クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2025-04-20

独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

総目次

第1回 Accipiter <アクシピター>

北九州市門司区風師山(かざしやま)。筑豊、北九州在住のバードウォッチャーなら一度は登ったことがあると思います。そう、ワシタカの渡り観察の一級ポイントです。秋は主に9月から11月頃にかけて、上空を多くのタカが渡ってゆきます。風景も素晴らしく、北の山口県側に火の山、関門橋をバックに眼下には関門海峡、巌流島がのぞめ、東は瀬戸内方面、西に彦島、南から南西に向かって企救半島に連なる矢筈山、戸ノ上山、足立山、帆柱山などの山並みを一望できます。

ワシタカ類、ハヤブサ類については、精悍な顔つきや威風堂々とした容姿などにファンも多いことと思います。しかし、識別の分野においては同定(種の特定)が難しいまたは誤認の多い範疇に入るようです。この風師山でも渡りのピーク時には狭い頂上に居場所を確保できないくらい大勢のウォッチャーがやってきます。ただ、残念なことにワシタカ類、ハヤブサ類を100%正確に識別なさっている方は、ごく一部の方に限られるようです。

今回はワシタカ類の中でも、姿・形の良く似たハイタカ属Accipiterのタカについて私見を述べてみたいと思います。最初にお断りしておきますが、表題にもある通り、「独断と偏見の識別講座」です。私の解説をお読みいただいた際、多々ご意見はあるかと思いますが、あくまでも私個人の意見なのでご質問ご意見等はご容赦くださいますようお願いいたします。また、オーソライズされたものではないので、それをそのまま第三者にお話しされても通用しません。あくまでもご自分の識別の参考としてご利用ください。

ここでは基本的な識別について、わかりやすくできるだけ正確に、図鑑などには載っていない自分の経験から得たこと等も盛り込んで述べてみたいと考えていますので、よろしくお願いいたします。

さて、日本のハイタカ属Accipiterにはオオタカ、ハイタカ、ツミ、アカハラダカがいます。通常、アクシピターと言えばこれら4種のことを指します。「Accipiter sp.(アクシピター、エス、ピー)」などと言った場合は、「はっきりとは判らないがハイタカ属の一種」といった意味に使われたりします。

これらハイタカ属のタカに共通する識別上の特徴は、@短く幅の広い翼、A長い尾、B鷹斑が散らばる翼下面などです。また、飛び方では、スピードはそれほど速くないのですが旋回能力が非常に高く、林の中も自在に飛び回り餌となる小鳥類等を狩る能力に長けているということができます。

ハイタカ属の中で識別の難しい組合せとしては、Tオオタカとハイタカ、Uハイタカとツミがあげられます。それではこのT、Uの組合せに絞ってそれぞれを対比しながら識別ポイントを説明したいと思います。ここで識別ポイントを覚えるコツとしては、漠然と識別ポイントを勉強するのではなく、最も似た種類とどこが違うのか?どのように見分ければよいのか?という点に絞ってポイントを比較しながら覚えることが大切です。

また、図鑑で学習したことを実際に自分の目で確認する作業がとても重要です。なぜなら、ほとんどの場合、図鑑のイラストと実際の姿はかなり印象が違うからです。「図鑑にはこう描いてあるけれど、本当はこうなんですよ!」と言えるようになれば一歩前進です。これらのことを繰り返し実践してゆくことで、識別能力アップに繋がっていきます。

■ハイタカ属の計測値一覧表

種  類全 長 cm翼 開 長 cm尾の形、長さ胴体の太さ
オオタカ46〜6389〜122先が丸い、普通非常に太い
ハイタカ28〜4056〜78角尾、長め細くスマート
ツミ23〜3046〜58角尾、やや短め寸胴で太く感じる
アカハラダカ25〜3052〜62角尾、やや短め普通
  • 注)1.上記の表で、網がけ部分は、他の種類と数値が重複しているところ。
  •   2.全長、翼開長の最小値は雄の小型個体、最大値は雌の大型個体。
    ワシタカ類は通常、雄が雌よりもかなり小型である場合が多い。
  •   3.尾の形は先端両角が角張っているか、丸めか。
    尾の長さは、全長に対してどのように感じるか。

それでは前述のTUの話に戻りたいと思います。前置きが長くなりましたがここからが本題です。

基本的に飛んでいる状態を観察するときの識別について説明します。

  • オオタカとハイタカの識別
    1. 上記の表で重複する部分はありません。それでも間違いが非常に多いケースです。
      ハイタカ♀の大型個体をオオタカと誤認している場合が多いと思われます。ハイタカで胴体が若干太めに感じる場合や翼の形状だけを見て判断している場合などが考えられます。オオタカは翼の後縁が膨らんでいて、ハイタカはそうではないなどといった誤った知識が原因のようです。気象条件、特に風の強さなどによって、翼の形状は様々な形に変化します。
    2. 最もわかり易いのは、胴体の太さです。オオタカは腹の部分が最も太く丸味を帯びた紡錘形です。ハイタカは基本的に前から後ろまで、ほっそりスマートです。
    3. 尾のつけ根、腰の部分に注目します。オオタカでは下腹の白い羽毛が長く、ふさふさとして左右両側から上面(背面側)に盛り上がったように見える場合がよくあります。
    4. 大きさはオオタカ雄の小型個体でハシボソガラスと同じ大きさです。ハイタカは雌の大型個体でも、ハシボソガラスよりずっと小さいです。間違ってしまう理由としては、他に比較する鳥がおらず、単体または一羽だけの時に大きさを正確に把握する難しさが一因になっていると思われます。・・・ここでひと言「迷ったときはハイタカです!」
    5. オオタカは広げた翼の前縁から前に頭と頸が長く突き出ています。これに対しハイタカは頭が丸く頸が短く、翼の前縁から前に出た部分は丸く小さく見えます。特に横から観察した場合、この特徴は顕著です。
    6. 飛び方はオオタカが比較的ゆっくりとはばたくのに対して、ハイタカはひらひらとチョウゲンボウによく似たはばたき方をします。また、ハイタカは翼を閉じてスピードを出しているときなどは、翼を細く尖らせており、特にチョウゲンボウと間違われるケースが多いです。
      ワシタカの識別では、飛び方(はばたきや帆翔の頻度等)は非常に重要な識別ポイントです。

  • ハイタカとツミの識別
    1. 個人的にはこの2種の識別が難しい場合が多いと考えています。
      上記の表で全長・翼開長ともに重複しています。つまり、大きさや長さだけでは重複するケースが多く、識別がたいへん困難ということです。ただ、ツミの最も小さな雄の個体は全長がヒヨドリ程度しかありませんので、ツミの雄であれば通常大きさでも識別可能ということができます。
    2. ハイタカは胴体が細く、尾も長くスマートな印象であるのに対して、ツミはオオタカをぎゅっと縮めた感じです。敢えて言えば、「コンパクト・グラマー型」です。
    3. 飛び方は、ハイタカが前述のようにひらひらとはばたくのに対して、ツミは「パッ、パッ、パッ」と飛び方に少しキレがある感じがします。
    4. 翼指の数(初列風切先端が指のように分かれていること。通常オオタカ6、ハイタカ6、ツミ5、アカハラダカ4)があるのでは?と言う方もいるかもしれませんが、よほどゆったりと帆翔していない限り、数えることはできません。通常の観察では、わからない場合が多いと思います。角度もよく、鮮明な画像であれば数えることはできますが、これだけで種を特定することはありませんので参考程度に考えてください。
    5. また、季節が夏で観察場所が九州の場合、ツミは観察されますが、通常ハイタカは本州や北海道などずっと北の地方で繁殖するためほとんど観察されません。「夏の九州ではどうだ」といった季節や地域による差も知識として身につけておく必要があります。
  • 注)1.上記説明では敢えて色彩による識別については述べていません。ワシタカ類をまず最初に色彩で識別するような癖がついてしまうと、ノスリ、ハチクマ、チュウヒなどといった色彩の個体変異が大きな種類に対応できなくなるからです。ワシタカ類を識別するとき、色彩は多くの識別ポイントの中の一つとして参考程度に考えた方がよいと思います。
  •   2.アカハラダカも数値は重複していますが、他の種と比較して翼下面の模様などかなり特徴があり、短い尾や先端が細く尖った翼の形状などから誤認されるケースは少ないと思われますので、ここでは説明を割愛させていただきます。(幼鳥の場合を除く)

まとめ

  1. 上記T、Uのケースに関わらず、ワシタカ類の識別において最も大切ことはからだ全体のバランスから見るということです。全体の大きさ、長さ。それに対する翼の幅、長さ。尾の形や長さ。よく似かよったハイタカ属は特にこのような見方を必要とします。最初のうちはなかなか難しいことだと思います。ただ漠然と眺めるのではなくて、常に意識して観察する訓練を続けると、次第に身についてきます。
  2. 次に飛び方(羽ばたきの速さや帆翔の頻度など)や飛翔形(例えば前から見たときに翼が平行か、上に反っているか、下がっているかなど)も重要な識別ポイントです。
  3. ワシタカ類に限りませんが、一つのポイントだけで判断せずに、常に数箇所のポイントを観察して総合的に判断することが大切です。
  4. 近年写真を撮る方が増えており、まず画像を撮っておいてから、あとで判断すればよいとお考えの方も多いと思います。現場でもカメラのモニターを見せられて、これは何ですか?とよく聞かれます。ただ、識別の観点から申し上げますと、これは誤りです。画像に対する過信は禁物です。<識別全般については別の機会にお話したいと考えています>
  5. 画像だけで判断するこの方法は私には敢えて難しいやり方を選んでいるとしか思えません。例えば、その時に声だけでも、行動や飛び方だけでも意識して確認していれば、識別できる場合が非常に多いのです。

終わりに

今回は、先日の英彦山ヨルヒコ探鳥会で中途半端で終わってしまったワシタカ類、特にハイタカ属の識別についてお話しました。説明用の画像も無く、感覚的な説明も多いため、理解しづらいところも多かったことと思います。後先になりましたが、お持ちの図鑑と見比べながら読んでいただくと少しは判りやすいかもしれません。

「第1回」などと勝手に銘打っていますが、今後続いていくかどうかも全く不透明です。

もしできることならば、バードウォッチングに対して日頃感じているいろいろなことをお話していきたいと考えていますが、どうなることやら。運よく続いた場合は、どうぞよろしくお願いいたします。

以上

■オオタカ、ハイタカ、ツミの下面から見たスタイルのイメージ図<大きさ除外>

オオタカ、ハイタカ、ツミの下面から見たスタイルのイメージ図

■参考文献:

  • Birds of East Asia
  • BIRDER 2009年9月号(文一総合出版)

(2013-06-15掲載)

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