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くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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更新:2024-02-25

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(日本鳥類目録 改訂第7版準拠+α)

新・野鳥の学名入門

加藤太一 (京都大学理学研究科)

(本ページの内容への問い合わせ先: tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

著者の所属するML Kbirdへの投稿の形でも歓迎。他の方の意見も仰げるかも知れない)

(2024-02-22改訂)

◆ご紹介

本ページはくまたか/日本野鳥の会筑豊支部にかつて掲載された「野鳥の学名入門」を元に内容の改定・備考の追記を行って作成しているものである。日本鳥類目録 改訂第7版がベースとなっているが、日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、パブリックコメントへの回答および第二回パブリックコメントに向けた暫定リストを一部踏まえている。 掲載順は日本鳥類目録改訂第7版であるが、第8版で修正予定の学名の解説と#第8版新規掲載種 (最後に付記) も付記しており、(外来種は除く) 第8版用の亜種を含む学名辞典としても活用いただけると思う。 第8版で#検討種予定一覧と若干の考察も追記した。 作成に当たっては日本野鳥の会筑豊支部および (旧)「野鳥の学名入門」作者の了承を得ている。現在はまだ作業中であるが、すでに記述した部分だけでも有益な情報が含まれていると考えられるため、この段階で公開とともに逐次改定を進める予定である。補足の大部分の記述は著者自身が調査したものであるが、一部の (主に伝聞) 情報には出典がわからなくなっているものも含まれており、適切な引用先をご存じの方はご一報いただければ幸いである。
本稿準備中に日本鳥学会による日本鳥類目録第8版和名・学名リスト公開 (2023年9月30日) が行われ、「やむを得ない場合の修正を除いて、第8版の掲載順や分類、和名については本リストに従います」とされている (このリストの掲載順は IOC 13.2 に準拠とのこと)。さらに第二回パブリックコメントに向けた暫定リスト (2023年10月31日。国内分布情報、学名の著者情報を追加) が発表されている。 その後「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) が発表された。 第2回パブリックコメントが今後予定され、目録第8版の出版は2024年9月に予定されていることである。 ちなみに IOC は国際鳥類学委員会 (International Ornithological Committee) の略。現在は IOU 国際鳥類学者連合 (International Ornithologists' Union) の名前になっているが、チェックリストの名前を呼ぶ時は IOC が使われている。IOC World Bird List から最新の分類を知ることができる。 本稿では現状の改訂第7版時代の資料性も保持するため配列順 (および掲載種。一部例外を含む) は改訂第7版を維持し、学名等に関する記述も改訂第7版を基本とするものの、第8版に関わる情報も主に備考の形で含む形とした。最新の情報は「日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)」として表記した。これは日本鳥類目録第8版の最終版を意味するわけでないことにご留意いただきたい (参考文献参照)。
索引は「野鳥の学名入門」をそのまま利用している。英名などの修正を行ったものでは索引と本文が対応していない場合があることをご理解いただきたい。
このページ内へのリンク (備考参照など) には # を付けて外部ページへのリンクと区別している。これらのリンク先は [別ウインドウで開く] などで見ていただければ使いやすいと思う。

◆索引

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◆鳥類学名の読みと意味・名前のことなどさまざま

  • 種の学名は属名 (genus; generic name) と種小名 (specific name; species epithet; 学名を扱っていることが明らかな文脈では単純に epithet と略すこともある) から成っている。学名はカナで読みを示し、またそれぞれに意味などを説明している。[wikipedia日本語版学名にもかなりの情報がある]。
  • 学名の読みをカナ書きで表記してあるが、日本語の発音に近似させたもので、ラテン語の発音を正しく表しているわけではない。
  • 本ページでは、「日本鳥類目録 改訂第7版」掲載の633種を同書の配列順により掲載している。また、参考のため福岡県で観察される野外識別が可能な亜種のうち、ツグミ亜種ウソ亜種を扱い、他種の亜種についても備考で触れている。「日本鳥類目録 改訂第7版」非記載の鳥(外来種)を掲載している。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、パブリックコメントへの回答、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト (目録第8版出版前段階のもの) も一部踏まえている。種名見出しでは目録第8版で種の分割、合体により学名が変化する見込みのものに注意を促す意味で注釈を加えた。属名のみの変更は記していない。
  • 和名による分類階級は、目・科・種(一部亜種)を記載し、日本鳥類目録第8版で新たに付く予定のもの以外の属名は省略している。
  • このページへの個々のご意見・ご質問等は上記執筆者メールアドレスか ML Kbird を通じてご連絡ください。サイトへの全般的ご意見・ご質問等は、[ご連絡]のページより、メッセージ先頭に「野鳥の学名入門」と記し送信してください。
  • 追記した備考では細分した中間的な分類概念をしばしば用いている。上位概念から順に (order) - 亜目 (suborder) - (family) - 亜科 (subfamily) - 族 (tribe) - (genus) - 亜属 (subgenus) - (species) - 亜種 (subspecies) のようになる(Taxonomic rank)。 太字が必須項目 (亜種まで記載する場合は亜種も必須になる)。亜種のない種を単形種 (または単型種、漢字の選択は日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に合わせた) と呼ぶ。英語では monotypic species。
    近年は分子遺伝学の進歩により従来単一であった属が単系統でないことが判明し、複数の属に分割されることも多くある。日本国内の種に限れば一属一種となるものも多く、属名から類縁関係を推測しにくくなっているケースもしばしばある。これらの場合に族などの中間的な分類概念を適切に使うことで分類的位置がわかりやすくなることもあり、実際に利用されている。 また非常に大きな分類群においては下位の中間的な分類概念を使うことは実用上も意義があり、従来も「ヒタキ科ツグミ亜科」のような使い方がなされてきた。近年の分類で亜科の分け方が大きく変わっているものもあるので (#ヨーロッパコマドリの備考参照) 注意が必要である。 種より上位の分類概念には定まった規則がないため、現在でも、そして今後も属の境界をどこに置くか、中間的な分類概念をどの段階に適用するかなど分類学者の間でも意見が分かれる場合もある (もちろん独立種と認めるか亜種とみなすかなどの議論もさまざまな形で存在する)。
    この (生物学的) 階級 (rank) の他に、上種 (superspecies)、例えばメボソムシクイ上種のように、近縁種をグループ化した名称 (species complex、例えば herring gull complex、sibling species 兄弟/姉妹種) もしばしば使われる (Species complex)。対応するラテン語用法に sensu lato (s.l.) 「広い意味で」があり、種名の後に s.l. を付けて類縁種を含むことを意味する。 〜の一種を意味する sp. は属名に付けて、その属の一種を意味するものだが、メボソムシクイ属のように大きな属の場合は、メボソムシクイ sp. のような使い方は望ましくないかもしれない。メボソムシクイ s.l. とすればメボソムシクイ上種を表すことができるであろう (が、分類専門家の意見を聞いたわけではないので正確ではないかも知れない)。近年提唱されている Accipiter属の分割が行われれば、これまでのハイタカ属 sp. のような表現は厳密には意味をなさなくなる。 sensu lato の反対の意味のラテン語は sensu stricto 「厳密な意味で」で、s.s. または s.str. と略される (が略号で使われるのをあまり見たことがない)。これらの用語を知っておくと海外の分類などを見る時に役立つだろう。
  • 亜種そのもの記述は属名・種小名・亜種小名からなる三名法を用いるのが正統的であるが、備考では亜種の解説などの際に煩雑になることを避けるため、亜種(小)名を主に用いている。
  • 外国語を記述する際に、非ラテン文字 (ギリシャ語、ロシア語など) は標準的なラテン文字転記で表示している。英語以外ラテン文字やラテン文字転記されたギリシャ語で広く使われるアクセント記号類は省略しているので、出版物などに用いられる場合はもとの綴りを確認されたい。 ロシア語のラテン文字転記はもとの表記に戻すことができるが、ギリシャ語ではアクセント記号類を省略しているためこのラテン文字転記からもとのギリシャ文字表記に戻すことはできない。なおドイツ語のウムラウトのみは標準表記に従い、e を追記して示している (同じ文字を使っていてもスウェーデン語では e を追記しないなどの不統一が発生するがご理解願いたい)。
  • 標準和名は日本鳥学会が定めた名称で、これ以外の名前を使ってはいけないわけではない (例えば分野によっては実用上の観点から古くから知られた別名が使われることもある)。論文などを記述する場合にはどのリストに従うかが示されていると思われるので、日本の鳥については標準和名を用い、それ以外については他のリストを用いることなどになるだろう。 この稿では備考などに登場する日本鳥学会のリストにない鳥については原則 Avibase の和名を用いている。英名はもっと事情が複雑で頻繁に変化すると考えてよい。学名も結構よく変化するので、日本の鳥に限って観察・記録する場合は標準和名を使っておくと後々名前の修正を行う手間が少なくて済むだろう。
  • 写真などを整理する時に、生物の階層分類に従ってファイルを整理するのは極めて自然なアイデアであるが、分類学の進歩に伴って大胆な分類変更が行われることがある (例えばウ類はかつてペリカン目だったものが現在はカツオドリ目に移されている、サギ類はコウノトリ目だったものがペリカン目になっている、ツグミ類とヒタキ類の再編が行われたなど)。 上位分類はもうあまり変わらないかも知れないが、属分類の変更は今後もあると思われるので、分類を基準に体系的な配置を行ってこられた方 (あるいは種の説明に上位分類まで記載されてきた方など) は最新分類を常時意識されるとよい。 思わぬところで思わぬ変更があったりする。あまり「がちがち」にデータベースを作ると変更に大変な思いをすることもあるので、柔軟に変更できる構造にしておくとよい。
  • 海外探鳥などをされる方は日本産鳥類ではカバーできないので IOC 分類などを用いられる方もあるだろうが、これもよく変更がある (1年に2回更新) ので最新版をフォローするのはなかなか大変である (それはそれで面白いわけだが)。もうちょっと高度 (超マニアック?) な楽しみとして、最新文献をチェックして次の分類変更を予測するなどもある。 海外にはそのように楽しんでいるバーダーや野鳥関係のフォーラムもあり、日本のバーダーも学会の判断を待つだけでなく、もっと関心を持つとよいのではないかと思う。例えば日本鳥類目録第8版が出ても次の改定には時間がかかるであろうから、海外の分類動向も変わってゆくであろう。(論文や出版物に使用する場合を除いて) その間に第8版の学名を使い続けるのか、海外のものに合わせてゆくかは個人の裁量の範囲であろう。 後の各種ごとの補足説明にもしばしば現れるが、日本周辺だけデータが不足していて分類が確定できないケースがある。バーダーがもっと関心を持って取り上げれば遺伝子解析などを行える専門家にとってもよい刺激になるのではないかと期待している (最初から余談ばかりであるが...以後脇道が多いので不要の方は読み飛ばしていただきたい)。
  • 海外の国のチェックリストはどう管理されているのかを知ることもよい刺激になるだろう。例えばフィリピンでは The Wild Bird Club of the Philippines (日本野鳥の会のような組織) が管理をしており、毎年更新されている: Checklists of the Birds of the Philippines。コメントを送ったこともあるが文献も付けてしっかり返事をもらえた。信頼できる野鳥のチェックリストがない国もあり、世界のデータベースなどを検索して気づかれるかも知れない。
  • 国レベルのチェックリストではないが、日本で言えば都道府県レベルのチェックリストを維持しているところも多くある。スウェーデンのサイト Vastmanlands faglar などは地域レベルの記録を管理されている方には興味深いだろう。個々の文献も収集してスキャンなどを公開している (Referenser から見られる)。
  • ドイツの鳥学会が世界の鳥のドイツ語リストを2022年に発行。Die Voegel der Erde で540ページの本を無料公開!
  • こちらはフランス語版世界の鳥リスト。IOC よりさらに先行してここで紹介しているような新学名にも対応! 改訂も頻繁に行われている模様。Noms francais normalises des oiseaux du monde - 2024 - version 6.3。 ダウンロードも可能。学名は Gaudin のものを使っているかも知れない。
  • 本稿ではさまざまな論文にリンクを張っているが、なるべくフリーアクセスできるものを優先した。ページから [Download PDF] などのメニューに従えば読めるものが多いと思う。 文脈や学術雑誌名からオープンアクセスに見えにくい場合のみ「オープンアクセス」と明示したものがあるが、その表示がなくても実際にはここで示した論文の多くは誰でもフリーで読むことができる。 アクセス制限が表示される場合は論文表題を用いて検索してみていただきたい。例えば著者レポジトリなどで全文が読めるかもしれない。また雑誌によっては一定期間後にオープンアクセスになるものがある。 報道記事などへのリンクはたどれなくなっているかもしれない。その場合はインターネットアーカイブなどで読めるかもしれないので試していただきたい。
  • そもそも学名を知って何の役に立つのだろうと思われる方も多いだろう。かつては「世界共通の名称なので海外の人に伝える時や海外図鑑を見る時などに役立つ」とも言われていたが、日本鳥類目録第7版以前で日本で使われていた学名は古いものもあり、世界のリストと異なる分類も採用されていたために実はあまり世界共通の名称として使えなかった。 目録第7版ではかなり世界の分類に近づいたが、それ以降に分類が改定されたものなどは反映できていないため、ごく身近な鳥、例えばウグイスでさえも日本の学名が海外のものと合わなくなってしまった。1種が複数に分割された種などでは日本の学名で海外に出すと全然違う種類を指してしまうことも生じた。 海外図鑑を購入された時に和名を書き込む作業をされる方もあると思うが、学名がいかに異なるかを実感されたであろうと思う。目録第8版では世界のリストとほぼ同じになる見込みだが個々のケースでは注意が必要なものもある (それぞれの備考に記載)。
    実際上は英語のわかる海外バーダーであれば英名は把握していることが多いので、海外バーダーもそもそも知らない学名よりも英名の方が通じることが多く、この意味での学名の必要性はあまりなくなってしまったかも知れない (それでも亜種等の細かい話ではやはり学名を使わざるを得ない)。英語圏以外の場合は長い学名を使うよりもそれぞれの現地語を覚える方が手っ取り早いこともある。 それでも英語以外で書かれた海外の書物やウエブページを参照する場合は学名は一定の役に立つ。また画像や映像を検索する場合でも学名で検索すれば日本語や英語以外のページも多数ヒットするのでこの効用は大きい。もっとも検索程度であればその場でコピー・アンド・ペーストをすればよいので学名を記憶するほどの必要性は少ない。
    近年分子遺伝学の目覚ましい進歩で系統樹を見る機会が圧倒的に多くなった感じがする。例えばヒトの進化や新型コロナウイルスの新しい株の名前など、一般的なメディアでもよく見かけ、系統樹に馴染みのある人も増えているだろう。 ちなみにこのような目覚ましい進歩は次世代シーケンサー (Next Generation Sequencer, NGS) のような分析装置や、その結果から塩基配列を構成するコンピュータプログラムの進展によるものである。遺伝子やゲノムの解読は日常的に行われる時代であり、「ヒトゲノム計画」の時代には月着陸に匹敵する大偉業と呼ばれていたのとは隔世の感がある。 新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) が「新型肺炎」の形で最初に見つかった時に NGS が使われたことを後に知り、初期になぜあのような形 (まず SARS の再来が疑われた) で物事が進んだのかを納得できた。このあたりは報道に出てくることもまずなく、現代生物学のリテラシー不足によって疑似科学的な説を容易に受け入れてしまう原因にもなっているように感じる。
    事情は鳥類でももちろん同じで、全鳥類種のゲノム解読を行う野心的プロジェクト The Bird 10,000 Genomes (B10K) Project が走っている。 別種か、あるいは別亜種か、などの説明を見る時には分子系統樹を目にする機会が増えている。系統樹では一般向けに分かりやすく描き直したもの以外では通常学名しか出てこない。すなわち学名をある程度読めないと系統樹をまったく読めないのである (これは種や亜種分布の地図などでも同様)。 これは現代生物学の面白みを半分捨てているようなものである。ちようど辞書を引けば英語が読めるがそのままでは読めない状況に似ていて、手間をかけて知っている和名などに翻訳して書き込むか、そのままで読めるかの違いになる。後者の方がずっと気軽に扱えることは間違いないだろう。このような経験を通じれば学名も (見ればわかる程度には) 案外覚えてしまえるものである。
    また、海外の保護種 (レッドデータブック) リストなどで現地名と学名表記のことがある。知らない言語の場合は学名が手がかりになることは従来と同じである。
    それ以外にも、和名や英名と同様、学名にも命名者の思いが (時には勘違いも) 込められていることもある。それらも読み取って歴史を振り返る楽しみがあるだろう。
  • 自分も詳しく知っているわけではないが、学名の命名には詳細な規約がある。現在使われる学名はその規約に基づいて了承されているものだが、そこに至る経緯は必ずしも平坦なものばかりではなかった。 学名には先取権 (priority) の原理があり、同じものに名前を付けた場合は早く付けられた名称が有効になる。後に付けられた名称はシノニム junior synonym となる (junior synonym の和訳は複数ありジュニア・シノニム、後行シノニム、新参シノニム。シノニムの部分も異名と訳されることもある。本稿では紛らわしいことはほとんどないので単純にシノニムと表記した)。 気づかずにすでに他で発表された学名と同じものを発表してしまうと無効な学名になる。 このあたりは常識的にも理解しやすいが、実際に学名が決まる過程はしばしば非常にややこしく、使われるようになってからかなり後にその名称がすでに使われていたことがわかって改名されたことや、 古い文献では綴りが違っていたり語尾が省略されていたりしたものが訂正されて使われていることもあって、どれが正しいのか議論が発生するなど様々なケースがある (サカツラガンの学名変更は未確定のケースにあたる)。 個々のケースでわかる範囲で説明を加えてあるので学名の世界を楽しんでいただきたい。 最近多い学名変更は分類の見直しによるもので、分子系統解析の結果1つの属が単系統でないことが判明して複数に分割されるケースなどが多い。我々が通常みかける学名変更はこのケースが多い。 ラテン語には文法上の性があるので、属変更の結果で属の性が変わると種小名の性もそれに合わせて変化する (形が変わらないこともある)。 また種の中の亜種が独立種とされる場合も種に相当する学名が付くことも容易に理解できるであろう。 その亜種がもとの種の基亜種 (その種で最初に記載された亜種) であった場合は2種に分離された場合に分離された種の方が学名を引き継ぐことになる。日本で通常記録される亜種が基亜種でない場合は日本で通常記録される種の学名の方が変わることになる (アオジとシベリアアオジなど)。 ある亜種が別の種の亜種とするべきことが判明した場合は亜種の移動になるが、これも基亜種の移動の場合、移動先で基亜種になる場合は移動先の種の学名に影響が及ぶ。 これらは分類概念による部分があるので、異なる分類学者が異なる学名を用いる要因の一つとなる。 また現代では珍しいが、異なる属が統合された結果同じ属に同名の種小名が生じ、後に付けられた方の学名を変える必要が生じることもある。 これらも個々の事例でわかる範囲で説明を加えてある。
  • アメリカやカナダでは、個人名の付いた英語の鳥名の名称変更の動きがある。American Ornithological Society Will Change the English Names of Bird Species Named After People (2023年11月) はアメリカ鳥学会の動きであるが、特定の人名よりは鳥の特徴を表す名称に変えてゆくとのことである (現代では受け入れがたい価値観の個人にちなんで付けられたなどが問題となったことが発端にある。Bird Names for Birds 運動についての wikipedia解説。スウェーデン鳥学会や NASA も名称や取り扱いを変更したとのこと)。 この動きは世界の英名、あるいは場合によっては他国語名にも影響を与えると考えられ、今後注視してゆくべきであろう。 日本ではむしろ和名の由来となった人物を紹介するなど行われているが、あるいは我々は個人名を鳥名に付ける議論への感度が低いのかも知れない。
    この動きを受けてアメリカでは早速「元オバマ大統領にちなんで付けられた鳥の名前はどうなる?」の議論が出ている。これはニシオオガシラ Nystalus obamai IOC 英名 Western Puffbird であるが、英名 (アメリカ名では Western Striolated Puffbird) に人名が入っていないことから変わらないそうである。学名はそのまま維持される。 英語以外の言語ではオバマを冠している名称もあるようである。 wikipedia英語版によれば Mr. Donald Trump にちなんだ学名を持つ生物は複数あるそうだが、鳥は含まれていない。 ウイルソンアメリカムシクイ Cardellina pusilla (Wilson's Warbler) も改名の対象となっており、英名が変更された場合に和名はどうするだろうか。 改名に関する話題については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名] もご覧いただきたい。
  • その後アメリカ鳥学会の動きが予期せぬ波紋をもたらしている。北米と南米の種の検討委員会 (南米は South American Classification Committee, SACC) は近年は20年以上協力して名称を決めていたが、アメリカ鳥学会の英名決定に SACC が関与できなくなったため協力関係を打ち切り、SACC は IOC と連携して世界の鳥のチェックリスト作成に関与することとなったとのこと (#ハヤブサの備考の [ハヤブサ目の系統分類] と紹介リンク先参照)。 北米と南米は共通の渡り鳥などがあるが、米国と南米で異なる英名が使われる事態も発生しそうである (深読みしたいこともあるのだが皆様のご想像にお任せしたい)。

    凡例

  • 標準和名
    • 学名:学名 (読み) 説明
    • 属名:属名の説明
    • 種小名:種小名の説明
    • 亜種小名:亜種小名の説明(一部に掲載)
    • 英名:英名 (やや古い英名も含まれている。IOC 準拠英名が異なるものは追記している)
    • 備考:備考。学名や亜種の追加説明。分類学情報や面白い関連情報(一般的な図鑑などで読める色彩や形態、分布、生態などは原則省略している)

    ― キジ目 GALLIFORMES キジ科 PHASIANIDAE 

  • エゾライチョウ
    • 学名:Tetrastes bonasia (テトゥラステス ボナシア) エゾライチョウまたはヤギュウの声のような音を出すライチョウの歌い手
    • 属名:Tetrastes < Tetrao ライチョウ < tetras Symmachus が記述した鳥の名前。食べられる狩猟鳥でおそらく Aristophanes 他が用いた tetrax と同一だが正体ははっきりしない (野ガモとする著者もある) (Gk) -astes (行うもの) (Gk); ライチョウの歌い手 (コンサイス鳥名事典, Gk)
    • 種小名:bonasia イタリア語でエゾライチョウ < 原意は bonasus < bonasos バイソン (Gk); ヤギュウの(声のような音を出す) (コンサイス鳥名事典)
    • 英名:Hazel Grouse
    • 備考:ユーラシアやや北部に広く分布し、11亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は vicinitas (近い、似ている)。基亜種に似ているが違う点もあると命名された。英名の hazel はハシバミ(属)。 キジ科は2亜科の分割されるが、日本のものは Phasianinae 亜科。 これは直立するかしないかで2クレードに分割される (erectile clade, nonerectile clade)。 日本に関係する種ではウズラが後者。ニワトリの野生種であるセキショクヤケイも後者。 erectile clade の中では Tetrastes属および Lagopus属 (日本に関係ある属のみを示す) は Tetraonini族 に分類される (この程度の分類を見ていただくと 族 tribe の意義や範囲がわかりやすいだろう)。 参考 Gutierrez et al. (2000) A classification of the grouse (Aves: Tetraoninae) based on mitochondrial DNA sequences。 ミヤマエゾライチョウ Tetrastes sewerzowi 英名 Chinese Grouse との遺伝的関係を調べた論文: Song et al. (2021) Demographic history and divergence of sibling grouse species inferred from whole genome sequencing reveal past effects of climate change。この2種は46-337万年前に分かれたとのこと。両種とも近年は実効個体数が減っている。
      英語圏では、冬に白い羽となるライチョウ属の種を ptarmigan、羽の色を変化させない種は grouse と呼び区別される (wikipedia日本語版より)。ptarmigan はゲール語 tarmachan に由来し、意味は croaker (があがあ鳴くもの) だがそれ以上の語源は不明とのこと。pt- の綴りはギリシャ語由来と誤解され ptero- (翼 Gk) に合わせたものらしい (wiktionary)。英語でもライチョウ類総称では grouse。 grouse は1530年代には複数形で grows と呼ばれていたが起源にはいくつかの説がある。例えば中世フランス語でツルを表す grue、同じく中世ラテン語の gurta などが挙がっている (wiktionary)。 ロシア語ではライチョウ属は英語のような区別はなく様々な名前がある。エゾライチョウは ryabchik で ryaboj (斑点のある) に由来。 ライチョウ属の一部はロシア語で teterev と呼ばれ、遡れば Aristophanes 他が用いた tetrax になるらしい (Kolyada et al. 2016)。teterev から派生するロシア名に#オオタカ teterevyatnik がある。
  • ライチョウ
    • 学名:Lagopus muta (ラゴプス ムタ) 静かなライチョウ
    • 属名:lagopus (f) ライチョウ (lagos ノウサギ pous 足 Gk)
    • 種小名:muta (adj) 静かな (mutus)
    • 英名:Rock Ptarmigan
    • 備考:北半球高緯度に分布。23亜種が認められている(IOC)。日本に分布する亜種は japonica (日本の) とされる。 かつての学名は Lagopus mutus だったが、属名語尾は従来は男性名詞と思われていたが、古ギリシャ語由来でこれは女性名詞であるため、種小名が修正されたとのこと (wikipedia英語版より)。 特別天然記念物。絶滅危惧IB類 (EN)。世界的に種全体では IUCN 3.1 LC 種 (LC は Least Concern で「低懸念」と訳されるが、「少し懸念がある」と読まれがちである。本来の英語の意味は「ほとんどない」、例えば least likely は「ほとんどあり得ない」の意味で、「懸念なし」と解釈する方が意味は近いだろう。日本のレッドデータブックの分類ではランク外に相当する)。
      ドイツ語名 Alpenschneehuhn (アルプスの雪のニワトリ)。ロシア語名 tundryanaya kuropatka (ツンドラの、後半は kur ニワトリから派生。ツンドラのニワトリと訳せそうである)。 スウェーデン語 fjallripa (fjal 山の ripa ライチョウ) など。
  • ウズラ
    • 学名:Coturnix japonica (コトゥルニクス ヤポニカ) 日本のウズラ
    • 属名:coturnix (f) ウズラ
    • 種小名:japonica (adj) 日本の (japonicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Japanese Quail
    • 備考:単形種。 かつては (現在の和名で) ヨーロッパウズラ Coturnix coturnix 英名 Common Quail の亜種とされた。 quail の語源は後世ラテン語の quaccola (ウズラ) に由来。 ロシア語は perepel で古ロシア語 pippalnis で鳥を意味する。ラテン語 papilio チョウ に由来とのこと (Kolyada et al. 2016)。日本のウズラは別名 nemoj perepel で、無言のウズラの意味だが現実とは合わないと解説がある。perepel から派生するロシア名に#ハイタカ perepelyatnik がある。
      ウズラの鳴き声 (さえずり) はアジャパーと聞きなしされることがあるが、(ヨーロッパウズラであるが) クラシック音楽にも出てくる。楽譜の読める方であればメシアンの メシアン 最大にして最高峰のピアノ独奏曲〜「ニワムシクイ」 のウズラのところを見ていただくと面白いと思う。手元に演奏可能な楽器をお持ちであれば特有のリズムをすぐ覚えられるだろう。 3月ごろに動物園の飼育個体がよく鳴いているのを聞いたことがあるが、少し離れたところで飼育員の方に「あれがウズラの声」と話してもさっぱりわからないとのこと。仕事で毎日のように聞かれているはずだが意識しないと印象に残りにくい声なのかも知れない。 独断と偏見の識別講座 第62回 Japanese Quail <ウズラ> (2018) に波多野邦彦氏の音声に関する記述がある。 参考までに Dement'ev and Gladkov (1952) が何と記述しているか調べてみると、ヨーロッパウズラであるが pod'polot', fit'pil'-vit' となっている。やはりどんな音かわかりそうもないが、メスが tyuryuryu または bribit と応じると記載されている。オスがこの声を出す行為を指す動詞が bit' だそうで訳語には「(時計などが) 打つ」のようなものがある。 「水鶏 (くいな = ヒクイナ) のたたき」という日本語があるが、「打つ」意味の動詞が独立に使われているのだろう。
  • ヤマドリ
    • 学名:Syrmaticus soemmerringii (シュルマティクス ゼメリンギイ) ゼメリンクの喪裾のついた衣服を着た鳥
    • 属名:syrmaticus (adj) 裳裾のついた衣服を着た (syrma -atis (n) 裳裾のついた衣服 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:soemmerringii (属) ゼメリンクの (ラテン語化 -ius を属格化) ドイツの解剖学者、科学者 Samuel Thomas von Soemmerring
    • 英名:Copper Pheasant
    • 備考:Syrmaticus属は尾の長いキジ類5種からなる。例えば台湾のミカドキジ Syrmaticus mikado 英名 Mikado Pheasant が有名。 この属の DNA 塩基配列の進化は特殊であり、詳しい系統関係は現在でもまだ十分に理解されていない [wikipedia英語版; Zhan et al. (2005) Molecular Phylogeny of Avian Genus Syrmaticus Based on the Mitochondrial Cytochrome b Gene and Control Region; Reichenbach (1853) により属名Graphephasianus (graphe 絵画 Gk phasianos キジ Gk) も提唱されたことがあり (この場合一属一種になる)、将来の研究で正しいとされる可能性はあるものの、現在の証拠からは支持されていない]。 Phasianinae 亜科 Erectile clade の中では Syrmaticus属と Phasianus属は Phasianini族に属する。 ヤマドリには5亜種が認められている(IOC)。scintillans (輝く、明るい) 亜種ヤマドリ、subrufus (少し赤っぽい) ウスアカヤマドリ、intermedius (中間の) シコクヤマドリ、 soemmerringii (ドイツの解剖学者 Samuel Thomas von Soemmerring に由来) アカヤマドリ、ijimae (Isao Ijima 由来) コシジロヤマドリ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
      属名に使われる syrma は裾をひきずる長い衣装でギリシャやローマ時代に悲劇の役者が着たものを指す (wiktionary)。古ギリシャ語 surma (引きずっているもの) に由来。
  • キジ (分割で日本産学名も変わる予定)
    • 学名:Phasianus colchicus (パシアヌス コルキクス) コルキス地方のキジ (新学名でさまざまな色をしたキジ)
    • 属名:phasianus (m) キジ
    • 種小名:colchicus (adj) colchis地方(黒海東岸、ジョージア西部)の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Green Pheasant (or) Japanese Pheasant, IOC: Copper Pheasant
    • 備考:新しい種小名は versicolor (さまざまな色をした)となる見通し。海外の主なチェックリストでは IOC version 1.5、Avibase 2013年以降、(HBW)/Birdlife 2014年以降、Howard and Moore 2nd edition以降、eBird 2022年以降はこの名称が使われている。 Phasianus versicolorであれば日本固有種となり、大陸のコウライキジ (旧名) Phasianus colchicus は対馬で自然分布の可能性があるが (ただし対馬でもコウライキジの人為移入が行われた)、日本の他の地域では移入分布となる [Brazil (2009) "Birds of East Asia"]。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Phasianus colchicus は外来種扱いでタイリクキジと新称を与え、対馬は自然分布として認めていない。日本固有種のキジは Phasianus versicolor に改名している。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。 亜種も従来通り与えられているが、人工放鳥によって亜種の境界が非常にわかりにくくなっていると言われる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント"分類学上疑問がある国内固有(亜)種について"の項目にも言及があり、鳥類目録の分類は、新たな研究が行われるまで現状維持されるという原則に基づくとのこと。 4亜種あり(IOC)。robustipes (robustus 強い pedis 足) 亜種キジ、tohkaidi (東海道が由来) トウカイキジ、tanensis (種子島が由来) シマキジ、versicolor キュウシュウキジ、及び亜種不明が日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。
  •  カモ目 ANSERIFORMES カモ科 ANATIDAE 

  • リュウキュウガモ
    • 学名:Dendrocygna javanica (デンドゥロキュグナ ヤウァニカ) ジャワの樹洞に巣をつくる白鳥
    • 属名:dendrocygna (合) 樹洞に巣をつくる白鳥 (dendro 木 Gk、cygnus 白鳥)
    • 種小名:javanica (adj) ジャワの (javanicus -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Lesser Whistling Duck
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の配列では先頭になる見込みで、「カモ」の名前は付いているが系統は離れていることがわかる。 図鑑の識別点でもよく首と足が長いと書かれている。属名の由来に含まれる「白鳥」も首の長さを示したものであろう。文献 (#コブハクチョウの備考参照) によると Dendrocygna属で頸椎の数は17-18個とあり、カモ (従来の広い意味のAnas属で典型的には16個) とガン (Anser属で18-20個) の中間にあたる。リュウキュウガモのデータもあり17個とのこと。 別名フエフキガモとも呼ばれる (英名に対応)。
  • サカツラガン
    • 学名:Anser cygnoides (アンセル キュグノイデス) 白鳥に似たガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:cygnoides (adj) 白鳥に似た (cygnus 白鳥 -oides (接尾辞) 〜に似た)
    • 英名:Swan Goose
    • 備考: [学名の問題] 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Anser cygnoid となっているがこの学名を用いているのは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) で HBW/BirdLife 2014以降などはおそらくこれに由来 (#モリツバメの備考参照。モリツバメの場合には ICZN が Linnaeus の記載は短縮形と裁定したものだが、サカツラガンでは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では短縮形である文献の内部的な証拠は認められないと書いているのでモリツバメの裁定を意識して主張しているものかも知れない)。 IOC version 13.2, Clements などでは Anser cygnoides のまま。 "The Key to Scientific Names" によればオリジナルの学名は Anser cygnoides Linnaeus, 1758 であり、印刷時に -es が次の行に分割されないように "cygnoid." と印刷されたのが2種類の名称が生じている原因との説明がある。 Linnaeus 原典 (1758) Systema naturae per regna tria naturae: secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis, p.122。 Linnaeus (1758) を命名の原典と考える場合には表記は ANAS の下、Cygnoid. 2. australis. と Cygnoid. β. orientalis. の2タイプが見出しの表記である。 見出しが Cygnoid. のように大文字で始まっているものと小文字のものがあるが、大文字のものは属名の意味というわけではなさそうである。 この種の歴史的経緯は A Brief History of the Swan Goose (Anser cygnoides) under Domestication in the West (Jonathan M. Thompson 2011) に詳しい。 かなり混乱があったようで17世紀に Anser cygnoides Hispanicus seu Guineensis とされていた図版は実はカナダガンであった。Comte Marsili (1726) が Anser Hispanicus seu Cygnoides としたものはリュウキュウガモの1種だったらしい。 Eleazar Albin (1731, 1734) が頭にこぶのあるガンに2種類あるとしており、Willughby (1676) と Albin の言う Anser cygnoides は同じ種類を指していることは確かとのこと。これらの記述の時期は60年離れているが記述はほぼ同じ。 Albin には図版があり、現代のサカツラガンそっくりのものを指して The Spanish Goose, or Swan Goose. Anser cygnoides のタイトルで表示している。 Albin は Moscovian Gander and Goose も紹介しており、これはアフリカのガンとの雑種とみられるが学名は与えていない。 Linnaeus (1758) の中に現れる Anser cygnoides. Alb. av. I. p. 89. t. 91 は Albin の Anser cygnoides を指すものであろう。 もう一つ Anser cygneus guineensis. Raj. av. 138. Will. orn. 275. が挙げられている。 いずれも Cygnoid. 2. australis. のタイトルの下に置いているが、 Linnaeus (1758) の言う2つめのタイプ orientalis に Anser chinensis, Anser moschoviticus が入っている。australisorientalis の地理的な意味と現行の分類の対応などもあまり釈然としない感じも残る。 Linnaeus (1758) の記載した他のガン類の学名では先人の種小名をそのまま用いているものもあるので Cygnoid. への変更の理由はよくわからない (変更されたものは大文字という意味でもなさそうに見える)。
      17世紀に Anser cygnoides がすでに使われ、別のものを指していたため Anser cygnoides Albin, 1731 は無効と判断されたものかも知れないが、Linnaeus (1758) が命名の原典とされた理由はこの範囲ではよくわからなかった。 Dement'ev and Gladkov (1952) では Cygnopsis cygnoid の学名を用い (属名は下記参照)、protonym を Anas cygnoid Linnaeus, 1758 としている。 シノニムとして Anas orientalis Gmelin, 1788 を挙げているが Linnaeus 以前の Anser cygnoides Albin などは触れられていない。 birdforum.net AOS to discard patronyms in English names にも議論があり、2023.11.6 の投稿によれば、ICZN では言及されておらず Linnaeus の意図も実際は誰にもわからないが、モリツバメなどの ICZN 裁定を見れば ICZN の意図は明らかに見える (どちらが広く使われているかも議論の対象になるだろう)。しかし Anser cygnoides が公式に改名の対象と認められているというわけではない。 モリツバメなどの例も見た上で、自身の印象では cygnoid とするのは "pedantic" な改名に思える。
      [Howard and Moore Checklistについて] 今後の他の分類群にも関係があるので Howard and Moore Checklist of the Birds of the World (H&M) の意図と将来について調べた結果を少し紹介しておく。 このリストは Clements 5th edition が出るまで全亜種を扱った唯一のリストだった。 現在の最新版は 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2)。 Current concerns (H&M 公式サイト。2024年1月時点のものに基づいているが、少なくとも2022年段階でほぼ同じ内容だったらしい) によれば、2014年に IOC 総会が東京で開催された時に世界のチェックリストの共通化も議題となった。 同じ議題が2018年のバンクーバーの IOC 総会で取り扱われたが H&M リストの母体である The Trust for Avian Systematics (TAS) の代表は招待されなかった。H&M の副編集長の Les Christidis が代弁してくれると考えていたが利益相反の問題からそうならなかった。そのため TAS は2014年以降はこの問題に関わっていない。 世界のチェックリストの共通化をすべきか、可能かは現在も議論の対象である。 H&M は2003年から (それ以前は必ずしもそうでなかったが)「生物学的種概念」にできる限り忠実に従う方針で、多少緩めることはあっても2013/14段階でも同じ立場をとっていた。 H&M の編集者の哲学では異なる基準に基づくリストがあった方が (議論の余地があり) 科学の発展に役立つとの考えであった。しかし多くのバーダーはチェックリストの共通化を歓迎するだろうことは認める。 もちろん TAS はリストを知的財産として保護する義務もあるが現在ではオープンアクセスが当たり前になってきてウエブサイトで公開して維持するコストも問題となっている。 これらの理由から TAS は世界のチェックリストの共通化にはあまり関わらないと読める方針が述べられている。 15-20年後に H&M が存続するかどうかはユーザーがどう評価するか、どれだけ需要があるか次第である。
      Schweizer et al. (2023) The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the World: framework for species delimitation に種の境界をどのように扱っているかと今後の見込みに関する解説がある。 The Howard & Moore Complete Checklist of the Birds of the World (5th Edition) への言及もある。H&M 5th edition では十分な生殖隔離をもって種とする方向性が示されている (ここまでが H&M/TAS の立場の説明)。
      2022年9月段階のスレッドであるが Howard and Moore downloadable spreadsheet (birdforum.net) によると H&M 4.0, 4.1 はチェックリストをスプレッドシートのファイルで公開していたが約1年前 (2021) に取りやめたとのこと (上記知的財産の問題らしい)。 (2022年段階の話で) 2016年以降改定されておらず新しい種が入らないのでもはや興味がないとのユーザーの意見がある (気になって見てみると確かにオガサワラカワラヒワが別種になっておらずコメントもない)。定期的更新がなく電子版が無料でなければユーザーは減るだけだろう。最後の更新には非常に手間がかかっているはずで TAS も大規模更新を「二度とやりたくない」と感じていても不思議でない。 世界のチェックリストの共通化こそ保護関係者、鳥類学者、バーダーの視点から進むべき道であると考えるが、知的財産の保護を必要とするグループはなじまないのだろうとの見解が出されている (かなり意訳しているが)。 一方で Howard and Moore が完全になくなってしまうのは惜しいとの意見もある。属より上のレベル (族や亜科) を取り入れているリストは他にない。 別のコメントですべての分類概念は Avibase がすでに網羅して番号を与えており、チェックリスト間の違いはそれを見ればよいだけ (Avibase の taxon grid)。ただ更新には多少のタイムラグがある。 IOC の Master Lists - IOC World Bird List が亜種までカバーした比較リストを出している との意見や情報が出ていた。
      個人的にはこの稿をまとめるにあたり H&M 4th (online) に文献情報も出ているのはありがたいが、新しいものが入っていないので有用性は少し古い情報に限られてしまう。 まとめると IOC と Clements が中心となって世界のチェックリストの共通化を検討しているところ。 H&M はそれには関与せず独自路線をとるが、しかしながらチェックリスト共通化の後追いもせざるを得ない部分もある。財政的には存続も危ぶまれている、というところだろうか。 H&M の初版 (書籍) は1980年出版で、昼行性猛禽類の大家である Leslie Brown が前文を書いている。また山階 (1986)「世界鳥類和名辞典」は H&M の分類に従っているなど我々が現在使っている名称にも関係が深い。初版から半世紀近くを経て役割も変わってきたと言えるだろうか。 このような大規模なチェックリストの維持・管理などは手作業レベルでも行えた昔とは異なり、計算機技術に長けた人材も不可欠だろう。Avibase の技術管理者レベルで作業を行える人材がいないと今では時代に追いつけないかも知れない。
      McClure et al. (2020) Towards reconciliation of the four world bird lists: hotspots of disagreement in taxonomy of raptors にも世界のリストの共通化の必要が述べられている。この研究は猛禽類のみを調べているが、H&M と IOC で猛禽類の種類数 (学名の違いの数ではなく) が52も違うとのこと。特にフクロウ類で顕著だそうである。H&M の更新頻度が低いため新しい情報が取り込まれていないことも要因と考えている。 ただしこの論文の著者はほとんどがアメリカ、そしてカナダ、オーストラリアが1人ずつとアメリカのリスト (特に eBird や AOU) を念頭に置いている傾向も見られるので少し割り引いて考える必要もあるだろう。ヨーロッパの人は別の見解があるかも知れない。
      [その他] サカツラガンは現在は Anser属に分類されているが、Cygnopsis属 (Johann Friedrich von Brandt 1836 < Cygnus ハクチョウ属の名前 opsis 外見 Gk) が使われていたこともある。これは最初 Cygnus属の亜属として提唱された名前で、つまりハクチョウ類とされていたことがある。 頸椎数19個とある。どちらにしても旧北区のガンの中ではハクチョウの体型に一番近いのでこのような分類になったのだろう。 シナガチョウ Anser cygnoides var. domesticus の原種。
      属名の Anser は菊池氏のオリジナルでは (m,f) であったが、anser (wiktionary) では m (男性名詞) とあり、学名でも男性名詞で扱われているようなのでそのようにした。ラテン語全体では女性名詞の用例もあるのかも知れない。 また多くの言語でガンとガチョウは単語レベルでは区別されていないのでガチョウと訳される場合も多いが、ここでは野生種を主に扱うのでガンとした。
      サカツラガンのロシア名 sukhonos は sukhoj 乾いた nos 嘴。Kolyada et al. (2016) によれば警戒時体をほとんど水に沈め、首から上だけを出すような行動を示すことから付いた名前ではないかとのこと。
  • ヒシクイ (オオヒシクイを独立種とする分類も多い)
    • 学名:Anser fabalis (アンセル ファバリス) 豆のガン (豆を食べるガン)
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:fabalis (adj) 豆の (faba (f) 豆 -alis (接尾辞) 〜に関連する)
    • 英名:Bean Goose, IOC: Tundra Bean Goose と Taiga Bean Goose に分離
    • 備考:IOC では (IOCで種)ヒシクイ Anser serrirostris (serra ぎざぎざの/鋸歯状の -rostris 嘴の) 英名 Tundra Bean Goose として2亜種を認めている。いずれも日本で記録され、この扱いでは基亜種 serrirostrisrossicus (ロシアの) ヒメヒシクイである。 (IOCで種) オオヒシクイ Anser fabalis 英名 Taiga Bean Goose として3亜種を認めている。日本で記録される亜種はこのうち middendorffii (ロシアの動物学者でシベリアや中央アジアを探検した Aleksandr Fedorovich von Middendorf に由来) オオヒシクイである。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではこれらを同種として扱い、Anser fabalis 種ヒシクイの亜種として3亜種を認める立場になっており、IOC 英名とは整合性が悪くなっている。 世界の主要リストでは Clements, AOU, IOC, eBird は種 Anser serrirostris を認める立場で、HBW/BirdLife と Howard and Moore が Anser fabalis serrirostris と亜種扱いにしている。 ロシアの現在のチェックリストも別種としていない。 分子系統学研究では Ruokonen et al. (2008) Taxonomy of the bean goose-pink-footed goose は コザクラバシガン Anser brachyrhynchus (brakhus 短い rhunkhos 嘴) 英名 Pink-footed Goose を含め、これら3種を3つのクレードに分かれ、系統が十分分離していて別種扱いでよいと述べている。3種の外見的類似性は似た環境での収斂進化によるものとみなしている。
      もう少し広い範囲のガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) A tree of geese: A phylogenomic perspective on the evolutionary history of True Geese が調べている。 この研究ではヒシクイとオオヒシクイの関係は新たに調べられておらず、研究当時の Clements 分類 (2015) に従ってオオヒシクイをヒシクイの亜種として分離した扱いはしていない。Ruokonen et al. (2008) は引用しており、コザクラバシガンを広義のヒシクイの姉妹種、これら全体を species complex としている。これらの間の進化的位置づけを再構成するにはもっと広範なデータが必要としている。 ヒシクイとオオヒシクイをそれぞれ独立種とすべきかについては特に情報のある論文ではない。個人的には独立種としてよい論文 Ruokonen et al. (2008) や海外リストを根拠としてヒシクイとオオヒシクイを別種として取り扱った方が実用的には利便性が高まると感じる (それぞれ識別困難な種類ではないこと、日本は分布の東端に位置するため両グループの中間型に悩まされることが少ないだろうことも理由に挙げられよう。「十分な量のデータ」が揃うのを待っていてはいつまでも決まらないような気がする...)。
      さらに Ottenburghs et al. (2023) Highly differentiated loci resolve phylogenetic relationships in the Bean Goose complexAnser brachyrhynchus コザクラバシガン、Anser fabalis ヒシクイ、Anser serrirostris の分類上の問題を扱っている。 A. fabalisA. serrirostris を同種にすると、A. brachyrhynchus を内包してしまって単系統にならないので、A. fabalisA. serrirostris は別種にするか、これら全部を1種にして違いは全部亜種扱いにするかのどちらかになる、ということのようである。ただしオオヒシクイは解析に含まれていない。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版のパブリックコメント "亜種和名の原則に関わる問題" で、(現状の) 種ヒシクイと亜種ヒシクイが同じ名称なので実際上も混乱の原因となっているため、亜種ヒシクイにハシブトヒシクイを与える提案がなされたが、長年使われてきた名称なので継続して使用するのが妥当、またハシブトヒシクイは Anser mentalis に対してすでに使われた和名のため不適当との回答であった。 Anser mentalis (顎に特徴がある) の再検討については Ruokonen and Aarvak (2011) Typology Revisited: Historical Taxa of the Bean Goose - Pink-Footed Goose Complex でなされ、遺伝子型は特定の亜種に同定するまでは至らなかったが独立種とする根拠はないとのことであった。
      ロシア名 gumennik で、gumno (穀物小屋) に由来 (Kolyada et al. 2016)。
      日本ではヒシクイは天然記念物。これも分類や名称をあまり細かく変更したくない理由の一つかも知れない。 亜種オオヒシクイは準絶滅危惧 (NT)、亜種ヒシクイは絶滅危惧II類 (VU)。世界的には IUCN 3.1 LC種。
  • ハイイロガン
    • 学名:Anser anser (アンセル アンセル) ガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:anser (トートニム)
    • 英名:Greylag Goose
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは rubrirostris (ruber 赤い -rostris 嘴の) とされる。 最初に記載された際は Anas anser Linnaeus, 1758 のカモ類とされていた。Anser属は1860年 Brisson により設けられた。 コンラート・ローレンツ (Konrad Lorenz) が「刷り込み」を発見した種類としても有名 (wikipedia英語版)。 英名の greylag の由来は grey (色から) + lag [ガン (ガチョウ) の古名。これらの鳥を移動させる時に使われた音声に由来] (wiktionary)。つまり Greylag Goose の名称にはガンの意味が二重に入る。 ガチョウの原種。
  • マガン
    • 学名:Anser albifrons (アンセル アルビフロンス) 白い額のガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:albifrons (adj) 白い額の (albus (adj) 白い frons (f) 額)
    • 英名:Greater White-fronted Goose
    • 備考:5亜種あり(IOC)。 日本で記録されるものは基亜種 albifrons 亜種マガン、及び亜種不明とされる。 亜種 gambelli (アメリカの探検家・博物学者の William Gambel, Jr. に由来) オオマガン が検討亜種に含まれている。
  • カリガネ
    • 学名:Anser erythropus (アンセル エリュトゥロプス) 赤い足のガン
    • 属名:anser (m,f) ガン
    • 種小名:erythropus (合) 赤い足の (erythro- (接頭辞) 赤い pous足 Gk)
    • 英名:Lesser White-fronted Goose
    • 備考:単形種。 絶滅危惧IB類 (EN)。IUCN 3.1 でVU種。
  • インドガン
    • 学名:Anser indicus (アンセル インディクス) インドのガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:indicus (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bar-headed Goose
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
      [インドガンの高所適応] 標高8000m以上の低酸素環境のヒマラヤ山脈を超える、世界最高の高さを飛ぶ鳥として有名 (wikipedia日本語版)。最近の文献では例えば Hawkes et al. (2011) The trans-Himalayan ights of bar-headed geese (Anser indicus) で衛星追跡の結果が見られる。風の助けを借りず、むしろ風の弱い条件で自身の飛行能力でヒマラヤ山脈を超えるとのことである。8000mの数字はおそらくやや誇張で、これらの研究によれば6000m以下の谷を主に通っているとのこと。7290mの記録はあるそうである (wikipedia英語版)。 このためどのような生理機構で高所順応をしているのか注目され、古くから研究されている。 呼吸器の機能も低酸素状態でも働くように最適化され、心筋への毛細血管も低地に住む鳥に比べて多いとのこと。 血液中で酸素を運ぶヘモグロビンも他のガン類と異なる変異があり、酸素との結合性を増しているとのこと。[Natarajan et al. (2018) Molecular basis of hemoglobin adaptation in the high-flying bar-headed goose]。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (1)] このように生態・生理的には大変興味深い種であるが、"bar-headed goose" (インドガン) の名前はまったく違う分野の研究者にも大変よく知られていたことがある (現在でもそうかもしれない)。 近年世界のさまざまな地域で鳥類 (および一部の哺乳類) を危機に晒している鳥インフルエンザに関係する話である。 wikipedia英語版の記事 2020-2023 H5N8 outbreak にあるように、2020年から2021年にかけて世界で大規模な感染爆発が起きたことは記憶に新しい。この時の株は H5N8 であったが、2021-2022年の冬から夏近くにかけて H5N1 株がヨーロッパで水鳥コロニーに壊滅的な被害を与えた。そしてヨーロッパから北米にも広がって多くの種類の鳥を犠牲にした。 Caliendo et al. (2022) Transatlantic spread of highly pathogenic avian influenza H5N1 by wild birds from Europe to North America in 2021 北大西洋の渡りでどのように運ばれたかが Fig. 4 に出ている。 (#ハクトウワシの備考も参照)。 ギリシャのペリカンコロニーで鳥インフルエンザ集団死 ハイイロペリカン600羽近くが死んだ。 Bird flu has killed nearly 1,500 threatened Caspian terns on Lake Michigan islands ミシガン州の湖で1500羽近いオニアジサシ (英名はカスピ海由来だが北米にも生息する) が犠牲となった。神経症状で震える姿や、それでも抱卵しようとする中で亡くなった姿が記録されている。 多数の経験豊富な成鳥を失い、個体群に与える影響がどれほどのものか想像がつかないとのこと。 オランダでサンドイッチアジサシ Thalasseus sandvicensis 英名 Sandwich Tern のコロニーが犠牲となり、長年保護に取り組んできたチームを嘆かせた。Rijks et al. (2022) Mass Mortality Caused by Highly Pathogenic Influenza A(H5N1) Virus in Sandwich Terns, the Netherlands, 2022、記事 Kolonie grote sterns op Texel weggevaagd door vogelgriep: テクセルの自然保護区 De Petten のサンドイッチアジサシの繁殖コロニーは、鳥インフルエン ザによって一掃された。7000羽の鳥のうち、3000羽が死んでいるのが発見された。残りは海で死んで浮いているか、離れて移動していると考えられる。 Avian Flu Threatens Seabird Nesting Colonies on Both Sides of the Atlantic (Audubon の記事): アジサシ類が特に壊滅的被害を受けている。 個体が長命で子の数の少ない生存戦略は、一時的な天候悪化や食物不足には有利だが鳥インフルエンザ流行のような場合にリスク要因になる。 病気そのもののコントロールは難しいが、人為要因による環境悪化などの他の要因が個体数回復を遅らせるのでそれを防ぐのはよい手段である。 同じように集団繁殖するニシツノメドリも心配である (メーン州で失われた個体群が1970年代に復元された) とのこと。 これはさらに南米に広がってペルーなどで大規模な集団死が発生した。 Bird flu kills almost 14,000 pelicans, seabirds in Peru (2022年11月の記事)、 Peru reports hundreds of sea lion deaths due to bird flu (アシカの集団死、2023年2月の記事)。 日本でも大きな影響を与えていることは報道でご存じであろう (幸いにこれまでのところヨーロッパやアメリカのような壊滅的な野鳥への影響は日本ではあまりないが、2022-2023年の鹿児島県出水では1月の段階でツル1421羽が回収され、越冬地を変えたツルもあるらしいと報道があった。また北海道でオジロワシなど貴重種も失われている)。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (2) 高病原性と低病原性] 最近ではあまりに毎年のように起きているため、「野鳥は本来鳥インフルエンザウイルスを持っているもので、感染するのは運が悪いだけ」のような印象を持たれる方もあるだろう。 ヒトの場合にはインフルエンザウイルス (*1) が人から人への感染で維持されており、時折新型インフルエンザが現れてパンデミックとなる点は上記印象でほぼ合っていると考えてよい。有史以来、そしておそらく有史以前からこの関係は続いてきたのであろう。 それでは現在問題となっている鳥インフルエンザも同じように考えてよいのだろうか。忘れ去られた情報も多いと思われるのでここで少し整理しておきたい。
      まず報道などで使われる用語がかつて非常に紛らわしいものであったため改めて注意を促しておく (この時代に知識を得られた方は要再確認)。 高病原性鳥インフルエンザという用語があるが、これは行政用語であって科学的な概念や世界で使われる名称とは必ずしも対応していない (いなかった)。 この定義は家畜伝染病予防法でなされているもので、2011年4月に改正される以前は H5、H7亜型のウイルスをすべて高病原性鳥インフルエンザと呼んでいた。 当時はすでに鳥インフルエンザの世界進展の時期であり、日本の用語と海外の名称が異なるためややこしい状況が生じていた。現在の定義は 我が国における鳥インフルエンザの分類 を参照。 海外では強毒の高いものを HPAI (Highly Pathogenic Avian Influenza) そのまま訳すと高病原性鳥インフルエンザになるが、2011年以前の日本の用語では毒性にかかわらず H5、H7亜型のウイルスをすべてこう呼んでいた。 そのため「高病原性鳥インフルエンザ (HPAI)」のように略すのは少なくとも従来は間違っていたわけである。 これは H5、H7型のウイルスは最初はそもそも無害であっても養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化することがあることが知られていたためであり、無害であっても H5、H7亜型のウイルスを検出した場合は届け出て法律に定められた措置をとる必要があることによる。 国際的な分類では弱毒の鳥インフルエンザウイルスは LPAI (Low Pathogenic Avian Influenza) と呼ばれており毒性と名称が整合している。H5、H7型のように届け出を要するウイルスを意味する場合には N (notifiable) を補って LPNAI と呼ぶ。以前の日本の分類で高病原性鳥インフルエンザ (弱毒タイプ) が LPNAI に相当していた。 現在の日本の名称では LPNAI に相当するものは法定伝染病の低病原性鳥インフルエンザ (LPAI) となっていて、H5、H7亜型以外は届出伝染病の鳥インフルエンザとなっている。国際的な定義に合致するようになったのは HPAI の方のようである。この文書も含めて「鳥インフルエンザ」と言う場合は届出伝染病の鳥インフルエンザを指すわけではなく、もっと広い意味で使っていることはご注意いただきたい。 かつての報道では「強毒の」や「毒性の強い」をよく補っていたが、これは当時の高病原性鳥インフルエンザには弱毒のものも含まれていたためで、同じことを冗長に言っていたわけではない。 現在では少なくとも高病原性に関しては日本の用語と海外の用語が同じ意味になったため、高病原性鳥インフルエンザ (ウイルス) を指して HPAI を使うことにする。また強毒性の同意語として高病原性も使うことにする。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる] さて「養鶏場で感染を繰り返すうちに強毒化する」ことの分子機構も判明している。また生態学的には強毒のウイルスは通常生態学的に安定状態とならない (宿主を即座に殺してしまうと病原体自身も死滅してしまうため) が、養鶏場のような本来あり得ないほどの高密度であれば宿主が死ぬ前に別の個体に感染させることができて病原体自身も生き延びることができる。 これは野外のような通常の条件では低病原性しか生態学的には安定解を持たない、と表現しなおすこともできる。養鶏場のような特殊な条件でのみ高病原性の安定解が存在するのである。 [これはプラム「美の進化」(#エトロフウミスズメの備考参照) に対する批判「ランナウェイ過程は、メスに選別コストがわずかでもあると、大きな装飾の安定的な平衡点をもてない」と同じようなことを表していると考えていただいてよい。 自然界で高病原性のウイルスがたまたま生じても、それは平衡点にはなり得ないのでいずれ安定な低病原性に変異してゆくことを示している (それにどれだけの時間を要するかは平衡点理論は教えてくれない)]。
      (ここからしばらくは少し高度なので最初は飛ばしていただいてよい) 強毒化の分子機構についても多少補足しておこう。インフルエンザウイルスではヘマグルチニン (HA、後にもう少し詳しい説明あり) の遺伝子から翻訳されたタンパク質 (HA0) を持つウイルスそのものには感染性がなく、宿主の持つ酵素によって2つに分割され、HA1, HA2 となることで感染性を持つウイルス粒子となる。 この分離される部位のことを開裂部位 (cleavage site) と呼ぶ。HA0 を開裂するためには一部の臓器に存在する分解酵素トリプシンが必要である。一般的なインフルエンザウイルスが特定の臓器 (例えばヒトでは呼吸器、鳥では腸管) で主に増殖するのはこの性質による。 高病原性鳥インフルエンザでは開裂部位に塩基性アミノ酸 (リジン K、アルギニン R: それぞれ1文字略号も示す) が並び、塩基性アミノ酸 (basic amino acids) のアミノ基は水素イオンと結合して正の電荷を持って互いに反発しあうため、開裂がより容易に起きる。そのため特定の臓器だけでなくあらゆる臓器に存在する一般的なタンパク質分解酵素で簡単に開裂が起きてしまう。 これは高病原性鳥インフルエンザが全身のあらゆる細胞で増殖可能である原理である (海外のバーダーなども参加するメーリングリストでもこのような用語は普通に飛び交っていた。何のことかわからない人もあったかも知れない)。 全身のあらゆる細胞には中枢神経細胞も含まれ、高病原性鳥インフルエンザに感染した鳥に特有の神経症状が現れるのはこの性質による。 また心筋細胞や重要臓器でも増殖するため、命にかかわることも理解いただけるであろう。 HPAI H5N1 で死亡したヨーロッパノスリの研究がある: Caliendo et al. (2022) Pathology and virology of natural highly pathogenic avian influenza H5N8 infection in wild Common buzzards (Buteo buteo)。11羽中9羽に脳の壊死、7羽に心筋壊死が見られた。
      少なくとも H5 亜型においては低病原性ウイルスの HA 開裂部位の塩基配列に比較的少数の変異が加わるだけで塩基性アミノ酸が並ぶようになる。実験的にもニワトリに継代接種を行うことで LPAI が HPAI に変化することが示された [Ito et al. (2001) Generation of a Highly Pathogenic Avian Influenza A Virus from an Avirulent Field Isolate by Passaging in Chickens。これが実証されたのは世界初だったとのこと。10回弱程度の変異が起きると K と R ばかりが並ぶウイルスができ得る様子がわかる]。 これが H5、H7 亜型が強毒化しやすい原因と考えられる。 ただし毒性には他の遺伝子も関連があり (例えばウイルスを増殖させるポリメラーゼ遺伝子) HA の開裂部位のみが毒性や宿主特異性をすべて決定するわけではないが、上記メカニズムは現在問題の高病原性 H5 に関係するものなので話だけでも知っておいてよいだろう (*2)。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (4) 自然界の高病原性鳥インフルエンザの由来] ここまでの説明をある程度理解していただければ、自然界に高病原性鳥インフルエンザはもともと存在しないこと、そして人工的条件で生まれ、野生動物に持ち込まれた病気であることを納得していただけるであろう。 高病原性鳥インフルエンザとは人が家畜を扱うようになって生まれたもので、鳥インフルエンザウイルスは長年月に渡って水鳥にとってほとんど無害なもの (つまり低病原性の平衡状態) だったのである。 歴史的には高病原性鳥インフルエンザがかつて養鶏場から野外流出してアジサシ類の集団死が起きた程度のことはあったが、病原性があまりにも高かったためそれ以上に広がらず、現在のような異常な状態には至らなかった。現在の状況がいかに異常であるかは過去の事例が示してくれている。 現在の異常事態は自然に起きた「天災」ではなく、人為がもたらしたものであることを改めて理解しておきたいし、自信を持ってそのように説明していただいてよい。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (5) (鳥)インフルエンザの亜型の意味] さて、H5N1 とか H5N8 とかは何なのか、いったい何が違うのか、それとも実質同じものなのか疑問をお持ちの方も多いであろう。復習になる方も多いと思うがインフルエンザウイルスについて簡単に整理しておく。よくご存じの方は読み飛ばしていただいて構わない。インフルエンザウイルスには A-D の型があるが、ここで問題となるのはA型なのでA型のみを扱う (この「型」が「属」に対応していて、インフルエンザウイルス全体では4属4種だそうである)。鳥インフルエンザはA型。B型はほとんどヒトのみに感染し病原性も弱め、など。
      新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) もインフルエンザウイルスも一本鎖 RNA ウイルスである点は共通しているが、SARS-CoV-2 では1セグメントのみからなる遺伝子構造であるのに対して、インフルエンザウイルスは8個のセグメント (分節。別々の RNA 分子) からなるずっと複雑な構造を持っている。 SARS-CoV-2 の場合には RNA の複製の際に生じるエラーで変異が積み重なって新しい株が生まれる仕組みだが、インフルエンザウイルスの場合は複数のセグメントに分かれているために RNA の複製の際に生じるエラー以外にも新しいタイプのウイルスを作る機構が存在する。変異速度を上げて宿主の免疫から逃れて生き残るのがインフルエンザウイルスの生き残り戦略と言ってもよいだろう。
      同じ細胞が2つの異なったインフルエンザウイルスに同時感染した場合、複数のセグメントの間で入れ替わりが生じることがある (遺伝子再集合 reassortment という; お菓子などの「アソート」と同じ。ばらばらになった混ぜこぜのセグメントが再構成される時に新しい組み合わせが生じる *3)。遺伝子組み換えとは意味が違うので注意。 インフルエンザウイルスの H というのは ヘマグルチニン (HA: haemagglutinin) のことで、要するにウイルスが細胞に付着する機能を果たす部分である。 N は ノイラミニダーゼ (NA: neuraminidase) のことで、細胞内で増殖したウイルスが細胞表面に現れたものを切り出してウイルス粒子にする酵素のこと。つまりこの酵素を阻害すればウイルスの増殖を抑えることができ、ノイラミニダーゼ阻害剤という一連の薬剤 (商品名ではタミフルやリレンザなど) はこの酵素を標的としたものである (*4)。
      HA と NA には抗原性の異なる (現代では生物の分類と同様に分子系統樹を描いて分類する) いくつかの種類があり、番号を付けて呼ばれる。HA で16種、NA で9種が現在知られており (亜型という)、H5N1 などの名前はその組み合わせを表す。例えば同じ HA であっても少しずつ性質が異なるものがあることは生物の亜種と同様。原理的にはすべての HA, NA の組み合わせが可能であると考えられている。 ちなみにヒトで過去にパンデミックを起こしたことが知られているインフルエンザウイルスは H1, H2, H3 である。H5 にもその能力があるかははっきりわからないが、いくつかの変異を導入すると哺乳類から哺乳類 (実験室でよく使われるのはヒトに似た性質を示すフェレット) に感染するウイルスを作ることができることは実験的に確かめられており、哺乳類への感染が警戒されている所以である [参考: 哺乳類間で伝播しうる鳥インフルエンザウイルスリスクの高い研究に関する論文の掲載 (Nature 2012) のようにこの研究結果を公開すべきか議論を呼んだ] (*5)。
      HA と NA は異なるセグメントに乗っているため、遺伝子再集合で別々の HA と NA を持つウイルスが比較的簡単に作られる。つまり同じ H5 亜型であっても NA が入れ替わったウイルスも生じる。これが H5N1 が流行したり別の年には H5N2 や H5N8 に変わったりする仕組みである。 現在問題となっている H5 ははるか昔 (1996年ごろ) に生じた高病原性の系統が継続しているもので、NA は入れ替わることがあるが高病原性の性質は維持されている。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (6) 高病原性 H5N1 の出現] この高病原性 H5 (H5N1) が最初に (少なくとも世間的に) 明るみに出たのは (鳥インフルエンザなのに) なんと鳥ではなく、1997年香港で人が感染した事例に始まる。ちょうど同じ時期に香港のニワトリでも鳥インフルエンザの発生があり、香港中の150万羽のニワトリを1997年末までに処分することで流行は終息したが、18人が感染し6名が死亡した。この時はあるいは人から人感染かと懸念されたが人の間では大きな流行に至らなかった。 ちなみにタミフルは当時はまだ使えず、伝統的な抗インフルエンザ薬であったアマンタジンが使われた。 当時までは鳥インフルエンザは人に感染しない (いわゆる「種の壁」) と考えられていたため、防御も行わずに病気のニワトリをさばいたりしていたのであろう。 この株が最初に見つかったのは1996年に中国のガチョウから見出されたものであったため、現在問題となっている H5N1 の発見は1996年とされる。 その後しばらく小康状態が続いていたが (中国や東南アジアで局地的に発生していたものと思われる。2000年にはベトナムで多数のニワトリが死んでいた とのことで地方病のような状況だったらしい)、2003年に再度大規模な拡大があり、韓国の家禽で発生したしばらく後、2004年1月日本でも山口県の養鶏場で発生 (日本での HPAI 発生は79年ぶりのことであった)、2月大分県で小規模な発生があり、2-3月京都府の養鶏場で大規模な発生があった。 当時はこの時期に韓国から日本への渡り鳥のルートは知られておらず、何がウイルスを持ち込んだのか議論がなされていた (人の往来も十分多く、人が運んだ可能性もある *6)。 ほぼ同じころベトナムやカンボジアで人への感染も相次ぎ、1人感染がある度に報道されるぐらいであった。高病原性の定義は家禽に対するものであるが、人に対しても毒性が高く未治療では50%が死亡すると見積もられていた。毒性が高いままで人から人へ簡単に感染するようになるとどのようなことになるか、特に専門家の間では大変恐れられていた。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (6) 2005年青海湖の大事件] 日本での発生が一段落したため日本では鳥インフルエンザへの関心は次第に薄れて行ったが、2005年4月末から6月にかけて世界を震撼させる事件が中国青海省の青海湖で起きた [Chen et al. (2006) Properties and Dissemination of H5N1 Viruses Isolated during an Influenza Outbreak in Migratory Waterfowl in Western China を参照]。 この時に最初の感染例として見つかったのがインドガンであり、この論文によれば5月4日に2羽が死んでいるのが見つかり、翌日には105羽が死んだ。この感染爆発で最終的にインドガン3282羽、全体で6184羽の死体が回収されたとのこと。 ウイルスの系統解析の結果からインドガンが最初に保有していたウイルスが他の種類に感染したことが示されている。これ以来、鳥インフルエンザに関心を寄せる人たちの間でインドガンの名前は忘れられないものとなり、そしてそもそもなぜインドガンなのか不思議に思われていた。 これは高病原性鳥インフルエンザが渡り鳥に大規模感染を起こした前代未聞の事例となった。人に感染することもあって致死率が高いことはすでにわかっていたため、もし渡り鳥を通じて世界に拡散し、その経緯で人から人感染を起こすウイルスが生まれると大惨事になりかねないと考えられた。 養鶏場や地域感染にとどまっている間はまだともかく (当時までは東南アジアでの人感染が中心であったため、もしパンデミックが起きるならばそこから発生することを前提としたシミュレーションも行われていた。例えば東南アジアのある都市で人から人感染を起こす株が出現した場合、発生後何時間以内に半径何km以内の住民全員にタミフルを投与すれば拡大を防げるかなど調べられていたが、現実的にはほぼ達成不可能な数字が出るのみであった)、H5N1 はもはや制御不能と多くの専門家は考えた。
      当時 Nature がこの事象を受け、5月に早々と On a wing and a prayer との記事を出した。 渡り鳥に大規模感染が起きた以上パンデミックは時間の問題との認識が強かった。もはやアジアだけの問題はなく世界中どこで発生するかわからない。どこにいてもパンデミックからは逃れることはできない。 1918年に多くの人を犠牲とし、結果的に第一次世界大戦を終結させることになった通称「スペイン風邪」と呼ばれる新型インフルエンザを引き合いに出している。これは H1N1 亜型のパンデミックであったが、それでもまだ低病原性であり (1918年のパンデミックの前に野鳥や養鶏場で集団死があった報告などはなかった)、 1918年に比べて飛躍的に進んだ移動手段のある中で高病原性のパンデミックが起きればどうなるか、想像を絶するとの文脈である。 これほどの大事件であったにもかかわらず、日本での扱いは極めて小さかった (科学報道が重視されないことが痛感される)。 青海湖での発生が終結すると (つまり感染した鳥がすべて死ぬか移動していなくなった)、世界は一時的に平穏を取り戻していた。しかしこの間にロシアやモンゴルで感染が拡大していたのであった。 英文報道のような通常ルートで入ってきていた情報は8月にモンゴルのオオハクチョウでの感染が見つかったというもので、事例としても少なく、渡り鳥が運んだのか、あるいは人為的に運ばれた可能性があるのかなどの小規模な議論や現地調査にとどまっていた。 日本野鳥の会の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」「鳥インフルエンザ」 に収録 (北里大学農医連携学術叢書 3号) によれば野鳥一般に繁殖期であまり移動しない時期で、オオハクチョウは換羽でそもそも飛べない時期であり渡りで運ばれたと考えるのには無理があるとの考察がある。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (7) 2005年ロシアでの大進展] 事態をある意味で一変させたのが、Recombinomics社 (バイオのベンチャー企業?) の Henry L Niman によるもので、彼は協力者とともに海外ニュースを集めてロシアで鳥インフルエンザ感染が起きていることを見つけていた。 当時は現在のようなオンラインの機械翻訳サービスも限られていたが、彼らはその初期のサービスを用いてロシア語の現地ニュースを翻訳して読んでいたのだった。 Niman の論点は終始渡り鳥が H5N1 を運んでいるというもので、彼らはその文脈に合うニュースのみを選んで紹介していたのだった。 当時はまだウイルスを運ぶ主役は渡り鳥なのか人の移動によるものなのかよくわかっていない時代で、一方的視点だけでニュースを提供されると自然保護側としては看過できない状況であった。ロシアの農家による渡り鳥撃ち落とし計画なるものも報道され、それは日露渡り鳥条約にも関わる問題であるとの指摘も獣医師の方よりいただいた (話題作りの記事だったようで、実際には大規模には行われなかったようである)。 彼らと同じようにロシア語の現地ニュースを機械翻訳して読むと大規模養鶏場で発生したものが広がって、など彼らが紹介しない記事も多数あるため機械翻訳での紹介を始めたのが自分が鳥インフルエンザ問題に (世界的な文脈で) 関わったきっかけであった (ロシア語をしっかり勉強すべしと感じたのはこの後の話)。 ちなみに当時のロシアはまだソ連崩壊後の経済危機状態を脱しておらず、研究者も研究費を得るのが大変だった時期にあたる。当時のロシア発行の猛禽類保護の専門雑誌 Raptors Conservation に記事 Lapshin (2005) People, Birds and Viruses. What is the Arboviruses and Avian Influenza and How do they Threaten Raptors? があったが、鳥インフルエンザ騒動は少なくとも一部の研究者にとっては「救世主」のようなもので、渡り鳥に責任を押し付けることはウイルス研究者にとっても研究費獲得に有利で、野鳥保護関係者には迷惑な話であったとのこと (論文はロシア語・英語併記であるが上記肝心のところは英訳されていない。英語でニュアンスを伝えるのは難しかったのであろう)。 ロシアの経済状況は厳しいものであったが、情報公開には意外に熱心で最初の発生地であるノボシビルスク近郊の発生地点の詳細な地図までオンラインで入手することができた。 ロシアの野鳥に関係の深い英文のメーリングリストにも翻訳情報を投稿したりしていたが、 この活動が BirdLife の鳥インフルエンザ担当者の目にとまり、BirdLife が主宰するメーリングリストに加えてもらい、ボランティアによる国際的な感染症ホットラインである ProMED にも情報を提供するようになった。 ProMED は SARS の発生を最初に感知したり、新型コロナでも的確な情報を最初から提供するなど信頼性の高い感染症の情報源である。鳥インフルエンザはもちろん最も重要なテーマの一つであったが、あまりにも急速に進展してボランティアベースでは世界情報を追えなくなったり、それまではロシア在住の情報提供者があったがその時期はいなくなっていたと聞き、提供した情報は役立っていたようである。 そのメーリングリストは Nature の記者もオブザーバー参加していて、我々の活動に注目していたようである。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (8) そして2005-2006年ヨーロッパへの進展と新型インフルエンザ騒動] ロシア進展の間はほぼシベリア横断鉄道に沿うように西進していった。これも解釈に悩む要因となっていた。物流の大動脈であり周辺には養鶏場も当然ある。渡り鳥の移動に伴って拡大したものか、養鶏場で発生したものが人や物の移動に伴って運ばれていたのかを区別することは難しい。 この経路は Gauthier-clerc et al. (2007) Recent expansion of highly pathogenic avian influenza H5N1: a critical review にも示されており、ここでは人や物の移動に伴って運ばれたことを圧倒的に支持すると述べられている。 上記 Lapshin (2005) によれば検査のための物資が圧倒的に不足していて、現実の進展を反映していたものかもよくわからないようである。
      日本を含め、世界のメディアが注目したのは同年の10月にルーマニアなどヨーロッパで発生してからであった。この年には日本ではとある国政選挙があり、報道関係者はそちらの取材に忙殺されていたため世界がこんなことになっているとは知らなかった、と後に聞いた。 世界の一流誌はいずれもこのころ大特集を組んでいた。例えば TIME は青海湖でレンジャーの目の前でインドガンがよろめきながら死んで行く様子を生々しく伝えていた。

      同年 TIME 9/26号 "Avian Flu Death Threat" より冒頭の引用と抄訳:
      But for migratory birds, the island-actually a small peninsula protruding into Qinghai Lake, China's largest saltwater lake-is the avian equivalent of a busy international airport.
      人々にとっては秘境かも知れないが、青海湖の小さな半島は渡り鳥にとって込み 合った国際空港のようなものだった。
      his daily rounds near an area popular with bar-headed geese when he spotted something he'd never seen in his two decades at the reserve.
      青海湖のレンジャーは20年来観察を続けてきたが、それは初めて目にする光景 だった。
      "It was walking so strangely, wobbling from side to side as if it were drunk."
      群れから離れた1羽のインドガンが、まるで酔っ払っているかのように揺れな がら歩いていた。
      "This goose seemed to be shivering."
      あのガンは震えているのではないか・・
      その瞬間から起きた世界の戦慄の反応は、"If that sounds like an alarmist's hype, it's not." 警告家の誇張のように聞こえるかも知れない・・しかしそれは 本当なのだ。

      ルーマニアで発生となるとロシアとの間はどうであったのか気になるところであったが、報道をチェックするとウクライナでもそれを疑わせる事例がすでにあったらしいことがわかった。住民の証言レベルの話だったが当時のウクライナの体制がいかなるものであったを多少なりともうかがうことができた (現在なぜあのような事態になっているのかの遠因もわかるような気がした)。 ウクライナでの発生が正式に報告されたのはこの年も終わりに近づいてからのことであった。
      2005年中のヨーロッパでの発生はまだ散発的であったが、2006年に入ってから大発生が相次いだ。 ギリシャではアオガンの死亡もあり、当時 BirdLife 担当者の Richard Thomas が「養鶏場のウイルスがこんな貴重な鳥を殺している!」と怒り心頭のメッセージを記していた。 ドイツ北部のリューゲン島でハクチョウ類の集団死があり、真冬の最中に防護服を着て非常に重いハクチョウ類の死体を回収する担当者がどれだけ重労働であるかも述べられ、都市部で発生が起きた時には市内に幾重にも防疫線が引かれるなど日常生活への影響もかなりのものであったそうである。
      人々をさらに驚かせたのが2006年1月にアフリカのナイジェリアの農場で発生したことである。そして隣接するニジェール、カメルーン、ブルキナファソ、スーダン、コートジボワールへと2-4月にかけて次々と波及した。 設備の揃ったヨーロッパならばまだ封じ込めも可能であろうが、アフリカの最も貧しい国々に定着すると絶望的であると考えられた。食料も十分でないアフリカで先進国同様の家禽の処分を行わざるを得ず、関係者の苦悩も大変なことであっただろう。 先述の Gauthier-clerc et al. (2007) によれば感染地域からナイジェリアへひなの空輸があったことが BirdLife により報告されている (先述の BirdLife が主宰するメーリングリストでも空輸される現場を実際に見たとの目撃レポートが報告されていた)。
      あくまで当時の事情下ではあったが、H5N1 がもしヒトの間でパンデミックとなった場合の対応についてもさまざまな問題が投げかけられた。行動制限や感染者が増えて社会が回らなくなった場合の対応などシミュレーションも行われていたが、新型コロナウイルスに対して活かされただろうか。なお人と話をする時は最低2mの距離をとる、お互いの方を向いて話さない、などの対策も当時から提案されていたものである。 予防方法はワクチン (*8) となるが、当時はまだインフルエンザワクチンは従来の方法で作られていた (これを執筆中の現在も同様)。つまり発育鶏卵にウイルスを接種して培養し、そこから取り出したものを断片化してワクチンの原料とするものであった。 このような製造ラインはパンデミックが起きても簡単に増やせるものではなく、また鳥インフルエンザが流行している最中に必要な鶏卵をそもそも集めることができるのか、ウイルスの毒性が高すぎて発育鶏卵で十分に増殖しない、そもそもウイルスの出現からワクチンを作るまでには非常に時間がかかるなどの議論がなされていた。 当時の日本はある意味で先進的な対策を準備していて、「日本人しか使わないだろう」と言われたタミフルも迅速診断キットも日常的に用いられており、もし当時 H5N1 のヒトの間でのパンデミックが発生すれば世界でも最も準備が進んでいた国とされていた。タミフルも迅速診断キットも次のパンデミックが必ずいつか起きることを前提に戦略的に整備されていたものだったからである。 (それに比べると新型コロナウイルスに対してワクチンも海外から輸入せざるを得なかった日本の存在感のなさは一体何がそれほど変わってしまったのだろうと愚痴も言いたくなる)
      2006年の春の時期にもまた2005年と春と同じような発生があった。 中国青海省ではやはりインドガンを中心とする集団死があった。 2006年6月にはロシア・モンゴルの国境にあるウヴス・ヌール (オブス) 湖で青海湖と同規模の水鳥の集団死が発生したが、情報はほとんど出て来なかった。後にこの発生に関する論文 L'vov (2006) が発表されたことを知って (もちろん一段落してから) 取り寄せてみたがまったく読めなかったため、この論文が文法的に完全に読めるようになろうと一発奮起したのがロシア語独習を本格的に始めたきっかけである (結果的に語学知識が鳥の情報を知るのに想像以上に役に立つことがわかったのは思わぬ副産物となった)。
      この当時にはまた注目の発見もあった。2005年10月に 1918年の「スペイン風邪」が猛威をふるった時期のイヌイットの凍結状態の遺体からウイルス遺伝子の解読の成功が伝えられ、参考記事、H5N1 との類似性や、起源としての鳥インフルエンザが改めて注目されることとなった。 Kobasa et al. (2007) Aberrant innate immune response in lethal infection of macaques with the 1918 influenza virus はこの遺伝情報をもとにウイルスを再構築することに成功し (*5)、1918年の「スペイン風邪」が宿主の免疫反応を狂わせて死に至らせるいかに凶悪なウイルスであったかを明らかにした。 同様のことが H5N1 でも起きるのではとの示唆を与える研究であった。 インフルエンザウイルス研究の世界の第一人者である河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) が出版されたのもこの時期で、さらに知りたい方はこの本をお読みいだだくとよい。 H5N1 の発生はいったん下火となり、2009年にブタ起源 (遺伝子の一部は鳥インフルエンザ由来だった) の新型 H1N1 インフルエンザ [A(H1N1)pdm09] がパンデミックとなったことで H5N1 の話題はしばらく忘れ去られていた。 「スペイン風邪」の末裔 (正確には1977年に再登場したもので、保存されていたウイルスが流出したことが原因と言われる) にあたる H1N1 は当時まで流行が続いており、この株はタミフル耐性となっていたため厄介であった (医療現場で使われる迅速判定キットでは亜型まで判別されないため、タミフルを投与しても効かない確率も高かった)。 2009年の新型 H1N1 インフルエンザは病原性も低く、また多くの人が H1 への基本的な免疫を持っていたため大きな被害は生まなかった。タミフル耐性となっていた従来の H1N1 を駆逐したため、ある意味ではよい面もあった。ただし「新型」ゆえに生活に制約が生まれたり社会的混乱があったことは記憶されておられる方も多いだろう。現在も流行が続いている H1N1 亜型はこの株である。
      [野鳥と鳥インフルエンザ (9) インドガン] 自分もなぜインドガンが重要な役割を果たしたのだろうと関心を持っていた一人であったが、インドガンの生態を調べているうちに衝撃の情報を発見してしまった。 インドガンはチベットなどの高地に生息するため、英語で探しても繁殖地での情報がそれほどない。仕方なく中国語で検索をしていた (漢字文化圏の者にとっては種名ぐらいならば判別でき、むしろ比較的簡単であった)。 その最中にインドガンが養殖されている記事を見つけてしまったのである (記事さえ見つかれば機械翻訳で読めばよい。英語圏の者には簡単にできない芸当である)。当時国内・世界ともガン類の研究者はいたが、このことは誰一人知らなかったとのことである。 ガン類の研究者も後から考えると飼育は簡単なので確かに商業利用に使われることは考えても不思議でないと述べていた。 商業的な飼育は2003年にラサから100kmぐらい南の湖で始まり、さらに規模を拡大していたとのこと。野生個体数が減少していたので2005年には飼育個体の野外放鳥も行った (青海湖の発生の後ではあるが)。 珍味であり、消費地である都市部との流通ルートも確保されていたとのこと。 詳しくは以下の論文となっているので参照されたい (第2著者で共著論文となっている。筆頭著者が獣医、第3著者は BirdLife の鳥インフルエンザ担当者): Feare et al. (2010) Captive Rearing and Release of Bar-headed Geese (Anser indicus) in China: A Possible HPAI H5N1 Virus Infection Route to Wild Birds
      この発見はメーリングリストに参加していた Nature の担当者の目にもとまり、"Blogger reveals China's migratory goose farms near site of flu outbreak" Nature 2006 May 18; 441(7091):263 という記事としても掲載された。現在はオープンアクセスとなっているようなのでぜひお読みいただきたい。香港在住で中国の渡り鳥での感染論文を Nature に出した Yi Guan も噂は聞いたことがあったが知らなかったとのこと。
      2005-2006年の世界進展の時も話題となっていたのだが、この「青海湖株」には特異な変異がある。それはインフルエンザの遺伝子の一つ PB2 (ポリメラーゼのユニットの一つ) の627番目のアミノ酸がグルタミン酸 (E) からリジン (K) に変異しているもので、専門的な表現では PB2 E627K と表記される。この表記で検索するとすぐわかるが、これは鳥インフルエンザの哺乳類への感染力を高める変異としてよく知られたものである (*7)。 先述の1997年に香港で人に感染を起こした H5N1 ウイルスにもまさしく同じ変異があった。 この変異は鳥の間のみで感染を繰り返して生じるとは考えにくく、最も素直な解釈は途中に哺乳類への感染が起きたもので、家畜/家禽から獲得した可能性が高い。家禽の集団は上空からも見つけやすく、野生個体が容易に混じることができて、飼育/野生インドガン個体中に定着してインドガンへの感染に適応した株を生み出したと考えると納得が行く。 ラサ周辺ではその後も発生が続き、中国の研究者は渡り鳥が帰ってきたためと解釈しているが、家禽状態のインドガン個体群中に定着していた可能性も考えられる。
      BirdLife の組織は基本的に英語圏で漢字文化圏への障壁は高かったようで、日本人ならではの貢献となったかも知れない。BirdLife にも中国の協力者はいたが鳥インフルエンザへの関心は高くなかったようでこのような情報追求はできなかったようである。
      この話は実は深いところでここ数年の問題となっている新型コロナウイルスの起源にも関わっているのではないかと考えている (同じようなことに気づいている人はきっと他にもありそうだが)。 先に紹介の ProMED に 2021年3月15日に紹介されたものだが、 WHO Points To Wildlife Farms In Southern China As Likely Source Of Pandemic というアメリカの公共放送 (NPR) のインタビュー記事がある。残念ながら日本ではこのような情報はほとんど報道されないが、WHO の Peter Daszak が現地視察で何を知ったのか紹介されている。 Peter Daszak の言葉で印象的な発言を紹介しておこう (以下の article とは2020年 Scientific American の記事を指す):
      He praised her and defended her staunchly in the article, which notes that Shi and he are "long-term collaborators". Daszak said: "Shi leads a world-class lab of the highest standards... It's crystal clear that bats, once again, are the natural reservoir.
      "crystal clear" の表現があまりに印象的。(新型コロナウイルスがコウモリからやってきていることは) 水晶のように澄み切った、一点の曇りもない。
      中国では野生動物を捕獲して養殖する政策がこの20年行われてきて、都市部と農村の貧富の差の解消にに奏功していたとのこと。この成果については NPR が 2020年にすでに報道していた。 NPR はアメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネットワークと wikipediaにあり、これまでにも H5N1 は渡り鳥が運んでいるのか (2005-2006年当時の状況)、などの数々の重要な専門家インタビューを紹介してきていた信頼度も高いとされるメディアである。 Peter Daszak 氏は2020年 Scientific American の記事 How China's 'Bat Woman' Hunted Down Viruses from SARS to the New Coronavirus (2020年6月1日) で中国のコウモリのウイルス研究者の Shi Zhengli = 石正麗 (セキセイレイ) をインタビューし、高く評価していた。この記事は日経サイエンス7月号 (2020) に掲載されたとのこと (これは読んでいない)。 Shi Zhengli が新型コロナウイルスの発生報告を聞いた時どこにいて何をしていたのか、この記事に記載されているので (インドガンの話題から少し離れるが) 2020年3月11日にオンライン公開され、4月27日に改定された当時の記事の部分抄訳を紹介しておく ([kbird:03001] コロナウイルスの起源 2020.5.6より): SARS の発生以来16年コウモリのウイルスを求めて遠征を行ってきたとのこと。初めて新型肺炎のニュースを聞いた時、もっと危険な中国南部ではなく中央部の武漢で発生するとは考えておらず、中央政府が何か間違えたのかと思ったとのこと。本当にコロナウイルスならばうちの研究所が起源の可能性があるかと考えた。
      (コウモリのウイルスを求めての遠征で) horseshoe bat species の3種に SARS に対する抗体を見つけたとのこと。Shitou Cave 洞窟へと絞り込み、5年の研究で多数のコウモリ由来のコロナウイルスを見つけた。多くのものは無害だったが SARS に近いものが 10 ぐらいあった。人間の肺細胞に感染し、ネズミで SARS に似た病気を起こした。 (これらの研究の結果、現在 SARS の起源とされる野性動物にたどり着いた)。
      この洞窟近くの村の住民を調べて3%に SARS 類似コロナウイルスへの抗体を持っていることを明らかにしたが症状はなかった。
      その3年前に鉱山で6人が肺炎になって2人が死んだ事件で調査を依頼され、鉱山で多数のコロナウイルスを見つけた。 コウモリの糞で地獄のようだった。その時の原因は真菌だったが閉鎖していなければコロナウイルスに感染するのは時間の問題だった。
      1年以上前に彼女らのチームは2本の総説論文を出版し、コウモリ由来のコロナウイルスの危険性を訴えていた。
      昨年12月30日武漢へ戻る列車の中で、患者のサンプルを検査する方法を同僚と相談していた。16年間自分が準備してきた最悪の悪夢と戦っているように感じた。PCR でコロナウイルスに共通の配列を確認。他の研究所に送って完全配列を解読。 その間に実験室の過去数年の記録と照合し、実験ミスで漏洩があったのかを調べた。 洞窟のサンプルに該当するものがなかったことがわかって胸をなでおろした。「心の重しがようやく取れました」「数日間一睡もできませんでした」
      2021年の調査 Daszak 氏の率いる WHO チームは中国の研究者とも長年の信頼関係があり、論文発表前の資料なども得られたのであろう。
      鳥インフルエンザに戻って、希少種インドガンを養殖して商用利用とともに野生個体を増やす事業が行われていたわけであるが、まさにこのプロジェクトの一つだったのではないかと考えると時期的にも非常によく符合するように思える。 あくまで想像に過ぎないが、もしインドガンに適応した H5N1 の株が生じていなかったら事態はどうなっていただろう。渡りのカモがやってくる状態でも HPAI H5N1 が出現した 1996年から長い間渡り鳥の間に大きな問題は生じていなかったので、もしかするとインドガンに人為が関わっていなければ今でも中国と東南アジアの風土病程度にとどまっていたのかも知れない。
      なお、現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬していることは明瞭である。日常的に発生するようになった時期からはそうでないかと思われる。特に最初に述べた2020年以降の拡大速度はそれまでにも増して大きく、既知の渡り経路にも沿うものになっている。 青海湖株の発生当初に比べて野鳥への毒性が弱まり、一部の鳥に適応して渡りながら感染を拡大させることができるようになったと考えられている。[野鳥と鳥インフルエンザ (3) 高病原性はなぜ生じる] で述べたような自然界では不安定な高病原性状態が次第に低病原性に移行してゆく過程を見ていると考えられる。 ただし現在問題となっている株は変異によって毒性を高めている。一部の宿主には毒性が低く容易に運搬できるものの他の種類には毒性が強いことはあり得る。
      現時点の HPAI H5 は渡り鳥が運搬できるようになったとはいえ、これを過去まで遡って適用するのは拡大解釈であろう。2005-2006年の拡大パターンは渡り経路にも時期にも合わない点が多く、現時点の拡大パターンとはかなり異なっている。 現在では今も昔も同じように考えられがちであるが、当時の詳しい情報に基づく分析については前述の金井裕 (2007) 「野鳥の渡りや生態と感染拡大の関係」や Gauthier-clerc et al. (2007) をお読みいただければと思う。当時も指摘されていた点であるが、当時の鳥インフルエンザは同一国内ではすぐに広まるのに国境を越えるのには時間がかかったのは人や物の移動が関係していたことの表れとも言えるだろう。
      備考:
      *1: そもそもヒトのインフルエンザと鳥インフルエンザの何が違うのかは、ヒトに感染しやすいインフルエンザウイルスをヒトのインフルエンザウイルスと呼び、主に鳥に感染するものを鳥インフルエンザウイルスと呼ぶ程度の違いである。 インフルエンザウイルスが宿主の細胞に付着して (後述の HA が関わる) 入り込む際に細胞表面の受容体 (receptor) が重要な役割を果たす。ヒト型のウイルスは α2-6 シアル酸の受容体に、鳥型は α2-3 シアル酸と少し構造が異なっている (よく鍵と鍵穴の関係と言われる)。 ブタは両方の受容体を持っているためどちらのウイルスにも感染することができることはよく知られていて、家禽とブタが一緒に飼育されているような環境でヒトにも感染するウイルスが生じやすいとみられている。 鳥型と言われる受容体はヒトが持っていないわけではなく肺の奥深くにあるとのことである。ヒトの上気道 (鼻や喉) では鳥インフルエンザウイルス感染が成立しにくいが、肺の奥深くまでウイルスが侵入できればその限りではない。2004年ごろベトナムなどで小児の感染が中心であったのは小児は気道が短いため肺の奥深くまでウイルスが届きやすいとの解釈が出ていたが、その後どう解釈されたかまでは調べていない。
      鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染しにくい理由のもうもう一つに体温の違いがある。ウイルス増殖も化学反応なので至適温度がある。ヒトのウイルスでは上気道のような低い温度 (33℃) で増えることができるが鳥のウイルスは鳥の高い体温に最適化されているためヒトの上気道のような低い温度では増えない [河岡義裕「インフルエンザ危機」(集英社新書 2005) では第1章 pp.32-33, p.44 参照。 (*8) で出てくる生ワクチンはこの増殖温度を25℃まで下げた株で、毒性がたまたま弱まったものとのこと]。 実際のところインフルエンザウイルスにとっては鳥もヒトも似たようなものなのである (恒温動物以外にはインフルエンザウイルス、あるいは類縁ウイルスはそもそもほとんど存在しない)。 水鳥のように冬季に群れをなす習性とヒトが集団生活 (特に冬場は多数の人を集めるイベントなども多数行われるなど) をする習性は非常に似ていて、ウイルスが他個体に伝播して数を増やすのに絶好の場を提供している。 水鳥はおしゃべりなどをするわけではないので感染経路は糞口感染でウイルスは腸管で増える。ヒトでは飛沫感染で呼吸器で増殖するのは鳥との行動の違いを考えればわかっていただけるであろう。ウイルスがそのような経路を望んで進化してきたのではなく、鳥でもヒトでもそれぞれの個体の行動がそのような感染経路に適応したウイルスを選抜してきた結果である。 逆に言えばそのような経路を意識して離断すれば感染拡大が防げることは新型コロナでも体験済みの通り。 宿主の行動がウイルスの感染経路を決めているように思える事例として HIV や狂犬病などを思いつくことができる。
      さらに考えると恒温動物の体内は温度もほぼ一定に保たれ栄養も十分にある培養器のようなものであり、放っておくと細菌やウイルスだらけになるだろう。それを防いでいるのが免疫で、鳥類と哺乳類が極めて優れた免疫系を独立に確立した背景にはそれがないと恒温動物として成り立たなかったからであろう。 例えば爬虫類は免疫グロブリンの IgM, IgY (IgG 相当) を持っているが抗体価はあまり高くならなず、抗原特異的抗体ではなく自然免疫の方が役割を果たしているのではとの研究がある。 鳥類は哺乳類同様の高度な獲得免疫システムを持っている。膨大な数の抗原に対応する抗体を作るいわゆる B 細胞というのは鳥類の総排泄孔近くの腸管が膨らんだファブリキウス嚢 bursa Fabricii の bursa の B が由来。鳥類においては B 細胞の成熟に必須の器官。哺乳類では独立した器官ではなく骨髄がファブリキウス嚢と同じ役割を果たしているとされている (哺乳類の話では bone marrow の B が B 細胞の由来と説明しているものもあるが、ちょっとこじつけっぽく感じる)。 膨大な数の抗原に対応する抗体は免疫グロブリンの遺伝子再構成 [V(D)J recombination, (somatic) gene conversion] という現象で作られ、鳥類ではファブリキウス嚢で起きる (これは家禽中心の話で、種類によって違うかも知れない。ハトではファブリキウス嚢除去でニワトリのように免疫不全にはならないとのこと)。 生物学の常識を覆すこの体細胞の遺伝子再構成現象は1976年利根川進らが発見し1987年のノーベル生理学・医学賞を受賞。 鳥類の免疫について説明している wikipedia英語版 (Avian immune system) によれば羊水から母体免疫を得るが生まれた時点では自身では抗体を生成することができない。そのため生後数週間は病原体に弱い。生後6週間 (ニワトリの数字だろう) はファブリキウス嚢で盛んに遺伝子再構成が行われる。 遺伝子再構成に使われる遺伝子部位は哺乳類では複数の V, D, J の領域がある。鳥類ではこのうち一部の組み合わせがあるのみで理論的には鳥類の方が作ることのできる抗体の種類が少ないが、鳥類では上流の偽遺伝子群が遺伝子再構成に関わって抗体の多様性を高めている。 T 細胞の T は胸腺 thymus 由来で、これは鳥類・哺乳類に共通 (鳥類・哺乳類に共通のものは共通祖先の段階ですでに存在したことを意味する。共通でないものはそれぞれ独立に進化させたと考えればよい)。 卵にも母体由来の大量の抗体が含まれ、「ダチョウ抗体」で知られるように鳥類の免疫能力は高いと言われる。 鳥類は分泌型 IgA 抗体を持っていて粘膜に分泌し感染を防ぐ点は我々と同じ。 生後の発育においてニワトリでは粘膜の IgA は2週間後から急速に上がって3週間で定常値に達する。カモではもっと時間がかかるらしい。 爬虫類までの系統は IgA を持たないものもあり、IgA の役割は鳥類・哺乳類ほど明らかでない。鳥類・哺乳類のように子育てをする (まだ免疫の不十分な幼若な個体に乳汁として、あるいは餌と一緒に IgA を与えるなど) 必要性から一層の進化を遂げたものかも知れない (調べればどこかに書いてありそうな話だが)。 よく調べられている鳥類はニワトリのように早成性のものが多いので、晩成性の種類では免疫の発達に異なる点があるのかも知れない [Jacquin et al. (2012) Prenatal and postnatal parental effects on immunity and growth in 'lactating' pigeons ではハトのピジョンミルクが免疫形成に役立っている可能性を示している。小鳥の人工孵化でそのう抽出液を与える必要があった小西正一氏のエピソード (#ヒガシメンフクロウの備考参照) も関係があるかも知れない。 吐き戻して餌を与える種類 (ハゲワシ類、アマツバメ類を例に挙げている) で抗体を与えている可能性が考えられている文献があるとのこと (Apanius 1998)]。
      鳥類を含む主に瞬膜を持つ動物は (鳥では眼球の後ろ) 眼窩にリンパ組織であるハーダー腺 (Harderian gland) を持ち、頭部で IgA などを産生する主要組織となっている (ハーダー腺は霊長類にはほとんどないそうだが他にもヒトのマイボーム腺同様に目の潤滑物質などを分泌し、哺乳類では毛づくろいのための脂腺やフェロモン分泌器官などとしても働いている)。 この分泌物は目から鼻腔へと流れて上気道の免疫機能の一部を担っている。
      鳥類は哺乳類にある IgD (役割は不明)、IgE を持たない。IgD は系統進化的には古くからあるが、哺乳類では量も少なく遺残物のようなものかも知れない。IgE は哺乳類ではアレルギー反応に関係する。 鳥類にもアレルギー反応は存在し、IgY が IgE 同様の機能を果たしているとのこと。
      *2: 河岡「インフルエンザ危機」では第2章 さまざまなインフルエンザウイルス の後半参照。
      *3: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 p.35 に模式図がある。
      *4: 抗インフルエンザ薬には主に3系統がある。アマンタジン (amantadine) が最初に用いられたもので、A 型インフルエンザウイルスの M2 タンパク質のプロトンチャンネルを阻害し、ウイルスが細胞外に出るのを妨げる (現在では耐性のためほぼ使われていない)。 鳥インフルエンザは A 型なので本来効果があり、1997年にヒト感染した時にまだタミフルが臨床現場で用いられなかったので使われた (耐性は持っていなかった)。同じ系統の薬にリマンタジンがある。 ちなみにこれらの薬はアダマンタンという対称性の高い炭化水素骨格を持ち、炭素骨格がダイアモンドと同じであることからこの名前が付けられた。有機合成化学でも歴史的意義を持つ物質。 中国の鳥インフルエンザが問題となっていた時期、中国ではアマンタジンをニワトリに与えているとの噂が出ていたが真偽のほどは不明 (そんな高価な薬をニワトリに与えないだろうと言われていた)。 また中国では市販の風邪薬成分にアマンタジンを含むものがあって薬のパッケージ写真まで紹介されていたがこちらも真偽のほどは不明。 本文中にあるノイラミニダーゼ阻害薬がタミフルなど4種類。その後開発されたゾフルーザはウイルスの RNA ポリメラーゼの一部をなすキャップ依存性エンドヌクレアーゼに作用してウイルス複製を阻止する。 アビガンも RNA ポリメラーゼ阻害効果のある薬で新型コロナでも話題となったが期待されたほどの効果がなかったことはご存じの通り。現在市場流通していない。
      *5: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線 に基本的な技術の解説がある。インフルエンザウイルスの人工合成 (リバース・ジェネティックス reverse genetics) は著者のグループが1999年に最初に成功 (pp.129-133)。「スペイン風邪」ウイルスのリバース・ジェネティックスによる復元はこの著書の書かれた後に行われた。
      *6: 河岡「インフルエンザ危機」では第1章 新型インフルエンザの足音 pp.22-25 に考察がある。マスコミが「渡り鳥犯人説」を盛んに取り上げていたが、著者の考察はもう少し慎重である。 韓国で2003年に流行していたが当時は詳細が公表されず、事件や被害が報告されたのは2004年2月になってからであったことも記されている。 また食材として大量のニワトリを日本にも輸出していたタイも感染が広まっているにもかかわらず輸出先に知らせず、鳥インフルエンザに感染した子供がいることのリークがメディアにあってようやく2004年1月に公式に認めたことも書かれている。 この著書は2005年8月に書かれたもので、H5N1 HPAI のロシア進展の最中だった。「あとがき」でそのことも、日本ではほとんど話題になっていなかったことも触れられている。当時マスコミに出るウイルス学者は「渡り鳥犯人説」が主流であったが河岡氏は終始慎重な記述を行っていた。
      *7: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 インフルエンザウイルス研究最前線「たった1個のアミノ酸がウイルスの毒性を左右した」(pp.122-126)。
      *8: 河岡「インフルエンザ危機」では第4章 新型インフルエンザから身を守るには に興味深い記述がある。(引用開始) 1962年から94年まで、日本中の小学校でインフルエンザワクチン接種が義務付けられていた。(中略) 学童のインフルエンザワクチン集団接種は、子供たちで増えるインフルエンザウイルスの量を減らすことにより、社会全体におけるインフルエンザウイルスの量を減らしていたわけだ。 こうしたシステムを採用していたのは日本だけで、国際的にも注目されていた。 しかし1994年に予防接種法が改正され、学童への集団接種は中止されてしまった。改正のきっかけになったのは、一部の人たちが「インフルエンザワクチンの集団接種は効いていない」という説を唱えたことだった。この説への対応が正しくなされなかったために、集団接種が任意接種に変更されてしまったのである 。 (中略) そしてその結果はというと、インフルエンザにかかる人が増加し、死亡者も増えてしまったのである。 一方的な解釈で「ワクチンは効かない」とした人の意見を通したために、多くの犠牲者がでてしまった。 ワクチン集団接種中止に関わったすべての関係者の責任は、ひじょうに重い。(中略) 今、インフルエンザ被害を最小に食い止めるためにワクチンが必要不可欠であることに異議を唱える専門家はほとんどいない。 しかし、世界に誇れるシステムであった学童への集団接種は、社会全体のインフルエンザ量を減らすために "子供を利用して" いるという理由から、再開されることはないだろう。(引用終わり)
      アメリカのワクチン事情、生ワクチンのことも記されている。アメリカでは2003年から (日本でも使われている) 不活化ワクチンに加えて年齢制限はあるが生ワクチンも接種可能となったこと、スーパーで簡単に接種を受けられ、相対的に安価で高齢者は無料であったとのこと。著者は一日も早く日本の子供たちが生ワクチンを接種できることを願っていると記している。
      前述のように呼吸器感染症のように外部から病原体が侵入する場合、粘膜の IgA が感染成立を防ぐ役割は大きい。抗原を注射するタイプのワクチンでは IgA 誘導能力は十分高くないのでしばしば感染を防ぐ効果よりも重症化を防ぐ効果が説かれる。新型コロナウイルスの mRNA ワクチンによる実験では IgG, IgA のいずれも誘導されたが IgA の方が早く低下したとのこと。 鼻腔や点眼で投与できるワクチン (上記のようなインフルエンザ生ワクチンや無害なウイルスに遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換えワクチンなど) の方が効果が高いと言われるゆえんである。鳥における鳥インフルエンザワクチンでも点眼、鼻腔で接種できるワクチンの研究が行われているとのこと。 これらの情報は報道記事などを読む時にも役立つかも知れない。
  • ハクガン
    • 学名:Anser caerulescens (アンセル カエルレスケンス) 青みがかったガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:caerulescens (adj) 青みがかった (caeruleus (adj) 青い)
    • 英名:Snow Goose
    • 備考:2亜種あり(IOC)。 日本で記録されるものは基亜種 caerulescens 亜種ハクガン とされる。亜種 atlanticus (大西洋の) オオハクガンは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で検討亜種。絶滅危惧IA類 (CR)。IUCN 3.1 LC種。
      1980年代から 「東アジアにおけるハクガン Anser caerulescens の復元計画」が行われた。以下の資料を参照。 ハクガン復元計画資料館・暫定版 (日本雁を保護する会 JAWGP)、 シジュウカラガン・ハクガンの回復・復元計画の経過と課題 (呉地正行)。
      ロシアのハクガンの繁殖地はウランゲル島が唯一知られているがそれらは米国に渡る。東アジアの渡り経路はほぼ消滅しているのにカムチャツカで群れが見られた カムチャツカのハクガンの報道 (2020)。家族で移動する習性があるのに親鳥がいないのは不思議だとのこと。 上記日本雁を保護する会の情報によれば2019年、2020年とも日本の越冬個体群が多く、繁殖が順調な年は幼鳥率も高いとのこと。繁殖成功率が高い年は、幼鳥だけの群れでさまよって、これまであまり見られなかった地域に出ることがよくあるとのこと [故シロエチコフスキー氏による。澤祐介氏 kbird:05134 (2022.7.15) からの情報による]。 サハリンと千島の記事 (2020) サハリンや千島での目撃例が増えているとある。Andrej Zdorikov が話を説明しており、保護区ができてから個体数が増えて、カムチャツカでは RDB にも記載された。 今年はサハリンや千島でハクガンだけの群れが見られるようになって、大陸の個体群の復活を意味するとある。 国後島で初のハクガンの群れの渡来 (2019)ロシア極北のガンはどこへ飛ぶ の記事 (2018) もあり、過去からの変遷や標識方法、繁殖地 (ヨーロッパ方面も含む) の写真などが出ている。いずれも機械翻訳で問題なく読めるだろう。 ハクガンのロシアでの分布はごく限られているので、我々が想像するようにロシアの人に身近な種類ではないようである。
  • ミカドガン
    • 学名:Anser canagicus (アンセル カナギクス) カナガ島のガン
    • 属名:anser (m) ガン
    • 種小名:canagicus アラスカのアリューシャン列島 Canaga 島/Kyktak 島/Kanaga (アリュート語)島 から。アラスカのエスキモーは自身を Kanagiamoot (Kanag の住民) と呼ぶとのこと (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Emperor Goose
    • 備考:単形種。カナガ島はタイプ標本の産地。
  • シジュウカラガン
    • 学名:Branta hutchinsii (ブランタ ハッチンシイ) ハッチンスの黒いガン
    • 属名:branta 古ノルド語 Brandgas (焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの (#コクガンの備考も参照)
    • 種小名:hutchinsii (属) ハッチンス (Thomas Hutchins 英国の外科医)の (ラテン語化 -iusを属格化)
    • 英名:(Canada Goose), IOC: Cackling Goose
    • 備考:4亜種が認められている(IOC)。 日本で認められる亜種は leucopareia (leukos 白い pareion ほお Gk) 亜種シジュウカラガン と minima (最小の) ヒメシュジュウカラガン、及び亜種不明とされる。 亜種 taverneri (カナダの鳥類学者 Percy Algernon Taverner に由来) アラスカシジュウカラガン (チュウシジュウカラガン) が検討亜種に含まれている。 かつてはカナダガン Branta canadensis 英名 Canada Goose と同種とされ、(外来種を含む) 現在のカナダガンを指してシジュウカラガンと呼ばれていた (またはその逆) ために混乱があった。現在の分類でのカナダガンには7亜種が認められている(IOC)。ガン類の分子系統分類については#ヒシクイの備考参照。Branta canadensisBranta hutchinsii は結構離れている。
      シジュウカラガンは種 Anser leucopareius Brandt, 1836 として記載されたもの。 シジュウカラガンはかつて千島列島からアリューシャン列島で繁殖していたが20世紀初頭、毛皮目的でアカギツネやホッキョクギツネが繁殖地の島々に持ち込まれ激減した。更に渡りの途中や越冬地での狩猟圧も加わって、個体数は急激に減った。1938年〜1962年まで観察記録が途絶え、絶滅したと考えられた。 1963年にアリューシャン列島のバルディール島で偶然再発見され、保護活動が開始された (雁の里親友の会)。日本雁を保護する会と八木山動物公園・米国魚類野生生物局による保護計画が開始され、米国魚類野生生物局から譲渡された個体を八木山動物公園で飼育下繁殖させる試みが進められた (wikipedia日本語版、呉地正行) が渡りの復元には至らなかった。 その後、日米露3国のプロジェクトとしてロシアのカムチャツカのゲラシモフ夫妻が飼育下繁殖させ、1995年千島列島エカルマ島での放鳥を開始して現在の東アジアの渡りの復活につながっている。それ以前は亜種 minima ヒメシュジュウカラガンとともに迷鳥であった。 呉地正行・須川恒編「シジュウカラガン物語」(京都通信社 2021) で詳細を読むことができる。ゲラシモフ夫妻による(夫人は亡くなられた)「ガンとともに20年」(ロシア語) に当時ロシアの厳しい状況や飼育の詳細、主にロシア側から見たシジュウカラガン復活プロジェクトなどが記されて公開されている。映像も多数含まれている
      英名の括弧内はカナダガンと分離される前の名前。ロシア語ではコクガン属のガンを kazarka、他を gus' と区別して呼んでいる。
  • コクガン
    • 学名:Branta bernicla (ブランタ ベルニクラ) エボシ貝から生まれた黒いガン
    • 属名:branta 古ノルド語 Brandgas(焼かれたガン/黒いガン) をラテン語化したもの
    • 種小名:bernicla (合) 伝説、エボシ貝から生まれた (barnacle エボシガイ 英)
    • 英名:Brant Goose
    • 備考:3亜種あり(IOC)。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版以降では亜種名は orientalis (東洋の) から nigricans (黒っぽい) に変更されている。 カオジロガン Branta leucopsis (英名 Barnacle goose)とコクガンは長く区別されていなかった。エボシ貝から生まれた伝説は12世紀まで遡り、John Gerard は貝から生まれるのを目撃したと伝えている。伝説は18世紀まで続いた (The Key to Scientific Names)。
      ガン類の分子系統は Ottenburghs et al. (2016) (#ヒシクイの備考参照) を参照。 現在どちらも Branta属 (コクガン属) であるが、黒っぽいコクガンの亜種グループとカナダガンのグループはそれなりによく分離した系統で分岐年代もコクガンとそれ以外が670万年前、アオガン Branta ruficollis 英名 Red-breasted Goose (日本鳥類目録改訂第8版で掲載予定) とカナダガンのグループとの分岐年代が 580万年前と見積もられている。 同じコクガン属であってもコクガンとカナダガンとはかなり系統が違っていることは意識しておいてよいだろう。ハワイガン Branta sandvicensis 英名および現地名 Nene (英名別名 Hawaiian goose) はこのうちカナダガンの方のグループで、初期に分化した種類と考えられる。野生での観察がなかなか難しいと言われるが至近で見た経験があるのがちょっとした自慢である (ハワイ島)。
  • コブハクチョウ
    • 学名:Cygnus olor (キュグヌス オロール) 白鳥のオロール
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:olor (m) 白鳥
    • 英名:Mute Swan
    • 備考:kuknos 白鳥 (Gk)。ギリシャ神話で Cycnus の名を持つ少なくとも3人が白鳥に変えられた。単形種。英名は他のハクチョウ類に比べて静かなの意味で、鳴かないわけではない。ヨーロッパや中央アジアに主に分布するがユーラシア東部にも離散した分布域がある。世界の他地域で移入種となっている。 系統的に最も近いのはオーストラリアのコクチョウ Cygnus atratus 英名 Black Swan と南米のクロエリハクチョウ Cygnus melancoryphus 英名 Black-necked Swan。少なくとも前者は世界の他地域にも移入されている。
      コブハクチョウは飛翔時に強い音を出す。これは夜間飛行の際の衝突を防ぐ効果があるとも言われる。 リヒャルト・ワーグナー作曲の「ニーベルングの指環」の第1幕の有名な「ワルキューレ」(Die Walkuere, Valkyries。皆もが聞いたことのある音楽だろう) はコブハクチョウの飛翔時の音に着想を得たとのこと [Peter Young "Swan" Reaktion (2008)]。 英語の swan の語源は遡るとサンスクリット語 svanos で音を意味するとのこと (同上)。
      近年になって絶滅した "swan" と呼ばれる鳥にモーリシャスの Mascarene Swan と呼ばれるものがある。現在はツクシガモに近い仲間と考えられ Alopochen mauritiana Mauritius Sheldgoose と呼ばれる。最後の目撃は1668年モーリシャス島、1670年レユニオン島とされる。外来種や生息環境の破壊が原因とされる。 ニュージーランドにも New Zealand Swan Cygnus sumnerensis が生息しており、こちらは Cygnus属で一時期はコクチョウのニュージーランド亜種と考えられていたが遺物の遺伝情報解析で別種となった [Rawlence et al. (2017) Ancient DNA and morphometric analysis reveal extinction and replacement of New Zealand's unique black swans]。 Alice Klein Mysterious mega-swan once waddled through New Zealand (New Scientist 2017)。 最後の個体群がチャタム島に生息していたが人が住むようになって1650年絶滅とのこと。 コクチョウよりもさらに大型でマオリ名では pouwa と呼ばれていた (wikipedia英語版)。
      black swan theory ブラック・スワン理論というのは、「ありえなくて起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合、「予測できない」、「非常に強い衝撃を与える」という理論とのことである。 ヨーロッパでは白鳥は白い鳥だけと思われていたが、1697年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたとのこと (wikipedia日本語版)。チャイコフスキーの「白鳥の湖」では黒鳥のオディールが出てきて、このバレエの見せ場の一つとなっているが、年代を考えるとチャイコフスキーは黒鳥のことは知っていたのだろうか。 コクチョウを黒くする遺伝子がごく最近同定された。Karawita et al. (2023) The swan genome and transcriptome, it is not all black and white。 これによれば SLC45A2 という遺伝子の違いがコクチョウを黒くすることを決めているとのこと。
      [鳥類の頸椎] 鳥類の頸椎が多いことはよく知られていて、11 (下の値は出典によって異なる) から25個と呪文のように覚えている人もあるだろう。最大値の25個はなぜか出典による違いはなく、しかも丁寧に「ハクチョウ(類)」と添えてあることがある (この原稿の執筆中に専門家の文章でタンチョウの頸椎が25個と書いてあるのを見つけてしまった。ハクチョウをタンチョウと書き間違えてしまったのかも知れないが、「首の長い鳥は25個」は案外広まっている誤解なのかも知れない)。 鳥類豆知識の好きな方にとってはこれは格好の題材で、ハクチョウ類を見てこのように説明されている方もあるだろう。実際はどうなのだろうかと調べてみたことがあるが、鳥類の頸椎数をまとめて表にしたような文献はなかなか見当たらず (科や目ぐらいの分類群ぐらいでは載っている本がある)、水鳥については Woolfenden (1961) Postcranial morphology of the waterfowl にまとまっている。 自分が調べた範囲では、ハクチョウ類で頸椎数25個はコクチョウとコブハクチョウの一部 (24-25個とある) だけで、間違いなく25個と言ってよさそうなのはコクチョウのみのようである。つまりに日本で普通に越冬する種類としてみかけるものは25個と言ってはいけない。 コハクチョウは22-23個、オオハクチョウは24個とのことである。それぞれ識別点にもなるぐらいでハクチョウ類(およびカモ類)では首の長さと頸椎数がよく相関していることがわかる。コブハクチョウやコクチョウはたまには野外で、また飼育されているものも多いので見る機会も多いだろう。コクチョウは日本のハクチョウ類に比べて一段と首が長いことがわかる。
      これだけでも普段の観察時に「マニアック知識」として役立ちそうだが、では他の首が長い鳥はどうなっているのか気になる方もあるだろう。別の出典ではフラミンゴは19個、ヘビウ20個などとある。首が長いサギ類 (Ardeae) は19-20個となっている (出典により多少異なり、後に出てくる Boehmer et al. の部分も参照)。ハクチョウ類は数で勝負、フラミンゴは骨を長くする戦略になっていることが読み取れる (なぜそうなっているのかは知らないが)。 ただし鳥類の頸椎数は「ヒトの頸椎は7個」のように単純に割り切れない部分もある。鳥類の頸椎下部には頸肋(骨) (cervical rib) が存在し、どこまでが頸椎でどこからが胸椎とするかは資料によって異なる。ここで用いた数字は肋骨が前方で完全に癒合するところからを胸椎とする数え方によっているが、頸肋骨のある脊椎を胸椎に数える著者もある。 この場合数が約2個異なる。13(2)個のような書き方は括弧内が頸肋骨のある脊椎の数を意味する。前者の数え方ではこの場合は 15個になる。「フクロウの首の骨はいくつ?」と聞かれても明瞭に答えにくいのはこういう事情もある (なおフクロウの首の骨が鳥類の中で多いわけではない。後の Boehmer et al. や #フクロウの備考参照)。 タンチョウとナベヅルの研究例があるので参考までに Hiraga et al. (2014) Vertebral Formula in Red-Crowned Crane (Grus japonensis) and Hooded Crane (Grus monacha)。 タンチョウ、ナベヅルともに17個が基本のようだが18個の個体もあるとのこと (この文献に他の種類の文献が出ているので必要な方は調べられるかも)。この数字は記述からはおそらく頸肋骨のある骨の数も含めていると想われるが、引用されている文献は必ずしもそうでなさそうである。
      鳥類の頸椎は頸椎数はまだともかく、長さの測定値があまりないようである。首の長さは生態や重心などを決める因子として大きく関係があるはずで、データベースがあればよいのだがどうもなさそうである (研究者も分析因子として使えないので困っている模様。 後の Boehmer et al. を参照して脚の長さで代用されることもあるがこれはちょっと...と感じる)。これは四肢の骨のような測定が難しいことと、真面目に調べようとすると多数の頸椎を測定して足し合わせる (化石生物だとこのようにするしかないが、軟骨や、哺乳類だと椎間板の厚みをどう評価するかなど一筋縄では行かないようである) ことが必要になって研究者があまり取り組みたくないテーマだろうことが背景にあることは想像できる。 3次元 CT を使えば多少は問題が緩和されることになるかも知れないが、調べられているのは少数に限られるようである。
      近年個々のの頸椎を真面目に測定して足し合わせた論文 (上記のように軟骨が含まれないので生体ではもう少し長くなるはず) がある。Boehmer et al. (2019) Correlated evolution of neck length and leg length in birds で、詳しくはご覧いただきたい。 この文献は頸肋骨のある骨は数えていないので個数は上記のような数字より約2個少なくなっている (そのため最大23個になっている)。103種を調べた結果では鳥類の頸椎数は10-23個 (頸肋骨のある骨も数えると多分2増える) で、両端はごく少数で11-19個が一般的な範囲のようである (この文献はオウム類を多数調べているので数の少ない種類が多く、頻度分布はあまり参考にならない)。 鳥類の頸椎は進化にも関連して近年興味を持たれているテーマのようで、Marek and Felice (2023) The neck as a keystone structure in avian macroevolution and mosaicism の3次元 CT を使った論文が出ている (調べられた種類はまだ少ないようだが)。#クロハゲワシの備考も参照。 鳥類の環境への適応として頭部や翼の形状が重要なのは簡単にわかるが、それだけでは不十分で、頭部、首、翼を一体として捉える必要があるとのことである。頸椎の形態の進化速度も議論されていて、大きなグループの分岐点では進化も早いことが示されている。
      鳥類の頸椎数はこのように種類によって異なり、哺乳類では一部の例外を除いて7個であることもよく知られている。問題はむしろ哺乳類の頸椎がなぜそれほど厳格に7個に定まっているのかと言うこともできるだろう。これは哺乳類には横隔膜があるため、という説がある Buchholtz et al. (2012) Fixed cervical count and the origin of the mammalian diaphragm。 もしこの説が正しいならば、鳥類は優れた気嚢 (きのう、air sacs) システムがあるため横隔膜が必要ないところにまで由来を遡ることができることになる。哺乳類は鳥類に比べて「呼吸器システムの初期設計を誤った」とも言われることがある通りで、インドガンのような高所活動はとてもできない。 鳥類の呼吸器システムの基本設計はさらに頸椎数の自由度を通じて多様な環境に適応できる一要因ともなっているのかも知れない。
      [鳥類の形態データベース] なお、近年の鳥類の形態データベースとして AVONET があり 11009種、90020個体の測定値が含まれているとのこと [Toblas et al. (2022) AVONET: morphological, ecological and geographical data for all birds]。これには頸椎の情報は含まれていない。 このデータベースは R のパッケージとして公開されており、生物学者の基本言語が圧倒的に R であることも感じさせる。このデータをダウンロードし、少し R で作図をすれば自分の興味ある分類群の生態と形態 (例えば脚の長さ)との関係などを手軽にプロットして楽しむことができる (#ハイタカの備考参照)。興味ある方は試していただきたい。
  • ナキハクチョウ
    • 学名:Cygnus buccinator (キュグヌス ブッキナトール) ラッパ手の白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:buccinator (m) 頬筋、bucinator (m) ラッパ手
    • 英名:Trumpeter Swan
    • 備考:単形種
  • コハクチョウ
    • 学名:Cygnus columbianus (キュグヌス コルムビアヌス) コロンビア川の白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:columbianus (adj) コロンビア川の (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(Whistling Swan これは通常アメリカコハクチョウを指す英名)。コハクチョウは Tundra Swan または Bewick's Swan が適切と思われる。IOC: Tundra Swan
    • 備考:2亜種とされる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では2亜種が記載されていた。 jankowskyi (jankowskii の綴りも使われる) ポーランドからシベリアに流刑され刑期を終えて居住した博物学者 Michal Jankowski に由来。Michal の最後の l は斜め棒が入るが、ポーランド語では英語の "w" に相当する発音になる。ポーランド語の w は [v] の発音になる。 ロシア綴りでは Mikhail Ivanovich Yankovskij となるが姓の部分の発音は同じ。 Jankowski の名前は極東地域の鳥類や他の分類群にもしばしば現れるので知っておくとよい。「ヤンコフスキー家の人々」(遠藤公男 講談社 2007) がある。コハクチョウと columbianus アメリカコハクチョウであるが、パブリックコメントにて前者は bewickii (英国木版画師 Thomas Bewick に由来) であるべきと指摘された。 多くのリストでは jankowskyibewickii のシノニムとしており、これが採用される見通し。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でそうなっている。C. c. jankowskii を用いて、他亜種との遺伝的違いを調べている論文はある [Wang et al. (2014) Complete mitochondrial genome of Tundra swan Cygnus columbianus jankowskii (Anseriformes: Anatidae)] が、亜種の妥当性を議論したものではなく、種小名の選択も適切でないように思える。 C. columbianusC. bewickii を別種とするリストもある (例えば Avibase)。Avibase では jankowskyiC. bewickii の亜種 C. b. jankowskyi としている。 2種を認め、亜種 jankowskyi を認める場合は、Dement'ev and Gladkov (1952) に示されているようにこの扱いが適切と思われる。論文にはいずれの表記も現れる。 2種を他の北極のハクチョウ類とともに亜属 Olor として扱う考えもある。
      Kbird にて須川恒氏より尾崎清明さんからの情報としてロシアのガンカモ類渡りのアトラス (英文) が紹介された: Kharitonov et al. (2024) Migration Atlas of European species of palearctic Anatidae with the population outline (from the data of the Bird Ringing Centre of Russia)
      Peter Young "Swan" Reaktion (2008) ではハクチョウ飛来地で3月に旅立ち前の催しが開催されるとして下田公園・間木堤 (八戸北丘陵下田公園) が紹介されているが東京の南西と書いてあって何か誤解されているようである。実際は青森県。
  • オオハクチョウ
    • 学名:Cygnus cygnus (キュグヌス キュグヌス) 白鳥
    • 属名:cygnus (合) 白鳥 (cycnus (m) 白鳥)
    • 種小名:cygnus (トートニム)
    • 英名:Whooper Swan
    • 備考:単形種
  • ツクシガモ
    • 学名:Tadorna tadorna (タドルナ タドルナ) ツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorneツクシガモ 仏)
    • 種小名:tadorna (トートニム)
    • 英名:Common Shelduck
    • 備考:tadorne ツクシガモ (仏) の語源はケルト語で白黒の水鳥、英語の shelduck < sheld (染め分けた) duck とほぼ同意義。単形種。
  • アカツクシガモ
    • 学名:Tadorna ferruginea (タドルナ フェッルギネア) 鉄錆色のツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorneツクシガモ 仏)
    • 種小名:ferruginea (adj) 鉄錆色の (ferrugineus)
    • 英名:Ruddy Shelduck
    • 備考:主に中央アジアを中心に繁殖する種。アジアのものは冬はアジア南部に渡る。アフリカの一部に留鳥の孤立個体群が存在。単形種。
  • カンムリツクシガモ
    • 学名:Tadorna cristata (タドルナ クリスタータ) 冠のあるツクシガモ
    • 属名:tadorna (合) ツクシガモ (tadorneツクシガモ 仏)
    • 種小名:cristata (adj) 冠がある (crista (f) 冠 -tus (接尾辞) 〜備わっている)
    • 英名:Crested Shelduck
    • 備考:過去にも目撃回数が少ないが、かつては韓国から日本に輸出され、複数の写生画に登場する [柿澤・菅原(1989) 江戸時代の写生図にみられる絶滅鳥カンムリツクシガモ Tadorna cristata (Kuroda)] などもっと広範に生息していたと考えられる。 1916年に韓国で撃たれた以来記録がなく一度は絶滅が宣言された。1943年に韓国中部で目撃事例があり、1964年にウラジオストク近郊のリムスキー-コルサコフ列島でシノリガモの小さな群れの中にメス2羽、オス1羽が目撃された。 1971年に北朝鮮の北岸、1985年にロシア東部で2羽の目撃例があるが、1971年の記録は信頼性が低いとされる。その後も散発的な可能性のある記録があるが、いずれも未確認。もし種が生存していても個体数は50羽以下であろうとの見積もりがある (wikipedia英語版)。IUCN 3.1でCR種、絶滅した可能性があるとされる。環境省レッドリストでは絶滅種。単形種。
  • オシドリ
    • 学名:Aix galericulata (アイクス ガレリクラータ) 小さな帽子をかぶった水鳥
    • 属名:aix aigos (Gk) アリストテレスの記載した足に大きな水かきのある鳥の一種 (小型ガンか大型カモと考えられている)
    • 種小名:galericulata (adj) 小さな帽子をかぶった (galericulum (n) 小さな帽子 -tus (接尾辞) 〜備わっている)
    • 英名:Mandarin Duck
    • 備考:単形種。ヨーロッパ、アメリカ等に持ち込まれ、移入種となっている。ヨーロッパでは多数の個体が広く分布。
  • ナンキンオシ
    • 学名:Nettapus coromandelianus (ネッタプス コロマンデリアヌス) インドのコロマンデル地方のカモの足の鳥
    • 属名:nettapus (合) カモの足 (ntak カモ pous 足 Gk)
    • 種小名:coromandelianus (adj) インドのコロマンデル地方の (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Cotton Pygmy Goose
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。Nettapus属はナンキンオシ属。 英名で Pygmy Goose と付くように小型のガンの扱いであった。アフリカマメガン Nettapus auritus 英名 African Pygmy Goose が足と体はカモ、嘴と首はガンに見えるとのことでこの属名が付けられた (The Key to Scientific Names)。 2亜種が認められている(IOC)。日本で記録された亜種は基亜種 coromandelianus とされる。
  • オカヨシガモ
    • 学名:Anas strepera (アナス ストゥレペラ) 騒々しいカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:strepera (adj) 騒々しい (strepo -ere (intr) 大きな音をたてる -a 女性形の形容詞にする)
    • 英名:Gadwall
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属 [Marreco ブラジルのポルトガル語で小型カモ類を意味する (ローマ伝説で Marica は川または水の精)]、に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Mareca属はヨシガモ属。 Gonzalez et al. (2009) Phylogenetic relationships based on two mitochondrial genes and hybridization patterns in Anatidae の分子系統研究で旧 Anas属が単系統でないことが示され、いくつかの属に分離された。 北半球中緯度に広く分布。2亜種あり、他の亜種はキリバスの Teraina 環礁に生息していた couesi (アメリカの軍医 Elliott Ladd Coues 由来)があったが絶滅した。英名の由来は不明だが、1666年にはすでに使われていた (wikipedia英語版)。
  • ヨシガモ
    • 学名:Anas falcata (アナス ファルカータ) 鎌形の羽のあるカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:falcata (adj) 鎌形の (falcatus) 三列風切の鎌形の羽から
    • 英名:Falcated Duck
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。
  • ヒドリガモ
    • 学名:Anas penelope (アナス ペーネロペー) ペーネロペーを救ったカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:penelope (f) penelopis カモの一種 (Gk)
    • 英名:Eurasian Wigeon
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。 種小名の由来である penelops, penelopos (Gk) はギリシャ神話で両親がペーネロペーを海に投げ込んだ時に救って食べ物を与えた紫の縞のあるカモとされる Penelope < pene 編み紐、織物 opos 外見 でユリシーズの妻 (Gk) (The Key to Scientific Names, wikipedia英語版)。英名の Eurasian はアメリカヒドリの英名に対応させるため。Wigeon だけでもヒドリガモを指して使われる。単形種。 英名は16世紀初めにはすでに使われていたが、中世フランス語 vigeon 由来とされる。これは古フランス語 vignier (鼻を鳴らす、叫ぶ) -on (名詞化) とされる (Wiktionaryより)。
  • アメリカヒドリ
    • 学名:Anas americana (アナス アメリカーナ) アメリカのカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:American Wigeon
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Mareca属に変更。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。単形種。 ユーラシア北東端でも繁殖しているとのことである。参考記録 Beshkarev (1999初出、2018再掲) The American wigeon Anas americana in the upper reaches of the Pechora (p.4263)。 クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): p.27 に北米からシベリアにアメリカヒドリが進出しているとの記載がある。 Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) には繁殖種としての記載は特になく、迷鳥の扱いになっている。
  • マガモ
    • 学名:Anas platyrhynchos (アナス プラテュリュンコス) 幅広い嘴のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:platyrhynchos (合) 幅広い嘴の (platos 幅 rynchos 鼻口部 Gk)
    • 英名:Mallard
    • 備考:北半球に広く分布。2亜種が知られ(IOC)、日本の亜種は基亜種 platyrhynchos とされる。もう1亜種はグリーンランドの大型だが嘴は小さく色の淡い conboschas とされるがこの亜種を認めないこともある。英語の由来は古フランス語でオスの野ガモを表す malard, malart, mallart から (Wiktionaryより)。カルガモとの遺伝的関係については#カルガモの備考を参照。
  • アカノドカルガモ
    • 学名:Anas luzonica (アナス ルゾニカ) ルソン島のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:luzonica (adj) フィリピンのルソン島の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Philippine Duck
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • カルガモ
    • 学名:Anas zonorhyncha (アナス ゾノリュンカ) 帯のある嘴のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:zonorhyncha (合) 帯のある嘴 (zona (f) 帯、rynchos 鼻口部 Gk)
    • 英名:Spotbill Duck (or) Spot-billed Duck, IOC: Eastern Spot-billed Duck
    • 備考:単形種。 以前は Anas poecilorhyncha 現英名 Indian Spot-billed Duck (その当時のこの種の英名は Spot-billed Duck、現在の和名はアカボシカルガモ) の亜種とされていた。当時は6亜種で Grey Duck の英名もあった (コンサイス鳥名事典。現在では Grey Duck の名称は事実上使われておらず、指す場合もオーストラリア・ニュージーランドの Grey Teal Anas gracilis を指すようである)。 1991年に Bradley Livezey が形態の研究から独立種として分離を提案、香港や中国南部でこれらの雑種ペアがまれであることから別種扱いとなった。アメリカ鳥学会が独立種としたのは2008年。 日本でも Anas poecilorhyncha の学名、Spot-billed Duck の英名が使われていた。Chinese Spot-billed Duck の英語別名もある (以上 wikipedia英語版より)。 マガモ (日本野鳥の会京都支部) の解説によれば、西海功氏 (国立科学博物館研究主幹) によると、マガモとカルガモの (ミトコンドリア) DNA は全く同じとのこと。 この記事では「種が分化してまだ時間が経っていない。あるいは、両種が交雑して遺伝子が溶けてしまったと考えられる」と話しているとある。 出典は「分子が明かす鳥の世界 (6) 遺伝的違いが小さいのに別種 マガモとカルガモなどに事例」西海 (2013) 森と人の文化誌 (414): 2013.6 p.22-23 とのこと。
      Saitoh et al. (2015) DNA barcoding reveals 24 distinct lineages as cryptic bird species candidates in and around the Japanese Archipelago に結果があり、ミトコンドリアのチトクローム c オキシダーゼ I (COI) の部分配列 (648 塩基) の解析による。 この論文で差の小さかった組み合わせは マガモとカルガモ (0%)、アカコッコとアカハラ (0.15%)、 カッコウとツツドリ (0.3% 互いに単系統でない結果が得られている)、シマセンニュウとウチヤマセンニュウ (0.63%)、ケイマフリとウミバト (0.85%)。 大雑把な目安は2%が種の境界程度とされる。
      核遺伝子も含めたもう少し詳しい解析は例えば Wang et al. (2018) Incomplete lineage sorting and introgression in the diversification of Chinese spot-billed ducks and mallards にあり、差異はあるが分離が不完全で、(この研究で調べた範囲の) 遺伝情報から2種のどちらに属するのかを判定することができないとの結論になった。 カルガモの方からマガモへの遺伝子浸透 [(genetic) introgression; 遺伝子移入などとも呼ばれる。解説は例えば長谷川 (2012) 鳥類における種間交雑と遺伝子浸透 参照] が非対称に起きているらしい。 全ゲノムを扱った研究もなされている: Feng et al. (2021) Whole-genome resequencing provides insights into the population structure and domestication signatures of ducks in eastern China この2種はやはり遺伝的に非常に近いが分離されないほどではない程度の微妙な違いがある。遺伝的には非常に近いが外見は大きく異なるとのこと。この2つの研究ではアカボシカルガモは分析に含まれていないのでさらに調べる必要があるとのこと。 これらの研究は中国のアヒルの起源を調べるためのもので、マガモとカルガモの外見がなぜそれほど異なるのかは深入りしておらず、関心のある研究者が調べるべしというところであろう。 ハクセキレイの亜種で遺伝型と外見による亜種分類が整合しないことが知られているが (#ハクセキレイの備考参照)、ヨーロッパのハクセキレイでは顔の模様を決める遺伝領域が一部明らかになりつつある。 これに類似する状況かも知れない。
      「マガモとカルガモの遺伝子が同じ」話は日本の研究者によるもので比較的よく知られているため探鳥会などで話題になることもあるだろうが、外見を決める遺伝子が調べられているわけではないので「遺伝的に非常に近い」程度の表現にとどめておくのがよさそうである。
  • ミカヅキシマアジ
    • 学名:Anas discors (アナス ディスコルス) まだら顔のカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:discors (adj) 不一致の、異なった
    • 英名:Blue-winged Teal
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula属 (spatula スプーン) に分離。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Spatula属はハシビロガモ属。南北アメリカに分布する種。単形種。 種小名の由来はオスのまだら顔の模様に由来。BOU (1915) は飛翔時の特異な翼の模様を挙げている。 Gruson (1972) は調和しない鳴き声を挙げているが、原記載には習性や声の記載はないとのこと (The Key to Scientific Names)。 伊藤・福田 (1996) Birder 10(3) 77-78 にミカヅキシマアジの日本初記録 (1996年1月) の紹介記事がある。
  • ハシビロガモ
    • 学名:Anas clypeata (アナス クリュペアータ) 盾で武装したカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:clypeata (adj) 盾で武装した (clypeatus) 嘴の形状に由来
    • 英名:(Common) Shoveler, IOC: Northern Shoveler
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。北半球に広く分布し、単形種。
  • オナガガモ
    • 学名:Anas acuta (アナス アクタ) 尾の先が尖ったカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:acuta (adj) 先の尖った (acutus)
    • 英名:Pintail, IOC: Northern Pintail
    • 備考:他の (旧、広義) Anas属のカモより首が長く骨も多いと図鑑にある。文献によるとオナガガモ17-19個、他の Anas属は16個とある (#コブハクチョウの備考参照)。採食習性と関連させて観察すると面白いであろう。北半球に広く分布し、単形種。
  • シマアジ
    • 学名:Anas querquedula (アナス クエルクエドゥーラ) クアークと鳴くカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:querquedula (f) Varro や Columella の述べたカモの一種。Skeat によれば声 (querq, kark) からの擬声語
    • 英名:Garganey
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Spatula属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。 ユーラシアに広く分布する単形種。ヨーロッパの個体群はサハラ以南のアフリカにも渡り、かつて強毒性鳥インフルエンザ (H5N1) のナイジェリアなどのアフリカへの拡大の際にこの種の渡り経路を例に解説されたことがあった (#インドガンの備考参照)。 英名の由来はロンバルド語 gargenei (garganell の複数形)。水面をすくように採食することかオスの特徴ある (ねじを巻くような音と形容される; 渡り途中に滞在中の個体でも聞くことができる) 声からか。イタリア語 garganella (瓶から連続的に飲む意味) にも似ている。 遡ると garg- 喉 (L)、あるいは gargling (うがいすること。日本語でもうがい薬をガーグルと言う) gargareon 口蓋垂、気管 (Gk) (American Heritage Dictionary)。
  • トモエガモ
    • 学名:Anas formosa (アナス フォルモサ) 美しいカモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:formosa (adj) 美しい (formosus)
    • 英名:Baikal Teal
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Sibirionetta属 (Sibiria シベリア netta カモ) に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)も同じ。種小名は変化なし。Sibirionetta属はトモエガモ属で一属一種。単形種。東シベリアに高緯度まで繁殖分布を持つ東洋特産のカモ。
  • コガモ (アメリカコガモ が分離されることもある)
    • 学名:Anas crecca (アナス クレッカ) コガモ
    • 属名:anas (f) カモ
    • 種小名:crecca (合) コガモ Kricka、Kracha コガモ スウェーデン語 (声から擬声語)
    • 英名:Teal, IOC: Eurasian Teal
    • 備考:日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でもコガモに2亜種ある立場だが、世界の主要リストでは立場が分かれており、IOC、HBW/BirdLife などは carolinensis (カロライナの) を独立種アメリカコガモ Anas carolinensis (英名 Green-winged Teal) として認めている。この場合2種とも単形種となる。アメリカ鳥学会、Clements、eBird などでは亜種扱い。アメリカ鳥学会もかつては別種扱いとしていた。 もう1種近縁の種があり、キバシコガモ Anas flavirostris (英名 Yellow-billed Teal) があり、コガモ、アメリカコガモ、キバシコガモの関係は現在ある限られた遺伝情報だけでは解決できず、核 DNA の解析が必要とある (wikipedia英語版)。ここではIOC分類に従った英名を挙げておく。
  • アカハシハジロ
    • 学名:Netta rufina (ネッタ ルフィナ) 赤みがかったカモ
    • 属名:netta (合) カモ (ntakカモ Gk)
    • 種小名:rufina (adj) 赤みがかった (rufinus)
    • 英名:Red-crested Pochard
    • 備考:カザフスタン、モンゴルなど中央アジアを中心に分布する種。日本でも定常的に迷行例があるが、ヨーロッパにも多数の迷行例がある。単形種。
  • オオホシハジロ
    • 学名:Aythya valisineria (アユテュア ウァリシネリア) セキショウモを好む海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:valisineria (合) セキショウモの (海草 vallisneria セキショウモの属名)
    • 英名:Canvasback
    • 備考:北米の種で単形種
  • アメリカホシハジロ
    • 学名:Aythya americana (アユテュア アメリカーナ) アメリカの海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Redhead
    • 備考:北米の種で単形種
  • ホシハジロ
    • 学名:Aythya ferina (アユテュア フェリナ) 食用にされた海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:ferina (adj) 野獣の肉の (ferinus)
    • 英名:Pochard, IOC: Common Pochard
    • 備考:ユーラシアに広く分布する。単形種
  • アカハジロ
    • 学名:Aythya baeri (アユテュア バエリ) ベールの海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:baeri (属) baerの (プロイセンの発生生物学者でシベリアを探検した Karl Ernst von Baer Edler von Huthorn に由来。反ダーウィン派だったとのこと。ドイツ語でもウムラウトなしでそのまま Baer と綴るようだが、ロシア名も別にあってベールと読まれていたことがわかる。日本語読みはそれに従った)
    • 英名:Baer's Pochard
    • 備考:東アジア地域のみで繁殖する希少なカモ。単形種。メジロガモと同種と考えられたこともあった。アカハジロ、メジロガモを含む目の白い潜水ガモに亜属 Nyroca (メジロガモの学名語源参照)が提唱されたこともあった。Aythya属、Betta属などを Aythyini族とまとめることは受け入れられているが、アカハジロ、メジロガモの分子遺伝学的研究はまだ不十分である (wikipedia記述の段階)。 現在ではゲノムアセンブリが報告されている [Zhang et al. (2023) Chromosome-level genome assembly of the critically endangered Baer’s pochard (Aythya baeri)。この論文の段階で個体数は150と700の間と見積もられている]。 メジロガモについても2021年段階でミトコンドリアゲノムは解読されており、分子系統解析が得られるのは時間の問題と思われる。 かつてはロシア南東部と中国東北部でも繁殖していて日本を含む南へ渡っていたとされる。現在は中国の北部から中部で留鳥。現在では世界の成鳥の個体数は1000羽を割っている可能があり、さらに減少中と考えられている。2010年以降北京より北側では見られなくなったと報告されている。 繁殖個体数が越冬個体数よりも少ないため、未知の繁殖地があるとされており、中国で従来記載の繁殖地から遠く離れた新しい繁殖地の発見も報告されている。2010-2011年以降中国本土以外での定常的な越冬個体群はなく、迷鳥となっている。中国本土の越冬地でも数が大きく減少している。 IUCN 3.1でCR種。East Asian-Australasian Flyway Partnership (EAAFP) による アカハジロタスクフォース が作られた。2021年中国の国家一級保護種に指定された (New protection for Baer’s Pochard in China)。 2022年に北京動物園で飼育個体群が確立され、将来の野生再導入計画がある [Yong et al. (2022) The first captive population of Baer's pochard in China was established] (wikipedia英語版)。 なお中国の国家保護種は 国家重点保護野生動物目録 (wikipedia中国語版)で見ることができる (これらを見る時には学名のありがたみがわかる)。 この時に新たに指定された鳥類については China updates list of species with special protection に解説がある。 1989年に「国家級保護動物」のリストが出されてから2種追加されただけだったそうである。2021年の改定が32年ぶり初めての大幅な見直しとなった。従来は大型種のように目立つものが対象だったが、研究が進んで (中国内の動物学者も圧倒的に増えた)、科学ベースのリストになり、経済的価値から生態系や生息地の保護へのシフトを明確にしたとのこと。 今後は5年程度で見直すことにした (A new hope for China’s endangered animals)。 シマアオジもこの時に登場。
      又野 (2019) アカハジロがヒシの実を食べる行動 (大阪の飛来数記録の表もあり)。 この種の音声記録は公表されているものでは世界にまだ1例もない (#コウライアイサの備考参照) が、おそらく飼育下で記録されているものと思われる。
  • メジロガモ
    • 学名:Aythya nyroca (アユテュア ニュロカ) 潜るカモ
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:nyroca (外) nyrok 潜る者 露
    • 英名:Ferruginous Duck
    • 備考:東欧からロシア西部、中央アジア、中国西部、アフリカ北部などに主に分布する。単形種。日本で記録される数はアカハジロと同程度であるが、世界的個体数はメジロガモの方がずっと多く、IUCN 3.1でNT種。#アカハジロの備考も参照。
  • クビワキンクロ
    • 学名:Aythya collaris (アユテュア コッラリス) 首輪のある海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:collaris (属) 首輪のある (collare -is (n) 首輪)
    • 英名:Ring-necked Duck
    • 備考:北米の種で単形種。かつて東京都不忍池で1984年から1994年に11年連続の飛来記録があり、(少なくとも関東在住の古参バーダーには) あまり珍しくなくなった印象を受けるが飛来はやはりまれ (当時の不忍池はカモ類の餌付けが行われており、一面カモだらけ、クビワキンクロも足元にいた光景もあり双眼鏡すら不要で全く珍しさを感じさせなかった。さらにコスズガモまで飛来していた。Birder誌にも当時のいろいろな逸話が掲載されていた)。 日本鳥学会誌にも他所の記録論文が複数出ている。
  • キンクロハジロ
    • 学名:Aythya fuligula (アユテュア フリグラ) スス色の喉の海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia 海鳥 Gk)
    • 種小名:fuligula (f) スス色の喉の (fuligo (f) スス gula 喉)
    • 英名:Tufted Duck
    • 備考:属名の由来の aithuia はアリストテレス他の記載した未同定の海鳥。ミズナギドリ、ウ、カモ、ウミスズメなどの解釈がある。ギリシャ神話で水鳥に変えられた Cygnus の母親に Thyr (Thryie) があり関連する可能性がある (The Key to Scientific Names)。ユーラシアに広く分布する単形種。
  • スズガモ
    • 学名:Aythya marila (アユテュア マリラ) 少し黒い海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:marila (合) 少し黒い (mauro 黒い Gk、-illa (指小辞) 小さい)、charcoal embers
    • 英名:Scaup, IOC: Greater Scaup
    • 備考:2亜種あり、日本で記録されるものは従来基亜種 marila とされていたが、「一部学名の変更の見込みについて」(2023年11月28日) にて nearctica (新北区の; 北米を指す) に変更された。 Howard and Moore では現在この分類になっている。 Marchowski and Leitner (2019) Conservation implications of extraordinary Greater Scaup (Aythya marila) concentrations in the Odra Estuary, Poland の解説によれば世界でフライウエイに応じたいくつかのグループがあり、(1) A. m. nearctica 北米のグループで4つのフライウエイ、(2) A. m. nearctica 東アジアのグループ、(3) A. m. marila アジア北西部とヨーローパ北東部で繁殖しカスピ海や黒海周辺で越冬、(4) A. m. marila ヨーローパ北東部で繁殖し北海やバルト海周辺で越冬、 の4つに分けられるとのこと。日本の個体群は (2) にあたるようである。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" でもこの亜種となっている。 東アジアの個体群はかつて中間にあたると考えられて mariloides (marila スズガモ -oides に似た Gk) が使われたことがあったがこれは本来コスズガモに与えられた学名で無効とのこと (wikipedia英語版)。 文献: Banks (1986) Subspecies of the Greater Scaup and their names (それ以前の分類概念経緯も記載されている)。 この文献では東アジアの個体をヨーロッパのものと区別できないためユーラシアをまとめた marila としていた。 mariloides (学名の正統性はともかく) を認める立場であれば東アジアの個体群はこれに属するが、Avibase でも nearctica のシノニムとして扱っている。Howard and Moore は 2nd edition まで mariloides を認めていた。 コンサイス鳥名辞典では北ヨーローパから西シベリア北部をオオスズガモ A. m. marila、東シベリア、アラスカ、カナダ北部を A. m. mariloides としていた。 今後の基亜種の名前はオオスズガモかも知れない。
      他に Lesser Scaup (コスズガモ) が存在するため英名は Greater Scaup が望ましい。 scaup の語源はスコットランド語で貝類の繁殖場所 (shellfish bed) のことか、あるいは鳴き声からとのこと (wikipedia英語版より)。ロシア語ではスズガモ類は chernet' で「黒いやつ」ぐらいの意味だろう。ドイツ語では Bergente < Berg (山) Ente (カモ) で生態をあまり反映していない? 北米での別名は Bluebill (北米に生息するコスズガモの Little Bluebill に対応)。 Marchowski and Leitner (2019) によれば基亜種は近年減少傾向が目立つとのこと。 wikipedia英語版によれば1980年代から減少が始まったとのこと。
  • コスズガモ
    • 学名:Aythya affinis (アユテュア アッフィニス) スズガモに似た海鳥
    • 属名:aythya (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:affinis (adj) 隣の、姻戚関係の
    • 英名:Lesser Scaup
    • 備考:北米の種で単形種。 英名の別名 Little Bluebill, Broadbill。
  • コケワタガモ
    • 学名:Polysticta stelleri (ポリュスティクタ ステッラーイ) ステッラーの多くの斑のある鳥
    • 属名:polysticta (合) 多くの斑のある (poly- (接頭辞) 多くの stikos 斑 Gk、-tus (接尾辞) 〜を備えている)
    • 種小名:stelleri (属) ステッラーの (ドイツの博物学者 Georg Wilhelm Steller に由来)
    • 英名:Steller's Eider
    • 備考:極北の種で一属一種で単形種。英語 eider の語源はアイスランド語 aedr に由来すると考えられるがその語源は不明。
  • ケワタガモ
    • 学名:Somateria spectabilis (ソマテリア スペクタビリス) 美しい羊毛の体の鳥
    • 属名:somateria (合) 羊毛の体 (somatos 体 erion 羊毛 Gk)
    • 種小名:spectabilis (adj) 美しい、見える
    • 英名:King Eider
    • 備考:極北の種で単形種。この属ではヨーロッパ等に比較的普通のホンケワタガモ Somateria mollissima (英名 Common Eider) が世界的には有名。ケワタガモの名前はケワタガモの産座の綿羽が良質の保温材の採取対象とされてきたことによる。 コンサイス鳥名事典によれば執筆当時も商業利用されていたそうである。同書によれば別名アカハナケワタガモがあるとのこと。
  • シノリガモ
    • 学名:Histrionicus histrionicus (ヒストゥリオニクス ヒストゥリオニクス) 役者のような鳥
    • 属名:histrionicus (adj) 役者のような (histrio -onis (m) 役者 -icus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:histrionicus (トートニム)
    • 英名:Harlequin Duck (道化師の意味でフランス語由来)
    • 備考:一属一種で単形種。日本でも北海道と東北地方山地渓流で繁殖する。wikipedia日本語版には「太平洋岸繁殖個体群を H. h. pacific として分割する説もあったが、有力ではない」とあるがpacificus (太平洋の) が正しい。現在の世界の主要リストではシノニムとされる。
      ロシアのハバロフスク地方のブレインスキー保護区で放棄された卵から育てて最終的に野外に放った事例が紹介されている (#ハチクマの備考も参照)。シノリガモの黒子ちゃん - またの名を 異類の中の同類、同類の中の異類に翻訳を掲載。
  • アラナミキンクロ
    • 学名:Melanitta perspicillata (メラニッタ ペルスピキッラータ) 眼鏡をかけた黒いカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い ntakカモ Gk)
    • 種小名:perspicillata (adj) 眼鏡をかけた (perspicillus眼鏡 -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Surf Scoter
    • 備考:主に北米の単形種
  • ビロードキンクロ (アメリカビロードキンクロ が分離される、ビロードキンクロの学名も変わる見込み)
    • 学名:Melanitta fusca (メラニッタ フスカ) 黒ずんだカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い ntakカモ Gk)
    • 種小名:fusca (adj) 黒ずんだ (fuscus)
    • 英名:White-winged Scoter, IOC: Stejneger's Scoter
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Melanitta stejnegeri となる。ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Stejneger にちなむ。 かつては Melanitta deglandi (フランスの鳥類学者 Come-Damien Degland にちなむ; こちらの英名は White-winged Scoter アメリカビロードキンクロ)と同種と考えられていた。 アメリカビロードキンクロは日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で含まれた。いずれも単形種となる。 ビロードキンクロの新学名に対応する英名は Stejneger's Scoter または Siberian Scoter となる。現在の分類では Melanitta fusca はユーラシア西部の種類となり、英名は Velvet Scoter (ヨーロッパビロードキンクロ)。和名はこの種の英名に対応していて正確に使おうとすると大変ややこしい。ただ外国人バーダーも古い時代の velvet の名を知っていた人もあったためか、この英名でも通じた。 越冬時は海岸で観察されるため繁殖地も海に近いと考えそうだが、大陸奥深く内陸で繁殖する。ビロードキンクロはエニセイ川以東に広く分布。モンゴルでも繁殖個体群が観察される。アメリカビロードキンクロも同様でアラスカからカナダ西部の内陸で繁殖する。
  • クロガモ
    • 学名:Melanitta americana (メラニッタ アメリカーナ) アメリカの黒いカモ
    • 属名:melanitta (合) 黒いカモ (melan- (接頭辞) 黒い ntakカモ Gk)
    • 種小名:americana (adj) アメリカの (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Black Scoter
    • 備考:北米からユーラシア北東部に分布。ビロードキンクロよりは沿岸に近い場所で繁殖する。単形種。 近縁種にヨーロッパクロガモ Melanitta nigra 英名 Common Scoter があり、かつては同種とされていた。 ロシア北極圏では両種が繁殖するがシベリア北部ではクロガモの方が多いらしい。クロガモの方が東寄りでヨーロッパクロガモは主にヨーロッパで越冬する。 サハリンでもクロガモの繁殖が知られている: Vshivtsev (1979初出、2012再掲) Nesting of the black scoter Melanitta nigra on the Sakhalin Island (pp. 2661-2665)。
  • コオリガモ
    • 学名:Clangula hyemalis (クラングーラ ヒュエマリス) 冬の声の響く鳥
    • 属名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
    • 種小名:hyemalis (合) 冬の (hiemalis (adj) 冬の hiems (f) 冬)
    • 英名:Long-tailed Duck
    • 備考:極北に広く分布する単形種。越冬中の群れは特徴的な歌うような声を出し、遠くからも聞こえるという The Key to Scientific Names の注釈に沿った訳とした。
  • ヒメハジロ
    • 学名:Bucephala albeola (ブケパラ アルベオーラ) 少し白い大きな頭の鳥
    • 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
    • 種小名:albeola (adj) 少し白い (albus (adj) 白い -ola (指小辞) 小さい)
    • 英名:Bufflehead
    • 備考:北米に分布する単形種
  • ホオジロガモ
    • 学名:Bucephala clangula (ブケパラ クラングーラ) やかましく騒ぐ大きな頭の鳥
    • 属名:bucephala (合) 牛の頭 (bous 牡牛 kephali 頭 Gk)
    • 種小名:clangula (f) 声が響く (clangere 反響する -ula (指小辞) 小さい)
    • 英名:Common Goldeneye
    • 備考:種小名の和訳は wikipedia日本語版によった。ホオジロガモの羽音はよく響いて独特なのでそれを意味する可能性 (例えば日本語のスズガモの語源にように) も考えたが、それを示唆する記述は見つけられなかった。 wikipedia日本語版の「属名 Bucephala はアレクサンドロス3世 (大王) の馬の名前からつけられたもの」については出典を見つけられなかった。2亜種あり日本のものは基亜種 clangula とされる。もう1亜種 americana アメリカホオジロガモは北米に分布。
  • ミコアイサ
    • 学名:Mergellus albellus (メルゲッルス アルベッルス) 白くてかわいい小さなアイサ
    • 属名:mergellus (m) 小さいアイサ (mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥 -ellus (指小辞) 小さい)
    • 種小名:albellus (adj) 白くてかわいい (albus (adj) 白い bellus (adj) かわいい)
    • 英名:Smew
    • 備考:ユーラシアに広く分布する単形種。属名の由来は#カワアイサの備考も参照。 中国名白秋沙鴨で秋沙 (アイサ) の部分は和名に由来とのこと [福井・チャン (2003) Birder 17(8): 68-69]。
  • カワアイサ
    • 学名:Mergus merganser (メルグス メルガンセル) 少し沈んで泳ぐガン
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:merganser (m) 沈んで泳ぐガン (mergo (tr) 沈めるanser (m) ガン)
    • 英名:Common Merganser
    • 備考:属名に使われる mergus は Pliny などが用いた種類不明の水鳥 < mergere 潜る。北半球に広く分布し3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 merganser 亜種カワアイサとorientalis (東洋の) コカワアイサとされるが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では両亜種和名は検討中とのこと。 亜種 orientalis は「東洋の」の意味が適切でなく、アフガニスタンからチベット、中国南部で繁殖し、インドや中国南西部に渡る (Clements) とある。英語では Central Asian と形容され、こちらの方が分布をよく反映している。ちなみに orientalis の方がやや大きいとされる (wikipedia英語版)。 ユーラシアでは Goosander の英名も使われる。これは goose (ガン) と gander (オスのガン) からの合成語で 1622年にすでに使われていた (wiktionary)。Merganser はアメリカでの名称。
  • ウミアイサ
    • 学名:Mergus serrator (メルグス セッラトール) くちばしですくアイサ
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:serrator (adj) くちばしですく (serratus (adj) ギザギザのある -or (接尾辞) 状態の)
    • 英名:Red-breasted Merganser
    • 備考:愛媛の野鳥「はばたき」では種小名 serrator を「のこぎりで材木をひく人」と訳している。北半球高緯度に広く分布。単形種。
  • コウライアイサ
    • 学名:Mergus squamatus (メルグス スクアマトゥス) 鱗模様のアイサ
    • 属名:mergus (m) 少し沈んで泳ぐ海鳥
    • 種小名:squamatus (adj) 鱗で覆われた (squama (f) 鱗 -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Chinese Merganser, IOC: Scaly-sided Merganser
    • 備考:東アジアの狭い範囲に分布する比較的数の少ない鳥。個体群の多くはロシア極東部で繁殖していると考えられている。多くの海ガモと同様に樹洞営巣で、同地域のオシドリとの競争がある可能性がある。原生林地帯であり、個体数を調べるのは容易でない。IUCN 3.1でEN種 (wikipedia英語版)。ロシアでの研究はそれなりの数の論文がある。 ごく最近まで音声記録は世界に1例もなかった。Veprintsev Phonotheka of Animal Voices (#エゾビタキの備考参照) にも含まれていなかった。 近縁のウミアイサでは求愛ポーズで特有のディスプレイの音声を出し、コウライアイサも同様と推定されるが [「山溪ハンディ図鑑 日本の野鳥」(初版 1998)] この音声はまだ録音されていない。上田秀雄氏による Ueda Nature Sound や Macaulay Library (eBirdの画像他のライブラリ) にも含まれていない。 中国で録音された唯一の音源はカモ類一般に聞かれるガッガッ...の音声であり、ディスプレイの音声ではない。鹿児島県で2011年12月から2012年4月にかけて最大で9羽が観察・撮影されており、3月には交尾行動も観察・撮影された [所崎 (2012) 「鹿児島県のコウライアイサの越冬記録」Birder 2012年11月号, p.46-47が出典。音声の記録はない] とのことで、ディスプレイの音声を記録できるチャンスは皆無ではないと思われる。可能性のある方は世界初記録にチャレンジしていただきたい。
  •  カイツブリ目 PODICIPEDIFORMES カイツブリ科 PODICIPEDIDAE 

  • カイツブリ
    • 学名:Tachybaptus ruficollis (タキュバプトゥス ルフィコッリス) 赤い首の速く潜る鳥
    • 属名:tachybaptus (合) 速く潜るもの (tachy- (接頭辞) 速く (Gk) bapto 潜る (Gk)、-tus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:ruficollis (adj) 赤い首の (rufus (adj) 赤い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Little Grebe
    • 備考:ユーラシアからアフリカに広く分布する。7亜種が認められている(IOC)。日本で記録される種類は poggei (中国滞在のドイツ人軍人。東プロイセンの森林官 Karl Pogge に由来) 亜種カイツブリと kunikyonis (大東島在住の日本人採集家 Kunihira Kunikyo 由来) ダイトウカイツブリが日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)にリストされている。 後者は世界のリストではほとんど認められておらず、poggei のシノニムとされるのが一般的。前者もおそらく亜種 japonicuspoggei のシノニムとなった結果。
      [音声] カイツブリにはさまざまな音声があり、短い地鳴きや警戒音 (知らないと何の声かと思ってしまう)、そしてよく聞く「さえずり」(キュルルルルーという声) がある (バードリサーチ鳴き声図鑑では地鳴きとしているが、世界的にはさえずりに分類するのが一般的)。この「さえずり」に非常に似た声をヒクイナも出す (#ヒクイナの備考参照)。探鳥会担当者などは即断で聞き慣れたカイツブリと判定してしまわないように注意が必要であろう。
      [パンくずを疑似餌に使うカイツブリ] 諸角 (1995) Birder 9(10): 56-58 に東京の不忍池で人が投げたパンを細かくして撒き餌のように用いるカイツブリ (1991) の紹介がある。(#ゴイサギの備考参照)
      [絶滅した飛べないカイツブリ類] カイツブリが空を飛ぶ印象は受けにくいが、渡りをする個体がある通り空を飛べる。夜間の渡り途中の地鳴き nocturnal flight call (NFC) (#マミチャジナイの備考参照) では頻繁に記録される種類である。 飛んでいるビデオを撮影したいと何度も試しているがなかなか成功していない。 しかしカイツブリ類が飛びにくいことは確かなようで、世界には飛べないカイツブリ類もある。その一つにマダガスカルのワキアカカイツブリ Tachybaptus rufolavatus 英名 Alaotra Grebe があり、1985年の目撃が最後で外来魚によって絶滅 (2010年に絶滅宣言された) したと考えられている。現存する写真は1枚のみとのこと (wikipedia英語版による)。 属は異なるが、グアテマラのオオオビハシカイツブリ Podilymbus gigas 英名 Atitlan Grebe (現地名 poc ポック) も有名である。これも飛べないカイツブリで、外来魚、想定外の地震などの天災や他種との交雑もあり、Anne LaBastille による25年の保護努力により一時は個体数 210 (1973) まで回復したが 1989年の目撃が最後となり、1990年に絶滅宣言された (wikipedia英語版による)。 Anne LaBastille による著書 "Mama Poc: An Ecologist's Account of the Extinction of a Species" (1990) があり、「絶滅した水鳥の湖」(幾島幸子訳 晶文社 1994) と邦訳されている。
  • アカエリカイツブリ
    • 学名:Podiceps grisegena (ポディケプス グリセゲナ) 灰色の頬の尻足の鳥
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:grisegena (adj) 灰色の頬の (griseus (adj) 灰色の gena (f) 頬)
    • 英名:Red-necked Grebe
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは holbollii (デンマークの動物学者 Carl Peter Holboll 由来) とされる。
  • カンムリカイツブリ
    • 学名:Podiceps cristatus (ポディケプス クリスタトゥス) 冠羽のあるカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門とpodium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:cristatus (adj) 冠羽のある
    • 英名:Great Crested Grebe
    • 備考:3亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 cristatus とされる。
  • ミミカイツブリ
    • 学名:Podiceps auritus (ポディケプス アウリトゥス) 耳の長いカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:auritus (adj) 耳の長い
    • 英名:Slavonian Grebe, IOC: Horned Grebe
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 auritus とされる。 旧英名の Slavonian はスラヴォニア (クロアチア語: Slavonija) 由来。クロアチアの東部の地域。
  • ハジロカイツブリ
    • 学名:Podiceps nigricollis (ポディケプス ニグリコッリス) 黒い首のカイツブリ
    • 属名:podiceps (合) お尻のほうにある足、尻足の (podex -dicis (m) 肛門と podium (n) 足、-ceps (kaps) くっついている 古伊)
    • 種小名:nigricollis (adj) 黒い首の (niger (adj) 黒い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Black-necked Grebe
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 nigricollis とされる。
      普通種であるが、声を聞かれたことはあるだろうか。越冬中の声の記録は国内・国外の音声データベースでも意外に記録が少ない。鳴いているところに気づかれた場合は録音をお勧めしたい。
  •  ネッタイチョウ目 PHAETHONTIHORMES ネッタイチョウ科 PHAETHONTIDAE 

  • アカオネッタイチョウ
    • 学名:Phaethon rubricauda (パエトン ルブリカウダ) 赤い尾のパエトン
    • 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
    • 種小名:rubricauda (adj) 赤い尾の (ruber (adj) 赤い cauda (f) 尾)
    • 英名:Red-tailed Tropicbird
    • 備考:4亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは melanorhynchos (melanos 黒い rhunkhos 嘴) 英語で Black-billed Tropic Bird とも呼ぶ。
  • シラオネッタイチョウ
    • 学名:Phaethon lepturus (パエトン レプトゥルス) 細い尾のパエトン
    • 属名:phaethon (m) 太陽神の息子パエトン (輝く者の意)
    • 種小名:lepturus (合) 細い尾の (leptos細い oura尾 Gk)
    • 英名:White-tailed Tropicbird
    • 備考:6亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは dorotheae (オーストラリアの発生学者 Henry Luke White の妹の Dorothy Ebsworth White 由来) とされる。
  •  サケイ目 PTEROCLIFORMES サケイ科 PTEROCLIDAE 

  • サケイ
    • 学名:Syrrhaptes paradoxus (シュルラプテス パラドクスス) 変な縫い合わされた指の鳥
    • 属名:syrrhaptes (合) 縫い合わされたもの (syrrapto 縫い合せる -tes (接尾辞) 〜するもの Gk) 羽の生えた足の指がつながっているため (Helm Dictionary)
    • 種小名:paradoxus (合) 予想外の、驚くべき、変わった (paradoxos 定説に逆らうものの意 Gk)
    • 英名:Sandgrous, IOC: Pallas's Sandgrouse (プロイセンの生物学者 Peter Simon Pallas に由来)
    • 備考:単形種。 Pallas (1773) の記述ではライチョウ属とノガン属の両方の特徴を示し、様々な点でそれぞれの属にない特別な特徴が見られるとのこと (The Key to Scientific Names)。 種小名の原意はこのように解釈するとよさそうである。 サケイはハトのように水を吸うことができると考えられていたが、そうではないとのこと: Cade et al. (1966) Drinking behavior of sandgrouse in the Namib aud Kalahari deserts, Africa。 サケイ目に最も近縁なグループはマダガスカルのクイナモドキ目 (Mesitornithidae)。これら2目とハト目 で Columbimorphae の系統をなす。 Hackett et al. (2008) A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History (#ミサゴの備考にも登場) ではサケイ目、クイナモドキ目、ハト目の順に分岐する結果が得られている。Prum et al. (2015) (#アマツバメの備考参照) では前2者が逆順になっている。 いずれもハト目とはまとまるが系統的にはかなり離れていると考えてよい。
      様々なところに名前の出てくる Pallas (カワガラスの種小名などにも現れる) の日本語での読み方はいろいろな表記があり、パラス、パーラス、パラースを見たことがある。 原語のドイツ語発音であればアクセントは最初なのでパーラスとしてもよいかも知れない。Pallas の広く活躍したロシアでの発音はアクセントが後になるようで、こちらを重視すればパラースとしてもよい。どの言語を用いるか次第の問題でどれも正しいと言って構わないようである。 なおギリシャ神話にも Pallas が登場し、男性は前アクセント、女性は後ろアクセントだそうである。 元素のパラジウム (Pd) の名称も直接の由来は小惑星パラスだが、遡れば神話で同じ語源になる。
  •  ハト目 COLUMBIFORMES ハト科 COLUMBIDAE 

  • ヒメモリバト
    • 学名:Columba oenas (コルンバ オエナス) ハト
    • 属名:Columba (f) ハト
    • 種小名:oenas < oinas, oinados ハト 古Gk, Aldrovandus (1599) が Oenas (Gk) と用いた
    • 英名:Stock Dove
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。 種小名に使われる oenas は他の種ムラサキサンジャクでワイン色の意味で使われるが、ギリシャ語の由来 (oinos) が異なる (The Key to Scientific Names)。2亜種あり(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明とされる。 英名の由来は雑木の切り株 (stock の古めの英語での意味) に群生する枝の間に巣をつくることから (コンサイス鳥名事典)。
  • カラスバト
    • 学名:Columba janthina (コルムバ ヤンティナ) 紫色のハト
    • 属名:Columba (f) ハト
    • 種小名:janthina (合) 紫色の(hyachinthus (m) ヒアシンス -inus 〜に属する)
    • 英名:Japanese Wood Pigeon
    • 備考:3亜種あり(IOC)。 基亜種 janthina 亜種カラスバト、nitens (輝く) アカガシラカラスバト、stejnegeri (ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Stejneger に由来) ヨナグニカラスバト。 種として天然記念物。 アカガシラカラスバトは絶滅危惧IA類 (CR)、ヨナグニカラスバトは絶滅危惧IB類 (EN)。 亜種カラスバトは準絶滅危惧(NT)。
  • オガサワラカラスバト
    • 学名:Columba versicolor (コルムバ ウェルシコロール) 変わる色のハト
    • 属名:columba (f) ハト
    • 種小名:versicolor (adj) 変わる色の、多彩な色の
    • 英名:Ogasawara Islands Wood Pigeon, IOC: Bonin Wood Pigeon
    • 備考:絶滅種
  • リュウキュウカラスバト
    • 学名:Columba jouyi (コルムバ ジョウイイ) ジョウイのハト
    • 属名:columba (f) ハト
    • 種小名:jouyi (属) jouyの (アメリカの博物学者 Pierre Louis Jouy 由来)
    • 英名:Ryukyu Wood Pigeon
    • 備考:絶滅種
  • キジバト
    • 学名:Streptopelia orientalis (ストゥレプトペリア オリエンタリス) 東洋の首飾りのあるハト
    • 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
    • 種小名:orientalis (adj) 東洋の (-alis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Oriental Turtle Dove
    • 備考:5亜種(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 orientalis 亜種キジバトと stimpsoni (アメリカの技師で北太平洋を探検した William Stimpson に由来) リュウキュウキジバト。
  • シラコバト
    • 学名:Streptopelia decaocto (ストゥレプトペリア デカオクト) 18(デカオクト)と鳴くハト
    • 属名:streptopelia (合) 首飾りのあるハト (streptos 首輪、首飾り peleia ハト Gk)
    • 種小名:decaocto (合) 18 (Gk)
    • 英名:Eurasian Collared Dove
    • 備考:鳴き声からギリシャ人は Decoctouri、フランス人は Dixhuit と名付けたと Sibthorp (1795) が記載している。こきつかわれた女中が年に18回コインしかもらえないことを嘆いていたが、ゼウス神によってハトに変えられて"Deca-octo"と嘆きの声で鳴き続けたとのギリシャの神話がある。 古代ローマの百人隊長が十字架上のイエスを憐れみ、価格が18コインであることを繰り返すことを主張した老婆から牛乳を買って捧げようとしたが17コインしか持っていなかった。強情な老婆は呪われて18、18としか鳴けないハトに変えられた。17と鳴くと人間の姿に変えられるのだが、19と鳴けば世界が終わりに近づく、とのギリシャの伝説がある (The Key to Scientific Names, wikipedia英語版)。 単形種。天然記念物。
      亜種が用いられていたこともあり、森岡 (2003) Birder 17(11): 56 に石垣島で2003年1月に観察されたシラコバトの考察があり、亜種 stoliczkae に似ているが基亜種のシノニムとするのが妥当との見解がある。
  • ベニバト
    • 学名:Streptopelia tranquebarica (ストゥレプトペリア トゥランケバリカ) インドのトランケバールのハト
    • 属名:streptpelia (合) 首飾りのあるハト (streptos柔軟な (peleia)ハト Gk)
    • 種小名:tranquebarica (adj) インドのトランケバール Tranquebar の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Red Collared Dove
    • 備考:2亜種ある(IOC)。日本で記録される亜種は humilis (小さい、つつましい、地面のなどの意味) とされる。
  • キンバト
    • 学名:Chalcophaps indica (カルコパプス インディカ) インドのブロンズ色ハト
    • 属名:chalcophaps (合) ブロンズ色ハト (khalkos ブロンズ phaps, phabos ハト Gk)
    • 種小名:indica (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Emerald Dove, IOC: Common Emerald Dove
    • 備考:6亜種あり(IOC)。日本の亜種は yamashinai (日本の鳥類学者 Yoshimaro Marquis Yamashina 由来) とされるが、世界の主要リストではほとんど認められておらず、基亜種 indica のシノニムとするのが一般的。
      天然記念物。絶滅危惧IB類 (EN)。世界的には懸念なし (IUCN 3.1)。
  • アオバト
    • 学名:Treron sieboldii (トゥレロン シーボルディイ) シーボルトのハト
    • 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
    • 種小名:sieboldii (属) シーボルト Philipp Franz Balthasar Freiherr von Siebold (ドイツの医師、博物学者で、日本で 1823-1829年に採集活動を行った) の (ラテン語化した sieboldius を属格化)
    • 英名:Japanese Green Pigeon, IOC: White-bellied Green Pigeon
    • 備考:日本から中国南東部、台湾に分布。4亜種あり(IOC)。日本の亜種は基亜種 sieboldii とされる。 「アオバトのふしぎこまたん著 (エッチエスケー 2004) にアオバトの由来から特異な習性、繁殖などの興味深い情報が満載された本がある。巣を見つけることは非常に難しいようである。
      「アオバトのふしぎ」では中国の図鑑に基づきアオバトを4亜種に分けている。現在の IOC も亜種は同じなのでリストしておく: sieboldii (日本と中国東部)、 sororius (台湾)、 fopingensis (中国四川省東部から上海南部)、 murielae (中国南部中央からベトナム北部、中部、タイ北部)。 「アオバトのふしぎ」によれば sieboldii の中国記録は1933年の1例で日本人が持ち込んだ飼い鳥らしいとの見解が中国の研究者により示されているそうである。 また九州以北の日本と台湾は不連続分布を示し、南西諸島にはズアカアオバトが分布する地図が 示されている。この地図では台湾近くの中国の分布を sororius としている。 sororiussieboldii を同一と捉える立場もある。Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) によれば別亜種とする根拠は Cheng Tso-hsin (1987) だが根拠は弱い (Collar 2004) との記載がある。
      神奈川県立生命の星・地球博物館のアオバトのページ
      [アオバトが海水を飲む行動の意義] 神奈川県大磯町照ヶ崎海岸でアオバトが海水を飲む行動はよく知られている。上記「アオバトのふしぎ」にも詳しいが、少なくとも英語圏にはほとんど情報が出ていないようで引用できる英語文献もほとんどないようである (「アオバトのふしぎ」を引用すればよいのだろうがあまりにも "in Japanese" 過ぎるのかも知れない)。
      Sundukov and Sundukova (2016) The white-bellied green pigeon Treron sieboldii in the Southern Kuriles (pp. 4203-4208。極東の鳥類43: 千島列島特集 で和訳が読める。この号にはアオバト情報がかなり含まれている) に千島でのアオバトの記録があるが海水を飲む行動は観察されていない。 サハリンでは記録があるとのこと: Zdorikov (2016) New data on some rare birds of Sakhalin Oblast (pp. 4038-4042, Smirnov による飲水写真があり、ビデオも撮影されたとのこと p. 4040)。 (千島のアオバト調査の記事) にも解説記事 (2017)がある。営巣は (確認が難しいことはわかっているが) 確認できなかった。 ロシアでも紹介ビデオがあり アオバト (ロシア語) 映像は日本のものだろうか。最もよく調べられている日本でさえも少数の巣が知られているのみとある。小犬のような、あるいはカエルのような声を出すと比喩されており、「笛吹きバト」の異名もあるとのこと。 アオバトは世界でも最も驚くべき鳥の一つで、研究者が将来秘密を明らかにしてくれるかも知れないと結んでいる。
      ハト類は一般に塩を好むことは知られていて、レース鳩に塩土を与える必要性が知られている (飼育小鳥用の塩土もあるがこちらはカルシウム補給の意義の方が大きそうである)。我々も塩を好むと言えばそう言えるように思え、 本当に必要な塩分量はずっと低い (無塩文化では一日 1g で生活している。ナトリウム摂取が少ない場合には腎臓で再吸収される。基本的なメカニズムは脊椎動物で共通のようである) ことも知られているのでここでは考察範囲を野生のハト類とする。
      アメリカのナゲキバト Zenaida macroura 英名 Mourning Dove を捕らえる時のおびき餌として塩を使う情報があった。 鉱物を食べる (geophagy) 行動は果実食のコウモリで知られていてミネラルを補給するため、あるいは植物由来の毒を中和するためなどの役割が考えられていたが、Voigt et al. (2011) Nutrition or Detoxification: Why Bats Visit Mineral Licks of the Amazonian Rainforest によればミネラル補給よりも子育て時に大量の食物を摂食するため植物由来の有毒物質の中和に役立っているのではとのこと。 鳥類における鉱物食についてこの文献に触れられている研究は2つで Brightsmith and Munoz-Najar (2006) Avian Geophagy and Soil Characteristics in Southeastern Peru と Gilardi et al. (1999) Biochemical Functions of Geophagy in Parrots: Detoxification of Dietary Toxins and Cytoprotective Effects で前者はどちらかと言えば胃石関連、後者ではオウムに粘土を与えることで植物の有毒物質の吸収が大きく抑制された結果が出ている。 この文脈での研究は多少あるようだが、アオバトの事例とは異なるかも知れない。 Downs et al. (2019) More than eating dirt: a review of avian geophagy のレビューで6種類の役割が考えられている。系統的には散在して発生しており2%の種にしか認められずまれな習性のよう。 比較的よく調べられてきたのは陽イオン交換でナトリウムやカルシウムイオンと陽イオンの植物由来の毒物を交換することで毒物を排泄する機能 (他の機能もあるが海水とは関係なさそうなので省略)。 鉱物食は果実食の鳥と関連があってナトリウム補給の意味がある研究が増えてきているとの記述がある。 ハト類での研究例として Sanders and Koch (2018) Band-Tailed Pigeon Use of Supplemental Mineral が挙がっている。この研究ではオビオバト Patagioenas fasciata 英名 Band-tailed Pigeon を実験に用いているがカルシウムよりもナトリウムを求めているとのこと。例えば卵にはそれなりの量のナトリウムが含まれるので果実食の鳥では食物以外に補助的なナトリウム源が必要である。 水分とカリウムの多い果実では水を大量に排泄するためその時にもナトリウムが失われる。ピジョンミルクを与える際にもナトリウムが失われる。 オビオバトの場合はナトリウムを求めてやってくるとのことで冬にも少ないが観察事例がある。この論文では特に卵やピジョンミルクにナトリウムが必要と考えている。 この研究の中でバードリサーチのアオバトのページ Japanese Green Pigeon [Bird Research News Vol. 8 No. 9 Osaka et al. (2011) 英文] への言及があり、オビオバトの状況と同様と考えられるが大磯のアオバトでは冬には海水を飲む行動は観察されないとのこと。
      [その他] Siebold の読み方は多少注意が必要かも知れない。学名の発音は上記でよいと考えられるが、人名を表記する場合標準ドイツ語だとジーボルトとなる。wikipedia日本語版によればオランダ国籍で入国しており、出身地方言での発音も濁音にならないことが多いそうで、日本語表記は通常使われるシーボルトとした。 ドイツ語ではジーボルトと読まれているだろう。文字から発音がわかるロシア語でも濁音で記載されている。
  • ズアカアオバト
    • 学名:Treron formosae (トゥレロン フォルモサエ) 台湾のハト(分類によって非常に大きいハト)
    • 属名:treron (合) ハト (treron, treronos ハト < treo 怖がって逃げる Gk)
    • 種小名:formosae (属) 台湾の (formosa 台湾 < ポルトガル語で Ilha Formosa 美しい島 と名付けられた)
    • 英名:Whistling Green Pigeon, IOC: Ryukyu Green Pigeon (備考参照)
    • 備考:IOC では独立種 Treron permagnus (per- 非常に magnus 大きい) 英名 Ryukyu Green Pigeon とされ、Treron formosae 英名新称 Taiwan Green Pigeon に分離された (将来別種とされるならば和名はタイワンズアカアオバトが過去に使われている)。 世界の主要リストでは IOC は 11.2 以降、HBW/BirdLife はこの分類を採用。Clements、Howard and Moore は Treron formosae の亜種としている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では後者の扱い。IOC の扱いではそれぞれ2亜種、2種を分離しない扱いでは4亜種となる。 日本で記録される亜種は permagnus [IOC の扱いでは Ryukyu Green Pigeon の基亜種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)の和名では亜種ズアカアオバト。過去には亜種リュウキュウズアカアオバトとも呼ばれていた] と medioximus (中央にある) チュウダイズアカアオバト とされる。後者は IOC 扱いでは Ryukyu Green Pigeon の亜種。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではタイワンズアカアオバトを検討亜種として扱っている。 和名ズアカアオバトの由来は後述。日本で記録される(亜)種は頭が赤くないので、IOC の分類に従えば現在の和名が特徴に一致しなくなる可能性が残る。
      [ハト類の系統分類] Nowak et al. (2019) A molecular phylogenetic analysis of the genera of fruit doves and their allies using dense taxonomic samplingが分子遺伝学的研究を行っている。これによれば日本のアオバトもサンプルに入っているが、ズアカアオバトは入っていない。Treron属の独立性はこの論文の系統樹からは問題なさそうであるが、日本周辺の関連種がサンプルされていないのでそれらとの関係はわからない。 アフリカの種類である Turtur属と Oena属も統合される可能性がありそうである。Treron属とこれらのグループを含めて "fruit pigeons and doves" または "fruit doves" と呼ばれ、かつては亜科 Treroninae (おそらくアオバト亜科) をなすとされていたが、 遺伝系統研究で範囲が広がり先取権の原則から亜科 Raphinae (絶滅種ドードー Raphus cucullatus を含む) と呼ぶのが適当とされている (ドードー亜科、かつては独立科とされてドードー科だった。wikipedia日本語版の出典はやや古いので、この2019年論文を参考にするのがよさそうである)。 もしこの分類階層を加えて記述すれば「ドードー亜科アオバト属」のようになる。これはこれで面白いであろう。どのぐらい過去の絶滅種まで現代の分類に取り入れるかは議論があるのかも知れないが、世界の主要リストはドードーを含めている。eBirdでももし万一観察できれば報告できる扱いになっているのではないかと思われる。 系統樹はまたハト類の他の属の位置づけに問題がある可能性を示している。他の文献などををよく調べたわけではないが、Streptopelia属 (キジバト属) とColumba属 (カワラバト属) は系統樹上で区別できない可能性がある。もう少し研究が進めばキジバト属はカワラバト属に統一されるかも知れない。これらはこの文献では亜科 Columbinae (カワラバト亜科?) に属する。 日本ではほとんど記録されないがPtilinopus属 (ヒメアオバト属) は単系統でハト類中でも大きなグループをなすことがわかる。これも"ドードー亜科"に含まれる。
      Xu et al. (2021) は分子遺伝学的には Treron属はあまり研究されていないと述べ、ハシブトアオバト Treron curvirostra 英名 Thick-billed Green-Pigeon のミトコンドリアゲノムを解読したものが最初としている The mitochondrial genome and phylogenetic characteristics of the Thick-billed Green-Pigeon, Treron curvirostra: the first sequence for the genus で、Treron属と Hemiphaga属 (ニュージーランドバトともう1種) と類縁関係にあることが示された。 Chen et al. (2022) が オナガアオバト Treron sphenurus 英名 Wedge-tailed Green-Pigeon を同様に調べて同様の結論を得ている: Complete mitogenome of Treron sphenurus (Aves, Columbiformes): the first representative from the genus Treron, genomic comparisons and phylogenetic analysis of Columbidae。 この2論文は (日本には分布しないが) アジアの種を扱っている点は貴重である。しかし Nowak et al. (2019) をよく研究したものかどうかは疑問である。 音声的にも Ryukyu Green Pigeon と Taiwan Green Pigeon の間にそれほど違いがあるわけではないようである。同種にするか別種にするかは現代的なレベルの根拠のない段階で、どちらを採用するのがより適当かまでは議論できないようである。
      [和名の由来] コンサイス鳥名事典では (当時の分類で) フィリピン産の亜種 T. f. australis は頭頂部が明るい赤銅色で、和名はそれに由来すると述べられている。しかしこの亜種名は現代の分類ではマダガスカルの Treron australis の名称であり、Treron formosae の亜種には出てこない(filipinus はある)。詳しい経緯を確認できなかった。またアオバトとズアカアオバトを含めて Sphenorus属とすることもあったとの記載があった。
  • クロアゴヒメアオバト
    • 学名:Ptilinopus leclancheri (プティリノプス レクランケルリ) ルクランシェールの足に羽毛のある鳥
    • 属名:ptilinopus (合) 羽毛のある足 (ptilo 羽毛 pous 足 Gk)
    • 種小名:leclancheri (属) Charles Rene Augustin Leclancher (フランスの外科医、博物学者、探検家) の
    • 英名:Black-chinned Fruit Dove (= IOC, or) Leclancher's Dove
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。4亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは taiwanus (台湾の) とされる。
  •  アビ目 GAVIFORMES アビ科 GAVIDAE 

  • アビ
    • 学名:Gavia stellata (ガウィア ステッラータ) 星斑のある海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:stellata (adj) 星をちりばめた (stellatus)
    • 英名:Red-throated Diver, IOC: Red-throated Loon
    • 備考:単形種。英名 loon の由来は古英語 lumme、スウェーデン語 lom、スカンジナビア語 lum などが候補になっている。不具の、ぎこちないなどの意味で、陸上での動作を表したものであろう (wikipedia英語版)。loon がアメリカ英語、diver がイギリス英語の呼称。 属名の gavia はラテン語でミコアイサを指すとのことで、白と黒で潜って魚を採る海鳥を古代ローマの人たちは区別していなかった可能性がある。 アビ類は18世紀までカモ類に分類されていて初期の博物学者は mergus (#カワアイサ参照) または colymbus (未同定の水鳥でカイツブリか? The Key to Scientific Names) と呼んでいた (wikipedia英語版 Gavia 項目参照)。#ハシグロアビの備考も参照。 ここでは属名の解釈は The Key to Scientific Names に従って「未同定の海鳥」とした。 ロシア語名では gagara と声にちなんでわかりやすい。ドイツ語 Eistaucher (氷の潜水士)、ノルウェー語、スウェーデン語では islom で氷と上記 lom の合成。スペイン語では colimbo と colymbus が残っている。
  • オオハム
    • 学名:Gavia arctica (ガウィア アルクティカ) 北極の海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:arctica (adj) 北極の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Black-throated Diver, IOC: Black-throated Loon
    • 備考:2亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは viridigularis (viridis 緑の gularis のどの) とされる。
  • シロエリオオハム
    • 学名:Gavia pacifica (ガウィア パキフィカ) 太平洋の海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:pacifica (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Pacific Diver, IOC: Pacific Loon
    • 備考:単形種
  • ハシグロアビ
    • 学名:Gavia immer (ガウィア イムメル) ハシグロアビ
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:immer (外) ハシグロアビ ノルウエー語
    • 英名:Great Northern Diver (or) IOC: Common Loon
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。 記載時は属名 Colymbus が使われており、この属はアビ類の他にカイツブリ類も含んでおり、動物命名法国際審議会が Gavia属をアビ類に与えた1956年まで使われていた。 種小名の immer (ノルウエー語より) に近い他言語名はアイスランド語の himbrimi があり、語源をたどるとスウェーデン語 immer/emmer (灰) に、あるいはラテン語 immergo (浸す) または immersus (沈んだ) に由来する可能性があるとのこと (wikipedia英語版より)。ドイツ語の immer (常に) と同じ綴りであるが語源の関連性はないようである。 普通に使われる単語ではないようだが英語 immer もアビ類を指す。
      Young Guns (2017) Birder 31(2): 44-47 にハシジロアビとハシグロアビの識別が出ている。 Common Loon の英名が示すように世界的にはハシグロアビが普通種で、ハシジロアビよりもデータはずっと豊富にあるが、日本ではハシグロアビの方がずっとまれ。
  • ハシジロアビ
    • 学名:Gavia adamsii (ガウィア アダムシイ) アダムスの海鳥
    • 属名:gavia (f) 未同定の海鳥で岩場に営巣するカモメの一種か
    • 種小名:adamsii (属) アダムスの (ラテン語化して -iusを属格化) 発見者、英国の船医 Edward Adams
    • 英名:White-billed Diver, IOC: Yellow-billed Loon
    • 備考:単形種
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFOMES アホウドリ科 DIOMEDEIDAE 

  • コアホウドリ
    • 学名:Phoebastria immutabilis (ポエバストゥリア イムムタビリス) 色の変わらない女性の予言者のような鳥
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:immutabilis (adj) 不変の。一旦成鳥の羽衣になるとすぐに区別できるようになるため (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Laysan Albatross (ハワイ北西部レイサン島の)
    • 備考:単形種
  • クロアシアホウドリ
    • 学名:Phoebastria nigripes (ポエバストゥリア ニグリペス) 足の黒いアホウドリ
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:nigripes (adj) 足の黒い (niger (adj) 黒い pes (m) 足)
    • 英名:Black-footed Albatross
    • 備考:単形種。 気候変動の影響を大きく受けている種。These animals are racing towards extinction. A new home might be their last chance (Nature のニュース 2023)。 ハワイのクロアシアホウドリの移住が行われている。海水面に近いコロニーではすでに海面上昇と嵐によって多数のコロニーが失われている。 同じニュースで扱われているオーストラリアの希少カメの場合について、科学者や保護団体には悩みもある。移住はほとんど最後の手段であり、費用もかかりリスクもある。移住が行われるカメの場合は (現時点で) 冷涼な気候で繁殖できるか未知の点がある。生育に非常に時間がかかるので成否が出るまでに (生息地の消失は危急の課題にもかかわらず) 長い年月を要する。
  • アホウドリ (センカクアホウドリ がこれまでの学名を引き継ぐ予定。学名未定のもう一種がアホウドリ)
    • 学名:Phoebastria albatrus (ポエバストゥリア アルバトゥルス) アホウドリ
    • 属名:phoebastria (f) 女性の予言者のような鳥 (phoebastris (adj) 予言者のような -ia (接尾辞) 質を表す phoebas (f) 女性の予言者)
    • 種小名:albatrus (合) アホウドリ (Albatros アホウドリ 独)
    • 英名:Short-tailed Albatross
    • 備考:日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で2種に分離され、Phoebastria albatrusセンカクアホウドリ、もう一種は学名未定の和名アホウドリとなる見込み。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対してこの提案が出されていたが、その段階ではどちらが Phoebastria albatrus を引き継ぐか不明であったため保留とされた。 江田・樋口 (2012) 危急種アホウドリ Phoebastria albatrus は2種からなる!?、Eda et al. (2020) Cryptic species in a Vulnerable seabird: short-tailed albatross consists of two species、 Yamasaki et al. (2022) Neotype designation of the Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus (Pallas, 1769) (Aves: Procellariiformes: Diomedeidae) タイプ標本が失われているためかつて記載された Phoebastria albatrus がどちらを指すかわからなくなっていた。ここでネオタイプ標本を提示し、尖閣諸島で繁殖するより小型種を Phoebastria albatrus と再定義した。 鳥島などのより大型のもう1種については albatrus のシノニムから選ばれると思われるが、まだ確定できるまで(文献)調査が進んでいないということであろう)。尖閣グループの鳥は鳥島も少数訪れるが行動も異なり、自身と同じグループの個体とつがいになるのを好むとのことである [Eda et al. (2016) Assortative mating in two populations of Short-tailed Albatross Phoebastria albatrus on Torishima。 江田 (2021) Birder 35(6): 34-35 に「アホウドリは2種いると解明!」の記事がある。
      Royle et al. (2022) Documenting the short‐tailed albatross (Phoebastria albatrus) clades historically present in British Columbia, Canada, through ancient DNA analysis of archaeological specimens はカナダのブリティッシュコロンビアの古生物標本を調べ、鳥島グループ (Clade 1) が乱獲以前の過去にはずっと訪れていたが、少数は尖閣グループ (Clade 2) に属することを示した。両グループ (新分類では種) の分布は乱獲前においても違っていたことを意味する。 英名も修正されると思われる。
      日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版に対して和名「オキノタユウ」への改名を求める意見も出されたが、変更した場合への影響が大きいと考えられるため変更しないとの見解になった (詳しくは原文参照)。不適切名称の改名の事例については#クロハゲワシの備考 [ハゲワシ類の名称や迫害、改名] も参照。 天然記念物。絶滅危惧II類 (VU)。IUCN 3.1 VU種。
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFORMES ミズナギドリ科 PROCELLARIIDAE 

  • フルマカモメ
    • 学名:Fulmarus glacialis (フルマルス グラキアリス) 氷の臭いカモメ
    • 属名:fulmarus (合) 臭いカモメ (Fulmar 古ノルド語で臭いカモメ; 英語の foul mew に対応)
    • 種小名:glacialis (adj) 氷の (glacies (f) 氷 -alis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Fulmar (or) IOC: Northern Fulmar
    • 備考:種小名「氷の」はこの種の場合スピッツベルゲン島を指す。3亜種(IOC)あり、日本で記録されるものはベーリング海近くに分布する rodgersii (アメリカ軍人で探検家の John Rodgers 由来)。属名の由来はミズナギドリ科の構成種は本種に限らず危険を感じると口から液体を吐き出す防御行動を取ることに由来する (wikipedia日本語版)。
      Fulmarus属 (フルマカモメ属) は Northern Fulmar と Southern Fulmar Fulmarus glacialoides (ギンフルマカモメ、南半球南部の大陸沿岸から南極大陸沿岸にかけて分布)の2種のみ。姿はカモメ類に似ているが、系統的にはかなり異なり、ミズナギドリ目に属する。
      [におう鳥のリスト] 珍しい研究として Weldon and Rappole (1997) がアンケート調査によって (さまざまな意味で) においが感じられる、あるいは毒気を感じる (触れない) 鳥のリストを挙げている: A Survey of Birds Odorous or Unpalatable to Humans: Possible Indications of Chemical Defense。これは鳥類におけるにおい物質による化学防御やコミュニケーションの役割を考えるのに役立つ。 アンケートに応じた鳥類学者も好意的な反応で、常日頃知りたい、あるいは情報を残しておきたいと思いつつももまとまった研究がなかったので興味津々だったのかも知れない。 新世界カッコウの仲間の Ani (Crotophaga) は集団でいると数m離れていてもわかるぐらいだそうである。フルマカモメはもちろん、ツメバケイ、ヤツガシラのような有名な種も含まれている。 スズメ目ではムクドリモドキ (grackles, Quiscalus) はだいたいにおう。アンチルクロムクドリモドキ (Greater Antillean Grackle Quiscalus niger) は足がにおうとの報告があり、におい物質は尾脂腺由来と一般に考えられているのと異なる。オウム類は一般にもよく知られている通りで、この調査でもたくさん見つかっている。 新世界ハゲワシは嗅覚が優れているが、多くの人がにおいを報告している。死体のようなにおいがするのでハゲワシの肉は他のスカベンジャーも食べようとしないとされる。しかし旧世界ハゲワシはそうではない。 ミサゴ (これは救助個体などでよく知られている。#ミサゴの備考参照) とカラカラもにおう方に入っている。 同著者による Weldon (2023) Chemical aposematism: the potential for non-host odours in avian defence 化学防御のレビュー論文があり、さまざまな種類の鳥での分泌物質研究やカや寄生虫の防御などの情報がまとめられている。エトロフウミスズメやヤツガシラなどの分泌物質などもレビューされている (#エトロフウミスズメ#ヤツガシラの備考参照)。
      キツツキの仲間で Hemicircus属は腺でなく、背中のヒゲのような特殊な羽 (fat quill) からにおいを出す脂肪分を分泌している。Bock and Short Jr. (1971) "Resin Secretion" in Hemicircus (Picidae) が調べたところでは分泌している皮脂腺は見当たらなかった。 尾脂腺以外の鳥の皮膚からの分泌については、Menon and Menon (2000) Avian Epidermal Lipids: Functional Considerations and Relationship to Feathering によれば、鳥には尾脂腺以外の皮脂腺は知られていないが、皮膚に脂肪が含まれていて分泌される例もある (ニワトリのとさか、指の間の水かきなど)。脂肪を出して皮膚を防水するよりは水分蒸発で体を冷やす機能の方を優先している (皮膚が水分をよく通すことで高い体温を逃したり飛翔時に体を冷やすのに役立つ)。 毒鳥 (Pitohui) の分泌も皮膚機能の一つ。 皮膚からの色素分泌については#トキの備考も参照。
      Haeglin and Jones (2007) Bird Odors and Other Chemical Substances: A Defense Mechanism or Overlooked Mode of Intraspecific Communication? によればにおう鳥のすべてが尾脂腺を持っているわけではない。エトロフウミスズメも、フルーツのような甘い香りのするニュージーランドの飛べないオウムのフクロウオウム (カカポ) Strigops habroptila も尾脂腺から出たばかりの分泌物は人にはにおいを感じられなかったとのこと。 オウム類のいわゆる「インコ臭」では粉綿羽が役割を果たしている可能性がある。 なおオウム類と系統の近いハヤブサ類もオウム類ににおいが似ているとの記述がある ["Where Song Began" #ミサゴの備考も参照]。 海鳥類の (無臭の) 分泌物が細菌で分解されて酸やアルコールのにおい成分となっている可能性がある。 この研究の時点ではヤツガシラ類の悪臭が自然の天敵を遠ざける効果がある実験的検証はまだなされていなかったが、ネコなどに効果のある試験的データはあるとのこと。 哺乳類捕食者のいない島では強いにおいを持つ傾向があり (前述のカカポも同様。カカポは嗅覚遺伝子数も多く667とのこと)、ハワイミツスイ類 (Drepanidinae) ではほとんどの種の羽毛ににおいがある (wikipedia英語版ではキャンバステント (canvas tent) のようなにおいがあるとのことで分類の系統にも関連があるらしい。 Pratt (1992) Is the Poo-uli a Hawaiian Honeycreeper (Drepanidinae)? では実際にさまざまな標本を使ってにおいを調べて、属の根拠としている。袋に入れて見えないようにしても区別できるという。著者によれば同様のにおいを持つ新世界スズメ目、特にヒワ亜科の標本はなかったとのこと。解剖学的分類中心の時代では一番有力な分類手段でもあったとのこと。
      コンサイス鳥名事典によれば南米のトキイロコンドル Sarcoramphus papa King Vulture は食後は悪臭がするが、ほかの時はジャコウの香りがするとのこと。 wikipedia英語版によれば捕食者を遠ざけるために巣に悪臭があるとのこと。
      Haeglin and Jones (2007) に戻ると鳥類学者は3種の化学受容 (嗅覚、味覚、三叉神経システム) をあまり区別してこなかった。嗅覚の研究は比較的あるが他は少ない。 鳥類はヒト同様鋤鼻器 (vomeronasal organ 別名ヤコブソン器官 Jacobson's organ) を持たないのでフェロモンの役割は限られていると考えられてきたが神経端末は存在するのでフェロモンを感じる役割が否定されるわけではない。 尾脂腺の分泌は CD1 遺伝子が制御している可能性が指摘されており、これは MHC (major histocompatibility complex 主要組織適合遺伝子複合体) の祖先遺伝子にあたるので鳥類でもヒトでも嗅覚コミュニケーションはこれまで見過ごされた役割を持つかも知れない。
      鳥のにおい/嗅覚の話は最近少し注目を浴びているようで、こんな本も出ている。Whittaker (2022) "The Secret Perfume of Birds" (あるいは訳本が出ないかと期待しているが...)。 関連講演の YouTube 動画もある。 Feb 13, 2023 Secret Perfume of Birds Danielle Whittaker
  • ハジロミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma solandri (プテロドゥロマ ソランドゥルイ) ソランデルの翼で走る鳥
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:solandri (属) solander の (スウェーデンの植物学者 Daniel Carl Solander、Linnaeus の弟子)
    • 英名:Providence Petrel
    • 備考:単形種。 英語の petrel の語源はおそらく Peter の指小形で、Saint Peter (ペトロ) が海の上を歩いたとの伝説に由来する (Matthew 14:29, wiktionaryより)。 フランツ・リストの音楽に「波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ」(St. Francois de Paule marchant sur les flots) という曲があり、「あなたは聖人だからキリストのように歩いて海の上を渡れるはずだろう」と船頭に言われ、船を出すのを断られた聖フランシスは、自分のマントと杖を筏 (いかだ) のように使い、メッシナ海峡を歩いて渡ったという」(「クラシックばっか 時空間」より)。 この曲は「2つの伝説」という2曲のうちの一つで、もう一つが「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」(St. Francois d'Assise: la predication aux oiseaux) と鳥が出てくるので紹介しておく。鳥の声を表現しているが特に何かを模した感じではない。 ピアノ曲としては前者が秀逸でよく演奏されるので、鳥には関係ないかも知れないが例えば petrels が波間に飛ぶの姿でも思い出していただきながら演奏ビデオを見ていただけるとよいだろう。クラシック音楽に関心のない方でも十分堪能していただける曲だと思う。 脱線ついでに紹介しておくと、邦楽で「新曲浦島」(坪内逍遥作、5世杵屋勘五郎・13世杵屋六左衛門作曲の長唄 1904。1906初演) がある。当時は洋楽も日本に入っており、西洋音楽を取り入れた要素も多くある。嵐の海を表現している点で上記リストの音楽とも共通するところがある。日本舞踊付きの舞台のビデオもYouTubeに掲載されており、海外の方に紹介すると大変喜ばれる。
  • オオシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma externa (プテロドゥロマ エクステルナ) 遥か彼方のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:externa (adj) 外の (externus)
    • 英名:Juan Fernandez Petrel (チリ沖合いのファン・フェルナンデス諸島由来)
    • 備考:Mas a Fuera 島で発見され、これはスペイン語で「遥か彼方」の意味 (The Key to Scientific Names)。現在は単形種。 かつてはクビワオオシロハラミズナギドリ (日本鳥類目録改訂第8版で掲載予定。改訂第7版では検討種だがすでに別種扱いとなっていた) が亜種とされていた。 そのため和名オオシロハラミズナギドリに相当するかつての英名は White-necked Petrel だった。 現在はこの英名はクビワオオシロハラミズナギドリを指すものとなっている。
  • カワリシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma neglecta (プテロドゥロマ ネグレクタ) 無視されたミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:neglecta (adj) 無視された (neglectus)
    • 英名:Kermadec Petrel (ケルマディック諸島の)
    • 備考:IOCでは2亜種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明。
  • ハワイシロハラミズナギドリ (分割で日本産学名も変わる予定)
    • 学名:Pterodroma phaeopygia (プテロドゥロマ パエオピュギア) 灰色の腰のミズナギドリ (新学名ではサンドウィッチ伯爵のミズナギドリ)
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:phaeopygia (合) 灰色の腰の鳥 (phaios 灰色の -pugios 腰の Gk)
    • 英名:Hawaiian Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Pterodroma sandwichensis となる。John Montagu 4th Earl of Sandwich (第4代サンドウィッチ伯爵、英国の貴族・政治家。料理の「サンドウィッチ」も同語源) に由来。 Pterodroma phaeopygia (現在ガラパゴスシロハラミズナギドリ、Galapagos Petrel) の亜種から独立種となる。新分類で単形種。ガラパゴスシロハラミズナギドリとハワイシロハラミズナギドリとは海上で識別不能と言われる。
  • マダラシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma inexpectata (プテロドゥロマ イネックスペクタータ) 思いがけないミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:inexpectata (adj) 思いがけない [inexpectatus; Foster (1844) が記述の際に (猟師が) 思いがけない新種の喜びをもたらしたとした (The Key to Scientific Names)]
    • 英名:Mottled Petrel
    • 備考:単形種
  • ハグロシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma nigripennis (プテロドゥロマ ニグリペンニス) 黒い翼のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:nigripennis (adj) 黒い翼の (niger (adj) 黒い pennis (f) 羽 翼)
    • 英名:Black-winged Petrel
    • 備考:単形種
  • シロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma hypoleuca (プテロドゥロマ ヒュポレウカ) 腹が白いミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:hypoleuca (合) 下部が白い (hypo- (接頭辞) 下の leukos白い Gk)
    • 英名:Bonin Petrel (bonin 無人、小笠原諸島)
    • 備考:単形種
  • ヒメシロハラミズナギドリ
    • 学名:Pterodroma longirostris (プテロドゥロマ ロンギロストゥリス) 長い嘴のミズナギドリ
    • 属名:pterodroma (合) 翼で走るもの (phtero 羽 翼 dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:longirostris (adj) 長い嘴の (longus (adj) 長い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Stejneger's Petrel (ノルウェー生まれの鳥類学者 Leonhard Stejneger にちなむ)
    • 備考:単形種
  • オオミズナギドリ
  • オナガミズナギドリ
    • 学名:Puffinus pacificus (プッフィヌス パキフィクス) 太平洋のツノメドリのような鳥/ミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリのような鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:pacificus (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Wedge-tailed Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属 (ダイオミード諸島の鳥の名前、ベーリング海峡の中間にあたる; ardenna, artenna ミズナギドリのイタリア語方言の説もある) に分離。Ardenna pacifica となる。 以下の備考の Ardenna属について、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同様。Ardenna属はハシボソミズナギドリ属となる。 Reichenbach (1853) が用いた名称で、Ardenna gravis ズグロミズナギドリ (英名 Great Shearwater) がタイプ種。オナガミズナギドリは IOC では単形種だが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種 cuneata (楔形の) としている。この亜種を認めているのは世界ではアメリカ鳥学会など少数。 海鳥類の分子系統樹は Obiol et al. (2022) Palaeoceanographic changes in the late Pliocene promoted rapid diversification in pelagic seabirds を参照。この研究ではオナガミズナギドリに最も近縁な種類はミナミオナガミズナギドリと判明し、superspecies を形成するとされる。
  • ミナミオナガミズナギドリ
    • 学名:Puffinus bulleri (プッフィヌス ブルラーイ) ブラーのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:bulleri (属) buller の (ニュージーランドの法律家で鳥類学者の Walter Lawry Buller に由来)
    • 英名:Buller's Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。
  • ハイイロミズナギドリ
    • 学名:Puffinus griseus (プッフィヌス グリセウス) 灰色のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:griseus (adj) 灰色の
    • 英名:Sooty Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。Ardenna grisea となる。単形種。
  • ハシボソミズナギドリ
    • 学名:Puffinus tenuirostris (プッフィヌス テヌイロストゥリス) 細い嘴のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:tenuirostris (adj) 細い嘴の (tenuis (adj) 細い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Short-tailed Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。
  • シロハラアカアシミズナギドリ
    • 学名:Puffinus creatopus (プッフィヌス クレアトプス) 肉色の足のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:creatopus (合) 肉色の足の (kreas, kreos 肉、pous足 Gk)
    • 英名:Pink-fooded Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。 矢吹・森岡 (2009) Birder 24(3): 51-52 に銚子沖での日本初のシロハラアカアシミズナギドリの記録が掲載され、この属 (新分類では Ardenna属) の識別についての記述・考察がある。
  • アカアシミズナギドリ
    • 学名:Puffinus carneipes (プッフィヌス カルネイペス) 肉色の足のミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:carneipes (adj) 肉色の足の (carneus (adj) 肉の pes (m) 足)
    • 英名:Flesh-footed Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardenna属。種小名は変化なし。単形種。
  • コミズナギドリ
    • 学名:Puffinus nativitatis (プッフィヌス ナティウィタティス) クリスマス島生まれのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:nativitatis (属) 起源の (nativitas -atis (f) 起源)
    • 英名:Christmas Shearwater (クリスマス島の)
    • 備考:Ardenna属の分離に伴い、Puffinus属はハイイロミズナギドリ属からセグロミズナギドリ属に改名予定だが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では和名検討中とのこと (セグロミズナギドリそのものは日本産鳥類から外れる。#セグロミズナギドリ/オガサワラミズナギドリの備考参照)。単形種。
      種小名は「生まれの」(英語 native に相当)。Capt. James Cook が 1777年のクリスマスイブに訪れたためクリスマス島と名前が付いた太平洋の島が由来 (The Key to Scientific Names)。 この由来は英名によく表れている。
  • マンクスミズナギドリ (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Puffinus puffinus (プッフィヌス プッフィヌス) ツノメドリのような鳥
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:puffinus (トートニム)
    • 英名:Manx Shearwater (マン島の)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版で検討種に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。世界的には2亜種ある(IOC)が、日本鳥類目録では亜種の記載はない。
  • ハワイセグロミズナギドリ
    • 学名:Puffinus newelli (プッフィヌス ニュウェルイ) ニュウェルのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:newelli (属) newellの (命名者 ハワイの宣教師 Matthias Newell)
    • 英名:Newell's Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • セグロミズナギドリ (オガサワラミズナギドリとなる見込み)
    • 学名:Puffinus lherminieri (プッフィヌス ルヘルミニアーイ) レルミニアーのミズナギドリ/バンナーマンのミズナギドリ
    • 属名:puffinus (合) ツノメドリに似た鳥 (puffin ツノメドリ 英、-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 種小名:lherminieri (属) L'herminier の (フランスの薬剤師 Felix Louis l’Herminier)
    • 英名:(Audubon's Shearwater), IOC: Bannerman's Shearwater
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Puffinus bannermani オガサワラミズナギドリ (英名 Bannerman's Shearwater)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名はスコットランドの鳥類学者 David Armitage Bannerman に由来。川上他(2019) 日本鳥類目録におけるセグロミズナギドリ和名変更の提案; 参考記事。 英名の Audubon's Shearwater は日本鳥類目録改訂第7版まで Puffinus lherminieri に含まれていた時期のもの。新分類ではセグロミズナギドリ Puffinus lherminieri (英名: Audubon's Shearwater) とオガサワラミズナギドリ Puffinus bannermani (英名: Bannerman's Shearwater) に区別されることになり、前者は日本産鳥類から外れる。単形種。
  • オガサワラヒメミズナギドリ
  • アナドリ
    • 学名:Bulweria bulwerii (ブルウェリア ブルウェリイ) ブルウァーの鳥
    • 属名:bulweria (合) bulwerの鳥 (-ia (接尾辞) 人名の属名化に使用する)
    • 種小名:bulwerii (属) bulwerの (ラテン語化して -iusを属格化) 発見者 マデイラ島 (クロコシジロウミツバメも参照) 在住のスコットランドの牧師、博物学者 Revd. James Bulwer に由来。
    • 英名:Bulwer's Petrel
    • 備考:単形種
  •  ミズナギドリ目 PROCELLARIIFORMES ウミツバメ科 HYDROBATIDAE 

  • アシナガウミツバメ
    • 学名:Oceanites oceanicus (オケアニテス オケアニクス) 大洋の鳥
    • 属名:oceanites (合) 大洋の鳥 (oceanus -i (m) 大洋、-tes (接尾辞) 〜するもの Gk)
    • 種小名:oceanicus (adj) 大洋の (oceanus -i (m) 大洋 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Wilson's Storm Petrel
    • 備考:3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは exasperatus (苛立たしい) とされる。亜種の語源は、記載者が過去の標本の計測値が過去に記載された名前の特徴と合致しないため、本来は別名を付けるつもりではなかったのではないかと考えたため (The Key to Scientific Names)。
  • クロコシジロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma castro (オケアノドゥロマ カストゥロ) 大洋を走る (新学名で水を歩く) 鳥カストロ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:castro (外) カストロ [マデイラ諸島での呼び名、鳥の声を変化させた呼び名との考えがある (The Key to Scientific Names)]
    • 英名:Madeiran Storm-petrel, IOC: Band-rumped Storm Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属 (hudro- 水を bates 歩く Gk)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でオーストンウミツバメ属の名前が与えられている。種小名は変化なし。単形種。
  • ヒメクロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma monorhis (オケアノドゥロマ モノリス) 鼻孔が一つのウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:monorhis (合) 鼻孔が一つ (mono- (接頭辞) 一つのris鼻 Gk)
    • 英名:Swinhoe's Storm Petrel (英国博物学者 Robert Swinhoe に由来)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。
  • コシジロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma leucorhoa (オケアノドゥロマ レウコロア) 腰の白いウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:leucorhoa (合) 白い腰の (leucorrhoea -ae (f) 白帯下)
    • 英名:Leach's Storm-Petrel (英国動物学者 William Elford Leach による)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。学名は Hydrobates leucorhous となる。2亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 leucorhous とされる。
  • オーストンウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma tristrami (オケアノドゥロマ トゥリストゥラムイ) トリストラムのウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:tristrami (属) tristramの
    • 英名:Tristram's Storm-Petrel (英国の聖職者 Henry Baker Tristram による)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。和名はアラン・オーストン (Alan Owston) 由来でもとは Cymochorea owstoni。現在はシノニムとなったが和名は維持された [川田 (2016) アラン・オーストン基礎資料]。単形種。
  • クロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma matsudairae (オケアノドゥロマ マツダイラエ) 松平のウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:matsudairae (属) 松平頼孝の (matsudaira -ae) 発見者
    • 英名:Matsudaira's Storm Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。
  • ハイイロウミツバメ
    • 学名:Oceanodroma furcata (オケアノドゥロマ フルカータ) 叉木状の尾のウミツバメ
    • 属名:oceanodroma (合) 大洋を走るもの (okeanos大洋 dromeas走るもの Gk)
    • 種小名:furcata (adj) 叉木状の (furca (f) 叉木 -tus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 英名:Fork-tailed Storm Petrel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hydrobates属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。学名は Hydrobates furcatus となる。2亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 furcata とされる。
  •  コウノトリ目 CICONIIFORMES コウノトリ科 CICONIIDAE 

  • ナベコウ
    • 学名:Ciconia nigra (キコニア ニグラ) 黒いコウノトリ
    • 属名:ciconia (f) コウノトリ
    • 種小名:nigra (adj) 黒い (niger)
    • 英名:Black Stork
    • 備考:単形種
  • コウノトリ
    • 学名:Ciconia boyciana (キコニア ボイシアナ) ボイスのコウノトリ
    • 属名:ciconia (f) コウノトリ
    • 種小名:boyciana (adj) Robert Henry Boyce (英国の調査官、上海でも仕事を行った) の (boyce (m) を形容詞化してboycianus 更に女性形にしてboyciana)
    • 英名:Oriental Stork
    • 備考:かつては シュバシコウ Ciconia ciconia 英名 White Stork の亜種とされた。分離され現在は単形種。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES グンカンドリ科 FREGATIDAE 

  • オオグンカンドリ
    • 学名:Fregata minor (フレガータ ミノール) 小さなフリゲート艦
    • 属名:fregata (外) fregate 敏捷で獰猛なグンカンドリ類のフランス航海者による名前 < fregate, frigate フリゲート艦 < fregata 伊 だが語源は不明
    • 種小名:minor (adj) 小さい
    • 英名:Great Frigetebird
    • 備考:5亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 minor とされる。
  • コグンカンドリ
    • 学名:Fregata ariel (フレガータ アリエール) 空気の精のグンカンドリ
    • 属名:fregata (外) fregate 敏捷で獰猛なグンカンドリ類のフランス航海者による名前 < fregate, frigate フリゲート艦 < fregata 伊 だが語源は不明
    • 種小名:ariel (外) 中世伝承で空気の精 (遡ると神のライオン ヘブライ語 に由来?)
    • 英名:Lesser Frigatebird
    • 備考:3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 ariel とされる。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES カツオドリ科 SULIDAE 

  • アオツラカツオドリ
    • 学名:Sula dactylatra (スラ ダクテュラトゥラ) 指(羽の先)の黒いカツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:dactylatra (合) 指の黒い (dachtylo 指 Gk、ater (adj) 黒い) 初列風切が黒いことを意味する
    • 英名:Masked Booby
    • 備考:属名の sula はノルウエー語で古ノルド語の sula から来ている。sulao 盗む Gk あるいは souler ゲール語 に由来するとする説は誤り。 古ノルウエー語の sula または sulu は山岳部で現在も使われており、ツバメを意味するとのこと (The Key to Scientific Names) この単語はゲルマン祖語の swalwo に由来し、カツオドリとツバメはいずれも楔形の尾に由来する Kroonen の説があるが他説もあり (wiktionary)。 4亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは personata (仮面をかぶった) とされる。
  • アカアシカツオドリ
    • 学名:Sula sula (スラ スラ) カツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:sula (トートニム)
    • 英名:Red-fooded Booby
    • 備考:3亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは rubripes (ruber 赤い pes 足) とされる。
  • カツオドリ
    • 学名:Sula leucogaster (スラ レウコガステル) 白い腹のカツオドリ
    • 属名:sula (外) カツオドリ ノルウエー語
    • 種小名:leucogaster (合) 白い腹の (leuko- (接頭辞) 白い Gk、gaster (f) 腹)
    • 英名:Brown Booby
    • 備考:4亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは plotus (平らな足の) 亜種カツオドリ と brewsteri (アメリカ鳥類学者 William Brewster に由来) シロガシラカツオドリ とされる。
  •  カツオドリ目 SULIFORMES ウ科 PHALACROCORACIDAE 

  • ヒメウ
    • 学名:Phalacrocorax pelagicus (パラクロコラックス ペラギクス) 海の頭の白いワタリガラス (または新学名で海のウ)
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:pelagicus (adj) 海の (pelagus -i (n) 大海 -icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Pelagic Cormorant
    • 備考:Kennedy and Spencer (2014) の分子遺伝学研究 Classification of the cormorants of the worldによると Urile pelagicus となる。 #チシマウガラスの備考参照。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で採用され、ヒメウ属の和名が与えられている。 2亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 pelagicus とされる。
  • チシマウガラス
    • 学名:Phalacrocorax urile (パラクロコラックス ウリレ) 千島列島の頭の白いワタリガラス (新学名で千島列島のウ)
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:urile (合) 千島列島の
    • 英名:Red-faced Cormorant
    • 備考:Kennedy and Spencer (2014) の分子遺伝学研究 Classification of the cormorants of the world でウ類の系統が見直され、Urile属が提唱されている。Charles Lucien Bonaparte がチシマウガラスの種小名として用いた (1856) ものを属名に昇格。すなわちチシマウガラス (この分類でUrile urile) がタイプ種となる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版ではまだ採用されていなかったが、世界の多くのチェックリスト [IOC 11.2以降、HBW 2018以降、AOU 7th ed. (incl. 62nd suppl.)、eBird 2021以降] ですでに採用されており、wikipedia英語版にも反映されている。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で採用され、ヒメウ属の和名が与えられている。名称の由来は Steller (1774) によるカムチャツカでのチシマウガラスの名称からとある。ロシアの地方名由来で、おそらく千島列島を指したもの (The Key to Scientific Names)。wikipediaロシア語版によると地方名として Uril が挙げられている。単形種。
      #カワウの備考で英名について取り上げたが、この種はまさにその問題がある。形態を重視する英名では Red-faced Shag と呼ばれ、どちらも使われている。 チシマウミガラスと誤って書かれていることもあるので注意。こちらの方が日本語的には自然な感じがするので自分も間違っていたことがある。別名としてあるわけではなさそうである。
  • カワウ
    • 学名:Phalacrocorax carbo (パラクロコラックス カルボ) 炭のように黒い頭の白いワタリガラス
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:carbo (m) 炭
    • 英名:Common Cormorant, IOC: Great Cormorant
    • 備考: ユーラシア、オーストラリア、北大西洋沿岸に分布し、5亜種あるとされる(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)によれば日本で記録される亜種は hanedae (千葉県の地名「羽田」が由来。カワウの亜種では最も小型) 亜種カワウ と sinensis (中国の) シナカワウ (和名検討中) 、及び亜種不明とされる。
      英語 cormorant の語源はラテン語 corvus marinus (海のカラス) あるいはコーンウォール語 (Cornish language) で海の巨人を意味する Cormoran に由来すると考えられている英語で shag (冠羽のことを意味する)と呼ばれるものもウ類であるが、この2つの単語には厳密な区別はなく (例えば eagle と hawk 同様)、同じ種類を cormorant とも shag とも呼ぶことがあるそうである (wikipedia英語版)。
      Marion and Le Gentil (2006) (ウミウの備考参照) にカワウとウミウの関連の考察がある。亜種 sinensis は1500-1800年ごろにバルト海に進出し、本来のヨーロッパ亜種 carbo に次第に取って代わるようになった可能性がある。 ヨーロッパでは sinensis 1930-1960年ごろに個体数の大幅な減少を体験したとのこと。日本でも似た時期に個体数の減少があり1971年には全国3か所のコロニーに3000羽以下が残るのみとなったとのこと [福田他 (2002) 日本におけるカワウの生息状況の変遷]。 カワウの一時的な衰退は世界的現象だったのだろうか (この文献にもヨーロッパでの個体数変動への言及がある)。カワウを見るために遠くまで出かけた話は古い時代のバーダーからも聞くことがある。
      [ウの視力] 「鵜の目鷹の目」と言われるが、ウの視力が本当に良いのか調べた研究があった。White et al. (2007) Vision and Foraging in Cormorants: More like Herons than Hawks?。タイトルを見る限りでは西洋でもタカの目のようによいと考えられているのかもしれない。カワウの視力を調べると水中でゴーグルなしの人間の視力と大差なく、タカの目にははるかに劣るとのこと。 獲物は1mぐらいの距離でしか認識できないようで、視力で獲物を捕まえるよりも、捕食方法 [サギ型に近く、獲物を見つけて首を瞬時に伸ばす。 ウ類の頸椎数の多さ [20個、サギ類は18-20個; いずれもある文献によるが、Boehmer et al. (2019, #コブハクチョウの備考を参照) では ケルゲレンヒメウ Phalacrocorax verrucosus で17個、アオサギ16個とあるので数え方の違いの2個を加えればだいたい合っているようである - もこの捕食方法に適応したものか] を進化させることで効率よく獲物を獲っているとのこと。 解説付きのスライドもある。 Strod et al. (2004) Cormorants keep their power: visual resolution in a pursuit-diving bird under amphibious and turbid conditions では空中視力も調べられており他の鳥より低いとのこと。空中でも「鷹の目」ではなかった。ウが黒いのはあまりよくない視力でも同種を見つけやすくするためなのかも知れない。
      Borges et al. (2015) Gene loss, adaptive evolution and the co-evolution of plumage coloration genes with opsins in birds によれば色覚に関係する遺伝子ではカワウはフクロウと同じパターンになっていて、あるいは水中深いところでの暗所視に適応しているのかも知れない (ただし技術的な問題で検出できないものもあるとの記載もあり、遺伝子だけで語るのは危ないかも知れない。網膜の細胞の顕微鏡的研究や、行動実験で視力や色覚を調べる必要があるだろう)。 Hansen et al. (2017) Great cormorants (Phalacrocorax carbo) can detect auditory cues while diving によれば、カワウの水中聴力は意外に良く、アザラシやクジラなみであるとのこと。水中で獲物を獲るために聴覚が発達している可能性もある。空中での聴力もこれまで考えられていたよりよいそうである。 Gremillet et al. (2005) Cormorants dive through the Polar night によればグリーンランドで越冬するカワウは極夜でも潜って魚を獲るとのこと。しかも季節によって行動パターンはあまり変化しない (他の潜水性魚食の水鳥とは異なる)。(少なくとも極夜では) 触覚か聴覚に頼っている可能性があり調べる必要がある。 Gomez-Laich et al. (2015) Selfies of Imperial Cormorants (Phalacrocorax atriceps): What Is Happening Underwater?はズグロムナジロヒメウ (現在の学名は Leucocarbo atriceps) にカメラを付けて行動記録をしたもの。 やはり1m以内しか見ていないようで、追い出したものの動きを捉えて捕食しているらしい。移動時にハトの歩行時首振りと同様の動作が見られ、視覚に頼っていることは間違いない。しかし最も深く潜る時には光が届かないため視覚に頼れないと思われ、視覚以外の感覚を利用している可能性がある。
      熊田 (2012) Birder 26(7): 28-29 にもカワウが水中でどの距離まで見えているか、水中採食方法についての考察がある。 書物によっては潜水する鳥は瞬膜で調節して水中で物を鮮明に見ていると解説してあるものもあるが、これは誤りだそうである [Sivak et al. (1978) The refractive significance of the nictitating membrane of the bird eye]。
      [カワウを使った日本と中国の鵜飼] 日本でもカワウを使った鵜飼が水深の浅い九頭竜川、相模川で以前に行われていたとのこと (コンサイス鳥名事典)。 中国でカワウのことを魚鷹 (=ミサゴ) とも呼び、英訳されると osprey fishing という妙な表現になるが、これはミサゴに魚を捕らせるのではなく鵜飼のこと。 中国の鵜飼の記事 にも使われている。綱をつけずに放すそうで、これは世界でもまれだとのこと。
  • ウミウ
    • 学名:Phalacrocorax capillatus (パラクロコラックス カピッラトゥス) 髪の豊かな頭の白いワタリガラス
    • 属名:phalacrocorax (合) 頭の白いワタリガラス (phalakros はげ頭の、頭の白い < phalos 白い korax ワタリガラス Gk)
    • 種小名:capillatus (adj) 髪の豊かな (capillus (m) 髪の毛 -tus (接尾辞) 〜が備わっている); 棘毛の多い (愛媛の野鳥「はばたき」)
    • 英名:Japanese Cormorant
    • 備考:単形種。 Young Guns (2016) Birder 30(5): 44-47 にカワウとウミウの識別がある。 この記事によればヨーロッパ北部のカワウにウミウに近い遺伝子型があり、亜種が提案されているとのこと。これは Marion and Le Gentil (2006) Ecological segregation and population structuring of the Cormorant Phalacrocorax carbo in Europe, in relation to the recent introgression of continental and marine subspecies で、カワウの亜種 sinensis とヨーロッパの亜種はよく分離されるが、ヨーロッパの亜種は北部・西部の2系統があって、西部のものは本来のカワウの基亜種 carbo であるものの、北部はウミウに近く、氷河期に大陸東西に分離されたものの遺存の可能性を示唆している。この個体群はほとんど渡りを行わないとのこと。 この文献では同個体群にカワウの亜種 norvegicus を提案しているが、世界の主要リストでは carbo のシノニムとされている。
      Sangster and Luksenburg (2023) The importance of voucher specimens: misidentification or previously unknown mtDNA diversity in Phalacrocorax capillatus (Aves: Phalacrocoracidae)? は Honda et al. (2022) Complete mitochondrial genome of the Japanese Cormorant Phalacrocorax capillatus (Temminck & Schlegel, 1850) (Suliformes: Phalacrocoracidae) が解読したウミウとされる (2010年青森市で救助されたが死亡した) 個体のミトコンドリアゲノムがカワウグループに属することを示した。これがこれまで知られていない日本における遺伝子浸透の結果なのか種名の誤りなのかは検証のための標本が残されていないため判定できないとのこと。Honda et al. (2022) の系統樹でもカワウとほとんど差がないことが示されていた。
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES ペリカン科 PELECANIDAE 

  • モモイロペリカン
    • 学名:Pelecanus onocrotalus (ペレカヌス オノクロタルス) ペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:onocrotalus (m) ペリカン < onokrotalos ペリカン (Gk)
    • 英名:White Pelican, IOC: Great White Pelican
    • 備考:単形種。和名の由来は繁殖期の色から。 ペリカン類の分子系統研究は Kennedy et al. (2013) The phylogenetic relationships of the extant pelicans inferred from DNA sequence data を参照。 従来考えられてきたような白色の種類と茶色の種類で系統が違うのではなく、旧世界とオーストラリアを含む系統と新世界の系統に分かれる。ハイイロペリカン、ホシバシペリカンは前者のグループ、モモイロペリカンは少し離れるが前者に属する。
      ["ペリカンと少年"] 「ペリカンと少年」という旧ソ連の映画があった。何かの機会にTVで2回見ることがあって (もちろん日本語吹き替えで、原作ごろよりずっと後の時代に) 印象に残っているのだが、原作は1963年で原題は Slepaya Ptitsa (盲目の鳥) とのこと。ペリカンと少年にストーリーのほぼ全解説がある。 Slepaya Ptitsa で原作を見ることができる (データベースでは65分とあり、英語版でのみ見られるシーンがあるため原作よりわずかに短縮されているかも知れない)。 The Blind Bird - Slepaya Ptitsa - Russian Children's Movie from 1963 で英語版が見られるが若干編集・短縮されており、原作にない部分に音楽が入っていたりする。英語版ではあるが1960年代アメリカ流脚色付きと言ってよいかも知れない。日本版はどうなっていたのか再度見たいところであるが...。 上記記載で内容はほぼわかるが、原作や解説情報を見た上でもう少し詳しめに紹介しておく。この程度のストーリーがあれば原作のままでもかなり理解いただけるのではないだろうか。
      映画はペリカンの繁殖コロニー調査で生態映像で始まる。足環標識をするために追い込んでいるところ。 そこでワーシャが逃げないペリカンに気づいた。「こいつ怖がらないよ?」、鳥類学者のおじいさんは手をかざして「目が見えないんだ」。ここから Slepaya Ptitsa (盲目の鳥) が始まる。 (解説記事には「ペリカン島」とあるがどこかはわからない) 連れて帰りペリカと名前を付けてワーシャはいつも一緒に行動。学校にも連れていって騒動もあり。 ペリカと一緒に外で食べていた時包装紙の新聞記事に目がとまる。モスクワのアルバートフ教授が手術で盲目の人の視力を取り戻したという。 そして仲間のペリカンは渡って行き、雪の積もる中ワーシャとペリカは部屋の中で一緒に冬を越す。 本を読みながら冬は暖かい地域に渡ることを知り、遠くへの思いを馳せる。 また季節がめぐってきたころワーシャはレニングラードのおばあさんのところに行くことになり、剥製のペリカンを代わりに置いてペリカをこっそり箱に入れて連れて列車に乗った。 乗客が腐った魚の臭いに気づき、 乗務員が「規則により客車に生きた鳥は持ち込んではいけません」。不潔でもし伝染病を持っていたらどうするんだとうるさい乗客と騒動となる。「人に慣れているのだし」とか擁護する乗客もいる。規則を持ち出した乗務員もなぜか顔は笑っている (うるさいのはむしろ一部乗客だけだったりする描写が面白い)。 「オウムかい?」「ペリカンです」。 そして親切な車掌さんの部屋へ。「なぜ乗せてるんだ」「目が見えないんだ」「そうなんだ」(中略) 何度も名前を聞いているはずの車掌さん「えっと何というんだっけ?」「ペリカン」「そうそうペリカン」あたりのやりとりが面白い。「何か食べさせてやりたいんだ」「安心して、食べ物は何とかするから」。 そして列車にはキッチンがあり、「魚おくれ」「了解」メニューを並べるシェフの言葉に「いやそんなのでなく...新鮮な凍ったのを...」「え、生で?」と驚くシェフ。「これは内緒」でお互い納得。次に現れた客もためらいつつ「すみませんが生で、できたら2つ」と魚を注文。 親切な乗客にも助けられてモスクワで下車。翌朝また来ればレニングラードに連れてあげるからと伝えられる。 いろいろなところで道を訪ねたりするが、そのうち都会の少年たちに目をつけられ「箱の中身を見せろ」と追いかけられることに。 一度は逃げることに成功したが結局みつかってしまい、箱を開けた。ペリカンに一同驚き、少年たちも協力してくれることになった。 公園のベンチで夜を過ごす間にペリカンはいなくなっていたがまた再会を果たす。 しかし餌がなく通りすがりの少年の持っていた金魚にお金を払うなどしていた。その少年も返しに戻ってくるあたりの描写も細かい。道を歩いていると婦人の持っていた荷物の魚が気になって仕方がない。あの一匹でもあれば...頼んでみようか...くれそうもないや...今日中に教授が見つからなかったらレニングラードに行こうか...。 そこで魚がすべり落ち、拾ったところで泥棒扱いされ警察 (補導官?) へ。 警察で事情を説明しペリカンを出してみせると (この部分が上記紹介の原作に抜けているようで一部カットされている可能性がある。英語版から補充) その婦人も協力してくれ魚やワーシャにも食べ物も与えてくれた。 その間に警察がアルバートフ教授に電話し、「いやこの子の目が見えないのではなくて...」そして 無事に医師のもとへ。しかし一旦は断られ、「新聞記事は嘘か?」「いや本当だ」。鳥の手術などやったことがない。落ち込み帰りかけたワーシャに、レントゲンを撮ってみようかと教授は声をかける。 レントゲン写真を前に猟銃の弾が神経を圧迫していると説明。治る可能性はあるが神経がやられているとだめだ。「説明は全部わかるか」「わかります。手術をお願いします」「保証はできないが」、 そして手術がうまく行かず「もし死んだら?」...ワーシャはしばらくの沈黙の後「一生見えないよりも」。「任せてくれるか」「はい」。「それでは決断しよう」「決断します」。 手術中の待合室、そしてアルバートフ教授が現れ「これが弾だ。君のペリカンは素晴らしい。手術にこの上なくよく耐えた。10日もすれば結果がわかるだろう」。 そしてしばらく後に包帯が取れて診察室へ。「やはり見えてないですか?」「うむ」。 しばらく沈黙の後、教授は「できる限りのことはしたはずだなのだが...」。 そしてお礼の後、これほど面倒なことをお願いしてごめんなさいと涙を流すワーシャを抱擁する教授。
      家に戻ったワーシャとペリカ。あるところからペリカの目が見えていることに気づく。 アルバートフ教授にペリカの目が見えるようになったと手紙を書くワーシャ「暖かい地域に行けるように明日おじいさんと放しに行きます」。 そしておじいさんとボートで野生ペリカンのところへ。ワーシャとペリカはすでに親友でもう別れ難い。しかし放さないといけない。 おじいさんの「友達にお別れをするんだ」。「放して!」の一声で放されたペリカはためらいつつも飛び立ち、そして見事な飛翔で群れに加わってゆく。羽根1枚だけを残して。
  • ホシバシペリカン
    • 学名:Pelecanus philippensis (ペレカヌス ピリッペンシス) フィリピンのペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:philippensis (adj) フィリピンの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Spot-billed Pelican
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。フィリピンペリカンとも呼ばれた。
  • ハイイロペリカン
    • 学名:Pelecanus crispus (ペレカヌス クリスプス) 髪がちじれたペリカン
    • 属名:pelecanus (m) ペリカン
    • 種小名:crispus (adj) ちじれた (後頭部の羽毛がよじれている)
    • 英名:Dalmatian Pelican (ダルマチア: 現在はクロアチアのアドリア海沿岸地域一帯)
    • 備考:ニシハイイロペリカンとも呼ばれる。単形種だが化石亜種 palaeocrispus が知られている。 ペリカン類で最大種。飛べる鳥の中でも最大に近い。 かつてはホシバシペリカンと同種とする考えもあった。 「和漢三才図会」(わかんさんさいずえ) や「本草綱目」にもペリカンが登場し、ハイイロペリカンと考えられるとのこと (コンサイス鳥名事典)。「伽藍鳥」(ガランテウ/ガランチョウ) が当時の古名で、 江戸時代の博物誌 珍禽奇獣異魚によれば、「永享2年 (1430) に京都伏見の舟津で捕えられたのが日本における最古の記録ですが、江戸時代にはかなりの数の記録があり、しばしば見世物にも出されていました。 この図は右下に「文久二年 (1862) 壬戌秋八月 於尾張熱田沖 桜新田海岸 捕之」とあります。このペリカンはおそらく台風に運ばれてきた迷鳥でしょう。著者の清水淇川は尾張の画家です」 と記されている。 志村 (1994) Birder 8(11): p.76 によれば中国語では鵜の漢字をペリカンに用いる。
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES サギ科 ALDEIDAE 

  • サンカノゴイ
    • 学名:Botaurus stellaris (ボタウルス ステッラリス) 星斑のある雄牛のようなヨシゴイ
    • 属名:botaurus (合) 雄牛のようなヨシゴイ (botor ヨシゴイ類 taurus (m) 雄牛)
    • 種小名:stellaris (adj) 星の (stella (f) 星 -aris (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bittern, IOC: Eurasian Bittern
    • 備考:ユーラシアに広く分布し、アフリカにも局所的に分布する。2亜種あり、日本で記録されるものは基亜種 stellaris とされる。 英名の由来はラテン語 butio (ヨシゴイ類) taurus (雄牛) から合成。学名の由来と同じ。 botor/butio はもともとは bos (m) 雄牛に由来する。
      [サギ類の系統分類] Hruska et al. (2023) Ultraconserved elements resolve the phylogeny and corroborate patterns of molecular rate variation in herons (Aves: Ardeidae) に UCE (ultraconserved elements) を含めた詳細な分子系統解析が発表された。 種のサンプルはまだ十分ではないが、少なくとも系統関係に関してはタカ類に匹敵する精度で系統樹を議論できるようになった (#アカハラダカの備考参照)。 従来通りミトコンドリア遺伝子のみを使うと結果が少し異なるとのこと (同文献 fig. 3) だが、核遺伝情報ではここに示された系統が支持されるとのこと。 特に2021年ぐらいよりこのような系統解析が普通に発表されるようになってきており、これが世界標準になりそうである。 これまでの系統樹と多少異なる点があるので、他の文献も用いて全種の系統を網羅した Boyd の分類に従った最新分類を紹介する。Boyd によれば古い研究はもう忘れてもよいぐらいで、新しい分子系統分類は形態特徴に基づく系統分類ともよく一致するとのこと。 これまで部分的な遺伝情報に頼って属間の移動が行われたりしたが、多少の修正が必要になりそうである。 Hruska et al. (2023) によって アカハラサギ亜科 Agamiinae (アカハラサギのみ) が新設された。
      分類、学名、順序は Boyd による。英名はわずかな綴り調整以外 Boyd の表記をそのまま採用した。 IOC 英名とは少し違うところもあるので統一的な英名を必要とされる方はご確認いただきたい。
      Boyd によれば Mendales (2023) の修士論文で分子系統解析でササゴイが複数種に分離される証拠があり、ここでは色彩に基づいて暫定的に5種 (南米のものは分子系統で確実に分かれるとのこと) に分けたとのこと。これらは Boyd の解説しているところの「時には未発表データも取り入れて」系統樹を検討した例である。 これまでのササゴイの基亜種 striata が南米のものなので、もし分離されれば日本のササゴイも学名が変わる。 この分類によればアジア地域で最も早い記載により Butorides javanica となる。南米のものを別種とするならば学名変更は避けられない。 American Striated Heron の名称が与えられているが、そのまま和訳のアメリカササゴイはすでに別種に使われているので暫定的にナンベイササゴイとしてみた。他の新和名も暫定である。
      ダイサギも Raty (2014) の DNA バーコーディングにより複数種に分けられる証拠があり、4亜種の繁殖期の羽衣の色彩がすべて異なるため4種としたとのこと。アフリカダイサギ? Casmerodius melanorhynchos のみは DNA を用いている。 この分類に従えばダイサギとチュウダイサギが別種となり、チュウサギと一緒に1系統を形成することになる。これまでの分類に比べ、我々の直感とも合っている感じがするが学名は大きく変わる。 広義 Ardea属のままでも単系統をなすが、特徴のあるアマサギ属 Bubulcus の名称を残したいならばこの分離は必須になる。 ダイサギ系とアオサギ系はだいぶ違いが感じられるのでこの分け方で妥当かも知れない。 属名の性が変わることで種小名が変わるものも多数ある。 シラサギ属の和名はかつて使われていたものだが、現在では分類概念が異なっているのでここでは使わないことにしておく。
      Ardea occidentalis Great White Heron はオオアオサギからの分離候補で AOU, HBW/BirdLife では古くから分離している。英名はこの名称が定着しているようだが、ダイサギの英名として使われることもある Great White Egret と大変紛らわしい。 和名を付けるにも悩ましそうでオオアオサギより大きいのならばオニアオサギかと思えばすでに他種で使われている上に姿の印象とかなり違う。 真っ白なんだからオオダイサギでよいかと言えばこれは亜種ダイサギの旧名。シロオオアオサギ? のような矛盾した (?) 名前を付けるか、分布が南フロリダからカリブ海なので地名を付ける? かつてから種扱いもあったので何か和名があったかも知れないが調べられていないと思って探してみるとオオシロサギの名前がコンサイス鳥名辞典にあった。"シラサギ" でなく "シロサギ" が紛らわしくならないポイントだろうか。 オオアオサギのうち、この亜種または種のみが "白色型" で中間型も知られているとのこと。 アオサギの白色型とは? どんな感じに見えるかは画像検索などしてみていただきたい。 #クロサギでは白色型は morph で分類上異なるわけではないが、オオアオサギでは異なることが提唱されている。この2種で白色型の意味がどう違うのかなど調べると面白いだろう。
      なおサギ類は世界的に非常に分布の広い種が多数ある。日本で観察できる印象と前後の種で名称から分布がずいぶん違っているように見えることもあるが、分布図を見ていただければ近い関係にあってもおかしくないことを理解いただけるだろう。
      サギ科の系統分類について、用いられて資料は少し古いが日本語の解説がある。サギ科の系統分類 (アオサギを議論するページ 2015)。Prum et al. (2015) が使われており、サギ科の位置づけの理解は現在もこの通りだろう。 サギ科内は新しい研究でやはり様相が変わっており、Ardeinae 亜科の下位の階層分類と考えられていた Nycticoracini, Ardeni, Egrettini 族のうち Nycticoracini, Egrettini は現代的な分子遺伝分類では単系統にならない。 単系統性に基づく概念を設けることはできるが Hruska et al. (2023) は亜科以外の分類を特に示していないのでここでは取り扱わないことにする。 過去に提唱されていた Ardeni族は単系統であるが、日本語でシラサギと言われるグループに特に対応するわけでなく、ササゴイも含まれる。 ミゾゴイ、ヨシゴイ、ササゴイがサギ科の中でもすべて違うグループに属することも注目しておいてよいだろう。

      トラフサギ亜科 Tigriornithinae: Tiger-Herons
       アフリカトラフサギ属 Tigriornis
        アフリカトラフサギ Tigriornis leucolopha White-crested Tiger-Heron

       トラフサギ属 Tigrisoma
        トラフサギ Tigrisoma lineatum Rufescent Tiger-Heron
        ハゲノドトラフサギ Tigrisoma mexicanum Bare-throated Tiger-Heron
        ズグロトラフサギ Tigrisoma fasciatum Fasciated Tiger-Heron

      ヒロハシサギ亜科 Cochleariinae: Boat-billed Heron
       ヒロハシサギ属 Cochlearius
        ヒロハシサギ Cochlearius cochlearius Boat-billed Heron

      アカハラサギ亜科 Agamiinae: Agami Heron
       アカハラサギ属 Agamia
        アカハラサギ Agamia agami Agami Heron

      サンカノゴイ/ヨシゴイ亜科 Botaurinae: Bitterns
       コビトトラフサギ属 Zebrilus
        コビトトラフサギ Zebrilus undulatus Zigzag Heron

       サンカノゴイ属 Botaurus
        ナンベイヨシゴイ Botaurus involucris Stripe-backed Bittern (Ixobrychusより移動)
        コヨシゴイ Botaurus exilis Least Bittern (Ixobrychusより移動)
        サンカノゴイ Botaurus stellaris Eurasian Bittern
        オーストラリアサンカノゴイ Botaurus poiciloptilus Australasian Bittern
        アメリカサンカノゴイ Botaurus lentiginosus American Bittern
        ナンベイサンカノゴイ Botaurus pinnatus Pinnated Bittern

       ヨシゴイ属 Ixobrychus
        タカサゴクロサギ Ixobrychus flavicollis Black Bittern
        リュウキュウヨシゴイ Ixobrychus cinnamomeus Cinnamon Bittern
        オオヨシゴイ Ixobrychus eurhythmus Von Schrenck's Bittern
        クロヨシゴイ Ixobrychus sturmii Dwarf Bittern
        ヒメヨシゴイ Ixobrychus minutus Little Bittern
        ヨシゴイ Ixobrychus sinensis Yellow Bittern
        セグロヨシゴイ Ixobrychus dubius Black-backed Bittern
        オーストラリアヨシゴイ Ixobrychus novaezelandiae New Zealand Bittern (絶滅種)

      ゴイサギ亜科 Nycticoracinae: Night-Herons
       ミゾゴイ属 Gorsachius
        ズグロミゾゴイ Gorsachius melanolophus Malayan Night-Heron
        ミゾゴイ Gorsachius goisagi Japanese Night-Heron

       シラガゴイ属 Nyctanassa
        シラガゴイ Nyctanassa violacea Yellow-crowned Night-Heron
        バーミューダゴイサギ Nyctanassa carcinocatactes Bermuda Night-Heron (絶滅種)

       ゴイサギ属 Nycticorax
        ハシブトゴイ Nycticorax caledonicus Nankeen Night-Heron
        ゴイサギ Nycticorax nycticorax Black-crowned Night-Heron
        アセンションゴイサギ? Nycticorax olsoni Ascension Night-Heron (絶滅種)
        レユニオンゴイサギ? Nycticorax duboisi Reunion Night-Heron (絶滅種)
        モーリシャスゴイサギ? Nycticorax mauritianus Mauritius Night-Heron (絶滅種)
        ロドリゲスゴイサギ? Nycticorax megacephalus Rodrigues Night-Heron (絶滅種)

      アオサギ亜科 Ardeinae: Egrets and Herons
       セジロミゾゴイ属 Calherodius
        セジロミゾゴイ Calherodius leuconotus White-backed Night-Heron (Gorsachius属より移動)

       ハイナンミゾゴイ属 Oroanassa
        ハイナンミゾゴイ Oroanassa magnifica White-eared Night-Heron (Gorsachius属より移動)

       シロゴイサギ属 Pilherodius
        シロゴイサギ Pilherodius pileatus Capped Heron

       キムネゴイ属 Syrigma
        キムネゴイ Syrigma sibilatrix Whistling Heron

       コサギ属 Egretta
        ムナジロクロサギ Egretta picata Pied Heron
        カオジロサギ Egretta novaehollandiae White-faced Heron
        ヒメアカクロサギ Egretta caerulea Little Blue Heron
        サンショクサギ Egretta tricolor Tricolored Heron
        アカクロサギ Egretta rufescens Reddish Egret
        ユキコサギ Egretta thula Snowy Egret
        コサギ Egretta garzetta Little Egret
        アフリカクロサギ Egretta gularis Western Reef-Heron
        マダガスカルクロサギ Egretta dimorpha Dimorphic Egret
        クロコサギ Egretta ardesiaca Black Heron
        ノドアカクロサギ Egretta vinaceigula Slaty Egret
        カラシラサギ Egretta eulophotes Chinese Egret
        クロサギ Egretta sacra Pacific Reef-Heron

       ササゴイ属 Butorides
        ナンベイササゴイ? Butorides striata American Striated Heron
        アメリカササゴイ Butorides virescens Green Heron
        ガラパゴスササゴイ Butorides sundevalli Lava Heron
        アフリカササゴイ? Butorides atricapilla African Striated Heron (Butorides striata より分離)
        アラビアササゴイ? Butorides brevipes Arabian Striated Heron (Butorides striata より分離)
        ササゴイ Butorides javanica Asian Striated Heron (Butorides striata より分離)
        オーストラリアササゴイ? Butorides macrorhyncha Australasian Striated Heron (Butorides striata より分離)

       パプアトラフサギ属 Zonerodius
        パプアトラフサギ Zonerodius heliosylus Forest Bittern

       アカガシラサギ属 Ardeola
        クロアマサギ Ardeola rufiventris Rufous-bellied Heron
        カンムリサギ Ardeola ralloides Squacco Heron
        マダガスカルカンムリサギArdeola idae Malagasy Pond-Heron
        アカガシラサギ Ardeola bacchus Chinese Pond-Heron
        インドアカガシラサギ Ardeola grayii Indian Pond-Heron
        ジャワアカガシラサギ Ardeola speciosa Javan Pond-Heron

       ダイサギ/チュウサギ属 Casmerodius
        シロガシラサギ Casmerodius pacificus White-necked Heron (Ardea属より移動)
        アフリカチュウサギ? Casmerodius brachyrhynchus Yellow-billed Egret (Ardea intermedia より分離)
        チュウサギ Casmerodius intermedius Intermediate Egret Ardea属より移動)
        オーストラリアチュウサギ Casmerodius plumiferus Plumed Egret (Ardea intermedia より分離)
        チュウダイサギ Casmerodius modestus Eastern Great Egret (Ardea alba より分離)
        ダイサギ Casmerodius albus Great White Egret (Ardea属より移動)
        アフリカダイサギ? Casmerodius melanorhynchos African Great Egret (Ardea alba より分離)
        アメリカダイサギ? Casmerodius egretta American Egret (Ardea alba より分離)

       アマサギ属 Bubulcus
        ニシアマサギ Bubulcus ibis Western Cattle Egret
        アマサギ Bubulcus coromandus Eastern Cattle Egret

       アオサギ属 Ardea
        マダガスカルサギ Ardea humbloti Humblot's Heron
        シロハラサギ Ardea insignis White-bellied Heron
        スマトラサギ Ardea sumatrana Great-billed Heron
        ムラサキサギ Ardea purpurea Purple Heron
        オニアオサギ Ardea goliath Goliath Heron
        ズグロアオサギ Ardea melanocephala Black-headed Heron
        アオサギ Ardea cinerea Grey Heron
        ナンベイアオサギ Ardea cocoi Cocoi Heron
        オオアオサギ Ardea herodias Great Blue Heron
        オオシロサギ Ardea occidentalis Great White Heron (Ardea herodias より分離)
  • ヨシゴイ
    • 学名:Ixobrychus sinensis (イクソブリュクス シネンシス) 中国の葦原で大声で鳴く鳥
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:sinensis (adj) 中国の (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Chinese Little Bittern, IOC: Yellow Bittern
    • 備考:属名は「蘆笛を吹き鳴らす」との優雅な意訳もある (愛媛の野鳥「はばたき」)。Botaurus属に比べて小型のヨシゴイ類を指す。単形種。
      茂田 (1993) Birder 7(8): 36-40 によると Ixobrychus exilis 英名 Least Bittern、 Ixobrychus minutus 英名 Little Bittern と上種 (superspecies) を形成するとのこと。上記2種の和名はコヨシゴイ、ヒメヨシゴイが現在与えられているようであるが、これは山階 (1986) による名前。黒田 (1966) は逆の名称を与えており、茂田氏はこちらの方がふさわしいとの見解である (英名とも対応がよい)。 茂田 (1993) によれば日本鳥学会 (1974) はヨシゴイに亜種を認め、亜種 bryani マリアナヨシゴイをリストに含めていた。この記録 (1937) の論文は三島 (1961) ミクロネシア、朝鮮、日本からの新記録の鳥
      [粉綿羽と櫛状の爪] 茂田 (1993) Birder 7(7): 36-41 はヨシゴイを題材にサギ類の分類とその変遷を取り扱っている。粉綿羽区 (powder down patches; powder down の別称 pulviplumes) の分布も分類上重要な要素であり、この羽毛は絶えず伸び続けて先端が粉綿羽 (bloom 鳥類学用語というより一般の意味で「白い粉」) を形成する。 サギ類は中趾にある櫛状の爪 [pectinate(d) claw, または櫛歯] で粉を他の羽毛に付けて羽毛の状態を整えると言われている。 茂田 (1993) によれば同様の櫛状の爪を持つ系統として他にカツオドリ科、グンカンドリ科、シュモクドリ科、イシチドリ科、メンフクロウ亜科、ヨタカ科を挙げている。 川口 (2014) Birder 28(5): 51 はヨタカの足を取り上げ、同様の特徴を持つ種類としてサギ類があるが生態がかなり異なるので収斂進化と考えるのは無理があり、ヨタカとサギ類がある程度近縁で共通祖先が 櫛歯を持っていたのではとの解釈を述べている。 Cattle Egret Pectinate Claw (YC Wee 2021) に鮮明な写真と、Clayton et al (2010) が118科を調べて17科のみに見られた研究を紹介している。 機能は外部寄生虫除去に役立つと考えられるが、古くなった粉綿羽の除去や顔の口ひげ状の羽毛を整えるのにも役立つと記しているとのことである (確かにヨタカの場合は最後に挙げられた機能が役立つかも知れない: #ヨタカの備考参照)。この著者は実際にそのように使っているのを見たことがないとのこと。 言及されている論文は以下: Clayton et al. (2010) How Birds Combat Ectoparasites。 この文献ではカワガラス類のメキシコカワガラス Cinclus mexicanus、アメリカグンカンドリ Fregata magnificens 英名 Magnificent Frigatebird の写真が示されている。 Table I に櫛状の爪の有無を調べた結果が出ているが、結構いろいろなグループで見られている。カイツブリ類、ウ類、サギ類、カツオドリ類、ヨタカ類は保有率が高いようであるが、他の分類群でも散発的に見られるものがある。陸鳥では少なくスズメ目では例がなさそうである。ヨタカ類は例外的のようである。 猛禽類ではメンフクロウ亜科のみに見られるのも何か意味があるのだろう。 表を見て何か共通点を考えて見られるのも面白いかも知れない。 Table II に粉の出る鳥のリスト (完全なものではない) や、砂浴び、日光浴なども紹介されており、行動面でも読んで面白そうな論文である。
  • オオヨシゴイ
    • 学名:Ixobrychus eurhythmus (イクソブリュクス エウリュトゥムス) バランスのよいヨシゴイ
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:eurhythmus (合) eurhuthmos 優雅な、バランスのよい < rhuthmos 調和、形
    • 英名:Schrenck's Little Bittern (ロシアの博物学者 Leopold von Schrenck から), IOC: Von Schrenck's Bittern
    • 備考:単形種。 絶滅危惧IA類 (CR)。世界的には特に懸念なしとされる (IUCN)。
  • リュウキュウヨシゴイ
    • 学名:Ixobrychus cinnamomeus (イクソブリュクス キンナモメウス) シナモン色のヨシゴイ
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:cinnamomeus (adj) シナモンのような (cinnamomum (n) シナモン -eus (接尾辞) 〜色の)
    • 英名:Cinnamon Bittern
    • 備考:単形種
  • タカサゴクロサギ
    • 学名:Ixobrychus flavicollis (イクソブリュクス フラウィコッリス) 黄色い首のヨシゴイ
    • 属名:ixobrychus (合) 葦原で大声で鳴く鳥 (ixias アシのような植物 brukhomai 大声で鳴く、吠える Gk)
    • 種小名:flavicollis (adj) 黄色い首の (flavus (adj) 黄色のcollum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Black Bittern
    • 備考:3亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 flavicollis とされる。
  • ミゾゴイ
    • 学名:Gorsachius goisagi (ゴルサキウス ゴイサギ) ゴイサギ
    • 属名:gorsachius (合) ゴイサギから
    • 種小名:goisagi (外) ゴイサギ (事実上トートニム)
    • 英名:Japanese Night Heron
    • 備考:単形種
  • ズグロミゾゴイ
    • 学名:Gorsachius melanolophus (ゴルサキウス メラノロプス) 黒い冠羽のゴイサギ
    • 属名:gorsachius (合) ゴイサギから
    • 種小名:melanolophus (合) 黒い冠羽の (melano- (接頭辞) 黒い lophos 丘、冠羽 Gk)
    • 英名:Malaysian Night Heron, IOC: Malayan Night Heron
    • 備考:単形種
  • ゴイサギ
    • 学名:Nycticorax nycticorax (ニュクティコラックス ニュクティコラックス) 夜のワタリガラス
    • 属名:nycticorax (合) 夜のカラス (nychta 夜 Gk、corax (m) ワタリガラス)
    • 種小名:nycticorax (トートニム)
    • 英名:Night Heron, IOC: Black-crowned Night Heron
    • 備考:ユーラシア、アフリカ、南北アメリカの中・低緯度帯に広く分布。4亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 nycticorax とされる。 nycticorax はラテン語で不明の鳥、おそらくフクロウ類 < nuktikorakos (Gk) アリストテレスなどが用いた不吉な鳥でおそらくフクロウ類の一種と思われるが、長らくゴイサギと考えられてきた (The Key to Scientific Names)。
      [疑似餌を使うゴイサギ] サギ類の中で採食行動に疑似餌を使うものがあることが知られている。アメリカササゴイ Butorides virescens 英名 Green Heron でまず発見され、近縁のササゴイでも見つかった。 Combs and Reglade (2022) Black-crowned Night Heron (Nycticorax nycticorax) bait-fishes with aninedible lure in Vietnam によればベトナムのゴイサギで同様の事例が発見されたとのこと。 諸角 (1995) Birder 9(10): 56-58 に東京の不忍池で人が投げたパンを利用して魚を捉えるゴイサギ (1991) の記載がある。この場合は自身が疑似餌として投げたものではないが類似例として興味深い。同記事にはコサギも同様の行動をするとのこと。またカイツブリはパンを細かくして撒き餌のように用いるとのこと。
  • ハシブトゴイ
    • 学名:Nycticorax caledonicus (ニュクティコラックス カレドニクス) カレドニアの夜のワタリガラス
    • 属名:nycticorax (合) 夜のカラス (nychta 夜 Gk、corax (m) ワタリガラス)
    • 種小名:caledonicus (adj) カレドニアの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Rufous Night Heron, IOC: Nankeen Night Heron
    • 備考:フィリピンからオーストラリアに分布。6亜種が認められているが1亜種は絶滅(IOC)。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)によれば日本で記録される亜種に crassirostris (crassus 厚い -rostris 嘴の) がリストされるがかつて小笠原諸島に生息していた 1827, 1828, 1889年の標本があるのみの絶滅亜種 (コンサイス鳥名事典)。他に亜種不明がリストされている。 かつては 亜種 crassirostris をオガサワラハシブトゴイと呼んでいたが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)によればこの亜種をハシブトゴイと呼ぶ。 現在観察されているものは亜種不明のもの。川上他 (2015) 小笠原諸島母島におけるハシブトゴイ Nycticorax caledonicus の記録 によれば亜種 hilli (オーストラリアの昆虫学者 Gerald Freer Hill に由来。オーストラリアの亜種) または pelewensis (Pelew/Palau/Belau ミクロネシアのパラウ島由来、ナンヨウハシブトゴイの和名あり) の迷行が考えられるとのこと。 ちなみにフィリピンの亜種 manillensis (マニラの、マニラハシブトゴイの和名がある) は色彩などの特徴から否定されるとのこと。 絶滅亜種 crassirostris は 亜種 hilli に近いとある (コンサイス鳥名事典)。
      IOC 英名の nankeen は中国由来の薄い黄色の絹の織物を指す。織物の由来した南京 (Nanjing) から (wikipedia英語版)。
  • ササゴイ
    • 学名:Butorides striata (ブトリデス ストッリアータ) 条斑のあるサンカノゴイに似ているサギ
    • 属名:butorides (合) サンカノゴイに似ている鳥 (かつてあったサンカノゴイ類を示す Butor属、-oides (接尾辞) 〜に似ている)
    • 種小名:striata (adj) 条斑のある (striatus)
    • 英名:(Green-backed Heron), IOC: Striated Heron
    • 備考:Green-backed Heron の英名はかつて同種とされた Butorides virescens 英名 Green Heron アメリカササゴイ と Butorides sundevalli 英名 Lava Heron ガラパゴスササゴイ が分離される以前のもの。これらが別種とされる以前は北半球・南半球の中・低緯度に汎世界的に分布する種類であった。 ササゴイは21亜種(IOC)が認められている。日本で記録される亜種は amurensis (アムールの) とされる。
      #サンカノゴイの備考にあるように、2023年の分子遺伝解析結果からササゴイが分割される可能性が高い (上記アメリカササゴイの分割とは別物)。 現在の名称のササゴイの分布は非常に広く、世界各地のサンプルが調べられたわけではないのでどのように分割すべきかはまだ確定していないが、南米を別種とすべき点はほぼ確実とのこと。 基亜種 striata は南米のものなので、分割されれば日本のササゴイを含めて残りのグループの種小名が変わることになる。 以下記載年代順による名前。南米以外がもしすべて同種とされれば Butorides atricapilla となるだろうがこの亜種はアフリカのもの。もしアフリカのものも別種とされればアジアのものが Butorides javanica とまとめられることになり、Boyd はこの学名を採用している。 問題となるのは日本周辺の夏鳥の亜種 amurensis とアジア熱帯地域の留鳥亜種の javanica グループとどの程度違うかであろう。 もし亜種相当でよければ Butorides javanica amurensis となるが、種扱いであれば Butorides amurensis となることもあり得る。これは DNA を調べないとわからないだろう。
  • アカガシラサギ
    • 学名:Ardeola bacchus (アルデオーラ バックス) ブドウ酒色の小さなアオサギ
    • 属名:ardeola (f) 小さなアオサギ (ardea (f) アオサギ -ola (指小辞) 小さい)
    • 種小名:bacchus (m) 酒神バッカス、ブドウ酒
    • 英名:Chinese Pond Heron
    • 備考:単形種
  • アマサギ (リスト次第で亜種が分離されて独立種となる)
    • 学名:Bubulcus ibis (ブブルクス イービス) トキのような牛追い (採用する分類次第でコロマンデル地方の牛追い)
    • 属名:bubulcus (m) 牛飼い、(牛を使って耕作する) 農夫)
    • 種小名:ibis (属) トキの (ibis -is (f) トキ科の鳥。備考参照)
    • 英名:Cattle Egret, IOC: Eastern Cattle Egret (IOC 分類に従った場合)
    • 備考:IOC は古くから2種に分割しており、Clements、eBird が2023年にこの分類に変更。 Howard and Moore と HBW/BirdLife は分離していないが最新リストは2022年あるいはそれ以前のものである。 分離した場合は Bubulcus coromandus (インドのコロマンデル地方の) 英名 Eastern Cattle Egret (日本のものはこちら) と Bubulcus ibis 英名 Western Cattle Egret (ニシアマサギの和名があるらしい) となり、どちらも単形種となる。 分離しない場合 (従来通り) は日本のものは亜種名まで含めて Bubulcus ibis coromandus となる。 ibis の意味は本来はエジプトのアフリカクロトキ Threskiornis aethiopicus (英名 African Sacred Ibis) であるが、エジプトでこのトキが絶滅しつつある状況で、鳥類学者はコウノトリ類やサギ類に似た鳥にもこの名称を使うようになったとのこと (The Key to Scientific Names)。誤命名とされることもある (Helm Dictionary)。
      日本鳥類目録 改訂第8版の第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開 (2023年10月) ではアマサギ属 Bubulcus としているが、サギ類の現代的な分子系統分類 (#サンカノゴイの備考参照) では Bubulcus属を残すためには Ardea属の分割が必要になる。 Hruska et al. (2023) は Ardea属に含めている。世界の主要リストも Hruska et al. (2023) にまだ追いついていないが、近々反映されて学名に影響が及ぶと考えられるので現代的な分子系統分類を検討しておく必要があるだろう。
      アフリカクロトキは豊穣をもたらすナイル川に伴って現れることから神聖な鳥とされたが、現在ではエジプトにいないとこのこと (コンサイス鳥名事典)。
      Western Cattle Egret (ニシアマサギ) は当初は南スペインとポルトガル、熱帯・亜熱帯アフリカと熱帯西アジアに地域的に分布していたが、19世紀の終わりに南アフリカに急速に分布を広げ、南アメリカに 1877年に目撃 (自然飛来と考えられる)、1930年代に南アメリカに定着、北アメリカでは 1941年に最初に記録され、その後も急速に分布を広げた。 この種はもともと野生の大型草食動物に頼った生活をしていたが、放牧が拡大するとともに家畜に頼って急速に分布を広げたと考えられる。
      Eastern Cattle Egret も同様に 1940年代にオーストラリアで急速に分布を広げた (wikipedia英語版)。 日本でもかつては珍鳥だった。桑原 (1991) 日本の生物 5(5): p.33 によれば「日本鳥類図説」(内田清之助 1913) では本州ではまれだが台湾にはとても多いと記載されているそうである。 大西 (2008) Birder 22(5): p.60 にアマサギは第二次世界大戦後に急に数が増えたが、熱帯林の大規模伐採でアマサギの好む牧草地が増えたとの説明がある。Western Cattle Egret (ニシアマサギ) も含んだ記述かも知れない。
      Rasmussen and Anderton (2005) "Birds of South Asia: the Ripley guide" が繁殖期の羽衣と音声の違いからこれらを2種に分類することを提案したものである。 これら2(亜)種および亜種の可能性のあるセイシェル (インド洋) の個体群の比較検討は Ahmed (2011) Subspecific identification and status of Cattle Egret にある。2(亜)種は繁殖期の羽衣や計測値で区別することができるとしているが、音声についてはまだ検討の余地があるとのこと。
      大橋 (2020) Birder 34(5): 66-67 が和名の由来の考察を行っている。和名のすでに存在した時期には海外由来の「亜麻」はまだ知られておらず、伝統的な色の名称である「飴色」が由来であろうとのこと。コンサイス鳥名事典では両方の説を紹介しているが、「亜麻色」の渡来時期についての考察はない。 鳥名の漢字表記はいずれでもなく「黄毛鷺」と書く。 大橋 (2020) によればドビュッシーの名曲「亜麻色の髪の乙女」がこの名称で翻訳されて紹介されたことなどで亜麻色の名称がよく知られるようになったとのこと。原曲は La fille aux cheveux de lin で1910年に前奏曲集のうちの1曲として出版された。cheveux de lin が亜麻色の髪で白に近い金髪を指すと辞書に記載されている。
      ショウジョウサギ (ショウジョウ 猩猩、猩々: 中国に古くから伝わる酒が大好きな霊獣、能の演目で猩々が酩酊して舞う様子から赤みを帯びた生物の名称に使われるとのこと) の別名があるそうである。 「ショウジョウサギ」の名称が現れる論文は例えば高島 (1952) クロトキに関する知見
  • アオサギ
    • 学名:Ardea cinerea (アルデア キネレア) 灰色のアオサギ
    • 属名:ardea (f) アオサギ
    • 種小名:cinerea (adj) 灰白色の (cinereus)
    • 英名:Grey Heron
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は jouyi (アメリカの博物学者 Pierre Louis Jouy 由来) とされる。
      [アオサギの亜種の問題] 4亜種のうち1-2亜種は分離されることもある: Ardea monicae Mauritanian Heron、firasa (マダガスカル)。 これらを別と考えて、日本で観察されるアオサギが jouyi なのか cinerea なのかについてはあまりすっきりしない。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" ではユーラシア東北部に夏鳥として飛来する、また日本で留鳥のアオサギを jouyi とし、アジアでは中国の大部分で留鳥のアオサギを "おそらく" cinerea としている。 Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) ではシベリアの大部分が cinerea でバイカル湖以東がより明るい色の jouyi とある。 Dement'ev and Gladkov (1951) では cinerea を北方型で日本もこの分布に含めている。jouyi は中国と朝鮮半島、インドに分布する南方型の扱いになっており、区分概念が少し異なっている。 jouyiArdea cinerea jouyi Clark, new subspecies に原記載があり、韓国での3個体によるものとのこと。 基亜種に比べて白っぽい色で、クロヅルの東方亜種 Grus grus lilfordi に対応するとのこと。クロヅルのこの亜種を認めているリストは現在あまりなく IOC では単形種としている (#クロヅルの備考も参照)。 アオサギの亜種については調べられた文献もあまり見当たらず、あまり検討されないまま過去の分類を引き続き使っているだけでそれほど意味のある亜種分類ではないのかも知れない。
      参考までに冬鳥で普通種であるフィリピンのリストでは Ardea cinerea jouyi 別名 Ardea (cinerea) cinerea としているが後者は記入ミスかも。東アジアから渡ってくるものは jouyi と判断している模様。 Trivedi and Parasharya (2019) Inland nesting of grey heron Ardea cinerea: An important record for Gujarat state, India のインドの文献では cinerea を時々やってくる冬鳥、jouyi を繁殖する亜種で日本も分布域に含めている。 分布の基本情報は Heron Conservation によるものだが、Trivedi and Parasharya (2019) の Taxonomic Status のところにはインドの亜種がどちらかわからない。この2亜種はクラインの大陸の両端の表しているとの考えも紹介している (その場合は連続分布)。 インドでは亜種 restirostris として記載されていた。従来の分布の考えに従って jouyi のシノニムとされたが、 HBW では最近はインド、スリランカを cinerea に分類し、jouyi はロシア極東・日本南部から... (Russian Far East and Japan S to N Myanmar, Indochina,...) の表記に読め、北海道は別亜種と意識しているものかも知れない。省略形で書かれているので原意は確実ではないがどなたかご確認いただきたいところ。 これに従えばインドの亜種を jouyi と素直に書けないので困った事態になっている模様。一部の標本を見て亜種が区別できないなどの断片的研究はあるが、インドの個体についての系統的な亜種の検討はなされていない。さもなければこんなことははるか昔に決着しているはずだ、と書いている。この状況は東アジアでもあまり違わないのかも知れない。 Heron Conservation のページでは jouyi の分布に関係して Matsunaga et al. (2000) Changing Trends in Distribution and Status of Grey Heron Colonies in Hokkaido, Japan, 1960-1999 が引用されているが北海道 (夏鳥) の繁殖コロニーの変遷の論文で亜種にかかわる記述はない。 Ye et al. (2018) First Description of Grey Heron Ardea cinerea Migration Recorded by GPS/GSM Transmitter に中国からロシア・中国東北部に渡るアオサギのルートが調べられている。この文献では jouyi は中国に広く分布としているが、1世代前の HBW の記述に基づくよう。この論文の時点ではアオサギの渡り経路の研究は初とのこと。
      [アオサギ、サギ類の日本語情報源] 日本語の興味深い情報源として アオサギを議論するページ を紹介しておく。 このサイトの著者の英語論文もある: Matsunaga (2018) Changes of the nesting sites of Grey Herons (Ardea cinerea) in Hokkaido, northern Japan
  • ムラサキサギ
  • ダイサギ
    • 学名:Ardea alba (アルデア アルバ) 白いアオサギ
    • 属名:ardea (f) アオサギ
    • 種小名:alba (adj) 白い (albus)
    • 英名:Great Egret
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 alba 亜種ダイサギ (冬鳥として渡来とされる。過去の別名オオダイサギ、モモジロ) と modesta (中庸の) チュウダイサギ (国内繁殖するものはこちらとされる。過去の別名コモモジロ)、及び亜種不明とされる。
      サギ類の現代的な分子系統分類 (#サンカノゴイの備考参照) ではダイサギを Ardea属とすることとアマサギを Bubulcus属に残すことは相容れないこととなる (#アマサギの備考参照)。 ダイサギの世界分布が広く、個々の亜種が異なった繁殖期の羽衣を持つこと、Raty (2014) の DNA バーコーディングによる部分的証拠から世界4地域に分かれた複数種の分割が提案されている。 ダイサギとチュウダイサギも繁殖域などが大きく異なり外見も違うので種分割は妥当に思える。 これらが採用された場合は別種となるので、記録を残す場合もできるかぎりこの2つを区別して残すことが望ましい。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" もこれらが別種相当と述べ、英名に Great White Egret (ダイサギ) と Eastern Great White Egret (チュウダイサギ) の名称を与えている。 属名も Boyd のリストと同じく Casmerodius属を採用していたが、当時はチュウサギが同じグループに属することが判明しておらず、Mesophoyx属とされていた (この属は最新分子系統が判明するまで Boyd も用いていた)。
  • チュウサギ
    • 学名:Egretta intermedia (エグレッタ インテルメディア) 中間のサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigrette シラサギ 仏)
    • 種小名:intermedia (adj) 中間の (intermedius)
    • 英名:Ietermediate Egret
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Ardea属に移動。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。この変更は一世代前の分子系統樹 (#トキの備考参照) では納得できるものであった。 サギ類の現代的な分子系統分類 (#サンカノゴイの備考参照) ではチュウサギを Ardea属とすることとアマサギを Bubulcus属に残すことは相容れないこととなる (#アマサギの備考参照)。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" では Mesophoyx属とされていた (#ダイサギの備考参照)。現代的な分子系統分類ではダイサギと同属とするのが適切である。 3亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは基亜種 intermedia とされる。亜種 plumiferus を種 Plumed Egret オーストラリアチュウサギ と分離する考えがあり、IOC, eBird, BirdLife で採用されている。 亜種 brachyrhynchus を種 Yellow-billed Egret とする考えもあって IOC 等同様であるが和名が見当たらないため、オーストラリアチュウサギの例に従ってアフリカチュウサギの名称を仮に与えてある。 plumiferus も Plumed も「羽で着飾った」のよい名前をもらっているので、和名はもう少し凝ってもよい気がする。
  • コサギ
    • 学名:Egretta garzetta (エグレッタ ガルゼッタ) シラサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigrette シラサギ 仏)
    • 種小名:garzetta (外) garzetta/sgarzetta コサギ 伊
    • 英名:Little Egret
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 garzetta とされる。 旧世界に広範に分布するが大部分は亜種 garzetta とされ、スンダ列島からオーストラリア、ニュージランドの亜種が nigripes とされる。世界の多くのリストが同じ分類を採用している。 この意味では日本もアフリカも同じ亜種となる。
      コンサイス鳥名事典の時点の亜種は少し違っていて garzetta がヨーロッパ南部、アフリカ、南アジア。 nigripes がジャワ、ニューギニア、フィリピン。 immaculata がオーストラリア。 dimorpha がマダガスカルとアルダブラ諸島とあり、マダガスカルクロサギ Egretta dimorpha に対応する。 Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) はこの亜種を種として分離していないため、コサギは3亜種になる。 immaculata は現在は通常 nigripes のシノニムとされる次第である。
      アフリカ東部やマダガスカルに灰色の暗色型が存在し、東京の多摩川 (1978)、名古屋の庄内川 (1978-1983) に暗色型が記録されたとのこと (コンサイス鳥名事典)。 2012-2013年東京都町田市の記録が見られる コサギ 暗色型 (「ミツユビカモメと仲間たち」の探鳥記録)。 コサギ (2021年茨城県 kobori)。 コサギ暗色種 (森の自然誌) ではアフリカからインドに棲息する亜種と書かれている。 Little Egret (HeronConservation) では多数の亜種を記載しているので、それをふまえた解説かも知れない。これによればこれら提唱されている "亜種" 間の形態、遺伝的違いなどはあまり調べられていないとのことで分類に関する最近の情報はなさそうに読める。 Ashkenazi (1993) Dark-Morph Individuals of Egretta spp. in Israel にイスラエルでの暗色型の報告がある。
  • クロサギ
    • 学名:Egretta sacra (エグレッタ サクラ) 神聖なシラサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigretteシラサギ 仏)
    • 種小名:sacra (adj) 神聖な (sacer)
    • 英名:Eastern Reef Heron, IOC: Pacific Reef Heron
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 sacra とされる。 国内の「白色型」の地域分布について調べた論文: Itoh (1991) Geographical Variation of the Plumage Polymorphism in the Eastern Reef Heron (Egretta sacra) この研究では白色型は南西諸島で見られ、赤道から遠ざかるほど白色型の比率が減る。白黒2型の多形を説明する仮説も紹介されているが、どれも十分満足できる説明ではないとのこと。
  • カラシラサギ
    • 学名:Egretta eulophotes (エグレッタ エウロポテス) 立派な冠羽のシラサギ
    • 属名:egretta (合) シラサギ (aigretteシラサギ 仏)
    • 種小名:eulophotes (合) 立派な冠羽を持ったもの (eu (int) よい、lophos 丘、冠 -otes (接尾辞) 〜の質の Gk)
    • 英名:Chinese Egret
    • 備考:単形種
  •  ペリカン目 PELECANIFORMES トキ科 THRESKIORNITHIDAE 

  • クロトキ
    • 学名:Threskiornis melanocephalus (トゥレスキオルニス メラノケパルス) 黒い頭の神聖な鳥
    • 属名:threskiornis (合) 神聖な鳥 (thriskeia 宗教 ornis 鳥 Gk) 古エジプトではトキ (アフリカクロトキ) は神聖な鳥とされた
    • 種小名:melanocephalus (合) 黒い頭の (melano- (接頭辞) 黒い kephali 頭 Gk)
    • 英名:Oriental (White) Ibis, IOC: Black-headed Ibis
    • 備考:単形種。 トキ科 Threskiornithidae の学名は実は自明なものではなかった。かつては Ibis属に基づいて Ibididae と呼ばれていたが Ibis が最初に使われたのはトキ科でなくコウノトリ類の Mycteria だった。 そのため科の学名を変える必要が生じたが、Eudociminae の方が古く使われた名前 (シロトキ、真紅のショウジョウトキの属名由来) であったが ICZN が最終的に Threskiornithidae と決定した (Boyd)。
  • トキ
    • 学名:Nipponia nippon (ニッポニア ニッポン) 日本特産の鳥
    • 属名:nipponia (合) 日本の (-ia (接尾辞) 国や地名を属名にする)
    • 種小名:nippon (外) 日本
    • 英名:Japanese Crested Ibis, IOC: Crested Ibis
    • 備考:記載時の学名は Ibis nippon Temminck, 1835 で、Reichenbach が 1852年提案した Nipponia temmincki 属名に基づき、Gray が 1871年に用いた Nipponia nippon が使われるようになった(wikipedia日本語版)。 一属一種。単形種。 独立属の妥当性の分子遺伝学研究は例えば Kim et al. (2019) The complete mitochondrial genome of an Asian crested ibis Nipponia nippon (Pelecaniformes, Threskiornithidae) from South Korea を参照。サギ類についても分子系統樹がある程度わかる。
      [トキの遺伝的多様性] 日本では野生絶滅し、中国から再導入されたがどの程度「同じトキ」と言えるのか関心をお持ちの方も多いだろう。 「日中トキ、やはり同一種 DNA分析で確認」(2003)、「能登、佐渡のトキは同一種 県など、DNA鑑定で確認「能里」の子孫、里帰りへ」(2009) の報道が wikipedia日本語版に出ている。
      以下はさらに詳しい研究で、Feng et al. (2019) The Genomic Footprints of the Fall and Recovery of the Crested Ibis がこの疑問にある程度答えてくれる。 1841-1922年の過去の分布域の57標本の分子遺伝学解析を行ったところ、かつて持っていた遺伝的多様性のほぼ半分が失われ、過去に分布していた複数の系統が失われたことが明らかになった(つまりかつての日本からロシア極東の個体群と、現存する個体群のもとになった中国中央部の個体群、及び中国東部、中国北西部の個体群は互いに独立した個体群と分離できる程度には違っていたことがわかる)。過去の実効個体数推定の結果では人為的影響は600年前には始まっていたと推定される。この種にとって過酷な状況は100年程度続いたようである。現存の個体群は2繁殖つがいからもたらされたもので、個体数のボトルネック効果は非常に大きく、近親交配と遺伝的浮動によってかつての多形性が大きく失われることになった。
      2009年の日本の報道(上記)では金沢市城北児童会館の剥製ではこれまでに発見されている4種類の遺伝子系統とは別の新しい系統であることがわかったともある。国内産トキの間でも多形性があったことがわかる。 トキの野生復帰の現状〜佐渡の現場から では「中国のトキと日本にいたトキのミトコンドリア DNA は 0.06%しか違わない。これは、個体間の変異程度である」と書かれているが、Feng et al. (2019) の解析によれば同一クレード内の個体による違い (これを個体間の変異に相当するものとしてよいだろう) に比べ、クレード間の距離はずっと大きい。「個体間の変異程度である」との表現は現在では正しくないと思われる。 これらを見るとトキの遺伝的多様性にとって日本の系統が失われてしまったことは非常に残念なことだったと思える。最近では中国由来の個体の増殖が進み、過去のことは忘れ去られがちであるが、やや古い書物ではトキの人工授精の試みの失敗の生々しい記述も見られる。これらを読むと日本の系統を保存できるチャンスは実は何度もあったのではないかと感じる。 日本産トキを救えなかったことについて、日本に内在する構造的問題 (これは現代にも通じるものがありそうである) があったことを小林照幸「朱鷺の遺言」(中央公論社 1998) が指摘している (内容には正確でない部分もあるようである。wikipedia日本語版注釈も参照)。 wikipedia日本語版によれば、「ミドリ」や「キン」の組織は冷凍保存されており、この2羽の皮膚細胞から人工多能性幹細胞 (iPS細胞) を作り、日本産の遺伝子を受け継ぐ個体を復活させる取り組みを、国立環境研究所が2012年から開始しているとのことである。 絶滅危惧鳥類における iPS細胞の作成はヤンバルクイナ、ライチョウ、シマフクロウですでに報告されている [Katayama et al. (2022) Induced pluripotent stem cells of endangered avian species]。トキでもおそらく成功するであろうが、鳥類は哺乳類と同様の技術ではクローニングができない。卵黄が大きすぎて顕微鏡下の操作ができないためである(Audubon の解説)。そのため iPS細胞が確立されても個体(群)の復活に結びつけるにはまだ道が遠そうである。
      [中国のトキの再発見] 日本で全羽捕獲され野生絶滅となった時 (1981年1月)、ちょうど中国でトキの再発見 (1981年4月) の知らせがあった。その再発見物語を中国の研究者の劉蔭増が「美人鳥朱鷺」(湖南少年児童出版社 1988)として著し、桂千恵子によって翻訳された「トキが生きていた - 国際保護鳥トキ再発見の物語」[ポプラ・ノンフィクション(58) 1992] がある。 当時中国ではトキは絶滅したと考えられており、絶滅を確認するための調査であった。広大な中国のどこを捜索すればよいか、またわずかな手がかりから生息の可能性に迫る過程など、科学者の着想がいかんなく発揮されたことが記述され、児童書とはいえ厚みのある内容となっている。また絶滅に瀕した他のトキ類への温かい眼差しも感じられ、機会があればぜひお読みいただきたい本である。 また、例えば劉蔭増第一発見者で発見40周年 (2021) の報道が読める。
      [繁殖時の色変わり] 繁殖期は頸部の皮膚が内分泌により黒くなり、ここから剥がれ落ちた皮膚を上半身に塗り付けるため黒灰色になる (wikipedia日本語版より)。Delhey et al. (2017) Cosmetic Coloration in Birds: Occurrence, Function, and Evolution によれば鳥類で皮膚からの色素分泌が知られているのはトキのみで、特異であるとは記述されているがそれ以上調べられていないと記されている。 論文になっているものでは、Wingfield et al. (2000) Biology of a critically endangered species, the Toki (Japanese Crested Ibis) Nipponia nippon があり、皮膚の分泌部位の写真が示されているが、この論文の時点では成分 (メラニン?) や実際にどのように分泌されるかはわかっていなかったようである。 同じ論文の紹介であるが、Avian Integument では表皮細胞の脂質が分泌されると解説している。他の鳥の表皮構造・機能などとも比較してこの機構が妥当であろうと説明されているものと思う。 この研究者による総説もあって Ritchison (2023) Integument (in "In a Class of Their Own", Fascinating Life Sciences book series, Springer) 基本的に同じことが書かれている。 なお初期の論文は Uchida (1970) On the color change in Japanese Crested Ibis にある (羽毛の鞘を取り囲む細胞から分泌されているとの考えで、上記解説とは多少違いがある)。 森本 (2015) Birder 29(10): 70 にトキの「化粧色」と題して記事がある。換羽や摩耗による以外の色変わりは発見当時はなかなか受け入れられなかったことも記されている。この記事によれば研究が行われているようなので結果に期待したい。
  • ヘラサギ
    • 学名:Platalea leucorodia (プラタレア レウコロディア) 白いサギのヘラサギ
    • 属名:platalea (f) ヘラサギ (platos 幅 Gk)
    • 種小名:leucorodia (合) 白いサギの (leuko- (接頭辞) 白い erodios サギ Gk)
    • 英名:Spoonbill, IOC: Eurasian Spoonbill
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 leucorodia とされる。
  • クロツラヘラサギ
    • 学名:Platalea minor (プラタレア ミノール) 小さなヘラサギ
    • 属名:platalea (f) ヘラサギ (platos幅 Gk)
    • 種小名:minor (adj) より小さい
    • 英名:Black-faced Spoonbill
    • 備考:単形種
  •  ツル目 GRUIFORMES ツル科 GRUIDAE 

  • ソデグロヅル
    • 学名:Grus leucogeranus (グルス レウコゲラヌス) 白いツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:leucogeranus (合) 白いツルの (leuko- (接頭辞) 白い geranos ツル Gk)
    • 英名:Siberian Crane
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Leucogeranus属。種小名より昇格し、種小名も変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じで、属名はソデグロヅル属となる。単形種。
      世界的希少種。 分布図を見ていただければ東西の2個体群があることがわかる。中央にもかつては個体群があったが絶滅した。 大型の渡り鳥の衛星追跡が日本で行われるようになった初期の1995-1996年、日本野鳥の会が関わったソデグロヅルの渡りルート解明が行われた。Kanai et al. (2002) Migration routes and important resting areas of Siberian cranes (Grus leucogeranus) between northeastern Siberia and China as revealed by satellite tracking, が論文。これは東の個体群に対応する。 Kanai et al. (2002) Discovery of breeding grounds of a Siberian Crane Grus leucogeranus flock that winters in Iran, via satellite telemetry が西の個体群の繁殖地を衛星追跡で明らかにした論文。 日本語の解説記事などがもう少し Web で読めるかと期待したが、時代が少し古いこともあって見つけられなかった。 代わりに2017年に千葉県に飛来したソデグロヅルの記事があった。 珍鳥 vs カメラマン(奴賀) (バードリサーチブログから)。
      西の個体群は絶滅に瀕している。比較的最近世界的にも話題となった ロシアのプーチン自身が音頭をとって超軽量飛行機に乗ってソデグロヅルの若鳥に渡りルートを教えるプロジェクト "flight of hope" (ロシア語 polet nadezhdy) が2012年9月に始まったが頓挫したとのことである プーチン大統領のツル誘導飛行、大失敗に終わる 日本語訳された報道記事 (2012)。 Russian Effort To Save Cranes Fails To Get Off The Ground (2017年の記事)。 当時のプーチンは絶滅に瀕する種類の保護に前向きな姿勢を示していたが、その後はどうなったのあろうか...
      以下に2011年のインドの記事と映像資料がある Technology to bring back Siberian crane to India。 ツルは生まれた時から渡りルートを知っているわけではなく、何らかの方法で教わる必要がある。 The "Lily of Birds" A Journey To Help the Most Unique and Endangered of Cranes (CMS booklet) によれば卵から孵化させたツルをロシアの繁殖地などで放鳥する、あるいは仮親を使う試みが1990年代中盤より行われ約15年で100羽が放された。生存率は20%を超えなかった。仮親について渡りをしたがその後行方不明となり越冬地では1羽も観察されなかった。 イランやインドで放鳥された鳥は渡りをせず姿も見られなくなったそうである。
      イタリアの飛行家、冒険家。ハンググライダー、無機関・無動力の超軽量飛行機などを使用した冒険飛行で世界記録を保持していた Angelo d'Arrigo アンジェロ・ダリーゴ は2001年鳥とともに飛行する冒険を開始し、2002年ソデグロヅルの群れとともにシベリアからカスピ海を経て、イランに抜ける飛行を行った (この飛行も polet nadezhdy "flight of hope" と呼ばれている。wikipedia日本語版/ロシア語版より追記。wikipediaロシア語版にも2012年以降のことは記載がない)。 当時の英語記事例 Hanging With the Cranes (Los Angeles Times)。 アンジェロ・ダリーゴは2006年航空ショーの最中に墜落死したそうである。
      なお上記の "プーチンの失敗" 記事は多少尾ひれが付いているようで、cyclowikiの記事 によれば 最初の飛行では全部が飛び立たなかった。2回目では全部が飛び立った。全部がすぐに飛び立たなかったのはリーダーの責任で、速度と高度を早く上げすぎた。群れをなして飛ばなかった。とプーチンが述べている。2012年11月に1羽がカザフスタンで見つかってロシアに戻されたとのこと。 プーチンのソデグロヅルはどこへ行った? の2018年の記事では、プロジェクトが途中で終わったのは資金不足のためで、1機のモーターグライダーでは不十分で地上部隊も必要だがロシアの鳥類学者にはそのお金がなかった。 しかしあきらめたわけではなく、育った鳥は野生個体群に加えており、費用さえあればプロジェクトは再開されると期待している。ツルの増殖施設で働いている人は大変よくやっている、とのこと。
      ソデグロヅルを救う の Interfax 2019年の記事では、 1990年代の終わりには放鳥を開始した。それまで個体数は急減していたが横ばいになった。西シベリアの個体群は20羽に過ぎず、手を貸さなければ残っていなかっただろう。 ソデグロヅルは通常2卵を産むが1羽しか育たない。ソデグロヅルにも「兄弟殺し」があるらしい。2羽めを育てる余裕はない。 アフガニスタンやパキスタンの方に飛んでゆくとハンターに撃たれてしまうのでそれとは違うルートを覚えさせる必要がある (安全な越冬地をウズベキスタンのアムダリア川流域に確保したいとの目的が上記文献にも含まれていた)。 ヤマル半島での放鳥は10年前に途絶えた。資金不足となった。 クロヅルに道案内をさせようとしているが、実際どこに飛んで行っているのかよくわからない。 資金さえ予定通りに入ってくれば計画は再開できると考えている。最初の渡り個体群が確立できれば後は個体を追加するだけでずっと費用がかからず回復できるだろうとのこと。
      飛行機で誘導してツルに渡りルートを教える方法はアメリカシロヅル Grus americana 英名 Whooping Crane で使われた。この種はアメリカの自然保護のシンボルとも言える鳥。この分野の古典と言える「復活 - アメリカシロヅル絶滅への挑戦」(原書 The Whooping Crane F・マックナルティ; 藤原英司訳 どうぶつ社 1978) では「絶滅の危機に直面した鳥、アメリカシロヅルがいま124羽まで復活した。生命の賛歌を歌い上げたアメリカ自然保護の生きた見本」とある。 渡辺 (1996) Birder 10(1): 36-39 の記事にアメリカシロヅル保護活動の初期からの状況が載っている。この記事によれば軽飛行機で誘導する試みは1995年に始まったものとのこと。
      ソデグロヅルのロシア名は sterkh (カタカナではスチェルフとしか書けないが音はだいぶ違うかも)。何か由緒ありそうな名前だがドイツ語の Storch コウノトリが語源とのこと。白くて似ているために動物学者の Pallas が与えた名前であろうと考えられている。
  • カナダヅル
    • 学名:Grus canadensis (グルス カナデンシス) カナダのツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:canadennsis (adj) カナダの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Sandhill Crane
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Antigone属。Antigone はトロイの Laomedon 王の娘でコウノトリに変えられた。Linnaeus はこの神話とツルに変えられた Gerana の神話を混同した。両者とも lese-majeste (英語で a crime against The Crown の意味に相当する中世フランス語)の罪を犯したとされる (The Key to Scientific Names)。 Antigone は首をつって自殺したので首が赤く裸出するオオヅル Antigone antigone (英名 Sarus Crane)にこの名を与えたのだろうとの解釈もある (コンサイス鳥名事典)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では同じ分類の扱いで、Antigone属はマナヅル属となる。種小名は変化なし。 5亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 canadennsis とされる。 クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): p.27 に北米からシベリアにカナダヅルが進出しているとの記載がある。
  • マナヅル
    • 学名:Grus vipio (グルス ウィピオ) 食用のツルの一種
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:vipio バレアレス言語で食用のツルの一種
    • 英名:White-naped Crane
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版ではAntigone属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。種小名は変化なし。単形種。 ハチ類に Vipio属 (寄生蜂 コマユバチ科 Braconidae) が存在する。
  • タンチョウ
    • 学名:Grus japonensis (グルス ヤポネンシス) 日本のツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:japonensis (adj) 日本の (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Japanese Crane, IOC: Red-crowned Crane
    • 備考:単形種。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では日本産の Grus属は3種のみとなる (分類について#アネハヅルの備考参照)。 属名の和名はツル属となっているが和名検討中とのことで変わる可能性もある。注意すべきはマナヅルとナベヅルは別属となることで、厳密に書けばこの2種のいずれかを指して「Grus属の一種 (または sp.)」と書けなくなる。
      ツル類の系統と行動の関係を調べた研究がある: Novakova and Robovsky (2021) Behaviour of cranes (family Gruidae) mirrors their phylogenetic relationships どの系統でどの行動が生まれ、あるいは消滅したかが示されている。例えば Grus属では交尾時の声が現れた。Grus属内でタンチョウが分岐した後の系統 (クロヅル、ナベヅルなど) で「蝶のポーズ」が出現したとのこと。
      [ツル類やハクチョウ類の気管] ツル類やハクチョウ類の中には胸骨の中でとぐろを巻く長い気管を持っている種類がある。これは大きな声を出すための適応と考えられているが、長い気管は死腔 (dead space) となって呼吸効率が悪くなる可能性がある。 Ludders (2001) Inhaled Anesthesia for Birds によれば同じサイズの哺乳類に比べて長さで 2.9 倍、太さで 1.29 倍とのことで、空気抵抗は哺乳類と違いがないが死腔は 4.5 倍とのこと。鳥は呼吸が深く呼吸数も少ない (哺乳類の 1/3 とのこと) ことでこの問題を解決しているとある。単位時間あたりの気管の流量は哺乳類の 1.5-1.9 倍程度に過ぎないとのこと (もちろん鳥類の肺の優れたシステム、血液と空気の間の障壁が非常に薄くガス交換の効率の良いことで呼吸効率を上げている)。 この文献にはいくつかの種類の気管の図も紹介されているので参考になるだろう。 「鳥類のデザイン 骨格・筋肉が語る生態と進化」(カトリーナ・ファン・グラウ、監訳 川上和人 みすず書房 2021) にも長大な気管の例が出ている。原著 "The Unfeathered Bird" (Katrina van Grouw, Princeton University Press, 2013) で世界的にも有名となったもの。 同じ著者による書物に "Unnatural Selection" (Princeton University Press, 2018) (日本語訳本は出ていない?) があり、鳥類のみではないが人為選択により作られた奇抜な形態などが紹介されている (ダーウィンも夢中になったハトの品種など)。 表紙は人類進化を模式的に (しかし不正確に) 表す "Ascent of Man" で有名になった図版 (Ascent of Man image should be 'the other way around', leading expert in human evolution says 参照) の鳥類版になっている。 Prange et al. (1985) Respiratory responses to acute heat stress in cranes (Gruidae): the effects of tracheal coiling によれば、気管が長いことで高温時のあえぎによる熱放出に役立ったり呼吸性アルカローシスを防ぐ役割も考えられるがその効果は弱く、音声増強が主たる役割だろうとのこと。
  • クロヅル
    • 学名:Grus grus (グルス グルス) ツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:grus (トートニム)
    • 英名:Common Crane
    • 備考:ユーラシアに広く分布する。単形種(IOC)。2亜種とする考えもあり、日本鳥類目録 改訂第8版第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開ではこちらに従って亜種 lilfordi (英国鳥類学者 Thomas Lyttleton Powys 4th Baron Lilford にちなむ) を採用している。 世界の主要リストでこの亜種を採用しているものは Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) なので (ただし may not be diagnosable と付記されている) 日本鳥学会の見解もおそらくこれに基づくものと思われる。IOC も 4.3 まではこの亜種を用いていた。
      Species Review: Eurasian Crane (Grus grus) (IUCN SSC Crane Specialist Group) では4亜種とみなし、基亜種と lilfordi の境界はウラル山脈で後者に英名 Eastern Eurasian Crane を与えている。 コーカサスの Transcaucasian Eurasian Crane (G. g. archibaldi)、チベットの Tibetan Eurasian Crane (G. g. korelovi) が他の2亜種。これらが実際に単系統か evolutionarily significant unit (進化的に意義のある単位: ESU) に値するかはさらなる研究が必要としている。
      クロヅルの東個体群の渡りの衛星追跡の最近の研究は Erdenechimeg et al. (2023) Migration Pattern, Habitat Use, and Conservation Status of the Eastern Common Crane (Grus grus lilfordi) from Eastern Mongolia で見ることができる。モンゴル東部で繁殖し、渤海沿岸、黄河デルタなどで越冬する経路が記録されている。
      「ツル」の語源は新谷 (1983) による ユーラシア比較言語学の試み IV - ツルとカラスの語源学 - がある。タヅとの関係は不詳とのこと。 その後も研究が進められて別説が出ているかも知れないが、「コンサイス鳥名事典」では朝鮮語のトゥルミー (上記 turumi と同じ) を提案している。この事典にデンマーク、スウェーデン、アイスランドで同じような音の名前があるとのことで調べてみることにした。 デンマーク語 trane スウェーデン語 trana アイスランド語 (gra)trana で、古ノルド語の trana が起源とのこと (wiktionary)。 北部ドイツ語の trana 由来で Kran(ich) が音韻変化したものと説明されているとのこと (参照)。gr → tr への音変化は意外であるとのこと。 インド・ヨーロッパ祖語では Reconstruction:Proto-Indo-European/gerh2- とのこと。東アジアの音声については検討外の模様であるが turumi/tsuru と古ノルド語との直接の関係はなさそうである。
  • ナベヅル
    • 学名:Grus monacha (グルス モナカ) 修道女のツル
    • 属名:grus (f) ツル
    • 種小名:monacha (f) 修道女 (monachus (m) 修道士)
    • 英名:Hooded Crane
    • 備考:単形種
  • アネハヅル
    • 学名:Anthropoides virgo (アントゥロポイデス ウィルゴ) 乙女のようなツル
    • 属名:anthropos 女性 (Gk); 人の形をした (コンサイス鳥名事典)
    • 種小名:virgo (adj) 未婚の (f) 乙女
    • 英名:Demoiselle Crane, IOC: White-naped Crane
    • 備考:属名は日本鳥類目録改訂第7版時代からアネハヅル属。単形種。
      ツル類の分子系統研究は Krajewski et al. (2010) Complete Mitochondrial Genome Sequences and the Phylogeny of Cranes (Gruiformes: Gruidae)Anthropoides属を認めるかどうかは分類学者次第で、IOC は version 2.5 まで認めていたが以降は Grus属に統合している。Howard and Moore は 3rd edition まで認めていたがその後は Grus属。 IOC 14.1 では Grus属だが、Perhaps best separated into Anthropoides と注釈があり、属の分離も正当化できる見解のようである。 Clements は2005年まで Grus属だったがそれ以降 Anthropoides属。 もう1つ問題となる属があり Bugeranus属でホオカザリヅル (英名 Wattled Crane) 1種のみを含み、Anthropoides属の前の分岐に相当する。 Anthropoides属を認める立場 (例えば日本鳥学会 日本鳥類目録 改訂第7版や第8版の予定) ならばこの属も認める必要があり、この種の学名は Bugeranus carunculatus となる。 原理的にはこの種もまとめて Anthropoides属とすることは可能だが、そのような用例は見当たらないので Anthropoides属を認めるならば Bugeranus属も認めることになるだろう。 これら全体と残りの Grus属をまとめても単系統となるので、これらをすべて Grus属としても差し支えなく、現在の IOC と Howard and Moore はその立場と考えてよいだろう。 その場合はアネハヅルの学名は Grus virgo となる。現在の海外のページなどでは IOC に準拠してこちらが主に使われているので検索などの際は注意。現在の IOC 分類では Grus属は8種になる。 属をどの程度細かく分けるかの自由度の問題と言える。 Antigone属を認める立場 (例えば日本鳥学会 日本鳥類目録 第8版の予定) ではマナヅルは Antigone属になって、Anthropoides属を認めるか否かにかかわらずナベヅルと別属になる。 古い分類ではこれらもすべて含めて Grus属としていたが、現代の知識ではそれに内包される Anthropoides属 と Bugeranus属を別属にしていたことになる。
      Anthropoides属を認める場合はこの属にもう1種あり、種小名 paradisea のハゴロモヅル 英名 Blue Crane がある (IOC 学名では Grus paradisea)。 このツルは Tetrapteryx の属名が用いられたことがあり、「4つの翼 (羽)」なのでもしかして後肢に羽が生えているのかと期待したがそうではなく、地面に届くほど伸びた3列風切を指したものとのこと。
      英名の一つの demoiselle は Marie Antoinette 女王が姿から名付けたもの (wikipedia英語版)。英語の demoiselle はフランス語に由来。
      アネハヅルはヒマラヤを超える渡りをするツルとして有名。1981年10月にヒマラヤの上空を飛んでいるのが日本の登山隊に目撃され、編隊飛行している写真が発表されたことがある。 当時はソデグロヅルと言われていたが、これは後にアネハヅルと判断された [科学ドキュメント ヒマラヤを越えるツル マナスル登山隊の記録 1982(30分)NHK総合: 出典]。
      [ツル科・ツル目の系統分類] 上記の分類上の検討をふまえ、日本鳥学会 日本鳥類目録 第8版の予定と整合性のある分類 (eBird/Clements 2023 に一致する) でツル科 Gruidae の分類を示しておく。 もちろん日本で見られない種類も多いが、動物園などで比較的よく飼育されているため見る機会も多いだろう。参考にしていただきたい。 学名の後に (*) があるものは IOC 14.1 では Grus属。

      ツル科 Gruidae
       カンムリヅル亜科 Balearicinae
        カンムリヅル属 Balearica
         ホオジロカンムリヅル Balearica regulorum Grey Crowned Crane
         カンムリヅル Balearica pavonina Black Crowned Crane

       ツル亜科 Gruinae
        ソデグロヅル属 Leucogeranus
         ソデグロヅル Leucogeranus leucogeranus Siberian Crane
        マナヅル属 Antigone
         カナダヅル Antigone canadensis Sandhill Crane
         マナヅル Antigone vipio White-naped Crane
         オオヅル Antigone antigone Sarus Crane
         オーストラリアヅル Antigone rubicunda Brolga
        ホオカザリヅル属 Bugeranus
         ホオカザリヅル Bugeranus carunculatus (*) Wattled Crane (アフリカ)
        アネハヅル属 Anthropoides
         ハゴロモヅル Anthropoides paradiseus (*) Blue Crane (アフリカ)
         アネハヅル Anthropoides virgo (*) Demoiselle Crane (ユーラシア)
        ツル属 (和名検討中) Grus
         タンチョウ Grus japonensis Red-crowned Crane
         アメリカシロヅル Grus americana Whooping Crane
         クロヅル Grus grus Common Crane
         ナベヅル Grus monacha Hooded Crane
         オグロヅル Grus nigricollis Black-necked Crane

      なおツル目 Gruiformes の中の位置づけは以下のようになる。絶滅科を含めた構成は wikipedia英語版による。 科の和名は山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) 鳥類の目と科の新しい和名 (1) 非スズメ目・イワサザイ類・亜鳴禽類 による。ツル科 Gruidae と クイナ亜目 Ralli で大きく形態が異なるが、ツルモドキやラッパチョウ類がどの程度ツルに似ているかは画像検索などで確かめていただきたい。

      ツル目 Gruiformes
       ツル亜目 Grui
        ツル上科 Gruoidea
         ? Geranoididae (絶滅科)
         ? Parvigruidae (絶滅科)
         ツルモドキ科 Aramidae (北米南部から南米)
          ツルモドキ属 Aramus
           ツルモドキ Aramus guarauna Limpkin
         ラッパチョウ科 Psophiidae (アマゾン地域)
          ラッパチョウ属 Psophia
           ラッパチョウ Psophia crepitans Psophia crepitans
           ハジロラッパチョウ Psophia leucoptera Psophia leucoptera
           アオバネラッパチョウ Psophia viridis Psophia viridis
         ツル科 Gruidae (前記)

       クイナ亜目 Ralli (#クイナの備考参照)

      かつてのツル目には クイナモドキ科 Mesitornithidae (現在はクイナモドキ目 Mesitornithiformes、ハト目、サケイ目を含むクレード Columbimorphae に属する)、 ミフウズラ科 Turnicidae と クビワミフウズラ科 Pedionomidae (現在はチドリ目 Charadriiformes)、 カグー科 Rhynochetidae、ジャノメドリ科 Eurypygidae [現在はジャノメドリ目 Eurypygiformes。系統的位置づけはよくわからず単独系統をなす。Jarvis (2014) によればネッタイチョウ目の遠い親戚か。 ジャノメドリの英名は Sunbittern とかつてはサギの仲間とされていたことがわかる。大変特徴的な種類なので画像検索などで見ていただきたい]、 ノガンモドキ科 Cariamidae (現在はノガンモドキ目 Cariamaformes で近代的な陸鳥の方に含まれハヤブサ目を含むクレードに属する。猛禽類としても扱われる)、 ノガン科 Otididae (現在はノガン目 Otidiformes。カッコウ目、エボシドリ目を含むクレード Otidimorphae に属する) が含まれていて、Boyd に言わせると「ゴミ箱」状態だったとのこと。 ノガンモドキ目以外は近代的な陸鳥グループには含まれない。
  •  ツル目 GURIFORMES クイナ科 RALLIDAE 

  • シマクイナ
    • 学名:Coturnicops exquisitus (コトゥルニコプス エクスクイシトゥス) 非常に美しいウズラのような鳥
    • 属名:coturnicops (m) ウズラの外観をした (coturnix (f) ウズラ, ops, opus 外観 Gk)
    • 種小名:exquisitus (adj) 類いまれな; 非常に美しい (コンサイス鳥名事典)
    • 英名:IOC: Swinhoe's Rail (英国博物学者 Robert Swinhoe が記載した)
    • 備考:単形種。旧英名の Yellow Rail は現在 IOC では Coturnicops noveboracensis アメリカシマクイナ に使われる。同種扱いだった時代の名残り。
      三戸 (2007) Birder 21(1): 20-22 に青森県仏沼 (オオセッカ繁殖地で有名) における「シマクイナ発見記」が記載されている。「クル、クル、グー」というカエルのような聞いたことのない声を発見の始まり。音声再生 (プレイバック playback) によって正体を確認した。鳴き声以外での発見はほとんど不可能と記載されている。 プレイバック法による関東地方での調査、音声の記述などについては高橋他 (2018) 関東地方におけるシマクイナ Coturnicops exquisitus の冬季の生息状況 が参考になる。 図2に示されているシマクイナとヒクイナの非繁殖期の声の声紋は#カイツブリ#ヒクイナの備考で紹介した両種間で類似する音声に対応する。この論文では特徴的な「キュルルルルー」と聞こえる尻下がりの鋭い声と記載されている。 他にも福田他 (2019) 茨城県におけるシマクイナの生息状況、 Senzaki et al. (2021) Breeding evidence of the vulnerable Swinhoe's Rail (Coturnicops exquisitus) in Japan、 北沢、吉岡 (2021) 九州北部におけるシマクイナの越冬を示唆する記録 の研究があり、プレイバック法により各地での生息・越冬が明らかになっている 研究誌新着論文:九州北部におけるシマクイナの越冬を示唆する記録 (バードリサーチニュース 2021)。
      これまでも (目視は難しいとしても) 音声を聞いて他種と判定されていた例があるかも知れない。 絶滅危惧IB類 (EN)。
  • オオクイナ
    • 学名:Rallina eurizonoides (ラッリーナ エウリゾノイデス) ナンヨウオオクイナに似たクイナ
    • 属名:rallina (合) クイナに似た鳥 [Rallus属 (クイナ属) の指小形]
    • 種小名:ナンヨウオオクイナに似た (備考参照)
    • 英名:Slaty-legged Crake
    • 備考:種小名は ナンヨウオオクイナ Rallina fasciata 英名 Red-legged Crake の旧学名 Gallinula eurizona Temminck, 1826 (綴りが変更され euryzona になった。この種小名の意味は eurus 広い zone 帯) に -oides (接尾辞) 〜に類似の の意味 (The Key to Scientific Names)。
      7亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は sepiaria (生け垣の < sepis, saepes, saepis 生け垣) とされる。
  • ヤンバルクイナ
    • 学名:Gallirallus okinawae (ガッリラッルス オキナワエ) 沖縄のヤケイのようなクイナ (新学名では沖縄の下に小さな帯のあるクイナ)
    • 属名:gallirallus (合) ヤケイのようなクイナ Gallus属 (ニワトリのもとになったセキショクヤケイなどを含む属) と Rallus属 (クイナ属) から合成された、当初は亜属の名称だったものを属名とした (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:okinawae (属) 沖縄の (okinawa -ae)
    • 英名:Okinawa Rail
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Hypotaenidia属 (hupo 下 tainidion 小さな帯 Gk) で小さな島固有種クイナを多く含む属。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じで、Hypotaenidia属はヤンバルクイナ属。旧 Gallirallus属はニュージーランドクイナ属と呼ばれることもあった [尾崎 (2003) Birder 17(11): 41]。 単形種。 絶滅危惧IA類 (CR)。IUCN 3.1 EN種。
  • ミナミクイナ
    • 学名:Gallirallus striatus (ガッリラッルス ストゥリアトゥス) 条斑のあるヤケイのようなクイナ (新学名で条斑のあるリューインのクイナ)
    • 属名:gallirallus (合) ヤケイのようなクイナ Gallus属 (ニワトリのもとになったセキショクヤケイなどを含む属) と Rallus属 (クイナ属) から合成された、当初は亜属の名称だったものを属名とした (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:striatus (adj) 条斑がある
    • 英名:Slaty-breasted Rail
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Lewinia属。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。英国の彫刻師、博物学者でオーストラリアに入植した John William Lewin に由来。 学名は Lewinia striata となる (語尾が変わるので注意)。Lewinia属はミナミクイナ属。ハシナガクイナの別名もあった。 英名で Lewin's Rail はまた別にある オーストラリアクイナ Lewinia pectoralis。この種の記載時学名が Rallus lewinii Swainson, 1837。種小名が変わったのは Rallus pectoralis Temminck, 1831 の記載の方が早かったため。 6亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは亜種不明とされる。
  • クイナ
    • 学名:Rallus aquaticus (ラッルス アクアティクス) 水辺にいるクイナ (新学名でインドのクイナ)
    • 属名:rallus (合) クイナ [ralleクイナ 独 (これもフランス語 rale 由来とも言われる。声を示す)、rasle/rale クイナ 中世仏 (これも音声由来とされる) 由来の両説がある。The Key to Scientific Names, wiktionary]
    • 種小名:aquaticus (adj) 水の (aqua (f) 水)
    • 英名:(Water Rail), IOC: Brown-cheeked Rail
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Rallus aquaticus indicus から種に昇格され Rallus indicus となり亜種はなくなる (indicus インドの)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 旧英名の Water Rail は IOC では分離された Rallus aquaticus ヨーロッパクイナ の名前となる。
      様々な鳴き声を示し、姿が見えにくいので水辺の探鳥会などで音声同定に悩まされる種類の一つ。クイナ (バードリサーチ鳴き声図鑑) などを参照して声に馴染んでおくとよい。声がわかれば (適切な時期と場所であれば) 結構な個体数がいることがわかる。
      [クイナ類の系統分類] 分子系統学に基づくクイナ類の分類は Kirchman et al. (2021) Phylogeny based on ultra-conserved elements clarifies the evolution of rails and allies (Ralloidea) and is the basis for a revised classification を参照。 これは核遺伝情報 (UCE) も用いた新しいタイプの系統分類 (#アカハラダカの備考参照)。 Kirchman et al. (2022) Corrigendum to: Phylogeny based on ultra-conserved elements clarifies the evolution of rails and allies (Ralloidea) and is the basis for a revised classification に訂正がある。Rufirallus属の再編成にあたってどちらの属に先取権があるかを判断していなかった。訂正は以下のリストには影響がない。 同年に Garcia-R. and Matzke (2021) Trait-dependent dispersal in rails (Aves: Rallidae): Historical biogeography of a cosmopolitan bird clade (図は見られる) も系統樹を出していて、Boyd はこちらを主に用いている。 この文献は現状ではオープンアクセスでないのと、UCE を用いた方が一般的に精度が高いと考えられるので Kirchman et al. (2021) をベースとした分類を紹介する。 日本産種類の日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版の属変更はこの論文に一致しているので「何がなんだかわからない」クイナ類の分類変更の意味はこの論文を見ていただければよいだろう。 この論文の順序はクイナ科以降は分岐順をあまり意識していない (分岐時期が近すぎて判定できないのだろう) ので科以下の配置順序は任意性があると思って見ていただくとよい。 IOC、あるいは日本鳥類目録 改訂第8版分類順とは一致していない。
      科名については山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) 鳥類の目と科の新しい和名 (1) 非スズメ目・イワサザイ類・亜鳴禽類から用いてある。属名は日本産の種のある属は日本鳥類目録 改訂第8版の第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開 (2023年10月) による。それ以外については自動的に決まるものやほぼ推測できるものを仮に入れてある。 属移動に際して性変更に伴って起きたと思える種小名の語尾の違いがあり、他のリストの間でも統一されていない。ここでは IOC 14.1 の語形を示し、Kirchman et al. (2021) の表記をかっこに入れてある。
      クイナ類は過去にすでに多数の属に細分化されており、その結果と分子系統学の結果が入り組んでおり、過去の属名をなるべく活かすためには複雑な移動や分離が必要になった模様である。 日本鳥類目録 改訂第8版の第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開に記載されている種 (第8版掲載見込み種) は緑字で示してある。この他にも検討種扱いが少数存在する。

      Kirchman et al. (2021) 準拠の分類による:
      ツル目 クイナ亜目 Ralli
       ヒレアシ科 Heliornithidae
        アフリカヒレアシ属 Podica
         アフリカヒレアシ Podica senegalensis
        アジアヒレアシ属 Heliopais
         アジアヒレアシ Heliopais personatus Masked Finfoot
        アメリカヒレアシ属 Heliornis
         アメリカヒレアシ Heliornis fulica Sungrebe

       ? 科 Aptornithidae (絶滅科)
        ? 属 Aptornis (adzebills、ニュージーランド)

       (アフリカクイナ)科 (*) Sarothruridae
        マダガスカルクイナ属 Mentocrex
         マダガスカルクイナ Mentocrex kioloides Madagascar Wood Rail
         ツィンギクイナ Mentocrex beankaensis Tsingy Wood Rail
        ニューギニアクイナ?属 Rallicula
         アカパプアクイナ Rallicula rubra Chestnut Forest Rail
         セスジパプアクイナ Rallicula leucospila White-striped Forest Rail
         セグロパプアクイナ Rallicula forbesi Forbes's Forest Rail
         クリイロパプアクイナ Rallicula mayri Mayr's Forest Rail
        ? 属 Sarothrura (アフリカに分布)
         シラボシクイナ Sarothrura pulchra White-spotted Flufftail
         キボシクイナ Sarothrura elegans Buff-spotted Flufftail
         ムネアカシマクイナ Sarothrura rufa Red-chested Flufftail
         クリガシラシマクイナ Sarothrura lugens Chestnut-headed Flufftail
         アカエリシマクイナ Sarothrura boehmi Streaky-breasted Flufftail
         クリオシマクイナ Sarothrura affinis Striped Flufftail
         マダガスカルシマクイナ Sarothrura insularis Madagascar Flufftail
         アフリカシマクイナ Sarothrura ayresi White-winged Flufftail
         マダガスカルムジクイナ Sarothrura watersi Slender-billed Flufftail

       クイナ科 Rallidae
        ウロコクイナ亜科 Himantornithinae
         ウロコクイナ族 Himantornithini
          ウロコクイナ属 Himantornis (アフリカ)
           ウロコクイナ Himantornis haematopus Nkulengu Rail

         ? 族 Gymnocrecini
          ? 属 Gymnocrex (インドネシア、ニューギニア)
           アオメクイナ Gymnocrex rosenbergii Blue-faced Rail
           タラウドクイナ Gymnocrex talaudensis Talaud Rail
           アカメクイナ Gymnocrex plumbeiventris Bare-eyed Rail

         オオバン族 Fulicini
          ワキジロバン属 Porphyriops (南米)
           ワキジロバン Porphyriops melanops Spot-flanked Gallinule
          サンクリストバルオグロバン/サモアオグロバン属 Pareudiastes (Gallinulaから分離。ソロモン地域離島)
           サンクリストバルオグロバン Pareudiastes silvestris Makira Woodhen
           サモアオグロバン Pareudiastes pacifica Samoan Woodhen (絶滅種)
          オグロバン属 Tribonyx (オーストラリア)
           オグロバン Tribonyx ventralis Black-tailed Nativehen
           タスマニアオグロバン Tribonyx mortierii Tasmanian Nativehen
          コモンクイナ属 Porzana (北半球)
           カオグロクイナ Porzana carolina Sora
           コモンクイナ Porzana porzana Spotted Crake
           ミナミヒメクイナ Porzana fluminea Australian Crake
          ヒメバン属 Paragallinula (アフリカ)
           ヒメバン Paragallinula angulata Lesser Moorhen
          バン属 Gallinula (世界に分布)
           ネッタイバン Gallinula tenebrosa Dusky Moorhen
           アメリカバン Gallinula galeata Common Gallinule
           ゴフバン Gallinula comeri Gough Moorhen
           トリスタンバン Gallinula nesiotis Tristan Moorhen (絶滅種)
           バン Gallinula chloropus Common Moorhen
          オオバン属 Fulica (世界に分布)
           アカビタイオオバン Fulica rufifrons Red-fronted Coot
           ツノオオバン Fulica cornuta Horned Coot
           ナンベイオオバン Fulica armillata Red-gartered Coot
           オニオオバン Fulica gigantea Giant Coot
           アフリカオオバン Fulica cristata Red-knobbed Coot
           オオバン Fulica atra Eurasian Coot
           (チャタムオオバン)? Fulica chathamensis (絶滅種)
           アメリカオオバン Fulica americana American Coot
           ハワイオオバン Fulica alai Hawaiian Coot
           ハジロオオバン Fulica leucoptera White-winged Coot
           ハイイロオオバン Fulica ardesiaca Andean Coot
           Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
           マスカリンオオバン Fulica newtonii Mascarene Coot (絶滅種)

         セイケイ族 Porphyrionini
          セイケイ属 Porphyrio [世界の熱帯から南半球。Kirchman et al. (2021) で属名綴り間違い]
           アメリカムラサキバン Porphyrio martinica (martinicus?) Purple Gallinule
           ナンベイムラサキバン Porphyrio flavirostris Azure Gallinule
           アフリカムラサキバン Porphyrio alleni Allen's Gallinule
           セイケイ Porphyrio porphyrio Western Swamphen
           ロードハウセイケイPorphyrio albus White Swamphen (絶滅種)
           タカヘ (モホ) Porphyrio mantelli North Island Takahe(絶滅種)
           タカヘ Porphyrio hochstetteri South Island Takahe

         シマクイナ/コビトクイナ?族 Laterallini
          ズアカコビトクイナ属? Rufirallus (属の再編成。南米)
           アカシロクイナ Rufirallus leucopyrrhus Red-and-white Crake (Laterallus属より移動)
           クロジマコビトクイナ Rufirallus fasciatus Black-banded Crake (Laterallus属より移動)
           セボシクイナ Rufirallus schomburgkii Ocellated Crake (Micropygia属より移動)
           ズアカコビトクイナ Rufirallus viridis Russet-crowned Crake (もと Rufirallus属はこの1種のみ)
          シマクイナ属 Cotunicops (アメリカにも分布)
           アメリカシマクイナ Cotunicops noveboracensis Yellow Rail [Kirchman et al. (2021) 学名綴り間違い]
           シマクイナ Cotunicops exquisitus Swinhoe's Rail
           ダーウィンシマクイナ Cotunicops notatus Speckled Rail
          ? 属 Hapalocrex (新属。南米)
           キムネヒメクイナ Hapalocrex flaviventer Yellow-breasted Crake (Laterallus属より移動)
           ハイムネコビトクイナ Hapalocrex exilis Grey-breasted Crake (Laterallus属より移動)
          コビトクイナ属? Laterallus (南米・北米の8種)
           クロコビトクイナ Laterallus jamaicensis Black Rail
           アルゼンチンヒメクイナ Laterallus spiloptera (spilopterus?) Dot-winged Crake
           マメクロクイナ Laterallus rogersi Inaccessible Island Rail
           ガラパゴスコビトクイナ Laterallus spilonota Galapagos Crake
           ノドジロコビトクイナ Laterallus melanophaius Rufous-sided Crake
           ズグロコビトクイナ Laterallus ruber Ruddy Crake
           キタノドジロコビトクイナ Laterallus albigularis White-throated Crake
          ? 属 (新属) (Laterallus属から分離。属学名未定。南米)
           ワキアカコビトクイナ "Laterallus" levraudi Rusty-flanked Crake
           シロオビコビトクイナ "Laterallus" xenopterus Rufous-faced Crake

         シロハラクイナ族 Amaurornithini
          マミジロクイナ属 Poliolimnas
           マミジロクイナ Poliolimnas White-browed Crake
          パプアクイナ属 Megacrex
           パプアクイナ Megacrex inepta New Guinea Flightless Rail
          チャバラヒメクイナ属 Aenigmatolimnas (アフリカ)
           チャバラヒメクイナ Aenigmatolimnas marginalis Striped Crake
          ツルクイナ属 Gallicrex
           ツルクイナ Gallicrex cinerea Watercock
          シロハラクイナ属 Amaurornis (東南アジア、東・南アジアの一部、オーストラリア北部)
           チャバネクイナ Amaurornis akool Brown Crake (Zapornia属から移動)
           バンクイナ Amaurornis olivacea Plain Bush-hen
           シロハラクイナ Amaurornis phoenicurus White-breasted Waterhen
           チャバラバンクイナ Amaurornis isabellina Isabelline Bush-hen
           アカオクイナ Amaurornis moluccana Pale-vented Bush-hen
           タラウドバンクイナ Amaurornis magnirostris Talaud Bush-hen

         ヒメクイナ族 Zapornini
          オオクイナ属 Rallina (東南アジア、東・南アジアの一部、オーストラリア北部)
           ミナミオオクイナ Rallina tricolor Red-necked Crake
           アンダマンオオクイナ Rallina canningi Andaman Crake
           ナンヨウオオクイナ Rallina fasciata Red-legged Crake
           オオクイナ Rallina eurizonoides Slaty-legged Crake
          ヒメクイナ属 Zapornia
           アフリカクロクイナ Zapornia flavirostra Black Crake
           ヒクイナ Zapornia fusca Ruddy-breasted Crake
           コウライクイナ Zapornia paykullii Band-bellied Crake
           コクイナ Zapornia parva Little Crake
           ヒメクイナ Zapornia pusilla Baillon's Crake
           レイサンクイナ Zapornia palmeri Laysan Rail (絶滅種)
           マダガスカルクロクイナ Zapornia olivieri Sakalava Rail
           オグロクイナ Zapornia bicolor Black-tailed Crake
           ハワイクイナ Zapornia sandwichensis Hawaiian Rail (絶滅種)
           ヘンダーソンクイナ Zapornia atra Henderson Crake
           ミナミクロクイナ Zapornia tabuensis Spotless Crake
           ナンヨウコクイナ Zapornia monasa Kosrae Crake
           Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
           セントヘレナクイナ Zapornia astrictocarpus Saint Helena Crake (絶滅種)
           タヒチクイナ Zapornia nigra Tahiti Crake (絶滅種)

        クイナ亜科 Rallidae
         クイナ族 Rallini
          アフリカクイナ?属 Canirallus
           アフリカクイナ Canirallus oculeus Grey-throated Rail
          クイナ属 Rallus (オーストラリアを除く世界に分布)
           ニシオニクイナ Rallus obsoletus Ridgway's Rail
           ヒガシオニクイナ Rallus crepitans Clapper Rail
           アステッククイナ Rallus tenuirostris Aztec Rail
           オニクイナ Rallus longirostris Mangrove Rail
           オウサマクイナ Rallus elegans King Rail
           ムジオニクイナ Rallus wetmorei Plain-flanked Rail
           コオニクイナ Rallus limicola Virginia Rail
           ナンベイクイナ Rallus semiplumbeus Bogota Rail
           ミナミクイナ Rallus antarcticus Austral Rail
           ヨーロッパクイナ Rallus aquaticus Water Rail
           クイナ Rallus indicus Brown-cheeked Rail
           アカハシクイナ Rallus caerulescens African Rail
           チャムネクイナ Rallus madagascariensis Madagascar Rail
           Kirchman et al. (2021) には記載がないがこの分類か:
           (エクアドルクイナ)? Rallus aequatorialis Ecuadorian Rail
          アビシニアクイナ属 Rougetius (エチオピア)
           アビシニアクイナ Rougetius rougetii Rouget's Rail
          アフリカウズラクイナ属 Crecopsis
           アフリカウズラクイナ Crecopsis egregia African Crake
          ノドジロクイナ属 Dryolimnas (マダガスカル地域)
           ノドジロクイナ Dryolimnas cuvieri White-throated Rail
           レユニオンクイナ Dryolimnas augusti Reunion Rail
          ウズラクイナ属 Crex
           ウズラクイナ Crex crex Corn Crake
          セレベスクイナ属 Aramidopsis
           セレベスクイナ Aramidopsis plateni Snoring Rail

          ミナミクイナ属 Lewinia (東南アジア・南アジアからオーストラリア)
           ミナミクイナ (ハシナガクイナ) Lewinia striata Slaty-breasted Rail
           ルソンクイナ Lewinia mirifica Brown-banded Rail
           オーストラリアクイナ Lewinia pectoralis Lewin's Rail
           オークランドクイナ Lewinia muelleri Auckland Rail
          カラヤンクイナ属 Aptenorallus (新属。フィリピン北のカラヤン島)
           カラヤンクイナ Aptenorallus calayanensis Calayan Rail (Gallirallus属より分離)
          ハルマヘラクイナ属 Habroptila (インドネシアのハルマヘラ島)
           ハルマヘラクイナ Habroptila wallacii Invisible Rail
          ニュージーランドクイナ/ニューカレドニアクイナ属 Gallirallus
           ニュージーランドクイナ Gallirallus australis Weka
           ニューカレドニアクイナ Gallirallus lafresnayanus New Caledonian Rail (Cabalus属より移動)
          マングローブクイナ属 Eulabeornis (オーストラリア北部)
           マングローブクイナ Eulabeornis castaneoventris Chestnut Rail
          ヤンバルクイナ属 Hypotaenidia (ヤンバルクイナなど8種と絶滅種4種)
           ヤンバルクイナ Hypotaenidia okinawae Okinawa Rail
           ムナオビクイナ (クビワクイナ) Hypotaenidia torquata Barred Rail
           ニューブリテンクイナ Hypotaenidia insignis Pink-legged Rail
           フィジークイナ Hypotaenidia poeciloptera Bar-winged Rail (絶滅種)
           ウッドフォードクイナHypotaenidia woodfordi Woodford's Rail
           グアムクイナ Hypotaenidia owstoni Guam Rail
           ソロモンクイナ Hypotaenidia rovianae Roviana Rail
           チャタムクイナ Hypotaenidia modesta Chatham Rail (Cabalus属より移動。絶滅種)
           ウェーククイナ Hypotaenidia wakensis Wake Island Rail (絶滅種)
           チャタムオビクイナ Hypotaenidia dieffenbachii Dieffenbach's Rail (絶滅種)
           ロードハウクイナ Hypotaenidia sylvestris Lord Howe Woodhen
           ナンヨウクイナ Hypotaenidia philippensis Buff-banded Rail

         マダラクイナ族? Pardirallini
          ムネアカクイナ属 Anurolimnas (南米)
           ムネアカクイナ Anurolimnas castaneiceps Chestnut-headed Crake (Rufirallus属より移動)
          チャバラクイナ属 Amaurolimnas (中南米)
           チャバラクイナ Amaurolimnas concolor Uniform Crake
          モリクイナ属? Aramides (主に中南米。タイプ種はコンゴウクイナ)
           オオモリクイナ Aramides ypecaha Giant Wood Rail
           チャイロモリクイナ Aramides wolfi Brown Wood Rail
           ヒメモリクイナ Aramides mangle Little Wood Rail
           コンゴウクイナ Aramides cajaneus Grey-cowled Wood Rail
           シロハラモリクイナ Aramides albiventris Russet-naped Wood Rail
           チャクビモリクイナ Aramides axillaris Rufous-necked Wood Rail
           アカバネモリクイナ Aramides calopterus Red-winged Wood Rail
           ハイムネモリクイナ Aramides saracura Slaty-breasted Wood Rail
          ナンベイヒメクイナ属? Mustelirallus (南米)
           ナンベイヒメクイナ Mustelirallus albicollis Ash-throated Crake
           コロンビアヒメクイナ Mustelirallus colombianus Colombian Crake (Neocrex属より移動)
           アカアシヒメクイナ Mustelirallus erythrops Paint-billed Crake (Neocrex属より移動)
          マダラクイナ属? Pardirallus (中南米)
           ハイイロクイナ Pardirallus sanguinolentus Plumbeous Rail
           キタハイイロクイナ Pardirallus nigricans Blackish Rail
           マダラクイナ Pardirallus maculatus Spotted Rai

         キューバクイナ族 (族学名未定)
          キューバクイナ属 Cyanolimnas
           キューバクイナ Cyanolimnas cerverai Zapata Rail (かつて Mustelirallus属)

      山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) の Sarothruridae, 新和名: アフリカクイナ科 はアフリカクイナの種名を持つもの (Canirallus oculeus) が新分類のクイナ科 Rallidae に移動したためため、名称を変える方が望ましいだろう。
      この分類での Zapornia属のタイプ種は Zapornia minuta Leach, 1816 = Rallus parvus Scopoli だが、第二回パブリックコメントに向けた暫定リストの公開では Zapornia pusilla にヒメクイナを与えているのでタイプ種とは一致していない。 Zapornia parva にはコクイナの名前があるが日本では記録されていないため、どの種を属名に用いるかは任意性もある。知名度も遭遇頻度も高く、先に記載されたヒクイナ Zapornia fusca (Linnaeus, 1766) があえて選ばれていないのは何か理由があるのだろうか。 ただし和名ヒメクイナ属は当時の属 Porzana に対して改訂第7版よりすでに使われている。ちなみに Porzana属だった時代はコモンクイナがタイプ種だった (現在の Porzana属でもタイプ種)。 Porzana属からまとまって移動された際に属和名もそのまま移行したものかも知れない。
      Boyd の提案によれば Zapornia属をさらに細分してヒクイナに Limnobaenus fuscus の学名を与えている (2種のみ)。 Kirchman et al. (2021) の系統樹ではヒクイナとコクイナの遺伝的距離は近いのでここではこの細分類は取り扱わないことにする。
      Lewinia属は Kirchman et al. (2021) では3種のみがリストされており、オークランドクイナ Lewinia muelleri Auckland Island Rail が含まれていない。本文中にも言及がないが、オーストラリアクイナの亜種とされることもあるためだろう。 Rallus aequatorialis Ecuadorian Rail も同様でコオニクイナ Rallus limicola の亜種とすることもある。エクアドルクイナのような名称が想定できるが探した範囲ではみつからなかった。
      Cabalus属は分割され消滅。旧 Neocrex属は統合で消滅 (Mustelirallus属のシノニムとなる)。
      シマクイナ/コビトクイナ?族 Laterallini の和名は日本産種を重視すれば前者、もとになった属を重視すれば後者となるだろうか。ニューギニアクイナ?属 Rallicula属の名称はパプアクイナが別属に存在するため、分布からニューギニアを与えてみた。 パプアクイナとなっている種も英名はニューギニア飛べないクイナなので新分類を見た上で和名を調整した方がよいかも知れない。 この種の種小名 inepta は「適さない」を意味するラテン語から愚かななどの意味として使われているようである。飛べないことなどが由来になっているかも知れない。 フランス名では Rale geant で geant は英語 giant に相当し、属名の由来となった「巨大なクイナ」となっている。 キューバクイナは和名からはキューバに広く生息している印象を受けるが、Zapata ザパタ半島の沼地のごく限られた場所にのみ生息し、IUCN CR種である。
      Porphyrio mantelli North Island Takahe と Porphyrio hochstetteri South Island Takahe は同種とされることもあり和名は両者を指してタカヘとしていることが多いと思う。
      カラヤンクイナ (フィリピン北のカラヤン島) が2004年に発見された時はヤンバルクイナに (最も) 近縁かと話題になったが、現代的な分子系統研究では別属が適切となった。これらの知見は IOC ではすでに取り入れられている。 Oliveros et al. (2011) カラヤンクイナの巣および卵の初記載
  • シロハラクイナ
    • 学名:Amaurornis phoenicurus (アマウロルニス ポエニクルス) 尻の赤い(赤紫の)暗色の鳥
    • 属名:amaurornis (合) 暗色の鳥 (amauros 暗色の ornis 鳥 Gk)
    • 種小名:phoenicurus (合) ジョウビタキ (床屋の看板の赤色から赤い鳥の意); 赤紫の (コンサイス鳥名事典)
    • 英名:White-breasted Waterhen
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 phoenicurus とされる。
  • ヒメクイナ
    • 学名:Porzana pusilla (ポルザナ プシッラ) ごく小さいクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:pusilla (adj) ごく小さい (pusillus)
    • 英名:Tiny Crake, IOC: Baillon's Crake (フランスの博物学者 Louis Antoine Francois Baillon に由来)
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Zapornia属。これは Porzana のアナグラム (Stephens, 1824)。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 Zapornia属はヒメクイナ属。 6亜種が認められている(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 pusilla とされる。 英名変更の理由は Little Crake Zapornia parva コクイナ と紛らわしいためかも知れないが、Baillon's Crake の名称は過去から使われていた。
  • コモンクイナ (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Porzana porzana (ポルザナ ポルザナ) クイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:porzana (トートニム)
    • 英名:Spoted Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。第7版で使われた Porzana属は分子遺伝学解析で単系統でないことがわかり、多くの種が Zapornia属他に移された。 日本産とされていた種で Porzana属にとどまるのはタイプ種のコモンクイナのみ。コモンクイナは日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では検討種 (文献で類似種との識別点の記載がない) に移動で、Porzana属は日本産リストから消える可能性がある。 コモンクイナはヨーロッパからモンゴルにかけて主に分布する種類で、ロシア極東にも記録がある。Porzana属の日本鳥類目録改訂第7版での名称はヒメクイナ属であったが、これは Zapornia属の名称となる予定のため、異なる名前が必要が必要になる。#クイナの備考に記載のリストではコモンクイナ属 (日本でも知名度がありタイプ種でもある) としてある。 和名のコモンは「小紋」とのこと。チュウクイナの別名があった (コンサイス鳥名事典)。
  • ヒクイナ
    • 学名:Porzana fusca (ポルザナ フスカ) 黒ずんだクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:fusca (adj) 黒ずんだ (fuscus)
    • 英名:Ruddy Crake, IOC: Ruddy-breasted Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Zapornia属。これは Porzana のアナグラム (Stephens, 1824)。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 4亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は erythrothorax (eruthros 赤い thorax, thorakos 胸板 Gk) 亜種ヒクイナ と phaeopyga (phaios 褐色の -pugos 腰の) リュウキュウヒクイナ とされる。
      さまざまな音声を出す。ヒクイナ (バードリサーチ鳴き声図鑑) などを参照して声に馴染んでおくとよい。よく「クイナの叩き」と言われる音声は一般的に「さえずり」に分類される。ここにも書かれているが、カイツブリに似たギュルルルルという声も出す。この図鑑では威嚇 (あるいは警戒音) 栃木県渡良瀬 2009-05-11 の音声が参考になる。 この音声はカイツブリの「さえずり」に大変よく似ていてつい (より普通に聞く) カイツブリと判定してしまうが、特に相手が見えていない場合ヒクイナの声の可能性はないかを念頭に置くべき識別対象である。紛らわしい場合はソノグラム (*1) も併用するとよい。#シマクイナの備考も参照。
      (注釈)
      *1: 音声を時間軸と周波数で2次元表示したもの。スペクトル表示 (sound spectrogram, spectrograph) などとも呼ぶ。日本では先人が「ソナグラム」をよく用いていたためこちらの名称の方がよく使われるようだが、英語では sonogram あるいは sonagram で、どちらも使われている。前者の方が使用頻度が高いため、この文書ではよく使われる方の英語の綴りを反映する意味で「ソノグラム」と記す。 専門的論文でも sonogram (sonagram) は問題なく使われているので学術用語として普通に用いてよいはずである。 sonograph, sonagraph の名称もあるが、これは少し古い時期に (高価な専用機材の名称とともに) よく使われていたもの。 なお一般の英語では sonogram (こちらも sonagram の使用頻度の方が低い) は医学などの超音波検査を指すものとして使われることが多い。厳密に表現したい場合は spectrogram や spectrum (複数 spectra) を含めた名称を使うのがよいだろう (これらの表現は音響学以外でも普通に使われる Spectrogram)。 時間とともに変化する信号の2次元スペクトル表示を指す名称として、他に dynamic spectrum という表現もあり、物理や工学の専門用語として使われる。生物の音を扱う学問は生物音響学 (bioacoustics) と呼ばれる。
      鳥の音声をスペクトル表示できるソフトはさまざまなものがあるが、フリーソフトウェアかつさまざまな編集作業のできるソフトとして Audacity が特にヨーロッパのバーダーによく使われている。 Raven (Lite) のように鳥の音声に特化したものではないので、最もよく見えるようにウインドウ幅を簡単に調整する機能などはないが、適切なパラメータを与えておけばほとんどの場合用が足りる。 Raven (Lite) で試された方は経験されているだろうがウインドウ幅を小さくする (時間分解能を上げる) と周波数の分解能は低下する。逆もまた真であり、スペクトルのどの部分に注目するか目的によってウインドウ幅を決めるものである。 「適切なパラメータを与えておけばほとんどの場合用が足りる」と書いたのは主にさえずりに対するもので、短時間の地鳴きの場合はウインドウ幅を小さくするのが適切、また音程の非常に低いあるいは高いものにはウインドウ幅を周波数に合わせて変更する。 時間分解能と周波数分解能の間の関係は (広義の) ハイゼンベルクの不確定性原理で決まっている。時間分解能と周波数分解能を同時に高めることは原理的にできない。つまり非常に短い音の周波数を正確に決めるのには限度がある。 少し専門的になるが、スペクトル表示を行う多くのソフトは短時間フーリエ変換 (Short-time Fourier transform, STFT) という手法を使っている。ウインドウ幅が 256, 512 のように2のべき乗になっているのはこの場合に高速に計算できる手法が知られているためである。 wikipedia日本語版の短時間フーリエ変換 に重要な情報はほぼ含まれているので音声解析をされる方は参照されるとよい。 すなわち音声のスペクトル表示をする論文であればウインドウ幅と窓関数に何を使ったかは記述しておいた方がよい (窓関数は通常 Hanning を使っておけば十分。結果にはあまり影響はない)。 古めの出版物などに掲載されているソノグラムで信号の周波数幅が妙に広いものを時々見受けるが、これは過剰に時間分解能を高めすぎて (= ウインドウ幅を小さくし過ぎて) 周波数方向に幅ができてしまっていると思われる。 このような場合は窓関数の影響も受け、適切な窓関数を使わないと疑似的な信号も現れる (サイドローブ sidelobe)。逆に言えばこのような極端な使い方をしない場合は窓関数は結果にはあまり影響を与えない。これらの過剰に時間分解能を高めた表示を見習うべきではないし、原理や限界も知って使うのがよい。
      またフーリエ変換の知識が多少あると目的信号に影響を (ほぼ) 与えないやってよい操作 (例えばハイパスフィルター high-pass filter、ローパスフィルター low-pass filter) と目的信号を変えてしまうやるべきでない操作 (ノイズ除去、ノイズリダクション noise reduction) の違いが理解できると思う。 日本の鳥声録音では先駆者の影響もあってノイズリダクションを使いすぎの場面が目立つように感じる。 海外では (少なくとも研究に使われる可能性のある録音に対して) このような編集が好ましくないことは常識となっていて、Audio preparation and upload guidelines eBird/Macaulay Library (ML) の投稿ガイドにもきちんと記載されている (8. Avoid filters and cosmetic editing: Noise reduction and other extreme editing techniques should never be used when editing your recordings for upload to the archive)。 「人に聞いてもらうために必要」な考えや、音源として販売するにはノイズリダクションが必要なこともあるかも知れないが、一般的に使わない方がよいと考えていただいてよい。また xeno-canto などにアップロードする場合にノイズリダクションを使いたい場合は処理後のものと元音源を両方アップロードしておくとよい。研究者は必要になれば後者を使うことができる (eBird/ML ではそもそも受け付けないかも知れない)。 この eBird のガイドには Audacity の使い方 (ただし英文かスペイン語) ガイドもあるので一読されるとよい。 費用のかかるソフトを使わなくても野鳥録音の編集は十分行える。
      録音には (例えばメモ程度の場合でも) できる限りリニア PCM (LPCM) 録音をすべきで (一般的には .wav 形式となる)、.mp3 形式では情報が失われる。どの程度失われるかは設定 (ビットレート) や背景音によって異なるが、現在の世界の主要音声データベースは .wav 形式に対応しているので最初から LPCM で録音し、.wav 形式でアップロードすべきである。 .mp3 形式などに変換すると例えば中心周波数に系統誤差が発生することも知られており、特に研究に用いる場合は低品質 (圧縮度が高い、背景音が大きいなど) .mp3 の使用は注意が必要である。 .mp3 形式などの不可逆的圧縮では重要でない部分の情報を捨てている。例えばバックでセミが大きく鳴いているような場合には情報がそちらに奪われてしまい、もっと低い周波数の鳥の声にわずかな情報量しか残らないことがある。LPCM で記録しておけば低い周波数の鳥の声に影響を与える不必要な高い周波数のセミの声をローパスフィルターで除去できるが .mp3 では鳥の声の部分だけを取り出しても貧弱なものになってしまう。 この点はビデオに記録された音声についても同様で、ビデオに音声も記録されているので大丈夫と考えると必ずしもそうでないこともある。ビデオを記録していても可能ならば同時に LPCM 録音をしておくこととおすすめする。 なぜ LPCM 録音が必要かは eBird/ML の Why wave (.wav) files? にも説明がある。
      (さらに専門的になるので興味ある方以外は読み飛ばしていただいて構わない) ソフトにはソースコードが公開されているオープン・ソースのものがあり、Audacity もそうである。 この場合は中でどのような処理が行われているか外部からも検証可能である。そうでないソフトはある意味ブラックボックスとして使うことになる。そのため自分がソフトを推奨する時はオープン・ソースのものを優先している (サンプルを紹介している R もそうである)。 世界的な音声データベース (現在では鳥以外も扱われ、生物の発する音全般を目指しているとのこと) の一つである xeno-canto はデータベース本体のソースコードを公開している GitLab xenocanto。 xeno-canto で使われているソノグラムの作成ソフトのソースコードも公開されており (GitLab soundprint/sonogen)、GitHub GStreamer のスペクトル生成機能を用いている。 プログラミングのできる人であればこれらを改良することも可能であろうし、技術継承のためにも有益であろう。
      知的財産の考え方にも違いがあるのだろうが、少なくとも鳥の分野ではソースコードなどの公開やデータの Creative Commons (CC, リンク先は wikipedia日本語版) 扱いについてヨーロッパが一歩進んでいるように思える (画像についても CC 扱いがよく行われている)。 Movebank というドイツの Max Planck Institute of Animal Behavior がホストとなっている移動性動物の経路追跡データベースがある。多くの種類が公開されており (Data -> Explore Map -> Search で学名などを入れると検索できる)、カムチャツカのカッコウ (#カッコウの備考参照) の渡り経路も公開されている。 オホーツク海を横切ってほぼ最短経路を飛び、インド洋も少し横切っていることがわかる。 この研究は CC ライセンスが与えられていないが、他の研究では CC ライセンスのものもいくつもあり、これらは出典を明示すれば複製などの利用ができる。例えばヨーロッパハチクマではフィンランドデータの追跡測位などが CC-BY ライセンスで公開されており、誰でも解析に用いることができる。 くまたか/日本野鳥の会筑豊支部でもさまざまな情報を積極的に公開されており、大変好ましいと感じている。
  • コウライクイナ
    • 学名:Porzana paykullii (ポルザナ パイクルイ) パイクルのクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:paykullii (属) paykull の (スウエーデンの詩人で鳥類学者 Gustaf Friherre von Paykull に由来)
    • 英名:Band-bellied Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Zapornia属。これは Porzana のアナグラム (Stephens, 1824)。種小名は変化なし。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。単形種。「世界鳥類和名辞典」(山階 1986) ではコウライヒクイナとされていた。 渡辺 (2005) Birder 19(5): 59-65 にクイナ類の解説と識別が記載されている。 先崎 (2017) Birder 31(2): p.31 に 2013年5月の北海道天売島での記録例がある。
  • マミジロクイナ
    • 学名:Porzana cinerea (ポルザナ キネレア) 灰白色のクイナ
    • 属名:porzana (合) Porzana ベネチア名でクイナ
    • 種小名:cinerea (adj) 灰白色の (cinereus)
    • 英名:White-browed Crake
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Poliolimnas属。polio 灰色の (Gk) limnas クイナ < limnas 沼地の (Gk)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。Poliolimnas属はマミジロクイナ属。 学名は Poliolimnas cinereusとなる(語尾が変わるので注意)。分子系統学に基づくクイナ類の分類は Kirchman et al. (2021) Phylogeny based on ultra-conserved elements clarifies the evolution of rails and allies (Ralloidea) and is the basis for a revised classification を参照。 Amaurornithini族 Poliolimnas属の一属一種となっている。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)での亜種は brevipes (短い脚) で、この亜種を認めている世界の主要リストは Avibase のみで、一般的には単形種とされる。この亜種は Ingram, C (1911) の記載による硫黄島のもので、英名では Iwo Jima Rail, Iwo Jima White-Browed Crake と書かれる。日本鳥類目録では亜種マミジロクイナとなる。1911年の採集以降の確実な記録がないとのこと。マミジロクイナの絶滅 (山階鳥類研究所の解説)。 wikipedia英語版によれば、最終観察は1924年 T. T. Moniyama によるものとのこと。亜種としては doubtfully valid (正統性が疑わしい) と記述されているが、世界の絶滅(亜)種一覧の項目として記載がある。 山階鳥類研究所の上記解説では島のクイナ類が絶滅しやすいことを説明している。この中でウェーククイナ Hypotaenidia wakensis 英名 Wake Island Rail (ヤンバルクイナ属) は第二次世界大戦の間接的結果により失われたことは記憶にとどめておくべきであろう (ウェーククイナの wikipedia日本語版、英語版を参照。この歴史は世界の鳥類学の中でもよく知られている)。
  • ツルクイナ
    • 学名:Gallicrex cinerea (ガッリクレックス キネレア) 灰白色のヤケイのようなクイナ
    • 属名:gallicrex (合) ヤケイのようなクイナ Gallus属 (ニワトリのもとになったセキショクヤケイなどを含む属) と Crex属 [ウズラクイナなどを含む属 < Crex (Gk) 鳴き声由来 (コンサイス鳥名事典)] から合成された属名 (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:cinerea (adj) 灰白色の
    • 英名:Water Cock, IOC: Watercock
    • 備考:一属一種で単形種
  • バン
    • 学名:Gallinula chloropus (ガッリヌラ クロロプス) 緑色の足のクイナまたはバン
    • 属名:gallinula (f) クイナまたはバン (< gallina (f) めんどり -ula (指小辞) 小さいもの)
    • 種小名:chloropus (合) 緑色の足の (chloros 緑色の pous 足 Gk)
    • 英名:Moorhen, IOC: Common Moorhen
    • 備考:属名は中世ラテン語でクイナまたはバン。ニワトリのような尾と立ち止まる動作から名付けられた (The Key to Scientific Names)。 5亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 chloropus とされる。 他の亜種は離島またはアフリカ以南のもの。
  • オオバン
    • 学名:Fulica atra (フリカ アトラ) 黒いオオバン
    • 属名:fulica (f) オオバン (fuligo (f) すす)
    • 種小名:atra (adj) 黒い (ater)
    • 英名:Coot, IOC: Eurasian Coot
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 atra とされる。
  •  ノガン目 OTIDIFORMES ノガン科 OTIDIDAE 

  • ノガン
    • 学名:Otis tarda (オティス タルダ) 動きの鈍いノガン
    • 属名:Otis (f) ノガン
    • 種小名:tarda (adj) 動きの鈍い (tardus)
    • 英名:Great Bustard
    • 備考:「コンサイス鳥名事典」や Helm Dictionary を含むいくつかの出典で、種小名はスペイン語でノガンの意味とあるが、現在はこの意味では使われておらず avutarda の単語が使われる。 これも avis tarda で動きの鈍い (ゆっくり歩く) 鳥を意味する。古スペイン語で tarda が使われたが、これもラテン語の「遅い」に由来する (ノガンの wikipediaスペイン語版より)。このため語源は原意のラテン語を採用した。 一属一種。2亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは dybowskii (ポーランドの動物学者でシベリアへ流刑された Benedykt Tadeusz Dybowski に由来) とされる。 英語の bustard は古フランス語 bistarda だが、遡ればいずれも avis tarda に由来する。 ノガン科は3亜科に分けられ、ノガンは Otidinae亜科に属する。
      ノガンは世界各国で減少しており、人工増殖などの取り組みが行われている。 いくつかの映像を紹介しておく ドイツの事例ザクセンのノガン保護施設絶滅に瀕した美 カザフスタンの事例で12:15あたりから人工増殖の様子、 23:30あたりから渡りの話で、越冬先の国際的な保護体制も重要である。 カザフスタン南部でのノガン放鳥の様子アブダビのノガン増殖施設と戻ってきたノガン
  • ヒメノガン
    • 学名:Tetrax tetrax (テトゥラックス テトゥラックス) 狩猟鳥の類
    • 属名:tetrax tetrax, tetracis 不明の狩猟鳥 < tetrax, tetragos (Gk) 食べられる狩猟鳥で確実に同定されていない (ライチョウ類かホロホロチョウの類か)。中世ラテン語で tetrex は大きいガンの一種か (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:tetrax (トートニム)
    • 英名:Little Bustard
    • 備考:一属一種で単形種。Otidinae亜科に属する。
  •  カッコウ目 CUCULIFORMES カッコウ科 CUCULIDAE 

  • バンケン
    • 学名:Centropus bengalensis (ケントウロプス ベンガレンシス) ベンガルの長い後爪のある足の鳥
    • 属名:centropus (合) 長い後爪のある足 (kentro刺す pous足 Gk)
    • 種小名:bengalensis (adj) ベンガルの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Lesser Coucal
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。6亜種あり(IOC)。日本で記録された亜種は lignator (lignatoris 木を切るもの < lignum, ligni 木) とされる。
  • カンムリカッコウ
    • 学名:Clamator coromandus (クラマトール コロマンドゥス) コロマンデルの大声で叫ぶ鳥
    • 属名:clamator (m) 大声で叫ぶ人 (clamo (tr) 叫ぶ -tor (接尾辞) 行為者を表す)
    • 種小名:coromandus (adj) インドのコロマンデル地方の
    • 英名:Chestnut-winged Cuckoo
    • 備考:単形種
  • オニカッコウ
    • 学名:Eudynamys scolopaceus (エウドュナミュス スコロパケウス) ヤマシギに似た色彩の大変強力な鳥
    • 属名:eudynamys (合) 大変能力のある (eu (int) よい、dunamis 能力、強さ Gk) ふしょと足が特に強力と記述された (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:scolopaceus (adj) ヤマシギのような (scolopax (f) ヤマシギ ceu (adv) 〜のように -s (語尾) 〜な) 体全体が濃灰色と濃褐色との記述 (The Key to Scientific Names)
    • 英名:Asian Koel
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。5亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは亜種不明とされる。 英名の Koel の由来はヒンディー語の koyal (声から) で、Eudynamys属などの広い種類を指す。
  • キジカッコウ
    • 学名:Urodynamis taitensis (ウロドュナミス タイテンシス) タヒチの立派な尾羽の鳥
    • 属名:urodynamis (合) 立派な尾羽の (oura 尾羽 dynamis 能力 Gk)
    • 種小名:taitensis (adj) タヒチの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Long-tailed Koel, IOC: Pacific Long-tailed Cuckoo
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • オオチュウカッコウ
    • 学名:Surniculus lugubris (スルニクルス ルグブリス) 喪服色の (縞模様の) 不吉なカッコウ
    • 属名:surniculus (合) 不吉なカッコウ (フクロウを意味する属名 Surnia 不吉なの意味と Cuculus属から合成)
    • 種小名:lugubris (adj) 悲しげな、喪服色の、不気味な
    • 英名:(Drongo Cuckoo), IOC: Square-tailed Drongo-Cuckoo
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。かつてはエンビオウチュウカッコウ Surniculus dicruroides Fork-tailed Drongo-cuckoo の亜種とされていたが、形態や音声の違いから別種となった。 lugubris の意味はほぼ黒いヒメオウチュウ Dicrurus aeneus Bronzed Drongo に比べて白い縞などが目立つことを意味したのではと考察した (#ヤマセミの備考参照)。全面の黒さを意識させるだろう「喪服色の」に加えてこの解釈を学名訳のかっこ内に追記した。 3亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは亜種不明とされる。かっこ内の英名は分離前のもの。
      形態はオウチュウに似ているが、ちょうどジュウイチがタカに似ているように托卵に有利に働くとの説がある。 Thorogood and Davies (2013) (#カッコウの備考参照) によれば、オオチュウカッコウ類はオオチュウ類に托卵すると考えられていたことがあったが実際にはあまり托卵せず、攻撃的なオオチュウ類を模して宿主を脅しているらしい (Johnsgard 1997)。
  • オオジュウイチ
    • 学名:Hierococcyx sparverioides (ヒエロコッキュクス スパルウェリオイデス) ハイタカに似たタカのようなカッコウ
    • 属名:hierococcyx (m) タカのようなカッコウ ヒエロ王 (hiero (m) ヒエロ王、転じて hierakos タカ coccyx (m) カッコウ)
    • 種小名:sparverioides (adj) sparverius ハイタカ < スズメのようなタカ (Catesby 1731 によるアメリカチョウゲンボウの種小名「小さなタカ」から) -oides (接尾辞) 〜に似た
    • 英名:Large Hawk-Cuckoo
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • ジュウイチ
    • 学名:Hierococcyx hyperythrus (ヒエロコッキュクス ヒュペリュトゥルス) 腹が赤いタカのようなカッコウ
    • 属名:hierococcyx (m) タカのようなカッコウ ヒエロ王 (hiero (m) ヒエロ王、転じて hierakos タカ coccyx (m) カッコウ)
    • 種小名:hyperythrus (合) 下が赤い (hyp- (接頭辞) 下のerythros赤い Gk)
    • 英名:(Hodgson's Hawk Cuckoo), IOC: Rufous Hawk-Cuckoo
    • 備考:旧英名の由来は英国博物学者 Brian Houghton Hodgson。この英名は現在インドシナジュウイチ Hierococcyx nisicolor に対して使われ、ジュウイチの現在の通常の英名は Rufous Hawk-Cuckoo または Northern Hawk-Cuckoo。 かつての学名は Cuculus fugax (fugax は「逃げ足の早い」; 音楽のフーガも同根で「逃げ去る旋律を追うように奏される」のような比喩も使われる) だったが分割されていずれも単形種となった。 現在種小名 fugax を継承しているものはマレーシアジュウイチ Hierococcyx fugax (英名 Malaysian Hawk-Cuckoo)。 ジュウイチの和名が鳴き声由来であることは有名だが、ジュウイチの完全なさえずりはジュウイチ、ジュウイチ...とトーンを上げてゆき、ピピピピ...と鳴いて終わる。 もと Hodgson's Hawk Cuckoo に分類されていたジュウイチ類は同様のパターンで鳴くが (音程などは異なる)、フィリピンジュウイチHierococcyx pectoralis (英名 Philippine Hawk-Cuckoo) のみは「ジュウイチ」の部分は2音ではなく、ホトトギスのような複数音からなる。
  • ホトトギス
    • 学名:Cuculus poliocephalus (ククルス ポリオケパルス) 灰色の頭のカッコウ
    • 属名:cuculus (m) カッコウ
    • 種小名:poliocephalus (合) 灰色の頭の (polio- (接頭辞) 灰白色の kephali 頭 Gk)
    • 英名:Little Cockoo
    • 備考:単形種。 インド亜大陸の個体群は高所 (標高1500-3200m) で繁殖し、冬はインド亜大陸の低所や南部に広く移動するとある。 他の既知の越冬地はサハラ以南の東から南アフリカ。アフリカ越冬地では通常はあまり出会う鳥ではないが、ケニア、タンザニアの沿岸の林で南半球の夏遅くから秋の早い時期にまとまった数が観察されている。 南アフリカでの赤色型 (hepatic/rufous morph) の報告例もある [Davies and Dvir (2020) Cuculus poliocephalus in South Africa, and the field identification of this morph in the Afrotropics]。 日本など東アジア個体群がどこで越冬しているかはよくわかっていない。多くの国のカッコウのアフリカへの渡りについては#カッコウの備考参照。 Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol. 1-2) によれば越冬域はアフリカ南東部が示され、(南アジア?) が付記されている。
  • セグロカッコウ
  • ツツドリ
    • 学名:Cuculus optatus (ククルス オプタトゥス) 待望のカッコウ
    • 属名:cuculus (m) カッコウ
    • 種小名:optatus (adj) 望ましい
    • 英名:Oriental Cuckoo
    • 備考:長らくヒマラヤツツドリ (現名称) Cuculus saturatus (英名 Himalayan Cuckoo) の亜種と考えられており、現在でもこの学名や対応する現地名を使っている出版物も多い (日本、海外とも)。 これらが別種とされていなかった時代には3種類 [ツツドリ、ヒマラヤツツドリ、スンダツツドリ Cuculus lepidus (英名 Sunda Cuckoo)] は Cuculus saturatus の亜種として扱われていた。しかしこれらを指す英名が Oriental Cuckoo とされていたため、狭義の Cuculus saturatus が Oriental Cuckooと呼ばれることも多く、しばしば誤解の原因となっている。分離されてこれらはすべて単形種となった。 Oriental Cuckoo のタイプ標本はヒマラヤ産なので、Cuculus saturatus を "Oriental Cuckoo" と呼ぶことは論理的にはふさわしい (wikipedia英語版より)。日本語で扱っている範囲では誤解の心配はないが、英語で記述する際は新旧いずれの分類に基づいているかを明確にするために種小名 (optatus) を添えておくとよい。
      [種小名の由来] 種小名が saturatus だった時代には「濃い色の」の意味であまり問題にならなかったが、「望ましい」の語源はわかりにくい。Gould (1848) Cuculus optatus, Gould., Australian Cuckoo によれば、オーストラリアに英国より入植があったが、故郷の鳥がまったくいないので寂しく思っていた (もっと派手な鳥がいるのに)。 おかげで外来種もたくさん入植したわけであるが、さすがにカッコウは持ち込めなかった。そこで発見された「待望の」(故郷のものに似た) カッコウだったことが由来とのこと。 Cuculus saturatus の亜種とされていた時は Cuculus saturatus horsfieldi (英名 Horsfield's Cuckoo) とされており、Cuculus horsfieldi の学名もしばしば使われたが、通常は Cuculus optatus のシノニムとされる [Cuculus horsfieldi Moore, 1857 なので Cuculus saturatus optatus Blyth, 1843 より遅い]。 英名の Horsfield's Cuckoo は現在でも別名として使われることがある。ヒマラヤツツドリは台湾まで分布しており、日本でも記録される可能性がある。
      [ツツドリとカッコウの中間のような鳴き声] ロシアでも極東からカムチャツカに広く分布し、ロシア語名は glukhaya kukushka (低い、あるいは深い声のカッコウ)。The song of birds (ウスリー地方のタイガの鳥の声)に収録されている (この音声ビデオは日本との共通種が多いので楽しく聞けるだろう) が、日本で聞くツツドリとは少し違う声に感じる。 この声とも類似する点が感じられるが、ツツドリとカッコウの中間のような鳴き声は極東でよく聞かれ (舳倉島でも海外バーダーによる記録がある)、ツツドリとカッコウの雑種ではないかとの推測もあったが、飼育下実験も含めて正体が判明した [Meshcheryagina and Opaev (2021) Previously unknown behavior in parasitic cuckoo females: male-like vocalization during migratory activity]。 飼育下実験で紫外線量を変化させて季節を模倣したところ、ツツドリ (仮親の巣から採取) のメスが春の渡りに相当する時期にこの声を出すことが判明した。野外でこの声が記録された場所や時期とも整合する。なお1羽は飼育下産卵も行った。日本内地でも渡り時期にこの声が聞かれる可能性があり注意が必要であろう。もし離島や大陸でしか聞かれない音声ならばさらに別の要因の考察が必要になるだろう。 アフリカのザンビアで赤色型ツツドリの記録がある [Mann (2013) First record of Oriental Cuckoo Cuculus saturatus optatus in Africa]。
  • カッコウ
    • 学名:Cuculus canorus (ククルス カノルス) 声の美しいカッコウ
    • 属名:cuculus (m) カッコウ
    • 種小名:canorus (adj) 声の美しい
    • 英名:Cuckoo, IOC: Common Cuckoo
    • 備考:4亜種が認められている(IOC)。
      [カッコウの衛星追跡] カッコウはなぜ他の鳥に比べて比較的遅く渡ってくるのか、あるいはヨーロッパのカッコウ (日本と同種) はなぜ日本より早く渡ってくるのかに疑問を持たれた方もあるだろう。図鑑のカッコウの分布図では東南アジアやインドにも越冬域が示されていて、日本のカッコウはそこで越冬していると考えるのも自然であろう。 実際に Cramp (1985) The Birds of the Western Palearctic Vol. 4 によれば、ヨーロッパで繁殖する個体群はアフリカに渡り、中国、モンゴル、極東シベリアで繁殖するものはインド南部や中国、ベトナム、マレーシア、インドネシアで越冬するに違いないと考えられていた。
      最近の衛星追跡による研究で東/北東アジアのカッコウもヨーロッパと同じくアフリカのサハラ以南で越冬していることが次々と明らかになりつつある: The Beijing Cuckoo Project (2016) (北京)、The Mongolian Cuckoo Project (2019) (モンゴル)、 カムチャツカのカッコウは17000kmにも及ぶ渡りを行っている: Sokolov et al. (2017初出の速報論文, 2020再掲) Migration routes and wintering places of European and Asian populations of the common cuckoo Cuculus canorus (pp. 2150-2153)。 これによればカムチャツカで春に捕獲 (成鳥、若鳥とも)。秋の渡りではヨーロッパ個体群と異なりバルカン半島を通過。サハラ砂漠を通過した後はいずれの個体群も同様でサヘル地域にしばらく滞在したとのこと。 カムチャツカの個体群はヨーロッパ個体群より南のアンゴラで越冬したとのこと。 北京近郊で標識されたカッコウの記録も触れられていて、5羽のうち少なくとも2羽は基亜種に属するとのこと。さらに春の飛行を続けてバイカル湖とモンゴルの間で夏を過ごし、8-9月に秋の渡りを始めて南へ渡り、ミャンマーに到着後西に移動、インドで1か月を超える休息をとり、アラビア海を超えて11月初めにはアフリカのソマリに到着。その後南に向きを変えてアフリカ東岸に沿うように南下してモザンビークで越冬。 春の渡りは秋のコースをほぼ逆行するものであった。これらの結果は東シベリアで繁殖するカッコウもこれまで考えられていた東南アジアやインドでなく、アフリカ東部で越冬することが明らかになった。 Lee et al. (2023) Long-distance migration of Korean common cuckoos with different host specificities (韓国)。 韓国のケースでは渡りルートは行き帰りともほぼ同じ。越冬地は3月に出発するが途中でしばらくとどまる。海を越えるための風の条件などが必要。
      これらの事例を見ると日本のカッコウもおそらく同様と考えられ、ヨーロッパに比べて日本へのカッコウの渡来が遅いのはアフリカからの距離が遠いことを反映している可能性がありそうである。
      なおヨーロッパのカッコウの渡りについてはよく知られていて、例えば Cuckoo Tracking Project のように公開されている。 東欧やロシア西部の例: Sokolov et al. (2023) Migration Routes and Wintering Grounds of Common Cuckoos (Cuculus canorus, Cuculiformes, Cuculidae) from the Southeastern Part of the Baltic Region (Based on Satellite Telemetry)
      The cuckoo sheds new light on the scientific mystery of bird migration の記事によれば捕獲されたデンマークからスペインに移動して放した個体が正しいルートで渡ったとの実験がある。捕獲された場所に一度戻った個体もある。成鳥なのですでに渡りを経験済みと考えられ、完全に本能のみで渡る幼鳥でも調べる必要がある。 同様の実験はカムチャツカ個体についても行われており、同様の結果となっている (上記 Sokolov et al. 2017)。
      こちらは移動して放したものではないが、カッコウ若鳥の渡り追跡: Vega et al. (2016) First-Time Migration in Juvenile Common Cuckoos Documented by Satellite Tracking 若鳥でも問題なく越冬地に到着し、成鳥とはタイミングが異なっていた。若鳥が自身の本能のみで越冬地に到着できることを示したもの。
      捕獲、標識、追跡タグ付けのビデオが紹介されている。カッコウの捕獲の難しさは悪評があるぐらいだそうである。解説: カッコウをどのように捕獲するか。網から簡単に逃げてしまい、羽毛の性状からかすみ網にかかりにくい。 ビデオ: How to Tag a Cuckoo
      [日本のカッコウ亜種の問題] 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では日本の亜種は telephonus (これは現在は通常 subtelephonus のシノニムとして扱われている) とされているが、Avibase (情報出典 Clements checklist) では基亜種 canorus がヨーロッパからシベリア、日本にかけて分布し、アフリカで越冬するとされていて日本鳥学会の見解と異なる。 亜種 subtelephonus はトルキスタンからモンゴル南部で越冬地は南アジアとアフリカ、亜種 bakeri は中国西部、北インド、ネパール、ミャンマー、タイ北西部の分布としている (長い渡りをしない)。
      Brazil (2009) の "Birds of East Asia" でも亜種 canorus は中国北東、日本、(シベリアから)チュコト半島、カムチャツカ、コマンドル島まで普通の夏鳥で、台湾では迷鳥とされており、この書物の扱う範囲では亜種 subtelephonus の記載はない。 Dement'ev and Gladkov (1951) の分布図でもシベリア東部、朝鮮半島、日本は亜種 canorus の扱いである (越冬分布にインドネシアやマレーシアも含まれているので越冬地では別種との混同があった可能性がある)。亜種 telephonus についても記述があり、腹部の縞が比較的狭く、やや小型であるとされているが、年齢や個体差もあって Dement'ev and Gladkov は亜種として区別できないとしている。 なおこの亜種名は Cuculus telephonus Heine, 1863 に由来する。同書では中国東部は亜種 fallax の扱いとなっているが、この亜種は現在は 亜種 bakeri のシノニムとして扱われている。この分布図と上記 Clements checklist での bakeri の現代的な分布の記載との整合性はあまりよくない。
      Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol. 1-2) による亜種区分では日本北部は canorus の分布域となっており、アフリカに渡るとされる。 同リストでは subtelephonus の分布域は南ウラル、中央アジア、カザフスタン、アフガニスタン、パキスタン、中国北西部でこれらもアフリカに渡るとされている。 他亜種も含めて同リストではアフリカ以外の越冬域は示されていない。
      [青い卵を産むカッコウ] 青い卵を産むカッコウが知られている。Fossoy et al. (2016) Ancient origin and maternal inheritance of blue cuckoo eggsおよび日本語解説 によれば、この「青い卵」の遺伝子は母性遺伝することが明らかになった。ミトコンドリアの系統樹ではこの「青い卵」は他のカッコウ類 (例えばツツドリ) が種分化する以前に現れていた (ミトコンドリアで系統樹を描くと核 DNA による系統樹と別になってしまう)。他の点は全てカッコウだが、青い卵だけは別種相当ぐらい違っている、との驚くべき結果となった。
      [カッコウの渡来時期は何で決まる?] ヨーロッパのカッコウであるが、Davies et al. (2023) Spring arrival of the common cuckoo at breeding grounds is strongly determined by environmental conditions in tropical Africa 多数の個体を衛星追跡した結果、ヨーロッパへの到来時期を決めているのは従来想像されていたような渡り途中の条件ではなく、アフリカの越冬地をいつ出発するかが重要であることがわかった。 多数の個体が同じ時期に移動することがわかり、越冬地からサハラ砂漠を越える渡りに適した条件に許される幅が狭く、あまり融通が効かないのだろうとのこと。また前年の秋の渡りからの持ち越し効果も考えられるとのこと。
      森下 (2005) Birder 19(5): 38-39 によれば1998年のカッコウやホトトギスの渡来が1か月ほど遅れたが翌年は平常だった報告がある。古い話なので検索しても当時の状況が出てこないが、カッコウの出発が越冬地で決まり、日本のカッコウもアフリカで越冬するならば当時のアフリカの気象などを調べればヒントが得られるのかも知れない。 この年は最も強力なエル・ニーニョ現象が起きており 199798 El Nino event 越冬地の出発時期に影響を与える事象があったのかも知れない。 同年にヨーロッパのカッコウの渡来が遅い記事は探した範囲で見つからなかったが、極東のカッコウは東アフリカが経路になりそうなので気候の影響はヨーロッパの個体群とは違うかも知れない。
      [カッコウのタカへの擬態] カッコウ類の模様がタカへの擬態となり托卵に有利に働いたりタカに捕食を防ぐとの考えは昔からあったが宿主がどのように反応するかを調べた研究がある。 Davies and Welbergen (2008) Cuckoohawk mimicry? An experimental test。 下面の模様をハトのようにすると小鳥 (ヨーロッパシジュウカラやアオガラ) の警戒が激減し、カッコウの模様をハイタカのように認識している証拠が初めて得られた。これらカラ類はカッコウによる托卵を経験することはなく、カッコウをタカと誤認していることがわかる。 ちなみにタカの横縞は枝の中では目立たない (Newton 1986)。タカとカッコウの収斂進化による模様との考えもある。タカへの擬態でタカに捕食を防ぐ考えは Wallace (1889) に始まる。 タカと誤認させることによる行動で宿主が巣の位置を明らかにしてしまう (Craib 1994) など。
      Ma et al. (2018) Hawk mimicry does not reduce attacks of cuckoos by highly aggressive hosts によれば攻撃的な宿主 (ここではオオヨシキリ) に対して、宿主はカッコウと無害な鳥を区別するがカッコウへの攻撃は減らずタカへの擬態はあまり有効でない結果が得られた。
      我々もしばしば猛禽類のように思ってしまう (?) カッコウ類の地鳴きもメスが托卵する際にタカを音声で擬態して宿主を脅している可能性も指摘されているそうである: Moskat and Hauber (2023) On the sparrowhawk-like calls of female common cuckoos: testing for heterospecific vocal mimicry in a conspecific functional context。 カッコウのオスがカッコウのメスの声、ハイタカの声などに反応するかを調べた研究。 基本周波数は似ているが倍音が異なるためにカッコウのオスは音の質で同種メスを聞き分けている模様。 ハイタカの声も倍音をそれらしく操作するとカッコウのオスの反応が増したとのこと。 タカに音声で擬態するとともに同種内の信号として役立てているらしい。
      さらにカッコウ類の系統進化と模様の進化、色彩の多型の関係を調べた論文: Thorogood and Davies (2013) Hawk mimicry and the evolution of polymorphic cuckoos 解釈はともかく系統樹を見るだけで十分面白いと思う。我々が日本で普通に出会うカッコウ類はたまたま (?) タカに似たものが多い系統のようで、他系統ではそれほどでもないようである。
  •  ヨタカ目 CAPRIMULUGIFORMES ヨタカ科 CAPRIMULGIDAE 

  • ヨタカ (分割で日本産学名も変わる予定)
    • 学名:Caprimulgus indicus (カプリムルグス インディクス) インドのヨタカ (新学名ではヨタカ)
    • 属名:caprimulgus (m) ヨタカ (capra (f) 牝ヤギ mulgeo (tr) 乳をしぼる)
    • 種小名:indicus (adj) インドの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(Jungle Nigthjar), IOC: Grey Nightjar
    • 備考:goat-suckerとも呼ばれ、ヤギの乳を吸うと考えられた。鳥 (オス、春に) を標本にする時に強いヤギの臭いを出すことに気づいて、ヤギの乳を吸うとの迷信も理解できると Coues (1874) は述べた。 現在は以前の2亜種 jotakahazarae が分離され、Caprimulgus jotaka (英名 Grey Nightjar) に含まれる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ扱い。 日本で記録されるヨタカは亜種まで含めた学名で Caprimulgus jotaka jotaka となる。旧英名の Jungle Nigthjar は IOC では分離された Caprimulgus indicus ジャングルヨタカ が引き継ぐ。これは Indian Jungle Nightjar とも呼ばれる。
      繁殖生態について、福丸 (2021) Birder 35(6): 38-41 「貴重な求愛シーンを記録![ヨタカ観察レポート]」に求愛や交尾などの行動や音声について報告されている。
      Chen and Field (2020) Phylogenetic definitions for Caprimulgimorphae (Aves) and major constituent clades under the International Code of Phylogenetic Nomenclature ヨタカ、アマツバメ、ハチドリなどの系統と分類群の名称の提案の論文がある。 過去の分類ではこれらはフクロウ類の後に並べられており、夜行性グループがなんとなくまとまっている感じがあったが、現代の分子系統樹は全く異なっている。ヨタカ、アマツバメ、ハチドリが共通の系統に属することの意義について#アマツバメの備考を参照。
      [ヨタカ類の視覚特性] ヨタカ類の視覚特性は他の鳥と大きく違っていることが知られている。 Salazar et al. (2020) Anatomical Specializations Related to Foraging in the Visual System of a Nocturnal Insectivorous Bird, the Band-Winged Nightjar (Aves: Caprimulgiformes) 後方にも両眼視のできる視野を持っているが神経数から視力は悪いと考えられる。視力だけで獲物を捉えることは難しく、口を大きく開けると捕食対象が正面で見えないので、口ひげ状の羽毛が横方向にあってセンサーになっているのではと考えている (他に聴覚を使っている可能性も議論されている)。 ごく大雑把に比喩的に言えばヨタカ類の目は昆虫の複眼に近い機能で、虫がいることを検知すると後は触覚で対応しているのかも知れない。 #ヨシゴイの備考で櫛状の爪 [pectinate(d) claw, または櫛歯] がヨタカ類で発達していることを示す文献を紹介しているが、口ひげ状の羽毛が捕食に特に重要な役割を果たしているためそれを整える意義があるのかも知れない。
      ヨタカ類の一部には網膜に「反射板」(tapetum lucidum) があり、光の利用効率を高めている [Nicol and Arnott (1974) Tapeta lucida in the eyes of goatsuckers (Caprimulgidae)]。
      [反響定位を行うアブラヨタカ] 日本の鳥ではないがヨタカ目アブラヨタカ科に アブラヨタカ Steatornis caripensis 英名 Oilbird という種類がある。 Brinkov et al. (2017) Oilbirds produce echolocation signals beyond their best hearing range and adjust signal design to natural light conditions によれば夜行性で、洞窟に住んでコウモリのように反響定位 (echolocation エコーローケーション。エコロケーションの表記も使われるが原語や綴りを反映するためにエコーを使う方がよいと思う) を行う (食物は脂肪に富んだ果実)。 反響定位の音はコウモリに比べて低いが音の性質はよく似ている。人の可聴域にも入る。 アブラヨタカが高い音を聞き取る能力は他の鳥よりよいわけではなく、反響定位の音のピークとは一致しない。実際に聞いているのは8kHz以下の部分であろうとのこと。 また目の感度は脊椎動物で最も優れており、瞳孔も9mmまで広がるそうである。 Birkhead による "Bird Sense: What It's Like to Be a Bird" (2012)、邦訳されてティム・バークヘッド著; 沼尻由起子訳「鳥たちの驚異的な感覚世界」(2013 河出書房新社) によればアナツバメ類にも反響定位を行うものがあるそうである。
      音は光と同様に波であり (光は電磁波で可視光の波長は1ミクロンより小さい。音は空気中の粗密波である点は違いがある)、光の回折限界が視力の上限を決めるように (#イヌワシの備考参照) どのぐらい小さな目標を反響定位できるかは音の波長で決まる (波長よりずっと小さなものは音を反射することができない)。 常温での音速は340m/s程度で、2kHzの音だと波長は340/2000 = 0.17m = 17cm となる。「鳥たちの驚異的な感覚世界」によればアブラヨタカは電線のコードを避けることはできず、20cmより小さいものは反響定位で認識できていないようでこの見積もりとよく合う (反響定位の音のピーク周波数もその程度で、もっと高い音は聞こえていないか反響定位に有効に用いられていないのだろう)。 コウモリが反響定位にずっと周波数の高い超音波を用いているのはこのため。例えば50kHzの超音波だと7mmぐらいのものを検出することができる。鳥類の聴覚には哺乳類に比べて内耳の蝸牛が短いことによる物理的限界があり、コウモリレベルの反響定位は行うことができない。
      音が波であって回折を伴うことは鳥類学の他の分野にも関係するので合わせて紹介しておく。例えば樹木があると幹の両側を通った音が回折を受けて干渉する。これは幹の太さと音の波長の関係で決まるので、幹の太さよりずっと長い波長の音 (低い音) はこの効果をほとんど受けずそのまま通過することができて遠くまで届く。 幹の太さ程度の波長の音は干渉の影響が大きく何度も干渉を受けることで急速に減衰して遠くまで届かない。森林性の鳥で遠くまで伝わる声とそうでない声があるのはこの原理による。 また樹木などでさえぎられた遠くの鳥の声の音質が本来と変わって聞こえるのもこのためである。すぐ近くで直接聞けば識別できる地鳴きが樹木を通すと識別不能 (例えばシロハラとウグイスの地鳴きが区別できない) になることはしばしば経験する。 森林性の鳥の声の音程もだいたいの傾向として届かせたい距離に合ったものになっている。
      [その他] ズクヨタカ科 (Aegothelidae, Owlet-nightjars) と呼ばれるヨタカに似た形態と習性を持つグループがありヨタカ目に含まれるか長く議論の対象だった、現在では この科単独でズクヨタカ目 Aegotheliformes を形成する。ヨタカ目よりアマツバメ目に近縁。 和名の由来はズクがミミズクから (コンサイス鳥名事典)。
  •  アマツバメ目 APODIFORMES アマツバメ科 APODIDAE 

  • ヒマラヤアナツバメ (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Aerodramus brevirostris (アエロドゥラムス ブレウィロストゥリス) 短い嘴の大空を走る鳥
    • 属名:aerodramus (合) 大空を走るもの (aer (m) 大空、dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:brevirostris (adj) 短い嘴の (brevis (adj) 短い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) の)
    • 英名:Himalayan Swiftlet
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版で検討種に移動 (同定に確実性なし)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。3亜種あり(IOC)。
      五百沢・岡部 (2004) Birder 18(10): 67-69 にヒマラヤアナツバメ? の1999年の記録が紹介され、過去の13件のヒマラヤアナツバメ? の記録のリストがある。
      アナツバメ類における反響定位 (#ヨタカの備考参照): Kevin and Clayton (2004) The evolution of echolocation in swiftlets。 従来は Aerodramus属と Collocalia属は反響定位の能力の有無で分けられていたが、Collocalia属にも反響定位を行う種類が見つかったとのこと。
  • ハリオアマツバメ
    • 学名:Hirundapus caudacutus (ヒルンダプス カウダクトゥス) 先の尖った尾のツバメのようなアマツバメ
    • 属名:hirundapus (合) ツバメのようなアマツバメ (Hirundo (ツバメ) 属と Apus (アマツバメ) 属の合成)
    • 種小名:caudacutus (adj) 先の尖った尾の (cauda (f) 尾 acutus (adj) 先の尖った)
    • 英名:White-throated Needle-tailed Swift, IOC: White-throated Needletail
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 caudacutus とされる。
  • アマツバメ
    • 学名:Apus pacificus (アプス パキフィクス) 太平洋の足のない鳥
    • 属名:apus (合) 足無し (a 無い pous 足 Gk)
    • 種小名:pacificus (adj) 太平洋の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(White-rumped Swift), IOC: Pacific Swift
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では kurodae 亜種アマツバメ と pacificus キタアマツバメ となっている。IOC では kurodaekanoi (日本の人類学者 Tadao Kano に由来) にシノニムに含めている。これは Yamashina (1942) で記載されたもの。
      [分類と亜種] Dement'ev and Gladkov (1951) の扱いでは当時3亜種で、Apus pacificus pacificus Latham, 1811 (北に分布)、A. p. leuconyx Blyth, 1845 (ヒマラヤとデカン高原)、A. p. cooki Harrington, 1913 (インドスタン) であった。 同書で A. p. pacificus のシノニムとされていたものは、Hirundo apus var. leucopyga (バイカル)、Micropus pacificus kurodae Domaniewski, 1933 (日本)、Micropus pacificus kamtschaticus Domaniewski, 1933 (カムチャツカのペトロパブロフスク) となっていた。
      Leader (2010) Taxonomy of the Pacific Swift Apus pacificus Latham, 1802, complex は亜種 pacificus, kanoi, cooki, leuconyx, kurodae, salimali (いずれも当時の亜種名)の標本を用いて計測値や羽衣で識別可能かを調べた。 cooki, salimali, leuconyx はそれぞれ他と容易に識別できる(生態にも異なる点がある)。kanoikurodaepacificus と区別できるが、kanoikurodae は区別できなかった。 なお kurodae のホロタイプ標本は戦災で失われたため、ホロタイプ間での比較は不可能である。kurodae の採集地は日本としか記されていない。kanoikurodae はシノニムの関係にあり、先取権の原則からは亜種名は kurodae であるべきとしている。
      Leader (2010) は当時のアマツバメを4種に分ける提案を行い、これは現在 IOC でも採用されている。Pacific Swift Apus pacificus, Salim Ali's Swift Apus salimalii サリムアリアマツバメ, Blyth's Swift Apus leuconyx ブライスアマツバメ, Cook's Swift Apus cooki クックアマツバメ。 Apus cooki はかつてアマツバメの亜種とされていた Dark-rumped Swift Apus acuticauda セグロアマツバメ と上記4種の間をつなぐ位置にあるとのこと。4種に分離されたうちのアマツバメの英名として、(かつて使われた) Fork-tailed Swift はふさわしくない (同属のほとんどの種類がこの特徴を持つため) としている。 wikipedia英語版にも記載があり、南部の亜種は kurodae に先取権利があるため Clements は現在 (2011) こちらを用いているとの注釈がある。2023年現在もこの扱いであり、もし北部と南部で亜種が分かれるのであれば IOC より日本鳥類目録の扱いが正しいように思われる。 なお Leader (2010) は Dement'ev and Gladkov (1951) で当時の亜種 pacificus のシノニムとされた他のものは調査していない。
      Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では4亜種で leuconyxsalimalii を独立種としていない点が IOC と異なる。 この分類では kurodae について、pacificus に含まれる可能性を挙げ亜種リストには入れていない。
      旧英名 White-rumped Swift はもともとセグロアマツバメ (Dark-rumped Swift) を アマツバメから分離する際に導入された名称だが、同じ英名は IOC では アフリカコシジロアマツバメ Apus caffer に使われている。
      亜種の分布域については必ずしも明瞭でない。Clements では kurodae は日本南部、中国東部、台湾、フィリピン北部としている。Brazil (2009) "Birds of East Asia" では対応する kanoi は中国南東部、台湾、蘭嶼 (Lanyu島) で繁殖する留鳥となっているが、この文献は Leader (2010) 以前に書かれたものであることにも注意が必要であろう。海外の観察者の報告を見ると、この地域の留鳥を kanoi と判断している印象を受ける。 亜種分類や分布についてはまだ明確と言い切れないようである。
      アマツバメ類の分子遺伝学研究は Paeckert et al. (2012) Molecular phylogeny of Old World swifts (Aves: Apodiformes, Apodidae, Apus and Tachymarptis) based on mitochondrial and nuclear markers にあるが、種レベルの系統である (当時はアマツバメはまだ4種に分割されておらず、亜種の扱いで pacificus, cooki のみが調べられている。 現在の分類で Apus cookiApus acuticauda に近縁である結果となっており、Leader (2010) の見解とは整合性があるが、過去に Apus pacificus の亜種とされていたこととは整合性の悪い結果となっている。Leader (2010) の分離した他の種、アマツバメとして残された亜種との関係を今後調べる必要があるのだろう。
      Leader (2010) にもたびたび登場するが、アマツバメ類の研究家としてデイヴィッド・ラック (David Lack) とその著書、丸武志訳「天上の鳥アマツバメ」(平河出版社 1997) を挙げておく必要があるだろう。ラックは他にも多数の本を著しており、古典的名著も多く邦訳もいくつもある。 これはヨーロッパアマツバメ Apus apus 英名 Common Swift を扱ったものでヨーロッパでは非常にありふれた鳥である。分布を見ると東アジア近くまで広がっていることにやや驚かされるが、日本でも記録があるとされているが類似種との識別の記載がないため検討種になっている。提案されている亜種は pekinensis (北京の) である。
      [星空の Apus] 天文ファンであれば Apus の名前を見るとむしろ「ふうちょう座」を想像するかも知れない (星座の学名もラテン語である)。この「ふうちょう」はもちろんフウチョウ (風鳥。極楽鳥の別名もあり、英語名はこちらに対応) のことであり、フウチョウ科 Paradisaeidae の学名とは全く異なる。 16世紀、ヨーロッパに初めてオオフウチョウがもたらされた時、各個体は剥製にする際に交易用に翼と足を切り落とされた状態で運ばれていた。そのため、この鳥は一生枝にとまらず、風にのって飛んでいる bird of paradise (天国の鳥) と考えられた (wikipedia日本語版から) ので、足のない (a-pus) のラテン語の起源は同じである。 「ふうちょう座」の wikipedia日本語版にはいろいろ面白いことも書かれているのでご覧いただくとよい。ハチを意味する Apis (ヨーロッパハチクマの学名に登場する) と間違われたこともあるとのこと。なお日本からは(事実上)見えない南半球の星座である。 鳥の名前の星座はいくつかあるが (はくちょう座、わし座などが有名で神話に基づく)、多くは南半球にあって日本からは見えないか見えにくいものが多い。これらは南方から珍しいものがヨーロッパにもたらされるようになった時期に作られたものが多い(鳥の世界とは違って今後新しい公式の星座が作られることはない)。南半球の天文ファンは夜空を見て鳥ばかり見ていることになり、北半球の鳥ファンにとってはうらやましい。 公式の星座名には現れないが「こぎつね座」はもと「ガチョウをくわえた小キツネ」であって星座絵にはガチョウが描かれている。こと座の一等星ベガ (Vega、織女星) は「落ちるワシ」(降下するワシ)の意味で、こと座の星座絵には琴を抱えたワシがよく描かれている。つまり「夏の大三角」と呼ばれる一等星はすべて鳥と縁がある。この付近の星座絵を見ると鳥ばかりで図案的にも面白いので星座絵の代表的部分としてよく利用される。
      [アマツバメやハチドリは夜行性を体験したか?] そろそろ飽きて来られた方もありそうなので鳥の話に戻ろう。日本にはハチドリがいないので身近な鳥ではないが、アメリカではごく身近な鳥で庭に (日本の家の庭の規模を想像してはいけないが) 当たり前にフィーダーが置いてあったりする。蜜を吸っているところを見てあまりに鳥らしくないのでもっと近づいて見ようとすると逃げられて、やはり鳥なのだと認識させてくれる。 日本産の鳥のうち、ハチドリに最も近い系統がアマツバメ目である。これらは分子遺伝学による現世鳥類の系統分類ではヨタカ類が最初に分岐した枝に含まれる。新しい分類に基づく図鑑ではこれらの種類が一緒に並べられているのはそのためである。この分類群を Strisores (和名があるのかは知らないが、中国語名では夜鳥類と呼んでいる。英名の別名も nightbirds) と呼ぶ。 Prum et al. (2015) A comprehensive phylogeny of birds (Aves) using targeted next-generation DNA sequencing に系統樹が出ているのでご覧いただきたい。なおこの Prum プラム は#エトロフウミスズメの備考「美の進化」に出てくるのと同一研究者である。 系統解析からの最も"単純な解釈"では、ハチドリは夜行性のヨタカ類の枝に含まれていて、800万年の夜行性生活の後に再度昼行性 (アマツバメ、ハチドリ) を獲得したことになる。 夜行性だったことの影響はどのように現れているかは (この論文の時点で) 未知であると書かれている。 哺乳類では長く夜行性生活を体験したために本来視覚にあったはずの4原色のうち2原色を失い、大半の種で2原色であることはよく知られている。鳥でも夜行性のものは4原色の一つである紫外線の受容体を失う傾向がある (例えばフクロウ類。#フクロウ#カタグロトビの備考も参照)。 しかしハチドリ類が優れた色覚を持っていると考えられる証拠がある。例えば Venable et al. (2022) Hummingbird plumage color diversity exceeds the known gamut of all other birds。夜行性を経験した後でも優れた色覚を保持していたのか、あるいは失った後に獲得したのか、それとも夜行性を経験しない進化経路を経ていたのか、大変興味深いことである。 アマツバメ類についても同様の視点からぜひ調べるべきであろう。
      [渡り鳥における磁気定位] ごく最近になって思わぬ方向からこれにも関係した知見が得られている。 ご存じの通り、渡り鳥、特に夜に渡る渡り鳥がどのように方向を定めているのか(定位)、長らく研究が続けられてきた。プラネタリウムも用いた実験により調べられた夜空の星の回転方向から方角を定める方法、日の出・日の入りの太陽の方向、薄明時の空の偏光が知られており、いずれも実験的証拠がある。
      渡り鳥が地球磁場を感じていることも実験で示され、かつてはハトの嘴の付け根にある磁鉄鉱が磁気を感じているなどの仮説があったが、現在最も有力と考えられ、盛んに研究されているものは網膜に存在するクリプトクロム (*1) である。 主にヨーロッパコマドリを使った実験が行われているが、光を与えないと磁気定位ができないそうである(まったく暗黒では寝てしまうそうで実験ができないわけであるが)。その時に赤い光では磁気定位ができず、青い光が必要との実験的証拠が得られている。このような光依存、波長依存性のある磁気感応物質として現在生体で知られている唯一のものがクリプトクロムであり、それが鳥の網膜に存在していることで、磁場を視覚で感知している可能性が高いことが明らかになった。
      この先しばらくは分子の話など非常に難しくなり読み飛ばしていただいても構わないが、現在の「鳥の渡りの科学」の到達点の一つにもなりそうなので、少し頑張って読んでいただくとよいと思う(英語の大丈夫な方ならば、文章だけよりも後半に紹介されている YouTube 動画の説明を聞くとよい)。 クリプトクロムの中にあるフラビン色素 (flavin) とクリプトクロムタンパク質中のトリプトファン残基の間で、光を受けることでラジカル対が生成される(トリプトファン残基からフラビンに電子が1個移動してそれぞれの分子に不対電子ができる。光子のエネルギーが波長で決まる (*2) ことから青い光でないとこの反応が起きない)。 ただしラジカル対の寿命がそのままでは非常に短いため磁気検出に用いることができない。ところがクリプトクロムの中では3次元的に畳み込まれたタンパク質分子の中で4つのトリプトファン (*3) 残基が並び、電子伝達を行って片方の電子を遠く運ぶことで (*4) ラジカル対の寿命を大幅に延ばすことができて生体が磁場を感知することを可能にしていると考えられている。 フラビン色素にある方の不対電子は電子の持つスピン (後のもう少し詳しい説明を参照) と、フラビン色素を構成する一部の原子核の持つスピンとの間で相互作用を起こす (古くから知られている電子スピン共鳴に用いられるもの)。この影響が引き離されたもう1個の不対電子と相関を通じて別の分子に伝わって (これ以下の部分の具体的機構はまだ未解明)、何らの過程を経て神経の信号となり、磁場情報として取り出されると考えられている。
      磁場感知に関係するクリプトクロムは鳥が一般に持つ網膜の4種の色覚受容体細胞のうち、紫外線を感受する細胞にあると考えられている。クリプトクロムは網膜全体に分布していることが知られており、眼球内で全方向を向いて整列分布することによって磁場の方向を検知することができると考えられている (この部分の具体的な処理機構はまだ未解明)。磁力線の方向はわかるが、N極・S極を区別することはできない。これは鳥の行動実験結果とも合っている。磁場の方向はわかっても南北はわからないことは、もしかすると逆方向への渡り (迷鳥) のメカニズムにも関係しているかも知れない。
      実験室での渡り鳥の光依存、波長依存性行動はラジカル対仮説を裏付けるものであるが、さらにもう一つ実験的証拠がある。ラジカル対仮説では電波がラジカル対に影響を与えることが期待されるが (*5)、この影響も実験とほぼ合致した。ちなみに渡り鳥の磁気定位を乱す電波の周波数上限は120-220MHzと理論的に見積もられていた。新しい実験で116MHzが上限と求められた。渡り鳥の定位に対して提唱されている他のメカニズムでこのような現象を説明することはできない。 Leberecht et al. (2023) Upper bound for broadband radiofrequency field disruption of magnetic compass orientation in night-migratory songbirds。 ちなみに現在使われている携帯電話などの電波は影響を与えない領域にあり、携帯電話の電波が渡り鳥の行動を乱すとの説は現在では根拠がない。
      以下はしばらく歴史の話になる。 渡り鳥が磁場を感じるメカニズムとしてのスピン状態 (*6) の可能性が提案されたのは意外に古く、Leask (1977) が色素 (当時は網膜で光を感じる色素のロドプシンが想定されていた) のスピン状態の変化が関わっている可能性を指摘していた。渡り鳥が磁場を感知する機構としてスピンを提唱した最初の研究を挙げる場合はこの Leask (1977) がふさわしい。 そして Schulten et al. (1978) が「ラジカル対」を提唱したが、あまりにも時代の先を行き過ぎていて理解されなかった。1970年代では化学者にとってさえもラジカル対の研究は始まったばかりであった。「鳥の渡りの謎」(1994 ベーカー、原書 1985) では「スピン状態」としてすでに言及されていた。 色素のスピン状態が関連しているアイデアは Hong (1977) がすでに出していたが、実験室で磁場がラジカル対化学反応に与える影響や光合成する細菌への影響なども確かめられた結果、Schulten et al. (1978)のアイデアにたどりついた模様である。 渡りの定位が周囲の光の波長に依存することは1990年代には知られていた。Gwinner (1974) "Endogenous temporal control of migratory restlessness in warblers" によると光がない状態では渡りの不穏 (*7) も止まるとのこと。 事態を一変させたのは Ritz, Adem, Schulten (2000) が生物学者にも読める形でクリプトクロムの関与する磁気受容を提唱したことに始まる (A Model for Photoreceptor-Based Magnetoreception in Birds)。
      タンパク質のアミノ酸配列は遺伝子を解析すれば決まるが、タンパク質の3次元構造はすぐわかるわけではない。コンピュータプログラムの進歩でかなり正確な予測ができるようになっているが、やはり正確な構造決定にはタンパク質を結晶化させて (これには大変高度な技術が必要である)、そのX線などによる解析で3次元構造を知るのが王道である。 脊椎動物 (ハト) のクリプトクロム (Cry4) の結晶化に初めて成功したのが Zoltowski et al. (2019) Chemical and structural analysis of a photoactive vertebrate cryptochrome from pigeon で、上記の解釈で想定されていた化学的性質を示すことが確認された。 このあたりはさまざまな分野の研究者 (化学者や物理学者および生物学者)の協力が必要で、現在最先端で盛んに研究が行われる集学的テーマとなっている。地球磁場程度の弱い磁場をいかに感知することが可能かどうかも最先端の量子化学計算で調べられている (鳥の渡りの研究はもはや生物学者だけのものではなくなってしまった)。
      クリプトクロムは現在「本命」であるが、生物学者サイドから疑問 (批判的視点) も含めて渡り鳥の磁気定位についてレビューされた論文もある。Nimpf and Keays (2022) Myths in magnetosensation。この中の疑問は現在では解決されている、あるいは有力な解決法が提案されているものもあり、生物学者が理解困難な領域であまりにも急速に進展したこの分野に対する「焦り」のようなものも感じられる。
      クリプトクロムにも何種類かあり、一部は体内時計 (概日リズム、サーカディアンリズム) の維持に役立っているとされているが、夜に渡る渡り鳥 (*8) の磁場感知に最も関係が深いと考えられているものに Cry4 がある。 Frederiksen et al. (2023) Mutational Study of the Tryptophan Tetrad Important for Electron Transfer in European Robin Cryptochrome 4a が362種の鳥類ゲノムを調べ、322種で Cry4 の遺伝子を検出し、そのすべてで4つのトリプトファンが完全に保存されていた (いかに重要な機能を果たしているかがわかる)。Cry1, Cry2 は鳥類の間でほとんど同一で、強く保存されていることがわかる。これらは概日リズムに関係する遺伝子で、生命維持に不可欠なのだろう (#イヌワシの備考参照)。 哺乳類でも Cry1, Cry2 遺伝子は概日リズムに必要であることがわかっている: van der Horst et al. (1999) Mammalian Cry1 and Cry2 are essential for maintenance of circadian rhythms
      磁気受容の中心と考えられている Cry4 はもっと変化が大きい。例えばハチドリ、オウム、Tyranni (タイランチョウ類、日本ではヤイロチョウが含まれる) で失われている。 スズメ目に至るまでは変異速度が速かった、スズメ目では遅くなっている。これは (例えば渡りのコンパスの) 機能が成熟して、あまり進化する必要がないためと考えられる。 Cry4 は何度も失われており、渡りを行わなくなった (あるいは飛べない) 種類では (必要でなくなるため) 比較的簡単に機能を喪失する可能性がある。また前記記述のように磁場感知に関係するクリプトクロムは色覚受容体細胞のうち、紫外線を感受する細胞にあると考えられている。夜行性の鳥では紫外線受容体細胞が失われる傾向にあり、一緒に Cry4 を失うことも考えられるだろう。 クリプトクロムと渡りの定位の研究はスズメ目のヨーロッパコマドリで調べられてきたもので、それより前に分岐した(系統的に古い)グループでは役割が同じかわからないが、得られた結果をみるとハチドリ、アマツバメ類のようにヨタカグループのものに遺伝子を失ったり一部失われているものが集まっているように見える。フクロウ類でも不完全に失われている系統があるようである。これらから想像すると、ハチドリ、アマツバメ類はやはり夜行性を体験していたのであろうか。
      フクロウ類に留鳥性の高いものが多いのもこれで説明できるのかもしれない。渡りをするアオバズクやヤイロチョウではどうなっているのか、ゲノム解析が待たれるところである。亜鳴禽類は Tyranni (タイランチョウ類、日本ではヤイロチョウが含まれる) にあるように Cry4 を失う傾向が強く見られる。 このグループの鳥が日本にあまり縁がないのもこのためかも知れない。Pitta属で調べられているものが唯一あり、ズグロヤイロチョウ Pitta sordida 英名 Western Hooded Pitta で、この種は Cry4 が失われていた。種の記述では渡りをするか不明瞭とされている。また東洋では Ninox属、Asio属に渡りをするフクロウ類がいるが、これらの種は調べられていない。 一方で昼行性猛禽類 (タカ、ハヤブサ) の Cry4 は渡りの有無にかかわらず調べられた範囲で完璧に存在する。タカ、ハヤブサ類は必要があれば渡ることができる性質を持ち合わせていることを意味する (例えば恒温動物以外を主食とする種類も進化できる) のだろうか。フクロウ類の多くの系統で夜行性適応のために Cry4 を失い、食性の範囲もタカ、ハヤブサほどには広げることができなかった、などの妄想も膨らむ。 祖先形が Cry4 を失わなかった系統だったのでスズメ目が大規模な渡りを行えるような形に進化できたのかも知れない。そうでなければ昆虫食のスズメ目が温帯にはあまりやって来ず、我々が満喫しているような夏鳥のコーラスは温帯では聞けなかったのかも知れない。
      これらの結果はゲノム生物学、分子系統学、量子化学や物理学の現代最先端の手法を組み合わせることで可能になった実に驚くべき結果で、渡りの進化や生態を考える上でも大変示唆に富むものと思う。 日本語で読める資料がほとんどないので少し詳しく解説させていただいた。 もちろん定位は磁場だけが関与するわけではないので、種類によっては磁場を頼りにせず渡っているのかも知れない。渡りをするアマツバメ類はどのようにしているのか。いずれもこれからの研究の題材となるだろう。
      なお、この分野の専門家 (物理化学) である Peter Hore の招待講演が YouTube にある。Peter Hore on Radical pair mechanism of magnetoreception (2017)。講演者自身は冒頭で「鳥のことは何一つわからないが」とスライドを示して聴衆の笑いを買っている。 上記のようなラジカル対を通じた磁気受容のメカニズムはスピンを持たない原子核のみからなる分子では働かない。例えば生体を形成する炭素や酸素の (ほぼ全体を占める同位体の) 原子核はスピンを持たない。メカニズムに関係するのは水素および窒素の原子核で、量子化学計算によればフラビン分子内に存在する窒素の原子核が関わっていることが示されている (上記公演の22:50あたり)。 地球磁場程度の弱い磁場に反応するこの電子-原子核のスピン相互作用 (hyperfine interaction) には方向性があり、これによって分子に対する磁場の向きに応じた反応を示すとのことである。自分も前半しか見ていないので、上記の分子レベルのメカニズム説明もちょっと怪しいところがあるかも知れない。お気づきの点があればご指摘いただきたい。 なお地球磁場程度の弱い磁場に影響を受ける化学反応はかつては知られていなかったが、Maeda et al. (2008) Chemical compass model of avian magnetoreception は人工的な化学物質ではあるが弱い磁場に影響を受け、渡り鳥の磁気コンパスのモデル分子となり得るものを発見した。この研究には前述の Peter Hore も関わっており、彼はクリプトクロムも同様であることをおそらく疑っていないだろう。
      (注釈)
      *1: cryptochrome ギリシャ語で「隠れた色」。フォトリアーゼ系のタンパク質でフォトリアーゼは細菌からすでに存在していたもので、紫外線による DNA 損傷回復に関与する。植物と動物では独自に進化し植物の光への反応に関係している。同じものを違う機能に進化させることは生物でよくみられるが、そんなものが長距離を渡る鳥を生み出すことになろうとは、神様?でも考えなかったであろう。
      *2: 光には波 (電磁波) としての性質も粒子としての性質もある。後者を指して光子 (フォトン) と呼ぶ。皆様がお世話になっているカメラも、レンズ部分では光の波としての性質を、センサー部分では光子としての性質を利用している。光だけではなく物質も同じように波としての性質を持ち、量子力学の根幹をなす概念。 アインシュタインがノーベル賞を受賞したのも、有名な相対性理論の方ではなくて、光が粒子としての性質も示すことを示した業績によるもの。格好良く書けば光子1個のエネルギー E=hν ここで h はプランク定数、ν は光の振動数。赤い光 (振動数が小さい) は青い光 (振動数が大きい) に比べて E が小さい。 青い光でないと起きない (光量子のかかわる、センサーでもよい) 現象に対して、赤い光をいくら強めても現象が起きないのはこの原理による。 鳥の世界でも色素による色彩は光子としての光の性質に、構造色は波としての性質による。 我々も鳥も色を知覚できるのは (というより光が見えるのは) 光子としての光の性質による。
      *3: トリプトファンは一般的なタンパク質では存在量が最も少ないアミノ酸で、これほどトリプトファンが連なるのは特殊な役割を果たしていると考えるのが自然である。トリプトファンをコードするコドンは64種のうち1つのみで、生命進化の初期段階ではおそらく必須のアミノ酸でなかった。 チロシンとトリプトファンについては、20-24億年前の酸素増大イベント (大酸化イベント) に耐えるために獲得された可能性を、量子化学計算と生化学実験から提示した研究が発表されており、アミノ酸の機能的特性が遺伝暗号を決定づけていたことを示唆している (wikipedia日本語版より)。
      *4: このように引き離された (といってもタンパク質分子程度のスケールだが) の2つの電子の間には離れていても相互の状態に相関があり、「量子もつれ」(qunatum entanglement) の状態にあるとも表現される。ちなみに「量子もつれ」は2022年ノーベル物理学賞のテーマであった。 世の中で普通に出てくる「量子もつれ」は一般に光子と光子の間のもので、遠距離でも光子と光子の間に相関を持たる実験に成功している。渡り鳥のラジカル対の場合は電子と電子の間のもので、世の中一般によく言われるものとは異なるので注意。これは光子の場合と異なり (一般的な環境、しかも特別な条件下でやっと実現可能) ごく短距離の間でしか量子もつれの効果は現れない。
      *5: 我々がスピン (*6 参考) のお世話になっているものに医学で使われる MRI がある。渡り鳥における磁気定位メカニズムに関連がある (と思われる) のは電子のスピン、およびそれに影響を与える原子核のスピンであるが、MRI の場合は水素原子核のスピンを測定している。 磁場中のスピンが (古典力学的に言えば) 周期的に向きを変える (みそすり運動と言う) ことでそれに対応する電波が発生し、電波の周波数と強度を測定して画像にしている。もっとも磁石の原理もスピンなので、すでに誰もがお世話になっているわけであるが、ここでは電波との関係を示すために MRI を例示した。
      *6: 電子や一部の原子核には古典力学の回転、正確には角運動量、に対応する「スピン」と呼ばれる量子力学の概念があり、よく上向きスピン、下向きスピンのような表現が使われる。おそらく大学1年程度の化学で習うが、元素や周期律に興味のある方にはもっと早い時期にお馴染みかも知れない。大学入試の「化学」を暗記科目にしないために高校段階でもスピンを教えているところもあるはずである。 ただスピンがなぜあるのか、という質問には大学で物理を学んでもそうすぐには教えてもらえない。物理系の3-4回生で選択科目次第で習える程度だろうか (さわりだけでも見ておきたい方は wikipedia日本語版で「ディラック方程式」の冒頭をどうぞ)。「いったい何なのか」には深入りせずにそういうものがあると思っておくのがおすすめ。
      *7: 渡り鳥が渡りの時期にかごの中で夜間に渡る方角を向いて動作する行動。古典的には鳥の足にインクを付けて足跡の方向を見ることで渡りの定位を研究していた。ドイツ語の Zugunruhe ツークウンルーエ は英語でもよく使われる (cf. Zug 引っぱること、行進、渡り鳥の群れのことなど。Unruhe 不穏。Zugvogel 渡り鳥)。 #ハチクマの備考にある飼育下での渡り時期の記述もおそらく同様と思われるが、主に昼間に渡りをするハチクマがそういう衝動を起こすとすれば面白い。
      *8: 磁気定位に光が必要なのになぜ夜間に渡りができるのか、という根源的疑問があるだろう。これは研究者も気にしているようで、闇夜でなければ磁気定位が可能などの理論計算を行っている。これはまだ十分に解決されていない。

      ハチドリについてもう一つ話題を紹介しておく。Osipova et al. (2023) Loss of a gluconeogenic muscle enzyme contributed to adaptive metabolic traits in hummingbirds の研究によればハチドリがホバリング飛行を進化させるにあたって FBP2 という筋肉で糖新生を行う酵素を失ったとのこと。この酵素を失うことで糖分解やミトコンドリア能力が高まることが実験的に示されており、高いエネルギー生産が必要なホバリング飛行が可能になる一つのステップであったと考えられる (もちろんそのために常時糖分を補給する必要性が生じたわけだが)。
  • ヒメアマツバメ
    • 学名:Apus nipalensis (アプス ニパレンシス) ネパールの足のない鳥
    • 属名:apus (合) 足無し (a 無い pous 足 Gk)
    • 種小名:nipalensis (adj) ネパールの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:House Swift
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは kuntzi (アメリカの軍医、採集家 Robert Elroy Kuntz に由来) とされる (しかし下記参照)。
      [分類と亜種の問題] かつては Apus affinis の亜種とされ、古い図鑑でもこの学名であった。このうちインドより東のものが Apus nipalensis ヒメアマツバメ House Swift と分離され、多くのリストがこれに従っている。 分離する場合 Apus affinis Little Swift にはニシヒメアマツバメの和名が与えられている (日本で記録がないため亜種を考えた場合は同じ名前がどの亜種を指すかは自明でない)。 Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では Rasmussen and Anderton (2005) "Birds of South Asia: The Ripley Guide" ではこれらのグループの中で複数種の証拠を見いだせなかったため同種に戻し、 nipalensis を独立種でなく、Apus affinis Little Swift/House Swift の亜種としている。この場合は全体で10亜種。 両者の分布するインドおよび南アジアのリスト (2022) は IOC を採用し2種としている Taxonomic updates to the checklists of birds of India, and the South Asian region - 2022。 Paeckert et al. (2012) (#アマツバメの備考参照) では遺伝系統解析でこの2種の系統の分離は不完全 (wikipedia英語版 incomplete lineage sorting。日本語版もある) としている。 将来の研究により同一種に戻される可能性もあるかも知れないが、このグループの研究はまだかなり不完全である。 なお Saitoh et al. (2015) GenBank: AB843360.1 では東京のサンプルについて Apus affinis Little Swift の名称で登録している。関連する研究は Saitoh et al. (2015) (#カルガモの備考参照)。 より古い時期に日本から Apus nipalensis の名称での登録もあり、日本の研究者の間でも分類の扱いが必ずしも一貫していないようである。
      Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) の記載では kuntzi は台湾の亜種で、日本は nipalensis であるとしている。 Brazil (2009) "Birds of East Asia" も同じ見解で kuntzi との外見の区別を記載している。 台湾の扱いでは Clements v2022 をベースとして kuntzi を固有亜種としている: The 2023 TWBF Checklist of the Birds of Taiwan。 フィリピンのリスト (2023) では nipalensis, subfurcatus を留鳥亜種としており、伝統的にはフィリピンの亜種は subfurcatus とされていたのでこれも nipalensis の島嶼への分布拡大を示唆しているのかも知れない。
      さらに興味深いことに2012年カナダのブリティッシュコロンビアで瀕死の状態で到着したヒメアマツバメの記録がある: Szabo et al. (2017) First Record of House Swift (Apus nipalensis) in the Americas。 この論文ではミトコンドリア COI ハプロタイプは日本の1個体、(ニシヒメアマツバメとされる) インドの2個体とまったく同じであり affinis/nipalensis と DNA 判定している。 論文中では日本はニシヒメアマツバメの分布の東端の可能性もある書き方になっている。 この文献では2010年代前半にヒメアマツバメが北海道東端にまで進出していることにも言及している。 Researchers untangle mystery of tiny bird’s trans-Pacific flight の記事も参照。嵐で運ばれたか渡りのコンパスに異常があったのかなどの可能性が考えられているが、太平洋を越えるのは容易でないだけで、分布を広げる先駆的な個体であった可能性であるようにも思える。 またアマツバメ類はヨタカ類の夜行性系統に関係があるため、あるいはそもそも渡りの磁気定位能力があまり高くなく (#アマツバメの備考参照)、長距離の渡りに適していないかも知れない。つまり渡りのコンパスに異常というより種として渡りのコンパスの精度が低い可能性である。 またヒメアマツバメとニシヒメアマツバメの遺伝情報 (ここで比較された短い部分だけであるが) が同じであったことも注目に値しそうである。
      カタグロトビの確認初期にそうであったようにヒメアマツバメの繁殖確認時期に地理的に最も近い亜種が想定されたものがそのまま残っているものかも知れないが、現在の世界のリストの扱いと異なったものとなっている。 留鳥性の比較的高い種であり、台湾は固有亜種 (他の種でもよく見られる現象) で、日本の個体群は大陸の個体群の分布拡大に従った結果と考えると海外リストの見解の方が正しいかも知れない。 Paeckert et al. (2012) ではアマツバメ類は既存の亜種区分にも問題があるとのことで、将来研究が進めば亜種分類の見直しもあるかも知れない。 日本鳥類目録改訂第8版ではヒメアマツバメとニシヒメアマツバメが別種扱いとなる可能性が高いが、もし世界の趨勢の変化などで将来これが同一種 Apus affinis に戻された場合はニシヒメアマツバメの名前は基亜種 Apus affinis affinis のみを指す可能性もあり現在の名称が指す範囲とかなり異なってくるかも知れない。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES チドリ科 CHARADRIIDAE 

  • タゲリ
    • 学名:Vanellus vanellus (ワネッルス ワネッルス) 小さな唐箕
    • 属名:vanellus (合) vanellus タゲリ [小さな唐箕 (とうみ) (vannus (f) 唐箕 -ellus (指小辞) 小さい]。フランス語で穀物をあおぎ分ける箕。飛翔時のゆっくりした羽ばたきから (コンサイス鳥名事典)
    • 種小名:vanellus (トートニム)
    • 英名:Lapwing, IOC: Northern Lapwing
    • 備考:単形種。 チドリ目は巨大な目で日本鳥類目録改訂第7版、第8版の配列 (=IOC 13.2) を見てもどのように分類されているのか想像しにくい。Boyd の用いている上位分類を紹介しておく。IOC 分類順とは異なっている。 wikipedia英語版は Kuhl et al. (2020) (#ミサゴの備考 [近代的な陸鳥の進化] 参照) をもとにしており、これとも異なっている。Kuhl et al. (2020) のサンプルも十分多いわけではないので個々の属の位置に不定性がある。 Boyd は Cerny and Natale (2021) Comprehensive taxon sampling and vetted fossils help clarify the time tree of shorebirds (Aves, Charadriiformes) を用いており、この系統樹を見ればこれまで大きくまとめられていたものが日本鳥類目録改訂第7版でかなり変わったことも理解できる。 ここで紹介する分類の科の名称は山崎剛史・亀谷辰朗 (2019) 鳥類の目と科の新しい和名 (1) 非スズメ目・イワサザイ類・亜鳴禽類によるが、それ以外の和名は仮に与えてある。

      チドリ目 Charadriiformes
       チドリ亜目 Charadrii
       シギ亜目 Limicoli
       ミフウズラ亜目 Turnici
       カモメ亜目 Lari

      含まれる個々の分類群には違いがあってもこの分割は納得いただけるであろう。 wikipedia英語版ではシギ亜目に相当するものが Scolopaci となっている。 Boyd によれば Scolopaci よりも Limicoli の方がずっと先取権があり、歴史的にも長く使われてきた (科名 Limicolae を含む) とのこと。 ミフウズラ科は従来 Lari に含まれていた (wikipedia英語版でも) が、最新研究で非常に古い系統と判明して分離された (#ミフウズラの備考参照)。

      チドリ亜目 Charadrii
       サヤハシチドリ小目 Chionida
        (サヤハシチドリ科) Chionidae: Sheathbills
         マゼランチドリ亜科? Pluvianellinae: Magellanic Plover
         サヤハシチドリ亜科 Chionidae: Sheathbills
        イシチドリ科 Burhinidae: Thick-knees
       ナイルチドリ小目 Pluvianida: Egyptian Plover
        ナイルチドリ科 Pluvianidae: Egyptian Plover

       チドリ小目 Charadriida
        セイタカシギ上科 Recurvirostroidea
         トキハシゲリ科 Ibidorhynchidae: Ibisbill
         セイタカシギ科 Recurvirostridae: Stilts, Avocets
         ミヤコドリ科 Haematopodidae: Oystercatchers
        チドリ上科 Charadrioidea: Plovers
         ムナグロ科 Pluvialidae: Golden-Plovers (独立科に)
         チドリ科 Charadriidae: Plovers, Dotterels
          ノドアカコバシチドリ亜科: Oreopholinae (Boyd 独自)
          チドリ亜科 Charadriinae (日本産の大部分のチドリが入る)
          タゲリ亜科 Vanellinae: Lapwings
          シロチドリ/メダイチドリ亜科? Anarhynchinae (日本産ではシロチドリ、メダイチドリ、オオメダイチドリ、オオチドリが入る)

      シギ亜目 Limicoli
       レンカク小目? Parrida
        ヒバリチドリ上科? Thinocoroidea
         クビワミフウズラ科 Pedionomidae: Plains-wanderer
         ヒバリチドリ科 Thinocoridae: Seedsnipes
        レンカク上科 Jacanoidea
         タマシギ科 Rostratulidae: Painted-snipes
         レンカク科 Jacanidae: Jacanas

       シギ小目 Scolopaci
        シギ上科 Scolopacoidea
         シギ科 Scolopacidae: Sandpipers, Snipes
          ダイシャクシギ亜科 Numeniinae: Curlews
          オグロシギ亜科 Limosinae: Godwits
          ヤマシギ亜科 Scolopacinae: Dowitchers, Snipe, and Woodcock
          クサシギ亜科 Tringinae: Phalaropes and Shanks
          キョウジョシギ亜科 Arenariinae: Turnstones and Stints

      ミフウズラ亜目 Turnici
       ミフウズラ科 Turnicidae: Buttonquail

      カモメ亜目 Lari
       ツバメチドリ小目 Glareolida
        カニチドリ科 Dromadidae: Crab Plover
        ツバメチドリ科 Glareolidae: Coursers, Pratincoles

       カモメ小目 Larida
        ウミスズメ上科? Alcoidea
         トウゾクカモメ科 Stercorariidae: Skuas, Jaegers
         ウミスズメ科 Alcidae: Auks
          エトロフウミスズメ亜科? Aethiinae
          ウミスズメ亜科 Alcinae

        カモメ上科 Laroidea
         アジサシ科 Sternidae: Terns and Skimmers (カモメ科より分離)
          ハサミアジサシ亜科? Rynchopinae: Skimmers
          シロアジサシ亜科 Gyginae: White Terns
          アジサシ亜科 Sterninae: Terns

         カモメ科 Laridae: Gulls and Noddies
          クロアジサシ亜科 Anoinae: Noddies
          カモメ亜科 Larinae: Gulls

      Boyd は分子系統樹に基づいて属をかなり細分しているのでここでは含まれる属は示さなかった。 日本産種で違う属名を用いているものについては個々の種の備考に示した。 個々の変更理由は前述 Cerny and Natale (2021) の系統樹を見ていただけば判断いただけるだろう。 カモメ亜目では最近の分子系統研究を受けてかなりの学名が変更されたが Boyd の分類とよく一致している。チドリ亜目ではまだこれから変更されるかも知れない。Boyd の学名はその時の学名変更の目安にもなると考えられる。
      広義 Charadrius属が単系統でなく、Vanellus属を内包していることは Barth et al. (2013) Phylogenetic Position and Subspecies Divergence of the Endangered New Zealand Dotterel (Charadrius obscurus) の系統樹を見てもよくわかる。Charadrius属を分割する必要は早くからわかっていたのだろうが、種のカバー率が十分でなかったためにこれまでは見送られていたのだろう。 この論文の系統樹は種数も少ないので理由がわかりやすくおすすめ。 データも揃ってきたので今後早々に分類改定が行われる可能性がある。 Vanellus属を Charadrius属に改名しない限り分割は避けられない。分岐年代を見てもこの統合は受け入れられない (比較的新しい分枝であるチュウヒ Circus属と広義 Accipiter属の関係よりさらに深刻)。 Charadrius属のタイプ種はハジロコチドリ Charadrius hiaticula で、この種と同じクレードのみ Charadrius属に含まれることになる。つまり最低限図の下半分の Charadrius は別属になることになる (例えばシロチドリやメダイチドリなどの系統)。 分岐年代を考え、同じ枝に複数の別の属の含まれているコチドリも Charadrius属とは別にした方がよいことがわかる。
      Parrida の名称は対応する下位分類がないが、これはナンベイレンカク Jacana jacana の原記載が Parra jacana Linnaeus, 1766 であったため。 分子系統解析でムナグロ属は他のチドリ類から大きく離れている結果となり科相当となった [上記 Barth et al. (2013) にも表れている]。 シギ類のそれぞれの種または属がどの亜科に入るかは英名を見れば判断できる。
  • ケリ
    • 学名:Vanellus cinereus (ワネッルス キネレウス) 灰白色の小さな唐箕
    • 属名:vanellus (合) vanellus タゲリ [小さな唐箕 (とうみ) (vannus (f) 唐箕 -ellus (指小辞) 小さい]。
    • 種小名:cinereus (adj) 灰白色の
    • 英名:Grey-headed Lapwing
    • 備考:単形種。 Boyd では Hoplopterus cinereus
  • ヨーロッパムナグロ
    • 学名:Pluvialis apricaria (プルウィアリス アプリカリア) 日光浴をする雨に鳴く鳥
    • 属名:pluvialis (adj) 雨に鳴く
    • 種小名:apricaria (adj) 日光浴をする (apricor -ari (intr) 日光浴をする -ius (接尾辞) 〜に関連する)
    • 英名:(Eurasian Golden Plover), IOC: European Golden Plover
    • 備考:pluvialis は Linnaeus が Rudbeck の鳥類学講義 (1728-1729) を聞き、ヨーロッパムナグロが雨が降る前に集まって鳴くと考えられていたことから regnpipare (使われなくなったスウェーデン語) と呼ばれていること知ったことによる。regnpipare は「雨に鳴く」(rain piper, rain-caller) の意味。 Charadrius apricarius Linnaeus, 1758 と Charadrius pluvialis Linnaeus, 1758 の2種が記載されたが、シノニムとなって前者が採用された。属名は Mathurin Jacques Brisson により1760年に導入された (The Key to Scientific Names)。 ムナグロ類をドイツ語で Regenpfeifer と呼ぶ。意味は上記説明と同じ (コンサイス鳥名事典)。 括弧内の英名はユーラシアのムナグロ類が東西に分離される前の名前。 さらに以前は北米のものも合わせて Pluvialis dominica 英名 American Golden Plover と呼ばれ、比較的最近までこの学名だった。分離されて単形種だが日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種不明とあり、亜種を認める立場のよう。 Howard and Moore 2nd edition, Peters' Check-list of the Birds (2nd edition) では亜種 oreophilos (oreos 山 philos 好きな Gk) を認めている。
      Pluvialis属4種は英語では繁殖地がツンドラであることから tundra plovers とも呼ばれる。 Byrkjedal and Thompson (1998) "Tundra plovers : the Eurasian, Pacific and American golden plovers and grey plover" (T & AD Poyser, 1998) という本もある。
  • ムナグロ
    • 学名:Pluvialis fulva (プルウィアリス フルウァ) 黄黄金色の雨に鳴く鳥
    • 属名:pluvialis (adj) 雨に鳴く
    • 種小名:fulva (adj) 黄金色の (fulvus)
    • 英名:Pacific Golden Plover
    • 備考:分割の経緯と過去の英名は#ヨーロッパムナグロの備考参照。分離されて単形種。 かつてはアメリカムナグロの亜種とされ、Pluvialis dominica fulva とされていた [茂田 (1997) Birder 11(2) 46-54]。 ムナグロ属 Pluvialis と他の日本産チドリ類は分子遺伝解析で科レベルで違うことがわかった (#タゲリの備考参照)。
  • アメリカムナグロ (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Pluvialis dominica (プルウィアリス ドミニカ) ドミニカの雨に鳴く鳥
    • 属名:pluvialis (adj) 雨に鳴く
    • 種小名:dominica (adj) ドミニカの (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:American Golden Plover
    • 備考:分割の経緯と過去の英名は#ヨーロッパムナグロの備考参照。分離されて単形種。 現在のリストでは学名 Pluvialis dominica とされるが、最近まで Pluvialis dominicus の学名も使われていた。 茂田 (1997) Birder 11(2) 46-54 によれば原記載の名称 Dominicus は名詞で変化される必要がないにもかかわらず dominica と変化させていたものを訂正したものと書かれている。 その後元に戻されたようであるが簡単に調べた範囲では経緯はわからなかった。
  • ダイゼン
    • 学名:Pluvialis squatarola (プルウィアリス スクアタローラ) 雨に鳴くチドリの一種
    • 属名:pluvialis (adj) 雨に鳴く
    • 種小名:squatarola Sgatarola ベネチア名でチドリの一種
    • 英名:Grey Plover
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種の記載なし。 茂田 (1997) Birder 11(2) 46-54 によればチドリ類は一般に後趾を持たないが、ダイゼンには爪のある小さな後趾があり、これを分類学的特徴と捉えて Squatarola属とされたことがあったが、それほど重要な解剖学的特徴でないことがわかった。
  • ハジロコチドリ
    • 学名:Charadrius hiaticula (カラドゥリウス ヒアティクラ) 割れ目に住むチドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:hiaticula (チドリ) < hiatus 割れ目 cola の住人
    • 英名:Common Ringed Plover
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは tundrae (ツンドラの。ユーラシア東部に分布) とされている。
  • ミズカキチドリ
    • 学名:Charadrius semipalmatus (カラドゥリウス セミパルマトゥス) 半分水かきのあるチドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:semipalmatus (adj) 半分水かきのある (semi- (接頭辞) 半分 palma (f) 水かき -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Semipalmated Plover
    • 備考:北米の種で単形種。 ハジロコチドリとの識別が問題となる種であるが、立ち上がって水かきが間違いなく見える姿勢はなかなか取ってくれないのでもやもや感が残りがちである。 ハジロコチドリと声がだいぶ違うので声にも注目されるとよい。よく鳴いているようなタイミングだと1羽だけ違った声を出しているのが録音して後で聞き直しても十分判別できる (もっともその群れの中に含まれていることを予め知っているのでわかるわけで、声だけで見つけられるレベルではない。声に慣れた北米のバーダーならば見つけられるかも知れない)。 写真だけだと「ハジロコチドリの中にも水かきがちょっとは見えるのもある」など議論の余地が残ることもあるが、声も記録しておけばより強固な証拠となるであろう。
  • イカルチドリ
    • 学名:Charadrius placidus (カラドゥリウス プラキドゥス) 静かなチドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:placidus (adj) 静かな
    • 英名:Long-billed Ringed Plover, IOC: Long-billed Plover
    • 備考:単形種。日本のものを亜種 japonicus Mishima, 1956 とする提案もあったが、現在世界の主要リストでは用いられていない。 種小名の意味は北米で繁殖・一部南米で越冬するフタオビチドリ Charadrius vociferus (騒々しい) 英名 Killdeer に対して静かであることから付けられたとのこと [日比 (2000) Birder 14(1): 68-70]。 フタオビチドリの英名はよく聞かれる2音節の声 ("kil-deee") を模したものだそうで非常によく鳴く (wikipedia英語版)。 Boyd では Thinornis placidus
  • コチドリ
    • 学名:Charadrius dubius (カラドゥリウス ドゥビウス) はっきりしないチドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:dubius (adj) はっきりしない
    • 英名:Little Ringed Plover
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は curonicus (ラトビアの地名 Curonia/Courland/Kurland から) とされる。 Boyd では Thinornis dubius
  • シロチドリ
    • 学名:Charadrius alexandrinus (カラドゥリウス アレクサンドゥリヌス) アレクサンドリアのチドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:alexandrinus (adj) アレクサンドリアの (-inus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Kentish Plover (英国ケント州の)
    • 備考:基産地は英国ケント州であったが (1787) どんどん数を減らして英国での繁殖もなくなった。現在では英国ではまれな渡り鳥になっており(Focus on: Kentish Plover)、適切な英名とは言えなくなっている。
      日本鳥類目録改訂第7版では亜種 alexandrinus (ハシボソシロチドリ、迷鳥として記録) と dealbatus (シロチドリ) がリストされているが、日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では後者が Charadrius alexandrinus nihonensis (Deignan, 1941) に変更されている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 dealbatus は現在の標準的分類では別種とされ Charadrius dealbatus Swinhoe, 1870 (カオジロシロチドリ, White-faced Plover, 主な分布域は南中国、北ベトナムでインドシナからスマトラで越冬; HBWでは日本南部、琉球列島、中国東部・南東部に分布、フィリピン、ボルネオで越冬する、と記されている) となるので第7版の学名で整理していた場合は注意が必要。eBirdでも2種を別種としている。 比嘉他 (2005) Birder 19(8): p.58 は沖縄のシロチドリのものとは違っていることを指摘し、比較写真も掲載している。
      一方、日本に分布する亜種は固有亜種の可能性が高く、nihonensisが妥当とも言い切れないとのこと (2016,「山階鳥研ミニレクチャー」茂田良光, 概要; 日本鳥類標識協会全国大会 茂田良光他)。 この中で沖縄県で繁殖するシロチドリは,九州以北のシロチドリより上面がやや淡色で雌雄とも額、過眼線、胸が淡い傾向があり、C. a. nihonensis とは異なる亜種の可能性があることが触れられている。 その後の研究で Sadanandan et al. (2019) Population divergence and gene flow in two East Asian shorebirds on the verge of speciationでは日本の大部分を含む北方は Charadrius alexandrinus、南西諸島の台湾に近いところにCharadrius dealbatusが分布している可能性がある。 この論文によれば日本の個体群は遺伝的に結構離れているが、alexandrinusdealbatus の違いほどではなく、亜種とするのがよさそうとのことである。 中国沿岸部では一度種分化してまた接触している可能性も指摘されている [Wang et al. (2019) Genetic, phenotypic and ecological differentiation suggests incipient speciation in two Charadrius plovers along the Chinese coast]。 また表現型には差があるのに遺伝子レベルであまり差がないとの指摘もあった [Rheindt et al. (2011) Conflict between Genetic and Phenotypic Differentiation: The Evolutionary History of a 'Lost and Rediscovered' Shorebird]。 Niroshan et al. (2023) Systematic revision of the 'diminutive' Kentish Plover (Charadriidae: Charadrius) with the resurrection of Charadrius seebohmi based on phenotypic and genetic analysesも参考。
      日本のシロチドリは2種 (あるいは旧シロチドリから分離された別の種や亜種も迷行の可能性がある?) になる可能性があり、観察に注意が必要であろう。また海外研究者からも日本の亜種の音声データが熱望されている。写真撮影以外にも音声録音に注意して観察することが望まれ、録音をお持ちの方は国際的音声のオープンデータベース (xeno-canto など) への登録をお勧めする。
      Boyd では別種扱いではなく Leucopolius alexandrinus
  • メダイチドリ
    • 学名:Charadrius mongolus (カラドゥリウス モンゴルス) モンゴルのチドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:mongolus (adj) モンゴルの
    • 英名:Mongolian Plover, IOC: Lesser Sand Plover
    • 備考:5亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は stegmanni (ロシアの動物学者 Boris Karlovich Shtegman に由来) 亜種メダイチドリと、mongolus モウコメダイチドリ (和名検討中) とされる。 Boyd では Eupoda mongola
      茂田 (1992) Birder 6(8): 36-41 にメダイチドリとオオメダイチドリに関する詳しい記事がある。 基産地はモンゴル国境から40km北側だったにもかかわらず、命名者の Pallas はモンゴル高原で繁殖すると考えて mongolus の種小名を与えたもの。基亜種 mongolus はモンゴルでは記録されず、そこで記録される亜種は atrifrons とのこと。 現在の英名も分布に従い、より適切な Lesser Sand Plover が使われている。 メダイチドリ、オオメダイチドリ、オオチドリ、ニシオオチドリ Charadrius asiaticus 英名 Caspian Plover は近縁種グループをなす。 メダイチドリとオオメダイチドリの繁殖分布は重なっておらず、その点からも別種が妥当と考えられている。越冬地分布には重なりがある。第1回夏羽の個体は越冬地に留まるのが普通と書かれている。 嘴の長さは亜種によって異なり、亜種によってはメダイチドリとオオメダイチドリの識別が困難になるが、日本に飛来する亜種はこの点では比較的識別しやすいとのこと。 茂田氏による識別点一覧が表に示されている。
  • オオメダイチドリ
    • 学名:Charadrius leschenaultii (カラドゥリウス レセナウルティイ) ルシェノーのチドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:leschenaultii (属) Leschenault の (ラテン語化して Leschenault -ius を属格化) フランスの植物学者、鳥類学者、採集家の Jean Baptiste Louis Claude Theodore Leschenault de la Tour に由来
    • 英名:Greater Sand Plover
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は亜種不明とされる。 メダイチドリとの関係については#メダイチドリの備考参照。茂田氏は学名の由来の説明で語尾の l を発音した表記を示しているが、フランス語ではこれは発音しないのが正しいと思う (例 Renault ルノー)。
      Boyd では Eupoda leschenaultii
  • オオチドリ
    • 学名:Charadrius veredus (カラドゥリウス ウェレドゥス) 早馬チドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:veredus (m) 早馬、駅馬
    • 英名:Oriental Plover
    • 備考:単形種。コバシチドリ同様 Oriental Dotterel の英名もあった。 かつてはニシオオチドリ Charadrius asiaticus 英名 Caspian Plover と同種とされていた。 Boyd では Eupoda veredus
  • コバシチドリ
    • 学名:Charadrius morinellus (カラドッリウス モリネッルス) 小さな馬鹿者チドリ
    • 属名:charadrius (m) チドリ
    • 種小名:morinellus (m) 小さな馬鹿者 (morio (m) ばか者 -ellus (指小辞) 小さい)
    • 英名:Eurasian Dotterel
    • 備考:英名の Dotterel は1440年から鳥や人に対する屈辱語として使われた。現在の英語でも dotard の単語がある。 警戒心がなく簡単に捕まえられ、珍味であるとの記載があった。単形種。
      Howard and Moore 4th edition (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) では一属一種の Eudromias属 (eu- よい dromos 走る Gk) としている。 Howard and Moore でも他のリストでも Charadrius との間を行き来している例がいくつもある。IOC はずっと Charadrius を用いている。 Eudromias を分離する根拠は Baker et al. (2007) (#ミフウズラの備考参照)。 解析に用いられた種類は限られているが、EudromiasCharadrius に含めると Charadrius が単系統にならない問題のようである。eBird も2023年よりこちらの分類を用いている。 HBW/BirdLife もこちらを用いている。 Eudromias は最近の解析の結果提案された属名ではなく、昔から用いられていたもの。IOC などは Charadrius に含める扱いにしたもの。 なお1文字違いの Eudromia というシギダチョウ科に属するまったく関係ない属がある。 Boyd では Eudromias morinellus
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES ミヤコドリ科 HAEMATOPODIDAE 

  • ミヤコドリ
    • 学名:Haematopus ostralegus (ハエマトプス オストゥラレグス) カキを集める血の色の足をした鳥
    • 属名:haematopus (合) 血の色の足 (haimat- (接頭辞) 血の pous 足 Gk)
    • 種小名:ostralegus (合) カキを集める (ostrea (f) カキなどの二枚貝 lego (tr) 集める)
    • 英名:Oystercatcher, IOC: Eurasian Oystercatcher (分離される可能性あり)
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は osculans (くっつき合う、キスする < osculari くっつき合う。密集している様子を指す) とされる。 かつてはアメリカミヤコドリ Haematopus palliatus 英名 American Oystercatcher、オーストラリアミヤコドリ Haematopus longirostris 英名 Pied Oystercatcher、 ニュージーランドミヤコドリ Haematopus unicolor 英名 Variable Oystercatcher、アフリカクロミヤコドリ Haematopus moquini 英名 African Oystercatcher などと同種とされ、 汎世界的分布を持った種であったが分割された。少し古い書物 (コンサイス鳥名事典もミヤコドリ科の項目で他の分類もあることを示した上で一属一種の取り扱いで記述している) にはこの分類を使っているものがあるので記載を読む時には現代の分類に沿ったものか、 アメリカミヤコドリなども含んだ記述か注意して読む必要がある。南アメリカなどのかつての亜種もアメリカミヤコドリに統一されて、古く使われた亜種名が使われなくなっている。
      現代の分類でもユーラシアからアフリカにかけて広く分布する種類で、各国語の名前は「カキなどの二枚貝を集める」かカササギに似た配色からのいずれかが多いようである。カキを食べるかどうかは種にもよるようで、オーストラリアミヤコドリの場合は食べないので名前がやや合っていないとある。 例えばドイツ語では Austernfischer と前者、フィンランド語、デンマーク語、オランダ語、ロシア語などでは後者である。中国語は前者。その意味では日本語の名称は珍しいと言えそうである (語源もよくわかっていないようである)。
      [ユーラシア東西のミヤコドリは別種か] Senfeld et al. (2020) What was the Canary Islands Oystercatcher? で世界のミヤコドリの分子遺伝学研究が行われて、亜種 osculans を含む極東のグループは種相当の可能性があることがわかった。 その場合は Haematopus osculans とすることになる。系統樹を見ても Haematopus ostralegus は単系統をなしておらず osculans は確かに Haematopus属の他の種レベルで分離している。 ユーラシアの東西で別種となる形になり、他の亜種はすべてユーラシア西部から中央部に分布。この分離は適切に見える。 この分類群は世界でも孤立した個体群で Haematopus osculans Swinhoe, 1871 と記載されたもので Swinhow の記載、分離されればもとの学名に戻ることになる。 Melville et al. (2014) Conservation assessment of Far Eastern Oystercatcher Haematopus [ostralegus] osculans によれば、Chandler (2009), Livezey (2010) は Korean Oystercatcher の名を用いたが、主な個体群は中国とロシア極東にも分布するため Far Eastern Oystercatcher の英名を提案している (International Wader Studies)。
      Boyd の分類では新世界で系統の離れたミヤコドリ類4種を別属 Prohaematopus としている。これらを除いたミヤコドリ類の Boyd による分類は以下のようになる。 Senfeld et al. (2020) はカナリークロミヤコドリは Haematopus ostralegus のグループとしてよいと見解だが、Boyd は別種扱いが適切と考えている。ここでは後者に従っておく。 逆に言えばユーラシア東西のミヤコドリの遺伝的距離はそれだけ遠いことになる。

      ミヤコドリ属 Haematopus (Boyd の分類による)
       オーストラリアクロミヤコドリ Haematopus fuliginosus Sooty Oystercatcher
       アフリカミヤコドリ Haematopus moquini African Oystercatcher
       (ニシ? ミヤコドリ) Haematopus ostralegus Eurasian Oystercatcher (ユーラシア中・西部の個体群)
       カナリークロミヤコドリ Haematopus meadewaldoi Canary Islands Oystercatcher (絶滅種)
       ミヤコドリ Haematopus osculans Far Eastern Oystercatcher (極東の個体群。新分類)
       オーストラリアミヤコドリ Haematopus longirostris Pied Oystercatcher
       チャタムミヤコドリ Haematopus chathamensis Chatham Oystercatcher
       ニュージーランドミヤコドリ Haematopus unicolor Variable Oystercatcher
       ミナミミヤコドリ Haematopus finschi South Island Oystercatcher
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES セイタカシギ科 RECURUVIROSTRIDAE 

  • セイタカシギ (オーストラリアセイタカシギが分離される予定)
    • 学名:Himantopus himantopus (ヒマントプス ヒマントプス) 革ひものような足の鳥
    • 属名:himantopus (合) 革ひものような足 (imantas 革ひも pous 足 Gk)
    • 種小名:himantopus (トートニム)
    • 英名:Black-winged Stilt
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版ではオーストラリアセイタカシギが亜種扱いだったが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で独立種となった。 オーストラリアセイタカシギHimantopus leucocephalus (leukos 白い -kephalos 頭の Gk) 英名 Pied Stilt。単形種。ムネアカセイタカシギの別名があった (コンサイス鳥名事典)。 オーストラリアセイタカシギはインドネシア、オーストラリア、ニュージーランドで繁殖し、一部はフィリピンで越冬するとされる (フィリピンでの繁殖事例もあるとのこと)。そのためオーバーシュートの渡りとして日本にやってくることもあるのだろう。 オーストラリアセイタカシギの原記載。 内田・浜口 (1990) 神奈川県で記録されたオーストラリアセイタカシギ (1986年の記録)。 セイタカシギとの識別はかなり難しく、非繁殖羽・若鳥は現在の知見では識別できない可能性があるとも記されている (シンガポールの記述)。両種の観察されるフィリピンの識別情報を紹介しておく Ask The Experts: Stilt Identification (birdwatch.ph 2014)。 計測値があればより確実に分離できるようだが野外では形からの識別は難しいこともある。音声は異なるので親しんでおくとよいとのこと。 かつてオーストラリアセイタカシギではないかとされた個体の声を録音したことがあるが (ケッ、ケッ、ケッとケラ類のように鳴いた)、この記事を読んで改めて調べてみるとニュージーランドの音声記録に非常に近いものがあった。セイタカシギでもオーストラリアセイタカシギでもいくつもの種類の音声があるので記録してソノグラムを照合するのが一番であろう。 日本のセイタカシギの音声バリエーションまでは資料がないため確実にはわからないが、このタイプの音声ではヨーロッパのセイタカシギの音声 (ピッ、ピッのように聞こえて 4kHz 以上) はオーストラリアセイタカシギ (3kHz強) よりも音程が高いことがわかった。 ベテランが何と識別するかに頼るのではなく自ら調べるべきであろうことも改めて認識できた。
      [世界のセイタカシギ属] IOC 分類によるセイタカシギ属一覧を示しておく。和名か学名のいずれかに地名が含まれているので分布はすぐわかるだろう。クロエリセイタカシギは学名から推測されるメキシコよりも広く、北部を除いた北米全体に分布する。ハワイの種もクロエリセイタカシギとされる。 ナンベイセイタカシギはセイタカシギまたはクロエリセイタカシギの亜種とされることもあり、Boyd にしては珍しく分離していない。
      オーストラリアセイタカシギと学名上で紛らわしい種類があり、現在はムネアカセイタカシギとされるオーストラリア固有種の Cladorhynchus leucocephalus Banded Stilt で、別属ではあるが系統が近く原理的にはセイタカシギ属と1系統にまとめることも可能である。その場合は学名が衝突することになるのであえてそのような分類をとることはないのだろう。 原記載Recurvirostra leucocephala Vieillot, 1816。 亜種時代のオーストラリアセイタカシギの別名はこの種との混同があったかも知れない。 このムネアカセイタカシギも学名や英名が過去に大きく変遷している。 一時期 Himantopus属とされたこともあり、その時の学名は Himantopus palmatus Gould, 1837 だった。 セイタカシギ類は2系統がオーストラリアに定着したことになる。

      セイタカシギ属 Himantopus (IOC 14.1 分類)
       セイタカシギ Himantopus himantopus Black-winged Stilt
       オーストラリアセイタカシギ Himantopus leucocephalus Pied Stilt
       クロエリセイタカシギ Himantopus mexicanus Black-necked Stilt
       ナンベイセイタカシギ Himantopus melanurus White-backed Stilt
       クロセイタカシギ Himantopus novaezelandiae Black Stilt

      ニュージーランドのクロセイタカシギは南島の限られた地域にのみ生息し、外来種や環境悪化により絶滅の危機にある。IUCN CR種。オーストラリアセイタカシギとの交雑も大きな問題。 飼育下の保全も行われている。Black stilt/kaki (ニュージーランド環境保護局の資料)。100 kaki/black stilt chicks hatch (同ビデオ)。
  • ソリハシセイタカシギ
    • 学名:Recurvirostra avosetta (レクルウィロストゥラ アウォセッタ) 反り返った嘴のセイタカシギ
    • 属名:recurvirostra (adj) 反り返った嘴の (recurvus (adj) 反り返った rostrum (n) 嘴)
    • 種小名:avosetta (合) ソリハシセイタカシギ (avocetta ソリハシセイタカシギ 伊 < ラテン語 avis 鳥 が変化したものか)
    • 英名:Pied Avocet (英名もイタリア語起源)
    • 備考:単形種。ソリハシセイタカシギ属のいずれの種も単形種で分類も複雑なところはない。

      ソリハシセイタカシギ属 Recurvirostra (IOC 14.1 分類)
       ソリハシセイタカシギ Recurvirostra avosetta Pied Avocet
       アメリカソリハシセイタカシギ Recurvirostra americana American Avocet
       アカガシラソリハシセイタカシギ Recurvirostra novaehollandiae Red-necked Avocet (オーストラリア)
       アンデスソリハシセイタカシギ Recurvirostra andina Andean Avocet

      しかしながら属と科の和名は多少注意が必要である。ソリハシセイタカシギ属 Recurvirostra であるが セイタカシギ科 Recurvirostridae で、やむを得ない状況ではあるが属から作られた科の学名が日本語と対応していない。 上科 Recurvirostroidea Bonaparte, 1831 の概念もあり (Boyd)、トキハシゲリ科 Ibidorhynchidae (トキハシゲリ1種)、セイタカシギ科、ミヤコドリ科 からなる。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES シギ科 SCOLOPACIDAE 

  • ヤマシギ
    • 学名:Scolopax rusticola (スコロパクス ルスティコーラ) 狩猟鳥の (田舎に住む) シギ
    • 属名:scolopax (f) シギ、ヤマシギ [「とがった物」に由来 (コンサイス鳥名事典)]
    • 種小名:rusticola (adj) 田舎に住む (rusticus (adj) 田舎の colo (tr) 〜に住む) (備考参照)
    • 英名:Woodcock, IOC: Eurasian Woodcock
    • 備考:単形種。1800年代前半までは Scolopax は非常に広いものを指していて、各種シギ類、タシギ類、オグロシギ類、チュウシャクシギ類などが含まれていた (The Key to Scientific Names)。シギと訳すことにする。 種小名は語源的には上記の解釈ができるが、"The Key to Scientific Names" では rusticula は Pliny, Valerius Martialis が用いた狩猟鳥の名称。"heathcock" またはライチョウ類 (grouse) を指していたと考える著者もある。 解説に「田舎に住む」の意味は現れず、直接的には上記狩猟鳥の名を用いたもののようである。 年代考証も含まれているのかも知れない。 同様の rusticolus はシロハヤブサの種小名だが "The Key to Scientific Names" では「田舎に住む」意味で別項目となっている。 コンサイス鳥名事典によれば種小名には地上を走る鳥の意味もあるそうで、おそらく上記の Pliny などの語源を指してそうである。学名の訳として狩猟鳥の方を採用し、補足的意味として「田舎に住む」を与えた。 和名別名にホトシギ (母登鴫) があるとのこと。
      自分の住んでいる地域 (京都) では冬鳥だが、渡りの時期としては早すぎる8月初めにさえずりを聞いたことがある。チキッ、チキッという声は目立つので繁殖地域以外でも覚えておいて役に立つことがあるかも知れない。
  • アマミヤマシギ
    • 学名:Scolopax mira (スコロパクス ミラ) 不思議なヤマシギ
    • 属名:scolopax (f) シギ、ヤマシギ
    • 種小名:mira (adj) 不思議な、驚くべき (mirus)
    • 英名:Amami Woodcock
    • 備考:単形種。 種小名は驚くべき発見の意味か? [日比 (2000) Birder 14(1): 68-70]。 記載当時はヤマシギの亜種とされた Scolopax rusticola mira。 日本の採集者から Owston の手に渡った標本のようで、記載者はヤマシギに似た色彩の若鳥と思われる別の標本がなければ疑いなく新種としていただろうとある。おそらく留鳥だろうとしている。 記載に of particular interest とあるので種小名には、特に興味がある、あるいはヤマシギと別種かどうか不思議な点があるなどの意味が込められているかも知れない。訳は「不思議な」を採用した。 菊池氏のオリジナルも「不思議なヤマシギ」であった。
  • コシギ
    • 学名:Lymnocryptes minimus (リュムノクリュプテス ミニムス) 最も小さい泥に隠れている鳥
    • 属名:lymnocryptes (合) 泥に隠れているもの (limus (m) 泥、krypto (intr) 隠れる -tes (接尾辞) 〜するもの Gk)
    • 種小名:minimus (adj) 最も小さい
    • 英名:Jack Snipe
    • 備考:一属一種で単形種。最も小型のタシギ類。英名の Jack はウエルシュ語でタシギを意味する giach に由来すると言われるが、辞書では人名の Jack に由来するとも書かれる。属名の中央にある kruptes (Gk) は隠れるものの意味の他に、スパイの意味があり、本来はスパルタの秘密部隊を指していた。 茂田 (2000) Birder 14(5): 26-31 によれば属名の Lymno- は Limno- とすべき綴りを誤ったものとのこと。Jack snipe はタシギのオスと信じられたこと由来の名前との説も紹介されている。 コシギのディスプレイ・フライトでは声のみで羽の音は使わないとのこと。
  • アオシギ
    • 学名:Gallinago solitaria (ガッリナゴ ソリタリア) 孤独な鶏のような鳥
    • 属名:gallinago (合) 鶏のような鳥 (gallina (f) めんどり ago 似る) おそらくタシギの褐色のまだらの模様、立ち止まる行動や突然鳴くことを類似点とみなした
    • 種小名:solitaria (adj) 孤独な (solitarius)
    • 英名:Solitary Snipe
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは japonica (日本の) とされる。 茂田 (2000) Birder 14(5): 26-31 によれば Gallinago属はしばらくの間 (wikipedia英語版によれば1934-1956) Capella属とされていたがこれは誤った先取権を用いたものとのこと。 Boyd では Telmatias solitarius
  • オオジシギ
    • 学名:Gallinago hardwickii (ガッリナゴ ハードゥウィッキイ) ハードウィックのタシギ
    • 属名:gallinago (合) 鶏のような鳥 (アオシギの項目参照)
    • 種小名:hardwickii (属) Hardwickeの (英国のタスマニア採集家 Charles Browne Hardwicke ラテン語化 hardwick-iusを属格化) 採取者
    • 英名:Japanese Snipe, IOC: Latham's Snipe
    • 備考:単形種。英名は Latham's Snipe とされることも多い。John Latham は英国の鳥類学者。 Boyd では Telmatias hardwickii。 北海道周辺で繁殖し、オーストラリア東部に渡る。繁殖期に大きな音を立てるディスプレイを行うためカミナリシギの別名がある。
      [タシギ類のドラミング] 日本で繁殖し飛翔ディスプレイ時に音を出す種類はオオジシギのみなのでここで触れておく。 この音を英語では drumming と呼び (キツツキのドラミングと同じ)、古くからどのような仕組みで音を出しているか議論があった。外側尾羽は内側に比べて小羽枝で強力に結合されており、急速降下の際に振動で音を出しているとのこと。翼の形を変えることで尾羽に当たる気流を変化させ、音を変化させているとのこと (wikipedia英語版より)。 Snipe drumming: how does a snipe drum? にも解説がある。 日本では繁殖しないがタシギなどでも同様。外見は似ているが繁殖行動には種差が見られるとのこと。
  • ハリオシギ
    • 学名:Gallinago stenura (ガッリナゴ ステヌラ) アジサシのようなタシギ
    • 属名:gallinago (合) 鶏のような鳥 (アオシギの項目参照)
    • 種小名:stenura (合) アジサシのような (sterna アジサシ)
    • 英名:Pintail Snipe, IOC: Pin-tailed Snipe
    • 備考:単形種。 Boyd では Telmatias stenurus
  • チュウジシギ
    • 学名:Gallinago megala (ガッリナゴ メガラ) 大きなタシギ
    • 属名:gallinago (合) 鶏のような鳥 (#アオシギの項目参照)
    • 種小名:megala (合) 大きな (megalos 大きな Gk)
    • 英名:Swinhoe's Snipe 英国博物学者 Robert Swinhoe が記載した
    • 備考:単形種。 Boyd では Telmatias megalus
  • タシギ
    • 学名:Gallinago gallinago (ガッリナゴ ガッリナゴ) 鶏のような鳥
    • 属名:gallinago (合) 鶏のような鳥 (#アオシギの項目参照)
    • 種小名:gallinago (トートニム)
    • 英名:Common Snipe
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 gallinago とされる。 茂田 (2000) Birder 14(5): 26-31 によればアメリカタシギ Gallinago delicata 英名 Wilson's Snipe とは外側尾羽枚数 (左右8対、タシギは7対)、ディスプレイ・フライト、音声が異なり別種とされるが、ミトコンドリア DNA の違いは0.6%しかないとのこと。 茂田 (2000) の時代にはタシギの亜種扱いであった。日本鳥類目録改訂第7版時代も同じ扱いだったようである。IOC 分類では現在別種扱い。 参考 Banks et al. (2002) Forty-Third Supplement to The American Ornithologists' Union Check-List of North American Birds。 ヨーロッパジシギ Gallinago media 英名 Great Snipe は一夫多妻または乱婚でレック形成を行い、シギ類では他にエリマキシギ (#エリマキシギを参照) で知られているのみとのこと。
  • アメリカオオハシシギ
    • 学名:Limnodromus griseus (リムノドゥロムス グリセウス) 灰色の沼を走る鳥
    • 属名:limnodromus (合) 沼を走るもの (limus (m) 沼、dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:griseus (adj) 灰色の
    • 英名:Short-billed Dowitcher オオハシシギも参照
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは亜種不明とされる。 クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): p.27 に北米からシベリアにアメリカオオハシシギが進出しているとの記載があるが、ロシアではかつてオオハシシギをアメリカオオハシシギの亜種とし、 Limnodromus griseus の学名でロシア名がアメリカオオハシシギだったため、当時は両者が区別されていなかった可能性がある (Dement'ev and Gladkov 1951)。 オオハシシギに相当する当時の亜種は「西アメリカオオハシシギ」に対応する名前となっていた。 現在はオオハシシギは別種とされロシア名では「短い嘴の」が付く (英名に対応)。 Dement'ev and Gladkov (1951) の分布図では「西アメリカオオハシシギ」 = オオハシシギはチュコト半島周辺のみに分布となっていた。 Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) には特に記載はない。
  • オオハシシギ
    • 学名:Limnodromus scolopaceus (リムノドゥロムス スコロパケウス) ヤマシギに似た沼を走る鳥
    • 属名:limnodromus (合) 沼を走るもの (limus (m) 沼、dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:scolopaceus (adj) ヤマシギのような (scolopax (f) ヤマシギ ceu (adv) 〜のように -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Long-billed Dowitcher
    • 備考:単形種。英名の Dowitcher はイロコイ語 (北米の先住民族の一つ) 由来。Do- は「ドー」と発音する。 Dement'ev and Gladkov (1951) の分布図ではロシア名「西アメリカオオハシシギ」 = オオハシシギはチュコト半島周辺のみに分布となっていたが、Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri" (シベリアの鳥) ではもっと広く分布している。 クレチマル・千村 (訳) (1991) Birder 5(7): p.27 に北米からシベリアに "アメリカオオハシシギ" が進出しているとの記載に対応するかも知れない (#アメリカオオハシシギの備考参照)。
  • シベリアオオハシシギ
    • 学名:Limnodromus semipalmatus (リムノドゥロムス セミパルマトゥス) 半分水かきのある足の沼を走る鳥
    • 属名:limnodromus (合) 沼を走るもの (limus (m) 沼、dromeas 走るもの Gk)
    • 種小名:semipalmatus (adj) 半分水かきのある足の (semi- (接頭辞) 半分のpalma (f) 水かき -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Asiatic Dowitcher, IOC: Asian Dowitcher オオハシシギも参照
    • 備考:単形種。 「シベリア」の名が付いているが、他のオオハシシギ類2種が極北で繁殖するのに比べ、この種はユーラシア内陸部ステップ環境や森林ステップの沼地などに繁殖地が点在している。モンゴル、中国東北部にも分布し沿海地方まで分布が及んでいる。しかし全体的にはまれな鳥で繁殖分布範囲もよくわかっていない。 予期せぬ繁殖があったり繁殖地を大きく変えることがある [Ryabitsev (2014) "Ptitsy Sibiri"]。 和名から受ける印象と繁殖分布は必ずしもよく整合していない。
  • オグロシギ
    • 学名:Limosa limosa (リモサ リモサ) 泥だらけの鳥
    • 属名:limosa (adj) 泥だらけの (limosus)
    • 種小名:limosa (トートニム)
    • 英名:Black-tailed Gotwit
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは melanuroides (オグロシギの過去の学名 Limicula melanura に似た、の意味。melanura は 黒い尾 melanos 黒い -ouros 尾の The Key to Scientific Names) とされる。 英名 Gotwit の語源はよくわかっていない。古英語で godwiht good + wight (生き物) との類似性が指摘されている。鳴き声由来の説もある。
  • アメリカオグロシギ
    • 学名:Limosa haemastica (リモサ ハエマスティカ) 血の色のシギ
    • 属名:limosa (adj) 泥だらけの (limosus)
    • 種小名:haemastica (合) haimatikos 血の (Gk) 胸の赤さを意味する
    • 英名:Hudsonian Godwit オグロシギも参照
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • オオソリハシシギ
    • 学名:Limosa lapponica (リモサ ラッポニカ) ラップランドの泥のシギ
    • 属名:limosa (adj) 泥だらけの (limosus)
    • 種小名:lapponica (adj) ラップランド地方の (-icus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bar-tailed Godwit オグロシギも参照
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは baueri (オーストリアの自然史画家 Ferdinand Lucas Bauer に由来) 亜種オオソリハシシギ と menzbieri (ロシアの鳥類学者 Mikhail Aleksandrovich Menzbir に由来) コシジロオオソリハシシギ とされる。
  • コシャクシギ
    • 学名:Numenius minutus (ヌメニウス ミヌトゥス) 小さいダイシャクシギ
    • 属名:numenius (合) noumenios Hesychiusが記述した鳥で、三日月のような嘴の形からダイシャクシギ類を指すと考えられる [noumenia (伝統的)新月 < neos 新 mene, menes 月 Gk; 現代的な定義での新月(=朔)とは異なる]
    • 種小名:minutus (adj) 小さい
    • 英名:Little Whimbrel チュウシャクシギ参照, IOC: Little Curlew
    • 備考:単形種
  • チュウシャクシギ
    • 学名:Numenius phaeopus (ヌメニウス パエオプス) 灰色の足のシギ
    • 属名:numenius (合) noumenios ダイシャクシギ (コシャクシギの項目参照)
    • 種小名:phaeopus (合) 灰色の足 (phaios灰色pous足 Gk)
    • 英名:Whimbrel, IOC: Eurasian Whimbrel 英名語源はよくわかっていない。whimper + -el (鳴き声から) の解釈がある。
    • 備考:5亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは variegatus (染め分けられた、変化に富む) とされる。 かつてはアメリカのハドソンチュウシャクシギ Numenius hudsonicus 英名 Hudsonian Whimbrel と同種とされた。
  • ハリモモチュウシャク
    • 学名:Numenius tahitiensis (ヌメニウス タヒティエンシス) タヒチのダイシャクシギ
    • 属名:numenius (合) noumenios ダイシャクシギ (コシャクシギの項目参照)
    • 種小名:tahitiensis (adj) タヒチの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bristle-thighed Curlew
    • 備考:単形種。アラスカの主にユーコン川デルタで繁殖し太平洋の離島で越冬する。BirdLifeによる個体数見積もりは10000で、越冬地での捕食や狩猟により減少中と考えられている。個体数が少ない上に主な渡り経路から離れているため日本での記録は少ない。
  • シロハラチュウシャクシギ
    • 学名:Numenius tenuirostris (ヌメニウス テヌイロストゥリス) 細い嘴のダイシャクシギ
    • 属名:numenius (合) noumenios ダイシャクシギ (コシャクシギの項目参照)
    • 種小名:tenuirostris (adj) 細い嘴の (tenuis (adj) 細い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Slender-billed Curlew
    • 備考:日本では本州で1932年以前に1回(2羽)の採集記録が残されているが詳細は不明。通常の分布域から大きく外れているために疑問視する見解もある。検証可能な最後の観察記録は1995年2月モロッコでのもの。BirdLifeの記事(日本語版)。 1995年にイタリアで20羽が報告されたが、ダイシャクシギの亜種orientalisと写真判定された。その後もヨーロッパで散発的な報告があるが確認されていない。 かつてロシアのオムスクで唯一の巣が発見されたが、標本の羽の安定同位体分析から繁殖地はもっと南のカザフスタンとロシア南部の草原および草原/森林(であった)と推定された [Buchanan et al. (2016) Numenius tenuirostris identified from stable-isotope analysis]。 かつての越冬地も推定される繁殖地も人為的環境悪化が著しい地域で、すでに絶滅したと考える研究者も多い。IUCNでは現在絶滅危惧IA類にリストしている。 Birder誌にモロッコで珍鳥として記録されていた時代の現地ガイドの行為にまつわる記事がある。現存する唯一の動画記録 (1994、モロッコ; それらしい鳥を見かけた場合の連絡方法なども記されている) と1990年に記録された 音声記録 が公開されている。 DNA 解析でダイシャクシギに最も近いが独立種であることを確認した研究 [Sharko et al. (2019) Phylogenetic position of the presumably extinct slender-billed curlew, Numenius tenuirostris]。
      同様に長期間記録がないシギにエスキモーコシャクシギ Numenius borealis 英名 Eskimo Curlew があり、1963年に撃たれたものが確実な最後の記録。その後も不確かな目撃報告はあったが途絶えている。Audubon は絶滅宣言を出すべき時期かとの記事を出している。
  • ダイシャクシギ
    • 学名:Numenius arquata (ヌメニウス アルクアータ) 弓状に嘴の曲がったシギ
    • 属名:numenius (合) noumenios ダイシャクシギ (コシャクシギの項目参照)
    • 種小名:arquata = arcuata (adj) 弓状に曲がった (arquatus)
    • 英名:Curlew
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは orientalis (東洋の) とされる。 種小名は通常上記のように解釈されるが、ラテン語で黄疸を意味する arquatus morbus の可能性があるとのこと。皮が虹の黄色に変わるとの言い伝えがある (The Key to Scientific Names)。
  • ホウロクシギ
    • 学名:Numenius madagascariensis (ヌメニウス マダガスカリエンシス) マダガスカルのダイシャクシギ(誤命名)
    • 属名:numenius (合) noumenios ダイシャクシギ (コシャクシギの項目参照)
    • 種小名:madagascariensis (adj) マダガスカルの (-ensis (接尾辞) 〜に属する) セレベス島の Macassar をマダガスカルと間違ったもの
    • 英名:Far Eastern Curlew
    • 備考:単形種。ロシア極東やカムチャツカを繁殖地とする分布域の狭い種類。
      シブネフ (2000) Birder 14(10): p.20 に抱卵中のホウロクシギの写真がある。
  • ツルシギ
    • 学名:Tringa erythropus (トゥリンガ エリュトゥロプス) 赤い足のクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 < trungas アリストテレスが記述したツグミ大の腰の白い渉禽で尾を振る。具体的には同定されていないが、シギ、セキレイ、カワガラスのいずれかと考えられた (Gk)
    • 種小名:erythropus (合) 赤い足の (erythro- (接頭辞) 赤いpous足 Gk)
    • 英名:Spotted Redshank
    • 備考:単形種。 Boyd では Totanus erythropus
  • アカアシシギ
    • 学名:Tringa totanus (トゥリンガ トタヌス) アカアシシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:totanus totano アカアシシギ (伊)
    • 英名:Redshank, IOC: Common Redshank
    • 備考:6亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは ussuriensis (ウスリーの) とされる。 Boyd では Totanus totanus
  • コアオアシシギ
    • 学名:Tringa stagnatilis (トゥリンガ スタグナティリス) 池にいるクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:stagnatilis (adj) 池にいる (stagnatum (intr) 水がたまる -ilis (接尾辞) 〜に関連する)
    • 英名:Marsh Sandpiper
    • 備考:単形種。 Boyd では Totanus stagnatilis
  • アオアシシギ
    • 学名:Tringa nebularia (トゥリンガ ネブラリア) 霧のクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandusが1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:nebularia (f) 霧の鳥 (nebula (f) 霧 -aris (接尾辞) 〜に属する -ia 質を表す。生息環境を意味したと考えられる)
    • 英名:Greenshank, IOC: Common Greenshank
    • 備考:単形種。 Boyd では Totanus nebularia
  • カラフトアオアシシギ
    • 学名:Tringa guttifer (トゥリンガ グッティフェル) 斑点のあるクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:guttifer (adj) 斑点がある (gutta (f) 斑点 fera 持っている < ferre 運ぶ)
    • 英名:Nordmann's Greenshank (フィンランドの生物学者 Alexander von Nordmann に由来)
    • 備考:単形種。 Boyd では Totanus guttifer
      かつてはサハリン南部で繁殖するとされていた。現在ではサハリンとオホーツク海沿岸とされているが個体数が少ない上に繁殖域が非常に限られ、絶滅が心配されている世界でも希少なシギである。 Maslovsky (2023) Tringa guttifer found in over 40 years indicate nesting plasticity によれば、過去40年間巣が発見されていなかったとのこと。 2019-2021年に Schaste湾に9個の巣が発見され、ロシア本土で初の営巣記録となった。かつて言われていたように木のみに営巣するわけでないことが明らかになった。この場所のような環境を保全することがこの種の保護に極めて重要であるとのこと。A Rare Greenshank Is Spotted in Russia (New York Times の記事 2019)。 主な越冬地は未だよくわかっていない。 Cao et al. (2023) Global population estimate and conservation gap analysis for the Nordmann's Greenshank (Tringa guttifer) によれば世界の個体数は1500-2000羽と見積もられている。市民科学データベースに報告されている越冬個体数はずっと少なく、未知の越冬地がある可能性もある。
      音声についてはあまり知られていない。アオアシシギとは全く異なる声なので(識別点にはなるが)、系統が近くない可能性もある。多数のシギ類の中で目当ての1羽を見つけ、納得できたかできないかのような観察になることが一般的で声を聞くチャンスは少ない。かつて比較的近場に渡来があり、「ネコのようなミューという声で鳴く」と話を聞いて観察しに行ったことがあるが最後まで待っても残念ながら鳴いてくれなかった。ただし「歩く」というより「走る」と言った方がよい独特の採食行動は比較的近くから十分に観察できた。このネコのような鳴き声は図鑑や音声の記述には見当たらないので、今後音声を聞けるほど近くで観察できる機会のある方はぜひ録音に挑戦いただきたい。
      かつてのシギ類の分子遺伝学的な研究の対象外で、どの分類に所属するか明瞭でなかったが、Liu et al. (2019) The complete mitochondrial genome of the Spotted Greenshank Tringa guttifer (Charadriiforemes: Charadriidae) がミトコンドリアゲノムを解読し、Tringa属で、現在置かれている分類場所が適切であることがわかった(他の Tringa属が十分に分析されていないのでアオアシシギとの関係などは不明)。
      絶滅危惧IA類 (CR)、IUCN 3.1 EN種。英名は Armstrong's Sandpiper とも呼ばれる。カナダの鳥類学者 Frank Bradley Armstrong に由来。
  • オオキアシシギ
    • 学名:Tringa melanoleuca (トゥリンガ メラノレウカ) 黒白まだらのクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:melanoleuca (合) 黒白まだらの (melano- (接頭辞) 黒い leukos白い Gk)
    • 英名:Greater Yellowlegs
    • 備考:北米の単形種。 Boyd では Totanus melanoleuca
  • コキアシシギ
    • 学名:Tringa flavipes (トゥリンガ フラウィペス) 黄色い足のクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:flavipes (adj) 黄色い足の (flavus (adj) 黄色の pes (m) 足)
    • 英名:Lesser Yellowlegs
    • 備考:北米の単形種。 Boyd では Totanus flavipes
  • クサシギ
    • 学名:Tringa ochropus (トゥリンガ オクロプス) 黄土色の足のクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:ochropus (合) 黄土色の足 (ochra (f) 黄土、pous足 Gk)
    • 英名:Green Sandpiper
    • 備考:単形種
  • タカブシギ
    • 学名:Tringa glareola (トゥリンガ グラレオーラ) 小砂利にいるクサシギ
    • 属名:tringa trungas Aldrovandus が1599年クサシギに与えた名前 (ツルシギの項目参照)
    • 種小名:glareola (f) 小砂利 (glarea (f) 砂利 -ola (指小辞) 小さい)
    • 英名:Wood Sandpiper
    • 備考:単形種。 Boyd では Totanus glareola
  • キアシシギ
    • 学名:Heteroscelus brevipes (ヘテロスケルス プレウィペス) 短い脚のシギ
    • 属名:heteroscelus (合) 異なった脚 (hetero- (接頭辞) 異なったskelus脚 Gk)
    • 種小名:brevipes (adj) 短い足の (brevus (adj) 短い pes (m) 足)
    • 英名:Grey-tailed Tattler
    • 備考:Heteroscelus属 (Baird, 1858) は Pereira and Baker (2005) の分子遺伝学研究 Multiple Gene Evidence for Parallel Evolution and Retention of Ancestral Morphological States in the Shanks (Charadriiformes: Scolopacidae) により Tringa属に統合。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版でも同じ扱い。Tringa brevipesとなる。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。英名の tattler は騒々しい声に由来。 Boyd では Heteroscelus brevipes
  • メリケンキアシシギ
    • 学名:Heteriscelus incanus (ヘテロスケルス インカヌス) 薄い灰色のシギ
    • 属名:heteroscelus (合) 異なった脚 (hetero- (接頭辞) 異なったskelus脚 Gk)
    • 種小名:incanus (adj) 薄い灰色の、白髪の
    • 英名:Wandering Tattler
    • 備考:Heteroscelus属 (Baird, 1858) は Pereira and Baker (2005) の分子遺伝学研究 Multiple Gene Evidence for Parallel Evolution and Retention of Ancestral Morphological States in the Shanks (Charadriiformes: Scolopacidae)によりTringa属に統合。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版でも同じ扱い。Tringa incana(語尾が変わるので注意)となる。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。古くは Ash-coloured Snipe (Latham 1785) と呼ばれた(種小名の意味参照)。 Boyd では Heteroscelus incanus
  • ソリハシシギ
    • 学名:Xenus cinereus (クセヌス キネレウス) 灰白色のよそ者の(渡りの)シギ
    • 属名:xenus (合) よそ者 (xena よそ者、客、訪問者 Gk)
    • 種小名:cinereus (adj) 灰白色の
    • 英名:Terek Sandpiper
    • 備考:一属一種の単形種。 英名の Terek は北コーカサス(ジョージア/ロシア)の川の名前。ここで渡り中に採集された。 「xenus よそ者」はハヤブサの peregrinus と同等の意味と考えてよいだろう。
  • イソシギ
    • 学名:Actitis hypoleucos (アクティティス ヒュポレウコス) 腹の白い海岸に住むシギ
    • 属名:actitis (合) 海岸に住んでいる (acta -ae (f) 海岸 -tus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:hypoleucos (合) 腹の白い (hypo- (接頭辞) 下の leukos白い Gk)
    • 英名:Common Sandpiper
    • 備考:単形種
  • アメリカイソシギ
    • 学名:Actitis macularius (アクティティス マクラリウス) 斑点をつけた海岸に住むシギ
    • 属名:actitis (合) 海岸に住んでいる (acta -ae (f) 海岸 -tus (接尾辞) 〜に関連する)
    • 種小名:macularius (adj) 斑点をつけた (maculo (tr) 斑点をつける -arius (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Spotted Sandpiper
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • キョウジョシギ
    • 学名:Arenaria interpres (アレナリア インテルプレス) 砂採取場の通訳(二重の誤りによる命名)
    • 属名:arenaria (f) 砂採取場 (adj) 砂の (arenarius)
    • 種小名:interpres (f) 通訳、説明者 (備考参照)
    • 英名:Turnstone, IOC: Ruddy Turnstone
    • 備考:2亜種が知られる(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 interpres とされる。世界的に分布し、もう1亜種は南米のもの。 Linnaeus が1741年ゴットランド (Gotland) 島を訪れた時、現地名 Tolk がキョウジョシギを指しているとの誤った印象を受けた。スウェーデン語では tolk は通訳、説明者の意味だが、ゴットランド方言では茎 (ここでは脚を指す) の意味で、実は現地ではアカアシシギを指す名前だった (Helm Dictionary)。 「コンサイス鳥名辞典」には「見張り番」の意味が記載され、危険が近づくとギョッギョッ...の声を出すためと解説されている。
  • オバシギ
    • 学名:Calidris tenuirostris (カリドゥリス テヌイロストゥリス) 細い嘴の斑点のシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:tenuirostris (adj) 細い嘴の (tenuis (adj) 細い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Great Knot (コオバシギ参照)
    • 備考:単形種。ロシア極北東端のみで繁殖する、主に東洋で記録される種類。
  • コオバシギ
    • 学名:Calidris canutus (カリドゥリス カヌトゥス) カヌーテ王のシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:canutus (adj) デンマークからきた英国王 Canute (Cnut) の (canute -tus (接尾辞) 〜に属する); 音声由来との説もある
    • 英名:Red Knot
    • 備考:分布域はオバシギよりこちらのほうが広く、北米にも分布する。6亜種が知られる(IOC)。日本で記録される亜種は rogersi (オーストラリアの鳥類学者 John Porter Rogers に由来) 亜種コオバシギ と亜種不明とされる。 英名 Knot も英国王 Canute (Cnut) 由来と考えられている。
  • ミユビシギ
    • 学名:Calidris alba (カリドゥリス アルバ) 白いシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:alba (adj) 白い (albus)
    • 英名:Sanderling [古英語 sand と古英語 yroling (耕す人) 由来の可能性がある]
    • 備考:世界的に分布する。2亜種が知られる(IOC)。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種を認めない立場のようである。 Boyd では Pelidna alba
  • ヒメハマシギ
    • 学名:Calidris mauri (カリドゥリス マウルイ) マウルのシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida斑点 Gk)
    • 種小名:mauri (属) イタリアの植物学者 Ernesto Mauri の
    • 英名:Western Sandpiper
    • 備考:北米の種で単形種。 Boyd では Ereunetes mauri
  • トウネン
    • 学名:Calidris ruficollis (カリドゥリス ルフィコッリス) 赤い首の斑点のあるシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:ruficollis (adj) 赤い首の (rufus (adj) 赤い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Red-necked Stint
    • 備考:単形種。 少し古い時期であるが Calidris属は単系統でないと指摘され、「小型オバシギ類」として知られる一部の種 (イギリス英語で stints、アメリカ英語で peeps) を別属とすることもある。 この際にしばしば用いられる属名が Erolia [サルハマシギについて Vieillot 1816 が与えたフランス名 erolie から < erro さまようもの、迷い鳥 (L) lian 非常に (Gk), The Key to Scientific Names] であるが、Erolia属の元来のタイプ種であるべきサルハマシギの分類的位置づけが確定しておらず、どこまでをこの属にするかがはっきりしていない。 日本の種類で Erolia属 とも呼ばれる種類は ヒメハマシギ、トウネン、ヨーロッパトウネン、オジロトウネン、ヒバリシギ、コシジロウズラシギ、ヒメウズラシギ である。 またミユビシギを Crocethia (kroke 小石 theio 走る Gk) 属とする考え方もあり、こちらに分類される可能性もあるとのこと (以上 wikipedia英語版より)。 Thomas et al. (2004) A supertree approach to shorebird phylogeny を参照。 この研究は少し古いのでもう少し新しいデータが出てから再検討されそうである。
      Boyd では Eurynorhynchus ruficollis
  • ヨーロッパトウネン
    • 学名:Calidris minuta (カリドゥリス ミヌータ) 小さな斑点のあるシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:minuta (adj) 小さい (minutus)
    • 英名:Little Stint
    • 備考:単形種。別名ニシトウネン。ロシア中部の極北で繁殖し、主にヨーロッパ等を通過してアフリカやインドなどで越冬する。 Boyd では Ereunetes minutus
      茂田 (1994) Birder 8(9): 42-47 にトウネンとニシトウネン (1) で総論と他の類似種との識別、 Birder 8(10): 45-53 にトウネンとニシトウネン (2) にトウネンとヨーロッパトウネンの識別、初記録とされたヨーロッパトウネンと思われる個体の検討が出ている。 Young Guns (2016) Birder 29(12): 44-47 にもこの2種の識別に関する記事がある。
  • オジロトウネン
    • 学名:Calidris temminckii (カリドゥリス テムミンキイ) テミンクのシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:temminckii (属) temminckの (ラテン語化 -iusを属格化)
    • 英名:Temminck's Stint (オランダの動物学者 Coenraad Jacob Temminck)
    • 備考:単形種。ユーラシア極北で広く繁殖する。 Boyd では Eurynorhynchus temminckii
      自分は内陸に住んでいることもあってシギ・チドリとは比較的縁が薄いのであまり大きなことは言えないのだが、皆さんはシギ・チドリを観察される際に音声にどの程度注意を払われているだろうか。 外見や行動、環境で識別が可能で、ムシクイ類のように音声が識別の決め手となる例はあまりないような気がする。外見の識別が比較的難しい種類でも、あまり鳴いてくれないか声が目立たないので (図鑑には書いてあっても) あまり参考にならない気がする。カラフトアオアシシギはアオアシシギと声が全然違うとは書いてあってもそもそも鳴かないと識別材料に使えないし、この組み合わせは姿は似ていても行動の違いが目立つので採食しているところが観察できればあまり悩まないのではと思う。 経験豊富な方は音声が役に立つものにどんな例があるか考えていただけると面白いかも知れない。 図鑑的には音声が識別の決め手となる組み合わせにオオハシシギとアメリカオオハシシギがあるが、後者は珍しい種類なので「鳴くまで待って」識別する必要があった人は少ないのではないかと思う。
      その中でオジロトウネンはやや役に立つ気がする。もっとも類似種と好む環境が違い (そのため内陸の冬場で比較的出会いやすい)、外見だけで識別可能なので音声はあまり気にされないかも知れない。 探鳥を始めたころはあらゆる鳥の声が新鮮に思え、探鳥会などで「あの声は何ですか?」「シジュウカラ」、「それではあの声は?」「あれもシジュウカラ」のようなやりとりで納得し難い思いをされた方もあるだろう。しかし慣れてくると身近な鳥をいちいち気にすることがなくなって行くものである。 これを自分は勝手に「ヒヨドリフィルター」とか「スズメフィルター」とか称したりしている。珍しい鳥の声に敏感に気づくためにはこれらのフィルターはやはり大事だと思う。 外国人を案内したるすると彼らにとってヒヨドリの声がいかに珍しいかがよくわかる。「あの声は何ですか?」「ヒヨドリ」というのを延々くり返し、相手も次第に飽き飽きする (いや、こちらが飽きていることを察されているのかも知れない) 様子が見えてきたりする。 これが進むと「シジュウカラフィルター」などができてきて次第に身近な鳥の声は気にしなくなるものであるが (あまりよくないのかも知れない。探鳥会の鳥合わせの時に絶対いたはずの種類をどこで聞いたか思い出せないことは皆さんも経験されているであろう)、オジロトウネンでこれをやってしまった。 ご存じの方はおわかりと思うが、この鳥の声はカワラヒワに似ているのである。つまり「カワラヒワフィルター」が一瞬働いて、いや違うと気づいた時には数少ない録音のチャンスを逃してしまったのである。 オジロトウネンはそれほど頻繁に鳴く鳥ではなく、蒲谷鶴彦・松田道生「日本野鳥大鑑 鳴き声420」にもバードリサーチ鳴き声図鑑にも (今のところ) 音声が収録されていない。音声的にはやや通好みの種類と言えるかも知れない。 その時聞いた声がこれまでで一番大きく聞こえたもので、その後も挑戦しているがなかなかよい条件で記録できず、今も惜しかった思い出になっている。ここまで読まれればオジロトウネンの声がどういうものか確実に覚えていただけるだろうし、また野鳥録音家がどんなことに関心があるかも多少理解していただけるのはないかと思う。
  • ヒバリシギ
    • 学名:Calidris subminuta (カリドゥリス スブミヌータ) やや小さいシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:subminuta (adj) やや小さい (sub- (接頭辞) 多少 minutus (adj) 小さい)
    • 英名:Long-toed Stint
    • 備考:単形種。ロシアやモンゴルの内陸部や沿岸で局地的に繁殖。 Boyd では Eurynorhynchus subminuta
  • コシジロウズラシギ
    • 学名:Calidris fuscicollis (カリドゥリス フスキコッリス) 黒ずんだ首のシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:fuscicollis (adj) 黒ずんだ首の (fuscus (adj) 黒ずんだ collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:White-rumped Sandpiper
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。北米極北で繁殖し、主に南北アメリカとヨーロッパの種類。 Boyd では Ereunetes fuscicollis
  • ヒメウズラシギ
    • 学名:Calidris bairdii (カリドゥリス ベイアーディイ) ベイアードのシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:bairdii (属) baird の (アメリカの動物学者 Spencer Fullerton Baird のラテン語化 -iusを属格化)
    • 英名:Baird's Sandpiper
    • 備考:単形種。北米とロシア東端の極北で繁殖。 Boyd では Ereunetes bairdii
  • アメリカウズラシギ
    • 学名:Calidris melanotos (カリドゥリス メラノトス) 黒い背中のシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:melanotos (合) 黒い背中の (melan- (接頭辞) 黒い nota 後部 Gk)
    • 英名:Pectoral Sandpiper
    • 備考:単形種。北米とロシア東部の極北で繁殖。
  • ウズラシギ
    • 学名:Calidris acuminata (カリドゥリス アクミナータ) 先の尖った尾のシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:acuminata (adj) 先の尖った尾の (acumen -minis (n) 尖った先端 -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Sharp-tailed Sandpiper
    • 備考:単形種。ロシア東部の極北で繁殖。
  • サルハマシギ
    • 学名:Calidris ferruginea (カリドゥリス フェッルギネア) 鉄錆色のシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:ferruginea (adj) 鉄錆色の (ferrugineus)
    • 英名:Curlew Sandpiper
    • 備考:単形種。ロシア中部から東部の極北で繁殖。 Boyd では Erolia ferruginea
  • チシマシギ
    • 学名:Calidris ptilocnemis (カリドゥリス プティロクネミス) 脚に羽毛のある斑点のあるシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:ptilocnemis (合) 脚に羽毛のある (ptilo 羽毛 Gk、cnemis (f) 脛骨)
    • 英名:Rock Sandpiper
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは quarta (4番めの) とされる。主にベーリング海峡周辺で繁殖する。quarta はカムチャツカ南部、千島列島とコマンドル島で繁殖するとされる。 かつてはヨーロッパから北米の極北部で繁殖するムラサキハマシギ (現在の名称) Calidris maritima (maritimus 海の) 英名 Purple Sandpiper の亜種とされた。分離される前はムラサキシギの名称があった。
      Boyd では Pelidna ptilocnemis
  • ハマシギ
    • 学名:Calidris alpina (カリドゥリス アルピナ) アルプス山脈のシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:alpina (adj) アルプス山脈の (alpinus)
    • 英名:Dunlin
    • 備考:世界で10亜種が認められている(IOC)。日本で越冬のハマシギ はるばる北アラスカから飛来 (朝日新聞デジタル 2021)によれば、日本で複数の飛来を観察できたのは北アラスカで繁殖するキタアラスカハマシギだけ。茂田さんは「確実に日本で越冬しているのはこの亜種。サハリンやカムチャツカ半島の亜種はもっと南で越冬する」と記載されている。 論文は Lagasse et al. (2020) Dunlin subspecies exhibit regional segregation and high site fidelity along the East Asian Australasian Flyway (各亜種の分布図もあり)。 茂田 (2001) Birder 15(10): 42-47 にも当時の記事がある。 日本のリストでは亜種 sakhalina (サハリンの) を亜種ハマシギ、arcticola (「北または北極に住む」の意味) をキタアラスカハマシギとしていずれも認めている。他に亜種不明がある。日本で冬場に普通に見られているハマシギは亜種ハマシギではなくキタアラスカハマシギなのであろう。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種 kistchinski (ロシアの鳥類学者 Aleksandr Aleksandrovich Kishchinskiy に由来) カムチャツカハマシギ、 亜種 actites (aktites 沿岸に住む < akte, aktes 沿岸 izo 座る) カラフトハマシギの2亜種を検討亜種としている。
      Boyd では Pelidna alpina
  • アシナガシギ
    • 学名:Calidris himantopus (カリドゥリス ヒマントプス) 革ひものような足の斑点のあるシギ
    • 属名:calidris kalidris/skalidris アリストテレスの記述した斑点のある灰色の水辺の鳥。具体的には同定されていない (kilida 斑点 Gk)、後にシギまたはセキレイと考えられた (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:himantopus (合) 革ひものような足の (imantas革ひも pous足 Gk)
    • 英名:Stilt Sandpiper
    • 備考:単形種。 Boyd では Micropalama himantopus
  • ヘラシギ
    • 学名:Eurynorhynchus pygmeus (エウリュノリュンクス ピュグメウス) 小人族の広い嘴のシギ (新学名では小人族のシギ)
    • 属名:eurynorhynchus (合) 広い嘴の鳥 (eurys 広い rynchos 鼻口部 Gk)
    • 種小名:pygmeus (adj) 伝説の小人族ピュグマエイの
    • 英名:Spoon-billed Sandpiper
    • 備考:単形種。Eurynorhynchus属は Thomas et al. (2004) A supertree approach to shorebird phylogenyの系統解析によりCalidris属に含められた。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ扱い。Calidris pygmaea (語尾が変わるので注意) となる。 Gibson and Baker (2012) Multiple gene sequences resolve phylogenetic relationships in the shorebird suborder Scolopaci (Aves: Charadriiformes) の研究では Tringa, Gallinago, Calidris の各属が単系統でないことがわかった。 Chen et al. (2022) Five new mitogenomes sequences of Calidridine sandpipers (Aves: Charadriiformes) and comparative mitogenomics of genus Calidris でも提示されている。 Eurynorhynchus属およびこの研究で使われている学名 Limicola falcinellus (キリアイ) の属の変更はすでに反映されているため、新たな変更が必要という意味ではおそらくないだろう。
      Boyd では Eurynorhynchus pygmeus
      [現状と保護] 絶滅危惧IA類 (CR)。IUCN 3.1 CR種。 世界的にも極めて希少なシギであることは今ではよく知られているだろう。 wikipedia英語版によれば 2009-2010年に 120-200つがいで2002年に比べて88%の減少。越冬地のミャンマーなどで混獲の被害にあったり、重要中継地であった韓国のセマングム (Saemangeum) 干潟の干拓 (1991-2010) が影響を与えた可能性が考えられている。
      繁殖地はロシアチュコト半島の一部に限られ、そこでの環境悪化は特にあるわけではないが、将来の個体数減少に対応するため、また保護下で外敵による捕食を避けて数を増やすための飼育施設が設けられている。2011年からロシアで採取された卵を英国の飼育施設に運んで人工孵化させる取り組みが始まった。2013年にはロシア現地の飼育施設で20羽のひなが誕生したとのこと。 日本語では ヘラシギ保護の最前線をお届けします! (バードライフの日本語記事 2017)。 日本野鳥の会 ヘラシギ [ティーチャーズガイド・ヘラシギと湿地を守ろう (Spoon-billed sandpiper teaching kit) ができました] などを読むことができる。渡りの中継地、越冬地各国でも同様のプログラムが進められている。
      動画では英国 WWT とロシアの協力の初期段階の映像 The Spoon-billed Sandpiper expedition | WWT、卵の孵化の様子 WWT: Spoon-billed Sandpiper Conservation Breeding などが紹介されている。 ロシアの現地 (Mejnypil'gyno村 非常に読みにくい名前はチュコト語由来) での保護増殖施設の様子と地元小学校でのプレゼンテーションや観察 (2015) Lopaten' (Calidris pygmeus) も紹介されている。 ロシアのヘラシギ保護のサイト。 国際的には Saving the Spoon Billed Sandpiper のサイトにも現地の保護増殖施設の紹介がある。
      Green et al. (2021) New estimates of the size and trend of the world population of the spoon-billed sandpiper using three independent statistical models による個体数推定では減少速度は緩和されているが依然危険な状態と指摘されている。 Chowdhury et al. (2022) Accelerating decline of an important wintering population of the critically endangered Spoon-billed Sandpiper Calidris pygmaea at Sonadia Island, Bangladesh バングラデシュの重要越冬地でさらに数が減っている、などの研究が出ている。
      衛星追跡結果は Chang et al. (2020) Post-breeding migration of adult Spoon-billed Sandpipers があり、6個体を追跡。繁殖後に渡りまでの期間を過ごす場所、重要中継地点などが明らかにされている。 これを見ると大陸ルートが主な渡り経路で日本での観察が難しい理由、また石川県などで比較的定常的に観察されている理由もわかる。 富田 (2018) Birder 32(2): 42-43 にも中国で行われた衛星追跡の結果が紹介されている。中国版南部に分散して越冬すること、オホーツク海沿岸にこれまで知られていなかった中継地が見つかったとのこと。
      ロシアの記事 自分では生き延びられない鳥 (2016) 抄訳 ([kbird:01490] ヘラシギのロシアの記事 2016.8.10):

      野鳥の卵を巣から盗むというのは恐ろしいアイデアです。これは種が 脅威に晒されている場合にとりわけその通りです。例えばイギリス では野鳥の卵を盗もうとして捕まった人は禁固6か月に処せられます。

      [どのように種を絶滅から救うのか?]
      しかしロシア北東部、チュコトカの沿岸の肌寒いツンドラで保護の ためにまさにこのことが行われています。2012年からロシアと イギリスの鳥類学者がヘラシギの巣から卵をつかみ取ります。 ひなが十分に力強くなって自然界で自分で生きて行けるように なれば自然に放します。
      これはこの種を保護するための絶望的な最後のステップなのです。 しかし鳥類学者はこれをやらざるを得ません、というのはヘラシギ の状況があまりにも絶望的であるためです。
      自然界には繁殖しているこの鳥のつがいは全部で200しか残って いません。個体数はこの数十年で急激に現象しました。しかしこの 危機の原因は繁殖するロシア国内にあるのではなく、遠くの南に あるのです。

      [生息環境の破壊]
      若いヘラシギは十分な大きさになると黄海沿岸の中国や韓国、そして 東南アジアへと南への渡りを始めます。 この道のりは8000キロにも及び、スズメほどの大きさしかない鳥が この長距離を克服するのです。そしてまさしくその道筋において ヘラシギは自身の最大の問題にぶち当たるのです。黄海のこの鳥の 生息地は事実上なくなってしまっています。この鳥たちは無数の 小さな無脊椎動物のすみかとなっている泥質の砂浜で餌を探します。 しかし中国や韓国ではこれらかつて広大な泥質の砂浜は農業や産業 のために干拓されてしまいました。それはこの鳥の骨の折れる渡りの 時の急速場所が著しく小さくなったことを意味します。
      多くの野性の渡り鳥は黄海の生息地の消失の犠牲になっています。 彼らは皆、東南アジアを横切る最大の渡りのルートの一つを通って ゆくのです。
      もう一つの問題は沿岸部の鳥の狩猟、特に東南アジアの国々や中国 におけるものです。猟師にとってヘラシギは価値ある獲物には小さ すぎますが、暗闇の中でよく網にかかってより大きな種類のために 据えられます。

      [子孫を再生産する問題]
      この損失を補填するためにヘラシギは多数の子孫を再生産せねば なりませんが、ここに問題があるのです。卵やひなの大部分は 大きなカモメ類やキツネやリスなどの哺乳類などの捕食者の 餌食になってしまいます。平均的には成熟したつがいは毎年 3-4個の卵を産みますが、その中から2年に1羽のひなが南へと 旅立つことができるのです。

      [鳥類学者は何をしているのか?]
      まさにここが生態学者が助けをさしのべています。彼らは 卵を集めて孵卵器に入れます。そして孵化したばかりでまだ自分 で生きていくほどに十分強くなっていない間ひなを世話します。 アイデアは産まれ次第卵を集め、そして若い鳥を安全なケージの 中で育てるということです。理論的にはひなが黄海への渡りを 遂げるチャンスが7倍になります。
      鳥類学者はこの他に「ノアの箱舟」として知られている23羽の鳥の 集団を設けました。もし自然界で鳥を保護することができなかった 場合、これらの鳥を飼育下で増やそうと願っているのです。 2016年6月にそのうちの2つがいが初めて卵を産みました。 しかしながら今は重大な課題であるこの種を自然界で保護すること に最大の努力が向けられています。

      [飼育下でのヘラシギ増殖の特性]
      現在この種の最もよく知られたチュコトカでの繁殖地は漁村の Mejnypil'gynoです。毎年鳥類学者はここにある8つの巣から 全ての卵を採取します。もし卵をシーズン始めに採取すれば鳥は 再度産卵のためにつがいを作ります。しかしそれは再度採取しません。 しかしながらこのような絶滅しつつある種の卵を採取することは 常に危険を伴います。しかしこの鳥の生物学的特性からこのような アプローチがうまく行くと予想できる点が2つあります。
      一つの好ましい要因はヘラシギのひなは孵化して羽毛が乾けば すぐに自分で餌をとれることにあります。1時間も経てばひなは 無脊椎動物を探しに歩き回ります。さらに若い鳥はいつ渡りを 始めるか、どの方向に飛ぶ必要があるかを本能的に知っています。 これは例えば親が導かなくてはいけないガン類やツル類が 持ち合わせていないこの種族の自然の防御機構なのです。

      [ひなに何を与えるのか?]
      しかしながら鳥類学者はさらに一つの問題にぶち当たりました。 飼育下のひなにどのように餌を与えればよいのか。彼らは ビタミンとミネラルを添加した固形の餌を与えることにしました。 しかしその他に天然の餌である昆虫を与えようと努めています。 ありがたいことに北極の夏には昆虫は不足していません。 ツンドラには非常に大量のカがいて、人間が生活するにはやっかい なほどですが、鳥が繁殖するには好適な要因なのです。
      しかしながら最初の1年間、鳥類学者チームは危機に直面 しました。ひなが乾燥フルーツを食べようとせず、風が強くて カで餌を保証することもできなかったのです。このため学者 たちは強い風の吹かない遠くの谷間へカを採取に行く必要が ありました。鳥類学者は真空掃除機、四輪駆動車、ポータブル 発電機のフル装備で遠征に出かけました。彼らは後で雛の餌に なるかも知れないカを集めるのに掃除機を使いました。今では プロジェクトチームはその場所で24時間体制でカを集めています。 極北の地にはこの季節には夜がなく、ひなは最初の渡りに備える ために大量に食べる必要があるのです。

      [ひなはどのように発育するか]
      孵化したばかりのひなは5gしかありません。巨大な足を持つ ハチに似ています。それでも20日経つと自然界で生き延びる ことができるほどに自立します。生まれて23-25日後には 自分で渡りを始めることができるのです。
      鳥類学者は毎年約30羽を育て上げて放しています。大多数は 黄海の方向へと移動を始めます。2014年、鳥類学者は育てた 鳥を初めて見ました。彼らは生き延びてこちらへ戻ってきた のです。その後2015年、育てられた鳥の何羽かが野性下で つがいを作りました。今年彼らがうまく繁殖できるかどうかを 語るには早すぎるでしょうが、そうではないと考える理由も 特にありません。
      さらに2015年夏にその前6年で極めて急速にこの地域の個体群 が減少した後、初めて少し増加が記録されました。データは 飼育下でのひなを育てたおかげで数が増えたことを示しています。 これは鳥類学者の努力が成果につながったことを意味します。

      [何のために国際協力が必要か?]
      しかしながらチームはこの活動だけで鳥を絶滅から救うことは できないことはわかっています。実際に採食場所は生息地の破壊 の現実の問題が解決しなければこの種の命運は尽きているのです。
      このプロジェクトによってこの種の保護のために十分に強力な 処方箋を作る時間稼ぎをすることができます。現在ミャンマーで 狩猟を避けるため、また中国で生息地の損失を避ける試みのための 仕事がなされています。これはロシアに営巣地で行われている 仕事と同様に大変重要なことです。
      結局のところこの小さな鳥を救うには東アジアの渡り経路を 通じた保護が唯一の方法です。ここでの一歩一歩が大変大きな 意味を持ちます。ヘラシギを救うことができるかは渡りの経路での 国際協力にかかっているのです。(抄訳終わり)

      ベラルーシの鳥類雑誌 (2012年号) のp.22にヘラシギ調査 に出かけた (2008) 方の手記があった (現在 URL リンク切れ [kbird:01502] ヘラシギ調査2008, 2016.8.24)

      ある遠征の記録 Pavel Pinchuk

      "Ptushki i My" 「鳥と私たち」 (2012) 21(2), 22

      私がヘラシギを知るようになったのは2008年冬にアレクサンドル ヴィンチェフスキーからの電話が始まりだった。チュコトカの 2回の遠征に鳥類学者が必要だった: 最初はヘラシギについて 2か月半、2つめはカリガネについて1か月半だった。 迷うことなく最初の方を選んだ。5月終わり、モスクワから ほとんど9時間の飛行を終え、ベラルーシの夏からチュコトカ の春へとたどり着いた。春というよりもむしろ冬だった。
      6月の始めのチュコトカでは春はまだ始まったばかりで、 アナディルの沿岸の氷の上を「万能車」(訳注:悪魔の車 として有名なもの?) が走っていたが、春の鳥の渡りはもうすでに 真っ最中だった。最初の一週間を我々は Ugolnye Kopi でヘリコプターを待って過ごした。時間をつぶす(だけでは ないが)ためかすみ網をしかけ、最初の日には一週間前に Pripyat (訳注: チェルノブイリで有名な地名だが、もしかしてそこ での調査?) にいたのと同じ種類を捕まえた:タカブシギ、 ハジロコチドリ、タシギ、エリマキシギ。そしてようやく翌日 ヒバリシギをリストに加えることができた。
      総じてヘリコプターを待つのはたいへん退屈な作業だとわかった。 毎朝11時に全員が集合して空港に車で行く必要があり、1時間半 待って天候条件が厳しいために便は欠航と聞くのだった。 しかし天候は我々をすぐに哀れんでくれたのか1週間後に 我々は発音するのも難しい Mejnypil'gyno (訳注: よほど 読みにくいのか綴りがかなり間違っていたので修正) という名前の集落 に降り立つことができた。ヘリコプターに乗って初めて鳥類学者 が特別が特別に扱われていることを知った:飛行士は我々がどういう 者かを知って飛行中に撮影用の覗き窓を開けるのを許可して くれた。その後私は、鳥類学者に至るところで「青信号」 が与えられることに驚かなくなった。例えば学校では自由に インターネットが使うことや「外出禁止時間」に大人向けの アルコールを入手することが許されていた。
      課題はまずまず単純なことだった:調査区域で繁殖している すべてのヘラシギのつがいをみつけて記録し、巣を見つけたり 彼らの運命を追跡することを可能にするのだった。 その時はヘラシギに標識をつけることは断念していたが、 昨年カラー標識をつけた鳥を探すことは必要だった。 その他に地域の人々との交流や「ヘラシギ友好クラブ」を作る ことが我々の仕事になった。ヘラシギの仕事の合間にチュコトカ 南東部の海のコロニーで鳥の調査をすることになっていた。
      ヘラシギは到着したその日に見ることができ、集落から十分 近いところにいた。ヘラシギは特に大きなシギではないとは 知っていても、その大きさには驚かされた。ニシトウネンよりも 大きくないのである。ツンドラで探すのはまったく簡単なこと ではなく、それほど姿を見せようとしないのでなおさらの ことだった。特徴的なぶんぶん(ジュジュ?)いう声が救いである。
      色や外見はヘラシギは見慣れたニシトウネンとあまり 違わない。ここでは普通にいるトウネンとは一層似ている。 しかし嘴に関してはこれはまったく別のことだ。 この鳥にとって何のためにこういう形が必要なのかはよく わかっていない。このシギの採食行動を観察してもこの形が 役立っているというより邪魔しているような印象を受ける。 ところで地域の学校での講演の準備の途中で明らかになった のだが、ヘラシギ (lopaten') の名前はシャベル (lopata) との類似性から来ているのではまったくなく、四輪馬車の 木製の軸の下のすきまにホイールハブに手で穴をあけるために 使われる特別なドリル (lopaten') から来てきることが 明らかになった。
      さて仕事にためにやってきたのだからその話に戻ろう。 我々の調査の結果、ヘラシギの数がさらに減少したこと が明らかになった。2003年にほぼ100つがいを記録した 調査区域で10つがいを越えないヘラシギしか生息して いなかった。我々が見つけたもの全部で6個の巣で そのうち1つはたぶんイヌが食べてしまっていたが、 他は正常なひなが孵化していた。
      天候がヘラシギたち自身にとっても、我々の仕事に とっても好ましくなかったことは言っておく必要がある。 6月初めには少し雪も降り、その後何時間かかけて雪が 解けた。6月はちょっと寒く、昼の平均温度は5℃ぐらい だった。雨は少なかったし、降ったとしてもぬか雨ぐらい みたいだった。7月前半はよく晴れた暖かい日はたった 1日だけで後の日は曇った肌寒い日が続いた。これらの ことのためにヘラシギが普通営巣する場所が乾きすぎる ことにつながった。このことがおそらくヘラシギの個体数 が少なかったことにつながり、その証拠は翌年確認する ことができた。
      ヘラシギの巣を見つけるのが難しいとすればひなを見つける のはもっと難しい。正確な巣の場所を知って定期的に調査 しているのに、巣からそれほど離れていないところに横た わっている孵化してまもないひなを見つけるのに半時間も 費やした。生まれたばかりのヘラシギの嘴にはすでに しっかりとした固形の「スコップ」があり、嘴が成長する につれて一層頭から離れるようになる。
      7月半ばには我々は2週間集落を離れて海鳥のコロニーの 調査に出かけた。コロニーの鳥のカウントをする他に 繁殖しているヘラシギを発見する希望を持ってピーク川 地域もまた観察したが成果はなかった。ヒグマたちとの 近接遭遇が風変わりななぐさめになった。ヒグマは人を 恐れるがそれほど強くないことは言っておかねばならない。 しかしセイウチのコロニーのそばにいることと、産卵に 向かう赤い魚 (ベニザケ、カラフトマス) のおかげで 一度に7頭までのヒグマを見ることができた。 そのうち1頭のヒグマ (こいつには良くない呼び名を付けていたが) が我々のゴムボートをおそらく死んだセイウチと間違って 切り裂いたことで全て終わりとなってしまった。
      集落に帰ると我々の乗るヘリコプターの席はなく、その後 もないという嬉しくない知らせが待っていた。そのため シーズンは「召集されるかされないか」という永遠の 曖昧な希望とともに終わるのだった。最後の日々にはひなに 標識を付けるために近くへの出撃を終えた。知っている 2つがいのコオバシギの3羽のひなに足輪を付けることと、 白いフラッグを付けたオスの写真を撮ることに成功した。 この標識はニュージーランドで越冬中に付けられたことが わかった。
      最後の外出のうち1回は我々が標識を付けたひなを訪れる ために費やした。この時はそれらのひなを見ることが できないじまいだった。草の中に去ってしまっていた。 しかし両親の行動からは守らなければいけないものが いることがわかった。そういうことでこれらのひなに とって少なくとも生涯の門出はうまくいったようだ。
      さて8月にモスクワに戻ってくるとグルジアとの間で 始まった戦争のニュースと我々のかつての故郷の首都の すべての駅にいるおびただしい数の警官が待ち受けていた。
      今になって当時2008年を思い返してみると、シーズン が終わってすぐ、ヘラシギの将来はお先真っ暗だったことを 思い出す。5-10年もすれば最終的に絶滅してしまい、 何をしてももうすでに遅いという意見すらあった。 しかしこの2年でなされた仕事によれば、このユニークな シギの将来を一定の安堵感(と言ってよければ) を持って見守ることができるようだ。(訳文終わり)

      この著者の方のものと思われる ブログ がある。 ヘラシギの巣などの映像がある。2009年当時の記録だが、当時は本当に絶望的で、何かの要因で数が回復してくれると信じたいと結ばれている。
      生まれた日のヘラシギ 当時のチュコトカの風景 (5月末) とシギ類: 1, 2

      wikipediaロシア語版によれば長命で 14, 15年、最低16年生きた鳥が記録されているそうで、小型 シギ類では珍しいとのこと。
  • キリアイ
    • 学名:Limicola falcinellus (リミコーラ ファルキネッルス) 小さな曲がった嘴の泥に住む鳥 (新学名では小さな曲がった嘴のシギ)
    • 属名:limicola (合) 泥に住む鳥 (limus (m) 泥 colo (tr) 住む)
    • 種小名:falcinellus (m) 小さな鎌 (falx -falcis (f) 鎌 -ellus (指小辞) 小さい)
    • 英名:Broad-billed Sandpiper
    • 備考:Limicola属は Thomas et al. (2004) A supertree approach to shorebird phylogenyの系統解析によりCalidris属に含められた。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版でも同じ扱い。 Calidris falcinellusとなる。同文献により Philomachus属 (#エリマキシギ参照。現在ではこの属も Calidris属に含められた) となる可能性も提案されている。分子系統に関する文献は#ヘラシギの備考も参照。 2亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は sibirica (シベリアの) とされる。 Boyd では Limicola falcinellus
  • コモンシギ
    • 学名:Tryngites subruficollis (トゥリンギテス スブルフィコッリス) やや首の赤いクサシギのようなシギ (新学名ではやや首の赤いシギ)
    • 属名:tryngites (合) tringaに似た鳥 (tringaクサシギ属、-tes (接尾辞) 〜に似た Gk)
    • 種小名:subruficollis (adj) 多少首の赤い (sub- (接頭辞) 多少 rufus (adj) 赤い collum -i (n) 首 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Buff-breasted Sandpiper
    • 備考:単形種。Tryngites属は Thomas et al. (2004) A supertree approach to shorebird phylogenyの系統解析によりCalidris属に含められた。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ扱い。Calidris subruficollisとなる。 Boyd では Limicola falcinellus
  • エリマキシギ
    • 学名:Philomachus pugnax (ピロマクス プグナクス) 好戦的な闘争を好むシギ (新学名では好戦的なシギ)
    • 属名:philomachus (合) 闘争を好む (philos 友人 machi 闘争 Gk)
    • 種小名:pugnax (adj) 好戦的な (繁殖期のディスプレイから)
    • 英名:Ruff (16世紀ころのひだの襟から)
    • 備考:単形種。Philomachus属は Thomas et al. (2004) A supertree approach to shorebird phylogenyの系統解析によりCalidris属に含められた。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ扱い。Calidris pugnaxとなる。
      [特異な社会構造と遺伝] 繁殖地ではレック (lek) と呼ばれる集団求愛場のグループを形成する。エリマキシギはオスのディスプレイがメスに対するものよりも、他のオスに直接向けられる点が珍しい。テリトリーを持つオス (independent, 全体の84%)、取り巻きのオス (satellite, 16%)、メスのように見えるごく少数のオス (1%)からなる社会構造を持っている。レックを作ることがはっきり確認されているシギはエリマキシギのみ。 これらの特性は遺伝子が決めており、生涯変わらないとのこと。テリトリーを持つオスは翌年は90%の確率で同じ場所に戻り、他の個体の順位もよく把握している。取り巻きのオスはテリトリーを持たず、テリトリーを持つオスのテリトリーに入って交尾の機会をうかがうとのこと。メスのように見えるオスはオスらしい生殖羽を示さないが、生殖羽を持つオスよりも大きな精巣を持っている。 レックを形成する鳥ではそうでない種類に比べて体サイズでみた精巣が小さい傾向があるが、エリマキシギはあらゆる鳥の中で体サイズに比べて最も大きな精巣を持っている。 このメスのように見えるオスは「隠れオス」、英語では faeder (feader と書かれるのは誤記) とも呼ばれる。進化的にはこれが生殖羽を持つオスの原型と考えられている。この faeder に対して交尾を試みる取り巻きのオスもあるが、この同性間の交尾で faeder の方が上に乗り、相棒はオスであることを認識していると見られている。このような同性間の交尾はメスを誘引する機能があるのかも知れない
      2016年にこれらの3種類のオスを決定する遺伝部位が同定された。380万年前に起きた90個の遺伝子を含む大きな転位によって faeder が生まれた。これだけ多くの遺伝子が含まれるため、この変異を持つ遺伝部位がホモになると致死的である。 50万年前に起きたまれな組み換えによって取り巻きのオスが形成されたとのことである。 (wikipedia英語版より。文献や遺伝学的詳細は同ページを参照)。
      「超遺伝子」で決まるエリマキシギの恋のアプローチ法 (nature ダイジェスト 2016) に日本語解説がある (#ベニヒワの備考も参照)。
      これほど詳しい研究が行われているのはヨーロッパではエリマキシギが繁殖するためである。 エリマキシギ研究者のページ Ruff Project にもまとめられている。Reproductive strategies in the ruff で3種類のオスの解説と動画が見られる。「 好戦的な」の学名の意味も、この特異な繁殖戦略に由来するものになっている。 東アジアではほとんど極北ツンドラのみで繁殖するため、ご存じのようにオスの完全な夏羽でさえ我々にとっては縁遠い存在である。英語でメスは reeve とも呼ばれる。
  • アメリカヒレアシシギ
    • 学名:Phalaropus tricolor (パラロプス トゥリコロール) 三色のオオバン足のシギ (新学名で三色の水かきのある足の鳥)
    • 属名:phalaropus (合) オオバンの足 [phalaridos (Gk) は未同定の水鳥で、オオバンと考えられている。鳥類学ではこの意味で使われる< phalaros 白い班のある < phalos 白 (Gk) (The Key to Scientific Names)。pous 足 Gk]
    • 種小名:tricolor (adj) 三色の (tri- (接頭辞) 三つの color (m) 色)
    • 英名:Wilson's Phalarope
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Steganopus属 (steganopous, steganopodos 水かきのある足の Gk < stegane 水かき Gk podos 足 Gk) としている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。この場合Steganopus tricolorとなるが、Avibase は 2021年にPhalaropus に戻している。 HBW/BirdLifeでは Steganopus、IOC、eBird など Phalaropusを用いている方が多く、第8版の最終的な学名が何になるかは不定要素がある。Steganopus属の場合は一属一種。 Boyd では Steganopus tricolor。 英名はアメリカの鳥類学者 Alexander Wilson に由来。 北米で繁殖し南米に渡るが、他地域にも分布する可能性がありよくわかっていないようである。
  • アカエリヒレアシシギ
    • 学名:Phalaropus lobatus (パラロプス ロバトゥス) 弁足のヒレアシシギ
    • 属名:phalaropus (合) オオバンの足 [phalaridos (Gk) は未同定の水鳥で、オオバンと考えられている。鳥類学ではこの意味で使われる< phalaros 白い班のある < phalos 白 (Gk) (The Key to Scientific Names)。pous 足 Gk]
    • 種小名:lobatus (adj) 葉状の、弁足の (lobus (m) 葉 -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Red-necked Phalarope
    • 備考:単形種。 スウェーデンからアラビアまで内陸を通って渡ってゆく研究: van Bemmelen et al. (2015) First geolocator tracks of Swedish red-necked phalaropes reveal the Scandinavia-Arabian Sea connection
  • ハイイロヒレアシシギ
    • 学名:Phalaropus fulicarius (パラロプス フリカリウス) オオバンのような足のヒレアシシギ
    • 属名:phalaropus (合) オオバンの足 [phalaridos (Gk) は未同定の水鳥で、オオバンと考えられている。鳥類学ではこの意味で使われる< phalaros 白い班のある < phalos 白 (Gk) (The Key to Scientific Names)。pous 足 Gk]
    • 種小名:fulicarius (adj) オオバンのような (fulica (f) オオバン -arius (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Red Phalarope
    • 備考:単形種。北半球極北部で繁殖。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES レンカク科 JACANIDAE 

  • レンカク
    • 学名:Hydrophasianus chirurgus (ヒュドゥロパシアヌス キルルグス) 外科医のメスを持つ水キジ
    • 属名:hydrophasianus (合) 水キジ (hydro- (接頭辞) 水の Gk、phasianus (m) キジ)
    • 種小名:chirurgus (m) 外科医
    • 英名:Pheasant-tailed Jacana
    • 備考:一属一種の単形種。 種小名は外科医の持つメス (lancet) のように長い趾と爪 (The Key to Scientific Names)、あるいは翼角の突起(爪) (carpal spur) の2説がある。 後者の説は「野鳥の名前」(安倍直哉 2008、再編集されて2019年刊行 山と溪谷社)にあるそうである [コンサイス鳥名辞典も同じ。唐沢 (2014) Birder 28(10) p.70 に記載されている]。 フランスの探検家 Pierre Sonnerat はこの種を「ルソン島の外科医」("Le Chirurgien de l'Isle de Luzon") と記述し ("Voyage a la Nouvelle Guinee" 1776) 、長い趾と突き出た特殊な構造の初列風切を外科医のメスに見立てたとある。それを受けて Giovanni Scopoli によって1787年に記載された (wikipedia英語版)。前者の説が正しそうである。 ちなみに外科学のことは上記のようにフランス語で chirurgie シリュジー、ドイツ語で Chirurgie ヒルルギー と呼び、日本では過去に主にドイツ医学が入っていたので年配の医師の方であればこの用語を使われているかも知れない。これらの単語を知っていればわかりやすい学名。英語の綴り surgery は違って見えるがフランス語の音と比較すれば同じ語源であることがわかる。
      carpal spur を持つ種については Rand (1953) On the spurs on birds' wings がある。 この文献にはそのものずばりの名を持つツメバガン Plectropterus gambensis 英名 Spur-winged Goose は爪で相手を傷付けることもできると言われると書かれている。wikipedia英語版によればツメバガンの一部に餌のツチハンミョウ類 (blister beetle) 由来の毒を持つものもあるそうである。 レンカク類ではアメリカレンカク Jacana spinosa 英名 Northern Jacana でディスプレイの際に翼角の爪を見せて攻撃のポーズをとると言われている。 Hume and Steel (2013) Fight club: a unique weapon in the wing of the solitaire, Pezophaps solitaria (Aves: Columbidae), an extinct flightless bird from Rodrigues, Mascarene Islands には翼角の爪を武器として使っていたらしいドードーのようなハト類の絶滅種があるとのこと。
      英名にある Jacana またはレンカク科 Jacanidae (日本には分布しないが Jacana属がある) の名称は、 ナンベイレンカク Jacana jacana 英名 Wattled Jacana のポルトガル名の jacana に由来。これはブラジル原住民ツピ (Tupi) 族の言語 (絶滅言語) で yassana または yahana で非常に警戒心が強くて騒がしい鳥のこと (The Key to Scientific Names)。 jacana をどのように発音するかは議論があり、ポルトガル語ではジェセネーのような発音になるそうで,、英語ではジェセナーのような発音になるとのこと。3つめの c の文字は本来は下に s のような記号が付き (フランス語のセディーユ、ポルトガル語でセディリャ、日本語名セディラ)、c は k ではなく s と発音される (wikipedia英語版より)。
      ヒレアシシギ類やタマシギと同様にオスが抱卵や子育てをする。レンカク科のほとんどの種は一妻多夫。ほとんどの種は留鳥であるが、レンカクは例外的で一部の個体群が渡りをする (wikipedia英語版より)。
      Spurs and blades on the wings of jacanas, lapwings, sheathbills and archaeotrogonids (clubs, spurs, spikes and claws part II) にも面白い解説があり、レンカクを含む数種の鳥は捕食者が現れたときにひなが水中に身を隠して嘴をシュノーケルのように用いるとのこと。同様の行動は他のシギ類には見られない。 ケリ類の爪についての言及もある。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES タマシギ科 ROSTRATULIDAE  

  • タマシギ
    • 学名:Rostratula benghalensis (ロストゥラトゥーラ ベンガレンシス) ベンガルの嘴が目立つ鳥
    • 属名:rostratula (adj) rostratus (大きな嘴の、嘴が目立つ) rostrum 嘴 -ula (指小辞) 小さい)
    • 種小名:benghalensis (adj) ベンガルの (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:(Painted Snipe), IOC: Greater Painted-snipe
    • 備考:rostratula から派生する Rostrata はサイチョウ類の属名。シノニムに Rhynchaea (大きな鼻/嘴の)がある。 他のシギ類に比べて嘴が大きいことを特徴と捉えたのだろう。Rostrata がすでに使われているため指小語を用いたのではないか。愛媛の野鳥「はばたき」には「先端の曲がった嘴の」とあるが、語意に「先端の曲がった」の意味は含まれないと思われる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版で亜種 australis を別種 (英名 Australian Painted-snipe) とし、タマシギは単形種となる。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 括弧内の英名はこれらの分離される前のもの。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES ミフウズラ科 TURNICIDAE 

  • ミフウズラ
    • 学名:Turnix suscitator (トゥルニクス ススキタトール) 目を覚ましてくれるウズラ
    • 属名:turnix (合) 後趾を欠く小さなウズラ [Coturnix属 (ウズラ属) を短縮して作られた属名。「小さい」の意味と後趾を欠く特徴が込められている] (The Key to Scientific Names)
    • 種小名:suscitator (m) 目を覚ますもの < suscitare 起こす
    • 英名:Barred Buttonquail
    • 備考:16亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは okinavensis (沖縄の) とされる。 英語の buttonquail にも小さなウズラの意味が込められている。種小名の意味は、Brisson (1760) によれば Reveil-matin (目覚まし時計)、Latham (1783) で Noisy Quail と、声の大きさが由来だそうである (The Key to Scientific Names)。 ミフウズラの和名、英名の起源の考証 (学名解説は上記と同じ。短縮名は何かが欠けていることを表すとのこと) が大橋 (2020) Birder 34(7): 16-17 にある。大橋氏は英名の button の由来は目がボタンのように見えるからではないかとしている。 中国名は棕三趾鶉で趾が3本であることに対応している。大橋氏による一つの解釈は「三歩」で趾が3本である意味があるとのこと。 wikipedia日本語版では旧名フナシウズラとあり、この解釈に対応しているように思える。 英語別名に Bustard Quail もあった。
      かつてはウズラに近縁の場所に分類されていたり、ツル目に含まれていたこともあったが現在はチドリ目に分類される。例えば Baker et al. (2007) Phylogenetic relationships and divergence times of Charadriiformes genera: multigene evidence for the Cretaceous origin of at least 14 clades of shorebirds を参照。シギ類 (Scolopaci 亜目) とカモメ類の間でカモメ類前の分枝に収まるが分子時計に基づく進化速度が例外的に速いとのこと。Berv et al. (2018) Genomic Signature of an Avian Lilliput Effect across the K-Pg Extinction ではこの理由の一つとして大量絶滅 (K-Pg または K-T 大量絶滅; K/T 境界の大絶滅とも呼ばれる) の際に大型種ほど影響を受けやすく、相対的に進化速度が速い小型種が生き延びた効果を考えている [この当時チドリ目グループの祖先はすでに存在しておりこのグループの少なくとも14系統が大絶滅を生き延びたと考えられている。上記 Baker et al. (2007)]。 Mayr (2011) The phylogeny of charadriiform birds (shorebirds and allies) - reassessing the conflict between morphology and molecules では形態学 (骨学) と分子系統樹が矛盾することを示しており、ミフウズラ類とカモメ類の系統的近さは分子遺伝学的には支持されても形態的には両者にほとんど共通点がないとのこと。さすがの Mayr もこの分類群では形態学による系統解析に限界を認めている。 ミフウズラ科を Lari (カモメ) 亜目に含める分類は問題があり、nonturnicid Lari (ミフウズラ科を除くカモメ亜目) のような名称も使われている。
      現代でも位置づけの難しいグループであるが、 Dey et al. (2022) Genome Survey Sequencing, Microsatellite Motif Identification and Complete Mitogenome of Turnix Suscitator - Novel Implications for Charadriiformes Phylogeny の新しい解析によればチドリ目に位置することは問題ないようである。Lari 亜目などの既存の3亜目とは関連が薄く、独立に進化したグループと考える圧倒的証拠があるとのこと。チドリ目ミフウズラ亜目 (Turnices、ツル目に含まれていた時代に使われていた名称) とするのがおそらく適切なのであろう。 上記の複数の研究を踏まえると恐竜絶滅の際にも生き延び、独自の進化を遂げたグループと考えてよさそうである。
      ミフウズラ科などいくつかのグループはハトのように水面から直接水を飲むことができる [Fry (1978) Buttonquails in "Bird families of the world"; Drinking Methods in Two Species of Bustards]。
      台湾の亜種 rostratus は認められないこともあるようで [Collar (2004) Endemic subspecies of Taiwan birds - first impressions] 多少注意が必要かも知れない (つまり okinavensis との関係がどうなるか。同一亜種であるならば rostratus の方が記載が早い)。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES ツバメチドリ科 GLAREOLIDAE 

  • ツバメチドリ
    • 学名:Glareola maldivarum (グラレオーラ マルディウァルム) モルディブ諸島の (で見つかった) 小砂利にいる鳥
    • 属名:glareola (f) 小砂利 (glarea (f) 砂利 -ola (指小辞) 小さい) 広い意味の生息地を反映
    • 種小名:maldivarum (複数-属) モルディブ諸島の (基産地は陸地ではない。備考参照)
    • 英名:Oriental Pratincole
    • 備考:単形種。 Hirundo pratincola Linnaeus, 1758 で使われた名称で、ニシツバメチドリ (現在の学名は Glareola pratincola 英名 Collared Pratincole) は最初はツバメに分類されていた。 英名はこの学名の種小名に由来で、prati 牧草地 incola 住人 の意味。 ツバメチドリは Glareola pratincola (ネズミツバメチドリの旧名もあった) の亜種とされていたが、ハグロツバメチドリ Glareola nordmanni Black-winged Pratincole とともに分離された (コンサイス鳥名事典)。 ハグロツバメチドリはシベリア西部からコーカサスなどで繁殖し、冬は南アフリカに渡る。ニシツバメチドリも中央アジアで繁殖し、主にアフリカ赤道近くで越冬する。アフリカ南部にも夏鳥の繁殖個体群 (別亜種) がある。 ツバメチドリの越冬地はインドネシア、ニューギニア、オーストラリア北部やインドの一部などとされる。 モルディブ諸島で採集されたタイプ標本は海で捕獲され、ハエやパンを与えられてしばらく生きていたとのこと (The Key to Scientific Names)。 ツバメチドリはオーストラリアで最も数の多いシギ・チドリ類とのことで、 Tracking the Oriental Pratincole - Update #24 にオーストラリアのシギ・チドリ類グループによるツバメチドリの渡り衛星追跡が出ている。 Three million pratincoles migrate north (ABC のニュース 2020)。経路は東南アジアまでで、日本に来る個体群の渡り経路はまだ調べられていないようである。
      [ツバメチドリ類縁種の識別] wikipedia英語版によればツバメチドリ、ニシツバメチドリ、ハグロツバメチドリは非常によく似ていて野外での識別が困難なことがあるとのこと。ツバメチドリの英国への迷行例が複数あり、ツバメチドリ類似種もあるいは日本を訪れているかも知れない。 Brazil (2009) によればニシツバメチドリは香港で記録され、さらに東を訪れているかも知れないとのこと。Pratincoles photo ID guide (Tony Prater, Bird Guides 2020) によれば英国では3種とも記録があり、詳しい識別ガイドがある。ツバメチドリは口角から後ろに伸びる線があるが他種には見られないとのことで、確かに写真を見ると違いがわかる。ツバメチドリを見る時はよく確認していただきたい。 ツバメチドリの分布図でフィリピンの記載は資料によって異なるが、フィリピンのチェックリストによれば広く分布し、おそらく繁殖しているとなっている (旅鳥または繁殖)。
      [櫛歯 (pectinated claw)] ツバメチドリ科では櫛状の爪 [pectinate(d) claw, または櫛歯] があるとのことで分類基準にも使われる (コンサイス鳥名辞典)。#ヨシゴイの備考参照。 ヨタカ類ならば捕食に特に重要な役割を果たしている口ひげ状の羽毛を整える意義としてまだ理解できるが (#ヨタカの備考参照)、ツバメチドリでは何の役に立っているのだろう。 空中で餌をとることが多い点はこの科の特徴であるが口ひげ状の羽毛はぱっと見たところはっきりしない。 Clayton et al. (2010) (ヨシゴイの備考参照) によれば Glareolidae ツバメチドリ科の保有率が高いことが示されている。ツバメチドリでも12個体中10個体で見られている。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES カモメ科 LARIDAE 

  • クロアジサシ
    • 学名:Anous stolidus (アノウス ストリドゥス) 愚か者
    • 属名:anous (外) 愚かな Gk (船に飛び込んできたり、手で捕まえられることなどがよく知られていた)
    • 種小名:stolidus (adj) 愚かな
    • 英名:Brown Noddy
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは pileatus (帽子を付けた < pileus フェルトの帽子) 亜種クロアジサシ、pullus (暗色の) リュウキュウクロアジサシ、及び亜種不明とされるが、亜種 pullus は世界の主要リストでは pileatus のシノニムとされる。 リュウキュウクロアジサシが亜種であることを妥当とした文献には三島 (1962) 南部琉球諸島のツミ(新亜種)とクロアジサシの亜種名について がある。現在のこの種の世界の標準的分類ではこのような地域間の違いは亜種の違いとみなさず、紅海、インド洋、太平洋のものを同一亜種としている。 英名 noddy (うなずく者) の由来はオスとメスの求愛行動では首を上下させる行動が見られることから (wikipedia日本語版より)。
  • ヒメクロアジサシ
    • 学名:Anous minutus (アノウス ミヌトゥス) 小さな愚か者
    • 属名:anous (外) 愚かな Gk
    • 種小名:minutus (adj) 小さい
    • 英名:Black Noddy
    • 備考:7亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは marcusi (Marcus島 = 南鳥島 から) とされる。
  • ハイイロアジサシ
    • 学名:Procelsterna cerulea (プロケルステルナ ケルレア) 青灰色のアジサシ (新学名では青灰色の愚か者)
    • 属名:procelsterna (合) 嵐のアジサシ (procella (f) 嵐 sterna アジサシ)
    • 種小名:cerulea (adj) セルリアンブルーの
    • 英名:Blue-grey Noddy, IOC: Blue Noddy
    • 備考:5亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは saxatilis (よく岩にいる < saxum, saxi 石、岩) とされる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では属名は Anous に変更されている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。学名は Anous ceruleus (語尾が変わるので注意)。
  • シロアジサシ
    • 学名:Gygis alba (ギュギス アルバ) 白い水鳥の一種
    • 属名:gygis guges Dionysius が述べた想像上の水鳥
    • 種小名:alba (adj) 白い (albus)
    • 英名:White Tern
    • 備考:一属一種。4亜種あり(IOC)。 日本で記録されるものは candida (輝く白の < candere 輝く) とされる。 独立種 Gygis candida 英名 Little White Tern とされることもある HBW/BirdLife v7 (Dec 2022) ではこの立場だが他の主要リストでは採用されていない。 wikipedia英語版ではこの分類になっている。
  • ミツユビカモメ
    • 学名:Rissa tridactyla (リッサ トゥリダクテューラ) 三本指のミツユビカモメ
    • 属名:rissa (合) ミツユビカモメ (rita ミツユビカモメ アイスランド語 < 古ノルド語 ryta)
    • 種小名:tridactyla (合) 三本指の (tri- (接頭辞) 三つの dachtylo指 Gk)
    • 英名:Black-legged Kittiwake
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは pollicaris (親指の < pollex, pollicis 親指。爪/指が一本ないことを示す) とされる。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種 tridactyla ニシミツユビカモメを検討亜種としている (次の記事も参照)。 茂田 (1991) Birder 5(6): 44-47 にミツユビカモメの亜種についての記事がある。 Pineaux et al. (2023) A gull species recognizes MHC-II diversity and dissimilarity using odor cues にミツユビカモメがにおいを用いて血縁度を見分けている研究がある。
  • アカアシミツユビカモメ
    • 学名:Rissa brevirostris (リッサ ブレウィロストゥリス) 短い嘴のミツユビカモメ
    • 属名:rissa (合) ミツユビカモメ (rita ミツユビカモメ アイスランド語 < 古ノルド語 ryta)
    • 種小名:brevirostris (adj) 短い嘴の (brevis (adj) 短い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Red-legged Kittiwake
    • 備考:単形種
  • ゾウゲカモメ
    • 学名:Pagophila eburnea (パゴピラ エブルネア) 象牙製のように白い氷の友人
    • 属名:pagophila (合) 氷の友人 (pagos 氷 philos 友人 Gk)
    • 種小名:eburnea (adj) 象牙のように白い (eburneus)
    • 英名:Ivory Gull
    • 備考:一属一種で単形種。北極圏の島で繁殖する。
  • クビワカモメ
    • 学名:Xema sabini (クセマ サビンイ) サビンのカモメ
    • 属名:xema クビワカモメに対して Leach (1819) が作ったおそらく意味のない造語
    • 種小名:sabini (属) Sir Edward Sabine (英国の北極探検家) の
    • 英名:Sabine's Gull
    • 備考:一属一種で単形種。北極圏の島や大陸沿岸からアリューシャン列島で繁殖する。
  • ヒメクビワカモメ
    • 学名:Rhodostethia rosea (ロドステティア ロセア) バラ色の胸(のカモメ)
    • 属名:rhodostethia (合) バラ色の胸 (rhodon バラ Gk stethos 胸 Gk)
    • 種小名:rosea (adj) バラ色の (roseus)
    • 英名:Ross's Gull
    • 備考:一属一種で単形種。 英名の Ross は James Clark Ross (英国探検家)。北極圏近くで繁殖するカモメで冬もあまり南下しない。1823年の Ross による記載後も繁殖地は不明のままで、Sergei Aleksandrovich Buturlin (ロシア鳥類学者)によってヤクーチアの東北部 Pokhodsk 村で1905年にようやく発見された。 寒波の激しい年には繁殖しないか1卵しか産まない。極北地域ではレミングなどの齧歯類の年変動が激しく、捕食者であるホッキョクギツネなどはヒメクビワカモメの卵やひなも含めてあらゆるものを食べてしまう。 かつては食物の少ない年にはエスキモーがヒメクビワカモメを狩って食べていた。20世紀初頭にはアメリカからの猟師などが訪れ、ヒメクビワカモメの詰め物は珍品として高値で取引されたがしばしば色が抜けて単なる白いカモメになったこともあった。家畜による捕食などもあり、繁殖地の限られたヒメクビワカモメの個体数が激減して種の存続も危ぶまれた。 1980年代にソ連、そしてロシアのレッドデータブックに含まれた。ロシアでも辺境に生息し、ヒメクビワカモメを探す探検は Oleg Kuvaev による小説「キャプテン・ロスの鳥」(Ptitsa kapitana Rossa)に基づく映画「地平線の果てを行って」(1972, Idushchie za gorizont)が作られた (YouTube)。この映画の解説によれば、コリマ川デルタでヒメクビワカモメの巣の発見に人生を捧げた地理学者 Shavanosov の足跡を追った物語である (wikipediaロシア語版から)。 日本でも記録されると話題になる珍鳥だが、ロシアでも幻のような鳥。Eugene Potatov による発見物語(1990) (Birds International) を読むことができる。ちょうど日露戦争の時代の物語で、この記事を記載している20世紀末ですら、飛行機もヘリコプターも使えない当時に発見できたことは全く信じ難いと記している。 Michael Densley による書籍 "In Search of Ross's Gull" (Peregrine Press 1999) もある。
      北米の極北部 (グリーンランドやカナダの島) にも繁殖地があるが個体数は少ない。現在では部分的な衛星追跡に成功している [Solving the Mystery of Ross's Gulls (カナダ極北); Gilg et al. (2016) Satellite tracking of Ross's Gull Rhodostethia rosea in the Arctic Ocean (ロシアから北極海)]。 繁殖地にとどまる期間は60日に過ぎず、その後は北極海高緯度 (80°以北) に移動し海氷環境で生活する。おそらく餌資源が豊富であるためと考えられる。秋には南下してアラスカ北西の海上からチュコト半島に移動している。これは高緯度の極夜を避けるためと考えられている。 アンドレーエフ (池内訳) (1992) Birder 6(4): 34-43 に多数の写真を含むこの種の歴史や繁殖地の様子などが紹介されている。 尾がくさび型をしている点は識別点の一つ。
      川崎 (2001) Birder 15(4): 54-55 に 2001年1月6日北海道斜里川河口部を訪れた100羽の記録が紹介されている。過去の記録のリストも示されている。
  • ハシボソカモメ
    • 学名:Larus genei (ラルス ゲネイ) ジェネのカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:genei (属) Carlo Giuseppe Gene (イタリアの動物学者) の
    • 英名:Slender-billed Gull
    • 備考:単形種。現在の分類では Chroicocephalus genei となる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。属名 Chroicocephalus (khroikos 色のついた < khrozo 色をつける Gk -kephalos 頭の < kephale 頭 Gk) で、ユリカモメなどで繁殖期に頭が黒くなることを表している。Chroicocephalus属はユリカモメ属。 かつて迷鳥として福岡県に1984年から1992年までほぼ毎年1-2羽が渡来していたがその後の記録はない (Birder誌にも当時の記事や回想などあり)。 世界的には地中海沿岸や中東に広く分布しており、分布域ではごく普通の種類。ユリカモメなどを含む小型カモメ類の中では首が長いことが知られていて、集団繁殖地では「パレード (2:23付近)」と呼ばれる首を伸ばして歩く集団誇示行為が見られる。韓国語では「キリンの首のカモメ」と呼ばれる(出典)。独特の採食姿勢が見られる。
  • ボナパルトカモメ
    • 学名:Larus philadelphia (ラルス ピラデルピーア) フィラデルフィアのカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:philadelphia (外) 米国のフィラデルフィア
    • 英名:Bonaparte's Gull
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第7版で追加。現在の分類ではChroicocephalus philadelphiaとなる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。英名、和名はフランスの鳥類学者 Charles Lucien Bonaparte (皇帝 Napoleon Bonaparteの 甥)
  • チャガシラカモメ
    • 学名:Larus brunnicephalus (ラルス ブルンニケパルス) 茶色の頭のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:brunnicephalus (合) 茶色頭の (brunneus 茶色の < brunius、kephali 頭 Gk)
    • 英名:Brown-headed Gull
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第7版で追加。現在の分類では Chroicocephalus brunnicephalus となる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。
  • ユリカモメ
    • 学名:Larus ridibundus (ラルス リディブンドゥス) 笑うような鳴き声のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:ridibundus (adj) 鳴き声が笑うような
    • 英名:Black-headed Gull
    • 備考:単形種。現在の分類では Chroicocephalus ridibundus となる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。
  • ズグロカモメ
    • 学名:Larus saundersi (ラルス サウンダースイ) ソーンダースのカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (larosがつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:saundersi (属) ソーンダース (英国の銀行家、カモメ類の権威の鳥類学者) Howard Saundersの
    • 英名:Saunders's Gull
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で Saundersilarus属 [Saunders と Larus属 (カモメ属) の合成] となる。Saundersilarus属はズグロカモメ属。 亜属 Saundersia (Dwight, 1925) がすでに他に使われていたため、Saundersilarus の名称がさらに作られた (The Key to Scientific Names)。 HBW/BirdLife, Clements, eBird ではこの属名が使われているが IOC では用いられず、現在の IOC 学名は Chroicocephalus saundersi。 Boyd では Saundersilarus saundersi
  • ヒメカモメ
    • 学名:Larus minutus (ラルス ミヌトゥス) 小さなカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:minutus (adj) 小さな
    • 英名:Little Gull
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で Hydrocoloeus minutusとなる。属名 Hydrocoloeus hudro- 水の (Gk) koloios 同定されていない鳥の一種 (水かきのある鳥でウの意味か) (Gk)。 Hydrocoloeus属はヒメカモメ属。 カモメ類の中で最も小型。
  • ワライカモメ
    • 学名:Larus atricilla (ラルス アトゥリキッラ) 黒い尾のカモメ(誤命名?)
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:atricilla (合) 黒い尾の (ater (adj) 黒い cillo (tr) 動かす -illa (指小辞) 小さい) -cillaについてはセキレイ科も参照)
    • 英名:Laughing Gull
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは亜種不明とされる。 日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で Leucophaeus atricilla となる。属名 Leucophaeus leukophaios 白っぽい灰色、灰色 (Gk) < leukos 白 phaios 薄黒い (Gk)。Leucophaeus属はワライカモメ属。 種小名は atricapilla (髪の黒い。こちらの方が特徴をよく表している) を意図して誤って付けられたものではないかとの解釈がある。英名、和名は鳴き声から。 Boyd では Atricilla atricilla
  • アメリカズグロカモメ
    • 学名:Larus pipixcan (ラルス ピピックスカン) (アステカ語の)カモメの一種
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:pipixcan (外) アステカ語、ナワトル語のカモメを意味する Pipixcan, Apipipitzcatl, Apipitzin, Apipitztli
    • 英名:Franklin's Gull
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で Leucophaeus pipixcanとなる。 英名は北極探検家 Sir John Franklin が標本を採取したことによる。 Boyd では Atricilla pipixcan
  • ゴビズキンカモメ
    • 学名:Larus relictus (ラルス レリクトゥス) 遺存種のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:relictus (adj) 見捨てられた、手つかずの
    • 英名:Relict Gull
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で Ichthyaetus relictusとなる。属名 Ichthyaetus は Larus ichthyaetus Pallas, 1773。由来はオオズグロカモメの種小名の解説を参照。 Ichthyaetus属はオオズグロカモメ属。 種小名、英名ともに遺存種 (英 relic または relict) を意味する: かつて地理的に広い範囲に分布していたものが、現在では限られた地域にだけ生存しているもの (日本大百科)。
      1931年に記載されたが確実な集団営巣地が発見されたのは1969年。ゴビズキンカモメはモンゴル、カザフスタン、ロシア、中国の数か所の湖で繁殖するのみで、ニシズグロカモメ Ichthyaetus melanocephalus が東方にも分布したものが分断されて遺存種となったものと考えられている。世界的にも希少なカモメで個体数も減少していると考えられている。数少ない辺境の湖の悪天候なども脅威の一つ。 中国天津沿岸部や韓国で少数が越冬するが正確な越冬分布はわかっていない。Wang et al. (2022) Breeding Population Dynamics of Relict Gull (Larus relictus) in Hongjian Nur, Shaanxi, China に中国繁殖個体群の研究がある。 河北省康保にある湖の個体数が世界の個体数の60%を占めるとされる。渡りの中継に適した場所がないと思われることも生息を難しくしていると思われる。 モンゴル、カザフスタン、ロシアで保護区が設置され、中国の国家一級保護動物に指定されている (wikipedia英語、ロシア語、中国語版による)。中国繁殖地の解説ビデオ
  • オオズグロカモメ
    • 学名:Larus ichthyaetus (ラルス イクチュアエトゥス) 魚を捕るワシのよなカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:ichthyaetus (合) 魚を捕るワシ (ichthy 魚類 aetus ワシ Gk。猛禽類に似た行動を引喩して付けられたもの)
    • 英名:Pallas's Gull (プロイセンの生物学者 Peter Simon Pallas に由来)
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で Ichthyaetus ichthyaetusとなる。 頭の黒いカモメ類では最大の種類で、全カモメ類の中でも3番めに大きい。
  • ウミネコ
    • 学名:Larus crassirostris (ラルス クラッシロストゥリス) 厚い嘴のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:crassirostris (adj) 厚い嘴の (crassus (adj) 厚い rostrum -i (n) 嘴 -s (語尾) 〜の)
    • 英名:Black-tailed Gull
    • 備考:単形種。 Boyd では Gabianus crassirostris
  • カモメ
    • 学名:Larus canus (ラルス カヌス) 灰白色のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:canus (adj) 灰白色の
    • 英名:Common Gull
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は kamtschatschensis (カムチャツカの) とされる。 日本鳥類目録改訂第7版に記載されていた亜種 heinei (ドイツの鳥類学者 Jakob Gottlieb Ferdinand Heine に由来) ニシシベリアカモメ は検討亜種に移動。 同じく第7版に記載されていた亜種 brachyrhynchus (brakhus 短い rhunkhos 嘴 Gk) コカモメ は IOC では独立種 Larus brachyrhynchus 英名 Short-billed Gull となるが、検討亜種に移動 [日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも亜種扱いのまま]。
      Mew Gull の名称もあり、特にアメリカで使われていたがアメリカの種類が別種コカモメ Larus brachyrhynchus Short-billed Gull と名付けられるようになった。 一般的には Mew Gull の名称は Larus canus complex を指して広い意味で使われる (wikipedia英語版)。 Common Gull の名称にある common は「最も普通に見られる」の意味ではなく中世英語で「最も特徴がない」意味であるとのこと [茂田 (1993) Birder 7(4): p.36]。
      カモメ (総称) のロシア語名は chajka (チャイカ) で、これはチャイコフスキーの名前の由来になっている。wikipediaロシア語版をみると、系譜では本当に「カモメ」だったそうで、ピョートル・フョドロビッチ・チャイカがもとの名前だった。学校に通うようになって姓の「品をよく」するためにチャイコフスキーと改めたとのこと (「ただカモメ」の名前では学校でかっこ悪かった?)。[この項目は日本野鳥の会京都支部2023年4/5月号の記事に刺激を受けて調べたものである。日本野鳥の会京都支部の情報に感謝する]。 カモメ類のやってくるところはウクライナにたくさんあるようで、地名 (から派生して姓名) でカモメにちなむ人名がたくさんあるとのこと。 chajka (チャイカ) の由来は古スラブ語の「サイカ」が由来で、声に由来すると考えられているとのこと。
  • ワシカモメ
    • 学名:Larus glaucescens (ラルス グラウケスケンス) やや青灰色のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:glaucescens (adj) やや青灰色の (glaucus (adj) 青灰色の)
    • 英名:Glaucous-winged Gull
    • 備考:単形種
  • シロカモメ
    • 学名:Larus hyperboreus (ラルス ヒュペルボレウス) 極北のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:hyperboreus (adj) 極北の (hyper- (接頭辞) 上の boreus (adj) 北の; Huperboreoi 極北の住民 Gk)
    • 英名:Glaucous Gull
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は pallidissimus (非常に淡色の < pallidus 淡色の)、及び亜種不明とされる。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種 barrovianus (アラスカの地名 Point Barrow が由来) アラスカシロカモメを検討亜種としている。
  • アイスランドカモメ
    • 学名:Larus glaucoides (ラルス グラウコイデス) 青っぽい灰色のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:glaucoides glaukodes 青っぽい灰色の、銀色の (Gk)
    • 英名:Iceland Gull
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。 3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 glaucoides 亜種アイスランドカモメ、thayeri (アメリカ鳥類学者 John Eliot Thayer に由来) カナダカモメ (カナダカモメの項目参照)、及び亜種不明とされる。 日本鳥類目録改訂第7版にリストされていた亜種 kumlieni (アメリカ博物学者で探検家の Aaron Ludwig Kumlien に由来) クムリーンアイスランドカモメは検討亜種に移行。この亜種は glaucoidesthayeri の雑種 (別種とされていた時代) ともされるが、IOC では亜種として取り扱っている。 カナダカモメとアイスランドカモメを例として氷河期におけるレフージア、種の形成や遺伝子浸透を扱った解説が NerdBirds (2018) Birder 32(11): 44-47 にある。
  • カナダカモメ (アイスランドカモメの亜種となる見込み)
    • 学名:Larus thayeri (ラルス タイエーリ ) タイヤーのカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:thayeri (属) タイヤー John Eliot Thayer (アメリカの鳥類学者)の
    • 英名:Thayer's Gull
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。Thayer's gull とするか、アイスランドカモメの亜種とするかはさまざまな論争がなされたが、アメリカ鳥類学会は2017年に独立種であるとの従来見解を取り下げ、アイスランドカモメの亜種とした。海外の多くのチェックリストもこの立場である。この場合の学名は Larus glaucoides thayeri となる。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でもこの見解を採用。
  • セグロカモメ
    • 学名:Larus argentatus (ラルス アルゲンタトゥス) 銀で飾られたカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:argentatus (adj) 銀で飾られた (argentum -i (n) 銀 -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Herring Gull
    • 備考:セグロカモメ類 (英語通称 Herring gull complex) の分類には諸説あり、現在では (和名なし、元セグロカモメに含有) Larus argentatus European Herring Gull, アメリカセグロカモメ Larus smithsonianus American Herring Gull, セグロカモメ Larus vegae Vega Gull の3種に分割するのが一般的である。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ扱いとなっている。この場合現在のセグロカモメの学名は Larus vegae となる見通し。海外の分類でも Larus vegae を認めるものが主流。 Larus vegae は2亜種あり(IOC)。日本で記録される亜種は基亜種 Larus vegae vegae 亜種セグロカモメ、Larus vegae mongolicus (モンゴルの) モンゴルセグロカモメ。 日本鳥類目録改訂第7版にリストされていた亜種 smithsonianus (アメリカの James Smithson に由来) アメリカセグロカモメ は検討種に移行。IOC では独立種 Larus smithsonianus 英名 American Herring Gull で日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ扱い。
      Herring gull complex の 遺伝学的研究 (生物地理学や遺伝子浸透など) については例えば Sternkopf et al. (2010) Introgressive hybridization and the evolutionary history of the herring gull complex revealed by mitochondrial and nuclear DNA (ただしヨーロッパと北米中心); セグロカモメの衛星追跡 Gilg et al. (2023) Flyways and migratory behaviour of the Vega gull (Larus vegae), a little-known Arctic endemic。 カモメ類全体の系統研究では、Viviane Sternkopf の学位論文 (2010, ドイツ語) も参考になるだろう。 種小名 vegae はスウェーデンの北極探検家 Nils Adolf Erik Baron Nordenskjold が探検に用いた船の名前から。
  • キアシセグロカモメ (セグロカモメの亜種となり、亜種名も含めてこの名称は消滅の見込み)
    • 学名:Larus cachinnans (ラルス カキンナンス) 大笑いのような声のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:cachinnans (分詞) 大笑い (cachinnus (m) 大笑い)
    • 英名:Yellow-legged Gull
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Larus vegae の1亜種 Larus vegae mongolicus となり、Larus cachinnans は削除されている。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)でも同じ。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版では Larus vegae mongolicus の和名はセグロカモメの亜種キアシセグロカモメのまま、とあるが、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ではセグロカモメの亜種モンゴルセグロカモメに変更されている。モンゴルカモメまたはモンゴルセグロカモメ (英名 Mongolian Gull) の呼び名も使われるが同じものを指す。 氏原 (2007) Birder 21(1): 46-49 に「モンゴルカモメってどんな鳥?」の記事があり、セグロカモメとの識別点が述べられている。 この中で北方で繁殖するカモメほどずんぐりした体型で、暖かい地域で繁殖するものは細長い体型であると述べられており、ハシボソカモメを後者の例として挙げている (#ハシボソカモメの備考参照)。セグロカモメより南方で繁殖するモンゴルカモメにも当てはまるとのこと。
  • オオセグロカモメ
    • 学名:Larus schistisagus (ラルス スキスティサグス) スレート色の外套のカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:schistisagus schistus スレート < 分離した (lapis schistos分離した石 sagos 外套 Gk)
    • 英名:Slaty-backed Gull
    • 備考:単形種
  • ニシセグロカモメ
    • 学名:Larus fuscus (ラルス フスクス) 黒ずんだカモメ
    • 属名:larus (m) カモメ (laros がつがつ食べる鳥、おそらくカモメ Gk)
    • 種小名:fuscus (adj) 黒ずんだ
    • 英名:Lesser Black-backed Gull
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。Larus fuscus のうち亜種 heuglini ホイグリンカモメのみが日本で確実に記録された亜種となっている。亜種名 heuglini はドイツの鉱山技術者・鳥類学者の Martin Theodor von Heuglin に由来。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では種 Larus fuscus の和名はニシセグロカモメとしている (ホイグリンカモメの名称は亜種にのみ現れ、亜種ニシセグロカモメの名称は亜種名には現れない)。 ホイグリンカモメに Larus heuglini の種名を用いられることもあるが、現在は通常亜種名として扱われている。さらに "タイミルセグロカモメ" (英名 Taimyr gull)の名称が使われ、Larus fuscus taimyrensis の学名、またこの亜種名から "taimyrensis" が使われることがあるが、ホイグリンカモメとセグロカモメの雑種の可能性もあるとのこと [Olsen and Larsson (2003) Gulls Of North America, Europe, and Asia]。 Birds Koreaの 解説 (2003) Birds Korea の "taimyrensis" についての補足 (2011) では雑種ではないと考えている。 同資料では Larus fuscus barabensis が定期的に韓国に飛来しており、東アジアでホイグリンカモメのように見えるものの大半は "taimyrensis" であると述べている。ちなみに eBird では2023年段階でこれをLarus fuscus taimyrensisとする一方、Avibase では2021年段階でLarus heuglini taimyrensis (Larus heuglini 英名 Siberian Gull) と扱っている。 Avibaseは Larus fuscus も有効な種名としているがheugliniをその亜種に含めていない。他の主要チェックリストには taimyrensis の分類概念は含まれていない。日本鳥類目録改訂第7版では "taimyrensis" の扱いは保留とされた。 日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種 graellsii (カタルーニャの動物学者 Mariano de la Paz Graells y de la Aguera に由来、intermedius (中間の)、barabensis (ロシアのシベリア西部 Baraba ステップに由来) カザフセグロカモメが検討亜種となっている。前2者の和名はまだ与えられていない。
  • ハシブトアジサシ
    • 学名:Gelochelidon nilotica (ゲロケリドン ニロティカ) ナイル川の笑うツバメ(アジサシ)
    • 属名:gelochelidon (合) 笑うツバメ (gelao 笑う Gk、chelidon ツバメまたはアジサシ Gk)
    • 種小名:nilotica (adj) ナイル川の (neilosナイル川 Gk、-icus (接尾辞) に属する)
    • 英名:Gull-billed Tern
    • 備考:アジサシ類はドイツ語で Seeschwalbe (単数形) で海のツバメを意味する。属名に現れる chelidon はこれを意図して使われている 。この属のドイツ語名は Lachseeschwalbe (笑う海のツバメ)。Latham (1785) はこの種を "Egyptian Tern" と呼んだ (The Key to Scientific Names)。 5亜種ある(IOC)。日本で記録されるものは affinis [(既存の種か亜種の何か、例えば基亜種に)似ている] とされる。この亜種は中国・モンゴル・ロシアの国境付近で繁殖するグループとされる。
  • オニアジサシ
    • 学名:Sterna caspia (ステルナ カスピア) カスピ海のアジサシ
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:caspia (adj) カスピ海の
    • 英名:Caspian Tern
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Hydroprogne属 hudro 水の (Gk) < hudor, hudatos 水 (Gk) progne, procne ツバメ < 伝説でツバメに変えられた Progne (Gk); アジサシは二股に分かれた尾から以前は「海のツバメ」として知られていた。種小名は変化なし。Hydroprogne属はオニアジサシ属。一属一種の単形種となる。
  • オオアジサシ
    • 学名:Sterna bergii (ステルナ ベルギイ) ベルギウスのアジサシ
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:bergii (属) アフリカでの活躍が有名なプロイセンの博物学者 Karl Heinrich Bergius の (ラテン語化 -iusを属格化)
    • 英名:Greater Crested Tern
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは cristatus (冠羽のある) とされる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Thalasseus属となる thalasseus 漁師 (Gk) < thalasses 海 (Gk)。Bridge et al. (2005) (#コアジサシの備考参照)。種小名は変化なし。Thalasseus属はオオアジサシ属。
  • ベンガルアジサシ
    • 学名:Sterna bengalensis (ステルナ ベンガレンシス) ベンガルのアジサシ
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:bengalensis (adj) ベンガル地方の (-ensis (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Lesser Crested Tern
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されたものは亜種不明とされる。 日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Thalasseus属となる。種小名は変化なし。 森岡 (1999) Birder 13(9): 70-73 に1998年富士川河口で記録されたベンガルアジサシの同定の記事があり、アジサシ類の分類についても触れられている。
  • コアジサシ
    • 学名:Sterna albifrons (ステルナ アルビフロンス) 白い額のアジサシ (新学名で白い額の小さいアジサシ)
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:albifrons (adj) 白い額の (albus (adj) 白い frons (f) 額)
    • 英名:Little Tern
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは sinensis (中国の) とされる。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Sternula属となる。この名称は Sterna属の指小名。種小名は変化なし。Sternula属はコアジサシ属。 分子遺伝学に基づくアジサシ類の分類および属名の変更提案については Bridge et al. (2005) A phylogenetic framework for the terns (Sternini) inferred from mtDNA sequences: implications for taxonomy and plumage evolution を参照。系統関係と頭部の模様の関係の図もある。 日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で新たに現れる属はこの分類による。
  • コシジロアジサシ
    • 学名:Sterna aleutica (ステルナ アレウティカ) アリユゥシャン諸島のアジサシ (新学名でアリユゥシャン諸島ののこぎり状の爪の鳥)
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:aleutica (adj) アリュゥシャン諸島の (-icus (接尾辞) に属する)
    • 英名:Aleutian Tern
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Onychoprion属となる。< onux, onukhos 爪 prion, prionos のこぎり (Gk) 中央の指の爪の側面にぎざぎざがあることによる。学名は Onychoprion aleuticus となる。 Onychoprion属はセグロアジサシ属となる。英語ではこの属の4種を brown-backed terns または brown-winged terns (Bridge et al. 2005) と総称する。
      コシジロアジサシの越冬地は1980年代後半までまったく知られていなかった [Birder 2003年8月「鳥の名前」に出てくる]。現在では多くの個体が西太平洋の赤道付近で越冬することがわかっている (wikipedia英語版)。日本の図鑑では比較的新しいものでもこの知見がまだ反映されていなかったようである。
  • ナンヨウマミジロアジサシ
    • 学名:Sterna lunata (ステルナ ルナタ) 三日月斑のあるアジサシ (新学名で三日月斑のあるのこぎり状の爪の鳥)
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:lunata (adj) 三日月形の (lunatus)
    • 英名:Spectacled Tern
    • 備考:単形種。日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Onychoprion属となる。学名は Onychoprion lunatus となる。
  • マミジロアジサシ
    • 学名:Sterna anaethetus (ステルナ アナエテトゥス) 愚か者のアジサシ (新学名で愚か者ののこぎり状の爪の鳥)
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:anaethetus (合) 愚か者の (anoitos 愚かな Gk、-tus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Bridled Tern
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Onychoprion属となる。学名は Onychoprion anaethetus となる。 4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 anaethetus 亜種マミジロアジサシと、antarcticus (南極の) インドヨウマミジロアジサシ とされる。
  • セグロアジサシ
    • 学名:Sterna fuscata (ステルナ フスカータ) 黒ずんだ色のアジサシ (新学名で黒ずんだ色ののこぎり状の爪の鳥)
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:fuscata (adj) 黒ずんだ色の (fuscus (adj) 薄暗い -tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Sooty Tern
    • 備考:日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では Onychoprion属となる。学名は Onychoprion fuscatus となる。 6亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは nubilosus (曇った < nubis 雲) 亜種セグロアジサシ と oahuensis (オアフ島の) ハワイセグロアジサシ とされる。
  • ベニアジサシ
    • 学名:Sterna dougallii (ステルナ ドウガッリイ) ダウガルのアジサシ
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:dougallii (属) daugallの (ラテン語化 -iusを属格化) スコットランドの外科医で標本採取家の Peter McDougall に由来
    • 英名:Roseate Tern
    • 備考:5亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは bangsi (アメリカの動物学者の Outram Bangs に由来) とされる。 英名の roseate は繁殖羽のピンク色の胸を指したもの。和名のベニアジサシをおそらくこちらを指したもので、嘴の色を指すものではないだろうとの記述があった。
  • エリグロアジサシ
    • 学名:Sterna sumatrana (ステルナ スマトゥラナ) スマトラ島のアジサシ
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:sumatrana (adj) スマトラ島の (-anus (接尾辞) 〜に属する)
    • 英名:Black-naped Tern
    • 備考:2亜種あり(IOC)だが日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)では亜種を認めない立場のよう。
  • アジサシ
    • 学名:Sterna hirundo (ステルナ ヒルンド) ツバメのようなアジサシ
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:hirundo (f) ツバメ
    • 英名:Common Tern
    • 備考:4亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは longipennis (longus 長い -pennis 翼/羽の) 亜種アジサシ 及び minussensis (シベリアにある Minussinsk 地区から) アカアシアジサシ とされる。
  • キョクアジサシ
    • 学名:Sterna paradisaea (ステルナ パラディサエア) 楽園のアジサシ
    • 属名:sterna Stern, Stearn or Starn ハシグロクロハラアジサシ (古英語)
    • 種小名:paradisaea (adj) 楽園の (paradisa -ae (f) 楽園 -a 女性形の形容詞に)
    • 英名:Arctic Tern
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。単形種。
  • クロハラアジサシ
    • 学名:Chlidonias hybrida (クリドニアス ヒュブリダ) 雑種のツバメのような鳥
    • 属名:chlidonias khelidonios ツバメのような (Gk) の短縮形 < khelidon ツバメ (Gk)
    • 種小名:hybrid (m f) 動物の雑種 ハジロクロハラアジサシとアジサシの雑種と考えられた
    • 英名:Whiskered Tern
    • 備考:3亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 hybrida とされる。
  • ハジロクロハラアジサシ
    • 学名:Chlidonias leucopterus (クリドニアス レウコプテルス) 白い羽のツバメのような鳥
    • 属名:chlidonias khelidonios ツバメのような (Gk) の短縮形 < khelidon ツバメ (Gk)
    • 種小名:leucopterus (合) 白い羽の (leuko- (接頭辞) 白い phtero羽 翼 Gk)
    • 英名:White-winged Black Tern, IOC: White-winged Tern
    • 備考:単形種
  • ハシグロクロハラアジサシ
    • 学名:Chlidonias niger (クリドニアス ニゲール) 黒いツバメのような鳥
    • 属名:chlidonias khelidonios ツバメのような (Gk) の短縮形 < khelidon ツバメ (Gk)
    • 種小名:niger (adj) 黒い
    • 英名:Black Tern
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは基亜種 niger 亜種ハシグロクロハラアジサシ と surinamensis (スリナムの) アメリカハシグロクロハラアジサシとされる。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES トウゾクカモメ科 STERCORARIIDAE 

  • オオトウゾクカモメ
    • 学名:Stercorarius maccormicki (ステルロラリウス マックコーミックイ) マックコーミックの糞を食べる鳥
    • 属名:stercorarius (adj) 糞の
    • 種小名:maccormicki (属) マックコーミックの Robert McCormick 英国の軍医、探検家
    • 英名:South Polar Skua
    • 備考:単形種。属名の由来は他の鳥を襲って吐き出させたものを食べる習性があるが、糞を食べていると誤解されていた。以前は Dung-hunter と呼ばれていた。
  • トウゾクカモメ
    • 学名:Stercorarius pomarinus (ステルコラリウス ポマリヌス) 鼻孔の覆われた糞を食べる鳥
    • 属名:stercorarius (adj) 糞の
    • 種小名:pomarinus (合) poma 覆い (Gk) rhinos 鼻孔 (Gk)
    • 英名:Pomarine Skua, IOC: Pomarine Jaeger
    • 備考:単形種。skua がイギリス英語、jaeger がアメリカ英語の呼び方。skua は キタオオトウゾクカモメ Stercorarius skua 英名 Great Skua のフェロー語での名称 skugvur に由来。 jaeger (イエイガー) はドイツ語 Jaeger (狩るもの) に由来し、英名の発音もドイツ語に近いものになっている。ちなみにドイツ語で jagen (ヤーゲン) 狩る、Jagd (ヤークト) 狩り。 トウゾクカモメの総称としてドイツ語で Raubmoewen ラウプメーヴェン 略奪カモメ (総称なので複数形。日本語名称とほぼ同じ意味) と呼ばれるが、個々の種についてはこの単語も skua も使われていて統一されているわけではないようである。 ドイツ語 Raub- は Raubvogel (ラウプフォーゲル) 猛禽 のような使い方がされるが、タカ類を指す猛禽類のドイツ語名は Greifvogel (グライフフォーゲル、いずれも単数形を挙げた) の方が一般的。greifen (掴む) に由来するが、ワシの頭をライオンの体を持つ伝説の怪獣グリフォンもドイツ語では Greif なので、語から受ける印象はこちらの方がずっと良いのだろう。 またトウゾクカモメは「掴む」ことはできないので Greif- とは呼べないだろうし、どちらにも Raub- を使うよりも使い分ける方がそれぞれの習性をより反映できるということだろう。 これも水鳥の系統的制約の現れで、本格的な猛禽類の登場は近代的な陸鳥の進化を待つ必要があったことを意味するのかも知れない (#ミサゴの備考参照)。 主に労働寄生 (kleptoparasitism, cleptoparasitism) を行うグループの典型例とされる (#トビの備考参照)。
      Young Guns (2014) Birder 28(5): 48-50 にトウゾクカモメ、クロトウゾクカモメ、シロハラトウゾクカモメの識別についての記事がある。
  • クロトウゾクカモメ
    • 学名:Stercorarius parasiticus (ステルコラリウス パラシティクス) 寄食性の糞を食べる鳥
    • 属名:stercorarius (adj) 糞の
    • 種小名:parasiticus (adj) 寄食性の
    • 英名:Arctic Skua, IOC: Parasitic Jaeger
    • 備考:単形種
  • シロハラトウゾクカモメ
    • 学名:Stercorarius longicaudus (ステルコラリウス ロンギカウドゥス) 長い尾の糞を食べる鳥
    • 属名:stercorarius (adj) 糞の
    • 種小名:longicaudus (adj) 長い尾の (longus (adj) 長い caudus (m) 尾)
    • 英名:Long-tailed Jaeger
    • 備考:2亜種あり(IOC)。日本で記録されるものは pallescens (淡い色の) とされる。
  •  チドリ目 CHARADRIIFORMES ウミスズメ科 ALCIDAE 

  • ヒメウミスズメ
    • 学名:Alle alle (アッレ アッレ)アレと鳴く鳥(誤命名)
    • 属名:alle サーミ語 (スカンジナビア半島、および、ロシアのコラ半島に住む先住民、サーミ人が使用する言語。古くはラップ語の名でも呼ばれていたが、現在この呼称が用いられることはほとんどない) によるコオリガモの鳴き声から。コオリガモとヒメウミスズメの冬羽を混同して命名された。
    • 種小名:alle (トートニム)
    • 英名:Little Auk
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。Alca alle Linnaeus, 1758 と命名されたもので、alle は種小名で使用されたもの。系統解析の結果一属一種の Alle属として分離された。2亜種あり(IOC)、日本で記録されるものは亜種不明とされる。
  • ハシブトウミガラス
    • 学名:Uria lomvia (ウリア ロムウィア) ウミガラス
    • 属名:ouria Athenaeus が記載した水鳥の一種 (Gk)
    • 種小名:lomvia (外) ウミガラス (lomvia ウミガラスまたは潜るもの スウェーデン語)
    • 英名:Brunnich's Guillemot, IOC: Thick-billed Murre
    • 備考:4亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは亜種 arra [Pallas (1811) によればカムチャツカでウミガラス類を指す地方名 Ahr'-rah から (The Key to Scientific Names)]。Guillemot がイギリス英語、Murre がアメリカ英語での呼び方。いずれも William の人名から導かれたフランス語に由来するとされる(フランス語の対応する人名 Guillaume、現在のフランス語での鳥の名前は Guillemot) (wikipedia英語版)。
  • ウミガラス
    • 学名:Uria aalge (ウリア アアルゲ) ウミガラス
    • 属名:ouria Athenaeus が記載した水鳥の一種 (Gk)
    • 種小名:aalge (外) ウミガラス (aalgeウミガラス デンマーク語 < 古ノルド語 Alka オオハシウミガラス)
    • 英名:Common Murre
    • 備考:5亜種が認められている(IOC)。日本で記録されるものは inornata (飾りのない) とされる。
  • オオハシウミガラス (第8版で検討種になる見込み)
    • 学名:Alca torda (アルカ トルダ) オオハシウミガラス
    • 属名:alca (外) 古ノルド語 Alk, Alka オオハシウミガラス)
    • 種小名:torda (外) tord オオハシウミガラス スウェーデンのゴットランド方言。スウェーデン本土では tordmule または turmule と呼ばれていたが、Linnaeus が1741年ゴットランド島で採集したため。
    • 英名:Razorbill
    • 備考:日本鳥類目録改訂第7版で追加。日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)で検討種に移動。一属一種。2亜種があり、日本で記録されたものは islandica (アイスランドの) とされていた。
  • ウミバト
    • 学名:Cepphus columba (ケップス コルムバ) ハトを思わせるウミスズメ
    • 属名:cepphus kepphos アリストテレス他が記述した淡色の水鳥の一種で現在どの鳥かは不明
    • 種小名:columba (外) Klumba ウミスズメ(類) アイスランド語 および columba (f) ハト
    • 英名:Pigeon Guillemot
    • 備考:Pallas (1811)によれば Columba groenlandica Auctorum で、Ray (1678) が Columba Groenlandica (グリーンランドのハトまたはウミガメ) と記述したものはハジロウミバト Cepphus grylle。なぜハトまたはウミガメの名が当てられたかはよくわからない。ウミガメの大きさでハトのように2卵を産む点は共通点はあるが。声が似ているのかも知れない、と記述している。 wikipedia日本語版にはハトを思わせる容貌の写真が出ている。 5亜種が認められている(IOC)。日本で記録されたものは snowi (英国航海士で狩猟家の Henry James Snow にちなむ) 亜種ウミバト と kaiurka [ロシア語でウミツバメ類を表す kachurka を誤ってウミガラス類に付けたもの (The Key to Scientific Names)] アリューシャンウミバト。
  • ケイマフリ
    • 学名:Cepphus carbo (ケップス カルボ) 炭のように黒い水鳥
    • 属名:cepphus kepphos アリストテレス他が記述した淡色の水鳥の一種で現在どの鳥かは不明
    • 種小名:carbo (m) 炭
    • 英名:Spectacled Guillemot
    • 備考:単形種。 ウミバトと遺伝的距離が近い (#カルガモ の備考参照)。
  • マダラウミスズメ
    • 学名:Brachyramphus perdix (ブラキュラムプス ペルディクス) ヤマウズラのような短い嘴の鳥
    • 属名:brachyramphus (合) 短い嘴の (brachy- (接頭辞) 短い ramphos 嘴 Gk)
    • 種小名:perdix (m) ヤマウズラ
    • 英名:IOC: Long-billed Murrelet
    • 備考:1998年まで アメリカマダラウミスズメ Brachyramphus marmoratus 英名 Marbled Murrelet の亜種とされていた。分子遺伝学研究で分離された (wikipedia英語版)。旧英名 Marbled Murrelet はその時代のもの。少し古い図鑑ではこちらの学名・英名で載っている。 英語 Murrelet は Murre の指小語。単形種。 marmoratus は marbled (大理石模様の) の意味。
      ウミスズメ類では珍しくコロニーを作って繁殖しない。1961年に北海道で繁殖が確認された (コンサイス鳥名事典)。
  • ウミスズメ
    • 学名:Synthliboramphus antiquus (シュントゥリボラムプス アンティクウス) 年取った圧縮された嘴の鳥
    • 属名:synthliboramphus (合) 圧縮された嘴の (synthlibo 圧縮された ramphos 嘴 Gk)
    • 種小名:antiquus (adj) 古代の、昔の、年取った
    • 英名:Ancient Murrelet
    • 備考:種小名は夏羽の頭部に白髪状の羽があることに由来 (コンサイス鳥名事典)。Pennant (1785) は "Antient Auk" と名付け、後頸部に白く長い羽がまばらにあって、年老いたように見えると記述している。Latham (1785) も "Antient Auk" とした (The Key to Scientific Names)。 2亜種あり、日本で記録されるものは基亜種 antiquus とされる。 近くで聞くことができるとまるでスズメのような声で鳴く。
  • カンムリウミスズメ
    • 学名:Synthliboramphus wumizusume (シュントゥリボラムプス ウミズスメ) 圧縮された嘴のウミスズメ
    • 属名:synthliboramphus (合) 圧縮された嘴の (synthlibo 圧縮された ramphos 嘴 Gk)
    • 種小名:wumizusume (外) ウミスズメ (wumizusume は Temminck による誤記)
    • 英名:Crested Murrelet, IOC: Japanese Murrelet
    • 備考:単形種。日本野鳥の会が保護活動を行っているように日本近海でしか観察されてない貴重な種類。 記載時学名は Uria wumizusume Temminck, 1836。 wumizusume は Temminck による誤記と解説される。wikipedia英語版ではその出典は松田道生 (2001) 蒲谷鶴彦・松田道生「日本野鳥大鑑 鳴き声420」となっているが、 原典は山口隆男 (1994) 日本の鳥類研究におけるシーボルトの貢献 Calanus No.11 p1-150 (熊本大学理学部附属合津臨海実験所) で、「日本野鳥大鑑 鳴き声420」の解説ではオランダ語では s と z の区別が不明瞭であるためと記されている。 wikipediaのオランダ語のページを見ると s と z は現代の標準オランダ語では別の音で、z は一部の方言において [s] として発音されることがあるとのこと。#コゲラの備考で考察のようにフランス語の影響の大きなオランダ語方言かも知れない。z と表記しても s と読んでいた可能性がある。
      ネットで公開されている音源はごく最近(2017)までなかった (把握している範囲で現在3例のみ。日本野鳥の会の音源)。船舶の音に紛れて録音も難しく、録音に適した環境で観察できる方はぜひ録音と海外の公開データベースへの登録を行っていただきだい (日本語の動画ページのみだと海外研究者が気づくのは困難)。 出版物では上田秀雄 (1998) 山渓・鳴声CD「野鳥の声283」(英訳版 283 Wild Birds Songs of Japan も発行: 参照) に収録されている(なおウミスズメは収録されていない)。蒲谷鶴彦・松田道生「日本野鳥大鑑 鳴き声420」(小学館 2001) にも収録されているが波の音も混ざっているとのこと。 ウミスズメは世界にそれなりの音源が存在する。世界の野鳥の音声記録を調査している Shaun Peters によるリストでは、カンムリウミスズメはこの2点の出版物がリストされている。 上田ネイチャーサウンド Ueda Nature Sound ではこの2種とも現在「収録済 未アップの種」となっている。 天然記念物。絶滅危惧II類 (VU)。IUCN 3.1 VU種。
  • ウミオウム
    • 学名:Aethia psittacula (アエティア プシッタクラ) 小さなオウムのような海鳥
    • 属名:aethia (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:psittacula (f) 小さなオウム (psittacus (m) オウム -ula (指小辞) 小さい)
    • 英名:Parakeet Auklet
    • 備考:単形種
  • コウミスズメ
    • 学名:Aethia pusilla (アエティア プシッラ) ごく小さい海鳥
    • 属名:aethia (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:pusilla (adj) ごく小さい (pusillus)
    • 英名:Least Auklet
    • 備考:単形種
  • シラヒゲウミスズメ
    • 学名:Aethia pygmaea (アエティア ピュグマエア) ピグミーの海鳥
    • 属名:aethia (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:pygmaea (adj) ピグマエイーの (伝説の小人族 pygmaeus)
    • 英名:Whiskered Auklet
    • 備考:単形種
  • エトロフウミスズメ
    • 学名:Aethia cristatella (アエティア クリスタテッラ) 冠羽のある小さな海鳥
    • 属名:aethia (合) 海鳥 (aithuia海鳥 Gk)
    • 種小名:cristatella (adj) 冠羽のある小さな (cristatus (adj)トサカのある -ella (指小辞) 小さい)
    • 英名:Crested Auklet
    • 備考:単形種。 長谷 (1997) Birder 11(7): 46-54 に油流出事故に遭ったエトロフウミスズメの保護・飼育日記がある。
      [においを用いたディスプレイ] においによるコミュニケーションをとる鳥として非常に有名。コロニーの近くでは強烈な柑橘のにおいがするという。ウミスズメ、柑橘の香りを出してメス誘う、研究 (ナショナルジオグラフィック)。"ruff-sniff" と呼ばれる首の周りの羽毛のにおいを嗅ぎ合うディスプレイを行う。 Hector D. Douglas III による博士論文 (2006): Odors and ornaments in crested auklets (Aethia cristatella) signals of mate quality?。 Hagelin (2007) The citrus-like scent of crested auklets: Reviewing the evidence for an avian olfactory ornament
      これは当初寄生虫やカなどの防御のための化学物質 (体臭) と考えられ、その視点を中心に研究が進められていた: Douglas III et al. (2001) Heteropteran chemical repellents identified in the citrus odor of a seabird (crested auklet: Aethia cristatella): evolutionary convergence in chemical ecology (当時から配偶者選択に関係するアイデアはあった); Douglas III et al. (2004) Interspecific differences in Aethia spp. auklet odorants and evidence for chemical defense against ectoparasites; Douglas III et al. (2005) Chemical odorant of colonial seabird repels mosquitoes。 Hagelin et al. (2003) A tangerine-scented social odour in a monogamous seabird のような行動的・実験的証拠から配偶者選択に用いられていることが明らかになってきた(論文中に "ruff sniff" の首の周りの羽毛のにおいを嗅ぎ合う不思議なディスプレイの写真が示されている。集団でもディスプレイを行う。この部位が最も臭気が強いそうである)。 Douglas III (2013) Colonial seabird's paralytic perfume slows lice down: an opportunity for parasite-mediated selection? はさらにその臭気が寄生虫防御に役立つことを介して配偶者選択に有益であろうとの仮説を提唱している。
      Weldon and Rappole (1997) (#フルマカモメの備考参照) も文献上臭気のある鳥に含めている。
      [鳥類の嗅覚] 「鳥たちの驚異的な感覚世界」は比較的新しい本であるにもかかわらず、この面白い話がなぜか記載されていない。代わりに従来は鳥が嗅覚が劣っているが一部の鳥は餌探しに嗅覚を用いていることが判明した経緯などが記されている。古典的には脳の中の嗅球と言われる部分の大きさが嗅覚に関係があることは知られていた。 遺伝子解析が主流となった現代では嗅覚受容体 (olfactory receptor; OR) の遺伝子数を目安とすることが多い。この遺伝子グループは起源が非常に古く、鳥類や哺乳類の獲得免疫のメカニズムとは違って1つの嗅覚受容体が1つの遺伝子に対応するため嗅覚受容体遺伝子数の多い生物ではゲノムのかなりの割合を占める (例えばヒトで396個で、機能しない偽遺伝子を含めると821個でゲノム中の全遺伝子の4-5%を占めているそうである: wikipedia日本語版より)。この数字は鳥類の嗅覚の話を読む時に参考になるだろう。 #ハチクマの備考に出てくる論文によれば (偽遺伝子を除いて) キンカチョウのようにヒトに近い数の嗅覚受容体遺伝子数を持つものもある。 ハチクマでは偽遺伝子を含めると283個で一部調べられた範囲の遺伝子のうち81.5%が機能していた。ヒトよりは多少劣りそうだがそこそこの嗅覚を持ってそうである。 イヌワシでは偽遺伝子を含めて57個とあまり嗅覚を使っていないらしいことがわかる。さらに興味ある方はこの文献の引用文献などを見られるとよい。 一般に水鳥は嗅覚受容体遺伝子数が後に進化したタイプの陸鳥より多く、より嗅覚に頼った生活をしていることが想像できる。鳥がどんなにおいの世界を感じているか想像しながら観察するのも面白いであろう。
      エトロフウミスズメの wikipedia英語版には配偶者選択のためのさまざまな信号 (視覚、聴覚、嗅覚) がどのようなメカニズムで進化するかの仮説まで述べて解説してある。これは不自然なほどの信号、例えばクジャクの飾り羽、ニワシドリ類の「あずまや」、サンコウチョウの尾羽などが性選択によってどのように進化したかを考える上でも役立つ一般的なものである。
      [信号の進化と性選択] これに関連した面白い書物があり。Prum (2017) "The Evolution of Beauty: How Darwin's Forgotten Theory of Mate Choice Shapes the Animal World - and Us" で邦訳され、リチャード・プラム著、黒沢令子訳「美の進化」(2020 白揚社) として出版されている。 これはその上記仮説のうち「メスにオスの形質に関する何らかの好みが一旦生ずると、メスの選好性とオスの形質が共進化する」ことを示した (フィッシャーが 1915-1930年に提唱したもの。#トビの備考 [火を使う猛禽類、森林火災、気候変動] 参照) という「ランナウェイ過程」に今一度光を当てて生物界のさまざまな現象を統一的に説明しようとする実験的な書物と自分は理解している。 この解釈には理論的問題点があり、進化生物学者 (特に鳥類系統の研究などで有名。#アマツバメの備考参照) である Prum もそれは承知の上で世に出したのであろう。理論的問題点があるとは言え、それもある意味単純化した仮説に過ぎないわけで将来克服される余地はあるのかも知れない。 具体的批判も含めて、内容については The Evolution of Beauty ("shorebird 進化心理学中心の書評など") に非常に詳しい。 進化理論に興味のない方であってもこれら (主に) 鳥類の多様な事例は間違いなく面白いだろう、例えば「なぜ鳥類は祖先恐竜が持っていたはずのペニスを失ったのか (カモなどのペニスは二次的に獲得したらしい)」など。 探鳥会などで「なぜカモはオスが美しいのか」と聞かれることもあるだろう。それに対する一つの仮説または話題を提供していると言えるだろう。このページは鳥類に興味をお持ちの方に一読をおすすめする。 この書評は原書について書かれたものだが、訳書情報 「美の進化」 に同じ著者による和訳版への短い書評がある。プラムの本で言及されているものはいかにもバークヘッドの興味を引きそうなものが含まれているが、博識で「変なもの」好きのバークヘッドがなぜエトロフウミスズメに言及しなかったのか、あるいはプラムの挙げた事例に言及しなかったのか不思議なぐらいである。 あるいはマイコドリ類などは専門家に譲る、他は自身の力量を超えると判断したのだろうか。
      このような文脈において、ランナウェイ過程に対する進化仮説として「正直なシグナル」(指標説; 優良遺伝子説、さらに限界に挑むような場合にハンディキャップ説)が有力とされるわけで (上記 "shorebird 進化心理学中心の書評など" を参照)、エトロフウミスズメの説明においても「配偶者候補の質を表す信号として進化したと考える仮説が有力」としておけば多分丸く収まるのだろう。 ただし実験的証拠もあるとは言え、研究者も仮説を裏付けるための実験を行うわけで仮説を裏付ける結果が出た論文が書かれるのは当たり前 (どちらとも言えない結果となった研究は論文になりにくい) で、それは (一般的には) 即座に他の仮説を否定するものではない。 (上記 "shorebird 進化心理学中心の書評など" の脚注にある「プラムは、ハンディキャップシグナルに対してランナウェイ過程は、ちょうど自然淘汰に対する中立説の浮動と似ていて、強い因果的な説明がなくても一般的に生じるもので帰無仮説にふさわしいと主張している」も一応紹介しておこう。 一応抜け道が感じられる上に、プラムのこの本か海外書評では不評な理由もなんとなくわかる気がする。この部分は「独り言」レベルに聞いていただいてよい)。 なお日本版「美の進化」的な題材 (鳥による芸術) を扱った本として加藤幸子・浜田剛爾・島田璃里・樋口広芳「鳥たちのふしぎ・不思議」(1993 晶文社) がある。進化云々は述べられていないが、事例として「1.雄は華麗なアーティスト」が似た題材を扱っている。 プラムは鳥類学の範囲を超えて Coevolutionary Aesthetics in Human and Biotic Artworlds というこれも挑戦的な論文も出している。美についての確立した理論がない以上、共進化をベースに生物進化まで起源を遡りたいという主張はわかる気がする。 プラムやバークヘッドは知らないかもしれないが、自分はハチクマのあの特異なディスプレイがどのように進化したのかも興味がある。生存にはまったく役立たないかも知れない。 自分はこれは一種の過剰な「美」ではないかと感じている。バレエに脚を使った同じような技があり、チャイコフスキーの「眠れる森の美女」で「青い鳥」をソロで演ずるダンサーはその技術を競うのである。ハチクマがオス・メスともに行うのは性選択の結果とは考えにくく、それ以上の説明が何か必要に感じる。
      エトロフウミスズメには学名・英名の通り冠羽があり、これが配偶者選択に用いられるとの見解が一般的で嗅覚を用いていることは長らく考慮されていなかった。鳥類の嗅覚コミュニケーション研究の草分けとなった発見の一つであろう。 その後スズメ目 (主にアメリカの種類) などさまざまな鳥で配偶者選択に嗅覚が用いられている証拠が見つかり、鳥類は嗅覚の発達が悪いとする従来の見解を覆すものとなっている。鳥の嗅覚研究はあまり行われてこなかったためエトロフウミスズメのようなこれまで想像もされなかった発見があるかも知れない。また新鮮な羽毛を拾った場合などはにおいも調べておきたい。
  • ウトウ
    • 学名:Cerorhinca monocerata (ケロリンカ モノケラータ) 一角のある嘴の鳥
    • 属名:cerorhinca (合) 角のある嘴 (keras角 rynchos鼻口部 Gk)
    • 種小名:monocerata (合) 一角をもった (mono- (接頭辞) 一つ keras角 Gk、-tus (接尾辞) 〜が備わっている)
    • 英名:Rhinoceros Auklet
    • 備考:単形種
  • ツノメドリ
    • 学名:Fratercula corniculata (フラテルクラ コルニクラータ) 小角状突起のある修道士
    • 属名:fratercula (f) 修道士 (fraterculus (m) 修道士 < 小さな兄弟)
    • 種小名:corniculata (adj) 小角状突起の (corniculatus)
    • 英名:Horned Puffin
    • 備考:単形種。属名の意味はおそらくツノメドリの堂々とした体格と白黒の衣装から。Olafsen (1774) によればアイスランドの現地名で祭司を意味する名前だった。Willughby (1676) によればツノメドリはコーンウォール語で Pope (教皇) と呼ばれていた (The Key to Scientific Names)。
  • エトピリカ
    • 学名:Fratercula cirrhata (フラテルクラ キルラータ) 巻き毛の修道士
    • 属名:fratercula (f) 修道士 (fraterculus (m) 修道士 < 小さな兄弟)
    • 種小名:cirrhata (adj) 巻き毛の (cirratus)
    • 英名:Tufted Puffin
    • 備考:単形種
  •  タカ目 ACCIPITRIFORMES ミサゴ科 PANDIONIDAE 

  • ミサゴ
    • 学名:Pandion haliaetus (パンディオン ハリアエトゥス) パンディーオーン王の海鷲またはミサゴ
    • 属名:pandion (m) パンディーオーン (伝説の王の名)
    • 種小名:haliaeetus (m) 海鷲またはミサゴ (halos 海 aetos ワシ Gk)
    • 英名:Osprey, IOC: Western Osprey
    • 備考:一科一属一種で汎世界的 (cosmopolitan) な種と考えられてきたが、現在はオーストラリアやインドネシアからニューギニアのカンムリミサゴ Pandion cristatus (英名 Eastern Osprey または Australian Osprey) とミサゴ Pandion haliaetus (英名 Western Osprey) の2種に分けるのが通例。 カンムリミサゴの学名のもとになっている記載はもしかするとハチクマだったのではないかとの指摘がある (参照先も含め、#ハチクマの備考 [ヨーロッパハチクマとの関係・亜種他] を参照)。 この議論によれば cristatus の名称は有効な学名だがおそらく正しくカンムリミサゴを指したものではない。 これがカンムリミサゴに使えなくなれば次に有効と考えられるのは Pandion leucocephalus John Gould, 1838 だが、これはすでに使用されていた (preoccupied) 根拠がある。 Pandion leucocephalus "N.F." (= "S.D.W." =? S.D. Wood), 1835 で、これは英国のミサゴ (当時別名で呼ばれていた) の改名を意図したものであることはおそらく間違いなく、Gould は1832年にも同名の記載をしている。 1832/1835年の記載が有効とされればカンムリミサゴにふさわしい学名は Pandion gouldii Kaup, 1847 とのこと。 国際動物命名規約にも先取権の逆転について細かい規約があるらしく、少なくとも10人の著者が使用し... などの細かい条項があって、それぞれの学名がいくつの文献で記述されているかを調べる段階でスレッドが終了している。 Mees (2006) The avifauna of Flores (Lesser Sunda Islands) (pp. 38-44) にもオーストラリア周辺の "ミサゴ" についての複雑な経緯が記されている。 基産地やラベルの取り違えなどもあったらしいが、Buteo cristatus Vieillot, 1816 がハチクマであった可能性はまだ気づかれていなかったらしい。 カンムリミサゴとハチクマの学名が再検討される可能性が秘められているかも知れない。
      (広い意味での) ミサゴの中でシベリアと日本のグループはこれまで記述されていなかった新系統をなしていることがわかっている [Monti et al. (2015) Being cosmopolitan: evolutionary history and phylogeography of a specialized raptor, the Osprey Pandion haliaetus]。 アメリカのグループはすでに別亜種の名前 (carolinensisridgwayi) を持っているが、シベリアと日本のグループはこれまで亜種として記載されていないとこの論文には書かれている。分類群の名前を与える必要があると思われる (新亜種か。その場合どの種の亜種になるのか。さらに別種とする可能性はあるのか?)。 おそらくそれを記述する論文がまだないため、日本鳥類目録改訂第8版の第一回パブリックコメント版、日本鳥類目録第8版和名・学名リスト(2023)ともに亜種 haliaetus となっており、従来分類に基づくものになっている。
      カンムリミサゴの学名問題も含め、いろいろと整理された後にはミサゴの学名は全然見慣れないものに変わっているかも知れない。
      Boyd によれば friedmanni (Wolfe 1946: A new form of Osprey from northern Manchuria) の名称の可能性があるが、Wolfe は日本のものは大陸のものと異なっていて haliaetus と述べていてどの範囲を指すか判断できないとのこと。 Monti et al. (2015) の研究で4クレードにほぼ分かれることは認められるが、用いる遺伝子によって系統樹に少し違いがあり、分岐はごく短期間で起きたことが推測される (Boyd)。Boyd はミサゴを1種とするか複数種に分けるかは自明でないとして1種として扱っている (種より下位の分類は扱っていないので日本を含むグループが亜種に相当するのか、friedmanni が有効な亜種かどうかは判断していない。現時点で Pandion friedmanni を意味がある種と考えるのに十分な根拠がないとの見解であろう)。 ミサゴはタカ科から古く分岐したのだが、他の種が現存しておらず、(広義) ミサゴが短期間で (亜) 種分化しているのも不思議な点である。
      ミサゴではタカ科と同じように染色体レベルで大規模な入れ替えが起きているが、パターンが異なっていて別々の祖先型からそれぞれ独立の進化を遂げたことが示唆される [Nishida et al. (2014) Dynamic Chromosome Reorganization in the Osprey (Pandion haliaetus, Pandionidae, Falconiformes): Relationship between Chromosome Size and the Chromosomal Distribution of Centromeric Repetitive DNA Sequences] (#クロハゲワシの備考も参照)。
      [ミサゴの世界分布の不思議] Brown (1976) によれば、(広義) ミサゴはアフリカや南米でも越冬するのになぜかそこでは繁殖しない。南半球でもオーストラリアでは繁殖するので、アフリカや南米で繁殖しない理由が見当たらない。 食物資源の問題ではないと思えると記述している。 アフリカでは海ワシ類が魚を食べているが、南米では他に目立った魚食の猛禽類がなくミサゴノスリが役割を部分的に果たしている。しかしミサゴノスリは小型で大きな魚を捕ることはできない。 系統的にはミサゴの方が古いはずなので先に占拠してしまっていても不思議でないのだが。
      [ミサゴの食性など] ミサゴはほぼ完全に魚食であるが、アメリカガラス Corvus brachyrhynchos を捕食して生きたまま食べ、そして巣に運ぶ行動が記録された (記事; 連続写真)。 映像として記録されたのはおそらく初めてであろうとのこと。ミサゴが貝を落として割る行動も観察されている [Leshem (1985) Shell-dropping by ospreys]が、Lefebvre et al. (2002) (#イヌワシの備考参照) には含まれていない。 川口 (2010) Birder 24(8) p.29 によれば紅海のチラン (Tiran) 島での事例のようである。
      猛禽類がひなや若鳥に獲物の捉え方や殺し方を教えるかはよく議論になるが、ミサゴは巣で餌の殺し方を教えない研究が発表された [Howard and Hoppitt (2017) Ospreys do not teach offspring how to kill prey at the nest]。子供に「教える」行為は共同繁殖をする種のみで見られる証拠があり、行動生態学の理論的な根拠も考えられている。 しかし観察結果はバイアスの可能性がある。子供に「教える」と言い伝えのあるミサゴで調べたが、「教える」ことの知られている共同繁殖種とは逆の傾向が見られた。巣から飛び出しを促して餌を捕まえるのを教えるとか過去には報告があったが、ミサゴは飛んでいるものを捕まえるのはうまくないので、この手法で教えるのはそもそも無理なのではないか。観察題材は巣のビデオ中継とのこと。
      ミサゴとほぼ同じく、ほとんど魚しか食べない猛禽類がもう1種いるとのこと。 ミサゴノスリ Busarellus nigricollis 英名 Black-collared Hawk。南北アメリカの種類でメキシコからウルグアイにかけて分布する。
      That's how you kill two fish with one bird! Predator swoops and snatches a pair of trout in one deadly move にフィンランドで撮影された2匹の魚を同時に捉えたミサゴの写真が出ている。日本語では「欲の熊鷹股裂くる」というたとえがあるが、これはその上を行ってそうである。記事の英語のタイトルは「一石二鳥」を逆にもじったものだが、日本語のたとえの方が面白い気がする。
      ミサゴは第IV趾を後ろに回すことができる (semi-zygodactyly)。これが獲物を捉えるのに役に立っているかを検証した研究がある: Sustaita et al. (2019) Behavioral correlates of semi-zygodactyly in Ospreys (Pandion haliaetus) based on analysis of internet images 過去にはフクロウ類の足との類似性から機能が予測されていたが実証研究はなかった。 統計的に有意に獲物を掴む時に用いられていることなどが記載されている。 第III趾と第IV趾の間の膜が欠如していて趾を後ろにも動かせるとのこと。Bartosik (2009) によれば魚の硬い背骨を避けて両側を掴むためとの解釈がある。
      [ミサゴの体臭] ミサゴは例えば救護された鳥として届けられた時に、開けなくても種類がわかるほどににおいが強いという。例えば宮崎 (1987)「鷲鷹ひとり旅」には脂肪分の強いヒツジによく似た独特の体臭を持っているとある。 ただしこれは魚食性の鳥なので、という理由ではないようである。尾脂腺の油のようで、その点では他の鳥と変わらないそうであるが、タカ類の中では例外的によく発達しているということのようである。 英語ではミサゴの羽毛を指して "oily" が (oily waterproof coating 防水性のある油のコーティングをした のような表現で) しばしば使われる。 そのためミサゴは水中まで没して魚を捕ることができるが (鼻孔開口部も閉じることができる)、魚を捕るオジロワシは羽が濡れてしまって乾かすのに時間がかかるため水中には没しないそうである (オジロワシの wikipedia英語版より)。魚食のワシは魚食性の鳥のにおいがするのか、と聞かれたことがあるがそうではなさそうである。
      [ミサゴの体温調節] Rogalla et al. (2021) Thermoregulation and heat exchange in ospreys (Pandion haliaetus) がサーモグラフィーなどを用いたミサゴの放熱の研究をしている。嘴の表面近くを動脈が通っていて熱を逃がせる可能性があるが、実測では脚と趾からの放熱が多かった。外気温が上がってくると喘いだり翼を広げる行動を示すが頭部に低温領域が生じて皮膚からの蒸発で放熱していると考えられる。
      鳥類の嘴は血管が豊富で、放熱器官として役立っていることについての論文は Tattersall et al. (2016) The evolution of the avian bill as a thermoregulatory organ、 van de Ven et al. (2016) Regulation of Heat Exchange across the Hornbill Beak: Functional Similarities with Toucans? などが参考になる。湿度の高い熱帯林に住むオオハシ類などは蒸発による放熱があまり期待できないので蒸発に頼らない放熱の必要があるなど。
      密生した羽毛でハチの攻撃を防いでいるハチクマではどうなっているのだろうか? 足以外にあまり熱が逃げるところがないかも知れない。渡りの時でも口を開けて飛んでいるハチクマはしばしば見かけるがやはり暑いのだろう。海外映像でもハチクマの水飲みの場面はしばしばみかけ、他のタカ類に比べてよく水を飲んで暑さをしのいでいるかも知れない。 口を開けても日本の夏のように湿度が高いと上記オオハシ類と同様蒸発による放熱があまり期待できず、ハチクマが西日本に少ないのは暑さにも関係しているかも知れない。もっとも熱帯には留鳥亜種が生息しているので暑さそのものが制限要因ではないかも知れないが。
      [英名などの語源] 英名の osprey の語源については15世紀中頃に osprai < 英仏語 ospriet < 中世ラテン語 avis prede (bird of prey 猛禽類の意味) と呼ばれていたが、現代英語の osprey はフランス語でヒゲワシを意味した ossifrage (骨を砕くもの) と混同され、音も似ているためこの単語になったものと推測されている (Online Etymology Dictionary)。 os- を見て骨を連想するのは正しいようである。 ドイツ語では Fischadler (魚ワシ) なのでこの単語を見るとつい英語の fish eagle を想像してしまうが、いわゆる海ワシ類はドイツ語で Seeadler (この単語のみでオジロワシを指す)。英語で何とか fish eagle と呼ばれる種類もドイツ語では何とか seeadler の名前になっているようである。 他の言語ではそこそこバリエーションがありフランス語では balbuzard pecheur (釣り師の balbuzard、balbuzard は英語の bald-buzzard 由来とのこと: 出典。bald はおそらくハクトウワシ同様で「頭の白いノスリ」となる)。スペイン語も gavilan pescador (釣り師のタカ)。 ロシア語では特殊で skopa (アクセントは後でスカパーと読む)。語源はよくわかっていないがインド・ヨーロッパ語族の skopiti (削る、剥ぐ) に由来する可能性がある。趾が後ろにも回って二重の「取っ手、かすがい」skoba を形成するとの別の説もある (Kolyada et al. 2016)。
      [ロシア語の「猛禽類」] ロシア語では捕食性動物 (哺乳類でも鳥類でも) を指して khishchnik 難しそうな綴りなのだが発音は日本語のヒーシニクで問題なく通じる。もちろん変化形があり複数は -i ヒーシニキ 複数で〜の、〜をは -ov ヒーシニカフ。 特に鳥類の猛禽類を意味する時には pernatyj khishchnik ピェルナーティ ヒーシニク (羽の生えた〜) がよく聞かれる表現。ドキュメンタリーなどでは獲物が出てくることが多いが「獲物を」は dobychu ダブィチュ。これらだけでも聞き取れればロシア語ビデオも案外わかった気になれる。
      [近代的な陸鳥の進化] 日本鳥類目録改訂第7版以降の分類では、このあたり (タカが登場するあたり) 以降の鳥の性質がそれより前の部分とはかなり違うことにお気づきの方もあるかも知れない。 この後では本格的な水鳥は現れず (水辺に住むグループ程度はあるが)、ここからが本格的な陸鳥の始まりである。かつてはタカ類とハヤブサ類は一緒にされ、しかもコウノトリ類と近縁とされた古い研究の影響もあってタカ類 (とハヤブサ類) が変な場所に置かれていたため、図鑑の配列を見てもこのあたりが明確に見えなかった (もっとも、猛禽類の中にはヘビクイワシのような変わった種類もいるので、ツルやコウノトリ類と近縁だったと考えられたのは無理もなかったかも知れない)。 シブリー・アールキスト (Sibley-Ahlquist) の DNA-DNA 分子交雑法による1990年ごろの鳥類分類の発表があり、従来分類とは違っていていろいろな点で話題となったがこれでもタカ類はコウノトリ目に内包され、根本的な解決には至っていなかった。混乱をもたらしただけとの批判もないわけではなかった。
      シブリー・アールキストの時代には DNA 配列から系統を推定することはできなかったが、その後の分子遺伝学の進歩により現在ではより確かな系統関係がわかるようになっている (その結果日本鳥類目録改訂第7版の分類大改訂につながった)。 現代的な研究の一例として Prum et al. (2015) (#アマツバメの備考) の系統樹を見ていただきたい。 この系統樹は今後少々入れ替わる程度の変化はあると思われるが、今後はこれまでのような大きな変化はなく、おそらく最終版にかなり近いと考えてよいだろう。 この系統樹の2ページめからが近代的な陸鳥のグループであり、日本産の鳥ではミサゴから始まるのでここに説明を入れた。
      この近代的な陸鳥のグループを指して Telluraves という用語がある (対応する日本語名があるのか知らないが、中国語では陸鳥類と訳している)。英語では core landbirds と呼ぶのが一般的。これまでの系統でもハトやキジ類のような陸鳥のグループはあったが、現在の陸鳥の中では非主流と言えるだろう。 観察をしていてもこれ以降の陸鳥は一段進んだグループの印象を受けるでのはないだろうか。そのような意味も込めて higher landbirds という呼び名を使う人もある。 例えば Kuhl et al. (2020) An Unbiased Molecular Approach Using 3'-UTRs Resolves the Avian Family-Level Tree of Life の系統分類も参照。この分類に従えば、
      1. Paleaognathae (古顎類) でダチョウなどの走鳥類。日本には該当種なし。
      2. Galloanserae カモ類、キジ類
      3. Mirandornithes (< miranda 驚くべき ornis 鳥 Gk) Sangster (2005) が提唱した名前。日本語名はよくわからないが、中国語では奇跡鳥類と訳している。カイツブリ類とフラミンゴ類。
      4. Basal Landbirds ツル類、チドリ類、ヨタカ類、ノガン類、カッコウ類、ハト類など。これらが古いタイプの陸鳥のグループになる。
      5. Aquatic and Semiaquatic Birds アビ類、ペンギン類、ミズナギドリ類、コウノトリ類、カツオドリ類、ペリカン類など。水鳥と水辺の鳥。
      6. Higher Landbirds タカ類、フクロウ類、ブッポウソウ類、キツツキ類など。高等な陸鳥と呼んでよいだろう。
      7. Australaves (日本語名はよくわからないが、中国語では南鳥類 *1) ハヤブサ類、オウム類、スズメ目など。
      6. と 7. の細かい包含関係には後に示すようにまだ議論がある。6. の段階で鳥類に一段の進化 (例えば神経系など) があり、より高度なグループを生み出したと考えられる (そしてさらに 7. の系統でさらに一段の進化があったとみなされている)。1-5 までのグループが恐竜大絶滅を生き延び、6. 以降がその後現れたと考えられている。 「足を器用に使う鳥」の研究 (#ハチクマの備考参照) の論文では 6. の段階で足の利用方法が格段に向上している。 足を器用に使う鳥は圧倒的に猛禽類および類縁の種類 (オウム類) が多く、猛禽類として暮らすためには足の利用が不可欠であったのか、あるいは別目的で足の利用が進化したことが猛禽類の出現に結びついたのか面白いところである。 鳥の足はヒトの手のようなものでもあり、足を器用に使うことで脳の発達を促したことも考えられるかも知れない。4. の古いタイプの陸鳥の一部も木にとまるわけだが、これらの中に足を器用に使う鳥が発達しなかったのも興味深い。
      ここで Prum et al. (2015) に戻ってみると、最も最後に現れた陸鳥の系統は猛禽型の鳥に始まった。タカ類とフクロウ類、そして残りの (高等な) 陸鳥。猛禽性はそれ以降の陸鳥の系統 (ハヤブサ類、オウム類、スズメ目) にも引き継がれていると書かれている。 猛禽性は例えばカワセミ類でよくわかる、スズメ目でも多くの種類が昆虫を捕まえる、モズ類では特に目立っているなど、猛禽の特徴はスズメ目に至るまで引き継がれていて、時々猛禽らしいグループが顔を出すと考えると納得できるように思える。 この考え方は研究者の間でもかなり共有されているようで、「小鳥の先祖はタカだった」と言ってもそう大きな間違いではないかも知れない (自分はこの考えを気に入っていて、祖先が大変優れた鳥であったために多様で能力の高い陸鳥に進化することができたのではとの「猛禽類ワールド」的な発想で見ている)。 ただし祖先を考える時に猛禽類だけに目を向けるのは、目立つ種類に引きずられすぎているとの指摘もある。 Prum et al. (2015) はさらに、水鳥とシギ類の系統が (生息環境や生活様式など) 限られた生態にとどまっているのは過去に指摘されていなかった系統的制約を意味する可能性を指摘している。 平たく言えばこれらの系統には限界があった、という意味と読んでよいだろう。
      さらに次のような興味深い研究が出ている。Ksepka et al. (2017) Early Paleocene landbird supports rapid phylogenetic and morphological diversification of crown birds after the KPg mass extinction 非常に目立たない鳥であるが、ネズミドリの仲間の非常に古い化石が発見され、恐竜大絶滅から200-300万年ぐらいで現在の鳥のグループの祖先 (上記 6. 7. に至る) がほぼ現れていたことを示唆する。 この論文に現れる系統樹が斬新で、Telluraves (core landbirds、上記 6. 7.) に3つの系統があり、Australaves、名前は付いていないがフクロウ類とカワセミ類からなる系統、そしてネズミドリを含む Coraciimorphae (例によって中国語訳では仏法僧総目) の系統である。最後の系統にキツツキ類やサイチョウ類などが含まれる、この3つの系統がほぼ同じころに現れたと考えているようである。 現世鳥類だけを使う分子系統樹ではどうしても過去に消滅したグループの情報が含まれないので、このように化石記録も合わせた系統樹は重要である。この論文では (現世鳥類を使った分子系統樹による) 他の研究者の見解とは少し異なり、タカ目を Australaves に含めている。 現世鳥類を使った分子系統樹とは細かな矛盾が生じるのだが、初期に3系統が同じような時期に生じたため現世鳥類を使った分子系統樹で系統の出現順序を正しく解像できていない可能性は十分考えられる (つまりタカ類とフクロウ類、そして Coraciimorphae がどの順序で現れたかはわからない)。 後に発表された同じ著者による Ksepka et al. (2019) Oldest Finch-Beaked Birds Reveal Parallel Ecological Radiations in the Earliest Evolution of Passerines も参照。ここでは Ksepka et al. (2017) の系統樹作成に使われた分子系統をベースとするが形態的特徴を取り入れる方法次第ではタカ目とハヤブサ目の収斂進化よって枝がまとまったもので、(純粋に) 分子系統的な支持は得られているわけではないと述べている。 分子系統的視点からは斬新な系統樹であったが共著者の助言 (?) もあって批判を呼びそうなトーンを抑えて受け入れられている形にしたのかも知れない。
      ただし Ksepka et al. (2017) の論文で示されたタカ目を Australaves に含める系統樹は大変興味深く、タカ系統とハヤブサ系統が並ぶ関係になる (この図によればタカ系統とハヤブサ系統は6000万年前以前に分かれていたことになる)。 ハヤブサ類の系統にオウム類やスズメ目が含まれる点はこれまでの見解と同じ。「タカとハヤブサ」のような似たものが同じ系統に乗るならば大変納得しやすい気がする。
      「日本鳥類目録改訂第7版ショック」の一つとしてタカ類とハヤブサ類が近縁でなく、後者はオウム類の仲間とされた点があったが、それは従来のタカ・ハヤブサ類の位置があまりにも間違っていたためで、この研究のようにタカ類とハヤブサ類をそれなりに近い位置に置くことも現在の知見とそれほど矛盾しない形で可能であることを示しているのだろうと考える [ただし上記 Ksepka et al. (2019) が述べている解析の限界なども参照]。 もしこの系統樹が真実に近いのであれば、「小鳥の先祖はタカだった」と一層強く言えることになる (もちろん現代見ているタカは長い時間をかけて進化、選抜されてきたものであり、祖先となったタカのような鳥は現在のタカとはだいぶ違うものだったであろうが)。 現世鳥類を使った分子系統樹に忠実に従えば、タカ類と {ハヤブサ類 + オウム類 + スズメ目} の間は少し距離がある (現在の世界のチェックリストの分類順、日本鳥類目録改訂第7-8版もこれに従っている)。この系統概念でタカ類とフクロウ類、ブッポウソウ類、キツツキ類などを広く含む分類を Afroaves [Jarvis (2014) Whole-genome analyses resolve early branches in the tree of life of modern birdsで提唱。 Sangster et al. (2022) Phylogenetic definitions for 25 higher-level clade names of birds の系統樹と引用文献も参照] と呼ぶこともあるが、必ずしも系統性が再現できない理由で使用しない研究者もある。 もし Ksepka et al. (2017) の系統樹を採用すれば鳥類分類の最後はスズメ目にならず、スズメ目はタカ類やハヤブサ類の後に並ぶことになる。ここでは一応「別の可能性」程度に考えておくこととしよう。 現世鳥類の標準的な分子系統樹はフクロウ類よりタカ類の方が早く生じたことを示唆するが、 タカ類やフクロウ類は古い化石証拠に乏しいため、化石から系統関係に制約を付けにくいため両者のギャップが埋まっていない。 タカ類の可能性のある最も古い化石 (といっても指一本の断片) は 5050-5200万年前とされる: Mayr and Smith (2019) A diverse bird assemblage from the Ypresian of Belgium furthers knowledge of early Eocene avifaunas of the North Sea Basin で分子系統樹から示唆される年代まではとても遡れていない。もっと確実な化石証拠はさらに後のものになる (フクロウ類の化石記録については興味深いので別に分けた。この項目の後を参照)。
      なおここで述べた「近代的な陸鳥」とそれ以前の系統の間に位置する可能性のある極めて変わった種類がある。ツメバケイ Opisthocomus hoazin 英名 Hoatzin で、まるで草食哺乳類のように植物を発酵させるそのうを持つ。ひなは翼に爪を持ち実際にそれを使って木の枝を登る。 鳥類のゲノムの中には恐竜の前肢の爪 (例えばシソチョウは翼に3本の鉤爪を持つ指がある) を形成する機能が残っていて「先祖返り」が可能であると解釈されている。 近縁の現世種もなく系統関係はよく解明されていない。2014年の研究ではツル類やシギ類に遠くつながる枝にあるとされたが最新の B10K の暫定結果をもっても未だに決着していない The Bizarre Bird that's Breaking the Tree of Life (Crair 2022, in the New Yorker)。 Prum et al. (2015) ではタカ類の手前の最初の「近代的な陸鳥」の位置に置いている。
      備考:
      *1: 南半球3大陸で近代的な陸鳥 [Kuhl et al. (2020) の 6. 7.] が進化したらしいことについては Ericson (2011) Evolution of terrestrial birds in three continents: biogeography and parallel radiations の研究を参照。現世鳥類の遺伝情報をもとに組み立てたものだが、オーストラリアでスズメ目とオウム類が生き残り (現世鳥類のデータをもとに記述するため「生き残る」のような表現になる)、南アメリカからハヤブサ目とノガンモドキ類、 アフリカからはより多くの系統でブッポウソウ類 + オオブッポウソウ、キツツキ類、フクロウ類、ハヤブサ目を除く昼行性猛禽類、新世界ハゲワシ類、キヌバネドリ類、ネズミドリ類が生き残ったとされる。 もちろんこれら3大陸にいろいろなグループが分布するまでの過程があるわけだがそこまでは対象にしていない。 この意味では近代的な陸鳥はすべて南起源と考えてよいわけであるが、アフリカで主に放散した系統を Afroaves、それ以外を Australaves とすれば概念的にはまとまったものになる。
      おそらくあまり想像されないであろうが、スズメ目の起源はオーストラリアと考えられる。 これをテーマにした Tim Low "Where Song Began" (Yale University Press 2014) という興味深い本が出ている。スズメ目はなぜアフリカやユーラシアでなくオーストラリアで適応放散したのであろうか。 ハヤブサ類・オウム類・スズメ目が近縁であることがわかってきた時期に並行して書かれた本とも言える。 副題が "how they changed the world" とあり、もしスズメ目が生まれなければ、世界は我々が現在見聞きするものと大きく違っていたかも知れない。 現在日本野鳥の会会長の上田恵介氏が1997年に著した対談も関連して興味深いだろう。 生物のサバイバル戦略 - 共進化。 「鳥がいなければこの世界はどれだけ単調であっただろう」などもよく言われるが、記憶能力の高い鳥がいなければ世界もまったく違っていただろう。スズメ目のアフリカ進出とヒトの進化も時期的には重なっていて、あるいは言語の進化なども含めて関係があるのではと思ってしまう。 今後も「野鳥」誌で上田氏の話を読めるかも知れない、いや期待したい (しかしあまり大風呂敷は広げにくいかも知れないが...)。 オーストラリアの鳥は他大陸に比べてより知的で長命の傾向があるとしている。 世界のどこよりもオーストラリアでは鳥が生態系を形作っており、行動も多様である。 北半球の住人はどうしても北半球にバイアスをかけがちでオーストラリアでの進化に気づきにくい。
      "Where Song Began" の内容を一部紹介しておくと、鳥の進化については 当時の欧米の知見から Ernst Mayr の大御所の 見解による、スズメ目などの新しいタイプの鳥は北半球で比較的新しく生ま れて、空白だった南へと進出していったとのパラダイムが広く受け入れられ ていて、それに対する反証も多少はあったものの、Sibley による DNA-DNA-hybridization による系統の見直し、その後の塩基配列から より直接に系統関係が明らかにされる中で、このパラダイムが書き換わっていった。
      欧米のデータだけを見ているとスズメ目は最近にしか化石に現れないので、 新しく生まれた (創造説によれば人間と一緒にあるものは最終段階で創ら れた) と考えるのももっともだが、現在のスズメ目の共通祖先に相当する 系統がオーストラリアの鳥だった (コトドリ、ニュージーランドの wren など) とのことで、スズメ目はオーストラリアで生まれて長い進化を経て 様々に分化し、その後北半球へと分布を広げた。そして北半球の在来の 鳥を圧倒していった描像が明らかになってきたことが描かれている。Ernst Mayr は新しい 研究を高く評価しつつも自説を生涯曲げなかったとのこと。
      これらとさらに共通する祖先を持つグループがオウム類やハヤブサ類。 コトドリの歌 (模倣) は最上のものとみなされているが、オウム類の 知性とともに、何千万年もの間オーストラリアの鳥が地球で最も 知的な動物だった可能性もある (これらの部分についての知見は後に紹介するオウム類の祖先と 思われる化石種以降も参照。オウム類はかつて北半球にも広く存在していた証拠がある)。 その後進化したスズメ目に比べて、 これらの祖先型の鳥は興味深いことに鳴管の構造はより単純なのに 出す音はもっと多彩である。その後進化したスズメ目は種認識 (種分化) のためにそれぞれは狭い種類の範囲の音しか出さないようになった? 音声模倣能力のある鳥は知的能力も優れている?
      オーストラリアで進化した鳥はたいへんのんびりした生活史で、 卵の孵化や成熟などに大変時間がかかる (小鳥なのに成熟するのに7年かかるのもある)。 北半球でその後進化して逆にオーストラリアに入ってきた種類はこれが早い。 北半球の生存条件の過酷さ、渡りの必要などで生活史を急ぐ必要が あるのでは。しかしオーストラリアの鳥は個体としては大変強力で、 ニュージーランドの Kea (ミヤマオウム) は有名だが、カササギの破壊力なども すさまじい。また鳥のサイズもスズメ目としては大変大きい。
      婚姻形態も北半球の鳥に比べて多様。北半球の鳥だけ見ていて 鳥類の一般的特性と考えるのは誤解かも知れない。
      音声学習をする動物は非常に限られている。もしスズメ目が いなかったら世界の音ははるかに単調なものだっただろう。 鳥の声は西洋音楽の音階に近い音程が多く (オクターブを使う 鳥もある)、音楽における美意識の根底に関係があるかも知れない (補足私見: 収斂進化かも知れないが)。
      なぜオーストラリアだったのか (なお当時はゴンドワナ大陸の一部だった。 南極大陸とつながっているとはいえ寒冷な部分で実質上隔離されていた) については、6500万年前の隕石衝突が北半球だったために、大絶滅を免れたのが 南半球だったこと、その後小型哺乳類による捕食の影響を受けずに"のびのびと"進化した 可能性が挙げられている (補足私見: いたずらに競争をさせれば最終的によいものが 生まれるというわけではないだろう)。 スズメ目ほど証拠は明確でないものの、 いろいろな種類がオーストラリア由来と考えるともっともらしいとのこと。
      北からオーストラリアに進出してきたムクドリの仲間は非常に粗雑な巣を 作ってよく落ちる。これはムクドリの仲間はもともと隙間に 営巣して丸い巣を作らないのが、樹洞などの制約のために巣作りをする ようになったもののまだうまくないらしいとの推測が出ている。
      北半球とオーストラリアに同じ植物がある (途中に空白がある) ことが 謎だったが、シギ類が種子を運んでいる可能性が示唆されている。 胃内容を調べてみると結構種子が見つかるとのこと (なおこのあたりは近年渡り鳥による長距離運搬としてよく研究されている)。
      本のタイトルもなかなか洒落ていて、地球で「歌」と呼べるものが誕生したのはどこだろうかと問うている。もちろん他の鳥類や他の動物も声を出すが、人類の「歌」の出現するはるか以前のスズメ目が生まれなければ多様で華麗な歌声を聞くこともなかっただろう。 スティーブン・フェルド Steven Felt 著; 山口修ほか訳「鳥になった少年 - カルリ社会における音・神話・象徴」(1988年 平凡社) という書物もある。現地の鳥の声がメッセージ伝達に使われるとのことで、「鳥の歌」からヒトが進化の過程で学んだこともあるのではないだろうか。 Steven Felt の研究のきっかけについては 宮沢賢治の宇宙 編集日誌 の2000. 8.10 編集日誌 のところでも触れられている。
      猛禽類の解説部分でスズメ目の出現に触れる形になるがタカ類をはじめとする近代的な陸鳥の進化を見る上で南半球の果たした役割の大きさを改めて認識しておきたい。
      [オウム類とフクロウ類のモザイクのような化石鳥] オウム類とフクロウ類のモザイクのような化石鳥が知られている。Mayr (2021) A partial skeleton of a new species of Tynskya Mayr, 2000 (Aves, Messelasturidae) from the London Clay highlights the osteological distinctness of a poorly known early Eocene "owl/parrot mosaic" この化石属とともに化石属 Messelastur Mayr (2005) The postcranial osteology and phylogenetic position of the Middle Eocene Messelastur gratulator Peters, 1994 - a morphological link between owls Strigiformes) and falconiform birds? があり、後者の発見の時点ではハヤブサ目とオウム目の類縁性がまだ知られていなかったため、当時のワシタカ目 (当時ハヤブサ科を含む) とフクロウ目をつなぐ化石かと注目されたもの。 属名に "astur" が付いているようにタカの仲間と意識されていたことがわかる。 2008年以降ハヤブサ目とオウム目の類縁性が明らかになってきて、(少なくとも現時点では) 幻の "ミッシングリンク" となった。 Mayr (2010) Well-preserved new skeleton of the Middle Eocene Messelastur substantiates sister group relationship between Messelasturidae and Halcyornithidae (Aves, ?Pan-Psittaciformes) の論文で MesselasturTynskya の関係がより明らかになったが、Messelastur gratulator の方がより猛禽的な足のつくりになっている。 この2属は現代の昼行性猛禽類のように目の上の骨性の supraorbital ridge (processus supraorbitalis) が発達しており (猛禽的な生活様式だった? #カタグロトビの備考 [カタグロトビ類の系統分類] も参照)、嘴も猛禽的である。 この研究の時点ではタカ目と {ハヤブサ目 + オウム目} の違いが明らかになる途上で、もし今後の研究でこれら化石グループがオウム類の祖先であることがはっきりすればオウム類の祖先は猛禽的な鳥であったことを裏付けると結んでいる。 Mayr (2021) で Tynskya 属のより完全な化石が見つかって、この時点ではハヤブサ目とオウム目の類縁性が明らかになっていたため再検討も行われた。この化石の足のつくり (semi-zygodactyl feet) はオウム類に似ている。 形態学的には現世の猛禽類やオウム類との共通点はあるが、どの系統に位置するか確定的なことは言えなかった。分子遺伝学による制約 (ハヤブサ目とオウム目がまとまった系統をなす) をつければオウム類かスズメ目に近いことが示唆されるのだが... (制約をつければそうなることは計算してみなくても自明なのであまり詳しく説明していないのだろう。制約をつけなくても形態学的に独立に同じ結果になればお互いの確かさを裏付けることになるのだろうが)。 頸椎の構造が特殊で現世のすべての鳥の鞍状の関節面 (saddle-shaped または 異凹型 heterocoelous #フクロウの備考 [フクロウ類の首の動き] 参照) と異なる。 第4頸椎 (C4) の後方突起は現世のフクロウ目とタカ目にみられる (注: 一般的には肉を引きちぎる力を伝えるのに適した形態と思っていたが、ぱっと見たところでは肉食でもヘビクイワシにはない?)。 顎の特異性も合わせて現世の鳥には存在しない生態的地位を占めていたのではないか、とのことだが系統的位置づけがよくわからない。 後述の [猛禽類の分類など] の「オウム類の祖先と思われる約5400万年前の化石種」の部分も参照。
      [フクロウ類はかつてタカの地位を占めていた?] タカ類よりフクロウ類の方がむしろより古い (約5500万年前) 良質の化石が知られている: Mayr et al. (2020) Skeleton of a new owl from the early Eocene of North America (Aves, Strigiformes) with an accipitrid-like foot morphology; 解説記事例 (現代のシロフクロウとの骨格比較が出ている) Scientists describe the most complete fossil from the early stages of owl evolution。 著者たちは当時のフクロウ類は現代のフクロウ類 (趾は相対的に弱く、最後の一撃を嘴で加えるとのこと) とは異なり、現代のタカ類のように足で獲物を殺していたと考えている。 著者たちは約3400万年前に昼行性猛禽類が広がった結果 [後述 Catanach et al. (2023) の系統樹では {(チュウヒダカ亜科) + ヒゲワシ亜科 + ハチクマ亜科} の共通祖先が生まれたころ] 昼行性猛禽類との競争の結果フクロウ類の採食方法が特殊化して夜行性に移行した可能性もあると考えている。 フクロウ類が Strix グループ と Tyto グループに分かれたのはこの前にあたるので微妙に整合しないかも知れない (こういう議論は「猛禽類観」にかかわるので面白い)。 Mayr et al. (2020) の考えに従えばタカ類が現在のような昼行性猛禽類の地位を確立するのに意外に長時間 (例えば2000万年) を要しておりそのため古い化石も少ないのかも知れない。 ミサゴ科が分かれたのが約5000万年前で [Prum et al. (2015) ではもっと若く2700万年ぐらい前になるが Mayr et al. (2020) の解説と合わないのでおそらくこちらの数字は使っていない。 Fuchs et al. (2015) の値を使っている可能性があり、この文献では3400万年前は (おそらく地上性だが) ハヤブサ系統の祖先、Mindall et al. (2018) Phylogeny, Taxonomy, and Geographic Diversity of Diurnal Raptors: Falconiformes, Accipitriformes, and Cathartiformes では同時代はカタグロトビ類と現在の他のタカ類が分かれたころ。 タカ科の祖先系統で2400-2600万年前にそれなりに強力な森林性捕食者の化石証拠もある Mather et al. (2022) (#ハチクマの備考参照) ので Catanach et al. (2023) の系統樹は少し古く見積もり過ぎかも知れない]。 当時の地上のタカ類はまだそれほど強力な捕食者を生み出せなかったが、その後生まれた {(チュウヒダカ亜科) + ヒゲワシ亜科 + ハチクマ亜科} の祖先系統は十分強力な捕食者で当時のフクロウ類を凌駕する昼行性猛禽類の能力を持っていたと解釈すればよいだろうか。
      わずか1例の化石からは飛躍し過ぎであるが、少しばかり大風呂敷を広げて進化史を考えてみよう。現在のフクロウ類の祖先 (現在のような形態は考えてはいけない) は昼行性猛禽類として現在のタカ類の祖先よりも優位だったと考えることができるだろう。しかしタカ類の祖先も脇役ではあるが途絶えることなく共存していた。 現在のフクロウ類の祖先が昼の陸上で優位だったために、タカ類の祖先の一部は特殊化してニッチを占めたのであろう。まずごく特殊なヘビクイワシ科が6000万年ぐらい前に分岐 (現在の分布はアフリカ限られているが古くはもっと広く分布していたらしいようでヨーロッパの化石もあるらしい。1科1属1種しか残っていないのは不自然なので研究者は同系統の化石がもっとみつかることを期待している)。 なおこの前に新世界ハゲワシ類 (コンドル類) が分岐しているが、これ以降のタカ類とは染色体の入れ替えがまったく違っていて (#ミサゴ#クロハゲワシの備考参照)、タカ目に含める必要もないように思える。しばしば提唱されるようにコンドル目でよさそうに思える。 ハヤブサ系統の出現もほぼ同じころと推定されているが Falco属など捕食性の強いグループの出現はかなり後になる。ただしタカ類が地位を確立するよりは早かったようである[なお Ksepka et al. (2017) の系統樹でもコンドル類とタカ類が分かれる前にハヤブサ系統が分離していれば染色体にかかわる矛盾は起きない]。 次に魚食専門家としてのミサゴ科が5000万年ぐらい前に分かれ陸のフクロウ類の祖先と異なる環境に適応し、全世界に分布を広げた。 次に現れたのが4500万年ぐらい前に分岐したカタグロトビ科 (通常の分類ではタカ科の亜科とされるが) で、昼の陸を制覇したフクロウ類 (矛盾した表現に感じるが) の祖先の支配下で夜行性にも適応し、現在のフクロウ類に似た特性を持ち (例えば網膜の紫外線感受視細胞を欠く)、これまた (寒い地域を除いて) 汎世界的に分布を広げた。このような視点で考えるとやはりカタグロトビ類は "科" 相当に感じられる。 これらの特殊化、特に夜行性のタカ類の進化には昼を制覇したフクロウ類の圧力があったのだろう。 少なくとも4500万年ぐらい前ぐらいまでは陸の昼間はフクロウ類の祖先の天下だったのではないだろうか。
      そして約3400万年前にタカ類の真打登場 (前述のように少し古く見積もりすぎの可能性がある。ここからをタカ科とするのは理にかなうように思える) でフクロウ類と立場が逆転。フクロウ類は夜の世界に生きることになる [現代の Ninox (アオバズク) 属のようにタカに近い特徴を持つグループや、昼行性も示すコミミズクなどもあるので昼行性のフクロウ類も長く共存していたかも知れない]。 タカ類の先駆者は現在では {(チュウヒダカ亜科) + ヒゲワシ亜科 + ハチクマ亜科} の共通祖先となるが、この系統の猛禽類には現在もさまざまな特性のものがあるように、当時すでに種分化を遂げて世界に進出していたフクロウ類が昼の世界に残れないぐらいに優れた能力を生み出し多様な適応放散を遂げて昼の陸を制覇したのであろう。 このタカ類の先駆系統も全体として現在も汎世界的に分布している。 「原始的なタカ類」のような表現は失礼であり (笑)、どこかで一線を突破してタカ類の進展を確立したパイオニアと考える方がふさわしいだろう。この系統から分岐してもう少し後 (2800万年前ぐらい) にヘビワシ類や (強力ではあるが生態的には森林や山岳地、開けた地域など次第に特殊化した放散が見られる) クマタカ/イヌワシなどに至る系統を生み出すことになる。 ただしこの先駆者グループでも少なくともクロハゲワシは網膜の紫外線受容視細胞を欠き、祖先が夜行性生活を行っていたことを意味するかも知れない。 このようにみると猛禽類の中ではタカ類はむしろかなり後発だったように見える。タカも「下積み」時代が長かったのだ。系統順に「場所取り」をしていったような捉え方は間違いなのだろう。 タカ類がフクロウ類をどのような点で凌駕したかを現生種から推測するのは無理があるかも知れないが、みなさんも考えてみていただきたい。 学説も固まっているわけでもないので特に猛禽類好きの方は "えこひいき" (笑) でもよいので自由に想像を膨らませていただいてよいだろう。 以上あくまで「大風呂敷」なので全然違う結果になるかも知れないが。
      フクロウ類がかつては昼行性で二次的に夜行性になったと考えると他にも都合のよい点がある。系統関係をどう考えるかによって異なるが、Prum et al. (2015) のような系統樹を考えるとフクロウ類と祖先を共通にするグループが夜行性を体験せずに済む (実際に網膜の4原色が保持されている)。 Ksepka et al. (2017) の系統樹であってもフクロウ類とカワセミ類からなる系統に分離されるだけでスズメ目はタカ類につながり特に矛盾が発生するわけではない。 もう一つ、夜行性の系統は渡りの磁気定位にかかわる分子の遺伝子として最も有力とされる Cry4 を失う傾向にある (#アマツバメの備考参照)。 フクロウ類が祖先段階で夜行性であればその後フクロウ類との共通祖先から分かれた系統も Cry4 を失う可能性があるが現実にはそうなっていない (ただし渡りの必要がないなど二次的に失なった/失いつつある系統はそれなりにある)。フクロウ類が祖先段階で昼行性であればこの問題も回避できる。 後述のようにヨタカ類の系統 (アマツバメ類、ハチドリ類など) で Cry4 が不完全になる傾向が少し見られておりこの系統は初期から部分的に夜行性だったかも知れない。 ヨタカ類の系統は古いが、フクロウ類が祖先段階で昼行性であったと思われる時代に複数の系統を分岐しており、夜行性に回ったのはあるいは昼行性フクロウ類との競争もあったもかも知れない。 タカ類は調べられた範囲で Cry4 を完全に保持しており、フクロウ類の天下の時代にもおそらく主に昼行性生活をしていたのだろう。
      [猛禽類の分類など] 古い方の分類に戻るが、かつてはタカ類とハヤブサ類を合わせて Falconiformes ワシタカ目とされていたことはご存じであろう。その中にワシタカ科とハヤブサ科があった。問題は Falconiformes が現在の分類ではハヤブサ目のみを指すことである。つまりいつ書かれた文章か、何を出典にしているかによって意味が変わってしまう。ネットの情報でも混在している状況なので特に注意が必要である。 「まえがき」に相当する部分で階層構造でファイルを整理する時の注意として挙げたものだが、この例がまさしく当てはまっている。Falconiformes/ワシタカ目 を階層に使っていた場合などは個々の種を判断した上での大規模な移動が必要になる。両方使われるからと「Falconiformes または Accipitriformes」のような階層を作ってあったりすると事情はさらややこしくなる。
      古い図鑑でもある意味 "賢明" だったものもあり、系統分類順ではなく水鳥と陸鳥に分けているものもあり、この場合は水鳥と猛禽類が混じらなくて都合がよかった。しかし古いタイプの陸鳥も一部後者に入るので分類学上は若干都合の悪い部分もないとは言えない。 動物園などのネームプレートなどでは、受け入れた時の分類や学名がそのまま使われていることも多いので (入れ替えには費用もかかるのでやむを得ないところもあると思うが...)、ワシタカ目などの名前はまだまだ目にすることがある。受け入れ時の分類名がその後分割された場合などに反映されていないこともあり、ネームプレートを見ても分類が変わっていないか、本当にその種かは確認しておいた方がよい。例えばソウゲンワシとアフリカソウゲンワシ (サメイロイヌワシ) は典型例である。
      普通の意味で「猛禽類」と言った場合、我々が思い浮かべるのはタカ目、フクロウ目、ハヤブサ目であろう (タカ目から分離されることもある新世界ハゲワシ類も含む)。The Peregrine Fund ではこれに南米のノガンモドキ科を加えたものを猛禽類として扱っている(資料)。 ヘビクイワシはタカ目に含まれるので (ミサゴ同様に独立科) 分類上はあまり気にならないかも知れないが、ヘビばかり食べているわけでもない。2 Secretary Birds Attack Rabbit にウサギを仕留めるヘビクイワシが紹介されており、猛禽類らしさがよく現れている。 この足で物を掴めるかは議論が分かれており、掴めると解説している資料もある (元出典は不明)。 ちなみにヘビクイワシは学名 Sagittarius serpentarius 英名 Secretarybird (IOC名は1単語。一般に使われる時は secretary bird と2語にすることが多いようである)。学名の由来は属名は別のところで見た人もあるかも知れない。12星座にも入っている「いて座」と同じ。sagitta が矢 (これも星座にある) で、矢を射るものの意味。 種小名もヘビのことでこれも星座にあり、星座を知っている人には即刻わかってもらえる学名 (英語でも serpent だが)。 日本語で書記官鳥とも呼ばれるように「書記官鳥のペン先に似た冠羽」が英名の由来と一般に考えられているが、これに挑戦する仮説もある。Hilary Fry (1977) によればアラビア語で saqr et-tair が「半砂漠のタカ」または「飛ぶタカ」を意味するそうである。 地上を歩いているばかりの印象を受けるが、飛行もしっかり行い求愛ディスプレイもある (これはタカらしい感じがある)。どんな声を出すのかは海外音源やビデオなど探して聞いてみて欲しい。タカの声とはとても思えない。 Glenn (2018) Shoot the Messager? How the Secretarybird Sagittarius serpentarius got its names (mostly wrong) はこの説が歴史的・言語学的に正しくないとしている。Fry (1977) の説で名前を説明している古い日本語記事を見たことがあるが、日本語での説明のオリジナル出典がどこにあるかは分からなかった (現在は wikipedia日本語版・英語版ともに解説あり)。 ノガンモドキ科 Cariamiformes で2属 (Cariama, Chunga 2種を含む。いずれも seriema が種小名となっており、いずれも現地名に由来する。英語では Cariama, Seriema のいずれでも呼ばれる。 このグループは古くはツル類に近縁と考えられ、ヘビクイワシと外見が似ているため (これは収斂進化と考えられている)、タカ類が水鳥に近縁と考えられた原因の一つにもなっていた。 ノガンモドキ類は肉食性の巨大な飛べない鳥であった恐鳥類 Phorusrhacidae フォルスラコス科の生き残りとの考えもある。これは恐竜絶滅後南アメリカ大陸で頂点捕食者であったが、南北アメリカが陸続きになって食肉目の哺乳類が到達するようになり、競争で絶滅したとの考えが優勢であった。 しかし最近の研究で最後のフォルスラコス科と初期の現生人類が共存していた可能性は高まってきているそうである (wikipedia日本語版より)。恐鳥類とノガンモドキ類との系統関係はまだ明らかとは言えないようである。
      ノガンモドキ科は現世鳥類の系統樹ではハヤブサ目・オウム目・スズメ目からなる Australaves [Ksepka et al. (2017) とは異なる一般的な呼び名で] の古い枝に属する。ハヤブサ目も古くはこのような種類に似ていたのかも知れない。 Mayr and Kitchener (2022) New fossils from the London Clay show that the Eocene Masillaraptoridae are stem group representatives of falcons (Aves, Falconiformes) によれば、ハヤブサ目・オウム目・スズメ目の関係は分子系統からは示唆されるが、形態や生態面でハヤブサ目に似た種類が現存していないのが問題であった。 ハヤブサ目とノガンモドキ類の関係を補強する化石種がヨーロッパで見つかったとこと。 分子系統からハヤブサ目などの祖先が現れたのは3420万年前と推定されているが (Fuchs et al. 2015)、この化石 (約5500万年前) よりもずっと新しい年代になっている。 またハヤブサ系統は南米で進化したと考えられる点など細かい矛盾点がある。 [あるいは Mayr があまり好まなかったであろう Ksepka et al. (2017) のハヤブサ類の系統とタカの系統をまとめる系統樹の方が説明しやすいかも知れない。タカの祖先系統は古いはずなのでハヤブサ類の系統を古い時期に分岐させることも可能で、地理分布的にも解釈しやすい可能性がある。 しかしハヤブサ類の系統から後に生じたはずのスズメ目やオウム類の祖先らしい化石は古いものがみつかっているので、ノガンモドキ類からハヤブサ目への分岐は想像以上に古く、ハヤブサ目の過去の系統がまったく痕跡を残していないだけかも知れない。古い時期に存在したはずのタカ類の化石がほとんどないことも含めてミステリーである。この部分は私見]。 この化石種は脚が長くカラカラ類のように地上で獲物を探していたと考えられるが、ハヤブサ類でもワライハヤブサ類 (Herpetotherinae) のような例外もあって断言はできない。 ハヤブサ目・オウム目・スズメ目の祖先は猛禽的な性格を持っていたらしい点の補強材料となるだろうとのこと。
      オウム類の祖先と思われる約5400万年前の化石種 Mopsitta tanta がデンマークで見つかったとの報告があった: Waterhouse et. al (2008) Two new parrots (Psittaciformes) from the Lower Eocene Fur Formation of Denmark。 Mayr and Betelli (2011) A record of Rhynchaeites, Threskiornithidae) from the early Eocene Fur Formation of Denmark, and the affinities of the alleged parrot MopsittaMopsitta がオウム類に近縁かを疑問視しており、新たに発見したトキ類らしいより完全な化石からこれと同属と考えている。その場合 Rhynchaeites tanta と改名すべきとある。 時期はこの前になるが Dyke and Cooper (2000) A new psittaciform bird from the London Clay (Lower Eocene) of England はより完全な約5500万年前の化石種 Pulchrapollia gracilis をロンドン近くで発見している。 当時は現代的な分子系統は知られておらず、ハヤブサ系統に関する言及はない。 Mayr (2001) Comments on the systematic position of the putative Lower Eocene parrot Pulchrapollia gracilis はオウム類ではなく Pseudasturidae Mayr 1998 (現在では Halcyornithidae に含まれるとされる) ではないかと述べている ([オウム類とフクロウ類のモザイクのような化石鳥] を参照)。Ksepka et. al (2019) はこの系統をノガンモドキ類とハヤブサ類の後の分岐でオウム類以前の系統と捉えている。小型種であるがハヤブサ類のように眼窩上の「ひさし」が発達している。 これらはオウム類の祖先の研究であるが、ハヤブサ系統に近縁と考えられているオウム類の祖先がいつどのように生まれたかの情報はハヤブサ系統の出現時期や猛禽類の系統関係についても示唆を与えるだろう。 Zelenkov (2016) The first fossil parrot (Aves, Psittaciformes) from Siberia and its implications for the historical biogeography of Psittaciformes にも1600-1800万年前にシベリアでオウム類の祖先と思われる化石が報告されており、温暖な気候のもとでオウム類が世界的に分布していた時期があることを示している。 これらの化石はオーストラリアのオウム類の最も古い化石よりも古いとのこと。オウム類の起源や古い時期の放散を主なテーマとしている。 Halcyornithidae などの位置についてはまだ議論があり、Mayr and Kitchener (2022) Psittacopedids and zygodactylids: The diverse and species-rich psittacopasserine birds from the early Eocene London Clay of Walton-on-the-Naze (Essex, UK) によれば骨学による系統分類 (化石種ではそうならざるを得ないが) では、現生種を同様に分類した場合に分子遺伝学が示唆するようにオウム類がハヤブサ類が近くではなくネズミドリ、キヌバネドリ、あるいはブッポウソウ類やキツツキ類系統に近くなってしまうなどの問題があり骨学による系統分類は注意して見る必要があることが述べられている。 Psittacopasseres (オウム類 + スズメ目。以下参照) の祖先的形質と考えられる対趾足 (zygodactyly) の特徴を示す Zygodactylidae が単系統である証拠は得られていないとのこと。
      [オウム類とハヤブサ類の近縁性はどのように解明されたか] 従来の Falconiformes (タカ類 + ハヤブサ類) が単系統でない可能性は卵白電気泳動パターンから Sibley (1960) The electrophoretic patterns of avian egg-white proteins as taxonomic characters が提案し、ハヤブサ類は他の昼行性猛禽類に近くないかも知れないとの示唆がなかったわけではない。
      オウム類とスズメ目の系統が近いことは Hackett et al. (2008) A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History による核 DNA 解析で示された。そしてこのグループとハヤブサ類が近いことがわかったのが一番驚きの発見であった。用いる遺伝子によって結果は多少異なったが、これらのグループが近縁である点は疑いなかった。 この論文に先行して Ericson et al. (2006) Diversification of Neoaves: integration of molecular sequence data and fossils がハヤブサ類を除いたタカ類がまとまることが示されたがハヤブサ類とオウム類、スズメ目との関係は明瞭でなかった。系統樹も現在使われているものとはやや異なって、これら陸鳥のグループは大絶滅前に分岐して大絶滅を生き延びた形態になっている。 また Gibb et al. (2007) Mitochondrial Genomes and Avian Phylogeny: Complex Characters and Resolvability without Explosive Radiations がミトコンドリアのコントロール域の重複現象のパターンから系統推定を行っている。当時からハヤブサ類の位置が問題であったことは認識されており、2001年ぐらいにはすでに問題となっていたことがうかがえる (古く DNA-DNA hybridization の時代でも落ち着いていたわけではなかった)。 この研究ではハヤブサ類とタカ類に距離がある傾向は出ているがコウノトリ類などの水鳥と同じグループに入ることは DNA-DNA hybridization 時代とそれほど違いがなかった。オウム類 (ここではフクロウオウム) はこちらの方のグループに入っている。これらはスズメ目とはまったく違う枝になっている。 核 DNA のある程度詳しい解析が行われるまでまったくわからなかった関係性だったのだろう。 新世界ハゲワシ類はかつてコウノトリ類の近くに置かれる扱いもあったが、この論文で (タカ類を含む) 陸鳥グループに属することがわかった。 Suh et al. (2011) Mesozoic retroposons reveal parrots as the closest living relatives of passerine birds で共通するレトロポゾン (またはレトロトランスポゾン。ゲノム上の位置を転移することのできる塩基配列。そのうち転写と逆転写の過程を経る RNA 型でレトロウイルスの起源である可能性もある) の存在から Psittacopasseres (オウム類 + スズメ目。中国名では鸚雀総目) の概念が導入された (そしてこの文献で音声学習の起源が共通祖先である3000万年以上前に遡る可能性が示された)。 ハヤブサ類を含めて共通するレトロポゾンも存在して {Psittacopasseres + ハヤブサ類} を Eufalconimorphae (中国名では真隼形鳥、ロシア名では sokolopodobnye でハヤブサ類縁類。eu- の意味を考えると前者の訳の方が良さそうである) とする概念も導入された。 このグループが系統的にまとまっていることにはおそらく疑問の余地がない (ハヤブサ類がオウム類に近縁と証明されたのはこの時点と言ってよいだろう)。 ノガンモドキ類も含めて共通するレトロポゾンがあるのでここまでの系統関係はおそらく問題ないだろうが、それ以外の近代的な陸鳥の系統にはそのような決定的なマーカーがなく、この方法で {Eufalconimorphae + ノガンモドキ類} がどの系統につながるかは判定できない。通常の系統分類ではこのグループが前述の Australaves になる。 いずれにしてもオウム類とハヤブサ類の近縁性は2008-2011年に解明されたもので最近の出来事である。ハヤブサ類の特集などは Birder でもたびたび行われたが、少し古い時代の記事の時代はこの近縁性がまったくわかっていなかった (電気泳動に触れている記述はわずかにあった) ことを意識して読むのがよいだろう。
      Catanach and Johnson (2015) Independent origins of the feather lice (Insecta: Degeeriella) of raptors はタカ・ハヤブサ類のハムシの分子系統樹からタカ類とハヤブサ類の系統が分離していることを示し、両者が近縁でない証拠の一つとしている。ハヤブサ類のハムシはキツツキ類のものと類縁性があり、タカ類のハムシはハチクイ類のものと類縁性があるとのこと。 現代の標準的な分子分子系統樹ではキツツキ類もハチクイ類もブッポウソウ類系統になるので他の分類群との関係については何とも言えないかも知れない。
      [日本産タカ類を新しい分類で見る] Catanach et al. (2023) の分類 (#アカハラダカの備考参照) を取り入れて日本産タカ類の一覧を作ってみた (第8版で検討種になるものも含めている)。 系統が少し離れるところに空白行を入れてある。現 Accipiter属 の分割結果もふまえた分類と学名になっている (これら学名は海外の主要リストにはまだ現れていないが論文でもすでに使われている)。 順序は Catanach et al. (2023) の系統樹に合わせているが、属内の違いはわずかなこともあるので今後細かいところで多少入れ替わるかも知れない。 大きなところでは (a), (b) の順序は逆になるかも知れない。新属の和名などは私案である。 約10年後の改訂第9版はきっとこのようになっているだろうと推定したもので、ごく近い将来の分類では日本産タカ類はこんな感じになるらしいことを感じ取っていただければと思う。またこの分類はタカ類個々の種の備考を読む上でも参考になるだろう。 この分類は近年の海外動向や文献などを調査した上で作ってあるので、日本鳥学会の目録にこだわる必要のない方は学名などをすでに使っていただいて構わないだろう (近い将来に変わることが予想されるため)。 wikipedia英語版は最新情報をかなりよく取り入れていて (東洋の種は相対的に手薄だが) 属内の順序が変わる程度でこの分類とそう大きく違わない。現 Accipiter属の細分については wikipedia英語版説明の中では触れられているが Catanach et al. (2023) は執筆現在ではまだ触れられていない。 世界のタカ類を全部入れると世界の種類との関係もわかってもっと面白いかも知れないが、さすがに数が多いので日本産に限った。

      ミサゴ科 Pandionidae
       ミサゴ属 Pandion
        ミサゴ Pandion haliaetus

      タカ科 Accipitridae
       カタグロトビ亜科 Elaninae (カタグロトビ科 Elanidae が提唱されている。科になる場合はミサゴ科とタカ科の間になる)
        カタグロトビ属 Elanus
         カタグロトビ Elanus caeruleus

       ハチクマ亜科 Perninae
        ハチクマ属 Pernis
         ハチクマ Pernis ptilorhynchus

       カンムリワシ亜科 Circaetinae
        カンムリワシ属 Spilornis
         カンムリワシ Spilornis cheela

       クロハゲワシ亜科 Aegypiinae
        クロハゲワシ属 Aegypius
         クロハゲワシ Aegypius monachus

       イヌワシ亜科 Aquilinae
        クマタカ属 Nisaetus
         クマタカ Nisaetus nipalensis
        カラフトワシ属 Clanga
         カラフトワシ Clanga clanga
        イヌワシ属 Aquila
         カタシロワシ Aquila heliaca
         イヌワシ Aquila chrysaetos

       (a)
       ハイタカ亜科 Accipitrinae
        ツミ属またはアカハラダカ属 (タイプ種を優先すれば後者) Tachyspiza
         ツミ Tachyspiza gularis
         アカハラダカ Tachyspiza soloensis
        ハイタカ属 Accipiter
         ハイタカ Accipiter nisus
        オオタカ属 Astur
         オオタカ Astur gentilis
       チュウヒ亜科 Circinae
        チュウヒ属 Circus
         ウスハイイロチュウヒ Circus macrourus
         ハイイロチュウヒ Circus cyaneus
         マダラチュウヒ Circus melanoleucos
         ヨーロッパチュウヒ Circus aeruginosus
         チュウヒ Circus spilonotus

       (b)
       ノスリ亜科 Buteoninae
        トビ族 Milvini
         トビ属 Milvus
          トビ Milvus migrans
         オジロワシ属 Haliaeetus
          オオワシ Haliaeetus pelagicus
          オジロワシ Haliaeetus albicilla
          ハクトウワシ Haliaeetus leucocephalus
        ノスリ族 Buteonini
         サシバ属 Butastur
          サシバ Butastur indicus
         ノスリ属 Buteo
          ケアシノスリ Buteo lagopus
          オオノスリ Buteo hemilasius
          ノスリ Buteo japonicus

  •  タカ目 ACCIPITRIFORMES タカ科 ACCIPITRIDAE 

  • ハチクマ
    • 学名:Pernis ptilorhynchus (ペルニス プティロリュンクス) 羽毛で覆われた嘴のタカの一種
    • 属名:pernis アリストテレスが Historia Animalium (9.36) に記述 (英訳, pternis と記載されている) したタカの一種。現在どの種類に対応するかは不明。綴り (Gk) は pernes, pernis, pternis, perknes の諸表記あり。Theodorus Gaza 訳 (1476) は pernix (Gk)「敏捷な」を語源と考えた
    • 種小名:ptilorhynchus (合) 羽毛で覆われた嘴の (ptilo 羽毛 rynchos 鼻口部 Gk)
    • 英名:Oriental Honey Buzzard, IOC: Crested Honey Buzzard
    • 備考: [属名の考証] PernisについてはPierre Belon, L'histoire de la nature des oyseauxも参照。ここでは Pernes の表記が使われている。ハゲワシやワシよりは小さな猛禽類の一種とされる(Bird Watching Blog: Pternis Pternes)。Pernis のシノニムに Pterochalinus があり、pteron 羽 khalinos (くつわの)はみ (Gk) で嘴と目の間が密生した羽毛で覆われていることに基づく名前。 基亜種 ptilorhynchus はジャワ島の留鳥 (Temminck, 1821)。種小名 ptilorhynchus はしばしば ptilorhyncus とも綴られるが、前者が正しいと考えられている。
      日本野鳥の会京都支部の副島猛氏による写本、印刷本、現代誤訳本などを調査と時代考証の結果、次のような結論が得られている: (1) アリストテレスのオリジナルは pternis (2) 印刷本(1497-)以降、ギリシャ語では pernes、ラテン語ではそれに対応する pernis というオリジナルとは別の語に改変 [t が落ちたのは、単なる誤植がきっかけだったのかもしれませんし、ほとんど目にしない pternis (アリストテレスの著作でも一箇所しかない) という語を意図的に「正した」ということなのかもしれません (副島の考察)] (3) Cuvier はそれを採用して pernis を属名に (4) 19世紀以降の批判校訂版ではギリシャ語 pternis に戻る (5) オリジナルの原義や、それが指す種については未だ不明 [kbird:06852 (2023.9.17)]。 pternis をタカの意味で用いた属名は他に存在する (Leucopternis, Poecilopternis)。 [以下完全に私見: Acropternis という属名もあり、これはタカとは無関係。副島猛氏によればこれはタカの pternis とは異なる語でアリストテレス『動物誌』などで用いられた pterne (女性名詞の「かかと」) とのこと (Helm Dictionary)。 この2つの語の間に語源的な関係があるかどうかはわからないが、学名にする時のラテン語化で同じ綴りになったと考えられる [副島猛 kbird:06862 (2023.9.23]。この「かかと」の単語は語源が推定されていて、インド・ヨーロッパ祖族語 tpersneh に遡り、さらに t(s)perH- (かかとで蹴る) が由来の可能性があるとのこと。これならば猛禽類の習性としてあり得そうである。タカの方の pternis も遡ればもしかすると同じ語源にたどりつくのかもしれない。 アリストテレスはタカ類に記述でノスリが一番強力と述べ、以降タカ/ハヤブサ類の種類を列記して pternis は6番目の種類。本来は(ヨーロッパ)ハチクマ (当時ノスリと区別されていたかも怪しい) よりももっと小型のタカ/ハヤブサ類を指していたのかもしれない。興味ある方の語源究明に期待したい]。
      [ハチクマ類の系統分類] ハチクマには日本産の他のタカ類に系統的な類縁種がないため、ハチクマ亜科の全種を#ミサゴの備考のように示しておく。Catanach et al. (2023) の分子系統分類による。 全種は調べられていないので、Catanach et al. (2023) に含まれていない種は属内で IOC 順に並べてある。系統が少し離れるところに空行を入れてある。 この項目で種または属名の和名の後に * が付いているものは従来の少数遺伝子によるもので付いていないものよりは精度が低く (従来の系統解析と同じ)、今後の精度の高い全ゲノム解析で多少前後するかも知れない。
      新分類では従来含まれていた Macheiramphus (コウモリダカ属) がハチクマ亜科から外れ、むしろイヌワシ亜科 Aquilinae の後のオウギワシを含む系統に属する。
      ハチクマ亜科に先行する (カタグロトビ亜科が科となればタカ科の先頭になる) ヒゲワシ亜科 Gypaetinae にはこれまで [Catanach et al. (2023) の系統順による]

       チュウヒダカ [高野 (1973) ではアフリカチュウヒダカ] Polyboroides typus African Harrier-Hawk
       マダガスカルチュウヒダカ Polyboroides radiatus Madagascar Harrier-Hawk
       ヤシハゲワシ* Gypohierax angolensis Palm-nut Vulture
       エジプトハゲワシ* Neophron percnopterus Egyptian Vulture
       ヒゲワシ* Gypaetus barbatus Bearded Vulture

      の4属5種が含まれていたが、Catanach et al. (2023) の研究によれば Polyboroides属のチュウヒダカ [高野 (1973) ではアフリカチュウヒダカ]、マダガスカルチュウヒダカを含むと単系統にならない。 Polyboroides属を別亜科として分離するか、これら5種も含めてハチクマ亜科とするかのどちらかになるだろう。 wikipedia日本語版 (分類は IOC 2.6準拠?) の「タカ科 属と種」によればチュウヒダカ亜科 Polyboroidinae、ヒゲワシ亜科 Gypaetinae の名前はすでに存在するのでこれが踏襲されるかも知れない (なおハイイロトビ亜科 Elaninae の名前を与えている)。 ただしチュウヒダカ亜科 Polyboroidinae は形態・生態には類似するが縁の遠いセイタカノスリ類2種を含めた名前であった (Brown 1976)。現在では分離されており、1属のためにチュウヒダカ亜科の概念が妥当かどうかはわからない (そのためチュウヒダカ亜科の名称は以降括弧付きにする)。 高野 (1973) = Lloyd (1969) 時代ではこれらをまとめてチュウヒ類に含めていた。 これまでの取り扱いではハチクマ類とこれらも含めてヒゲワシ亜科 Gypaetinae とし、ハチクマ族 Pernini と ヒゲワシ族 Gypaetini と分ける名前もあった [Howard and Moore 4th (vol. 1-2, incl. corrigenda vol.1-2) はこちらを採用だが用いている資料は古い]。
      後々も出てくるがこれらの種類はどれも非常に個性のある猛禽類である。個性がありすぎて全体を1亜科にするのはむしろやりにくいかも知れない。また注目すべきは (従来からわかっていたが) 旧世界ハゲワシには異なる複数の系統がある。エジプトハゲワシには捕食性のタカ類の性質もあり、小動物を捕らえて食べる。
      Polyboroides の学名は若干混乱しやすいので補足しておくと、容易に想像できるように Polyborus に -oides 似たの意味で、Polyborus (ハヤブサ目ハヤブサ科の) カラカラ属の旧名であった < poluboros がつがつ食べる、貪欲な < polus 非常に -boros むさぼり食う (Gk)。複雑な経緯を経てカラカラ属の属名ではなくなっている (#ハヤブサの備考 [ハヤブサ目の系統分類] を参照)。 系統は違うがどちらも猛禽類の学名で雰囲気も似たところがあるので学名混同に注意。
      これらはタカ類の中で最初に現れたもので (ハチクマが原始的なタカ類と言われることがあるのは同様の意味。その意味であればミサゴはもっと原始的となるが機能的にはおそらくそのようには感じられないだろう。「原始的」はあくまで系統上の表現と考えるのがよさそうである)、 タカ類が現れた当初はいろいろな種が現れたのだろうが、後に現れたより高性能のタカ類が同じ生態学的地位を占めたために特殊な技能 (食性面ではスペシャリストが多い) を持つ種類が残ったものと考えるとわかりやすそうである。 さらに古く分岐した種類も入れて特徴をまとめておく:
      ・(コンドル科または目: スカベンジャー)
      ・ヘビクイワシ科: ヘビ食 (捕食性の猛禽類らしくなるのはここから。#ミサゴの備考参照)
      ・ミサゴ科: 魚食
      ・カタグロトビ類 (科?): 夜行性にも適応。フクロウ類類似の適応あり。
      ・チュウヒダカ類: 二重関節で脚を反対にも曲げられ器用に食物を捕れる (#クロハゲワシの備考参照。文献も記載)。
      ・ヤシハゲワシ: ヤシの実を食べる最も果実食的な猛禽類 (#クロハゲワシの備考参照)。
      ・エジプトハゲワシ: 石で卵を割る行動で有名。バルカン半島でカメを食べる (#イヌワシの備考参照)。
      ・ヒゲワシ: 骨髄を主に食べる唯一の猛禽類。バルカン半島でカメを食べる (#イヌワシの備考参照)。
      この視点を延長するとハチクマ類の強い点はハチの子食になるかも知れないが、ハチクマ類の前後の種類がそれほど特殊化していないこと、分岐時期も推定された系統樹で見るとタカ類のグループとの競争が生じる時期にはまだハチの子食に適応していなかったと考えられることから、ハチの子食は二次的なものでそれ自身が過去の他の猛禽類との競争に決定的に役立ったわけではない印象を受ける。 後の事例で示すようにハチクマ類の系統は知的な行動を可能にする別の意味で優れた点があったのではないかと感じている。オウム類やカラス類のような系統を生み出す性質がこの段階で備わっていたとすれば面白い (例えばタカ類とスズメ目の古い共通祖先段階で生み出されていた? #ミサゴの備考も参照)。 自分がハチクマにこだわっている一つの理由であるが、自身が生きているうちに解明されることはないかも知れない。一種の「予言」として聞いておいていただきたい。
      Barrowclough et al. (2014) The Phylogenetic Relationships of the Endemic Genera of Australo-Papuan Hawks によれば狭義のハチクマ亜科の中で Hamirostra, Lophoictinia, Henicopernis には RAG-1 遺伝子 (recombination-activating gene で DNA の切断を行い免疫細胞遺伝子再構成に関与する。 #インドガンの備考参照。RAG-1/2 は脊椎動物が獲得免疫を獲得する過程で最も重要なステップだったとの仮説がある) に他のタカ類に見られない3塩基の欠如があり、これらが同系統であることは間違いない。 1属にまとめてしまってもよく、その場合は先取権の原則から Hamirostra属になるとのことである。

      ハチクマ亜科 Perninae
       マダガスカルヘビワシ属* Eutriorchis
        マダガスカルヘビワシ [高野 (1973) ではマダガスカルオナガヘビワシ] Eutriorchis astur Madagascar Serpent Eagle

       カギハシトビ属 Chondrohierax
        カギハシトビ Chondrohierax uncinatus Hook-billed Kite
        キューバカギハシトビ Chondrohierax wilsonii Cuban Kite
       ハイガシラトビ属 Leptodon
        ハイガシラトビ Leptodon cayanensis Grey-headed Kite
        シロエリトビ Leptodon forbesi White-collared Kite

       カッコウハヤブサ属 Aviceda
        アフリカカッコウハヤブサ Aviceda cuculoides African Cuckoo-Hawk
        マダガスカルカッコウハヤブサ Aviceda madagascariensis Madagascar Cuckoo-Hawk
        チャイロカッコウハヤブサ [高野 (1973) ではジェルダンカッコウハヤブサ] Aviceda jerdoni Jerdon's Baza
        カンムリカッコウハヤブサ Aviceda subcristata Pacific Baza
        クロカッコウハヤブサ Aviceda leuphotes Black Baza

       ハチクマ属 Pernis
        ヨーロッパハチクマ Pernis apivorus European Honey Buzzard
        ハチクマ Pernis ptilorhynchus Crested Honey Buzzard
        ヨコジマハチクマ Pernis celebensis Barred Honey Buzzard
        フィリピンハチクマ Pernis steerei Philippine Honey Buzzard

       ツバメトビ属 Elanoides
        ツバメトビ [高野 (1973) ではツバメハイイロトビ] Elanoides forficatus Swallow-tailed Kite
       クロムネトビ属* Hamirostra
        クロムネトビ Hamirostra melanosternon Black-breasted Buzzard
       シラガトビ属* Lophoictinia
        シラガトビ [高野 (1973) ではアカムネトビ] Lophoictinia isura Square-tailed Kite
       オナガハチクマ属 Henicopernis
        クロハチクマ [高野 (1973) の別名はガーニイオナガハチクマ] Henicopernis infuscatus Black Honey Buzzard
        オナガハチクマ Henicopernis longicauda Long-tailed Honey Buzzard

      [60年ぶりに再発見されたマダガスカルヘビワシ (ハチクマ亜科)] マダガスカルヘビワシの学名の一部に使われるように triorchis という名前がタカ類にしばしば現れる。語源的には treis, tria 3つ orkhis 精巣 (Gk) の意味で、精巣が3つあると考えられたようである。副腎を精巣と見間違えたのではないかとの解釈がある。 triorkhes はアリストテレス等の用いたタカの一種で、ヨーロッパノスリを指していたのではないかと考えられている。Triorchis をタカ (特にノスリ) の一種とみなし、接頭語を付けて作られた属名がいくつもある。日本産の種類には出てこないが知っておいてよい語源である (wikipedia英語版より)。 個々の種の解説で3つの精巣の語源が示されていることがあるが、これはあくまで Triorchis の語源を説明しているもので、学名で使われる時点ではその意味はなくタカ (特にノスリ類似) の意味で使われるもの。個々の種が3つの精巣を持つと勘違いされたものではないので注意を要する。
      マダガスカルヘビワシはアフリカの東方沖合のマダガスカル島の固有種であり、かつてはカンムリワシなどを含むヘビワシ類と考えられたためこの名前が付いた。 マダガスカル島は様々な分類群の固有種が豊富であることが有名で、鳥類では「アカオオハシモズの社会」(山岸哲 京都大学学術出版会 2002) の研究が有名。霊長類の固有種も豊富でアイアイ、多数のキツネザル類などで有名で多くの研究者が訪れている。WWFによると2009年3月に起きたクーデターとその後の政治的混乱などにより、森林の大部分が失われこれら固有種の生息を脅かしている。 マダガスカルヘビワシの種小名の astur はオオタカのこと。 1930年代の標本11点があるのみで一度は絶滅したと考えられた。 1988年 Sheldon and Duckworth (1990) が目撃。 1990年死体が見つかる (Raxworthy and Colston 1992)。 1993-1998年に複数回目撃されて生存が確認された [後に紹介する Thorstrom and de Roland (2000 より]。 研究者にとっても研究が非常に困難な種で、海外データベースにもごく限られた写真しかない。 論文: Sheldon and Duckworth (1990) Rediscovery of the Madagascar Serpent-Eagle Eutriorchis astur 目視情報のみ。 Madagascar Serpent-Eagle Captured for First Time in 60 Years (The Peregrine Fund 1994) この種の写真はこの時に史上初めて撮影された。 Thorstrom et al. (1995) Repeated sightings and first capture of a live Madagascar Serpent-eagle Eutriorchis asturFirst Madagascar Serpent-Eagle Nest Discovered (The Peregrine Fund 1998) 初めての巣の発見。 Scientists Race to Uncover the Secrets of Madagascar’s Treasure-Filled Forests (Audubonの記事 2019)。 Sutton et al. (2022) Extensive protected area coverage and an updated global population estimate for the Endangered Madagascar Serpent-eagle identified from species-habitat associations using remote sensing data により詳しい情報があり、プレイバック法で従来考えられていたよりは個体数が多いことがわかったが成鳥は250-999羽と見積もられている。 Thorstrom and de Roland (2000) First nest description, breeding behaviour and distribution of the Madagascar Serpent‐Eagle Eutriorchis astur が初めて発見された巣と繁殖生態を記述している論文で、名前にはヘビワシと付いているが食物の80%はカメレオンやカエルとのこと。ヘビも少数食べている。獲物はすべて頭部を食いちぎってあったとのこと。 クラッチサイズは1だった。巣立ち後も餌運びが観察された。巣立ち後6週間で独立したとのこと。 この研究で目撃されたマダガスカルヘビワシはいずれも非常に臆病で、Sheldon and Duckworth (1990) にある比較的人を恐れない記述とは異なる。Thiollay (1998) はよく見ようと近づくとすぐ隠れてしまうと記述している。営巣期は特に顕著で巣に入る時も出る時も極めて目立たないように行動して巣の近くで声を出すことはほとんどない。 巣の周辺で騒々しいマダガスカルオオタカ Accipiter henstii Henst's Goshawk) と大きく違うが、マダガスカルオオタカのひなはマダガスカルチュウヒダカに捕食されることもある (後述)。 マダガスカルヘビワシが捕食者対策として巣の周辺で目立たないように行動している理由は理解できるが、それ以外の場面でなぜそこまで隠れようとするのか理由がわからないと書かれている (プレイバックなども用いた現代の技術でもそれほど観察困難な種類を1930年代にどのように11個体も標本にできたのだろうと気になるところである)。 目につかない場所に巣を作ることと合わせて巣を見つけることが極めて困難である。 この巣を見つけるのに4年かかった。最初は通常の大型猛禽類のように外から見える巣を探していた。 オスも半分ぐらい抱卵を行う。この点は多くのタカ・ハヤブサ類と異なって、系統に関係しているかも知れない (当時はトビ類はこのグループに近縁と考えられていたのでその点では現代の知見と多少異なる)。 系統の近いカッコウハヤブサ類は同様とのこと (ご存じのようにハチクマも同様)。 抱卵中に緑の葉のついた枝を運んだのはオスのみで、メスはほとんどひなのいる時期のみに運んだとのこと。 巣造りは産卵してから行う部分が多く、これも捕食者対策であろうとのこと。 緑の葉のついた枝を運ぶ理由はいくつかの仮説があるが (Newton 1979)、湿度を保つ、巣を見つけやすくする、衛生のためなどの仮説はいずれも当てはまりそうにない。熱帯雨林では排泄物はすぐに雨で流れてしまう。著者は断熱効果を考えているようである (この研究では同様の言及はないが台湾のハチクマの中継では初期はひなの糞を親が食べていた。若葉は糞受けに役立っているように見えた)。 マダガスカルヘビワシの孵化から巣立ちまでの期間は同じ程度の大きさな他の猛禽類や、同所的に生息するマダガスカルオオタカ (42-48日) より長く62日だった。 熱帯の猛禽類と同様の少数産卵、長い巣内期間、長寿命の戦略をとっていると考えられる。 ひなへの給餌はメスだけが行い、オスは後期に食物を落とすのみでひなには給餌しなかった。 足の構造は爬虫類食に適応した点が見られるが状況に応じてさまざまなものを食べているようである。 成鳥も若鳥も地上で獲物を探しているらしい行動をしばしば目撃している。
      "The Eagle Watchers" (Cornell University Press 2010) に Sarah Karpanty がマダガスカルヘビワシの研究を紹介している。1997年ごろで再発見されて間もない状況で分布を調べたり巣をみつけようとしている段階の話である。当時 Karpanty は大学院生でマダガスカルヘビワシの巣を見つけることなど学内では「見込みのない計画や話」または「骨折り損」(wild-goose chase) と言われていたとのこと。 霊長類研究者によればキツネザル類ほか (lemurs) が猛禽類に捕食されるところが目撃されていないのに大型猛禽類 (マダガスカルノスリ Buteo brachypterus Madagascar Buzzard、マダガスカルチュウヒダカ、マダガスカルオオタカ を見ると警戒音を出すのが不思議とされていて、例えば500-1000年ぐらい前にキツネザル類を捕食できる猛禽類が生息していたが絶滅してその名残ではないかとの仮説があったそうである。 熱帯の猛禽類研究者共通の寄生虫によるジアルジア症や暑さなどの苦労があったとのことで、冬には回帰熱マラリアが流行してメンバーもやられたとのこと。 同行の現地の自然に最も詳しいガイドに持参した猛禽類の音声のテープを聞いてもらうと、ほとんどの種はたちどころに答えてくれたがマダガスカルヘビワシの音声はわからなかった。マダガスカルヘビワシと告げると信じられない表情を示し画像を見せると数年前にオオタカのような鳥がミルンエドワーズシファカ (6kgぐらいある島で2番めに大きな霊長類) を襲ったが失敗したのを思い出したとのこと。 声は過去に聞いたことがあることを思い出したが姿は見られず正体はわからなかったとのこと。 日記には熱帯雨林では「あまりに静かで行っても行っても猛禽に出会わない」とある。 5週間後になって早朝にようやく声を聞いたがあまりに疲れていてすぐに動けなかった。ガイドとともにテントから出ると大きな猛禽が飛び去るのが見えた。しかしその後4週間まったく気配がなく 「幽霊の鳥」となっていた。11週間後にはどうやって帰るかを考えていた。数日前からマダガスカルヘビワシの声を聞いていて、どこか近くにいるはずとわかっていても姿を確認できなかった。 その日は祭りの日で見ると川辺の100mぐらいの距離にマダガスカルヘビワシがとまっていた。急いでテントに戻ってカメラを取り川に走って戻った。飛んでゆく短いビデオを記録できたが種の識別に耐えるものではなかった。 この夏の間に視認または音声で何度かの確認ができて原生林以外に人の手の加わった森林にも生息することがわかった。 最後の残された時間で国立公園と近傍の猛禽類の調査を行い、マダガスカルヘビワシ以外の3種の猛禽類の巣を10個発見した。そのうち5個は国立公園の外側にあった。学務のために大学に戻る必要があって2か月この場を離れた。現地では農地を得るために伐採が行われつつあり、住民に営巣木を切らないように頼んで大学に戻った。 学務を済ませて戻ってきた時の現地の変貌ぶりは、訓練を受けた研究者にとっても感情を抑えきれないものであった。まさかわずか2か月の間にこの地域の猛禽類の半数が失われるとは。しかし農民を責めることもできない - 農民に食べ物などあるはずもなかった。 国立公園外にあった最後の1巣は営巣木のみを残して切られており、周囲の木の日陰になることもなくひなは生き延びなかった。 Karpanty は調査の合間にマダガスカルオオタカ、マダガスカルチュウヒダカがキツネザル類を捕食するのを幸運にも目撃することができた - 小型のネズミキツネザル類 (32g) から大型のベローシファカ (3.5kg) に至るまでひなに餌として与えた。これまでの猛禽類研究者も霊長類研究者も目撃したことのないことであったが キツネザル類はちゃんと知っていて、猛禽類の巣で粘り強く観察する人が事実を証明する時を待っていたのだった。 この研究は Karpanty and Wright (2007) Predation on Lemurs in the Rainforest of Madagascar by Multiple Predator Species: Observations and Experiments の学術論文となっている。この中でマダガスカルヘビワシが成獣のヒガシアバヒ Avahi laniger Eastern Woolly Lemur を捕食する場面が目撃されたことがあると伝えている。この研究ではマダガスカルヘビワシの巣は見つからなかったので巣に運ばれる食物の研究はできなかった。 マダガスカルヘビワシを含む猛禽類の4種の音声のプレイバック実験ではキツネザル類の反応はマダガスカルオオタカに対するものが最も長続きしたとのこと。 猛禽類が霊長類の群集構造や信号の進化に与える影響を議論した論文として McGraw and Berger (2013) Raptors and Primate Evolution があり、この中でマダガスカルを含む世界の猛禽類による霊長類の捕食の一覧がある。タカ類の霊長類食に関心のある方には興味深いリストであろう。驚くべきことにハチクマに近い種類であるマダガスカルカッコウハヤブサやハイガシラトビも霊長類を捕食している (トビの名前から先入観を持ってはいけないようだ)。 クマタカによるニホンザルの捕食については Iida (1999) Predation of Japanese Macaque Macaca fuscata by Mountain Hawk Eagle Spizaetus nipalensisが引用されている。 東洋の種はもっと事例がありそうだが、研究されていないかあまり論文になっていないのだろう。
      マダガスカルチュウヒダカ (#クロハゲワシの備考参照) もタカ類の中でも最も古い系統に属し、どちらかと言えば採集生活に近い印象を受けるがそれでも敏捷な霊長類を襲うとは驚きである。猛禽類の能力を改めて思い知らされる。 マダガスカルオオタカはオオタカ類の中でも最も大型のものの一つでマダガスカルの生態系の頂点を占める。しかし親鳥不在中にひながマダガスカルチュウヒダカに捕食されることがあるとのこと。 マダガスカルヘビワシがマダガスカルオオタカに擬態しているとの指摘もある (wikipedia英語版より)。後者出典は Negro (2008) (#イヌワシに出てくるアフリカクマタカのところ参照)。
      [ハチクマ亜科の他種] カギハシトビはカタツムリ類を主に食べていて嘴の形はそのための適応。同じ習性を持ちかつては近縁と考えられたカタツムリトビ Rostrhamus sociabilis Snail Kite はそのものずばりの名前だが、現代的な研究では系統は全く違ってノスリの系統に近い。これは収斂進化と言ってよいだろう。 飛翔時の模様はオオタカやクマタカ類を思わせる点もあり、ハチクマで議論されるような擬態も提案されている [Sazima (2010) Five instances of bird mimicry suggested for Neotropical birds: A brief reappraisal]。
      ハイガシラトビは南北アメリカ大陸の普通種でそれほどの特殊化はないようである。シロエリトビはかつてはハイガシラトビの1型と考えられていたが独立種になったもの。こちらは生息地も限定されて生態もほとんどわかっていない。 この2種の恐竜を思わせるような名前の属名 Leptodon は leptos よい、ほっそりした odon, odontos 歯 (Gk) 上嘴にハヤブサ類にあるような「歯」(嘴縁突起 tomial tooth) が1つあるため。タカ類にも嘴縁突起を持つものがあり、ハヤブサ類やモズ類だけの特権ではない。 他にカッコウハヤブサ類 [英名でもハヤブサの名が付いているのは嘴の類似性のためか。Swainson (1836) にも嘴縁突起の記述があり、当時はタカもハヤブサも Falco属だったが、足の形態は調べた限りのハヤブサ類とは似ていないと記されている]、 ハバシトビ [高野 (1973) ではアカハラトビ] Harpagus bidentatus 英名 Double-toothed Kite、モモアカトビ Harpagus diodon 英名 Rufous-thighed Kite も嘴縁突起が2つあり、 Harpagus属の種小名、英名や和名の一部はいずれもそれに由来している。 川口 (2021) Birder 35(12): 54-55 で嘴縁突起 (この記事では刻歯) がハヤブサ類とモズ類に見られるのは従来は収斂進化と考えられていたが、分子系統研究でハヤブサ類とスズメ目の関係が近いことがわかって系統の近さを反映している可能性も示唆されている。それではなぜスズメ目の他種では見られないのかを問題提起している。 タカ類にも嘴縁突起が見られることはタカ類とハヤブサ類の系統の近さを表すのだろうか。 それともやはり収斂進化なのだろうか。 川口氏によるとモズ類の刻歯は嘴の骨の構造ではなくケラチン質とのこと。昆虫程度であればこの強度で十分なのだろうとの考えが示されている。
      トビ類に近いと考えられていたため Double-toothed Kite の名称が付いていたが、 Harpagus属もハチクマ亜科とは系統的には遠く、現代の研究では Macheiramphus (コウモリダカ属) 同様にむしろイヌワシ亜科 Aquilinae の後のオウギワシを含む系統に属する。 これらの例を見ると嘴縁突起は少なくともタカ類においては必要に応じて比較的簡単に進化できるもののようである。
      カッコウハヤブサ類はこの中で比較的馴染みのあるグループであろう。東南アジアにタカの渡り観察に行く方ならば普通に見られる。 Mindell et al. (2018) では Aviceda属が多系統となる結果に問題があったが、Catanach et al. (2023) による解析で解消された。 カッコウハヤブサ属の Aviceda は avis 鳥 -cida 殺すもので、さまざまなものを捕食し、食性面ではハチクマのようなスペシャリストではない。ハチクマと同様に果実も食べるそうで、カンムリカッコウハヤブサでは飼育下でレタスを与えないと繁殖しなかったとの報告がある (wikipedia英語版より)。 文献 Bell (1984) New or Confirmatory Information on Some Species of New Guinean Birds。 アフリカカッコウハヤブサの幼鳥はアフリカオオタカ Accipiter tachiro (新分類で Aerospiza tachiro) 英名 African Goshawk に似ている (擬態か?) との指摘がある (コンサイス鳥名事典)。 カンムリカッコウハヤブサに第III趾と第IV趾の間の膜が欠如して趾をミサゴのように後ろに回せる能力があるとのこと [Tsang (2012): #カタグロトビの備考参照]。
      クロムネトビは道具使用が特徴に挙げられる ([ハチクマ類の道具使用] 参照)。
      オナガハチクマ属に使われる Henicopernis は henikos 特異な (Gk) に由来。前述のようにこの属はクロムネトビ属 Hamirostra に吸収されてなくなる可能性もある。 こちらの由来は hamus 鉤 rostrum 嘴。 クロムネトビは嘴が長くろう膜部分が特に長く嘴の半分を覆うことが特徴とのこと。意外にもオナガイヌワシと結構混同されて掲載されていることがある。
      ハチクマ系統の "トビ" と呼ばれる種類とカタグロトビ類を Brown (1976) では aberrant kites とも称している (primitive kites とも呼んでいる。古い分類時代なので多少注意が必要だが)。aberrant は辞書的には「異常な」「異常型の」などの意味がある。"通常の経路から逸れる"、"所属するグループとやや異なる"という意味。これは、ラテン語の aberrans から派生 (etymology online)。 医学用語でも不整脈の原因となる心臓内の変行伝導 aberrant conduction、本来以外の場所にある (異所性) 甲状腺組織 aberrant (or ectopic) thyroid のように使われる。使用例を知った上で aberrant kites を見るとわかりやすい表現に感じる (もちろん他の分類群でも使われる用語)。 英語の kite とギリシャ語 iktinos は以前はトビ/アカトビのみを指す用語であったが、フランスの鳥類学者は milan をカタグロトビ類も含む名前として用いたなど言語による概念の違いも多少ある。「真正トビ類」(true Milvus) のような表現も使われた (Elaninae の wikipedia英語版から)。 Brown (1976) によればオーストラリアにはノスリ類が分布しないので (aberrant を含む) "kites" がノスリ類の地位を占めているとのこと。
      なお、オーストラリアの化石種ではあるがカタグロトビ類 (科?) とタカ科の間に位置する、(カタグロトビ類が科として分離されれば) タカ科の中で最も古い (2400-2600万年前) 系統が見つかっている: Mather et al. (2022) An exceptional partial skeleton of a new basal raptor (Aves: Accipitridae) from the late Oligocene Namba formation, South Australia。 この著者たちは Archaehieraxinae 亜科を創設し、Archaehierax sylvestris Archaehierax (arkhaios 古い hierax タカ Gk) sylvestris (森林に関係する < silva 森林) の学名を与えている。 当時のオーストラリアは現在よりずっと湿潤で森林に覆われていたとのこと。 大きさはオーストラリアの現世種クロムネトビとオナガイヌワシとの中間だがオナガイヌワシよりずっと華奢な造りになっているとのこと。クマタカ類のように森林に適応した翼を持ち、現代の森林性猛禽類ほどは強力でないもののクマタカ類に近い生態を持つ種類がこの段階ですでに現れていて小型の哺乳類 (例えばコアラ) や鳥類を捕食していた可能性が考えられるとのこと。
      [ヨーロッパハチクマとの関係・亜種他] Kaup (1844) (#イヌワシの備考参照) はハチクマ類をハイタカ/オオタカ型ノスリと分類していたが、インドのハチクマを cristatus (cristatus 冠羽のある) の種小名で呼んでおり、すでに別種と考えていた。Pernis cristatus の学名も使われていたことがあった。 例えば The Zoologist, 4th series, vol 6 (1902) ではこの学名とともに現在使われている英名 Crested Honey-Buzzard も使われている。この場合は学名と英名の対応がよい。 Wallace (1868) によるマレー半島の猛禽類の報告も読める: On the Raptorial Birds of the Malay Archipelago この中では学名 Pernis cristatus が用いられていて、Falco ptilorhynchus Temminck, 1821 と同一と考えていたことがわかる。 Wallace (1868) はこの時点でセレベス島の変種 (現在では別種ヨコジマハチクマ) とセレベスクマタカ Nisaetus lanceolatus の模様が全く同じで「擬態」を指摘していることは興味深い。
      Osprey taxonomy (BirdForum) に興味深い記述がある (2009.5.6のところ)。 最初に使われたのは Buteo cristatus Louis J. P. Vieillot, 1816 であり、記述は一見オーストラリアのミサゴを指しているようにも見えるが、ろう膜や足が黄色などミサゴと合わない部分もある。この投稿者によればオーストラリア (と言っても広範囲を含む) の場所の不自然さが残るが、あるいはハチクマの若鳥だったのではないかとの疑念が残る (注: 淡色型の若鳥だと専門家でもミサゴと間違えるぐらいなので...また地理的にもここまで渡っても不思議ではない。ハチクマの多彩な色彩が知られていない時代に記載者が間違えても不思議でない)。 Falco ptilorhyncus Temminck, 1821 と Buteo cristatus Bonaterre & Vieillot, 1823 のタイプ標本はいずれも Buteo cristatus Vieillot と記述されているとのこと。
      Bonnaterre & Vieillot は Buteo cristatus の同じ名称で1823年にハチクマを記載しているとのこと。これを用いて Falco ptilorhyncus Temminck, 1821 の方が早いのでこちらが優先されることになった模様。 もし1816年のものが1823年と同種を意図していたならば Buteo cristatus がハチクマの初記載となる可能性も残る。
      Buteo cristatus Louis J. P. Vieillot, 1816 は現在では カンムリミサゴ Pandion cristatus Eastern Osprey の初記載として採用されているが、1816年の記述はもしかするとハチクマだった可能性を否定できないという話。後の方の議論で適切な名称をどう提唱するべきかなど挙がっている。 もしこの見解が認められればハチクマとカンムリミサゴの学名が変わることになるが、さて? ミサゴを何種に分割するかの検証が終わってから、となるかも知れないが面白い話である。
      しかしその後、比較的最近までヨーロッパハチクマ (Pernis apivorus) (apivorus apis ハチ -vorus 食べる < vorare) の亜種と考えられていた。書物や比較的最近の論文でもこちらの学名が使われていることがあるので注意。 ヨーロッパハチクマと同種と考えられていたため、図版の特徴 (特に飛翔図) もヨーロッパハチクマと混同されているものもある。図鑑などで一般に使われている翼開長の 121-135cm (出典: 榎本『野鳥便覧』: 日本野鳥の会大阪支部の資料) もヨーロッパハチクマの値に近い。 数字の上ではハチクマの方がノスリより翼開長が小さく実際と合わない問題は叶内 (2001) Birder 15(9): p.90 でも指摘されていた。 現代的な測定値はオス 1266-1434mm (平均 1358, n=45), メス 1310-1506mm (平均 1406, n=32) 全長はオス 520-630mm (平均 573, n=46), メス 551-645mm (平均 598, n=32) [出典: 久野 (2006) Birder 20(10): 20-27] で、タカの渡りの解説などでは注意が必要。 ちなみに Brazil (2009) "Birds of East Asia" では 128-155cm, 全長 54-65cmとしている。全長 68cmの測定値もあり、大きさを識別要素とする場合は注意が必要。
      6亜種がある(IOC)。orientalis 以外は長距離の渡りをしない。インドなどの亜種 ruficollis (rufi- 赤みのある collis 首の) は日本の亜種と比較的似て見えるが、マレー半島の留鳥亜種の torquatus (torquatus 首輪のある) は冠羽も長く日本の亜種と印象が相当異なる。成鳥オスの虹彩が暗色かどうかは亜種によって異なる。 ジャワ島の基亜種 ptilorhynchus写真があるが違いはわかるだろうか。
      ハチクマの中で渡りをする (日本に来る) 亜種 orientalis を別種扱い (Pernis orientalis) にしている図鑑 [例えば Brazil (2009) "Birds of East Asia"] もあり、この学名が使われた日本語記事もある。日本の亜種は大陸とは別に亜種 japonicus Kuroda, 1925 とされたこともあるが、現在は亜種 orientalis のシノニムとして扱われている。 台湾では一部留鳥となっているが、これも亜種 orientalis と考えられている。冬場は養蜂業に依存して生活しているらしい (The Oriental Honey Buzzard of Ninety-nine Peaks; 九九蜂鷹(英語版))。
      亜種 orientalis を別種とする考えは、Gamauf and Haring (2004) Molecular phylogeny and biogeography of Honey-buzzards (genera Pernis and Henicopernis) の分子遺伝学研究では支持されていない (もっとも使用された塩基配列が短く、将来の研究で改定されるかもしれない。ハチクマの中に隠蔽種がある可能性を考えている人は結構ある)。 別種とする考えに従って英語表記で亜種 orientalis を Oriental Honey-buzzard (Northern)、渡りをしない東南アジアの複数の亜種を Oriental Honey-buzzard (Indomalayan) と区別されている場合があり eBird、海外図鑑などを利用する場合は注意が必要 (将来別種とされた場合を見越し、分割の手間を省くためにデータベースなどではこのように分けてあるのだろう)。orientalis はハチクマの中でも最大亜種の一つ。 英名で Oriental Honey Buzzard (よく OHB と略される) の名称は非常によく使われるが、IOC 名が現在 Crested Honey Buzzard としているのはこのような分類上の混乱を防ぐためと思われる。ただしハチクマの亜種には冠羽を持たないものもあり、この英名にも一長一短がある。Crested Honey Buzzard に相当する表現はすでに用いられていたもので、IOC などが最近の分類を受けて考案した名前ということではない。
      ハチクマ若鳥淡色型は渡り中に飛んでいる時はよいが、とまっている時や保護された時などは専門家ですらしばしば識別を誤らせる。 韓国の参考映像。 救護された場合、図鑑を見ても似た種類が見つからなくて別種にされてしまうこともしばしばあるそうである。 次はロシア沿海地方の話 (英語記事): East of Siberia: An Osprey, Until It Wasn't (Wildlife Conservation Society 2017)。 専門家が判定したのにもかかわらず、ミサゴと間違われて何週間も魚を与えられていたようである (ただし若鳥淡色型の容貌を知らずに調べるといかにも間違いそうである。さらにヨーロッパハチクマではさらに真っ白のがいるそうである)。 セルゲイの腕におとなしくとまっていたとのこと。 正体が判明してからハチの巣を買ってきて与えると大喜びで食べた。 食べ終わるとまるで犬のようにもっと欲しいとこちらを見つめたとのこと。
      ヨーロッパハチクマでも同様で、ペテルブルグで救助されたものが最初はミサゴとされていた。あまりに白いので間違った、とのこと ペテルブルグで保護されたミサゴはハチクマと判明。専門家が誤同定 (2019)。
      [ヨーロッパ諸言語のヨーロッパハチクマの名称と英語語源] 久野 (2006) では、英語で honey buzzard と呼ばれることから、ヨーロッパハチクマもヨーロッパの養蜂家にとってお馴染みと推測しているが、ヨーロッパハチクマは養蜂場を訪れないとの記述もある。 (旧 URL なので直接のリンクは張らない https://twitter.com/WMGVs/status/1425025233401098242) ヨーロッパハチクマはあまりミツバチを狙わない。ヨーロッパではヨーロッパハチクマが集団でハチの巣を襲う報告はないとのこと。越冬地でどうしているのかはわからないが、とも書いてある。 むしろ庭にやってきて (日本の庭の広さを想像してはいけない...) ハチの巣を掘ることはしばしば目撃されている、あるいは庭で他の鳥が騒いでいて見に行ってみると大きな鳥が飛び立ち、ハチの巣があったので駆除業者を呼んだなどの話を身近に聞いたことがある。
      また多くのヨーロッパ言語ではちみつ honey の方ではなく、直接にハチを意味する名称が使われている。ドイツ語 Wespenbussard (Wespen ハチ = 英語 wasp, スズメバチ科 Vespidae に対応; ミツバチはドイツ語で Honigbiene)、 オランダ語 wespendief (dief は英語 thief と同じで盗人。面白いことに -dief の付くオランダの他の猛禽は kiekendief のみ。チュウヒ類を指し kieken はひよこの意味)、 ハンガリー語 darazsolyv (ドイツ語同様とのこと)、 フランス語 bondree apivore (後半は学名の種小名と同じ意味)、 スウェーデン語 bivrak (bi- は英語 bee と同語源)、 デンマーク語 hvepsevage (hveps ハチ = 英語 wasp と同語源)、 イタリア語 Falco pecchiaiolo (pecchia ハチ ではあるが現在通常にハチの意味で使われる apis から派生した単語のよう)、 チェコ語 vcelojed lesni (vcela ハチ類全般)、 ロシア語 osoed (osa スズメバチ; ロシア語ではミツバチは pchela と別単語になる。ハチクマにも pcheloed の別名があるが、これは通常ハチクイ類を指す)、ウクライナ、ブルガリア語も同様。 ポーランド語は trzmielojad (trzmiel マルハナバチ属、ミツバチ科ミツバチ亜科)、 のように、ミツバチを直接意味するものは少なく、ハチ類の総称か、ロシア語やドイツ語のように積極的にミツバチではないハチを指すものも多い。 スペイン語 abejero は養蜂家を指すようで例外的だが、ヨーロッパハチクマの wikipediaスペイン語 の見出し語は学名になっていて、そもそもあまり知られていない種類かも知れない (渡り経路ではあるが繁殖地は国内のごく一部)。 この結果を見るとむしろ英語のみが例外的のようで、wiktionary の記述を見るとハチの巣を壊して食べるのではちみつを食べていたと歴史的に信じられていたため、とあり、養蜂業との直接のつながりはなさそうに思える。英国では比較的珍しい種類であることも考えると「英語の名称はハチミツノスリである」とかあまり強調しない方が良さそうである。
      もっとも、養蜂場らしいところにとまっている、あるいはミツバチらしいハチが周囲を飛んでいるヨーロッパハチクマの写真がないわけでもない。 写真の例 Trzmielojad
      参考までにスラブ諸語の名称について少し追記しておく。-ed, -yad, -jad などはすべて共通の語源で、「食べる」を意味する。英語は eat、ドイツ語は essen なのでどことなく似ている点は把握しやすいと思う。 この後の種類でタカ類のロシア語名をいくつか紹介するが、この語尾を把握おいていただくとよい。-yatnik のように -nik を付けるのは「行為者」をさらに積極的に表現しているものである (例えば okhota 狩 okhotnik 猟師; オホーツク海も同じ語源で我々はロシア語の単語を実は意外に知っている)。 日本では馴染みのない種類であるが、ヘビを食べる種類にチュウヒワシ Circaetus gallicus 英名 Short-toed Snake-Eagle があり、ヘビはロシア語で zmeya なので普通に造語すると zmeeed になる。 これは間違った名称でなく実際にこのようにも呼ばれるが、同じ母音が3つ並ぶと発音しにくいためか (ロシア語の e はヤ行音で、ィエと読む。英語のようにまとめて伸ばして発音したりしない)、一般に使われる名称は zmeeyad となっている。 英語でも別の単語を並べた結果たまたま同じ文字が3つ並ぶことがないわけではないが、このように正規の造語方法で3文字並ぶ単語はロシア語でも非常に珍しいようである。もう一つ別の単語を思いつく人があれば相当の博識だろうと想像する (最初見た時は感嘆語と思ってしまった)。 脱線ついでに豆知識を紹介しておこう。stervyatnik というロシア語名もある。-yatnik はもうおわかりであろう。前半な何か難しそうだが実はこれはドイツ語の sterben (死ぬ) が由来。ドイツ語のこの単語を知っている人であればハゲワシのことかと納得できると思う。 ややこしいのはこう呼ばれるのはハゲワシ類すべてではなく、エジプトハゲワシのことである。日本にもやってくるクロハゲワシは grif と呼ばれて豆知識が直接役に立たないは少し残念なところであるが、系統分類のところで述べたように旧世界のハゲワシ類は複数の系統からなり、もう一つの Gyps属 (#クロハゲワシの備考参照) は sip と呼ばれ系統の違いごとに別名になっていることがわかる。
      [近年の分布変化・ヨーロッパハチクマとの関係] ハチクマの世界的分布は近年広がっており、中東では普通に観察されるようになっている。ヨーロッパやアフリカでも少数観察され、例えば Kennedy and Marsh (2016) First record of Crested Honey Buzzard Pernis ptilorhynchus for Kenya and East Africa (ケニアでの初記録。他所での記録への論文も記述されている)、 南アフリカ共和国で2021年に初の個体が記録された。この南アフリカの記録は面白いので当時の記録を紹介しておく。 What A Bird! Finding the Crested Honey Buzzard (観察者のブログ)。こんなに「大物」の迷鳥はめったにあるものでなく、大変な人気であったとのこと。ただし待ったものの見られなかった人も多かった。 Rare sighting of a crested honey buzzard in Somerset West has birders abuzz にも報道記事がある。 国内中から観察者が押し寄せているとのこと。雑種ではなく純粋なハチクマと判定されているとのこと。この地域に2週間ぐらいいることはわかっている。ある方はトゥィッチ歴に残る忘れることのない出会いになったと述べている。なお当時は南アフリカは真夏。
      オーストラリアでは現地の夏季にディスプレイ飛行をする個体も記録されている (Oriental Honey Buzzard - Lake Joondalup, Western Australia; eBirdの分布図)。オーストラリアで繁殖する前触れであろうか?
      [ハチクマとヨーロッパハチクマの識別] ハチクマとヨーロッパハチクマは繁殖域が一部重なっていて雑種形成の可能性があり、雑種と思われる個体も中東を中心に報告されている [Forsman (2016) Flight identification of raptors of Europe, North Africa and the Middle East 2nd edn.他]。 ただし、ハチクマとヨーロッパハチクマは従来想像されていたほど近い系統ではなく、雑種がしばしば観察されるノスリ類の間よりも類縁関係は遠い (#ノスリ#チュウヒの備考参照)。ヨーロッパハチクマがハチクマの分布地域にも渡来している可能性もあるが、東アジアの渡りルートで雑種と思われる個体は報告がない。 以下のオンラインセミナーが大変役に立つ (このセミナーは越冬地の視聴者も対象としているため、アフリカの種類との比較が多い): Honey Buzzard Hybridization and Identification (Better Birding Webinars)。 分布の重なっているところは人も訪れないところで (これは正しくない)、雑種のつがいのいる巣を見た人はいない。DNA 解析も行われていない。ハチクマまたはヨーロッパハチクマの多様な個体変異の一部が雑種によるものの可能性は? 中東やアフリカで越冬するハチクマの事例が増えてきている。これは種そのものの変化によるものか、あるいは雑種形成の結果アフリカ方向に向かう渡りの衝動が生じるのか。 ヨーロッパハチクマの南アフリカでの記録は大変まれだったか最近25-30年の間で増えた。アフリカでも大部分の期間は樹冠の下で生活していて地面をひっかいている。ハチ類が主食だが日和見主義的 (opportunistic) な採食行動 (その時に簡単に得られるものを食べる) をとっている。南アフリカで観察されるものの大部分がメスである。 成鳥の羽衣になるのに3年かかる。最初の2年間はアフリカで過ごす。ヨーロッパの図鑑を見ても中間の年齢がどう見えるのかはわからない。オスの方が遠くまで渡らない仮説として、オスはなるべく繁殖地の近くで越冬することで繁殖地に早く戻れてよい場所を確保する意義があるとするものがある。
      53:15 あたりからハチクマの識別:
      * ハチクマの方がヨーロッパハチクマより足や爪がずっと大きい。
      * 飛翔時ハチクマの方がずっとワシに似た印象を受ける。アフリカのアフリカソウゲンワシ (サメイロイヌワシ) Aquila rapax 英名 Tawny Eagle のように見える。ヨーロッパハチクマを見慣れた目にはまるでワシのように見えるそうだが、日本でもよい出会いをすると大変立派に見えるのでこれは納得できる。 日本でも飛翔時のシルエットが Aquila属 (イヌワシ属) のように見えると指摘する人もある [cf. 先崎・伊関 (2014) Birder 26(9) p.9 に識別対象種としてイヌワシが出ている]。
      * 翼下面の横縞がヨーロッパハチクマでは揃って並んで見えるが、ハチクマではばらついている (この点は自分もハチクマのイラストを見る時に気にしている部分。よく特徴を把握せず描かれたイラストではヨーロッパハチクマのようにきれいに並べているものも多い)。
      * ハチクマには手根部のいわゆるノスリ班のような "carpal patch" がない。
      * 「よだれかけ」みたいな喉の模様 (gorget) があればハチクマ。
      * 翼指はヨーロッパハチクマで5枚、ハチクマで6枚。
      * ヨーロッパハチクマはオスでも虹彩は黄色。
      これらの特徴が混ざっている個体は雑種の候補となるが、1:19:10あたりに雑種ハチクマ判定の注意点:
      * 英名の "crested" (冠羽)については、とまった姿でハチクマはチュウヒダカに似た印象を受ける (がよい識別点ではない)。
      * 足が大きいと言っていたが獲物は違うのか? - 知らない。
      * carpal crescent (carpal patch より小さい手根部の三日月型の模様) を雑種の特徴と主張している人もあったが、東アジアフライウエイの個体 (ハチクマ) でも見られており、雑種を表すものではなく個体変異の範囲だろう。
      * 若鳥の次列風切の横縞がヨーロッパハチクマでは4本、ハチクマでは5-6本だが、ハチクマでも少ないのがいる。
      [ハチの幼虫を主食とする猛禽類・ハチの巣の蜜蝋を食べる鳥] ハチの幼虫を主食とする猛禽類にはハチクマ類の他、ハヤブサ目のアカノドカラカラ Ibycter americanus (英名 Red-throated Caracara) が知られているが、 この種では化学防御物質を出していないことが確認されている [McCann et al. (2013) Strike Fast, Strike Hard: The Red-Throated Caracara Exploits Absconding Behavior of Social Wasps during Nest Predation]。 狩猟習性もハチクマとは異なって空中のハチの巣を繰り返して襲い、ハチがあきらめる (absconding) のを待つ。地下のハチの巣は襲わないらしい。Ibycter (研究者 Sean McCann のページ)。Red-throated Caracara predation behaviour (ハチの巣攻撃の YouTube 映像)。 ハチへの防御能力はハチクマの方が優れていると思われる。 生息地が南米なので研究するのも大変とのことである。
      ハチに襲われて死んだらしいハチクマの報告があると言われる ([ハチクマの越冬地での行動] を参照)。
      再生回数もすごいのでおそらくすでにご覧になられている方が多いだろうが、比較のために日本のハチクマの捕食動画: ハチクマ VS スズメバチ VS ツキノワグマ。 ヨーロッパハチクマで鮮明な捕食動画があったので紹介しておく。 The European honey BUZZARD | Bordeaux, France | Wild Animal Behaviour フランスの映像であるが説明は英語。平均で9年生きるとのこと。
      Ferguson-Lees and Christie (2001) によれば、ハチクマの名は付くが前述のオナガハチクマ類 (Henicopernis は主に足を使ってハチの幼虫を取り出すそうで、Pernis属との採食方法に違いがあるかも知れない。
      Fetisov (2015) The three-toed woodpecker Picoides tridactylus in food of the European honey buzzard Pernis apivorus in Sebezh Poozerie (pp. 1889-1893) にミユビゲラの巣内ひなを捕食したヨーロッパハチクマの論文がある (写真あり)。ミユビゲラの営巣そのものがここでは大変珍しい。キツツキの巣穴から巣内ひなを捕食したヨーロッパハチクマのハンティング技術の多彩さがわかるとのこと (この場合は足を使ったのだろうか?)。 ヨーロッパハチクマが鳥をどの程度食べるかは地域差が大きく、レニングラード州ではほとんど鳥を食べていないがベラルーシのある地域では食物の 11.5% が鳥であった (Ivanovskij 2012) とのこと。
      ハチの幼虫を主食というわけではないが、ハチクマに近い系統でハチの巣食の観察例がある: Optland (2015) More on the Square-tailed Kite as Australia's honey-buzzard (ハチクマ類が事実上分布しない) オーストラリアのシラガトビ Lophoictinia isura (ハチクマよりやや小型)。 ツバメトビ Elanoides forficatus 英名 Swallow-tailed Kite の ハチの巣食の写真 (ハチクマと同程度の大きさ)。
      カラス類もたまにはハチの巣を食べることもあるらしい。American Crow feeding on a wasp nest アメリカガラス Corvus brachyrhynchos の事例。 カンムリアリモズ Frederickena viridis のハチの巣食も報告されている: McCann et al. (2014) Black-throated Antshrike preys on nests of social paper wasps in central French Guiana
      猛禽類以外でキツツキ目のミツオシエ類 (Indicator属)がハチの巣の蜜蝋を食べることが知られているが、ハチの幼虫や蜂蜜はほとんど食べない。溶けた蝋の匂いに集まってくることが知られていて (バークヘッド「鳥たちの驚異的な感覚世界」; Steiger の1966年の実験) 鳥類における嗅覚利用の一例となっている。 Friedmann (1955) The Honey-Guidesに詳しい生態解説などがあり、p.82とp.83の間のプレートにはまるでハチクマのようにハチの巣に乗ったり食べたりしている写真がある。 「コンサイス鳥名前事典」には皮膚が特に厚くハチ防御に役立っていることや臭気があることが記されている。これはFriedmann (1955) "The Honey-Guides" pp. 87-88, p.170にも記載があるが、著者は臭気を確認できなかったとある。Chapin (1939) The birds of the Belgian Congo. Part 2がかび臭い臭気について報告したもの。 ミツオシエ類にはハチ毒耐性はなく、皮膚による防御も完全でない。特に嘴の付け根 (lore) が狙われるそうで、ハチクマがこの部分を念入りに羽毛で覆っている理由にもなるだろう。鼻孔がスリット状になっている点もハチクマと共通した防御機構であろう。 なおミツオシエ類は托卵性で、習性など非常に変わった点が多い。ハチクマの臭気は記載している書物や飼育者の報告もあるがまだよくわかっていない。台湾のハチクマの巣のビデオ中継では雨の降った後の朝に、巣を守っていたメスがハチにまとわりつかれて睡眠不足になっている様子が記録されている。ハチクマの巣そのものにはハチ忌避の機能 (臭気) はないようである。
      Mridula (2020) Experience with an Oriental Honey Buzzard 家がハチクマのなわばりにあって、居ながらにしてハチの巣を襲う様子が記録できたとのことだが、怒ったハチがあらゆるものに猛攻撃をかけて飼っていた牛がたくさん刺されて死にかけたとのこと。 翌日はしっかり対策しておいたとのことで、近所の人には外に出ないようにと伝えた。
      [嗅覚 (タカ・ハヤブサ類)・視覚・脳のサイズ] ハチクマは採食に嗅覚も利用している可能性の実験的報告があり、嗅覚に関連する遺伝子数もイヌワシなどに比べて多い [Yang et al. (2015) Stop and Smell the Pollen: The Role of Olfaction and Vision of the Oriental Honey Buzzard in Identifying Food]。 この論文の実験では同じ色のものでは花粉を付けたものが有意に高く選ばれた。黄色の食物を好む結果も出ており、嗅覚と視覚を用いた採食を行っているのではとの結果である。栄養成分あるいは砂糖を入れたかどうかは差がなかったそうである。 なお花粉はハチの子への重要なタンパク質、脂質、ミネラルの供給源であり、ハチの巣の中でも蜜と別個に保管されるとのこと。栄養成分の豊富なにおいを弁別できるように進化してきた、あるいは学習した可能性があるとのこと。 まだあまり調べられている段階ではないが、タカ・ハヤブサ類の嗅覚の文献レビューが Potier (2019) Olfaction in raptors にある。嗅覚遺伝子数はハヤブサとワキスジハヤブサで63とのことだが機能しているのは28個のみとのこと。ハチクマの嗅覚遺伝子数283で調べられた範囲の嗅覚遺伝子のうち81.5%が機能しているのはやはり高い。嗅覚の優れた動物はにおいを持つ傾向があることが指摘され、ハチクマに独特の体臭があっても不思議でないかも知れないが、実際に嗅いだ人の見解は分かれている。 嗅覚を用いて食物を探すことが確実に示されている新世界ハゲワシ類は脳の嗅球が大きいことがわかっているが遺伝子数は調べられていないようである。 Roeder et al. (2014) Chicks of the Great Spotted Cuckoo May Turn Brood Parasitism into Mutualism by Producing a Foul-Smelling Secretion that Repels Predators によればマダラカンムリカッコウ Clamator glandarius 英名 Great Spotted Cuckoo はハシボソガラスに托卵するが、ひなが悪臭を放ち捕食者であるハヤブサ類などのカラスの天敵を追い払う効果があるとのこと。この結果托卵が相利共生となる珍しい例となっている。 実験によればこのにおいを付けた肉をハヤブサ類は食べないとのことだが、におい付けで食物の見かけが変わってしまう要因の考慮も必要とされるとのこと (実験的証拠が思ったほど得られていない点について #ヤツガシラの備考も参照)。 Slater and Hauber (2017) Olfactory enrichment and scent cue associative learning in captive birds of prey によればハゲワシ類やワシ類で食物と関係のないにおい物質 (ペパーミント) と食べ物を関係づけて学習できることが示され、タカ類も嗅覚識別ができるらしいことを示している。 最も植物食の特殊な種類ではあるが、ヤシハゲワシが霊長類同様に果実のにおいを食物探しに使っている可能性が指摘されている [Dominy (2004) Fruits, Fingers, and Fermentation: The Sensory Cues Available to Foraging Primates]。 トビで尾脂腺分泌物の組成が季節変化し、スズメ目で同様に知られるような個体や血縁認識に役立っている可能性がある [Potier et al. (2018) Preen oil chemical composition encodes individuality, seasonal variation and kinship in black kites Milvus migrans]。
      ヨーロッパハチクマの網膜細胞の研究から視力は他のタカ類同様に良いと考えられるが、正面視に適した側方窩 (lateral fovea または temporal fovea 側頭窩) は認めらない [Mitkus et al. (2017) Specialized photoreceptor composition in the raptor fovea] (#イヌワシの備考も参照)。 これはハチクマが敏捷に移動する獲物 (小鳥など) を正面視で獲る必要は少ないが、ハチの動きや渡りの際などに遠方のタカ (広く分散して飛ぶことで他の個体の動きから上昇気流の場所を探る説がある。例えばケリンガー「鳥の渡りを調べてみたら」p.202) を側方視で見つけるのに役立っていると思われる。この知見を前提に渡りの際に視線にも注意して観察すると興味深いと思われる。
      前述のようにカッコウハヤブサ類 (Aviceda属) は現生種の中ではハチクマ類と比較的近い類縁関係にあり、ハトを思わせる顔つきなどがよく似ている。 カンムリカッコウハヤブサはオーストラリアのタカ類中相対的な眼球の大きさが最も大きいそうで、(それが理由かはともかく) 眼球が横向きに付いているとのこと。「待ち」の狩猟方法で樹冠の複雑な背景の中で獲物の動きに気づくのに有利との解釈もあるが網膜の構造などはまだ調べられていない [Keirnan et al. (2022) #カタグロトビの備考参照]。 ハチクマは頭をハチの巣に突っ込むために頭骨の形が尖っていて眼球の向きが制約されるのかも知れない。 Rare Footage: Crested Honey Buzzard Brave Honey Raid | Intense Bee Battle! の映像を見ると飛翔時ペン先とも比喩される尖った細長い頭部を持つ意義がよくわかる。羽が非常に傷んだハチクマをしばしば見るが、この姿勢で頑張っていれば羽が傷むのもわかる。頭にハチがまとわりつくのか、猛烈な勢いで頭かきも行っている。 Pernis apivorus (Honey Buzzard) (Skullsite) にヨーロッパハチクマの頭骨があるが、他のタカと比べると細長い形状が目立っている。 ハチクマの頭骨の特徴や目の位置などについての議論は Sievwright and Higuchi (2011) Morphometric Analysis of the Unusual Feeding Morphology of Oriental Honey Buzzards にあるが視野の実測値や眼球の大きさへの言及はない。 カッコウハヤブサ類は学名が示す通り鳥も捕食するため、眼球が比較的側面に付いていることは動く動物の捕食行動に必ずしも不利になっていないかも知れない。
      その後鳥類の眼球と脳サイズの一覧を見つけた (#イヌワシの備考の [鳥類の眼球と脳サイズのデータ] 参照)。 これによるとカッコウハヤブサ類は体重 194-323g と小さいのに眼軸長 21-23mm と際立って大きい。 (当時はハチクマと同種だったが、おそらく現在の分類では) ヨーロッパハチクマでは 754g, 21.5mm と中型のタカの標準的な値で眼球が大きいわけではない。目の配置は頭骨の形による制約なのだろう。 ハチクマは他のタカ類に比べて頭が小さい特徴がよく挙げられるが、脳も小さいのか妙に気になってくる (笑)。この表を見ると (分離された後の種名ではおそらく) ヨーロッパノスリの体重 759g、眼球 20.8mm、脳ともに同じような数字で、全然体型が違うのに頭骨が細長いだけで心配 (?) 無用だったようである。 オオタカはこの2種より少し大きめだがほぼ似た値になっている。ハヤブサもだいたい同じような数字。 このぐらいの中型のタカでは脳は体重の 1% 程度となる。体重や脳の構造も全然違うので無茶な比較であるが、ヒトの脳は 1.2-1.4 kg とされ体重の 2% ぐらい。体重比ではタカの脳はヒトの2倍しか違わない。100 kg 近い体重の方はそれで割ってみていただきたい (さらに鳥類の脳は哺乳類に比べて細胞が小さいなどの理由で哺乳類に比べて小型の脳で同等の機能を持つと言われる。もっともヒトの場合脳重量で知能が決まるとは通常は考えられていないので、重量はあくまで荒い指標に過ぎない)。
      眼の発達した鳥類では眼と脳がほぼ同等の量の血液供給を受けているらしいので、ヒトで言われるように大食いの脳 (+ 鳥類ではさらに眼) を養うのはなかなか大変であることがわかる。頸動脈の比較については #フクロウの備考の [フクロウ類の首の動き] にある。 トビとアカトビの体重が結構違うが、トビの体重はここまで挙げた中型のタカと同じぐらいで眼球もほぼ同じ、体の割に脳がちょっと小さめ。 日本のハチクマはヨーロッパハチクマより一回り大きいはずなのでこれら中型のタカを少し超える程度だろう。 面白いので皆さんも見ていただければと思う (ここで学名で読める重要さがわかる)。
      このデータを使って気になるタカ類の脳サイズを作図してみた。後述の Sayol et al. (2016) のデータも知ったので追加改定してある。

      縦軸・横軸ともに対数スケールである。タカ目全体では脳の容積は体重の 0.54乗 に比例する結果となった。詳細は一部属のみ示すがタカ目全体は白抜きの丸、それ以外は黒い点で示してある。 タカ目は鳥類中では体重比では中ほどか少し高めに位置する。 系統が近い分類が似た色となるようにしているが思ったほどの違いはなかった。 海ワシとトビのグループは陸のグループより若干低いように見える。 猛禽類としては "原始的" と言われるグループも脳の大きさにはあまり違いがない。あれほど体型が違うのに旧世界ハゲワシもフィリピンワシ、イヌワシはほぼ同じ。ヨーロッパハチクマも中ほどに位置していてハチクマ亜科の他の種類 (図では分けて示していないが白抜きの丸になる) も脳の大きさは他のタカ類とほぼ違いがない。 ヘビクイワシも測定されているが (青の四角)、あれだけ体型が違うのに他とあまり違いがない。 唯一カタグロトビ類だけは体重が小さいにもかかわらず脳が相対的に小さめ (別科にする見解もあるので他のタカ科と違っていても不思議ではないが)。系統の分かれるミサゴも他のタカ同等だった。 黄色の四角は新世界ハゲワシ (コンドル) で、こちらの方が脳が相対的に小さそうな印象を受けるが実はそうではなかった。小型種はタカ科と同じぐらい、大型種はむしろ上になるぐらいで、10kg 近い大型の鳥の中で最も大きな脳を持つ結果となった。つまり頭脳の面では巨大なニワトリのような鳥ではなかった。 ハチクマも大きなハトのような鳥 (笑) ではなかった。
      ちなみにこのリスト [Liu et al. (2023) + Sayol et al. (2016)] に載っている鳥を脳の容積 (ml) 順にいくつか並べると (かっこ内は体重 g)、* を付けた種類は Sayol et al. (2016) から。 ダチョウ 40.23 (111000)、 ヒクイドリ 36.35 (44000)、 オオハゲコウ* 33.52 (7458)、 コンドル 31.56 (11236)、 エミュー 28.88 (34093)、 カリフォルニアコンドル 27.25 (8443)、 ミナミジサイチョウ 26.15 (3744)、 スミレコンゴウインコ 24.73 (1331) のようになる。体重比ではもちろんオウム類が大きいが、飛べない鳥を除けばオオハゲコウに続き大型コンドル類が最も大きな脳を持っている。これらの調査では調べられていないがトキイロコンドルが上位に入るのではないだろうか。
      この図をさらによく見るとコンドル類を除いたタカ目では体重 1kg ぐらいまでは傾きが急であるが、それ以上の体重では傾きが緩やかになり、少し段差 (頭打ち?) があるように見える。 この現象はより頭脳の大きなオウム類でははっきりせず (#ハヤブサの備考 [タカ目、ハヤブサ目、オウム目の脳の比較] 参照)、 タカ目、ハヤブサ目に見られる特徴のようである (ハヤブサ目にはそれほど大型種はいないが)。 タカ目については多少思い当たる点があり、大型種を生み出した系統が2系統 (イヌワシ・クマタカ類 Aquila + Hieraaetus + Spizaetus および海ワシ類 Haliaeetus) に偏っているため全体として見ると系統間の違いが効くのかも知れない。 体重による制約 (例えば飛翔筋に投資する必要があるなど) もあるかも知れないがコンドル類にあまり制約が見えないのでどうであろうか。
      この調査ではもしかしたらハチクマの脳は小さいのではとの素朴な疑問からタカ類の中での脳サイズの違いがあるかマニアック (?) な点にこだわったものだが、 鳥類全体での脳のサイズの研究は過去にもよく行われていて、Marugan-Lobon et al. (2021) Beyond the beak: Brain size and allometry in avian craniofacial evolution など。この著者は脳化 (encephalization) の進んだグループにフクロウ類、タカ類、オウム類、カラス類を挙げて脳化の進んでいないハト類やシギ類と比較している。導入部分にスズメ目や猛禽類には霊長類に匹敵する性質を示すものがあると書いている。 Ksepka et al. (2020) Tempo and Pattern of Avian Brain Size Evolution にも鳥類の脳のサイズの系統進化の研究がある。古いタイプの水鳥からカッコウなどの含まれるグループに一段めの進化があり、近代的な陸鳥の段階でさらに一段の脳の進化があった結果になっている。 この論文でも猛禽類 (全グループ含めて) の脳の容積は体重の 0.5乗強程度の値を得ていて (ここで示したものと関連する図も出ているので比べていただきたい)、肉食の哺乳類にも同じような関係があるとのこと。好みの獲物が関係に関連している可能性を示唆している。
      コンドル、旧世界ハゲワシ類が想像以上に大きな脳を持っていることは、van Overveld et al. (2022) Vultures as an overlooked model in cognitive ecology でも注目されていて、これらのグループの採食様式には知能が必要で、集団知能などが要求されるなどの可能性も検討されている。新世界・旧世界ともにハゲワシ類の知的な行動 (道具使用やさまざまな逸話なども記述されている) や認知機能をもっとよく知る必要があることが述べられている (これらは #クロハゲワシの備考に紹介)。 鳥類各グループごとの脳のサイズの図も出ているのでご覧いただきたい。
      鳥類の目レベルの違いでは、Sayol et al. (2016) Environmental variation and the evolution of large brains in birds の fig. 4 が最もわかりやすいかも知れない (論文の趣旨とは無関係に見ているが)。系統順序は我々の見慣れているものと違うが目名とシルエットが描かれているので見やすいと思う。 ちなみにこの円形系統樹は3時の方向から半時計回りに系統が進み、1周して3時の方向で終わる。 黒い線で表されている長さが相対的な脳の発達程度を表す。 やはり近代的な陸鳥が生まれたところで格段の飛躍がある。 タカ目 (一般の配列順でなく後の順序になっている) とハヤブサ目は分けてあるが、ハヤブサ目がチドリ目、ネズミドリ目の後に並ぶ配置になっていて若干わかりにくい。その次に並ぶオウム目は高い種類があるが平均的にはハヤブサ目の間に著明な段差が生まれていないのは興味深い。 スズメ目になってもカラス類以外はそれほど脳が大きくないものが大半らしいことがわかる (カラス類以外にも少しピークがあるがシルエットが描かれていないので何かはすぐにわからない)。スズメ目は音声学習を行うように脳の能力が高そうに思えるが、全体としてはそれほど脳を発達させたグループでないことがわかる。 タカ目とフクロウ目の比較ではフクロウ目の方が少し高いが科内のばらつきも見るとタカ目も十分高い。フクロウ類と共通祖先があるキツツキ目、ブッポウソウ目などでむしろ小さいのが面白い。 Marugan-Lobon et al. (2021) の述べるように、猛禽3系統 + オウム目 + カラス類 が脳を特に進化させたグループと捉えておおよそ間違っていないように思える。つまりカラス類とスズメ目の他の種を比較してカラス類のみが鳥類の中で特別とするのはカラス類の過大評価につながる恐れがある。 猛禽類の中でカラス類やオウム目に相当する行動を見出しても神経科学的には驚くに値しないであろう。知的な行動記録があればぜひ残して発表していただきたい。 爪を隠すことはできないが「能ある鷹」は本当だった (*1)。
      この論文で用いられている系統樹の系統順では ネズミドリ目、{ハヤブサ目 + オウム目 + スズメ目} 系統、{フクロウ目 + キツツキ目 + ブッポウソウ目など} 系統 [この系統が2つに分かれるために Prum (2015) とは違ってフクロウ目の方が後になる]、タカ目 となっていて、何とタカ目が一番最後に出てくる (#ミサゴの備考 [近代的な陸鳥の進化] も参照)。 昔の図鑑でハヤブサ類も含んだワシタカ目がカモ類の次で、比較的原始的なタイプの鳥と考えられていたのは大違いである (ちなみにロシアの図鑑では今でもその順序になっている)。 系統樹は Bird Tree project [Jetz et al. (2012) The global diversity of birds in space and time; 2014年に改定 cf. Jetz et al. (2014) Global Distribution and Conservation of Evolutionary Distinctness in Birds] を用いてこの論文で調べた種をもとに作成されたもの。ベースとなる系統樹は Ericson または Hackett (#ミサゴの備考 [オウム類とハヤブサ類の近縁性はどのように解明されたか] にあるそれぞれの文献) に準拠した約10000種を含むものとなっている (*2)。 著者 (監督?) にはバードウォッチングも鳥の脳も大好きな神経生理学者 Iwaniuk が入っているので神経生理学者の目からみても不自然なところのない系統ということだろう。 系統樹の解釈の方法次第だろうが、タカファンにとっては大喜びの系統順となっている - というのは一般的には図鑑などの並び順はより進化した (より後に分岐した) ものが後に出てくるため。スズメ目グループが最後にならないと印象がまったく異なる。昔はカラス類が最後になっていたのも、スズメ目内の系統もよくわからなかったので最も進化したものと見られていたのだろう。 タカ目を最後にする図鑑をもし作ったとすれば、何と日本のノスリが光栄にも世界の鳥のリストの最後を飾ることすら考えられる (#ノスリの備考参照)。 必ずしも IOCなどの標準分類順準拠でなくタカファン向けにこんな図鑑があってもよいかも知れない。オーダーメイド図鑑もオンデマンド出版ならばできるかも知れない [文一あたりがマニア心をくすぐる図鑑として作ってくれないだろうか (笑)]。 ハヤブサ目を最後にしたくてもその場合はスズメ目が最後になるので夢は叶わない。フクロウ目はこの図を見ると最後に置くこともできるようである。猛禽類の中ではタカ (あるいはフクロウも?) ファンのみが見られる夢の図鑑である。 系統順序の解釈のわずかな違いによるものだが、スズメ目グループが最後になる分類や系統樹を見慣れ過ぎて先入観にもつながっているかも知れないので、そうでないものも見ておくとよいだろう。この順序は現在でも研究者の間で意見が一致しているわけではないので違ったものがあっても別に悪くない。
      この研究でも用いられたデータをダウンロードできて個々の種の値を見ることができる。Liu et al. (2023) Evolution of Avian Eye Size Is Associated with Habitat Openness, Food Type and Brain Size (#イヌワシの備考 [鳥類の眼球と脳サイズのデータ] の項目参照) と種の構成は違っているが日本周辺のデータがない点は共通している。ミサゴは Sayol et al. (2016) には入っている。 スズメ目でも Turdus属のツグミ類に比べて Muscicapa属のヒタキ類や Phylloscopus属のムシクイ類は脳が小さいことがわかる (いずれも日本周辺の種ではないので注意は必要だが)。
      Kaplan (2020) Play behaviour, not tool using, relates to brain mass in a sample of birds はオーストラリアの種のみだが行動と脳の大きさの関連を調べたもの。社会的な「遊び」を行うこととの脳の大きさに相関があるが、道具使用とはそれほど関係なかったとのこと。 一般向け解説 Birds that play with others have the biggest brains - and the same may go for humans (Kaplan, The Conversation 2021)。この記事によるとトビの道具使用は火のついた枝を運ぶ行為が挙げられている (#トビの備考 [火を使う猛禽類、森林火災、気候変動] 参照)。 気になるところでタカ類の情報を見てみると、遊びを行う種類にトビ、行わない種類にハイイロオオタカ、オナガイヌワシ、道具を使う種類にトビ、オナガイヌワシ、カンムリミサゴ、使わない種類にハイイロオオタカを挙げている。行動が目撃や記録されたかどうか次第のような気もするが、オオタカ類は確かにあまりこのような行動は行わないかも知れない。
      長い寄り道をしたがハチクマの目の話に戻ると、ハチクマをごく近く (動物園個体) で観察すると瞳孔が目の中央でなく前方に寄っていることがわかる。これは眼球が他のタカ類よりも側面に付いているが (斜め) 前方視野を重視していることを意味すると思われ、眼球の位置の違いを瞳孔の方向の違い (眼軸の方向) で補っている部分があるのだろう。 ハチクマの眼球を野外でこれほど詳しく観察することは難しいと思われるが、サギ類でも同様の瞳孔の配置を観察することができるので注意して見ていただきたい。サギ類でも採食手法への適応から頭部が尖った形状になっていると考えられるので、正確な捕食に欠かせない前方視のために瞳孔の方向の違い (眼軸の方向) で補っているのだろう。 瞳孔のよく見える他のタカ類でも同様の非対称性が見られることがある。 ハチクマが歩く時もハトに似た印象を受けるがハトのように首は振らず、視線の向きが違うのだろう。 フクロウ類では正面視の視力がそれほど良くなく、タカ類に比べて近くへの調節能力が弱いが、これは獲物を丸のみする性質に関係していると言われる (#イヌワシの備考参照)。 タカ類は獲物を解体するために近くに焦点を合わせる能力が高いと言われるが、ハチクマもハチの幼虫を取り出すなど細かい作業を行うためおそらく近くに焦点を合わせる能力が同様に高いのではないかと考えている。鳥類の正面視や立体視や捕食性鳥類でどのように役立っているかについてはまだわかっていないことも多く、研究が望まれる分野であろう。
      備考:
      *1: 余談ついでに「能ある鷹...」は英語では何と言うのか調べてみた: 「能ある鷹は爪を隠す」を英語で言うと?。英語では鷹が出てこないが類似のものがある。日本語で鷹が出てくるのはそれだけ身近な存在だったのだろう。
      *2: この系統樹作成には BEAST 2TreeAnnotator が用いられている。 系統解析にはさまざまな方法が用いられてきたが、松井 (2021) 分子系統解析の最前線 の日本語レビューがあり BEAST の位置づけや系統樹作成の本質的な困難さもわかる。このソフトもオープンソース。マルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC) を用いた系統樹のベイズ推定を行う。 可能な系統樹は多数存在するが (系統樹空間) MCMC を用いてその空間を探索して複数の系統樹形態とその事後確率を求める。過去の日本語資料でよく紹介されていた単一解を求める近隣結合法、最大節約法に比べるとかなり現代的な方法である。
      Bird Tree を用いて鳥類の形質の比較研究を行う方法について Rubolin et al. (2016) Using the BirdTree.org website to obtain robust phylogenies for avian comparative studies: A primer に解説がある。 BirdTree では Ericson et al. (2006) および Hackett et al. (2008) の2種類の系統樹をベースにしているがこの2つは β-フィブリノゲンの遺伝情報を含むかどうかの違いだけであり、この遺伝子が系統解析が適切かどうかは議論があったとのこと。ちなみに Ericson et al. (2006) は近代的な陸鳥の大きな系統の間には系統順を付けていない。 タカ目とハヤブサ目が別系統になっている点は両者に共通している。 BirdTree では他の系統情報や制約も含めて BEAST で MCMC を用いた 10000種の系統樹を予め作成してあり、その中からランダムにダウンロードできるサービスになっている。 Sayol et al. (2016), Liu et al. (2023) では調べた種に対してこの方法で得た系統樹セットから事後確率の高いものを BEAST (2) に探させたものだろう。タカ目が最後になるのは BirdTree の出力する系統樹の傾向や BEAST による選択や作図の際の配列順の特徴が現れているかも知れない。 また限られた種だけで系統樹を作ることによるバイアスなども考えられるが、ここではタカ目が最後になっても構わない方が夢があるので (?) これを前提としておく。
      [ハチクマ類の道具使用] ハチクマ類の系統にクロムネトビがあり、石を使って卵を割る道具使用が知られている数少ない猛禽類である。 これはオーストラリアの種類で、石を使って卵を割るショーが動物園などでよく紹介されている。例えば Black-breasted Buzzard opening an "Emu Egg" (タカ類には芸を教えられない話とやや合わない。#ベニマシコの備考参照)。 ヨーロッパハチクマで道具使用と思われる行動が報告されているが [Camacho and Potti (2018) Non-foraging tool use in European Honey-buzzards: An experimental test] 行動の解釈は定かでない。 ハチクマはタカ類の中では足を器用に使う種類である [Gutierrez-Ibanez et al. (2023) Online repositories of photographs and videos provide insights into the evolution of skilled hindlimb movements in birds]。 ハチクマに系統的に近いカッコウハヤブサ類も足を器用に使うことが知られており、タカ類中で食物を足で嘴に運ぶことのできる数少ないグループである。 永井 (2023) Birder 37(4): 61 にハチクマが足で持った食物にかじりついている写真が掲載されているが、タカ類でこのような行動のできる種類はごく少ない。 ビデオ映像や動物園等でのハチクマの観察でも、つい足が (まるで手のように) 出てしまうことがしばしば見られる。嘴だけでうまく食べられない場合に手助けをしたり、動物園では隣のケージを覗く際に足でケージをつかんで体を乗り出したり、帰ろうとすると近くのとまり木から片足でケージをつかんだりすることがあった。これらの行動はオウム類を思わせるものがある。 ハチクマ類の系統に道具使用を行う種類がある点からも行動にもっと注意を払って記録すべきであろう。
      [擬態] ハチクマがクマタカに似ているのは偶然ではなく、強いタカに擬態 (mimicry) することで他種からの攻撃を防いでいるとの考え方がある。 van Balen et al. (1999) は擬態相手として想定される種類をリストしている ( Juvenile plumage of Javan Crested Honey Buzzard, with comments on mimicry in south-eastern Asian Pernis and Spizaetus species)。 これによれば次の組み合わせが提唱されている(以下 P. p.Pernis ptilorhynchusの略):
      P. p. orientalis (日本にも来る亜種) とクマタカの亜種 orientalis
      P. p. ptilorhynchus (ジャワ島の留鳥亜種) とジャワクマタカ Nisaetus bartelsi
      P. p. torquatus (マレー半島の留鳥亜種) とカオグロクマタカ Nisaetus alboniger
      Pernis steerei (フィリピン留鳥のヨコジマハチクマ) とフィリピンクマタカ Nisaetus philippensis
      Pernis celebensis (スラウェシ島留鳥ヨコジマハチクマ) とセレベスクマタカ Nisaetus lanceolatus
      これらとは別にカワリクマタカ Nisaetus cirrhatus (及び Nisaetus limnaeetus も独立種とされることがある) も高地を除くインド亜大陸に広く分布しており、ハチクマの若鳥の模様に似ていると言われる。 カワリクマタカの分布域と大きめのタカであるハチクマ及びカンムリワシの分布域は重複しているが互いに寛容であり、カワリクマタカの通常の攻撃的な性格を考えると驚くべきことであるが、主な食物はそれぞれ異なっているとの記載がある (カワリクマタカの wikipedia英語版)。日本でもクマタカとハチクマの種間関係を観察する時にこの知見は役立つであろう。 なおハチクマの容貌は (巣を狙う) 哺乳類にも有効である (台湾のビデオ「九九蜂鷹」。また動物園でも幼少児がオジロワシよりハチクマに怯える様子を複数回観察したことがある。ハチクマの習性を知らない人が見ると襲われると怖い鳥に見える可能性は十分ありそうである)。 巣の外でもハチクマがタイワンザル Macaca cyclopis の集団を襲い、群れが散り散りになって逃げる様子が 映像記録・報道 されている。飼育下の (ハチクマより一回り小さい) ヨーロッパハチクマが犬にめっぽう強いことも報告されている ([飼育下の行動] 参照)。 ヨーロッパハチクマにおいては若鳥がヨーロッパノスリに似ていて、これも擬態の可能性があるとの提案もある。
      [ハチクマの繁殖行動] 繁殖行動は成書にも詳しいので主に有益な文献を紹介しておく。 計測値のところでも引用した久野 (2006) Birder 20(10): 20-27 はハチクマの比較的新しい基本文献と言ってよいだろう。いろいろな側面からの情報が述べられている。Birder のこの号はハチクマの特集で、衛星追跡によってハチクマの渡りが明らかになって一般的にも話題になっていた時期であった。 少し古いバックナンバーで入手が難しいこと、日本語のため海外に紹介しにくいのは難点である。ハチクマの英語論文は限られた視点のものしかなく、海外の研究者にとってはハチクマは生態がほとんど知られていない種と考えられているようである (ヨーロッパハチクマの論文は多数あるのでこれはある意味正しいが)。この特集号に相当する英語論文があってもよい気がする。
      佐伯・堀田 (2014) Birder 26(9): 16-17 に「日本で過ごすハチクマの暮らし4か月」の記事があり、ここでは抱卵は雌雄がほぼ24時間交代で行い、抱卵していない方の個体はほぼ1日フリーで遊びに行ける印象を受けるが、久野の記事ではペアによって様々なパターンがあるとのこと。 近場に養蜂場があるかどうかにもよるかも知れない。 ひなは兄弟をいじめることもしないとある ([兄弟殺し] の項目も参照。ロシアの観察結果が特殊なのか?)。 また2006-2012年の7シーズンに同じオスがメスを変えることが3回あった (つまり4羽の違うメスとつがいになった) との報告がある。この事例は「日本のタカ学: 生態と保全」(東京大学出版会 2013) でも紹介されているが、ヨーロッパハチクマの追跡結果ではあまりつがい相手を変えない印象を受ける。 ハチクマで一般的性質なのかはよくわからない。
      「アニマ」1988年2月号 (pp. 84-99。オオタカの記事内) 宮崎学氏によるとオオタカはなかなか姿を姿を現してくれないがハチクマはよく姿を現す。オオタカとハチクマは割合近い位置で営巣していることが多い。宮崎氏はオオタカを見つける際にまずハチクマを探す。「ハチクマのいる所にオオタカあり」と記述している。 皆さんの印象と比べていかがだろうか? ハチクマは繁殖地で見ることが通常なかなか難しいとされるが、宮崎氏のフィールドとされた地域はハチクマが多いのかも知れない。また宮崎氏はタカの観察に声を重視しており、通常の観察者があまり訪れない夜明け時間帯などの音声情報などの手がかりも使われているかも知れない (後に紹介するマレーシアのハチクマの事例ではつがいの音声コミュニケーションについても述べられており、想像以上に声を使っているかも知れない)。 オオタカはハチクマのひなも狙うのでハチクマがわざわざ選んで近い位置で営巣しているならば興味深いところである。 同記事にはオオタカの古巣 (複数持つ巣のうち使用していないもの) をハチクマや他のタカ類が利用した事例も紹介されていた。 宮崎 (1987)「鷲鷹ひとり旅」でもこの記事で紹介されているものと同一と思われる、同じ山の狭い範囲にオオタカ、ハチクマ、トビ、ノスリが営巣した例が紹介されている。 「ハチクマのいる所にオオタカあり」は一般的記述と思われるので、この事例だけを指したものではないだろう。 [擬態] の項目で示したように南から東南アジアではカワリクマタカ、ハチクマ、カンムリワシも同所的に生息しているが、互いに近い距離で営巣しているかまでの情報はわからない。 カワリクマタカで提案されているようにオオタカ、ハチクマ、トビ、ノスリは主な食物がそれぞれ違うので互いに比較的寛容なのかも知れない。 オオタカ、ノスリはヨーロッパでもアジアでも大きさはあまり違わないが、ヨーロッパハチクマに比べてハチクマが大型なのはアジアにはクマタカ類がいるためかも知れない。
      「アニマ」1989年1月号 (#トビの備考 [ノスリ亜科 Buteoninae の系統分類] 参照) にも宮崎氏の対談「童話に生きる鷹少年」があり、ここでも (なかなか出会えない) タカの世界に声から入ることが紹介されている (海外研究者の事例だが [60年ぶりに再発見されたマダガスカルヘビワシ (ハチクマ亜科)] の記述を見てもまったくその通りである)。 宮崎氏によれば種ごとに違った声でコミュニケーションをとり、声 (鷹語) の意味もわかるとのこと (表題の「童話に生きる」はこの部分を比喩したもの)。 別に紹介するマレーシアの繁殖ハチクマの映像や記述では声でコミュニケーションをとっていて観察者も声で行動を聞き分けていることは確かなので、タカにも豊富な音声レパートリーがあって使い分けているのかも知れない。 自分も #オオルリ で一部紹介するような音声レパートリーを把握して行動も理解しているが、この把握にもかなりの年月を要している。数も行動頻度も少ない猛禽類で把握するのは相当の期間と経験が必要だろう。スズメ目とは違う点もあるだろうが地鳴きがいろいろな意味を伝える機能はタカでも実はそれほど違わないかも知れない。
      「アニマ」のこの号は「日本の鷲鷹」特集なので関心のある人には大変興味深いであろう記事がたくさんある。 ジャーナリストの坂本正治氏による「追跡! ワシタカ密輸ルート」の記事がある。前半は恐らく皆様も時代から期待されるような密輸ルートの解明の記事となっているが (当時は剥製がまだ売られていたがそれほどの需要はなかったとのこと)、かなり意外な展開に結びついている。 著者も「結末は最もつらいものになってしまった」とサブタイトルに挙げているので読みたくない方は以下飛ばしていただいてよいだろう。 上述の宮崎氏 (この記事では M 氏としているが記述より実名は明らかであるが) が密猟者疑いとして日本野鳥の会の一部からマークされていたことがあったことが記されている。 当時は日本野鳥の会がオオタカ保護運動を進めており特殊鳥類に指定されるなど一定の成果を挙げていたが、インタビューで市田則孝氏 (後にバードライフ・アジア初代代表となり、現在バードライフ・インターナショナル東京) は「日本古来の鷹匠術を文化財として認めない考え方にたってオオタカ保護運動を進めたのか?」の質問に対して 「滅ぼしてしまおうとしたものではなく、なくなっても仕方ない、残すに値するものがないと聞いている」 と返答している。 (この質問はここでは唐突に見えるが、密猟者、鷹の飼育者などの複雑な関係が取材により明らかになってゆく途中の過程を紹介しきれないためである。この部分は実話や聞き取り調査などもあるが実名は伏せられている。上記 M 氏の扱いもそれに合わせたものと思われる)。 保護関係者から得られた情報は事実上2種類しかなかったとのことで、今で言われる偽情報に相当するものがグループ内で拡散していったものらしい。 この記述やその後に述べられる解釈には坂本氏独自のものが含まれていると思われるが、 結果的に限られた情報に伴う視野の狭い運動が日本の自然保護を歪めてしまった部分はあるように感じる。 これは市田氏個人や日本野鳥の会への批判のつもりではないが、その後の歴史が当時提起されたさまざまなことを物語ってくれているように感じ、歴史を読み解くつもりで書いている。 日本野鳥の会の古くからの会員の方はこれ以降の時代に起きたことをご存じであろうし、鷹匠術に対する当時の価値観を引き続き保ち続けられている方もあるだろうと思う (鷹狩りはさまざまな側面の事項があり一筋縄ではないわけだが)。 しかし日本野鳥の会の若手会員減少や、なぜ海外諸国のように関連団体がまとまっていないのかなど「これ以降の時代」に起きた出来事、そしてこの時代に示されていた遠因と無関係とは考えにくく、結果的に坂本氏の指摘は正鵠を射ていたのではないかと感じる。今となっては関連団体間の障壁はそれほどではないかも知れないが。 興味ある記事の詰まっている号なので何らかの手段で読むことができれば一読をお勧めしたい。 #コマドリの備考、[コマドリと少年、手塚治虫さんとかつての日本野鳥の会のこと] キューソクさんのコラムなども関係。 同項目にある「アニマ」1984年5月号の特集「創立50周年を迎えた<日本野鳥の会>」にも対談があるが、当時の日本野鳥の会の会員数は13000人。5年も経過しない時期に「結末は最もつらいものになってしまった」と書かれるに至ったのは何が問題だったのだろうか。
      [死体をおとりに使うか?] Birder 2003年7月号 (該当記事を読めていないのでこれに対する回答のみからの考察になるが) のバーダー質問箱に小野氏が巣のカエルやトカゲの死体をおとりに使ってハチをおびき寄せているのではとの質問があったようである (人間の行うハチ追いには同様のものを用いる)。 久野 (2004) Birder 18(2): 82-83 がハチクマのひなはカエルなどを食べるのが苦手でハチの巣が運ばれてくると食べ残しになることがあるため、おとりよりも単なる食べ残しなのではと回答している。またハチクマにハチ忌避の臭気があるならばハチが寄り付かないだろうことの述べている。 ハチクマ7個体を捕獲時嗅いでもらっても誰も特別なにおいを感じなかったとも記載されているものの、ハチの行動変容からハチの巣を襲う時のみハチをおとなしくする臭気を出す可能性も検討されている。 小野氏によれば片方の翼を開いて真上を覆うようにして巣盤をついばむ様子が観察されており、口かあるいはどこかから臭気を出している可能性も挙げられている。
      久野氏のこの回答に対するコメントを述べておく。 動物園個体を観察した印象では、片方の翼を開く行動はバランスを取るため (片足で掴んで食べることもあるので片足だけでのバランスが難しい)、あるいはマントリングの一種ではないかと思う。 台湾のハチクマの巣のビデオ中継では前述のように巣ではハチ忌避の機能 (臭気) はないように見え、湿度の高い時はハチが訪れていたので食べ残しの死体が副次的にハチを誘引している可能性はありそうに見えた。飛び立つ時にそれを追いかける様子はなかったので意図的なおとりとしては役立っていないのではないかと思う。
      後で気づいたのだが、「スズメバチの科学」(小野正人 1997 海遊舎。この本は表紙がスズメバチの巣をひなに運ぶハチクマの写真で、Birder の書評によれば宮崎学氏ともつながりがあったそうである) の著者の講演で 「ハチクマはスズメバチの巣を襲い、幼虫やサナギを食料としています。まず自分の巣にカエルやヘビなどを運び込み、それらに近づいてきたスズメバチを追跡し、巣を発見します」とある (社会性ハチ類の知られざる生態-ミツバチ、マルハナバチ、スズメバチと私たちの生活との関わり 玉川大学 読売新聞社立川支局 共催 2018)。 あるいは宮崎学氏の観察結果なのかも知れない。ここに記されている社会性昆虫におけるハミルトンの血縁選択は生態学理論 (社会生物学) の花形でもあるので興味ある話題が詰まっている。
      [ハチクマの哺乳類食] Gluschenko et al. (2020) Breeding birds of Primorsky Krai: the crested honey buzzard Pernis ptilorhynchus (極東の鳥類42「沿海地方の繁殖する鳥類 2」 で訳文が読める) によればロシア沿海地方南東部では「ネズミの当たり年」にはネズミも捕食し、タイリクヤチネズミ Clethrionomys rufocanus は多い年 (原文複数形) に食物の22.9%を占めたという。しかし全体としてはおそらく哺乳類は (数が多い状況で) たまたま食べるものと解釈している (原文 sluchajnyj たまたまの。英語では facultative に対応しそうである)。 この点はトビの哺乳類食にも似ているようである (同じく Gluschenko et al. の #トビの備考参照)。
      [兄弟殺し] (ヨーロッパ)ハチクマでは兄弟殺しあるいは兄弟間闘争はほとんど見られないとされているが (しかし#イヌワシの備考も参照)、Siblicidal behaviour in Honey buzzard Pernis apivorus という映像は紹介されている (猛禽類研究家 Valentijn van Bergen による)。傷つけておらず、単なるつつき合い程度のものであるとのコメントがある。 なお Pukinskij (2003) の観察によると「食物不足だと大きな幼鳥が小さな幼鳥より常に多くの餌を得て、小さい方を攻撃する。大きな幼鳥の攻撃性は6〜7日齢から14日齢までにとくに強いが、15〜17齢ではまったくなくなる」との記述を残している (Gluschenko et al. 2020。原文・訳文は上記項目参照)。
      また Gluschenko et al. (2020) の同文献には「雛は1日目から大きさや体重が違い、これは多分性差 (雄が小さく、雌が大きい) によるものである」との記載がある。この考えは (ヨーロッパハチクマも含めて) ロシアの研究者の間で共有されているようで、巣内びなでも大きさで性が識別できると考えているらしい (クリミア初のヨーロッパハチクマの営巣ビデオで性別が述べられていたので聞いてみたところ、このような回答を得た)。 ヨーロッパの研究者のヨーロッパハチクマの研究では巣内びな段階で外見で性が識別できるとは考えられていないようである。
      非同時孵化にもかかわらず兄弟間闘争が少ない理由として、抱卵最初から全力で抱卵するのではなく、ヨーロッパハチクマでは抱卵開始時点で29℃で徐々に上がって8日後に39℃で安定するとあり (出典)、 産卵に間隔があっても孵化時には日齢差が縮まっているとのことである [Der Wespenbussard (1955/2004)]。 オオタカでも同様の現象が知られており、(広義の) Accipiter属で相対的に兄弟殺しが少ないのはこのような回避メカニズムも影響している可能性もあるのかもしれない。
      [韓国のハチクマの繁殖] First Breeding of the Oriental Honey Buzzard in Korea (ARRCN Newsletter December, 2010) にあるように2009年8月16日に巣にいるひなが目撃されたのが繁殖の初確認だったとのこと。意外にも最近の発見で渡りルート上、気候的にも日本と大きく違わないのに繁殖例が少ないのは不思議でもある。
      [マレーシアの留鳥ハチクマの繁殖生態] 以下は亜種 torquatus の繁殖記録。 Wee (2007) Oriental Honey-buzzard: 1. Nesting ゴルフクラブの敷地内に営巣して、1998-2005年の間に10回子育てをした。1年に2回繁殖したのは2年。オスが巣材をくわえて場所を示してメスを待つ。 同じ巣を使ったのは2回のみ。前年の若鳥が巣造りを手伝うのが目撃されているが親から必ず反撃された (これは日本のハチクマ若鳥が翌年なぜ戻ってこないかの解釈にも役立つ情報かも知れない)。 Wee (2007) Oriental Honey-buzzard: 2. Nestlings 抱卵は主にメスが行う。木の高いところで辛抱強く獲物が現れるのを待つことが多い。 Wee (2007) Oriental Honey-Buzzard: Successful breeding of 2 chicks on third attempt ほとんどの年にひなは1羽しか育たない (要因はさまざま)。ハチの子だけでなくハチの巣も食べるのが観察された。 巣立ちびなが枝に逆さまにぶら下がったり元に戻ったりを20分続けていたことがあった。 筋肉の力を付けるためのような書き方になっているが、カラスがこれをやれば遊びと解釈されてもおかしくないように思える。ハチクマの遊びは飼育下で観察されている ([飼育下の行動] 参照) ので、若鳥が遊びながら筋力を付けていたのであろうか。
      街路樹で繁殖している映像も出ているが、とても日本と同じ種類と思えないぐらいである。 Oriental Honey Buzzard nest site, Malaysia. 20210316 (1), (2), (3)
      最近 Yvonne Blake がマレーシアの留鳥の繁殖ハチクマの映像を YouTube に多数アップロードしているのでこちらも参考になる ([音声] の項目にも紹介)。 Crested Honey Buzzard mating (2023.10.6 撮影) に珍しい下のアングルから撮影された交尾の映像が出ている。 上から見ているとどうやっているのか疑問に思うのだが、下からみると交尾で何が起きているのか若干よくわかる。 こちらは同日の別方向からの交尾映像 Crested Honey Buzzard couple mating 他のタカ類同様1日複数回の交尾を行うのだろうか。オスの方が大きいように見えるが気のせいだろうか?
      [ヨーロッパハチクマの繁殖地行動・ディスプレイ] McInerny and Shaw (2018) The honey-buzzard in Scotland: a rare, secretive and elusive summer visitor and breeder の英国スコットランドの研究によれば、ヨーロッパハチクマはオオタカなどの他の森林性猛禽に比べて、テリトリーの重なりを許すらしい。 産卵が通常より4-5週間遅れたケースがあった。繁殖年齢には2-3歳で達するが1年めは帰ってこない。非繁殖個体も多く、比率が50%を超える個体群も報告されている。非繁殖個体は飛び回ってよく目立つ。ディスプレイの羽打ち上げ行動 (wing clapping、日本語ではスカイダンスなどさまざまな用語で呼ばれる) も長く連続で行うことがある。 繁殖個体はそれほど長く行わない。ヨーロッパノスリはヨーロッパハチクマを追い回すことがあり、ヨーロッパハチクマが羽打ち上げ行動を行うことも何度か観察された。 ミサゴもちょっかいを出すことがあってヨーロッパハチクマが羽打ち上げ行動で応答した、とありハチクマ・ヨーロッパハチクマ独特の羽打ち上げ行動はディスプレイ以外の目的で使うことがあるらしい。 日本のハチクマも同様の行動を示すか注意が必要であろう。なおイヌワシも同所を利用していたがヨーロッパハチクマと目立った種間関係はなかったとのこと。
      A taste of honey: an introduction to the Honey-buzzard にヨーロッパハチクマのオンラインセミナーがあり、英国では地域にもよるがなかなか出会えない鳥で関心を持つ人も多いらしい (どこでも出会える可能性があるが、どこへ行けば見られると特定できるタイプの鳥ではないのでこの1種を増やしたいとか確実に写真を撮りたいなどの人には悩ましい種類だそうである。日本のハチクマでも渡りの時期以外はそうかも知れない)。 このセミナーは生態の解説が中心。27:45に獲物として鳥を運んでいるヨーロッパハチクマの画像がある。
      Hungry beautiful Honey Buzzard - Mahlzeit schoener Wespenbussard に肉をちぎって食べるヨーロッパハチクマの映像がある。
      Ziesemer and Meyburg (2015) Home range, habitat use and diet of Honey-buzzards during the breeding season GPS を用いた繁殖地でのヨーロッパハチクマの行動研究 (Meyburg については#イヌワシの備考も参照)。 1時間に1点とれるようで、よく滞在する場所にハチの巣を掘った後なども見つけられている。 地図も出ていて行動の様子もわかる (農地に囲まれた結構小さな森林にも生息している)。 99%の時間は巣から4km以内を行動していた (日本のハチクマの事例では非常に遠くまで外出する印象を受けるが、種による違いなのか、日本の情報は特殊事例を強調しすぎているのか不明)。 天気のよい日は夜明け前からも動き出す。ひなが成長してくると、メスが餌探しに遠くまで出かける傾向がある。van Diermen et al. (2013) によれば124kmの遠征をした記録がある。
      オランダ van Manen et al. (2009) Ecologie van de Wespendief Pernis apivorus op de Veluwe in 2008-2010 も参考になるだろう。最後にそこそこの長さの英文要約がある。図を見るだけでもさまざまな情報がわかる。
      fig.16 巣にいる時間と飛んでいる時間の割合
      fig.18 巣に親鳥がいる確率。孵化してからは次第に下がってゆく。
      fig.20 採食域の変化。5月は狭くてオスメス同じような場所にいるが季節が進むと範囲が広がり、オスメスが違う場所を使うようになる。
      fig.21 季節が進むと遠くまで餌探しに出るようになる。この例ではメスの方が遠くまで行っている (6km)。
      fig.25 あるオスの採食域。年によって結構変わっているが home range は広がっていない。
      fig.27 4羽のオスの採食域。重なっている部分もある。単なる丸は非繁殖個体のよう。
      fig.29 オスメスが夜にいる場所。産卵のころは一緒に巣にいる。その後はメスがとどまるようになる。
      p.57 捕食されたメス。雛は30日齢だったがオスが最後まで育て上げた。雛の捕食で多いのはオオタカ (日本のハチクマと同じよう)。
      p.66 餌をめぐる争いの例
      ハンガリーのヨーロッパハチクマ追跡プロジェクト 2018年に始まり、リアルタイムで場所が公開されたとのこと。 Bela et al. (2021) Kifejlett darazsolyvek (Pernis apivorus) jelolesenek tapasztalatai (gyuruzes es jeladozas) ハンガリーの研究。home range も調べられているが、越冬地では繁殖地よりかなり狭い。個体にもよるが年によって渡りルートがまったく違う (次の渡りの項目も参照)。ハンガリーで最も調べられていない種類の猛禽とある。
      ヨーロッパハチクマによるヨーロッパヒメウの捕食例: Heubeck et al. (2009) Predation of a brood of European Shag Phalacrocorax aristotelis chicks by a Honey-buzzard Pernis aviporus 春の渡りの最中のできごとで、巣で45分にわたってひなを食べていたとのこと。 この文献ではヨーロッパハチクマはコウライキジやニワトリサイズまでの獲物 (主にひなか巣立った若鳥) を捕食することが知られている。多くの個体は通常の渡り経路の途中は食べ物をとらないが、一部は食べていると考えられている (Panuccio et al. 2006。次の項目参照)。 この事例では渡りのコースを外れてやむなくそこにあるものを捕食したと考えられるとのこと。
      ノルウェーのオスロで非常に時期の子育ての映像が紹介されている: Honey Buzzard nest Oslo 2023 9月に入ってもまだ巣で餌をもらっている。9/13にもまだ若鳥が巣にいたとのこと。 ヨーロッパハチクマの方がハチクマより早く子育てを終えるのが普通なので、これはかなり遅い時期の記録と考えられる。 日本のハチクマでも 井上他 (2011) 熊本市金峰山における非常に遅いハチクマの繁殖例 の例が報告されている。この事例では孵化直後の時期に大雨があり繁殖に失敗し、再び産卵して2度目の繁殖に入った可能性を考察している。
      [台湾で留鳥化したハチクマと渡りの謎] 台湾では渡り個体と留鳥個体の両方がみられる。 台湾でハチクマが留鳥化したいきさつ、冬場の行動の記事がある ハチクマの記事 (科学発展 2013年11月)。 遺伝子および安定同