野村芳宏
4.作品作りのためのカメラ設定
(4)なぜ露出補正が必要なのか
今回は、露出について書こうと思う。撮影現場に行くと「露出補正はいくらにしていますか。」など、露出に関わる質問を受けることがよくある。フィルムを使用していた時代は、写真で最も難しいのは露出であると言われていた。それだけに露出の問題は、難関であることは間違いない。
そこで、今回は露出の根本にかかわることを書いてみたい。それは、カメラがどのように露出(明るさ)を測っているかということと深く関わりがある。
「まずテスト撮影をしてみよう。」「分かりやすく説明するので、私と一緒にしてみよう。」
カメラは手持ちのデジタル一眼レフ、レンズは標準ズームレンズ、または60ミリ前後のマクロレンズを付ける。カメラの露出に関わる設定は、測光モードは中央部重点測光である。多分割測光(マルチパターン測光)またはスポット測光は使わない。露出モードは絞り優先オートで露出補正はしない。ISO感度は400、絞り値はF5.6にする。私は、ニコンD7000にシグマ17〜70ミリF2.8〜4.5のズームレンズを付ける。準備するものは白のA4の画用紙またはケント紙、黒のA4画用紙。撮影場所は、窓際の明るい場所である。直射日光は避ける。できれば曇天の時が良い。
「さあテスト撮影をしよう。」
白のA4用紙をファインダーいっぱいに入れ、シャッターを半押しにし露出を測定する。絞りはF5.6、シャッタースピードは1/350秒程度になる。ピントは合わなくて良いのでシャッターボタンを押し込み、撮影をする。そして、再生をする。
「どんな写真が撮れましたか。」「白く撮れましたか。」「いいえ、白く写っていません。」「ヒストグラムを表示して下さい。」「中央付近に尖った山がきています。」
白を撮ったはずなのに、白ではなく灰色になっている。
次に、A4の黒い画用紙を用意し、上と同じようにファインダーいっぱいに入れ、シャッターを切る。絞りはF5.6、シャッタースピードは1/20秒程度になる。
「どんな写真が撮れましたか。」「黒く撮れましたか。」「いいえ、黒く写っていません。」「ヒストグラムを表示して下さい。」「中央付近に尖った山がきています。」
黒を撮ったはずなのに、黒ではなく灰色になっている。
白を撮ったのに灰色になっている。黒を撮ったのに灰色になっている。それは、カメラに内蔵されている露出計が関係している。デジタル一眼レフに内蔵されている露出計は、反射光式露出計である。反射光式露出計は被写体に反射した光を測光している。その時、反射率18%のグレーを基準にしている。反射率18%のグレーと言うのは、白から黒までのちょうど中間の明るさである。反射率18%のグレーをデジタルカメラに内蔵されている反射式露出計で測光すると、反射率18%のグレーと同等の明るさのグレーがイメージセンサー上に写し出される。これが露出の基本になっている。全てのカメラ、デジタル一眼レフ・コンパクトカメラ・ミラーレスカメラ等の内蔵露出計は上のような仕組みになっている。白を撮っても黒を撮ってもカメラは色(輝度)が分からず、反射光式露出計は灰色に写るように指示をしてしまう。
さらに「テスト撮影をしてみよう。」用意するものは、先ほどと同じA4の白と黒の画用紙である。カメラの設定は前と同じである。
白の用紙をファインダーいっぱいに入れ、シャッターボタンを半押しにし露出を測定する。そうすると、絞りはF5.6 シャッタースピードは1/350秒程度になる。そのままシャッターボタンを押し込むと前回と全く同じになるので、露出補正量を+2.5にしシャッターを切る。「画像を再生してみて下さい。」「どうですか。」今度は白が白に写っている。ヒストグラムを表示すると+側に尖った山がきている。「露出補正量を元の±0に戻して下さい。」
次に、黒の画用紙をファインダーいっぱいに入れ、シャッターボタンを半押しにし露出を測定すると、絞りはF5.6 シャッタースピードは1/20秒程度になる。露出補正量を-2.0にし、シャッターを切る。「画像を再生してみて下さい。」「どうですか。」今度は黒が黒に写っている。ヒストグラムを表示すると-側に尖った山がきている。
白を白として写すには、露出補正量は+2.5である。黒が黒として写すには、露出補正量は-2.0である。反射光式露出計は、白か黒か判断ができない。判断できるのは撮影者だけである。反射光式露出計に、白であるということを指示しなければならない。指示する量が露出補正量ということになる。
多くの方が自動露出でシャッターを切れば、どんな被写体でも適正露出で撮影できると思い込んでいる。ここが誤解の始まりである。現代のカメラでそのようなことができるカメラはない。カメラの取扱いの説明書には、自動露出で撮ればどんな被写体でも適正露出で撮れるかのように書いているものがあり、誤解を招いている。反射光式露出計が指示する露出は、「被写体がグレーのときのものですよ。」という前提条件がある。しかし、多くのユーザーはカメラの自動露出(TTL露出計)がそういう前提条件があるのを知らないので、雪景色や白い花を撮影するとそれがグレーに写ってしまい、露出は難しいと思い込んでしまうのである。反射率18%のグレー以外の明るいものを写す場合は、全て露出補正が必要になってくる。反射率18%のグレー以外の暗いものを写す場合も、同じように露出補正が必要になってくる。では、どのくらい補正をすれば良いのかという疑問が出てくる。このことについては、次回に書くことにする。なぜ、露出補正が必要なのか。「理解していただけたでしょうか。」
最後に、基準になっている反射率18%のグレーとはどんなものかということを把握しておくことがとても大切になってくる。銀一(ぎんいち)というメーカーから、銀一シルクカードが発売されている。価格は、ヨドバシカメラネットショップで1,180円である。是非、購入をお薦めする。次回は、このシルクカードを使ったテスト撮影を行う。
次回は、「野鳥撮影におけるデジタル一眼レフの使い方(19)」\「 4.作品作りのためのカメラ設定」\「(5)露出補正量」について書く予定である。
(「野鳥だより・筑豊」2013年3月号通巻421号より転載)
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