加藤太一 (京都大学理学研究科)
(本ページの内容への問い合わせ先: tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp
著者の所属する ML Kbird への投稿の形でも歓迎。他の方の意見も仰げるかも知れない)
(2025-02-13改訂)
◆ご紹介
本ページはくまたか/日本野鳥の会筑豊支部にかつて掲載された「野鳥の学名入門」を元に内容の改訂・備考の追記を行って作成しているものである。
日本鳥類目録 改訂第7版と第8版をベースとしているが世界の分類動向など最新情報も紹介している。
掲載順は日本鳥類目録改訂第7版であるが、#第8版配列のリンクに第8版掲載順の一覧を示してあり、どちらからでも参照できる。
学名と解説は第7版、第8版ともに掲載している。#第8版新規掲載種 (最後に付記) も付記しており、(外来種は除く) 第8版の亜種を含む学名辞典としても活用いただけると思う。
第8版で#検討種一覧と若干の考察も追記した。
作成に当たっては日本野鳥の会筑豊支部および (旧)「野鳥の学名入門」作者の了承を得ている。現在は各種情報追記などの作業中であるが、すでに記述した部分だけでも有益な情報が含まれていると考えられるため、公開とともに逐次改訂を進めている。
補足の大部分の記述は著者自身が調査したものであるが、一部の (主に伝聞) 情報には出典がわからなくなっているものも含まれており、適切な引用先をご存じの方はご一報いただければ幸いである。
当初は改訂第7版をベースとしていたが、本稿準備中に日本鳥学会による日本鳥類目録第8版和名・学名リスト公開 (2023年9月30日) が行われ、「やむを得ない場合の修正を除いて、第8版の掲載順や分類、和名については本リストに従います」とされている (このリストの掲載順は IOC 13.2 に準拠とのこと)。さらに第二回パブリックコメントに向けた暫定リスト (2023年10月31日。国内分布情報、学名の著者情報を追加) が発表されている。
その後「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) が発表された。
第2回パブリックコメントが発表された (2024年4月1日)。学名の一部修正と国内分布情報の追加が行われた。目録第8版の出版は2024年9月に行われた。
ちなみに IOC は国際鳥類学委員会 (International Ornithological Committee) の略。現在は IOU 国際鳥類学者連合 (International Ornithologists' Union) の名前になっているが、チェックリストの名前を呼ぶ時は IOC が使われている。IOC World Bird List から最新の分類を知ることができる。
本稿では改訂第7版時代の資料性も保持するため配列順 (および掲載種。一部例外を含む) は改訂第7版を維持し、学名等に関する記述も改訂第7版・第8版の両者を含む形とした。
更新途中時点での情報は「日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)」「日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント(2024)」して表記した。これは日本鳥類目録第8版の最終版を意味するわけでないことにご留意いただきたい (参考文献参照)。その後目録第8版が出版され、第7版から変更があるものは最終版への変更を反映している (まだ作業もれが残っているかも知れない)。
索引は「野鳥の学名入門」をそのまま利用している。英名などの修正を行ったものでは索引と本文が対応していない場合があることをご理解いただきたい。
このページ内へのリンク (備考参照など) には # を付けて外部ページへのリンクと区別している。これらのリンク先は [別ウインドウで開く] などで見ていただければ使いやすいと思う。
[#タカ類を新しい分類で見る]
(2024.3 掲載; 2024.8 亜科定義変更に基づく小さな修正あり; 2024.11 アメリカオオタカの位置を修正、伝統的チュウヒ亜科の説明追加) ← タカ類の最新の全分類はこちら (世界の共通リストを目指す WGAC でも採用され 2025 年初頭にリリース予定。IOC 14.2, Clements/eBird 2024 でも採用)
[#鳥類系統樹2024] (2024.4)
◆索引
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◆鳥類学名の読みと意味・名前のことなどさまざま
- 種の学名は属名 (genus; generic name) と種小名 (specific name; species epithet; 学名を扱っていることが明らかな文脈では単純に epithet と略すこともある) から成っている。学名はカナで読みを示し、またそれぞれに意味などを説明している。[wikipedia 日本語版学名にもかなりの情報がある]。
それに引き続き命名者と年を記述するのが完全な形式になるが本文中では大部分省略している。
日本産種については改訂第8版準拠の#リンク集に命名者と記載年を含めた学名が収められているので参考にしていただきたい。若干長くなって面倒だがこの形式が図鑑などでも標準的に用いられるようになればもう少し普及するだろう。
(Linnaeus, 1758) のように "命名者, 記載年" 部分が丸かっこで囲まれるものは記載時学名から属が変化したもの。命名者部分に丸かっこの付く学名が多いがこれは補足的な意味で使われた丸かっこではなく別の意味がある。
- 学名の読みをカナ書きで表記してあるが、日本語の発音に近似させたもので、ラテン語の発音を正しく表しているわけではない。ラテン語の発音について詳しいわけではないが、アクセント位置は後ろから2つめまたは3つめの音節に来るとのこと。
カナ書きで読むと任意の場所にアクセントを置きがちであるが、語末や子音に対応するカナにはアクセントを置かないように。2音節以上の単語では最後の音節には長音であってもアクセントは現れない。
語末が2重母音であっても1つめが長音でなければアクセントはない。例えば ardea のアクセントは "アルデア"。
ラテン語は現役言語ではないので何と読んでもよさそうではあるが、せっかく学名を覚えるならば古典式ラテン語の発音規則に合わせるのも外国語を扱う上での一つの見識と考えてよいだろう。
自己流でアクセントを置いたり長母音にするよりは多少の根拠があると見ていただくとよいだろう。
読み方がわからないために学名を敬遠されてきた方もこの機会に少し見ていただけば面白い部分もあるだろう。
よく現れる具体的な例を挙げておくと、minor, major はアクセントは冒頭 (2音節しかないので自動的に決まる)。"ミノール" と不適切なカナ書きにすると "ノー" にアクセントを置きがちだが、この表記はむしろ誤りと考えた方がよい。
語末は長音にならず、英語の minor, major のアクセントと同じで読み方だけが異なる (ミノル、マヨル) と考えるとわかりやすい。
もし英語読みする場合でもこのアクセント位置が適切。
ラテン語読みでは o は伸ばさない (マイヨル のように jo を 分けて発音することはある。minor ももし伸ばす場合でもアクセント音節を伸ばす)。
wikipedia 日本語版の解説によれば
1. 後ろから2番目の音節が閉音節である場合、および、長母音もしくは二重母音を含む音節である場合、強勢は後ろから2番目の音節に置かれる。
2. 上記以外の場合、後ろから3番目の音節に置かれる。但し、2音節しか持たない単語の場合は後ろから2番目の音節に置かれる。
とのこと。閉音節とは子音で終わる音節とのこと。また多くの学名に現れる -cola の "コーラ" とアクセントを置いて読みたくなるが、-co- は短母音で2.に当てはまりここにはアクセントがなく "コラ" と短く読んでその前の音節にアクセントを置くとよい。
多くの場合指小辞に由来する -ula の語尾も同様で伸ばさず、-cola と同じようなアクセント位置になる。
一方で motacilla は -cil- が子音で終わるので1.に当てはまり -cilla (キルラ) の方にアクセントがある (英語読みではモタシーラ)。
accipiter は -pi- が閉音節でないため -ci- にアクセントがある。英語でもアクセント位置は同じで2つめの c の発音だけが異なると考えれば近い音であることがわかる (アクキピテル。英語読みでも実用上多分構わない)。
よく使われるところでは emberiza を何と読むか問題になりそうだが、規則によれば -be- がアクセントで、発音の聞けるページを参照するとそのようになっている。
"エムベーリザ" (本来は長音ではないが "ベ" にアクセントを置くためこの表記とした。アクセントに慣れれば短音に戻していただいてもよい) のような読み方がよいのだろう [イタリア語の同じ綴りの単語は -iddza のリズムと解釈され "リ" の方にアクセントがあるとのこと]。
"Emberiza 某" 等名乗る方はこのような細部もこだわっていただきたい。
ラテン語で h を発音するかどうかは時代にもよるようで読まない場合もあるらしい (ラテン語起源のフランス語などでは発音しない)。ここでは "h + 母音" は h を発音する表記を採用した。学名記載などに使われる (著者) 自身を指す mihi の h は時代によらず必ず発音されるとのこと (h の音を外せば英語の me に対応することがわかりやすい)。
si の発音はラテン語ではおそらく "shi" の音は出てこないので紛らわしいことはないが、アクセント母音やその前、二重母音になる場合などは "スィ" と表記して注意を促すこととした。表記が煩雑になるのでアクセントに関係ない場合などは "シ" の表記が一部残っているが音は "si" である点は少し注意。
2重子音は分けて読むのが本来の読み方。前述 (-cil-la, ac-ci-) のようにここで音節が分離されることが多いので基本的に分けて表記している。ただしカナで表記困難な場合は促音 (詰まる音) を用いている。
ここに示した長音の読みは古典式で、後の時代では短くなる傾向があるので短く読んでいただいても問題ない。しかし長音かつアクセント母音となる造語語尾 (-atus, -ata など) は覚えやすいので積極的に長音を活用していただくとよいだろう。またギリシャ語の "尾" 由来の -urus, -ura、"足" 由来の -pus のように統一して発音すると意味も理解しやすくなる。
-phone のように長音と短音で意味が違うこともある。
解説では英語などに合わせて "長母音" の用語を用いているがラテン語やギリシャ語では正しい用語ではないかも知れない。これは例えばギリシャ文字の ε を "イプシロン/エプシロン" と短く読み、η を "エータ" と長く読むのに対応していると考えていただいてよい。ギリシャ語由来の学名で η は長母音と表記している。
古典式ラテン語時代ののんびりした読みを楽しまれたい方は長音で読むのもよいだろう。
原則的な考えを示しておくと、ここで (1) ここで示した長音は短音で読んでも差し支えない。(2) しかし短音であるべきものを長音で読むことは不自然。(3) 辞書にも載っている語など、アクセント位置が確定できている場合は他の場所にアクセントを置くのは不自然。
と解釈していただいてよいだろうか。
発音部分の記述がかなり詳しくなっているが、もともとはアクセント位置を確認する作業から始めたもので、アクセントになる可能性のある音が長音か短音かを判定する必要が生じ、結果的に個々に発音を確認することとなった。wiktionary で古典式発音記号を確認できる語はそのまま採用し、ギリシャ語由来のものも可能な範囲で原音を検討している。
基本的に古典式ラテン語に従った表記としているが、人名や地名など不自然になる場合に多少の例外を設けている。例えば sch の読みは両方があるが明らかににドイツ語読みを意識したものはドイツ語読みとしている。タカ類の属語尾に現れる -spiza など命名者意図が感じられる場合にも話者の言語も考慮して多少の例外を許している (いずれも注記してある)。
よく知られていて今更の感じもあるが、ラテン語は英語とは違って文法上の性 (男性・女性・中性) の区別がある。動物では中性はあまり現れないが皆無ではない。属の文法上の性に従って種小名や亜種小名の性が決まる。
一番よく出会うのは形容詞語尾の -us (男性) -a (女性) だろう。分類変更によって属の性が変わる場合はこのように種小名や亜種小名が変わるものがある。以前に使われた学名を覚えている場合は多少切り替えが必要。ただしラテン語形容詞でない -us や -a の語尾もあり、これらは変わらない。
形容詞でよく現れるものに "黒い" を表す ater があるが女性形は atra と形が少し変わる (いずれも冒頭が長母音)。セットで覚えておくとよい。
身近なところでは japonicus, japonica の語尾も同様 (ただし japon- の部分に長音を含むかどうかは微妙でどちらの読み方もある。japonicum は中性の形で鳥では多分現れない)。
japonensis とは何が違うのか気になるだろうが、japonicus / japonica は "日本の" で、-ensis (これも冒頭が長音でアクセントがある) は出所を表す接尾語 (wiktionary では英語で of or from [a place] と説明がある。古フランス語を経由して英語の -ese の語源とのこと)。
意味の上では微妙な違いがあるが特に訳し分けていない。この形容詞語尾は男性・女性は同じ形で、中性のみ -ense となる (日本の場合は鳥ではおそらく出てこないが植物の学名に登場する)。
ないと思われるが japonensis を持つ種がもし将来中性の属名に移されることがあればこの形に変化することになる。
#イワツバメや、検討種の中の #ニシイワツバメ、#マダラフルマカモメが中性の学名になっている (クイズに使えそう?)。#ミヤマモリフクロウの種小名も中性形に由来している。この項目に中性の属名の由来について少し詳しい解説がある。
このように見ていただけば種小名のラテン語は一見多様に見えてもそれほど難しいものでないことがわかっていただけるのではないかと思う。
(個々の種で処理中だが基本的に処理済み。読みに不明な点など注記のあるもの以外はある程度信頼していただいてよいと思う)
- 学名の意味を調べるに当たって、英名と学名、さらに和名の意味がよく一致する事例が多数あった。見れば自明な場合は特別な注記を行っていないことが多いが、現在の英名と学名の意味が一致しない場合に英名の起源が過去に使われていた学名に遡れる事例が多数あることがわかった。
wikipedia 英語版などの解説を見ても現在の学名の解説のみで必ずしも触れられていないものも多く、ほとんどは独自調査の結果である。これらの英名は和名の由来となっていると推定できるものも多く、和名の由来を考える上でも興味深いと考える。
この部分の記述は過去の学名が使われなくなった経緯なども含まれるため非常に複雑になっているものが多いが、ある程度の予備知識があれば興味深く読んでいただけるものもあると考える。例えば特に背が黒くないのにセグロカモメと呼ばれるのはなぜか、タヒバリはなぜヒバリが付くのかなど。
いずれの問題も分類学の扱いの変遷や亜種となる場合の種学名の扱い、学名の先取権の扱いや有効性など学名を扱う上で本質的な事項が多数含まれている。歴史が英名や和名に残っていると考えれば非常に興味深い。過去に疑問に感じられていた和名や英名などの理由が氷解するものもあるのではないだろうか。
またアビ類のように日本と共通種の多いロシア名や文献からヒントが得られる場合もある (記載文献はドイツ語だったりフランス語だったりするので各国語を行き来しないといけない。理学では英語以外の基本外国語は従来独仏露とされていたがその意味を実感することができる)。
このような経緯がオンラインで簡単にアクセスできる文献にしっかり記載されているものは少なく、また過去に使われた学名を完全に知ることはおそらく誰にとっても困難なので推測に伴うものも多く、不正確な部分がある可能性がある点には注意していただきたい。
単に学名の意味を知っておしまいでなく、このような考察まで含めると学名の世界は非常に奥が深い上に、系統分類とも密接に関連していることがわかる。調べてみると予想外のことが多く、まさに謎解きであまりに面白いのである。ここまで知ればトリビアを超えて世界でも自慢できるのではないだろうか。
新しい方の分類変遷については文献を読めば理解しやすく説明もしやすいと想像できるが、鳥のことを深く知るためには古い方も含めて学名を詳しく知ることは第一歩であると認識できる。
- これも今更、の感じがあるが、学名の成り立ちを少し紹介しておこう。もっと早く系統的に述べておけばよいのだろうが詳しい規則や歴史までは知らないため、本稿を読むにあたって関連する件のみ紹介とする。
まずよくある誤解として学名はカール・フォン・リンネが「自然の体系」の第 10 版 (1758) で決めた、とされる場合があるが、いくつかの点で正しくない。
元来の名前は Carl Nilsson Linnaeus で、功績によって Carl von Linne の貴族の称号を得たのは 1757 年で、これ以前は Linnaeus である。ちなみに von は称号を表すもので、姓は Linne か von Linne であるべきかは解釈による
(例えば小笠原の鳥に名前を多く残している Kittlitz は von Kittlitz を姓とすべきかなどの議論がある。学名に記載者を載せる場合に問題になる。論文を書く人であれば引用文献での同様の著者の姓の扱いに困惑される方も多いだろう)。
Linnaeus が「自然の体系」初版を出版したのは 1735 年で、1758 年以降も Linnaeus の名称を使い続けていたので、我々が普通にみかける鳥の学名の記載者には Linne は出てこず、すべて Linnaeus ではないかと思う。
すなわちいかにも高校生物などで習いそうな「カニス・ファミリアニス・リンネ」(イヌのこと。なおイヌはオオカミから家畜化されたものとする捉え方ではオオカミの種小名を用いるべきとなり、この扱いはまだ確定していない模様) の読み方は正しくないことになる。
wikipedia 日本語版の解説によれば植物学では L. と略されるが、動物では省略しないとのことで L. と書くのは正しくないらしい (古い文献の用例にはみかける)。
次の誤解として「リンネが学名を発明した」があるが、これもあまり正しくない。ラテン語で名称を記述することはそれ以前から行われていた。ただしこの方法が人によって違っていた。簡単な種類の場合はラテン語1単語で示されることもしばしばあり、それに記述的な修飾を付ける形で次第に複雑な学名が使われるようになった。
ラテン語では形容詞による修飾は名詞の後に付く (ラテン語と系統の近いフランス語などでもよく使われる) ので、名詞 + 修飾語 の形になる。
以下ちょっと長いが余談: この順序となることは多少のメリットもあり、学名索引は同属のものが並ぶが、英名をそのままアルファベット順の索引とすると大変わかりにくくなる。
そのため英名索引では多くの場合最後の単語を先頭に回すなど学名に近い語順がよく用いられる。しかしながら英語特有の問題があって2単語からなる単語を別の単語とするか、ハイフンを入れるか、さらには合体させて1単語とするさまざまな段階の扱いがある (ドイツ語やオランダ語では単語を直接結合することが多いのでしばしば長い単語ができる)。
リストによって英名のハイフンの有無などが違うのはこの扱いの違いに由来する。Hawk-eagle とした場合は、索引では Eagle の下に置くべきか、Hawk-eagle の見出しにするか悩ましいわけである (さらに途中段階として Hawk-Eagle のようにハイフンの後の先頭を大文字表記にする場合がある。これは単語の独立性が高いが文法上は1単語扱いにしてハイフンを入れたい場合に相当する)。
ヘビクイワシを Secretary Bird と表記してもよいが、これをそのまま採用すると索引では Bird の下に置かざるを得ずちょっと困ったことになる。
学名の話に戻ると Linnaeus はこれを体系化し、2語による学名に統一した。名詞に相当する部分が属名、修飾語の部分が種小名ということになる。
学名がなぜラテン語文法規則に則っているかはこの成り立ちを考えるとよくわかる。修飾語は形容詞が使われることが多いので名詞の文法性に合わせて変化することになる。また修飾語が地名や人名などの場合は形容詞語尾を補って形容詞の変化をさせるのが一般的。
なお Linnaeus は種小名が形容詞でない場合は冒頭を大文字で記述して名詞であることを表しており、この用法も一定期間使われていた。
これが二名法で、Linnaeus はさらに綱、目、科という上位の分類階級を設け、それらを階層的に位置づけた (最後の部分は wikipedia 日本語版の解説から、と書こうと思ったが科とすべきところが属になっていた... 2024年11月段階)。なお属より上の分類階級を高次分類群と呼ぶそうで、上位分類は相対的な表現に使われることが多いがこの解説ではあまり使い分けていない (日本語名称はそれぞれ order と rank の英語に対応するが使い分けは英語に対応したものでもない)。
Linnaeus 当時は亜種の概念は直接的には現れず、これは 19 世紀後半に種と生物進化の関係が判明してきて初めて一般的になった概念である。この問題は #カンムリツクシガモ の第一標本を記述した者がなぜ亜種概念を用いず雑種と記載したかなどの推論にも関係する。
生物進化の考え方に否定的な立場だった命名者であれば記載に亜種を用いないことも理解できる。もちろん 20 世紀に入っても生物進化の問題は長く議論されていた。
Linnaeus の命名体系が広く用いられる以前に3語を用いた一見亜種学名に見える名称も使われていたが、これは現代の亜種概念とは異なったものである。
また亜種概念が広く使われるようになる前は違うものは別種として記載せざるを得なかったので、その当時の学名を指して「かつては別種扱い」の表現を読む時には注意が必要である。亜種概念がなかった、あるいは命名者の立場上使いたくなかったために別種となっていただけの場合も多い。
このように Linnaeus 以前より学名は存在したので、規約を作るにあたってはどこかで区切りを付ける必要がある。そこで「自然の体系」の第 10 版 (1758) の出版年を基準として、それ以前に発表されたものはたとえ Linnaeus (1758) の用いたものと同じ学名であっても有効なものとして扱われなくなった。
ある意味この区切りは多少人工的なもので、その結果多くの種の記載者が Linnaeus となることになった。「この学名は Linnaeus が 1758 年に命名した」などの文章を読む時には若干注意が必要である。
ちなみに 1758 年の同年の文献が (少なくとも鳥に関係したものでは) もう1つあるとのこと。
Linnaeus (1758) 以降でも二名法に従っていないものもあり、著者が二名法に則っていないと判断されれば一見同じ2語の学名を用いていても有効なものとみなされないらしい。
後は皆さんもご存じの先取権の原則がある。同じものを指す場合には最初に記載された学名が採用される。
過去に誰かが用いた学名は無効である。
これらは自明な規則のように思えるがこれがしばしば混乱の原因となってきて、現在でもなっている。
Linnaeus (1758) の自然の体系」の第 10 版の記述が曖昧で何を指しているか判断できないために当初は使われなかったが、後にこの学名は何を指しているなどの同定がなされて学名が変わったことはしばしばある。「最初に記載された学名」という規則は合理的に見えるが、古い記載ほど記述が曖昧なのはある意味当然で同定に困難が伴うのである。このために学名が変わった事例は非常に多くある。
また古い文献を見つけるのも大変な作業である。一度は学名が確定してから、その種類が古い百科事典やどこかで出版された探検日誌のどこかに載っていたなど、およそ学名の記載とは思えないような文献が原記載とされることがあるのはそのような事情による。
古い文献では出版年が不明瞭なものもある。例えば出版年が記されているが実際の出版は後だった、複数の巻があって全体しての出版年の範囲はわかるが特定の記述が出版された年がわからないなど。
これらが特定されたり出版日時が改めて定義されることによって優先順位が変わって学名が変わることもある。
現在では厳格な要件になっており、少なくともある年以降に記載された学名はこの要件を満たす形になっている。例えば属の新記載では「その属の共通の特徴」「この特徴があれば他と区別できる」(diagnosis) などを記述する必要があり、「この特徴があれば他と区別できる」条件が不十分なもの (別の属なのにこの属と判定できてしまう) と判定されれば無効とされることもあるらしい。
現代ではそのような場合は一旦無効として、要件を満たす形で同じ名称で再命名となることもある。
「過去に誰かが用いた学名は無効である」も極めて妥当な規則に見えるが、同様に古い文献を探してゆくと同じ学名がみつかって無効となった (命名者が気づいていない) 例は非常に多数ある (例えば日本で記載されても不思議でなかった #サンコウチョウ)。すでに利用された名称は preoccupied と表記される。
種小名や亜種小名がすでに利用された名称かどうかは同属の範囲で判断される。
気づきにくいがこれは動物全体に対するもので (もちろん化石種も含む)、同じ学名が例えば虫にあってはいけないのである。鳥だけのリストならば過去に使われた全学名データベースのようなものもある程度あるが、動物全体となるとなかなか大変である。
また一字一句違わないもののみを同一とみなすと支障が生じる場合もある。ギリシャ語由来のラテン語など綴り方が一通りでないものもあり、ラテン語アルファベットで同一のものを表す別の文字も存在する。
かつては同じ単語の男性形と女性形が別の属名に用いられ、これは同一なのか別のものなのか議論となったこともあった。実際に見てゆくとわずかに違う学名がいくつもあって同一性の定義が難しいことがわかる。
古い学名では違った音を表す記号や合字も使われており、これらを現代の表記に変換する際に若干の不定性が生じている。例えばミサゴの種小名とオジロワシの属名は過去には同じ綴りだったが変換する際に別のものになってしまった。
アカヒゲとコマドリの種小名と和名との対応が逆になっており、一度付けた学名は変更できないと説明されることも多いが、記載時の学名に文法的誤りがあれば正されることもある。
例えば #キバラムシクイ や #ヘラシギ では異なる綴りに変更されている。#ハヤブサ の亜種のシマハヤブサは献名が明示されていたため同一文献内の情報を用いた訂正が行われた。#クロウミツバメ も人名由来で訂正されたものが一般的に使われている。
クマタカの Nisaetus の属名も綴りを間違っていて訂正された。
ややこしいことに Linnaeus はしばしば省略形を見出しに用いており、すべての見出しが "." で終わっているために省略形かどうかが区別できず、省略された学名を採用すべきか、初出文献には出ていなくても省略されない学名を採用すべきかなどの議論もある。日本の鳥では#モリツバメや#サカツラガンなどが問題となる。
前者は ICZN が省略形と裁定して省略する場合、省略しない場合の唯一の学名表記が決められた経緯がある。
学名を付けた時は別の学名だったのだが、分類変更で属が変わりたまたま同じ学名になってしまうこともある。これは分類学の問題なのでいつの時代でも起き得る。この時もそのような学名の使用を避けることになり、優先度の低い学名が使われたりや新称が与えられることもある。
また古くは属名が変わると新しい種小名が提案されることもしばしばあった (#ノスリの備考参照)。新属を提案すると自身が命名者になることができるため新属や改名された学名が氾濫し、現在のような規則に改められたものと思われる。
オオトラツグミ (#トラツグミ備考) の学名がトラツグミが Turdus 属に含められていた一時期に変わっていたのはこの影響があると思われる。#ノスリの現在の種小名や#チョウゲンボウの亜種小名も複雑な経緯をたどっていた。
これらの結果、素直な (わかりやすい) 種小名や亜種小名は早めに使われてしまい、後に名付けられた学名ほど性質をうまく記述していない (命名に苦労している) 偏りが発生していると想像できる。地名や人名、現地名を冠した (見方によってはややつまらない) 学名が多いのもそのような理由が背景にあると思われる。
学名字義を見る場合にはより早く付けられた学名 (ヨーロッパの種類であることが多い) も一緒に見渡すのが望ましい。種レベルであれば第8版準拠の#リンク集に記載者・記載年が示されているのでご活用いただきたい。
日本の鳥の学名も、そのような視点で見るとなぜそのような種小名 (特に亜種小名) が使われたのか想像できる傾向があるように思える。和名が学名に採用されていることもこのような事情が背景にありそうに思える (わかる範囲で個々の項目で説明してある)。
日本で記載されれば japonensis と名付けてもよさそうだが、一度使われるていると同じ属ではもう使うことができない。日本で記載された亜種小名に何でも japonensis (や japonicus など) が付いていない理由にもなる。
また日本の鳥の学名を多数付けた Temminck は同じグループが複数種する存在する場合は地域名を用いた japonensis を意識して避けていたと考えられる (#タンチョウの備考参照。Temminck 自身は Grus japonensis を適切な学名と考えておらず改名提案を出していた)。
人名を付ければ一般的には重なる心配が少ないと思われるが、それでも同じ属ですでに使われた人名の亜種小名が使われて変更されたことがあった (例えば#コゲラ)。
属を細かく分けることは細分主義と批判されることもあるが、種小名や亜種小名の自由度の観点からは属は分かれている方が都合がよいことになる。
#クロジのようにおそらく解釈の誤りから付けられたと思われる学名もあり、付けた学名を変更することはできないので解釈を含む命名は命名者にとってもリスクが大きいとも言える。色彩のような客観的性質をもとにした名称が多いのもそのためかも知れない。
古い文献に現在の分類に対応する過去気づかれていなかった学名が後日見つかることもある。多数が同意すればその学名に変更されることもあるが、ほぼ使われた形跡のない学名であれば「忘れられた学名」(nomen oblitum) と処理されることもある。
このあたりは判断の分かれる部分もあり、裁定が必要となれば ICZN が行う。
#オオムシクイなどの定義が決まったかのように見えるがこの問題が残っている。メボソムシクイ (世界的にはコムシクイ) のグループにさらに古く記載された学名があり、もしオオムシクイと同種であればこちらに先取権が発生する可能性がある。
しかし繁殖地でなく渡り途中に記載されたものでどこで繁殖する個体群かわからない。記載時の標本があるはずだがオオムシクイが別種とされた論文ではこの標本を見つけ出すことができず、複数の種に分かれることを主眼とした論文なので先取権の扱いが曖昧なままとなっている。将来標本が発見され DNA 解析が行われ、変更すべきとの主張があればオオムシクイの学名が変わる可能性がある。
属と種、種と亜種の関係は似ているところもあるが若干違う。種と亜種の関係ではその種内で最初に記載された亜種が基亜種となり、種小名はその亜種と同じになる。分類変更などで種の分割・統合などが行われれば基亜種はそのグループ内で最初に記載された亜種になるので分割の場合はどちらかの種の種小名が変わり、統合の場合は地理的に遠く離れた亜種が基亜種となることもある。
属の場合はこの規則ではなく、属ごとにタイプ種を決める (新しく記述する場合は命名者が定義することになる)。Linnaeus (1758) のような古い時代になるとこの定義がないため、例えば同じ属内の出現順など別途定義することになる。
属のタイプ種は定義によるものなので表面上 属名 = 種小名 であってもタイプ種とは限らない (#ミソサザイ参照)。
分子系統解析などによって属が分割される場合はどの種がどの属名になるかはその種の属する (現代の分子系統解析によるものならば) クレードのタイプ種で決まる。そのため現在 属名 = 種小名 のミソサザイであっても別の属学名に変わることが考えられる。
属が分割される場合、分割されて新しく生じる系統の中に過去の属のタイプ種となるものがあれば話は簡単で新しい属名はその属になる。複数ある場合は記載の早いものが採用される。優先順位が決まらない場合は裁定が行われる (Accipiter 属が分離されて生じた Tachyspiza 属はこのようにして決まった)。
ない場合には新しく決める必要がある。種を分割する時に亜種の記載順でほぼ自動的に決まるのとは多少異なる。
属分類については類縁性や独自性を指標とする従来の分類学では分類学者によって扱いに多くの違いがあった。分類学者によっては少しでも違った特性のあるものを独立属とすることもしばしばあった。
おかげで上記のように属を分割する場合は過去の名前があることが多く比較的問題が少ないが、Charadrius 属の分割で選択肢が1つしかなくあまり適した名称でないためにちょっと困った状態になっている。複数ある、あるいはまったくない場合はより適切な属名が選べるが、1つだけあるのが問題となっている。
#イスカでも同様の問題があって、このあたりの属名が比較的細かく分かれている理由の一つとなっている。属を統合すると Linnaeus (1758) が記載した "イスカ属" になってしまうのである。
また属学名は分類学者が与えるものなので、同じ学名を別の分類学者が異なる分類群 (しかも鳥とは限らない) に対して与えてしまうことがしばしばあった。
ある属名がなぜ使われなくなったのか、鳥の学名辞典 (大変すぐれたものがあるが鳥以外は載っていない) だけではわからない場合もある。
鳥の内部でも同名の属で複数の定義があって不明瞭となる場合はそれまでの属学名を破棄して新しい属学名が与えられることがしばしばあった。
また分類学者が同じグループだと考えて与えた属が実は複数のグループを含むことが判明して使われなくなったものもある。
亜種についてはかつては色彩や計測値のわずかな違いで別亜種と記載された例が多数あり、「区別できない」として一部は整理されたがまだ多数の亜種が未解決のまま残っている。これも現代は分子系統解析待ちの部分が多く、かつて亜種とされたものが分子系統解析では入り混じっていることが判明して統合される場合もある (種レベルではベニヒワとコベニヒワなど)。
外見での区別可能性より分子系統解析で個別のグループとして区別可能かが次第に重視されるようになってきている。
亜種概念は比較的新しいため、それ以前に使われていた「変種」(var.) を現代の亜種と同等のものとみなすかどうかの議論もある。例えばコサメビタキの学名が IOC リストで何度も変わったのはこのため。亜種時代であれば目立たなかった問題だが、種に分割された後の種小名は最初に記載された名前で決まるため。「変種」(var.) は亜種とは違う、いやそうでない用例がある、などの見解が対立していた。
これも「最初に記載された名前」である要件が理由で、どうしても古い時代の文献になる。亜種が一般的に使われる前の記載はどのように扱うかが問題となった。過去に別種扱いで同種扱いになった場合は (さらに合体などがなければ) 過去の種小名が亜種名となる。
もう一つ、このような分類変更に伴って重要となるのが基産地 (type locality。ラテン語 terra typica 模式地 の方が厳密な訳語かも) である。繁殖分布などではあるい程度わかりやすく、繁殖地で採集された標本であれば、種や亜種に分割される場合はその場所を含むグループの名前になる。
例えば#フクロウでは日本で最初に記載されたのが九州であったためこの場所を含むグループの名前が決まる。
九州の採集地フクロウの亜種学名は変わる心配はないが、日本の他地域は分類や亜種分布の考え方次第で何とも言えなくなる。Temminck and Schlegel (1850) の記載でも実はあまりすっきりせず、後に Hartert (1913) が九州と判定したというもの。
古い記載は先取権の原則から生き残る可能性が高いが、場所の特定はこのように確実性を欠く場合もある。偉い人が定義し、異論がなかったのでそれに落ち着いている感じ。世界から見れば日本列島は小さなものなので九州まで特定すれば十分だろうとしたと見えなくもない。
北海道以外のフクロウは同一亜種とする立場であれば北海道以外は亜種 fuscescens となることになる。
現状では自分が住んでいる場所のフクロウがどの亜種なのか自信を持って言えないのである。
IOC では世界で 10 亜種なので、そのうち3亜種が (離島の固有亜種ならば理解しやすいが) 狭い本州以南の日本列島に集まっているのはちょっとおかしい、もうちょっと整理して欲しいと感じる人も (おそらく世界的視点からも) あるだろう。
自分は IOC を使っていて亜種 momiyamae は有効だが、自分の地域 (京都) のフクロウは亜種 hondoensis としている。
世界を最小の8亜種とする分類ではそうなっていることも理由の一つだが、momiyamae は整理されるならば一番最初にシノニムになる可能性が高いので今のうちから準備しておこうと...。
このように種や亜種を見る時は図鑑の分布だけでなく基産地にも注意していただくときっと面白い。
普通種の中に「こんなところが基産地?」と驚かれるものがおそらくいくつもある。
例えば亜種ハヤブサはいかにも日本の繁殖地で記載されたかのような印象を受けるが実はそうではない。
亜種の分布の記述には基産地周辺のみを示したと想像できるものがいくつもあり、そもそも亜種に値するかわからないが研究がなされていないために便宜上そのまま残されているもの多いと思われる。
種の識別の次は亜種識別と掘り下げたいことはよく理解できるが、このような事情で残っている亜種もあるのであまり深入りする必要もないのではと感じる。
状況は種によって大きく違い、種分割に値する亜種から単なる地域で色の傾向の違いを表したものなどさまざまなものがある。標本による分類の時代が長かったので音声などはあまり考慮されてこなかったことが多い。歴史も見ながら個々に検討されるのがよいだろう。
Should we consider lumping more subspecies? (Birdforum 2025.1) にも議論があるので紹介しておく。全亜種数はあまり変化がないが種数は増えている (新しい亜種の記載はほとんどない)。古く記載された亜種は現代の解析を行えば生き残らないものも多いだろう。英国のリストでは自国に別亜種を与えたかったらしいなど。
亜種を過剰に記載するのもどうかと感じる場面が多いが、記載されていないことで困る場合もある。分子系統解析では#ミサゴの極東個体群は亜種相当と考えられるが過去に記載された適切な亜種がない。分子系統解析で亜種名が記載される可能性のある個体群である。
学名の歴史を見ていると、18 世紀後半から 19 世紀に主にヨーロッパで急速に物事が進展したことがわかる。世界史的には当たり前なのだろうが歴史の教科書のできごとで少し実感が薄い。
自身は本文中でもしばしば述べているがクラシック音楽、特に近代産業の申し子のようなピアノをやっていたこともあってこの時代は非常に馴染みがある。19 世紀半ばにはロマン派音楽もほとんど完成形で、我々が普段よく聞くクラシック音楽作品はこの時代の名作が多い。
この時代に音楽家たちがどれほど腕を競い、限界を極めて名作を残したかを知っていると、博物学 (学名) の世界もよく似て見える。つまり 19 世紀半ばにはすでに完成度の高いものになっていて、ヨーロッパからみて海外の標本を記述する時代に移っていたことがわかる。日本の鳥に学名が付けられたのはこの時期と考えると時代背景が非常によくわかる気がする。
クラシック音楽 (以外でももちろん構わないが) に興味のある方は記載年代の類似性にも注意を払っていただくと面白いだろう。プロコフィエフの日本滞在は 1918 年で西洋の大作曲家の最初の日本訪問であった。日本の「越後獅子」がピアノ協奏曲第3番に影響を与えたとも言われるが、この時代になるとかなり近代のクラシック音楽でついて行きにくい方もあろう作風の時代であった。
作風とは言えないかも知れないが、この当時の学名を見ると 19 世紀半ばまでの絶頂期からはかなり離れている印象を受ける。新しい学名がすでにあまり付けられない時期に入っていた。他の分野の歴史とも比較して楽しんでいただきたい。
個人的に日本産種で傑作の学名と感じるのが#ゴビズキンカモメ。記載当時の学名だけで本質を見事に表していた。
- 本ページでは、「日本鳥類目録 改訂第7版
」掲載の 633 種を同書の配列順により掲載している。
改訂第8版で新規掲載された種も掲載しており、第8版準拠の#リンク集も用意している。
亜種についても備考で触れている。「日本鳥類目録 改訂第7版」非記載の鳥 (外来種) を掲載している。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、パブリックコメントへの回答、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト (目録第8版出版前段階のもの) も踏まえている。種名見出しでは目録第8版で種の分割、合体により学名が変化するものに注意を促す意味で注釈を加えた。属名のみの変更は記していない。
- 改訂第7版から第8版への移行に伴い、第8版学名と第7版学名を併記した。種分割などにより学名が変化するものは由来をわかりやすくするために第7版時代の学名に亜種も追記してある。
複数の亜種がある場合、多くの場合は最も古く命名された亜種と最も一般的な亜種が同一であるが、例外もあって例えば第8版の亜種キジの亜種小名は第8版で使われる種小名と同じではない。
さまざまなケースがあるため統一的な取り扱いはできない点をご了承いただきたい。
#ツメナガセキレイのように複雑なケースもある。この場合では第7版で用いられた亜種が別亜種のシノニムとみなされ、第7版亜種名に現れない種小名に変わっている。
#オオモズでは種分割が行われた結果、日本産亜種が主に北米種の亜種となったため第7版亜種名に現れない種小名に変わっている。
#オジロビタキと#ニシオジロビタキは一見第8版で分割されたかのように見えるが、第7版ですでに分割されていた。
- なぜ第8版配列版を用意しないか疑問に思われている (あるいは待たれている) 方もあろう。
日本鳥類目録改訂第8版の配列は IOC 13.2 に基づくものですでに最新のものではなくなっている。このころから現在 (2024) に至る IOC 配列は世界のリスト統合作業を優先しているため上位 (高次) 分類にはあまり変更を加えていない。
この作業は1年程度で完了すると想像される。IOC 14.2 までの IOC 配列は実質 Prum et al. (2015) のままであるが、2024 年に現世鳥類全体を含む新しい系統研究が発表されており、これらの結果も吟味した上で次第に反映されてゆくことだろう。つまり数年のうちの上位 (高次) 分類の配列は変わると予想される。
例えば Boyd のページでは上位 (高次) 分類の配列変更をすでに取り入れている。
IOC 15.1 では分子系統研究の進んだタカ目内部配列は新しいものを採用することが表明されており、これは他の分類群においても今後同様に進んでゆくだろう。IOC 15.1 で Turdus (ツグミ) 属内配列を並べ替えることが表明された (2025.1.20) が、
Latest IOC Diary Updates 問題点の指摘を受けて元に戻した。オープンな議論を受けて柔軟に対応しているのは素晴らしい。
IOC World Bird List Updates (2024.11.16 参照) によれば IOC 14.2 で分類が変わったものは 105 種、15 属が追加、2 属が削除、1 科が追加、とこれまでの更新の中でも規模が大きかったことがわかる。
2021 (IOC 11.1) 年以降のデータが載せられているが近年の分子系統研究や世界のリスト統合への機運を受けた加速傾向が読み取れる。分子系統研究による分類が広く受け入れられるようになって客観的な判断材料や基準が整ってきたため世界のリスト統合もようやく可能な段階になったとも言える。
この状況をふまえるとどちらも最新でない点では第7版配列でも第8版配列でも実質大差なく、第7版から第8版移行で検討種になったものもあるので第8版配列順に変更するのは少し扱いにくいのである (第8版に間に合わなかったが、カタグロトビの記載論文はすでに出版されている。これまで通りの扱いであれば今後 10 年ぐらい検討種のままとなるのだろうか。本稿には含まれていた方がよいと考える)。
IOC 13.2 で中途半端に固定にするのか、配列を今後の世界の変更に合わせるのかの問題もあり、物理的な順序入れ替えは行わずに新リストはリンク集として配列を示すこととした。
今後新しい IOC 配列に従ったリンク集を用意することも想定できる。
- 和名による分類階級は、目・科・種を記載し、日本鳥類目録第8版で新たに付いたもの以外の属和名の表記は原則省略している。
- このページへの個々のご意見・ご質問等は上記執筆者メールアドレスか ML Kbird を通じてご連絡ください。サイトへの全般的ご意見・ご質問等は、[ご連絡] のページより、メッセージ先頭に「野鳥の学名入門」と記し送信してください。
- 追記した備考では細分した中間的な分類概念をしばしば用いている。上位概念から順に 目 (order) - 亜目 (suborder) - 科 (family) - 亜科 (subfamily) - 族 (tribe) - 属 (genus) - 亜属 (subgenus) - 種 (species) - 亜種 (subspecies) のようになる (Taxonomic rank)。
太字が必須項目 (亜種まで記載する場合は亜種も必須になる)。亜種のない種を単形種 (または単型種、漢字の選択は日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に合わせた) と呼ぶ。英語では monotypic species。
近年は分子遺伝学の進歩により従来単一であった属が単系統でないことが判明し、複数の属に分割されることも多くある。日本国内の種に限れば一属が一種となるものも多く、属名から類縁関係を推測しにくくなっているケースもしばしばある。これらの場合に族などの中間的な分類概念を適切に使うことで分類的位置がわかりやすくなることもあり、実際に利用されている。
また非常に大きな分類群においては下位の中間的な分類概念を使うことは実用上も意義があり、従来も「ヒタキ科ツグミ亜科」のような使い方がなされてきた。近年の分類で亜科の分け方が大きく変わっているものもあるので (#ヨーロッパコマドリの備考参照) 注意が必要である。
種より上位の分類概念には定まった規則がないため、現在でも、そして今後も属の境界をどこに置くか、中間的な分類概念をどの段階に適用するかなど分類学者の間でも意見が分かれる場合もある (もちろん独立種と認めるか亜種とみなすかなどの議論もさまざまな形で存在する)。
現世鳥類を何科に分けるかのようなレベルでも議論があり完全な合意が得られているわけではない。
分類学進展の一断面と取り扱っていただくのがよいだろう。
この (生物学的) 階級 (rank) の他に、上種 (superspecies)、例えばメボソムシクイ上種のように、近縁種をグループ化した名称 (species complex、例えば herring gull complex、sibling species 兄弟/姉妹種) もしばしば使われる (Species complex)。対応するラテン語用法に sensu lato (s.l.) 「広い意味で」があり、種名の後に s.l. を付けて類縁種を含むことを意味する。
〜の一種を意味する sp. は属名に付けて、その属の一種を意味するものだが、メボソムシクイ属のように大きな属の場合は、メボソムシクイ属 sp. のような使い方は望ましくないかもしれない。メボソムシクイ s.l. とすればメボソムシクイ上種を表すことができるであろう (が、分類専門家の意見を聞いたわけではないので正確ではないかも知れない)。
近年提唱されているこれまでの Accipiter 属の分割が行われれば、これまでのハイタカ属 sp. のような表現は厳密には意味をなさなくなる (eBird では 2024.10.22 よりこの表現が廃止された)。
sensu lato の反対の意味のラテン語は sensu stricto 「厳密な意味で」で、s.s. または s.str. と略される (が分類学の論文以外で略号で使われるのをあまり見たことがない)。これらの用語を知っておくと海外の分類などを見る時に役立つだろう。どちらにしても厳密な定義のある概念ではない。
- 亜種そのもの記述は属名・種小名・亜種小名からなる三名法を用いるのが正統的であるが、備考では亜種の解説などの際に煩雑になることを避けるため、亜種(小)名を主に用いている。
- 外国語を記述する際に、非ラテン文字 (ギリシャ語、ロシア語など) は標準的なラテン文字転記で表示している。英語以外ラテン文字やラテン文字転記されたギリシャ語で広く使われるアクセント記号類は省略しているので、出版物などに用いられる場合はもとの綴りを確認されたい。
ロシア語のラテン文字転記は基本的にもとの表記に戻すことができるが、ギリシャ語ではアクセント記号類を省略しているためこのラテン文字転記からもとのギリシャ文字表記に戻すことはできない。なおドイツ語のウムラウトのみは標準表記に従い、e を追記して示している (同じ文字を使っていてもスウェーデン語では e を追記しないなどの不統一が発生するがご理解願いたい)。
- 標準和名は日本鳥学会が定めた名称で、これ以外の名前を使ってはいけないわけではない (例えば分野によっては実用上の観点から古くから知られた別名が使われることもある)。論文などを記述する場合にはどのリストに従うかが示されていると思われるので、日本の鳥については標準和名を用い、それ以外については他のリストを用いることなどになるだろう。
この稿では備考などに登場する日本鳥学会のリストにない鳥については原則 Avibase (一部 eBird) の和名を用いている。英名はもっと事情が複雑で頻繁に変化すると考えてよい。学名も結構よく変化するので、日本の鳥に限って観察・記録する場合は標準和名を使っておくと後々名前の修正を行う手間が少なくて済むだろう。
- 写真などを整理する時に、生物の階層分類に従ってファイルを整理するのは極めて自然なアイデアであるが、分岐分類学の進歩に伴って大胆な分類変更が行われることがある (例えばウ類はかつてペリカン目だったものが現在はカツオドリ目に移されている、サギ類はコウノトリ目だったものがペリカン目になっている、ツグミ類とヒタキ類の再編が行われたなど)。
上位分類はもうあまり変わらないかも知れないが、属分類の変更は今後もあると思われるので、分類を基準に体系的な配置を行ってこられた方 (あるいは種の説明に上位分類まで記載されてきた方など) は最新分類を常時意識されるとよい。
思わぬところで思わぬ変更があったりする。あまり「がちがち」にデータベースを作ると変更に大変な思いをすることもあるので、柔軟に変更できる構造にしておくとよい。
- 海外探鳥などをされる方は日本産鳥類ではカバーできないので IOC 分類などを用いられる方もあるだろうが、これもよく変更がある (1年に2回更新) ので最新版をフォローするのはなかなか大変である (それはそれで面白いわけだが)。もうちょっと高度 (超マニアック?) な楽しみとして、最新文献をチェックして次の分類変更を予測するなどもある。
海外にはそのように楽しんでいるバーダーや野鳥関係のフォーラムもあり、日本のバーダーも学会の判断を待つだけでなく、もっと関心を持つとよいのではないかと思う。
例えば日本鳥類目録第8版が出ても次の改訂には時間がかかるであろうから、海外の分類動向も変わってゆくであろう。(用いるリストが指定されている論文や出版物に使用する場合を除いて) その間に第8版の学名を使い続けるのか、海外のものに合わせてゆくかは個人の裁量の範囲であろう。
日本鳥類目録第8版の編集について [西海功 (目録編集委員長) 日本鳥学会 鳥学通信 2022] で西海氏も「IOC Listを基本にして著者の判断も加えながら独自の分類でフィールドガイドを作ることもできる。このような図鑑を良く思わない人もいるが、私はむしろ歓迎したい」と書かれている。
日本のサービスでも IOC 分類をベースに定期的に分類を更新しているものもある (例 https://zoopicker.com/)。
後の各種ごとの補足説明にもしばしば現れるが、日本周辺だけデータが不足していて分類が確定できないケースがある。バーダーがもっと関心を持って取り上げれば遺伝子解析などを行える専門家にとってもよい刺激になるのではないかと期待している (最初から余談ばかりであるが...以後脇道が多いので不要の方は読み飛ばしていただきたい)。
- 海外の国のチェックリストはどう管理されているのかを知ることもよい刺激になるだろう。例えばフィリピンでは The Wild Bird Club of the Philippines (日本野鳥の会のような組織) が管理をしており、毎年更新されている: Checklists of the Birds of the Philippines。コメントを送ったこともあるが文献も付けてしっかり返事をもらえた。信頼できる野鳥のチェックリストがない国もあり、世界のデータベースなどを検索して気づかれるかも知れない。
- 国レベルのチェックリストではないが、日本で言えば都道府県レベルのチェックリストを維持しているところも多くある。スウェーデンのサイト Vastmanlands faglar などは地域レベルの記録を管理されている方には興味深いだろう。個々の文献も収集してスキャンなどを公開している (Referenser から見られる)。
- ドイツの鳥学会が世界の鳥のドイツ語リストを 2022 年に発行。Die Voegel der Erde で 540 ページの本を無料公開!
- こちらはフランス語版世界の鳥リスト。IOC よりさらに先行してここで紹介しているような新学名にも対応! 改訂も頻繁に行われている模様。Noms francais normalises des oiseaux du monde - 2024 - version 6.3。
ダウンロードも可能。学名は Gaudin のものを使っているかも知れない。
- 本稿ではさまざまな論文にリンクを張っているが、なるべくフリーアクセスできるものを優先した。ページから [Download PDF] などのメニューに従えば読めるものが多いと思う。
文脈や学術雑誌名からオープンアクセスに見えにくい場合のみ「オープンアクセス」と明示したものがあるが、その表示がなくても実際にはここで示した論文の多くは誰でもフリーで読むことができる。
アクセス制限が表示される場合は論文表題を用いて検索してみていただきたい。例えば著者レポジトリなどで全文が読めるかもしれない。また雑誌によっては一定期間後にオープンアクセスになるものがある。
報道記事などへのリンクはたどれなくなっているかもしれない。その場合はインターネットアーカイブなどで読めるかもしれないので試していただきたい。
(論文以外の) ロシア語の書物は原則リンクを張っていないが、ここで挙げてある文献はほぼオンラインで見ることができる。探し方は最後の参考文献の部分を参照。
- そもそも学名を知って何の役に立つのだろうと思われる方も多いだろう。かつては「世界共通の名称なので海外の人に伝える時や海外図鑑を見る時などに役立つ」とも言われていたが、日本鳥類目録第7版以前で日本で使われていた学名は古いものもあり、世界のリストと異なる分類も採用されていたために実はあまり世界共通の名称として使えなかった。
目録第7版ではかなり世界の分類に近づいたが、それ以降に分類が改訂されたものなどは反映できていないため、ごく身近な鳥、例えばウグイスでさえも日本の学名が海外のものと合わなくなってしまった。1種が複数に分割された種などでは日本の学名で海外に出すと全然違う種類を指してしまうことも生じた。
海外図鑑を購入された時に和名を書き込む作業をされる方もあると思うが、学名がいかに異なるかを実感されたであろうと思う。目録第8版では世界のリストとほぼ同じになる見込みだが個々のケースでは注意が必要なものもある (それぞれの備考に記載)。
実際上は英語のわかる海外バーダーであれば英名は把握していることが多いので、海外バーダーもそもそも知らない学名よりも英名の方が通じることが多く、この意味での学名の必要性はあまりなくなってしまったかも知れない (それでも亜種等の細かい話ではやはり学名を使わざるを得ない)。英語圏以外の場合は長い学名を使うよりもそれぞれの現地語を覚える方が手っ取り早いこともある。
それでも英語以外で書かれた海外の書物やウエブページを参照する場合は学名は一定の役に立つ。また画像や映像を検索する場合でも学名で検索すれば日本語や英語以外のページも多数ヒットするのでこの効用は大きい。もっとも検索程度であればその場でコピー・アンド・ペーストをすればよいので学名を記憶するほどの必要性は少ない。
近年分子遺伝学の目覚ましい進歩で系統樹を見る機会が圧倒的に多くなった感じがする。例えばヒトの進化や新型コロナウイルスの新しい株の名前など、一般的なメディアでもよく見かけ、系統樹に馴染みのある人も増えているだろう。
ちなみにこのような目覚ましい進歩は次世代シーケンサー (Next Generation Sequencer, NGS) のような分析装置や、その結果から塩基配列を構成するコンピュータプログラムの進展によるものである。遺伝子やゲノムの解読は日常的に行われる時代であり、「ヒトゲノム計画」の時代には月着陸に匹敵する大偉業と呼ばれていたのとは隔世の感がある。
新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) が「新型肺炎」の形で最初に見つかった時に NGS が使われたことを後に知り、初期になぜあのような形 (まず SARS の再来が疑われた) で物事が進んだのかを納得できた。このあたりは報道に出てくることもまずなく、現代生物学のリテラシー不足によって疑似科学的な説を容易に受け入れてしまう原因にもなっているように感じる。
事情は鳥類でももちろん同じで、全鳥類種のゲノム解読を行う野心的プロジェクト The Bird 10,000 Genomes (B10K) Project が走っている。
別種か、あるいは別亜種か、などの説明を見る時には分子系統樹を目にする機会が増えている。系統樹では一般向けに分かりやすく描き直したもの以外では通常学名しか出てこない。すなわち学名をある程度読めないと系統樹をまったく読めないのである (これは種や亜種分布の地図などでも同様)。
これは現代生物学の面白みを半分捨てているようなものである。ちようど辞書を引けば英語が読めるがそのままでは読めない状況に似ていて、手間をかけて知っている和名などに翻訳して書き込むか、そのままで読めるかの違いになる。後者の方がずっと気軽に扱えることは間違いないだろう。このような経験を通じれば学名も (見ればわかる程度には) 案外覚えてしまえるものである。
また、海外の保護種 (レッドデータブック) リストなどで現地名と学名表記のことがある。知らない言語の場合は学名が手がかりになることは従来と同じである。
それ以外にも、和名や英名と同様、学名にも命名者の思いが (時には勘違いも) 込められていることもある。それらも読み取って歴史を振り返る楽しみがあるだろう。
- 作業を通じて改めてわかってきたのだが、現在は分子遺伝学による系統分類の大変革の時代のようである。日本鳥類目録 改訂第7版 で分類や学名が大きく変わったものがあり、第8版でも多くの属分類が変わる予定で、この傾向はまだしばらく続くであろう。
その昔は新しい地域を探検すれば新種や新亜種が次々と記載されて行ったが、その分子生物学版がまさに進行中で、昔で言えば探検に相当するであろう遺伝子やゲノムを調べれば系統にかかわる新しい知識が次々と生み出されていく段階に当たっている。
ただしこれも全種を十分調べればいずれは種レベルでは全系統がほぼ (種境界や解釈の難しい系統の問題などは残るだろうが) 明らかになって、ある程度の期間で落ち着くと思われる。第8版ではまだその段階に達しておらず、未処理部分が多く残っていて将来の改訂を待つことになるだろう。
次々と新種が発見されるように、これまでわかっていなかった系統関係が次々とわかってゆく現代に生きる者として、その面白さをリアルタイムに味わわないのはもったいないぐらいである。
ほとんどの情報は英語論文などの形になって残念ながら日本語のみではほとんどうかがい知れないだろう。
そのような英語論文や記事などの系統樹を読むにあたって、本記事が手引きの一つとなれば幸いである。
また遺伝情報はデータベース (GenBankなど: 学名検索もできるのでうまく使えばいろいろな情報にアクセスできる) で公開されており、それなりの計算機資源は必要だが分子系統樹を作ってみたい人は自分でも作ることができる。
GenBank のサービスを用いた簡易系統樹の作り方の解説: Owls (Birdforum 2025.1)。
#ハチクマ備考 [フィリピンのハチクマの不思議] 末尾に実行例を示した。
ごく最近になって知ったのだが日本と共通種のゲノムが海外で結構読まれている。興味ある方は探してみていただきたい。同種で日本と大陸とゲノムがどの程度違うのかなど解析さえできれば調べることができるものもある。Catanach et al. (2024) のタカ類系統樹作成にも使われていた。
識別を極めたい方はゲノム解析にも挑戦されてはいかがだろうか。
科学のいろいろな分野でも同様であるが、最先端の情報は専門家だけのものの時代ではなくなっている。
- 自分も詳しく知っているわけではないが、学名の命名には詳細な規約がある。現在使われる学名はその規約に基づいて了承されているものだが、そこに至る経緯は必ずしも平坦なものばかりではなかった。
学名には先取権 (priority) の原理があり、同じものに名前を付けた場合は早く付けられた名称が有効になる。後に付けられた名称はシノニム junior synonym となる (junior synonym の和訳は複数ありジュニア・シノニム、後行シノニム、新参シノニム。シノニムの部分も異名と訳されることもある。本稿では紛らわしいことはほとんどないので単純にシノニムと表記した)。
気づかずにすでに他で発表された学名と同じものを発表してしまうと無効な学名になる。
このあたりは常識的にも理解しやすいが、実際に学名が決まる過程はしばしば非常にややこしく、使われるようになってからかなり後にその名称がすでに使われていたことがわかって改名されたことや、
古い文献では綴りが違っていたり語尾が省略されていたりしたものが訂正されて使われていることもあって、どれが正しいのか議論が発生するなど様々なケースがある (サカツラガンの学名変更は未確定のケースにあたる)。
個々のケースでわかる範囲で説明を加えてあるので学名の世界を楽しんでいただきたい。
最近多い学名変更は分類の見直しによるもので、分子系統解析の結果1つの属が単系統でないことが判明して複数に分割されるケースなどが多い。我々が通常みかける学名変更はこのケースが多い。
ラテン語には文法上の性があるので、属変更の結果で属の性が変わると種小名の性もそれに合わせて変化する (形が変わらないこともある)。
また種の中の亜種が独立種とされる場合も種に相当する学名が付くことも容易に理解できるであろう。
その亜種がもとの種の基亜種 (その種で最初に記載された亜種) であった場合は2種に分離された場合に分離された種の方が学名を引き継ぐことになる。日本で通常記録される亜種が基亜種でない場合は日本で通常記録される種の学名の方が変わることになる (ツグミとハチジョウツグミ、アオジとシベリアアオジなど)。
ある亜種が別の種の亜種とするべきことが判明した場合は亜種の移動になるが、これも基亜種の移動の場合や移動先で基亜種になる場合は種の学名に影響が及ぶ。
これらは分類概念による部分があるので、異なる分類学者が異なる学名を用いる要因の一つとなる。
また現代では珍しいが、異なる属が統合された結果同じ属に同名の種小名が生じ、後に付けられた方の学名を変える必要が生じることもある。
これらも個々の事例でわかる範囲で説明を加えてある。
(この部分は先に記したもので内容が重複する部分があるが残してある)。
- アメリカやカナダでは、個人名の付いた英語の鳥名の名称変更の動きがある。American Ornithological Society Will Change the English Names of Bird Species Named After People (2023年11月)
はアメリカ鳥学会の動きであるが、特定の人名よりは鳥の特徴を表す名称に変えてゆくとのことである
(現代では受け入れがたい価値観の個人にちなんで付けられたなどが問題となったことが発端にある。Bird Names for Birds 運動についての wikipedia 解説。スウェーデン鳥学会や NASA も名称や取り扱いを変更したとのこと)。
この動きは世界の英名、あるいは場合によっては他国語名にも影響を与えると考えられ、今後注視してゆくべきであろう。
日本ではむしろ和名の由来となった人物を紹介するなど行われているが、あるいは我々は個人名を鳥名に付ける議論への感度が低いのかも知れない。
この動きを受けてアメリカでは早速「元オバマ大統領にちなんで付けられた鳥の名前はどうなる?」の議論が出ている。これはニシオオガシラ Nystalus obamai IOC 英名 Western Puffbird であるが、英名 (アメリカ名では Western Striolated Puffbird) に人名が入っていないことから変わらないそうである。学名はそのまま維持される。
英語以外の言語ではオバマを冠している名称もあるようである。
wikipedia 英語版によれば Mr. Donald Trump にちなんだ学名を持つ生物は複数あるそうだが、鳥は含まれていない。
ウイルソンアメリカムシクイ Cardellina pusilla (Wilson's Warbler) も改名の対象となっており、英名が変更された場合に和名はどうするだろうか。
改名に関する話題については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名]、#アホウドリの備考 [語源や関連する用例] もご覧いただきたい。
学名に関する規則は違うが、植物では 2026 年から一部の学名を変えることが決まった。Hundreds of racist plant names will change after historic vote by botanists (Nature news)。差別的な名称に基づく理由で生物の学名が変わるのは史上初めてとのこと。
- その後アメリカ鳥学会の動きが予期せぬ波紋をもたらしている。北米と南米の種の検討委員会 (南米は South American Classification Committee, SACC) は近年は 20 年以上協力して名称を決めていたが、アメリカ鳥学会の英名決定に SACC が関与できなくなったため協力関係を打ち切り、SACC は IOC と連携して世界の鳥のチェックリスト作成に関与することとなったとのこと
(#ハヤブサの備考の [ハヤブサ目の系統分類] と紹介リンク先参照)。
北米と南米は共通の渡り鳥などがあるが、米国と南米で異なる英名が使われる事態も発生しそうである
(深読みしたいこともあるのだが皆様のご想像にお任せしたい)。
- 2024.5.13 上記 SACC のことも触れられ、パイロットプロジェクトで国外への影響の少ない種に絞ったパブリックコメントが開始された: AOS Pilot Project to Change Harmful English Common Bird Names。
AOC/AOU の動きに連動して分離などで種に新しい英名を用いる際は人名を排除する傾向が強まっており、後述の WGAC でも合わせる動きがある。#カツオドリや#オガサワラミズナギドリ (旧名セグロミズナギドリ) の備考など参照。
Winker (2024) Bird names as critical communication infrastructure in the contexts of history, language, and culture
(特に人名由来の) 英語鳥名の変更の動きについての議論。歴史的な様々な経緯がある。英名の方が学名より安定している。
確かにハクトウワシが "Bald Eagle" と呼ばれるのは適切な名前ではないが、変更するとより多くの人とのコミュニケーション上支障をきたす可能性があるので、著者としては不本意ではあるが受け入れるなど (決断して変えればいずれは定着するのだろうが...)。
種英名を大文字で始める習慣は (本来はどちらでも構わないが)、種名を固有名詞のように扱って一般的記述と区別しやすくできる利点がある (日本の例だと white wagtail は白いセキレイだが、White Wagtail と書けば種ハクセキレイを表していることが区別できるなど)。
- 世界に鳥が何種いるのか、面白い考察がある。Barrowclough et al. (2016) How Many Kinds of Birds Are There and Why Does It Matter?
種に形態的違いによって分けられた生物学的種から新世界の 200 種をサンプルして形態、遺伝情報、分布をもとに進化的種概念で種数を推定すると 18043 種 (95% 信頼区間 15845-20470 種) と推定され、現在用いられている分類学は種多様性を大幅に過小評価している可能性があるとのこと。
種数が2倍になっても過剰評価とは考えず、むしろ多様性の正しい理解の結果であり、保全にもより有効であると考えている。亜種は古く形態学的に記載されたものが多く、地理的なクラインなども多いためそのまま種に昇格が適当とも言えない。
- Clements 2024 checklist update によれば、Clements 2024 の改訂草稿が公開されているとのこと (2024.6.25)。2024年10月に発表の予定。
The eBird/Clements checklist of Birds of the World: v2024 にて公開された (2024.10.22)。
Clements Checklist v2024: Excel spreadsheet; CSV file。
同じページから eBird で報告可能な分類概念一覧もダウンロードできる。Accipiter sp. の概念はなくなり、4属を含んで我々からみるとより広義の Accipitrine hawk sp. の名称となった。
Island Thrush はなんと 17 種に分離! #アカハラの備考参照。
シジュウカラは Parus cinereus に含まれた: #シジュウカラの備考参照。IOC 14.2 もこれに従っている。
タカ類の新分類を採用: #アカハラダカの備考参照。Say hello to Astur for Cooper's Hawk and American Goshawk for you Americans! (アメリカ人にとって Astur = オオタカ属さんこんにちは) とある。
アメリカのデラウエア自然史博物館も展示の学名変更に向けた記事を出している: Evolutionary Breakthrough of Hawks and Eagles (Accipitridae)。この博物館の学芸員が論文共著に入っているので率先して行われるのだろう。
birdforum.net の記事によればこれまでの Accipiter から分割された -spiza で終わる属名は女性名詞とのこと (ICZN Article 30.1.2, 30.1.3 による)。
個々の種の分離の話題などは birdforum.net のスレッドを参照。
IOC でも 14.2 に向けて Proposed Splits/Lumps, Taxonomic Updates
などの改訂が順次発表されており、Clements 2024 を少し後追いする形となっているが、用いている文献が同一なのでほぼ同じものを採用している (例えば Island Thrush は 17 種)。
その後 14.2 が発表されたが、一部改訂は 15.1 に回ることとなるとのこと。
Working Group Avian Checklists (WGAC, 世界の統一チェックリスト。次項目参照), version 0.04 もタカ類の新分類を採用。世界の主要リストの学名が一気に変わるだろう。
2024.8.2 IOC 14.2 もこれまでの Accipiter を5属に分割 (一安心)。
2024.8.14 IOC 14.2 に移行開始とのこと。v14.2 red, Excel File を公開。
2024.8.19 IOC 14.2 に移行 v14.2 Excel File。
wikipedia 英語版も新しい学名を用いている (2024.8.29)。2024年9月上旬段階でドイツ語版、オランダ語版、スウェーデン語版、韓国語版などでもオオタカの学名が新しいものになっていた。
従来の国内独自分類を採用するかと思えたロシア語版も9月下旬に IOC 14.2 を採用。分離された属の解説ページもすでに作られていた。
Balatskij Birds of Northern Eurasia の分類では 2023 年にすでにこれら分類が採用されていた。なんとロシアでも新しいタカ類分類が早々と標準学名となっていた (よく見ると Tachyspiza 属への分割が完全でなくツミが Accipiter 属に残ってしまっている)。
ホオジロ類の部分はロシアの独自分類なので IOC などをそのまま採用した分類体系でないことが判断できる。
属名のロシア語表記は種名と異なる部分もあるが、Tachyspiza 属のいくつかのもの (タカサゴダカ [高野 (1973) ではミナミハイタカ] 関連種) はもともと tyuvik と呼ばれており、ロシア語慣用名段階ですでに別名があったためまったく違和感がなかったのだろう。Tachyspiza 属への分割に従って過去のロシア名も tyuvik を付けた名称に変更された。
Tachyspiza 属の新しいロシア語名は "趾の短いタカ" (アカハラダカのロシア名でアカハラダカ属に相当する) に相当する。
Clanga 属も慣用名段階で別扱いとなっていた。
日本周辺では中国のみがまだ動向がわからないが、Lophospiza (カンムリオオタカ属) は wikipedia 中国語版ですでに使われており、Catanach et al. (2024) の研究にも言及があるので時間の問題で取り入れられてゆくのではないだろうか。
これまでの Accipiter 属からの変更点が多いので一気に処理できていないものと想像できる。
さて日本語版は - 2024.10 末「タカ科」の項目で Catanach et al. (2024) が参照され、wikipedia 英語版に対応する一覧が盛り込まれた。ただ他の項目には古いものも含まれているため参照される際は注意が必要と思われる。全面改訂にはかなりの手間が必要でなかなか大変だろう。
wikipedia ポーランド語版では早くから反映されていたが、ポーランド語の世界の鳥名リストを見てびっくり。Coracornithia (Telluraves の名称より早く使われた系統名があるとのこと)
Catanach et al. (2024) や Stiller et al. (2024) はもちろん取り入れられているが何と亜種にまでポーランド語が与えられている (英名はもちろん表記)。
Complete Checklist of the Birds of the World (メインページ)。系統分類は Marka Kuziemko が行っているとのこと。全体的に亜種をあまり分けないリストになっているが、種候補になるぐらいに分けるべきところは分けているようで自身の感覚に近い部分がある。分類は H&M 由来で IOC とはやや異なる部分がある。
2024.10.7 IOC 15.1 ではタカ類内配列を Catanach et al. (2024) に合わせることにした。オナガヘビワシの学名が IOC 14.2 では古いままだったがこちらも合わせることになった。
この記事に紹介済みのタカ類の新分類通りの順になると思われる。
日本産種ではそれほど大きな変更があるわけではないが、クロハゲワシとカンムリワシ、アカハラダカとツミが逆順になるなどが想定される。
カタグロトビも記録種と認定されればハチクマの前になる。
チュウヒ類内部は多少入れ替えがあってチュウヒは最後になると考えられる。オジロワシ類の間も多少の入れ替えが考えられる。ノスリ類はあまり変わらず日本のノスリが最後になると想定される。
いずれも最新知見による系統関係を反映するもので、単なる分類学的順序変更以上に系統関係や生物地理学 (より新しく現れた系統はどちらかなど) を意識するのに役立つだろう。他の系統ではルリカケスのような遺存固有がいくつか見られるが、タカ類では (日本でこれまで調べられた範囲では) 遺存的な種類は見られないよう。
全般的には日本のタカ類は比較的遅くユーラシア東端の新天地に到着した描像が想像できる。
ツミの方が原型に近く、アカハラダカが渡り能力を活かして後にアジアからオセアニアの島に分散した描像となり、順序もそれを反映するものになる。
Tachyspiza 属はそれなりに分岐が深いので属内の構造を考えることも多少意義があるだろう。その場合はツミとミナミツミが姉妹種の関係になる。アカハラダカから始まるクレードはちょうどハヤブサ類の上種 Hierofalco の概念に対応する位置づけとなる。
単に順序が入れ替わっただけではなく、分類や新学名にはこれほどの情報が込められており活用して楽しまない理由はない。
タカ類や分類や学名については世界的にもあまり異論なく決断できるレベルまで確定してきたと考えられる。タカ類については IOC 15.1 がしばらく標準で使われ今後は細かい調整レベルと推定される。
アメリカ American Birding Association (ABA) のチェックリストも 2024.11 に更新 American Birding Association Checklist Committee Report, November 2024 (Pyle 2024)。
反映が遅れていた Avibase も 2024.12.29 までにこれらを新学名に変更。これほどに時間のかかる規模の大きな変更で年内に何とか間に合わせた印象。
iNaturalist に Accipiter Shake-Up の投稿 (2024.10.24) も出ていた。
少し前に分離されたアメリカオオタカでは属名も種小名も変わることになり、北米ではよく知られた種の学名が短期間で完全に別のものに変わってしまった。投稿者によっては記録を投稿してからアメリカオオタカの学名がわずかの間に2回変わったとのこと。
accipiter はこのグループのタカを指す英語一般名にもなっている (一般名と属名が一致していた) のでこの変更はかなり余波が大きい。一般的には accipiter と呼べるのになぜ学名は異なるのかなど入門者への説明も必要でしばらく話題が続くことだろう。
Accipiter split has resulted in lots of conflicting ID's 過去に単に Accipiter としか書いていない記録が多数ありすぎて困っている。
Accipiter をそのままにしておくと属レベルで間違った記録が多発することになる。亜科などのレベルを使うとチュウヒ類を含んでしまう概念になって受け入れられないだろう、など。
こちらは苦労話: Taxonomic Swap 147312 クーパーハイタカだけで 10 万件以上のデータを移動する必要がある。システムの仕様を超えかねない。管理者が不在中に走らせたいが大丈夫か。チェックするだけで多分1週間以上かかるだろう。
移動中は両方の名称が有効で、移動途中でもすでに古い学名での投稿があった。種が分離されることは慣れていても大規模な属変更はあまり経験がなくどの順序で動かすかなどなかなか大変らしい。
Taxonomic Split 147038 (Committed on 11-02-2024) 作業が終わる前に次の変更を走らせないように。属の違っているものは手動で修正する必要がある。この作業だけで数日かかる。
wikipedia 英語版などでも変更の反映に時間がかかったのは、個々の記事内の修正点が多すぎる上にどのレベルの作業から開始するか一筋縄では行かなかったのだろう。よほど好きな人でもない限りタカ類全種の表を作るだけで力尽きるだろう。
英語は世界のバーダーの事実上の共通語でもあり、もちろん北米に限った話ではない。
タカ類の分類変更は 2024 年の鳥の系統分類変更の最大の話題とも言えるものだった。
日本語風に言えば「Accipiter (ハイタカ属) ショック」と言えるだろうか。言語圏も違うが、さて日本には「Accipiter ショック」は訪れるだろうか。
この部分に加筆しているのがちょうど 2004 年末で、2024 年の鳥の世界の 10 大ニュースなどもちらほらと考えてもよさそうな感じ。
タカ類の系統樹が全面的に明らかになり「Accipiter ショック」、2015 年以来の鳥類の系統樹全貌が発表される、シロハラチュウシャクシギの絶滅宣言などは上位に入りそうな気がするが皆さんの感覚はいかがだろうか。世界のリストの統一も 2024 年の重要な進展だったが本格的には 2025 年のニュースに譲ることになるだろうか。
2023 年の研究を受けてサギ類の分類や学名も世界的にはかなり変わるのでご注意を。例えば#アマサギは新しい海外学名を見ても何かわからないかも知れない。英名は統一の対象外だが#チュウサギの WGAC 英名は分類変更を受けてこれまで親しんだものとは変わる。
#ササゴイの学名も変わるが、提案されている新英名は何と Little Heron (2025.1.12 段階)。
#タヒバリも新大陸と分離され学名・英名ともに変わる。
2024 年の研究により、淡水カモ類の分類にももう一度大きな変更が生じると想像される。
- Toward a Unified List of the World’s Bird Species
世界の鳥の統一リスト作りが始められている (2024.7.1 のニュース)。2025 年初めにも統一リストを公開する見込みとのこと。Clements 2024 と IOC 14.2 が同じ改訂を採用しているのはこの動きが背景にあるとのこと。その後も毎年1回ぐらいの改訂を出すだろうとのこと。
過去提唱されながら実現されなかった試みで、現在は一番ホットな時期に立ち会っていることになる。
Working Group Avian Checklists (IOU の部会) 英名も含めた慣用名は統一視野外。eBird/Clements, IOC は WGAC のこれらの改訂を採用する。Clements の移行が少し先行しているよう。
WGAC が公開されるとすぐに移行する準備を進めている。今後は分類と学名は WGAC 準拠に移行となりそう。WGAC の検討の終わった科の一覧も出ている。6月の時点でタカ目は終わったがハヤブサ目はまだなどの状況。
BirdLife も多くを採用する予定とのことだが、IUCN リストとの統一もあり作業は多少時間がかかるとのこと。
BirdLife が 2024.10 新しいリストを発表したが現段階は分類よりも評価の変更が中心。2025 年の早いうちに AviList (WGAC) に合わせてゆくことが発表された。
BirdLife は保全上の評価も行う必要があるため、種分割・統合などに伴った評価見直しの必要があり、世界のリストの動きに比べて少し余分に時間がかかる (over the next few years とあるので多少かかるかも知れないが AviList を分類体系の基礎とする)。
参考資料: HBW / BirdLife Taxonomic Checklist。
世界の主要リストが 2025 年の早い時期に統一されることが鮮明となった (2024.11.14 に得た情報より)。世界中の人が待望していたがおそらく史上初で学名も基本的に世界共通になると考えられる。
HBW / BirdLife Taxonomic Checklist v9 にコメント (2014.11.20) があり、属や一般名 (英名) の変更は保全上の評価を待たずして行うことができる (スレッドの流れから Accipiter 属を分割する予定であることを示唆している。今年の分類変更の中でも特に関心が高い)。
しかし種レベルで分類変更があるので保全上の評価を行う必要がありその作業の後になるとのこと。現在 2016-2025 年の保全上の評価作業の途中。評価が済めば分類変更は迅速に行えるだろうとのこと。
Clements 2024 checklist update に 2024 年9月末の続報があり、eBird の分類は 2024.10.22 に全面変更とのこと。後述の WGAC が 2025 年初めに発行するリストは AviList とのことで、eBird/Clements の分類・学名はそれに従うとのこと。
WGAC の名称よりは呼びやすいと歓迎のコメントあり。北米 AOS-NACC と南米の SACC の微妙な関係についても述べられており、SACC は AOS のパートナーではなくなっていることも表記から明瞭になっている。
2024 Taxonomy Update-COMING SOON (eBird の解説 2024.9.24)。'Accipiter sp.' No More もはやこれまでのように Accipiter sp. と報告できなくなるので注意。
前々から予期されていたことではあったが今年ついに分離された。
属が分離されたことによって識別が容易になるわけではないが、属固有の行動 (特にディスプレイ) に注目するよい機会である。
eBird では候補種が2種の場合は / で区切って "どちらか" の形で報告を受け付ける。本当にわからない場合は Accipitrine hawk sp. と報告する逃げ道は残してある。
日本の場合では "オオタカまたはハイタカ" のような表記とすることになるだろうか。
日本鳥類目録改訂第8版の出版予定に相前後して世界の分類がおおよそ統合される形となる。海外の種と比較したり未記録の鳥の名前や学名が必要となることもあるだろうから、日本産種のみは日本の学名で、海外種は海外の学名と使い分けるのも不自然に思える。
和名は日本鳥類目録を用い、分類と学名は世界の動向に合わせて WGAC に従うなどのハイブリッド利用が現実的なものになって行くかも知れない。その場合は例えばオオトラツグミは種扱いとなる。
執筆中の現段階では WGAC のリストも作成途上で作業途上の誤りも含まれている模様。予想される WGAC の学名はかなり確定したと思われるものを中心に紹介している。
Conix et al. (2024) Measuring and explaining disagreement in bird taxonomy。分類における各種リストの相違を調べて特に種境界などを議論した意見論文。IOC, Clements などの動き以前の議論と見てよいだろう。
- 英国も WGAC の動きに合わせてリストを見直す見通しが紹介されている British list set for major taxonomic shake-up (birdguide.com 2024.10.18)。
英国の BOU は IOC 分類を採用するようになって以降 IOC が変更すれば数か月以内にすぐに反映しているとのこと。
これまで別種扱いだったハシボソガラスとズキンガラス、コガモとアメリカコガモは同種扱いとなる見通し。
ノビタキ (現在の学名で Saxicola stejnegeri) とシベリアノビタキ (現在の学名で Saxicola maurus) が再度統合される可能性がある。この場合シベリアノビタキの記載の方が早いので、日本のノビタキの学名は Saxicola maurus (亜種まで記して Saxicola maurus stejnegeri) に変わることになる。
同日時点での IOC 15.1 の変更点にはまだ現れていないが Working Group Avian Checklists, version 0.02 以降で統合されている。解説は#ノビタキ参照。
雑誌 Birdwatch でこれらの分類変更の詳細を紹介することになるだろうとのこと。日本の雑誌で紹介されるのはいつになるだろう?
その後 2025 年2月号が記事で New Order: World taxonomy set for major shake-up が表紙タイトル。Alex Berryman の解説とのこと。記事タイトルは New world order で "新しい世界秩序" と分類学の order ("目" や分類順などの意味) を掛けている。なお同号に RSPB の財政問題が取り上げられている。不採算施設の閉鎖など。自然保護先進国の英国でまさに起こっていること。
Clements 2024 checklist update の情報によれば Avibase の中心メンバーである Denis Lepage が WGAC 編纂に関わっているとのこと。現代のチェックリスト編纂は手作業では限度があり極めて高い計算機技術を必要とされることも想像できる。
- この解説を編集するにあたり、半ば積読状態にあった過去の本などを改めて読む機会があった。どこかの種の備考に入れてもよい話ではあるが、日本野鳥の会関連でもあるのでここで触れておきたい。
「柳生博 鳥と語る」(ぺんぎん書房 2005)。柳生博氏 (1937-2022) は 2004-2019 年日本野鳥の会の会長を務められて、皆さんもごくご存じであろう。
NHKの「生き物地球紀行」の取材とナレーションを担当し、「左手にサイエンス! 右手にロマン!」がポリシーだったとのこと (p. 43)。
柳生氏の考えられていたサイエンスとロマンとは少し違うかも知れないが、この解説の [備考] も柳生氏のポリシーと同様、サイエンス中心で時にロマンと、小むづかしいことも怪しいことも、時には気に障るかも知れないことも書いてあるかも知れないが、寛容の精神で見ていただければよいと思う。
サイエンス (なぜそうなっているのか) を突き詰めて理解にたどり着いた驚きは「ロマン」としか言い表せない場合もあると感じる。#アマツバメの備考で紹介する渡り鳥の磁気定位はまさしくそうだった。
偶然の発見に基づく理詰めからはこの分子しか考えにくい、と最有力とされていて、渡り鳥の目に磁場情報が見えているニュースも追跡していたが、何事も疑い深い自分にはまだまだ実証には程遠いと感じていた。
しかし 2024 年夏に発表されたゲノム系統解析の結果は驚くべきもので、確かにこの分子を渡り鳥が役立てていることは疑いないように思える。そしてその進化を考えてみると...。渡り鳥のロマンと最新科学がこのように結びつくとは! 続きはアマツバメの備考をお読みいただきたい。
柳生氏も動物と話されていたのだと読み直して認識した (pp. 44-46)。本が出た当時は自分も同じようなことをやって鳥と遊んでいたので (#オオルリの備考参照)、それほど特殊とは思わず読み流してしまっていたらしいが、それ以降にハチクマの経験も経て柳生氏の言われていることを認識できるようになった模様。
会長職を引き受けるようになられた経緯も大変よくわかる気がする (p. 29)。しかしいながらにしてイヌワシがしばらく見られたとは何とぜいたくな。
日本鳥類目録改訂第8版の書物の出版物そのものではなく、掲載鳥類リスト (Excelファイル | 2024年10月8日 ver.1) のファイルより暫定的に作成したもの。英名は日本鳥類目録改訂に向けた第2回パブリックコメント(2024)」のファイルより。IOC 14.2 と英名が異なるもののみ IOC 英名を追記してある。
外来種は含まれていない。
記載者の後に * マークのあるものはアクセント記号などが省かれた、ウムラウトを2文字表記としたなどもとの綴りそのままではないもの。
"第7版学名より変更"、"IOC 14.2 分類または学名と相違あり" などが記されているものの学名解説は備考の項目も参照いただきたい。
第7版で種扱いではなかったものは "第7版学名より変更" は付いていない。
なお日本鳥類目録改訂第8版の配列順は IOC 13.2 準拠のため、高次分類概念や配列順は必ずしも最新のものに一致していない可能性がある。
IOC 14.2 との対比などは機械的に作成したもののため、対応関係などに不十分な点があればご容赦いただきたい。
例えば IOC 14.2 ではオオトラツグミはミナミトラツグミに含まれないが対応する学名が存在するので特に注記は付いていない。
本文解説は第7版をベースに作成したものなので、
第8版で検討種や外来種に移行したものはこのリンク集には含まれないが、第7版のみ掲載種に十分な解説の含まれる項目もあるのでぜひお見逃しなく。
記載者名の TeX (LaTeX) 表記:
Breme*: Br\`eme
Bruennich*: Br\"unnich
Guldenstadt*: G\"uldenst\"adt
Lonnberg*: L\"onnberg
Menetries*: M\'en\'etries
Mueller*: M\"uller
Palmen*: Palm\'en
- カモ目 Anseriformes カモ科 Anatidae -
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#リュウキュウガモ
- 第8版学名: Dendrocygna javanica (Horsfield, 1821)
- 英名: Lesser Whistling Duck
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#コクガン
- 第8版学名: Branta bernicla (Linnaeus, 1758)
- 英名: Brant Goose
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#アオガン
- 第8版学名: Branta ruficollis (Pallas, 1769)
- 英名: Red-breasted Goose
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#カナダガン
- 第8版学名: Branta canadensis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Canada Goose
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#シジュウカラガン
- 第8版学名: Branta hutchinsii (Richardson, 1832)
- 英名: Cackling Goose
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#インドガン
- 第8版学名: Anser indicus (Latham, 1790)
- 英名: Bar-headed Goose
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#ミカドガン
- 第8版学名: Anser canagicus (Sevastianov, 1802)
- 英名: Emperor Goose
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#ハクガン
- 第8版学名: Anser caerulescens (Linnaeus, 1758)
- 英名: Snow Goose
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#ハイイロガン
- 第8版学名: Anser anser (Linnaeus, 1758)
- 英名: Greylag Goose
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#サカツラガン
- 第8版学名: Anser cygnoid (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更、IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Swan Goose
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#ヒシクイ
- 第8版学名: Anser fabalis (Latham, 1787)
- 英名: Bean Goose (IOC 14.2: Taiga Bean Goose)
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#マガン
- 第8版学名: Anser albifrons (Scopoli, 1769)
- 英名: Greater White-fronted Goose
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#カリガネ
- 第8版学名: Anser erythropus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Lesser White-fronted Goose
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#コブハクチョウ
- 第8版学名: Cygnus olor (Gmelin, 1789)
- 英名: Mute Swan
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#ナキハクチョウ
- 第8版学名: Cygnus buccinator Richardson, 1831
- 英名: Trumpeter Swan
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#コハクチョウ
- 第8版学名: Cygnus columbianus (Ord, 1815)
- 英名: Tundra Swan
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#オオハクチョウ
- 第8版学名: Cygnus cygnus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Whooper Swan
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#ツクシガモ
- 第8版学名: Tadorna tadorna (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Shelduck
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#アカツクシガモ
- 第8版学名: Tadorna ferruginea (Pallas, 1764)
- 英名: Ruddy Shelduck
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#カンムリツクシガモ
- 第8版学名: Tadorna cristata (Kuroda, 1917)
- 英名: Crested Shelduck
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#オシドリ
- 第8版学名: Aix galericulata (Linnaeus, 1758)
- 英名: Mandarin Duck
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#ナンキンオシ
- 第8版学名: Nettapus coromandelianus (Gmelin, 1789)
- 英名: Cotton Pygmy Goose
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#トモエガモ
- 第8版学名: Sibirionetta formosa (Georgi, 1775) (第7版学名より変更)
- 英名: Baikal Teal
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#シマアジ
- 第8版学名: Spatula querquedula (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Garganey
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#ミカヅキシマアジ
- 第8版学名: Spatula discors (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
- 英名: Blue-winged Teal
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#ハシビロガモ
- 第8版学名: Spatula clypeata (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Northern Shoveler
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#オカヨシガモ
- 第8版学名: Mareca strepera (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Gadwall
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#ヨシガモ
- 第8版学名: Mareca falcata (Georgi, 1775) (第7版学名より変更)
- 英名: Falcated Duck
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#ヒドリガモ
- 第8版学名: Mareca penelope (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Eurasian Wigeon
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#アメリカヒドリ
- 第8版学名: Mareca americana (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
- 英名: American Wigeon
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#アカノドカルガモ
- 第8版学名: Anas luzonica Fraser, 1839
- 英名: Philippine Duck
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#カルガモ
- 第8版学名: Anas zonorhyncha Swinhoe, 1866
- 英名: Eastern Spot-billed Duck
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#マガモ
- 第8版学名: Anas platyrhynchos Linnaeus, 1758
- 英名: Mallard
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#オナガガモ
- 第8版学名: Anas acuta Linnaeus, 1758
- 英名: Northern Pintail
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#コガモ
- 第8版学名: Anas crecca Linnaeus, 1758
- 英名: Green-winged Teal (IOC 14.2: Eurasian Teal)
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#アカハシハジロ
- 第8版学名: Netta rufina (Pallas, 1773)
- 英名: Red-crested Pochard
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#オオホシハジロ
- 第8版学名: Aythya valisineria (Wilson, 1814)
- 英名: Canvasback
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#アメリカホシハジロ
- 第8版学名: Aythya americana (Eyton, 1838)
- 英名: Redhead
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#ホシハジロ
- 第8版学名: Aythya ferina (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Pochard
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#アカハジロ
- 第8版学名: Aythya baeri (Radde, 1863)
- 英名: Baer's Pochard
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#メジロガモ
- 第8版学名: Aythya nyroca (Guldenstadt*, 1770)
- 英名: Ferruginous Duck
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#クビワキンクロ
- 第8版学名: Aythya collaris (Donovan, 1809)
- 英名: Ring-necked Duck
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#キンクロハジロ
- 第8版学名: Aythya fuligula (Linnaeus, 1758)
- 英名: Tufted Duck
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#スズガモ
- 第8版学名: Aythya marila (Linnaeus, 1761)
- 英名: Greater Scaup
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#コスズガモ
- 第8版学名: Aythya affinis (Eyton, 1838)
- 英名: Lesser Scaup
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#コケワタガモ
- 第8版学名: Polysticta stelleri (Pallas, 1769)
- 英名: Steller's Eider
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#ケワタガモ
- 第8版学名: Somateria spectabilis (Linnaeus, 1758)
- 英名: King Eider
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#シノリガモ
- 第8版学名: Histrionicus histrionicus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Harlequin Duck
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#アラナミキンクロ
- 第8版学名: Melanitta perspicillata (Linnaeus, 1758)
- 英名: Surf Scoter
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#アメリカビロードキンクロ
- 第8版学名: Melanitta deglandi (Bonaparte, 1850)
- 英名: White-winged Scoter
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#ビロードキンクロ
- 第8版学名: Melanitta stejnegeri (Ridgway, 1887)
- 英名: Stejneger's Scoter
-
#クロガモ
- 第8版学名: Melanitta americana (Swainson, 1832)
- 英名: Black Scoter
-
#コオリガモ
- 第8版学名: Clangula hyemalis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Long-tailed Duck
-
#ヒメハジロ
- 第8版学名: Bucephala albeola (Linnaeus, 1758)
- 英名: Bufflehead
-
#ホオジロガモ
- 第8版学名: Bucephala clangula (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Goldeneye
-
#ミコアイサ
- 第8版学名: Mergellus albellus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Smew
-
#オウギアイサ
- 第8版学名: Lophodytes cucullatus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Hooded Merganser
-
#カワアイサ
- 第8版学名: Mergus merganser Linnaeus, 1758
- 英名: Common Merganser
-
#ウミアイサ
- 第8版学名: Mergus serrator Linnaeus, 1758
- 英名: Red-breasted Merganser
-
#コウライアイサ
- 第8版学名: Mergus squamatus Gould, 1864
- 英名: Scaly-sided Merganser
- キジ目 Galliformes キジ科 Phasianidae -
-
#エゾライチョウ
- 第8版学名: Tetrastes bonasia (Linnaeus, 1758)
- 英名: Hazel Grouse
-
#ライチョウ
- 第8版学名: Lagopus muta (Montin, 1781)
- 英名: Rock Ptarmigan
-
#ヤマドリ
- 第8版学名: Syrmaticus soemmerringii (Temminck, 1830)
- 英名: Copper Pheasant
-
#キジ
- 第8版学名: Phasianus versicolor Vieillot, 1825 (第7版学名より変更)
- 英名: Green Pheasant
-
#ウズラ
- 第8版学名: Coturnix japonica Temminck & Schlegel, 1849
- 英名: Japanese Quail
- ヨタカ目 Caprimulgiformes ヨタカ科 Caprimulgidae -
-
#ヨタカ
- 第8版学名: Caprimulgus jotaka Temminck & Schlegel, 1844 (第7版学名より変更)
- 英名: Grey Nightjar
- アマツバメ目 Apodiformes アマツバメ科 Apodidae -
-
#ハリオアマツバメ
- 第8版学名: Hirundapus caudacutus (Latham, 1801)
- 英名: White-throated Needletail
-
#クロビタイハリオアマツバメ
- 第8版学名: Hirundapus cochinchinensis (Oustalet, 1878)
- 英名: Silver-backed Needletail
-
#アマツバメ
- 第8版学名: Apus pacificus (Latham, 1801)
- 英名: Pacific Swift
-
#ヒメアマツバメ
- 第8版学名: Apus nipalensis (Hodgson, 1837)
- 英名: House Swift
- ノガン目 Otidiformes ノガン科 Otididae -
-
#ノガン
- 第8版学名: Otis tarda Linnaeus, 1758
- 英名: Great Bustard
-
#ヒメノガン
- 第8版学名: Tetrax tetrax (Linnaeus, 1758)
- 英名: Little Bustard
- カッコウ目 Cuculiformes カッコウ科 Cuculidae -
-
#バンケン
- 第8版学名: Centropus bengalensis (Gmelin, 1788)
- 英名: Lesser Coucal
-
#カンムリカッコウ
- 第8版学名: Clamator coromandus (Linnaeus, 1766)
- 英名: Chestnut-winged Cuckoo
-
#オニカッコウ
- 第8版学名: Eudynamys scolopaceus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Asian Koel
-
#キジカッコウ
- 第8版学名: Urodynamis taitensis (Sparrman, 1787)
- 英名: Pacific Long-tailed Cuckoo
-
#ヒメカッコウ
- 第8版学名: Cacomantis merulinus (Scopoli, 1786)
- 英名: Plaintive Cuckoo
-
#オオジュウイチ
- 第8版学名: Hierococcyx sparverioides (Vigors, 1832)
- 英名: Large Hawk-Cuckoo
-
#ジュウイチ
- 第8版学名: Hierococcyx hyperythrus (Gould, 1856)
- 英名: Northern Hawk-Cuckoo
-
#ホトトギス
- 第8版学名: Cuculus poliocephalus Latham, 1790
- 英名: Lesser Cuckoo
-
#セグロカッコウ
- 第8版学名: Cuculus micropterus Gould, 1838
- 英名: Indian Cuckoo
-
#ツツドリ
- 第8版学名: Cuculus optatus Gould, 1845
- 英名: Oriental Cuckoo
-
#カッコウ
- 第8版学名: Cuculus canorus Linnaeus, 1758
- 英名: Common Cuckoo
- サケイ目 Pterocliformes サケイ科 Pteroclidae -
-
#サケイ
- 第8版学名: Syrrhaptes paradoxus (Pallas, 1773)
- 英名: Pallas's Sandgrouse
- ハト目 Columbiformes ハト科 Columbidae -
-
#ヒメモリバト
- 第8版学名: Columba oenas Linnaeus, 1758
- 英名: Stock Dove
-
#カラスバト
- 第8版学名: Columba janthina Temminck, 1830
- 英名: Black Wood Pigeon
-
#オガサワラカラスバト
- 第8版学名: Columba versicolor Kittlitz, 1832
- 英名: Bonin Wood Pigeon
-
#リュウキュウカラスバト
- 第8版学名: Columba jouyi (Stejneger, 1887)
- 英名: Ryukyu Wood Pigeon
-
#キジバト
- 第8版学名: Streptopelia orientalis (Latham, 1790)
- 英名: Oriental Turtle Dove
-
#シラコバト
- 第8版学名: Streptopelia decaocto (Frivaldszky, 1838)
- 英名: Eurasian Collared Dove
-
#ベニバト
- 第8版学名: Streptopelia tranquebarica (Hermann, 1804)
- 英名: Red Collared Dove
-
#キンバト
- 第8版学名: Chalcophaps indica (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Emerald Dove
-
#アオバト
- 第8版学名: Treron sieboldii (Temminck, 1835)
- 英名: White-bellied Green Pigeon
-
#ズアカアオバト
- 第8版学名: Treron formosae Swinhoe, 1863
- 英名: Whistling Green Pigeon (IOC 14.2: Taiwan Green Pigeon)
-
#クロアゴヒメアオバト
- 第8版学名: Ptilinopus leclancheri (Bonaparte, 1855)
- 英名: Black-chinned Fruit Dove
- ツル目 Gruiformes クイナ科 Rallidae -
-
#クイナ
- 第8版学名: Rallus indicus Blyth, 1849 (第7版学名より変更)
- 英名: Brown-cheeked Rail
-
#ウズラクイナ
- 第8版学名: Crex crex (Linnaeus, 1758)
- 英名: Corn Crake
-
#ミナミクイナ
- 第8版学名: Lewinia striata (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
- 英名: Slaty-breasted Rail
-
#ヤンバルクイナ
- 第8版学名: Hypotaenidia okinawae (Yamashina & Mano, 1981) (第7版学名より変更)
- 英名: Okinawa Rail
-
#バン
- 第8版学名: Gallinula chloropus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Moorhen
-
#オオバン
- 第8版学名: Fulica atra Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Coot
-
#シマクイナ
- 第8版学名: Coturnicops exquisitus (Swinhoe, 1873)
- 英名: Swinhoe's Rail
-
#ヒクイナ
- 第8版学名: Zapornia fusca (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
- 英名: Ruddy-breasted Crake
-
#コウライクイナ
- 第8版学名: Zapornia paykullii (Ljungh, 1813) (第7版学名より変更)
- 英名: Band-bellied Crake
-
#ヒメクイナ
- 第8版学名: Zapornia pusilla (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
- 英名: Baillon's Crake
-
#オオクイナ
- 第8版学名: Rallina eurizonoides (Lafresnaye, 1845)
- 英名: Slaty-legged Crake
-
#マミジロクイナ
- 第8版学名: Poliolimnas cinereus (Vieillot, 1819) (第7版学名より変更)
- 英名: White-browed Crake
-
#ツルクイナ
- 第8版学名: Gallicrex cinerea (Gmelin, 1789)
- 英名: Watercock
-
#シロハラクイナ
- 第8版学名: Amaurornis phoenicurus (Pennant, 1769)
- 英名: White-breasted Waterhen
- ツル目 Gruiformes ツル科 Gruidae -
-
#ソデグロヅル
- 第8版学名: Leucogeranus leucogeranus (Pallas, 1773) (第7版学名より変更)
- 英名: Siberian Crane
-
#カナダヅル
- 第8版学名: Antigone canadensis (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Sandhill Crane
-
#マナヅル
- 第8版学名: Antigone vipio (Pallas, 1811) (第7版学名より変更)
- 英名: White-naped Crane
-
#アネハヅル
- 第8版学名: Anthropoides virgo (Linnaeus, 1758) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Demoiselle Crane
-
#タンチョウ
- 第8版学名: Grus japonensis (Mueller*, 1776)
- 英名: Red-crowned Crane
-
#クロヅル
- 第8版学名: Grus grus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Crane
-
#ナベヅル
- 第8版学名: Grus monacha Temminck, 1835
- 英名: Hooded Crane
- カイツブリ目 Podicipediformes カイツブリ科 Podicipedidae -
-
#カイツブリ
- 第8版学名: Tachybaptus ruficollis (Pallas, 1764)
- 英名: Little Grebe
-
#アカエリカイツブリ
- 第8版学名: Podiceps grisegena (Boddaert, 1783)
- 英名: Red-necked Grebe
-
#カンムリカイツブリ
- 第8版学名: Podiceps cristatus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Great Crested Grebe
-
#ミミカイツブリ
- 第8版学名: Podiceps auritus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Horned Grebe
-
#ハジロカイツブリ
- 第8版学名: Podiceps nigricollis Brehm, 1831
- 英名: Black-necked Grebe
- チドリ目 Charadriiformes ミフウズラ科 Turnicidae -
-
#ミフウズラ
- 第8版学名: Turnix suscitator (Gmelin, 1789)
- 英名: Barred Buttonquail
- チドリ目 Charadriiformes ミヤコドリ科 Haematopodidae -
-
#ミヤコドリ
- 第8版学名: Haematopus ostralegus Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Oystercatcher
- チドリ目 Charadriiformes セイタカシギ科 Recurvirostridae -
-
#セイタカシギ
- 第8版学名: Himantopus himantopus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black-winged Stilt
-
#オーストラリアセイタカシギ
- 第8版学名: Himantopus leucocephalus Gould, 1837
- 英名: Pied Stilt
-
#ソリハシセイタカシギ
- 第8版学名: Recurvirostra avosetta Linnaeus, 1758
- 英名: Pied Avocet
- チドリ目 Charadriiformes チドリ科 Charadriidae -
-
#タゲリ
- 第8版学名: Vanellus vanellus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Northern Lapwing
-
#ケリ
- 第8版学名: Vanellus cinereus (Blyth, 1842)
- 英名: Grey-headed Lapwing
-
#ヨーロッパムナグロ
- 第8版学名: Pluvialis apricaria (Linnaeus, 1758)
- 英名: European Golden Plover
-
#ムナグロ
- 第8版学名: Pluvialis fulva (Gmelin, 1789)
- 英名: Pacific Golden Plover
-
#ダイゼン
- 第8版学名: Pluvialis squatarola (Linnaeus, 1758)
- 英名: Grey Plover
-
#ハジロコチドリ
- 第8版学名: Charadrius hiaticula Linnaeus, 1758
- 英名: Common Ringed Plover
-
#ミズカキチドリ
- 第8版学名: Charadrius semipalmatus Bonaparte, 1825
- 英名: Semipalmated Plover
-
#イカルチドリ
- 第8版学名: Charadrius placidus Gray & Gray, 1863
- 英名: Long-billed Plover
-
#コチドリ
- 第8版学名: Charadrius dubius Scopoli, 1786
- 英名: Little Ringed Plover
-
#シロチドリ
- 第8版学名: Charadrius alexandrinus Linnaeus, 1758 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Kentish Plover
-
#オオメダイチドリ
- 第8版学名: Charadrius leschenaultii Lesson, 1826 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Greater Sand Plover
-
#メダイチドリ
- 第8版学名: Charadrius mongolus Pallas, 1776 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Siberian Sand Plover
-
#オオチドリ
- 第8版学名: Charadrius veredus Gould, 1848 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Oriental Plover
-
#コバシチドリ
- 第8版学名: Eudromias morinellus (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Eurasian Dotterel
- チドリ目 Charadriiformes タマシギ科 Rostratulidae -
-
#タマシギ
- 第8版学名: Rostratula benghalensis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Greater Painted-snipe
- チドリ目 Charadriiformes レンカク科 Jacanidae -
-
#レンカク
- 第8版学名: Hydrophasianus chirurgus (Scopoli, 1786)
- 英名: Pheasant-tailed Jacana
- チドリ目 Charadriiformes シギ科 Scolopacidae -
-
#ハリモモチュウシャク
- 第8版学名: Numenius tahitiensis (Gmelin, 1789)
- 英名: Bristle-thighed Curlew
-
#チュウシャクシギ
- 第8版学名: Numenius phaeopus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Whimbrel (IOC 14.2: Eurasian Whimbrel)
-
#コシャクシギ
- 第8版学名: Numenius minutus Gould, 1841
- 英名: Little Curlew
-
#ホウロクシギ
- 第8版学名: Numenius madagascariensis (Linnaeus, 1766)
- 英名: Far Eastern Curlew
-
#シロハラチュウシャクシギ
- 第8版学名: Numenius tenuirostris Vieillot, 1817
- 英名: Slender-billed Curlew
-
#ダイシャクシギ
- 第8版学名: Numenius arquata (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Curlew
-
#オオソリハシシギ
- 第8版学名: Limosa lapponica (Linnaeus, 1758)
- 英名: Bar-tailed Godwit
-
#オグロシギ
- 第8版学名: Limosa limosa (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black-tailed Godwit
-
#アメリカオグロシギ
- 第8版学名: Limosa haemastica (Linnaeus, 1758)
- 英名: Hudsonian Godwit
-
#キョウジョシギ
- 第8版学名: Arenaria interpres (Linnaeus, 1758)
- 英名: Ruddy Turnstone
-
#オバシギ
- 第8版学名: Calidris tenuirostris (Horsfield, 1821)
- 英名: Great Knot
-
#コオバシギ
- 第8版学名: Calidris canutus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Red Knot
-
#エリマキシギ
- 第8版学名: Calidris pugnax (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Ruff
-
#キリアイ
- 第8版学名: Calidris falcinellus (Pontoppidan, 1763) (第7版学名より変更)
- 英名: Broad-billed Sandpiper
-
#ウズラシギ
- 第8版学名: Calidris acuminata (Horsfield, 1821)
- 英名: Sharp-tailed Sandpiper
-
#アシナガシギ
- 第8版学名: Calidris himantopus (Bonaparte, 1826)
- 英名: Stilt Sandpiper
-
#サルハマシギ
- 第8版学名: Calidris ferruginea (Pontoppidan, 1763)
- 英名: Curlew Sandpiper
-
#オジロトウネン
- 第8版学名: Calidris temminckii (Leisler, 1812)
- 英名: Temminck's Stint
-
#ヒバリシギ
- 第8版学名: Calidris subminuta (Middendorff, 1853)
- 英名: Long-toed Stint
-
#ヘラシギ
- 第8版学名: Calidris pygmaea (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Spoon-billed Sandpiper
-
#トウネン
- 第8版学名: Calidris ruficollis (Pallas, 1776)
- 英名: Red-necked Stint
-
#ミユビシギ
- 第8版学名: Calidris alba (Pallas, 1764)
- 英名: Sanderling
-
#ハマシギ
- 第8版学名: Calidris alpina (Linnaeus, 1758)
- 英名: Dunlin
-
#チシマシギ
- 第8版学名: Calidris ptilocnemis (Coues, 1873)
- 英名: Rock Sandpiper
-
#ヒメウズラシギ
- 第8版学名: Calidris bairdii (Coues, 1861)
- 英名: Baird's Sandpiper
-
#ヨーロッパトウネン
- 第8版学名: Calidris minuta (Leisler, 1812)
- 英名: Little Stint
-
#コシジロウズラシギ
- 第8版学名: Calidris fuscicollis (Vieillot, 1819)
- 英名: White-rumped Sandpiper
-
#コモンシギ
- 第8版学名: Calidris subruficollis (Vieillot, 1819) (第7版学名より変更)
- 英名: Buff-breasted Sandpiper
-
#アメリカウズラシギ
- 第8版学名: Calidris melanotos (Vieillot, 1819)
- 英名: Pectoral Sandpiper
-
#ヒメハマシギ
- 第8版学名: Calidris mauri (Cabanis, 1857)
- 英名: Western Sandpiper
-
#シベリアオオハシシギ
- 第8版学名: Limnodromus semipalmatus (Blyth, 1848)
- 英名: Asian Dowitcher
-
#オオハシシギ
- 第8版学名: Limnodromus scolopaceus (Say, 1822)
- 英名: Long-billed Dowitcher
-
#アメリカオオハシシギ
- 第8版学名: Limnodromus griseus (Gmelin, 1789)
- 英名: Short-billed Dowitcher
-
#ヤマシギ
- 第8版学名: Scolopax rusticola Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Woodcock
-
#アマミヤマシギ
- 第8版学名: Scolopax mira Hartert, 1916
- 英名: Amami Woodcock
-
#コシギ
- 第8版学名: Lymnocryptes minimus (Bruennich*, 1764)
- 英名: Jack Snipe
-
#アオシギ
- 第8版学名: Gallinago solitaria Hodgson, 1831
- 英名: Solitary Snipe
-
#オオジシギ
- 第8版学名: Gallinago hardwickii (Gray, 1831)
- 英名: Latham's Snipe
-
#ハリオシギ
- 第8版学名: Gallinago stenura (Bonaparte, 1831)
- 英名: Pin-tailed Snipe
-
#チュウジシギ
- 第8版学名: Gallinago megala Swinhoe, 1861
- 英名: Swinhoe's Snipe
-
#タシギ
- 第8版学名: Gallinago gallinago (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Snipe
-
#ソリハシシギ
- 第8版学名: Xenus cinereus (Guldenstadt*, 1775)
- 英名: Terek Sandpiper
-
#アメリカヒレアシシギ
- 第8版学名: Phalaropus tricolor (Vieillot, 1819)
- 英名: Wilson's Phalarope
-
#アカエリヒレアシシギ
- 第8版学名: Phalaropus lobatus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Red-necked Phalarope
-
#ハイイロヒレアシシギ
- 第8版学名: Phalaropus fulicarius (Linnaeus, 1758)
- 英名: Red Phalarope
-
#イソシギ
- 第8版学名: Actitis hypoleucos (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Sandpiper
-
#アメリカイソシギ
- 第8版学名: Actitis macularius (Linnaeus, 1766)
- 英名: Spotted Sandpiper
-
#クサシギ
- 第8版学名: Tringa ochropus Linnaeus, 1758
- 英名: Green Sandpiper
-
#メリケンキアシシギ
- 第8版学名: Tringa incana (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
- 英名: Wandering Tattler
-
#キアシシギ
- 第8版学名: Tringa brevipes (Vieillot, 1816) (第7版学名より変更)
- 英名: Grey-tailed Tattler
-
#コキアシシギ
- 第8版学名: Tringa flavipes (Gmelin, 1789)
- 英名: Lesser Yellowlegs
-
#アカアシシギ
- 第8版学名: Tringa totanus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Redshank
-
#コアオアシシギ
- 第8版学名: Tringa stagnatilis (Bechstein, 1803)
- 英名: Marsh Sandpiper
-
#タカブシギ
- 第8版学名: Tringa glareola Linnaeus, 1758
- 英名: Wood Sandpiper
-
#ツルシギ
- 第8版学名: Tringa erythropus (Pallas, 1764)
- 英名: Spotted Redshank
-
#アオアシシギ
- 第8版学名: Tringa nebularia (Gunnerus, 1767)
- 英名: Common Greenshank
-
#カラフトアオアシシギ
- 第8版学名: Tringa guttifer (Nordmann, 1835)
- 英名: Nordmann's Greenshank
-
#オオキアシシギ
- 第8版学名: Tringa melanoleuca (Gmelin, 1789)
- 英名: Greater Yellowlegs
- チドリ目 Charadriiformes ツバメチドリ科 Glareolidae -
-
#ツバメチドリ
- 第8版学名: Glareola maldivarum Forster, 1795
- 英名: Oriental Pratincole
- チドリ目 Charadriiformes カモメ科 Laridae -
-
#クロアジサシ
- 第8版学名: Anous stolidus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Brown Noddy
-
#ヒメクロアジサシ
- 第8版学名: Anous minutus Boie, 1844
- 英名: Black Noddy
-
#ハイイロアジサシ
- 第8版学名: Anous ceruleus (Bennett, 1840) (第7版学名より変更)
- 英名: Blue Noddy
-
#シロアジサシ
- 第8版学名: Gygis alba (Sparrman, 1786)
- 英名: White Tern
-
#ミツユビカモメ
- 第8版学名: Rissa tridactyla (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black-legged Kittiwake
-
#アカアシミツユビカモメ
- 第8版学名: Rissa brevirostris (Bruch, 1855)
- 英名: Red-legged Kittiwake
-
#ゾウゲカモメ
- 第8版学名: Pagophila eburnea (Phipps, 1774)
- 英名: Ivory Gull
-
#クビワカモメ
- 第8版学名: Xema sabini (Sabine, 1819)
- 英名: Sabine's Gull
-
#ハシボソカモメ
- 第8版学名: Chroicocephalus genei (Breme*, 1839) (第7版学名より変更)
- 英名: Slender-billed Gull
-
#ボナパルトカモメ
- 第8版学名: Chroicocephalus philadelphia (Ord, 1815) (第7版学名より変更)
- 英名: Bonaparte's Gull
-
#チャガシラカモメ
- 第8版学名: Chroicocephalus brunnicephalus (Jerdon, 1840) (第7版学名より変更)
- 英名: Brown-headed Gull
-
#ユリカモメ
- 第8版学名: Chroicocephalus ridibundus (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
- 英名: Black-headed Gull
-
#ズグロカモメ
- 第8版学名: Saundersilarus saundersi (Swinhoe, 1871) (第7版学名より変更)
- 英名: Saunders's Gull
-
#ヒメカモメ
- 第8版学名: Hydrocoloeus minutus (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
- 英名: Little Gull
-
#ヒメクビワカモメ
- 第8版学名: Rhodostethia rosea (MacGillivray, 1824)
- 英名: Ross's Gull
-
#ワライカモメ
- 第8版学名: Leucophaeus atricilla (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Laughing Gull
-
#アメリカズグロカモメ
- 第8版学名: Leucophaeus pipixcan (Wagler, 1831) (第7版学名より変更)
- 英名: Franklin's Gull
-
#ゴビズキンカモメ
- 第8版学名: Ichthyaetus relictus (Lonnberg*, 1931) (第7版学名より変更)
- 英名: Relict Gull
-
#オオズグロカモメ
- 第8版学名: Ichthyaetus ichthyaetus (Pallas, 1773) (第7版学名より変更)
- 英名: Pallas's Gull
-
#ウミネコ
- 第8版学名: Larus crassirostris Vieillot, 1818
- 英名: Black-tailed Gull
-
#カモメ
- 第8版学名: Larus canus Linnaeus, 1758
- 英名: Common Gull
-
#ワシカモメ
- 第8版学名: Larus glaucescens Naumann, 1840
- 英名: Glaucous-winged Gull
-
#シロカモメ
- 第8版学名: Larus hyperboreus Gunnerus, 1767
- 英名: Glaucous Gull
-
#アイスランドカモメ
- 第8版学名: Larus glaucoides Meyer, 1822
- 英名: Iceland Gull
-
#セグロカモメ
- 第8版学名: Larus vegae Palmen*, 1887 (第7版学名より変更)
- 英名: Vega Gull
-
#オオセグロカモメ
- 第8版学名: Larus schistisagus Stejneger, 1884
- 英名: Slaty-backed Gull
-
#ニシセグロカモメ
- 第8版学名: Larus fuscus Linnaeus, 1758
- 英名: Lesser Black-backed Gull
-
#ハシブトアジサシ
- 第8版学名: Gelochelidon nilotica (Gmelin, 1789)
- 英名: Gull-billed Tern
-
#オニアジサシ
- 第8版学名: Hydroprogne caspia (Pallas, 1770) (第7版学名より変更)
- 英名: Caspian Tern
-
#オオアジサシ
- 第8版学名: Thalasseus bergii (Lichtenstein, 1823) (第7版学名より変更)
- 英名: Greater Crested Tern
-
#ベンガルアジサシ
- 第8版学名: Thalasseus bengalensis (Lesson, 1831) (第7版学名より変更)
- 英名: Lesser Crested Tern
-
#コアジサシ
- 第8版学名: Sternula albifrons (Pallas, 1764) (第7版学名より変更)
- 英名: Little Tern
-
#アメリカコアジサシ
- 第8版学名: Sternula antillarum Lesson, 1847
- 英名: Least Tern
-
#コシジロアジサシ
- 第8版学名: Onychoprion aleuticus (Baird, 1869) (第7版学名より変更)
- 英名: Aleutian Tern
-
#ナンヨウマミジロアジサシ
- 第8版学名: Onychoprion lunatus (Peale, 1849) (第7版学名より変更)
- 英名: Spectacled Tern
-
#マミジロアジサシ
- 第8版学名: Onychoprion anaethetus (Scopoli, 1786) (第7版学名より変更)
- 英名: Bridled Tern
-
#セグロアジサシ
- 第8版学名: Onychoprion fuscatus (Linnaeus, 1766) (第7版学名より変更)
- 英名: Sooty Tern
-
#ベニアジサシ
- 第8版学名: Sterna dougallii Montagu, 1813
- 英名: Roseate Tern
-
#エリグロアジサシ
- 第8版学名: Sterna sumatrana Raffles, 1822
- 英名: Black-naped Tern
-
#アジサシ
- 第8版学名: Sterna hirundo Linnaeus, 1758
- 英名: Common Tern
-
#キョクアジサシ
- 第8版学名: Sterna paradisaea Pontoppidan, 1763
- 英名: Arctic Tern
-
#クロハラアジサシ
- 第8版学名: Chlidonias hybrida (Pallas, 1811)
- 英名: Whiskered Tern
-
#ハジロクロハラアジサシ
- 第8版学名: Chlidonias leucopterus (Temminck, 1815)
- 英名: White-winged Tern
-
#ハシグロクロハラアジサシ
- 第8版学名: Chlidonias niger (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black Tern
- チドリ目 Charadriiformes トウゾクカモメ科 Stercorariidae -
-
#オオトウゾクカモメ
- 第8版学名: Stercorarius maccormicki Saunders, 1893
- 英名: South Polar Skua
-
#トウゾクカモメ
- 第8版学名: Stercorarius pomarinus (Temminck, 1815)
- 英名: Pomarine Jaeger
-
#クロトウゾクカモメ
- 第8版学名: Stercorarius parasiticus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Parasitic Jaeger
-
#シロハラトウゾクカモメ
- 第8版学名: Stercorarius longicaudus Vieillot, 1819
- 英名: Long-tailed Jaeger
- チドリ目 Charadriiformes ウミスズメ科 Alcidae -
-
#ヒメウミスズメ
- 第8版学名: Alle alle (Linnaeus, 1758)
- 英名: Little Auk
-
#ハシブトウミガラス
- 第8版学名: Uria lomvia (Linnaeus, 1758)
- 英名: Thick-billed Murre
-
#ウミガラス
- 第8版学名: Uria aalge (Pontoppidan, 1763)
- 英名: Common Murre
-
#ウミバト
- 第8版学名: Cepphus columba Pallas, 1811
- 英名: Pigeon Guillemot
-
#ケイマフリ
- 第8版学名: Cepphus carbo Pallas, 1811
- 英名: Spectacled Guillemot
-
#マダラウミスズメ
- 第8版学名: Brachyramphus perdix (Pallas, 1811)
- 英名: Long-billed Murrelet
-
#ウミスズメ
- 第8版学名: Synthliboramphus antiquus (Gmelin, 1789)
- 英名: Ancient Murrelet
-
#カンムリウミスズメ
- 第8版学名: Synthliboramphus wumizusume (Temminck, 1836)
- 英名: Japanese Murrelet
-
#アメリカウミスズメ
- 第8版学名: Ptychoramphus aleuticus (Pallas, 1811)
- 英名: Cassin's Auklet
-
#ウミオウム
- 第8版学名: Aethia psittacula (Pallas, 1769)
- 英名: Parakeet Auklet
-
#コウミスズメ
- 第8版学名: Aethia pusilla (Pallas, 1811)
- 英名: Least Auklet
-
#シラヒゲウミスズメ
- 第8版学名: Aethia pygmaea (Gmelin, 1789)
- 英名: Whiskered Auklet
-
#エトロフウミスズメ
- 第8版学名: Aethia cristatella (Pallas, 1769)
- 英名: Crested Auklet
-
#ウトウ
- 第8版学名: Cerorhinca monocerata (Pallas, 1811)
- 英名: Rhinoceros Auklet
-
#ツノメドリ
- 第8版学名: Fratercula corniculata (Naumann, 1821)
- 英名: Horned Puffin
-
#エトピリカ
- 第8版学名: Fratercula cirrhata (Pallas, 1769)
- 英名: Tufted Puffin
- ネッタイチョウ目 Phaethontiformes ネッタイチョウ科 Phaethontidae -
-
#アカオネッタイチョウ
- 第8版学名: Phaethon rubricauda Boddaert, 1783
- 英名: Red-tailed Tropicbird
-
#シラオネッタイチョウ
- 第8版学名: Phaethon lepturus Daudin, 1802
- 英名: White-tailed Tropicbird
- アビ目 Gaviiformes アビ科 Gaviidae -
-
#アビ
- 第8版学名: Gavia stellata (Pontoppidan, 1763)
- 英名: Red-throated Loon
-
#オオハム
- 第8版学名: Gavia arctica (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black-throated Loon
-
#シロエリオオハム
- 第8版学名: Gavia pacifica (Lawrence, 1858)
- 英名: Pacific Loon
-
#ハシグロアビ
- 第8版学名: Gavia immer (Bruennich*, 1764)
- 英名: Common Loon
-
#ハシジロアビ
- 第8版学名: Gavia adamsii (Gray, 1859)
- 英名: Yellow-billed Loon
- ミズナギドリ目 Procellariiformes アシナガウミツバメ科 Oceanitidae -
-
#アシナガウミツバメ
- 第8版学名: Oceanites oceanicus (Kuhl, 1820)
- 英名: Wilson's Storm Petrel
- ミズナギドリ目 Procellariiformes アホウドリ科 Diomedeidae -
-
#コアホウドリ
- 第8版学名: Phoebastria immutabilis (Rothschild, 1893)
- 英名: Laysan Albatross
-
#クロアシアホウドリ
- 第8版学名: Phoebastria nigripes (Audubon, 1839)
- 英名: Black-footed Albatross
-
#アホウドリ
- 第8版学名: Phoebastria albatrus (Pallas, 1769)
- 英名: Short-tailed Albatross
- ミズナギドリ目 Procellariiformes ウミツバメ科 Hydrobatidae -
-
#ハイイロウミツバメ
- 第8版学名: Hydrobates furcatus (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
- 英名: Fork-tailed Storm Petrel
-
#ヒメクロウミツバメ
- 第8版学名: Hydrobates monorhis (Swinhoe, 1867) (第7版学名より変更)
- 英名: Swinhoe's Storm Petrel
-
#クロウミツバメ
- 第8版学名: Hydrobates matsudairae (Kuroda, 1922) (第7版学名より変更)
- 英名: Matsudaira's Storm Petrel
-
#コシジロウミツバメ
- 第8版学名: Hydrobates leucorhous (Vieillot, 1818) (第7版学名より変更)
- 英名: Leach's Storm Petrel
-
#クロコシジロウミツバメ
- 第8版学名: Hydrobates castro (Harcourt, 1851) (第7版学名より変更)
- 英名: Band-rumped Storm Petrel
-
#オーストンウミツバメ
- 第8版学名: Hydrobates tristrami (Salvin, 1896) (第7版学名より変更)
- 英名: Tristram's Storm Petrel
- ミズナギドリ目 Procellariiformes ミズナギドリ科 Procellariidae -
-
#フルマカモメ
- 第8版学名: Fulmarus glacialis (Linnaeus, 1761)
- 英名: Northern Fulmar
-
#ハジロミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma solandri (Gould, 1844)
- 英名: Providence Petrel
-
#オオシロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma externa (Salvin, 1875)
- 英名: Juan Fernandez Petrel
-
#カワリシロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma neglecta (Schlegel, 1863)
- 英名: Kermadec Petrel
-
#ハワイシロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma sandwichensis (Ridgway, 1884) (第7版学名より変更)
- 英名: Hawaiian Petrel
-
#マダラシロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma inexpectata (Forster, 1844)
- 英名: Mottled Petrel
-
#クビワオオシロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma cervicalis (Salvin, 1891)
- 英名: White-necked Petrel
-
#ハグロシロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma nigripennis (Rothschild, 1893)
- 英名: Black-winged Petrel
-
#シロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma hypoleuca (Salvin, 1888)
- 英名: Bonin Petrel
-
#ヒメシロハラミズナギドリ
- 第8版学名: Pterodroma longirostris (Stejneger, 1893)
- 英名: Stejneger's Petrel
-
#オオミズナギドリ
- 第8版学名: Calonectris leucomelas (Temminck, 1836)
- 英名: Streaked Shearwater
-
#オナガミズナギドリ
- 第8版学名: Ardenna pacifica (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
- 英名: Wedge-tailed Shearwater
-
#ミナミオナガミズナギドリ
- 第8版学名: Ardenna bulleri (Salvin, 1888) (第7版学名より変更)
- 英名: Buller's Shearwater
-
#ハイイロミズナギドリ
- 第8版学名: Ardenna grisea (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
- 英名: Sooty Shearwater
-
#ハシボソミズナギドリ
- 第8版学名: Ardenna tenuirostris (Temminck, 1836) (第7版学名より変更)
- 英名: Short-tailed Shearwater
-
#シロハラアカアシミズナギドリ
- 第8版学名: Ardenna creatopus (Coues, 1864) (第7版学名より変更)
- 英名: Pink-footed Shearwater
-
#アカアシミズナギドリ
- 第8版学名: Ardenna carneipes (Gould, 1844) (第7版学名より変更)
- 英名: Flesh-footed Shearwater
-
#コミズナギドリ
- 第8版学名: Puffinus nativitatis Streets, 1877
- 英名: Christmas Shearwater
-
#オガサワラヒメミズナギドリ
- 第8版学名: Puffinus bryani Pyle, Welch & Fleischer, 2011
- 英名: Bryan's Shearwater
-
#ハワイセグロミズナギドリ
- 第8版学名: Puffinus newelli Henshaw, 1900
- 英名: Newell's Shearwater
-
#オガサワラミズナギドリ
- 第8版学名: Puffinus bannermani Mathews & Iredale, 1915 (第7版学名より変更)
- 英名: Bannerman's Shearwater
-
#アナドリ
- 第8版学名: Bulweria bulwerii (Jardine & Selby, 1828)
- 英名: Bulwer's Petrel
- コウノトリ目 Ciconiiformes コウノトリ科 Ciconiidae -
-
#ナベコウ
- 第8版学名: Ciconia nigra (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black Stork
-
#コウノトリ
- 第8版学名: Ciconia boyciana Swinhoe, 1873
- 英名: Oriental Stork
- カツオドリ目 Suliformes グンカンドリ科 Fregatidae -
-
#オオグンカンドリ
- 第8版学名: Fregata minor (Gmelin, 1789)
- 英名: Great Frigatebird
-
#コグンカンドリ
- 第8版学名: Fregata ariel (Gray, 1845)
- 英名: Lesser Frigatebird
- カツオドリ目 Suliformes カツオドリ科 Sulidae -
-
#アオツラカツオドリ
- 第8版学名: Sula dactylatra Lesson, 1831
- 英名: Masked Booby
-
#アカアシカツオドリ
- 第8版学名: Sula sula (Linnaeus, 1766)
- 英名: Red-footed Booby
-
#カツオドリ
- 第8版学名: Sula leucogaster (Boddaert, 1783) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Brown Booby
- 備考: IOC 14.2 ではさらに2種に分離
- カツオドリ目 Suliformes ウ科 Phalacrocoracidae -
-
#チシマウガラス
- 第8版学名: Urile urile (Gmelin, 1789) (第7版学名より変更)
- 英名: Red-faced Cormorant
-
#ヒメウ
- 第8版学名: Urile pelagicus (Pallas, 1811) (第7版学名より変更)
- 英名: Pelagic Cormorant
-
#ウミウ
- 第8版学名: Phalacrocorax capillatus (Temminck & Schlegel, 1849)
- 英名: Japanese Cormorant
-
#カワウ
- 第8版学名: Phalacrocorax carbo (Linnaeus, 1758)
- 英名: Great Cormorant
- ペリカン目 Pelecaniformes トキ科 Threskiornithidae -
-
#クロトキ
- 第8版学名: Threskiornis melanocephalus (Latham, 1790)
- 英名: Black-headed Ibis
-
#トキ
- 第8版学名: Nipponia nippon (Temminck, 1835)
- 英名: Crested Ibis
-
#ブロンズトキ
- 第8版学名: Plegadis falcinellus (Linnaeus, 1766)
- 英名: Glossy Ibis
-
#ヘラサギ
- 第8版学名: Platalea leucorodia Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Spoonbill
-
#クロツラヘラサギ
- 第8版学名: Platalea minor Temminck & Schlegel, 1849
- 英名: Black-faced Spoonbill
- ペリカン目 Pelecaniformes サギ科 Ardeidae -
-
#サンカノゴイ
- 第8版学名: Botaurus stellaris (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Bittern
-
#ヨシゴイ
- 第8版学名: Ixobrychus sinensis (Gmelin, 1789) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Yellow Bittern
-
#オオヨシゴイ
- 第8版学名: Ixobrychus eurhythmus (Swinhoe, 1873) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Von Schrenck's Bittern
-
#リュウキュウヨシゴイ
- 第8版学名: Ixobrychus cinnamomeus (Gmelin, 1789) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Cinnamon Bittern
-
#タカサゴクロサギ
- 第8版学名: Ixobrychus flavicollis (Latham, 1790) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Black Bittern
-
#ミゾゴイ
- 第8版学名: Gorsachius goisagi (Temminck, 1836)
- 英名: Japanese Night Heron
-
#ズグロミゾゴイ
- 第8版学名: Gorsachius melanolophus (Raffles, 1822)
- 英名: Malayan Night Heron
-
#ゴイサギ
- 第8版学名: Nycticorax nycticorax (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black-crowned Night Heron
-
#ハシブトゴイ
- 第8版学名: Nycticorax caledonicus (Gmelin, 1789)
- 英名: Nankeen Night Heron
-
#ササゴイ
- 第8版学名: Butorides striata (Linnaeus, 1758)
- 英名: Striated Heron
-
#アカガシラサギ
- 第8版学名: Ardeola bacchus (Bonaparte, 1855)
- 英名: Chinese Pond Heron
-
#アマサギ
- 第8版学名: Bubulcus ibis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Cattle Egret (IOC 14.2: Eastern Cattle Egret )
-
#アオサギ
- 第8版学名: Ardea cinerea Linnaeus, 1758
- 英名: Grey Heron
-
#ムラサキサギ
- 第8版学名: Ardea purpurea Linnaeus, 1766
- 英名: Purple Heron
-
#ダイサギ
- 第8版学名: Ardea alba Linnaeus, 1758
- 英名: Great Egret
-
#チュウサギ
- 第8版学名: Ardea intermedia Wagler, 1829 (第7版学名より変更)
- 英名: Intermediate Egret (IOC 14.2: Medium Egret )
-
#コサギ
- 第8版学名: Egretta garzetta (Linnaeus, 1766)
- 英名: Little Egret
-
#クロサギ
- 第8版学名: Egretta sacra (Gmelin, 1789)
- 英名: Pacific Reef Heron
-
#カラシラサギ
- 第8版学名: Egretta eulophotes (Swinhoe, 1860)
- 英名: Chinese Egret
- ペリカン目 Pelecaniformes ペリカン科 Pelecanidae -
-
#モモイロペリカン
- 第8版学名: Pelecanus onocrotalus Linnaeus, 1758
- 英名: Great White Pelican
-
#ホシバシペリカン
- 第8版学名: Pelecanus philippensis Gmelin, 1789
- 英名: Spot-billed Pelican
-
#ハイイロペリカン
- 第8版学名: Pelecanus crispus Bruch, 1832
- 英名: Dalmatian Pelican
- タカ目 Accipitriformes ミサゴ科 Pandionidae -
-
#ミサゴ
- 第8版学名: Pandion haliaetus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Osprey
- タカ目 Accipitriformes タカ科 Accipitridae -
-
#ハチクマ
- 第8版学名: Pernis ptilorhynchus (Temminck, 1821)
- 英名: Crested Honey Buzzard
-
#クロハゲワシ
- 第8版学名: Aegypius monachus (Linnaeus, 1766)
- 英名: Cinereous Vulture
-
#カンムリワシ
- 第8版学名: Spilornis cheela (Latham, 1790)
- 英名: Crested Serpent Eagle
-
#クマタカ
- 第8版学名: Nisaetus nipalensis Hodgson, 1836
- 英名: Mountain Hawk-Eagle
-
#カラフトワシ
- 第8版学名: Clanga clanga (Pallas, 1811) (第7版学名より変更)
- 英名: Greater Spotted Eagle
-
#カタシロワシ
- 第8版学名: Aquila heliaca Savigny, 1809
- 英名: Eastern Imperial Eagle
-
#イヌワシ
- 第8版学名: Aquila chrysaetos (Linnaeus, 1758)
- 英名: Golden Eagle
-
#アカハラダカ
- 第8版学名: Accipiter soloensis (Horsfield, 1821) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Chinese Sparrowhawk
-
#ツミ
- 第8版学名: Accipiter gularis (Temminck & Schlegel, 1845) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Japanese Sparrowhawk
-
#ハイタカ
- 第8版学名: Accipiter nisus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Sparrowhawk
-
#オオタカ
- 第8版学名: Accipiter gentilis (Linnaeus, 1758) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Eurasian Goshawk
-
#チュウヒ
- 第8版学名: Circus spilonotus Kaup, 1847
- 英名: Eastern Marsh Harrier
-
#ハイイロチュウヒ
- 第8版学名: Circus cyaneus (Linnaeus, 1766)
- 英名: Hen Harrier
-
#アメリカハイイロチュウヒ
- 第8版学名: Circus hudsonius (Linnaeus, 1766)
- 英名: Northern Harrier
-
#マダラチュウヒ
- 第8版学名: Circus melanoleucos (Pennant, 1769)
- 英名: Pied Harrier
-
#トビ
- 第8版学名: Milvus migrans (Boddaert, 1783)
- 英名: Black Kite
-
#オオワシ
- 第8版学名: Haliaeetus pelagicus (Pallas, 1811)
- 英名: Steller's Sea Eagle
-
#オジロワシ
- 第8版学名: Haliaeetus albicilla (Linnaeus, 1758)
- 英名: White-tailed Eagle
-
#ハクトウワシ
- 第8版学名: Haliaeetus leucocephalus (Linnaeus, 1766)
- 英名: Bald Eagle
-
#サシバ
- 第8版学名: Butastur indicus (Gmelin, 1788)
- 英名: Grey-faced Buzzard
-
#ケアシノスリ
- 第8版学名: Buteo lagopus (Pontoppidan, 1763)
- 英名: Rough-legged Buzzard
-
#オオノスリ
- 第8版学名: Buteo hemilasius Temminck & Schlegel, 1844
- 英名: Upland Buzzard
-
#ノスリ
- 第8版学名: Buteo japonicus Temminck & Schlegel, 1844 (第7版学名より変更)
- 英名: Eastern Buzzard
- フクロウ目 Strigiformes フクロウ科 Strigidae -
-
#アオバズク
- 第8版学名: Ninox japonica (Temminck & Schlegel, 1845) (第7版学名より変更)
- 英名: Northern Boobook
-
#キンメフクロウ
- 第8版学名: Aegolius funereus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Boreal Owl
-
#コノハズク
- 第8版学名: Otus sunia (Hodgson, 1836)
- 英名: Oriental Scops Owl
-
#リュウキュウコノハズク
- 第8版学名: Otus elegans (Cassin, 1852)
- 英名: Ryukyu Scops Owl
-
#オオコノハズク
- 第8版学名: Otus semitorques Temminck & Schlegel, 1844 (第7版学名より変更)
- 英名: Japanese Scops Owl
-
#トラフズク
- 第8版学名: Asio otus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Long-eared Owl
-
#コミミズク
- 第8版学名: Asio flammeus (Pontoppidan, 1763)
- 英名: Short-eared Owl
-
#シロフクロウ
- 第8版学名: Bubo scandiacus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Snowy Owl
-
#ワシミミズク
- 第8版学名: Bubo bubo (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Eagle-Owl
-
#シマフクロウ
- 第8版学名: Ketupa blakistoni (Seebohm, 1884)
- 英名: Blakiston's Fish Owl
-
#フクロウ
- 第8版学名: Strix uralensis Pallas, 1771
- 英名: Ural Owl
- サイチョウ目 Bucerotiformes ヤツガシラ科 Upupidae -
-
#ヤツガシラ
- 第8版学名: Upupa epops Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Hoopoe
- ブッポウソウ目 Coraciiformes ブッポウソウ科 Coraciidae -
-
#ブッポウソウ
- 第8版学名: Eurystomus orientalis (Linnaeus, 1766)
- 英名: Oriental Dollarbird
- ブッポウソウ目 Coraciiformes カワセミ科 Alcedinidae -
-
#アカショウビン
- 第8版学名: Halcyon coromanda (Latham, 1790)
- 英名: Ruddy Kingfisher
-
#ヤマショウビン
- 第8版学名: Halcyon pileata (Boddaert, 1783)
- 英名: Black-capped Kingfisher
-
#ナンヨウショウビン
- 第8版学名: Todiramphus chloris (Boddaert, 1783)
- 英名: Collared Kingfisher
-
#ミヤコショウビン
- 第8版学名: Todiramphus miyakoensis (Kuroda, 1919) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Miyako Island Kingfisher (IOC 14.2: 種や亜種として認めず名称なし)
-
#カワセミ
- 第8版学名: Alcedo atthis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Kingfisher
-
#ミツユビカワセミ
- 第8版学名: Ceyx erithaca (Linnaeus, 1758)
- 英名: Oriental Dwarf Kingfisher (IOC 14.2: Black-backed Dwarf Kingfisher)
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#ヤマセミ
- 第8版学名: Megaceryle lugubris (Temminck, 1834)
- 英名: Crested Kingfisher
- ブッポウソウ目 Coraciiformes ハチクイ科 Meropidae -
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#ルリオハチクイ
- 第8版学名: Merops philippinus Linnaeus, 1767
- 英名: Blue-tailed Bee-eater
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#ハチクイ
- 第8版学名: Merops ornatus Latham, 1801
- 英名: Rainbow Bee-eater
- キツツキ目 Piciformes キツツキ科 Picidae -
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#アリスイ
- 第8版学名: Jynx torquilla Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Wryneck
-
#コゲラ
- 第8版学名: Yungipicus kizuki (Temminck, 1835) (第7版学名より変更)
- 英名: Japanese Pygmy Woodpecker
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#ミユビゲラ
- 第8版学名: Picoides tridactylus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Three-toed Woodpecker
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#コアカゲラ
- 第8版学名: Dryobates minor (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Lesser Spotted Woodpecker
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#チャバラアカゲラ
- 第8版学名: Dendrocopos hyperythrus (Vigors, 1831)
- 英名: Rufous-bellied Woodpecker
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#アカゲラ
- 第8版学名: Dendrocopos major (Linnaeus, 1758)
- 英名: Great Spotted Woodpecker
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#ノグチゲラ
- 第8版学名: Dendrocopos noguchii (Seebohm, 1887) (第7版学名より変更)
- 英名: Okinawa Woodpecker
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#オオアカゲラ
- 第8版学名: Dendrocopos leucotos (Bechstein, 1802)
- 英名: White-backed Woodpecker
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#キタタキ
- 第8版学名: Dryocopus javensis (Horsfield, 1821)
- 英名: White-bellied Woodpecker
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#クマゲラ
- 第8版学名: Dryocopus martius (Linnaeus, 1758)
- 英名: Black Woodpecker
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#アオゲラ
- 第8版学名: Picus awokera Temminck, 1836
- 英名: Japanese Green Woodpecker
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#ヤマゲラ
- 第8版学名: Picus canus Gmelin, 1788
- 英名: Grey-headed Woodpecker
- ハヤブサ目 Falconiformes ハヤブサ科 Falconidae -
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#ヒメチョウゲンボウ
- 第8版学名: Falco naumanni Fleischer, 1818
- 英名: Lesser Kestrel
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#チョウゲンボウ
- 第8版学名: Falco tinnunculus Linnaeus, 1758
- 英名: Common Kestrel
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#アカアシチョウゲンボウ
- 第8版学名: Falco amurensis Radde, 1863
- 英名: Amur Falcon
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#コチョウゲンボウ
- 第8版学名: Falco columbarius Linnaeus, 1758
- 英名: Merlin
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#チゴハヤブサ
- 第8版学名: Falco subbuteo Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Hobby
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#シロハヤブサ
- 第8版学名: Falco rusticolus Linnaeus, 1758
- 英名: Gyrfalcon
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#ハヤブサ
- 第8版学名: Falco peregrinus Tunstall, 1771
- 英名: Peregrine Falcon
- スズメ目 Passeriformes ヤイロチョウ科 Pittidae -
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#ズグロヤイロチョウ
- 第8版学名: Pitta sordida (Mueller*, 1776)
- 英名: Hooded Pitta (IOC 14.2: Western Hooded Pitta)
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#ヤイロチョウ
- 第8版学名: Pitta nympha Temminck & Schlegel, 1850
- 英名: Fairy Pitta
- スズメ目 Passeriformes モリツバメ科 Artamidae -
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#モリツバメ
- 第8版学名: Artamus leucorynchus (Linnaeus, 1771)
- 英名: White-breasted Woodswallow
- スズメ目 Passeriformes サンショウクイ科 Campephagidae -
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#サンショウクイ
- 第8版学名: Pericrocotus divaricatus (Raffles, 1822)
- 英名: Ashy Minivet
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#リュウキュウサンショウクイ
- 第8版学名: Pericrocotus tegimae Stejneger, 1887
- 英名: Ryukyu Minivet
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#アサクラサンショウクイ
- 第8版学名: Lalage melaschistos (Hodgson, 1836) (第7版学名より変更)
- 英名: Black-winged Cuckooshrike
- スズメ目 Passeriformes コウライウグイス科 Oriolidae -
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#コウライウグイス
- 第8版学名: Oriolus chinensis Linnaeus, 1766
- 英名: Black-naped Oriole
- スズメ目 Passeriformes オウチュウ科 Dicruridae -
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#カンムリオウチュウ
- 第8版学名: Dicrurus hottentottus (Linnaeus, 1766)
- 英名: Hair-crested Drongo
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#ハイイロオウチュウ
- 第8版学名: Dicrurus leucophaeus Vieillot, 1817
- 英名: Ashy Drongo
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#オウチュウ
- 第8版学名: Dicrurus macrocercus Vieillot, 1817
- 英名: Black Drongo
- スズメ目 Passeriformes カササギヒタキ科 Monarchidae -
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#クロエリヒタキ
- 第8版学名: Hypothymis azurea (Boddaert, 1783)
- 英名: Black-naped Monarch
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#サンコウチョウ
- 第8版学名: Terpsiphone atrocaudata (Eyton, 1839)
- 英名: Black Paradise Flycatcher
- スズメ目 Passeriformes モズ科 Laniidae -
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#オオカラモズ
- 第8版学名: Lanius sphenocercus Cabanis, 1873
- 英名: Chinese Grey Shrike
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#オオモズ
- 第8版学名: Lanius borealis Vieillot, 1808 (第7版学名より変更)
- 英名: Northern Shrike
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#チゴモズ
- 第8版学名: Lanius tigrinus Drapiez, 1828
- 英名: Tiger Shrike
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#セアカモズ
- 第8版学名: Lanius collurio Linnaeus, 1758
- 英名: Red-backed Shrike
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#アカモズ
- 第8版学名: Lanius cristatus Linnaeus, 1758
- 英名: Brown Shrike
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#モズ
- 第8版学名: Lanius bucephalus Temminck & Schlegel, 1845
- 英名: Bull-headed Shrike
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#タカサゴモズ
- 第8版学名: Lanius schach Linnaeus, 1758
- 英名: Long-tailed Shrike
- スズメ目 Passeriformes カラス科 Corvidae -
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#カケス
- 第8版学名: Garrulus glandarius (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Jay
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#ルリカケス
- 第8版学名: Garrulus lidthi Bonaparte, 1850
- 英名: Lidth's Jay
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#オナガ
- 第8版学名: Cyanopica cyanus (Pallas, 1776)
- 英名: Azure-winged Magpie
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#カササギ
- 第8版学名: Pica serica Gould, 1845 (第7版学名より変更)
- 英名: Oriental Magpie
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#ホシガラス
- 第8版学名: Nucifraga caryocatactes (Linnaeus, 1758)
- 英名: Spotted Nutcracker (IOC 14.2: Northern Nutcracker)
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#ニシコクマルガラス
- 第8版学名: Corvus monedula Linnaeus, 1758 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Western Jackdaw
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#コクマルガラス
- 第8版学名: Corvus dauuricus Pallas, 1776 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Daurian Jackdaw
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#ミヤマガラス
- 第8版学名: Corvus frugilegus Linnaeus, 1758
- 英名: Rook
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#ハシボソガラス
- 第8版学名: Corvus corone Linnaeus, 1758
- 英名: Carrion Crow
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#ハシブトガラス
- 第8版学名: Corvus macrorhynchos Wagler, 1827
- 英名: Large-billed Crow
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#ワタリガラス
- 第8版学名: Corvus corax Linnaeus, 1758
- 英名: Northern Raven
- スズメ目 Passeriformes レンジャク科 Bombycillidae -
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#キレンジャク
- 第8版学名: Bombycilla garrulus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Bohemian Waxwing
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#ヒレンジャク
- 第8版学名: Bombycilla japonica (Siebold, 1824)
- 英名: Japanese Waxwing
- スズメ目 Passeriformes シジュウカラ科 Paridae -
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#ヒガラ
- 第8版学名: Periparus ater (Linnaeus, 1758)
- 英名: Coal Tit
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#キバラガラ
- 第8版学名: Pardaliparus venustulus (Swinhoe, 1870) (第7版学名より変更)
- 英名: Yellow-bellied Tit
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#ヤマガラ
- 第8版学名: Sittiparus varius (Temminck & Schlegel, 1845) (第7版学名より変更)
- 英名: Varied Tit
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#オリイヤマガラ
- 第8版学名: Sittiparus olivaceus Kuroda, 1923
- 英名: Iriomote Tit
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#ハシブトガラ
- 第8版学名: Poecile palustris (Linnaeus, 1758)
- 英名: Marsh Tit
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#コガラ
- 第8版学名: Poecile montanus (Conrad von Baldenstein, 1827)
- 英名: Willow Tit
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#ルリガラ
- 第8版学名: Cyanistes cyanus (Pallas, 1770)
- 英名: Azure Tit
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#シジュウカラ
- 第8版学名: Parus cinereus Vieillot, 1818 (第7版学名より変更)
- 英名: Cinereous Tit
- スズメ目 Passeriformes ツリスガラ科 Remizidae -
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#ツリスガラ
- 第8版学名: Remiz consobrinus (Swinhoe, 1870) (第7版学名より変更)
- 英名: Chinese Penduline Tit
- スズメ目 Passeriformes ヒゲガラ科 Panuridae -
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#ヒゲガラ
- 第8版学名: Panurus biarmicus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Bearded Reedling
- スズメ目 Passeriformes ヒバリ科 Alaudidae -
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#ヒバリ
- 第8版学名: Alauda arvensis Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Skylark
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#ハマヒバリ
- 第8版学名: Eremophila alpestris (Linnaeus, 1758)
- 英名: Horned Lark
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#ヒメコウテンシ
- 第8版学名: Calandrella brachydactyla (Leisler, 1814)
- 英名: Greater Short-toed Lark
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#クビワコウテンシ
- 第8版学名: Melanocorypha bimaculata (Menetries*, 1832)
- 英名: Bimaculated Lark
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#コウテンシ
- 第8版学名: Melanocorypha mongolica (Pallas, 1776)
- 英名: Mongolian Lark
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#コヒバリ
- 第8版学名: Alaudala cheleensis Swinhoe, 1871 (第7版学名より変更)
- 英名: Asian Short-toed Lark
- スズメ目 Passeriformes ヒヨドリ科 Pycnonotidae -
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#ヒヨドリ
- 第8版学名: Hypsipetes amaurotis (Temminck, 1830)
- 英名: Brown-eared Bulbul
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#シロガシラ
- 第8版学名: Pycnonotus sinensis (Gmelin, 1789)
- 英名: Light-vented Bulbul
- スズメ目 Passeriformes ツバメ科 Hirundinidae -
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#ショウドウツバメ
- 第8版学名: Riparia riparia (Linnaeus, 1758)
- 英名: Sand Martin
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#タイワンショウドウツバメ
- 第8版学名: Riparia paludicola (Vieillot, 1817)
- 英名: Brown-throated Martin
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#リュウキュウツバメ
- 第8版学名: Hirundo tahitica Gmelin, 1789
- 英名: Pacific Swallow (IOC 14.2: Tahiti Swallow)
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#ツバメ
- 第8版学名: Hirundo rustica Linnaeus, 1758
- 英名: Barn Swallow
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#イワツバメ
- 第8版学名: Delichon dasypus (Bonaparte, 1850)
- 英名: Asian House Martin
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#コシアカツバメ
- 第8版学名: Cecropis daurica (Laxmann, 1769) (第7版学名より変更)
- 英名: Red-rumped Swallow (IOC 14.2: Eastern Red-rumped Swallow)
- スズメ目 Passeriformes ウグイス科 Cettiidae -
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#ウグイス
- 第8版学名: Horornis diphone (Kittlitz, 1830) (第7版学名より変更)
- 英名: Japanese Bush Warbler
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#チョウセンウグイス
- 第8版学名: Horornis canturians (Swinhoe, 1860)
- 英名: Manchurian Bush Warbler
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#ヤブサメ
- 第8版学名: Urosphena squameiceps (Swinhoe, 1863)
- 英名: Asian Stubtail
- スズメ目 Passeriformes エナガ科 Aegithalidae -
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#エナガ
- 第8版学名: Aegithalos caudatus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Long-tailed Tit
- スズメ目 Passeriformes ムシクイ科 Phylloscopidae -
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#モリムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus sibilatrix (Bechstein, 1792)
- 英名: Wood Warbler
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#キマユムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus inornatus (Blyth, 1842)
- 英名: Yellow-browed Warbler
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#シセンムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus yunnanensis La Touche, 1922
- 英名: Chinese Leaf Warbler
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#カラフトムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus proregulus (Pallas, 1811)
- 英名: Pallas's Leaf Warbler
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#カラフトムジセッカ
- 第8版学名: Phylloscopus schwarzi (Radde, 1863)
- 英名: Radde's Warbler
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#ムジセッカ
- 第8版学名: Phylloscopus fuscatus (Blyth, 1842)
- 英名: Dusky Warbler
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#キタヤナギムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus trochilus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Willow Warbler
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#チフチャフ
- 第8版学名: Phylloscopus collybita (Vieillot, 1817)
- 英名: Common Chiffchaff
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#センダイムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus coronatus (Temminck & Schlegel, 1847)
- 英名: Eastern Crowned Leaf Warbler (IOC 14.2: Eastern Crowned Warbler)
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#イイジマムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus ijimae (Stejneger, 1892)
- 英名: Ijima's Leaf Warbler
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#ヤナギムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus plumbeitarsus Swinhoe, 1861
- 英名: Two-barred Warbler
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#エゾムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus borealoides Portenko, 1950
- 英名: Sakhalin Leaf Warbler
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#アムールムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus tenellipes Swinhoe, 1860
- 英名: Pale-legged Leaf Warbler
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#メボソムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus xanthodryas (Swinhoe, 1863)
- 英名: Japanese Leaf Warbler
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#オオムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus examinandus Stresemann, 1913
- 英名: Kamchatka Leaf Warbler
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#コムシクイ
- 第8版学名: Phylloscopus borealis (Blasius, 1858)
- 英名: Arctic Warbler
- スズメ目 Passeriformes ヨシキリ科 Acrocephalidae -
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#オオヨシキリ
- 第8版学名: Acrocephalus orientalis (Temminck & Schlegel, 1847)
- 英名: Oriental Reed Warbler
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#コヨシキリ
- 第8版学名: Acrocephalus bistrigiceps Swinhoe, 1860
- 英名: Black-browed Reed Warbler
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#スゲヨシキリ
- 第8版学名: Acrocephalus schoenobaenus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Sedge Warbler
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#マンシュウイナダヨシキリ
- 第8版学名: Acrocephalus tangorum La Touche, 1912
- 英名: Manchurian Reed Warbler
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#ヤブヨシキリ
- 第8版学名: Acrocephalus dumetorum Blyth, 1849
- 英名: Blyth's Reed Warbler
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#ハシブトオオヨシキリ
- 第8版学名: Arundinax aedon (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
- 英名: Thick-billed Warbler
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#ヒメウタイムシクイ
- 第8版学名: Iduna caligata (Lichtenstein, 1823)
- 英名: Booted Warbler
- スズメ目 Passeriformes センニュウ科 Locustellidae -
-
#エゾセンニュウ
- 第8版学名: Locustella amnicola Stepanyan, 1972 (第7版学名より変更、IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Sakhalin Grasshopper Warbler
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#オオセッカ
- 第8版学名: Locustella pryeri (Seebohm, 1884) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Marsh Grassbird
-
#シベリアセンニュウ
- 第8版学名: Locustella certhiola (Pallas, 1811) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Pallas's Grasshopper Warbler
-
#シマセンニュウ
- 第8版学名: Locustella ochotensis (Middendorff, 1853) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Middendorff's Grasshopper Warbler
-
#ウチヤマセンニュウ
- 第8版学名: Locustella pleskei Taczanowski, 1890 (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Styan's Grasshopper Warbler
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#マキノセンニュウ
- 第8版学名: Locustella lanceolata (Temminck, 1840)
- 英名: Lanceolated Warbler
- スズメ目 Passeriformes セッカ科 Cisticolidae -
-
#セッカ
- 第8版学名: Cisticola juncidis (Rafinesque, 1810)
- 英名: Zitting Cisticola
- スズメ目 Passeriformes ズグロムシクイ科 Sylviidae -
-
#コノドジロムシクイ
- 第8版学名: Curruca curruca (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Lesser Whitethroat
- スズメ目 Passeriformes メジロ科 Zosteropidae -
-
#メグロ
- 第8版学名: Apalopteron familiare (Kittlitz, 1830)
- 英名: Bonin White-eye
-
#チョウセンメジロ
- 第8版学名: Zosterops erythropleurus Swinhoe, 1863
- 英名: Chestnut-flanked White-eye
-
#メジロ
- 第8版学名: Zosterops japonicus Temminck & Schlegel, 1845
- 英名: Warbling White-eye
- スズメ目 Passeriformes キクイタダキ科 Regulidae -
-
#キクイタダキ
- 第8版学名: Regulus regulus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Goldcrest
- スズメ目 Passeriformes ミソサザイ科 Troglodytidae -
-
#ミソサザイ
- 第8版学名: Troglodytes troglodytes (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Wren
- スズメ目 Passeriformes ゴジュウカラ科 Sittidae -
-
#ゴジュウカラ
- 第8版学名: Sitta europaea Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Nuthatch
- スズメ目 Passeriformes キバシリ科 Certhiidae -
-
#キバシリ
- 第8版学名: Certhia familiaris Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Treecreeper
- スズメ目 Passeriformes ムクドリ科 Sturnidae -
-
#ギンムクドリ
- 第8版学名: Spodiopsar sericeus (Gmelin, 1789)
- 英名: Red-billed Starling
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#ムクドリ
- 第8版学名: Spodiopsar cineraceus (Temminck, 1835)
- 英名: White-cheeked Starling
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#シベリアムクドリ
- 第8版学名: Agropsar sturninus (Pallas, 1776)
- 英名: Daurian Starling
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#コムクドリ
- 第8版学名: Agropsar philippensis (Pennant, 1781)
- 英名: Chestnut-cheeked Starling
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#カラムクドリ
- 第8版学名: Sturnia sinensis (Gmelin, 1788)
- 英名: White-shouldered Starling
-
#バライロムクドリ
- 第8版学名: Pastor roseus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Rosy Starling
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#ホシムクドリ
- 第8版学名: Sturnus vulgaris Linnaeus, 1758
- 英名: Common Starling
- スズメ目 Passeriformes ツグミ科 Turdidae -
-
#ハイイロチャツグミ
- 第8版学名: Catharus minimus (Lafresnaye, 1848)
- 英名: Grey-cheeked Thrush
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#トラツグミ
- 第8版学名: Zoothera aurea (Holandre, 1825) (第7版学名より変更)
- 英名: White's Thrush
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#ミナミトラツグミ
- 第8版学名: Zoothera dauma (Latham, 1790)
- 英名: Scaly Thrush
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#オガサワラガビチョウ
- 第8版学名: Cichlopasser terrestris (Kittlitz, 1830) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Bonin Thrush
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#マミジロ
- 第8版学名: Geokichla sibirica (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
- 英名: Siberian Thrush
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#オレンジジツグミ
- 第8版学名: Geokichla citrina (Latham, 1790)
- 英名: Orange-headed Thrush
-
#ウタツグミ
- 第8版学名: Turdus philomelos Brehm, 1831
- 英名: Song Thrush
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#ヤドリギツグミ
- 第8版学名: Turdus viscivorus Linnaeus, 1758
- 英名: Mistle Thrush
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#クロウタドリ
- 第8版学名: Turdus mandarinus Bonaparte, 1850
- 英名: Chinese Blackbird
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#ワキアカツグミ
- 第8版学名: Turdus iliacus Linnaeus, 1758
- 英名: Redwing
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#クロツグミ
- 第8版学名: Turdus cardis Temminck, 1831
- 英名: Japanese Thrush
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#カラアカハラ
- 第8版学名: Turdus hortulorum Sclater, 1863
- 英名: Grey-backed Thrush
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#マミチャジナイ
- 第8版学名: Turdus obscurus Gmelin, 1789
- 英名: Eyebrowed Thrush
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#シロハラ
- 第8版学名: Turdus pallidus Gmelin, 1789
- 英名: Pale Thrush
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#アカハラ
- 第8版学名: Turdus chrysolaus Temminck, 1832
- 英名: Brown-headed Thrush
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#アカコッコ
- 第8版学名: Turdus celaenops Stejneger, 1887
- 英名: Izu Thrush
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#ノハラツグミ
- 第8版学名: Turdus pilaris Linnaeus, 1758
- 英名: Fieldfare
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#ノドグロツグミ
- 第8版学名: Turdus atrogularis Jarocki, 1819
- 英名: Black-throated Thrush
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#ツグミ
- 第8版学名: Turdus eunomus Temminck, 1831
- 英名: Dusky Thrush
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#ハチジョウツグミ
- 第8版学名: Turdus naumanni Temminck, 1820
- 英名: Naumann's Thrush
- スズメ目 Passeriformes ヒタキ科 Muscicapidae -
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#エゾビタキ
- 第8版学名: Muscicapa griseisticta (Swinhoe, 1861)
- 英名: Grey-streaked Flycatcher
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#サメビタキ
- 第8版学名: Muscicapa sibirica Gmelin, 1789
- 英名: Dark-sided Flycatcher
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#ミヤマヒタキ
- 第8版学名: Muscicapa ferruginea (Hodgson, 1845)
- 英名: Ferruginous Flycatcher
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#チャムネサメビタキ
- 第8版学名: Muscicapa muttui (Layard, 1854)
- 英名: Brown-breasted Flycatcher
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#コサメビタキ
- 第8版学名: Muscicapa dauurica Pallas, 1811
- 英名: Asian Brown Flycatcher
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#ムナフヒタキ
- 第8版学名: Muscicapa striata (Pallas, 1764)
- 英名: Spotted Flycatcher
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#オオルリ
- 第8版学名: Cyanoptila cyanomelana (Temminck, 1829)
- 英名: Blue-and-white Flycatcher
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#ロクショウヒタキ
- 第8版学名: Eumyias thalassinus (Swainson, 1838)
- 英名: Verditer Flycatcher
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#ヨーロッパコマドリ
- 第8版学名: Erithacus rubecula (Linnaeus, 1758)
- 英名: European Robin
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#オガワコマドリ
- 第8版学名: Luscinia svecica (Linnaeus, 1758)
- 英名: Bluethroat
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#ノゴマ
- 第8版学名: Calliope calliope (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
- 英名: Siberian Rubythroat
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#コルリ
- 第8版学名: Larvivora cyane (Pallas, 1776) (第7版学名より変更)
- 英名: Siberian Blue Robin
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#コマドリ
- 第8版学名: Larvivora akahige (Temminck, 1835) (第7版学名より変更)
- 英名: Japanese Robin
-
#アカヒゲ
- 第8版学名: Larvivora komadori (Temminck, 1835) (第7版学名より変更)
- 英名: Amami Robin (IOC 14.2: Ryukyu Robin)
-
#ホントウアカヒゲ
- 第8版学名: Larvivora namiyei (Stejneger, 1887)
- 英名: Okinawa Robin
-
#シマゴマ
- 第8版学名: Larvivora sibilans Swinhoe, 1863 (第7版学名より変更)
- 英名: Rufous-tailed Robin
-
#マミジロキビタキ
- 第8版学名: Ficedula zanthopygia (Hay, 1845)
- 英名: Yellow-rumped Flycatcher
-
#キビタキ
- 第8版学名: Ficedula narcissina (Temminck, 1836)
- 英名: Narcissus Flycatcher
-
#リュウキュウキビタキ
- 第8版学名: Ficedula owstoni (Bangs, 1901)
- 英名: Ryukyu Flycatcher
-
#ムギマキ
- 第8版学名: Ficedula mugimaki (Temminck, 1836)
- 英名: Mugimaki Flycatcher
-
#ニシオジロビタキ
- 第8版学名: Ficedula parva (Bechstein, 1792)
- 英名: Red-breasted Flycatcher
-
#オジロビタキ
- 第8版学名: Ficedula albicilla (Pallas, 1811)
- 英名: Taiga Flycatcher
-
#マダラヒタキ
- 第8版学名: Ficedula hypoleuca (Pallas, 1764)
- 英名: European Pied Flycatcher
-
#ルリビタキ
- 第8版学名: Tarsiger cyanurus (Pallas, 1773)
- 英名: Red-flanked Bluetail
-
#セアカジョウビタキ
- 第8版学名: Phoenicurus erythronotus (Eversmann, 1841)
- 英名: Eversmann's Redstart
-
#カワビタキ
- 第8版学名: Phoenicurus fuliginosus Vigors, 1831
- 英名: Plumbeous Water Redstart
-
#クロジョウビタキ
- 第8版学名: Phoenicurus ochruros (Gmelin, 1774)
- 英名: Black Redstart
-
#シロビタイジョウビタキ
- 第8版学名: Phoenicurus phoenicurus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Redstart
-
#ジョウビタキ
- 第8版学名: Phoenicurus auroreus (Pallas, 1776)
- 英名: Daurian Redstart
-
#ヒメイソヒヨ
- 第8版学名: Monticola gularis (Swinhoe, 1863)
- 英名: White-throated Rock Thrush
-
#コシジロイソヒヨドリ
- 第8版学名: Monticola saxatilis (Linnaeus, 1766)
- 英名: Common Rock Thrush
-
#イソヒヨドリ
- 第8版学名: Monticola solitarius (Linnaeus, 1758)
- 英名: Blue Rock Thrush
-
#ヤマザキヒタキ
- 第8版学名: Saxicola ferreus Gray & Gray, 1847
- 英名: Grey Bush Chat
-
#マミジロノビタキ
- 第8版学名: Saxicola rubetra (Linnaeus, 1758)
- 英名: Whinchat
-
#クロノビタキ
- 第8版学名: Saxicola caprata (Linnaeus, 1766)
- 英名: Pied Bush Chat
-
#ノビタキ
- 第8版学名: Saxicola stejnegeri (Parrot, 1908) (第7版学名より変更)
- 英名: Amur Stonechat
-
#ハシグロヒタキ
- 第8版学名: Oenanthe oenanthe (Linnaeus, 1758)
- 英名: Northern Wheatear
-
#イナバヒタキ
- 第8版学名: Oenanthe isabellina (Temminck, 1829)
- 英名: Isabelline Wheatear
-
#サバクヒタキ
- 第8版学名: Oenanthe deserti (Temminck, 1825)
- 英名: Desert Wheatear
-
#セグロサバクヒタキ
- 第8版学名: Oenanthe pleschanka (Lepechin, 1770)
- 英名: Pied Wheatear
- スズメ目 Passeriformes カワガラス科 Cinclidae -
-
#カワガラス
- 第8版学名: Cinclus pallasii Temminck, 1820
- 英名: Brown Dipper
- スズメ目 Passeriformes スズメ科 Passeridae -
-
#ニュウナイスズメ
- 第8版学名: Passer cinnamomeus (Gould, 1836) (第7版学名より変更)
- 英名: Russet Sparrow
-
#スズメ
- 第8版学名: Passer montanus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Tree Sparrow
-
#イエスズメ
- 第8版学名: Passer domesticus (Linnaeus, 1758)
- 英名: House Sparrow
- スズメ目 Passeriformes イワヒバリ科 Prunellidae -
-
#イワヒバリ
- 第8版学名: Prunella collaris (Scopoli, 1769)
- 英名: Alpine Accentor
-
#ヤマヒバリ
- 第8版学名: Prunella montanella (Pallas, 1776)
- 英名: Siberian Accentor
-
#カヤクグリ
- 第8版学名: Prunella rubida (Temminck & Schlegel, 1845)
- 英名: Japanese Accentor
- スズメ目 Passeriformes セキレイ科 Motacillidae -
-
#イワミセキレイ
- 第8版学名: Dendronanthus indicus (Gmelin, 1789)
- 英名: Forest Wagtail
-
#ニシツメナガセキレイ
- 第8版学名: Motacilla flava Linnaeus, 1758
- 英名: Western Yellow Wagtail
-
#ツメナガセキレイ
- 第8版学名: Motacilla tschutschensis Gmelin, 1789 (第7版学名より変更)
- 英名: Eastern Yellow Wagtail
-
#キガシラセキレイ
- 第8版学名: Motacilla citreola Pallas, 1776
- 英名: Citrine Wagtail
-
#キセキレイ
- 第8版学名: Motacilla cinerea Tunstall, 1771
- 英名: Grey Wagtail
-
#ハクセキレイ
- 第8版学名: Motacilla alba Linnaeus, 1758
- 英名: White Wagtail
-
#セグロセキレイ
- 第8版学名: Motacilla grandis Sharpe, 1885
- 英名: Japanese Wagtail
-
#マミジロタヒバリ
- 第8版学名: Anthus richardi Vieillot, 1818
- 英名: Richard's Pipit
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#コマミジロタヒバリ
- 第8版学名: Anthus godlewskii (Taczanowski, 1876)
- 英名: Blyth's Pipit
-
#マキバタヒバリ
- 第8版学名: Anthus pratensis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Meadow Pipit
-
#ヨーロッパビンズイ
- 第8版学名: Anthus trivialis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Tree Pipit
-
#ビンズイ
- 第8版学名: Anthus hodgsoni Richmond, 1907
- 英名: Olive-backed Pipit
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#セジロタヒバリ
- 第8版学名: Anthus gustavi Swinhoe, 1863
- 英名: Pechora Pipit
-
#ウスベニタヒバリ
- 第8版学名: Anthus roseatus Blyth, 1847
- 英名: Rosy Pipit
-
#ムネアカタヒバリ
- 第8版学名: Anthus cervinus (Pallas, 1811)
- 英名: Red-throated Pipit
-
#タヒバリ
- 第8版学名: Anthus rubescens (Tunstall, 1771) (IOC 14.2 分類または学名と相違あり)
- 英名: Buff-bellied Pipit (IOC 14.2: Siberian Pipit)
- スズメ目 Passeriformes アトリ科 Fringillidae -
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#ズアオアトリ
- 第8版学名: Fringilla coelebs Linnaeus, 1758
- 英名: Eurasian Chaffinch
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#アトリ
- 第8版学名: Fringilla montifringilla Linnaeus, 1758
- 英名: Brambling
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#シメ
- 第8版学名: Coccothraustes coccothraustes (Linnaeus, 1758)
- 英名: Hawfinch
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#コイカル
- 第8版学名: Eophona migratoria Hartert, 1903
- 英名: Chinese Grosbeak
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#イカル
- 第8版学名: Eophona personata (Temminck & Schlegel, 1845)
- 英名: Japanese Grosbeak
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#ギンザンマシコ
- 第8版学名: Pinicola enucleator (Linnaeus, 1758)
- 英名: Pine Grosbeak
-
#ウソ
- 第8版学名: Pyrrhula pyrrhula (Linnaeus, 1758)
- 英名: Eurasian Bullfinch
-
#ハギマシコ
- 第8版学名: Leucosticte arctoa (Pallas, 1811)
- 英名: Asian Rosy Finch
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#アカマシコ
- 第8版学名: Carpodacus erythrinus (Pallas, 1770)
- 英名: Common Rosefinch
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#オガサワラマシコ
- 第8版学名: Carpodacus ferreorostris (Vigors, 1829) (第7版学名より変更)
- 英名: Bonin Grosbeak
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#ベニマシコ
- 第8版学名: Carpodacus sibiricus (Pallas, 1773) (第7版学名より変更)
- 英名: Siberian Long-tailed Rosefinch
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#オオマシコ
- 第8版学名: Carpodacus roseus (Pallas, 1776)
- 英名: Pallas's Rosefinch
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#カワラヒワ
- 第8版学名: Chloris sinica (Linnaeus, 1766)
- 英名: Oriental Greenfinch
-
#オガサワラカワラヒワ
- 第8版学名: Chloris kittlitzi (Seebohm, 1890)
- 英名: Bonin Greenfinch
-
#ベニヒワ
- 第8版学名: Acanthis flammea (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Common Redpoll (IOC 14.2: Redpoll)
-
#イスカ
- 第8版学名: Loxia curvirostra Linnaeus, 1758
- 英名: Red Crossbill
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#ナキイスカ
- 第8版学名: Loxia leucoptera Gmelin, 1789
- 英名: Two-barred Crossbill
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#マヒワ
- 第8版学名: Spinus spinus (Linnaeus, 1758) (第7版学名より変更)
- 英名: Eurasian Siskin
- スズメ目 Passeriformes ツメナガホオジロ科 Calcariidae -
-
#ツメナガホオジロ
- 第8版学名: Calcarius lapponicus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Lapland Longspur
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#ユキホオジロ
- 第8版学名: Plectrophenax nivalis (Linnaeus, 1758)
- 英名: Snow Bunting
- スズメ目 Passeriformes ホオジロ科 Emberizidae -
-
#キアオジ
- 第8版学名: Emberiza citrinella Linnaeus, 1758
- 英名: Yellowhammer
-
#シラガホオジロ
- 第8版学名: Emberiza leucocephalos Gmelin, 1771
- 英名: Pine Bunting
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#ホオジロ
- 第8版学名: Emberiza cioides Brandt, 1843
- 英名: Meadow Bunting
-
#イワバホオジロ
- 第8版学名: Emberiza buchanani Blyth, 1845
- 英名: Grey-necked Bunting
-
#ズアオホオジロ
- 第8版学名: Emberiza hortulana Linnaeus, 1758
- 英名: Ortolan Bunting
-
#シロハラホオジロ
- 第8版学名: Emberiza tristrami Swinhoe, 1870
- 英名: Tristram's Bunting
-
#ホオアカ
- 第8版学名: Emberiza fucata Pallas, 1776
- 英名: Chestnut-eared Bunting
-
#コホオアカ
- 第8版学名: Emberiza pusilla Pallas, 1776
- 英名: Little Bunting
-
#キマユホオジロ
- 第8版学名: Emberiza chrysophrys Pallas, 1776
- 英名: Yellow-browed Bunting
-
#カシラダカ
- 第8版学名: Emberiza rustica Pallas, 1776
- 英名: Rustic Bunting
-
#ミヤマホオジロ
- 第8版学名: Emberiza elegans Temminck, 1836
- 英名: Yellow-throated Bunting
-
#シマアオジ
- 第8版学名: Emberiza aureola Pallas, 1773
- 英名: Yellow-breasted Bunting
-
#シマノジコ
- 第8版学名: Emberiza rutila Pallas, 1776
- 英名: Chestnut Bunting
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#ズグロチャキンチョウ
- 第8版学名: Emberiza melanocephala Scopoli, 1769
- 英名: Black-headed Bunting
-
#チャキンチョウ
- 第8版学名: Emberiza bruniceps Brandt, 1841
- 英名: Red-headed Bunting
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#ノジコ
- 第8版学名: Emberiza sulphurata Temminck & Schlegel, 1848
- 英名: Yellow Bunting
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#シベリアアオジ
- 第8版学名: Emberiza spodocephala Pallas, 1776
- 英名: Black-faced Bunting
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#アオジ
- 第8版学名: Emberiza personata Temminck, 1836
- 英名: Masked Bunting
-
#クロジ
- 第8版学名: Emberiza variabilis Temminck, 1836
- 英名: Grey Bunting
-
#シベリアジュリン
- 第8版学名: Emberiza pallasi (Cabanis, 1851)
- 英名: Pallas's Reed Bunting
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#コジュリン
- 第8版学名: Emberiza yessoensis (Swinhoe, 1874)
- 英名: Ochre-rumped Bunting
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#オオジュリン
- 第8版学名: Emberiza schoeniclus (Linnaeus, 1758)
- 英名: Common Reed Bunting
- スズメ目 Passeriformes ゴマフスズメ科 Passerellidae -
-
#ゴマフスズメ
- 第8版学名: Passerella iliaca (Merrem, 1786)
- 英名: Fox Sparrow (IOC 14.2: Red Fox Sparrow)
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#ミヤマシトド
- 第8版学名: Zonotrichia leucophrys (Forster, 1772)
- 英名: White-crowned Sparrow
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#キガシラシトド
- 第8版学名: Zonotrichia atricapilla (Gmelin, 1789)
- 英名: Golden-crowned Sparrow
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#サバンナシトド
- 第8版学名: Passerculus sandwichensis (Gmelin, 1789)
- 英名: Savannah Sparrow
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#ウタスズメ
- 第8版学名: Melospiza melodia (Wilson, 1810)
- 英名: Song Sparrow
- スズメ目 Passeriformes アメリカムシクイ科 Parulidae -
-
#カオグロアメリカムシクイ
- 第8版学名: Geothlypis trichas (Linnaeus, 1766)
- 英名: Common Yellowthroat
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#キヅタアメリカムシクイ
- 第8版学名: Setophaga coronata (Linnaeus, 1766)
- 英名: Yellow-rumped Warbler (IOC 14.2: Myrtle Warbler)
略号 | 説明 |
m | 男性名詞 形容詞の男性形 |
f | 女性名詞 形容詞の女性形 |
n | 中性名詞 形容詞の中性形 |
adj | 形容詞 例 albus-a-nm(adj)白い(男性形・女性形 中性形、形容詞) |
adv | 副詞 |
属 | 名詞の属格 例 anas-atis(f) カモ (単数主格単数属格(anatis)女性名詞) |
tr | 他動詞 |
intr | 自動詞 |
int | 間投詞 |
合 | 合成語、造語や手を加えた外国語 |
外 | ラテン語以外の外国語 |
神 | ギリシャ神話などにでてくる人物など |
Gk | ギリシャ語 |
L | ラテン語 (一部のみ使用) |
独 | ドイツ語 |
伊 | イタリア語 |
仏 | フランス語 |
露 | ロシア語 |
英 | 英語 |
接頭辞 | 言語の前につけて意味を付加する接辞 |
語尾 | 語幹につけて意味をもった語に完成させるもの |
接尾辞 | 語尾の一種で語幹につけて派生語をつくるもの |
指小辞 | 名詞や形容詞につけて「小さいものや可愛い」をあらわす接尾辞 |
父称 | ギリシャ語の固有名詞につけて〜の息子、娘をあらわすもの |
トートニム | 属名と種小名が同一の学名 |
-
標準和名
- 学名:学名 (読み) 説明 (第8版、第7版、IOC で相違がある場合は併記している)
- 属名:属名の説明 (同上)
- 種小名:種小名の説明 (同上)
- 英名:英名 (やや古い英名も含まれている。IOC 準拠英名が異なるものは追記している)
- 備考:備考。学名や亜種の追加説明。分類学情報や面白い関連情報(一般的な図鑑などで読める色彩や形態、分布、生態などは原則省略している)
― キジ目 GALLIFORMES キジ科 PHASIANIDAE ▽
-
エゾライチョウ
- 学名:Tetrastes bonasia (テトゥラステース ボナーシア) エゾライチョウまたはヤギュウの声のような音を出すライチョウの歌い手
- 属名:Tetrastes < Tetrao ライチョウ < tetras Symmachus が記述した鳥の名前。食べられる狩猟鳥でおそらく Aristophanes 他が用いた tetrax と同一だが正体ははっきりしない (野ガモとする著者もある) (Gk) -astes (行うもの) (Gk); ライチョウの歌い手 (コンサイス鳥名事典, Gk)
- 種小名:bonasia イタリア語でエゾライチョウ < 原意は bonasus < bonasos バイソン (Gk); ヤギュウの(声のような音を出す) (コンサイス鳥名事典)
- 英名:Hazel Grouse
- 備考:
tetrastes は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は tetras は短母音。-astes は e が長母音でそれを反映した。-ras- がアクセント音節と考えられる (テトゥラステース)。
bonasia は bonasus に従えば a が長母音でアクセントもある (ボナーシア)。ギリシャ語 bonassos も -na- が長母音でアクセントがある。
bonasia の由来はあまりはっきりわかっておらず (The Key to Scientific Names) いろいろな考えがあり得る。bonasus の変化形に現れる形ではない。
-ia の由来を -ius の語尾由来と考えれば短母音となるのが自然に思えるが性変化させたものではなさそう。
エゾライチョウの亜種の亜種小名を見ると一見性が統一されていないように見えるが Tetrastes は男性名詞の扱いと考えられる。griseonota の一見女性形に見える亜種小名が存在するがこれは不変との注釈が H&M 4:45 にあると IOC リストにある。つまり bonasia は -ius から女性形を採用したものとは解釈できない。
記載時学名 Tetrao Bonasia Linnaeus, 1758 (原記載) も大文字表記で名詞の扱い。属の性による変化は受けないことになるのだろう。Tetrastes 属は von Keyserling and Blasius (1840) が提唱したもので、当時はエゾライチョウのみを含んでいた。
Tetrastes bonasa Olphe-Galliard, 1886 (参考) の用例があり、綴りを誤ったものか改名 (修正) を意図したものか、とある。
ユーラシアやや北部に広く分布し、11 亜種が認められている (IOC)。日本で記録される亜種は vicinitas (近い、似ている)。基亜種に似ているが違う点もあると命名された (参考 基産地Hakodate, Yezo, Japan 北海道)。英名の hazel はハシバミ(属)。
キジ科は2亜科の分割されるが、日本のものは Phasianinae 亜科。
これは直立するかしないかで2クレードに分割される (erectile clade, nonerectile clade)。
日本に関係する種ではウズラが後者。ニワトリの野生種であるセキショクヤケイも後者。
erectile clade の中では Tetrastes 属および Lagopus 属 (日本に関係ある属のみを示す) は Tetraonini 族 に分類される
(この程度の分類を見ていただくと 族 tribe の意義や範囲がわかりやすいだろう)。
参考 Gutierrez et al. (2000) A classification of the grouse (Aves: Tetraoninae) based on mitochondrial DNA sequences。
Luo et al. (2024) Description of the mitochondrial genomes of Sichuan Tetrastes sewerzowi (Galliformes: Tetraonidae) and phylogenetic relationship
にミトコンドリアゲノムを用いた新しい分子系統樹が出ている。
情報がやや不足気味ではあるが、Tetrastes 属と Bonasa 属は分けた方がよいと結論している。エゾライチョウはTetrastes 属のタイプ種なので属は変わらないが、エリマキライチョウ Bonasa umbellus Ruffed Grouse は Tetrastes 属に合体するより現行の扱い通り別属でよいとのこと。
ミヤマエゾライチョウ Tetrastes sewerzowi 英名 Chinese Grouse との遺伝的関係を調べた論文: Song et al. (2021) Demographic history and divergence of sibling grouse species inferred from whole genome sequencing reveal past effects of climate change。この2種は 46-337 万年前に分かれたとのこと。両種とも近年は実効個体数が減っている。
英語圏では、冬に白い羽となるライチョウ属の種を ptarmigan、羽の色を変化させない種は grouse と呼び区別される (wikipedia 日本語版より)。ptarmigan はゲール語 tarmachan に由来し、意味は croaker (があがあ鳴くもの) だがそれ以上の語源は不明とのこと。pt- の綴りはギリシャ語由来と誤解され ptero- (翼 Gk) に合わせたものらしい (wiktionary)。英語でもライチョウ類総称では grouse。
grouse は 1530 年代には複数形で grows と呼ばれていたが起源にはいくつかの説がある。例えば中世フランス語でツルを表す grue、同じく中世ラテン語の gurta などが挙がっている (wiktionary)。
ロシア語ではライチョウ属は英語のような区別はなく様々な名前がある。エゾライチョウは ryabchik で ryaboj (斑点のある) に由来。
ライチョウ属の一部はロシア語で teterev と呼ばれ、遡れば Aristophanes 他が用いた tetrax になるらしい (Kolyada et al. 2016)。teterev から派生するロシア名に#オオタカ teterevyatnik がある。
[クジャクの目玉模様は目立つか?]
Kane et al. (2019) How conspicuous are peacock eyespots and other colorful feathers in the eyes of mammalian predators?
の研究によれば、2色色覚型の哺乳類捕食者にとってはクジャクの目玉模様は目立たず、普通の距離ではパターンが検出限界以下になるとのこと。むしろ隠蔽色になっている可能性がある。哺乳類捕食者は色彩パターンよりも他の手がかりを用いている。
クジャクは捕食者回避能力も高く、野外研究でも哺乳類による捕食の頻度は低いとのこと。目玉模様が多いほど捕食されやすい傾向も見つかっておらず、長い上尾筒が逃走行動を邪魔している証拠もないとのこと。
-
ライチョウ
- 学名:Lagopus muta (ラゴープース ムーター) 静かなライチョウ
- 属名:lagopus (f) ライチョウ (lagos ノウサギ pous 足 Gk)
- 種小名:muta (adj) 静かな (mutus)
- 英名:Rock Ptarmigan
- 備考:
lagopus は#ケアシノスリ参照 (ラゴープース)。
muta はいずれも長母音 (ムーター)。派生する他言語では伸ばさないものが多いが英語 mute は長音。
北半球高緯度に分布。23 亜種が認められている (IOC)。日本に分布する亜種は japonica (日本の) とされる。
かつての学名は Lagopus mutus だったが、種小名語尾は従来は属名が男性名詞と思われていたため。古ギリシャ語由来でこれはギリシャ語、ラテン語とも女性名詞であるため、種小名が修正されたとのこと (wikipedia 英語版より)。
Clements 3rd edition - 5th edition (incl. 2003 revisions), HBW, Peters' Check-list of the Birds (2nd edition までも含む), Sibley and Monroe (1993, including corrections up to 1998), American Ornithologists' Union 4th - 7th edition (incl. 44th suppl.) が mutus を用いていた。
Dement'ev and Gladkov (1952) では Lagopus mutus となっていた。
変更されたのが比較的最近で、日本の記事でも出典次第でしばしば見かけるので注意が必要。
ギリシャ語由来で足の意味の -pus で終わる名詞の性は女性というわけではなく apus (アマツバメ) は男性名詞であり Apus 属の種小名も男性形になっている。
日本産の種で 足の意味の -pus で終わる属名を持つもので女性形の種小名は見当たらず男性に統一されているように見える。
apus のもととなるギリシャ語の apous は形容詞でこの形は男性または女性とのこと。ギリシャ語にはアマツバメを指す用例はない (wiktionary)。
ライチョウを意味する単語がギリシャ語に存在して女性名詞だった点が異なっている模様。
参考までにタコを意味する octopus はギリシャ語に名詞が存在してこの場合は男性名詞。ラテン語も同様。なお Phylloscopus は -pus の語尾でも足とは無関係。
Lagopus 属のタイプ種はカラフトライチョウ Lagopus lagopus Willow Ptarmigan。北半球北極圏に広く分布する。サハリンは分布の南限で亜種は okadai (Momiyama 1928 が命名)。
特別天然記念物。絶滅危惧 IB 類 (EN)。世界的に種全体では IUCN 3.1 LC 種 (LC は Least Concern で「低懸念」と訳されるが、「少し懸念がある」と読まれがちである。
本来の英語の意味は「ほとんどない」、例えば least likely は「ほとんどあり得ない」の意味で、「懸念なし」と解釈する方が意味は近いだろう。日本のレッドデータブックの分類ではランク外に相当する。ドイツ語訳では nicht gefaehrdet 懸念なし とされている)。
英国には Ptarmigan と呼ばれる種が1種のみなのでイギリス英語では単に Ptarmigan と呼ばれていた。アメリカには複数種存在するため Rock Ptarmigan などと呼び分ける必要があった。
ドイツ語名 Alpenschneehuhn (アルプスの雪のニワトリ)。ロシア語名 tundryanaya kuropatka (ツンドラの、後半は kur ニワトリから派生。ツンドラのニワトリと訳せそうである)。
スウェーデン語 fjallripa (fjal 山の ripa ライチョウ) など。
[ライチョウ類の植物毒解毒]
日本の種とは近縁ではないが (エゾライチョウの方がやや近い?) 保全上でも話題となるためこちらに含めておく。
Kohl et al. (2016) Microbial detoxification in the gut of a specialist avian herbivore, the Greater Sage-Grouse
キジオライチョウ Centrocercus urophasianus の植物毒の解毒の研究がある。ヨモギ属 Artemisia を食べるスペシャリストであるが有毒物質を含んでいる。
腸内細菌が分解しており、フェノールをピルビン酸に分解する生化学経路を明らかにした。この機能はニワトリや牛など草食哺乳類 14 種には認められなかった。
ヨモギ属の主な毒性成分であるモノテルペン (monoterpene) を分解する証拠はそこまで確実でないがこの代謝経路に関係する酵素をいくつか同定した。植物毒の解毒における腸内細菌の役割は草食哺乳類や昆虫に似ているとのこと。キジオライチョウ類では糞に排泄される植物由来物質濃度が低いことから腸内細菌の役割が示唆されていた。
また必須アミノ酸 (植物にはあまり含まれない) を腸内細菌が合成している可能性もあるが、これは今後の研究が必要である。論文のまとめ方は保全よりもライチョウ類の腸内細菌に応用上有用な特異な酵素が見つかることが期待できると実用的側面を示している。
Sun et al. (2022) The avian gut microbiota: Diversity, influencing factors, and future directions に植物食の鳥の腸内細菌の役割についてレビュー論文がある。
ツメバケイではそのうでの発酵で解毒している証拠があり、ライチョウ類についても示唆されている:
Dearing et al. (2005)
The Influence of Plant Secondary Metabolites on the Nutritional Ecology of Herbivorous Terrestrial Vertebrates のレビュー参照。
ニホンライチョウでは ニホンライチョウの味覚・解毒機能の高山環境適応機構の解明と保全に向けた飼料開発 (橋戸南美) の研究がおこなれているので今後成果が出てくるだろう。
[足に羽毛の生える鳥]
ライチョウそのもの研究は見つけられなかったが、足に羽毛の生える (ptilopody) 鳥についての遺伝子変異や制御の研究がある。
Bortoluzzi et al. (2020) Parallel Genetic Origin of Foot Feathering in Birds
ニワトリとハトの飼育品種で足に羽毛を持つものは PITX1, TBX5 遺伝子の発現に共通の特徴が見られる。Fig. 1 を見ていただくとニワトリの品種でどのような形態変化があるか見ていただけるだろう。足に翼のような羽毛を持つ品種すらある。
ニワトリにおいては第 13 染色体 PITX1 の上流 200 kb に発現に関係すると思われる 17 kb の脱落があり、ハトでは同様に 44 kb の脱落があるとのこと。structural variant (構造変異) は両種で独立に何度も起きたとのこと。
タンパク質をコードする遺伝子だけを比べてもわからないだろう。
PITX1 は通常は後肢にのみ発現し、前肢には発現しない。前肢と後肢の発生の違いを生み出している。
PITX1 は小型の羽毛の発育に主に関係し、TBX5 は大型の羽毛に主に関係するとの先行研究がある。
Boer et al. (2019) Pigeon foot feathering reveals conserved limb identity networks はハト品種での足の羽毛と遺伝子発現の関係を調べている。PITX1 と TBX5 が羊膜類で前肢・後肢を決める共通の遺伝子とのこと。
Li et al. (2020) Mutations Upstream of the TBX5 and PITX1 Transcription Factor Genes Are Associated with Feathered Legs in the Domestic Chicken
もほぼ同様の研究で、ニワトリでは第 15 染色体の TBX5 遺伝子の上流に変異がある。後肢で PITX1 の発現が抑制され、TBX5 が異所的に発現することで羽毛の生えた足になる。
いずれも過去の研究で提唱されていたものを詳しい解析で確認したもの。過去の研究は引用文献を参照いただきたい [Takeuchi et al. (1999) Tbx5 and Tbx4 genes determine the wing/leg identity of limb buds の日本の研究もある]。
これらの表現型の特徴をニワトリでは ptarmigan、ハトでは grouse と呼ぶらしいことも面白い。
ライチョウはニワトリに近縁なので制御メカニズムもおそらくよく似ているのだろう。
[鳥類と爬虫類のうろこは別物]
鳥類の足の "うろこ" と爬虫類のうろこが同じ起源かどうか長く議論されてきた。
Wu et al. (2018a)
Comprehensive molecular and cellular studies suggest avian scutate scales are secondarily derived from feathers, and more distant from reptilian scales
は発生過程の鳥類の足の "うろこ" は羽毛の発生の早い段階に類似していることを見出した。分子レベルでも羽毛、うろこにそれぞれ特徴的な遺伝子の発現を調べることでワニのうろことニワトリの羽毛や "うろこ" とは異なることが示された。形態的にはワニとニワトリの "うろこ" は似ているが、幹細胞の分布、そしておそらく働きも異なり両者の "うろこ" は収斂進化の結果と考えられる。
つまり論文表題が示すように鳥類の足の "うろこ" は羽毛から二次的に生じたものと考えられ、爬虫類への先祖返りを見ているというわけでも、「鳥が爬虫類であることの証拠」というわけでもない。
鳥類の足の "うろこ" が羽毛から二次的に生じたものとの考えは Dhouailly (2009) A new scenario for the evolutionary origin of hair, feather, and avian scales で提唱されていた。
この論文では羊膜類の中でも鳥類の皮膚は羽毛、哺乳類の皮膚は毛と最も複雑な付属物を作る機能に共通の遺伝子が働いているとのこと。実験でもニワトリで単純なうろこ、マウスで単純な (付属) 腺 (gland) のみを生じさせることはできなかった。まず羽毛や毛が発生するプログラムが働き、これを抑制する機構でより単純な構造 (皮膚の角質は両者に共通) が生じるとの考え方。
足の "うろこ" が比較的簡単な遺伝子制御機構の変化で羽毛に変わり得る現代の知見とも整合性がよい。
Wu et al. (2018b) Multiple Regulatory Modules Are Required for Scale-to-Feather Conversion
によればうろこから羽毛への進化は何段階もの制御モジュール再構築が必要である。この論文が羽毛に特徴的な遺伝子を同定したもの。
ふしょの "うろこ" (scutate scales) と足の裏の reticulate scales とは異なっているとのこと。reticulate scales は α ケラチンからなる。
確かに足に羽毛が生えるニワトリやハトの飼育品種でも足の裏は羽毛にならないことが知られている。
Liu et al. (2023) Molecular and Cellular Characterization of Avian Reticulate Scales Implies the EvoDevo Novelty of Skin Appendages in Foot Sole
鳥の足の裏の皮膚の構造は哺乳類の tactile skin (外界を接触感知する皮膚。例えばヒトの手のひらや足の裏) と類似点があるとのこと。
著者は圧力に対する構造的適応で、常時摩耗するため細胞更新の頻度を高めることに適した幹細胞の分布となっていて (羽毛や毛は換羽のような更新サイクルがある) 傷を治すのに十分な速度となっているが、reticulate scales のような大きな構造物を再生するのには十分でないと考えている。
Cooper et al. (2019) Conserved gene signalling and a derived patterning mechanism underlie the development of avian footpad scales
はこの研究に先行するものだが、鳥の足の裏の皮膚の特殊性を取り上げている。恐竜の "うろこ" についてはまだ学説が固まっていないが、現在の系統研究に基づけば reticulate scales は鳥類の起源以前に遡る可能性があるとのこと。
Dhouailly (2023) Evo Devo of the Vertebrates Integument 脊椎動物の皮膚付属物の進化のレビュー論文。
鳥類の足の "うろこ" が羽毛から生じ、逆ではない証拠は集積しつつある。
すべての鳥は足の裏に reticula を持っているがフクロウ類など少数は pedal scales を持たないことも述べられている [cf. 川口 (2024) Birder 38(8): 52-53]。
鳥類・哺乳類に共通する Shh/BMP のバランスのメカニズムによって羽毛・毛皮になるか裸の皮膚になるかが決まる。足の裏が発達することで地上生活に適応した。哺乳類の毛は化石に残りにくいので進化過程は羽毛以上にあまりよくわかっていないが古くからあった模様。
爬虫類のうろこ、鳥類の reticula、哺乳類の指紋は dermal condensate (原基内での細胞集積) ではなく intra-epidermal signaling (上皮内のシグナル伝達) で形成されるものとのこと。これらはパターン形成的には同じように作られるものと考えてよさそう。上皮内のシグナル伝達で形成される
(指紋は原文で fingerprints。日本語の方が語彙が豊富なようで、解剖学的には皮膚紋理の用語がある。皮膚の構造の名称も皮溝 sulcus cutis 皮丘 crista cutis 皮野 area cutanea も日本語は詳しい)。
そういえば鳥肌が立つというのはそういうことか、と妙に納得できてしまう。
Nogare and Chitnis (2017) Self-organizing spots get under your skin
に入門者向けの皮膚のパターン形成のレビューがある。"your skin" とあるが羽毛のこともずいぶん述べている。
鳥類の羽毛発生と哺乳類の毛の発生が非常によく似ていることは出てくるが爬虫類については出てこない。羽毛の発生はそれだけよく調べられているのだろう。鳥肌はほぼ鳥の肌と考えて大きな間違いはなさそう。
このようなパターン形成のアイデアは Alan Turing アラン・チューリング「コンピュータ科学の父」が 1952 年に数学的理論として提唱したもので、近距離で促進、遠距離で抑制的に働く作用を考えるだけでパターンを再現できる。"The Chemical Basis of Morphogenesis" (形態形成の化学的基礎) の論文。
斑点や縞模様などの規則性も同じように考えられるのだろう。
Youn et al. (2024) Tissue-scale in vitro epithelial wrinkling and wrinkle-to-fold transition
ヒトの細胞を用いたものだが "しわ" の形成に働く力。
Santos-Duran et al. (2024) Self-organized patterning of crocodile head scales by compressive folding こちらはワニの表皮の "うろこ" がどのように作られるかを調べた研究。
羊膜類の表皮に見られるパターンは上記の (遺伝子発現で制御された) チューリング型の化学的シグナルによる自己組織化または力学的な力によるフィードバックが加わって形成されると考えられていたが、ワニの頭の不規則なうろこは力学的な機構のみで形成されて例外的と考えられてきた。遺伝子発現によるチューリング型の制御は関わっていないことが過去に示されていた。
EGF (表皮増殖因子) を投与する実験から、表皮と真皮の硬さの違いに起因して成長に伴う物理的な圧縮力が構造形成にかかわっていることを示したもの。
EGF の働き具合の違いだけでうろこの目の粗さが変わるとのこと。
The mechanics of crocodile head scales patterning (解説ビデオ)。
スズメ目では足のうろこが目立たなくなる傾向があるとされるが、小型であることと防水機能をあまり必要としないためでは (上記物理的メカニズムを考えると単に相似形に小型のうろこになるとは考えにくい)。
bumblefoot (バンブルフット ulcerative pododermatitis) 趾瘤症は猛禽類に起きやすい疾患と思っていたが、哺乳類にも共通しているようで Bajwa (2016) Canine pododermatitis のような獣医学のレビューもある。足の裏の収斂進化の産物と思ってよいのだろうか。
もしかすると何かの参考になるかも知れないのでメモしておくと Schwehn et al. (2024) Blood Vessel Topography of the Feet in Selected Species of Birds of Prey and Owls
に猛禽類の足の血管系を比較研究した論文がある。足の裏の血液供給がタカ類とハヤブサ類に多少違いがあるそうで、ハヤブサ類の方が足の裏の血管が少なめでバンブルフットが起きやすい原因にもなっているかも知れないとのこと。タカ類では調べられた範囲で共通性が高く、ヨーロッパノスリ、ハイタカ、ヨーロッパハチクマ、オオタカともに同じ動脈のパターンでグループ2に属するとのこと。
グループ1がハヤブサ類、グループ3がフクロウ類 (足から趾への動脈がどこで分岐するかで区別している)。ハヤブサ目でもカラカラでは趾への動脈供給がニワトリと似ているとのこと。
皮膚はどこかの段階で爬虫類型から鳥類型に進化したはずだが、化石研究から経緯を探ったもの:
Yang et al. (2024)
Cellular structure of dinosaur scales reveals retention of reptile-type skin during the evolutionary transition to feathers
皮膚部分の保存状態のよい Psittacosaurus の化石で皮膚構造を調べた。羽毛のない皮膚を現代の鳥の "うろこ" のない裸出した皮膚と比べると現在の鳥のケラチン層の方がずっと厚く、むしろ現生の爬虫類に近いものだった。
現代の鳥では羽毛のない部分にメラニン着色はほとんどないが Psittacosaurus では着色に用いていてメラニン分布はワニと共通性があるとのこと。
皮膚の構造は外気温に対する適応などいろいろな解釈が考えらえるが、四足歩行の爬虫類に比べて二足歩行によって地上から体が離れ、物理的な保護の必要性が下がったのではとの解釈も挙げている。
羽毛進化の最初の段階では羽毛のない部分には爬虫類に似た皮膚を残しておく必要性があったのでは、などの議論が出ている。今の鳥類の皮膚は哺乳類型とも共通性のある鳥類型になっていて爬虫類型の特徴は残っていないと考えてよいのだろう。
Holthaus et al. (2018) Comparative Analysis of Epidermal Differentiation Genes of Crocodilians Suggests New Models for the Evolutionary Origin of Avian Feather Proteins
上皮形成に関係する Epidermal Differentiation Complex (EDC) の遺伝子群は羊膜類内の系統ごとにすべて違いがある。カメ、ワニが共通でもっている EDPQ は鳥類では失われている。
EDCRP は鳥類・ワニ類の共通祖先で生じたものだが、鳥類で特に発達 (リピート数の増加) して羽毛をもたらすことになった。ワニ類の EDCRP ではシステイン残基が最大で 22 なのに対してニワトリでは 160 ある (羽毛にシステインが多いのはジスルフィド結合で強度を高めるためと考えられている)。
羽毛を燃やす時の特有の悪臭はシステインに起因する硫黄が多いため。また羽毛の発育には多量のシステインを必要とするため、換羽時には他の生理学的要求と競合が生じ、生理学的要求が大きい時に換羽の中断などの現象にもつながるなど換羽の理解にも役立つ。
哺乳類の毛にもシステインが多いが、タンパク質が異なっており収斂進化の結果とのこと:
Strasser et al. (2015) Convergent evolution of cysteine-rich proteins in feathers and hair;
Ehrlich et al. (2020) Convergent Evolution of Cysteine-Rich Keratins in Hard Skin Appendages of Terrestrial Vertebrates。
Strasser et al. (2015) の結果ではワキスジハヤブサやシロエリヒタキのリピート数が多く、これは羽毛強度がそれだけ重要なことを意味するのだろうか。
羽毛より起源の古い subperiderm に羽毛に関連する祖先的な遺伝子の発現があり、羽毛はここから進化したのではとの考え。
2.4 億年前の共通祖先の段階では羽毛を持っておらず、どのような役割で進化したものか興味あるとのこと [Lachner et al. (2019) Immunolocalization and phylogenetic profiling of the feather protein with the highest cysteine content]。
Davis and Greenwold (2021) Evolution of an Epidermal Differentiation Complex (EDC) Gene Family in Birds
に鳥類内での EDC の進化の研究がある。ニワトリやカッコウでは遺伝子数も多くて複雑だったものが、アデリーペンギン、ハクトウワシ (この2種はよく似ている) では遺伝子数が少ない。キンカチョウではさらに1つ失っている。進化段階をたどると水鳥の多かった系統では羽毛形成の遺伝子が重要だったが、陸に移るにつれて次第に必要性が下がったのだろうか。
ペンギンは水中生活に適応して水鳥に近いかと思ったが意外にも遺伝子は陸鳥型だった。陸から海に戻ったが遺伝子は祖先型に戻すことはできなかったらしい。
論文では生態との相関は見つけることができず、完全な遺伝子の検出が不十分なのでよりデータが必要とのこと。
Kane et al. (2019)
Successful, Full-Thickness Skin Graft in a Bald Eagle (Haliaeetus leucocephalus)
おそらく感電で頭部の皮膚を失ったハクトウワシに腿部から自家皮膚全層移植に成功したとの報告があった。羽毛が正しい向きに生えるように方向も注意したなど。6週間で放鳥に至った。このような事例は鳥類で初とのこと。
これをもとに調べてみると Stroud et al. (2003) The Use of Skin Flaps and Grafts for Wound Management in Raptors
のような文献もあって、鳥類の皮膚は哺乳類のものと似ている。羽毛がある点は違う (これは当たり前か)。
汗腺がない点は異なるが、皮膚に holocrine glands (全分泌腺。ホロクリン腺) を持っていて sebokeratinocytes が皮膚に脂肪を分泌する。尾脂腺、総排泄孔、外耳道にもあるとのことで、形態は違うものの哺乳類の脂腺と同じような部位に分布して似た機能を果たしていると考えてよさそう (他の文献を見ても哺乳類と同じような役割を果たすと書かれている)。
哺乳類の乳腺が汗腺由来であると同様、ピジョンミルクを生成する上皮も皮膚分泌腺の延長と考えてよさそう。これは #フルマカモメの備考の [におう鳥のリスト] の記述と大きく違うわけではないが、哺乳類と似た進化を遂げたらしいことがよりわかりやすい。
海に住む哺乳類では鳥類にあるような sebokeratinocytes と類似の lipokeratinocytes を持っているとのこと [Eias et al. (1987) Avian sebokeratocytes and marine mammal lipokeratinocytes: Structural, lipid biochemical, and functional considerations]。
哺乳類は夜行性を体験して嗅覚コミュニケーションの役割が増えて汗腺が重要になったが、昼行性で水分喪失を避けつつ空冷が重要な鳥類では少し違う形になったと解釈すればよいだろうか。
Stettenheim (2000) The Integumentary Morphology of Modern Birds-An Overview に鳥の皮膚付属物のレビューがあり、個々にはそれほど深くはないが守備範囲が広く、オープンアクセスなので見ておいてよさそう (当然のことながら近年の遺伝子発現の研究などは入っていない)。
鳥の皮膚全体が皮脂分泌器官として働いているが尾脂腺、外耳道腺は特化している。尾脂腺の分泌物は化学的にも皮膚の分泌物と異なってエステルが中心。鳥にも耳垢に相当する分泌がある。
総排泄孔腺はムコタンパク質のみを分泌し受精に役立っていると考えられる。
シチメンチョウでは首の基部から垂れ下がる "beard" ("ひげ") があり羽毛とは違って伸び続ける (最長 677 mm)。羽毛のように follicle (羽のう) から発生するのではなく、皮膚の肥厚部から直接生じるとのこと。ということで鳥の皮膚から生えるものはすべて羽毛が変形したものというわけでもなさそう。
ツメバケイが重いそのうを枝に乗せる部位は sternal callus と呼ばれる肥厚構造になっているそう。
嘴を覆う rhamphotheca も皮膚が特殊化して厚くなったもので、真皮 (dermis) も存在して触覚の知覚センサーがある。触覚センサーの数や分布は最食様式や種類によって大きく異なっている (よく知られているようにカモ類やシギ類、オウム類で触覚が発達している)。ツカツクリ類では温度センサーとしても知られている。
鼻孔部の nare やその一部であるろう膜 cere も rhamphotheca の一種。オウム類の舌先端のケラチン化した lingual nail も組織的には rhamphotheca に似ているが構造は β ケラチンがフィラメント状に並んで scutellate scales (趾表面の "うろこ") に似ている。
蹴爪 (spur) についても簡単な言及がある。またレンカクなどの wing spur は蹴爪同様に骨から出た突起 (ツメバケイなどの wing claw とは別物)。
Widelitz et al. (2007) Mammary glands and feathers: Comparing two skin appendages which help define novel classes during vertebrate evolution
一見意味がないように見えるが羽毛と乳腺の類似性の比較。最近の遺伝子発現などの証拠は含まれていないので想像による図になっているが皮膚付属物を進化させることで鳥類・哺乳類の2大系統に繁栄をもたらした。根底にあるメカニズムは似ている。
尾脂腺のまだ発達していないひよこを使って羽毛 (ダウン) の脂肪成分を調べてみると尾脂腺とは成分が異なっていた: Zeisler-Diehl et al. (2020) Detection of endogenous lipids in chicken feathers distinct from preen gland constituents。
尾脂腺の成分とは決定的に異なっている。未発表だが他の種でも見られるとのことで鳥類全般で成り立つのではとのこと。各種羽毛にも存在する証拠があり、濃度は低いが役割を果たしていると考えられる。
組成からは疎水機能があることはほぼ自明で、ウなどではどうなっているか調べるのは興味があるとのこと。
羽毛は死んだ組織なので血流で除かれることなく長期間安定に存在できる。
(これまでは尾脂腺の分泌物の組成などを中心に研究されてきたが) 羽毛の脂分は尾脂腺のみに由来すると考えてはいけないよう。
この論文では疎水機能を中心に議論しているがおそらく他にも機能があるのだろう。
また粉綿羽も調べているわけではないのでこちらも調べると興味深い結果になるかも。
こちらは少し違う系統だが鳥 (調べられたのはスズメ目。ヨーロッパの研究なので日本と共通または近縁種も多い) の羽毛の細菌叢が羽毛を劣化させる細菌に対する抗菌物質を作っている:
Javurkova et al. (2019) Unveiled feather microcosm: feather microbiota of passerine birds is closely associated with host species identity and bacteriocin-producing bacteria
宿主の系統とともに共進化がみられる。Streptococcus と Lactobacillus の割合が高かった。Streptococcus (レンサ球菌) はヒトも含めて多くの脊椎動物の皮膚に普遍的に存在するが、Lactobacillus (ラクトバチルス属。乳酸菌群の一つ) が皮膚の細菌叢を形成しているのはこれまでヒトと霊長類のみでしか知られていなかったとのこと。
鳥の皮膚/羽毛の細菌叢の研究は始まったばかりとのこと。
こちらは鳥類ではないが皮膚常在菌が皮膚独自の免疫応答に関与している証拠を示す研究: Bousvaine et al. (2024) Discovery and engineering of the antibody response to a prominent skin commensal
ここで話題になっている Staphylococcus epidermidis は鳥類皮膚にも常在菌として知られているのであるいは同じような機構が働いているかも。
Gribonika et al. (2024) Skin autonomous antibody production regulates host-microbiota interactions こちらも同じく皮膚常在菌と皮膚独自の免疫応答の研究。The skin's 'surprise' power: it has its very own immune system より (Nature news 2024.12.13)。
Zhang et al. (2024) Developmentally Incomplete Barb Rami Increased the Morphological Diversity of Early Feathers (preprint)
微細構造が未発達だった初期の羽毛について。3つの階層構造 (羽枝、小羽枝など) からなる羽毛はジュラ紀までに現れていたが、現代の鳥のような強度を持った構造はその後の白亜紀後期でもまだ完全に発達していなかったと考えられるとのこと。
ビルマの琥珀に保存された羽のサンプルを解析。現代の鳥に比べて構造がかなり未発達で微細形態的にはモデル計算から高速気流に対して安定な形状ではなく、現代の鳥ではこの形態は採用されていない。
さらに現代の鳥での知見をもとに羽毛発達に関連する遺伝子が進化段階を追ってどのように働いていたかを推定。
1.5 億年前から羽はほとんど変化していないとの従来の考え方に修正を迫るものとなった。
(別項目を立てるか移動する可能性もあり) Shh に関係して羊膜類の頭蓋骨や顔の形成の進化について。Marchini et al. (2025) Sonic hedgehog and fibroblast growth factor 8 regulate the evolution of amniote facial proportions
爬虫類と鳥類の頭骨の類似性など気にされている方はこのような論文を見ておくのがよいのだろう。哺乳類と鳥類の顔の形成に関わる遺伝子制御は似ているが、トカゲには鳥類の frontonasal ectodermal zone (FEZ。顔を形成する) に相当するものが認められず、羊膜類の祖先形質に近いと考えられる。
昔から言われてきた通り現代の哺乳類と現代の鳥類は祖先形質から派生した (derived) 顔の骨格を形成するプログラムがあり、これは全羊膜類に共通した性質ではない。皮膚の類似性のみならず哺乳類と鳥類で共通に進化した性質がきっとあるのでしょうね。
頭骨や顔の進化を考える上では特殊化したヘビ類やカメ類などの研究が望まれるとのこと。顔は羊膜類で複数回独立に進化した?
[ライチョウの換羽]
年1回換羽を行う鳥が多いが、極北の鳥類・哺乳類では年2回 molt を行う (以下アメリカ綴りで表記する。英語では哺乳類でも同じ用語を使うらしい。日本語では換毛の用語があるが、鳥類・哺乳類に共通した用語はない?)。
総説論文: Beltran et al. (2018) Convergence of biannual moulting strategies across birds and mammals
fig. 1 に環境要求に応じた molt の進化がまとめられている。鳥類を例にとると、
(1) 季節による環境条件が変化しない場合: 連続した molt が可能 (ネズミドリ類で知られている)
(2) 羽毛損傷に季節性がない場合: 年1回の換羽
(3) 羽毛損傷に季節性があり、断熱性の必要性に季節変動がない場合:
(3a) 色彩による配偶者選択の要求がない場合: 年1回の換羽
(3b) 色彩による配偶者選択の要求がある場合: 不完全な年2回の換羽
(4) 羽毛損傷に季節性があり、断熱性の必要性に季節変動がある場合:
(4a) カモフラージュ必要性に季節変動がない場合: 不完全な年2回の換羽
(4b) カモフラージュ必要性に季節変動がある場合: 完全な年2回の換羽
のようになる。ライチョウは (4b) にあたる。table 1 に molt 様式がまとめられていて、continuous shedding (上記 1)、annual molt (年1回の換羽): 変形として catastrophic molt (ペンギン類)、simultaneous molt (ガン・カモの一部など)、
complete biannual molting (完全な年2回の換羽)、
incomplete biannual molting (不完全な年2回の換羽)、
split molt (中断のある場合。哺乳類では知られていないとのこと)。
対応種や引用文献などは見ていただきたい。極地の特に哺乳類を中心とする論文なので我々が普通に出会う中緯度帯の鳥の換羽についてはそれほど詳しくない。
極地では molt に適した期間が短く、捕食危険性や断熱効果を損なうことに伴うエネルギーコストの増加のため熱帯の動物に比べて短時間に molt を行う。molt のコストが高いのでこのような制約が少ない熱帯のような場合はゆっくり molt を行う。このような環境要因から鳥類・哺乳類で molt の戦略に収斂進化が起きていると考えているとのこと。
他に考えるべき要因として、メラニンを含有した羽はケラチン層も厚く摩耗に強い。日光の吸収も強く病原体の増殖に適した温度以上を保ちやすい。結果的に低緯度の色の濃い Gloger (グロージャー) の法則となる。
極地の夏は紫外線が強く、冬は低温でいずれも損傷が進みやすい。そのため環境要因のみで年2回の molt が起き得る理由になる。
白色の羽毛は開けた環境で繁殖する種では日光を吸収しにくいため有利に働く。一方で高速飛行時の対流冷却を起こしにくく、熱負荷の大きい条件では体温を逃がすのに不利に働く可能性がある。
日本のライチョウは体羽は年3回の換羽を行うとのこと (初列風切は1回)。ライチョウ (Bird Research News 2012)。この記事での出典は 西野優子・中村浩志 2011。年3回換羽するライチョウの換羽時期と様式。鳥学会 2011 年度大会要旨集。
Pyle (2007) Revision of Molt and Plumage Terminology in Ptarmigan (Phasianidae: Lagopus spp.) Based on Evolutionary Consideration
によれば Lagopus 属は年3回の換羽を行うと考えられてきた:
"spring molt" (2-6 月の display plumage への換羽)、"summer molt" (7-9 月の隠蔽色への換羽)、"fall molt" (9-11 月の白い羽衣への換羽)。
3回目の換羽について十分記載されてこなかったこと、Humphrey-Parkes の用語 (#カタグロトビの備考 [タカ・ハヤブサ類の初列風切の換羽様式] で紹介) と整合性がよくないのでここで記述とともに用語を整理したとのこと。
この論文では Humphrey-Parkes システムを修正して Lagopus 属に対応する prealternate molt, presupplemental molt, prebasic molt の名称を提案。prebasic molt の名称は他の分類群と共通。
性により前2者の順序が異なり、種によって一部のみのものもある。
オスのライチョウが年4回換羽するとの過去の報告 (Johnsen 1929) は確かめられなかった。
複数回の換羽でもたらされる色彩変化による適応的意義については以前から指摘されている通りであろう。
マガモではオス・メスが別の時期に prealternate molt を行うとのことで多少対応性がある。
コオリガモも年3回換羽するとのこと (wikipedia ロシア語版 "羽衣" より)。
Payne et al. (2015) Patterns of Molt in Long-Tailed Ducks (Clangula hyemalis) during Autumn and Winter in the Great Lakes Region, Canada
では秋の換羽を中断するとの解釈のよう。
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ウズラ
- 学名:Coturnix japonica (コートゥルニークス ヤポニカ) 日本のウズラ
- 属名:coturnix (f) ウズラ
- 種小名:japonica (adj) 日本の (japonicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Japanese Quail
- 備考:
coturnix は o, i が長母音で -tur- がアクセント音節 (コートゥルニークス)。
japonica は短母音のみ (ヤポニカ)。ほとんど学名のみに使われる。伸ばす発音もあり、アクセント部分を伸ばしてもよい。
単形種。
かつては (現在の和名で) ヨーロッパウズラ Coturnix coturnix 英名 Common Quail の亜種 (Coturnix coturnix japonica) とされた。
quail の語源は後世ラテン語の quaccola (ウズラ) に由来。
ロシア語は perepel で古ロシア語 pippalnis で鳥を意味する。ラテン語 papilio チョウ に由来とのこと (Kolyada et al. 2016)。日本のウズラは別名 nemoj perepel で、無言のウズラの意味だが現実とは合わないと解説がある。perepel から派生するロシア名に#ハイタカ perepelyatnik がある。
Coturnix 属は Tetrao Coturnix Linnaeus, 1758 (原記載) の種小名を属名に昇格したもので Bonnaterre (1791) が設けた。
Coturnix communis Bonnaterre, 1791 (参考) の名称があった。
さらに Coturnix vulgaris の学名があり、Blyth 1835 や Bouteille 1843 が用いていた。
これは種小名から属名に昇格する場合にタイプ種に相当するものを指す当時の用法と想像できる (#ノスリの備考参照)。
種小名から属名に昇格する場合に種小名を変える必要がないとなって現在の学名になったものだろう。
Coturnix vulgaris japonica Temminck & Schlegel, 1849 (原記載) は後者の学名を用いていた。ヨーロッパウズラの日本版の位置づけ。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" の時代には Coturnix communis の学名が使われており、日本の亜種 (現在は種) は Coturnix communis japonica の表記で和名アカノドウズラの名前がある。
Coturnix communis orientalis Bogdanov, 1884 (参考) とシベリアでの命名もあった。日本のものと同種かは知らないが、Temminck & Schlegel (1849) の命名の方が早かったので japonica が学名に残ることになった模様。
ウズラとヨーロッパウズラの現代的な種分化の研究は Dey et al. (2024) Mitogenomic Insights into the Evolution, Divergence Time, and Ancestral Ranges of Coturnix Quails。
分岐年代は 225 (118-357) 万年前と推定。チベット高原が障壁となって分散過程で分化したものと考えられるが系統的には近く野外で交雑帯の研究も望まれるとのこと。
ウズラの鳴き声 (さえずり) はアジャパーと聞きなしされることがあるが、(ヨーロッパウズラであるが) クラシック音楽にも出てくる。楽譜の読める方であればメシアンの メシアン 最大にして最高峰のピアノ独奏曲〜「ニワムシクイ」 のウズラのところを見ていただくと面白いと思う。手元に演奏可能な楽器をお持ちであれば特有のリズムをすぐ覚えられるだろう。
3月ごろに動物園の飼育個体がよく鳴いているのを聞いたことがあるが、少し離れたところで飼育員の方に「あれがウズラの声」と話してもさっぱりわからないとのこと。仕事で毎日のように聞かれているはずだが意識しないと印象に残りにくい声なのかも知れない。
独断と偏見の識別講座 第62回 Japanese Quail <ウズラ> (2018) に波多野邦彦氏の音声に関する記述がある。
参考までに Dement'ev and Gladkov (1952) が何と記述しているか調べてみると、ヨーロッパウズラであるが pod'polot', fit'pil'-vit' となっている。やはりどんな音かわかりそうもないが、メスが tyuryuryu または bribit と応じると記載されている。オスがこの声を出す行為を指す動詞が bit' だそうで訳語には「(時計などが) 打つ」のようなものがある。
「水鶏 (くいな = ヒクイナ) のたたき」という日本語があるが、「打つ」意味の動詞が独立に使われているのだろう。
[キジ目と鳥インフルエンザ]
ニワトリは鳥インフルエンザウイルスへの感受性が特に高いことが知られており、巷では単一品種を人為的に選抜したもののためなどの説も出ているが、キジ目共通に生じた免疫応答機能の欠如が原因である可能性が指摘されている。#インドガン備考の [野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン] 以下の "最新状況" コーナーに紹介した。
この起源は非常に古くキジ目内で 4500-6500 万年前に起きたと推定されている。キジ目の進化と病原体対応にかかわる選択圧にも関係するものと考えられ、生態的にも興味深いのでキジ目内での遺伝子進化や鳥類他系統との類似性などここで紹介された文献で見ていただきたい。
[鳥類に性的興奮はあるか]
外見で性的興奮状態が判別しやすい哺乳類とは異なり、鳥類が性的興奮を感じているかどうかの客観的判断は難しい。Ball and Balthazart (2011) Sexual arousal, is it for mammals only?
がウズラを用いた研究のレビュー論文を書いている。交尾が期待できる状況 (性的興奮とは言い切れないが) でウズラは食欲を示す行動をとる。この時の脳の活動部位 (当時は放射性標識)、遺伝子発現、ドーパミン放出の関連性から哺乳類同様に性的興奮を感じているのではないかと推定。
オスにメスを見せると medial preoptic areas (視床下部に位置するが発生起源は大脳。哺乳類でも対応部位が食欲、攻撃、不安、生殖に関係する) でドーパミンが増えたとの実験がある。同じ条件で交尾を行わなかった個体もあり、ドーパミンが増えなかったとの結果がある。
fMRI などで脳の活動部位を調べる研究が望まれるとのこと (MRI 装置の中で交尾を期待するか??)。
Sachs (2007) A contextual definition of male sexual arousal 哺乳類でも勃起を伴わなくても性的興奮を感じている可能性もある。また REM 睡眠のように性的興奮がなくても勃起が起きるので実は定義が難しい。
Wysocki and Dudzinska-Nowak (2025) False Mating of Blackbirds (Turdus merula) and Fieldfares (Turdus pilaris)
ニシクロウタドリとノハラツグミの擬交尾 (false copulation) の研究。相手は巣立ち雛だったとかコケを相手にするとのこと。
鳥の交尾が技術が必要なのでトレーニングに役立って適応的などの解釈もあるらしい。
この著者は Brindle et al. (2023) The evolution of masturbation is associated with postcopulatory selection and pathogen avoidance in primates
の自慰の研究も引用している。この研究は霊長類が対象だが系統進化があるらしい。自慰は一見適応的に見えないが行動の進化を促す2つの主要仮説があるそうで、Postcopulatory Selection Hypothesis (Sexual Arousal Hypothesis + Sperm Quality Hypothesis)。自慰行動が劣位の個体が素早く交尾するのに役立つ例がイグアナで知られているとのこと + 精子の質を高める)
と Pathogen Avoidance Hypothesis (病原体を排出する) で、この研究ではいずれも可能性があり、適応的に系統進化する性質と考えている。霊長類やイグアナで知られているならば鳥で見られても不思議でない? (論文の趣旨とはちょっと違うかも知れないが関連して紹介。詳しくはそれぞれの論文を直接参照いただきたい)。
[鳥類胚の形成に働く力]
Caldarelli et al. (2024) Self-organized tissue mechanics underlie embryonic regulation
によるウズラ胚の発生初期の研究で、近距離力である物理的な力 (actomyosin による収縮) が自己組織化的に働いて遠距離の構造形成に関わっている。体の軸の前後はこのように作られる。
[その他]
外来種でここでは項目として取り上げていないが、コリンウズラ Colinus virginianus Northern Bobwhite (北米が原産) の属学名の由来はウズラ類を指すアステカの言葉 Zolin に由来。
Hernandez (1651) が Colinicuiltic を用いたが de Buffon 1770-1783 がフランス名 "Colin" と短縮したとのこと。Colinus の属名は Goldfuss (1820) が用いたとのこと (The Key to Scientific Names)。
和名も英名とはまったく関係なくこの名称に由来するが、漢字では「古林」と書かれる。漢字での名称を見ると由緒あるように思えてしまうが当て字のよう。
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ヤマドリ
- 学名:Syrmaticus soemmerringii (シュルマティクス ソエムメルリンギイ) ゼメリンクの喪裾のついた衣服を着た鳥
- 属名:syrmaticus (adj) 裳裾のついた衣服を着た (syrma -atis (n) 裳裾のついた衣服 < 引きずる -icus (接尾辞) 〜に属する)
- 種小名:soemmerringii (属) ゼメリンクの (ラテン語化 -ius を属格化) ドイツの解剖学者、科学者 Samuel Thomas von Soemmerring
- 英名:Copper Pheasant
- 備考:
syrmaticus は短母音のみで -ma- がアクセント音節 (シュルマティクス)。
soemmerringii はラテン語読みならば -rin- がアクセント音節と考えられる (ソエムメルリンギイ) 語末は i が2つ並ぶ発音になる。
原音はアクセントが冒頭だが、ラテン語読みならばここにはアクセントはあり得ないと割り切った方が単純。
旧属名に使われる phasianus は#キジ参照。
かつてはキジと同属で Phasianus soemmerringii Temminck, 1830 が記載時学名。
Syrmaticus 属の記載は Wagler (1832) による。これによると対応するドイツ語は Schleppe (引き裾)。
Schleppe によれば syrma との直接の語源的関係はなさそう。
Erlkoenig によればドイツ語で古く syrma の用例はあり、長い尾との関連があり、schleppe とも説明されている。ラテン語同義に peniculamentum がある。
この syrma はラテン語から取り込んだもののよう。OED によれば英語でも 1753 年に syrma の用例がありラテン語由来とのこと。Wagler (1832) の時代には言語を問わずそれなりに知られた用語だったのかも知れない。ここでは由来となっているラテン語を採用しておく。
syrma は裾をひきずる長い衣装でギリシャやローマ時代に悲劇の役者が着たものを指す (wiktionary)。古ギリシャ語 surma (引きずっているもの) に由来。
Soemmerring は多才な科学者だったようで wikipedia 英語版によれば外科医、解剖学者、人類学者、古生物学者 (化石の記載も行っている) となっている。ヒトの目の黄斑の発見者。23 歳で脳神経の記述を行い学位の一部となった。この研究は現在でも正しいと認められている。
Soemmerring の綴りはドイツ語でも -oe- と o のウムラウト表記の両方がある。
日本名ではゼンメリング、ゾンメリング、ゼマリングなどとも表記されるが、Sommer は英語 summer に相当するもので -mm- は2音に分けて発音しない方が適切だろう。プロイセン出身で出生地は Thorn (Torun) トルン (トルニ) とありポーランド中北部。
ニシコクマルガラスの亜種名にも soemmerringii がある。The Key to Scientific Names によれば鳥の学名に現れるのはヤマドリとこの亜種のみとのこと。
wikipedia ドイツ語版には Soemmerring の学名を持つガゼルなどいくつかの生物学名が紹介されているが、日本固有種のヤマドリに気づく人は少ないようで英語版ともに記述がない。
ヤマドリの別名にアカシトドがあったとのこと (コンサイス鳥名事典)。"シトド" はホオジロ類だけを指すものではなかったよう。
[Syrmaticus 属の系統分類]
Syrmaticus 属は尾の長いキジ類5種からなる。例えば台湾のミカドキジ Syrmaticus mikado 英名 Mikado Pheasant が有名。
Zhan et al. (2005)
Molecular Phylogeny of Avian Genus Syrmaticus Based on the Mitochondrial Cytochrome b Gene and Control Region。wikipedia 英語版の情報は少し古く、以下の研究がその後出ている。
Lee et al. (2018) Whole-genome de novo sequencing reveals unique genes that contributed to the adaptive evolution of the Mikado pheasant
ミカドキジの全ゲノム解析が行われ、台湾には約 347 (278-471) 万年前に北から定着したと考えられる。
この論文の fig. 4 に全5種の分子系統樹がある。ヤマドリとの分岐はかなり古く 1059 (900-1448) 万年前と推定される。
この系統解析からは Syrmaticus 属は
オナガキジ、ヤマドリ、ミカドキジ、{カラヤマドリ + ビルマカラヤマドリ} の順になる。最後の2種はほとんど差がない。
オナガキジは中国内陸部に生息するので、この系統を起源としてまだ陸続きであった時代の日本、台湾、中国南部から東南アジア北部に分布し、陸続きでなくなった順に種分化が進んだと考えることができる。
台湾のミカドキジは暗色型で創始個体群が小さかったと考えられる (wikipedia 英語版)。
ミカドキジの現在の標準的な中国名は黒長尾雉 (帝雉も使われる)。
学名命名由来は 原記載。Ogilvie-Grant (1906) により狩猟者から受け取った尾の羽2枚のみを、既知のどの種とも異なることからタイプ標本として記載された。
東京の帝 (明治天皇) がつがいを飼育していると伝えられたが Rothschild は実際に見ることはできなかった。これらの鳥は青くて足が赤いと伝えられ、同じく台湾に生息するサンケイ Lophura swinhoii (現学名) Swinhoe's Pheasant ではないかと推測している。
ややこしいことに英名でほぼ同じような意味となる Imperial Pheasant Lophura imperialis が記載されて使われていた (和名テイオウキジ)。
こちらはベトナムの王朝阮朝 (Nguyen) の第 12 代の皇帝 Khai Dinh に基づくとのこと (The Key to Scientific Names)。
2003 年の研究で雑種と判明し、現在の分類には現れない。中国名では Imperial に "皇" の文字を用いており (wikipedia 英語版、中国語版)、"帝雉" は紛らわしいこともあってミカドキジの方の名称が変更されたのかも知れない。
ミカドキジの wikipedia ロシア語版にある記述は中国語でこれら2者がほぼ同じ意味となることを意味していると考えられる。出典は Beebe (1990) A monograph of the pheasants. Volume 3 とのこと。
mikado の学名は他にヒメミフウズラ Turnix sylvatica Small Buttonquail の亜種名に現れ、こちらは昭和天皇を指すとのこと (The Key to Scientific Names)。現在は通常亜種 davidi のシノニムとされる。
Reichenbach (1853) によりヤマドリに属名 Graphephasianus (graphe 絵画 Gk phasianos キジ Gk) も提唱されたことがあり (この場合単形属になる)、将来の研究で正しいとされる可能性はあるものの、一般的には支持されていない。
上記分子系統樹からは独立属とすることは可能で分岐年代的には他の事例と比較して微妙なところ。もし別属にする場合はオナガキジも一属一種になる。Syrmaticus 属の系統分類は以下のようになる。分岐が少し古いところに空行を入れてある。
ヤマドリ属 Syrmaticus
オナガキジ Syrmaticus reevesii Reeves's Pheasant
ヤマドリ Syrmaticus soemmerringii Copper Pheasant
ミカドキジ Syrmaticus mikado Mikado Pheasant
カラヤマドリ Syrmaticus ellioti Elliot's Pheasant
ビルマカラヤマドリ Syrmaticus humiae Mrs. Hume's Pheasant
Li et al. (2023) The draft genome of the Temminck's tragopan (Tragopan temminckii) with evolutionary implications
にもゲノム解析によるキジ類の属レベルの分子系統樹がある。この図を見ても分岐年代 1000 万年前を別属にするかちょうど微妙なところにあたることがわかる。
Phasianinae 亜科 Erectile clade の中では Syrmaticus 属と Phasianus 属は Phasianini 族に属する。この族には他に日本に分布しない属も含まれる。
[亜種]
ヤマドリには5亜種が認められている (IOC)。scintillans (輝く、明るい) 亜種ヤマドリ、subrufus (少し赤っぽい) ウスアカヤマドリ、intermedius (中間の) シコクヤマドリ、
soemmerringii (ドイツの解剖学者 Samuel Thomas von Soemmerring に由来) アカヤマドリ、ijimae (Isao Ijima 由来) コシジロヤマドリ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
上記の種レベルの分子系統関係を見ても分散能力が非常に低そうなので島レベルで隔離されて比較的簡単に亜種が分化するのだろう。現行の亜種は分布範囲が明確でなく再検討が必要とされる。
亜種ヤマドリは最初に記載された亜種とは異なるので注意が必要。
亜種ヤマドリはキタヤマドリと呼ばれていた時期もあり、この時は亜種ヤマドリの名称はなかった。
記載順の記載時学名: 以下記載時学名、基産地は Avibase。その他の亜種記載もわかる範囲で含めた。
・Phasianus soemmerringii Temminck, 1830 o 基産地日本。アカヤマドリ
・Phasianus (Graphophasianus) scintillans Gould, 1866 o (原記載)。基産地日本 = 横浜。亜種ヤマドリ
・Phasianus ijimae Dresser, 1902 o (原記載) 基産地 Province of Hiuga, island of Kiusiu コシジロヤマドリ
・Phasianus soemmerringi subrufus Kuroda, 1919 o (原記載) 基産地 Oisan, Province of Suruga, Hondo, Japan ウスアカヤマドリ
・Phasianus soemmerringi intermedius Kuroda, 1919 o (原記載) 基産地 Yunoyamamura, Province of lyo, Shikoku, Japan シコクヤマドリ
・Graphophasianus sommerringi septentrionalis Momiyama, 1923 * (参考) 基産地 本土の北東、北西、中央部 = Kuroda (1932) により scintillans のシノニム
・Graphophasianus scintillans inabaensis Momiyama, 1928 * (参考 1, 2) 基産地 near Tottori, Prov. Inaba, Japan (鳥取近く) = Kuroda (1932) により intermedius のシノニム
学名の後に o のある亜種が IOC 14.2 に載っているもの。
* は Avibase に現れないもので近年の世界のリストに登場したことがない模様。
= 以降は通常のリストでシノニムとされる亜種。
川路 (2013) Birder 27(1): 34-35 にヤマドリと亜種の記述がある。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" の時代にはヤマドリは3種となっていた (上記リストでコシジロヤマドリまで)。
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キジ (分割された)
- 第8版学名:Phasianus versicolor (パスィアーヌス ウェルスィーコロル) さまざまな色をしたキジ (IOC も同じ)
- 第7版種学名:Phasianus colchicus (パスィアーヌス コルキクス) コルキス地方のキジ
- 第7版亜種学名:Phasianus colchicus versicolor (パスィアーヌス コルキクス ウェルスィーコロル) さまざまな色をしたコルキス地方のキジ (日本産最初の亜種。他亜種あり第8版亜種キジは別亜種)
- 属名:phasianus (m) キジ
- 第8版種小名:versicolor (さまざまな色をした)
- 第7版種小名:colchicus (adj) colchis 地方 (黒海東岸、ジョージア西部) の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
- 第7版亜種小名:versicolor (さまざまな色をした)
- 英名:Green Pheasant (or) Japanese Pheasant, IOC: Green Pheasant
- 備考:
phasianus は2つの a が長母音で2つめの a にアクセントがある (パースィアーヌス)。
起源となるギリシャ語では phasianos で冒頭が長音。Phasis 川の (鳥) の意味 Phasis の冒頭が長音 (wiktionary より)。ラテン語では帰属の接尾辞 -anus の冒頭が長音のためこの発音になっていると推定できる。
versicolor は短母音のみで -si- がアクセント音節 (ウェルスィーコロル)。伸ばす発音でもアクセント音節を伸ばす。ラテン語の color は英語とは違って短母音のみ。
colchicus は短母音のみで冒頭にアクセント (コルキクス)。
分割のため第7版学名は日本産最初の亜種まで記した。第7版時代は日本の亜種は versicolor にまとめられることもあり、亜種コウライキジ (旧名) colchicus とともに種キジを構成する形になっていた。
新しい種小名は versicolor (さまざまな色をした) となる。海外の主なチェックリストでは IOC version 1.5 以降、HBW/Birdlife 2014 年以降、Howard and Moore 2nd edition 以降、eBird 2022 年以降はこの名称が使われている。
Phasianus versicolor は日本固有種となり、大陸のコウライキジ (旧名) Phasianus colchicus は対馬で自然分布の可能性があるが (ただし対馬でもコウライキジの人為移入が行われた)、日本の他の地域では移入分布となる [Brazil (2009) "Birds of East Asia"]。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Phasianus colchicus は外来種扱いでタイリクキジと新称を与え、対馬は自然分布として認めていない。日本固有種のキジは Phasianus versicolor に改名している。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。
"タイリクキジ" の和名は以前よりあったものを利用して世界分布に整合させたものと想像できるが、同様にカラフトワシ、カラフトライチョウ、カラフトフクロウも分布を反映する名称の方がふさわしい感じがする。
タイリクキジはアメリカに移入されサウスダコタ州の州鳥となっている (コンサイス鳥名事典)。
South Dakota State Bird - Who Is The Ring-necked Pheasant (Patrick O'Donnell 2023, 2024) によれば 1943 年に投票で選ばれたとのこと。1908 年に移入されたものだが、しっかり親しまれており在来種でない州鳥を選ぶことに違和感はなかったとのこと。
日本で言えばカササギやシラコバトのようなものだろうか。
亜種も従来通り与えられているが、人工放鳥によって亜種の境界が非常にわかりにくくなっていると言われる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント"分類学上疑問がある国内固有(亜)種について"の項目にも言及があり、鳥類目録の分類は、新たな研究が行われるまで現状維持されるという原則に基づくとのこと。
4亜種あり (IOC)。robustipes (robustus 強い pedis 足) 亜種キジ、tohkaidi (東海道が由来) トウカイキジ、tanensis (種子島が由来) シマキジ、versicolor キュウシュウキジ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
かつては robustipes はキタキジと呼ばれた時期もあった。この時代には亜種キジの名称はなかった。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" の時代にはキジとコウライキジ (旧名。新称 タイリクキジ) は別種扱いとなっていた。後者の分布は対馬とされていた。
キジ科 Phasianidae などの名称は黒海に注ぐ川の名前から (コンサイス鳥名事典)。The Key to Scientific Names によればキジ類が最初に見つかったのは黒海東岸、ジョージア西部コルキス地方の River Phasis / Rioni River (現 ジョージア) とのこと。ジョージア西部の主要河川。Phasis はこの川の古代ギリシャ語名。
Phasianus colchicus を見つけたのは Argonauts アルゴナウタイ。ギリシア神話においてコルキスの金羊毛を求めてアルゴー船で航海をした英雄たちの総称とのこと。金羊毛というのはギリシア神話に出てくる秘宝のひとつで、翼を持つ金色の羊の毛皮のこと。コルキスの王が所有し、眠らないドラゴンによって守られていたとのこと (wikipedia 日本語版より)。
コルキスはカフカース地方にあった古代グルジアの王国。コルキス人は、青銅器時代中期には既にカフカースに定住していたものと思われる。コルキス王国は、紀元前6世紀から紀元前1世紀にかけて存在した、最初のグルジア国家。川の名前は日本語ではファシス川となっている (wikipedia 日本語版より。地名はいずれもロシア読みのよう)。
語源が同地域に関連する種類に他に #ソリハシシギ (ただし黒海でなくカスピ海沿岸) がある。
△ カモ目 ANSERIFORMES カモ科 ANATIDAE ▽
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リュウキュウガモ
- 学名:Dendrocygna javanica (デンドゥロキュグナ ヤウァニカ) ジャワの樹洞に巣をつくる白鳥
- 属名:dendrocygna (合) 樹洞に巣をつくる白鳥 (dendro 木 Gk、cygnus 白鳥)
- 種小名:javanica (adj) ジャワの (javanicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Lesser Whistling Duck
- 備考:
dendrocygna は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみで長母音は現れないと考えられる。-cyg- がアクセント音節と考えられる (デンドゥロキュグナ)。
javanica は短母音のみで "ヤウァニカ"。-va- を伸ばす発音もあるようなので伸ばしても間違いでない。
単形種。日本鳥類目録改訂第8版の配列では先頭で、「カモ」の名前は付いているが系統は離れていることがわかる。
大塚・立松 (2024) Birder 38(12): 38-39 に 2024 年 4-5 月の石垣島での目撃事例が報告されている。近年もそれらしい記録があったことが紹介されているが、確実な記録は約 60 年ぶりとのこと。
図鑑の識別点でもよく首と足が長いと書かれている。属名の由来に含まれる「白鳥」も首の長さを示したものであろう。文献 (#コブハクチョウの備考参照) によると Dendrocygna 属で頸椎の数は 17-18 個とあり、カモ (従来の広い意味の Anas 属で典型的には 16 個) とガン (Anser 属で 18-20 個) の中間にあたる。リュウキュウガモのデータもあり 17 個とのこと。
別名フエフキガモとも呼ばれる (英名に対応)。
Dendrocygna 属を含むカモ類の分子系統解析は Sun et al. (2017) Rapid and recent diversification patterns in Anseriformes birds: Inferred from molecular phylogeny and diversification analyses
も参照。系統的にはカモ類の中で最初に分岐した古いもので、学名から想像されるように典型的なカモ類とハクチョウ類の中間に位置するわけではない。ハクチョウ類は大きく分けるとガン類に含まれ、ハクチョウ類の長い首は採食のために頸椎数を増やして (二次的に) 進化したことがわかる。
きっと誰か調べてそうだが、#コブハクチョウ備考の [鳥類の頸椎] の Woolfenden (1961) Postcranial morphology of the waterfowl の数字を見ながらこの論文の系統樹 (fig. 2) を眺めると大変わかりやすい (コブハクチョウ備考の後に調べたため順序が逆転している。鳥類の頸椎全般についてはコブハクチョウを先にお読みいただくとよい)。
カモ類系統の頸椎数の祖先型はおそらく 16 個で、カモ類の多くも 16 個 (水面採食ガモ) や 17 個 (潜水ガモ。潜水して食物を探すのに多少便利なのだろう) である。オナガガモは例外的でハクチョウ類との一種の収斂進化と言えるかも。一見中間的に見えるツクシガモでも 16 個。
ハクチョウ類の含まれるクレードの古い系統でも Biziura, Nomonyx, Oxyura, Malacorhynchus はいずれも 16 個である
(1961 年当時は系統関係がよくわかっていなかこともわかる)。
これを見るとガン・ハクチョウ類も最初は首が長くなかったことがわかる。頸椎数は実は進化に伴って結構よく保存されている。
変化が見えるのは {ロウバシガン Cereopsis novaehollandiae Cape Barren Goose (オーストラリア) の 19-20 個 + カモハクチョウ Coscoroba coscoroba Coscoroba Swan (南米) の 21 個} (この2種がクレードを作る。これらの学名などで画像検索していただくとあまり馴染みない印象の鳥を見ることができる)
からで、この種を含むクレードから首の長いガン・ハクチョウ類が始まったと考えるとわかりやすい。この後ハクチョウ類とガン類の2つのクレードに分かれるが、ガン類で 18-20 個、ハクチョウ類で 22-25 個とハクチョウ類が特に水面下採食に特化したことがわかる。
ガン類はこの系統 (ロウバシガン以降) の祖先型に近く「もともと首が長かった」形質をそのまま引き継いでいるよう。もちろん他にも役に立つ面があるので (少なくともこの系統では) 首が短くなる方への進化は起きにくかったのだろう。
新しい系統樹を用いて見ると面白い発見が隠れてそう。
このグループでは非常に古く (5600 万年前程度) 分岐して外群に近い位置にあたるカササギガン Anseranas semipalmata Magpie Goose (オーストラリアからニューギニア) は 19-20 個で独自に進化したものらしい。
この系統には (分岐年代 4400 万年前程度と相当離れている) カモらしくないツノサケビドリ Anhima cornuta Horned Screamer と カンムリサケビドリ Chauna torquata Southern Screamer が含まれるがカモらしくないためか Woolfenden (1961) では調べられていない。別の出典ではサケビドリは 20 個とあった。
ここに出てくる種類やコクチョウなど、オーストラリアや南米で首の長い水鳥を進化させやすい理由があったのだろうか (たとえば放熱役割は期待できるかも知れない)。
そう思ってみるとツルでもオーストラリアの種類の方が首が長いように見える。参考写真 オーストラリアヅル: Brolga (James Berry 2024)。
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サカツラガン
- 第8版学名:Anser cygnoid (アンセル キュグノイド) 白鳥に似たガン
- 第7版学名:Anser cygnoides (アンセル キュグノイーデース) 白鳥に似たガン
- IOC 学名:Anser cygnoides(アンセル キュグノイーデース) 白鳥に似たガン
- 属名:anser (m) ガン
- 第8版種小名:cygnoid (adj) 白鳥に似た (cygnus 白鳥 -oides (接尾辞) 〜に似た を短縮)
- 第7版種小名:cygnoides (adj) 白鳥に似た (cygnus 白鳥 -oides (接尾辞) 〜に似た)
- 英名:Swan Goose
- 備考:
anser は#ハイイロガン参照。
cygnoides の場合は発音は自明で -oides の i, e が長母音となるため "キュグノイーデース" と典型的なラテン語アクセントと発音になる。
cygnoid の場合はそのような規則がなく (-oid は英語では普通だがラテン語的語尾でない)、綴りから o を長母音となる積極的要素もないため、発音規則により冒頭にアクセントになる (キュグノイド または キュグノイード)。
英語風に "シグノイド" と読むと (アクセントは冒頭かも知れないが) i より o にアクセントを置く発音になるため原学名の読み方からはやや離れてしまう。
発音上も cygnoides の方が自然なものになる。やはり伝統的なこちらの方がよいのでは?
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire の英名は Chinese Goose (当時は国名がよく用いられていた)。Seebohm は日本で留鳥だろうと考えていた。
"Fauna Japonica" の 図版 Anser cygnoides ferus の学名が用いられていた。当時は亜種記述方法はまだ確立されておらず、この ferus は "野生の" の意味。本文 では学名に ferus が付いていない。
家禽品種に見られるこぶがないので野生のものと Pallas の記述した race に整合するとのこと。
[学名の問題]
日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Anser cygnoid となっているがこの学名を用いているのは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) で HBW/BirdLife 2014 以降などはおそらくこれに由来
(#モリツバメの備考参照。モリツバメの場合には ICZN が Linnaeus の記載は短縮形と裁定したものだが、サカツラガンでは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では短縮形である文献の内部的な証拠は認められないと書いているのでモリツバメの裁定を意識して主張しているものかも知れない)。
IOC version 13.2, Clements などでは Anser cygnoides のまま。IOC 14.2 でも同じ学名が使われている。
"The Key to Scientific Names" によればオリジナルの学名は Anser cygnoides Linnaeus, 1758 であり、印刷時に -es が次の行に分割されないように "cygnoid." と印刷されたのが2種類の名称が生じている原因との説明がある。
Linnaeus 原典 (1758) Systema naturae per regna tria naturae: secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis, p. 122。
Linnaeus (1758) を命名の原典と考えると (学名の適格性の要件に 1758 年以降に公表されていることとある) には表記は ANAS の下、Cygnoid. 2. australis. と Cygnoid. β. orientalis. の2タイプが見出しの表記である。
見出しが Cygnoid. のように大文字で始まっているものと小文字のものがあるが、大文字のものは属名の意味というわけではなさそうである (追記: 名詞の種小名は大文字としていた時代があったことを後に知った)。
この見出しは1行のみで、次の行には小見出しが入るため "-es が次の行に分割されないように" (分割して2行に分けることができない) の説明は通用する気がする。他で短い語尾でも分割を行っている見出しは2行使える状況になっている。この種では説明が短く、小見出しがすぐ始まるため短縮せざるを得なかったと解釈できる感じがする。小見出しが入る種は少ない。
この種の歴史的経緯は A Brief History of the Swan Goose (Anser cygnoides) under Domestication in the West (Jonathan M. Thompson 2011) に詳しい。
かなり混乱があったようで17世紀に Anser cygnoides Hispanicus seu Guineensis とされていた図版は実はカナダガンであった。Comte Marsili (1726) が Anser Hispanicus seu Cygnoides
としたものはリュウキュウガモの1種だったらしい。
Eleazar Albin (1731, 1734) が頭にこぶのあるガンに2種類あるとしており、Willughby (1676) と Albin の言う Anser cygnoides は同じ種類を指していることは確かとのこと。これらの記述の時期は 60 年離れているが記述はほぼ同じ。
Albin には図版があり、現代のサカツラガンそっくりのものを指して The Spanish Goose, or Swan Goose. Anser cygnoides のタイトルで表示している。
Albin は Moscovian Gander and Goose も紹介しており、これはアフリカのガンとの雑種とみられるが学名は与えていない。
Linnaeus (1758) の中に現れる Anser cygnoides. Alb. av. I. p. 89. t. 91 は Albin の Anser cygnoides を指すものであろう。
もう一つ Anser cygneus guineensis. Raj. av. 138. Will. orn. 275. が挙げられている。
いずれも Cygnoid. 2. australis. のタイトルの下に置いているが、
Linnaeus (1758) の言う2つめのタイプ orientalis に Anser chinensis, Anser moschoviticus が入っている。australis と orientalis の地理的な意味と現行の分類の対応などもあまり釈然としない感じも残る。
Linnaeus (1758) の記載した他のガン類の学名では先人の種小名をそのまま用いているものもあるので Cygnoid. への変更の理由はよくわからない。
Dement'ev and Gladkov (1952) では Cygnopsis cygnoid の学名を用い (属名は下記参照)、protonym を Anas cygnoid Linnaeus, 1758 としている。
シノニムとして Anas orientalis Gmelin, 1788 を挙げているが Linnaeus 以前の Anser cygnoides Albin などは触れられていない。
birdforum.net AOS to discard patronyms in English names
にも議論があり、2023.11.6 の投稿によれば、ICZN では言及されておらず Linnaeus の意図も実際は誰にもわからないが、モリツバメなどの ICZN 裁定を見れば ICZN の意図は明らかに見える
(どちらが広く使われているかも議論の対象になるだろう)。しかし Anser cygnoides が公式に改名の対象と認められているというわけではない。
モリツバメなどの例も見た上で、自身の印象では cygnoid とするのは "pedantic" な改名に思える。
Anatidae (birdforum.net) がさらにこの問題を検討しており (2024.7.19 から)、Linnaeus は Fauna Svecica (1761)、
Systema naturae の 1766 年版 Caroli a Linne... systema naturae per regna tria naturae, secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis
では Cygnoides と表記しているとのこと。
Linnaeus は省略形として使っていたらしいが、同一文献内でない根拠をどのように判断するかなどまだ難しい問題が残ってそうである。
他の例で Psittacus haematod. Linnaeus 1771 を haematodus と裁定された例が紹介されている。
この問題は HBW/BirdLife が変更した時点から取り上げられていたようで、HBW-BirdLife Version 3.0 (November 2018) (2018.11.24) にもある。
[Howard and Moore Checklistについて]
今後の他の分類群にも関係があるので Howard and Moore Checklist of the Birds of the World (H&M) の意図と将来について調べた結果を少し紹介しておく。
このリストは Clements 5th edition が出るまで全亜種を扱った唯一のリストだった。
現在の最新版は 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2)。
Current concerns (H&M 公式サイト。2024年1月時点のものに基づいているが、少なくとも 2022 年段階でほぼ同じ内容だったらしい) によれば、2014年に IOC 総会が東京で開催された時に世界のチェックリストの共通化も議題となった。
同じ議題が 2018 年のバンクーバーの IOC 総会で取り扱われたが H&M リストの母体である The Trust for Avian Systematics (TAS)
の代表は招待されなかった。H&M の副編集長の Les Christidis が代弁してくれると考えていたが利益相反の問題からそうならなかった。そのため TAS は 2014 年以降はこの問題に関わっていない。
世界のチェックリストの共通化をすべきか、可能かは現在も議論の対象である。
H&M は 2003 年から (それ以前は必ずしもそうでなかったが)「生物学的種概念」にできる限り忠実に従う方針で、多少緩めることはあっても 2013/14 段階でも同じ立場をとっていた。
H&M の編集者の哲学では異なる基準に基づくリストがあった方が (議論の余地があり) 科学の発展に役立つとの考えであった。しかし多くのバーダーはチェックリストの共通化を歓迎するだろうことは認める。
もちろん TAS はリストを知的財産として保護する義務もあるが現在ではオープンアクセスが当たり前になってきてウエブサイトで公開して維持するコストも問題となっている。
これらの理由から TAS は世界のチェックリストの共通化にはあまり関わらないと読める方針が述べられている。
15-20 年後に H&M が存続するかどうかはユーザーがどう評価するか、どれだけ需要があるか次第である。
Schweizer et al. (2023) The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the
World: framework for species delimitation
に種の境界をどのように扱っているかと今後の見込みに関する解説がある。
The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the World (5th Edition)
への言及もある。H&M 5th edition では十分な生殖隔離をもって種とする方向性が示されている
(ここまでが H&M/TAS の立場の説明)。
2022年9月段階のスレッドであるが
Howard and Moore downloadable spreadsheet (birdforum.net)
によると H&M 4.0, 4.1 はチェックリストをスプレッドシートのファイルで公開していたが約1年前 (2021) に取りやめたとのこと (上記知的財産の問題らしい)。
(2022 年段階の話で) 2016 年以降改訂されておらず新しい種が入らないのでもはや興味がないとのユーザーの意見がある (気になって見てみると確かにオガサワラカワラヒワが別種になっておらずコメントもない)。
定期的更新がなく電子版が無料でなければユーザーは減るだけだろう。最後の更新には非常に手間がかかっているはずで TAS も大規模更新を「二度とやりたくない」と感じていても不思議でない。
世界のチェックリストの共通化こそ保護関係者、鳥類学者、バーダーの視点から進むべき道であると考えるが、知的財産の保護を必要とするグループはなじまないのだろうとの見解が出されている (かなり意訳しているが)。
一方で Howard and Moore が完全になくなってしまうのは惜しいとの意見もある。属より上のレベル (族や亜科) を取り入れているリストは他にない。
別のコメントですべての分類概念は Avibase がすでに網羅して番号を与えており、チェックリスト間の違いはそれを見ればよいだけ (Avibase の taxon grid)。ただ更新には多少のタイムラグがある。
IOC の Master Lists - IOC World Bird List が亜種までカバーした比較リストを出している
との意見や情報が出ていた。
個人的にはこの稿をまとめるにあたり H&M 4th (online) に文献情報も出ているのはありがたいが、新しいものが入っていないので有用性は少し古い情報に限られてしまう。
まとめると IOC と Clements が中心となって世界のチェックリストの共通化を検討しているところ。
H&M はそれには関与せず独自路線をとるが、しかしながらチェックリスト共通化の後追いもせざるを得ない部分もある。財政的には存続も危ぶまれている、というところだろうか。
H&M の初版 (書籍) は 1980 年出版で、昼行性猛禽類の大家である Leslie Brown が前文を書いている。また山階 (1986)「世界鳥類和名辞典」は H&M の分類に従っているなど我々が現在使っている名称にも関係が深い。初版から半世紀近くを経て役割も変わってきたと言えるだろうか。
このような大規模なチェックリストの維持・管理などは手作業レベルでも行えた昔とは異なり、計算機技術に長けた人材も不可欠だろう。Avibase の技術管理者レベルで作業を行える人材がいないと今では時代に追いつけないかも知れない [参考 Lepage et al. (2014) Avibase - a database system for managing and organizing taxonomic concepts]。
McClure et al. (2020) Towards reconciliation of the four world bird lists: hotspots of disagreement in taxonomy of raptors
にも世界のリストの共通化の必要が述べられている。この研究は猛禽類のみを調べているが、H&M と IOC で猛禽類の種類数 (学名の違いの数ではなく) が 52 も違うとのこと。特にフクロウ類で顕著だそうである。H&M の更新頻度が低いため新しい情報が取り込まれていないことも要因と考えている。
ただしこの論文の著者はほとんどがアメリカ、そしてカナダ、オーストラリアが1人ずつとアメリカのリスト (特に eBird や AOU) を念頭に置いている傾向も見られるので少し割り引いて考える必要もあるだろう。ヨーロッパの人は別の見解があるかも知れない。
New unified list of birds - Avilist (Birdforum) の情報 (2025.1.23) によれば H&M は改訂版を出さないと聞いた人があるとのこと。知的財産の考えから有料とするならば商売としても厳しいものになるだろうとのこと。
[家禽化]
サカツラガンの家禽化で何が変わったか全ゲノム解析で調べた研究: Chen et al. (2023) Population Structure and Selection Signatures of Domestication in Geese
ヨーロッパの家禽化されたガチョウの方が由来はより複雑で2系統にはシナガチョウも混ざっているとのこと。中国の Yili geese はハイイロガンの方に近い。ヨーロッパの Rhine goose は家禽化されてから両者がかけ合わされたものらしい。
Wen et al. (2023) Origins, timing and introgression of domestic geese revealed by whole genome data
ではシナガチョウの家禽化は 3499 年前、ヨーロッパは 7552 年前と推定される。
家禽化への選択に伴い、神経に関係する遺伝子が強く選択されて向社会的行動 (prosocial behavior) を生み出しているのでは。
飛翔の必要がなくなり、酸素運搬に関わる遺伝子も変化している。家禽は視力も低いが、関連している可能性のある遺伝子も挙げられている。頭の見栄えのこぶも選択の結果だが、野生のツクシガモもこのこぶが社会的地位を表しているとのこと。関連する遺伝子 (EXT1) 変異の候補が見つかっている。
Xu et al. (2024) Transcriptome Profiling Unveils Key Genes Regulating the Growth and Development of Yangzhou Goose Knob でも関連する複数の遺伝子が発現していることが示されている。
身近な家禽としてここに含めておくが、ニワトリの白色レグホンが毎日のように産卵できる仕組みについて: Johnson et al. (2015) The domestic chicken: Causes and consequences of an egg a day
もちろんこの性質は人為的に選抜されたものであるが、白色レグホンでは他の動物ではあまり見られない卵巣ガンが見られ、2.5 年で 30-35% の高率で発生するが、商用のニワトリではそこまで生かされないので通常は見られない。ホルモンや遺伝子の働きの概略を述べている。卵管上皮が反復する卵胞放出で破壊され修復されるため変異が起きやすくなるとの仮説もあるとのこと。
産卵しても抱卵しないことで次の卵胞が発育できるのだが、抱卵する性質 (就巣性 broodiness) を支配する遺伝子は何か。Xu et al. (2010) The dopamine D2 receptor gene polymorphisms associated with chicken broodiness
抱卵する性質はポリジーンだが、遺伝的性質を調べた実験の結果は研究者により異なる。この研究ではドーパミン D2 受容体 (松果体経由でプロラクチンの分泌に関わる) を一つの候補と考えている。
ハトでも同様の研究がある: Yin et al. (2018) Association of Dopamine D2 Receptor Gene Polymorphisms with Reproduction Traits in Domestic Pigeons (Columba livia)。
最新の RNA 転写研究では複雑な機構も報告されている: Tan et al. (2024) Long noncoding RNAs and mRNAs profiling in ovary during laying and broodiness in Taihe Black-Bone Silky Fowls (Gallus gallus Domesticus Brisson)。
産業への応用のために盛んに調べられている分野ではあるが、分子機構まではまだ解明されていない模様。
Liu et al. (2018)
Whole-transcriptome analysis of atrophic ovaries in broody chickens reveals regulatory pathways associated with proliferation and apoptosis
抱卵を行うニワトリで抱卵に伴う卵巣の萎縮機構。
抱卵鳥が抱卵に関係する遺伝子を何か失っているならば、非托卵性に戻ることはできないのでは、と考え抱卵に関係する遺伝子は托卵鳥でも変異があるのではと想像するが、探した範囲では研究は見つからなかった。
卵の構造に「カラザ」があるが、「カラザ」とは?意味や役割などをご紹介 によれば英語由来ではなく、ラテン語 chalaza (霰) < ギリシア語 khalaza (塊) とのこと。英語の chalaza は語源は新ラテン語 chalaza (1695-1705) < ギリシア語 khalaza とのこと (wordreference.com)。
ポルトガル語でも同じなので日本に入ったのはこのルートかも? 多くの言語でそのまま使っているのである意味世界共通の用語と言える。
多くの鳥類で片側の卵巣のみが発達する分子伝達機構が明らかにされた: (ニワトリ) Peng et al. (2023) A PITX2-HTR1B pathway regulates the asymmetric development of female gonads in chickens。
PITX2 (Paired-Like Homeodomain 2) は脊椎動物の左右非対称な発達に関与する因子。
(アヒル、ガチョウ) Ran et al. (2023) Exploring right ovary degeneration in duck and goose embryos by histology and transcriptome dynamics analysis。
[脊椎動物の腫瘍発生率]
白色レグホンの卵巣腫瘍に関連してこの項目に含めておくが、両生類以降の系統の脊椎動物の腫瘍発生率の系統的研究が発表された: Compton et al. (2024) Cancer Prevalence across Vertebrates (PDF 版のみ。オープンアクセス)。
気になる鳥類を見ると哺乳類に比べて全体的にだいぶ低い。動物園で飼育の鳥で腫瘍が死因のケースをあまり聞かないのはこのような系統的特性が現れているかも。
両生類などでも腫瘍発生は見られ比率も極めて低いわけではない。腫瘍発生率は鳥類の方が爬虫類より低い。特に悪性腫瘍では差が顕著で鳥類では少ない (これらはいずれも 哺乳類 > 爬虫類 > 鳥類 >= 両生類 の順)。
さまざまな変数との相関も調べられているが上位にくるのはやはり哺乳類が中心。
系統樹を用いた表示もありこれもわかりやすい (種については学名でなく英語の通称名で記されている)。鳥類の低さが全体的に目立つが一部高めの系統があり、キジ類・カモ類が中心。新しい系統ではオウム類が少し高い (これは臨床的に報告される知見にも現れている)。
白色レグホンの卵巣腫瘍についても、キジ類はそもそも腫瘍発生率が高めの背景があるためかも知れない。
哺乳類では肉食のものと齧歯類が高い傾向があり霊長類は中間的。鳥類では肉食のものの腫瘍発生率は高くない。
爬虫類で肉食哺乳類に相当する程度高い系統があるが鳥類では (調べられている範囲で) そのような傾向が見られない。哺乳類ではコウモリで発生率が低く、鳥類ではペンギンの低さが目立っていると Abstract にあるが、コウモリ類はその通りのようだがよく知られた種類を取り上げたものの可能性があって系統樹表示ではペンギン類がそれほど目立っているようではない。
[その他]
サカツラガンは現在は Anser 属に分類されているが、Cygnopsis 属 (Johann Friedrich von Brandt 1836 < Cygnus ハクチョウ属の名前 opsis 外見 Gk) が使われていたこともある。これは最初 Cygnus属の亜属として提唱された名前で、つまりハクチョウ類とされていたことがある。
頸椎数 19 個とある。どちらにしても旧北区のガンの中ではハクチョウの体型に一番近いのでこのような分類になったのだろう。
シナガチョウ Anser cygnoides var. domesticus の原種。
属名の Anser は菊池氏のオリジナルでは (m,f) であったが、anser (wiktionary) では m (男性名詞) とあり、学名でも男性名詞で扱われているようなのでそのようにした。ラテン語全体では女性名詞の用例もあるのかも知れない。
また多くの言語でガンとガチョウは単語レベルでは区別されていないのでガチョウと訳される場合も多いが、ここでは野生種を主に扱うのでガンとした。
サカツラガンのロシア名 sukhonos は sukhoj 乾いた nos 嘴。Kolyada et al. (2016) によれば警戒時体をほとんど水に沈め、首から上だけを出すような行動を示すことから付いた名前ではないかとのこと。
-
ヒシクイ (オオヒシクイを独立種とする分類も多い)
- 学名:Anser fabalis (アンセル ファバーリス) 豆の (収穫期にやってくる) ガン
- 属名:anser (m) ガン
- 種小名:fabalis (adj) 豆の (faba (f) 豆 -alis (接尾辞) 〜に関連する)
- 英名:Bean Goose, IOC: Tundra Bean Goose と Taiga Bean Goose に分離
- 備考:
anser は#ハイイロガン参照。
fabalis は2つめの a が長母音でアクセントもここにある (ファバーリス)。
亜種名の発音は serrirostris は "セルリローストリス" と考えらえる。
middendorffii はラテン語風だと "ミドゥデンドルフフィイ" と考えらえるが、よく知られた人名でドイツ語またはロシア語的発音 (日本語の読み方と同じ) で構わないだろう。
種小名の由来は Pennant (1768)、Latham (1785) の時代から Bean Goose の名前があった。豆の収穫期になるとやってくると Strickland (1858) が記述している (The Key to Scientific Names)。
フランス名では Oie des moissons と明確に小麦なども含む "収穫期" (moisson) を用いている。
ドイツ名は Saatgans と種 (英語 seed に対応) を用いている。
ロシア名 gumennik で gumno (穀物小屋) に由来 (Kolyada et al. 2016)。
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire では Anser segetum、記載時 Anas segetum Gmelin, 1788 (参考) を用いて英名 Bean-Goose としていた。segetum は seges 農地 の。
Anas Fabalis Latham, 1787 (原記載) 基産地 Great Britain の方が早いことがまだ知られていなかった時代の学名と考えられる。
IOC では (IOC で種。14.2 でも同様) ヒシクイ Anser serrirostris (serra ぎざぎざの/鋸歯状の -rostris 嘴の) 英名 Tundra Bean Goose として2亜種を認めている。いずれも日本で記録され、この扱いでは基亜種 serrirostris と rossicus (ロシアの) ヒメヒシクイである。
(IOC で種。14.2 でも同様) オオヒシクイ Anser fabalis 英名 Taiga Bean Goose として3亜種を認めている。日本で記録される亜種はこのうち middendorffii (ロシアの動物学者でシベリアや中央アジアを探検した Aleksandr Fedorovich von Middendorf に由来) オオヒシクイである。
serrirostris の記載は Anser segetum var. serrirostris Gould, 1871 (原記載) 基産地 near Amoy, China。H&M4 でも有効な亜種扱いで記載年は 1852 年に遡るとのこと。
middendorffii は Anser Middendorffii Severtsov, 1873 基産地 eastern Siberia。記載 p. 70 の表、p. 149 に本文記載がある。北東シベリアで Middendorff が採集 (原文 "掘り出し") したもの。
Middendorff 自身は Pallas の用いた学名 Anser grandis で記載したが Pallas の用いたものは Brandt によるとサカツラガンを指していて誤用だったとのこと。
初出学名は Anas grandis Gmelin, 1789 (参考 Great goose シベリア東部にすごい数とある。基産地はカムチャツカ) だったよう。
そのため新しい学名を与えたもの。
日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではこれらを同種として扱い、Anser fabalis 種ヒシクイの亜種として3亜種を認める立場になっており、IOC 英名とは整合性が悪くなっている。
世界の主要リストでは Clements, AOU, IOC, eBird は種 Anser serrirostris を認める立場で、HBW/BirdLife と Howard and Moore 4th が Anser fabalis serrirostris と亜種扱いにしている。
Working Group Avian Checklists では最初から Anser serrirostris としており、世界的には分離が主流になりそう。
ロシアの現在のチェックリストは別種としていない。
分子系統学研究では Ruokonen et al. (2008) Taxonomy of the bean goose-pink-footed goose は コザクラバシガン Anser brachyrhynchus (brakhus 短い rhunkhos 嘴 Gk) 英名 Pink-footed Goose を含め、これら3種を3つのクレードに分かれ、系統が十分分離していて別種扱いでよいと述べている。3種の外見的類似性は似た環境での収斂進化によるものとみなしている。
もう少し広い範囲のガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) A tree of geese: A phylogenomic perspective on the evolutionary history of True Geese が調べている。
この研究ではヒシクイとオオヒシクイの関係は新たに調べられておらず、研究当時の Clements 分類 (2015) に従ってオオヒシクイをヒシクイの亜種として分離した扱いはしていない。Ruokonen et al. (2008) は引用しており、コザクラバシガンを広義のヒシクイの姉妹種、これら全体を species complex としている。これらの間の進化的位置づけを再構成するにはもっと広範なデータが必要としている。
ヒシクイとオオヒシクイをそれぞれ独立種とすべきかについては特に情報のある論文ではない。個人的には独立種としてよい論文 Ruokonen et al. (2008) や海外リストを根拠としてヒシクイとオオヒシクイを別種として取り扱った方が実用的には利便性が高まると感じる
(それぞれ識別困難な種類ではないこと、日本は分布の東端に位置するため両グループの中間型に悩まされることが少ないだろうことも理由に挙げられよう。「十分な量のデータ」が揃うのを待っていてはいつまでも決まらないような気がする...)。
さらに Ottenburghs et al. (2023) Highly differentiated loci resolve phylogenetic relationships in the Bean Goose complex が Anser brachyrhynchus コザクラバシガン、Anser fabalis ヒシクイ、Anser serrirostris の分類上の問題を扱っている。
A. fabalis と A. serrirostris を同種にすると、A. brachyrhynchus を内包してしまって単系統にならないので、
A. fabalis と A. serrirostris は別種にするか、これら全部を1種にして違いは全部亜種扱いにするかのどちらかになる、ということのようである。
また使用する遺伝領域によって結果が異なり、強く分化した部位を使うとこの系統関係になるが他の部位を使うと遺伝子浸透の影響も生じて相互に単系統にならないなどの相違が生じる。
ただしこの解析にはオオヒシクイは含まれていない。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント "亜種和名の原則に関わる問題" で、(現状の) 種ヒシクイと亜種ヒシクイが同じ名称なので実際上も混乱の原因となっているため、亜種ヒシクイにハシブトヒシクイを与える提案がなされたが、長年使われてきた名称なので継続して使用するのが妥当、またハシブトヒシクイは Anser mentalis に対してすでに使われた和名のため不適当との回答であった。
Anser mentalis (顎に特徴がある) の再検討については Ruokonen and Aarvak (2011) Typology Revisited: Historical Taxa of the Bean Goose - Pink-Footed Goose Complex
でなされ、遺伝子型は特定の亜種に同定するまでは至らなかったが独立種とする根拠はないとのことであった。
日本ではヒシクイは天然記念物。これも分類や名称をあまり細かく変更したくない理由の一つかも知れない。
亜種オオヒシクイは準絶滅危惧 (NT)、亜種ヒシクイは絶滅危惧 II 類 (VU)。世界的には IUCN 3.1 LC 種。
Ottenburghs et al. (2016) Abstract でガン類の近年 (400-200 万年前) の種分化要因が取り上げられている。寒冷化に伴う極地方のツンドラ形成と中緯度帯の草原の広がりを要因と考えている (この現象は多くのグループで見られる)。
オープンアクセスで見られる分子系統樹は Sun et al. (2017) Rapid and recent diversification patterns in Anseriformes birds: Inferred from molecular phylogeny and diversification analyses も参照。
-
ハイイロガン
- 学名:Anser anser (アンセル アンセル) ガン
- 属名:anser (m) ガン (かつては灰色のガンの学名だった)
- 種小名:anser (トートニム)
- 英名:Greylag Goose
- 備考:
anser は短母音のみで規則通り "アンセル"。冒頭を伸ばす発音もある。ここでは短母音のみを採用した。
2亜種あり (IOC)。日本で記録されるものは rubrirostris (ruber 赤い -rostris 嘴の) とされる。
最初に記載された際は Anas anser Linnaeus, 1758 のカモ類とされていた。Anser 属は 1760 年 Brisson により設けられた。
ラテン語 anser はイタリア祖語に想定される *hans 由来と考えられ、ラテン語化の際に *hansez から (h)anser と変化したと議論されている。*hans はインド・ヨーロッパ祖語でガンを指す *gh2ens に由来とのこと。
同じ語源の単語に古代ギリシャ語 khen、英語の gos など がある (wiktionary)。
コンラート・ローレンツ (Konrad Lorenz) が「刷り込み」を発見した種類としても有名
(wikipedia 英語版)。ローレンツの行動学には当時の学問背景が色濃く現れているので多少注意が必要である (#ミサゴの備考 [feather taxis・頭かき] 参照)。
英名の greylag の由来は grey (色から) + lag [ガン (ガチョウ) の古名。これらの鳥を移動させる時に使われた音声に由来] (wiktionary)。つまり Greylag Goose の名称にはガンの意味が二重に入る。ガチョウの原種。
Kessler (1853) p. 89 (#オオハム参照) によれば Anser cinereus Meyer, 1810 (参考。
ここでは Anas Anser Linnaeus, 1758 に登場する ferus 野生のものを指したもの に新称を与えている) の学名 ("灰色のガン") があり、現在の和名 (英名あるいはドイツ語名などとも相互に関係したかも知れない) はこれに由来すると考えるとわかりやすい。Meyer が名付けた学名のため後述の資料のようにドイツ語名由来の可能性が高そう。
当時のロシア名もこの学名に基づき "灰色のガン" でこの名称は現在まで使われている。
Anas Anser Linnaeus, 1758 から昇格して Anser 属を設けた際のトートニムを避けた新名と考えられる (#ノスリの備考参照)。
Anser ferus Schaeffer, 1789 (参考) も同様の措置を行っている。こちらは "野ガン" の意味になる。
Anser vulgaris Pallas, 1811 (参考) の用例があって "普通のガン" の意味だが本種かどうか不明。
Hartert (1910-1922) p. 1278 では当時のドイツ語名 Graugans でハイイロガンの名称と同じ。ドイツからの学問の輸入の際にこの名称がそのまま和名となったのかも知れない。マガンの Blaessgans, Blaessegans (蒼白色のガン) に対比する名称だった。
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire で Pallas は千島列島や日本の現地名も挙げているが種類はよくわからない (ヒシクイの項目で登場し、Pallas の述べたものがヒシクイでなければ Blakiston が採集したヒシクイが日本初記録との文脈で現れる)。
Li et al. (2020) Annual migratory patterns of Far East Greylag Geese (Anser anser rubrirostris) revealed by GPS tracking
日本と同亜種ハイイロガンの中国の衛星追跡。
[鳥の編隊飛行の仕組み]
Newbolt et al. (2024) Flow interactions lead to self-organized flight formations disrupted by self-amplifying waves
が鳥の群れ形成の仕組みを扱っている。どこに入れてもよいのだがここで扱われている種類がガン類などの大型種なのでここに含めておく。
模型を使った流体力学実験で、前方の個体の後報に位置する力 (位置がずれた場合に元の位置に戻す復元力) が働き結晶格子のような規則的配列を作る傾向があることが説明できる。しかし全体としては振動のモードがパターンとして生まれて flonons と呼んでいる (結晶中における音波に相当する格子振動を量子化したフォノンに類似の概念)。
この振動が成長すると衝突が起きたり群れを崩壊させることになる (この現象は実際の現象とも対応がある)。個体差を与えるとの個々の個体の位置にはばらつきが生まれるが、この振動の成長が抑制されることがわかった。これは現実でもそうなっているだろう (なお物理学では振動が成長するか否かが非常によく扱われるので物理の話を読む時の着眼点としてよい)。
個々の個体に働く力のミクロのメカニズムが大域的な構造形成を行う自己組織化として扱っている (自己組織化については [#鳥類系統樹2024] の記述も参照)。
流体中の群れについて一般的に成り立つ法則と考えられ、魚の群れの形成などもおそらく同様の構造形成が働くのだろう。もちろん個々の個体が意識を持って行動していないとは言っていない。エネルギー的に最も低い (つまり楽ができる) 位置を選択すれば自然にそのような構造が生まれると解釈するとよい。
これはやはり物理学 (分野的には物性か) の論文と言ってよいだろう。鳥の編隊飛行は結晶格子と同じように捉えることができる。
英文解説記事。
[コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz とハイイロガン]
Lorenz がハイイロガンなどを用いて刷り込みを研究したことは非常に有名で、著作も多数ある。
その一つ Das Jahr der Graugans (1979) 英訳されて The Year of the Greylag Goose (1979) は邦訳されていないようなので紹介しておく。
いわば写真物語のような形、同一の写真は後の著作にもおそらく現れていて目にしたことがあるものもある。
少しハードルが高いかも知れないが、ロシア語訳 (1984) があって lorenz1984_god_serogo_gusya のようなファイル名で見つけられるのでないかと思う。Panov が前文を書いている。写真が多いので写真を見る分には何語でもそう違わないだろうし、機械翻訳でも十分読めそう。
「ハイイロガンの動物行動学」(大川けい子訳 平凡社 1996) は原書 Hier bin ich - wo bist du? : Ethologie der Graugans (1988)。
#イヌワシ備考の [コンラート・ローレンツのワシ類の記述] でも「ソロモンの指環」を中心に取り上げた。
[首の短い鳥は危険?]
同じ模型でも動かす方向によってタカに見えたりガンに見えたりして、タカに見えるシルエットには逃避反応を示すローレンツとティンバーゲンによる有名な実験をご存じの方も多いだろう。自分が習った時代の本にはよく書いてあった。
その顛末が紹介されていた:
Schleidt and Shalter (2011) The Hawk/Goose Story: The Classical Ethological Experiments of Lorenz and Tinbergen, Revisited
ティンバーゲンの 1951 年の本に出てくるイラストとのこと。シチメンチョウに見せた場合の反応を調べた (Lorenz 1939)。
Oscar Heinroth がニワトリが首が短く尾の長いシルエットをより警戒するとの観察結果を受けて Lorenz が 1937 年に実験したの最初とのこと。つまり Heinroth が仮説の最初の提唱者とのこと。
Lorenz (1939) はシチメンチョウの反応しか述べていないが、Tinbergen はニワトリ類からカモやガンまで一般化してしまったとのこと。Lorenz は速度 (角速度) の遅さも要因と考えたが、
Tinbergen は首が短いことが一番重要な刺激だと結論し、Tinbergen "The Study of Instinct" (1951) の本には Heinroth の観察によると (首の短い) ヨーロッパアマツバメが渡ってきてすぐの時期はベルリン動物園の多くの鳥が逃避行動をとるとの記述まであるとのこと (!)。
Tinbergen の書物はこの世界ではバイブルであったため信じられていたが、1967 年の実験で覆ってしまったとのこと。
Tinbergen の仮説を覆した実験やその後の追試結果や解釈なども述べられている。
Schleidt (1961) の観察では猛禽類よりもむしろ気象バルーンを警戒した。シュバシコウにも反応したのは "短い首仮説" にとって逆説的である。
Tinbergen は仮説を取り下げて selective habituation hypothesis を受け入れ、1965 年にはひなは落ち葉も含め頭上を通り過ぎるものすべてに "生得的" に臆病だが、経験を積むにつれて当たり前の刺激に慣れて恐怖を感じなくなる。しかし猛禽類を見かけることはまれなので慣れが生じないと記していた。
しかし 1951 年の著作があまりにも有名で、訂正が行われず再販されたり他の形で出版・引用されるなど1979 年の教科書にも長く登場していたとのこと。
Lorenz が実験した当時の比較心理学は学習によるものに重点が置かれていて、"短い首" という単純な刺激で猛禽類を見分ける生得的能力があることが衝撃的に受け止められたことが背景にあるとのこと。
"短い首" 仮説を否定する過程そのものが "生得的" 認知 (本能的プログラム) を否定するプロセスそのものとなったとのこと。
著者の実験でも放し飼いのシチメンチョウは毎日出会う犬には慣れるが見慣れない犬には激しく反応するという。ヘビのような形の水撒き用のホースは他の家禽は関心を示さなかったが、シチメンチョウは激しく反
応したという。しかし数時間もすれば慣れてためらいなく上を横切るようになったとのこと。
wikipedia 英語版にも対応する解説があった Hawk/goose effect。
参考になるかも知れない日本語のページ: 高校生物 テインバーゲン「本能の研究」を読む (池田博明 2012)。
Nikolaas Tinbergen の百科事典には Hawk/goose effect で知られているとの記述がある。
なおハイイロガンが卵を転がす行動 (巣の外に出た卵を戻す行動で、途中で転がってしまっても観察者が卵を取り去ってもあたかも卵があるかのように行動を続ける) は Fixed Action Pattern (信号刺激) の典型例のように呼ばれるが、別の解釈も提案されている:
Marken (2002) Looking at behavior through control theory glasses
この著者によれば親鳥から卵が直接見えないので触覚に頼るしかない。突然刺激が消えた場合何が起きるか、人を被検者にしたネットのデモンストレーションサイトがあり、マウスで画面のものを動かす作業の最中に画面から突然マウスカーソルが消えた場合人がどのような行動をするか結果を比べてみよとのこと。
Schleidt and Shalter (2011) の論文では (動かない) 猛禽の絵を貼って衝突防止に用いたり (この効果は Lorenz-Tinbergen でも調べられていないとのこと) 剥製を置くことがあまりにも頻繁に行われているが、1962 年の Loehrl のレビューで意味がないことがすでに述べられているとのこと。
生物学的な方法は "選択的な慣れ" を簡単に起こすとのこと。猛禽があまりにも繁用されているので窓に加工するならばもう少し別のやり方があると述べられている。
参考までに 鳥がガラス窓に飛び込むのを防止するには (バードライフ・インターナショナル東京 2019) では「猛禽類の形のステッカーが、小鳥を怖がらせて追い払う」は俗説とある。猛禽類のデザインは「アート」と捉えた方が楽しめそう。
日本語では「本能の研究」(N.ティンベルヘン著 永野為武訳 三共出版 1957) が最初の紹介のようだがその後の版も訳されているよう。直接この著書からでなくともいろいろな形で紹介されていたはずだが、自分が知ったのはいったいどのルートからだろうか。Tinbergen が仮説を取り下げた後であることは間違いない。今でもこの説が流通しているかも知れないので要注意だろう。
コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz、カール・フォン・フリッシュ Karl von Frisch、ニコ・ティンバーゲン Nikolaas Tinbergen 個体的および社会的行動様式の組織化と誘発に関する発見 に与えられた 1973 年のノーベル生理学・医学賞は今から振り返ってみるどうなのだろうか、という論説もある:
Dewsbury (2003) The 1973 Nobel Prize for Physiology or Medicine: Recognition for behavioral science?
行動学に対して初めて与えられたノーベル賞で、人の健康にかかわる行動学 (それゆえ生理学・医学賞) が今後受賞することが期待されたが一つもなかった。3人の受賞にまつわるできごとや論争、現代の視点から見た賞の意義を議論している。
Font (2023) 50 years of the Nobel Prize to Lorenz, Tinbergen, and von Frisch: integrating behavioral function into an ethology for the 21st century
が受賞50周年となるはずなのだが動物行動学をやる者はほとんど気づいていない。学問の世界では現実の世界以上に無視されるようになった。Tinbergen の提唱した4つの「なぜ」のうち一つである行動生物学 (社会生物学) のみに置き換わってしまった。
"ethology" は死んだ、あるいは絶滅の縁にあるとすら言われるようになったが正しくない。学生や研究者も "ethologist" よりは自身を evolutionary biologists と呼んでいるなど、ethology の名称を避けている。1930-1940 年代の ethology と連続性はあるが現在は異なるものなっており、他分野との関係など学問領域として定義も難しくなっている。
Tinbergen の提唱した4つの「なぜ」を追求する分野として ethology を用いてよいのではとのこと。
最後の部分の表題に使われている what’s in a name? は#アホウドリの備考参照。何と呼ぼうが動物の行動を解釈する学問であり、名前にそこまでこだわらなくてもよいのでは、の意味を込めているのだろう。
Font (2023) に引用されている Alcock による2000年代初頭の本は、「社会生物学の勝利: 批判者たちはどこで誤ったか」(ジョン・オルコック著 長谷川眞理子訳 新曜社 2004; 原著 The triumph of sociobiology 2001) で読むことができる。
E. O. Wilson (1975) は "Sociobiology, The New Synthesis" (邦訳「社会生物学」) でいみじくも行動生物学の将来進展を予測し (訳本 図1-2; 「社会生物学の勝利」にも引用されている) 1950 年には ethology が全盛であったものが1975年には社会生物学・行動生態学と統合的神経生理学に分離し、2000 年には ethology が衰退しているだろう図を示している。
Alcock は社会生物学・行動生態学からさらに進化心理学の分野が広がったことも記している。
訳者の長谷川氏によると欧米では盛んに議論が起きていたが、日本では目立った議論にならなかったとのこと。文化背景の違いなども挙げられているが、日本にはそのような学問の素地がまだ希薄だったのかも知れない。
社会生物学が成功を収めた一つの背景として、研究者が互いに仮説を競わせることのできる学問構造が内在していた理由もあるだろう。#カッコウ類の托卵あるいは宿主の排除戦術の議論などを見ても大変面白く、新しい研究者にとっても魅力的だったのだろう。
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マガン
- 学名:Anser albifrons (アンセル アルビフロンス) 白い額のガン
- 属名:anser (m) ガン
- 種小名:albifrons (adj) 白い額の (albus (adj) 白い frons (f) 額)
- 英名:Greater White-fronted Goose
- 備考:
anser は#ハイイロガン参照。
albifrons は albus は短母音で frons は短母音、長母音両方の読みがある。いずれも短母音を採用すれば "アルビフロンス" と考えられる。
発音の聞けるページでは日本語同様アクセントの目立たない発音もあったが、アクセントを置く分 "ビ" を若干長めに発音している例があった。どちらでもよいだろう。
英名に含まれる White-fronted Goose は学名と同じ意味。Greater (マガン) と Lesser (カリガネ) としたもの。
記載時学名 Branta albifrons Scopoli, 1769 (原記載) 基産地 Northern Italy? (Avibase による)。と自身が提唱した Branta 属にまとめていた。
日本ではガン類の基本であってもヨーロッパの多くの地域やスウェーデンでは馴染みの種類ではなく Linnaeus が記載しなかった模様。一方カリガネの方は Linnaeus (1758) の命名。
"Fauna Japonica" には短く 記述 がある。ヨーロッパのものと特に違いはない。フランス語名 l'oie rieuse (笑うガン)。この名称は現在も使われており、wikipedia フランス語版では鳴き声が音楽的であるとのこと。
5亜種あり (IOC)。
日本で記録されるものは基亜種 albifrons 亜種マガン、及び亜種不明とされる。
亜種 gambelli (アメリカの探検家・博物学者の William Gambel, Jr. に由来) オオマガン が検討亜種に含まれている。
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カリガネ
- 学名:Anser erythropus (アンセル エリュトゥロプース) 赤い足のガン
- 属名:anser (m) ガン
- 種小名:erythropus (合) 赤い足の (erythro- (接頭辞) 赤い pous 足 Gk)
- 英名:Lesser White-fronted Goose
- 備考:
anser は#ハイイロガン参照。
erythropus は -ry- の音節にアクセントがある (エリュトゥロプース)。-pus は#ナンキンオシ参照。伸ばす方を採用した。
記載時学名 Anas erythropus Linnaeus (1758) (原記載) 基産地 Restricted type locality. North Sweden. Lonnberg, Ibis, 1913, p. 401-402 (スウェーデンに限定。Avibase による)。Linnaeus はヨーロッパ北部としていた。
単形種。
絶滅危惧 IB 類 (EN)。IUCN 3.1 で VU 種。
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire では学名を Anser minutus Naumann, 1842 としていた。
この学名はそれなりに使われていたようで、対応する英名 Dwarf Goose の用例 (1915) もあった。
Hartert (1910-1922) p. 1282 は多数の学名が挙げられており、かつては Linnaeus (1758) の記載がカリガネを指すかマガンを指すか議論があったらしく、Lonnberg (1913) がカリガネと判定したとのこと。
Linnaeus の用いた Anas 属からの移動に伴う新名ではなかったよう。
Linnaeus (1758) の記載の不定性があって確実に同定できる記載が何種類も提案されていたものらしい。この書籍ではドイツ語名 Zwerggans (英語 Dwarf Goose と同じ) または Kleine Blaessgans (小型のマガン) となっていた。Linnaeus (1758) を有効とみなして現在の学名に落ち着いたよう。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" によればマガンの別名がカリガネで、現在のカリガネはコカリガネの名前が付けられていた。
多数のマガンの中でカリガネを探すのが困難なほど似ていることを考えると、カリガネとコカリガネの旧名称は納得できる。
カリガネの声は聞いたことがないが (マガンの群れの中で鳴いても多分気づいていない)、もともとはマガンを指していたと考えると音声由来も納得できる。
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インドガン
- 学名:Anser indicus (アンセル インディクス) インドのガン
- 属名:anser (m) ガン
- 種小名:indicus (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Bar-headed Goose
- 備考:
anser は#ハイイロガン参照。
indicus は短母音のみで冒頭にアクセントがある (インディクス)。
記載時学名 Anas indica Latham, 1790 (原記載) 基産地 India in winter, and Tibet。原記載に英名の Bar-headed Goose が示されており、学名以前からあった英名がそのまま使われている。当時のインドは東インド会社時代で英名の方が先にあったのは不思議ではない。
日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
[インドガンの高所適応]
標高 8000 m 以上の低酸素環境のヒマラヤ山脈を超える、世界最高の高さを飛ぶ鳥として有名 (wikipedia 日本語版)。最近の文献では例えば Hawkes et al. (2011) The trans-Himalayan ights of bar-headed geese (Anser indicus)
で衛星追跡の結果が見られる。風の助けを借りず、むしろ風の弱い条件で自身の飛行能力でヒマラヤ山脈を超えるとのことである。8000 m の数字はおそらくやや誇張で、これらの研究によれば 6000 m 以下の谷を主に通っているとのこと。7290 m の記録はあるそうである (wikipedia 英語版)。
このためどのような生理機構で高所順応をしているのか注目され、古くから研究されている。
呼吸器の機能も低酸素状態でも働くように最適化され、心筋への毛細血管も低地に住む鳥に比べて多いとのこと。
血液中で酸素を運ぶヘモグロビンも他のガン類と異なる変異があり、酸素との結合性を増しているとのこと。[Natarajan et al. (2018) Molecular basis of hemoglobin adaptation in the high-flying bar-headed goose]。
Butler (2016) The physiological basis of bird flight
にも高所適応に限らず飛翔に必要な生理機能の総説がある。インドガンが定常的に高所を選んで飛んでいる証拠はないとのこと。それでも 5500 m で自力の羽ばたき飛行を行えるのは大したものであると記されている。トラッキングデータから例外的に高く上昇する際に心拍数は上がらず、好適な風の助けで上昇したものであることを裏付けるとのこと (ローラーコースターのようなものとの比喩も使われる)。
ヒトなどでは過換気により血中の CO2 が下がると (hypocapnia) 脳への血流が下がるが、カモやインドガンでは起きないとのこと。カモやインドガンでは低酸素状態ではヒトなどより脳への血流が増し、これらの効果で哺乳類よりずっと高所での低酸素に強いとのこと。
低酸素・血中の CO2 低下でインドガンではよりアルカローシスが強く起きてヘモグロビンの酸素結合性との効果と合わさって組織への酸素供給を維持、あるいは高めることさえできるとのこと。
鳥には気のうシステムがあるため、との説明するのはおそらく不十分で、このような生理的適応の効果が大きい。原理的には他のガンにできない 9000 m を飛行する能力はあるが実際にはわざわざ高いところを飛ぶわけではない。
Hawkes et al. (2017) Do Bar-Headed Geese Train for High Altitude Flights? 渡りの前に人間のような高所トレーニングが必要か。そもそも余力がある感じに見えるがホルモンによる季節変動など関心が持たれている。
Parr et al. (2019) Tackling the Tibetan Plateau in a down suit: insights into thermoregulation by bar-headed geese during migration
高所の寒冷な場所を飛ぶ時も体温の日内変動パターンはあまり変わらず安定している。極度な環境変化にも適応できる体温調節を行っていると考えられる。
Wang et al. (2020) First de novo whole genome sequencing and assembly of the bar-headed goose 初のゲノム解析。正の選択を受けている遺伝子の候補など。
Zhang et al. (2022) Chromosome-level genome assembly of the bar-headed goose (Anser indicus) もより高精度な解析。臓器固有の発現も調べられているが機能の解析はこれからの段階か。
[野鳥と鳥インフルエンザ (1)]
このように生態・生理的には大変興味深い種であるが、"bar-headed goose" (インドガン) の名前はまったく違う分野の研究者にも大変よく知られていたことがある (現在でもそうかもしれない)。
近年世界のさまざまな地域で鳥類 (および一部の哺乳類) を危機に晒している鳥インフルエンザに関係する話である。
wikipedia 英語版の記事 2020-2023 H5N8 outbreak
にあるように、2020 年から 2021 年にかけて世界で大規模な感染爆発が起きたことは記憶に新しい。この時の株は H5N8 であったが、2021-2022 年の冬から夏近くにかけて H5N1 株がヨーロッパで水鳥コロニーに壊滅的な被害を与えた。そしてヨーロッパから北米にも広がって多くの種類の鳥を犠牲にした。
Caliendo et al. (2022) Transatlantic spread of highly pathogenic avian influenza H5N1 by wild birds from Europe to North America in 2021 北大西洋の渡りでどのように運ばれたかが Fig. 4 に出ている。
(#ハクトウワシの備考も参照)。
ギリシャのペリカンコロニーで鳥インフルエンザ集団死 ハイイロペリカン 600 羽近くが死んだ。
Bird flu has killed nearly 1,500 threatened Caspian terns on Lake Michigan islands
ミシガン州の湖で 1500 羽近いオニアジサシ (英名はカスピ海由来だが北米にも生息する) が犠牲となった。神経症状で震える姿や、それでも抱卵しようとする中で亡くなった姿が記録されている。
多数の経験豊富な成鳥を失い、個体群に与える影響がどれほどのものか想像がつかないとのこと。
関連した論文報告 (地域は異なる): Haman et al. (2024) A comprehensive epidemiological approach documenting an outbreak of H5N1 highly pathogenic avian influenza virus clade 2.3.4.4b among gulls, terns, and harbor seals in the Northeastern Pacific (2024.11.6)
ワシントン州の Rat Island での 2023 年の大発生によってオニアジサシのコロニー個体群の成鳥の少なくとも 56% が死亡。それ以降繁殖に成功していない。
2023 年の発生で太平洋フライウエイのオニアジサシの 10-14% の個体が死亡したと推測している。
もう1種ワシカモメ (雑種とある) も影響を受けたが影響は相対的に小さかった。
オレゴン州のカモメ類での発生が発端と推定され、その後ワシントン州に及んだことが分子系統解析からもフィールドデータからも裏付けられた。この研究では鳥から海の哺乳類への複数回の導入があったと推定される。
オランダでサンドイッチアジサシ Thalasseus sandvicensis 英名 Sandwich Tern のコロニーが犠牲となり、長年保護に取り組んできたチームを嘆かせた。Rijks et al. (2022) Mass Mortality Caused by Highly Pathogenic Influenza A(H5N1) Virus in Sandwich Terns, the Netherlands, 2022、記事 Kolonie grote sterns op Texel weggevaagd door vogelgriep:
テクセルの自然保護区 De Petten のサンドイッチアジサシの繁殖コロニーは、鳥インフルエンザによって一掃された。7000 羽の鳥のうち、3000 羽が死んでいるのが発見された。残りは海で死んで浮いているか、離れて移動していると考えられる。
Avian Flu Threatens Seabird Nesting Colonies on Both Sides of the Atlantic (Audubon の記事): アジサシ類が特に壊滅的被害を受けている。
個体が長命で子の数の少ない生存戦略は、一時的な天候悪化や食物不足には有利だが鳥インフルエンザ流行のような場合にリスク要因になる。
病気そのもののコントロールは難しいが、人為要因による環境悪化などの他の要因が個体数回復を遅らせるのでそれを防ぐのはよい手段である。
同じように集団繁殖するニシツノメドリも心配である (メーン州で失われた個体群が 1970 年代に復元されたもの) とのこと。
これはさらに南米に広がってペルーなどで大規模な集団死が発生した。
Bird flu kills almost 14,000 pelicans, seabirds in Peru (2022年11月の記事)、
Peru reports hundreds of sea lion deaths due to bird flu (アシカの集団死、2023年2月の記事)。
日本でも大きな影響を与えていることは報道でご存じであろう (幸いにこれまでのところヨーロッパやアメリカのような壊滅的な野鳥への影響は日本ではあまりないが、2022-2023 年の鹿児島県出水では1月の段階でツル 1421 羽が回収され、越冬地を変えたツルもあるらしいと報道があった。また北海道でオジロワシなど貴重種も失われている)。
ヨーロッパ (ノルウエー) のオジロワシについては Boe et al. (2024) Emergence of highly pathogenic avian influenza viruses H5N1 and H5N5 in white-tailed eagles, 2021-2023
を参照。英国の海鳥コロニーでの集団死に関連し、それらの鳥を食した感染経路が考えられる。
神経症状を示すオジロワシのビデオへのリンクもある。肉眼解剖的な所見がないが PCR で調べると全身の多臓器でウイルスが増殖。
2024 年初頭に南米からさらに南極大陸本土に達してしまった。 'We’re going to see some haunting images': Bird flu has reached Antarctica (Candice Marshall, Australian Geographic 2024)。
Avian influenza virus is adapting to spread to marine mammals (2024 年論文へのリンクもあり)。
気候変動の脅威に晒されている最中に病原体とも戦わねばならない。
[野鳥と鳥インフルエンザ (2) 高病原性と低病原性]
最近ではあまりに毎年のように起きているため、「野鳥は本来鳥インフルエンザウイルスを持っているもので、感染するのは運が悪いだけ」のような印象を持たれる方もあるだろう。
ヒトの場合にはインフルエンザウイルス (*1) が人から人への感染で維持されており、時折新型インフルエンザが現れてパンデミックとなる点は上記印象でほぼ合っていると考えてよい。有史以来、そしておそらく有史以前からこの関係は続いてきたのであろう。
それでは現在問題となっている鳥インフルエンザも同じように考えてよいのだろうか。忘れ去られた情報も多いと思われるのでここで少し整理しておきたい。
まず報道などで使われる用語がかつて非常に紛らわしいものであったため改めて注意を促しておく (この時代に知識を得られた方は要再確認)。
高病原性鳥インフルエンザという用語があるが、これは行政用語であって科学的な概念や世界で使われる名称とは必ずしも対応していない (いなかった)。
この定義は家畜伝染病予防法でなされているもので、2011年4月に改正される以前は H5、H7 亜型のウイルスをすべて高病原性鳥インフルエンザと呼んでいた。
当時はすでに鳥インフルエンザの世界進展の時期であり、日本の用語と海外の名称が異なるためややこしい状況が生じていた。現在の定義は 我が国における鳥インフルエンザの分類 を参照。
海外では強毒の高いものを HPAI (Highly Pathogenic Avian Influenza) そのまま訳すと高病原性鳥インフルエンザになるが、2011 年以前の日本の用語では毒性にかかわらず H5、H7 亜型のウイルスをすべてこう呼んでいた。
そのため「高病原性鳥インフルエンザ (HPAI)」のように略すのは少なくとも従来は間違っていたわけである。
これは H5、H7 型のウイルスは最初はそもそも無害であっても養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化することがあることが知られていたためであり、無害であっても H5、H7 亜型のウイルスを検出した場合は届け出て法律に定められた措置をとる必要があることによる。
国際的な分類では弱毒の鳥インフルエンザウイルスは LPAI (Low Pathogenic Avian Influenza) と呼ばれており毒性と名称が整合している。H5、H7 型のように届け出を要するウイルスを意味する場合には N (notifiable) を補って LPNAI と呼ぶ。以前の日本の分類で高病原性鳥インフルエンザ
(弱毒タイプ) が LPNAI に相当していた。
現在の日本の名称では LPNAI に相当するものは法定伝染病の低病原性鳥インフルエンザ (LPAI) となっていて、H5、H7 亜型以外は届出伝染病の鳥インフルエンザとなっている。国際的な定義に合致するようになったのは HPAI の方のようである。この文書も含めて「鳥インフルエンザ」と言う場合は届出伝染病の鳥インフルエンザを指すわけではなく、もっと広い意味で使っていることはご注意いただきたい。
かつての報道では「強毒の」や「毒性の強い」をよく補っていたが、これは当時の高病原性鳥インフルエンザには弱毒のものも含まれていたためで、同じことを冗長に言っていたわけではない。
現在では少なくとも高病原性に関しては日本の用語と海外の用語が同じ意味になったため、高病原性鳥インフルエンザ (ウイルス) を指して HPAI を使うことにする。また強毒性の同意語として高病原性も使うことにする。
[野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる]
さて「養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化する」ことの分子機構も判明している。また生態学的には強毒のウイルスは通常生態学的に安定状態とならない (宿主を即座に殺してしまうと病原体自身も死滅してしまうため) が、養鶏場のような本来あり得ないほどの高密度であれば宿主が死ぬ前に別の個体に感染させることができて病原体自身も生き延びることができる。
これは野外のような通常の条件では低病原性しか生態学的には安定解を持たない、と表現しなおすこともできる。養鶏場のような特殊な条件でのみ高病原性の安定解が存在するのである。
[これはプラム「美の進化」(#エトロフウミスズメの備考参照) に対する批判「ランナウェイ過程は、メスに選別コストがわずかでもあると、大きな装飾の安定的な平衡点をもてない」と同じようなことを表していると考えていただいてよい。
自然界で高病原性のウイルスがたまたま生じても、それは平衡点にはなり得ないのでいずれ安定な低病原性に変異してゆくことを示している (それにどれだけの時間を要するかは平衡点理論は教えてくれない)]。
(ここからしばらくは少し高度なので最初は飛ばしていただいてよい)
強毒化の分子機構についても多少補足しておこう。インフルエンザウイルスではヘマグルチニン (HA、後にもう少し詳しい説明あり) の遺伝子から翻訳されたタンパク質 (HA0) を持つウイルスそのものには感染性がなく、宿主の持つ酵素によって2つに分割され、HA1, HA2 となることで感染性を持つウイルス粒子となる。
この分離される部位のことを開裂部位 (cleavage site) と呼ぶ。HA0 を開裂するためには一部の臓器に存在する分解酵素トリプシンが必要である。一般的なインフルエンザウイルスが特定の臓器 (例えばヒトでは呼吸器、鳥では腸管) で主に増殖するのはこの性質による。
高病原性鳥インフルエンザでは開裂部位に塩基性アミノ酸 (リジン K、アルギニン R: それぞれ1文字略号も示す) が並び、塩基性アミノ酸 (basic amino acids) のアミノ基は水素イオンと結合して正の電荷を持って互いに反発しあうため、開裂がより容易に起きる。そのため特定の臓器だけでなくあらゆる臓器に存在する一般的なタンパク質分解酵素で簡単に開裂が起きてしまう。
これは高病原性鳥インフルエンザが全身のあらゆる細胞で増殖可能である原理である (海外のバーダーなども参加するメーリングリストでもこのような用語は普通に飛び交っていた。何のことかわからない人もあったかも知れない)。
全身のあらゆる細胞には中枢神経細胞も含まれ、高病原性鳥インフルエンザに感染した鳥に特有の神経症状が現れるのはこの性質による。
また心筋細胞や重要臓器でも増殖するため、命にかかわることも理解いただけるであろう。
HPAI H5N1 で死亡したヨーロッパノスリの研究がある: Caliendo et al. (2022) Pathology and virology of natural highly pathogenic avian influenza H5N8 infection in wild Common buzzards (Buteo buteo)。11羽中9羽に脳の壊死、7羽に心筋壊死が見られた。
少なくとも H5 亜型においては低病原性ウイルスの HA 開裂部位の塩基配列に比較的少数の変異が加わるだけで塩基性アミノ酸が並ぶようになる。実験的にもニワトリに継代接種を行うことで LPAI が HPAI に変化することが示された
[Ito et al. (2001) Generation of a Highly Pathogenic Avian Influenza A Virus from an Avirulent Field Isolate by Passaging in Chickens。これが実証されたのは世界初だったとのこと。10回弱程度の変異が起きると K と R ばかりが並ぶウイルスができ得る様子がわかる]。
これが H5、H7 亜型が強毒化しやすい原因と考えられる。
ただし毒性には他の遺伝子も関連があり (例えばウイルスを増殖させるポリメラーゼ遺伝子) HA の開裂部位のみが毒性や宿主特異性をすべて決定するわけではないが、上記メカニズムは現在問題の高病原性 H5 に関係するものなので話だけでも知っておいてよいだろう (*2)。
[野鳥と鳥インフルエンザ (4) 自然界の高病原性鳥インフルエンザの由来]
ここまでの説明をある程度理解していただければ、自然界に高病原性鳥インフルエンザはもともと存在しないこと、そして人工的条件で生まれ、野生動物に持ち込まれた病気であることを納得していただけるであろう。
高病原性鳥インフルエンザとは人が家畜を扱うようになって生まれたもので、鳥インフルエンザウイルスは長年月に渡って水鳥にとってほとんど無害なもの (つまり低病原性の平衡状態) だったのである。
歴史的には高病原性鳥インフルエンザがかつて養鶏場から野外流出してアジサシ類の集団死が起きた程度のことはあったが、病原性があまりにも高かったためそれ以上に広がらず、現在のような異常な状態には至らなかった。現在の状況がいかに異常であるかは過去の事例が示してくれている。
現在の異常事態は自然に起きた「天災」ではなく、人為がもたらしたものであることを改めて理解しておきたいし、自信を持ってそのように説明していただいてよい。
[野鳥と鳥インフルエンザ (5) (鳥)インフルエンザの亜型の意味]
さて、H5N1 とか H5N8 とかは何なのか、いったい何が違うのか、それとも実質同じものなのか疑問をお持ちの方も多いであろう。復習になる方も多いと思うがインフルエンザウイルスについて簡単に整理しておく。よくご存じの方は読み飛ばしていただいて構わない。
インフルエンザウイルスには A-D の型があるが、ここで問題となるのは A 型なので A 型のみを扱う (この「型」が「属」に対応していて、インフルエンザウイルス全体では4属4種だそうである)。鳥インフルエンザは A 型。B 型はほとんどヒトのみに感染し病原性も弱め、など。
新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) もインフルエンザウイルスも一本鎖 RNA ウイルスである点は共通しているが、SARS-CoV-2 では1セグメントのみからなる遺伝子構造であるのに対して、インフルエンザウイルスは8個のセグメント (分節。別々の RNA 分子) からなるずっと複雑な構造を持っている。
SARS-CoV-2 の場合には RNA の複製の際に生じるエラーで変異が積み重なって新しい株が生まれる仕組みだが、インフルエンザウイルスの場合は複数のセグメントに分かれているために RNA の複製の際に生じるエラー以外にも新しいタイプのウイルスを作る機構が存在する。変異速度を上げて宿主の免疫から逃れて生き残るのがインフルエンザウイルスの生き残り戦略と言ってもよいだろう。
同じ細胞が2つの異なったインフルエンザウイルスに同時感染した場合、複数のセグメントの間で入れ替わりが生じることがある (遺伝子再集合 reassortment という; お菓子などの「アソート」と同じ。ばらばらになった混ぜこぜのセグメントが再構成される時に新しい組み合わせが生じる *3)。遺伝子組み換えとは意味が違うので注意。
インフルエンザウイルスの H というのは ヘマグルチニン (HA: haemagglutinin) のことで、要するにウイルスが細胞に付着する機能を果たす部分である。
N は ノイラミニダーゼ (NA: neuraminidase) のことで、細胞内で増殖したウイルスが細胞表面に現れたものを切り出してウイルス粒子にする酵素のこと。つまりこの酵素を阻害すればウイルスの増殖を抑えることができ、ノイラミニダーゼ阻害剤という一連の薬剤 (商品名ではタミフルやリレンザなど) はこの酵素を標的としたものである (*4)。
HA と NA には抗原性の異なる (現代では生物の分類と同様に分子系統樹を描いて分類する) いくつかの種類があり、番号を付けて呼ばれる。HA で 16 種、NA で9種が現在知られており (亜型という)、H5N1 などの名前はその組み合わせを表す。例えば同じ HA であっても少しずつ性質が異なるものがあることは生物の亜種と同様。原理的にはすべての HA, NA の組み合わせが可能であると考えられている。
ちなみにヒトで過去にパンデミックを起こしたことが知られているインフルエンザウイルスは H1, H2, H3 である。H5 にもその能力があるかははっきりわからないが、いくつかの変異を導入すると哺乳類から哺乳類 (実験室でよく使われるのはヒトに似た性質を示すフェレット) に感染するウイルスを作ることができることは実験的に確かめられており、哺乳類への感染が警戒されている所以である
[参考: 哺乳類間で伝播しうる鳥インフルエンザウイルス、
リスクの高い研究に関する論文の掲載 (Nature 2012) のようにこの研究結果を公開すべきか議論を呼んだ] (*5)。
HA と NA は異なるセグメントに乗っているため、遺伝子再集合で別々の HA と NA を持つウイルスが比較的簡単に作られる。つまり同じ H5 亜型であっても NA が入れ替わったウイルスも生じる。これが H5N1 が流行したり別の年には H5N2 や H5N8 に変わったりする仕組みである。
現在問題となっている H5 ははるか昔 (1996年ごろ) に生じた高病原性の系統が継続しているもので、NA は入れ替わることがあるが高病原性の性質は維持されている。
[野鳥と鳥インフルエンザ (6) 高病原性 H5N1 の出現]
この高病原性 H5 (H5N1) が最初に (少なくとも世間的に) 明るみに出たのは (鳥インフルエンザなのに) なんと鳥ではなく、1997 年香港で人が感染した事例に始まる。ちょうど同じ時期に香港のニワトリでも鳥インフルエンザの発生があり、香港中の 150 万羽のニワトリを 1997 年末までに処分することで流行は終息したが、18 人が感染し6名が死亡した。この時はあるいは人から人感染かと懸念されたが人の間では大きな流行に至らなかった。
ちなみにタミフルは当時はまだ使えず、伝統的な抗インフルエンザ薬であったアマンタジンが使われた。
当時までは鳥インフルエンザは人に感染しない (いわゆる「種の壁」) と考えられていたため、防御も行わずに病気のニワトリをさばいたりしていたのであろう。
この株が最初に見つかったのは 1996 年に中国のガチョウから見出されたものであったため、現在問題となっている H5N1 の発見は 1996 年とされる。
その後しばらく小康状態が続いていたが (中国や東南アジアで局地的に発生していたものと思われる。2000年にはベトナムで多数のニワトリが死んでいた
とのことで地方病のような状況だったらしい)、2003 年に再度大規模な拡大があり、韓国の家禽で発生したしばらく後、2004年1月日本でも山口県の養鶏場で発生 (日本での HPAI 発生は 79 年ぶりのことであった)、2月大分県で小規模な発生があり、2-3月京都府の養鶏場で大規模な発生があった。
当時はこの時期に韓国から日本への渡り鳥のルートは知られておらず、何がウイルスを持ち込んだのか議論がなされていた (人の往来も十分多く、人が運んだ可能性もある *6)。
ほぼ同じころベトナムやカンボジアで人への感染も相次ぎ、1人感染がある度に報道されるぐらいであった。高病原性の定義は家禽に対するものであるが、人に対しても毒性が高く未治療では 50% が死亡すると見積もられていた。毒性が高いままで人から人へ簡単に感染するようになるとどのようなことになるか、特に専門家の間では大変恐れられていた。
[野鳥と鳥インフルエンザ (6) 2005 年青海湖の大事件]
日本での発生が一段落したため日本では鳥インフルエンザへの関心は次第に薄れて行ったが、2005年4月末から6月にかけて世界を震撼させる事件が中国青海省の青海湖で起きた [Chen et al. (2006) Properties and Dissemination of H5N1 Viruses Isolated during an Influenza Outbreak in Migratory Waterfowl in Western China を参照]。
この時に最初の感染例として見つかったのがインドガンであり、この論文によれば5月4日に2羽が死んでいるのが見つかり、翌日には 105 羽が死んだ。この感染爆発で最終的にインドガン 3282 羽、全体で 6184 羽の死体が回収されたとのこと。
ウイルスの系統解析の結果からインドガンが最初に保有していたウイルスが他の種類に感染したことが示されている。これ以来、鳥インフルエンザに関心を寄せる人たちの間でインドガンの名前は忘れられないものとなり、そしてそもそもなぜインドガンなのか不思議に思われていた。
これは高病原性鳥インフルエンザが渡り鳥に大規模感染を起こした前代未聞の事例となった。人に感染することもあって致死率が高いことはすでにわかっていたため、もし渡り鳥を通じて世界に拡散し、その経緯で人から人感染を起こすウイルスが生まれると大惨事になりかねないと考えられた。
養鶏場や地域感染にとどまっている間はまだともかく (当時までは東南アジアでの人感染が中心であったため、もしパンデミックが起きるならばそこから発生することを前提としたシミュレーションも行われていた。例えば東南アジアのある都市で人から人感染を起こす株が出現した場合、発生後何時間以内に半径何km以内の住民全員にタミフルを投与すれば拡大を防げるかなど調べられていたが、現実的にはほぼ達成不可能な数字が出るのみであった)、H5N1 はもはや制御不能と多くの専門家は考えた。
当時 Nature がこの事象を受け、5月に早々と On a wing and a prayer との記事を出した。
渡り鳥に大規模感染が起きた以上パンデミックは時間の問題との認識が強かった。もはやアジアだけの問題はなく世界中どこで発生するかわからない。どこにいてもパンデミックからは逃れることはできない。
1918 年に多くの人を犠牲とし、結果的に第一次世界大戦を終結させることになった通称「スペイン風邪」と呼ばれる新型インフルエンザを引き合いに出している。これは H1N1 亜型のパンデミックであったが、それでもまだ低病原性であり (1918 年のパンデミックの前に野鳥や養鶏場で集団死があった報告などはなかった)、
1918 年に比べて飛躍的に進んだ移動手段のある中で高病原性のパンデミックが起きればどうなるか、想像を絶するとの文脈である。
これほどの大事件であったにもかかわらず、日本での扱いは極めて小さかった (科学報道が重視されないことが痛感される)。
青海湖での発生が終結すると (つまり感染した鳥がすべて死ぬか移動していなくなった)、世界は一時的に平穏を取り戻していた。しかしこの間にロシアやモンゴルで感染が拡大していたのであった。
英文報道のような通常ルートで入ってきていた情報は8月にモンゴルのオオハクチョウでの感染が見つかったというもので、事例としても少なく、渡り鳥が運んだのか、あるいは人為的に運ばれた可能性があるのかなどの小規模な議論や現地調査にとどまっていた。
日本野鳥の会の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」「鳥インフルエンザ」 に収録 (北里大学農医連携学術叢書 3号) によれば野鳥一般に繁殖期であまり移動しない時期で、オオハクチョウは換羽でそもそも飛べない時期であり渡りで運ばれたと考えるのには無理があるとの考察がある。
[野鳥と鳥インフルエンザ (7) 2005 年ロシアでの大進展]
事態をある意味で一変させたのが、Recombinomics 社 (バイオのベンチャー企業?) の Henry L Niman によるもので、彼は協力者とともに海外ニュースを集めてロシアで鳥インフルエンザ感染が起きていることを見つけていた。
当時は現在のようなオンラインの機械翻訳サービスも限られていたが、彼らはその初期のサービスを用いてロシア語の現地ニュースを翻訳して読んでいたのだった。
Niman の論点は終始渡り鳥が H5N1 を運んでいるというもので、彼らはその文脈に合うニュースのみを選んで紹介していたのだった。
当時はまだウイルスを運ぶ主役は渡り鳥なのか人の移動によるものなのかよくわかっていない時代で、一方的視点だけでニュースを提供されると自然保護側としては看過できない状況であった。ロシアの農家による渡り鳥撃ち落とし計画なるものも報道され、それは日露渡り鳥条約にも関わる問題であるとの指摘も獣医師の方よりいただいた (話題作りの記事だったようで、実際には大規模には行われなかったようである)。
彼らと同じようにロシア語の現地ニュースを機械翻訳して読むと大規模養鶏場で発生したものが広がって、など彼らが紹介しない記事も多数あるため機械翻訳での紹介を始めたのが自分が鳥インフルエンザ問題に (世界的な文脈で) 関わったきっかけであった (ロシア語をしっかり勉強すべしと感じたのはこの後の話)。
ちなみに当時のロシアはまだソ連崩壊後の経済危機状態を脱しておらず、研究者も研究費を得るのが大変だった時期にあたる。当時のロシア発行の猛禽類保護の専門雑誌 Raptors Conservation に記事 Lapshin (2005)
People, Birds and Viruses. What is the Arboviruses and Avian Influenza and How do they Threaten Raptors?
があったが、鳥インフルエンザ騒動は少なくとも一部の研究者にとっては「救世主」のようなもので、渡り鳥に責任を押し付けることはウイルス研究者にとっても研究費獲得に有利で、野鳥保護関係者には迷惑な話であったとのこと (論文はロシア語・英語併記であるが上記肝心のところは英訳されていない。英語でニュアンスを伝えるのは難しかったのであろう)。
ロシアの経済状況は厳しいものであったが、情報公開には意外に熱心で最初の発生地であるノボシビルスク近郊の発生地点の詳細な地図までオンラインで入手することができた。
ロシアの野鳥に関係の深い英文のメーリングリストにも翻訳情報を投稿したりしていたが、
この活動が BirdLife の鳥インフルエンザ担当者の目にとまり、BirdLife が主宰するメーリングリストに加えてもらい、ボランティアによる国際的な感染症ホットラインである ProMED にも情報を提供するようになった。
ProMED は SARS の発生を最初に感知したり、新型コロナでも的確な情報を最初から提供するなど信頼性の高い感染症の情報源である。鳥インフルエンザはもちろん最も重要なテーマの一つであったが、あまりにも急速に進展してボランティアベースでは世界情報を追えなくなったり、それまではロシア在住の情報提供者があったがその時期はいなくなっていたと聞き、提供した情報は役立っていたようである。
そのメーリングリストは Nature の記者もオブザーバー参加していて、我々の活動に注目していたようである。
[野鳥と鳥インフルエンザ (8) そして 2005-2006 年ヨーロッパへの進展と新型インフルエンザ騒動]
ロシア進展の間はほぼシベリア横断鉄道に沿うように西進していった。これも解釈に悩む要因となっていた。物流の大動脈であり周辺には養鶏場も当然ある。渡り鳥の移動に伴って拡大したものか、養鶏場で発生したものが人や物の移動に伴って運ばれていたのかを区別することは難しい。
この経路は Gauthier-clerc et al. (2007) Recent expansion of highly pathogenic avian influenza H5N1: a critical review にも示されており、ここでは人や物の移動に伴って運ばれたことを圧倒的に支持すると述べられている。
上記 Lapshin (2005) によれば検査のための物資が圧倒的に不足していて、現実の進展を反映していたものかもよくわからないようである。
日本を含め、世界のメディアが注目したのは同年の 10 月にルーマニアなどヨーロッパで発生してからであった。この年には日本ではとある国政選挙があり、報道関係者はそちらの取材に忙殺されていたため世界がこんなことになっているとは知らなかった、と後に聞いた。
世界の一流誌はいずれもこのころ大特集を組んでいた。例えば TIME は青海湖でレンジャーの目の前でインドガンがよろめきながら死んで行く様子を生々しく伝えていた。
同年 TIME 9/26 号 "Avian Flu Death Threat" より冒頭の引用と抄訳:
But for migratory birds, the island-actually a small peninsula protruding
into Qinghai Lake, China's largest saltwater lake-is the avian equivalent
of a busy international airport.
人々にとっては秘境かも知れないが、青海湖の小さな半島は渡り鳥にとって込み
合った国際空港のようなものだった。
his daily rounds near an area popular with bar-headed geese when he spotted
something he'd never seen in his two decades at the reserve.
青海湖のレンジャーは 20 年来観察を続けてきたが、それは初めて目にする光景
だった。
"It was walking so strangely, wobbling from side to side as if it were
drunk."
群れから離れた1羽のインドガンが、まるで酔っ払っているかのように揺れな
がら歩いていた。
"This goose seemed to be shivering."
あのガンは震えているのではないか・・
その瞬間から起きた世界の戦慄の反応は、"If that sounds like an alarmist's
hype, it's not." 警告家の誇張のように聞こえるかも知れない・・しかしそれは
本当なのだ。
ルーマニアで発生となるとロシアとの間はどうであったのか気になるところであったが、報道をチェックするとウクライナでもそれを疑わせる事例がすでにあったらしいことがわかった。住民の証言レベルの話だったが当時のウクライナの体制がいかなるものであったを多少なりともうかがうことができた (現在なぜあのような事態になっているのかの遠因もわかるような気がした)。
ウクライナでの発生が正式に報告されたのはこの年も終わりに近づいてからのことであった。
2005 年中のヨーロッパでの発生はまだ散発的であったが、2006 年に入ってから大発生が相次いだ。
ギリシャではアオガンの死亡もあり、当時 BirdLife 担当者の Richard Thomas が「養鶏場のウイルスがこんな貴重な鳥を殺している!」と怒り心頭のメッセージを記していた。
ドイツ北部のリューゲン島でハクチョウ類の集団死があり、真冬の最中に防護服を着て非常に重いハクチョウ類の死体を回収する担当者がどれだけ重労働であるかも述べられ、都市部で発生が起きた時には市内に幾重にも防疫線が引かれるなど日常生活への影響もかなりのものであったそうである。
人々をさらに驚かせたのが2006年1月にアフリカのナイジェリアの農場で発生したことである。そして隣接するニジェール、カメルーン、ブルキナファソ、スーダン、コートジボワールへと2-4月にかけて次々と波及した。
設備の揃ったヨーロッパならばまだ封じ込めも可能であろうが、アフリカの最も貧しい国々に定着すると絶望的であると考えられた。食料も十分でないアフリカで先進国同様の家禽の処分を行わざるを得ず、関係者の苦悩も大変なことであっただろう。
先述の Gauthier-clerc et al. (2007) によれば感染地域からナイジェリアへひなの空輸があったことが BirdLife により報告されている (先述の BirdLife が主宰するメーリングリストでも空輸される現場を実際に見たとの目撃レポートが報告されていた)。
あくまで当時の事情下ではあったが、H5N1 がもしヒトの間でパンデミックとなった場合の対応についてもさまざまな問題が投げかけられた。行動制限や感染者が増えて社会が回らなくなった場合の対応などシミュレーションも行われていたが、新型コロナウイルスに対して活かされただろうか。なお人と話をする時は最低 2 m の距離をとる、お互いの方を向いて話さない、などの対策も当時から提案されていたものである。
予防方法はワクチン (*8) となるが、当時はまだインフルエンザワクチンは従来の方法で作られていた (これを執筆中の現在も同様)。つまり発育鶏卵にウイルスを接種して培養し、そこから取り出したものを断片化してワクチンの原料とするものであった。
このような製造ラインはパンデミックが起きても簡単に増やせるものではなく、また鳥インフルエンザが流行している最中に必要な鶏卵をそもそも集めることができるのか、ウイルスの毒性が高すぎて発育鶏卵で十分に増殖しない、そもそもウイルスの出現からワクチンを作るまでには非常に時間がかかるなどの議論がなされていた。
当時の日本はある意味で先進的な対策を準備していて、「日本人しか使わないだろう」と言われたタミフルも迅速診断キットも日常的に用いられており、もし当時 H5N1 のヒトの間でのパンデミックが発生すれば世界でも最も準備が進んでいた国とされていた。タミフルも迅速診断キットも次のパンデミックが必ずいつか起きることを前提に戦略的に整備されていたものだったからである。
(それに比べると新型コロナウイルスに対してワクチンも海外から輸入せざるを得なかった日本の存在感のなさは一体何がそれほど変わってしまったのだろうと愚痴も言いたくなる)
2006 年の春の時期にもまた 2005 年と春と同じような発生があった。
中国青海省ではやはりインドガンを中心とする集団死があった。
2006年6月にはロシア・モンゴルの国境にあるウヴス・ヌール (オブス) 湖で青海湖と同規模の水鳥の集団死が発生したが、情報はほとんど出て来なかった。後にこの発生に関する論文 L'vov (2006) が発表されたことを知って (もちろん一段落してから) 取り寄せてみたがまったく読めなかったため、この論文が文法的に完全に読めるようになろうと一発奮起したのがロシア語独習を本格的に始めたきっかけである (結果的に語学知識が鳥の情報を知るのに想像以上に役に立つことがわかったのは思わぬ副産物となった)。
この当時にはまた注目の発見もあった。2005年10月に 1918 年の「スペイン風邪」が猛威をふるった時期のイヌイットの凍結状態の遺体からウイルス遺伝子の解読の成功が伝えられ、参考記事、H5N1 との類似性や、起源としての鳥インフルエンザが改めて注目されることとなった。
Kobasa et al. (2007) Aberrant innate immune response in lethal infection of macaques with the 1918 influenza virus はこの遺伝情報をもとにウイルスを再構築することに成功し (*5)、1918 年の「スペイン風邪」が宿主の免疫反応を狂わせて死に至らせるいかに凶悪なウイルスであったかを明らかにした。
同様のことが H5N1 でも起きるのではとの示唆を与える研究であった。
インフルエンザウイルス研究の世界の第一人者である河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) が出版されたのもこの時期で、さらに知りたい方はこの本をお読みいだだくとよい。
H5N1 の発生はいったん下火となり、2009 年にブタ起源 (遺伝子の一部は鳥インフルエンザ由来だった) の新型 H1N1 インフルエンザ [A(H1N1)pdm09] がパンデミックとなったことで H5N1 の話題はしばらく忘れ去られていた。
「スペイン風邪」の末裔 (正確には 1977 年に再登場したもので、保存されていたウイルスが流出したことが原因と言われる) にあたる H1N1 は当時まで流行が続いており、この株はタミフル耐性となっていたため厄介であった (医療現場で使われる迅速判定キットでは亜型まで判別されないため、タミフルを投与しても効かない確率も高かった)。
2009 年の新型 H1N1 インフルエンザは病原性も低く、また多くの人が H1 への基本的な免疫を持っていたため大きな被害は生まなかった。タミフル耐性となっていた従来の H1N1 を駆逐したため、ある意味ではよい面もあった。ただし「新型」ゆえに生活に制約が生まれたり社会的混乱があったことは記憶されておられる方も多いだろう。現在も流行が続いている H1N1 亜型はこの株である。
[野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン]
自分もなぜインドガンが重要な役割を果たしたのだろうと関心を持っていた一人であったが、インドガンの生態を調べているうちに衝撃の情報を発見してしまった。
インドガンはチベットなどの高地に生息するため、英語で探しても繁殖地での情報がそれほどない。仕方なく中国語で検索をしていた (漢字文化圏の者にとっては種名ぐらいならば判別でき、むしろ比較的簡単であった)。
その最中にインドガンが養殖されている記事を見つけてしまったのである (記事さえ見つかれば機械翻訳で読めばよい。英語圏の者には簡単にできない芸当である)。当時国内・世界ともガン類の研究者はいたが、このことは誰一人知らなかったとのことである。
ガン類の研究者も後から考えると飼育は簡単なので確かに商業利用に使われることは考えても不思議でないと述べていた。
商業的な飼育は 2003 年にラサから 100 km ぐらい南の湖で始まり、さらに規模を拡大していたとのこと。野生個体数が減少していたので 2005 年には飼育個体の野外放鳥も行った (青海湖の発生の後ではあるが)。
珍味であり、消費地である都市部との流通ルートも確保されていたとのこと。
詳しくは以下の論文となっているので参照されたい (第2著者で共著論文となっている。筆頭著者が獣医、第3著者は BirdLife の鳥インフルエンザ担当者):
Feare et al. (2010) Captive Rearing and Release of Bar-headed Geese (Anser indicus) in China: A Possible HPAI H5N1 Virus Infection Route to Wild Birds。
この発見はメーリングリストに参加していた Nature の担当者の目にもとまり、"Blogger reveals China's migratory goose farms near site of flu outbreak" Nature 2006 May 18; 441(7091): 263
という記事としても掲載された。現在はオープンアクセスとなっているようなのでぜひお読みいただきたい。香港在住で中国の渡り鳥での感染論文を Nature に出した Yi Guan も噂は聞いたことがあったが知らなかったとのこと。
2005-2006 年の世界進展の時も話題となっていたのだが、この「青海湖株」には特異な変異がある。それはインフルエンザの遺伝子の一つ PB2 (ポリメラーゼのユニットの一つ) の 627 番目のアミノ酸がグルタミン酸 (E) からリジン (K) に変異しているもので、専門的な表現では PB2 E627K と表記される。この表記で検索するとすぐわかるが、これは鳥インフルエンザの哺乳類への感染力を高める変異としてよく知られたものである (*7)。
先述の 1997 年に香港で人に感染を起こした H5N1 ウイルスにもまさしく同じ変異があった。
この変異は鳥の間のみで感染を繰り返して生じるとは考えにくく、最も素直な解釈は途中に哺乳類への感染が起きたもので、家畜/家禽から獲得した可能性が高い。家禽の集団は上空からも見つけやすく、野生個体が容易に混じることができて、飼育/野生インドガン個体中に定着してインドガンへの感染に適応した株を生み出したと考えると納得が行く。
ラサ周辺ではその後も発生が続き、中国の研究者は渡り鳥が帰ってきたためと解釈しているが、家禽状態のインドガン個体群中に定着していた可能性も考えられる。
BirdLife の組織は基本的に英語圏で漢字文化圏への障壁は高かったようで、日本人ならではの貢献となったかも知れない。BirdLife にも中国の協力者はいたが鳥インフルエンザへの関心は高くなかったようでこのような情報追求はできなかったようである。
この話は実は深いところでここ数年の問題となっている新型コロナウイルスの起源にも関わっているのではないかと考えている (同じようなことに気づいている人はきっと他にもありそうだが)。
先に紹介の ProMED に 2021年3月15日に紹介されたものだが、
WHO Points To Wildlife Farms In Southern China As Likely Source Of Pandemic
というアメリカの公共放送 (NPR) のインタビュー記事がある。残念ながら日本ではこのような情報はほとんど報道されないが、WHO の Peter Daszak が現地視察で何を知ったのか紹介されている。
Peter Daszak の言葉で印象的な発言を紹介しておこう (以下の article とは 2020 年 Scientific American の記事を指す):
He praised her and defended her staunchly in the article, which notes
that Shi and he are "long-term collaborators". Daszak said:
"Shi leads a world-class lab of the highest standards...
It's crystal clear that bats, once again, are the natural reservoir.
"crystal clear" の表現があまりに印象的。(新型コロナウイルスがコウモリからやってきていることは) 水晶のように澄み切った、一点の曇りもない。
中国では野生動物を捕獲して養殖する政策がこの 20 年行われてきて、都市部と農村の貧富の差の解消にに奏功していたとのこと。この成果については NPR が 2020 年にすでに報道していた。
NPR はアメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネットワークと wikipedia にあり、これまでにも H5N1 は渡り鳥が運んでいるのか (2005-2006 年当時の状況)、などの数々の重要な専門家インタビューを紹介してきていた信頼度も高いとされるメディアである。
Peter Daszak 氏は 2020 年 Scientific American の記事 How China's 'Bat Woman' Hunted Down Viruses from SARS to the New Coronavirus (2020年6月1日)
で中国のコウモリのウイルス研究者の Shi Zhengli = 石正麗 (セキセイレイ) をインタビューし、高く評価していた。この記事は日経サイエンス7月号 (2020) に掲載されたとのこと (これは読んでいない)。
Shi Zhengli が新型コロナウイルスの発生報告を聞いた時どこにいて何をしていたのか、この記事に記載されているので (インドガンの話題から少し離れるが) 2020年3月11日にオンライン公開され、4月27日に改訂された当時の記事の部分抄訳を紹介しておく ([kbird:03001] コロナウイルスの起源 2020.5.6より):
SARS の発生以来 16 年コウモリのウイルスを求めて遠征を行ってきたとのこと。初めて新型肺炎のニュースを聞いた時、もっと危険な中国南部ではなく中央部の武漢で発生するとは考えておらず、中央政府が何か間違えたのかと思ったとのこと。本当にコロナウイルスならばうちの研究所が起源の可能性があるかと考えた。
(コウモリのウイルスを求めての遠征で) horseshoe bat species の3種に SARS に対する抗体を見つけたとのこと。Shitou Cave 洞窟へと絞り込み、5年の研究で多数のコウモリ由来のコロナウイルスを見つけた。多くのものは無害だったが
SARS に近いものが 10 ぐらいあった。人間の肺細胞に感染し、ネズミで SARS に似た病気を起こした。
(これらの研究の結果、現在 SARS の起源とされる野性動物にたどり着いた)。
この洞窟近くの村の住民を調べて 3% に SARS 類似コロナウイルスへの抗体を持っていることを明らかにしたが症状はなかった。
その3年前に鉱山で6人が肺炎になって2人が死んだ事件で調査を依頼され、鉱山で多数のコロナウイルスを見つけた。
コウモリの糞で地獄のようだった。その時の原因は真菌だったが閉鎖していなければコロナウイルスに感染するのは時間の問題だった。
1年以上前に彼女らのチームは2本の総説論文を出版し、コウモリ由来のコロナウイルスの危険性を訴えていた。
昨年12月30日武漢へ戻る列車の中で、患者のサンプルを検査する方法を同僚と相談していた。16 年間自分が準備してきた最悪の悪夢と戦っているように感じた。PCR でコロナウイルスに共通の配列を確認。他の研究所に送って完全配列を解読。
その間に実験室の過去数年の記録と照合し、実験ミスで漏洩があったのかを調べた。
洞窟のサンプルに該当するものがなかったことがわかって胸をなでおろした。「心の重しがようやく取れました」「数日間一睡もできませんでした」
2021 年の調査 Daszak 氏の率いる WHO チームは中国の研究者とも長年の信頼関係があり、論文発表前の資料なども得られたのであろう (*9)。
鳥インフルエンザに戻って、希少種インドガンを養殖して商用利用とともに野生個体を増やす事業が行われていたわけであるが、まさにこのプロジェクトの一つだったのではないかと考えると時期的にも非常によく符合するように思える。
あくまで想像に過ぎないが、もしインドガンに適応した H5N1 の株が生じていなかったら事態はどうなっていただろう。渡りのカモがやってくる状態でも HPAI H5N1 が出現した 1996 年から長い間渡り鳥の間に大きな問題は生じていなかったので、もしかするとインドガンに人為が関わっていなければ今でも中国と東南アジアの風土病程度にとどまっていたのかも知れない。
なお、現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬していることは明瞭である。日常的に発生するようになった時期からはそうでないかと思われる。特に最初に述べた 2020 年以降の拡大速度はそれまでにも増して大きく、既知の渡り経路にも沿うものになっている。
青海湖株の発生当初に比べて野鳥への毒性が弱まり、一部の鳥に適応して渡りながら感染を拡大させることができるようになったと考えられている。[野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる] で述べたような自然界では不安定な高病原性状態が次第に低病原性に移行してゆく過程を見ていると考えられる。
ただし現在問題となっている株は変異によって毒性を高めている。一部の宿主には毒性が低く容易に運搬できるものの他の種類には毒性が強いことはあり得る。
現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬できるようになったとはいえ、これを過去まで遡って適用するのは拡大解釈であろう。2005-2006 年の拡大パターンは渡り経路にも時期にも合わない点が多く、現時点の拡大パターンとはかなり異なっている。
現在では今も昔も同じように考えられがちであるが、当時の詳しい情報に基づく分析については前述の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」や Gauthier-clerc et al. (2007) をお読みいただければと思う。当時も指摘されていた点であるが、当時の鳥インフルエンザは同一国内ではすぐに広まるのに国境を越えるのには時間がかかったのは人や物の移動が関係していたことの表れとも言えるだろう。
Yang et al. (2024) Synchrony of Bird Migration with Global Dispersal of Avian Influenza Reveals Exposed Bird Orders
のウイルスゲノムの研究で 2.3.2.1 (過去の系統) では渡りとの相関があまり見られなかったが、2.3.4.4 (2010-2017) で相関が見られるようになり、2.3.4.4 (2018-2023) では相関が一層強まり、渡り鳥が主な運び屋になったのは 2.3.4.4 以降のよう。2.3.2.1 では移動に季節性が見られなかった。
ただし渡り鳥の経路についてはよくわかっていない部分も多く限界もある。著者はカモ目に加えてタカ目も渡りで運ぶ可能性も考えているようだが (ミサゴの写真が使われている)、2次感染や重点サンプリング種などの考察は不十分でやや誤解を招く可能性がある印象を受ける。
Zhang et al. (2022) Airborne Avian Influenza Virus in Ambient Air in the Winter Habitats of Migratory Birds
越冬期の水鳥周辺の空気に含まれるウイルスを検出したもの。オナガガモ、コガモなどとの相関が高かった。もちろんウイルスが含まれているからと言って空気感染する可能性があるとは言えないことに注意。
一時期「鶏インフルエンザ」の名前が使われたことがあったがこれはもちろん正式用語ではない。
Birder (2004) 18(7): 68-69 で編集部による記事で「野鳥と鳥インフルエンザ公開シンポ」の対談を取材した記事がある。主な感染相手はニワトリで「鳥インフルエンザ」と書くより「鶏インフルエンザ」と書くほうが正確だろう (動物衛生研究所 山口成夫氏の講演に基づく)。
野鳥関係者に対する講演なのでそのような表現を使われたかも知れないが、Birder のこの記事は「鶏インフルエンザ」とすべきところをマスコミが「鳥インフルエンザ」と報道したと誤解を招いた可能性があるように思う。
なお、海外でも「鶏インフルエンザ」に対応する poultry flu を世界進展の際に使われた方があったが、これは屈辱的な意味で用いられたもの。「養鶏場のウイルスがこんな貴重な鳥を殺している!」に相当する怒りの表現であった。日本で少し使われた用例とは意味が違い、当時の日本の鳥学者からもこのような見解はあまり聞かなかった。
2004 年のことでまだ理解が進んでおらず、やむを得ない部分もあったかも知れない。
Uyeki et al. (2024) Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus Infection in a Dairy Farm Worker
で2024年3月家畜からヒトへの感染が確認された。PB2 E627K を持っており、哺乳類への感染力を高める変異があるが、HA の方は鳥タイプのもので哺乳類の間で効率的な感染する能力はなさそうだが注意は必要らしい。
Restori et al. (2024) Risk assessment of a highly pathogenic H5N1 influenza virus from mink
ミンクから分離された株はさらなる PB2 T271A の変異を持ち増殖能力を増しているが致死率は下げ、"空気" 感染をより容易にしている。
A/American wigeon/South Carolina/22-000345-001/2021 (アメリカヒドリ) は北米に導入された早期の株でフェレットに対して弱い病原性を示したが、A/Bald eagle/Florida/W22-134-OP/2022 (ハクトウワシ) は北米の LPAI と遺伝子再集合を起こしたものでフェレットに対して強い毒性を示したとのこと。
まだ効率的な空気感染の能力はないものの、2.3.4.4b H5N1 の系統に少し変異が加わるとパンデミック株になる能力を持つ可能性がある。インフルエンザに免疫を持たないフェレットを用いた実験だが、多くの人が H1N1 や H3N2 を経験していて H5N1 にどの程度の交差防御機能があるかも考察されている。
Meade et al. (2024)
Detection of clade 2.3.4.4b highly pathogenic H5N1 influenza virus in New York City
ニューヨークの鳥でも 1927 検体中6例に検出された (カナダガン、猛禽類、ニワトリ)。
Guan et al. (2024) Cow’s Milk Containing Avian Influenza A(H5N1) Virus - Heat Inactivation and Infectivity in Mice
感染した牛の生乳からマウスに感染する可能性が見つかったとのこと。牛のウイルスは1クレードで牛への導入は1回の現象だったとのこと。
Carrasco et al. (2024) The mammary glands of cows abundantly display receptors for circulating avian H5 viruses (preprint)、
Nelli et al. (2024) Sialic Acid Receptor Specificity in Mammary Gland of Dairy Cattle Infected with Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus
牛やヤギの乳腺に H5 受容体機能 (鳥型のリセプター) がある。
Eisfield et al. (2024) Pathogenicity and transmissibility of bovine H5N1 influenza virus
現在牛で広まっている HPAI H5N1 は乳腺を含めた全身の細胞で増える (ただし乳腺を好む傾向は HPAI H5N1 の古い株でも同様とのこと)。このウイルスはヒトの上気道の受容体に結合し、効率は悪いがフェレットの間で感染する。哺乳類に感染しやすい特徴を持っている可能性がある。
Caserta et al. (2024) Spillover of highly pathogenic avian influenza H5N1 virus to dairy cattle。疫学的に牛から牛への効率的な感染が起きている証拠があり、一見健康に見える牛を別の州に運ぶことで感染が広がったと考えられる。
実験により牛の呼吸器ではあまり増殖しないが乳腺からミルクが主なルートとなっている: Halwe et al. (2024) H5N1 clade 2.3.4.4b dynamics in experimentally infected calves and cows。
アメリカミズーリ州で家畜との接触歴のない人の感染があった: Is bird flu spreading among people? Data gaps leave researchers in the dark (Nature news 2024.9.19)。
牛への感染実験 Baker et al. (2024) Dairy cows inoculated with highly pathogenic avian influenza virus H5N1 (2024.10.15) 飛沫により呼吸器から、また乳腺からの感染ルートがある。現在牛の間で広まっている株は鳥からの直接感染が疑われ牛の間で広まった。
最新状況 Gu et al. (2024)
A human isolate of bovine H5N1 is transmissible and lethal in animal models
2024 年前半に牛の株に感染し弱い呼吸器症状と結膜炎を起こしたが回復したアメリカの作業者から分離された株 A/Texas/37/2024 はフェレットなどの実験動物には効率的に感染し高率で死亡したとのこと。ヒトの培養細胞では結膜上皮よりも肺胞細胞でよく増殖する (注: ヒトでは上気道よりも肺胞細胞に鳥型の受容体が多い)。
少なくとも実験動物系においては現在の牛の HPAI H5N1 は特別な適応なしに致死的な病気を引き起こすことができる。
この株は野鳥のものと大きな違いはなく牛に導入されたもの。2つの変異で哺乳類で効率的に感染を起こすようになったと考えられる。病原性を高めるようになった変異を持つウイルスがその後再度検出されていない点は朗報である
(河岡氏などを含む日本人研究者も多数入ったチームによる 2024.10.28)。
Pulit-Penaloza et al. (2024) Transmission of a human isolate of clade 2.3.4.4b A(H5N1) virus in ferrets (2024.10.28) こちらも関連論文で人から分離された上記論文と同じ株 A/Texas/37/2024 は鳥型の受容体に結合する能力を有したままでフェレットの間で効率的に感染して多量のウイルスが空中に排泄される。
2024 年の牛での集団発生以前の clade 2.3.4.4b クレードのウイルスに比べて病原性、感染性を高めている。
Lin et al. (2024) A single mutation in bovine influenza H5N1 hemagglutinin switches specificity to human receptors (2024.12.5) HA 遺伝子の Q226L の1アミノ酸変異で人型受容体への結合能力を高める。タンパク質の3次元構造予測から分子機構も明らかにされている。
牛の間で感染している間は牛の上気道や乳腺は主に鳥型の受容体からなるため (牛なのに鳥型とややこしい) 鳥型を維持する選択圧が働くと考えられるが、牛から作業員に感染を繰り返すと人型受容体への変異を起こす選択圧となる可能性がある。北半球はインフルエンザの流行期に入っているので重複感染による遺伝子再集合で人に適応した株が生まれる可能性がある (下記の 2024.9.24 Nature review の原稿事前公開も参照)。
南米のミナミゾウアザラシ Mirounga leonina で野生哺乳類間で感染が起きている証拠: Uhart et al. (2024) Epidemiological data of an influenza A/H5N1 outbreak in elephant seals in Argentina indicates mammal-to-mammal transmission (2024.11.11)
哺乳類から鳥 (分子系統解析からミユビシギやナンベイアジサシ Sterna hirundinacea South American Tern) への感染もある。鳥からアザラシへの直接感染経路は少ないのでアザラシの間で感染が継続していると考えられる。
H5N1 は新しい経路で哺乳類により容易に適応するようになってきていると考えられる。
2022-2023 の期間に南米でどのように拡大したか地図も出ている。アザラシの回遊に伴う拡大も示唆されている。アザラシ類の保全上でも問題となっている。
鳥の間で感染を繰り返している場合より哺乳類の間で感染を繰り返す方が哺乳類に適合した変異が選択されやすいと考えられ、我々にとっても警告のサインとも言える。
台湾では定着してしまった: Li et al. (2024) From emergence to endemicity of highly pathogenic H5 avian influenza viruses in Taiwan。ウイルスの分子系統解析より。clade 2.3.4.4c で上記のものとは少し違う系統。2015-2019 年の間にどのような形で感染が維持されたか推定している。
2015 年に大きな流行があった。台湾ではニワトリの間で感染が維持され、カモはあまり関わっていない結果となっている。
家禽の移動や渡り鳥の移動は主要な要因ではない。2023-2024 年の台湾での発生は大部分が Yunlin (雲林県) で起きている。家禽の間なので封じ込めができる性質のもの。
台湾に渡るマガモは日本などに比べて少数なので渡り鳥の影響はより限定的なものになっているのかも。
Sultankulova et al. (2024) Reassortants of the Highly Pathogenic Influenza Virus A/H5N1 Causing Mass Swan Mortality in Kazakhstan from 2023 to 2024 (写真あり)
2023-2024 年の冬のシーズンにカスピ海東部の沿岸の Lake Karakol でコブハクチョウとオオハクチョウの集団死があり、複数の遺伝子が別の種類の鳥に由来する遺伝子再集合の結果生じた株と判明した。
過去にカザフスタンで起きた集団感染とは遺伝的に異なる。
PB 遺伝子には哺乳類への適応を示す変異も存在した。
カザフスタンのこの地域はさまざまな地域からの渡り鳥の越冬地にあたる。また周囲にニワトリも少なく家禽から感染した可能性は低い。長距離の渡りルートに沿って複雑な遺伝子再集合が起きたと考えられる。
最も最近の集団感染の事例は 2022 年にあってカスピ海西部沿岸のロシア側でニシズグロカモメ Ichthyaetus melanocephalus、(カスピアカモメ) Larus cachinnans Caspian Gull、オニアジサシやハイイロペリカンが犠牲となったとのこと
[Sobolev et al. (2023) Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus-Induced Mass Death of Wild Birds, Caspian Sea, Russia, 2022 2022年5月]。
この地域で鳥が死ぬことは普通にあるがよく調べられていない。
続報 Kydyrmanov et al. (2024) Mass Mortality in Terns and Gulls Associated with Highly Pathogenic Avian Influenza Viruses in Caspian Sea, Kazakhstan (写真あり)。
Bruessow (2024) The Arrival of Highly Pathogenic Avian Influenza Viruses in North America, Ensuing Epizootics in Poultry and Dairy Farms and Difficulties in Scientific Naming
アメリカを中心とした拡大経緯について。2014 年以前に HPAI H5N1 が検出された証拠はない。2014 年以降突然状況が変わってしまった。
Wille et al. (2024) A call to innovate Antarctic avian influenza surveillance
南極大陸に到達してしまっているが現地には検査施設がない。
Bennett-Laso et al. (2024) Confirmation of highly pathogenic avian influenza H5N1 in skuas, Antarctica 2024
2024.2.28 に複数のトウゾクカモメ類の死体が James Ross Island 付近で見つかり、チャイロオオトウゾクカモメ (ミナミオオトウゾクカモメ) Catharacta skua Brown Skua (種概念が複雑なので代表的表記とした) のサンプルから確認された。
Fildes Peninsula でのトウゾクカモメ類が減少した理由を説明できる可能性がある。
北半球の海鳥コロニーでの発生に比べて南極大陸での発生規模が小さいとはいえ、ペンギン類も感受性があることがわかっていて懸念される。
2023 年初めの South Shetland Islands にはまだ到達していなかったと考えられる: Munoz et al. (2024) Lack of Highly Pathogenic Avian Influenza H5N1 in the South Shetland Islands in Antarctica, Early 2023。
Lisovski et al. (2024) Unexpected Delayed Incursion of Highly Pathogenic Avian Influenza H5N1 (Clade 2.3.4.4b) Into the Antarctic Region。
南極大陸をとりまくように 2023-2024 年にすでに複数の疑い例があり、このフライウエイからオセアニアに入る可能性がある: Plaza et al. (2024) Potential Arrival Pathway for Highly Pathogenic Avian Influenza H5N1 to Oceania。
2021-2023 年の北米の発生の解析
Damodaran et al. (2024) Intensive transmission in wild, migratory birds drove rapid geographic dissemination and repeated spillovers of H5N1 into agriculture in North America (preprint)
ウイルスのゲノム解析の結果から 2021-2023 年に北米には大西洋 - 太平洋フライウエイを通じて約8回の独立の導入があった。ヨーロッパから大西洋ルートが中心だが、アジアから太平洋ルートで北米への導入も 2022-2023 年に検出された。ヨーロッパや北米の主な株とは異なる系統。
2022-2023 年のシーズンは日本でも野鳥の間で大きな発生があったが、水鳥の繁殖地域のロシアの情報はほとんどわからない。北米にも及んでいたことがゲノム解析の結果判明し、この時期に北米と渡り鳥の交流のあるユーラシア北東部で感染が広まっていたことがわかる。当時の日本での発生と北米への導入タイミングの関係を考慮して図を見ていただくと明らかになる点があるかも。
感染は主にカモ目、シギ・チドリ類とキジ目 (主に家禽) の間で維持されその他の系統は主に終端宿主だった。野鳥から家禽への感染は独立に 46-113 回起きたと推定。
キジ目では感染が長く維持されない傾向があるがカモ目での持続期間は 0.71 年と長い。シギ・チドリ類も 0.65 年と推定されこれらの鳥がウイルスを維持していると考えられる。
これまで想像されていなかった結果としてフクロウ類を除く猛禽類からカモ目、シギ・チドリ類への感染がしばしば起きている可能性がある。北米で LPAI との遺伝子再集合の結果哺乳類を含む広範な宿主への適応を高めるなどこれまでのウイルスと性質が変わってきている可能性があるとのこと。
ウイルスの野生動物間の動態に猛禽類が関わっている可能性や、これまでと感染パターンが異なってきているのかさらに調査が必要である (論文でも多少示唆されているが猛禽類での発生は気づかれやすくよく検査されるため生じる統計的バイアスによるものかも知れない)。
なおこの論文ではタカ・ハヤブサ類を Raptors とほぼ目に近い扱いにしている (昔のワシタカ目相当)。系統よりも生態を考えるとこのような場合や北米の保全関係者には妥当なグループ名になるのだろう。
Barman et al. (2025) Reassortment of newly emergent clade 2.3.4.4b A(H5N1) highly pathogenic avian influenza A viruses in Bangladesh
バングラデシュの生鳥市場で 2.3.4.4b clade (2022 年日本の株に近い) と LPAI との新しい遺伝子再集合のタイプが見つかった。バングラデシュでは 2.3.2.1a clade (比較的おとなしかった) が流行していて、これまで 2.3.4.4 clade 系統に置き換わることはなかったが今後の動向が注目される。
2.3.2.1a と 2.3.4.4b の間の遺伝子再集合の証拠がある。
(2024.9.24 Nature review の原稿事前公開): Peacock et al. (2024) The global H5N1 influenza panzootic in mammals 現状いくつかの哺乳類の間で感染が起きており panzootic 状態となっている。次がヒトの可能性はあるのか。
従来はブタが鳥インフルエンザをヒトのインフルエンザに変える宿主と考えられてきたが、現在問題となっている牛やミンクなどが知られていなかった経路になる可能性はあるのか。
ポリメラーゼ遺伝子は簡単に変異してすぐ哺乳類宿主に適応できるが、今のところ HA 遺伝子は変異に対して比較的選択圧がかかっているようで現在問題となっている哺乳類の間で感染する株はそれらの宿主で長期維持されていない (もちろんどこかで突破される可能性は残る)。
野生の哺乳類間は長期間維持されないが畜産動物はより大きな役割を果たしていると思われる。
これから秋を迎えるにあたり、ヒトの間で流行するインフルエンザとの間で遺伝子再集合を起こすリスクはある。アメリカでは H5N1 がブタで見つかっていない点は朗報である。
事態が変わってきている現状で家禽にワクチンを投与すべきかの問題もある。野生動物に経口的に与えられる H5N1 ワクチンは存在しない。家禽のワクチンは感染を防止することはできないが症状を和らげる (ウイルス量を減らす) 効果はあり、中国の国家的な家禽のワクチン接種は H5, H7 に対して一定の効果を収めている。一方メキシコの H5N2 ワクチンなどはあまり成功しなかった。
家禽にワクチンを接種することで感染が潜在化したり抗原性の変異を速めるおそれも指摘されている。
ワクチンを接種すると家禽の輸出が制限されるので輸出国はワクチンを使いたがらないが、野鳥の間で enzootic (地域流行) になっている現状では輸出制限規定を見直すべきでは。
World Organization of Animal Health (WOAH 世界動物保健機関。フランス名だった OIE 国際獣疫事務局が 2022 年に改称された) は 2023 年に家禽へのインフルエンザワクチン接種が安全な貿易の制約となるべきではないとの声明も出している。
ワクチン接種を行う場合はヒトで行われているようなモニタリングやワクチン株の更新は欠かせない。
いずれは多様なインフルエンザ株に対する万能ワクチンが開発されることが期待されるがまだ研究の初期段階である。
現在の 2.3.4.4b 系統の H5 ワクチンは確保されており mRNA 技術を用いて大量生産は可能である (COVID-19 の例を見ると実際に使われるまでには結構かかりそうな感じはするが...)。
ヒトのパンデミックとなった場合の重症度はよくわからない。(これまでも言われてきたが) 高齢者は過去の H1N1, H2N2 感染で "刷り込み (imprinting)"
(免疫の刷り込みについては 感染したインフルエンザの亡霊 nature ダイジェスト 2018 を参照 - 原著者の Declan Butler はインドガン事件の時のレポーターでもあった) があって部分的免疫を持っている可能性がある。
1968 年の H3N2 パンデミック以降の者は (抗原性が違うので) より感受性が高い可能性も指摘されている。
2009 年の H1N1 パンデミック (いわゆる当時の新型インフルエンザ) によって部分的免疫があるかも知れない。
図にどの動物からどの動物へ感染が伝わったか、それに伴う遺伝的変化も示されていてわかりやすい。
現在問題となっている北米の株はヨーロッパのものそのままではなく、北米の野鳥の LPAI と遺伝子再集合を起こしたもの。南米にはその株が到達したが、北米では野鳥の LPAI とさらに遺伝子再集合を起こして現在牛などの間で流行する株になっている。
ヨーロッパではユーラシアの LPAI と遺伝子再集合を起こして 2.3.4.4b (そしてこれが北米に広まった)、そしてさらにユーラシアの LPAI と遺伝子再集合で 2.3.4.4b (AB) となり、さらにカモメ類に適応した H13/H16 と別の遺伝子再集合が起きて、2.3.4.4b (BB) となった。
これが現在ヨーロッパで問題となっている株 (想像: ヨーロッパで遺伝子再集合が起きやすかったのはシベリアに比べてカモメ類との接点が比較的多かったのかも)。
オーストラリアではなぜまだ発生していないのか: Nature news Why hasn't deadly bird flu reached Australia yet? (2024.10.4)。いくつかの説が考えられているがよくわかっていない。
オーストラリアは生きた家禽を輸入しておらず、オーストラリアの多くの鳥は固有種で感染地域に渡らない。
しかし渡ってくる鳥は感染している可能性があり、ミズナギドリ類を捕獲して調べている。
カモ類がウイルスを広げている可能性が考えられているが、カモ類の上皮には RIG-I と呼ばれる "センサー" があって免疫反応 (インターフェロン) を活性化して通常はインフルエンザウイルスを排除する。
カモ類はアジアで複数回の LPAI 感染を起こすことでこのような防御機構を発達させた可能性があるとのこと。カモ類は H5N1 で発病しないかも知れないがウイルスを運ぶことはできる。
生物地理学的理由も考えられウォレス線 (Wallace Line) でスンダ地域と生態系が隔離されており、ウォレス線の西側の種は鳥インフルエンザによく適応している一方、東側では遺伝的な違いによって鳥インフルエンザがあまり適応していないのかも知れないが実証されていない。
この地域の多くのカモ類は長い渡りをしないが、マミジロカルガモ Anas superciliosa Pacific Black Duck や シラボシリュウキュウガモ Dendrocygna guttata Spotted Whistling Duck のような種類もあってカモ類が導入する可能性は否定できない。
オーストラリアの種の H5N1 への感受性はほとんどわからないがおそらく感受性があると推定され、ウイルスの導入があると大きな影響が及ぶ可能性がある。
カモ類の RIG-I が自然免疫として働いている件については Barber et al. (2010) Association of RIG-I with innate immunity of ducks to influenza。
ニワトリは RIG-I が失われているとのこと。参考: Krchlkova et al. (2021) Repeated MDA5 Gene Loss in Birds: An Evolutionary Perspective。ニワトリの各種ウイルスへの抵抗力の弱さの原因の一つと考えられる。
Magor et al. (2013) Defense genes missing from the flight division も鳥類免疫の特性についての情報。いくつかの系統 (主に家禽) で失われたり部分的になった機能がある。鳥類は接する病原体の種類が比較的少ないのかも知れない。
Krchlkova et al. (2023) Dynamic Evolution of Avian RNA Virus Sensors: Repeated Loss of RIG-I and RIPLET が鳥類での系統進化を調べている。散発的に何度も失われているが意外にも古い系統の方が多く失われている。
スズメ目はほぼ完全に持っている。オウム目もほぼ完全に持っているがハヤブサ目では失われている。タカ目やフクロウ目ではほぼ完全に持っているなどここでも猛禽類の中でハヤブサ目の免疫の特異性が目立つ (ただし調べられている種類の範囲で)。オウム目とハヤブサ目は同じ系統をなすが相互にそれほど近いわけでないこともわかる。
ハヤブサ目の方が獲物由来の病原体暴露が多そうだがなぜ不要になったのか不思議な点もある。
ペンギン目やミズナギドリ目でもほぼ失われている。それぞれ系統特異的に失われたものらしい。
ツル目は別系統 (MDA5) を失っている。出水のツルで集団発生にも免疫的特性が関係しているのかも知れない (ツル目にはクイナ類も含まれることも注意。カモと一緒に暮らすことの多いオオバンにも影響があるかも)。
非特異的免疫には他のルートのものもあって冗長性に富んでいるので1系統をたまたま失ってもそれほど支障がなかったのかも。
カモ類やチドリ類はインフルエンザウイルスへの暴露が多いので保存される方向の選択圧が働いているかも (論文ではこれらの点はあまり議論されていない)。興味の中心は家禽で、キジ目で失われたのはかなり古く 4500-6500 万年前と推定されている。ニワトリでは RIG-I の遺伝子の痕跡も残っていないとのこと。代わりに MDA5 の経路が進化している可能性が述べられている。
Salve et al. (2023) Concurrent loss of ciliary genes WDR93 and CFAP46 in phylogenetically distant birds
によれば繊毛の非特異的免疫にかかわる遺伝子が離れた系統で何度も失われていることを示している。キジ目はこちらも失っているが、カモ類とガン類では異なっていてガン類の方がウイルス感受性の高い理由になり得るとのこと。
キジ目の RIG-I に比べると失われた時期が遅く、カモ類とガン類の分岐以降に起きた現象となる。
Neoaves でも散発的に失われているものがある。鳥インフルエンザと関係のありそうな種類ではエリマキシギが失っており、鳥インフルエンザの通常の研究対象外で役割はよくわかっていないがチドリ目にもウイルス保有に関係のある種類があるかも知れないとのこと。
ニュージーランドの渡りをしないミドリイワサザイ Acanthisitta chloris Rifleman でも失われており、渡り鳥が病原体を持ち込んだ場合に保全上の問題となり得る。
チャイロネズミドリ Colius striatus Speckled Mousebird は MDA5 遺伝子も失っておりどのような機構で病原体に対応しているか興味深いとのこと。
鳥インフルエンザに対する反応がカモとニワトリでなぜ違うのかなどに関連して盛んに調べられている分野のようで、Campbell et al. (2023) Evolution and expression of the duck TRIM gene repertoire のような研究もある。
ゲノムデータを利用してどの系統や種でどの遺伝子が生じたり失われているかわかりつつある段階のよう。免疫にかかわる TRIM 遺伝子ファミリーで爬虫類特異的なものは少なめだが (爬虫類 + 鳥類共通のものはかなりあり、哺乳類を含めたすべてに共通するものも多くある)、鳥類や哺乳類に特異的なものは多く見つかっており鳥類や哺乳類の大規模な適応放散に応じて独立に生じたものと考えられる。
ここでも TRIM 類似の RNF135 はニワトリやウズラ、ペンギン、ハヤブサで共通して失われているとのこと。
マガモが鳥インフルエンザの自然宿主として耐性を持つ理由の一つとして提案されているもの: Huang et al. (2013) The duck genome and transcriptome provide insight into an avian influenza virus reservoir species。
自然宿主としてウイルスと平衡関係を保ってきたメカニズムの一端と考えられるが HPAI の出現でマガモの免疫機能が突破された (現在のように渡りで長距離運ばれるようになる以前の研究である点は注意)。
関連してヤンバルクイナでは MDA5 遺伝子に変異があって培養細胞で自然免疫の発動が遅いとの日本の研究がある: Katayama et al. (2023) Cultured fibroblasts of the Okinawa rail present delayed innate immune response compared to that of chicken。
ツル目共通のものかはもう少し調査が必要かも知れない。こちらもキジ目の RIG-I に比べると失われた時期が遅いと考えられる。
離島の鳥はまだあまり調べられていないだろうが、ミドリイワサザイの例もあり、系統的に調べれば離島の鳥の免疫特性などに共通性が見つかるかも知れない。
Becker et al. (2024) Mammalian ZAP and KHNYN independently restrict CpG-enriched avian viruses (preprint)
にも面白い結果が出ている。哺乳類にある ZAP, KHNYN が鳥型のウイルス (鳥インフルエンザや鳥型のレトロウイルス) への抵抗性の一つの要因と考えられるとのこと。
KHNYN 遺伝子は起源的には古く、類似の遺伝子は魚やトカゲ、ワニにも存在するが鳥 (ニワトリ) にはないことがわかったとのこと。哺乳類では鳥類の祖先と分岐後に遺伝子重複を起こしたらしいとのこと。哺乳類の中でも特異なカモノハシにも存在する。
ワニにも類似遺伝子が存在することから鳥類系統が特異的に失ったらしい。個人的には陸上生活が進んで一部の免疫機能を失っても構わない (保持する方向に選択圧が働かない) 状況を想像するが違っているかも知れない。
論文中に過去のヒトのインフルエンザのパンデミックと鳥インフルエンザがどのように関わってきたかの図もある。1957-1967 年 (いわゆる香港風邪) の H2N2 には鳥インフルエンザから3つのセグメント、2009 年 (いわゆる 2009 年の新型インフルエンザ) には2つのセグメントが遺伝子再集合で含まれている。
ヒトインフルエンザの遺伝子を見ることで鳥類から哺乳類へ何度も感染に伴う導入があったことがわかるがいずれもニワトリやアヒルが家禽化された以降の話で、それ以前はどうだったのだろうか (鳥類と哺乳類の相互のウイルス感染はどの程度あったのだろうか) と感じてしまう。
(論文の趣旨に従えば) KHNYN の遺伝子を保持しているのは哺乳類が分岐後も鳥類からの導入がしばしばあってそれを防ぐためだったのだろうか。
Morales et al. (2025) Bat genomes illuminate adaptations to viral tolerance and disease resistance コウモリ類がなぜウイルス抵抗性が高いのかゲノム系統解析から明らかにした研究。
コウモリ類が哺乳類の中でも免疫遺伝子に強い選択が起きている。コウモリ類の共通祖先段階から生まれた性質のようで飛翔性の獲得と関係があるならば、鳥類ではいくつもの系統で免疫関連遺伝子が失われる傾向と逆にも見える。コウモリ類では特に ISG15 遺伝子が SARS-CoV-2 耐性に関連しているとのこと。
Liu et al. (2024) Characterization of the induction kinetics and antiviral functions of IRF1, ISG15 and ISG20 in cells infected with gammacoronavirus avian infectious bronchitis virus
によれば ISG15 遺伝子は鳥類では失われている (哺乳類、爬虫類にはある) とのことでニワトリが IBV (avian infectious broncchitis 鶏伝染性気管支炎のウイルスでコロナウイルス科) に感受性があることに関係している可能性もあるがさらに研究が必要であるとのこと。ここでも羊膜類の中で鳥類の特異性が見られる。
Shepard et al. (2022) The Structure and Immune Regulatory Implications of the Ubiquitin-Like Tandem Domain Within an Avian 2'-5' Oligoadenylate Synthetase-Like Protein
によればニワトリでは OASL 遺伝子の配列に ISG15 との共通性があり代替機能を果たしているのではとの研究もある。鳥類は哺乳類に比べ OASL のコピー数も少ないとのこと。
この論文で鳥類・哺乳類のこの遺伝子の配列比較もある。鳥類は主に家禽と水鳥で Telluraves で含まれているものはイヌワシのみ (当時は高精度のゲノムの得られている種類は限られていた)。どのぐらい共通性が高いかは見比べていただきたい。
2022 年のヨーロッパでの発生時のシロエリハゲワシの GPS 追跡の結果、成鳥の多くは感染しても生き延びたがひなの大部分は死んだ。罹患中は巣で平均 5.6 日間動かなかったとのこと: Duriez et al. (2023) Highly pathogenic avian influenza affects vultures’ movements and breeding output。
成鳥のうち2羽は過去の感染を示す抗体があったとのこと。(#クロハゲワシ備考に続く)
最新状況 2025.1 Kozlov (2025) Will bird flu spark a human pandemic? Scientists say the risk is rising (Nature news 2025.1.27)
この数か月重症のヒト感染者が報告されていて懸念材料となっている。この真っ最中に家畜感染の中心となっているアメリカが WHO 離脱を宣言してしまった。主に牛に感染している株が (clade 2.3.4.4b のうち) B3.13、主に鳥に感染している株が D1.1。D1.1 の感染を起こした人2名が重症で1人は何か月も入院した、1人は死亡。パンデミック株になる可能性があるとすれば牛からか、それとも鳥からか? まだ数が少なすぎて難しい。
B3.13 株のカニクイザル (Macaca fascicularis) への感染実験が報告されている: Rosenke et al. (2025) Pathogenesis of bovine H5N1 clade 2.3.4.4b infection in Macaques 鼻への投与では弱い症状だったが気管では重症だった。消化管経由の感染では症状は出ず抗体陽性転化も限られていた。
Wang et al. (2025) Avian influenza mRNA vaccine encoding hemagglutinin provides complete protection against divergent H5N1 viruses in specific-pathogen-free chickens
ニワトリで立体構造の異なる複数の H5 mRNA ワクチンを用いて完全に感染防御できたとの研究。
mRNA ワクチンとニワトリの抗体はそれほど強力なのか...。
備考:
*1: そもそもヒトのインフルエンザと鳥インフルエンザの何が違うのかは、ヒトに感染しやすいインフルエンザウイルスをヒトのインフルエンザウイルスと呼び、主に鳥に感染するものを鳥インフルエンザウイルスと呼ぶ程度の違いである。
インフルエンザウイルスが宿主の細胞に付着して (後述の HA が関わる) 入り込む際に細胞表面の受容体 (receptor) が重要な役割を果たす。ヒト型のウイルスは α 2-6 シアル酸の受容体に、鳥型は α 2-3 シアル酸と少し構造が異なっている (よく鍵と鍵穴の関係と言われる)。
ブタは両方の受容体を持っているためどちらのウイルスにも感染することができることはよく知られていて、家禽とブタが一緒に飼育されているような環境でヒトにも感染するウイルスが生じやすいとみられている。
鳥型と言われる受容体はヒトが持っていないわけではなく肺の奥深くにあるとのことである。ヒトの上気道 (鼻や喉) では鳥インフルエンザウイルス感染が成立しにくいが、肺の奥深くまでウイルスが侵入できればその限りではない。2004 年ごろベトナムなどで小児の感染が中心であったのは小児は気道が短いため肺の奥深くまでウイルスが届きやすいとの解釈が出ていたが、その後どう解釈されたかまでは調べていない。
鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染しにくい理由のもうもう一つに体温の違いがある。ウイルス増殖も化学反応なので至適温度がある。ヒトのウイルスでは上気道のような低い温度 (33 ℃) で増えることができるが鳥のウイルスは鳥の高い体温に最適化されているためヒトの上気道のような低い温度では増えない
[河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) では第1章 pp. 32-33, p. 44 参照。
(*8) で出てくる生ワクチンはこの増殖温度を 25 ℃ まで下げた株で、毒性がたまたま弱まったものとのこと]。
実際のところインフルエンザウイルスにとっては鳥もヒトも似たようなものなのである
(恒温動物以外にはインフルエンザウイルス、あるいは類縁ウイルスはそもそもほとんど存在しない)。
水鳥のように冬季に群れをなす習性とヒトが集団生活 (特に冬場は多数の人を集めるイベントなども多数行われるなど) をする習性は非常に似ていて、ウイルスが他個体に伝播して数を増やすのに絶好の場を提供している。
水鳥はおしゃべりなどをするわけではないので感染経路は糞口感染でウイルスは腸管で増える。ヒトでは飛沫感染で呼吸器で増殖するのは鳥との行動の違いを考えればわかっていただけるであろう。ウイルスがそのような経路を望んで進化してきたのではなく、鳥でもヒトでもそれぞれの個体の行動がそのような感染経路に適応したウイルスを選抜してきた結果である。
逆に言えばそのような経路を意識して離断すれば感染拡大が防げることは新型コロナでも体験済みの通り。
宿主の行動がウイルスの感染経路を決めているように思える事例として HIV や狂犬病などを思いつくことができる。
さらに考えると恒温動物の体内は温度もほぼ一定に保たれ栄養も十分にある培養器のようなものであり、放っておくと細菌やウイルスだらけになるだろう。それを防いでいるのが免疫で、鳥類と哺乳類が極めて優れた免疫系を独立に確立した背景にはそれがないと恒温動物として成り立たなかったからであろう。
例えば爬虫類は免疫グロブリンの IgM, IgY (IgG 相当) を持っているが抗体価はあまり高くならなず、抗原特異的抗体ではなく自然免疫の方が役割を果たしているのではとの研究がある。
鳥類は哺乳類同様の高度な獲得免疫システムを持っている。膨大な数の抗原に対応する抗体を作るいわゆる B 細胞というのは鳥類の総排泄孔近くの腸管が膨らんだファブリキウス嚢 bursa Fabricii の bursa の B が由来。鳥類においては B 細胞の成熟に必須の器官。哺乳類では独立した器官ではなく骨髄がファブリキウス嚢と同じ役割を果たしているとされている
(哺乳類の話では bone marrow の B が B 細胞の由来と説明しているものもあるが、ちょっとこじつけっぽく感じる)。
膨大な数の抗原に対応する抗体は免疫グロブリンの遺伝子再構成 [V(D)J recombination, (somatic) gene conversion] という現象で作られ、鳥類ではファブリキウス嚢で起きる (これは家禽中心の話で、種類によって違うかも知れない。ハトではファブリキウス嚢除去でニワトリのように免疫不全にはならないとのこと)。
生物学の常識を覆すこの体細胞の遺伝子再構成現象は 1976 年利根川進らが発見し 1987 年のノーベル生理学・医学賞を受賞。
鳥類の免疫について説明している wikipedia 英語版 (Avian immune system) によれば羊水から母体免疫を得るが生まれた時点では自身では抗体を生成することができない。そのため生後数週間は病原体に弱い。生後6週間 (ニワトリの数字だろう) はファブリキウス嚢で盛んに遺伝子再構成が行われる。
遺伝子再構成に使われる遺伝子部位は哺乳類では複数の V, D, J の領域がある。鳥類ではこのうち一部の組み合わせがあるのみで理論的には鳥類の方が作ることのできる抗体の種類が少ないが、鳥類では上流の偽遺伝子群が遺伝子再構成に関わって抗体の多様性を高めている。
T 細胞の T は胸腺 thymus 由来で、これは鳥類・哺乳類に共通 (鳥類・哺乳類に共通のものは共通祖先の段階ですでに存在したことを意味する。共通でないものはそれぞれ独立に進化させたと考えればよい)。
卵にも母体由来の大量の抗体が含まれ、「ダチョウ抗体」で知られるように鳥類の免疫能力は高いと言われる。
鳥類は分泌型 IgA 抗体を持っていて粘膜に分泌し感染を防ぐ点は我々と同じ。
生後の発育においてニワトリでは粘膜の IgA は2週間後から急速に上がって3週間で定常値に達する。カモではもっと時間がかかるらしい。
爬虫類までの系統は IgA を持たないものもあり、IgA の役割は鳥類・哺乳類ほど明らかでない。鳥類・哺乳類のように子育てをする (まだ免疫の不十分な幼若な個体に乳汁として、あるいは餌と一緒に IgA を与えるなど) 必要性から一層の進化を遂げたものかも知れない (調べればどこかに書いてありそうな話だが)。
よく調べられている鳥類はニワトリのように早成性のものが多いので、晩成性の種類では免疫の発達に異なる点があるのかも知れない
[Jacquin et al. (2012) Prenatal and postnatal parental effects on immunity and growth in 'lactating' pigeons
ではハトのピジョンミルクが免疫形成に役立っている可能性を示している。小鳥の人工孵化でそのう抽出液を与える必要があった小西正一氏のエピソード (#ヒガシメンフクロウの備考参照) も関係があるかも知れない。
吐き戻して餌を与える種類 (ハゲワシ類、アマツバメ類を例に挙げている) で抗体を与えている可能性が考えられている文献があるとのこと (Apanius 1998)]。
鳥類を含む主に瞬膜を持つ動物は (鳥では眼球の後ろ) 眼窩にリンパ組織であるハーダー腺 (Harderian gland) を持ち、頭部で IgA などを産生する主要組織となっている (ハーダー腺は霊長類にはほとんどないそうだが他にもヒトのマイボーム腺同様に目の潤滑物質などを分泌し、哺乳類では毛づくろいのための脂腺やフェロモン分泌器官などとしても働いている)。
この分泌物は目から鼻腔へと流れて上気道の免疫機能の一部を担っている。
鳥類は哺乳類にある IgD (役割は不明)、IgE を持たない。IgD は系統進化的には古くからあるが、哺乳類では量も少なく遺残物のようなものかも知れない。IgE は哺乳類ではアレルギー反応に関係する。
鳥類にもアレルギー反応は存在し、IgY が IgE 同様の機能を果たしているとのこと。
*2: 河岡「インフルエンザ危機」では第2章 さまざまなインフルエンザウイルス の後半参照。
*3: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 p. 35 に模式図がある。
*4: 抗インフルエンザ薬には主に3系統がある。アマンタジン (amantadine) が最初に用いられたもので、A 型インフルエンザウイルスの M2 タンパク質のプロトンチャンネルを阻害し、ウイルスが細胞外に出るのを妨げる (現在では耐性のためほぼ使われていない)。
鳥インフルエンザは A 型なので本来効果があり、1997 年にヒト感染した時にまだタミフルが臨床現場で用いられなかったので使われた (耐性は持っていなかった)。同じ系統の薬にリマンタジンがある。
ちなみにこれらの薬はアダマンタンという対称性の高い炭化水素骨格を持ち、炭素骨格がダイアモンドと同じであることからこの名前が付けられた。有機合成化学でも歴史的意義を持つ物質。
中国の鳥インフルエンザが問題となっていた時期、中国ではアマンタジンをニワトリに与えているとの噂が出ていたが真偽のほどは不明 (そんな高価な薬をニワトリに与えないだろうと言われていた)。
また中国では市販の風邪薬成分にアマンタジンを含むものがあって薬のパッケージ写真まで紹介されていたがこちらも真偽のほどは不明。
本文中にあるノイラミニダーゼ阻害薬がタミフルなど4種類。その後開発されたゾフルーザはウイルスの RNA ポリメラーゼの一部をなすキャップ依存性エンドヌクレアーゼに作用してウイルス複製を阻止する。
アビガンも RNA ポリメラーゼ阻害効果のある薬で新型コロナでも話題となったが期待されたほどの効果がなかったことはご存じの通り。現在市場流通していない。
*5: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線 に基本的な技術の解説がある。インフルエンザウイルスの人工合成 (リバース・ジェネティックス reverse genetics) は著者のグループが 1999 年に最初に成功 (pp. 129-133)。「スペイン風邪」ウイルスのリバース・ジェネティックスによる復元はこの著書の書かれた後に行われた。
*6: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 新型インフルエンザの足音 pp. 22-25 に考察がある。マスコミが「渡り鳥犯人説」を盛んに取り上げていたが、著者の考察はもう少し慎重である。
韓国で 2003 年に流行していたが当時は詳細が公表されず、事件や被害が報告されたのは2004年2月になってからであったことも記されている。
また食材として大量のニワトリを日本にも輸出していたタイも感染が広まっているにもかかわらず輸出先に知らせず、鳥インフルエンザに感染した子供がいることのリークがメディアにあってようやく2004年1月に公式に認めたことも書かれている。
この著書は2005年8月に書かれたもので、H5N1 HPAI のロシア進展の最中だった。「あとがき」でそのことも、日本ではほとんど話題になっていなかったことも触れられている。当時マスコミに出るウイルス学者は「渡り鳥犯人説」が主流であったが河岡氏は終始慎重な記述を行っていた。
*7: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線「たった1個のアミノ酸がウイルスの毒性を左右した」(pp. 122-126)。
この変異が哺乳類への適応を高める分子機構が明らかになった: Arragain et al. (2024) Structures of influenza A and B replication complexes give insight into avian to human host adaptation and reveal a role of ANP32 as an electrostatic chaperone for the apo-polymerase。
*8: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 新型インフルエンザから身を守るには に興味深い記述がある。(引用開始) 1962 年から 94 年まで、日本中の小学校でインフルエンザワクチン接種が義務付けられていた。(中略) 学童のインフルエンザワクチン集団接種は、子供たちで増えるインフルエンザウイルスの量を減らすことにより、社会全体におけるインフルエンザウイルスの量を減らしていたわけだ。
こうしたシステムを採用していたのは日本だけで、国際的にも注目されていた。
しかし 1994 年に予防接種法が改正され、学童への集団接種は中止されてしまった。改正のきっかけになったのは、一部の人たちが「インフルエンザワクチンの集団接種は効いていない」という説を唱えたことだった。この説への対応が正しくなされなかったために、集団接種が任意接種に変更されてしまったのである 。
(中略) そしてその結果はというと、インフルエンザにかかる人が増加し、死亡者も増えてしまったのである。
一方的な解釈で「ワクチンは効かない」とした人の意見を通したために、多くの犠牲者がでてしまった。
ワクチン集団接種中止に関わったすべての関係者の責任は、ひじょうに重い。(中略)
今、インフルエンザ被害を最小に食い止めるためにワクチンが必要不可欠であることに異議を唱える専門家はほとんどいない。
しかし、世界に誇れるシステムであった学童への集団接種は、社会全体のインフルエンザ量を減らすために "子供を利用して" いるという理由から、再開されることはないだろう。(引用終わり)
アメリカのワクチン事情、生ワクチンのことも記されている。アメリカでは 2003 年から (日本でも使われている) 不活化ワクチンに加えて年齢制限はあるが生ワクチンも接種可能となったこと、スーパーで簡単に接種を受けられ、相対的に安価で高齢者は無料であったとのこと。著者は一日も早く日本の子供たちが生ワクチンを接種できることを願っていると記している。
[追記: 2023年3月 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの 2 歳から 19 歳未満に対する使用について、薬事承認された。厚生労働省ページより]
前述のように呼吸器感染症のように外部から病原体が侵入する場合、粘膜の IgA が感染成立を防ぐ役割は大きい。抗原を注射するタイプのワクチンでは IgA 誘導能力は十分高くないのでしばしば感染を防ぐ効果よりも重症化を防ぐ効果が説かれる。新型コロナウイルスの mRNA ワクチンによる実験では IgG, IgA のいずれも誘導されたが IgA の方が早く低下したとのこと。
鼻腔や点眼で投与できるワクチン (上記のようなインフルエンザ生ワクチンや無害なウイルスに遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換えワクチンなど) の方が効果が高いと言われるゆえんである。鳥における鳥インフルエンザワクチンでも点眼、鼻腔で接種できるワクチンの研究が行われているとのこと。
これらの情報は報道記事などを読む時にも役立つかも知れない。
*9: 2024.12.2
FINAL REPORT: COVID Select Concludes 2-Year Investigation, Issues 500+ Page Final Report on Lessons Learned and the Path Forward
が武漢の研究所から漏れた (most likely emerged from a laboratory in Wuhan) とのレポートをホワイトハウスが発表し、Nature に早速反論記事が出ている:
Sick animals suggest COVID pandemic started in Wuhan market (Mallapaty 2024.12.4)。まだ査読されていないがゲノムデータが国際会議で紹介され、武漢の市場の動物間で感染が起きていた証拠が得られているとのこと。
このウイルスに感受性のある動物が武漢の市場にいたことまでは判明していたが、感染していたことはこれまで判明していなかったとのこと。この研究により動物間の感染のミッシングリンクがつながることになった。大部分の科学者は動物起源と考えているとのこと。
Nature にさらに続報があった。Wuhan lab samples hold no close relatives to virus behind COVID (Mallapaty 2024.12.6)
本文の方で紹介の 2020 年 Scientific American の記事と同様だが、Shi Zhengli = 石正麗 は武漢の研究所には最も近縁のウイルスはなかった。まだ査読されていないがゲノムデータを公開した。2004-2021 年にサンプルされたもの。その中にはこれまで知られているウイルスより近縁のものはなかった。
既知のウイルスで最も近縁のものはラオスと中国雲南省のコウモリで見つかったもので、COVID-19 を起こしたウイルス (SARS-CoV-2) との共通祖先は何年か前 (数十年ではないだろうとのこと) に分岐したと考えられる。
Shi Zhengli は長年アメリカの Peter Daszak (EcoHealth Alliance、ニューヨーク市をベースとする非営利団体) と共同研究をしていたが、2024 年 5 月にアメリカ政府はこの団体への資金補助を中断した話も書かれている。
鳥インフルエンザ同様、鳥類・哺乳類に共通するウイルスとしてウエストナイル熱ウイルス (西ナイル熱ウイルス, West Nile Virus, WNV) がよく知られていて、1999 年北米に毒性の高い株がおそらく人為 (イスラエルで分離された株に最も似ていた) によって持ち込まれ惨劇をもたらした (現在も継続している) ことはよく知られている通り。
レビュー論文: Saiz et al. (2021) Pathogenicity and virulence of West Nile virus revisited eight decades after its first isolation。
WNV は温暖化の影響も受けてヨーロッパ (イタリア北部低地やバルカン半島など) で拡大している: Erazo et al. (2024) Contribution of climate change to the spatial expansion of West Nile virus in Europe。
蚊が媒介するため niche modelling は他の生物分布の推定と基本的に同じ。
西ナイル熱ウイルスに近縁のウイルスはよく知られたところでは日本脳炎ウイルスがあるが、他にも西部ウマ脳炎 (Western Equine Encephalitis Virus, WEEV) などもあり、これも感染環は鳥と蚊の間で維持されており、哺乳類にも感染する。日本の感染症法では日本脳炎、ウエストナイル熱同様に4類感染症に分類されている。
WEEV は 1930 年に発見されたウイルスで 1960 年代にはアメリカで多くの患者が出たが近年は見られなくなった。その原因を明らかにした論文が発表された。Li et al. (2024) Shifts in receptors during submergence of an encephalitic arbovirus。
哺乳類受容体への結合能力を失ったが鳥の受容体への結合能力は引き続き持っている。爬虫類にも存在するとのこと。この変化が農業様式の変化で農地のウマが減ったためなどの要因で哺乳類感染の適応度が減少したことによるものか、ウイルス自身の遺伝的浮動によるものかはよくわからないが、再度感染力を持つ株が現れる可能性もあるとのこと。
鳥とは関係がないが、新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) の分子系統解析によって、ヒトからの感染で野生動物に広まっていることが判明。特に 2023 年には顕著。
野生動物側からは自分たちにとって外来病原体を増殖してばらまく困った宿主に見えるだろう: Goldberg et al. (2024) Widespread exposure to SARS-CoV-2 in wildlife communities。
動物のウイルスの広がる速度と系統解析から人為的な動物の移動がどの程度関係しているか調べた研究: Dellicour et al. (2024) How fast are viruses spreading in the wild?
単独粒子のブラウン運動 (この場合は距離的広がりは時間の平方根に比例) を指標するパラメータやどの程度外れているかを定量的に評価。diffusion coefficient (拡散係数) の物理用語が用いられている。
メコン川地域の H5N1 (現在渡り鳥にも定着しているもの以前の株) は中程度に人為的な移動が関わっている。北米の WNV では急速拡大期に "転移" のような遠方への広がりを見せた。
そう言えば H5N1 の初期のロシア進展時の地理的広がりがブラウン運動的でないことから人為がかかわっているのではと議論していたことがあった。
自然免疫に関連してもしかすると関係するかも知れない研究が報告されたので紹介しておく。COVID-19 に免疫を持たないがウイルスに暴露されても発症しない人がある原因を調べた: Lindeboom et al. (2024) Human SARS-CoV-2 challenge uncovers local and systemic response dynamics。
粘膜上皮の繊毛の HLA-DQA2 が感染を防ぐ効果があった。
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ハクガン
- 学名:Anser caerulescens (アンセル カエルレースケーンス) 青みがかったガン (アオハクガンを指していた)
- 属名:anser (m) ガン
- 種小名:caerulescens (adj) 青みがかった (caeruleus (adj) 青い) #カタグロトビの備考参照
- 英名:Snow Goose
- 備考:
anser は#ハイイロガン参照。
caerulescens は後半の2つの e が長母音で前者にアクセントがあると考えられる (カエルレースケーンス)。学名に使われるのみのようで古典式発音は確かでないが文字表記より推定。語形解説は#ワシカモメの備考参照。この形の語尾の読みは長音に統一することにした。
ハクガンには2つの morph があり、blue morph が存在する (wikipedia 英語版より)。英語で blue goose とも呼ばれる (日本語ではアオハクガン)。Linnaeus (1758) による種小名はハドソン湾を基産地とするこの morph を指したもの
(Avibase の情報による。原記載。記載時学名 Anas caerulescens)。
Anser hyperboreus Pallas, 1769 の学名もあり現在はシノニム。
Boie (1822) がこの種のみからなる Chen 属を導入 (ギリシャ語でガンを表す khen, khenos ギリシャ語から "ケーン" の発音と考えられる)。したが後に Anser 属にまとめられた。hyperboreus は "北の"。
この属が使われていた時代には Chen nivalis Foster (または亜種として Chen hyperboreus nivalis) の学名があった。nivalis は "雪の" の意味で、この学名と英名がよく対応している。北米中心に目立つ鳥であったため、学名も北米中心に記載が進んだ模様。
Hartert (1910-1922) p. 1290 を見ると hyperboreus この種で2番めに早い記載のよう。
Hartert の当時は多くの鳥類学者 (Salvadori, Ridgway など) が青っぽいガンを白っぽいハクガンの若鳥に似ているとして "Anser hyperboreus" と一緒にまとめ特別の種として扱い、Anser caerulescens にまとめていたとのこと。
当時は Anser (Chen) hyperboreus の方に大 (nivalis) 小 (hyperboreus) 2亜種を認める見解になっていた。
Hesse は caerulescens は変異型 (Aberration) に過ぎないとして Farbenschlaege (色変わりまたは色の型) と名付けていた。Hartert は "Phase" (相) と呼ぶよりはよい表現と考えていた (Phase は時間とともに変化する意味がある)。両者の中間型もごくまれにあり、オランダの Blaauw の飼育実験の結果 (1915) もこれを裏付けるものだった。
が、caerulescens と hyperboreus が色違いの関係にあるならば、より少ない方のものであっても先に命名された Anser caerulescens に当然先取権があり、その場合は白いハクガンの方が色違いとすら形式上解釈とすることもできるとのこと。
この Hartert の時代に用法が統一された模様。
Linnaeus (1758) が指したものがアオハクガンであったために別のものと考えられ Snow Goose = Chen hyperboreus nivalis として扱われていた模様。種小名の意味と色彩がよく対応しない印象を受けるのはそのため。
白色型のハクガンとは違ってアオハクガンはシベリア東部のみに分布とコンサイス鳥名事典にある。
2亜種あり (IOC)。
日本で記録されるものは基亜種 caerulescens 亜種ハクガン とされる。亜種 atlanticus (大西洋の) オオハクガンは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で検討亜種。絶滅危惧 IA 類 (CR)。IUCN 3.1 LC 種。
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire では当時の慣例によって Anser hyperboreus の学名の方が用いられていた。英名は Snow-Goose となっていた。そのうち小型の亜種 (hyperboreus) と考えられていた。
ちなみに "Fauna Japonica" では短い 記述 で学名は Anser hyperboreus、フランス語名 l'oie de neige ordinale (普通の雪のガン)。Pallas の記載ではシベリアのレナ川やヤナ川に多数生息したがカムチャツカでは非常にまれ、と記述。
志村 (2000) Birder 14(2): 48-51 に 1975-1976 年にかけて伊豆沼に "blue goose" が来ていることが NHK のニュースで放映され訪れられた時期の記事がある。当時の日本の図鑑には記載されておらず、その後一時は図鑑にも載ったがマガンとハクガンの雑種と判定されて (当時の) 図鑑からも消えたとのこと。
最寄りの新田駅の当時の状況も記述されていて、当時の面影の残っていた時代を知っている者にとっては懐かしい。情報を知って訪れてその1羽をよく見つけられたものだと感心する。
1980 年代から「東アジアにおけるハクガン Anser caerulescens の復元計画」が行われた。以下の資料を参照。
ハクガン復元計画資料館・暫定版 (日本雁を保護する会 JAWGP)、
シジュウカラガン・ハクガンの回復・復元計画の経過と課題 (呉地正行)。
ロシアのハクガンの繁殖地はウランゲル島が唯一知られているがそれらは米国に渡る。東アジアの渡り経路はほぼ消滅しているのにカムチャツカで群れが見られた カムチャツカのハクガンの報道 (2020)。家族で移動する習性があるのに親鳥がいないのは不思議だとのこと。
上記日本雁を保護する会の情報によれば 2019 年、2020 年とも日本の越冬個体群が多く、繁殖が順調な年は幼鳥率も高いとのこと。繁殖成功率が高い年は、幼鳥だけの群れでさまよって、これまであまり見られなかった地域に出ることがよくあるとのこと [故シロエチコフスキー氏による。澤祐介氏 kbird:05134 (2022.7.15) からの情報による]。
サハリンと千島の記事 (2020)
サハリンや千島での目撃例が増えているとある。Andrej Zdorikov が話を説明しており、保護区ができてから個体数が増えて、カムチャツカでは RDB にも記載された。
今年はサハリンや千島でハクガンだけの群れが見られるようになって、大陸の個体群の復活を意味するとある。
国後島で初のハクガンの群れの渡来 (2019)。
ロシア極北のガンはどこへ飛ぶ の記事 (2018) もあり、過去からの変遷や標識方法、繁殖地 (ヨーロッパ方面も含む) の写真などが出ている。いずれも機械翻訳で問題なく読めるだろう。
ハクガンのロシアでの分布はごく限られているので、我々が想像するほどロシアの人に身近な種類ではないようである。Dement'ev and Gladkov (1952) にも含まれていなかった。
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ミカドガン
- 学名:Anser canagicus (アンセル カナギクス) カナガ島のガン
- 属名:anser (m) ガン
- 種小名:canagicus アラスカのアリューシャン列島 Canaga 島/Kyktak 島/Kanaga (アリュート語)島 から。アラスカのエスキモーは自身を Kanagiamoot (Kanag の住民) と呼ぶとのこと (The Key to Scientific Names)
- 英名:Emperor Goose
- 備考:
anser は#ハイイロガン参照。
canagicus はすべて短母音としてラテン語読みならば "カナギクス" と推定される。
原記載 (Sevastianov 1802) で、Billings がカナガ島で発見し、自身のカタログで Anas Canagica の名称を与えていたとのこと。現在の英名を示唆する記述は特に出てこない。
Brandt (1836) Note sur l'Anser canadensis... (シジュウカラガンの記載文献) にも言及がある。
過去に記述された Painted Goose (Latham) とそれに由来する Anser pictus Pallas, 1811 (参考。Anas Canagica のシノニムとの記述あり) もあって Anser canagicus の名称をここでは新規に与える形になっている。
和名は英名由来? ロシア語やウクライナ語名は白い首のガンの意味。分布地でない地域の言語では多くが "皇帝のガン" に相当する名前となっているので英名由来が多いと思われる。
単形種。カナガ島はタイプ標本の産地。
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シジュウカラガン
- 学名:Branta hutchinsii (ブランタ フトゥキンスィイ) ハッチンスの黒いガン
- 属名:branta 古ノルド語 Brandgas (焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの (#コクガンの備考も参照)
- 種小名:hutchinsii (属) ハッチンス (Thomas Hutchins 英国の外科医) の (ラテン語化 -iusを属格化)
- 英名:[Canada Goose 分離前の名称], IOC: Cackling Goose
- 備考:
branta は外来語由来で発音はよくわからないが短母音と考えれば日本語の通常の読み通り "ブランタ" と推定される。
hutchinsii はラテン語的読み方では "フトゥキンスィイ" と推定される。"ハッチンス" の音とはだいぶ違うが、英語の母音の発音の方が特異なためでここではラテン語的読みを採用しておく。
分離前の種小名だった canadensis は "カナデンシス" または "カナデーンシス"。
亜種名の leucopareia はギリシャ語からの合成語で発音は明確でないが、pareion の e が長母音のためここを長母音とするとアクセント的にも都合がよい (レウコパレーイア)。
4亜種が認められている (IOC)。
日本で認められる亜種は leucopareia (leukos 白い pareion ほお Gk) 亜種シジュウカラガン と minima (最小の) ヒメシュジュウカラガン、及び亜種不明とされる。
亜種 taverneri (カナダの鳥類学者 Percy Algernon Taverner に由来) アラスカシジュウカラガン (チュウシジュウカラガン) が検討亜種に含まれている。
かつてはカナダガン Branta canadensis 英名 Canada Goose と同種とされ、(外来種を含む) 現在のカナダガンを指してシジュウカラガンと呼ばれていた (またはその逆) ために混乱があった。現在の分類でのカナダガンには7亜種が認められている (IOC)。
ガン類の分子系統分類については#ヒシクイの備考参照。Branta canadensis と Branta hutchinsii は結構離れている。
かつてはカナダガンとシジュウカラガンが同種とされていて、記録のあるシジュウカラガンの名称が現在のカナダガンも指す種名和名として使われており、外来種で飼育されるカナダガンもシジュウカラガンと呼ばれたなどいろいろな誤解も発生していた。種和名に日本で記録のある亜種和名を優先するかどうかの問題だった [参考: 渡辺 (2006) Birder 20(11): 59]。
カナダガンの和名は地域を指したものとも言えるが英名や旧学名の Anser canadensis 由来でそのまま訳したと考えられる。というのも現在の Antigone canadensis 旧学名で Grus canadensis もそのまま訳せばカナダヅルになるため。アメリカ合衆国にも分布するため英語では Sandhill Crane。
先崎 (2019) Birder 33(11): 46-49 にあるシジュウカラガンとカナダガンの分類を紹介しておく。
出典は Reeber (2015) "Waterfowl of North America, Europe and Asia" とのこと。
種シジュウカラガン Branta hutchinsii
亜種シジュウカラガン B. h. leucopareia
ヒメシュジュウカラガン B. h. minima
アラスカシジュウカラガン B. h. taverneri (検討亜種)
(基亜種) B. h. hutchinsii (国内未記録)
種カナダガン Branta canadensis
チュウカナダガン B. c. parvipes (検討亜種)
オオカナダガン B. c. moffitti (外来種)
亜種カナダガン B. c. canadensis (国内未記録)
ナイチカナダガン B. c. interior (国内未記録)
オニカナダガン B. c. maxima (国内未記録)
クロカナダガン B. c. occidentalis (国内未記録)
オオクロカナダガン B. c. fulva (国内未記録)
亜種シジュウカラガンは種 Anser leucopareius Brandt, 1836 (原記載) 基産地 Unalaska, Aleutian Islands として記載されたもの。
基亜種は Anser Hutchinsii Richardson, 1832 (原記載) 基産地 Melville Peninsula。
シジュウカラガンはかつて千島列島からアリューシャン列島で繁殖していたが 20 世紀初頭、毛皮目的でアカギツネやホッキョクギツネが繁殖地の島々に持ち込まれ激減した。更に渡りの途中や越冬地での狩猟圧も加わって、個体数は急激に減った。1938-1962 年まで観察記録が途絶え、絶滅したと考えられた。
1963 年にアリューシャン列島のバルディール島で偶然再発見され、保護活動が開始された (雁の里親友の会)。日本雁を保護する会と八木山動物公園・米国魚類野生生物局による保護計画が開始され、米国魚類野生生物局から譲渡された個体を八木山動物公園で飼育下繁殖させる試みが進められた (wikipedia 日本語版、呉地正行) が渡りの復元には至らなかった。
その後、日米露3国のプロジェクトとしてロシアのカムチャツカのゲラシモフ夫妻が飼育下繁殖させ、1995 年千島列島エカルマ島での放鳥を開始して現在の東アジアの渡りの復活につながっている。それ以前は亜種 minima ヒメシュジュウカラガンとともに迷鳥であった。
呉地正行・須川恒編「シジュウカラガン物語」(京都通信社 2021) で詳細を読むことができる。ゲラシモフ夫妻による (夫人は亡くなられた)
「ガンとともに 20 年」(ロシア語) に当時ロシアの厳しい状況や飼育の詳細、主にロシア側から見たシジュウカラガン復活プロジェクトなどが記されて公開されている。映像も多数含まれている。
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire では学名 Anser hutchinsii 英名 Hutchins' Bernacle Goose となっている。Blakiston and Pryer の時点では千島列島で繁殖していて東京湾の標本もあった。
英名の括弧内はカナダガンと分離される前の名前。ロシア語ではコクガン属のガンを kazarka、他を gus' と区別して呼んでいる。
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コクガン
- 学名:Branta bernicla (ブランタ ベルニクラ) エボシ貝から生まれた黒いガン
- 属名:branta 古ノルド語 Brandgas (焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの
- 種小名:bernicla (合) 伝説、エボシ貝から生まれた (barnacle エボシガイ 英)
- 英名:Brant Goose
- 備考:
bernicla は外来語由来で発音が明確でないが、規則からは冒頭がアクセント考えられる (ベルニクラ)。英語の barnacle も冒頭アクセントなので対応はよい。
3亜種あり (IOC)。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版以降では亜種名は orientalis (東洋の) から nigricans (黒っぽい) に変更されている。
カオジロガン Branta leucopsis (英名 Barnacle goose) とコクガンは長く区別されていなかった。エボシ貝から生まれた伝説は 12 世紀まで遡り、John Gerard は貝から生まれるのを目撃したと伝えている。伝説は 18 世紀まで続いた (The Key to Scientific Names)。
コクガンの和名は外観から直接付いたとも考えられ、現在の学名の意味するものと大筋で合っているが、Anser nigricans Lawrence, 1846 の学名も使われていた [Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" ではこの学名] ので当時の学名とも整合性を取っていたかも知れない。
この学名はよく知られていたそうだが何を指していたか議論があったらしい。Delacour and Zimmer (1952) The Identity of Anser nigricans Lawrence 1846 の検討により亜種と認められた。
亜種 orientalis (Tougarinov 1941) もこの文献では亜種として使われていたが現在の IOC では使われていない。nigricans と同じものを指しているとすればこちらの方が先行になり、現在はシノニム扱いのよう。
Dement'ev and Gladkov (1952) ではそれぞれ別亜種としており、太平洋の東西で別亜種と考えていた。
ガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) (#ヒシクイの備考参照) を参照。
現在どちらも Branta 属 (コクガン属) であるが、黒っぽいコクガンの亜種グループとカナダガンのグループはそれなりによく分離した系統で分岐年代もコクガンとそれ以外が 670 万年前、アオガン Branta ruficollis 英名 Red-breasted Goose (日本鳥類目録改訂第8版で掲載) とカナダガンのグループとの分岐年代が 580 万年前と見積もられている。
同じコクガン属であってもコクガンとカナダガンとはかなり系統が違っていることは意識しておいてよいだろう。ハワイガン Branta sandvicensis 英名および現地名 Nene (英名別名 Hawaiian goose) はこのうちカナダガンの方のグループで、初期に分化した種類と考えられる。野生での観察がなかなか難しいと言われるが至近で見た経験があるのがちょっとした自慢である (ハワイ島)。
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コブハクチョウ
- 学名:Cygnus olor (キュグヌス オロル) 白鳥
- 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
- 種小名:olor (m) 白鳥
- 英名:Mute Swan
- 備考:
cygnus は#オオハクチョウ参照。
olor は短母音のみで語末は伸ばさない (オロル)。
kuknos 白鳥 (Gk)。ギリシャ神話で Cycnus の名を持つ少なくとも3人が白鳥に変えられた。単形種。英名は他のハクチョウ類に比べて静かなの意味で、鳴かないわけではない。ヨーロッパや中央アジアに主に分布するがユーラシア東部にも離散した分布域がある。世界の他地域で移入種となっている。
系統的に最も近いのはオーストラリアのコクチョウ Cygnus atratus 英名 Black Swan と南米のクロエリハクチョウ Cygnus melancoryphus 英名 Black-necked Swan。少なくとも前者は世界の他地域にも移入されている。
種小名の olor はインド・ヨーロッパ祖語の *hiel- (水鳥の一種) に由来とのこと。古ノルド語 alka (後の auk) とも同根とのこと (wkitionary)。ラテン語では主にハクチョウの詩的な表現で使われるとのこと。olor には英語 odor に対応する語義がある (スペイン語の olor はこちらの意味) が語源が別とのこと。
コブハクチョウは飛翔時に強い音を出す。これは夜間飛行の際の衝突を防ぐ効果があるとも言われる。
リヒャルト・ワーグナー作曲の「ニーベルングの指環」の第1幕の有名な「ワルキューレ」(Die Walkuere, Valkyries。皆もが聞いたことのある音楽だろう) はコブハクチョウの飛翔時の音に着想を得たとのこと [Peter Young "Swan" Reaktion (2008)]。
英語の swan の語源は遡るとサンスクリット語 svanos で音を意味するとのこと (同上)。
近年になって絶滅した "swan" と呼ばれる鳥にモーリシャスの Mascarene Swan と呼ばれるものがある。現在はツクシガモに近い仲間と考えられ Alopochen mauritiana Mauritius Sheldgoose と呼ばれる。最後の目撃は 1668 年モーリシャス島、1670 年レユニオン島とされる。外来種や生息環境の破壊が原因とされる。
ニュージーランドにも New Zealand Swan Cygnus sumnerensis が生息しており、こちらは Cygnus属で一時期はコクチョウのニュージーランド亜種と考えられていたが遺物の遺伝情報解析で別種となった
[Rawlence et al. (2017) Ancient DNA and morphometric analysis reveal extinction and replacement of New Zealand's unique black swans]。
Alice Klein Mysterious mega-swan once waddled through New Zealand (New Scientist 2017)。
最後の個体群がチャタム島に生息していたが人が住むようになって 1650 年絶滅とのこと。
コクチョウよりもさらに大型でマオリ名では pouwa と呼ばれていた (wikipedia 英語版)。
black swan theory ブラック・スワン理論というのは、「ありえなくて起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合、「予測できない」、「非常に強い衝撃を与える」という理論とのことである。
ヨーロッパでは白鳥は白い鳥だけと思われていたが、1697 年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたとのこと (wikipedia 日本語版)。チャイコフスキーの「白鳥の湖」では黒鳥のオディールが出てきて、このバレエの見せ場の一つとなっているが、年代を考えるとチャイコフスキーは黒鳥のことは知っていたのだろうか。
コクチョウを黒くする遺伝子がごく最近同定された。Karawita et al. (2023) The swan genome and transcriptome, it is not all black and white。
これによれば SLC45A2 という遺伝子の違いがコクチョウを黒くすることを決めているとのこと。
[鳥類の頸椎]
鳥類の頸椎が多いことはよく知られていて、11 (下の値は出典によって異なる) から 25 個と呪文のように覚えている人もあるだろう。最大値の 25 個はなぜか出典による違いはなく、しかも丁寧に「ハクチョウ(類)」と添えてあることがある (この原稿の執筆中に専門家の文章でタンチョウの頸椎が 25 個と書いてあるのを見つけてしまった。ハクチョウをタンチョウと書き間違えてしまったのかも知れないが、「首の長い鳥は 25 個」は案外広まっている誤解なのかも知れない)。
鳥類豆知識の好きな方にとってはこれは格好の題材で、ハクチョウ類を見てこのように説明されている方もあるだろう。実際はどうなのだろうかと調べてみたことがあるが、鳥類の頸椎数をまとめて表にしたような文献はなかなか見当たらず (科や目ぐらいの分類群ぐらいでは載っている本がある)、水鳥については Woolfenden (1961) Postcranial morphology of the waterfowl にまとまっている。
自分が調べた範囲では、ハクチョウ類で頸椎数 25 個はコクチョウとコブハクチョウの一部 (24-25 個とある) だけで、間違いなく 25 個と言ってよさそうなのはコクチョウのみのようである。つまりに日本で普通に越冬する種類としてみかけるものは 25 個と言ってはいけない。
コハクチョウは 22-23 個、オオハクチョウは 24 個とのことである。それぞれ識別点にもなるぐらいでハクチョウ類(およびカモ類)では首の長さと頸椎数がよく相関していることがわかる。コブハクチョウやコクチョウはたまには野外で、また飼育されているものも多いので見る機会も多いだろう。コクチョウは日本のハクチョウ類に比べて一段と首が長いことがわかる。
これだけでも普段の観察時に「マニアック知識」として役立ちそうだが、では他の首が長い鳥はどうなっているのか気になる方もあるだろう。別の出典ではフラミンゴは 19 個、ヘビウ 20 個などとある。首が長いサギ類 (Ardeae) は 19-20 個となっている (出典により多少異なり、後に出てくる Boehmer et al. の部分も参照)。
ハクチョウ類は数で勝負、フラミンゴは骨を長くする戦略になっていることが読み取れる (なぜそうなっているのかは知らないが)。
ただし鳥類の頸椎数は「ヒトの頸椎は7個」のように単純に割り切れない部分もある。鳥類の頸椎下部には頸肋(骨) (cervical rib) が存在し、どこまでが頸椎でどこからが胸椎とするかは資料によって異なる。ここで用いた数字は肋骨が前方で完全に癒合するところからを胸椎とする数え方によっているが、頸肋骨のある脊椎を胸椎に数える著者もある。
この場合数が約2個異なる。13(2) 個のような書き方は括弧内が頸肋骨のある脊椎の数を意味する。前者の数え方ではこの場合は 15 個になる。「フクロウの首の骨はいくつ?」と聞かれても明瞭に答えにくいのはこういう事情もある (なおフクロウの首の骨が鳥類の中で多いわけではない。後の Boehmer et al. や #フクロウの備考参照)。
タンチョウとナベヅルの研究例があるので参考までに Hiraga et al. (2014) Vertebral Formula in Red-Crowned Crane (Grus japonensis) and Hooded Crane (Grus monacha)。
タンチョウ、ナベヅルともに 17 個が基本のようだが 18 個の個体もあるとのこと (この文献に他の種類の文献が出ているので必要な方は調べられるかも)。この数字は記述からはおそらく頸肋骨のある骨の数も含めていると想われるが、引用されている文献は必ずしもそうでなさそうである。
鳥類の頸椎は頸椎数はまだともかく、長さの測定値があまりないようである。首の長さは生態や重心などを決める因子として大きく関係があるはずで、データベースがあればよいのだがどうもなさそうである (研究者も分析因子として使えないので困っている模様。
後の Boehmer et al. を参照して脚の長さで代用されることもあるがこれはちょっと...と感じる)。これは四肢の骨のような測定が難しいことと、真面目に調べようとすると多数の頸椎を測定して足し合わせる (化石生物だとこのようにするしかないが、軟骨や、哺乳類だと椎間板の厚みをどう評価するかなど一筋縄では行かないようである) ことが必要になって研究者があまり取り組みたくないテーマだろうことが背景にあることは想像できる。
3次元 CT を使えば多少は問題が緩和されることになるかも知れないが、調べられているのは少数に限られるようである。
近年個々の頸椎を真面目に測定して足し合わせた論文 (上記のように軟骨が含まれないので生体ではもう少し長くなるはず) がある。Boehmer et al. (2019) Correlated evolution of neck length and leg length in birds で、詳しくはご覧いただきたい。
この文献は頸肋骨のある骨は数えていないので個数は上記のような数字より約2個少なくなっている (そのため最大 23 個になっている)。103 種を調べた結果では鳥類の頸椎数は 10-23 個 (頸肋骨のある骨も数えると多分2増える) で、両端はごく少数で 11-19 個が一般的な範囲のようである (この文献はオウム類を多数調べているので数の少ない種類が多く、頻度分布はあまり参考にならない)。
鳥類の頸椎は進化にも関連して近年興味を持たれているテーマのようで、Marek and Felice (2023) The neck as a keystone structure in avian macroevolution and mosaicism の3次元 CT を使った論文が出ている (調べられた種類はまだ少ないようだが)。#クロハゲワシの備考も参照。
鳥類の環境への適応として頭部や翼の形状が重要なのは簡単にわかるが、それだけでは不十分で、頭部、首、翼を一体として捉える必要があるとのことである。頸椎の形態の進化速度も議論されていて、大きなグループの分岐点では進化も早いことが示されている。
水鳥はかなりよく調べられていて、#リュウキュウガモの備考で現代的な分子系統樹に基づく考察を行ってみた。
鳥類の頸椎数はこのように種類によって異なり、哺乳類では一部の例外を除いて7個であることもよく知られている。問題はむしろ哺乳類の頸椎がなぜそれほど厳格に7個に定まっているのかと言うこともできるだろう。これは哺乳類には横隔膜があるため、という説がある Buchholtz et al. (2012) Fixed cervical count and the origin of the mammalian diaphragm。
もしこの説が正しいならば、鳥類は優れた気のう (air sacs) システムがあるため横隔膜が必要ないところにまで由来を遡ることができることになる。
哺乳類は鳥類に比べて「呼吸器システムの初期設計を誤った」とも言われることがある通りで、インドガンのような高所活動はとてもできない (#インドガンの備考にあるようにそれ以外にも低酸素環境に対応できる哺乳類と異なる生理機構がある)。
鳥類の呼吸器システムの基本設計はさらに頸椎数の自由度を通じて多様な環境に適応できる一要因ともなっているのかも知れない。
広い分類群において長い首は何のために進化したかを統一的に説明しようとしたレビュー: Wilkinson and Ruxton (2012) Understanding selection for long necks in different taxa
鳥類現世種ではおおむね採食行動に関係しているとされるが、水鳥やダチョウでは高さを増すためにまず足の長さを増したがそれに伴って首も長くなったとの解釈。魚食の鳥では逃げるのが速い獲物を捉えるための加速度を得る機構として進化したと考えられる (#カワウの備考 [ウの視力] とも整合する)。ハクチョウ類やハゲワシ類では食物に届くのに役立っている。
ガン類はこれでは説明できず遠くを監視する役割の方が大きそうだが、低い位置を採食する行動においてエネルギー的に有利かも知れない (草食恐竜などになされる説明と同様)。
首の長いハトの品種とキリンに関係して #ハチクマの備考 [フィリピンのハチクマの不思議] でも少し取り上げている (一度まとめたため記述が少し分散している。ハクチョウ類やガン類の話が含まれるためこちらに一部分離した)。
キリンの首では現在も性選択の論争が続いている。かつては恐竜でも性選択説も提唱されていたらしいがさすがに反論が多い模様。
[鳥類の形態データベース]
なお、近年の鳥類の形態データベースとして AVONET があり 11009 種、90020 個体の測定値が含まれているとのこと [Toblas et al. (2022) AVONET: morphological, ecological and geographical data for all birds]。これには頸椎の情報は含まれていない。
このデータベースは R のパッケージとして公開されており、生物学者の基本言語が圧倒的に R であることも感じさせる。このデータをダウンロードし、少し R で作図をすれば自分の興味ある分類群の生態と形態 (例えば脚の長さ)との関係などを手軽にプロットして楽しむことができる (#ハイタカの備考参照)。興味ある方は試していただきたい。
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ナキハクチョウ
- 学名:Cygnus buccinator (キュグヌス ブクキナートル) ラッパ手の白鳥
- 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
- 種小名:buccinator (m) 頬筋、bucinator (m) ラッパ手
- 英名:Trumpeter Swan
- 備考:
cygnus は#オオハクチョウ参照。
buccinator は a が長母音でアクセントもここにある (ブクキナートル)。
英語にも同じ綴りの単語があり、アクセントは冒頭で a は2重母音で発音するなど全体の音はだいぶ違う。
単形種。オオハクチョウの亜種とされたこともあった。
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コハクチョウ
- 学名:Cygnus columbianus (キュグヌス コルムビアーヌス) コロンビア川の白鳥
- 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
- 種小名:columbianus (adj) コロンビア川の (-anus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:(Whistling Swan これは通常アメリカコハクチョウを指す英名)。コハクチョウは Tundra Swan または Bewick's Swan が適切と思われる。IOC: Tundra Swan
- 備考:
cygnus は#オオハクチョウ参照。
columbianus は a が長母音でアクセントもここにある (コルムビアーヌス)。接尾辞 -anus の一般的読み方。
2亜種とされる。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では2亜種が記載されていた。
jankowskyi (jankowskii の綴りも使われる) ポーランドからシベリアに流刑され刑期を終えて居住した博物学者 Michal Jankowski に由来。Michal の最後の l は斜め棒が入るが、ポーランド語では英語の "w" に相当する発音になる。ポーランド語の w は [v] の発音になる。
ロシア綴りでは Mikhail Ivanovich Yankovskij となるが姓の部分の発音は同じ。
Jankowski の名前は極東地域の鳥類や他の分類群にもしばしば現れるので知っておくとよい。「ヤンコフスキー家の人々」(遠藤公男 講談社 2007) がある。コハクチョウと
columbianus アメリカコハクチョウであるが、パブリックコメントにて前者は bewickii (英国木版画師 Thomas Bewick に由来) であるべきと指摘された。
多くのリストでは jankowskyi を bewickii のシノニムとしており、これが採用される見通し。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でそうなっている。C. c. jankowskii を用いて、他亜種との遺伝的違いを調べている論文はある
[Wang et al. (2014) Complete mitochondrial genome of Tundra swan Cygnus columbianus jankowskii (Anseriformes: Anatidae)] が、亜種の妥当性を議論したものではなく、種小名の選択も適切でないように思える。
C. columbianus と C. bewickii を別種とするリストもあった。
現在の世界のリストでは同種として扱われるようになった。
2種を認め、亜種 jankowskyi を認める場合は、Dement'ev and Gladkov (1952) に示されているように C. bewickii の亜種とする扱いが適切と思われる。論文にはいずれの表記も現れる。
2種を他の北極のハクチョウ類とともに亜属 Olor として扱う考えもある。
Kbird にて須川恒氏より尾崎清明さんからの情報としてロシアのガンカモ類渡りのアトラス (英文) が紹介された:
Kharitonov et al. (2024) Migration Atlas of European species of palearctic Anatidae with the
population outline (from the data of the Bird Ringing Centre of Russia)
Peter Young "Swan" Reaktion (2008) ではハクチョウ飛来地で3月に旅立ち前の催しが開催されるとして下田公園・間木堤 (八戸北丘陵下田公園) が紹介されているが東京の南西と書いてあって何か誤解されているようである。実際は青森県。
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オオハクチョウ
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ツクシガモ
- 学名:Tadorna tadorna (タドルナ タドルナ) ツクシガモ
- 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorne ツクシガモ 仏)
- 種小名:tadorna (トートニム)
- 英名:Common Shelduck
- 備考:
tadorna は外来語由来で発音はよくわからないがアクセント位置は -dor- と考えられる。すべて短母音とすれば日本語の自然な読みと同様 "タドルナ"。この単語の存在するポルトガル語でも同じ発音になっている。
記載時学名 Anas Tadorna Linnaeus, 1758 (原記載)。
Boie (1822) が種小名を属に昇格し、ツクシガモは Tadorna familiaris とした (馴染みのツクシガモの意味) これは種小名から属名に昇格する場合の当時の用法と想像できる (#ノスリの備考参照)。
tadorne ツクシガモ (仏) の語源はケルト語で白黒の水鳥、英語の shelduck < sheld (染め分けた) duck とほぼ同意義。単形種。
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アカツクシガモ
- 学名:Tadorna ferruginea (タドルナ フェルルーギネア) 鉄錆色のツクシガモ
- 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorne ツクシガモ 仏)
- 種小名:ferruginea (adj) 鉄錆色の (ferrugineus)
- 英名:Ruddy Shelduck
- 備考:
tadorna は#ツクシガモ参照。
ferruginea は u が長母音でアクセントもここにある (フェルルーギネア)。-rr- を単音とする発音もあるが u が長母音でアクセントがある点は変わらない (フェルーギネア)。
主に中央アジアを中心に繁殖する種。アジアのものは冬はアジア南部に渡る。アフリカの一部に留鳥の孤立個体群が存在。単形種。
Anas rutila Pallas, 1770 (参考) の名称も色彩をよく表していて Temminck and Schegel の Fauna Japonica でもこの学名で登場する。
Pallas (1764) の記載の方が早く ferruginea の方が使われるようになった。
#カンムリツクシガモの標本の記述で気づいたが、Tadorna casarca または Casarca casarca の学名が使われていた時代があった。
これは Anas casarca Linnaeus, 1768 で用いられた学名で、
Anas ferruginea Pallas, 1764 Vroeg's Cat. Adumbr. で無記名で記載した学名 (参考) の方が早かったためこちらが採用されるようになった。
casarca はロシア語由来で小型のガン (シジュウカラガン) やツクシガモ類を指す kazarka から。タタール語の karakchas (黒いカモ) に由来するとのこと。この種小名を昇格した属名 Casarca も使われていたことがあった (The Key to Scientific Names)。
#カンムリツクシガモに登場する Nowak (1983) もドイツ名 Kazarka と呼んでおり、現在でもいくつかの言語に残っている (イタリア語やオランダ語 Casarca など)。ロシア名は ogar' (obgorat' 焼ける) と色に由来、ドイツ名は Rostgans, Rostkasarka で赤いガンのような名前になっている。
Kolyada et al. (2016) は kazarka の語源ははっきりしないとある。こちらではロシア語でコントラストのはっきりした小型のガン類一般を指すと記述。ポーランド語では kazarka はアカツクシガモを指すとのこと。Dement'ev and Gladkov (1952) のアカツクシガモの別名にも kazarka は現れないので本家とされるロシア語ではアカツクシガモに対して使われていなかったのかも。
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カンムリツクシガモ
- 学名:Tadorna cristata (タドルナ クリスタータ) 冠のあるツクシガモ
- 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorne ツクシガモ 仏)
- 種小名:cristata (adj) 冠がある (crista (f) 冠 -atus (接尾辞) 〜備わっている)
- 英名:Crested Shelduck
- 備考:
tadorna は#ツクシガモ参照。
cristata は最初の a が長母音でアクセントもある (クリスタータ)。
過去にも目撃回数が少ないが、かつては韓国から日本に輸出され、複数の写生画に登場する。
柿澤・菅原 (1989) 江戸時代の写生図にみられる絶滅鳥カンムリツクシガモ Tadorna cristata (Kuroda) などもっと広範に生息していたと考えられる。
1916 年に韓国で撃たれた以来世界的に記録がなく一度は絶滅が宣言された。1943 年に韓国中部で目撃事例があり、1964 年にウラジオストク近郊のリムスキー-コルサコフ列島でシノリガモの小さな群れの中にメス2羽、オス1羽が目撃された。
1971 年に北朝鮮の北岸、1985 年にロシア東部で2羽の目撃例があるが、1971 年の記録は信頼性が低いとされる。その後も散発的な可能性のある記録があるが、いずれも未確認。もし種が生存していても個体数は 50 羽以下であろうとの見積もりがある (以上 wikipedia 英語版より抜粋。情報の多くは BirdLife International 由来)。
IUCN 3.1 で CR 種、絶滅した可能性があるとされる。環境省レッドリストでは絶滅種。単形種。
世界に3点しかない絶滅鳥 - カンムリツクシガモ (ガンカモ目ガンカモ科) - (山階鳥類研究所の解説)。
[記載と歴史について]
Crested Shelduck (1890) で 1877 年ウラジオストク近郊で採集され、Philip Lutley Sclater (1829-1913) がアカツクシガモとヨシガモの雑種と考えてラベルを付けた標本を含めた世界で3体の標本を見ることができる。
Sclater (1890) の標本写真は 図版 およびその次ページから解説を見ることができる。
Nowak (1983) Die Schopfkasarka, Tadorna cristata (Kuroda 1917) - eine vom Aussterben bedrohte Tierart (Wissensstand und Vorschlaege zum Schutz) に年を追った詳しい歴史が紹介されている。
世界的な歴史についてはこの文献が最も詳しいものではないだろうか。
Nowak (1983) によれば Sclater はそれまでにも多数の新種を命名してきたが、"種は不変" の概念の擁護者として晩年には新しい種を認めることに慎重であったとのこと。
ちょうど進化思想 (「種の起源」の発表が 1859 年) が興隆してきたころで亜種の概念を用いた三名法の流れもあったが、Sclater は保守的な分類学者でこれらの動きには反対していたとのこと。
彼の立場では新種と記載するには良質の十分な研究に基づいた確実な証拠が必要で、それには不十分でああった。"型" や "亜種" のような憶測を排する彼の考えでは雑種と記載するほかなかったと Nowak (1983) が推論している。
Sclater が新しい考えを取り入れてもし亜種名を与えていれば第一標本の記載が先取権を持っていたことになる。
日本から新種を記載できたことは当時の進化思想の興隆に逆らう慎重で保守的なヨーロッパの分類学者の考えにも助けられていたらしい。黒田長礼氏が Sclater の判断をどのようにとらえていたかは以下の Kuroda (1924) に見ることができる。
黒田 (1889-1978) 氏は Nowak (1983) の推論を目にすることなく世を去っている。
黒田氏の記載論文では Pseudotadorna cristata Kuroda, 1917 の学名で On one new Genus and three new Species of Birds from Corea and Tsushima が原記載。
1916年12月に採集されたメス1羽による記載。
Nowak (1983) では 1916年3月に朝鮮半島北西沿岸で Akagawa (赤川) という猟師が6羽の群れを見て3羽を捕獲した。過去にこのような鳥を見たことがないと黒田に伝え、記述から黒田はカンムリツクシガモだったと結論したが、獲物は科学者の手に渡ることはなかったと記述されている。
この件はさまざまに記述されているが、黒田から Dement'ev への私信によれば残念なことにその標本は残っていない (Dement'ev and Gladkov 1952) とある。Nowak (1983) はロシアの研究者にも情報が正しく届いていなかったと推定している。
この件について黒田氏の直接の言及 (日本語) は以下の Kuroda (1924) pp. 179-180 にある。異形の海鴨とあり色彩をどのように判定したかなどは原文を参照。当時は珍しいものがあればまず採集の時代であったらしく、海岸にいた6羽の群れから2羽を撃ちとり、海に逃げて戻ってきたもう1羽を撃ったとのこと。
Kuroda (1917) のこの論文で新属も提唱された。当時は Sclater はすでに世を去っており、以下の議論には関与していない。新種ではなく雑種とした理由は Sclater 本人から確かめることはできず推論に頼るしかない。
Hartert (1920) に Kuroda (1917) の論文をもとに解説があるが、項目にも使われている Pseudotadorna cornuta Kuroda は間違いとのこと (The Key to Scientific Names)。
1877 年標本のことも触れられ雑種にかかわる議論もなされている。
ヨーロッパでは過去にカモ類雑種に新たな学名を付けた例がいくつもあり慎重だったようで、1920 年代に独立種か雑種かの議論がなされていた。
Nowak (1983) を見てヨーロッパでは分類学の歴史が長く、怪しいものは証拠が出るまではまず疑う姿勢があったのではないかと感じた。すでに標本が存在していたことを知らなかった黒田氏にとっても世界のこの反応は予想外だったのではないだろうか。当時 Hartart が Sclater の報告を見て黒田氏に送られた手紙の内容は柿澤・菅原 (1989) で紹介されている。
1924 年に黒田がもう1個体の標本を記述 On a third Specimen of rare Pscuidotadorna cristata Kuroda。ここまでの3体が現在残る全て。
1940 年にかけて日本から過去の写生画なども発表され、世界でも独立種と認められるようになり、世界の水鳥の権威 Franzose Jean Delacour と Peter Scott が 1954 年の書物 "The waterfowl of the world. Vol. 1" に種として掲載したとのこと。
しかしその間、その後も種に値するか、あるいは分類学的な位置の議論は数多く行われていた。現在考えられているほど自明ではない時代が長く続いていた模様。
Dement'ev and Gladkov (1952) では種の扱いとしていた。
Nowak (1983) が述べている最後の確実な目撃記録とされるものは Labzyuk (1972, 2017 再掲) The crested shelduck Tadorna cristata in the southern Primorye (pp. 133-135) で読むことができる。1964.5.16 のこと。
飛び立つ時の様子や色彩などかなり詳しい記述が残っている。1964, 1967 年に再度調査したが見つからなかったとのこと。
沿海地方でカモに詳しい猟師などにもアンケートを行ったが確認につながる結果は得られなかった。著者は図版を見てこの種に違いないと確証するに至ったとのこと。記述内容を訳したものが Nowak (1983) に含まれている。
このように見るとほとんどの記録が朝鮮半島など国外で、日本での写生も基本的に朝鮮半島から持ち込まれたもの。日本産鳥類と言えるのかと感じるが、1822年10月に函館市亀田で捕獲された雌雄の写生画に基づくとのこと。この写生画が現存する日本唯一の記録とのこと。
「鳥学の100年」(井田徹治著、日本鳥学会、山階鳥類研究所協力 2012) p. 109 によれば色彩図「鳥之種類」の小冊子に収められていたことが 1939 年に判明したとのこと。Nowak (1983) の図 11 の8の点にあたる。
論文は Kuroda (1940) An Old Record for a Pair of Pseudotadorna cristata obtained near Hakodate (カンムリツクシガモ函館にて捕獲の古記録)。
Nowak (1983) は信頼に値する記録と判定しており、場所も特定されて実際に観察された (リアルタイムではないが) 世界初の記録と位置づけている。その次が 1877 年採集された標本。
この小冊子が見つかっていなければ日本人が命名した鳥であったが日本産とは認められなかったであろうことになる。
Nowak (1983) は遺存種と考え、人為開発の著しい地域で残っていたことは奇跡的であった捉え方になっている。wikipedia 英語版では (おそらく) 絶滅したとされる要因に Beacham and World Wildlife Fund (1997) を引いて生息地の減少、狩猟の他に overcollection も挙げている。
他種でもしばしばあったように絶滅に近づいた鳥を学術的に確実な標本に残すために鳥類学者が奮闘した結果が絶滅の一つの要因になり得ただろう状況をここにも見ることができる。
石井 (2018) Birder 32(8): 34-35 によれば江戸時代中期にはオシドリとカンムリツクシガモの認識は錯綜していて、オシドリとカンムリツクシガモの特徴を併せ持つ絵などがあるとのこと。
Rutt et al. (2024) Global gaps in citizen-science data reveal the world's "lost" birds 過去 10 年以上記録のない種類のリスト。144 種が該当していたが調査開始で 126 種まで減少。論文はオープンアクセスではないが、
Search for Lost Birds から一覧を見ることができる。日本に関係の深い種類ではカンムリツクシガモ (及び日本の記録に疑問が残るがシロハラチュウシャクシギ) が含まれている。
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オシドリ
- 学名:Aix galericulata (アイクス ガレーリクラータ) 小さな帽子をかぶった水鳥
- 属名:aix aigos (Gk) アリストテレスの記載した足に大きな水かきのある鳥の一種 (小型ガンか大型カモと考えられている)
- 種小名:galericulata (adj) 小さな帽子をかぶった (galericulum (n) 小さな帽子 -atus (接尾辞) 〜備わっている)
- 英名:Mandarin Duck
- 備考:
aix は他に読み方を考えにくいが "アイクス"。
galericulata は e と語末の -ata の冒頭が長母音で -cu- にアクセントがあると考えられる (ガレーリクラータ)。e の長母音は galerum (帽子) の e が長母音のため。
単形種。ヨーロッパ、アメリカ等に持ち込まれ、移入種となっている。ヨーロッパでは多数の個体が広く分布。
例えばベルギーでの評価 Aix galericulata - Mandarin duck。拡大中だが生態系へのインパクトがある程度高いグループには含まれていない。
同属にアメリカオシ Aix sponsa Wood Duck がある。こちらの読みは "スポーンサ" でラテン語の花婿の意味。Aix 属のタイプ種はこちら。
佐藤 (2020) Birder 34(12): 35 がドイツでつがい相手が生きている限りつがいが解消された証拠が今のところない研究を紹介している。
Maedlow (2018) Phenology of the Mandarin Duck Aix galericulata in the Potsdam area: population trends, non-breeding occurrence, moult, and mating がその論文 (英文要約あり)。
最大9つがいを標識して5年間観察した。7-8月はつがい関係が完全に途絶える。これまでカモ類は全般につがい関係が永続しない、Cramp and Simmmons (1977) はオシドリではそうではないなどさまざまに議論されてきたが一応の結論が出た模様。現在では「オシドリのつがい関係を調べた人はいないので」とは言えなくなった。
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ナンキンオシ
- 学名:Nettapus coromandelianus (ネーッタプース コロマンデリアーヌス) インドのコロマンデル地方のカモの足の鳥
- 属名:nettapus (合) カモの足 (netta カモ pous 足 Gk)
- 種小名:coromandelianus (adj) インドのコロマンデル地方の (-ianus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Cotton Pygmy Goose
- 備考:
nettapus は外来語由来の合成語のため発音は明確でないが、起源となるギリシャ語 netta では e が長母音。pous に由来する -pus も長母音でも構わない (例 apus)。"ネーッタプース" を採用してみた。
学名のために作られた言葉で古典ラテン語ではないのでこの読みに必ずしも従わなくてもよい。"足" の意味の -pus を伸ばすかどうかは両方の用例があるので好み次第でよいだろう。"足" の場合は "プース" と統一して読むのも一つの考え方。
coromandelianus は前半が地名で特に長音では読まれていないよう。-ianus の接尾辞は a が長母音でアクセントがある (コロマンデリアーヌス)。
日本鳥類目録改訂第7版で追加。Nettapus 属はナンキンオシ属。
英名で Pygmy Goose と付くように小型のガンの扱いであった。アフリカマメガン Nettapus auritus 英名 African Pygmy Goose が足と体はカモ、嘴と首はガンに見えるとのことでこの属名が付けられた (The Key to Scientific Names)。
和名もかつてはマメガン属の名称があった (コンサイス鳥名事典)。
2亜種が認められている (IOC)。日本で記録された亜種は基亜種 coromandelianus とされる。
[分子系統研究による位置づけ]
最新の分子系統研究で典型的なカモ類との類縁関係はなく、むしろハクチョウやガンの系統とそれに先立つ分岐のリュウキュウガモ類の間に位置することがわかった。ナンキンオシ属とオタテガモ属 Oxyura の系統関係は近い (#オカヨシガモの備考参照)。
日本鳥類目録改訂第8版 = IOC 13.2 の配列ではオシドリの次の中途半端な場所に含められているが近い将来変更されるだろう。
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オカヨシガモ
- 第8版学名:Mareca strepera (マレカ ストゥレペラ) 騒々しいカモ (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas strepera (アナス ストゥレペラ) 騒々しいカモ
- 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:strepera (adj) 騒々しい (strepo -ere (intr) 大きな音をたてる -a 女性形の形容詞にする)
- 英名:Gadwall
- 備考:
mareca は外来語で発音がよくわからないが短母音のみであれば "マレカ"。
strepera は発音はよくわからないが strepere は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。アクセント位置は -re- (ストゥレペラ)。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属 [Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類を意味する (ローマ伝説で Marica は川または水の精)]、に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Mareca 属はヨシガモ属。
Gonzalez et al. (2009) Phylogenetic relationships based on two mitochondrial genes and hybridization patterns in Anatidae の分子系統研究で旧 Anas 属が単系統でないことが示され、いくつかの属に分離された。
北半球中緯度に広く分布。2亜種あり、他の亜種はキリバスの Teraina 環礁に生息していた couesi (アメリカの軍医 Elliott Ladd Coues 由来) があったが絶滅した。雌雄の 1874 年の標本が残っているのみとのこと。ファニングオカヨシガモの和名がある (コンサイス鳥名事典)。
英名 Gadwall の由来は不明だが、1666 年にはすでに使われていた (wikipedia 英語版)。
[Anas 属の分割は必要か]
全ゲノムを用いた解析によってこの取り扱いが適切でない可能性も示唆されている: Zhang et al. (2024) Whole-genome sequences restore the original classification of dabbling ducks (genus Anas)。
伝統的な Anas 属は単系統であり、必ずしも分割する必要はないとの見方。ハシビロガモやトモエガモも含めて 47 種が Anas 属でよいのではとの見解。
カモ類は雑種が多いため遺伝子浸透 (introgression) も多く、用いる遺伝部位によって異なる系統樹形態が可能であるとのこと。これを考慮すると複数の属に分ける必要はないとの考えのよう。
もともとは "北京ダック" などの家禽の起源を探る研究だった (#カルガモの備考参照) が範囲を広げるとカモ類分類まで再考した方がよい結論となった。Gonzalez et al. (2009) の根拠は否定される形となり、他の分類群でも議論されている、単系統ならば多種を含む属でもよいか、あるいは何らかの特徴で分岐年代も参考に分割した方がよいかの程度問題となりそう。
Zhang et al. (2024) のトポロジーを見る限り、もし 47 種すべてを Anas 属としない場合は、ハシビロガモやトモエガモは順序は変わる可能性はあるものの現行の属を変える必要はあまりないように見える。
Mareca と現行の狭義 Anas の関係が相互に単系統にならない可能性があるが、現行全ゲノムまで調べられた種類が少ないのでまだ様子見段階であろう。
属に分割した上でオナガガモが狭義 Anas に収まらなければ古い属名の Dafila (#オナガガモの備考参照) が復活する可能性もあるだろう。
近年は単系統性が非常に重視されており、新しい分子系統研究も比較的早く取り入れられる傾向があるので、あるいはこの提案はすでに議論の俎上に載せられているかも知れない。個人的には種サンプルを増やした後に判定した方がよいと感じるが、全体を Anas にまとめ直すこと自体は問題ないので案外簡単に受け入れられるかも知れない。
日本鳥類目録改訂第8版で変えたばかりの段階で世界が元に戻すこともあり得ないことではない。
なお Mareca と Anas 属を分離したチェックリストは Howard and Moore 4th edition とのことで、アメリカの the 58th AOS Supplement でも採用されたとのこと (Boyd)。
他の主なリストでは Birdlife, BOU が 2014 年、Clements, eBird が 2017 年、IOC が 7.3 (2017) で、日本鳥類目録改訂第7版が出版されて数年で世界の一般的扱いが変わっていたことになる。
第8版でようやく追いついた形になるが、世界の扱いがタイミング悪くすぐに変わってしまうかも。
系統と形態進化を調べた研究: Chatterji et al. (2024) Dietary specialization drives adaptation, convergence, and integration across the cranial and appendicular skeleton in Waterfowl (Anseriformes) (preprint)
Anatidae カモ科は 10 系統あり、それぞれ族にふさわしい。
この系統樹では Mareca と Anas が互いに単系統の関係になっている。
Mareca と Anas を分ける場合は単系統性の要請よりは分岐年代などに由来すると解釈されることになるなろうか。ほとんど違わない分岐年代 (1000 万年前ぐらい) で Anas 属が 3-4 系統に分かれているので微妙なところ。少し古い Gonzalez et al. (2009) を根拠とする分類は多少見直しが迫られるかも。
Netta 属が単系統になっておらず、アカハシハジロの学名は影響を受けないが、もし分離する場合はベニバシガモ Netta peposaca Rosy-billed Pochard と ネッタイハジロ Netta erythrophthalma Southern Pochard をアカハシハジロとは別属になる可能性がある。
Boyd はこれら2種をそれぞれを別属にしているがそこまでの必要性はなさそう。
サザナミガモ Salvadorina waigiuensis Salvadori's Teal は Boyd は不明に分類していたが Anas 属に落ち着きそう。
潜水性など習性は複数の系統で独立に進化し、形態もそれらに応じた収斂進化を遂げている。
カルガモはマガモと同種レベルとして扱われたのかも知れないが登場しない。
さらに Chen et al. (2024) The Complete Mitochondrial Genome of the Siberian Scoter Melanitta stejnegeri and Its Phylogenetic Relationship in Anseriformes
がミトコンドリアゲノムと一部核ゲノムを用いた系統解析を発表している。この系統樹では Mareca, Spatula, Anas が単系統の関係をなさない。
どの解析が系統をよく反映しているかまだ吟味の必要がありそうだが、Gonzalez et al. (2009) を基にした分類は問題がある証拠が増えてきているように見える。系統樹サポート率は高いので解析などに誤りがなければかなり信頼できそう。
シマアジがこれまでとまったく違う場所になっている。海ガモ類は比較的問題が少なそう。
世界の共通リストを検討しているチームはこれらの論文をどう評価するだろうか。
数種の属を変えることで Anas 属と Mareca 属を生かすのは一つの解決方法となるだろうが、シマアジの存在を考えるとそれほど簡単ではなく、続きは同じく影響を受ける Spatula 属のタイプ種である#ハシビロガモの方にまとめた。
幸い Spatula 属の記載が古いのでハシビロガモが別属に移動とはならずに済みそう。
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ヨシガモ
- 第8版学名:Mareca falcata (マレカ ファルカータ) 鎌形の羽のあるカモ (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas falcata (アナス ファルカータ) 鎌形の羽のあるカモ
- 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:falcata (adj) 鎌形の (falcatus) 三列風切の鎌形の羽から
- 英名:Falcated Duck
- 備考:
mareca は#オカヨシガモ参照。
falcata は最初の a が長母音でアクセントもここにある (ファルカータ)。falx を -ata 持っている と分解できる。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。
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ヒドリガモ
- 第8版学名:Mareca penelope (マレカ ペーネロペー) ペーネロペーを救ったカモ (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas penelope (アナス ペーネロペー) ペーネロペーを救ったカモ
- 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:penelope (f) penelopis カモの一種 (Gk)
- 英名:Eurasian Wigeon
- 備考:
mareca は#オカヨシガモ参照。
Penelope (固有名詞) は2つの e が長母音。-ne- にアクセントがある (ペーネロペー)。英語では長母音ではないがアクセント位置はラテン語と同じ。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。
Mareca 属は Stephens (1824) が導入した属でヒドリガモがタイプ種 (The Key to Scientific Names)。
種小名の由来である penelops, penelopos (Gk) はギリシャ神話で両親がペーネロペーを海に投げ込んだ時に救って食べ物を与えた紫の縞のあるカモとされる Penelope < pene 編み紐、織物 opos 外見 でユリシーズの妻 (Gk) (The Key to Scientific Names, wikipedia 英語版)。
Penelope 属が別にあり、キジ目ホウカンチョウ科のシチメンチョウに似た南米の属で、英語では一般名 guan と呼ばれる。
和名はシャクケイ (舎久鶏) で鷹司信輔が付けた名称とのこと (コンサイス鳥名事典)。
こちらの Penelope の由来もよくわかっていないとのことだが、Teixeira (1995) 他は模様を指したものではないか (pene 糸、網 + -ope 外見 Gk)、あるいは冠状に見えるため (pene ほとんど L + lophos 冠 Gk) との解釈があるとのこと (The Key to Scientific Names)。
英名の Eurasian はアメリカヒドリの英名に対応させるため。Wigeon だけでもヒドリガモを指して使われる。単形種。
英名 wigeon は 16 世紀初めにはすでに使われていたが、中世フランス語 vigeon 由来とされる。これは古フランス語 vignier (鼻を鳴らす、叫ぶ) -on (名詞化) とされる (Wiktionaryより)。
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アメリカヒドリ
- 第8版学名:Mareca americana (マレカ アメリカーナ) アメリカのカモ (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas americana (アナス アメリカーナ) アメリカのカモ
- 第8版属名:mareca Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類。他説あり。
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:American Wigeon
- 備考:
mareca は#オカヨシガモ参照。
americana は1つめの a が長母音でアクセントもここにある (アメリカーナ)。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca 属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。
ユーラシア北東端でも繁殖しているとのことである。参考記録 Beshkarev (1999 初出、2018 再掲) The American wigeon Anas americana in the upper reaches of the Pechora (p. 4263)。
クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): 27 に北米からシベリアにアメリカヒドリが進出しているとの記載がある。
Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) には繁殖種としての記載は特になく、迷鳥の扱いになっている。
森岡 (2005) Birder 19(11): 53 にコメントがあり「日本の野鳥 山渓カラー名鑑」に記載されていたアメリカヒドリとヒドリガモが一緒に繁殖している記述は NHK 取材の時にコンドラチェフ博士から聞いた情報であったとのこと。
Rohwer et al. (2022) Interspecific forced copulations generate most hybrids in broadly sympatric ducks
によればアメリカ西岸で多くの場合オスのヒドリガモがアメリカヒドリと雑種形成 (F1 個体からの判定) を行い、多数のアメリカヒドリの中でメスのヒドリガモが相棒を見つけるのが難しいため雑種形成が起きる仮説は否定的とのこと。北米のカモの雑種は強制交尾が主因との説を支持する。
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マガモ
- 学名:Anas platyrhynchos (アナス プラテュリュンコス) 幅広い嘴のカモ
- 属名:anas (f) カモ
- 種小名:platyrhynchos (合) 幅広い嘴の (platos 幅 rynchos 鼻口部 Gk)
- 英名:Mallard
- 備考:
anas は他に発音は考えにくいが "アナス"。現代のイタリア式発音では伸ばすこともあるそうで、冒頭を長音で読んでも間違いとは言えない。逆に "ナ" を伸ばす方はおそらく受け入れられない。
platyrhynchos は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-rhyn- がアクセント音節と考えられる (プラテュリュンコス)。
北半球に広く分布。2亜種が知られ (IOC)、日本の亜種は基亜種 platyrhynchos とされる。もう1亜種はグリーンランドの大型だが嘴は小さく色の淡い conboschas とされるがこの亜種を認めないこともある。
英語の由来は古フランス語でオスの野ガモを表す malard, malart, mallart から (Wiktionaryより)。カルガモとの遺伝的関係については#カルガモの備考を参照。
Anas 属のタイプ種。
現在マガモとされるものが Linnaeus (1758) に2回登場すると言われる。#オオタカの備考も参照。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" も Anas boschas の学名を用いていた。この時点では Linnaeus (1758) の Anas platyrhynchos のシノニムとは気づかれていなかった模様 (他学名としてリストされていない)。
Anas platyrhynchos と
Anas boschas
後者に domestica が含まれているので、アヒルを表す学名として使われていたこともあったがシノニムとみなされ、先取権のある Anas platyrhynchos の方が使われるようになった。AOU も 2nd ed. (incl. 13th suppl.) まで Anas boschas を用いていた。
さらに Anas adunca の家禽品種も含まれていて Linnaeus (1758) に3回登場とのこと。
Donegan (2023)
Towards a more rational and stable nomenclature for Mallard Anas platyrhynchos, Greylag Goose Anser anser and their domesticates, including various priority issues, designation of lectotypes, and a First Reviser act
がこの問題を整理している。Linnaeus は野鳥を意図して Anas platyrhynchos を使っていた。Anas boschas には家禽と野鳥の両方が含まれていた。
Linnaeus はさらに混乱していたようで Anas platyrhynchos とハシビロガモ (当時の学名で Anas clypeata) をシノニムの関係にあると考えていた。
Linnaeus の発表後 150 年以上も経過して、Lonnberg (1906) が Anas platyrhynchos はメスで、Anas boschas は主にオスを指すことに気づき、前者の方が先に現れるので先取権があるとした。
しかし長期間使われていた学名が保護される規則もある。これは Lonnberg (1906) の提案を無効にするわけではなく、結果的に 20-21 世紀の大部分の分類学者がこの提案を受け入れることで現在の学名に落ち着いている。
ハイイロガンの学名も同様に扱われている。ガン・カモは家禽で多様な学名が使われており歴史的に複雑だったよう。
川口 (2016) Birder 29(12): 48-49 でマガモの巻き羽が上尾筒か尾羽かを議論している。結論は後者とのこと。「生物進化とハンディキャップ原理: 性選択と利他行動の謎を解く」(Amotz Zahavi and Avishag Zahavi "The handicap principle: a missing piece of Darwin's puzzle" 1997 原著、アモツ・ザハヴィ、アヴィシャグ・ザハヴィ著; 大貫昌子訳 白揚社 2001)
でザハヴィがクジャクの飾り羽を尾羽としている点をとりあげ、名のある鳥類学者でも、こんなものだ! と指摘している。
これは訳の問題ではないかと想像して調べてみると peacock's tail の表現は英語ではあまりに普通に使われ、peacock's tail-feathers の表現は英語的には特に間違いがあるわけではない。
クジャクの飾り羽を指す用語として "tail" または "train" が用いられるとのこと (wikipedia 英語版より)。鳥類学的に言えば tail covert とか補足してあると曖昧さがなかったのだろうが、あまりにも専門用語なので避けたのでは?
訳者もファインマンなどの物理の訳書を多く手がけており (E. O. ウィルソンの「生命の多様性」もこの方の訳)、鳥類学まではさすがに専門でなく訳者が注釈で補う必要も感じなかったのではと想像する。
rectrices とか専門用語で限定して書いてあるわけではないようなので、偉い学者が間違えているかどうかまでは判断できない気がする。
[カモ類の気管球 (tracheal bulla)]
川口 (2018) Birder 32(1): 52-53 で、カモ類の性的二形に関係してオス・メスで声が違うことが紹介されている。多くのカモのオスには気管に特別な構造 (tracheal bulla 気管球, syringeal bulla などの名称がある) がある。
解剖学的には違いは明らかでもそれがどのように音声に影響を与えるかは、筋肉をどう制御するかの他の問題もあり簡単には結論できるものでもなさそうである。共鳴についても同様で音響学的シミュレーションをやってもわからないパラメータが多くてそう簡単には物が言えない。スズメ目でも同様。
オープンアクセスの研究を少し紹介しておく:
Warner (1971) The structural basis of the organ of voice in the genera Anas and Aythya (Aves)
Anas 属ではおそらく共鳴に関与し、構造的にはオスの方が高いと想像される。Aythya 属では (基音とは) 別の音を作る役割を持っているのではとのこと。
Miller et al. (2007) Allometry, bilateral asymmetry and sexual differences in the vocal tract of common eiders Somateria mollissima and king eiders S. spectabilis
ケワタガモ類で同種内の tracheal bulla の大きさには差が少なく、体サイズが大きいものでもそれほど大きくなかった。tracheal bulla のサイズを一定に保つ選択が働いていると考えられる。
川口氏の疑問は雌雄同色のカルガモでオス・メスで声がどのように違うかだが、マガモの声に似たもので雌雄で声が違うとの情報はあるがこの時点では詳しくはよくわからない模様。xeno-canto ではマガモのメスの声は明瞭に識別できることが周知事実となっていて (聞くだけでわかる) 多くの記録がある。
カルガモでは性別を入れている報告はほとんどなく (そもそも記録数も少ないが) 野外での音声による識別方法は確立されていないのだろう。マガモの雌雄と同様と考えて分類するだけでも意義がありそうに思えるがどうだろうか。
Mishkind et al. (2025) Courtship vocalizations in male ducks: spectral composition and resonance of the syringeal bulla (preprint)
micro-CT を用いて共鳴構造となっているかを検証。ヘルムホルツ共鳴管と仮定して気管球のみの共鳴周波数の推定を行っているがそれほど大したことはやっていない。気管が周波数を変えるはずだがこちらは実測せず文献の値を用いている。各種の気管球の CT 画像が出ているので参考になるかも。
[カモ類の嘴の触覚]
(一部#ハチクマの備考の脳の構造より)
Gutierrez-Ibanez et al. (2009) The independent evolution of the enlargement of the principal sensory nucleus of the trigeminal nerve in three different groups of birds。
によれば、三叉神経の感覚に関係する脳の principal sensory nucleus of the trigeminal nerve (PrV) この核のサイズを見れば採食に触覚をどの程度用いているか推定できる模様で、直感的にもわかりやすい結果になっている。嘴で探索を行うシギ類、水鳥 (特にろ過して食物を得るカモ類など)、オウム、キーウイなどでよく発達しており、嘴の感覚が鋭敏であることとよく対応している。
味蕾 (みらい taste bud) も嘴の先端にあって味を感じている (#メジロの備考 [鳥類の味覚] 参照)。
Ziolkowski et al. (2022) Tactile sensation in birds: Physiological insights from avian mechanoreceptors
によれば鳥類と哺乳類の間で触覚はよく保存されている。Grandry (Meissner) と Herbst (Pacinian) 小体 (かっこ内が哺乳類での名称) が触覚センサーで嘴で探索を行う種類で嘴の皮膚に触覚センサーが高密度に分布している。これらの種類の嘴の皮膚の繊細なセンサーは舌や咽頭にも及ぶこともあるとのこと。
Schneider et al. (2017) Molecular basis of tactile specialization in the duck bill にカモの嘴先端の触覚の分子メカニズムが同定されている。Piezo2 チャンネルが関与しており、マウスの触覚以上の役割を果たすとのこと。嘴先端には Grandry, Herbst 小体が多数ある。脊椎動物の中でも特に触覚に特化していると言える。
Syeda (2017) Dabbling with Piezo2 for mechanosensation の解説記事。カモ類は嗅覚や視覚よりも触覚に頼って食物を探す。霊長類が指先の触覚を用いて探すのと同様。
運動センサーに関連する TrkB 遺伝子発現も視覚で食物を探すニワトリとは対照的な結果となった。
なお TrkA は温度や痛み感覚に関連し、カモでは TrkB 遺伝子発現の方が圧倒的に多かった。触覚を用いて食物を探すセンサーに最適化されていると考えられる。
[マガモの雌雄の頭の色を決める遺伝子]
Ma et al. (2021) Transcriptome Analysis Reveals Genes Associated With Sexual Dichromatism of Head Feather Color in Mallard
によればトランスクリプトーム解析によって TYR, TYRP1 遺伝子が頭部羽毛のメラニン形成に関与しており、オスではメスより TYRP1 の発現が 256 倍強かったという。メラニンによる構造色であることも改めてわかる。Z 染色体関連遺伝子がオス (ZZ) でより多く発現して TYRP1 のプロモーター領域に働いている可能性があるとのこと。
[カモ類の翼鏡]
翼鏡 (speculum) は構造色だが、その微細構造を調べた研究: Eliason and Shawkey (2012) A photonic heterostructure produces diverse iridescent colours in duck wing patches
発色の機構は論文に譲るとして、気になるのは役割だろう。この論文で引用されている研究では実はあまりよくわかっていない。
マガモから取り除いても繁殖には影響がなかった: Omland (1996) Female mallard mating preferences for multiple male ornaments - II. Experimental variation。
マガモとコガモでは体の状態 (栄養状態など) と相関がある: Legagneux et al. (2010) Condition dependence of iridescent wing flash-marks in two species of dabbling ducks。
種認識に役立っているのでは: Ritchie (2007) Sexual Selection and Speciation (これはレビュー論文で役割の提案)。
カモ類の多くの種類は交配して雑種を残せるが同所的に複数種が存在することは交配前の生殖隔離が存在することを示唆する。もし雑種が子孫を残す能力が低ければ翼鏡の色へ種分化のための適応となり得る。そうでなければ色そのものの浮動によって種分化につながる可能性がある。この例は Carduelis 属のフィンチ類で知られているとのこと。
学術用語では英語でもラテン語の speculum もそのまま使われるが、語源は specio (見る) + -ulum (道具) から鏡や (比較的歴史的な) 医療用具で開口部を広げて中を見るものを指す (現在は何とかスコープなどと呼ぶことが多い)。複数形 specula または speculums。
英語でそのままの意味で mirror の名称も使われる。こちらはカモメ類の初列風切の白斑も指して使われることはご存じの通り。
[白い大きなアヒルの起源]
Wang et al. (2023) Duck pan-genome reveals two transposon insertions caused bodyweight enlarging and white plumage phenotype formation during evolution
によれば、アヒルの全ゲノム解析により、トランスポゾン Gypsy の2か所の挿入によって体重が劇的に増加して (27.61% でこれほどの増加率は家禽でも最大とのこと) 白色の羽毛を獲得したとのこと。
マガモの家禽化は紀元前 500 年ごろの中国で行われたとのこと。IGF2BP1 の調節領域に挿入された Gypsy がエンハンサーの役割を果たしているとのこと。
MITF のイントロンに挿入された Gypsy が白色化に関連しているとのこと。トランスポゾンが多様な表現型に関わっていることが一層明らかになった (#ツリスガラ備考 [スズメ目の進化とレトロウイルス/トランスポゾン] も参照。
マガモで特によく調べられているが、カモ類は鳥インフルエンザウイルスの自然宿主となっている。なぜ自然宿主となり得るのか、ニワトリは何が違うのか、免疫にかかわる仮説は#インドガン備考の [野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン] 以下の "最新状況" コーナーに紹介した。
[カモのひなはなぜ親鳥を追う?]
カモのひなはなぜ親鳥を追うか? - と問われれば即座に「刷り込み」(imprinting) の回答が返ってくるだろう。
物事はそう単純でないことが示されているので紹介しておく。出典は #ミサゴの備考 [feather taxis・頭かき] で紹介の「本能はどこまで本能か: ヒトと動物の行動の起源」(マーク・S・ブランバーグ著; 塩原通緒訳 早川書房 2006) pp. 139-148。
Gottlieb は孵化したばかりのひながそれぞれ自分の種の母親の呼び声を、母親と接触する前から聞き分ける能力を持つことを示し、Lorenz の言う刷り込みは呼び声に引きつけられる状況で副次的に生じるものとの解釈を 1971 年の研究会で示したとのこと。
その場に同席していた Lorenz は生得的 (本能的) なものと環境から入る情報 (刷り込み) の2つがあって、Gottlieb の発表は生得的なものの重要性を示したと聴衆に語ったという。大御所の解説で生得的なもの刷り込みの二分法、そして生得的な本能がいかに重要であるかが聴衆や科学界に刷り込まれたというわけである。
Gottlieb はそもそも Lorenz の考えに懐疑的であって実験を始めたものだったが、さらにマガモとアメリカオシドリを用いて実験を進め、
・親の声を聞かせないで育てても同種の声への好みは変わらず
声の好みは本能だと信じ込んでいると、この実験結果でもう満足して終了にしてしまうだろう。Gottlieb の偉いところはここでまだ疑って実験を続けたことである。親の声を聞かなくても一緒に育てた卵の孵化の少し前から他の卵から聞こえる鳴き声を聞いている可能性に気づいた。
・卵の中で他の卵からの声を聞くことで選り好みが強まる
・他の卵からも含めて音声を完全に隔離する (自分の声も出せないように操作してある) と母鳥とニワトリの声を区別できない
・しかし自身の声を流して聞かせると好みが誘発された
との驚くべき実験結果を出した。さらには
・音声隔離実験で他種の卵から聞こえる声を聞かせると他種を好む実験にも成功
また音声を離断されて育つと知覚の発達がほとんど阻害されているように見えたとのこと。卵の中の声と親鳥の声は一見まったく似ていないので、よほど注意深い人でなければ関連性に気づかなかったことだろうとのこと。卵の中の声と親鳥の声の共通成分を抜き出して人工音声による実験を行い、意義がようやく判明したとのこと。
自然条件ではこれらの状況は起きないので親鳥の声に反応する結果、視覚刺激による刷り込みが起きる、という次第。Lorenz の古典的実験は相当割り引いて考えた方がよいらしい。
托卵鳥の音声認識 (#カッコウの備考 [托卵鳥の同種認識]) も併せて読まれたい。
Gottlieb (1991) Experiential Canalization of Behavioral Development: Results
に実験結果や主に自身の先行研究も紹介されている。
ここで使われている canalization は心理学用語で Conrad Hal Waddington (1942) が最初に用いたものとのこと。canal は水路のような意味で、水路づけ (運河化) とも訳される。
かつてベストセラーだった「頭の体操」(多湖輝 光文社 1966-?) でも用いられていたのでご存じの方もあるだろう。
この論文では卵から発せられる声を vocalizations in embryo と記述してあり、特別の用語はない模様。
他に Gottlieb (1992) Individual development and evolution: The genesis of novel behavior、
Gottlieb (1997) Synthesizing naturenurture: Prenatal roots of instinctive behavior
の書籍が「本能はどこまで本能か」で紹介されている。
日本でも使われる「胎教」の科学的根拠はもしかしてこれらの研究か、とも思ったのだが簡単に調べても見つけられなかった。古代中国ですでにあったとのこと。
「本能はどこまで本能か」には他にも面白い話があるので紹介しておく (pp. 235-236)。
Wynn (1992) Addition and subtraction by human infants (Nature 論文)、
Wynn (1998) Psychological foundations of number: numerical competence in human infants
で、鳥類や哺乳類のさまざまな種に数に対する識別能力を持っている。鳥類と哺乳類が分岐する前のどこかで生じたものかも知れないし、いくつかの分岐した種の中で別々に同じように進化したのかも知れないと述べているとのこと。
動物に数の概念があるとすればそういう議論にもなるだろうが、そもそも人間の幼児は数を認識しているのかどうかの問題はあまり明瞭でない。
Clearfield and Mix (1999) Number Versus Contour Length in Infants' Discrimination of Small Visual Sets がこの問題に挑戦し、数のような抽象的なものよりも (輪郭の長さのような) 基本的な知覚に訴える刺激をもとにしている結果を得たとのこと。数以外にも認知の手がかりがあるが十分実験されていない。
この考えに対する新しい反論論文 [例えば Xu et al. (2004) Number sense in human infants] もあるようでこの問題はまだ決着していないようだが、Nature 論文で世間に広まった情報を修正するのは容易なことではなく、学説としてはあまり知名度がないとのこと。Gottlieb がカモの実験で示したように、精緻な実験を行えば実は幼児も動物も数の概念を認識していない結果が出る可能性もあるのかも知れない。
ヒトでは大きな問題なので多くの研究が行われているが、鳥が数を数えられるかどうかはそこまで踏み込んだ議論にはなっていない模様。しかしこのような落とし穴があり得ることも考えておいてよいかも知れない。他の動物でも数を認識したとの研究が報道されることがあるがヒトの幼児ほどの厳密な実験が行えるとは思えず、少し割り引いて見た方がよいのだろう。
"Number sense in animals" wikipedia 英語版では霊長類での議論は多少出ている。approximate number system というものがあるそうで、1 と 2、2 と 4、4 と 8 のような Weber 則 (#オオルリの備考 [オオルリはなぜ青い] で登場) に従う区別がなされるとのこと。
つまり比は判断できる (対数の引き算になる) が、数そのものの引き算はできていない、ということになる。
数を理解できると言われるカラスやオウムの話はもうちょっと割り引いて捉えた方がよさそう。
進化とも関連しそうな面白い話が出ている。
Trut (1999) Early Canid Domestication: The Farm-Fox Experiment
旧ソ連時代のノボシビルスクで Dmitry Belyaev が動物の家畜化メカニズムを研究するためにアカギツネ Vulpes vulpes の色彩型であるギンギツネ (silver fox) をある特徴に従って継代選抜した (1959 年開始) 結果短期間で家畜らしい他の特徴が同時に選抜されたという [Belyaev, D. K. (1969). Domestication of animals. Science 5: 47-52]。
Belyaev が実験を始めた時代背景も上記 Trut (1999) 論文を読むと理解しやすい (ソビエト時代、スターリンの支持の下のルイセンコ遺伝学から解き放たれた時代だったとのこと)。
Trut (1999) によれば Belyaev の死後もこの時点で 40 年も研究が引き継がれ、野生型にない特性なども現れたとのこと。当時のロシアの経済危機で実験の継続も危機的状況となり、実際に昨年は職員に給与すら支払えなかったとのこと。ペットとして売って費用をまかなっていたがそれも途絶えつつある。
ロシアの研究費制度も変わってこのような継続的研究が資金を獲得することが一層難しくなった。
「本能はどこまで本能か」(pp. 296-300) ではこれは家畜化プロセスそのものを反映していないかも知れないが、結果的に発達速度の遅いものを選抜したことになっていると解釈している。
いわゆるネオテニー (幼形成熟) の形質を選抜したことになるのか。ヒトは自己家畜化した動物など使われることがあるがここではそちらには深入りしないでおく。
こんなに短期間に幼形成熟が起きるならば、島で飛ぶ必要のなくなった鳥が簡単に飛翔力を失っても不思議でないと思う次第だが実際にはそれほど簡単ではないのだろう。
なお鳥が幼形成熟で飛翔力を失うアイデアは古くからある。Condon (1957) Neoteny and the Evolution of the Ratites 参照。
新しい研究ではいろいろなプロセスが考えられていて、幼形成熟もその一つ Faux and Field (2017) Distinct developmental pathways underlie independent losses of flight in ratites。
この研究ではヒクイドリに対して可能性があるとしている。ガラパゴスコバネウと唯一の飛べないスズメ目の絶滅種スチーフンイワサザイ Traversia lyalli Stephens Island Wren については引用文献参照。
ガラパゴスコバネウはゲノムレベルの追加情報があり、#カワウ備考の [ガラパゴスコバネウの進化] に追記した。
ゲノムレベルの研究では Sackton et al. (2019) Convergent regulatory evolution and loss of flight in paleognathous birds
古口蓋類 (古顎類) Palaeognathae (ダチョウ目など) で複数回の飛べない鳥への進化があった。これらは収斂進化と言え、ポリジーンかつタンパク質をコードする部位よりも調節部位 (ネットワーク) がかかわっていると考えられるとのこと。幼形成熟というよりはむしろ必要なくなったものに投資しなくなったと見るべきであろうか。
Kukekova et al. (2018) Red fox genome assembly identifies genomic regions associated with tame and aggressive behaviours がゲノム解析をした結果、SorCS1 遺伝子がこの Belyaev のキツネに関与していることが明らかにされた。
従順か攻撃的かの遺伝子特定か、ペットのキツネで (ナショナル ジオグラフィック) で日本語解説が読める。
もっとも Belyaev が用いたものは野生捕獲のギンギツネではなく、カナダで少なくとも1880年代から飼育されていたものであったが [Lord et al. (2019) The History of Farm Foxes Undermines the Animal Domestication Syndrome]、
Belyaev と共同研究者も最初はそれほど古くから家畜化されていたものとは気づいていなかった可能性がある。論文でも曖昧な表記だったため野生個体との誤解が広まっていたとのこと。広く使われる "家畜化" とはあまりにも単純化した見方ではないか。"家畜化症候群" はそもそも存在するのか、意味も問い直す必要があるとのこと。
「野鳥」2020年4月号 (No. 843) pp. 6-13 に岡ノ谷氏と上田氏の対談があり、その中でも岡ノ谷氏の仮説に関連して扱われている。かなり単純化して扱われているのでこの記事だけを読まれた方は多少注意が必要かも知れない。
関連する遺伝子候補は見つかったものの、おそらく飛べない鳥への進化同様にポリジーンかつ調節部位がかかわってそうなので、タンパク質をコードする遺伝子だけを見ているとまだ尻尾を少し掴んだぐらいの段階だろうか。
A new vision for how evolution works is long overdue (Nature Book Review 2025.1.13) に家畜化症候群にも関連した話題がある。特定の形質がセットで選抜されるのはいずれも特定の細胞 (neural crest 神経堤) に由来するもので同じような遺伝子に左右されるため。
偶然にしては考えにくいほど特定の形質のセットが生まれるのは、それぞれが独立に選抜されるためではない。
またエピジェネティックな修飾が遺伝子の働きを変え、遺伝子の進化にも影響を与える (遺伝子自身の進化に先行することができる)。"Evolution Evolving: The Developmental Origins of Adaptation and Biodiversity" Kevin Lala et al. Viking Books (2024) の書評から。
[レイサンマガモ]
レイサンマガモ Anas laysanensis Laysan Duck はマガモに近縁のハワイのほとんど飛べないカモ。移入捕食者や植生破壊のために一時は絶滅寸前状態 (1912 年に成鳥9羽の若鳥5羽) となったが移入捕食者の駆除で個体数を回復 (1950 年代に 500 羽程度) したが、1993 年のエルニーニョ現象による干ばつで 100 羽程度まで再度減少。現在は 500 羽を超えるまで回復した。
2004, 2005 年に絶滅を避けるためにミッドウエイの環礁にも個体群移住が行われた。IUCN CR 種。
レイサン島のみに残っていたが、かつてはハワイの広域に分布していた化石証拠がある。渡りのマガモが迷鳥として定着したとの解釈があったが、南半球のマガモの祖先由来とのこと (wikipedia 英語版)。
[カモノハシ]
マガモの学名から気づかれた方もあるかも知れない。カモノハシの英名 platypus は platus 平らな + pous 足 (Gk) で過去の学名由来。
Platypus anatinus Shaw, 1799 と記載されたもので、種小名もカモの Anas に由来している ("カモに似た" の意味)。
Ornithorhynchus paradoxus Blumenbach, 1800 が独立に記載しており、Platypus の属名がすでに甲虫に使われていることがすぐに判明したため Ornithorhynchus anatinus の学名となった。
Ornithorhynchus は ornith 鳥 rhunkhos 口吻、嘴 (Gk) に由来する。学名を見てもまるで鳥のような哺乳類。
通常の哺乳類の XY 染色体が5対の性染色体をなし、X 染色体は爬虫類や鳥の持つ Z 染色体 と相同性が高く、鳥で Z 染色体にある DMRT1 遺伝子を X 染色体に持つとのこと。毒は爬虫類に似ている。
嘴は電気信号を出し、嘴にある4万個の受容体で電気的な餌探索を行うとのこと (wikipedia 英語版より)。
報道にあまりに誤解が多いとのことで出された解説: Interpreting Shared Characteristics: The Platypus Genome
爬虫類の毒とは独立に進化したものほか。授乳は鳥にはない点で、ハトのミルクなどは別の適応であるとしている。
Zhou et al. (2021) Platypus and echidna genomes reveal mammalian biology and evolution
も興味深い内容で、Fig. 8 に鳥類も含めた歯に関連する遺伝子がどのように失われたかわかる。ニワトリではここで示された8個の遺伝子が 1.2 億 - 6500 万年前の間にすべて失われ、カモノハシ等単孔類祖先ではもう少し遅い時期に4遺伝子、ハリモグラ科でさらに2遺伝子を失ったとのこと。
ハプトグロビン (haptoglobin 赤血球から放出された遊離ヘモグロビンに高い親和性で結合して有害な酸化活性を阻害する; HP 遺伝子) が走鳥類にはあるがその後のニワトリに至るどこかの系統で失われているらしいが、別の PIT54 が機能を果たしているとのこと。
HP 遺伝子は単孔類でも失われていて CD163 遺伝子ファミリーによる別の仕組みを使っていると考えられる。旧世界サルではヒトも含めて重複 (HPR 遺伝子) が起きている。
カモノハシは潜水中目と鼻を閉じるそうで、視力・嗅覚は採食に役立たないため、電気的な餌探索に頼る必要があったのだろうとのこと。嗅覚遺伝子数も相対的に少ないとのこと。
卵生だが、子宮内でも栄養を吸収するため、また (初期段階で栄養を卵黄から得る早成性の鳥類とは違って) 授乳できるので鳥類や爬虫類ほど卵のタンパク質に頼っていない。孵化までの日数も短いとのこと。
哺乳類の乳にはカゼインが含まれるが、これを作る遺伝子は歯の形成にかかわる遺伝子と共通性があり、Ca 結合性のタンパク質として進化した可能性があるとのこと。鳥では歯を失った結果、哺乳類同等の乳は作ることができなかった?
カモノハシは卵の期間は窒素を尿酸で排泄するという (wikipedia 日本語版より)。他の哺乳類でも砂漠に住む種では尿酸排泄のものがあるとのと: Dipodomys属 Kangaroo rats (wikipedia 英語版より)。さらに詳しい情報は #カワウの備考 [鳥類の窒素排泄・栄養状態ストレスとの関係] 参照。
日本の研究者も含まれる共同研究なので日本語情報を探してみると、この話とは直接関係がないが意外なものが見つかったので紹介しておく:
佐藤・江積 (2023) 脊椎動物の変遷についての大学生の認識と 中学校および高等学校の教科書の記述
なんと哺乳類の祖先は鳥類と考える大学生は爬虫類と考える人と同じぐらい多いとのこと。鳥類から脊椎動物が進化したと捉える割合も (この選択肢では正解である魚類以外で) 他の分類群より多い。教科書にどう書かれているかは学習者の認識に影響を与えていないことを示唆するとある。
始祖鳥は習うので爬虫類と鳥類の関係はかなりよく把握されているとのこと。
しかし 哺乳類の胎盤獲得に至る分子進化プロセスの一端を解明 (2022) には「鳥類から哺乳類への進化」と書いてある。
逆の意味で面白いタイトルの論文があったので紹介しておく: Scanes (2020) Avian Physiology: Are Birds Simply Feathered Mammals?
日本と欧米で違っているかも知れないが、"鳥類は羽の生えた哺乳類である" とのゼロ次近似は広く信じられているとのこと。飛翔への適応や卵生に由来する点は異なるが、他の点はだいたい同じように考えてよいとの考え (迷信?) がある (日本で鳥学をやっている人はむしろええっ? と思われるかも知れない)。
特に生理学者は暗黙の前提のように考えているが (*1) いくつか重要な違いがあることに注意が必要である。特に免疫システム (これはそれぞれかなり独自に進化したもの)、卵の形成など。消化器の違いも挙げているがそのうの有無など多少些細な違いかも知れない。
注意すべきは鳥類の (生理学) 情報の多くは家禽として選択を受けたものが由来なので、野鳥との違いを意識する必要がある。家禽研究者と野鳥研究者の交流が少なすぎるなど。
「鳥類から哺乳類への進化」の文言が際立って不自然に感じられないのも "鳥類は羽の生えた哺乳類である" 視点由来かも知れない。
胎生の鳥がいない理由はしばしば議論されるが、哺乳類など各種生物の隠れたコストを見積もった研究がある。How much energy does it take to make a baby? Researchers are rethinking what they know (Wong, Nature news 2024.10.22)。
Ginther et al. (2024) Metabolic loads and the costs of metazoan reproduction が論文。
授乳を除外しても哺乳類が胎児を育てて運ぶなどの間接的な代謝コスト (必要なエネルギー) はこどもを作るコストの 90% と極めて高いとのこと。鳥類は比較対象になっていないが卵生に比べてこのコストが極めて高いので胎生の鳥がいないのも納得できるところかも。
哺乳類でも飛行するのがあるのでは、と考えられるが調べられたコウモリ (Little brown bat) では間接的な代謝コストは哺乳類中最小で、体重あたりの代謝コストも小さい方に属する。
卵生動物で間接的な代謝コストの高いものより低い比率だったとのこと。何らかの部分を生理的に切り詰めることで胎生でありながら飛行を可能としているものだろうか。
Nature news の記事によれば過去にこのような見積もりが行われたことはなく、(適応度の評価や例えば最適な体サイズの見積もりなどにもつながる) 数学的取り扱いでも無視されてきたとのこと。男性中心の研究分野では無視されてきても驚かないだろうと述べたとのこと。
羊膜類の性染色体の分化については例えば Kostmann et al. (2021) Poorly differentiated XX/XY sex chromosomes are widely shared across skink radiation
(preprint 版)
がトカゲ類の性染色体を調べている。哺乳類は一般的には XX/XY、鳥類や分化の進んだヘビ類では ZZ/ZW だがトカゲ類は性染色体の分化度が低いが XX/XY 型。恒温動物では染色体による性決定が安定している。
トカゲ類は少なくとも 8500 万年間この状態と推定され、鳥類や分化の進んだヘビ類の ZZ/ZW の年代 (1.0-1.2 億年以上。なお胎生哺乳類では 1.65 億年以上) に匹敵しており、分化度が低い状態でも進化的に安定であったと考えられる。
Shylo et al. (2024) Chamaeleo calyptratus (veiled chameleon) chromosome-scale genome assembly and annotation provides insights into the evolution of reptiles and developmental mechanisms (preprint)
カメレオンの1種 (エボシカメレオン) では常染色体に XX/XY に対応する部位が同定された。
環境によらない性決定が説明できる結果となった。カメレオン類の中でも性染色体はさまざまなタイプがある。
このような視点で見ると鳥類はまとまりがよく、爬虫類が単系統にならないのが問題ならば系統の異なる爬虫類を分割するのが妥当に見えてくる。
Gardner et al. (2020) The relationship between genome size and metabolic rate in extant vertebrates (preprint 版)
の図も参考になりそうなので紹介しておくと、基礎代謝率とゲノムサイズには相関が認められなかった (例えば鳥類のようにゲノムが小さいほど細胞が小さくなって代謝率が上がるなどの効果が考えられる)。
恒温動物の基礎代謝率が高いのは当然としても、図を見るとやはり体温も高い鳥類の圧勝。同程度のゲノムサイズの動物でも恒温動物でなければ基礎代謝率が高いわけではなかった。恒温動物化に伴って基礎代謝率の上昇、脳の機能の高度化、性決定機構の安定化などが必要となったとおおまかには言えそう。
系統樹を見慣れた人ならば系統樹形だけ見ても爬虫類を少なくとも2つに分割したくなるのではないだろうか。この論文では爬虫類は3系統 (Apoda, Lepidosauria, Urodela) に分割したプロットになっている。
爬虫類と鳥類の関係を見る上でもう一つ興味深い論文を紹介しておく: Minias and Babik (2024) Palaeognaths Reveal Evolutionary Ancestry of the Avian Major Histocompatibility Complex Class II
キーウイには鳥類型以外に爬虫類型の MHC class II 遺伝子 (DAA3) が残っていた。2.5 億年にわたって保存されていたことを示すとともに、キーウイの系統の特異性が現れる結果となった。
ダチョウ目と合わせて古口蓋類 (古顎類) Palaeognathae とまとめられ、DAA2 の分子系統樹ではキーウイは Palaeognathae に内包されるので現世鳥類の系統関係とは矛盾しない。DAA3 の消失は現世鳥類の適応放散の早い時期に起きたと考えられるがキーウイの系統のみが何らの理由で持ち続けていたもののよう。
DAA1 遺伝子は現世鳥類の複数系統で独立に失われている (#ハヤブサの [ハヤブサ類の免疫の特殊性] など) ので他の機能で代替できるならば失われることがあっても不思議ではない。
Salve et al. (2024) Evolutionary diversity of CXCL16-CXCR6: Convergent substitutions and recurrent gene loss in sauropsids (preprint 版)
が免疫に関係する CXCR6 遺伝子を調べ、主なモチーフ (ここでは1文字記号で表記したアミノ酸配列) のが系統ごとに異なることを示した。哺乳類、カメ類、カエル類は DRF モチーフで、DRY はヘビ類とトカゲ類、鳥類の大部分は DRL で鳥類は爬虫類と特に共通性がなかった。
鳥類の中でもスズメ目に共通する CXCR6 に2塩基の欠損が見つかった。オウム類ではまとまった欠損があった (欠損パターンが違うので独立に生じたもの)。Eucavitaves (キヌバネドリ類、サイチョウ類、カワセミ類やキツツキ類を含む) の系統の後半オオブッポウソウ以降で独立にまとまった欠損が生じている。この遺伝子を見るとタカ、フクロウ、ハヤブサ類までが共通に見えるのが面白いところ。
2塩基の欠損以外の部分を見るとハヤブサ類とスズメ目は少し違って見え、またタカ、フクロウ類 (これらは比較的似ている) とも多少違っている。
備考:
*1: つまり生理学に馴染みのある者にとっては鳥類・哺乳類はそれぞれ互いにかなり外挿できる。遺伝子の働きなども同様。哺乳類、つまり代表的にはヒトの生理学や医学の知見がだいたい参考になる。哺乳類で何かの機能が見つかると鳥にも同じようなものがあるかを探すのはいかにもこの発想による。
自分も生理学に馴染みがあるので違いより共通性の高さの方が目につく感じがする
(しかも違いに着目すると「気のう」や色覚のようにしばしば鳥類の方が機能が上だったりする)。
「鳥類は哺乳類のようなもの」と考えるのは生理学志向の強い人かも知れない (形態や系統を主に見ている人にとっては見え方が違うかも知れない。生理学は化石に残りにくくテーマになりにくいかも)。
わかりやすい例を挙げると、両生類や爬虫類は毒を持っているものも多い。哺乳類でも毒を持つものは原始的な系統のものに限られるので、「高等動物ほど毒を持たない」が半ば常識となっていた。
それゆえに "毒鳥" の発見は衝撃を持って迎えられた次第。それでも毒を合成できる鳥は見つかっていないはず。
系統的に鳥類は爬虫類に含まれることを強調したい人は、鳥類がほとんど毒を持たないのはなぜかを考えてみるのもよいのではと思う。
さらに例えば「ハチクマはハチに刺されてもなぜ大丈夫なのか?」のような疑問も、鳥類は哺乳類と同じような反応を示すだろうと暗黙に仮定していることに由来するだろう。系統的には爬虫類の方に近いのだから爬虫類の反応を調べる必要があるはずなどの問いかけは聞いたことがない。
Farris and Doss (2025) Use of Haloperidol in Companion Psittacine Birds: 19 Cases (2012-2022) を見てオウム類の毛引き症にハロペリドール (Haloperidol) が用いられていることを知った。抗精神病薬でやはり脳内作用は我々に似ているのだと改めて納得した。
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アカノドカルガモ
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カルガモ
- 学名:Anas zonorhyncha (アナス ゾーノリュンカ) 帯のある嘴のカモ
- 属名:anas (f) カモ
- 種小名:zonorhyncha (合) 帯のある嘴 (zona (f) 帯、rynchos 鼻口部 Gk)
- 英名:[Spotbill Duck, Spot-billed Duck 分離前の名称], IOC: Eastern Spot-billed Duck
- 備考:
anas は#マガモ参照。
platyrhynchos は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は zone が長母音のみ。ラテン語 zona は冒頭のみ長母音。-rhyn- がアクセント音節と考えられる (ゾーノリュンカ)。長母音を伸ばさなくても構わないだろうが#マガモ同様でアクセント位置は合わせた方がよいだろう。
単形種。
以前は Anas poecilorhyncha 現英名 Indian Spot-billed Duck (その当時のこの種の英名は Spot-billed Duck、この英名を持つ種の現在の和名はアカボシカルガモ) の亜種とされていた。poecilo poikilos まだらの (pied, spotted) rhyncha 嘴 (Gk) で、Spot-billed Duck の名称は分離前の学名に由来。
"Fauna Japonica" 図版 にこの学名でカルガモの図版があるが雑種と考えていた模様。
記述 ではフランス語名 le canard a bec peint (嘴が塗られたカモ)。英名よりも上手に表現している。家禽種の変種 (variete domestique croisee) と考えていた。そのため学名を新たに付けていない。
日本ではカモが多くの数家禽になっていて2種の雑種の可能性がある (nous parait etre le produit d'un melange de ces deux especes)。
インドでは野生で見られるが日本では夏の標本がなかったとのことで、図版は残したものの家禽種の雑種とも考えてあまり重視していなかった模様。
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire の時代にはよく知られていて学名は現在と同じ、英名は Dusky Mallard とこれも今ひとつの名前。
留鳥であることはよく知られていて、Temminck and Schlegel は Anas poecilorhyncha と Anas boschas (現在のマガモ。学名は#マガモの備考参照) の雑種と間違えていたと記述している。
Seebohm は十分独立種で中国、モンゴル、シベリア東部にも分布するとしていた。
大橋 (2024) Birder 38(12): 52-53 でカルガモの英名が実態と合っていないことを気にされているがこの事情による。アカボシカルガモは和名の通りオスの嘴基部に赤い斑点がある (spot の由来)。
アカボシカルガモの原記載 (p. 23 に登場) は Forster (1781) (基産地セイロン = 現在のスリランカ) と早いのは当然でオランダ領セイロン (1658-1796) の時代。さらに東インド会社がコロンボを占拠し植民地化を始める (イギリス領セイロン、1796-1948) (wikipedia 日本語版より)。
インドの方がヨーロッパにとってはよく知られた地域で博物学の知識も豊富だったはず。
カルガモの現在の英名に "Eastern" が付いていることがヒントで、過去に本家となるものがあったはずと考えれば見つけることができる。
日本のカルガモを指して付けた英名ではなく本家から分家ぐらいの意味になる。
ちなみに Forster (1781) の記載はドイツ語とラテン語によるもので英名は登場していない。ドイツ語の記述や学名を参考にして Spot-billed Duck と付けられたものと想像できる。
同種時代の学名は Anas poecilorhyncha zonorhyncha。
当時は6亜種で Grey Duck の英名もあった (コンサイス鳥名事典。現在では Grey Duck の名称は事実上使われておらず、指す場合もオーストラリア・ニュージーランドの Grey Teal Anas gracilis を指すようである。
1991 年に Bradley Livezey が形態の研究から独立種として分離を提案、香港や中国南部でこれらの雑種ペアがまれであることから別種扱いとなった。アメリカ鳥学会が独立種としたのは 2008 年。
日本でもかなり最近まで Anas poecilorhyncha の学名、Spot-billed Duck の英名が使われていた。Chinese Spot-billed Duck の英語別名もある (以上 wikipedia 英語版より。この英名を見るとカルガモそのものも中国が本家と言えるかも知れない)。
[マガモとカルガモの遺伝子は同じ?]
マガモ (日本野鳥の会京都支部) の解説によれば、西海功氏 (当時国立科学博物館研究主幹) によると、マガモとカルガモの (ミトコンドリア) DNA は全く同じとのこと。
この記事では「種が分化してまだ時間が経っていない。あるいは、両種が交雑して遺伝子が溶けてしまったと考えられる」と話しているとある。
出典は「分子が明かす鳥の世界 (6) 遺伝的違いが小さいのに別種 マガモとカルガモなどに事例」西海 (2013) 森と人の文化誌 (414): 2013.6 p. 22-23 とのこと。
Saitoh et al. (2015) DNA barcoding reveals 24 distinct lineages as cryptic bird species candidates in and around the Japanese Archipelago
に結果があり、ミトコンドリアのチトクローム c オキシダーゼ I (COI) の部分配列 (648 塩基) の解析による。
この論文で差の小さかった組み合わせは マガモとカルガモ (0%)、アカコッコとアカハラ (0.15%)、
カッコウとツツドリ (0.3% 互いに単系統でない結果が得られている)、シマセンニュウとウチヤマセンニュウ (0.63%)、ケイマフリとウミバト (0.85%)。
大雑把な目安は 2% が種の境界程度とされる。
核遺伝子も含めたもう少し詳しい解析は例えば Wang et al. (2018) Incomplete lineage sorting and introgression in the diversification of Chinese spot-billed ducks and mallards
にあり、差異はあるが分離が不完全で、(この研究で調べた範囲の) 遺伝情報から2種のどちらに属するのかを判定することができないとの結論になった。
カルガモの方からマガモへの遺伝子浸透 [(genetic) introgression; 遺伝子移入などとも呼ばれる。解説は例えば長谷川 (2012) 鳥類における種間交雑と遺伝子浸透 参照]
が非対称に起きているらしい。
全ゲノムを扱った研究もなされている: Feng et al. (2021) Whole-genome resequencing provides insights into the population structure and domestication signatures of ducks in eastern China
この2種はやはり遺伝的に非常に近いが分離されないほどではない程度の微妙な違いがある。遺伝的には非常に近いが外見は大きく異なるとのこと。この2つの研究ではアカボシカルガモは分析に含まれていないのでさらに調べる必要があるとのこと。
これらの研究は中国のアヒルの起源を調べるためのもので、マガモとカルガモの外見がなぜそれほど異なるのかは深入りしておらず、関心のある研究者が調べるべしというところであろう。
ハクセキレイの亜種で遺伝型と外見による亜種分類が整合しないことが知られているが (#ハクセキレイの備考参照)、ヨーロッパのハクセキレイでは顔の模様を決める遺伝領域が一部明らかになりつつある。
これに類似する状況かも知れない。
「マガモとカルガモの遺伝子が同じ」話は日本の研究者によるもので比較的よく知られているため探鳥会などで話題になることもあるだろうが、外見を決める遺伝子が調べられているわけではないので「遺伝的に非常に近い」程度の表現にとどめておくのがよさそうである。以下の研究でもう少し判明した。
アカボシカルガモも含めた関係をミトコンドリアゲノムを用いて調べた研究: Nagarajan et al. (2024) Mitochondrial genome of the Indian spot-billed duck and its phylogenetic and conservation implications
カルガモとアカボシカルガモはかつて亜種関係とされていたほど近縁ではなかった。カルガモとマガモの方がグループを形成し、カルガモとマガモは系統樹サポート率 100% で分離された。我々としては別種として扱う分子遺伝学的証拠が増えたことになる。
系統的には確かに近いが、ミトコンドリアのチトクローム c オキシダーゼ I (COI) の部分配列は短いものだったのでたまたま完全に一致してしまった、というところだろうか。
簡易解析だが我々でも簡単に系統樹を見ることができる。MZ593724.1 から出発して BLAST を実行すればミトコンドリアゲノムの系統樹を見ることができる。確かにカルガモとマガモはものすごく近いことがわかる。
同じ系統樹に現れるヒドリガモとアメリカヒドリはほぼきれいに分かれるが分岐年代はむしろ浅い。
サンプル数は少ないがコガモとアメリカコガモも同程度に分かれる (将来また別種扱いに戻ってもおかしくない感じ)。
これらと比べるとカルガモとマガモはより古い時代に系統が生じているものの接触範囲が広いためか互いにずっとよく混ざっていることがわかる。
この解析の時点 (2025.2) では同じ枝にツクシガモが現れラベルのミス? すぐ実行できるので皆さんもお試しを。
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ミカヅキシマアジ
- 第8版学名:Spatula discors (スパトゥラ ディスコルス) 不調和な (染め分けられた?) スプーン(の嘴) (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas discors (アナス ディスコルス) 不調和な (染め分けられた?) カモ
- 第8版属名:spatula (f) スプーン
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:discors (adj) 不一致の、異なった
- 英名:Blue-winged Teal
- 備考:
spatula は#ハシビロガモ参照。
discors は短母音のみで "ディスコルス"。語源は dis- 離れる cor 心臓 とのこと。同じ意味で英語の discord とアクセント位置が一致する。
日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula 属 (spatula スプーン) に分離。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Spatula 属はハシビロガモ属。南北アメリカに分布する種。単形種。
種小名の由来はオスのまだら顔の模様に由来。BOU (1915) は飛翔時の特異な翼の模様を挙げている。
Gruson (1972) は不調和な鳴き声を挙げているが、記載時学名 Anas discors Linnaeus, 1766 (原記載) には習性や声の記載はないとのこと (The Key to Scientific Names)。
類似語の dispar の使われた用例が他にもあり、Falco dispar Temminck, 1825 でオジロトビ (現在の学名で Elanus leucurus) を指していた。この例では通常にトビ類と異なって最外側尾羽が短い点を "不規則な" と表現したものだった (#カタグロトビ備考参照)。
ミカヅキシマアジの原記載は確かに様々な色が挙げられていて色彩由来の印象を受ける。"通常のシマアジ/コガモ類とは違う" 点を同様に指摘した学名ではないだろうか。
Linnaeus 以前の学名 (有効な学名ではない) の一部に variegata を与えているものがあり、染め分けられた、変化に富むの意味 (Querquedula americana variegata 名称全体で "染め分けられた、変化に富むアメリカのシマアジ" の意味だった)。ヤマガラの記述に使われたものと同様だろうか。
伊藤・福田 (1996) Birder 10(3) 78-79 にミカヅキシマアジの日本初記録 (1996年1月) の紹介記事がある。伊藤 (2005) 日本におけるミカヅキシマアジの初記録。
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ハシビロガモ
- 第8版学名:Spatula clypeata (スパトゥラ クリュペアータ) 盾で武装したスプーン(の嘴) (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas clypeata (アナス クリュペアータ) 盾で武装したカモ
- 第8版属名:spatula (f) スプーン
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:clypeata (adj) 盾で武装した (clypeatus) 嘴の形状に由来
- 英名:(Common) Shoveler, IOC: Northern Shoveler
- 備考:
spatula は短母音のみで冒頭にアクセント (スパトゥラ)。
clypeata は1つめの a が長母音でアクセントがある (クリュペアータ)。この場合の -ata は所有の語尾ではなく clypeo (盾で武装する) の変化形とのこと。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula 属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。北半球に広く分布し、単形種。Spatula 属は Boie (1822) が導入した属でハシビロガモがタイプ種 (The Key to Scientific Names)。
[ハシビロガモ関連種の分子系統]
英名に Northern が付くのはオーストラリア・ニュージーランドに ミカヅキハシビロガモ Spatula rhynchotis Australian Shoveler、南アフリカに ケープハシビロガモ Spatula smithii Cape Shoveler、南米に アカハシビロガモ Spatula platalea Red Shoveler が存在するため。
これら3種が単系統をなしているわけではなく、日本鳥類目録第8版で用いられた分子系統分類によればミカヅキシマアジなど "Teal" の付く一部の種類と類縁関係がある。
後述のようにカモ類の嘴の形態進化の速度が速いので系統的に近縁であっても嘴の形が必ずしも似ていないこともあるのだろう。(シマアジや) ミカヅキシマアジとハシビロガモがそれほど似て見えないのに同属になったのは分子系統解析の結果を反映したもの。
シマアジを含むクレードとアカハシビロガモから始まるクレードを分けることは可能で、この場合は "ハシビロガモ" の名前のつく種は後者のみに含まれる。別属にするほどの分岐ではなかったため分けられなかったのだろう...、と思ったが#オカヨシガモ備考の
Chen et al. (2024) The Complete Mitochondrial Genome of the Siberian Scoter Melanitta stejnegeri and Its Phylogenetic Relationship in Anseriformes
の分子系統樹によれば別系統になっている。
この系統樹を受け入れればシマアジは Anas を含むクレードに戻される可能性がある。似て見えない印象の方が正しかったのかも。
つまり第8版でシマアジとハシビロガモが同属とされたが実はおそらく正しくなかった。
しかしシマアジを Anas 属に戻してしまうと Anas 属と Mareca 属が互いに単系統の関係にならないので、
Mareca 属を Anas 属に含めてしまうか (その場合 Mareca 属の種の学名が元に戻ることになる)、
シマアジとシロスジコガモ (現在の学名で Anas bernieri) Bernier's Teal (シマアジにあまり似ていない) を別属に分離することになるだろう。あまり似ておらず分岐もそこそこ深いのでこれらはそれぞれ単形属とする解もあり得る。
シマアジとシロスジコガモを別属にするならばマガモ類と {オナガガモ + コガモ} は同じ程度の分岐の深さなので別属の考えが出てくる可能性がある、というよりオナガガモとコガモがそれぞれの属を作るなど。以前のように全体を Anas 属とする方が簡単そうではある。
もし細かく分ける方を採用すれば Anas 属はマガモ、カルガモ、アカボシカルガモを含むごく少数のグループで、"本家" の属にほとんど残らなかった Accipiter 属のような状況となる可能性がある。アカノドカルガモは調べられていないようなのでこれらの結果待ちか。
判断は Mareca 属を残したいかどうかで決まりそう。
せっかく覚えたのに...となる可能性は十分ありそう。
またこの系統樹ではハシビロガモを含む Spatula 属2種が他の属の作るクレードに内包される形となっている。これらの属の記載年を調べると Spatula 属より新しいため、このクレード全体が Spatula 属となる可能性がある。
具体的には Tachyeres (フナガモ) 属やアフリカの Anas 属とされていたアカハシコガモ (現在の学名で Anas capensis) Cape Teal と南米のキバシオナガガモ (現在の学名で Anas georgica) Yellow-billed Pintail、
カンムリガモ Lophonetta specularioides Crested Duck、
ノドジロガモ Speculanas specularis Spectacled Duck が問題になる。
これらは見かけもかなり異なるのでまとめて Spatula 属とするのは抵抗がある可能性があり、その場合はこのクレードを4属に分けざるを得ない。その場合は Tachyeres はタイプ種フナガモ Tachyeres brachypterus 1種のみからなる属で、アカハシコガモとキバシオナガガモには別途属名が必要。
アルゼンチンフナガモ (現在の学名で Tachyeres leucocephalus) Chubut Steamerduck にも属名が必要となるが、このクレードにはタイプ種となっているカンムリガモがあるのでこの属にまとめられるのだろうか。
ざっと見たところでアカアシコガモ Amazonetta brasiliensis Brazilian Teal が含まれていないのでこの種の遺伝情報の解析待ちになるだろうか。この種は1種だけで属を作っているので属の再編を考える上ではあまり問題がない。
さてどうなるだろうか。
[鳥類の嘴の形態進化速度]
ハシビロガモの嘴の形が特異なのでここに含めておくが、鳥類全体で嘴の形態進化速度を比較した研究: Conney et al. (2017) Mega-evolutionary dynamics of the adaptive radiation of birds
系統樹を見てどのグループが形態進化速度が速いか見るだけでも十分面白い。カモ類は全般に進化速度が早く嘴が非常に重要な役割を果たしていることがわかる。
チドリ類は一部の系統。サイチョウ類やオウム類も速い。スズメ目ではカラス小目の最後、すなわちモズやカラス類、種子食の鳥で速いことがわかり常識ともよく一致する。昆虫食のスズメ目ではそれほどでない。
孤立系統でではフラミンゴ類など予想される通り。他は目レベルで全体的傾向のあるグループが多いが細かく見ると面白いところもありそう。
分子系統解析の結果、チドリ類の広義 Charadrius 属が単系統でないことが判明して IOC 14.1 以降一部の種が Anarhynchus 属となっている (#タゲリの備考参照)。
これは先取権の原則に基づくものではあるが、本来はハシマガリチドリ1種を指す属名なので非常に違和感がある。しかしこのように嘴の形態の進化は速い場合もあるのでそれほど目くじらを立てるほどではないのかも知れない。
嘴の形態は黙認して系統関係を重視することになるのか。
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オナガガモ
- 学名:Anas acuta (アナス アクータ) 尾の先が尖ったカモ
- 属名:anas (f) カモ
- 種小名:acuta (adj) 先の尖った (acutus)
- 英名:Pintail, IOC: Northern Pintail
- 備考:
acuta は u が長母音でアクセントもある (アクータ)。英語の acute も同じように長母音でアクセントがある。英語の acute をラテン語風に発音すればよい。
北半球に広く分布し、単形種だが亜種 (tzitzihoa メキシコ、modesta 太平洋離島の旧名 Sydney Island 現在キリバスの Manra 島) が記載されたこともあった (記載)。
この亜種は Tristram's pintail とも呼ばれ絶滅亜種とも考えられるが基亜種と区別できないとされた (wikipedia 英語版より)。
標本は3体残っているそうで原理的には DNA 判定をすることが可能なはずとのこと。
近縁種にインド洋南部の離島に生息する イートンオナガガモ Anas eatoni Eaton's Pintail があり、渡りによる長距離分散で定着して種分化した経緯が想像できる。
かつては Anas eatoni はオナガガモの亜種とされ亜種和名がつけられていた。ケルゲレン島の eatoni にコオナガガモ、クローゼット島の drygalskii にホソフコオナガガモ (コンサイス鳥名事典)。
現代のチェックリストでは別種 Anas eatoni とされている。Kerguelen Pintail, Southern Pintail の英語別名もある (このためオナガガモに "Northern" がつくことになる)。
ドイツ名 Spiessente (槍のカモ)、フランス名では Canard pilet で canard はカモで問題ないが、pilet はあまり使われる単語ではなく辞書に現れない。ラテン語 pilus (髪) あるいは pila (柱) 由来か。イタリア名は codone でこれもおそらく coda (尾。音楽用語にもある) 由来。
ロシア名は shilokhvost' で shilo (錐) khvost (尾)。中国語でも尖尾鴨または針尾鴨ですぐにわかる範囲の言語ではほぼ世界共通の名称のよう。
和名のオナガガモと同じ意味の英名 Long-tailed Duck はコオリガモの英名に使われている。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では Dafila acuta の学名が用いられていた。これはブラジルのカモに学名 Dafila caudacuta を与えて Stephens (1824) が用いた属名。後にオナガガモのシノニムと判定された。
新 Anas 属をさらにクレードに分ける可能性も考えられ、その場合は Dafila 属が生きるとのこと (Boyd の系統樹参照)。古い概念で根拠のない属名というわけではない。
Pintail Duck (Gould 1837) にあるように両学名は長期間併用されていた模様。Gould (1837) では Dafila 属は Leach によるものとしているが、これは手稿段階で正式に用いたものは Stephens とのことらしい (The Key to Scientific Names)。
尾が特徴的なので別属にしても不自然でない状態が続いていた模様。
他の (旧、広義) Anas 属のカモより首が長く骨も多いと図鑑にある。文献によるとオナガガモ 17-19 個、他の Anas 属は 16 個とある (#コブハクチョウの備考参照)。採食習性と関連させて観察すると面白いであろう。
Kaup (1829) が 記載 でオナガガモ1種に Trachelonetta 属を提唱している。trackhelos 首 netta カモ (Gk) の意味で、現在はもちろん使われていないがやはり細長い首 (Enten mit sehr langem, duennem Hals...) に注目した学名が存在した。
記載ではもちろん中央尾羽が長く伸びていることも特徴としている。
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シマアジ
- 第8版学名:Spatula querquedula (スパトゥーラ クゥェルクゥェドゥラ) クアークと鳴くスプーン(の嘴) (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas querquedula (アナス クゥェルクゥェドゥラ) クアークと鳴くカモ
- 第8版属名:spatula (f) スプーン
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:querquedula (f) Varro や Columella の述べたカモの一種。Skeat によれば声 (querq, kark) からの擬声語
- 英名:Garganey
- 備考:
spatula は#ハシビロガモ参照。
querquedula は短母音のみで2つめの音節にアクセントがある (クゥェルクゥェドゥラ)。-du- は長音でもなくアクセントもない。
que の音は kwe のように w を添える発音 (国名のクゥエートの発音同様)。"クゥェ" の表記で短く発音すればカモの声にも近そう。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula 属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。
一見矛盾するような属変更については#ハシビロガモの備考参照。
また戻される可能性も出てきた。
和名のシマは縞、アジは味がよいことからとされる。トモエガモの別名がアジガモだったことからも納得できる。
大橋 (2021) Birder 35(1): 66-67 にトモエガモの語源とともに考察があり、シマは島 (遠くから来る) と考える説もあるとのこと。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" での学名は Querquedula circia だった。Querquedula については#トモエガモの備考参照。
Anas Querquedula の 原記載。
Anas Circia はこの次のページで 記載。circia kirke (Gk) は不明の鳥でおそらく空想上のものか (The Key to Scientific Names)。
Fauna svicica の 111. が Anas Circia に該当する種で基産地はこの文献からスウェーデンと判定された、Linnaeus (1758) は Anas Querquedula を追加で挙げた経緯のよう。
おそらく Anas Circia が先に認識 (記述) されたとの考えからだろうか、Anas circia の学名はかなり使われていたようで、アメリカコガモがこの学名の種の亜種とされることもあった。Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire でも用いられていた。後に同じものと判明したらしい。
ユーラシアに広く分布する単形種。ヨーロッパの個体群はサハラ以南のアフリカにも渡り、かつて強毒性鳥インフルエンザ (H5N1) のナイジェリアなどのアフリカへの拡大の際にこの種の渡り経路を例に解説されたことがあった (#インドガンの備考参照)。
英名の由来はロンバルド語 gargenei (garganell の複数形)。水面をすくように採食することかオスの特徴ある (ねじを巻くような音と形容される; 渡り途中に滞在中の個体でも聞くことができる) 声からか。イタリア語 garganella (瓶から連続的に飲む意味) にも似ている。
遡ると garg- 喉 (L)、あるいは gargling (うがいすること。日本語でもうがい薬をガーグルと言う) gargareon 口蓋垂、気管 (Gk) (American Heritage Dictionary)。
英語別名に Cricket Teal があり繁殖期のオスの鳴き声が特徴的 [Fitter and Richmond (1966, 1968) Collins pocket guide to British birds (Revised Edition)]。
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トモエガモ
- 第8版学名:Sibirionetta formosa (シビリオネーッタ フォールモーサ) 美しいシベリアのカモ (IOC も同じ)
- 第7版学名:Anas formosa (アナス フォールモーサ) 美しいカモ
- 第8版属名:sibirionetta シベリアのカモ Sibiria シベリア (L) netta カモ (Gk)
- 第7版属名:anas (f) カモ
- 種小名:formosa (adj) 美しい (formosus)
- 英名:Baikal Teal
- 備考:
sibirionetta は外来語を含む合成語で発音はよくわからないが、ギリシャ語 netta の冒頭は長母音なので伸ばすかも知れない。この音はアクセント音節 -net- とも一致するのでわかりやすさを重視して伸ばす方を採用した (シビリオネーッタ)。
formosa は「美しい」の形容詞では前2つが長母音。2番めにアクセントがある (フォールモーサ)。固有名詞で台湾の意味の Formosa も発音は同じとのこと。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Sibirionetta 属 (Sibiria シベリア L netta カモ Gk) に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。
Sibirionetta 属はトモエガモ属で単形属。単形種。東シベリアに高緯度まで繁殖分布を持つ東洋特産のカモ。
属の記載は Boetticher (1929) による。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では現在の学名が用いられているが、Nettion formosum を別名としていた。
nettion は小さなカモ (Gk)。Nettion 属はコガモをタイプ種として Kaup (1829) が設けたもの。Entchen (小さなカモ) と意味が記述されている (The Key to Scientific Names)。
Nettion はギリシャ語指小辞 -ion に基づいて中性の属で formosum も中性の形となっている。
ドイツ語の -chen (小さな) も中性名詞を作る語尾で性が一致している (Maedchen メートヒェン 少女 も中性名詞で生物学的な性と文法上の性が必ずしも一致しないこともわかる)。
同じく別学名とされていた Anas glocitans Pallas, 1779 (glocitans コッコッなどの声を出す) も広く用例があり、Bemaculated Duck の英名で呼ばれていた。
最初に紹介したのが Pennant だったため、こちらの学名が優先されることになった模様。Bemerk. Reise Russ. Reich に出版で記載年は後に 1775 と判定された。
Baikal Teal (Historical Rare Birds)。
Querquedula formosa の学名も使われていたことがわかる。この属はシマアジをタイプ種として Stephens (1824) が用いたもの。しかし同じ属名はコガモをタイプ種として Eyton (1838) が用いるなど混乱していた模様 (The Key to Scientific Names)。
これらの属名は古く使われていたものの、シマアジやコガモなど異なった系統を指していたためかなり後になるが Sibirionetta が採用された模様。
種小名に使われる formosa はここでは美しいの意味。ポルトガル語由来で台湾を指す Formosa があり、この意味で使われる場合は formosae (名詞の属格), formosana / formosanus の形になる。種小名になぜ formosa と formosae (アオバトなど) の両方があるのか気になる方もあるだろうが、このような事情による。
formos- の入っている日本の鳥の学名では、調べた範囲でトモエガモのみが「美しい」の形容詞が使われていた。
Ogawa (1908) に別学名としてリストされている Nettion formosum はかなり用例があり広く使われていたよう。この学名で Nettion を中性名詞、formosum を形容詞と考えて活用させていたことがわかる。
Seebohm (1890) The birds of the Japanese Empire では英名に Spectacled Teal を用いていた。種小名にふさわしい英名だった。
ロシア名は klotkun (または chirok-klotkun) でこれも klokhtat' というかつてニワトリが卵に呼びかける声 (vo-kvo, klyu...klyu...) 由来とのこと (Kolyada et al. 2016)。
Dement'ev and Gladkov (1952) にも音声の記述があり、klo, klo, ... と鳴くとのことで遠くからも聞こえるとのこと。春にはオスは飛んでいる時もとまっている時もずっと鳴いている。メスの声はマガモに似ているとのこと。
もう一つ学名シノニムが掲載されており、Anas cucullata Fischer, 1831。カムチャツカで記載。cucullatus フードをかぶった。
XC380276 (Andrew Spencer 2017) に繁殖地 (ヒメクビワカモメの繁殖地) での音声がある。越冬地での録音は難しいようでバードリサーチ鳴き声図鑑にも2024年9月現在収録されていない。
トモエガモの鳴き声 (hideo suzuki 2023) に動画あり。
石川県片野鴨池に例年多く越冬し何度も訪問したが距離も遠くて音声が記録できる印象を受けなかった。むしろ少数個体が近くで見られる条件で渡り前の春に声を聞くことができることがあるかも。Anas glocitans やロシア名の由来となっている繁殖地で鳴き続けるような声は越冬地で聞くことは無理かも知れない。
中国名は中国の戯曲 (英語で chinese opera) で使われる色彩を施した顔 (painted face) に相当する単語を用いる名称が一般的のよう。画像検索で見ていただく方がわかりやすい。
Ukolov et al. (2018 初出、2024 再掲) The Baikal teal Sibirionetta formosa in the lower Indigirka River basin (pp. 4560-4563)
ヤクーチアのインディギル川河口での繁殖について。越冬地での数の変動の情報はあるが繁殖地の情報はほとんどない。20 世紀中頃まではトモエガモはインディギル川で最も数の多いカモで海に近いツンドラ以外の全域に生息していた。1960 年の調査でも同地域で最も数の多い水鳥だった。
1993-1995 年の調査でインディギル川河口デルタで繁殖の証拠は得られなかった。1999 年も同様だった。
2018.6.28 の調査で抱卵中の巣がみつかり、オスはすでに去った後だったとのこと。この調査から繁殖密度を推定している。
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コガモ (アメリカコガモ が分離されることもある)
- 学名:Anas crecca (アナス クレッカ) コガモ
- 属名:anas (f) カモ
- 種小名:crecca (合) コガモ Kricka、Kracha コガモ スウェーデン語 (声から擬声語)
- 英名:Teal, IOC: Eurasian Teal, WGAC: Green-winged Teal
- 備考:
anas は#マガモ参照。
原記載 (Linnaeus 1758)。Fauna svicica の 109. とのことで Linnaeus (1746) は当初は Anas fusca の学名を用いていた。
スウェーデン語では Swarta とある。どちらにも種小名由来は明確に示されていないので学名由来は後世の研究によるものらしい。スウェーデン語の現在の名称は kricka だが Linnaeus は使っていなかったように見え、語源関係は逆順なのかも知れない。しかし当時から俗名として存在したかも知れない。
歴史的なスウェーデン語名称では arta (最初の a の上に丸が付く。wikipedia スウェーデン語版より) で Linnaeus の時代にはこちらの方が学術的に使われていたかも知れない。
"クレッカ" 以外の読みは考えにくい気がする。
carolinensis は i が長母音、-nen- がアクセント音節で短母音 (カロリーネンスィス)、長母音 (カロリーネーンスィス) のいずれもある。場所の -ensis は伸ばすとすれば後者だろうか。
日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でもコガモに2亜種ある立場だが、世界の主要リストでは立場が分かれており、IOC、HBW/BirdLife などは carolinensis (カロライナの) を独立種アメリカコガモ Anas carolinensis (英名 Green-winged Teal) として認めている。この場合2種とも単形種となる。
アメリカ鳥学会、Clements、eBird などでは亜種扱い。アメリカ鳥学会もかつては別種扱いとしていた。
オナガガモに Dafila 属を認める立場であればコガモやアメリカコガモは Dafilonettion 属となる (Boyd の系統樹参照)。
もう1種近縁の種があり、キバシコガモ Anas flavirostris (英名 Yellow-billed Teal) があり、コガモ、アメリカコガモ、キバシコガモの関係は現在ある限られた遺伝情報だけでは解決できず、核 DNA の解析が必要とある (wikipedia 英語版)。ここでは IOC 分類に従った英名を挙げておく。
SACC Split Anas crecca (Green-winged Teal/Common or Eurasian Teal) into two species: A. crecca (Common Teal or Eurasian Teal) and A. carolinensis (Green-winged Teal)
ではこれまで通り亜種として扱う判断。文献も示されている。
Working Group Avian Checklists では version 0.04 より亜種扱いで、おそらく IOC もこれに従うと考えられるので世界的には同種の扱いにまとまりそう。その場合は英名は Green-winged Teal。
IOC 14.2 はまだ従来通り2種に分けている。
British list set for major taxonomic shake-up によれば BOU も WGAC に従ってアメリカコガモを分離しない見通しとのこと。
該当論文 Spaulding et al. (2023) Population genomics indicate three different modes of divergence and speciation with gene flow in the green-winged teal duck complex。アリューシャン列島などの個体を調査。
核 DNA の UCEs も用いた。ミトコンドリアと核 DNA で系統関係に違いがある。ミトコンドリアではこれまで提案されていた種が分離されるが核 DNA では系統が混ざってしまって互いに単系統関係をなさない。これらも証拠として同種の扱いとなったものと思われる。
ただし用いられたのは交雑帯に近い限られた地域のものなので、ユーラシア大陸や北米全体でみると少し描像が違ってくるかも知れない。Latest IOC Diary Updates にも議論があり、それを根拠とするならばミトコンドリア DNA を根拠としたツメナガセキレイの分離も同様の問題があるとの指摘がある。
さらにこの論文ではサンプルした個体が交雑個体でない根拠を示していない (それを議論すると論文自身の論旨が怪しくなる) との指摘がある。
コガモとアメリカコガモを同種とする扱いも限られた情報に基づくまだ暫定的なものと考えたほうがよさそう。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では Nettion 属だった (#トモエガモの備考参照)。
[飛べないカモの進化]
南半球 Anas 属でコガモに近い飛べないカモの分子系統研究: Rosinger et al. (2024) The radiation of Austral teals (Aves: Anseriformes) and the evolution of flightlessness。
ハイイロガモ Anas gracilis Grey Teal (ニューギニア、ニューカレドニア、オーストラリア、ニュージーランド) と アオクビコガモ Anas castanea Chestnut Teal は分子系統的には互いに単系統の関係になく同種とみなすのが適切になりそう。
統一された場合は Anas castanea となるが、世界のリストではまだ別種扱い。分子系統的な関係と表現型の違いをどのように解釈するかここでも問題となりそう (互いに単系統の関係にないので単純に亜種ともできない)。
#ミコアイサの備考のように、長距離を渡るカモ類から南半球へ複数回の進出があった。
カモ類は一般に non-sequential molt で一時的に飛べなくなるが、飛べないカモも結構ある (渡りをしないので馴染みがないだけのよう)。
Terrill (2020) Simultaneous Wing Molt as a Catalyst for the Evolution of Flightlessness in Birds のように翼の同時換羽は例えば島や開けたニッチで迅速に飛翔性を失う前適応か、との議論がある (#ハチクマ備考の [タカ・ハヤブサ類の初列風切の換羽様式] から)。
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アカハシハジロ
- 学名:Netta rufina (ネーッタ ルーフィナ) 赤みがかったカモ
- 属名:netta (合) カモ (netta, nessa カモ Gk。The Key to Scientific Names)
- 種小名:rufina (adj) 赤みがかった (rufinus)
- 英名:Red-crested Pochard
- 備考:
netta は起源のギリシャ語に従えば長母音で "ネーッタ"。
rufina は u が長母音でアクセントもここにある (ルーフィナ)。
カザフスタン、モンゴルなど中央アジアを中心に分布する種。日本でも定常的に迷行例があるが、ヨーロッパにも多数の迷行例がある。単形種。
Netta 属、Aythya 属のカモ類のロシア名は nyrok (潜るもの)。
10 秒以内の短く浅い潜水で Aythya 属よりも水中生活に適していない。嘴の形もむしろ淡水ガモに近い。Aythya 属と淡水ガモの中間的な性質を持つ (コンサイス鳥名事典)。
最新の分子系統研究では Netta 属は単系統でない可能性があり、アカハシハジロ (タイプ種) のみが Netta 属に残る可能性がある (#オカヨシガモの備考参照)。
アカハシハジロの祖先系統にあたるバライロガモ Rhodonessa caryophyllacea Pink-headed Duck は IUCN CR 種。かつてはインド、バングラデシュ、ミャンマーに生息していたが 1950 年代より目撃がなく絶滅した可能性がある。
可能性のある地域で調査されているが確認されていない。証拠不十分な目撃事例がないわけではない。
最後の写真は 1925 年ごろに撮られたもの (wikipedia 英語版より)。
人為由来で絶滅した可能性が考えられるが、Ericson et al. (2017) A genomic perspective of the pink-headed duck Rhodonessa caryophyllacea suggests a long history of low effective population size
によれば 280 万年前に分岐し、少なくとも過去 10 万年は実効個体数は低いままであったことが判明した。生態的理由などで個体数を増やすことができなかった可能性があるが詳細は不明。
もともとまれな種であったが人為的影響で簡単に滅んでしまったのだろうか。
ちなみにアカハシハジロはかつては数が減少しつつあると考えられていたが、近年はヨーロッパの目撃例が増えており (参考: Red-crested Pochard BTO。英国では著明に増加。飼育個体由来も考えられる)、数はむしろ増えていると推定されている。
ヨーロッパ繁殖地でも見つかりにくい種だそうで、日本の最近の目撃例の増加は個体数が増えたのか観察者が増えた効果なのか判断が難しいかも。
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オオホシハジロ
- 学名:Aythya valisineria (アユテュア ウァルリスィネリア) セキショウモを好む海鳥
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:valisineria (合) セキショウモの (海草 vallisneria セキショウモの属名)
- 英名:Canvasback
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
valisineria の発音はよくわからないがすべて短母音とすると -ne- がアクセント音節で、"ウァルリスィネリア" となる。
北米の種で単形種。
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アメリカホシハジロ
- 学名:Aythya americana (アユテュア アメリカーナ) アメリカの海鳥
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Redhead
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
americana は -ca- の a が長母音でアクセントもある (アメリカーナ)。
北米の種で単形種。
部分的な托卵 (任意托卵) が知られている。アニマ 1992年6月号 pp. 78-81 にこの種の研究の第一人者の Sorenson の解説の翻訳記事がある (#カッコウの備考 [托卵鳥の同種認識] も参照)。
托卵を行う/自身で育てる両方の戦略を持つ。1988 年の日照りの年は水位が低く、巣が見えやすくなってしまうためにほとんどのメスは托卵を行ったとのこと。抱卵中はメスにとっても危険なため、変わりやすい大草原の環境に適応した行動かとのこと。
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ホシハジロ
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アカハジロ
- 学名:Aythya baeri (アユテュア バエーリ) ベールの海鳥
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:baeri (属) baer の (プロイセンの発生生物学者でシベリアを探検した Karl Ernst von Baer Edler von Huthorn に由来。反ダーウィン派だったとのこと。ドイツ語でもウムラウトなしでそのまま Baer と綴るようだが、ロシア名も別にあってベールと読まれていたことがわかる。日本語読みはそれに従った)
- 英名:Baer's Pochard
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
baeri は e を長母音として発音するか次第だが、"バエリ" または "バエーリ"。後者の方が原音に近い可能性があるためこちらを採用した。
東アジア地域のみで繁殖する希少なカモ。単形種。メジロガモと同種と考えられたこともあった。アカハジロ、メジロガモを含む目の白い潜水ガモに亜属 Nyroca (メジロガモの学名語源参照)が提唱されたこともあった。Aythya 属、Betta 属などを Aythyini 族とまとめることは受け入れられているが、アカハジロ、メジロガモの分子遺伝学的研究はまだ不十分である (wikipedia 記述の段階)。
現在ではゲノムアセンブリが報告されている [Zhang et al. (2023) Chromosome-level genome assembly of the critically endangered Baer’s pochard (Aythya baeri)。この論文の段階で個体数は 150 と 700 の間と見積もられている]。
メジロガモについても 2021 年段階でミトコンドリアゲノムが解読されており、分子系統解析が得られるのは時間の問題と思われる。
かつてはロシア南東部と中国東北部でも繁殖していて日本を含む南へ渡っていたとされる。現在は中国の北部から中部で留鳥。現在では世界の成鳥の個体数は 1000 羽を割っている可能があり、さらに減少中と考えられている。2010 年以降北京より北側では見られなくなったと報告されている。
繁殖個体数が越冬個体数よりも少ないため、未知の繁殖地があるとされており、中国で従来記載の繁殖地から遠く離れた新しい繁殖地の発見も報告されている。2010-2011 年以降中国本土以外での定常的な越冬個体群はなく、迷鳥となっている。中国本土の越冬地でも数が大きく減少している。
IUCN 3.1で CR 種。East Asian-Australasian Flyway Partnership (EAAFP) による アカハジロタスクフォース が作られた。2021 年中国の国家一級保護種に指定された (New protection for Baer’s Pochard in China)。
2022 年に北京動物園で飼育個体群が確立され、将来の野生再導入計画がある [Yong et al. (2022) The first captive population of Baer's pochard in China was established] (wikipedia 英語版)。
なお中国の国家保護種は 国家重点保護野生動物目録 (wikipedia 中国語版) で見ることができる (これらを見る時には学名のありがたみがわかる)。
この時に新たに指定された鳥類については China updates list of species with special protection に解説がある。
1989 年に「国家級保護動物」のリストが出されてから2種追加されただけだったそうである。2021 年の改訂が 32 年ぶり初めての大幅な見直しとなった。従来は大型種のように目立つものが対象だったが、研究が進んで (中国内の動物学者も圧倒的に増えた)、科学ベースのリストになり、経済的価値から生態系や生息地の保護へのシフトを明確にしたとのこと。
今後は5年程度で見直すことにした (A new hope for China’s endangered animals)。
シマアオジもこの時に登場。
又野 (2019) アカハジロがヒシの実を食べる行動 (大阪の飛来数記録の表もあり)。
この種の音声記録は公表されているものでは世界にまだ1例もない (#コウライアイサの備考参照) が、おそらく飼育下で記録されているものと思われる。
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メジロガモ
- 学名:Aythya nyroca (アユテュア ニュローカ) 潜るカモ
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:nyroca (外) nyrok 潜る者 (< nyryat' 潜る) 露
- 英名:Ferruginous Duck
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
nyroca は任意の読み方が可能だが、原音を活かすならば "ニュローカ" と伸ばしてここにアクセントを置くとよい。
ラテン語化 (おそらく女性形を意識) して語尾が変えられているが、ロシア語で nyroka の綴りの場合はアクセントが移動して o は短く、語末の -a がアクセントになる。
原記載 は原形 (主格) を採用している。女性名詞の当時の属 Anas に置くために -a を追加したものと思われる。
Aythya 属も女性名詞のため一見わからないが、もし男性名詞の属に変わっていたら語尾の不整合を感じたかも知れない。
和名は外見からかも知れないが、英語別名に White-eyed Pochard があり英名を訳したものかも知れない。
東欧からロシア西部、中央アジア、中国西部、アフリカ北部などに主に分布する。単形種。日本で記録される数はアカハジロと同程度であるが、世界的個体数はメジロガモの方がずっと多く、IUCN 3.1 で NT 種。#アカハジロの備考も参照。
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クビワキンクロ
- 学名:Aythya collaris (アユテュア コルラーリス) 首輪のある海鳥
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:collaris (属) 首輪のある (collare -is (n) 首輪)
- 英名:Ring-necked Duck
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
collaris は中央が長母音でアクセントがある (コルラーリス)。
記載時学名 Anas collaris Donovan, 1809 (記載) で英名 Collard Duck、記述も neck encircled with a sub-ferruginous ring および a pretty and very distinct collar of deep ferruginous とあってこの collaris は "首輪のある" で問題ない (#イワヒバリの備考参照)。
和名通りの特徴を探してよい。
北米の種で単形種。かつて東京都不忍池で 1984 年から 1994 年に 11 年連続の飛来記録があり、(少なくとも関東在住の古参バーダーには) あまり珍しくなくなった印象を受けるが飛来はやはりまれ (当時の不忍池はカモ類の餌付けが行われており、一面カモだらけ、クビワキンクロも足元にいた光景もあり双眼鏡すら不要で全く珍しさを感じさせなかった。さらにコスズガモまで飛来していた。Birder 誌にも当時のいろいろな逸話が掲載されていた)。
日本鳥学会誌にも他所の記録論文が複数出ている。
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キンクロハジロ
- 学名:Aythya fuligula (アユテュア フーリーグラ) スス色の喉の海鳥
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:fuligula (f) スス色の喉の (fuligo (f) スス gula 喉)
- 英名:Tufted Duck
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
fuligula は fuligo (フーリーゴ) すす と長母音が並ぶ (#カワビタキも参照)。gula は短母音。i にアクセントがあり "フーリーグラ"。
母音を伸ばさない場合もアクセントはこの位置。
属名の由来の aithuia はアリストテレス他の記載した未同定の海鳥。ミズナギドリ、ウ、カモ、ウミスズメなどの解釈がある。ギリシャ神話で水鳥に変えられた Cygnus の母親に Thyr (Thryie) があり関連する可能性がある (The Key to Scientific Names)。ユーラシアに広く分布する単形種。
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スズガモ
- 学名:Aythya marila (アユテュア マリラ) 少し黒い海鳥
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:marila (合) 少し黒い (mauro 黒い Gk、-illa (指小辞) 小さい)、charcoal embers
- 英名:Scaup, IOC: Greater Scaup
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
marila はすべて短母音のみと考えられ "マリラ"。
2亜種あり、日本で記録されるものは従来基亜種 marila とされていたが、「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) にて nearctica (新北区の; 北米を指す) に変更された。
Howard and Moore では現在この分類になっている。
Marchowski and Leitner (2019) Conservation implications of extraordinary Greater Scaup (Aythya marila) concentrations in the Odra Estuary, Poland
の解説によれば世界でフライウエイに応じたいくつかのグループがあり、(1) A. m. nearctica 北米のグループで4つのフライウエイ、(2) A. m. nearctica 東アジアのグループ、(3) A. m. marila アジア北西部とヨーローパ北東部で繁殖しカスピ海や黒海周辺で越冬、(4) A. m. marila ヨーローパ北東部で繁殖し北海やバルト海周辺で越冬、
の4つに分けられるとのこと。日本の個体群は (2) にあたるようである。
Brazil (2009) "Birds of East Asia" でもこの亜種となっている。
東アジアの個体群はかつて中間にあたると考えられて mariloides (marila スズガモ -oides に似た Gk) が使われたことがあったがこれは本来コスズガモに与えられた学名で無効とのこと (wikipedia 英語版)。
文献: Banks (1986) Subspecies of the Greater Scaup and their names (それ以前の分類概念経緯も記載されている)。
この文献では東アジアの個体をヨーロッパのものと区別できないためユーラシアをまとめた marila としていた。
mariloides (学名の正統性はともかく) を認める立場であれば東アジアの個体群はこれに属するが、Avibase でも nearctica のシノニムとして扱っている。Howard and Moore は 2nd edition まで mariloides を認めていた。
コンサイス鳥名辞典では北ヨーローパから西シベリア北部をオオスズガモ A. m. marila、東シベリア、アラスカ、カナダ北部を A. m. mariloides としていた。
今後の基亜種の名前はオオスズガモかも知れない。
他に Lesser Scaup (コスズガモ) が存在するため英名は Greater Scaup が望ましい。
scaup の語源はスコットランド語で貝類の繁殖場所 (shellfish bed) のことか、あるいは鳴き声からとのこと (wikipedia 英語版より)。ロシア語ではスズガモ類は chernet' で「黒いやつ」ぐらいの意味だろう。ドイツ語では Bergente < Berg (山) Ente (カモ) で生態をあまり反映していない?
北米での別名は Bluebill (北米に生息するコスズガモの Little Bluebill に対応)。
Marchowski and Leitner (2019) によれば基亜種は近年減少傾向が目立つとのこと。
wikipedia 英語版によれば 1980 年代から減少が始まったとのこと。
記載時学名 Anas Marila Linnaeus, 1761 (原記載) 基産地 Lapland (ラプランド)。
Fuligula 属が使われていたことがあり、これは Swainson (1837) が用いた属で Gray (1855) がホシハジロがタイプ種としたもの、
Stephens (1824) がキンクロハジロの種小名を属名に昇格したものがあった。後者の方が早いが前者がスズガモ類を指して使われていたよう (#コスズガモ参照)。
Aythya Boie, 1822 が早いためにこちらが使われるようになった (The Key to Scientific Names の情報より)。
実は Fuligula 属の方が多く使われており、Aythya 属の記載が判明したのはかなり遅い時期になったものと想像できる。
種小名から属名への昇格に伴って名付けられた Fuligula cristata Stephens, 1824 (参考) の学名もあった (冠のあるスズガモの意味)。(#ノスリの備考参照)。
Fuligula vulgaris Hodgson, 1844 (参考) の用例 (ネパール) があったが単に普通のスズガモの意味で属を代表する学名を意図したものではなさそう。
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コスズガモ
- 学名:Aythya affinis (アユテュア アフフィーニス) スズガモに似た海鳥
- 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
- 種小名:affinis (adj) 隣の、姻戚関係の。この場合はスズガモに似たの意味。
- 英名:Lesser Scaup
- 備考:
aythya は#ホシハジロ参照。
affinis は -fi- の i が長母音でアクセントもここにある (アフフィーニス)。ad + finis が語源。-ff- を単音で、i を短母音にする英語読みでも実用上問題ないだろう。
北米の種で単形種。
英名の別名 Little Bluebill, Broadbill。
記載時学名 Fuligula affinis Eyton, 1838 (原記載) 基産地 North America (北米)。スズガモに似ているゆえの命名由来はここに記されている。
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コケワタガモ
- 学名:Polysticta stelleri (ポリュスティクタ ステルレリ) シュテラーの多くの斑のある鳥
- 属名:polysticta (合) 多くの斑のある (poly- (接頭辞) 多くの stikos 斑 Gk、-tus (接尾辞) 〜を備えている)
- 種小名:stelleri (属) ステッラーの (ドイツの博物学者 Georg Wilhelm Steller に由来)
- 英名:Steller's Eider
- 備考:
polysticta は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-stic- と区切るならば "ポリュスティクタ" (#ハギマシコの考察参照)。
stelleri は人名由来だがラテン語風に読んで stel-le-ri と区切れば "ステルレリ" となる。"レ" を伸ばすなど原語の音を優先するかは好み次第でよいだろう。
極北の種で単形属で単形種。英語 eider の語源はアイスランド語 aedr に由来すると考えられるがその語源は不明。
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ケワタガモ
- 学名:Somateria spectabilis (ソーマテリア スペクタービリス) 美しい羊毛の体の鳥
- 属名:somateria (合) 羊毛の体 (somatos 体 erion 羊毛 Gk)
- 種小名:spectabilis (adj) 美しい、見える
- 英名:King Eider
- 備考:
somateria は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は somatos の冒頭が長母音。アクセントは -te- の音節と考えられる (ソーマテリア)。このギリシャ語由来の多くの単語は so- を長音としているので (英語の -some で終わる生物用語) 同様に伸ばすのが適切と思える。
spectabilis は a が長母音でアクセントもここにある (スペクタービリス)。
極北の種で単形種。この属ではヨーロッパ等に比較的普通のホンケワタガモ Somateria mollissima (英名 Common Eider) が世界的には有名。ケワタガモの名前はケワタガモの産座の綿羽が良質の保温材の採取対象とされてきたことによる。
コンサイス鳥名事典によれば執筆当時も商業利用されていたそうである。同書によれば別名アカハナケワタガモがあるとのこと。
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シノリガモ
- 学名:Histrionicus histrionicus (ヒストゥリオーニクス ヒストゥリオーニクス) 役者のような鳥
- 属名:histrionicus (adj) 役者のような (histrio -onis (m) 役者 -icus (接尾辞) 〜に関連する)
- 種小名:histrionicus (トートニム)
- 英名:Harlequin Duck (道化師の意味でフランス語由来)
- 備考:
histrionicus は o が長母音でアクセントもここにある (ヒストゥリオーニクス)。histrio の最後が長音。
記載時学名 Anas histrionica Linnaeus, 1758 (原記載) 基産地 America, restricted type locality, Newfoundland, ex Edwards (Edwards がニューファンドランドに限定)。
Histrionicus 属は Lesson (1828) が導入したもの。記載。亜属の扱い。Cuvier を引いているが Cuvier は Garrot とフランス語名で表記しただけのため学名と認められなかったよう。1種のみを属にしたため当時は種小名を特に与えていなかった。
現代のフランス語では Garrot はキンクロハジロ類を指すとのこと (wiktionary)。
Histrionicus 属の提唱以前は Clangula 属とされたことがあった。Clangula torquata Brehm , 1855 (参考)。"首飾りのある Clangula" の意味で属変更に伴う一種の改名。
Hartert (1910-1922) p. 1361 に情報あり、当時のドイツ語名 Kragenenete も Clangula の意味を反映している。
単形属で単形種。日本でも北海道と東北地方山地渓流で繁殖する。
wikipedia 日本語版には「太平洋岸繁殖個体群を H. h. pacific として分割する説もあったが、有力ではない」とあるが pacificus (太平洋の) が正しい。
記載時学名 Histrionicus histrionicus pacificus Brooks, 1915 基産地 Cape Shipunski, Kamchatka (Avibase による)。Clements 2017 まで、Howard and Moore 2nd edition などで亜種扱い。現在の世界の主要リストではシノニムとされる。
Scribner et al. (2024) A phylogeographical study of the discontinuously distributed Harlequin Duck (Histrionicus histrionicus)
に氷河期の大西洋のレフージアから各地の個体群に広がって太平洋由来の個体群と二次的に接触した描像が得られた。
ロシアのハバロフスク地方のブレインスキー保護区で放棄された卵から育てて最終的に野外に放った事例が紹介されている (#ハチクマの備考も参照)。シノリガモの黒子ちゃん - またの名を 異類の中の同類、同類の中の異類 に翻訳を掲載。
シノリガモは流れの速い河川のそばに営巣し、まったく系統の異なるカワガラス類と習性や隠蔽色が似ているとのこと: 参考 Gray Camouflage: Dippers and Female Harlequin Ducks (Bob Sundstrom, BirdNote 2019)。
ここで扱われている種類はメキシコカワガラス Cinclus mexicanus American Dipper でヨーロッパのムナジロカワガラス Cinclus cinclus White-throated Dipper に対応するとされているが、日本のカワガラスも同様に考えてよいだろう。
シノリガモやカワガラス類の生息しない南米ではヤマガモ Merganetta armata Torrent Duck が同じニッチを占めるとのこと。日本の種ではツクシガモの系統が比較的近い。シノリガモはアイサ類に近い系統で異なっている。
ニュージーランドのアオヤマガモ Hymenolaimus malacorhynchos Blue Duck も同様。古く分岐したものだがアカハシハジロや Aythya 属などの潜水ガモの祖先に相当する系統と考えられている。
高地で潜水するヤマガモの生理学的適応については例えば Dawson et al. (2016)
Mitochondrial physiology in the skeletal and cardiac muscles is altered in torrent ducks, Merganetta armata, from high altitudes in the Andes。
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アラナミキンクロ
- 学名:Melanitta perspicillata (メラニッタ ペルスピキルラータ) 眼鏡をかけた黒いカモ
- 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い netta カモ Gk)
- 種小名:perspicillata (adj) 眼鏡をかけた (perspicillum 眼鏡 -ata (接尾辞) 〜が備わっている)
- 英名:Surf Scoter
- 備考:
melanitta は#ビロードキンクロ参照。
perspicillata は perspicillum は短母音のみ (ガリレオが 1610 年に作った単語とのこと)。
-ata は所有で冒頭が長母音でアクセントもある (ペルスピキルラータ)。
主に北米の単形種。
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ビロードキンクロ (アメリカビロードキンクロ が分離された。ビロードキンクロの学名も変わった)
- 第8版学名:Melanitta stejnegeri (メラニッタ ステイネゲリ) シュタイネゲルのカモ (IOC も同じ)
- 第7版種学名:Melanitta fusca (メラニッタ フスカ) 黒ずんだカモ
- 第7版亜種学名:Melanitta fusca stejnegeri (メラニッタ フスカ ステイネゲリ) シュタイネゲルの黒ずんだカモ (代表的亜種。他亜種あり)
- 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い netta カモ Gk)
- 第8版種小名:stejnegeri ノルウエーの動物学者 Leonhard Hess Stejneger の
- 第7版種小名:fusca (adj) 黒ずんだ (fuscus)
- 第7版亜種小名:stejnegeri ノルウエーの動物学者 Leonhard Hess Stejneger の
- 英名:(White-winged Scoter アメリカビロードキンクロ), IOC: Stejneger's Scoter
- 備考:
melanitta は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は netta ならば冒頭が長母音で同様に伸ばすかも知れない。-nit- にアクセントがあることは疑いないので "メラニッタ" としておく。"メラニータ" でもおそらく構わない。
stejnegeri は規則通りであれば "ステイネゲリ" のアクセントになる。-ge- を伸ばせばこちらがアクセントとなる (ステイネゲーリ)。
名前のアクセントは冒頭らしくどちらにしてもアクセント位置は変わる。ラテン語読みと理解することにする。原語に合わせた読み方でもおそらく実用上問題ない。
英名の scoter は語源不明とのこと (wiktionary)。
分割のため第7版学名は代表的亜種まで記した。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Melanitta stejnegeri となる。ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Hess Stejneger にちなむ。
Steineger 家だったが、1870 年ごろより Stejneger の綴りを用い生涯使ったとのこと (wikipedia 英語版)。英語読みでは "スタジンガー" や "スタジネガー" のような発音が多い。
シュと読むのはドイツ系の名字であるためか (Stein 石)。現代のノルウエー語でも同様らしい。
ちなみにロシア語でもシュと表記しており、実際にどのように読まれていたかは問わず慣用としてシュタイネゲルの名前を残しておく。
かつては Melanitta deglandi (フランスの鳥類学者 Come-Damien Degland にちなむ; こちらの英名は White-winged Scoter アメリカビロードキンクロ) と同種と考えられていた。
アメリカビロードキンクロは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で含まれた。いずれも単形種となる。IOC 9.2, Clements 2019 以降別種。
ビロードキンクロの新学名に対応する英名は Stejneger's Scoter または Siberian Scoter となる (後者は AOU の名称)。
現在の分類では Melanitta fusca はユーラシア西部の種類となり、英名は Velvet Scoter (ヨーロッパビロードキンクロ)。和名はこの種の英名に対応していて現在の分類で正確に使おうとすると大変ややこしい。ただ外国人バーダーも古い時代の velvet の名を知っていた人もあったためか、この英名でも通じた。
越冬時は海岸で観察されるため繁殖地も海に近いと考えそうだが、大陸奥深く内陸で繁殖する。ビロードキンクロはエニセイ川以東に広く分布。モンゴルでも繁殖個体群が観察される。アメリカビロードキンクロも同様でアラスカからカナダ西部の内陸で繁殖する。
Cadiz et al. (2024) Demographic History and Inbreeding in Two Declining Sea Duck Species Inferred From Whole-Genome Sequence Data
の全ゲノム研究によれば、コオリガモは過去の実効個体群サイズが比較的安定していたが Velvet Scoter (ヨーロッパビロードキンクロ) は減少傾向が見られる。分布範囲が狭いため氷河期に生息域がより縮小した可能性がある。両種とも過去数千年に実効個体群サイズの減少が認められ人為的圧力となっている可能性がある。
2種の間無視できないレベルの交雑があり、個体数減少に伴って近年生じたよりは過去から存在していたと考えられる。さらなる個体数減少があれば交雑による遺伝的劣化の恐れも考えられる。
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クロガモ
- 学名:Melanitta americana (メラニッタ アメリカーナ) アメリカの黒いカモ
- 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い netta カモ Gk)
- 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Black Scoter
- 備考:
melanitta は#ビロードキンクロ参照。
americana は1つめの a が長母音でアクセントもここにある (アメリカーナ)。
北米からユーラシア北東部に分布。ビロードキンクロよりは沿岸に近い場所で繁殖する。単形種。
近縁種にヨーロッパクロガモ Melanitta nigra 英名 Common Scoter があり、かつては同種とされていた。
ロシア北極圏では両種が繁殖するがシベリア北部ではクロガモの方が多いらしい。クロガモの方が東寄りでヨーロッパクロガモは主にヨーロッパで越冬する。
サハリンでもクロガモの繁殖が知られている: Vshivtsev (1979初出、2012再掲) Nesting of the black scoter Melanitta nigra on the Sakhalin Island (pp. 2661-2665)。
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コオリガモ
- 学名:Clangula hyemalis (クラングラ ヒュエマーリス) 冬の声の響く鳥
- 属名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
- 種小名:hyemalis (合) 冬の (hiemalis (adj) 冬の hiems (f) 冬)
- 英名:Long-tailed Duck
- 備考:
clangula は -ula の指小辞発音に従えば長母音が現れない (#キクイタダキ学名などと同様)。規則によれば "クラングラ" のアクセントになる。
hyemalis は a が長母音でここにアクセントがある (ヒュエマーリス)。
極北に広く分布する単形種。越冬中の群れは特徴的な歌うような声を出し、遠くからも聞こえるという The Key to Scientific Names の注釈に沿った訳とした。
属名とホオジロガモの種小名の関係については#ホオジロガモの備考参照。どちらも音が由来と考えられるがそれぞれ独立に付けられたもので意味は同じとは限らない。
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ヒメハジロ
- 学名:Bucephala albeola (ブーケパラ アルベオラ) 少し白い大きな頭の鳥
- 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
- 種小名:albeola (adj) 少し白い (albus (adj) 白い -ola (指小辞) 小さい)
- 英名:Bufflehead
- 備考:
bucephala は#ホオジロガモ参照。
albeola は -ola の指小辞発音を考慮すると長母音は生じないと思われる (アルベオラ)。
北米に分布する単形種。英名の由来については#ホオジロガモの備考参照。
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ホオジロガモ
- 学名:Bucephala clangula (ブーケパラ クラングラ) 羽音の響く大きな頭の鳥
- 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
- 種小名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
- 英名:Common Goldeneye
- 備考:
bucephala は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語の bous の長音を採用すれば "ブーケパラ" (#モズ参照)。
clangula は#コオリガモ参照。
種小名の和訳は wikipedia 日本語版では「やかましく騒ぐ」となっている。
ホオジロガモの羽音はよく響いて独特なのでそれを意味する可能性 (例えば日本語のスズガモの語源にように) を考えた。やはり羽音から "whistler" と呼ばれることを知った (羽音を whistling sound と呼ぶ)。
狩猟用語でカモの識別に役立つとのこと。Common Goldeneye。ディスプレイの声よりは羽音が目立つ気がするので、種小名の語源はおそらくこちらではないだろうか。「羽音の響く」と訳してみた。
clangere に関連する学名は #コオリガモ、#カラフトワシ (可能性あり) も参照。
#オオジシギ備考の [タシギ類のドラミング] で紹介の Clark and Prum (2015) にも含まれている。
なお英名で whistling duck が付くものも別に存在する (リュウキュウガモなど)。こちらは鳴き声由来と説明がある (wikipedia 英語版から)。
"wing whistle" の用語も用いられることがあるが、上記 Clark and Prum (2015) によればあまり適切でない用語とのこと。
wikipedia 日本語版の「属名 Bucephala はアレクサンドロス3世 (大王) の馬の名前からつけられたもの」については当初出典を見つけられなかったのだが、
Bucephalus Bucephalus or Bucephalas に馬の記述があり、牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk) の由来はおそらく同じよう。
属名の原記載には意味は特に現れないが、
この Baird (1858) は (同属でタイプ種の) ヒメハジロの英名について "The name buffle head is a corruption of buffalo head, under which name it is mentioned by Bartram, in 1791" と説明しているので「牛の頭」でよさそう。そのままギリシャ語由来の属名としたものだろう。不釣り合いに頭が大きいの意味と OED には説明がある。
Why are they called Bufflehead? (Birdful) にも英名由来の考察がある。Baird の属名の意味は上記でよいと思われるが、Bartram (1791) ですでに使われている英名なので、英名は起源がさらに古く議論の余地が残るのだろう。
Baird (1858) では "whistle wing" がホオジロガモの別名になっているので、種小名に使われる clangula はやはり翼の音と解釈するのが適切そう。
種小名に clangula が使われているのに、なぜ Clangula (コオリガモ) 属に含まれないのか疑問を持たれるだろうが、Clangula 属は Anas glacialis で最初に使われたためこのグループの名称には使えないとの説明が Baird (1858) にある。
Baird (1858) の時点では Clangula glacialis Boie, 1822 に対応していて、これはコオリガモを指していたが Clangula glacialis Leach, 1819 の属の用例が見つかり (コオリガモがタイプ種になる) こちらが採用された。
種の記載そのものは Linnaeus が最初に行ったため学名は Clangula hyemalis (Linnaeus, 1758) となる。
ここで Boie の用いた種小名の glacialis は現在 Anas 属でハイイロガモ Grey Teal に使われている。属が違うので衝突しないのだろうが非常にややこしい。Anas glacialis は現在はハイイロガモを指すが、コオリガモのシノニムにも挙がっている。古い文献を読む時にはよほど注意しないと間違えそう。
ホオジロガモは Anas Clangula Linnaeus, 1758 と記載されたもの (原記載)。この中には Clangula. Gesn. av. 119 とあるので、Clangula はすでに1語の学名として使われていたもので Linnaeus はこれを利用したよう。
Linnaeus のこの種小名を属名に昇格して新たに種小名を与えた (#ノスリの備考参照) 例もあった Clangula chrysopthalmos Stephens, 1824 (参考) がより遅い時代で用いられなかった。
属名の Clangula と種小名の clangula は別々に付けられたものでそもそも直接の関係はなかった (Leach も単純に挙げているだけで他種はリストされていない)。カモ類を分類する過程で整理された結果、一見矛盾する現在の学名となった。
まとめると以下のようになる。太字が採用されたもの。
| ホオジロガモ | コオリガモ | ヒメハジロ |
Linnaeus (1758) | Anas Clangula = Anas bucephala = Anas Glaucion | Anas hyemalis | Anas Albeola |
Leach (1819) | | Clangula glacialis | |
Baird (1858) | Bucephala americana (亜種アメリカホオジロガモ) | | Bucephala albeola (タイプ種) |
2亜種あり日本のものは基亜種 clangula とされる。もう1亜種 americana アメリカホオジロガモは北米に分布。
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ミコアイサ
- 学名:Mergellus albellus (メルゲルルス アルベルルス) 白くてかわいい小さなアイサ
- 属名:mergellus (m) 小さいアイサ (mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥 -ellus (指小辞) 小さい)
- 種小名:albellus (adj) 白くてかわいい (albus (adj) 白い bellus (adj) かわいい)
- 英名:Smew
- 備考:
mergellus は長母音を持たないと考えられ、-gel- がアクセント音節となる (メルゲルルス)。
albellus は長母音を持たないと考えられ、-bel- がアクセント音節となる (アルベルルス)。
Mergellus 属は Selby (1840) がミコアイサのみを指して設けたもの。Mergus の小型版の意味だったが系統的にも異なっており現在も使われる属名となっている。
ユーラシアに広く分布する単形種。属名の由来は#カワアイサの備考も参照。
中国名白秋沙鴨で秋沙 (アイサ) の部分は和名に由来とのこと [福井・チャン (2003) Birder 17(8): 68-69]。
和名のミコアイサの語源はオスの羽衣が巫女の白装束のように見えることに由来すると wikipedia 日本語版から (出典: 安部直哉 「山溪名前図鑑 野鳥の名前」、山と溪谷社、2008年)。
気になったのは英語別名に White Nun があること。nun = 修道女 と発想が非常に近い。これは日本語・英語で独立に作られた名称であろうか、あるいは和名成立に外国語の影響はあっただろうか。
「鳥の手帖: 江戸時代の図譜と文献例でつづる鳥の歳時記」(浦本昌紀 尚学図書・言語研究所編集 小学館 1990) によれば "みこあいさ" の名称は重訂本草綱目啓蒙 (1847) に現れるとのこと。他にうみあいさ、黒あいさ一名すずがもなどいくつかあるが、うばあいさ、うあいさ、どうながあいさなど現在の和名と対応しないものも多い。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" ではアイサ類3種は現在の名前で登場している。
重訂本草綱目啓蒙 (1847) の時期とそれほど大きく離れていないのでこの間にアイサ類の名称が整理され、カワアイサはうみあいさに対応して付けられた想像ができる。
"アイサ" と付く日本産種類の中でミコアイサのみが別属であるが、これはアイサ類の中で最も早く分岐した系統で、アイサ類の現代的な分子系統 (ただし mtDNA のみ) は以下のようになる。
この部分は最後3種の順序に不定性があるが他の部分は系統分岐順になっている。
他のグループで一番近縁なのはホオジロガモ類の Bucephala 属の3種。
カモ亜科 Anatinae: Ducks
ミコアイサ? 族 Mergini: Sea Ducks (ミコアイサ系統のみ掲載)
ミコアイサ属 Mergellus
ミコアイサ Mergellus albellus Smew
オウギアイサ属 Lophodytes
オウギアイサ Lophodytes cucullatus Hooded Merganser (北米)
ウミアイサ属 Mergus ("True" mergansers)
ウミアイサ Mergus serrator Red-breasted Merganser
コウライアイサ Mergus squamatus Scaly-sided Merganser
クロアイサ Mergus octosetaceus Brazilian Merganser (ブラジル)
オークランドアイサ Mergus australis New Zealand Merganser (ニュージーランド。絶滅種)
カワアイサ Mergus merganser Common Merganser
このグループの大半の種が北半球に広く分布しておりご存じお馴染みのものが多い。コウライアイサのみが非常に局地的に分布する。南半球では事情が異なっており2種が分かれて分布していたが1種が絶滅種であるため系統関係はわからなかった。
Rawlence et al. (2024) Ancient mitogenomes reveal evidence for the Late Miocene dispersal of mergansers to the Southern Hemisphere
は保存状態のよい標本から南半球には少なとも 700 万年前から2回の独立の進出があったことを示した。
Mergus 属は属内の種の分岐年代が古く、ホオジロガモ類やケワタガモ類とは対照的である。この論文にそれぞれの種類の分布図も出ている。
南半球の分布は北半球からの渡り個体に由来すると考えられる。
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カワアイサ
- 学名:Mergus merganser (メルグス メルガンセル) 少し沈んで泳ぐガン
- 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
- 種小名:merganser (m) 沈んで泳ぐガン (mergo (tr) 沈める anser (m) ガン)
- 英名:Common Merganser
- 備考:
mergus は短母音のみ (メルグス)。
merganser は短母音のみと考えられ -gan- がアクセント音節 (メルガンセル)。
属名に使われる mergus は Pliny などが用いた種類不明の水鳥 < mergere 潜る。
北半球に広く分布し3亜種が認められている (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 merganser 亜種カワアイサとorientalis (東洋の) コカワアイサとされるが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では両亜種和名は検討中だった。最終的にこの名称となった。
亜種 orientalis は「東洋の」の意味が適切でなく、アフガニスタンからチベット、中国南部で繁殖し、インドや中国南西部に渡る (Clements) とある。英語では Central Asian と形容され、こちらの方が分布をよく反映している。ちなみに orientalis の方がやや大きいとされる (wikipedia 英語版)。
ユーラシアでは Goosander の英名も使われる。これは goose (ガン) と gander (オスのガン) からの合成語で 1622 年にすでに使われていた (wiktionary)。Merganser はアメリカでの名称。
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ウミアイサ
- 学名:Mergus serrator (メルグス セルラートル) 嘴にのこぎり状の突起のあるアイサ
- 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
- 種小名:serrator (adj) 嘴にのこぎり状の突起のある (serratus (adj) ギザギザのある -or (接尾辞) 状態の)
- 英名:Red-breasted Merganser
- 備考:
mergus は#カワアイサ参照。
serrator は a が長母音でアクセントがある (セルラートル)。語末は長音にならないので注意。
愛媛の野鳥「はばたき」では種小名 serrator を「のこぎりで材木をひく人」と訳している。英訳の sawyer 由来かも知れない。
いずれも serra (のこぎり) に由来し嘴ののこぎり状の突起に由来する (wikipedia 英語版)。
原記載。
「長い嘴の」意味の学名も過去に使われ、いくつかの言語では標準名がこの意味になっている。カタラン語のように Bec de serra mitja のように嘴ののこぎり状の突起を表している名称もある。
北半球高緯度に広く分布。単形種。
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コウライアイサ
- 学名:Mergus squamatus (メルグス スクアマートゥス) 鱗模様のアイサ
- 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
- 種小名:squamatus (adj) 鱗で覆われた (squama (f) 鱗 -atus (接尾辞) 〜が備わっている)
- 英名:Chinese Merganser, IOC: Scaly-sided Merganser
- 備考:
mergus は#カワアイサ参照。
squamatus は -ma- の a が長母音でここにアクセントがある (スクアマートゥス)。所有の -atus。
東アジアの狭い範囲に分布する比較的数の少ない鳥。個体群の多くはロシア極東部で繁殖していると考えられている。多くの海ガモと同様に樹洞営巣で、同地域のオシドリとの競争がある可能性がある。原生林地帯であり、個体数を調べるのは容易でない。IUCN 3.1 で EN 種 (wikipedia 英語版)。ロシアでの研究はそれなりの数の論文がある。
ごく最近まで音声記録は世界に1例もなかった。Veprintsev Phonotheka of Animal Voices (#エゾビタキの備考参照) にも含まれていなかった。
近縁のウミアイサでは求愛ポーズで特有のディスプレイの音声を出し、コウライアイサも同様と推定されるが [「山溪ハンディ図鑑 日本の野鳥」(初版 1998)] この音声はまだ録音されていない。上田秀雄氏による Ueda Nature Sound や Macaulay Library (eBirdの画像他のライブラリ) にも含まれていない。
中国で録音された唯一の音源はカモ類一般に聞かれるガッガッ...の音声であり、ディスプレイの音声ではない。鹿児島県で2011年12月から2012年4月にかけて最大で9羽が観察・撮影されており、3月には交尾行動も観察・撮影された
[所崎 (2012) 「鹿児島県のコウライアイサの越冬記録」Birder 2012年11月号, pp. 46-47 が出典。音声の記録はない] とのことで、ディスプレイの音声を記録できるチャンスは皆無ではないと思われる。可能性のある方は世界初記録にチャレンジしていただきたい。
コウライアイサとカワアイサの羽毛微細構造の違い: Li et al. (2025) Differences between Scaly-sided Merganser (Mergus squamatus) and Common Merganser (M. merganser) feather microstructure (preprint)。
△ カイツブリ目 PODICIPEDIFORMES カイツブリ科 PODICIPEDIDAE ▽
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カイツブリ
- 学名:Tachybaptus ruficollis (タキュバプトゥス ルーフィコルリス) 赤い首の速く潜る鳥
- 属名:tachybaptus (合) 速く潜るもの (tachy- (接頭辞) 速く (Gk) bapto 潜る (Gk)、-tus (接尾辞) 〜に関連する)
- 種小名:ruficollis (adj) 赤い首の (rufus (adj) 赤い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
- 英名:Little Grebe
- 備考:
tachybaptus は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は現れないと考えられる。-bap- がアクセント音節と考えられる (タキュバプトゥス)。tachy- に慣れていればそこまで難しくないが和名や英名に比べて長くて難解であることは否めない。
ruficollis は冒頭が長母音 (rufus ルーフス)。-col- がアクセント音節で "ルーフィコルリス"。和名からはアカエリカイツブリの方により適した種小名と思えるが、アカエリカイツブリの方にもかつてほぼ同じ意味の種小名が使われていた。
ユーラシアからアフリカに広く分布する。7亜種が認められている (IOC)。
日本で記録される種類は poggei (中国滞在のドイツ人軍人。東プロイセンの森林官 Karl Pogge に由来) 亜種カイツブリと kunikyonis (大東島在住の日本人採集家 Kunihira Kunikyo 由来) ダイトウカイツブリが日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
後者は世界のリストではほとんど認められておらず、poggei のシノニムとされるのが一般的。前者もおそらく亜種 japonicus がpoggei のシノニムとなった結果。
Tachybaptus Reichenbach, 1853 (図版) が属の原記載とされる。
[他言語語源]
カイツブリ類英名の grebe は 16 世紀フランス語の grebe 由来とのことだがその語源はあまりよくわかっていない。一部の種には冠羽があるので krib (くし) に関係がある可能性があるとのこと (Etymology Online)。
ドイツ名は Taucher で潜るもの (tauchen 潜る) とそのままの名前になっている (#メジロガモの学名由来や#アカハシハジロのロシア名なども関連する)。
ロシア名は poganka で poganyj (食べられないなど悪い意味を指す) に由来。肉が脂ぎっていて魚臭いとのこと。もう一つ解釈があって poganka には (同じ意味から) 毒キノコを指す意味もあり、カンムリカイツブリが浮かんでいる姿がキノコに似ているためとの説もある (Kolyada et al. 2016)。
非常によく似た名前に peganka があり、こちらはツクシガモ類を指す。語源は pegij (まだらの。意味は英語の pied に似ている感じがする) で、マダラチュウヒのロシア名にも登場する。
[音声]
カイツブリにはさまざまな音声があり、短い地鳴きや警戒音 (知らないと何の声かと思ってしまう)、そしてよく聞く「さえずり」(キュルルルルーという声) がある (バードリサーチ鳴き声図鑑では地鳴きとしているが、世界的にはさえずりに分類するのが一般的)。この「さえずり」に非常に似た声をヒクイナも出す (#ヒクイナの備考参照)。探鳥会担当者などは即断で聞き慣れたカイツブリと判定してしまわないように注意が必要であろう。
[パンくずを疑似餌に使うカイツブリ]
諸角 (1995) Birder 9(10): 56-58 に東京の不忍池で人が投げたパンを細かくして撒き餌のように用いるカイツブリ (1991) の紹介がある。(#ゴイサギの備考参照)
[絶滅した飛べないカイツブリ類]
カイツブリが空を飛ぶ印象は受けにくいが、渡りをする個体がある通り空を飛べる。夜間の渡り途中の地鳴き nocturnal flight call (NFC) (#マミチャジナイの備考参照) では頻繁に記録される種類である。
飛んでいるビデオを撮影したいと何度も試しているがなかなか成功していない。
しかしカイツブリ類が飛びにくいことは確かなようで、世界には飛べないカイツブリ類もある。その一つにマダガスカルのワキアカカイツブリ Tachybaptus rufolavatus 英名 Alaotra Grebe があり、1985 年の目撃が最後で外来魚によって絶滅 (2010 年に絶滅宣言された) したと考えられている。現存する写真は1枚のみとのこと (wikipedia 英語版による)。
属は異なるが、グアテマラのオオオビハシカイツブリ Podilymbus gigas 英名 Atitlan Grebe (現地名 poc ポック) も有名である。これも飛べないカイツブリで、外来魚、想定外の地震などの天災や他種との交雑もあり、Anne LaBastille による 25 年の保護努力により一時は個体数 210 (1973) まで回復したが 1989 年の目撃が最後となり、1990 年に絶滅宣言された (wikipedia 英語版による)。
Anne LaBastille による著書 "Mama Poc: An Ecologist's Account of the Extinction of a Species" (1990) があり、「絶滅した水鳥の湖」(幾島幸子訳 晶文社 1994) と邦訳されている。
交雑により poc が飛べるようになった (絶滅を意味する) ことなど、#カワウ備考の [ガラパゴスコバネウの進化] で飛翔能力を失った進化経緯なども合わせて考えると面白い。飛翔能力を失った初期段階では交雑による遺伝子ネットワークの変化を飛翔力を取り戻すこともあり得るのだろう。
[Mirandornithes の系統分類]
Boyd による Mirandornithes (フラミンゴ目 + カイツブリ目) の分類一覧を示す。
フラミンゴ目 Phoenicopteriformes
フラミンゴ科 Phoenicopteridae: Flamingos
オオフラミンゴ属 Phoenicopterus
チリフラミンゴ Phoenicopterus chilensis Chilean Flamingo
オオフラミンゴ (旧名ヨーロッパフラミンゴ) Phoenicopterus roseus Greater Flamingo
ベニイロフラミンゴ Phoenicopterus ruber American Flamingo
コフラミンゴ属 Phoeniconaias
コフラミンゴ (コガタフラミンゴ) Phoeniconaias minor Lesser Flamingo
アンデスフラミンゴ属 Phoenicoparrus
アンデスフラミンゴ Phoenicoparrus andinus Andean Flamingo
コバシフラミンゴ Phoenicoparrus jamesi James's Flamingo
いずれもどこが違うのかと思えるほどよく似た属学名になっている。
Phoenicopterus (phoinix, phoinikos 紅色の -pteros 翼の)、
Phoeniconaias は naias, naiados 水の妖精 naiad、
Phoenicoparrus は parrus, parra は不明の不吉な鳥 (ヨタカ、フクロウ、キツツキ、タゲリ、サバクヒタキ を指すとのさまざまな解釈がある) (The Key to Scientific Names)。
属和名はタイプ種を採用したが、オオフラミンゴの分布は近年東に広がっており [Zhu et al. (2017)
Distribution of Greater Flamingo in China]、
自然分布で冬鳥としてしばしば記録されるようになるのも時間の問題かも知れない。すでに検討種扱いとなっている。この属のタイプ種はベニイロフラミンゴだが、この事情を考慮してオオフラミンゴを採用した。
これらの属はもとは形態学から分類されたものだったが、分子系統解析でも支持されたとのこと: Campo (2024)
Using physiological and molecular approaches to study micro- and macro-evolutionary patterns of selected waterbirds of the High Andes (学位論文)。
pp. 109-111 に系統樹。遺伝子流入もあった。これまで考えられたいたより分岐年代は新しく 370-410 万年前と見積もられた。
カイツブリ目 Podicipediformes
カイツブリ科 Podicipedidae: Grebes
オビハシカイツブリ属 Podilymbus
オビハシカイツブリ Podilymbus podiceps Pied-billed Grebe
オオオビハシカイツブリ Podilymbus gigas Atitlan Grebe (絶滅種)
カイツブリ属 Tachybaptus
ワキアカカイツブリ Tachybaptus rufolavatus Alaotra Grebe (絶滅種)
カイツブリ Tachybaptus ruficollis Little Grebe
* Tachybaptus tricolor Tricolored Grebe
ノドグロカイツブリ Tachybaptus novaehollandiae Australasian Grebe
マダガスカルカイツブリ Tachybaptus pelzelnii Madagascar Grebe
ヒメカイツブリ Tachybaptus dominicus Least Greb
シラガカイツブリ属 Poliocephalus
シラガカイツブリ Poliocephalus poliocephalus Hoary-headed Grebe
ニュージーランドカイツブリ Poliocephalus rufopectus New Zealand Grebe
オオカイツブリ属 Podicephorus
オオカイツブリ Podicephorus major Great Grebe (Podiceps 属より分離)
クビナガカイツブリ属 Aechmophorus
クビナガカイツブリ (アメリカカイツブリ) Aechmophorus occidentalis Western Grebe
クラークカイツブリ Aechmophorus clarkii Clark's Grebe
カンムリカイツブリ属 Podiceps
アカエリカイツブリ Podiceps grisegena Red-necked Grebe
カンムリカイツブリ Podiceps cristatus Great Crested Grebe
ミミカイツブリ Podiceps auritus Horned Grebe
ミミジロカイツブリ Podiceps rolland White-tufted Grebe (Rollandia 属を統合)
コバネカイツブリ Podiceps micropterus Titicaca Grebe (Rollandia 属を統合)
パタゴニアカイツブリ Podiceps gallardoi Hooded Grebe
ギンカイツブリ Podiceps occipitalis Silvery Grebe
ペルーカイツブリ Podiceps taczanowskii Junin Grebe
ハジロカイツブリ Podiceps nigricollis Black-necked Grebe
* Podiceps californicus Eared Grebe (ハジロカイツブリより分離)
コロンビアカイツブリ Podiceps andinus Colombian Grebe (絶滅種)
Boyd の行った属分割、統合は IOC などでは未採用。ただし日本産種への影響はほぼない。
Tachybaptus tricolor Tricolored Grebe はカイツブリから最近分離されたもので和名が見当たらない。そのまま訳せばサンショクカイツブリのような名前になるのだろうか (サンショクの用例はサンショクウミワシなどいろいろある)。
Podiceps californicus Eared Grebe については #ハジロカイツブリ参照。ハジロカイツブリの北米グループだが実際に種として扱われるようになるかは微妙な感じ。
Aechmophorus 属は IOC 他でも古くから採用されている。ギリシャ語の aikhmophoros < aikhme 槍 phero 運ぶ とのこと (The Key to Scientific Names)。
嘴やふしょ骨が長いなど説はいくつかある模様。
The Bell Pettigrew Museum in St Andrews (Jake McGowan-Lowe 2013) でクビナガカイツブリ (アメリカカイツブリ) の骨格写真が見られる。このまま脚が伸びて首はすでに十分長いが骨がさらに長くなればフラミンゴのような形になることも納得できる (?)。
アメリカで grebe と言えば普通はこの種を指す (種カイツブリはいない)。カイツブリ科ではカンムリカイツブリがこの種に次いで2番めに大きいとのこと。
カンムリカイツブリの骨格は川上和人・中村利和「鳥の骨格標本図鑑」(文一総合出版 2019) でも見ることができ、水面で休んでいる時はよくカモと間違われる外観とはだいぶ印象が違う。
Hayes et al. (2024)
Mate choice and hybridization in the Western Grebe and Clark's Grebe: tests of the scarcity of mates and sexual selection hypotheses
近縁のクビナガカイツブリ (アメリカカイツブリ) と数のより少ないクラークカイツブリの間に雑種が見られるが、コロニーサイズや繁殖時期との相関を調べた結果、つがい相手の不足が雑種形成の要因との従来仮説は裏付けられず、托卵やつがい外交尾に伴った誤ったインプリンティングの可能性がより考えられるとのこと。
[フラミンゴ目とカイツブリ目の関係]
フラミンゴ目とカイツブリ目の関係が近いことに最初に気づいた研究は van Tuinen et al. (2001) Convergence and divergence in the evolution of aquatic birds
で、Sibley and Ahlquist (1990) のデータも類縁性を示していたが、Sibley and Ahlquist は気づいていなかったとのこと。外見の類似性がほとんどなかったが後の研究でもこの関係は支持されることとなった。
Sangster (2005) A name for the flamingogrebe clade は両者を称して Mirandornithes と名付けた (#ミサゴの備考参照)。
あまりに思いがけない類縁性の発見の意味も込めて表しているのだろうか。
系統関係が明らかになってから共通の形態特性なども発表されているが、後付けの感は否めない。
参考 Mayr (2004) Morphological evidence for sister group relationship between flamingos (Aves: Phoenicopteridae) and grebes (Podicipedidae) (出版社サイト。この時点でもノガンモドキ類の位置がよくわかっていなかったこともわかる)。
Mayr (2006) The contribution of fossils to the reconstruction of the higher-level phylogeny of birds。
この分類概念は Phoenicopterimorphae (フラミンゴ上目?) と呼ばれることも多いが問題がある。後の解説参照。この点を考えると Mirandornithes と和名を用いた場合のフラミンゴ上目? は同じものを指しているわけだろうが、Mirandornithes に "上目" の意味は含まれないのでフラミンゴ上目? の和名はここでは使わないことにしておく。
Exploring the relationship between flamingos and grebes: The wonderful birds (David J. Ringer 2013) でも興味深い歴史が読める。
Livezey は 2011 年事故死するまでこの考えを否定し、フラミンゴ類はコウノトリ類に近縁と考えていた。次の批判論文を読むことができる。過去の研究もまとめられているので役立つだろう。
Livezey (2010) Grebes and flamingos: standards of evidence, adjudication of disputes, and societal politics in avian systematics
自分が独自データも用いて解析するとフラミンゴ類はアビ類に一番近縁になった。論調は分子遺伝学に頼りすぎでコミュニティも結果をセンセーショナルに報道しすぎる、といったところだろうか。
系統分類に果たす分子遺伝学の役割があまりに急速な進歩を遂げたため生じた伝統的研究者の拒否感が現れているとも読める。
ハヤブサ類とオウム類、スズメ目の近縁性が明らかになった時期とほぼ同じころの時代背景と考えて読むと興味深い。
2012 年になって化石証拠が見つかり、骨学から原始的なフラミンゴ類と考えられるがカイツブリ類に似た巣と卵が見つかった:
Grellet-Tinner et al. (2012) The First Occurrence in the Fossil Record of an Aquatic Avian Twig-Nest with Phoenicopteriformes Eggs: Evolutionary Implications
驚異的な鳥たちだが、歴史も同じぐらい驚くべきであると結ばれている。
化石鳥類の Palaelodus 属が形態的にはカイツブリ類とフラミンゴ類の中間的な特徴を示すとのこと (wikipedia 英語版より。この記事の主な部分ははカイツブリ類とフラミンゴ類の類縁関係が明らかになってから書かれたように見える)。
引用されている文献を1つ挙げておくと Mayr (2015) Cranial and vertebral morphology of the straight-billed Miocene phoenicopteriform bird Palaelodus and its evolutionary significance。
頭骨の形態はフラミンゴ類と大きく違うが、脊柱以下はフラミンゴ類とよく似ていておそらくろ過型の採食様式をすでに進化させていたのではないかとのこと。
さらに見ているとこんなページがあった: The Pterosaur Heresies。少し先の方の Bird neck length correlated to leg length (May 21, 2019) の項目を例えば参照。DNA を使ってカイツブリ類とフラミンゴ類を近縁とするのは間違いであると述べている (!)。
古生物 (特に Reptilia) の系統の視点からはそう見えるのかも知れないが、この項目にある系統樹では "足が長い" は祖先系統の性質と考えている。カイツブリ類とフラミンゴ類がまとまるはずがない、となる。
この視点で形態形質をもとに系統解析すると高い系統樹サポートでノガンモドキ類とフラミンゴ類が最も近縁な系統となるとのこと (!)。#ハヤブサの項目 [ハヤブサ目の系統分類] で紹介の Cariama (Reptile Evolution) はこの解釈に従っており、あるいはこの分野ではこの考えが浸透しているのかも知れない。
2019 年ならばすでに系統関係の証拠が固まっていた時期で (例えば 2011 年のレトロトランスポゾンの研究。#ミサゴ備考の [オウム類とハヤブサ類の近縁性はどのように解明されたか] 参照)。DNA 研究などは無視せよとでも言わない限り考えられない話で、日常的にこの分野に馴染んでいて分子系統研究にはあまり馴染みがない方 (日本でもそういう方がもしあれば) の見解はだいぶ割り引いて考えた方がよい感じがする。
すごい系統樹がらあるからと頭から信じ込まない方がよい。
[フラミンゴ類]
Frias-Soler et al. (2022) Phylogeny of the order Phoenicopteriformes and population genetics of the Caribbean flamingo (Phoenicopterus ruber: Aves)
にカリブ海フラミンゴ類を中心とした分子系統解析がある。フラミンゴ類は通常3属と扱われるが、この研究は2属になるとのこと (コフラミンゴ属をアンデスフラミンゴ属まとめるか。この分岐年代はオオフラミンゴ属内の種の分岐年代より新しい結果となった)。
Sangster et al. (2022)
Phylogenetic denitions for 25 higher-level clade names of birds
がこのグループを何と呼ぶかについても例示して議論している。Mirandornithes と自分が正式に名付けたにもかかわらず別グループが別の名前で呼んだり、過去に使われた名前を別の概念に用いているので混乱を引き起こしているとのこと。
フラミンゴ類は代表的な極限環境に生息する生物 (extremophiles。その中でも最大のものとのこと) でさまざまな適応を行っている: 参考ページ Tough Birds Fragile Homes、
Are Flamingos Extremophiles? (査読論文はあまり出ていないらしい)。
Flamingos Are Totally Hardcore (Amy King 2024) によれば
フラミンゴの群れを指す flamboyance (きらびやかさ、燃えるような華麗さ、建築様式のフランボワイヤン) との用語があるとのこと。高地の夜は寒くて凍ることもあるが、片足で立って放熱を抑えている。強いアルカリ性に対しては皮膚が厚いことで対応。塩分濃度の高さは塩腺による排出で対応とのこと。
Byrne et al. (2024) Productivity declines threaten East African soda lakes and the iconic Lesser Flamingo
によれば東アフリカのコフラミンゴが採食を行う塩湖の水位が上がり濃度が下がってプランクトンが不足しているとのこと。気候変動から予測される変動とも合っていて、これまでの環境破壊とも合わさって塩湖の特異な生態系は今後の維持が危ぶまれるとのこと。
-
アカエリカイツブリ
- 学名:Podiceps grisegena (ポーディケプス グリーセゲナ) 灰色の頬の尻足の鳥
- 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
- 種小名:grisegena (adj) 灰色の頬の (griseus (adj) 灰色の gena (f) 頬)
- 英名:Red-necked Grebe
- 備考:
podiceps は#カンムリカイツブリ参照。
grisegena は griseus の i が長母音、gena は短母音。-se- がアクセント音節と考えられる (グリーセゲナ)。
2亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは holbollii (デンマークの動物学者 Carl Peter Holboll 由来) とされる。
Kessler (1853) p. 65 (#オオハム参照) によれば複数の著者が用いていた Podiceps rubricollis Latham の学名 (赤い首のカイツブリ) があり、英名、和名、ロシア名 (現在も "赤い首の" 部分は同じ) はこの学名に由来または逆の関係と考えられる。
rubricollis は ruficollis などと意味はほとんど同じだが、
この学名の記載時は Colymbus rubricollis Gmelin, 1789 (参考) で
Colymbus ruficollis Pallas, 1764 (参考) の用例がすでにあったため語形を少し変えたものと想像できる。この用例が現在のカイツブリの記載となっている。
当時の属内での衝突を避ける措置だろうか。
Colymbus grisegena Boddaert, 1783 の記載が早かったために現在のアカエリカイツブリの種小名はこれが採用されているが、現在の英名や和名に Gmelin の学名が残っている。
[目に紫外線フィルターのあるカイツブリ類]
Osik et al. (2022) Nicotinamide adenine dinucleotide reduced (NADH) is a natural UV filter of certain bird lens
(#トビの備考の [視覚特性] も参照) によれば、カイツブリ類は眼球のレンズに NADH 含有量が高く、紫外線フィルターとして作用しているらしいとのこと。
この文献で調べられているカイツブリ類はアカエリカイツブリ、カンムリカイツブリ、ミミカイツブリ、カイツブリ (日本とは異なる学名を用いている) で、いずれも高い値を示している。
[飛べないひなを運んだ? アカエリカイツブリ]
Kloskowski and Fraczek (2017) A novel strategy to escape a poor habitat: red-necked grebes transfer flightless young to other ponds
食物の少ない場所でひなとともに移住したと思われるアカエリカイツブリの報告。池の傾斜は強くてひなが自力で登るのは難しかった。親が背中に乗せて移動した可能性もあるが地上の移動はカイツブリ類は得意でなく非常に危険。ひなを乗せて飛んで移動した可能性も考えられ、カンムリカイツブリでそのような逸話が残されているとのこと。
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カンムリカイツブリ
- 学名:Podiceps cristatus (ポーディケプス クリスタートゥス) 冠羽のあるカイツブリ
- 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
- 種小名:cristatus (adj) 冠羽のある
- 英名:Great Crested Grebe
- 備考:
podiceps は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、ラテン語 podex の冒頭が長音のため冒頭は長母音が適切と考えられる。アクセント音節もこの位置と考えられ伸ばすとアクセント位置に合う (ポーディケプス)。
cristatus は a が長母音でアクセントもある (クリスタートゥス) 所有の -atus。名詞の crista は例えば "とさか" などの意味 (英語 crest 参照)。
podiceps の由来は podex の属格 podicis + pes, pedis (いずれもラテン語) の合成語との解釈もある (The Key to Scientific Names)。英国の John Latham (1787) による造語。
ラテン語語尾の -ceps は頭を指すのでこちらが由来とは考えられない。
ラテン語 podium はやはりギリシャ語の足 pous の指小形に由来するが通常の意味はバルコニー。英語では演台などの意味。これは短母音で発音される。
podex (肛門) は形は似ているが語源は異なる。こちらは長母音なので語源を残す意味から podiceps の冒頭は長音で発音するのが適切と考えられる。
3亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 cristatus とされる。
ロシア名は bolishaya poganka (大きなカイツブリ) の他によく使われる chomga の名称がある。語源はよくわかっていないとのこと。古い文献ではこの名称は広くカイツブリ類 (= 単数形では poganka) を指していた (Kolyada et al. 2016)。ユーラシアではごく馴染みの種類でよく現れるので知っておいてよい名称。
カイツブリ類他種は poganka に形容詞を付けて表しているので現代の用法ではカンムリカイツブリが別格扱いとなる。
カイツブリ類、特にカンムリカイツブリの弁足の流体力学的働きを調べた論文: Johansson and Norberg (2001) Lift-Based Paddling in Diving Grebe
水の抵抗を利用しているとこれまで考えられてきたが、揚力を用いているらしい。抵抗を用いて推進する場合に予想される方向と異なる方向に動かしている。
水かきで水面を推進するカモ類とは別の形態や足の動かし方になっている。
カイツブリ類は非常に古い系統で過去から形態もあまり変化しておらず、この方法は十分に最適化された推進方法の一種と考えられる。
同じ著者によるもので Johansson and Norberg (2003) Delta-wing function of webbed feet gives hydrodynamic lift for swimming propulsion in birds
は航空力学の延長上で解釈できるとした。カイツブリ類は「漕いでいる」のではなく「水中を飛んでいる」とも言える。
水中の速度 1 m/s ではレイノルズ数は 10^5 のオーダーで空中を飛ぶ鳥の場合とあまり違わない (#アホウドリの備考 [海鳥の翼先端にはなぜスロットがない?] も参照)。
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ミミカイツブリ
- 学名:Podiceps auritus (ポーディケプス アウリートゥス) 耳の長いカイツブリ
- 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
- 種小名:auritus (adj) 耳の長い
- 英名:Slavonian Grebe, IOC: Horned Grebe
- 備考:
podiceps は#カンムリカイツブリ参照。
auritus は i が長母音でアクセントもある (アウリートゥス)。所有の -itus 由来。
2亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 auritus とされる。
旧英名の Slavonian はスラヴォニア (クロアチア語: Slavonija) 由来。クロアチアの東部の地域。
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ハジロカイツブリ
- 学名:Podiceps nigricollis (ポーディケプス ニグリコルリス) 黒い首のカイツブリ
- 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
- 種小名:nigricollis (adj) 黒い首の (niger (adj) 黒い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
- 英名:Black-necked Grebe
- 備考:
podiceps は#カンムリカイツブリ参照。
nigricollis は短母音のみで -col- にアクセントがある (ニグリコルリス)。
2亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは基亜種 nigricollis とされる。
カイツブリ属 (Podiceps) の分子系統研究は Ogawa et al. (2015) Opposing demographic histories reveal rapid evolution in grebes (Aves: Podicipedidae)
にある。Boyd はこれをもとに Podiceps californicus Eared Grebe (ハジロカイツブリの北米グループ) と Podiceps nigricollis ハジロカイツブリを分離しているがどうだろうか。
Ogawa et al. (2015) は前者を North American Black-necked Grebe と呼んでいる。
コロンビアカイツブリ Podiceps andinus Colombian Grebe (絶滅種) とハジロカイツブリ全体の間で単系統をなさず、このサンプルではコロンビアカイツブリがハジロカイツブリの北米グループと並ぶ形となっている。コロンビアカイツブリを種として維持するにはハジロカイツブリの北米グループを種と認めると都合がよいとの Boyd の判断だろう。
研究はまだ限定的なようでどのように判断されるだろうか。
Eared Grebe の名称はハジロカイツブリの別名として使われてきた (北米の) 英名を復活したものと思われるが、採用されるとミミカイツブリの和名との対応が紛らわしくなる可能性がある。
南アメリカの種で我々には関係が薄いが、ギンカイツブリ Podiceps occipitalis Silvery Grebe とペルーカイツブリ Podiceps taczanowskii Junin Grebe も単系統の関係をなしていない。これは個体群の保護的な意味も重視した分類が採用されたためだろう。
普通種であるが、ハジロカイツブリの声を聞かれたことはあるだろうか。越冬中の声の記録は国内・国外の音声データベースでも意外に記録が少ない。鳴いているところに気づかれた場合は録音をお勧めしたい。
△ ネッタイチョウ目 PHAETHONTIHORMES ネッタイチョウ科 PHAETHONTIDAE ▽
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アカオネッタイチョウ
- 学名:Phaethon rubricauda (パエトーン ルブリカウダ) 赤い尾のパエトン
- 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
- 種小名:rubricauda (adj) 赤い尾の (ruber (adj) 赤い cauda (f) 尾)
- 英名:Red-tailed Tropicbird
- 備考:
Phaethon は o が長母音で冒頭にアクセントがある (パエトーン)。
rubricauda は短母音のみと考えられる。-ca- がアクセント位置と考えられる (ルブリカウダ)。
学名、英名、和名ともによく一致している。しかし Phaeton phoenicruos Gmelin, 1789 の学名 (意味はほぼ同じ) があってこの学名を用いた図版などもあった。図版 例を見ると Red-tailed Tropicbird の由来は現在の学名ではなくこの学名由来と思える。
フランス語名も添えられていて Paille-en-queue a brins rouges (Buffon)。brins は繊維などの意味で、直訳すれば "尾に赤い繊維のあるネッタイチョウ" とより記述的になっている。
この図版の記述では Phaeton rubricauda の学名の記載はまだ知られていなかったように見える。
Boddaert (1783) の記載の方が少し早かった (原記載) で一覧に現れる。基産地モーリシャスでいずれにしてもフランスの博物学者による記載だった。英名はフランス語名または学名から二次的に付けられたものと想像できる。
4亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは melanorhynchos (melanos 黒い rhunkhos 嘴) 英語でこの亜種を Black-billed Tropic Bird とも呼ぶ。
ネッタイチョウ類は [#鳥類系統樹2024] で名付けられたクレード名 Elementaves の重要な構成要員。「4元素」のうち「火」の役割を担っている。
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シラオネッタイチョウ
- 学名:Phaethon lepturus (パエトーン レプトゥールス) 細い尾のパエトン
- 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
- 種小名:lepturus (合) 細い尾の (leptos 細い oura 尾 Gk)
- 英名:White-tailed Tropicbird
- 備考:
Phaethon は o が長母音で冒頭にアクセントがある (パエトーン)。
lepturus は u が長母音 (尾のギリシャ語 oura 由来) でアクセントがある (レプトゥールス)。学名のみに使われる。
学名と英名の整合性が少し悪いが、これは Red-tailed Tropicbird に対応するものとして名付けられたか、あるいは Phaeton leucurus Dubois, 1872 (白い尾のネッタイチョウ) に対応するものか。
6亜種ある (IOC)。日本で記録されるものは dorotheae (オーストラリアの発生学者 Henry Luke White の妹の Dorothy Ebsworth White 由来) とされる。
△ サケイ目 PTEROCLIFORMES サケイ科 PTEROCLIDAE ▽
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サケイ
- 学名:Syrrhaptes paradoxus (シュルラプテス パラドクスス) 変な縫い合わされた指の鳥
- 属名:syrrhaptes (合) 縫い合わされたもの (syrrapto 縫い合せる Gk の変化形 surrhaptos 由来) 羽の生えた足の指がつながっているため (The Key to Scientific Names)
- 種小名:paradoxus (合) 予想外の、驚くべき、変わった (paradoxos 定説に逆らうものの意 Gk)
- 英名:Sandgrous, IOC: Pallas's Sandgrouse (プロイセンの生物学者 Peter Simon Pallas に由来)
- 備考:
syrrhaptes は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語には長音は含まれない。The Key to Scientific Names の説明通りにギリシャ語の変化形をそのまま用いたものであれば短母音のみと考えられる。
-tes がギリシャ語起源のラテン語接尾辞と考えると e が長母音となる可能性がある。いずれの場合でも -rhap- がアクセント音節であることは変わりない (シュルラプテス または シュルラプテース)。
paradoxus は短母音のみで -dok- がアクセント音節 (パラドクスス)。
単形種。
Pallas (1773) の記述ではライチョウ属とノガン属の両方の特徴を示し、様々な点でそれぞれの属にない特別な特徴が見られるとのこと (The Key to Scientific Names)。
種小名の原意はこのように解釈するとよさそうである。
[サケイ目の系統]
サケイ目に最も近縁なグループはマダガスカルのクイナモドキ目 (Mesitornithidae)。これら2目とハト目 で Columbimorphae の系統をなす。
Hackett et al. (2008) A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History (#ミサゴの備考にも登場)
ではサケイ目、クイナモドキ目、ハト目の順に分岐する結果が得られている。Prum et al. (2015) (#アマツバメの備考参照) では前2者が逆順になっている。
いずれもハト目とはまとまるが系統的にはかなり離れていると考えてよい。
[#鳥類系統樹2024] の Stiller et al. (2024) によれば {クイナモドキ目 + サケイ目} がまとまったクレードをなし、ハト目と並ぶ形になる。これらの2クレードの分岐年代は 6300 万年前程度と相当古い。
ハト目は2系統に分かれ (2300 万年前ぐらい)、{Raphinae ドードー/アオバト?亜科 + Claravinae アルキバト亜科? (南米の地上性のハト類)} の系統と Columbinae (多くのハト類を含む) の系統となる。
2300 万年前ぐらいには果実食のハト類と地上性ハト類がすでに分かれていたことになる。Claravinae に属する代表的な種である南米のイチモンジバト Columbina picui Picui Ground-Dove は乾燥環境を中心に住むのでハト目では早く (例えば 2300 万年前ぐらい以降) から乾燥地適応は進んでいたのだろう。
サケイ目、クイナモドキ目も同様なので、Columbimorphae 全体にその傾向があり、果実食のハト類が生態的にはむしろ例外的と言えるかも知れない。ハト目内の系統について #ズアカアオバトに備考に続く。
[飲水と羽毛で水を運ぶ行動]
サケイはハトのように水を吸うことができると考えられていたが、そうではないとのこと: Cade et al. (1966) Drinking behavior of sandgrouse in the Namib aud Kalahari deserts, Africa。
一方サケイ類が羽毛に水を含ませて遠方まで運ぶ能力があることはよく知られているが、そのための羽毛の微細構造の特殊化: Mueller and Gibson (2023) Structure and mechanics of water-holding feathers of Namaqua sandgrouse (Pterocles namaqua)
クリムネサケイを用いた micro-CT による研究で、羽毛の異なる部位の硬さにそれぞれ特殊化があり、表面張力で微細構造に水を保ちつつそれを支える強度があるとのこと。
[Pallas の読み方]
様々なところに名前の出てくる Pallas (カワガラスの種小名などにも現れる) の日本語での読み方はいろいろな表記があり、パラス、パーラス、パラースを見たことがある。
原語のドイツ語発音であればアクセントは最初なのでパーラスとしてもよいかも知れない。Pallas の広く活躍したロシアでの発音はアクセントが後になるようで、こちらを重視すればパラースとしてもよい。どの言語を用いるか次第の問題でどれも正しいと言って構わないようである。
なおギリシャ神話にも Pallas が登場し、男性は前アクセント、女性は後ろアクセントだそうである。
元素のパラジウム (Pd) の名称も直接の由来は小惑星パラスだが、遡れば神話で同じ語源になる。
△ ハト目 COLUMBIFORMES ハト科 COLUMBIDAE ▽
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ヒメモリバト
- 学名:Columba oenas (コルムバ オエナス) ハト
- 属名:columba (f) ハト
- 種小名:oenas < oinas, oinados ハト 古 Gk, Aldrovandus (1599) が Oenas (Gk) と用いた
- 英名:Stock Dove
- 備考:
columba は短母音のみで -lum- がアクセント音節 (コルムバ)。
起源は#ウミバト参照。
oenas は由来となるギリシャ語には長母音は現れない。冒頭がアクセント位置と考えられる (オエナス)。ギリシャ語の oinas では na にアクセントがある。一方ワインの意味の oinos は冒頭がアクセント。oinos + -as でアクセントが移動したもの。
日本鳥類目録改訂第7版で追加。
種小名に使われる oenas は他の種ムラサキサンジャクでワイン色の意味で使われるが、ギリシャ語の由来 (oinos) が異なる (The Key to Scientific Names)。2亜種あり (IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明とされる。
英名の由来は雑木の切り株 (stock の古めの英語での意味) に群生する枝の間に巣をつくることから (コンサイス鳥名事典)。Columba 属のタイプ種。
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カラスバト
- 学名:Columba janthina (コルムバ イアンティナ) 紫色のハト
- 属名:Columba (f) ハト
- 種小名:janthina (合) 紫色の ianthinos Gk (wiktionary) 由来
- 英名:Japanese Wood Pigeon, IOC: Japanese Wood Pigeon (14.2 から)
- 備考:
columba は#ヒメモリバト参照。
janthina は短母音のみで -an- がアクセント音節 (イアンティナ)。ianthinus の別綴りとのことで ja を分割した表示にした。アクセント音節なので "ヤンティナ" の方が音が近いかは微妙なところ。ヤンティナ" の場合も前に短い i を補うつもりで発音するとよいのだろう。
3亜種あり (IOC)。
基亜種 janthina 亜種カラスバト、nitens (輝く) アカガシラカラスバト、stejnegeri (ノルウェー生まれのアメリカの鳥類学者 Leonhard Stejneger に由来) ヨナグニカラスバト。
種として天然記念物。
アカガシラカラスバトは絶滅危惧 IA 類 (CR)、ヨナグニカラスバトは絶滅危惧 IB 類 (EN)。
亜種カラスバトは準絶滅危惧 (NT)。
IOC 14.2 でより記述的な種英名が採用された。参考までに他言語を少しみておくと "日本のハト" に相当する名称が結構あり (例えばウクライナ語やセルビア語など)、一般的に "日本のハト" を指す名称と混乱が起きないのかと思ってしまう。"黒いハト" を採用している言語もいくつかある (チェコ語、ポーランド語など)。ドイツ語では "すみれ色のハト"。
記載時は Columba janthina Temminck, 1830 だったが、その後カラスバトをタイプ種とする Janthaenas 属 (ianthos 紫色の oinas, oinados ハト Gk) (Reichenbach 1853) とされていた (The Key to Scientific Names)。
カラスバト、リュウキュウカラスバト (絶滅) を含む分子系統解析は Soares et al. (2016)
Complete mitochondrial genomes of living and extinct pigeons revise the timing of the columbiform radiation
を参照。カラスバトとリュウキュウカラスバトは非常に近い関係だった。現在の属名にも現れているように系統的には (アオバトやキジバトとは異なり) カワラバト系統に属するが分岐年代 1000 万年程度なので別属にしても構わない程度。
Oliver et al. (2023) (#ズアカアオバト備考参照) の系統樹を見ると、カラスバト、リュウキュウカラスバトをカワラバト系統から分離するならば タイワンジュズカケバト Columba pulchricollis Ashy Wood Pigeon、カノコモリバト Columba elphinstonii Nilgiri Wood Pigeon (インド) が同じクレードに属する。写真を見ると確かに多少似たところもあるように見える。
さらに古い分岐にあたるクレード (レモンバト Eastern Lemon Dove など) は Aplopelia 属に分けられることが多く [Oliver et al. (2023) では Columba に含まれている]、カラスバト類を別属にするかどうかは境界領域のよう。
Aplopelia 属への分離は近年のことで (IOC 14.2 では未採用。WGAC version 0.02 から採用など IOC は次回改訂で盛り込まれるかも)、
あるいは将来遺伝情報がより確かなものになった場合、分類改訂で Janthaenas 属が復活するかも知れない。"Janthaenas" グループの方が bootstrap 確率 100% とこちらの方が系統樹形態はよりしっかりしている。
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オガサワラカラスバト
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リュウキュウカラスバト
- 学名:Columba jouyi (コルムバ イオウィイ) ジョウイのハト
- 属名:columba (f) ハト
- 種小名:jouyi (属) jouy の (アメリカの博物学者 Pierre Louis Jouy 由来)
- 英名:Ryukyu Wood Pigeon
- 備考:
columba は#ヒメモリバト参照。
jouyi はラテン式で#カラスバト同様に "イオウィイ" のアクセントを想定して jo の部分を分けた表記としてみた。"ヨウイ" や "ヨウィ
イ" でもよいと思われる。アクセント位置は確実でないが "オ" か "ウ" と考えられる。
ラテン式にこだわらず原音に近い音でも構わないと思われる。
絶滅種。
原記載。当時はカラスバトとともに Fruit-Pigeon, Janthaenas 属に分類されていた。
Soares et al. (2016) (#カラスバト備考) の推定分岐年代をみると独立種に値するか微妙なところ。
wikipedia 英語版によれば沖縄で最後に記録されたのが 1904 年で、おそらく狩猟で絶滅したと推定される。大東諸島では 1936 年以降に姿を消し、これらの小さな島は第二次世界大戦前に樹木が完全に伐採され建物が建てられたために絶滅したと考えられる。狩猟圧が高かったようだが離島の生息地が失われたのは第二次世界大戦のための間接的影響とも言えるのだろう。
沖縄の他の島に残っている可能性が考えられたが再発見されなかった。
沖縄の山には十分な生息地が残っているはずだが目撃されなかった。トカラ島には森林がほぼそのまま残っているのにまったく記録がないのは不思議である。座間味島は沖縄から遠く離れ過去に記録があるのに残存していないのは不思議であると記述されている。
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キジバト
- 学名:Streptopelia orientalis (ストゥレプトペリア オリエンターリス) 東洋の首飾りのあるハト
- 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
- 種小名:orientalis (adj) 東洋の (-alis (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Oriental Turtle Dove
- 備考:
streptopelia は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は含まれないと考えられる。-pe- がアクセント音節と考えられる (ストゥレプトペリア)。
orientalis は a が長母音でアクセントもある (オリエンターリス)。
"Fauna Japonica" での学名は Columba gelastis Temminck, 1835 で gelastis は 笑う (Gk) の意味。図版。
Columba orientalis Latham, 1790 の記載が早く現在は亜種にも名前は残っていない。基産地は中国。
海外研究者が日本の鳥に接する機会も少なかったためか gelastis を含む学名の用例ほとんど見当たらない。Dement'ev and Gladkov (1952) にもシノニムとして扱われておらず、完全に忘れ去られてしまったか要件を満たさなかった学名なのかも。
英語別名に Rufous Turtle Dove がある。
ヨーロッパでは単に Turtle Dove と言えばコキジバト (以下参照) なのでこちらが本家。その東洋版の意味になる。
5亜種 (IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 orientalis 亜種キジバトと stimpsoni (アメリカの技師で北太平洋を探検した William Stimpson に由来) リュウキュウキジバト。
望月 (2021) mtDNA ハプロタイプが大きく2系統に分かれるキジバトの集団遺伝構造の解明
ミトコンドリア DNA と核 DNA のハプロタイプの遺伝構造の違いについての暫定的報告が紹介されている。
Birder 34(6): 70 に関連記事 (2020) がある。
ヨーロッパに広く分布するコキジバト Streptopelia turtur European Turtle Dove に近縁。こちらの turtur は Linnaeus (1758) の記載 (Columba turtur) には生息地はインドとなっていたが誤りで実際は英国とされるとのこと。
Turtur 属は上記 turtur ではなく、アオフバト Turtur afer Blue-spotted Wood Dove がタイプ種と実は結構ややこしい。Garsault (1764) がアオフバトに対して Turtur 属を正しい二名法で先に用いていたと認定されたため。
Turtur 属はアフリカ南部に生息。
Streptopelia 属はシラコバトをタイプ種として Bonaparte (1855) が用いたもの。シラコバトの decaocto は記載時は変種名だったにもかかわらず亜種名と認められてタイプ種となり、先取権の規則により最も普及していたはずの名称の turtur はタイプ種として残らなかった。
同様の事例が分類見直しで#ミソサザイで発生する可能性がある。
英名の turtle はラテン語 turtur の変形で 1300 年ごろから使われているとのこと。一方カメを意味する方の turtle は由来不明のフランス語 tortue, tortre (13 世紀) 由来で 1600 年ぐらいから使われているとのこと。tortoise の方が英語での用例は古く、これはラテン語 tartaruchus に遡ることができるとのこと (Ethymology Online)。
turtur がラテン語のためヨーロッパ言語でも広く使われている。ロシア語やウクライナ語では gorlitsa, gorlitsya と系統が異なるが、これは gorlo (のど) が由来で、着眼点それほど違わない。クロアチア語やチェコ語なども子音交代が起きているが同様の単語を用いている。
発声全般については #タンチョウの備考 [ツル類やハクチョウ類の気管・鳥の発声メカニズム] 参照。
#ウグイスの備考 [ウグイスは息を吸う時に声を出すか] でハト類を取り上げている。ハト類のこもったようなクーの声は息を吐きながら短い間隔で息継ぎをしつつ作っていると思われる。
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シラコバト
- 学名:Streptopelia decaocto (ストゥレプトペリア デカオクトー) 18(デカオクト)と鳴くハト
- 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
- 種小名:decaocto (合) 18 (Gk)
- 英名:Eurasian Collared Dove
- 備考:
streptopelia は#キジバト参照。
decaocto は語末の o が長母音 (octo も同様) でアクセントは1つめの o にある (デカオクトー)。いずれにしてもギリシャ語由来。
タコを意味する英語の octopus は短母音のみだが、ラテン語では語源通り "オクトープース" になる。
鳴き声からギリシャ人は Decoctouri、フランス人は Dixhuit と名付けたと Sibthorp (1795) が記載している。こきつかわれた女中が年に 18 回コインしかもらえないことを嘆いていたが、ゼウス神によってハトに変えられて"Deca-octo"と嘆きの声で鳴き続けたとのギリシャの神話がある。
古代ローマの百人隊長が十字架上のイエスを憐れみ、価格が 18 コインであることを繰り返すことを主張した老婆から牛乳を買って捧げようとしたが 17 コインしか持っていなかった。強情な老婆は呪われて 18、18 としか鳴けないハトに変えられた。17 と鳴くと人間の姿に変えられるのだが、19 と鳴けば世界が終わりに近づく、とのギリシャの伝説がある (The Key to Scientific Names, wikipedia 英語版)。
英名は単に Collared Dove, Collared Turtle Dove, Eastern Collared Dove [Fitter and Richmond (1966, 1968) Collins pocket guide to British birds (Revised Edition)] もあった。Collared Turtle Dove はコキジバト (単に Turtle Dove と言えばこの種) に対するもの。
Eastern Collared Dove はユーラシア中部からインドなどが基本分布であった時期に英国から見れば "東側" となる。その後バルカン半島から北部を除くヨーロッパ全体に分布をどんどん広げてもはや "Eastern" がふさわしくなくなった。
単形種。天然記念物。
亜種が用いられていたこともあり、森岡 (2003) Birder 17(11): 56 に石垣島で2003年1月に観察されたシラコバトの考察がある。亜種 stoliczkae に似ているが基亜種のシノニムとするのが妥当との見解がある。
参考までに stoliczkae の記載時学名 Turtur stoliczkae Hume, 1874 (原記載) 基産地 Kashgar。Kashgar Ring Dove。stoliczkae はチェコの動物学者でヒマラヤで採集活動を行った Ferdinand Stoliczka 由来。
ビルマの個体群が亜種 xanthocycla とされることもあったが、やはり種に値するとのこと: van Grouw et al. (2024)
On the taxonomic status of Burmese Collared Dove Streptopelia (decaocto) xanthocycla。
ミトコンドリア DNA ではあまり分かれなかったが、核 DNA の解析ではっきり分離された。
xanthocycla は生きた鳥をもとに記載されたもので標本の形で保存されておらず、将来の交雑の危険もあるためネオタイプ標本を定義した。
記載時はシラコバトの亜種だった。リスト次第でシラコバトの亜種。IOC では 11.2 で分離されて Streptopelia xanthocycla。比較的最近まで亜種扱いで、stoliczkae が基亜種のシノニムとされた時期にはビルマの個体群のみがシラコバトの亜種となっていた。
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ベニバト
- 学名:Streptopelia tranquebarica (ストゥレプトペリア トゥランクゥエバリカ) インドのトランケバールのハト
- 属名:streptpelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
- 種小名:tranquebarica (adj) インドのトランケバール Tranquebar の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Red Collared Dove
- 備考:
streptopelia は#キジバト参照。
tranquebarica は外来語由来で発音はよくわからないが特に長母音が生じる理由はなさそうに思える。
Tranquebar の地名はデンマーク人渡来の時期のものでデンマーク語では特に長音はないとのこと。また b は p の音になる (wikipedia 英語版より)。トランケバールは英語経由の日本語読みと考えてよさそう。
原記載 (Hermann 1804) では地名はラテン語で Tranquebaria と記載されている。wikipedia 英語版によれば英国に売却されたのが 1845 年とのこと。まだデンマーク時代だった時期に記載されたものと考えられる。
ここでは短母音のみを採用し、"トゥランクゥエバリカ" とした。
2亜種ある (IOC)。日本で記録される亜種は humilis (小さい、つつましい、地面のなどの意味) とされる。
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キンバト
- 学名:Chalcophaps indica (カルコパプス インディカ) (東インド会社時代の) インドのブロンズ色ハト
- 属名:chalcophaps (合) ブロンズ色ハト (khalkos ブロンズ phaps, phabos ハト Gk)
- 種小名:indica (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する) 東インド会社時代の地名。備考参照。
- 英名:Emerald Dove, IOC: Common Emerald Dove
- 備考:
chalcophaps は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語は短母音のみのため長母音は含まれないと考えられる。-co- がアクセント音節と考えられる (カルコパプス)。
indica は冒頭にアクセント (インディカ)。
キンバトがあるならギンバトがあるはず、と考えるがこれはジュズカケバトの白色型とのこと (コンサイス鳥名事典)。
6亜種あり (IOC)。日本の亜種は yamashinai (日本の鳥類学者 Yoshimaro Marquis Yamashina 由来) とされるが、世界の主要リストではほとんど認められておらず、基亜種 indica のシノニムとするのが一般的。
種小名は indica で、インドにも分布するため意味の解釈は何の問題もないように見えるが、これは現在のインドではなく東インド会社時代の東インド由来とのこと (#サシバと同様) (wikipedia 英語版より)。
記載時学名 Columba indica Linnaeus, 1758 (原記載) 生息地は India orientalis (東洋のインド) となっている。ここが基産地となるが、マレーシア、インドネシア、フィリピンからインドにかけて基亜種が分布するため、亜種名を与える際にあまり問題が発生しなかったよう。
もしインド亜大陸と東南アジアが別亜種とされることがあれば、インド亜大陸の方の亜種名が変わる可能性がある。
Linnaeus (1758) の記載の1つ上を見ると Columba sinica (無効名とされる) となっていて (東インド会社時代の) インドと中国のそれぞれの地域名を付けただけのよう。
基産地については Chalcophaps indica (Linnaeus, 1758)
に解説があった。East Indies (as India orientali), Salvadori (1893) "Catalogue of the Birds in the British Museum" とのこと。
Stresemann が示している基産地 Amboina (アンボン島 インドネシア東部モルッカ諸島) はシノニムとなった学名の基産地で Linnaeus (1758) の原記載とは異なるとのこと。
Hachisuka (1938) A new Race of Bronze-winged Dove (yamashinai の記載文献)
では台湾のもの (Swinhoe による formosanus。これも現在は通常基亜種のシノニムとされる) と異なると述べている。India, Indo-China, S. E. China, Java と測定値を比較しているが、これらは基亜種とみなす記述になっている。台湾のものはこれらとは異なる可能性があると述べている。
英名は Linnaeus (1758) の記載より早く、George Edwards が "A Natural History of Uncommon Birds" (1743) に "Green Wing'd Dove" と含めたものがあり、Green-winged Dove の英名が別名となっている (wikipedia 英語版より)。
ドイツ語名では Glanztaube など、Glanz (光沢) を主眼とした命名になっている。
天然記念物 (指定名称は「リュウキュウキンバト」)。絶滅危惧 IB 類 (EN)。世界的には懸念なし (IUCN 3.1)。
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アオバト
- 学名:Treron sieboldii (トゥレーローン スィエボルディイ) シーボルトのハト
- 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
- 種小名:sieboldii (属) シーボルト Philipp Franz Balthasar Freiherr von Siebold (ドイツの医師、博物学者で、日本で 1823-1829年に採集活動を行った) の (ラテン語化した sieboldius を属格化)
- 英名:Japanese Green Pigeon, IOC: White-bellied Green Pigeon
- 備考:
treron は由来のギリシャ語では2つとも長母音。"トゥレーローン" が適切と考えられる。短く読む場合でもアクセントは冒頭になる。
ギリシャ語では treo (トゥレーオー。驚いて逃げる) が語源。
ラテン語 terreo ともつながっており、英語の terror (恐怖) も元をたどればこのラテン語に由来する (wiktionary)。アオバトの学名と恐怖がこんなところでつながっていたとは。恐怖でハトが一斉に逃げる様子を表したものだろう。
sieboldii は規則からは "スィエボルディイ" のアクセント位置と考えられる。人名なのであまりこの読みにとらわれることなく日本語風に sie- を "シー" (より正確には "スィー") と読んでも構わないだろうが最後に i が2つ並ぶことは意識して発音するとよい。
なお鳥の学名に sieboldii の例はほとんどなく、他はヤマガラのシノニムが知られる程度とのこと (The Key to Scientific Names)。
日本から中国南東部、台湾に分布。4亜種あり (IOC)。日本の亜種は基亜種 sieboldii とされる。
[アオバト近縁種の属名の変遷と亜種]
日本産の種のうちではアオバトとズアカアオバトはかつて Sphenurus 属に含まれていたことがあった。
この属は キバラハリオアオバト 現在の学名で Treron oxyurus Sumatran Green Pigeon に対する属名として Swainson (1837) が与えたもの (この種がタイプ種)。
ギリシャ語 sphen, sphenos 楔 oura 尾由来 (スペーヌールス) で中央尾羽が長く巣からはみ出るとの記載 (The Key to Scientific Names)。
比較的最近 1990 年代 - 2000 年代初頭まで使われていた学名で論文などにも見ることができる。
オナガアオバト Treron sphenurus Wedge-tailed Green Pigeon の種小名にも現れるがこの種がタイプ種ではない (記載時学名は Vinago sphenura Vigors, 1832 だった)。
いかにもどこにでもありそうな意味の属名で Sphenura Lichtenstein, 1823 が同じキバラハリオアオバトに対して用いた属名ですでに使用されており無効として Gray が Sphenocercus Gray, 1840 と改名した。意味はほとんど同じで kerkos 尾 (Gk) (スペーノケルクス) (The Key to Scientific Names の Sphenocercus の項目から)。
#ズアカアオバトにあるように Ogawa (1908) はズアカアオバト類にこの属名を用いていたが、アオバトには Treron を用いていた。
ズアカアオバト類については 1840 年以降に Sphenura と Sphenurus は同一ではないと判定されて後者が一時期復活した属名だろう。
男性・女性形の綴りの違いだけで別属として使われている属名に例えば Polysticta (#コケワタガモの属名) と Polystictus (カンムリタイランチョウ Polystictus pectoralis の属名) がある。
sphenocercus もいかにも頻繁に使われそうな種小名で、例えば#オオカラモズに現れる。
Treron の属名は Vieillot (1816) が J. F. Gmelin (1789) を引き継いで ハシブトアオバト 現在の学名で Treron curvirostra Thick-billed Green Pigeon 1種のみに対して与えたもの (記載)。
属をまとめる場合は先取権の原則からこの名称になるのが自明に見えるが、Reichenbach (1853) がブルアオバト 現在の学名で Treron aromaticus Buru Green Pigeon をタイプ種とする属の定義があった (The Key to Scientific Names)。
aromaticus は芳香のあるの意味だが、ハトに芳香のあるわけではなく基産地の Amboina が香辛料の島 (Spice Islands) として知られていたため。しかし英名でも "Aromatic Pigeon" (Latham 1783) として紹介された (The Key to Scientific Names)。
Reichenbach (1853) は何らかの理由によって Vieillot (1816) の用いた Treron を再定義したのかも知れない。現在では Vieillot (1816) のものが受け入れられているが現代の分類では結局この2種は同属となった (タイプ種の定義のみが異なる)。
Peters' Check-list of the Birds もアオバトやズアカアオバトは初版 (1937) から 2nd edition は Sphenurus を使っていたが、ハシブトアオバト、ブルアオバト は Treron 属と別属扱いとされていた。
H&M4 によれば Husain (1958) Subdivisions and Zoogeography of The Genus Treron (Green Fruit-Pigeons) が生物地理学と進化を考慮して Treron 属にまとめ、属以下のレベルで細分することが適当と判断した模様。
分子系統研究を待たずして別属扱いが適当でないと認識されるようになり、Clements の 1st edition (1981) ではアオバトも Treron 属となっており、世界的には Treron 属に統合されたが日本のリストでの扱い変更が少し遅れ、日本の文献では非常に遅くまで Sphenurus が現れるが世界の多くのリストでは早い時期に統合されていた。
この当時の属名を反映した White-bellied Wedge-tailed Green Pigeon の長い英名も使われていた。
アオバトの記載時学名は Columba sieboldii Temminck, 1835。
分子系統解析については#ズアカアオバトの備考に。
Qu et al. (2024) の分子系統樹によればオナガアオバトとかなり近縁。
「アオバトのふしぎ」こまたん著 (エッチエスケー 2004) にアオバトの由来から特異な習性、繁殖などの興味深い情報が満載された本がある。巣を見つけることは非常に難しいようである。
「アオバトのふしぎ」では中国の図鑑に基づきアオバトを4亜種に分けている。現在の IOC も亜種は同じなのでリストしておく:
・sieboldii (日本と中国東部)
・sororius (台湾)
・fopingensis (中国四川省東部から上海南部)
・murielae (中国南部中央からベトナム北部、中部、タイ北部)
「アオバトのふしぎ」によれば sieboldii の中国記録は 1933 年の1例で日本人が持ち込んだ飼い鳥らしいとの見解が中国の研究者により示されているそうである。
また九州以北の日本と台湾は不連続分布を示し、南西諸島にはズアカアオバトが分布する地図が
示されている。この地図では台湾近くの中国の分布を sororius
としている。
sororius を sieboldii を同一と捉える立場もある。Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) によれば別亜種とする根拠は Cheng Tso-hsin (1987) だが根拠は弱い (Collar 2004) との記載がある。
神奈川県立生命の星・地球博物館のアオバトのページ。
[アオバトが海水を飲む行動の意義]
神奈川県大磯町照ヶ崎海岸でアオバトが海水を飲む行動はよく知られている。上記「アオバトのふしぎ」にも詳しいが、少なくとも英語圏にはほとんど情報が出ていないようで引用できる英語文献もほとんどないようである (「アオバトのふしぎ」を引用すればよいのだろうがあまりにも "in Japanese" 過ぎるのかも知れない)。
Sundukov and Sundukova (2016)
The white-bellied green pigeon Treron sieboldii in the Southern Kuriles (pp. 4203-4208。極東の鳥類43: 千島列島特集 で和訳が読める。この号にはアオバト情報がかなり含まれている)
に千島でのアオバトの記録があるが海水を飲む行動は観察されていない。
サハリンでは記録があるとのこと: Zdorikov (2016) New data on some rare birds of Sakhalin Oblast (pp. 4038-4042, Smirnov による飲水写真があり、ビデオも撮影されたとのこと p. 4040)。
(千島のアオバト調査の記事) にも解説記事 (2017)がある。営巣は (確認が難しいことはわかっているが) 確認できなかった。
ロシアでも紹介ビデオがあり アオバト (ロシア語) 映像は日本のものだろうか。最もよく調べられている日本でさえも少数の巣が知られているのみとある。小犬のような、あるいはカエルのような声を出すと比喩されており、「笛吹きバト」の異名もあるとのこと。
アオバトは世界でも最も驚くべき鳥の一つで、研究者が将来秘密を明らかにしてくれるかも知れないと結んでいる。
ハト類は一般に塩を好むことは知られていて、レース鳩に塩土を与える必要性が知られている (飼育小鳥用の塩土もあるがこちらはカルシウム補給の意義の方が大きそうである)。我々も塩を好むと言えばそう言えるように思え、
本当に必要な塩分量はずっと低い (無塩文化では一日 1 g で生活している。ナトリウム摂取が少ない場合には腎臓で再吸収される。基本的なメカニズムは脊椎動物で共通のようである) ことも知られているのでここでは考察範囲を野生のハト類とする。
アメリカのナゲキバト Zenaida macroura 英名 Mourning Dove を捕らえる時のおびき餌として塩を使う情報があった。
鉱物を食べる (geophagy) 行動は果実食のコウモリで知られていてミネラルを補給するため、あるいは植物由来の毒を中和するためなどの役割が考えられていたが、Voigt et al. (2011) Nutrition or Detoxification: Why Bats Visit Mineral Licks of the Amazonian Rainforest
によればミネラル補給よりも子育て時に大量の食物を摂食するため植物由来の有毒物質の中和に役立っているのではとのこと。
鳥類における鉱物食についてこの文献に触れられている研究は2つで Brightsmith and Munoz-Najar (2006) Avian Geophagy and Soil Characteristics in Southeastern Peru と
Gilardi et al. (1999) Biochemical Functions of Geophagy in Parrots: Detoxification of Dietary Toxins and Cytoprotective Effects
で前者はどちらかと言えば胃石関連、後者ではオウムに粘土を与えることで植物の有毒物質の吸収が大きく抑制された結果が出ている。
この文脈での研究は多少あるようだが、アオバトの事例とは異なるかも知れない。
Downs et al. (2019) More than eating dirt: a review of avian geophagy
のレビューで6種類の役割が考えられている。系統的には散在して発生しており 2% の種にしか認められずまれな習性のよう。
比較的よく調べられてきたのは陽イオン交換でナトリウムやカルシウムイオンと陽イオンの植物由来の毒物 (例えばアルカロイド) を交換することで毒物を排泄する機能 (他の機能もあるが海水とは関係なさそうなので省略)。
鉱物食は果実食の鳥と関連があってナトリウム補給の意味がある研究が増えてきているとの記述がある。
ハト類での研究例として Sanders and Koch (2018) Band-Tailed Pigeon Use of Supplemental Mineral
が挙がっている。この研究ではオビオバト Patagioenas fasciata 英名 Band-tailed Pigeon を実験に用いているがカルシウムよりもナトリウムを求めているとのこと。例えば卵にはそれなりの量のナトリウムが含まれるので果実食の鳥では食物以外に補助的なナトリウム源が必要である。
水分とカリウムの多い果実では水を大量に排泄するためその時にもナトリウムが失われる。ピジョンミルクを与える際にもナトリウムが失われる。
オビオバトの場合はナトリウムを求めてやってくるとのことで冬にも少ないが観察事例がある。この論文では特に卵やピジョンミルクにナトリウムが必要と考えている。
この研究の中でバードリサーチのアオバトのページ Japanese Green Pigeon [Bird Research News Vol. 8 No. 9 Osaka et al. (2011) 英文]
への言及があり、オビオバトの状況と同様と考えられるが大磯のアオバトでは冬には海水を飲む行動は観察されないとのこと。
[ハト類の飲水行動の由来]
ハト類が水を飲む時に頭を上げずに吸うことができうことはよく知られていて、ピジョンミルクを飲むために発達した行動としばしば説明される。
Hallager (1994) Drinking methods in two species of bustards
によればハト類以外にも水を吸うことができる種類が散発的にあり、カエデチョウ科 Estrildidae、(Spermestidae 現在ではカエデチョウ科に統合されている)、ネズミドリ科 Coliidae、ミフウズラ科 Turnicidae、ノガン科 Otididae で報告例があるとのこと。吸い上げてから頭を上げて流し込む第3の方法もあるとのこと。
一般的には少ない水を効率的に利用する乾燥環境への適応と考えられているとのこと。
Cade (1965) Relations between raptors and columbiform birds at a desert water hole
のアフリカでの観察によれば、飲水行動中に猛禽類による捕食が危険で、ハト類はなるべく短時間に必要な水を飲む方法を発達させたと考えられるとのこと。水場に直接降りるハト類はおらず、近くに降りて安全を確認してから近寄るという。
Cade et al. (1966) Drinking behavior of sandgrouse in the Namib aud Kalahari deserts, Africa
がナミブ、カラハリ砂漠でのサケイの飲水を報告している。この行動が系統的に決まっているとの考えは Lorenz (1939) まで遡るとのこと [コンラート・ローレンツ Konrad Lorenz が何を考えていたかも含め、#ハイイロガンの備考も参照]。
Wickler (1961) がカエデチョウ科 (オーストラリアのものだそうでいかにも乾燥地域) や ズグロムシクイ科 Sylviidae の鳥でも見られるとの過去の報告を取り上げ、系統で決まっているわけではないと主張。さらにネズミドリ科でも見つかった。
ハト類の中でも原始的とされたオオハシバト Didunculus strigirostris Tooth-billed Pigeon ではガンのように水を飲むとの反例を示した。
こんなところにもコンラート・ローレンツの動物行動学解釈の流れをめぐる議論があった。
この論文ではサケイ類のことが述べられているが、クロハラサケイ Pterocles orientalis Black-bellied Sandgrouse では 150 ml まで飲むことができるという伝説的な報告もある。この論文の観察では1回に飲む量は 1.5 ml ぐらいで7回繰り返し、しばらく間を置いて 3 ml を飲んだという。これが典型的な最大値だろうとのこと。
Cade and Greenwald (1966) Drinking behavior of mousebirds in the Namib Desert, southern Africa
にネズミドリ類についての報告。高温に晒すと同じタイプの飲水行動を示した。ハト類との驚くべき収斂進化としている。
Speckled Mousebirds drinking water by sucking and keeping the head down (チャイロネズミドリの飲水ビデオ)。
特化した舌を利用して吸う行動は蜜を吸う鳥 (ハチドリ類、ミツスイ類) やオウム類で知られている。
こちらは比較的時流に乗っているようで研究をいくつか紹介しておく。
Rico-Guevara et al. (2015) Hummingbird tongues are elastic micropumps 毛細管現象との従来の解釈は誤り。
Rico-Guevara and Rubega (2017) Functional morphology of hummingbird bill tips: their function as tongue wringers 嘴の構造と舌の作用で送り込む。
Hewes et al. (2023) How do honeyeaters drink nectar? ミツスイ類の研究。ハチドリ類と類似点もある。
通常の鳥類が哺乳類のように水を飲まない理由は食道の蠕動運動がないためとしばしば説明されるが、これも正しくないよう。ニワトリの食道蠕動の研究例: Bartlet (1973) Myogenic peristalsis in isolated preparations of chicken oesophagus など。
ハトの研究もあり Fileccia et al. (1984) Primary peristalsis in pigeon cervical oesophagus: two EMG patterns。
ペリットを吐く行動も peristaltic egestion と呼ばれる (Bildstein 2017)。Houston and Duke Gastrointestinal Physiology (レビュー)。
ペリットを吐く行動は胃の動きと食道の逆方向蠕動によるもので、哺乳類の嘔吐や反芻とはかなり違うとのこと [Duke et al. (1976) Mechanism of pellet egestion in great-horned owls (Bubo virginianus)]。
鳥類の食道は調べられている範囲で平滑筋で、哺乳類では横紋筋と平滑筋が混ざっているがその機能的違いはそれほどはっきりしていない。
Edeani et al. (2023) Effect of Inter-swallow Interval on Striated Esophagus Peristalsis; A Comparative Study with Smooth Muscle Esophagus
のように横紋筋の方が急速な反復運動に適しているらしいとの実験結果が報告されている。これは主にヒトの誤嚥に関係して行われた研究。
[その他]
Siebold の読み方は多少注意が必要かも知れない。学名の発音は上記でよいと考えられるが、人名を表記する場合標準ドイツ語だとジーボルトとなる。wikipedia 日本語版によればオランダ国籍で入国しており、出身地方言での発音も濁音にならないことが多いそうで、日本語表記は通常使われるシーボルトとした。
ドイツ語ではジーボルトと読まれているだろう。文字から発音がわかるロシア語でも濁音で記載されている。
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ズアカアオバト (分類次第で学名が変わる)
- 第8版学名:Treron formosae (トゥレーローン フォールモーサエ) 台湾のハト
- IOC 学名:Treron permagnus (トゥレーローン ペルマグヌス) 非常に大きいハト
- 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
- 第8版種小名:formosae (属) 台湾の (formosa 台湾 < ポルトガル語で Ilha Formosa 美しい島 と名付けられた)
- IOC 種小名:permagnus 非常に大きい per- 非常に magnus 大きい
- 英名:Whistling Green Pigeon, IOC: Ryukyu Green Pigeon (備考参照)
- 備考:
treron は#アオバト参照。
formosae は2つの o が長母音で後者にアクセントがある (フォールモーサエ)。
permagnus は短母音のみで -mag- がアクセント音節 (ペルマグヌス)。
IOC では独立種 Treron permagnus (per- 非常に magnus 大きい) 英名 Ryukyu Green Pigeon とされ、Treron formosae 英名新称 Taiwan Green Pigeon に分離された (将来別種とされるならば和名はタイワンズアカアオバトが過去に使われている)。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" の時代にはアオバト類は3種に分けられていて、当時の学名で Sphenocercus permagnus (原記載) Amami-Oshima, Okinawashima, Yakushima にリュウキュウアオバト、
Sphenocercus medioximus (原記載) Ishigakishima, Iriomoteshima にチュウダイアオバトの和名が記されていた。
世界の主要リストでは IOC は 11.2 以降、HBW/BirdLife はこの分類を採用。Clements、Howard and Moore は Treron formosae の亜種としている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では後者の扱い。
IOC 14.2 の扱いでは Treron formosae が4亜種、Treron permagnus が2亜種としている。
日本で記録される亜種は permagnus [IOC の扱いでは Ryukyu Green Pigeon の基亜種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)の和名では亜種ズアカアオバト。過去には亜種リュウキュウズアカアオバトとも呼ばれていた] と medioximus (中央にある) チュウダイズアカアオバト とされる。後者は IOC 扱いでは Ryukyu Green Pigeon の亜種。
日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではタイワンズアカアオバトを検討亜種として扱っている。
和名ズアカアオバトの由来は後述。日本で記録される(亜)種は頭が赤くないので、IOC の分類に従えば現在の和名が特徴に一致しなくなる可能性が残る。
[ハト類の系統分類]
Nowak et al. (2019) A molecular phylogenetic analysis of the genera of fruit doves and their allies using dense taxonomic sampling が分子遺伝学的研究を行っている。これによれば日本のアオバトもサンプルに入っているが、ズアカアオバトは入っていない。
Treron 属の独立性はこの論文の系統樹からは問題なさそうであるが、日本周辺の関連種がサンプルされていないのでそれらとの関係はわからない。
アフリカの種類である Turtur 属と Oena 属も統合される可能性がありそうである。Treron 属とこれらのグループを含めて "fruit pigeons and doves" または "fruit doves" と呼ばれ、かつては亜科 Treroninae (おそらくアオバト亜科) をなすとされていたが、
遺伝系統研究で範囲が広がり先取権の原則から亜科 Raphinae (絶滅種ドードー Raphus cucullatus を含む) と呼ぶのが適当とされている (ドードー亜科、かつては独立科とされてドードー科だった。wikipedia 日本語版の出典はやや古いので、この 2019 年論文を参考にするのがよさそうである)。
もしこの分類階層を加えて記述すれば「ドードー亜科アオバト属」のようになる。後述のように 亜科 Raphinae の範囲をもっと狭める (細分化する) 分類もあり、その場合は 亜科 Treroninae の名称が復活する (例えば Boyd の分類)。
「ドードー亜科アオバト属」であればこれはこれで面白いであろう。どのぐらい過去の絶滅種まで現代の分類に取り入れるかは議論があるのかも知れないが、世界の主要リストはドードーを含めている。eBird でももし万一観察できれば報告できる扱いになっているのではないかと思われる。
なおドードーをベースとした系統名は広く使われているが、タイプ標本が指定されていないなど命名規約上の不安定さが残るとのこと: Young et al. (2024) The systematics and nomenclature of the Dodo and the Solitaire (Aves: Columbidae), and an overview of columbid family-group nomina。
系統樹はまたハト類の他の属の位置づけに問題がある可能性を示している。他の文献などををよく調べたわけではないが、Streptopelia 属 (キジバト属) とColumba 属 (カワラバト属) は系統樹上で区別できない可能性がある。
もう少し研究が進めばキジバト属はカワラバト属に統一されるかも知れない (2019 年時点)。これらはこの文献では亜科 Columbinae (カワラバト亜科?) に属する。
Oliver et al. (2023) Oligo-Miocene radiation within South-west Pacific arc terranes underpinned repeated upstream continental dispersals in pigeons (Columbiformes)
fig. 2 に世界分布と分子系統樹があり、Supplementary data (figs. S4, S5) により詳しい分子系統樹がある (系統に関心のある方はぜひダウンロードしてこちらを見て欲しい。ただし伝統的な遺伝子を用いた解析)。
この研究で状況が改善され、Streptopelia 属、Columba 属はそれぞれ単系統をなしており問題ない。
Streptopelia 属、Columba 属ともに系統的には古めで、種分化年代も集中しておらず、特に草原の広がり (例えば C4 植物) に合わせて急激な種分化を果たしたグループではなさそう。
Ptilinopus 属 (クロアゴヒメアオバト) も単系統でなくなっているが、これは包含されている小さな属が統合されるのではと想像される。
Chalcophaps 属 (キンバト) は少数種からなる属で他の属 (Oena, Turtur) に比較的近い。
この部分が気になったのは「野鳥」1994年7月号 (No. 571) にハト類の特集があり、上田氏が果実食のハト類から草原で植物食のハト類が進化した可能性を推定されていたため (pp. 4-7)。以下の考察もこの記事を参考にした。
#サケイの備考のようにハト類を含む古い系統 (Columbimorphae) から乾燥地適応はすでにあったのだろう。
位置づけがまだはっきりしていないが、ハト類の最も古い系統と考えられるクロヒゲバト Starnoenas cyanocephala Blue-headed Quail-Dove / Blue-headed Partridge-Dove (キューバの低地にのみ生息し、絶滅が危ぶまれている) も森林の地上で採食しハト類の生活様式の原型に近いかも。
(後に追記) その後 Oswald et al. (2025) Genomic data reveal that the Cuban blue-headed quail-dove (Starnoenas cyanocephala) is a biogeographic relict
がゲノム解析によりキューバの クロヒゲバト Starnoenas cyanocephala Blue-headed Quail Dove がハト類の早期の分岐の孤立系統で1亜科に相当することを明らかにした。この研究では遺存系統と結論している。
この研究でハト類 51 属のうち 35 属の分子系統樹が示されており、Treron 属からは2種。日本と共通種ではない。これまでの分子系統樹と特に違うわけではないが新しい解析で参考になる部分があるだろう。
メラネシアからフィリピンの果実食のハト類 (fruit doves) Ptilinopus (ヒメアオバト) 属 がむしろ比較的最近種分化を遂げている。アオバトの系統 Treron とは少し離れている。Ptilinopus 属 は単系統でハト類中でも大きなグループをなすことがわかる。これも "ドードー亜科" に含まれる。
Treron 属はむしろ Turtur 属に近い関係となった。Treron 属そのものは単系統で問題なし。
これらをまとめたクレードの名称は Treroninae: Emerald and Wood Doves, Green-Pigeons (Boyd による。細分する立場の場合はこのクレードを "アオバト亜科" と呼ぶのが適切そう)。
Treron 属の適応放散は 1500 万年前以降と推定される。これらのハトが緑の色彩なのは空からの捕食者対策とする考えがある。広義 Accipiter 属を考えると (#カッコウの備考 [カッコウのタカへの擬態] 参照)、南方系の Tachyspiza 属が東南アジアに分布を広げたのが 700 万年前ぐらい (ただしアカハラダカは小型すぎる)。
狭義 Accipiter 属は日本ではハイタカの分布が重なるがあまり低緯度には分布しない。Astur 属のオオタカも同様。シロハラオオタカ Astur meyerianus Meyer's Goshawk はニューギニア付近では候補となる。
狭義 Accipiter 属、Astur 属 ともに適応放散は遅いので Treron 属以前から存在した捕食者ではなさそう。ハヤブサ類も遅く状況は同様。
クマタカ類などを含むイヌワシ亜科は 1500 万年前以降以降の系統で、特に問題となりそうなクマタカ類は 1000-500 万年前ごろに種分化を遂げている。やはり Treron 属より少し遅そう。より古い系統のチュウヒワシ亜科 Circaetinae、ハチクマ亜科 Perninae、さらに カタグロトビ亜科 Elaninae は時期的には可能性があるが現在ハト類を食べている種類はあまりなさそう。
緑色のハト類の保護色は空からの捕食者が現れてから後に身につけたものか、あるいはチュウヒワシ亜科や
ハチクマ亜科にもハト類を食べる種類が存在したのか。チュウヒワシ亜科やハチクマ亜科 - カタグロトビ亜科につながる系統も強力な絶滅種を生んでいるので可能性は十分ありそう。
小鳥を捕まえるほど敏捷さが要求されないハト類は絶好の獲物で、初期のタカ類でもよい捕食者になっていたのかも。
哺乳類捕食者にとってはもっと見分けにくい色のはずだがアオバト類を捕食する哺乳類をあまり思いつかないのでここでは特に検討していない。
Xu et al. (2021) は分子遺伝学的には Treron 属はあまり研究されていないと述べ、ハシブトアオバト Treron curvirostra 英名 Thick-billed Green Pigeon のミトコンドリアゲノムを解読したものが最初としている
The mitochondrial genome and phylogenetic characteristics of the Thick-billed Green-Pigeon, Treron curvirostra: the first sequence for the genus で、Treron属と Hemiphaga属 (ニュージーランドバトともう1種) と類縁関係にあることが示された。
Chen et al. (2022) が オナガアオバト Treron sphenurus 英名 Wedge-tailed Green Pigeon を同様に調べて同様の結論を得ている:
Complete mitogenome of Treron sphenurus (Aves, Columbiformes): the first representative from the genus Treron, genomic comparisons and phylogenetic analysis of Columbidae。
この2論文は (日本には分布しないが) アジアの種を扱っている点は貴重である。しかし Nowak et al. (2019) をよく研究したものかどうかは疑問である。
音声的にも Ryukyu Green Pigeon と Taiwan Green Pigeon の間にそれほど違いがあるわけではないようである。同種にするか別種にするかは現代的なレベルの根拠のない段階で、どちらを採用するのがより適当かまでは議論できないようである。
Oliver et al. (2023) でも同様の位置づけでアオバトとは明瞭に分離できるが、Ryukyu Green Pigeon と Taiwan Green Pigeon は系統樹サポートは不完全。調べられた遺伝情報がまだ少なすぎる模様。
Qu et al. (2024) Mitochondrial Genomes of Streptopelia decaocto: Insights into Columbidae Phylogeny
がミトコンドリアゲノムを用いたハト類系統樹を示しており、現在の Treron 属は単系統でよくまとまっている。1種コアオバト Treron vernans Pink-necked Green-Pigeon は離れた系統で別属になる可能性がある (外見はアオバト類によく似ている)。
Treron 属内ではタイプ種のハシブトアオバトとは少し異なりクレードに属するので (多分必要とされないだろうが) Treron 属を分割するならばアオバトの属の方が変わることになる。
日本産の種に関係する系統ではこの研究では Columba 属が単系統でなくなっているが、日本産でない一部の種を Streptopelia 属に移動することで解決されるだろう。カラスバト、リュウキュウカラスバトはいずれも読まれていて分類変更の要素はなさそう。
Qu et al. (2024) を信用すればコアオバトは分岐年代が古いので Treron 属との類似性は収斂進化になるのだろうか。
[和名の由来]
コンサイス鳥名事典では (当時の分類で) フィリピン産の亜種 T. f. australis は頭頂部が明るい赤銅色で、和名はそれに由来すると述べられている。
しかしこの亜種名は現代の分類ではマダガスカルのマダガスカルアオバト Treron australis の名称であり、Treron formosae の亜種には出てこない (filipinus はある)。
その後の調査で Sphenocercus australis McGregor, 1907 (参考 基産地 Camiguin Id., Cagayan Prov. = Camiguin de Babuyanes, ルソン島の北にある島) と判明。
Sphenocercus 属だった時代は問題なかったが、Treron 属にまとめられるとマダガスカルアオバト (記載時学名 Columba australis Linnaeus, 1771) があるため使えなくなった模様。
そのため Treron formosae mcgregorii Hachisuka, 1952 (原記載) と改名された。
Treron formosae mcgregorii Husain, 1958 の改名もあったが目ざとく気づいた (?) Hachisuka (1952) の方が早くシノニムとなった次第。
Treron 属の表記になってからも australis はしばらく使われていたようなので蜂須賀氏の知見が受け継がれていなかっtのかも。
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クロアゴヒメアオバト
- 学名:Ptilinopus leclancheri (プティリノプース レクランケリ) ルクランシェールの足に羽毛のある鳥
- 属名:ptilinopus (合) 羽毛のある足 (ptilon 羽毛 pous 足 Gk)
- 種小名:leclancheri (属) Charles Rene Augustin Leclancher (フランスの外科医、博物学者、探検家) の
- 英名:Black-chinned Fruit Dove (= IOC, or) Leclancher's Dove
- 備考:
ptilinopus は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語および他事例から足を表す -pus は長母音と考えられる。-li- がアクセント音節と考えられる (プティリノプース)。
leclancheri は規則通りならば "レクランケリ" のアクセント位置と考えられる。
日本鳥類目録改訂第7版で追加。4亜種あり (IOC)。日本で記録されたものは taiwanus (台湾の) とされる。
Qu et al. (2024) の分子系統樹 (#ズアカアオバトの備考参照) で Ptilinopus 属に内包される2属の記載年代を調べておいた。
Ptilinopus Swainson, 1825、
Alectroenas Gray, 1840、
Drepanoptila Bonaparte, 1855
となっており、Ptilinopus の記載が古いため内包される属を Ptilinopus に改名するだけで済みそう。
内包される2属を残したままで Ptilinopus 属を分割するとかなりの分割が必要でおそらく現実的でなさそう。
クロアゴヒメアオバトの学名はこのため変わる心配はないと想像される。ただしクロアゴヒメアオバトそのものはこの系統樹に含まれていない。
△ アビ目 GAVIFORMES アビ科 GAVIDAE ▽
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アビ
- 学名:Gavia stellata (ガーウィア ステールラータ) 星斑のある海鳥
- 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
- 種小名:stellata (adj) 星をちりばめた (stellatus)
- 英名:Red-throated Diver, IOC: Red-throated Loon
- 備考:
gavia は冒頭が長母音でアクセントもここにある (ガーウィア)。
stellata は最初の2母音が長母音で最初の a にアクセントがある (ステールラータ)。stella 星 の冒頭が長母音で、所有の -ata の冒頭も長母音のため。
単形種。英名 loon の由来は古英語 lumme、スウェーデン語 lom、スカンジナビア語 lum などが候補になっている。不具の、ぎこちないなどの意味で、陸上での動作を表したものであろう (wikipedia 英語版)。loon がアメリカ英語、diver がイギリス英語の呼称。
属名の gavia はラテン語でミコアイサを指すとのことで、白と黒で潜って魚を採る海鳥を古代ローマの人たちは区別していなかった可能性がある。
アビ類は 18 世紀までカモ類に分類されていて初期の博物学者は mergus (#カワアイサ参照) または colymbus (未同定の水鳥でカイツブリか? The Key to Scientific Names) と呼んでいた (wikipedia 英語版 Gavia 項目参照)。#ハシグロアビの備考も参照。
ここでは属名の解釈は The Key to Scientific Names に従って「未同定の海鳥」とした。
アビ類はロシア語名では gagara と声にちなんでわかりやすい。ドイツ語 Eistaucher (氷の潜水士)、ノルウェー語、スウェーデン語では islom で氷と上記 lom の合成。スペイン語では colimbo と colymbus が残っている。
[学名の変遷]
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では Colymbus septentrionalis Linn. となっており Linnaeus (1766) に記載に基づく学名が長く使われていたことがわかる。
別学名に Colymbus lumme または Urinator lumme が挙げられているがこれは Gavia lumme Forster, 1788 が最初の用例のよう。Foster の名前が出てこないので、Ogawa (1908) の時代にはこの用例はまだ知られておらず後世に使われた学名を挙げていた模様。
Urinator lumme Stejneger, 1882 の用例もある。
おそらく後に Colymbus Stellatus Pontoppidan, 1763 の記載が見つかり、これが最初の記載と認定され現在の学名となった模様。
Dement'ev and Gladkov (1951) ではすでに現代の学名が用いられている。
septentrionalis は妙に長いが "北の" の意味で "セプテントリオーナーリス" と読む。-alis は形容詞を作る語尾で冒頭が長母音。septentrio (セプテントリオー) が "北" の名詞。septem は数字の7 (英語でも7月の名称に用いられる通り)。trio は耕作用のすき、だが英語 the Plough のようにおおぐま座、こぐま座も指す。
数字の7と合わせてすなわち北斗七星のこと。こぐま座にはおおぐま座をそのまま小さくしたような北斗七星の配列があり (北斗七星を柄杓にたとえて小柄杓とも呼ばれる)、その端が北極星。現代の都会では配列を見ることも難しいが人工の光もない古代にはよく目立っていたのだろう。
学名として残っていれば面白かったかも知れない。
そのように考えると Pontoppidan による "Danske Atlas" の Stellatus "星をちりばめた" の意味の形容詞ではなく特定の星々 (例えば北斗七星や北極星の配列) を意図していた可能性もあるのでは? もしそうであれば "北の星の海鳥" の意味になるのかも知れない。一つの可能性として挙げておく。
lumme は容易に類推できるように古ノルド語でアビを指す Lomr に由来。
英名 Red-throated Loon (ロシア名も同じ意味) と現在の学名の対応がよくなく、何かあるのだろうと想像するとやはり対応する学名があった。
Kessler (1853) p. 68 (#オオハム参照) によれば Colymbus rufogularis Meyer, 1839 とのこと。
この時点では見つかっていた Colymbus stellatus の用例は Gmelin, 1850 の方が遅かった。
A propos des materiels originaux de Cotylurus platycephalus et de Cotylurus variegatus (Dubois 1978) にも情報がある。
Red-throated Diver, colymbus rufogularis の絵画にも現れる。
wikipedia オランダ語版のアビ Roodkeelduiker のページにもシノニムとして登場する。他にはほとんど現れないので有効な学名ではなく一般的にはシノニムとして扱われないものかも知れない。
Colymbus septentrionalis が一般的に使われるようになる前の 19 世紀のある時期にはこの学名が使われていて現在は痕跡を残さないほどに忘れられているが、英名やロシア名に残っているのだろう。
[アビ類が地上を歩くのに向かない理由]
Clifton et al. (2017) Comparative hindlimb myology of foot-propelled swimming birds
に下肢の比較解剖がある。足のひれで水中を推進する鳥では下肢の下部しか体外に出ておらず (水中抵抗を少なくして流線型のラグビーボールのような体型になる)、下肢の上部をあまり動かせない。立っている時の体の重心は体外に出た下肢よりはるか上で、動かせる部分が少ないために姿勢をうまく制御できない。
カイツブリ類も同様。
カモ類のように足のひれで水面を推進する鳥ではここまでの特殊化はない。ウ類は中間にあたるとのこと。
潜水能力の非常に高い鳥は足を動かす筋肉の付着部位である膝蓋骨 (patella。膝の皿。現生爬虫類の多くは持たない) や tibiotarsus (脛足根骨。日本語名称はそれほど使われないかも知れない。ヒトでは 脛骨 tibia 腓骨 fibula の用語が使われるが、鳥類では腓骨はかなり退化している。両生類と爬虫類の多くは腓骨と脛骨が同じ太さなので、後ろ足で力強いジャンプができないと wikipedia 日本語版にある)
の近位にある突起 tibiotarsal cnemial crest が発達しているとのこと。
付着する主な筋肉である femorotibialis medius (中大腿脛骨筋) が泳ぐ時に膝の屈曲運動を抑制し、水中を推進する際に足が受ける抗力による膝関節を曲げるモーメントに対抗する働きがあると考えられる。
足の最も大きな筋肉である gastrocnemius (腓腹筋)、digital flexor muscles (趾の屈筋群) も付着し、足のひれで推進する力を生み出している。
骨格だけを解説した書物よりもこのような筋肉も含めたレビューを読むと水中推進への適応がよりわかりやすいだろう。
足で泳ぐ鳥以外にも足の力の必要な猛禽類でもこれら突起は比較的発達しているので骨格写真を見て確認いただきたい。
Manafzadeh et al. (2025) Fibular reduction and the evolution of theropod locomotion
に面白い研究が出ている。鳥類では腓骨はかなり退化していて生体力学にはあまり意味がないと考えられていたが、腓骨と踵が分離することによって鳥類の地上運動に必須の膝関節の長軸まわりの回転に役立っているとのこと。二足歩行への進化の過程で生じたものらしい。確かに系統の近いワニ類と形状が大きく異なる。
Shin et al. (2024) Fast ground-to-air transition with avian-inspired multifunctional legs
鳥を模倣したロボットが主眼となる研究だが、離陸の際に足でジャンプするとエネルギー的に有効であるとのこと。また陸鳥は足をさまざまな目的に使うので足の筋肉に投資している。
さまざまな話に応用が可能そうで、本格的な猛禽類が陸鳥の系統になって生まれた理由 (#ミサゴの備考参照)、器用な足 (#ハチクマの備考参照) からもしかして知能の進化などの鳥類進化全般、
オオタカの飛び出しの初速が遅いことを補う鷹狩りの手法、対してハヤブサがなぜ高低差を利用する狩りに特化したかなど考察にも役立ちそう。
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オオハム
- 学名:Gavia arctica (ガーウィア アルクティカ) 北極の海鳥
- 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
- 種小名:arctica (adj) 北極の arktikos (Gk)
- 英名:Black-throated Diver, IOC: Black-throated Loon
- 備考:
gavia は#アビ参照。
arctica は短母音のみでアクセントは冒頭 (アルクティカ)。
2亜種あり (IOC)、日本で記録されるものは viridigularis (viridis 緑の gularis のどの) とされる。
Dwight (1918) A New Species of Loon (Gavia viridigularis) from Northeastern Siberia。
[さまざまな学名と英名について]
現在の学名と英名が結びつかないが、これは Colymbus atrogularis Meyer, 1839 の学名を反映したものと想像できる (後述の Karl Kessler による 1853 年のロシア語書物 p. 67 から知った)。これは Colymbus glacialis Linnaeus, 1766 のシノニムとされる
(参考: Gavia glacialis (L.) 1766.)
が、現在は Colymbus glacialis Linnaeus, 1766 はハシグロアビのシノニムとなっている。
ハシグロアビは Colymbus immer Bruennich, 1764 の記載の方が早かったためにこちらの学名が使われるが、当時から 19 世紀に入ってもアビ類の同定に混乱があり多数の学名が使われていたことがわかる。
Dement'ev and Gladkov (1951) によれば英名と同じ意味のロシア名は Kessler (1847) の用例が最初とあり、おそらくドイツ鳥類学者 Karl Kessler による Rukovodstvo dlya opredeleniya ptits, kotorye vodyatsya ili vstrechayutsya v Evropejskoj Rossii ("ヨーロッパロシアの鳥の識別ガイド" のような意味。見られるのは本の外観まで)。
この書物が見られないかと探したところ同著者による 1853 年のほぼ同じような表題の著書が見つかり、前述の古い学名を知った次第。
Linnaeus などの学名の同定が十分検討されていたのかどうかはわからないが、Meyer (1839) が付けたばかりの学名を用いたと思われる。英名もあるいはロシア名から訳されたものかも知れない。
現在の学名は Colymbus arcticus Linnaeus, 1758 由来 (原記載)。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" では Colymbus arcticus Linn. と原記載の学名がそのまま使われており、シロエリオオハムとは別属扱いだが Urinator arcticus の別学名も載せられている。この時点で和名オオハムはすでに用いられていた。
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シロエリオオハム
- 学名:Gavia pacifica (ガーウィア パーキフィカ) 太平洋の海鳥
- 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
- 種小名:pacifica (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Pacific Diver, IOC: Pacific Loon
- 備考:
gavia は#アビ参照。
pacifica は "パーキフィカ" (#アマツバメ参照)。
単形種。かつてはオオハムの亜種扱い (当時の学名 Gavia arctica pacifica) だった。American Ornithologists' Union 5th edition (incl. 33rd suppl.) までこの学名が使われていた。1985 年 AOU が別種に分離。
Dement'ev and Gladkov (1951) ではこの学名を用いており、ロシア名で "白い首のオオハム" または "太平洋のオオハム" の名前となっている。後者は学名または英名由来と考えられる。前者は和名と一致するがどちらが早いかは不明。ウクライナ語も同様で、スロバキア語では和名とほぼ同じ意味になっている (対応英語 white-naped)。
#オオハムの英名や (現在使われていない) 学名に対応して付けられた名称かどうかはわからないがオオハムの場合のロシア名は学名に対応した "のど (そのう)" が用いられ、シロエリオオハムでは "首" が用いられていることから起源は違うと思われる。
Dwight (1918) A New Species of Loon (Gavia viridigularis) from Northeastern Siberia にもヒントがあり、
Turkestan のオオハムの新亜種 suschkini はオオハムの基亜種より後頭部から首が淡色だが Urinator pacificus Lawrence (シロエリオオハムの当時の学名) ほど顕著ではないとある。当時から後頭部から首の色彩がオオハムとの違いと認識されており、それが命名の由来と考えられる。
この文献の記述からもオオハム類の識別などの記述はロシアの文献で主に行われていたことがわかる。後頭部から首の色彩であるために "のど" ではなく "白い首" (ロシア名)、"シロエリ" (和名、スロバキア語) などの名前になったものと想像できる。
この文献では Striped Diver (縞のあるオオハム) の英名がオオハム類の総称として使われていた。肩や背中の縞模様を指しているよう。記述から後頭部から首の色彩の違いは冬羽 (ないし秋の渡り時期) に対して与えられたもののよう。ピーターソン方式的な識別点ではなくなかなか難しい違いを指している。
Ogawa (1908) "A hand-list of the birds of Japan" にも Urinator pacificus (Lawr.) の学名で載っている (Hakodate) が和名は空欄になっている。
Urinator 属はハシグロアビをタイプ種として Lacepede (1799) が用いたもの。後に Gavia 属に統合された。
ラテン語 urino (ウーリーノー。潜る) 由来で "潜るもの" (ウーリーナートル)。名詞 urina は英語 urine と同じで尿の意味。語源はイタリア祖語の *urinos (水の) で "潜る" も尿も水に関係することは確かに共通している。
記載時学名 Colymbus pacificus Lawrence, 1858 (原記載)。一時期 Urinator 属に編入されたことがわかる。
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ハシグロアビ
- 学名:Gavia immer (ガーウィア イムメル) ハシグロアビ
- 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
- 種小名:immer (外) ハシグロアビ ノルウエー語
- 英名:Great Northern Diver (or) IOC: Common Loon
- 備考:
gavia は#アビ参照。
immer は外来語で発音がわからないが "イムメル" と推定される。
日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
記載時は属名 Colymbus が使われており、この属はアビ類の他にカイツブリ類も含んでおり、動物命名法国際審議会が Gavia 属をアビ類に与えた 1956 年まで使われていた (wikipedia 英語版)。
記載時学名 Colymbus immer Bruennich, 1764 (原記載)。
The Key to Scientific Names にはもう少し詳しい説明があり、Linnaeus の用いた Colymbus 属はオオハム、カンムリカイツブリなど3種類の (現在 Podiceps 属の) カイツブリ類を含んでいた。Linnaeus はタイプ種を指定したわけでも意図を示す記述も残さなかったとのこと。
Brisson (1760) が Colymbus をカイツブリ類、Mergus をアビ類に用いる提案を行って、この属の First Reviser の役割を果たしたかのように見えたが、Brisson は二名法による分類を採用しておらず、Linnaeus の仕事を引用しているわけでもないので First Reviser には値しないと書いてある。
改めて見てみると Genus Colymbi,
Genus Mergi と属定義はある (一覧)。
Colymbus は Linnaeus がすでに用いた属名であったため、Brisson (1760) が新たに提唱した属名 (Accipiter など) とは異なる扱いになったものと考えられる。Brisson (1760) 由来で認められた属名は多数ある。
属新規記載と既存の属の First Reviser の場合は扱いが異なるらしい。
Latham (1787) は Colymbus をアビ類に、Podiceps をカイツブリ類に用いた。この属名が長年標準的に使われていたが、1915 年には BOU が問題を提起した。ICZN が 1956 年に Colymbus を用いない判断を下した。
種小名の immer (ノルウエー語より) に近い他言語名はアイスランド語の himbrimi があり、語源をたどるとスウェーデン語 immer/emmer (灰) に、あるいはラテン語 immergo (浸す) または immersus (沈んだ) に由来する可能性があるとのこと (wikipedia 英語版より)。
ドイツ語の immer (常に) と同じ綴りであるが語源の関連性はないようである。
普通に使われる単語ではないようだが英語 immer もアビ類を指す。
和名はかつて使われていた英名 Black-billed Loon (Yellow-billed Loon に対する名称か) に由来すると想像される。
Young Guns (2017) Birder 31(2): 44-47 にハシジロアビとハシグロアビの識別が出ている。
Common Loon の英名が示すように世界的にはハシグロアビが普通種で、ハシジロアビよりもデータはずっと豊富にあるが、日本ではハシグロアビの方がずっとまれ。
Gayk et al. (2020) Genomic insights into natural selection in the common loon (Gavia immer): evidence for aquatic adaptation
にゲノム研究と正の選択を受けている可能性のある遺伝子候補が述べられている。当時はゲノムが読まれている種類はまだ少なく、同様に潜水して採食するペンギンとの比較や海水でのイオン環境に適応する遺伝子などが中心になっている。
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ハシジロアビ
- 学名:Gavia adamsii (ガーウィア アダムスィイ) アダムスの海鳥
- 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
- 種小名:adamsii (属) アダムスの (ラテン語化して -ius を属格化) 発見者、英国の船医 Edward Adams
- 英名:White-billed Diver, IOC: Yellow-billed Loon
- 備考:
gavia は#アビ参照。
adamsii は "アダムスィイ"。
和名はイギリスの英名の White-billed Diver 由来と推定される。アメリカの英名が Yellow-billed Loon。
単形種。
△ ミズナギドリ目 PROCELLARIIFOMES アホウドリ科 DIOMEDEIDAE ▽
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コアホウドリ
- 学名:Phoebastria immutabilis (ポエバストゥリア イムームタービリス) 色の変わらない女性の予言者のような鳥
- 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
- 種小名:immutabilis (adj) 不変の。一旦成鳥の羽衣になるとすぐに区別できるようになるため (The Key to Scientific Names)
- 英名:Laysan Albatross (ハワイ北西部レイサン島の)
- 備考:
phoebastria は外来語由来の合成語で発音はよくわからないが、起源となるギリシャ語を参考にすると短母音で読むと考えられる。-bas- がアクセント音節と考えられる (ポエバストゥリア)。-ia の接尾辞にも長母音はない。
immutabilis は u, a が長母音で後者にアクセントがある (イムームタービリス)。英語の mutate も似た発音なので把握しやすい。
意味は上述の通りだが原記載に記述されている。
mutabilis を学名に持つ種類は限られていてミナミミドリモズ Vireolanius eximius mutabilis Yellow-browed Shrike-Vireo の亜種名が現行のもの。
これは摩耗によって基亜種に比べてより青緑色が強いと考えられたもの (The Key to Scientific Names)。
#アホウドリの Temminck の記述によれば (アホウドリ類の解説) にあるようにアホウドリ類は年齢が違うだけで別種として学名が与えられて混乱した時期があって、この種ではその心配はないと与えれた種小名と考えるとわかりやすい。
旧属名の Diomedea はギリシャ神話由来でギリシャ語発音に従えば "ディオメーデア"。この属名は一部のリストで最近まで使われていた。現在の分類では日本に関係する種では#ワタリアホウドリのみがこの属。
科の名称 (Diomedeidae) には引き続き使われる。
単形種。
属名由来は Barwell (2012)
What's In A Name? What Names For Albatross Genera Reveal About Attitudes To The Birds も参照。
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クロアシアホウドリ
- 学名:Phoebastria nigripes (ポエバストゥリア ニグリペース) 足の黒いアホウドリ
- 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
- 種小名:nigripes (adj) 足の黒い (niger (adj) 黒い pes (m) 足)
- 英名:Black-footed Albatross
- 備考:
phoebastria は#コアホウドリ参照。
nigripes は e が長母音で冒頭にアクセントがある (ニグリペース)。
学名、英名、和名ともによく一致する。和名は英名の訳か。
単形種。
気候変動の影響を大きく受けている種。These animals are racing towards extinction. A new home might be their last chance (Nature のニュース 2023)。
ハワイのクロアシアホウドリの移住が行われている。海水面に近いコロニーではすでに海面上昇と嵐によって多数のコロニーが失われている [出口 (2019) Birder 33(7): 32-33 にチャタムアホウドリと合わせて言及がある]。
同じニュースで扱われているオーストラリアの希少カメの場合について、科学者や保護団体には悩みもある。移住はほとんど最後の手段であり、費用もかかりリスクもある。移住が行われるカメの場合は (現時点で) 冷涼な気候で繁殖できるか未知の点がある。生育に非常に時間がかかるので成否が出るまでに (生息地の消失は危急の課題にもかかわらず) 長い年月を要する。
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アホウドリ
- 学名:Phoebastria albatrus (ポエバストゥリア アルバトゥルス) アホウドリ
- 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
- 種小名:albatrus (合) アホウドリ (Albatros アホウドリ 独)
- 英名:Short-tailed Albatross
- 備考:
phoebastria は#コアホウドリ参照。
albatrus は外来語のため発音はよくわからないが、規則通りに読めば -bat- がアクセント音節 (アルバトゥルス)。ドイツ語の Albatros や英語の albatross は冒頭がアクセント。フランス語では特にアクセントはないが、語末は長音 (アルバトゥロース)。英語でも語末を長音で読む発音もある。
英名の Short-tailed Albatross は Diomedea brachyura Temminck, 1836 (記載, 図版)
の学名やフランス語名 Albatros a courte queue (尾の短いアホウドリ) または Albatros trapu、
さらに "Fauna Japonica" で用いた Diomedea brachyura に由来すると考えられる (図版) に由来すると考えられる。
Temminck (1836) の記載では和名 Ga-ran-tsjoo が紹介されている。ガランチョウの古名は現在ではハイイロペリカンを指すとされている (#ハイイロペリカン参照)。
生息地は meres a l'orientt du Japon, et dans le voisinage des iles Liou-kiou, vers le sud (日本の東側の海や琉球から南の方)。
当時はフランス語名で l'albatros trapu と呼ばれていたようで、trapu は大きくてずんぐりして力強い人や動物を指す形容詞とのこと。名称からは尾が短いことを意味したいことはわかるがこの部分の本文中には記述が見当たらない。
アホウドリ類の解説 の部分には Buffon が l'albatros de la Chine (中国のアホウドリ) と呼んだものと同じとのこと。Buffon が Diomedea brachyura のラテン名を与えたとのこと。Temminck が初めて "尾の短い" と呼んだものではなく Buffon の名称を引き継いだ模様。
Buffon がどのように記したかまではわからないが、参考までに同じ書物で 海鳥の分類 の部分でネッタイチョウ類に Paille-en-queue の (尾がストローのような) と分類しているので、"尾の短い" は海鳥の中でネッタイチョウ類と対比したものかも知れない。
Diomedea albatrus Pallas, 1769 (原記載) 基産地 off Kamchatka (カムチャツカ沖) の方が早いために Temminck の学名は残らなかったが、英名に (あまりふわさしくない?) 痕跡を残すこととなった。
なお Temminck 自身の用例では Diomedea brachiura Temminck, 1827 (参考), Diomedea brachiura Temminck, 1835 (参考) ともに綴りが違っているとのこと。
brachyura はその訂正とのこと (参考)。
日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で2種に分離され、Phoebastria albatrus は センカクアホウドリ、もう一種は学名未定の和名アホウドリとなる見込み。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対してこの提案が出されていたが、その段階ではどちらが Phoebastria albatrus を引き継ぐか不明であったため保留とされた。
第8版では結果的に分離は行われず、Phoebastria albatrus はアホウドリのままで単形種の扱い。
江田・樋口 (2012) 危急種アホウドリ Phoebastria albatrus は2種からなる!?、Eda et al. (2020) Cryptic species in a Vulnerable seabird: short-tailed albatross consists of two species、
Yamasaki et al. (2022) Neotype designation of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus (Pallas, 1769) (Aves: Procellariiformes: Diomedeidae)
タイプ標本が失われているためかつて記載された Phoebastria albatrus がどちらを指すかわからなくなっていた。ここでネオタイプ標本を提示し、尖閣諸島で繁殖するより小型種を Phoebastria albatrus と再定義した。
鳥島などのより大型のもう1種については albatrus のシノニムから選ばれると思われるが、まだ確定できるまで (文献) 調査が進んでいないということであろう。尖閣グループの鳥は鳥島も少数訪れるが行動も異なり、自身と同じグループの個体とつがいになるのを好むとのことである
[Eda et al. (2016) Assortative mating in two populations of Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus on Torishima。
江田 (2021) Birder 35(6): 34-35 に「アホウドリは2種いると解明!」の記事がある。
Avibase (2024.10 時点) ではネオタイプはまだ取り入れられておらず、Pallas (1769) のまま基産地は off Kamchatka となっている。
Royle et al. (2022) Documenting the short‐tailed albatross (Phoebastria albatrus) clades historically present in British Columbia, Canada, through ancient DNA analysis of archaeological specimens
はカナダのブリティッシュコロンビアの古生物標本を調べ、鳥島グループ (Clade 1) が乱獲以前の過去にはずっと訪れていたが、少数は尖閣グループ (Clade 2) に属することを示した。両グループ (新分類では種) の分布は乱獲前においても違っていたことを意味する。
英名もいずれ修正されると思われる。
日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対して和名「オキノタユウ」への改名を求める意見も出されたが、変更した場合への影響が大きいと考えられるため変更しないとの見解になった (詳しくは原文参照)。不適切名称の改名の事例については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名] も参照。
長谷川 (2005) Birder 19(4): 26-27 はオキノタユウ (沖の太夫) の名称を解説し、記事全体もこの名称で記述している。
「オキノタユウの島で: 無人島滞在 "アホウドリ" 調査日誌」(長谷川博 偕成社 2015) は定年退職 (2014) に際してまとめられた本で、プロローグが「アホウドリからオキノタユウへ」となっている。自身が図鑑の名前を見て子ども心にもひどい名前をつけられた、かわいそうな鳥と思ったこと、
1990 年代保護計画を小学校で紹介する際にデコイを見せると子どもたちがアホウと鳴くと考えたエピソードなどが語られている。この鳥の地球上での再生に見とおしが立った時点が、もっとふさわしい名前に変えるのによいのではないかと考えたことが述べられている。
天然記念物。絶滅危惧 II 類 (VU)。IUCN 3.1 VU 種。
[語源や関連する用例]
種小名の由来は Albatros アホウドリ 独 とされ、The Key to Scientific Names にもそのようにあるがなぜドイツ語なのか今一つすっきりしない。Pallas (1769) の記載より 属名 Albatrus が先に使用されていて (Brisson 1760。現在は使われない属名) こちらはフランス語 albatros 由来とある。
言語出典までは必ずしも明確でなくて、ドイツ語でもフランス語でも albatros が同じように使われていて、記載者がドイツあるいはフランスだったのでそれぞれの言語由来と判定したものと想像できる。
何語由来かが問題になるのは名詞の性を決める必要があるためと知った。#ツリスガラ備考参照。ドイツ語 Albatros フランス語 albatros はいずれも男性名詞だったためこの場合は問題なし。
ドイツ語の Albatros の由来は航海士の英語から入ったとのこと (wikipedia ドイツ語版より)。
スペイン語やポルトガル語の alcatraz で、現在は一般にはカツオドリ類を意味するが、もとは大型の水鳥、特にペリカンを指していたものが変形したと考えられるとのこと。
スペイン語やポルトガル語の alcatraz はアラビア語の al-qadus 水車の水をくむバケツ部分に由来し、ペリカンののど袋を連想されたらしいとのこと。あるいは al-ghattas "海のワシ" に由来すると考えられる (Etymology Online)。
alba- (albus) がラテン語で白の意味のため、おそらくこの影響を受けて語形が大きく変化したのではないかとのこと。
英語ではミズナギドリ目の鳥を指して使われており、以前にはグンカンドリ類も指していたとのこと。
フランス語の albatros も同じ語源の説明が書いてあってどこから入ったかは明確でなかった。
wikipedia 英語版では In Hawaiian mythology, Laysan albatrosses are considered aumakua, being a sacred manifestation of the ancestors, and quite possibly also the sacred bird of Kane.
Japanese mythology, by contrast, refers to the short-tailed albatross as ahodori, "fool bird", due to its habit of disregarding terrestrial predators, making it easy prey for feather collectors
とハワイではコアホウドリが先祖を表す神聖な鳥との神話があるが、日本では "ばかな鳥" と扱っていて対照的であると記載されている。
同じページの西洋文化のところでは the most legendary of all birds (最も伝説的な鳥) で、神の創造の汚れない美しさを表したとされた。船乗りが実際には食べていたが、撃ったり殺したりすることは凶事につながると信じられていた。
死んだ船乗りの魂が宿っているとして捕まえたが放した事例などが紹介されている。
伝説から転じて、albatross の語は逃れられない心理的な重荷 (呪い) の意味にも使われるようになった。出典は "The Rime of the Ancient Mariner" (1798) の詩からとのことだが一般的に使われるようになったのは1960年代からとのこと。現代でもさまざまな映画などで扱われる題材で、2011年には逃れられない重荷を表した "Albatross" という題の映画も英国で作られた (wikipedia 英語版)。
和名に関しては The rare 'idiot bird' (Tobias Hayashi 2019) が語源を紹介している。英名の Short-tailed Albatross も (尾が短いことは他の Phoebastria, Diomedea 属でも同じなので) 同様に silly (ばかげている) としている (注: 英名の方はおそらく現在使われていない Temminck の学名由来)。
使われている What's in a name? は直訳すると「名前に込められたものは?」となるが、シェークスピアのロメオとジュリエットが由来らしい (名前というものにはどんな意義があるのか? とジュリエットが自問自答した部分。a rose by any other name どんな名前で呼んでもバラ、と続く)。
名前の意味を説明するとともに、掛詞のように用いておよそ実体を表していない和名であることを伝えたいのだろう (also silly のところで伝えたいことがわかる)。
What's in a name? のフレーズは学名解説でもしばしば現れる。ふさわしくない学名が付いてしまったが規約上変えられなく実体を反映しないものになっている場合を指す。
Barwell (2012)
What's In A Name? What Names For Albatross Genera Reveal About Attitudes To The Birds (この文献は属名由来などの解説にもなっている) では、
英語の mollymawk (Thalassarche 属などの一般名: オランダ語で mal ばか + mok カモメ 由来説がある)、gony/gooney (北太平洋の albatrosses を指した英語で OED では 1957, 1966 年にも用例がある) などとともに
also being the meaning of the Japanese words, aho-dori and baka-dori,
"fool-bird", for the Short-tailed Albatross (Austin 284).
The attitudes lying behind these sorts of names are those which legitimated the unrestrained exploitation of the environment, for profit,
sport, or other motives, in the nineteenth and twentieth centuries.
19-20 世紀の節操ない自然搾取時代の態度が残されたものとしている。
この種の復活物語を英語に翻訳された The Recovery of the Short-Tailed Albatross: A Preservation Success Story (Ishi Hiroyuki 2017) 記事では "屈辱的な" を derogatory と訳してある。
"アホウドリ" の名前は輸出され、何と海外 (ベトナム) でも使われていた: Galapagos Aho Dori - Wikipedia。
[鳥の繁殖開始年齢と繁殖様式の関係]
Taylor and Prum (2023) Social Context and the Evolution of Delayed Reproducytion in Birds に preprint 段階であるが繁殖開始年齢と繁殖様式の関係の研究結果がある。
古典的な生活史戦略はできるだけ早く繁殖を開始する選択が働くはずだが、発育が可能であれば繁殖開始を遅らせる戦略も有利になり得る。鳥類・哺乳類で体のサイズと繁殖開始年齢の相関はこれまで知られていたが、鳥類はほとんどの場合すぐに成鳥と同じ大きさになるのでこの説明は直接適用できない。
いくつかの種においては体の発育ではなく行動 (社会行動、採食行動など) の発育に時間がかかり繁殖開始が遅れる例が報告されている。オナガセアオマイコドリ Chiroxiphia linearis Long-tailed Manakin は体重 20 g しかないが、メスは1-2年めに繁殖するののに比べ、オスは身体の発育が終わっても社会的順位を確立し、オスの集団ディスプレイを発達させるのに 10 年を要するとのこと。
共同繁殖を行ったりやレックを作る鳥でレックでの雌雄の役割に対応して雌雄で繁殖開始が異なることが最近明らかになった。
Ancona et al. (2020) Sex differences in age‐to‐maturation relate to sexual selection and adult sex ratios in birds によれば一夫多妻、オスの方が重い、集団の性比がメスに偏っているほどオスの繁殖開始が遅れる傾向が見られた。
Taylor and Prum (2023) は調査範囲を広げて系統・生活史と繁殖開始年齢の関係を調べたもの。
コロニー性の鳥で繁殖開始年齢の遅れが大きく、共同繁殖でも弱い傾向があり一夫多妻・一妻多夫の性差の傾向も確かめられたが。生態の多様性が大きく、簡単なカテゴリー変数を用いたモデルでは系統モデルを取り入れても現実を説明するのは十分ではない可能性がある。
コロニーで繁殖するハイガシラアホウドリ Thalassarche chrysostoma Grey-headed Albatross の 13 年、共同繁殖をするヒゲワシで 10 年などのモデル推定値が得られた。ワタリアホウドリの野外研究では 11 年とのこと。
繁殖開始年齢と繁殖様式を含めた系統樹が示されているのでご覧いただきたい。
データは Data and code repository for the manuscript: Social context and the evolution of delayed reproduction in birds
にあるので詳しく見ていただければ興味深い情報がみつかるかも知れない。文献から繁殖開始年齢を調査した一覧が data_raw_2023-07-23.xlsx にある。
Schoenjahn et al. (2022) Delayed juvenile behavioral development and prolonged dependence are adaptations to desert life in the grey falcon
によればオーストラリアのハイイロハヤブサでは体サイズから推定すると 12 か月で繁殖可能になると考えられるがその時期でもまだ親と一緒にいるとのこと。他の Falco 属に比べてこの種では行動発育が特に遅い。オーストラリアの暑く乾燥した夏を乗り越えて生まれたその年に繁殖を始めても生存する可能性は極めて低いための特徴と考えている。
[海鳥の翼の上面はなぜ黒い]
Rogalla et al. (2021) The evolution of darker wings in seabirds in relation to temperature-dependent flight efficiency
海鳥の翼の上面は黒っぽいものが多いが、これは空気が熱せられることによって揚力/抵抗の比率が上がり、長距離の滑空に有利であるとの解釈がある (もちろん紫外線防御、摩耗耐性、寄生虫耐性など他にも要因があるだろう)。この研究では滑空時の沈下速度との相関、風洞実験でその効果を実際に確かめた。
カツオドリ類で若鳥で黒く、成鳥で一部白くなるものがあるが風洞実験での飛行効率への影響は翼の下げ角が大きい時に認められた。
黒い翼の航空力学的利点は長距離を渡る鳥や長距離を羽ばたかず飛ぶコンドルなどにも同様にあると考えられるとのこと。ウ類からカモメ類までを含む水鳥で調べられているので図を見ると他にも思いつくことがありそう。
Hassanalian et al. (2017) Role of wing color and seasonal changes in ambient temperature and solar irradiation on predicted flight efficiency of the Albatross
によれば季節で色の変わるアホウドリ類でも黒い色の方が飛行効率がよいいとのこと。
Goumas (2022) Dark wing pigmentation as a mechanism for improved flight efficiency in the Larinae によれば羽ばたき飛行のカモメ類でも成り立つとのこと。風切先端の黒色も翼面荷重 (wing loading) と相関がある。
大型種ほど翼面荷重が大きくなるので翼を幅広くする (アスペクト比を下げる) 必要があり、操縦性能と長距離飛行効率との兼ね合いで進化した可能性がある。黒い翼はは体温調節に有利との考え方もあって独立に働くだろうとのこと。この論文では飛べるようになったカモメ類では保護色として働く必要はないと考えている。
なおカウンターシェーディング (countershading) の考え方は古くから (*1) 提唱されていて有効であることは特に疑われていないが、(獲物からは見えない) 上面の黒さの説明はあまり満足なものがなかった。例えばカモメ類では翼だけ黒くて他は白っぽい種類も多い理由が説明できなかったが、航空力学的効果を考えると説明が与えられるかも知れないという趣旨。
備考:
*1: 川口 (2017) Birder 31(1): 50-51 では Thayer (1896) The Law Which Underlies Protective Coloration
が紹介されているが、wikipedia 英語版によればさらに早くから知られていたようで Poulton (1890) "The Colours of Animals" で昆虫の色彩を記述しているとのこと。
The Colours of Animals (wikipedia 英語版) によれば当時すでに警告色や擬態、進化メカニズムも議論されていて現代的なテーマがすでに出揃っていた模様。当時はまだ遺伝学の理論も未発展だった。Wallace は性選択を支持していることを批判したとのこと。
The Colours of Animals: Their Meaning and Use Especially Considered in the Case of Insects (archive.org) で読める。
出版当時から批判も含めた評判が高かったようで、Abbott (1896) もこれに刺激されて鳥に応用したと考えるのが妥当そう。
Abbott Handerson Thayer の wikipedia 英語版 の記事にも "father of camouflage" (カモフラージュの父) と呼ばれることもあるが彼が発明したわけではないとある。当時まさに議論の対象のころで、そのうちの一人で早い時期に系統的に研究を行ってまとめた著書を執筆していることは確か。
同ページには Thayer はすべての動物がカウンターシェーディングになっているとの誤った考えに取り憑かれていたとある。
[海鳥の翼先端にはなぜスロットがない?]
タカ類などでは初列風切先端の羽毛の (anterior vane) emargination (外弁欠刻) と (posterior vane) notch (内弁欠刻) (emargination は総称的にも使われる) で スロット状の構造 (論文から採用した記述的表現では emarginated, vertically separated primary feathers や slotted distal primary feathers のように使われている。
emargination は個々の羽毛にかかわる用語なので wing を修飾するのは適当でなく、この用語を使う場合は wings with emarginated primaries のような長い表現になってしまう)
があって滑空中に抗力を小さくするのに有利などの解釈がなされるが、長時間の滑空を行う海鳥にはなぜないのかなど説明しにくい部分もある。
van Oorschot et al. (2016) Aerodynamic consequences of wing morphing during emulated take-off and gliding in birds
は実験により、高速の滑空中よりもむしろ飛び立ちなど速度が遅い時に役立っているのではとの仮説を提唱。海鳥は飛び立ちの頻度が少ないが猛禽類は地上から頻繁に飛び立つ必要があるので異なる適応を遂げているのではとのこと。
過去に猛禽類を用いた実験では Tucker (1993) Gliding Birds: Reduction of Induced Drag by Wing Tip Slots Between the Primary Feathers (induced drag = 誘導抗力、後の解説参照)
や Tucker (1995) Drag Reduction by Wing Tip Slots in a Gliding Harris' Hawk, Parabuteo Unicinctus
のように滑空中に注目した研究が中心だったが他の点に着目したものはあまりなかったよう。
van Oorschot による学位論文 (2017) Aerodynamics and Ecomorphology of Flexible Feathers and Morphing Bird Wings も読める。
KleinHeerenbrink et al. (2017) Multi-cored vortices support function of slotted wing tips of birds in gliding and flapping flight
のニシコクマルガラスを用いた研究もあり、従来から想定されていた滑空中の航空力学的効率を上げる効果、羽ばたき時の効果の両者を確認できた。いずれの場合にも vortex spreading (翼端に生ずる渦を分散させる効果) が生じて抗力を弱める効果があった。
ソアリングも滑空も行わない系統にも見られることなどから滑空のために進化した構造というより、もっと一般的な意味があって、初期は羽ばたき効率を上げるために進化したのではないかとのこと。
Liu et al. (2021) A Brief Review on Aerodynamic Performance of Wingtip Slots and Research Prospect にウィングレットの役割にかかわる過去の研究も紹介されている。
この文献では prominent and separated feathers at wingtip called wingtip slots と表現している。"突出"、"分離" のどちらもふさわしい使われ方になっており、翼先分離でも翼先突出のどちらの用語でも表現上は構わない感じがする。"fingers" は英語でも普通に使われるので "翼指" でも差し支えないように思える。
wingtip slots は一般的に使われるが、この数で識別などを表記したものは見つけられなかった。
KleinHeerenbrink et al. (2017) では number of slotted feathers of the wing tip の表現になっていて翼先分離/翼先突出/翼指数に対応する (おそらく適切な学術用語がない)。
この表現を見ると「隙間があって流れを分割する」ことが本質的なようなので、"翼先分離" の方がメカニズムにより対応した名称になっているだろうか。
航空力学について、誘導抗力やアスペクト比などの説明は 人力飛行機を実現する原理[プラントルの揚力線理論](アスペクト比と揚力/誘導抗力比) が参考になりそう。
ウィングレットの項目に大型陸鳥の初列風切羽についての言及がある。
仕組みの日本語解説があるが非常に難しい。自分も流体力学を勉強したことはなく、このような数式をすらすら読める必要はないのでご安心を (*1)。鳥関係で物理学が難しいので...と言われるのはおそらくいきなり飛翔のメカニズムに入ろうとするためではないだろうか。
この解説を見ると流体力学は直感に反する部分が多々あり、完全に演繹的な物理学でもないので初めて取り組むには難しすぎて挫折する恐れ濃厚。
日本語の 空気力学、航空力学 のどちらも英語では aerodynamics なのでそれほど違うわけではない。空気を媒質とする流体力学。ここでは英語で aerodynamics とある場合、飛翔に関係する場面では主に航空力学と訳してある。空気力学的効果のような使い方は聞いたことがないので流体力学的効果としている。
関連して 渦抵抗 (カルマン渦列と抗力) の解説もある。
3. 渦動後流と物体が受ける抗力 (円柱の場合) の解説部分も渦の効果が直感的にわかりやすい部分があり参考になる感じがした。
また「流れの中に置かれた弦などは一定の振動数で振動し音を発するが、このような音響的現象は古くから知られていた」の部分は、羽毛と空気の相互作用で音を発生する種類でも起きているかも知れない (羽毛と羽毛をこすり合わせて音を出る音とは別物 *2)。
現実の鳥の飛行でのレイノルズ数は 25000-375000 の範囲程度とのこと: Alerstam et al. (2007) Flight Speeds among Bird Species: Allometric and Phylogenetic Effects。
「渦抵抗 (カルマン渦列と抗力)」のページに「レイノルズ数が小さい領域 (30 以下) で抵抗係数 C_D が増大するのは、圧力の項より粘性による物体表面の摩擦の効果が勝ってくるから」に該当するのは鳥では着陸・着地の時あたりの超低速飛行の時。
Gowree et al. (2018) Vortices enable the complex aerobatics of peregrine falcons
によればレイノルズ数は 5.8 x 10^5 (22.5 m/s) とあり、このあたりが上限と思ってよさそう。先のページではこの領域では「レイノルズ数が 10^5 を超えると抵抗係数 C_D は急激に減少し ... この抵抗係数の変化は乱流が発生して流れの様子が全く異なった様相を呈するためで、この稿でした渦列の議論は全く成り立たなくなる。抵抗係数急減の説明には乱流境界層の考え方が必要で」
に対応する。Gowree et al. (2018) でもこの領域を扱っており、Prandtl (1931) も引用している。flow separation, re-attachment and vortex generation と乱流境界層がハヤブサの高速飛行を助けているとのこと。
小翼羽 (alula) と渦発生にかかわる過去研究も含めたものは Linehan and Mohseni (2020) Scaling trends of bird's alular feathers in connection to leading-edge vortex flow over hand-wing
で読める。低速飛行中で翼を大きい角度に保った場合に 揚力/抗力の比 を最大にする (13% ぐらい上昇するとのこと) 場所に alula があるとのこと。もっと体に近い位置にあると揚力を完全に失ってしまう結果が得られた。
翼全体の形で最適場所が少し異なり、楕円形のスズメ目の Zimmerman wing では少し内よりに、矩形の猛禽類の翼では中央より少し外側にあるのが最適とのことでほぼ現実を再現している。
Matloff et al. (2020) How flight feathers stick together to form a continuous morphing wing
羽毛の微細構造の方向性のある鈎が "directional Velcro" (方向性のあるファスナー) のように確率的に絡み合うことで隙間を埋めて自動的に理想的な流体力学的構造を作る。ただし無音飛行を行う種類にはこの構造がない (ファスナーを閉じる時のような音がしない)。
高輝度 X 線によるスキャンで明らかになった。10 分以内のスキャンで数千本の羽毛の構造が得られるとのこと。時間もかからないので多数の種を調べることができたとのこと。
アルゴンヌ国立研究所 (Argonne National Laboratory) の運用する高輝度 X 線の研究機関で行われたもの。
Hooks on the feathers stick together: Visualizing how birds form continuous wings in flight (一般向け解説)。
この研究室は他にも構造色の機構の研究などを行っている。
備考:
*1: ただし古い時代の教科書は持っているので、一般的な流体力学の教科書にどのように書かれているかを確認してみた。
粘性のない流体の場合は流れに対して等速度運動している物体には抵抗力が働かないため (D'Alembert's paradox ダランベールのパラドックス として有名)、
翼に働く抵抗を考察するには流体の粘性を扱う必要がある。粘性のない流体にはよく完備した理論があるので、大学で流体力学を勉強する場合には体系立てて理論を学べるこれを主に扱い (出てくる数学は大学で理系の1-2回生段階が中心だがおそらく選択科目なので分野によっては学ばない人も多いかも)、
最後の方で粘性のある流体を扱うのが一般的のよう (ただし単純な場合のレイノルズ数などの概念はもっと早い段階から扱う)。
粘性のある流体中で働く力などは数学的な厳密解が得られないためコンピュータを用いた数値計算や風洞実験などが必要で、学習段階としても後回しになるよう。この場合も円柱や球など理想的な形状を扱っていて翼など複雑な形状は "お話" 程度に出てくるぐらい。また乱流は主に大学院生程度で学ぶのが一般的とのこと。
大学 (理学部を想定) でたとえ物理を勉強したとしても、鳥の翼の流体力学を系統的に学ぶには専門課程ぐらいの知識が必要になる模様。このぐらい専門的な内容になると日本語の専門書や記事を探すよりは英語の教科書を見た方がてっとりばやい、となるのだろう。
論文などのイントロダクションから定性的な話をまず読み取り、必要に応じて上記で紹介したようなページなどを参照して、応用 (現実) と理屈の間を行きつ戻りつ理解を深めてゆくのが現実的そう。
揚力の発生を生徒にどう説明するか (山本明利 2019) も興味深いので紹介しておく。変化球などのマグヌス効果も同様の現象。「誤った、あるいは誤解を招きやすい説明」の項目は注意しておいてよさそう。「ベルヌーイの定理説」の問題点は因果関係が逆転しているということのよう。
説明されているものは Kutta-Joukowski theorem (クッタ・ジューコフスキーの定理)。
この説明は粘性のない流体に対するものだが (ただし以下参照)、現実の流体でも定常流で剥離が発生しない場合はよく成り立つとのこと (wikipedia 英語版より)。まずは粘性のない流体に対する説明を理解するのが多分よいのだろう。
いつまで見られるかわからないが有意義な解説があった。
飛行機の飛ぶ訳 (流体力学の話) (京都大学 OCW 早川尚男)。「しかしこの問を理論物理を研究している大学院生に聞いてみても殆んどはかばかしい答えが帰って来ない」とのこと。物理を専門とする学生でも普通は知らないと思って差し支えなさそう (少し安心)。
ベルヌーイの定理に基づく説明が全く間違っている事にはならないが...あたりも参考になる (ベルヌーイの定理を用いて解説しているものを読む時には、多分ちょっと間違いやごまかしがあってもっと適切な説明があることを知っておくとよい)。
完全流体 (粘性はない) ではそもそも Kutta-Joukowski theorem で言うところの "循環" (circulation, 渦度) が生じない問題も答えが書かれていて、正しい解答は... 以下を参照。
大域的な揚力の発生は粘性がない流体の説明を使ってよいが、そのための渦を発生させるミクロなメカニズムは、物体と流体の接点で現実には物体と流体の速度差が0になるまで流体が減速されるため (この説明は自分にはわかりやすい。boundary layer)。
"循環" は力学の角運動量に対応する概念と対比させると確かに多少わかりやすい感じがする。
これらを知った上で、より大局的な渦の発生や (翼端の渦や翼面の渦の剥離など) それに伴う抗力の発生を把握し、鳥の翼や飛翔羽の形状の適応を考えるのがよさそう。
我らがギルの「鳥類学」の訳本を見ると全体にそれらしい書き方になっているが (ベルヌーイの定理は一部を説明しているに過ぎないなど)、通読しても意味がわからないかも知れない (そもそも循環の意味がわからない)。これらの訳文では原語も添えてあった方が手がかりも得やすい気がする。
*2: #タシギ備考の [タシギ類のドラミング] にまとめた。
[ソアリングの分類]
海鳥類が dynamic soaring (ダイナミックソアリング) を行っている説明はよく読むが、上昇気流によるソアリングとは何が違うのか図があってもわかりにくい。ギルの「鳥類学」(訳本) でもあまり詳しくない。
Mohamed et al. (2022) Opportunistic soaring by birds suggests new opportunities for atmospheric energy harvesting by flying robots
のレビューがあり、流体力学効果による揚力の説明より簡単に理解できるようにに思えたので紹介しておく。力はもちろん流体力学効果が関係するが、ここでは力学で説明できる範囲を扱っているため (まだ) 理解しやすい表現になっている。
一見面倒に感じるが式 2.1 を見るのがわかりやすい。この式は単位時間、単位質量あたりのエネルギー獲得率を表している。最初の項はソアリングとは関係なく推進力と抗力によるものでここでは考えなくてよい。以降は空中の物体 (質点) に働く力を考えた場合のエネルギー獲得を説明していると思って読んでおおよそ正しいはず。
風の流れに対する相対速度を作るのは鳥の役割で姿勢のコントロールなど流体力学効果を用いているわけだが、それはあるものとして定式化している。
2つめが static soaring を表すもので、上昇気流の上向き成分があればその速度で上昇できる (航空力学的な力のみを考えているので重力で落下する項は含まれない)。力学の最初の方で習うように位置エネルギーは mgh なので単位質量あたりとすると m が消えて gh、単位時間あたりにすれば高度 h を時間で微分するので上昇速度になりこの式が得られる。
static soaring の項は上昇気流が時間や場所によって変化しなくても生じる。
第3項が dynamic soaring で、気流が時間 (t) や場所 (ここでは飛行経路 s に沿ったもの) で変化することで生じる成分。風の強さが変化する時、概念的にはエネルギー獲得率は風の速度の変化率 (= 加速度。F = ma から力と思えばよい) と鳥の対空速度 (力の方向に移動すればエネルギーを得る) の積となる
[なお鳥の対地速度 ground velocity は対空速度 air velocity (V) + 風の対地速度 wind velocity (W) いずれもベクトル量 に対応するが単純な足し算にはならないよう]。
この効果を風の速度の時間変化 (後述 gust soaring) と移動経路の沿った風の速度の変化の成分 (後述 gradient soaring) に分けたもの。dynamic soaring を2種類の成分に分けるための表式と考えてよい。
なお進行方向と風の向きによって違うのでは、というのはもっともな疑問で、力と垂直に移動してもエネルギーは得られない。"進行方向の風の加速度成分" のような複雑な表現をとる代わりに内積で表現している。
static soaring のメカニズムを thermal soaring (熱気泡によるソアリング)、orographic soaring (地形によって風が曲がる効果) に分けている。
dynamic soaring は1つめが gradient soaring (風速勾配による効果): ここでは3つ例を挙げていて (a) 海面近くはこちらも boundary layer の効果で風が遅いが海面から離れると速くなる、(b) 海面に波が立つ場合の風が曲がる効果、(c) 地形で生じる風の乱れ。
いずれも場所によって風の速度が異なるため速度勾配が生じる。海鳥の dynamic soaring はこの gradient soaring の効果が中心。
実際にはそれほど穏やかな空気の流れがあるわけではなく、波が立てば乱流も発生するだろうと考えるのは自然で、ここは物事を理解するための単純化と考えていただければよいだろう。
また「勾配」(gradient) と聞くだけで難しそうに感じる。日常的に普通に使われる "勾配" は地表面の高さの傾きのことだが (地表面の高さを水平距離で微分したもの)、風速を地表面の高さと同様に考えて距離で微分したもの。速度勾配の概念は流体ぐらいしか出てこないのでどうしても難しくなる。
速度と速度勾配、あるいは圧力と圧力勾配はよく混同して使われるので、ここは意識して "勾配" のことと捉えるとよい。
2つめが gust soaring (乱流による一時的な風の変化を利用したソアリング)。上昇気流の起きにくい地表付近や森林上空でも活用できるもので多くの鳥が使える時 (opportunistic) に用いている。
地表近くを揺れながら飛ぶチュウヒ類 (#チュウヒの備考 [チュウヒ類の飛翔形] 参照) や不安定な飛行で有名なダルマワシ (#カンムリワシの備考参照) も用いていると考えられている。チュウヒの備考では安定化機構として浅い V 字型をとる仮説を紹介したが、static soaring が期待できない条件でのソアリングのため (羽ばたき飛行に比べてエネルギー消費が少なく獲物にも気づかれにくい) の適応の一つとも言えるのかも。
Mallon et al. (2016) In-flight turbulence benefits soaring birds は地表付近を飛ぶハゲワシで乱流が役に立っているだろうと提案している (チュウヒ類は出てこない)。
このような概念的なエネルギー獲得率が実際に成り立っているかどうかは議論もあるらしい。Richardson et al. (2018) Flight speed and performance of the wandering albatross with respect to wind
はワタリアホウドリのトラッキングでどのようにソアリングを行っているか調べている。風が比較的弱い時は理論の予測する効果が現れているようだが、風が強い時は対空速度を抑えていて制御のための筋力や翼の制約で翼の形を変えて対応しているのではとのこと。
風速に応じて上昇時・下降時の速度を制御することで対地速度を稼ぎ、単位時間あたりに採食のために探索できる範囲を広げている可能性がある。
Richardson and Wakefield (2022) Observations and models of across-wind flight speed of the wandering albatross
も同じグループによる研究で、dynamic soaring が可能な理論値より低い風速でも飛行を行っている。波による風速の変化 [Mohamed et al. (2022) にある上記分類の (b)] からエネルギーを得ているのではと推論。風の強い場合の制約は Richardson et al. (2018) と同様の結果となっている。
Darby et al. (2024) Strong winds reduce foraging success in albatrosses いかに風の利用に長けたアホウドリとは言え強風ではさすがに採食効率が落ちるとのこと。
翼竜 (pterosaurs, 鳥類とは別系統) が種によりソアリング、羽ばたきを用いていた可能性を示唆する化石証拠: Rosenbach et al. (2024) New pterosaur remains from the Late Cretaceous of Afro-Arabia provide insight into flight capacity of large pterosaurs。
海上で thermal soaring を行っていたのではと推定。
飛翔と構造に関連する話題なのでここに含めておくが、鳥類では翼と後肢が独立に進化できるのに対してコウモリでは前肢と後肢に強い相関があることがわかったとのこと: Orkney et al. (2024) Evolutionary integration of forelimb and hindlimb proportions within the bat wing membrane inhibits ecological adaptation
コウモリでは飛翔に皮膜を用いるため前肢と後肢が関連しつつ進化する制約があったのに対して鳥類はその制約がなかったとの解釈。コウモリは独自の飛行方法を開拓したがその仕組みが進化の制約要因ともなって鳥類ほど多様な生活様式を取ることができなかったとの見方。
多少鳥ひいきの感じはあるが面白い結果と言えるだろう。
△ ミズナギドリ目 PROCELLARIIFORMES ミズナギドリ科 PROCELLARIIDAE ▽
-
フルマカモメ
- 学名:Fulmarus glacialis (フルマルス グラキアーリス) 氷の臭いカモメ
- 属名:fulmarus (合) 臭いカモメ (Fulmar 古ノルド語で臭いカモメ; 英語の foul mew に対応)
- 種小名:glacialis (adj) 氷の (glacies (f) 氷 -alis (接尾辞) 〜に属する)
- 英名:Fulmar (or) IOC: Northern Fulmar
- 備考:
fulmarus は外来語由来で発音がよくわからないが、短母音のみで -rus- で音節が区切られるならばここにアクセントがある (フルマルス)。アクセントを長音で発音しても差し支えないと思える (フルマールス)。英語の fulmar は冒頭にアクセント。
glacialis は -alis の a が長母音でアクセントがある (グラキアーリス)。-alis の接尾辞の発音による。
種小名「氷の」はこの種の場合スピッツベルゲン島を指す。3亜種 (IOC) あり、日本で記録されるものはベーリング海近くに分布する rodgersii (アメリカ軍人で探検家の John Rodgers 由来)。属名の由来はミズナギドリ科の構成種は、本種に限らず危険を感じると口から液体を吐き出す防御行動を取ることに由来する (wikipedia 日本語版)。
Fulmarus 属 (フルマカモメ属) は Northern Fulmar と Southern Fulmar Fulmarus glacialoides (ギンフルマカモメ、南半球南部の大陸沿岸から南極大陸沿岸にかけて分布) の2種のみ。姿はカモメ類に似ているが、系統的にはかなり異なり、ミズナギドリ目に属する。
トロール船の活動に伴って 20 世紀に分布を広げたとされ、世界の大部分の地域で個体数は増加している (wikipedia 英語版)。
[におう鳥のリスト]
珍しい研究として Weldon and Rappole (1997) がアンケート調査によって (さまざまな意味で) においが感じられる、あるいは毒気を感じる (ヒトにとって不快な味がする *1) 鳥のリストを挙げている:
A Survey of Birds Odorous or Unpalatable to Humans: Possible Indications of Chemical Defense。これは鳥類におけるにおい物質による化学防御やコミュニケーションの役割を考えるのに役立つ。
アンケートに応じた鳥類学者も好意的な反応で、常日頃知りたい、あるいは情報を残しておきたいと思いつつももまとまった研究がなかったので興味津々だったのかも知れない。
新世界カッコウの仲間の Ani (Crotophaga) は集団でいると数 m 離れていてもわかるぐらいだそうである。フルマカモメはもちろん、ツメバケイ、ヤツガシラのような有名な種も含まれている。
スズメ目ではムクドリモドキ (grackles, Quiscalus) はだいたいにおう。アンチルクロムクドリモドキ Quiscalus niger Greater Antillean Grackle は足がにおうとの報告があり、におい物質は尾脂腺由来と一般に考えられているのと異なる。オウム類は一般にもよく知られている通りで、この調査でもたくさん見つかっている。
新世界ハゲワシは嗅覚が優れているが、多くの人がにおいを報告している。死体のようなにおいがするので新世界ハゲワシの肉は他のスカベンジャーも食べようとしないとされる (トキイロコンドル、ヒメコンドルについては別文献から後述)。しかし旧世界ハゲワシはそうではない。
ミサゴ (これは救助個体などでよく知られている。#ミサゴの備考参照) とカラカラもにおう方に入っている。
同著者による Weldon (2023) Chemical aposematism: the potential for non-host odours in avian defence
化学防御のレビュー論文があり、さまざまな種類の鳥での分泌物質研究やカや寄生虫の防御などの情報がまとめられている。エトロフウミスズメやヤツガシラなどの分泌物質などもレビューされている
(#エトロフウミスズメ、#ヤツガシラの備考参照)。
キツツキの仲間で Hemicircus 属は腺でなく、背中のヒゲのような特殊な羽 (fat quill) からにおいを出す脂肪分を分泌している。
Bock and Short Jr. (1971) "Resin Secretion" in Hemicircus (Picidae) が調べたところでは分泌している皮脂腺は見当たらなかった。
尾脂腺以外の鳥の皮膚からの分泌については、Menon and Menon (2000) Avian Epidermal Lipids: Functional Considerations and Relationship to Feathering
によれば、鳥には尾脂腺以外の皮脂腺は知られていないが、皮膚に脂肪が含まれていて分泌される例もある (ニワトリのとさか、指の間の水かきなど)。
粉綿羽 (powder downs) も羽毛による皮脂分泌に含まれている。
毒鳥 (Pitohui) の分泌も皮膚機能の一つ。
皮膚からの色素分泌については#トキの備考も参照。
脂肪を出して皮膚を防水するよりは水分蒸発で体を冷やす機能の方を優先している (皮膚が水分をよく通すことで高い体温を逃したり飛翔時に体を冷やすのに役立つ)。
皮膚の脂肪の分子配列構造の温度変化で水分の通りやすさが調節されている: Champagne et al. (2018) Presence and persistence of a highly ordered lipid phase state in the avian stratum corneum。
哺乳類よりも脂肪を構成する脂肪酸分子が長く、より高い体温に対応している可能性があるとのこと。
コウモリでも皮膜に鳥類同様の皮膚角化組織にセレブロシド (cerebroside, スフィンゴ糖脂質) が蓄積して水分含有量を調整している。通常の (病的でない状態の) 哺乳類の角化組織には含まれず、収斂進化と考えられるとのこと: Ben-Hamo et al. (2016)
The cutaneous lipid composition of bat wing and tail membranes: a case of convergent evolution with birds。
この研究は鳥類にあるならば飛ぶ哺乳類にもあるだろうと予測してその通りだった事例。
Haeglin and Jones (2007) Bird Odors and Other Chemical Substances: A Defense Mechanism or Overlooked Mode of Intraspecific Communication?
によればにおう鳥のすべてが尾脂腺を持っているわけではない。エトロフウミスズメも、フルーツのような甘い香りのするニュージーランドの飛べないオウムのフクロウオウム (カカポ) Strigops habroptilus も尾脂腺から出たばかりの分泌物は人にはにおいを感じられなかったとのこと。
オウム類のいわゆる「インコ臭」では粉綿羽が役割を果たしている可能性がある。
なおオウム類と系統の近いハヤブサ類もオウム類ににおいが似ているとの記述がある ["Where Song Began" #ミサゴの備考も参照]。
海鳥類の (無臭の) 分泌物が細菌で分解されて酸やアルコールのにおい成分となっている可能性がある。
この研究の時点ではヤツガシラ類の悪臭が自然の天敵を遠ざける効果がある実験的検証はまだなされていなかったが、ネコなどに効果のある試験的データはあるとのこと。
哺乳類捕食者のいない島では強いにおいを持つ傾向があり (前述のカカポも同様。カカポは嗅覚遺伝子数も多く 667 とのこと)、ハワイミツスイ類 (Drepanidinae) ではほとんどの種の羽毛ににおいがある (wikipedia 英語版ではキャンバステント (canvas tent) のようなにおいがあるとのことで分類の系統にも関連があるらしい。
Pratt (1992) Is the Poo-uli a Hawaiian Honeycreeper (Drepanidinae)?
では実際にさまざまな標本を使ってにおいを調べて、属の根拠としている。袋に入れて見えないようにしても区別できるという。著者によれば同様のにおいを持つ新世界スズメ目、特にヒワ亜科の標本はなかったとのこと。解剖学的分類中心の時代では一番有力な分類手段でもあったとのこと。
コンサイス鳥名事典によれば南米のトキイロコンドル Sarcoramphus papa King Vulture は食後は悪臭がするが、ほかの時はジャコウの香りがするとのこと。
wikipedia 英語版によれば捕食者を遠ざけるために巣に悪臭があるとのこと。
Maraci et al. (2018) Olfactory Communication via Microbiota: What Is Known in Birds?
の総説によればヒメコンドル Cathartes aura Turkey Vulture の皮膚は特別の細菌叢 (おそらく獲物由来) を持っていてにおいに関係していると考えられるが、嗅覚コミュニケーションに関係があるかは不明とのこと。
Haeglin and Jones (2007) に戻ると鳥類学者は3種の化学受容 (嗅覚、味覚、三叉神経システム) をあまり区別してこなかった。嗅覚の研究は比較的あるが他は少ない。
鳥類はヒト同様鋤鼻器 (vomeronasal organ 別名ヤコブソン器官 Jacobson's organ) を持たないのでフェロモンの役割は限られていると考えられてきたが神経端末は存在するのでフェロモンを感じる役割が否定されるわけではない
(この点は最近進展があり #エトロフウミスズメ備考の [鳥類の嗅覚] 参照)。
尾脂腺の分泌は CD1 遺伝子が制御している可能性が指摘されており、これは MHC (major histocompatibility complex 主要組織適合遺伝子複合体) の祖先遺伝子にあたるので鳥類でもヒトでも嗅覚コミュニケーションはこれまで見過ごされた役割を持つかも知れない。
鳥のにおい/嗅覚の話は最近少し注目を浴びているようで、こんな本も出ている。Whittaker (2022) "The Secret Perfume of Birds" (あるいは訳本が出ないかと期待しているが...)。
関連講演の YouTube 動画もある。
Feb 13, 2023 Secret Perfume of Birds Danielle Whittaker。
嗅覚に関連する話の続きは #エトロフウミスズメ備考の [鳥類の嗅覚] にまとめた。
備考:
*1: unpalatable は palate (口蓋、味覚 < ラテン語 palatum) 由来で、不快な味がする、おいしくないなどの意味。鳥類の生態学で "まずい" と出てくるのはこの単語の意味と考えてよさそう。
よく似た単語に impalpable があって (特に触覚で) 知覚できないの意味。語源は異なり、ラテン語 palpo そっと触れる由来 < インド・ヨーロッパ祖語語幹の *pal- 感じるが語源とも考えられている。医師の触診は palpation。
[2018 年カリフォルニアのフルマカモメ集団死]
Greenwald et al. (2024)
Investigation of a Mass Stranding Event Reveals a Novel Pattern of Cascading Comorbidities in Northern Fulmars (Fulmarus glacialis)
が報告をまとめている。フルマカモメやウミガラス、アメリカウミスズメ Ptychoramphus aleuticus Cassin's Auklet の集団漂着が見られ神経症状が見られた。
藻が生成する有毒なドウモイ酸 (domoic acid。グルタミン酸受容体に結合) やサキシトキシン (saxitoxin。有毒渦鞭毛藻が生成し Na+ チャネルを阻害。テトロドトキシンと同じ機序でフグ毒の成分の一つともなる) が認められ、環境中の異常な高濃度の記録とも一致した。尿路系にも強い影響を与えて感染症による腎炎などを併発していたとのこと。
wikipedia 日本語版によればドウモイ酸は徳之島で駆虫薬として用いられていた紅藻ハナヤナギから分離・命名されたとのこと。
1961年8月18日カリフォルニア沿岸のキャピトラ、サンタクルーズに錯綜した海鳥の群れが出現し、ヒッチコックの「鳥」はこの事例から着想を得たと言われる。この事象もドウモイ酸中毒と推定されている (wikipedia 英語版より)。
参照: Bargu et al. (2011) Mystery behind Hitchcock's birds。
中枢神経が侵されるため他の動物でも人を襲った事例などもあるらしい。
極端気候によりアメリカ西岸でドウモイ酸発生が起きやすくなっている: Trainer et al. (2020)
Climate Extreme Seeds a New Domoic Acid Hotspot on the US West Coast
海水温が 4 ℃ 上がるとドウモイ酸発生量が 11 倍に増えたとの実験結果がある: Xu et al. (2023) Plastic responses lead to increased neurotoxin production in the diatom Pseudo-nitzschia under ocean warming and acidification。
この場合は酸性化より温暖化の効果の方が大きかった。