クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

総目次

第3回 Plovers and Sandpipers<小型シギチドリ類>

ヘラシギ幼鳥

1995年10月28日 北九州市内
ヘラシギ幼鳥 立ち姿勢で採餌

ヘラシギ幼鳥がどんどん近づいてきます。干潟の中の石道に腰をおろした私の目の前わずか2メートルの場所で採餌を始めました。

何と!立ち姿勢です。胸を張りくるくると体を回転させながら、バタ足で水中のベントスを巻き上げ、腰を屈めチョコチョコと採餌を繰り返します。このイラストは何度か公表しましたが、未だ第三者からの反応無し。私の経験上もこの幼鳥個体だけです!

小型シギチドリ類は明確な定義はありませんが、具体的にいうと、ハジロコチドリ、ミズカキチドリ、イカルチドリ、コチドリ、シロチドリ、メダイチドリ、オオメダイチドリ、ミユビシギ、ヒメハマシギ、トウネン、ヨーロッパトウネン、オジロトウネン、ヒバリシギ、コシジロウズラシギ、ヒメウズラシギ、サルハマシギ、チシマシギ、ハマシギ、アシナガシギ、ヘラシギ、キリアイ、コモンシギなどの比較的小型のシギチドリ類を指していると考えられます。

これらのシギチドリの識別について皆さんはどれくらいおわかりになるでしょうか?シギチはただでさえ茶色で皆同じように見えるから苦手だ。小さくて遠くに居て全然判らないとおっしゃる方々も多いと思います。気持ちはよくわかります。一方で「私はシギチドリなら詳しいです」、「私は淡水性のシギチドリが得意です」などと公然とおっしゃる方々がたまにいらっしゃいます。しかし、そういう方々も独善的な見方の場合が多く、こちらも「へーそうですか」としか答えられません。識別力という見地からみると野鳥はあまり選り好みせずに多くの種類について様々な見方を勉強される方がいいと思います。

今回はお互い似ていて、九州での出現頻度も高いのではないかと思われる小型シギチドリ類についてお話ししたいと思います。以下、ハジロコチドリとコチドリ、イカルチドリとコチドリ、メダイチドリとオオメダイチドリ、ヒメハマシギとトウネン、トウネンとヨーロッパトウネン、トウネンとヘラシギ、サルハマシギとハマシギの組み合わせについて見てみましょう。

類似種についての識別ポイントを述べていきますが、基本的に秋の「幼鳥または1年目冬羽の個体」を想定した内容になっていますのでご了承ください。またできれば図鑑を手元において比較していただくとわかりやすいと思います。

■ハジロコチドリとコチドリ

ハジロコチドリは全体的に太ってコロコロとした印象でスマートなコチドリとは対照的です。目の上から後ろに向かってちょこんと垂れた特徴のある眉斑は成鳥・幼鳥ともに認められます。嘴は太短く下嘴基部は褐色です。足の色は橙色でコチドリの黄色と比較するとかなり濃い色をしています。コチドリとの決定的な差異は飛んだとき翼上面に明瞭な白帯が出ることです。どちらかはっきりせずわからない場合、翼を広げるまで待てばOKです。

■イカルチドリとコチドリ

大きい順から並べると、イカルチドリ→ハジロコチドリ→コチドリとなります。イカルチドリは嘴や足が長いのが特徴です。コチドリに比べると額の線がなだらかで嘴が長いため、面長の顔に見えます。アイリングはコチドリに比べると細くうすい黄色をしています。足の色は黄色味が薄く肌色に近い色をしています。生息場所は河川の中流、下流域で河原など石の多い場所を好み、コチドリのように水田や休耕田にはあまり入りません。

■メダイチドリとオオメダイチドリ

体型がスマートで頭の大きなオオメダイチドリに比べ、メダイチドリは頸が短くずんぐりした体型です。ここで嘴の長さに注目します。メダイチドリの場合、目の後端(目じり)から嘴基部までの長さが嘴の長さとほぼ同じです。オオメダイチドリは嘴の方が明らかに長いことが多いです。足はメダイチドリが青灰色(暗色に見える)で短いのに対しオオメダイチドリは黄緑色または黄色味があり長い足の上に体が乗っているような感じです。ここで注意ですが、両種ともに非常にバリエーションが豊富で、特にメダイチドリは多くの亜種が知られており、峻別が難しいケースもあると思われます。こういうことも知識として覚えておいてください。以前、私も頭・顔に黒い部分が無くほとんどオレンジ色だけのオオメダイチドリ成鳥夏羽を観察したことがあります。

■ヒメハマシギとトウネン <幼鳥または1年目冬羽>

和名の付け方が紛らわしくて非常に誤解が多いのですが、ヒメハマシギとの識別が難しい比較対象種は大きさ等がほとんど同じトウネンやヒレアシトウネン(日本未記録種)であり、ハマシギではありません。ヒメハマシギの特徴は基部が特に太く、先に向かって少し下に湾曲した、先端がそれ程尖らない独特な形状の嘴、寸詰まりの体型、長い足、また野外での確認は難しいのですが、小さな蹼(水かき)があることです。最も重要な識別ポイントとしては、肩羽根下段の羽根に「碇型の軸斑」が出ることです。ヒメハマシギと同定するためには最低限このポイントの確認が必要です。またヒメハマシギのような北米産の小型シギチドリ類は基本的には九州での出現率が低いことを頭に入れておく必要があります。つまり前述のミズカキチドリ、ヒメハマシギ、コシジロウズラシギ、ヒメウズラシギ、チシマシギ、アシナガシギ、コモンシギなどは九州ではめったにお目にかかれないということです(ヒメハマシギとコモンシギは九州で記録があります)。探鳥会などでも覚えた限りの珍鳥の名前をずらずらと披露される方がいらっしゃいますが、これは鳥をよく知っているというよりも逆に「こういった知識が無い」と周囲から認知されますので注意してくださいね。

■トウネンとヨーロッパトウネン <幼鳥、1年目冬羽>

皆さんも悩まれることが多いと思います。ただ、ここで一言、悩んだときは「トウネン」です。本物は悩みません。以下ヨーロッパトウネンの特徴を述べます。体型はトウネンのように横長・長方形ではなく、横にしたティアドロップ形状(涙の粒型)要するに寸詰まりの体型。嘴は先細りでやや尖った印象。足は黒く長く、ひょこひょことした歩き方をします。幼鳥・成鳥・夏羽・冬羽全ての段階で喉が白く抜けています。私が最も重視するのは上胸両脇、もやもやとした褐色地または灰色地の中に少し大きな丸めの暗色斑が散らばることです。また、背羽の一枚一枚が比較的大きく長く少し垂れて見えるのも特徴です。三列風切の軸斑が純黒で太いのも幼鳥の特徴ですが、トウネンにもかなり黒っぽく(ただし純黒ではなく黒褐色)見える個体がいるので要注意です。プライマリー・プロジェクション(初列突出度合い)、ウィング・プロジェクション(翼の突出度合い)と中央尾羽との位置関係を比較するなどの見方もありますが、野外識別では困難なのでここでは割愛いたします。興味のある方はご自分で勉強してみてください。この両種の識別の場合はいつも言っている「総合的な判断」が特に要求されます。

■トウネンとヘラシギ <幼鳥>

ヘラシギの特徴のある嘴は小さくて至近距離でないとはっきり見ることはできません。通常野外ではシギまでの距離が遠くて嘴の形状を確認することができない場合が多いのです。ヘラシギは嘴で探そうとしないことが観察のポイントです。では遠距離から何を頼りに探せばよいのでしょうか?大きさもほとんど同じ両種の場合は、からだの色彩(明暗)で判別します。トウネンは遠くから見ると全体がぼんやりとした灰色または灰褐色に見えます。これに対してヘラシギは、黒いベレー帽を被ったような頭頂・パンダのように垂れ型の目の周囲の黒・黒っぽい背中などが、純白に近い下面(胸・腹)に対し明瞭なコントラストを示します。遠目からはまずこのような上面と下面の白黒のコントラストがはっきりした個体を探します。また、トウネンと比較して足が長めであることも特徴です。近年、ヘラシギの個体数が激減しており絶滅の可能性も心配されています。今後の記録はとても重要なものになると思います。

■サルハマシギとハマシギ

基本知識のおさらいです。ハマシギはからだの大きさについて個体差が非常に大きいことが一般的に知られています。最小16cmから最大22cmで約6cmの差があります。平均21cm程度と考えるとこの差は全長の約1/3近くに達します。ほとんど別種ではないかと思えるほどの体格差です。嘴の長さも長短様々です。この常識をまず頭に入れておくことが大切です。サルハマシギは嘴・頸・足が長く全体的にとてもスマートな印象を受けます。幼鳥は頭から頸・胸にかけて黄褐色味があり、また上面の羽根一枚一枚にサブターミナルバンドがあります。ハマシギとの決定的な差異は、成鳥・幼鳥を問わず腰が白く抜けていることです。幼鳥などの観察で自信がなければ、腰を確認することをお勧めします。

終わりに

小型シギチドリ類の識別について少しでもヒントらしいものが得られたでしょうか?今回は主に秋季の幼鳥、1年目冬羽個体に重点をおいた識別についてほんのさわりだけを説明しました。

シギチドリに特徴的なのは羽衣のパターンの多さです。実際、シギチドリの種類はもっと多いですし、成鳥、幼鳥、1年目冬羽、夏羽、冬羽、中間羽など、たった1種類についてだけでもたくさんの羽衣バリエーションがあり、覚えることが多過ぎて敬遠される方も多いようです。

でも、逆にそこが面白いとも言うことができるのではないでしょうか?嘴、足など裸出部の長さ・色・形状、上面・翼のパターン、体型・バランスなど変化しない基本的な部分をまずしっかりと覚えておいて、あとは羽衣のバリエーション展開を考えるといった感じだと思います。

シギチドリ類は何年やっていても本当に面白い、飽きのこない種類だと思います。

本講座も今回で第3回目、どうにか続けていけそうな気配です。

2013-07-12掲載(「野鳥だより・筑豊」2013年9月号 通巻427号)

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