りルートを誤ったものではない。山地でオオミズナギドリの渡りが観察されてもよいはず。 論文などの情報は例えば: Yoda et al. (2017) Compass orientation drives naive pelagic seabirds to cross mountain ranges, Yoda et al. (2017) Preparation for flight: pre-fledging exercise time is correlated with growth and fledging age in burrow-nesting seabirds, Yoda et al. (2021) Annual variations in the migration routes and survival of pelagic seabirds over mountain ranges渡り鳥の脳内にあるコンパス細胞を発見 (2022) のプレスリリース。
  • オナガミズナギドリ
    • 第8版学名:Ardenna pacifica (アルデンナ パーキフィカ) 太平洋のアルデナ島の鳥 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Puffinus pacificus (プフフィーヌス パーキフィクス) 太平洋のツノメドリのような鳥/ミズナギドリ
    • 第8版属名:ardenna ダイオミード諸島の島の名前。別説あり。
    • 第7版属名:puffinus (合) ツノメドリのような鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:pacifica / pacificus (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Wedge-tailed Shearwater
    • 備考: ardenna の発音はよくわからないが -den- がアクセント音節で、短母音のみとすれば "アルンナ"。 pacifica は "パーフィカ" (#アマツバメ参照)。 puffinus は -inus の接尾辞発音から i が長母音でアクセントもここにある (プフフィーヌス)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna 属 (ダイオミード諸島の島の名前、ベーリング海峡の中間にあたる; ardenna, artenna ミズナギドリのイタリア語方言の説もある) に分離。Ardenna pacifica となる。 以下の備考の Ardenna 属について、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同様。Ardenna 属はハシボソミズナギドリ属となる。 Reichenbach (1853) が用いた名称で、Ardenna gravis ズグロミズナギドリ (英名 Great Shearwater) がタイプ種。オナガミズナギドリは IOC では単形種だが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種 cuneata (楔形の) としている。この亜種を認めているのは世界ではアメリカ鳥学会など少数。 海鳥類の分子系統樹は Obiol et al. (2022) Palaeoceanographic changes in the late Pliocene promoted rapid diversification in pelagic seabirds を参照。この研究ではオナガミズナギドリに最も近縁な種類はミナミオナガミズナギドリと判明し、superspecies を形成するとされる。
  • ミナミオナガミズナギドリ
    • 第8版学名:Ardenna bulleri (アルデンナ ブルレリ) ブラーのアルデナ島の鳥 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Puffinus bulleri (プフフィーヌス ブルレリ) ブラーのミズナギドリ
    • 第8版属名:ardenna ダイオミード諸島の島の名前。別説あり。
    • 第7版属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:bulleri (属) buller の (ニュージーランドの法律家で鳥類学者の Walter Lawry Buller に由来)
    • 英名:Buller's Shearwater
    • 備考: ardenna は#オナガミズナギドリ参照。 bulleri はラテン語式では冒頭がアクセントと考えられる (ルレリ)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna 属。種小名は変化なし。単形種。
  • ハイイロミズナギドリ
    • 第8版学名:Ardenna grisea (アルデンナ グリーセア) 灰色のアルデナ島の鳥 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Puffinus griseus (プフフィーヌス グリーセウス) 灰色のミズナギドリ
    • 第8版属名:ardenna ダイオミード諸島の島の名前。別説あり。
    • 第7版属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:grisea / griseus (adj) 灰色の
    • 英名:Sooty Shearwater
    • 備考: ardenna は#オナガミズナギドリ参照。 grisea は i が長母音でアクセントもここにある (グリーセア)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna 属。Ardenna grisea となる。単形種。
  • ハシボソミズナギドリ
    • 第8版学名:Ardenna tenuirostris (アルデンナ テヌイローストゥリス) 細い嘴のアルデナ島の鳥 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Puffinus tenuirostris (プフフィーヌス テヌイローストゥリス) 細い嘴のミズナギドリ
    • 第8版属名:ardenna ダイオミード諸島の島の名前。別説あり。
    • 第7版属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:tenuirostris (adj) 細い嘴の (tenuis (adj) 細い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Short-tailed Shearwater
    • 備考: ardenna は#オナガミズナギドリ参照。 tenuirostris は -ros- の o が長母音でアクセントもここにある (テヌイローストゥリス)。rostrum の発音由来。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna 属。種小名は変化なし。単形種。
  • シロハラアカアシミズナギドリ
    • 第8版学名:Ardenna creatopus (アルデンナ クレアトプース) 肉色の足のアルデナ島の鳥 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Puffinus creatopus (プフフィーヌス クレアトプース) 肉色の足のミズナギドリ
    • 第8版属名:ardenna ダイオミード諸島の島の名前。別説あり。
    • 第7版属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:creatopus (合) 肉色の足の (kreas, kreos 肉、pous 足 Gk)
    • 英名:Pink-fooded Shearwater
    • 備考: ardenna は#オナガミズナギドリ参照。 creatopus は -pus がギリシャ語由来で長音となると考えられる。アクセント位置は -a- と考えられる (クレトプース)。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。 矢吹・森岡 (2009) Birder 24(3): 51-52 に銚子沖での日本初のシロハラアカアシミズナギドリの記録が掲載され、この属 (新分類では Ardenna 属) の識別についての記述・考察がある。
  • アカアシミズナギドリ
    • 学名:Puffinus carneipes (プフフィーヌス カルネイペス) 肉色の足のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:carneipes (adj) 肉色の足の (carneus (adj) 肉の pes (m) 足)
    • 英名:Flesh-footed Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna 属。種小名は変化なし。単形種。
  • コミズナギドリ
    • 学名:Puffinus nativitatis (プフフィーヌス ナーティーウィターティス) クリスマス島生まれのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:nativitatis (属) 起源の (nativitas -atis (f) 起源)
    • 英名:Christmas Shearwater (クリスマス島の)
    • 備考: puffinus は -inus の接尾辞発音から i が長母音でアクセントもここにある (プフフィーヌス)。 nativitatis は3つの長母音を持ち、最後の a にアクセントがある (ナーティーウィターティス)。natus (生まれ) -ivus (行っている) がいずれも長音で始まるため。-tas は状態を表す接尾辞 で a が長母音。原形の nativitas は冒頭にアクセント。変化形で母音が追加されてアクセント位置が変わる。
      Ardenna 属の分離に伴い、Puffinus 属はハイイロミズナギドリ属からセグロミズナギドリ属に改名予定だが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では和名検討中とのこと (セグロミズナギドリそのものは日本産鳥類から外れる。 #セグロミズナギドリ/オガサワラミズナギドリの備考参照)。単形種。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" ではこの学名の種を Minami-Torishima ミズナギドリの名称で載せている。現代の分類と同じものか判断できないが、オオミズナギドリの和名はこの名称に対応するものであったよう。
      種小名は「生まれの」(英語 native に相当)。Capt. James Cook が 1777年のクリスマスイブに訪れたためクリスマス島と名前が付いた太平洋の島が由来 (The Key to Scientific Names)。 この由来は英名によく表れている。
  • マンクスミズナギドリ (第8版で検討種)
    • 学名:Puffinus puffinus (プフフィーヌス プフフィーヌス) ツノメドリのような鳥
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:puffinus (トートニム)
    • 英名:Manx Shearwater (マン島の)
    • 備考: puffinus は#コミズナギドリ参照。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版で検討種に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。世界的には2亜種ある (IOC) が、日本鳥類目録では亜種の記載はない。
  • ハワイセグロミズナギドリ
    • 学名:Puffinus newelli (プフフィーヌス ネウェルリ) ニュウェルのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名: puffinus は#コミズナギドリ参照。 newelli はラテン語式読みで -wel- がアクセント音節と考えられる (ネウェルリ)。
      newelli (属) newellの (命名者 ハワイの宣教師 Matthias Newell)
    • 英名:Newell's Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • セグロミズナギドリ (オガサワラミズナギドリとなる見込み)
    • 学名:Puffinus lherminieri (プフフィーヌス ルヘルミニエリ) レルミニアーのミズナギドリ/バンナーマンのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:lherminieri (属) L'herminier の (フランスの薬剤師 Felix Louis l’Herminier)
    • 英名:(Audubon's Shearwater), IOC: Bannerman's Shearwater
    • 備考: puffinus は#コミズナギドリ参照。 lherminieri はすべて短母音でラテン語風に読めば "ルヘルミエリ" と考えられる。原語との違いが大きいがやむを得ないだろう。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Puffinus bannermani オガサワラミズナギドリ (英名 Bannerman's Shearwater)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 種小名はスコットランドの鳥類学者 David Armitage Bannerman に由来。 川上他(2019) 日本鳥類目録におけるセグロミズナギドリ和名変更の提案; 参考記事。 英名の Audubon's Shearwater は日本鳥類目録改訂第7版まで Puffinus lherminieri に含まれていた時期のもの。 新分類ではセグロミズナギドリ Puffinus lherminieri (英名: Audubon's Shearwater: AOC は Sargasso Shearwater を採用) とオガサワラミズナギドリ Puffinus bannermani (英名: Bannerman's Shearwater) に区別されることになり、前者は日本産鳥類から外れる。単形種。
  • オガサワラヒメミズナギドリ
  • アナドリ
    • 学名:Bulweria bulwerii (ブルウェリア ブルウェリイ) ブルウァーの鳥
    • 属名:bulweria (合) bulwer の鳥 (-ia (接尾辞) 人名の属名化に使用する)
    • 種小名:bulwerii (属) bulwer の (ラテン語化して -ius を属格化) 発見者 マデイラ島 (クロコシジロウミツバメも参照) 在住のスコットランドの牧師、博物学者 Revd. James Bulwer に由来。
    • 英名:Bulwer's Petrel
    • 備考: Bulweria bulwerii はすべて短母音でラテン語風に読めば "ブルウェリア ブルウェリイ" と考えられる。前者は属名語尾にするために -a に変化させたもの (参考 Ketupa 属)。
      単形種。
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFORMES ウミツバメ科 HYDROBATIDAE 

  • アシナガウミツバメ (近々分離され学名が変わる可能性が高い)
    • 学名:Oceanites oceanicus (オーケアニテース オーケアニクス) 大洋の鳥
    • 属名:oceanites (合) 大洋の鳥 (oceanus -i (m) 大洋、-tes (接尾辞) 〜するもの Gk)
    • 種小名:oceanicus (adj) 大洋の (oceanus -i (m) 大洋 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Wilson's Storm Petrel
    • 備考: oceanites は oceanus は冒頭が長母音、-tes はギリシャ語由来の接尾辞でやはり長母音を含む。 -a- がアクセント音節と考えられる (オーケニテース)。 oceanicus は冒頭は同様、-icus は短母音。"オーケニクス" と考えられる。 exasperatus が生きるならば a が長母音でここにアクセントがある (エクスペラートゥス)。所有の -atus ではなく変化形の語尾。
      3亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは exasperatus (苛立たしい) とされる。亜種の語源は、記載者が過去の標本の計測値が過去に記載された名前の特徴と合致しないため、本来は別名を付けるつもりではなかったのではないかと考えたため (The Key to Scientific Names)。
      新種を記載し Cytb 遺伝子の解析から Oceanites 属を7種とする論文 (2024.7.29): Norambuena et al. (2024) Resolving the conflictive phylogenetic relationships of Oceanites (Oceanitidae: Procellariiformes) with the description of a new species。 この論文では Oceanites exasperatus Antarctic Storm-Petrel は種の扱いになる。 亜種から種への昇格だけでなく、亜種の帰属もこれまでに提案された分類と変わっているそうで、関心のある方は見ていただきたい。
      SACC は早々に検討を開始 Revise the taxonomy of Oceanites species。 提唱されている種の繁殖分布図も出ている。日本で記録された個体がどれに該当するか再検討されることになるかも知れない (Oceanites exasperatus の繁殖地は日本から最も遠い)。
  • クロコシジロウミツバメ
    • 第8版学名:Hydrobates castro (ヒュドゥロバテース カストゥロ) 水を歩く鳥カストロ (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Oceanodroma castro (オーケアノドゥロマ カストゥロ) 大洋を走る鳥カストロ
    • 第8版属名:hydrobates hudro- 水を bates 歩く (Gk)
    • 第7版属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos 大洋 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:castro (外) カストロ [マデイラ諸島での呼び名、鳥の声を変化させた呼び名との考えがある (The Key to Scientific Names)]
    • 英名:Madeiran Storm-petrel, IOC: Band-rumped Storm Petrel
    • 備考: hydrobates, oceanodroma は#オーストンウミツバメ参照。 castro は cas- がアクセント音節となる。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates 属 (hudro- 水を bates 歩く Gk)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でオーストンウミツバメ属の名前が与えられている。種小名は変化なし。単形種。
  • ヒメクロウミツバメ
    • 第8版学名:Hydrobates monorhis (ヒュドゥロバテース モノリス) 鼻孔が一つの水を歩く者 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Oceanodroma monorhis (オーケアノドゥロマ モノリス) 鼻孔が一つのウミツバメ
    • 第8版属名:hydrobates hudro- 水を bates 歩く (Gk)
    • 第7版属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos 大洋 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:monorhis (合) 鼻孔が一つ (mono- (接頭辞) 一つの ris 鼻 Gk)
    • 英名:Swinhoe's Storm Petrel (英国博物学者 Robert Swinhoe に由来)
    • 備考: hydrobates, oceanodroma は#オーストンウミツバメ参照。 monorhis は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-no- がアクセント音節と考えられる (モリス)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates 属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。
      Birder 編集部 (2000) Birder 14(8): 16 に 1992 年に京都で保護され大阪南港野鳥園で放鳥されたヒメクロウミツバメについて触れられている。臭いが非常にきつかったとのこと。
  • コシジロウミツバメ
    • 第8版学名:Hydrobates leucorhous (ヒュドゥロバテース レウコロウス) 腰の白い水を歩く者 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Oceanodroma leucorhoa (オーケアノドゥロマ レウコロア) 腰の白いウミツバメ
    • 第8版属名:hydrobates hudro- 水を bates 歩く (Gk)
    • 第7版属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos 大洋 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:leucorhous / leucorhoa (合) 白い腰の leukos 白 orrhos 腰 Gk。The Key to Scientific Names)
    • 英名:Leach's Storm-Petrel (英国動物学者 William Elford Leach による)
    • 備考: hydrobates, oceanodroma は#オーストンウミツバメ参照。 leucorhous は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-cor- がアクセント音節と考えられる (レウロウス / レウロア)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates 属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。学名は Hydrobates leucorhous となる。2亜種あり (IOC)、日本で記録されるものは基亜種 leucorhous とされる。
  • オーストンウミツバメ
    • 第8版学名:Hydrobates tristrami (ヒュドゥロバテース トゥリストゥラーミ) トリストラムの水を歩く者 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Oceanodroma tristrami (オーケアノドゥロマ トゥリストゥラーミ) トリストラムのウミツバメ
    • 第8版属名:hydrobates hudro- 水を bates 歩く (Gk)
    • 第7版属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos 大洋 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:tristrami (属) tristram の
    • 英名:Tristram's Storm-Petrel (英国の聖職者 Henry Baker Tristram による)
    • 備考: hydrobates は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は bates の語末が長母音のためここが長音となると考えられる。-dro- がアクセント音節と考えられる (ヒュドゥバテース)。 tristrami は外来語で発音はよくわからないが、ごく普通のラテン語 ramus (枝) の変化形と同様と考えれば少なくとも a は長母音となるのが自然に思える。アクセントも置きやすいのでこの発音を採用した (トゥリストゥラーミ)。 oceanodroma は外来語で発音はよくわからないが、okeanos は冒頭が長母音。-no- がアクセント音節と考えられる (オーケアドゥロマ)。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates 属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。 和名はアラン・オーストン (Alan Owston) 由来でもとは Cymochorea owstoni。現在はシノニムとなったが和名は維持された [川田 (2016) アラン・オーストン基礎資料]。単形種。
  • クロウミツバメ
    • 第8版学名:Hydrobates matsudairae (ヒュドゥロバテース マツダイラエ) 松平の水を歩く者 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Oceanodroma matsudairae (オーケアノドゥロマ マツダイラエ) 松平のウミツバメ
    • 第8版属名:hydrobates hudro- 水を bates 歩く (Gk)
    • 第7版属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos 大洋 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:matsudairae (属) 松平頼孝の (matsudaira -ae) 発見者
    • 英名:Matsudaira's Storm Petrel
    • 備考: hydrobates, oceanodroma は#オーストンウミツバメ参照。 matsudairae は ts をこのように発音するとして、アクセントは "マツダラエ" と考えられる。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates 属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。
      記載時学名 Oceanodroma melania matsudariae Kuroda, 1922 (原記載)。相模湾の沿岸から離れたところで 1921 年に5羽採集されたもので記載当時は亜種扱い。 アメリカの種で Seebohm が日本で採集した標本を Oceanodroma melania と同定したが、Oceanodroma tristami と同定されるべきではないかとの Salvin の見解が紹介されており、Kuroda も同意するとのこと。もし Seebohm の同定が誤っていれば日本で最初の Oceanodroma melania の記録となり、計測値の違いから亜種を提案したもの。
      海外の名称では松平を採用しているものも多いが、"日本の"、あるいは "硫黄島の" を付けた名称もある。スウェーデン語では以前は人名を用いていたが 2023 年に硫黄島に変更した (wikipedia スウェーデン語版より。アメリカ・カナダの改名の動きに合わせたものだろう)。
  • ハイイロウミツバメ
    • 第8版学名:Hydrobates furcatus (ヒュドゥロバテース フルカートゥス) 叉木状の尾の水を歩く者 (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Oceanodroma furcata (オーケアノドゥロマ フルカータ) 叉木状の尾のウミツバメ
    • 第8版属名:hydrobates hudro- 水を bates 歩く (Gk)
    • 第7版属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos 大洋 dromos 走るもの Gk)
    • 種小名:furcatus / furcata (adj) 叉木状の (furca (f) 叉木 -atus (接尾辞) 〜を所有する)
    • 英名:Fork-tailed Storm Petrel
    • 備考: hydrobates, oceanodroma は#オーストンウミツバメ参照。 furcatus は a が長母音でアクセントもここにある (フルカートゥス)。-atus の所有の接尾辞由来。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates 属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。学名は Hydrobates furcatus となる。2亜種あり (IOC)、日本で記録されるものは基亜種 furcatus とされる。
  •  コウノトリ目 CICONIIFORMES コウノトリ科 CICONIIDAE 

  • ナベコウ
    • 学名:Ciconia nigra (キコーニア ニグラ) 黒いコウノトリ
    • 属名:ciconia (f) コウノトリ
    • 種小名:nigra (adj) 黒い (niger)
    • 英名:Black Stork
    • 備考: ciconia は#コウノトリ参照。 nigra は短母音のみ (グラ)。
      単形種。
  • コウノトリ
    • 学名:Ciconia boyciana (キコーニア ボイキアーナ) ボイスのコウノトリ
    • 属名:ciconia (f) コウノトリ
    • 種小名:boyciana (adj) Robert Henry Boyce (英国の調査官、上海でも仕事を行った) の (boyce (m) を形容詞化して boycianus 更に女性形にして boyciana)
    • 英名:Oriental Stork
    • 備考: ciconia は o が長母音でアクセントもここにある (キコーニア)。 語源は難しいようでインド・ヨーロッパ祖語の *kekoh2n- (コウノトリ) や *keh2n- (この単語から派生した歌う・鳴く) 由来と考えられている (成鳥コウノトリは鳴かないが)。ラテン語の歌う cano (ノー。#カッコウの種小名参照) とも関係がある。 ドイツ祖語の *hano (雄鶏) や *hanjo (めんどり)、スラブ祖語の *kana (タカ類) とも関係があるとのこと。ブルガリア語方言ではコウノトリを kanyusha と呼び、ロシア語ではほぼ同じ綴りで kanyuk はノスリ類を指す (wiktionary)。コウノトリとタカが微妙につながっている。分子系統関係がわかるまではタカ類がコウノトリ目に含まれていたのもある程度納得できる (?)。
      boyciana はラテン語化の際に用いられた -anus (ここでは人名の形容詞化) の a が長母音でここにアクセントがある (ボイキアーナ)。
      かつては シュバシコウ Ciconia ciconia 英名 White Stork の亜種とされた。分離され現在は単形種。
      [シュバシコウの嗅覚] シュバシコウで刈られたばかりの芝生から出る揮発性化合物 (Z)-3-hexenal, (Z)-3-hexenol, hexenyl acetate がシュバシコウを引きつけるとの研究があった: Wikelski et al. (2021) Smell of green leaf volatiles attracts white storks to freshly cut meadows 我々でも青草の匂いを感じるので不思議ではないが、鳥類は一般に嗅覚に乏しいと考えられていた従来の考えからは思いつかない結果だったかも知れない。風向きを考慮すると視覚よりもむしろ匂いを感じて集まってくる証拠が得られ、人工的な散布実験でも同じ結果が得られた。嗅覚により遠方の食物を探る能力は鳥類で普通にあるのかも知れないとのこと。
      [渡りを止めたシュバシコウ] Andrade et al. (2024) Mechanisms underlying the loss of migratory behaviour in a long-lived bird (preprint) イベリア半島のシュバシコウは 1995-2020 年の間に渡りをしない個体が 18% から 68-83% に急増した。生態的な究極要因は明らかにされていて、遺伝的背景があることを示唆するものだが、遺伝的メカニズムなどは不明だった。 全ゲノム解析を行ったところ、渡りを行う個体も行わないものも区別ができず、(例えば自然選択による) ゲノムの変化ではなく行動の可塑性によるものと考えられる。
      Delmore et al. (2020) The evolutionary history and genomics of European blackcap migration 遺伝的な変化でズグロムシクイが渡りを止めるようになった遺伝的基盤を提唱している。 渡りをするグループは種分化途中の段階ではないか (3万年前ぐらいから分化開始、5000 年前ぐらいに留鳥グループと再度交流あり)。候補となった遺伝部位は他の渡りの鳥で指摘されているものとは異なっていたとのこと。 de Zoeten and Pulido (2020) How migratory populations become resident が理論的な個体群シミュレーションを行っている。 この話にはさらに続きがあり、こちらは遺伝子そのものよりも構造多型による調節機構が関わっている: #ハシボソガラスの備考の Delmore et al. (2023) を参照。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES グンカンドリ科 FREGATIDAE 

  • オオグンカンドリ
    • 学名:Fregata minor (フレガータ ミノール) 小さなフリゲート艦
    • 属名:fregata (外) fregate 敏捷で獰猛なグンカンドリ類のフランス航海者による名前 < fregate, frigate フリゲート艦 < fregata 伊 だが語源は不明
    • 種小名:minor (adj) 小さい
    • 英名:Great Frigatebird
    • 備考: fregata の読み方はよくわからないが、"フレガータ" が自然な発音と思われるので採用しておく。ちなみに現代のイタリア語では特に伸ばさないがアクセント位置はこの場所で、かつては伸ばして読んでいたのだろうと想像できる。 フリゲート艦の意味の語源は明確でないようだが、ギリシャ語由来のラテン語 aphractus (船) が縮まったものとの説がある (wiktionary)。 minor は "ノール" のアクセントに注意。
      5亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 minor とされる。 和名や英名と学名が整合しないが、John Latham が "A General Synopsis of Birds" (1785) に Gmelin が "lesser frigate pelican" Pelecanus minor と記述し (1789)、Linnaeus が採用した (原記載) ためこの学名になったとのこと (wikipedia 英語版)。 他言語では "大きい" を付けているものが多いがポーランド語のように "中間の" を付けているものもある。シロハラグンカンドリ Fregata andrewsi Christmas (Island) Frigatebird の方がより大きいとのこと。ポーランド語の "中間の" はこの意味かとも思ったが、シロハラグンカンドリに "大きい" を付けているわけではなく色で表している。 オオグンカンドリはドイツ語では Bindenfregattvogel だが、これは "ネクタイをした" の意味だろうか。 赤い喉袋の色素は 85% がアスタキサンチンで、これほど濃度の高い鳥は他にないとのこと [wikipedia ドイツ語版から知った。出典は Joula et al. (2008) Carotenoids and throat pouch coloration in the great frigatebird (Fregata minor)]。
      Fregata 属にはメスグログンカンドリ Fregata aquila Ascension Frigatebird という "ワシ" を種小名に持つ種類がある。英名はアセンション島に由来。 多くの言語で "ワシ" またはアセンション島由来の名前が使われており、和名はメスの喉袋に相当する部位が黒いことに由来するが他言語に比べて少し特殊。 Linnaeus (1758) の時代からある (原記載) 由緒ある学名。イヌワシ属の Aquila の方が後の用例 [Brisson (1760)。Linnaeus (1758) はイヌワシ類を Falco 属に含めていたため]。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" にはこの学名の種類を和名空欄、Minami-Torishima としてリストしている。同リストに載せられているグンカンドリ類はオオグンカンドリ (当時の名称グンカンドリ) のみで現在の分類とは別概念か。
      [オオグンカンドリの飛行中の睡眠・鳥類の睡眠の話題] ヒトを含む哺乳類では急速眼球運動を伴うレム REM (rapid eye movement) 睡眠がよく知られているが、レム睡眠とノンレム (NREM) 睡眠は鳥類でも脳波ではっきり確認できる。この2種類の睡眠がはっきり分化しているのは鳥類と哺乳類のみである。
      Rattenborg et al. (2016) Evidence that birds sleep in mid-flight はオオグンカンドリの脳波や加速度を測定し、飛行中に NREM 睡眠と REM 睡眠が見られることを明らかにした。 目からの信号がほぼ完全に反対側の脳に送られるため、片側の脳で NREM 睡眠を行いつつももう片側で注意を怠らないことを可能にしている。旋回方向に対して外側に目を開ける形の半球睡眠となっているとのこと。 飛んでいる時は 2.9% の時間しか寝ないのに対し、地上では 53% の時間を睡眠に使っている。 飛んでいる時は夜も注意を払う必要があり長時間、あるいは深い睡眠には限界がある。 飛んでいる時に短時間しか睡眠を取ることのできない悪影響が考えられるが、どのように克服しているのか。 飛んでいる時の脳波で睡眠が確認されたのはこれが初めてとのこと (#アマツバメの備考 [アマツバメは飛びながら寝る?] も参照。こちらは直接検証はできていない)。 オオグンカンドリは夜間にほとんど採食しないのに睡眠を節約してまで飛んでいる必要があるのは着水して休憩できない生理的要因があるのだろう。系統的な原因の可能性があると考え、#ヒメウの備考 [ウ類の嗅覚] で考察してみた。
      Rattenborg (2017) Sleeping on the wing が他のグループの鳥も含めた長時間連続飛行中の睡眠についてトラッキングデータをもとに考察している。 アマツバメ類は有名だがこの著者の解釈はかなり慎重で、横向きになって翼を動かしていないことが必ずしも飛びながら寝ている証拠にはなっていないとしている。 ヨーロッパアマツバメは繁殖期にとまって寝るが、立って寝ることも横になって寝ることもある。 4分に1点のサンプリングでその間にとまって寝ている可能性は否定できない。 渡りの時期でも体を立てて動きを止める部分もあり、崖にとまって寝ているかも知れない。 長期間飛べることを示したもので、飛びながら眠っている証拠を示したものではない。 飛びながら寝ることはオオグンカンドリで初めて明確に示されたことを強調する意味もあるだろうが、指摘は説得力があるように見える。アマツバメ類の空中睡眠について言及する際は、古くからの推測や一般向け記事などは一旦忘れて「可能性がある」としておくのがよさそう。
      長距離の海上を渡るシギ類でも考えられるが、長距離無着陸の飛行を特に選んでいるわけではない。 グンカンドリ類は連続で飛ぶが、アホウドリ類は着水できるので飛びながら寝る必要は少ないかも知れない。 タカ・ハヤブサ類は主に昼間に渡るので普通は寝る機会は十分あるはず。アカアシチョウゲンボウは 5.4 日かけてインド洋 5600 km を横切る。この論文では同じ空を渡るトンボを食べている可能性も考えているが確かめられていない。アカアシチョウゲンボウが飛びながら寝ることができるかはわからない。
      スズメ目ではあまりよくわからないが眠りに関係して警戒度が落ちて建物にぶつかったりしているかも知れない。声を出しているから寝ていないとは言い切れない。声を出している合間に半球睡眠をとっている可能性はある。実験室内の渡りの小鳥では渡りの不穏時期に夜は寝ていないが、昼は居眠りをして過ごし、昼に休憩できるならば夜は寝なくても大丈夫なのかも知れない。 無着陸の渡りの要因として、そもそも着陸できる場所がない場合と、途中で休憩を入れずに目的地に早く到着する方が効率的な戦略として選ばれている側面もある。
      鳥は寝ながら立てることは知られているので (有蹄類では REM 睡眠中は横になるとのこと) ソアリングや滑空状態を維持して眠ることもできるかも知れないし、羽ばたきさえできるかも知れない。しかし REM 睡眠中の羽ばたきはより難しいだろうとのこと。数秒の REM 睡眠で滑空しているかも知れない。 ハトでの実験では3時間の睡眠が奪われるだけでも起こしておくのに連続した刺激が必要だったとのことで、グンカンドリは睡眠不足に対する特殊な適応を行っていることが示唆される。
      一方で一夫多妻のアメリカウズラシギは極北で3週間のつがい形成時期にほとんど寝なくても能力が維持されていることが示されている: Lesku et al. (2012) Adaptive Sleep Loss in Polygynous Pectoral Sandpipers。 この場合は睡眠時間の短い個体ほど子孫を残せる結果となっている。 しかしアメリカウズラシギでもグンカンドリでも最小限の睡眠はとっており限界があることを示唆する。 全般的には数日間の連続飛行において渡り鳥が寝ないでやり過ごせるかどうかはまだ結論が出ていない。 飛びながら寝るのは鳥にとっても簡単な、あるいは生理的の好ましいことではないようで、多くの鳥は飛行中は大部分起きていて、一部の種が生態的要求に迫られて行っている論調に感じられる。いかに鳥とはいえできればとまって寝たいのだろう。 アメリカウズラシギのように競争により睡眠時間がとれないのはその昔受験勉強で言われた「四当五落」(1950-1980 年代によく使われた用語) を思い出してしまう。生態学的要求はなかなか厳しい。
      半球睡眠は特殊な能力と考えられがちだが、ヒトでも "first night effect" (最初の夜の影響) が知られていて、睡眠中の音に対する反応が最初の晩は左が悪く、よく寝られた翌晩からから非対称性が消えるという [Tamaki et al. (2016) Night Watch in One Brain Hemisphere during Sleep Associated with the First-Night Effect in Humans]。 新しい環境に即してヒトでも部分的な半球睡眠を行っている可能性がある (蛇足的に付け加えておくと片目を開けた場合は鳥類とは違って大脳両半球に信号が行くため、両目を閉じないと半球睡眠にはならないだろうと想像する)。
      "REM" の名前はヒトを含む哺乳類の眼球運動に対して名付けられたものであったが、鳥類でも眼球運動を伴っているかどうかを調べるのは案外難しい。ごく最近になって半透明なまぶたを持つハトの目を赤外線カメラで記録し (しかし頭を羽にうずめてしまうと記録できない)、脳波とともに fMRI (磁気共鳴機能画像法) で脳のどの部分が働いているかを調べることができるようになった。 Ungurean and Rattenborg (2023) A mammal and bird's-eye-view of the pupil during sleep and wakefulness を見ると、哺乳類とはパターンは異なるが REM 睡眠の時にやはり目が動いていることがわかる (比較に用いている哺乳類は夜行性だがその影響はどうであろうか?)。 また NREM 睡眠中に瞳孔が最大に広がっているがこの点は哺乳類と逆になっているとのこと (寝る時に頭を羽にうずめてしまう種類が多いので、外敵の存在に気づける程度の光が網膜に達するようにするためではないかとこの論文では推測している)。 鳥では起きている時ではリラックスすると瞳孔が大きくなる。 Ungurean et al. (2023) Wide-spread brain activation and reduced CSF flow during avian REM sleep では NREM 睡眠中に脳脊髄液がよく流れて老廃物を排泄しているらしい点は哺乳類と同じであること、REM 睡眠中にに脳が起きている時のように活発に活動していることを示している。 活発に活動する部位は視覚情報処理に関係する部分で、飛んでいる時に働く部分も働いていて飛んでいる夢を見ているのではないかとの推測も報道された。 研究の舞台裏もあってハトを MRI に入れるとすぐ寝てしまうので、鳥を起こしておくのに工夫した とか (クラシック音楽を大音量で聞かせたとか、研究者の好みが出てそうである)。 寝ている時の眼球の動きが見えるようにまぶたが透けて見えるハトの品種を用いたとのこと。 いずれにしても鳥類でも眼球は動き、睡眠中の急速眼球運動もある、そして REM 睡眠中に夢も見ているのではとの最新研究結果も出ている。
      Rial et al. (2022) The Birth of the Mammalian Sleep のような面白い提案もあるので紹介しておく。 鳥類・哺乳類が共通の睡眠を示すことは共通祖先の段階からあったものか、それとも独立に進化したものか。この著者によれば爬虫類が眠るという過去の報告は実験条件に問題があり、真の睡眠と呼べるものはないのではないかと結論している (なお俗に言われるように瞼がないので寝ないとは言いきれない。鳥類・哺乳類でも目を開けて NREM 睡眠をとることもある。やはり脳波を見ないとわからないよう)。 そうであれば鳥類・哺乳類の睡眠は独自に進化した (収斂進化) ものとなる。 この著者は哺乳類の睡眠の起源を恐竜支配下の夜行性時代に求めている。夜行性に適応した目には昼の光は明るすぎて目を閉じる必要があり、それが睡眠の進化につながったのではないかとのこと。鳥類はそのような解釈ができないので別の機構が必要になるだろう。皆さんはどう考えられるだろうか。
      Rattenborg and Ungurean (2022) The evolution and diversification of sleep ではもっと原始的な系統でも REM / NREM 睡眠に似た現象の報告があるが違いも大きい。1種類の睡眠は相当古くまで遡ることができるが、2種類の睡眠の起源はまだまだ研究途上のよう。
      日本のグループの研究もあり Yamazaki et al. (2020) Evolutionary Origin of Distinct NREM and REM Sleep こちらは共通祖先段階から生じたものではないかとの考えを示している。 半球睡眠を行う動物 (オオグンカンドリ、オットセイ) では REM 睡眠が非常に少ないという。水中や空中で REM 睡眠を行うのはあまりに危険との考え方もできる。 NREM 睡眠で脳活動の低下 (脳温度低下など) が起きるが REM 睡眠によって周期的に脳温度を上げる作用があるのでは (恒温動物で見られる理由になる) とも考えられるが変温動物に REM 睡眠的なものが見られてこの仮説に疑問も投げかけられている。哺乳類の REM 睡眠中で働くものと同等のニューロンが爬虫類にも存在し起源はもっと古い可能性がある。ただし2種類の睡眠の機能は恒温動物と異なるかも知れない。
      Siegel (2023) REM sleep function: mythology vs. reality のレビューも脳温度を上げる作用を考えており、哺乳類を中心に調べて体温の低い動物ほど REM 睡眠の量が多く (カモノハシは REM 睡眠が8時間もあり、1日 14 時間寝ている)、鳥類で短いのはその延長上で解釈できか、と述べている。大型の動物ほど睡眠サイクルが長いのも冷却に要する時間で説明できるという。 クジラ・イルカ類は REM 睡眠がないとのことで、絶対的に必須のものでもなさそう。REM 睡眠の割合と知的能力の高さとは関係ないと考えている。
      van Hasselt et al. (2024) Sleep and Thermoregulation in Birds: Cold Exposure Reduces Brain Temperature but Has Little Influence on Sleep Time and Sleep Architecture in Jackdaws (Coloeus monedula) 哺乳類では低温環境で REM 睡眠が減少するが、ニシコクマルガラスではそうならなかった。哺乳類では REM 睡眠中に体温調節機能 (ふるえ、あえぎなど) がほぼ失われるが、鳥類では異なっている可能性がある。外気温が下がると脳の温度も下がり、REM 睡眠中は脳の温度が上がることは確かめられたが、これは体温調節機能の有無を示す証拠ではない。 鳥類では REM 睡眠中に筋肉活動がほぼ完全に失われることはなく、筋肉での熱産生による体温調節が可能なのでは。頸筋の脱力 (うなだれる) は測定していたが胸筋は測っていなかったのでこの実験からは判断できないとのこと。
      Lyamin et al. (2021) Sleep in ostrich chicks (Struthio camelus) ダチョウ成鳥では鳥類の中で最も REM 睡眠の比率が高い (24%) とのこと。ひなではもっと多いかと調べたら逆だった。これは他の鳥類・哺乳類の傾向とは逆とのこと。 ダチョウの群れ生活では成鳥は同時に食べたり休んだりせず、集団による外敵への警戒に役立っている。 NREM 睡眠の時にも両目を開けているが REM 睡眠では閉じるとの報告がある。目を開けるのは危険に素早く反応するためで多くの鳥類・哺乳類でも観察されている現象。上述のハトの目で NREM 睡眠中に瞳孔が最大に広がる研究でも同じ解釈が紹介されている。 カモなどで見られる半球睡眠の代わりとなる戦略だろうとのこと (この記載によればすべての鳥が半球睡眠をするわけではなさそう)。 ダチョウのひなは成鳥に比べて NREM 睡眠の時に目を閉じていることが多い。生後3か月ぐらい経過しないと警戒能力が発達しないとのことで関連している可能性がある。成鳥が外敵に対して危険な長時間の REM 睡眠を行う適応的意味は不明とのこと。
  • コグンカンドリ
    • 学名:Fregata ariel (フレガータ アリエル) 空気の精のグンカンドリ
    • 属名:fregata (外) fregate 敏捷で獰猛なグンカンドリ類のフランス航海者による名前 < fregate, frigate フリゲート艦 < fregata 伊 だが語源は不明
    • 種小名:ariel (外) 中世伝承で空気の精 (遡ると神のライオン ヘブライ語 に由来?)
    • 英名:Lesser Frigatebird
    • 備考: fregata は#オオグンカンドリ参照。 ariel の発音は明確でないが、短母音として "リエル" (日本語の標準的な読みとも一致する) を採用した。英語でも冒頭がアクセント。ドイツ語では冒頭アクセントで e を伸ばす。参考までにラテン語の aries (羊、おひつじ座にも使われる) は起源は違うが e は長母音でアクセントは冒頭。 おそらく伸ばしてもよいが冒頭アクセントは変わらない。 商品名に合わせて "アリエール" と書くとアクセントが後半と誤解されやすいので避けた方がよいだろう。 天王星の衛星名はウィリアム・シェイクスピアの作品、もしくはアレクサンダー・ポープ (Alexander Pope) の作品にちなんで名付けられたもので、日本語の通常表記のアリエルは ポープの戯曲「髪盗人」に登場する精霊の名前とのこと (wikipedia 日本語版)。
      3亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 ariel とされる。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES カツオドリ科 SULIDAE 

  • アオツラカツオドリ
    • 学名:Sula dactylatra (スラ ダクテュラートゥラ) 指(羽の先)の黒いカツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:dactylatra (合) 指の黒い (dachtylo 指 Gk、ater (adj) 黒い) 初列風切が黒いことを意味する
    • 英名:Masked Booby
    • 備考: sula は#アカアシカツオドリ参照。 dactylatra は外来語を含む合成語なので発音はよくわからないが、ラテン語部分である -atra は冒頭が長母音でアクセントもここにある (ダクテュラートゥラ)。
      4亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは personata (仮面をかぶった) とされる。
      [兄弟殺し] Bizberg-Barraza et al. (2024) Parental overproduction allows siblicidal bird to adjust brood size to climate-driven prey variation によるアオアシカツオドリ Sula nebouxii Blue-footed Booby の兄弟殺し (#イヌワシ備考 [兄弟殺し] 参照) の研究がある。 生後 5-9 日から最初のひなによる兄弟への攻撃が始まり、3-4 週でピークを迎えるとのこと。親は争いに介入せず、食物の少ない時に闘争が激しくなるという。 人工的に孵化タイミングを調整した実験では間隔を短くしても長くしても兄弟殺しの割合は変わらず、餌運びが増える結果となった研究が紹介されている (Guerra and Drummond 1995)。Guerra and Drummond (1995) の研究では、自然状態の孵化間隔で親による餌運びのコストが最適化されていると考えている。アオアシカツオドリは逆サイズ性的二形を示し猛禽類と共通点があるが、ひなを捕食する捕食者には対抗手段を持たない。
      ひなの生存状況を追跡することで余分に子供を作る要因として resource-tracking hypothesis (資源量に応じた対応仮説)、insurance hypothesis (保険仮説)、facilitation hypothesis (最後のひながいることで兄弟の適応度を高める) を調べた。 resource-tracking hypothesis がよく支持される結果となったが、保険仮説はひなが3羽の時には生き残った最後のひなの生存率が高まることで支持されたが、2羽の時は支持されなかった。facilitation hypothesis を支持する証拠はなかったとのこと。
      アオアシカツオドリの戦略は、条件が思わしくない時に早期にひなを減らして親の負担を減らし、ある程度予測可能性のある翌シーズンに備える長いタイムスケールの気象変動には適しているが、極端気象のように頻繁にひなを減らす必要がある状況には向いていない可能性があるとのこと。
  • アカアシカツオドリ
    • 学名:Sula sula (スラ スラ) カツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:sula (トートニム)
    • 英名:Red-fooded Booby
    • 備考: 属名の sula はノルウエー語で古ノルド語の sula から来ている。sulao 盗む Gk あるいは souler ゲール語 に由来するとする説は誤り。 古ノルウエー語の sula または sulu は山岳部で現在も使われており、ツバメを意味するとのこと (The Key to Scientific Names) この単語はゲルマン祖語の swalwo に由来し、カツオドリとツバメはいずれも楔形の尾に由来する Kroonen の説があるが他説もあり (wiktionary)。
      sula のラテン語読みは明確でないがアクセントが冒頭であることは問題ない (ラ または スーラ)。古ノルド語の起源となるドイツ祖語では *suliz で冒頭を伸ばしているので伸ばして発音されていた可能性がある (wiktionary)。 冒頭を伸ばしてもアクセント移動はないのでどちらで読んでもよい。
      3亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは rubripes (ruber 赤い pes 足) とされる。
      Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では当時の学名 Sula piscatrix = Sula piscator にアカアシカツオドリ、Sula sula にリュウキュウカツオドリの名称を与えていた。現在はこれらはシノニムとされる。
  • カツオドリ (リスト次第で2種に分離)
    • 学名:Sula leucogaster (スラ レウコガステル) 白い腹のカツオドリ
    • IOC 学名:Sula leucogaster (スラ レウコガステル) 白い腹のカツオドリ と Sula brewsteri (スラ ブレウステーリ) ブリュースターのカツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:leucogaster (合) 白い腹の (leuko- (接頭辞) 白い Gk、gaster (f) 腹)
    • 英名:Brown Booby, IOC 14.2 では2種に分離され Brown Booby と Cocos Booby
    • 備考: sula は#アカアシカツオドリ参照。 leucogaster は外来語を含む合成語なので発音はよくわからないが、ラテン語部分の gaster は -gas- にアクセントで長母音を含まない (レウコステル)。 なお gaster の由来となるギリシャ語は e が長母音であったが古くラテン語化される際に短母音化されたのだろう。 brewsteri は -ste- を長母音とすれば "ブレウステーリ" の読みとなる。音節の区切り方に不定性があるがこの発音であればアクセントを固定できて原音にも近いので採用した。
      4亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは plotus (平らな足の) 亜種カツオドリ と brewsteri (アメリカ鳥類学者 William Brewster に由来) シロガシラカツオドリ とされる。 Working Group Avian Checklists, version 0.04 でも採用され Sula brewsteri Cocos Booby となった。Clements 2024, IOC 14.2 でも採用。 Treat Sula brewsteri as a separate species from Brown Booby S. leucogaster (Part A), and if Part A passes, establish English name for Sula brewsteri (Part B) も参照。Cocos Plate (コスタリカの離島 Cocos Island ココ島を含む。ココヤシに由来する名前) が分布域として適切な名称と判断。 Sula leucogaster の英名は Brown Booby のまま。 IOC 15.1 に向けた改訂も始まっていて亜種 etesiacaSula brewsteri に移動とのこと。
      [カツオドリ類の飛び込み時にかかる力] シロカツオドリ Morus bassanus Northern Gannet が水面に頭から飛び込む時の速度は 24 m/s (86 km/h) に達し、水面下 10-20 m の魚を捕る [この深度まで到達するために大きな運動量 (物理用語の momentum = 質量 × 速度 の方) が必要] とのこと。 このダイビング時にかかる力を推定した研究: Chang et al. (2016) How seabirds plunge-dive without injuries によれば、 頭部が水面に接触した瞬間は頭部が急速な減速を受けるが、胴はまだ水面に接しておらず等速で落下しており、首が損傷を受ける可能性が一番高い。カツオドリ類では頭部の長さと首の長さがほぼ等しい。頭部が水中に入った時に水中にできる空泡が胴体が入った時に閉じられるとのこと。 発生する波の安定性解析 (波が成長するかどうか) を行っていて実験とよく合うとのこと。速度が速いと buckling (座屈 という用語があるらしい) が起きる。 曲げに対する首の筋肉の力があると buckling がさらに抑制される。後頭部と頸椎の連結部の筋肉がよく発達していてこの筋肉を収縮させると頭と首を安定できる。 モデルを用いて計算すると筋肉の力で 3400 N まで耐えられると推定された。 実際の飛び込み時に受ける静水圧と抵抗による力 30 N よりもずっと大きいので十分余裕を持って耐えられ、損傷を受けずに済むとのこと。80 m/s だと損傷が起きる予想結果となった。
      Pandey et al. (2022) Slamming dynamics of diving and its implications for diving-related injuries はヒトにおける飛び込み時衝撃が中心だがカツオドリ類も比較考察されている。 嘴が鋭角に尖っているため衝撃力 (大まかに開き角の半分の tan の3乗に比例: 2乗が断面積、残り1乗が水に接する面の傾きに相当) が小さく、首をまっすぐ伸ばした状態で飛び込むので受ける衝撃が小さいとのこと。 こちらの研究は主に簡単に見積ることのできる衝撃力を扱っていて、Chang et al. (2016) の方が少し踏み込んだ流体・生体力学的考察になっている。
      Bhar et al. (2019) How localized force spreads on elastic contour feathers は胸や肩、腹にかかる圧力を推定しており、長く伸びた体羽の層があることで圧力が 1/3 になっていると見積もっている。
      Chang et al. (2016) に紹介されている情報ではこのような飛び込みで怪我をした例は鳥同士の衝突以外では知られていないとのこと。よく噂される飛び込みに失敗して首の骨を折るというのはどうも俗説のよう。 カツオドリ類の鳥同士の衝突については Gannet study reveals perils of high-speed diving の解説ページがある。魚の群れを狙って複数の個体がどのように飛び込んでくるか、同じ目標を狙うために衝突したり、獲物を奪い合うなどの水中映像のビデオが紹介されている。 論文: Capuska et al. (2011) Evidence for fatal collisions and kleptoparasitism while plunge-diving in Gannets。 頭蓋骨に他の鳥の嘴が突き刺さった事例がある。首に刺さった事例もあるがこれは獲物を奪おうとした結果か。ビデオ撮影では空中でぶつかった証拠はない。 水中でぶつかる時も大部分は減速して翼で推進している時期で、水面突入時期にぶつかったのは2例とのこと。事故リスクより利益が上回っていると解釈している。
      水中で視力を使って魚を捕まえているかについては、Machovsky-Capuska et al. (2012) Visual accommodation and active pursuit of prey underwater in a plunge-diving bird: the Australasian gannet の研究があり、頭が水中に入るとすぐに目の調節能力 (水晶体の形を変える) で水中で失われる 45 D 以上相当の角膜の屈折能力を補っているらしいとのこと (この点は #カワウの備考 [ウの視力] と異なるよう)。 水中での捕食の大部分は翼で推進している時期に起きており、視力で獲物を捕まえていることを示唆するとのこと。 これらの論文から推定してまとめると、水中で獲物を捕まえるために首はある程度長いことが有利だろうが、飛び込み時に buckling を防ぐためには長さに上限値があり、その兼ね合いで形態が決まっていると解釈するとよさそうに見える。ウ類は飛び込まないので首が長くても構わずよりサギ型に近い捕食方法が可能と考えられる。
      このような習性・形態の類似性をみると、現代の系統分類で ウ科 Phalacrocoracidae と カツオドリ科 Sulidae がカツオドリ目 Suliformes に含まれるのはそれほど不思議でないかも知れない (#クロトキ備考 [ペリカン目やトキ科などの系統について])。 「野鳥」2022年7・8月号 (No. 859) pp. 4-5 の上田氏の記事に「謎が多いウの分類」があり、どのような点でウ科とカツオドリ科に共通点があるかを考察されている。皆さんも考えてみていただくと面白いかも。 gannet skeleton など (水中を泳ぐと時の姿勢などを再現した骨格もある) で画像検索していただくと確かにウに似ている感じがする。 #クロトキ備考の [ペリカン目やトキ科などの系統について] も参照。[#鳥類系統樹2024]の結果によれば グンカンドリ科 Fregatidae がこの系統の最も古い分岐にあたり、ウ科とあまり似ていないのは理解できる。
      これらは4科はまとまった系統をなすが、他の系統の系統間の関係見直し次第ではカツオドリ目は目にふさわしくない可能性も残る。単系統性やレトロトランスポゾン解析の結果、分岐年代をどの程度重視するか次第。
      モモグロカツオドリ Papasula abbotti Abbott's Booby というカツオドリ類の中で最も早く分岐し、クリスマス島 (ジャワ島南にあたるオーストラリアの外洋の島) のみで繁殖する珍しいカツオドリがあり、顔つきはカツオドリ類に見えるが非常に大型で飛翔時の写真などグンカンドリ科/カツオドリ科/ウ科の関連性が少し見えるような気がする。 海鳥の中ではほとんど知られていない種の一つ。気候変動も脅威の一つで絶滅のおそれもある (Conservation Advice for Abbott's Booby - Papasula abbotti)。好みの獲物は飛ぶ魚とのこと。採食方法も他のカツオドリ類と違うのかも知れない。 Hume (2023) A new fossil subspecies of booby (Aves, Sulidae: Papasula) from Mauritius and Rodrigues, Mascarene Islands, with notes on P. abbotti from Assumption Island これまでに東太平洋で大型の絶滅亜種が記載されていたが、インド洋南西部の島で 18 世紀に絶滅した同程度の大きさの亜種が見つかったとのこと。
      Tyler and Younger (2022) Diving into a dead-end: asymmetric evolution of diving drives diversity and disparity shifts in waterbirds が潜水する鳥の系統解析を行っている。(1) 翼を推力とするペンギン類など、(2) 足を推力とするウ類など、(3) 飛び込み型のカツオドリ類などの3種類は別々に進化したもので、一度潜水方法が決まると別のタイプへの進化はなく、潜水型への移行したものが祖先型に戻ることもなかった。水鳥の中で少なくとも 14 回独立に進化している。
      なおカワガラス類はスズメ目で唯一潜水するグループで翼を推力をしている (#カワガラス参照。他のグループも含めた潜水する鳥の系統樹もある)。
      [水鳥の目の大きさ] 水鳥全般で目の大きさを調べた研究: Ausprey (2024) Eye morphology contributes to the ecology and evolution of the aquatic avifauna。 系統樹を見て個々に考察したり納得いただくのが面白いだろう。陸鳥よりは相対的に小さい。草食のものは比較的小型。カツオドリ類やネッタイチョウ類のように飛び込み型の採食をするグループや、サギ類、上空から獲物を見つけるグループで相対的に大きい。系統的にかなり決まっているが、生態にもかなり関係がある。視覚が生態や進化に果たす役割は他の系統でも述べられてきたが、水鳥でもやはり重要。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES ウ科 PHALACROCORACIDAE 

  • ヒメウ
    • 第8版学名:Urile pelagicus (ウリーレ ペラギクス) 海の千島列島の鳥 (ウ) (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Phalacrocorax pelagicus (パラクロコラックス ペラギクス) 海の頭の白いワタリガラス
    • 第8版属名:urile (合) 千島列島の
    • 第7版属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:pelagicus (adj) 海の (pelagus -i (n) 大海 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Pelagic Cormorant
    • 備考: urile は#チシマウガラス参照。 pelagicus は短母音のみで -la- がアクセント音節 (ペギクス)。英語の pelagic も同じ位置にアクセントがある。 phalacrocorax は#カワウ参照。
      Kennedy and Spencer (2014) の分子遺伝学研究 Classification of the cormorants of the worldによると Urile pelagicus となる。 #チシマウガラスの備考参照。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で採用され、ヒメウ属の和名が与えられている。 2亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 pelagicus とされる。
      [ウ類の嗅覚] ウ類は外鼻孔が閉じているので嗅覚は発達していないのではとの推測があるが、Policarpo et al. (2024) Diversity and evolution of the vertebrate chemoreceptor gene repertoire (#エトロフウミスズメの備考参照) の付属データから OR 遺伝子数を調べてみるとヒメウで 36 個と確かに少ない。旧分類で他の Phalacrocorax 属で4種調べられているが (日本と共通種はヒメウのみのためこの項目に記した)、他種でも 30-35 個と少ない。ゲノム精度の問題がある可能性はあるがウ類はあまり嗅覚に頼っていない可能性が高い。 比較のために近縁系統を見るとヘビウ類 (Anhinga) 1種が 30 個、グンカンドリ類やカツオドリ類のデータはなし。まだまだデータが不足している。 シロエンビコウ Ciconia maguari Maguari Stork で 90 個。 これらが コウノトリ目 Ciconiiformes + カツオドリ目 Suliformes で調べられている全種。 これらはペリカン目 Pelecaniformes を広義とする場合にはペリカン目に含まれる。上記はそのうちウ科を含むクレード。ペリカン目を広く含んでも嗅覚はあまりよくないよう。 これらの系統はあまり嗅覚に頼っていないことが想像できる。ミズナギドリ目海鳥とは大きく違う。魚食性と嗅覚とは特に関係がなさそう。嗅覚が鋭敏でないと言われる猛禽類以上に嗅覚に頼っていない可能性があるかも。 ウ類は空中視力、空中聴力ともにあまりよくないようで、水中感覚に特化しているのか。

      改めて#鳥類系統樹2024の系統樹による Elementaves の中の最後の系統を並べると、
      (1) (Austrodyptornithes の系統名がある)
      ペンギン目 Sphenisciformes が最も古い分岐
      ミズナギドリ目 Procellariiformes
       アホウドリ科 Diomedeidae
       アシナガウミツバメ科 Oceanitidae
       ウミツバメ科 Hydrobatidae
       ミズナギドリ科 Procellariidae
      (2) Stiller et al. (2024) は以下全体を ペリカン目 Pelecaniformes としている (Pelecanimorphae の系統名も使われる)
      コウノトリ科 Ciconiidae が最も古い分岐
      トキ科 Threskiornithidae (ヘラサギ類は調べられていないがここに入る)
      サギ科 Ardeidae
      以下の3つはまとまった系統をなす (Pelecani の名称が使われることもある)。
       ハシビロコウ科 Balaenicipitidae
       ペリカン科 Pelecanidae
       シュモクドリ科 Scopidae
      以下もまとまった系統をなす (カツオドリ目 Suliformes とされることもある)。
       グンカンドリ科 Fregatidae (最も古い分岐。以下の3系統は比較的近い)
       カツオドリ科 Sulidae
       ヘビウ科 Anhingidae
       ウ科 Phalacrocoracidae

      この中で系統 (1) が海鳥で鋭い嗅覚、(2) は嗅覚を比較的使わない。 #クマタカ備考の [タカ類の鼻汁] にある塩腺機能 (Chiu et al. 2024) をみるとサギ類では持たない傾向が強い。シュバシコウも持たないなど、この系統 (2) は基本的に淡水型から始まり陸上生活のため嗅覚遺伝子をかなり失ったように見える。海上生活の系統はもちろん塩腺を持っている。 なおカツオドリ類も外鼻孔が閉じているとのこと。しばしば同列に議論されるネッタイチョウ目 Phaethontiformes (外鼻孔は開口的) はこれらの系統から外れてジャノメドリ目 Eurypygiformes とグループを系統をなすことになった。ここでの外鼻孔や嗅覚の類似性の議論の対象から外れることになる。
      グンカンドリ科以降の系統は海に進出したが祖先が嗅覚をかなり失った系統のため、ミズナギドリ目の海鳥とは異なった戦略で魚を検知するようになっているのかも知れない。 グンカンドリ類が空中生活が中心で海には下りないのも祖先が陸上生活だったための制約 (?)、視力で獲物を見つけたり他の海鳥の群れを探ったりするために労働寄生 (kleptoparasitism) がよく起きるのかと想像してみたりする。 ソアリングもアホウドリ類などのダイナミックソアリングとは異なり上昇気流を利用するソアリング (thermal soarer) とのことで、例えてみれば旧世界ハゲワシ (主に Gyps 属) の海上版に相当する戦略と言ってよいのだろうか。 Weimerskirch et al. (2003) Frigatebirds ride high on thermals によれば上昇気流で 2500 m まで上がるとのこと。
      カツオドリ類もどのように獲物を探すか意外にわかっていないらしいが視覚中心なのだろうか。 Weimerskirch et al. (2005) The three-dimensional flight of red-footed boobies: adaptations to foraging in a tropical environment? にまとめられている情報によればミズナギドリ目は夜間も採食するが、カツオドリ類は夜間に採食しないとこと (この論文の引用文献参照)。
      ワタリアホウドリでは嗅覚を用いていることが調べられている: Nevitt et al. (2008) Evidence for olfactory search in wandering albatross, Diomedea exulans。 半数ぐらいを占めるジグザグな探索経路も嗅覚による探索でうまく説明できる。昼間は飛びながら、夜間はとまって獲物を待つ (sit and wait) のが中心で採食は昼間の方が多い。視覚と嗅覚の両方を用いていると考えられる。
      あまり文献調査はできていないが、夜間も飛んでいるオオグンカンドリでも採食は昼間のみ (早朝と午後遅くが多いとのこと) との記述があった: Weimerskirch et al. (2004) Foraging strategy of a top predator in tropical waters: great frigatebirds in the Mozambique Channel。 Gilmour et al. (2012) Satellite telemetry of great frigatebirds fregata minor rearing chicks on tern island, north central pacific ocean によれば夜間の採食の可能性のある記録もあって、月夜ならば見えている可能性があると説明している。 視覚と嗅覚の利用度への頼り方の違いが現れているように見える。
      ウ類も鼻を閉じたため嗅覚が弱まったというより、そもそも嗅覚をそれほど使わない系統だったので鼻を閉じてもあまり支障なかったのだろうか。
      [潜る鳥の羽毛の適応] グンカンドリ類の羽毛に耐水性がなく海上で休むことができないために夜間も (ほとんど眠らず) 飛び続ける必要があるが、羽毛の適応はなぜ起きなかったのか疑問にもなる。直接の情報は得られなかったが、ウ類の羽毛は濡れるのか調べた研究があった: Srinivasan et al. (2014) Quantification of feather structure, wettability and resistance to liquid penetration 羽毛に付着した微小な空気の泡 ("plastron" と名付けられた) が壊れる (= 濡れる) 圧力を推定し、ウ類 (ヘビウも含む) はカモ類と同程度だった。実測値は "完全に濡れていない" 状態が熱力学的に安定したものになるとのこと。 水圧が上がると相転移のようにいつかは完全に濡れると予想されるが、鳥が水から上がると完全に濡れた状態は安定でなく水は抜けてゆくと考えられる。これは従来言われる意味の乾燥とは異なる概念。 水圧の変化による平衡状態の変化によるもので、"spontaneous dewetting" (自発的に水がはじける) と呼んでいる。 ただし多少の水が局所的な構造に取り残されて抜けにくい状態も考えられ、翼を広げる行動は水滴との接触面積を小さくして水が抜けるのを促進することに役立っていると考えられる (もちろん乾かすのにも役立っているのだろう)。 ハトの羽毛は中程度に疎水性があるが、ウ類も含めた水鳥の羽毛はハトに比べて尾脂腺の脂でコートされている点と微細構造の間隔が小さい (ウ類は特に小さい) ことでより濡れにくくなっている。
      How cormorants emerge dry after deep dives (MIT News 2014) に一般向け解説がある。 なおこの実験では天然のコートではなくまず尾脂腺のコートを中和してから全種共通の人工的なコート材でコートしたものを用いている。この結果羽毛自身の持つ性質の違いを調べることができるとのこと。 潜水する鳥の羽毛の適応は羽毛微細構造だけで十分とのことで、過度の機能は持たず濡れた状態のままになならない条件のぎりぎりのところに最適化された設計になっているとのこと。そのような羽毛微細構造の維持にはコストがかかる、あるいは構造の制約が潜水深度を決めていると解釈すればよいのだろう。 ウ類がよく濡れているように感じるのは長時間深く (防水の耐水圧を超えて?) 潜る結果だろうか。
      Stangier et al. (2023) The uropygial gland of the Great Cormorant (Phalacrocorax carbo): I. Morphology が潜る鳥のうちでウ類のみ羽毛構造が異なっており、きっと羽毛が濡れる理由があるだろうと尾脂腺の構造を調べたが他の水鳥と大差なかった。ノバリケン Cairina moschata Muscovy Duck の方がウ類より濡れにくい羽毛を持っていた。結論では羽毛構造の方が疎水性に役立っているとの上記 Srinivasan et al. (2014) の結果を支持する形となっている。 グンカンドリ類の羽毛が濡れる理由はおそらく微細構造の間隔を調べれば想像が付きそう。これらの構造はある程度系統的に決まっているのかも知れない。
  • チシマウガラス
    • 第8版学名:Urile urile (ウリーレ ウリーレ) 千島列島の鳥 (ウ) (IOC も同じ)
    • 第7版学名:Phalacrocorax urile (パラクロコラックス ウリレ) 千島列島の頭の白いワタリガラス
    • 第8版属名:urile (合) 千島列島の
    • 第7版属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:urile (合) 千島列島の
    • 英名:Red-faced Cormorant
    • 備考: urile は外来語由来で読みはわからないがロシア語の千島列島 Kuril'skie ostrova は i にアクセントがあるので同様に i にアクセントを置くのが自然に思える。長音で読んで "ウリーレ" とすれば発音も自然でアクセント位置規則とも整合するのでこの読みを採用した。 phalacrocorax は#カワウ参照。
      Kennedy and Spencer (2014) の分子遺伝学研究 Classification of the cormorants of the world でウ類の系統が見直され、Urile 属が提唱されている。Charles Lucien Bonaparte がチシマウガラスの種小名として用いた (1856) ものを属名に昇格。すなわちチシマウガラス (この分類でUrile urile) がタイプ種となる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版ではまだ採用されていなかったが、世界の多くのチェックリスト [IOC 11.2 以降、HBW 2018 以降、AOU 7th ed. (incl. 62nd suppl.)、eBird 2021 以降] ですでに採用されており、wikipedia 英語版にも反映されている。
      日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で採用され、ヒメウ属の和名が与えられている。名称の由来は Steller (1774) によるカムチャツカでのチシマウガラスの名称からとある。ロシアの地方名由来で、おそらく千島列島を指したもの (The Key to Scientific Names)。 wikipedia ロシア語版によると地方名として Uril が挙げられている。単形種。
      Phalacrocorax bicristatus Pallas, 1811 のシノニムもあり、Temminck and Schegel (1850) Fauna Japonica ではこの学名で紹介されている。bicristatus は2つの冠のある、の意味。他文献でもしばしば現れ、英名別名の Double-crested Cormorant の由来にもなる。
      #カワウの備考で英名について取り上げたが、この種はまさにその問題がある。形態を重視する英名では Red-faced Shag と呼ばれ、どちらも使われている。 チシマウミガラスと誤って書かれていることもあるので注意。こちらの方が日本語的には自然な感じがするので自分も間違っていたことがある。別名としてあるわけではなさそうである。
  • カワウ
    • 学名:Phalacrocorax carbo (パラクロコラックス カルボー) 炭のように黒い頭の白いワタリガラス
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:carbo (m) 炭
    • 英名:Common Cormorant, IOC: Great Cormorant
    • 備考: phalacrocorax 外来語由来で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-cro- がアクセント音節と考えられる (パラクコラックス)。 carbo は語末が長母音でアクセントは冒頭 (ルボー)。
      原記載時は Pelecanus Carbo Linnaeus, 1758 とペリカン類の扱いだったが、Brisson (1760) が整理して Phalacrocorax 属を与えた。 カワウをタイプ種として Carbo を属名に用いたのは de Lacepede (1799) で (The Key to Scientific Names)、#ウミウなどの記載にはこの属名が用いられたが、Phalacrocorax の使用が早いためにこちらに統一された模様。
      ユーラシア、オーストラリア、北大西洋沿岸に分布し、5亜種あるとされる(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)によれば日本で記録される亜種は hanedae (千葉県の地名「羽田」が由来。カワウの亜種では最も小型) 亜種カワウ と sinensis (中国の) シナカワウ (和名検討中) 、及び亜種不明とされる。 hanedae の記載は黒田 (1925) 日本産ウミウに就て [当時は ウミウ (カハツ = カワウの旧名) と表記されていた]。 Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" によれば現在のウミウがカワウと呼ばれ、別名がシマツだった。
      Moores (2015) Identification Challenge: Korea's Cormorant Conundrum にカワウの亜種の妥当性の検討がある。 韓国では亜種 sinensis が繁殖するとされるが、hanedae も日本に近い地域では記録されていると思われる。識別は可能なのか、それとも hanedaesinensis は同一タクソンとみなした方がよいのか。 日本の個体群にも sinensis は含まれていないのかなどの疑問を呈している。もし亜種 hanedae が確固たるものであれば、種レベルよりも亜種レベルの保全面の考慮が必要になる。
      茂田 (2002) Birder 16(6): 12-15 によれば1955年5月11日に八丈島でシロハラコビトウ Microcarbo melanoleucos (現在の学名による) Little Pied Cormorant の亜種シロハラヒメウ melvillensis (現在通常は基亜種のシノニムとされる) の撮影記録があるが日本産とは認められていないとのこと。
      英語 cormorant の語源はラテン語 corvus marinus (海のカラス) あるいはコーンウォール語 (Cornish language) で海の巨人を意味する Cormoran に由来すると考えられている英語で shag (冠羽のことを意味する)と呼ばれるものもウ類であるが、この2つの単語には厳密な区別はなく (例えば eagle と hawk 同様)、同じ種類を cormorant とも shag とも呼ぶことがあるそうである (wikipedia 英語版)。
      Marion and Le Gentil (2006) (ウミウの備考参照) にカワウとウミウの関連の考察がある。亜種 sinensis は 1500-1800 年ごろにバルト海に進出し、本来のヨーロッパ亜種 carbo に次第に取って代わるようになった可能性がある。 ヨーロッパでは sinensis 1930-1960 年ごろに個体数の大幅な減少を体験したとのこと。日本でも似た時期に個体数の減少があり 1971 年には全国3か所のコロニーに 3000 羽以下が残るのみとなったとのこと [福田他 (2002) 日本におけるカワウの生息状況の変遷]。 カワウの一時的な衰退は世界的現象だったのだろうか (この文献にもヨーロッパでの個体数変動への言及がある)。カワウを見るために遠くまで出かけた話は古い時代のバーダーからも聞くことがある。
      [ウの視力] 「鵜の目鷹の目」と言われるが、ウの視力が本当に良いのか調べた研究があった。White et al. (2007) Vision and Foraging in Cormorants: More like Herons than Hawks?。タイトルを見る限りでは西洋でもタカの目のようによいと考えられているのかもしれない。カワウの視力を調べると水中でゴーグルなしの人間の視力と大差なく、タカの目にははるかに劣るとのこと。 獲物は 1 m ぐらいの距離でしか認識できないようで、視力で獲物を捕まえるよりも、サギ型に近い捕食方法で、獲物を見つけて首を瞬時に伸ばす。 ウ類の頸椎数の多さ [20 個、サギ類は 18-20 個; いずれもある文献によるが、Boehmer et al. (2019, #コブハクチョウの備考を参照) では ケルゲレンヒメウ Phalacrocorax verrucosus で 17 個、アオサギ 16 個とあるので数え方の違いの2個を加えればだいたい合っているようである - もこの捕食方法に適応したものか] を進化させることで効率よく獲物を獲っているとのこと。 解説付きのスライドもある。 Strod et al. (2004) Cormorants keep their power: visual resolution in a pursuit-diving bird under amphibious and turbid conditions では空中視力も調べられており他の鳥より低いとのこと。空中でも「鷹の目」ではなかった。ウが黒いのはあまりよくない視力でも同種を見つけやすくするためなのかも知れない。
      Borges et al. (2015) Gene loss, adaptive evolution and the co-evolution of plumage coloration genes with opsins in birds によれば色覚に関係する遺伝子ではカワウはフクロウと同じパターンになっていて、あるいは水中深いところでの暗所視に適応しているのかも知れない (ただし技術的な問題で検出できないものもあるとの記載もあり、遺伝子だけで語るのは危ないかも知れない。網膜の細胞の顕微鏡的研究や、行動実験で視力や色覚を調べる必要があるだろう)。 Hansen et al. (2017) Great cormorants (Phalacrocorax carbo) can detect auditory cues while diving によれば、カワウの水中聴力は意外に良く、アザラシやクジラなみであるとのこと。水中で獲物を獲るために聴覚が発達している可能性もある。空中での聴力もこれまで考えられていたよりよいそうである (これは違う可能性がある)。 川口 (2012) Birder 33(6): 53 によればカワウの外耳口は小さく 1 mm ほどしかないとのこと。これは潜水への適応らしいが、空中聴力はあまりよくないのかも。水中では骨伝導で音を聞いているのだろうか。 Gremillet et al. (2005) Cormorants dive through the Polar night によればグリーンランドで越冬するカワウは極夜でも潜って魚を獲るとのこと。しかも季節によって行動パターンはあまり変化しない (他の潜水性魚食の水鳥とは異なる)。(少なくとも極夜では) 触覚か聴覚に頼っている可能性があり調べる必要がある。
      Zeyl et al. (2022) Aquatic birds have middle ears adapted to amphibious lifestyles によれば、潜水する鳥は特有の中耳の形態的適応があるとのこと。水中で音を聞くのに適した特性 (以下の音響インピーダンス参照) になっている可能性と、潜水に伴う圧力変化に耐えるため複数系統で進化したと考えられる。 空中の耳の感度はカワウとメンフクロウで 44 dB も違うとのことで、前述の「空中での聴力もこれまで考えられていたよりよいそうである」と同じ文献 [Maxwell et al. (2017) In-air hearing of the great cormorant (Phalacrocorax carbo)] を引いているのにニュアンスがまったく違う。 Maxwell et al. (2017) の論文をチェックしてみると同様のサイズの鳥との比較をしており、シチメンチョウやカモ類を用いている。陸鳥を比較対象に用いていないのでこのような結論になった模様。 Zeyl et al. (2022) によれば潜水性のペンギンも外耳道が狭い。水鳥では cochlear aqueduct が広がっており、骨伝導や水中での音の定位に役立っている可能性が指摘されているとのこと。 比較対象のメンフクロウは特に聴力がよいが、カワウは構造的にも一般的な陸鳥と比べると空中ではあまり聞こえていないと言ってよさそう。 Johansen et al. (2016) In-Air and Underwater Hearing in the Great Cormorant (Phalacrocorax carbo sinensis) も空中聴力は相対的に良くないとの結果を得ている。ただし他の水鳥を用いて脳幹反応を用いた測定は行動実験で測定した聴力より悪く出るとの研究もある。 これら一連の研究はまだ途上段階で少し割り引いて読んだ方がよいかも。
      水中聴覚による音源定位は原理的問題がある。水中の音速は速い (1500 m/s 程度) ので左右の時間差がほとんどない。さらに空気と生体とは違い、水と生体は性質 (音響インピーダンス) が似ているので検出に不利。空中と同じ方法では音源定位がほとんど無理と考えられてきた。 この常識を破って魚が音の方向を聞き分けることが明らかとなった: Veith et al. (2024) The mechanism for directional hearing in fish ヒトが音を聞く時は振動を感知しているが、この魚では圧力と分子運動を検知しているとのこと。考え方によってはヒトより豊かな音環境を感受している可能性もある。魚の一部は Weberian apparatus という器官を持っていて浮き袋 (swim bladder) から内耳に音を伝える中耳に似た役割を果たしているとのこと。 Dooling and Therrien (2012) Hearing in birds: what changes from air to water は潜水性の鳥で中耳の空気が浮き袋と同様の役割を果たしている可能性に触れている。
      Gomez-Laich et al. (2015)
      Selfies of Imperial Cormorants (Phalacrocorax atriceps): What Is Happening Underwater?はズグロムナジロヒメウ (現在の学名は Leucocarbo atriceps) にカメラを付けて行動記録をしたもの。 やはり 1 m 以内しか見ていないようで、追い出したものの動きを捉えて捕食しているらしい。移動時にハトの歩行時首振りと同様の動作が見られ、視覚に頼っていることは間違いない (#ハチクマ備考の [嗅覚 (タカ・ハヤブサ類)・視覚・脳のサイズ] 紹介の Gutierrez-Ibanez et al. (2012) による脳の ION 核の発達度と合わないかも知れない)。 しかし最も深く潜る時には光が届かないため視覚に頼れないと思われ、視覚以外の感覚を利用している可能性がある。
      熊田 (2012) Birder 26(7): 28-29 にもカワウが水中でどの距離まで見えているか、水中採食方法についての考察がある。 書物によっては潜水する鳥は瞬膜で調節して水中で物を鮮明に見ていると解説してあるものもあるが、これは誤りだそうである [Sivak et al. (1978) The refractive significance of the nictitating membrane of the bird eye]。
      [カワウを使った日本と中国の鵜飼] 日本でもカワウを使った鵜飼が水深の浅い九頭竜川、相模川で以前に行われていたとのこと (コンサイス鳥名事典)。 中国でカワウのことを魚鷹 (= ミサゴ) とも呼び、英訳されると osprey fishing という妙な表現になるが、これはミサゴに魚を捕らせるのではなく鵜飼のこと。 中国の鵜飼の記事 にも使われている。綱をつけずに放すそうで、これは世界でもまれだとのこと。 調べると何と本当にミサゴを使って挑戦している人があった。以下 #ミサゴの備考 [ミサゴに魚を捕らせることは可能か?] へ。
      鵜飼のカワウを用いて7まで数を数えることができるとの報告がある: Egremont and Rothschild (1979) The calculating cormorants [茂田 (2002) の記事で紹介された]。原始的で今では認めてもらえそうもない実験だろうが。
      「野鳥」2022年7・8月号 (No. 859) pp. 6-10 に卯田宗平氏と上田氏の対談「鵜飼から見る日本と中国の自然観・動物観の違い」がある。卯田氏は「鵜と人間 日本と中国、北マケドニアの鵜飼をめぐる鳥類民俗学」(東京大学出版会 2022) を出されている。 自分はこの本は読んでいないが、この記事に北マケドニア (注: 国名。マケドニア北部の意味ではない。湖は北マケドニア共和国の南端にあり、ギリシャ国境に近い。地中海性気候とのこと) の湖で旧ユーゴスラビア時代に大規模な鵜飼が行われていたことが紹介されている。 冬季に飛来するカワウを捕獲し、定置網に魚を追い込むために利用していたとのこと。カワウの捕獲道具にはカンムリカイツブリやカワアイサなどもかかるが、それらも一緒に利用していたとのこと。春先にはすべて放鳥していたと記述されている。
      この件に興味があって少し調べてみると Beike (2012) The history of Cormorant fishing in Europe にヨーロッパの鵜飼の歴史が述べられている。16 世紀から記録があるが主に貴族の楽しみ (sports) と行われてた。 北マケドニアのドイラン (Dojran) 湖のものはヨーロッパ他地域とは独自に発展したもので手法も異なり、いつ始まったかはわかわらないとのこと。mandra (複数 mandri) と呼ばれるアシでできた柵 (定置網) で行う。 Apostolski and Matvejev (1955) が紹介していたが、彼らが示唆したように紀元前からの記録があるわけではない模様。魚の非常に豊富な湖で、この記述を見ると古くから追い込み猟で魚を捕らえていたようだが (動物をこのように追い込むのは石器時代から行われて知られていたとのこと)。 魚が追い込まれて集まると野鳥が狙ってやってくるのでそれを追い払うためにひもの先に石をつけたものを投げていた。現代のドイラン湖では鳥は狙わず、鳥と mandri の間に (構造は後述) 投げるという。野生の鳥も追い込みに役立つため。 この時点では観光客対象に「伝統的鵜飼」と称して中国をモデルに行われているようだが Apostolski and Matvejev (1955) によれば漁に使われた 30% の鳥が死ぬとか、20% は逃げる、また風切羽を切られているので春の渡りができない、との記述があるとのこと。実際に犠牲になった鳥はもっと多いのではないかと懸念している。 卯田氏の記事の春先にはすべて放鳥とあるが、Beike (2012) では少し違って否定的なニュアンスの報告になっている (1950 年代のやり方と異なっているのかも知れない)。
      (Dojran Lake) にも旅行者のレポート (言語判定をするとブルガリア語と出た) によるドイラン湖の鵜飼の記述があり、カワウの訓練は2週間しかかからないとのこと。魚をとって戻ってくるとのことで中国で行われるものと同様とある。「伝統的鵜飼」と称しているがこれは中国のやり方を真似て観光目的で行われているものかも。 (Dojransko Lake) こちらはマケドニア語。 伝統的方法では 10 月から3月まで行われる漁法。 11 月にウがやってくる。魚を狙って mandri に近づくが、漁師が魚が十分あると判断すれば mandri の湖側を閉じる。polokatnik と呼ばれる区画で鳥を捕まえ風切羽を切る。 羽を切った鳥は argati (同名のブルガリア語では男性の農夫、男性の召使いの意味でトルコ語、さらには古代ギリシャ語に遡る、から借用とのこと) と呼ばれる。鳥の役割は柵の外に魚を逃さないこと。 そして柵の間隔を次第に狭めていって kotets と呼ばれる小さな区画から魚を捕獲する。 この記述を見ると羽が切られているのでやはり渡りはできないのでは? Talevski et al. (2024) Fish and Fisheries of the Republic of North Macedonia, Current Situation, and its Perspective の論文にも登場するようだが中身までは見ていない。
      このように見ると、石器時代のヒトに起源を遡るまでもなくペリカンの行う追い込み猟、あるいはハシビロガモの共同採食のような習性と、定置網を用いた人の追い込み猟がたまたま (あるいは収斂進化? または水鳥のやり方から学んだ?) よく似ていて、人の追い込み猟にカワウなどの水鳥がやってくるのを最初は追い払っていたが、次第にもっと効率的に追い込みに協力させる方法に気づき進化した猟法なのかも知れないと思った。 水鳥に一般的な習性と人の思惑がうまく一致したものか? ウに獲物を捕らえて戻ってこさせるにはもう一段階の飛躍が必要そうだが、魚を食道に蓄えて吐き戻して与える種類では行動的には自然な習性を利用しているようにも見える。食道の構造や機能も関係しているだろう。 「野鳥」の対談で猛禽類とは違って (おそらく鷹狩りなどを想定したものだろう) カワウが短時間で慣れることについて上田氏は「一般的に晩成性の鳥は知能が高いといわれているようですが」と受けられているが、少し違うような気がする。インプリントされた鳥が食物を食べて帰ってくる (人が少し操作して全部飲み込めないようにしている) だけでそれほど特別なことをやっているわけでないのでは。 ミサゴは獲物は足で捕らえることと、そのまま飲み込むわけではない点が大きく違うので同じようなことをするのははるかに難しいだろう。猛禽類とは生活様式も違うし、知能はあまり関係ないような気がするがどうだろうか。
      [Cormorant culling] wikipedia 英語版にこの項目があったのでそのままの題名で紹介しておく Cormorant culling。 日本の事例も紹介されている。
      [コルヌリン遺伝子を失ったウ類] ウ類、タカ類、鳴禽類の共通点は何かあるだろうか? Feng et al. (2020) Dense sampling of bird diversity increases power of comparative genomics によればこの3系統が食道から口腔上皮に関係するコルヌリン遺伝子 (cornulin, CRNN) を失っているとのこと。 この論文では鳴禽類では食道上皮が柔軟になることで複雑な音声発声に役立っている可能性を指摘している。ウ類はいかにも食道が膨れても大丈夫そうだが、タカ類はウ類ほどは丸のみしないので関係あるだろうか (そのうに多量の食物を蓄えられる性質に関係があるかも?)。あるいはこの遺伝子を失ったことが鵜飼を可能にしているのかも?
      この論文で用いられている分類では Accipitriformes は新世界ハゲワシ類を含まないヘビクイワシから始まる系統。新世界ハゲワシ類はこの遺伝子を持っている。 ペリットを吐くことにも関係があるかも知れないが、フクロウ類、ハヤブサ目の多くではこの遺伝子が働いているので別の理由かも。ヘビクイワシまで含まれるならば相当古い時期に機能を失ったと考えられるが、半分ぐらいの種で偽遺伝子 (働かない遺伝子) として検出されているのも不思議 (cf. 鳴禽類ではほとんど見つからない。タカ類は鳴禽類より世代が長い、不要となった遺伝子を鳴禽類の方が積極的に除去している可能性などが考えられそう)。 ハヤブサ目ではワキスジハヤブサで偽遺伝子となっているが、近縁のハヤブサも含めて調べられた範囲で他は働いている。
      ウ系統では Sula (カツオドリ類) 以降の系統で偽遺伝子 (働かない) となっている。グンカンドリ類以前の系統では存在する。{カツオドリ類 + ヘビウ類 + ウ類} の共通祖先段階で偽遺伝子となったものと思われる (これまで推定された系統関係の正しさもわかる)。
      散発的に偽遺伝子となっているものにヤツガシラ、シロチドリ、カンムリカイツブリがある。これらはいずれも近縁種が働く遺伝子を持っているので散発的に生じたものと考えられる (ゲノムアセンブリ精度次第で単純に検出できていないだけの場合もあると考えられるので、散発例は偽遺伝子が見つかったもののみを扱った)。
      鳴禽類では早い段階で失われたようで偽遺伝子すら見つかっていない。最も古い系統の一つであるコトドリ Menura novaehollandiae Superb Lyrebird のみ偽遺伝子が見つかっている。これらは遺伝子が検出されていないものでも系統的に広く検出されないので技術的問題で検出できないのではなく失われたと考えられる。 亜鳴禽類では働く遺伝子が検出されているものが多く、大規模には失われていないよう。 ヒトでも機能があまりよくわかっていない遺伝子だが、鳥類での系統的パターンから機能が判明してくる可能性があるのかも。
      コルヌリン遺伝子はピジョンミルクを分泌中のハトで強力に働いているとのこと。Gillespie et al. (2013) Transcriptome analysis of pigeon milk production role of cornification and triglyceride synthesis genes ピジョンミルクは上皮の keratinocyte (角化細胞) が細胞内に脂肪を蓄えて cornification (角化) することで分泌されるもので、細胞内に色素を蓄えて剥がれる #トキの化粧色のメカニズムにも似ている。 ピジョンミルク生成には β ケラチンが重要な役割を果たしている。哺乳類の keratinocyte は細胞内に脂肪を蓄えることができない点が異なる。β ケラチンを持たない点も異なる。哺乳類の乳腺で脂肪形成に働く遺伝子も大部分働いているがハトで独自のものもある。 ハトでは大部分の脂肪はそのうでその場で合成され、哺乳類との脂肪合成遺伝子の働きの違いはハトの食物に含まれる脂肪の量の違いを反映しているかも知れないとのこと。 鳥類皮膚などの脂肪分泌については #ライチョウの備考 [鳥類と爬虫類のうろこは別物] にも紹介。
      [リンの起源] 海鳥のどこかに入れてもよい項目だが、身近なところでリンを陸地に運ぶ重要な役割を果たしている魚食性の身近な鳥のところで紹介しておく。参考: 鵜と上野間小学校。 リンが生命に必須で、しかも陸上では比較的希少な資源であることから枯渇が問題となっていることはご存じであろう。かつては海鳥の糞 (グアノ) から大量にリン資源を得て輸出したものの資源が枯渇した悲劇の物語もよく知られている。 リン酸塩は水溶性が低く、海に蓄積した陸に循環してくるには地球化学的時間がかかり非常に効率が悪い。 海で生物を捕食した鳥が陸に運んでリン循環に大いに貢献している次第である。
      海鳥やカワウとは関係がないが、オウギワシで面白い研究があった: de Miranda et al. (2023) Long-term concentration of tropical forest nutrient hotspots is generated by a central-place apex predator オウギワシはアマゾン森林に生息するが土壌は一般的に低栄養な地域。営巣木周辺の栄養を調べたところ巣の下の土壌は低栄養で、周辺の樹冠部が高栄養だったとのこと。糞が地上に届く前に葉で栄養が吸収されていると考えられる。これはオウギワシが営巣に必要とする巨木に栄養を与える一種の共生となっていると言える。
      しかしなぜリンなのだろう。生物を構成している元素は H, C, N, O と水素以外は星が作る元素で、CNO サイクルと呼ばれる元素合成反応があるようにそもそも存在量が多い。それ以上は原子番号が2増える (α元素と言われる) 反応が中心で原子番号が奇数の元素はもともと存在量が少ない (#オオワシの備考 [鳥類、特に猛禽類の鉛中毒] 参照)。 タンパク質を構成する硫黄 S はこのα元素で存在量が多い。生命の進化初期に H, C, N, O, S と存在量の多い元素が用いられたのは極めて自然であったが、リン P はリン酸がつながることができる (ポリリン酸など) 特異な性質があるため、ATP, ADP, RNA, DNA といった生命に必須の物質に採用されたものと考えられる (*1)。
      なぜリンが採用されたかは化学的特性から理解できるが、リンはどこからやってきたのだろうか。上記のように星の内部ではそれほど多量に作られず超新星爆発でも現在の存在量を説明できるほど放出されない。最近の研究で面白い可能性が浮上してきた。 Bekki and Tsujimoto (2024) Phosphorus Enrichment by ONe Novae in the Galaxy; リンは新星爆発が生み出した - 必須元素の起源に迫る - (日本語プレスリリース。ただしこの想像図は恐ろしく間違っているのでそのままの印象を残されないように)。 連星の中の白色矮星に相手の星 (この想像図よりもずっと小さい) から降り注いだガスが暴走的に核融合反応を起こす新星 (nova) 現象があるが、白色矮星が酸素・ネオンからなるタイプのもの (白色矮星のなかでも少数) の場合に多量のリンが合成されるとのこと。これらの新星爆発の発生は 80 億年前にピークを迎え、地球で生命誕生が可能となった 46 億年前に間に合ったとの仮説 [新星の解説は 新星とはいったいどのような天体でしょうか (2013年記事。同サイトの他の記事も参照。命名規則など学名の話とも関係する話題もあり) もどうぞ]。 同時に塩素 Cl も作られることが期待されるが、こちらはまだ観測的には検証されていないとのこと。まだ仮説段階ではあるが、生命を作る元素の起源に宇宙がどのようにつながっているかまた一つ面白い材料が増えた。いろいろな話を知っておくと科学は一層面白くなる。 Taguchi et al. (2023) Spectra of V1405 Cas at the Very Beginning Indicate a Low-mass ONeMg White Dwarf Progenitor の研究もよいところを行っていたが、連星進化理論との整合性がむしろ問題となっていて宇宙生物学との関連までは意識されていなかった。第3周期元素と聞いたところで思い浮かべればよかったのかも知れない (論文で扱われているアルミニウムとリンは原子番号2違うだけ)。 生物学的視点からは Bekki and Tsujimoto (2024) が扱っている新星よりも Taguchi et al. (2023) の扱ったものの方がさらによい供給源かも。天文学者も生命で何が問題となっているかよく知っておいた方がよさそう。
      補足:
      *1: 「進化の特異事象: あなたが生まれるまでに通った関所」ド・デューブ [#鳥類系統樹2024] で紹介 でも特異事象として挙げられている。同書 pp. 35-37。リン酸が2個つながったピロリン酸は生物によっては ATP の機能を一部代替しているものがあるとのことで、ピロリン酸は ATP の起源と考えられるとのこと。 火山性環境でみられるポリリン酸をエネルギー源として初期生命が誕生した可能性があるとのこと。
      ここで名前の出るもう一つの必須元素である硫黄 S はチオエステル結合を作ることで電子伝達系 (酸化還元、ATP を用いて化学反応を進める) の起源となったと考えられる。硫黄も火山性環境に多い元素で、生命誕生の場としてふさわしい (pp. 62-63)。 鉄 Fe はこの硫黄に結合する形で二次的に取り込まれるようになり、機能の中心が次第に (現在のように) 鉄に移ったものと考えられるとのこと。 鉄は多量に存在するため選択されたこと、d 軌道電子を持つ遷移元素であるため複数の酸化数をとりやすく (Fe 2+/Fe 3+) 電子移動を伴う酸化還元には都合がよかったのであろう。ここでもルイス酸・塩基の特性が現れていると思う (#オオワシの備考 [鳥類、特に猛禽類の鉛中毒] 参照)。硫黄の負イオンは代表的な軟らかい塩基で、鉄イオンは典型元素金属イオンより軟らかい酸のため相性がよい。
      銅 Cu にも似た性質があり、いくつかの酵素で用いられている。エビ・カニ・昆虫の一部 等の節足動物、貝の一部やイカ・タコ等の軟体動物に銅を中心とするヘモシアニン (hemocyanin) が呼吸色素として存在する。エボシドリ類の銅を含む色素の由来にも関係するかも知れない。Cu と Fe の原子番号は2違うだけである。 亜鉛 Zn は Cu の次の原子番号だが、これは生体で広く使われているのはご存じの通り。 Fe の次の元素コバルト Co はビタミン B12 の成分で、役割は Fe とは少し違ってメチル基転移を行う。 バナジウム V もホヤが用いていることなど有名。これらの元素はいずれも Fe に近い原子番号のもので、星の進化で比較的作りやすいために採用されたものだろう。 モリブデン Mo は原子番号 42 と Fe よりもだいぶ原子番号が大きく存在量も少ないが、マメ科植物の根に共生する根粒菌の窒素固定を行うニトロゲナーゼ (nitrogenase) が用いているのが有名であり、他にもいくつも酵素が知られている (Mo の起源はオオワシの備考で紹介の s 過程と連星中性子星合体が半々ぐらいと見積もられている)。 もともとは Fe を使っていたのだが、Mo の方がより機能が高いためそちらが選択されてきたのか。 Mo を持つキサンチンオキシダーゼ (xanthine oxidase) は我々も用いていて核酸代謝産物の尿酸合成にかかわっている。他にも生物が用いる金属元素があり、例えば wikipedia 英語版の Metalloprotein などをご覧いただきたい。
      [鳥類の窒素排泄・栄養状態ストレスとの関係] 尿酸合成から糞の話に戻ると、爬虫類や鳥類では窒素を尿酸で、両生類 (成体) や哺乳類は尿素、さらに魚類ではアンモニアで排泄する違いがある (いずれも大雑把な話) ことはよく知られている。生化学機構は Raidal et al. (2007) The Advantages and Disadvantages of Excreting Uric Acid の解説がわかりやすい。尿素合成の回路は哺乳類でも同じだが、多くの哺乳類はさらにより無害なアラントインまで酸化するとのこと。 哺乳類でも霊長類やイヌのダルメシアン (Dalmatian) 品種は最後の段階の酵素を失っていて尿酸を排泄するとのこと。鳥類も同じ酵素を欠いている。 一部の霊長類は尿酸の抗酸化能力によりビタミン C の合成能力を必要としなくなった (直鼻猿亜目) 話もある (#クロハゲワシ備考の [猛禽類の植物食] でも少し触れる)。 鳥類で尿酸が酸化ストレスで酸化され、アラントインとして排泄されることも知られている [cf. Tsahar et al. (2006) The relationship between uric acid and its oxidative product allantoin: a potential indicator for the evaluation of oxidative stress in birds]。 これは抗酸化物質として消費された証拠となる。
      アンモニアの解毒回路は鳥類と哺乳類で多少違っていて、鳥類では主に哺乳類ミトコンドリアで働いている Carbamoyl phosphate synthetase I (CPSI *1) の代わりにグルタミンシンテターゼ (グルタミン合成酵素) glutamine synthetase が同様の役割を果たしているとある [参照: Stern and Mozdziak (2019) Differential ammonia metabolism and toxicity between avian and mammalian species, and effect of ammonia on skeletal muscle: A comparative review および参考文献]。
      アンモニアを代謝する最初の主なステップが異なり、後はどちらにも存在する代謝経路で尿素になったり尿酸になったりする模様。 しかし鳥類にも尿素回路の酵素は存在していて、ある種の鳥では低温環境でよりエネルギーの必要な尿素合成を節約して尿素排泄が増えるとのこと。さらに水分が十分あればハチドリ類は半分近くをアンモニアのまま排泄できるという (ハチドリ類は食物に水分が非常に多いため、尿もあまり濃縮する必要がない)。鳥類・哺乳類の絶対的な違いというよりある程度相対的なものらしい。 ヒヨドリ類では水分を多量に摂取している場合はアンモニア排泄が中心になるとのこと: Tsahar et al. (2005) Can birds be ammonotelic? Nitrogen balance and excretion in two frugivores (アラビアヒヨドリ Pycnonotus xanthopygos White-spectacled Bulbul で調べられたもの)。ハチドリ類だけの特技ではなかった。 尿酸は排泄物であると同時に抗酸化物質でもあるので、余分な窒素を他に捨てる経路があるならば尿酸を再吸収して利用している可能性があるとのこと。
      そういえば捕食者のない地上性の離島の鳥でアンモニア臭があるものがあるらしいが、もしかしてアンモニアも排泄していないだろうか。
      2023 年の伊吹山のイヌワシ子育て生中継で餌がほとんど運ばれず、猛禽類は何日絶食できるか ML Kbird で話題となった (スタッフによる介入直前ぐらいの段階)。その時に調べた文献から紹介:
      Ferrer and Dobado-Berrios (1998) Factors affecting plasma chemistry values of the Spanish Imperial Eagle, Aquila adalberti のスペインカタシロワシの研究によれば、栄養状態が悪いと尿素 (尿酸も) の血中濃度が際立って高まるとのこと。絶食によって自身のタンパク質を異化した代謝産物であると考える文献を引用している。再度タンパク質の豊富な餌を与えられるとこれらの高い値は正常値以下に下がる。
      ちょっとかわいそうな話だが、ヨーロッパノスリの人工的飢餓実験があるとのこと。 Garcia-Rodriguez et al. (1987) Metabolic responses of Buteo buteo to long-term fasting and refeeding この実験では 13 日間の絶食で7羽での実験。この実験でも尿素 (尿酸も) が急上昇してゆくとのことで、種による違いがあってペンギンではそうならなかった (ペンギンでは絶食がそもそもライフサイクルの中に入っていて、より効率のよい脂肪燃焼で絶食期を過ごす。食物不足時の猛禽類とペンギンでは戦略がそもそも違う)。 猛禽類ではタンパク質を異化することでエネルギーをまかなうらしい。血中タンパク質量は大きく減らなかったがグロブリンが減ってアルブミンが維持された (アルブミンが栄養を体に送るのに働いている。グロブリンが減ると免疫能力は低下するかも知れない)。 13 日めには血中グルコースが上昇。長期絶食で血糖コントロールシステムが緩んだ (変調をきたした) 可能性がある。この実験では (正常状態の個体で飼育環境で管理されている) 13 日の絶食に耐えることが示された。その後正常に食物を食べることができたとのこと。
      これらの研究でなぜ尿素が急上昇したのか昨年のイヌワシ子育てライブの時点では気づかなかったが、上に示したような窒素排泄経路を考えると納得が行く。エネルギーの必要な尿素合成を節約して尿素に回すことになったのだろう。尿素排泄には尿酸より多くの水分を必要とするため、伊吹山のイヌワシひなのように水分もとれない状況では排泄できず尿素濃度が高くなって中毒になるだろう。
      Spee et al. (2010) Should I stay or should I go? Hormonal control of nest abandonment in a long-lived bird, the Adelie penguin アデリーペンギンではタンパク質を燃焼させる段階に入ると抱卵放棄すると考えられていた。 この文献ではそれだけが要因ではなくて、プロラクチン (哺乳類では乳汁分泌作用のあるホルモンでこの名前が付いた) 濃度が低いことと組み合わさると放棄することになるとのこと。 伊吹山のイヌワシも両親が食物不足でタンパク質を燃焼させる段階になると育児放棄が発生しやすくなるのかも、などの議論をしていた。 Angelier and Chastel (2009) Stress, prolactin and parental investment in birds: a review 栄養状態のストレスでプロラクチンレベルが下がる (これは個体の生存を考えれば適応的な反応) ので、栄養状態でプロラクチンレベルも介して抱卵 (育児も?) 放棄につながる関連が読み取れる。
      Riou et al. (2010) Stress and parental care: Prolactin responses to acute stress throughout the breeding cycle in a long-lived bird 海鳥でよく調べられていて、子育ての間はプロラクチンレベルは高いまま、とのこと。 ストレスに対してプロラクチンレベルが下がる反応は抱卵時には弱い (俗な言葉で言えばたとえば母性本能が強いように見える)。ひなを育てる時期の後の方にこのストレス反応が高まる (育児放棄が起きやすい)。これは渡り鳥の研究なので、親自身の生存可能性を高めるための反応と考えれば理解できるかも、とのこと。
      備考:
      *1: 尿素回路またはオルニチン回路 (ちなみにオルニチン ornithine の名前は 1877 年 Jaffe にニワトリの糞から発見されたことに由来する) よりに入る手前の反応に関わる酵素。 ニワトリのゲノム解析の結果では CPSI 遺伝子は失っていないが、ミトコンドリアに輸送するための補因子 (cofactor。両生類や哺乳類でアロステリックに酵素活性を補強するように働く) となると考えられる N-acetyl glutamate synthase (NAGS) の遺伝子は失っており、哺乳類のような機能は果たせないとみなされている。 このため生成されたアンモニアはグルタミンシンテターゼによる尿酸生成に向かう。ニワトリでは尿素回路の遺伝子は発現しているが弱いとのこと。 Wertman (2012) Poultry Evolution: A Concentration on NAG, CPSI and the Urea Cycle および wikipedia 英語版を参照した。
      Haskins et al. (2008) Inversion of allosteric effect of arginine on N-acetylglutamate synthase, a molecular marker for evolution of tetrapods にも考察があり、ニワトリに CPSI や ornithine transcarbamylase (OTC 尿素回路でオルニチン + cambamyl phosphate からシトルリンを合成する酵素) があるのは、祖先が尿素排出をしていた名残りであろうとしている。爬虫類でもワニ、トカゲ、ヘビで CPSI が失われているがカメには存在するとのこと。 NAGS が CPSI に対してアロステリックに働くかは条件次第で、働かないものもあるらしい (哺乳類での働きから想像されているものなので必ずしも必須ではないかも知れない)。鳥類では CPSI, OTC 遺伝子は存在するので効率は悪いが尿素合成の回路は持っているということか。前述の例を見ると条件次第で使っているかも知れない。 NAGS 遺伝子はアルギニン代謝に関係しており、NAGS を持たないことはニワトリの餌のアルギニン必要量と合うとのこと。 CPSIII は魚に存在し、陸上生活に伴って CPSI に役割が入れ替わった。これは脳に対するアンモニア毒性を素早く取り除くのに役立ったのだろうとのこと。
      なお、ヒトの尿酸は窒素代謝物というより核酸代謝物である点は異なる。腎臓以外に腸管でも行われる。 大内他 (2015) 尿酸代謝異常 にも参考情報あり。
      尿素回路またはオルニチン回路はハンス・クレブス (Hans Krebs 原語読みではクレプスとなる。クレブスは英語読み) が発見した回路の一つで、1932 年に、1937 年のクエン酸回路 (TCA 回路) に先駆けて発見されたもの。後者が一般にクレブス回路と呼ばれる (1953 年 ノーベル生理学・医学賞)。 Krebs はさらに2種類の回路を発見しており glyoxylate cycle (グリオキシル酸回路 Krebs and Kornberg 1957) そして尿酸サイクル (Mapes and Krebs 1978 Rate-limiting factors in urate synthesis and gluconeogenesis in avian liver; グリオキシル酸回路を共同発見した Kornberg は Kreb の発見した回路は3つと数えていて、忘れられたクレブス回路とも言われる)。
      代謝経路にはこのように冗長性があるため、尿素排泄から尿酸排泄への進化は比較的簡単に行えたのだろう [#鳥類系統樹2024] 紹介の Ng et al. (2023) も参照。
      [ガラパゴスコバネウの進化] Burga et al. (2017) A genetic signature of the evolution of loss of flight in the Galapagos cormorant が飛べないガラパゴスコバネウ (現在通常使われる学名は Nannopterum harrisi。この属名は新大陸のグループで、Phalacrocorax 属にまとめて構わないとの見解もあり扱いが多少分かれている) Flightless Cormorant (Galapagos Flightless Cormorant) の形態にかかわるメカニズムを解析している。和名は単にコバネウが使われたこともあった。 200 万年前ぐらいに大陸から定着したことは分子系統解析からも裏付けられた。 渡る必要がなくなったため潜水機能を強化する方向に選択圧が働いたと考えられる。 偽遺伝子化の証拠は見つからず、形態変化をもたらした遺伝子変異候補が挙げられている。細胞の繊毛 (cilia、シリア) に関係する変異が関与している可能性があるとのこと。
      島の鳥が飛翔力を失いやすいことについて「鳥もできれば飛びたくない」と比喩的に説明されることもあるが、適応のための他の選択圧が働く中で重要でない飛翔能力を失ったり、遺伝子ネットワークの変化で他部位の適応のために二次的に飛翔にかかわる機能が変化した可能性もあるだろう。 「できれば飛びたくない」はあまり適切な比喩ではない感じがする。遺伝子ネットワークがどのように形質を決めるかは未知の部分が多く、この論文でも示唆するにとどめている。何かの遺伝子が失われて飛べなくなったような簡単な描像ではない。 なお遺伝的多様性は低く、創始個体群も小さく、現在の個体群も小さいことも反映していると考えられるとのこと。wikipedia 英語版によれば 1983 年のエルニーニョ現象で個体数が半減して 400 個体まで減少したとのこと。IUCN EN 種だったがかつての見積もりほど個体数が少なくないと判明し、2011 年に VU 種に変更。
  • ウミウ
    • 学名:Phalacrocorax capillatus (パラクロコラックス カピルラートゥス) 頭の羽毛に特徴がある頭の白いワタリガラス
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:capillatus (adj) 髪の豊かな (capillus (m) 髪の毛 -atus (接尾辞) 〜が備わっている); 棘毛の多い (愛媛の野鳥「はばたき」)
    • 英名:Japanese Cormorant
    • 備考: phalacrocorax は#カワウ参照。 capillatus は2つめの a が長母音でアクセントもある (カピルラートゥス)。所有の -atus 発音に由来。
      単形種。 原記載 Carbo capillatus Temminck and Schlegel, 1850。Holthuis and Sakai (1970) によれば 1849 が正しいとのこと。 別の図版。 当時の属名は Carbo でカワウをタイプ種とする属を指していた。Temminck and Schlegel は Carbo filamentosus (フィラメント状の意味) の別学名でも紹介しており、 Le Cormoran Chevelu. Carbo Filamentosus. Pl. 83, en plumage d'amour ... Habit de noces: ... Dessus de la tete et partie superieure du cou garnis, outre le petit plumage noir, de plumes plus longues, soyeuses ou filamenteuses et d'un blanc tirant au jaunatre. と記載している (The Key to Scientific Names)。
      これから派生した学名 Phalacrocorax filamentosus も使われていたが、現在は通常こちらがシノニムとされる。 Temminck and Schlegel の Fauna Japonica (1850) の同じ文献で filamentosus の方が本文中、capillatus は図版に用いられており、図と本文で学名が違うことになる。どちらを用いるかおそらく見解が分かれていたらしく、Dement'ev and Gladkov (1951) は前者を採用している。 現在の世界のチェックリストは capillatus を用いているが、2000年以降の論文でも Phalacrocorax filamentosus の学名が使用されているものがある。 例えば越智・綿貫 (2008) ウミウの採餌トリップ長の個体変異が繁殖成績に及ぼす影響 のように日本鳥学会誌でも用いられていたので、少なくとも当時はこの学名も普通に用いられていたものと考えられる。
      H&M4 vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2 の解説によれば、Morioka et al. (2005) が capillatus を選択したが、Mlikovsky (2012) The dating of Temminck & Schlegel's Fauna Japonica: Aves, with implications for the nomenclature of birds によれば図版の方が本文より先に出版され、capillatus にそもそも先取権があるため、特に選択を考える必要はないとのこと。
      現在の属名に含まれる phalakros "はげ頭の、頭の白い" と種小名の "髪の豊かな" が矛盾するように見えるが、これは原記載時に使われた Carbo 属より先取権のある Phalacrocorax Brisson, 1760 に変更されたことも要因の一つであろう。 Temminck and Schlegel の記載では頭の羽毛が伸びて「フィラメント状」(英語ならば例えば thread に対応) になっていることを意図していたと考えられ、capillatus を「髪の豊かな」とする訳は少しニュアンスが異なるかも知れない。 英語で毛細血管や毛細管を示す capillary も同じ語源で「毛のような」の意味から発したもの。もとは capillus (指小形) < caput (頭) なので、「頭の羽毛に特徴がある」ぐらいの意味に訳してよいかも知れない。 カワウの亜種とされたこともある。
      英名は Temminck's cormorant とも呼ばれる。 Moores (2015) Identification Challenge: Korea's Cormorant Conundrum によれば分布を考え、またほぼ日本固有とされるカワウ亜種 Phalacrocorax carbo hanedae があるので英名の Japanese Cormorant はあまりふさわしい名前でなく、Temminck's cormorant の方がよいのでは、とのこと。 海外の名称を見て見ると多くが "日本の" を付けている (英名からの翻訳か)。ロシア語では "日本の" とともに "ウスリーの" の名称もある。中国語では 暗背 のウ (中国語のウの漢字は難しい) または 丹氏 (Temminck) を冠している。"日本の" の付いた中国名もある模様。 フランス語では Cormoran de Temminck になっている。
      [カワウとウミウの関係] Young Guns (2016) Birder 30(5): 44-47 にカワウとウミウの識別がある。 この記事によればヨーロッパ北部のカワウにウミウに近い遺伝子型があり、亜種が提案されているとのこと。これは Marion and Le Gentil (2006) Ecological segregation and population structuring of the Cormorant Phalacrocorax carbo in Europe, in relation to the recent introgression of continental and marine subspecies で、カワウの亜種 sinensis とヨーロッパの亜種はよく分離されるが、ヨーロッパの亜種は北部・西部の2系統があって、西部のものは本来のカワウの基亜種 carbo であるものの、北部はウミウに近く、氷河期に大陸東西に分離されたものの遺存の可能性を示唆している。この個体群はほとんど渡りを行わないとのこと。 この文献では同個体群にカワウの亜種 norvegicus を提案しているが、世界の主要リストでは carbo のシノニムとされている。
      Sangster and Luksenburg (2023) The importance of voucher specimens: misidentification or previously unknown mtDNA diversity in Phalacrocorax capillatus (Aves: Phalacrocoracidae)? は Honda et al. (2022) Complete mitochondrial genome of the Japanese Cormorant Phalacrocorax capillatus (Temminck & Schlegel, 1850) (Suliformes: Phalacrocoracidae) が解読したウミウとされる (2010年青森市で救助されたが死亡した) 個体のミトコンドリアゲノムがカワウグループに属することを示した。これがこれまで知られていない日本における遺伝子浸透の結果なのか種名の誤りなのかは検証のための標本が残されていないため判定できないとのこと。Honda et al. (2022) の系統樹でもカワウとほとんど差がないことが示されていた。
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES ペリカン科 PELECANIDAE 

  • モモイロペリカン
    • 学名:Pelecanus onocrotalus (ペレカーヌス オノクロタルス) ペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:onocrotalus (m) ペリカン < onokrotalos ペリカン (Gk)
    • 英名:White Pelican, IOC: Great White Pelican
    • 備考: pelecanus は a が長母音でアクセントもある (ペレカーヌス)。 語源はギリシャ語 pelekan, pelekanos 由来。これは plekus (斧) に由来し、一般的に鳥を指す語尾変化したもの (wiktionary)。ギリシャ語では a は長音ではないがアクセントがあり、ラテン語もこれを踏襲したものだろう。-canus が "白" の意味ではない。 onocrotalus は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-cro- がアクセント母音と考えられる (オノクタルス)。
      単形種。和名の由来は繁殖期の色から。 ペリカン類の分子系統研究は Kennedy et al. (2013) The phylogenetic relationships of the extant pelicans inferred from DNA sequence data を参照。 従来考えられてきたような白色の種類と茶色の種類で系統が違うのではなく、旧世界とオーストラリアを含む系統と新世界の系統に分かれる。ハイイロペリカン、ホシバシペリカンは前者のグループ、モモイロペリカンは少し離れるが前者に属する。
      ["ペリカンと少年"] 「ペリカンと少年」という旧ソ連の映画があった。何かの機会に TV で2回見ることがあって (もちろん日本語吹き替えで、原作ごろよりずっと後の時代に) 印象に残っているのだが、原作は 1963 年で原題は Slepaya Ptitsa (盲目の鳥) とのこと。ペリカンと少年にストーリーのほぼ全解説がある。 Slepaya Ptitsa で原作を見ることができる (データベースでは 65 分とあり、英語版でのみ見られるシーンがあるため原作よりわずかに短縮されているかも知れない)。 The Blind Bird - Slepaya Ptitsa - Russian Children's Movie from 1963 で英語版が見られるが若干編集・短縮されており、原作にない部分に音楽が入っていたりする。英語版ではあるが 1960 年代アメリカ流脚色付きと言ってよいかも知れない。日本版はどうなっていたのか再度見たいところであるが...。 上記記載で内容はほぼわかるが、原作や解説情報を見た上でもう少し詳しめに紹介しておく。この程度のストーリーがあれば原作のままでもかなり理解いただけるのではないだろうか。
      映画はペリカンの繁殖コロニー調査で生態映像で始まる。足環標識をするために追い込んでいるところ。 そこでワーシャが逃げないペリカンに気づいた。「こいつ怖がらないよ?」、鳥類学者のおじいさんは手をかざして「目が見えないんだ」。ここから Slepaya Ptitsa (盲目の鳥) が始まる。 (解説記事には「ペリカン島」とあるがどこかはわからない) 連れて帰りペリカと名前を付けてワーシャはいつも一緒に行動。学校にも連れていって騒動もあり。 ペリカと一緒に外で食べていた時包装紙の新聞記事に目がとまる。モスクワのアルバートフ教授が手術で盲目の人の視力を取り戻したという。 そして仲間のペリカンは渡って行き、雪の積もる中ワーシャとペリカは部屋の中で一緒に冬を越す。 本を読みながら冬は暖かい地域に渡ることを知り、遠くへの思いを馳せる。 また季節がめぐってきたころワーシャはレニングラードのおばあさんのところに行くことになり、剥製のペリカンを代わりに置いてペリカをこっそり箱に入れて連れて列車に乗った。 乗客が腐った魚の臭いに気づき、 乗務員が「規則により客車に生きた鳥は持ち込んではいけません」。不潔でもし伝染病を持っていたらどうするんだとうるさい乗客と騒動となる。「人に慣れているのだし」とか擁護する乗客もいる。規則を持ち出した乗務員もなぜか顔は笑っている (うるさいのはむしろ一部乗客だけだったりする描写が面白い)。 「オウムかい?」「ペリカンです」。 そして親切な車掌さんの部屋へ。「なぜ乗せてるんだ」「目が見えないんだ」「そうなんだ」(中略) 何度も名前を聞いているはずの車掌さん「えっと何というんだっけ?」「ペリカン」「そうそうペリカン」あたりのやりとりが面白い。「何か食べさせてやりたいんだ」「安心して、食べ物は何とかするから」。 そして列車にはキッチンがあり、「魚おくれ」「了解」メニューを並べるシェフの言葉に「いやそんなのでなく...新鮮な凍ったのを...」「え、生で?」と驚くシェフ。「これは内緒」でお互い納得。次に現れた客もためらいつつ「すみませんが生で、できたら2つ」と魚を注文。 親切な乗客にも助けられてモスクワで下車。翌朝また来ればレニングラードに連れてあげるからと伝えられる。 いろいろなところで道を訪ねたりするが、そのうち都会の少年たちに目をつけられ「箱の中身を見せろ」と追いかけられることに。 一度は逃げることに成功したが結局みつかってしまい、箱を開けた。ペリカンに一同驚き、少年たちも協力してくれることになった。 公園のベンチで夜を過ごす間にペリカンはいなくなっていたがまた再会を果たす。 しかし餌がなく通りすがりの少年の持っていた金魚にお金を払うなどしていた。その少年も返しに戻ってくるあたりの描写も細かい。道を歩いていると婦人の持っていた荷物の魚が気になって仕方がない。あの一匹でもあれば...頼んでみようか...くれそうもないや...今日中に教授が見つからなかったらレニングラードに行こうか...。 そこで魚がすべり落ち、拾ったところで泥棒扱いされ警察 (補導官?) へ。 警察で事情を説明しペリカンを出してみせると (この部分が上記紹介の原作に抜けているようで一部カットされている可能性がある。英語版から補充) その婦人も協力してくれ魚やワーシャにも食べ物も与えてくれた。 その間に警察がアルバートフ教授に電話し、「いやこの子の目が見えないのではなくて...」そして 無事に医師のもとへ。しかし一旦は断られ、「新聞記事は嘘か?」「いや本当だ」。鳥の手術などやったことがない。落ち込み帰りかけたワーシャに、レントゲンを撮ってみようかと教授は声をかける。 レントゲン写真を前に猟銃の弾が神経を圧迫していると説明。治る可能性はあるが神経がやられているとだめだ。「説明は全部わかるか」「わかります。手術をお願いします」「保証はできないが」、 そして手術がうまく行かず「もし死んだら?」...ワーシャはしばらくの沈黙の後「一生見えないよりも」。「任せてくれるか」「はい」。「それでは決断しよう」「決断します」。 手術中の待合室、そしてアルバートフ教授が現れ「これが弾だ。君のペリカンは素晴らしい。手術にこの上なくよく耐えた。10日もすれば結果がわかるだろう」。 そしてしばらく後に包帯が取れて診察室へ。「やはり見えてないですか?」「うむ」。 しばらく沈黙の後、教授は「できる限りのことはしたはずだなのだが...」。 そしてお礼の後、これほど面倒なことをお願いしてごめんなさいと涙を流すワーシャを抱擁する教授。
      家に戻ったワーシャとペリカ。あるところからペリカの目が見えていることに気づく。 アルバートフ教授にペリカの目が見えるようになったと手紙を書くワーシャ「暖かい地域に行けるように明日おじいさんと放しに行きます」。 そしておじいさんとボートで野生ペリカンのところへ。ワーシャとペリカはすでに親友でもう別れ難い。しかし放さないといけない。 おじいさんの「友達にお別れをするんだ」。「放して!」の一声で放されたペリカはためらいつつも飛び立ち、そして見事な飛翔で群れに加わってゆく。羽根1枚だけを残して。
  • ホシバシペリカン
    • 学名:Pelecanus philippensis (ペレカーヌス ピリッペーンシス) フィリピンのペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:philippensis (adj) フィリピンの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Spot-billed Pelican
    • 備考: pelecanus は#モモイロペリカン参照。 philippensis は場所を表す形容詞であれば -ensis の e が長母音でアクセントもここにある (ピリッペーンシス)。短音でも構わない。
      日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。フィリピンペリカンとも呼ばれた。 森岡 (1999) Birder 13(5): 66-69 に考察があり、Pelecanus crispus はかつて Pelecanus philippensis の亜種とされた。 フィリピンは基産地ではあるが [Gmelin (1789) の 原記載]、現在の繁殖分布でも通常の越冬分布でもないのでフィリピンペリカンの名称は適切でないと述べられていた。 現在の世界の他言語でもフィリピンの名前はほとんど用いられていない。"東洋の" を付ける言語もあり、ヨーロッパからはわかりやすい名前だろう。
  • ハイイロペリカン
    • 学名:Pelecanus crispus (ペレカーヌス クリースプス) 髪がちじれたペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:crispus (adj) ちじれた (後頭部の羽毛がよじれている)
    • 英名:Dalmatian Pelican (ダルマチア: 現在はクロアチアのアドリア海沿岸地域一帯)
    • 備考: pelecanus は#モモイロペリカン参照。 crispus は i が長母音でアクセントもここにある (クリースプス)。
      ニシハイイロペリカンとも呼ばれる。単形種だが化石亜種 palaeocrispus が知られている。 ペリカン類で最大種。飛べる鳥の中でも最大に近い。 かつてはホシバシペリカンと同種とする考えもあった。Bruch (1932) の 原記載 の方が遅いので同種にする場合は Pelecanus philippensis の亜種になる。 Pelecanus roseus Gmelin, 1789 (原記載) との関係も問題になる (Pelecanus philippensis と同年なので) が、森岡 (1999) Birder 13(5): 66-69 はシノニムとして扱う考えを紹介している。 Clements 1st, Howard and Moore 2nd edition, Peters' Check-list of the Birds は別種扱い (Southern White Pelican) としていたが、現在の世界のチェックリストは無効な種学名として扱っている模様。別種モモイロペリカン Pelecanus onocrotalus の亜種 roseus として使われることがあったが、これも現在は使われていない。
      「和漢三才図会」(わかんさんさいずえ) や「本草綱目」にもペリカンが登場し、ハイイロペリカンと考えられるとのこと (コンサイス鳥名事典)。「伽藍鳥」(ガランテウ/ガランチョウ) が当時の古名で、 江戸時代の博物誌 珍禽奇獣異魚によれば、「永享2年 (1430) に京都伏見の舟津で捕えられたのが日本における最古の記録ですが、江戸時代にはかなりの数の記録があり、しばしば見世物にも出されていました。 この図は右下に「文久二年 (1862) 壬戌秋八月 於尾張熱田沖 桜新田海岸 捕之」とあります。このペリカンはおそらく台風に運ばれてきた迷鳥でしょう。著者の清水淇川は尾張の画家です」 と記されている。 志村 (1994) Birder 8(11): 76 によれば中国語では鵜の漢字をペリカンに用いる。
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES サギ科 ALDEIDAE 

  • サンカノゴイ
    • 学名:Botaurus stellaris (ボータウルス ステールラーリス) 星斑のある雄牛のようなヨシゴイ
    • 属名:botaurus (合) 雄牛のようなヨシゴイ (butio ヨシゴイ類 taurus (m) 雄牛)
    • 種小名:stellaris (adj) 星の (stella (f) 星 -aris (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bittern, IOC: Eurasian Bittern
    • 備考: botaurus は起源となるラテン語 bos (雄牛) またはギリシャ語 bous が長母音、butio は u, o が長母音であることから、bo- は長母音で読むのが適切と考えらえる (#モズ参照)。taurus は短母音のみ。-ta- がアクセント音節 (ボーウルス)。 由来はおそらく異なるが butio は音韻的にはノスリ類の buteo と同じとのこと (wiktionary)。 stellaris は e, a が長母音で、-la- がアクセント音節 (ステールラーリス)。stella (星) の冒頭が長母音。形容詞を作る語尾の -aris も冒頭が長母音。
      英名の由来はラテン語 butio (ヨシゴイ類) taurus (雄牛) から合成。学名の由来と同じ。 botor/butio はもともとは bos (m) 雄牛に由来する。
      ユーラシアに広く分布し、アフリカにも局所的に分布する。2亜種あり、日本で記録されるものは基亜種 stellaris とされる。
      [サギ類の系統分類] Hruska et al. (2023) Ultraconserved elements resolve the phylogeny and corroborate patterns of molecular rate variation in herons (Aves: Ardeidae) に UCE (ultraconserved elements) を含めた詳細な分子系統解析が発表された。 種のサンプルはまだ十分ではないが、少なくとも系統関係に関してはタカ類に匹敵する精度で系統樹を議論できるようになった (#アカハラダカの備考参照)。 従来通りミトコンドリア遺伝子のみを使うと結果が少し異なるとのこと (同文献 fig. 3) だが、核遺伝情報ではここに示された系統が支持されるとのこと。 特に 2021 年ぐらいよりこのような系統解析が普通に発表されるようになってきており、これが世界標準になりそうである。 これまでの系統樹と多少異なる点があるので、他の文献も用いて全種の系統を網羅した Boyd の分類に従った最新分類を紹介する。Boyd によれば古い研究はもう忘れてもよいぐらいで、新しい分子系統分類は形態特徴に基づく系統分類ともよく一致するとのこと。 これまで部分的な遺伝情報に頼って属間の移動が行われたりしたが、多少の修正が必要になりそうである。 Hruska et al. (2023) によって アカハラサギ亜科 Agamiinae (アカハラサギのみ) が新設された。
      分類、学名、順序は Boyd による。英名はわずかな綴り調整以外 Boyd の表記をそのまま採用した。 IOC 英名とは少し違うところもあるので統一的な英名を必要とされる方はご確認いただきたい。
      Boyd によれば Mendales (2023) の修士論文で分子系統解析でササゴイが複数種に分離される証拠があり、ここでは色彩に基づいて暫定的に5種 (南米のものは分子系統で確実に分かれるとのこと) に分けたとのこと。これらは Boyd の解説しているところの「時には未発表データも取り入れて」系統樹を検討した例である。 これまでのササゴイの基亜種 striata が南米のものなので、もし分離されれば日本のササゴイも学名が変わる。 この分類によればアジア地域で最も早い記載により Butorides javanica となる。南米のものを別種とするならば学名変更は避けられない。 American Striated Heron の名称が与えられているが、そのまま和訳のアメリカササゴイはすでに別種に使われているので暫定的にナンベイササゴイとしてみた。他の新和名も暫定である。
      ダイサギも Raty (2014) の DNA バーコーディングにより複数種に分けられる証拠があり、4亜種の繁殖期の羽衣の色彩がすべて異なるため4種としたとのこと。アフリカダイサギ? Casmerodius melanorhynchos のみは DNA を用いている。 この分類に従えばダイサギとチュウダイサギが別種となり、チュウサギと一緒に1系統を形成することになる。これまでの分類に比べ、我々の直感とも合っている感じがするが学名は大きく変わる。
      広義 Ardea 属のままでも単系統をなすが、特徴のあるアマサギ属 Bubulcus の名称を残したいならばこの分離は必須になる。 ダイサギ系とアオサギ系はだいぶ違いが感じられるのでこの分け方で妥当かも知れない。 属名の性が変わることで種小名が変わるものも多数ある。 ロシア沿海地方でダイサギの繁殖を紹介している Gluschenko et al. (2024) The great egret Casmerodius albus in the south of Russian Far East (pp. 939-961) でもこの学名を採用している。ロシアでは以前から使われていた属名らしい。 英語圏のリストでは Ardea が使われているがとの言及付き。 "シラサギ属" の和名はかつて使われていたものだが、現在では分類概念が異なっているのでここでは使わないことにしておく。
      Ardea occidentalis Great White Heron はオオアオサギからの分離候補で AOU, HBW/BirdLife では古くから分離している。英名はこの名称が定着しているようだが、ダイサギの英名として使われることもある Great White Egret と大変紛らわしい。 和名を付けるにも悩ましそうでオオアオサギより大きいのならばオニアオサギかと思えばすでに他種で使われている上に姿の印象とかなり違う。 真っ白なんだからオオダイサギでよいかと言えばこれは亜種ダイサギの旧名。シロオオアオサギ? のような矛盾した (?) 名前を付けるか、分布が南フロリダからカリブ海なので地名を付ける? かつてから種扱いもあったので何か和名があったかも知れないが調べられていないと思って探してみるとオオシロサギの名前がコンサイス鳥名辞典にあった。"シラサギ" でなく "シロサギ" が紛らわしくならないポイントだろうか。 オオアオサギのうち、この亜種または種のみが "白色型" で中間型も知られているとのこと。 アオサギの白色型とは? どんな感じに見えるかは画像検索などしてみていただきたい。 #クロサギでは白色型は morph で分類上異なるわけではないが、オオアオサギでは異なることが提唱されている。この2種で白色型の意味がどう違うのかなど調べると面白いだろう。
      なおサギ類は世界的に非常に分布の広い種が多数ある。日本で観察できる印象と前後の種で名称から分布がずいぶん違っているように見えることもあるが、分布図を見ていただければ近い関係にあってもおかしくないことを理解いただけるだろう。
      サギ科の系統分類について、用いられた資料は少し古いが日本語の解説がある。サギ科の系統分類 (アオサギを議論するページ 2015)。Prum et al. (2015) が使われており、サギ科の位置づけの理解は現在もこの通りだろう。 サギ科内は新しい研究でやはり様相が変わっており、Ardeinae 亜科の下位の階層分類と考えられていた Nycticoracini, Ardeni, Egrettini 族のうち Nycticoracini, Egrettini は現代的な分子遺伝分類では単系統にならない。 単系統性に基づく概念を設けることはできるが Hruska et al. (2023) は亜科以外の分類を特に示していないのでここでは取り扱わないことにする。 過去に提唱されていた Ardeni 族は単系統であるが、日本語でシラサギと言われるグループに特に対応するわけでなく、ササゴイも含まれる。 ミゾゴイ、ヨシゴイ、ササゴイがサギ科の中でもすべて違うグループに属することも注目しておいてよいだろう。
      Working Group Avian Checklists, version 0.04 (2024) で Ixobrychus 属は Botaurus 属に統合され、今後は世界のリストでこちらの扱いになるだろう。
      実はアメリカでは相当ややこしいことになっている模様。Proposals 2024-A Comments コヨシゴイ Botaurus exilis Least Bittern とオーストラリアのセグロヨシゴイ Ixobrychus dubius Black-backed Bittern はしばしば同種とされることもあるぐらい (さらにヨシゴイも) 似ているが、コヨシゴイは Hruska et al. (2023) では UCE サンプルが行われておらず、(同種とされた名残り?) でセグロヨシゴイをコヨシゴイとして解析している。
      属を判断する上でさらに複雑な問題があって、Ixobrychus 属のタイプ種がヒメヨシゴイ Ixobrychus minutus Little Bittern だが Hruska et al. (2023) ではサンプルされていない。タイプ種がサンプルされていない段階で属の範囲について結論を