クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

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第4回 Leaf Warblers <ムシクイ類>

2011年9月 キタヤナギムシクイ 1st winter この独特な形がおわかりになりますか? 福岡県内2回目の記録 国内初記録は福岡市内での落鳥記録 (Field Noteから)

識別講座を始めたということは、ムシクイ類をいつかは必ずやらなければならないということです。ムシクイ類については、よく「ウグイスにそっくりでよくわからな〜い」なんてことを耳にします。でもムシクイ類はウグイスには似ても似つかない姿形です。非常に残念ですが、一般的な認知度はウグイスもムシクイ類もこの程度なのかもしれません。

ムシクイ類は皆同じ形ではなく、それぞれスタイルには特徴があります。興味を持って勉強していけば、次第にこの辺がわかるようになってきます。

それでは、九州で出現する可能性が高いと思われる、センダイムシクイ、エゾムシクイ、ウスリームシクイ、メボソムシクイ、オオムシクイ、キマユムシクイやカラフトムシクイの7種を北部九州や地元の記録などを中心に紹介し、その後、島嶼で観察される可能性のある珍しい種類のムジセッカ、カラフトムジセッカ、チフチャフ、キタヤナギムシクイ、ヤナギムシクイ、モリムシクイ、キバラムシクイ、最後にイイジマムシクイについてお話ししていきたいと思います。

■センダイムシクイ

これらのムシクイ類のなかでは最もポピュラーな種類です。大型でスマートな体型です。緑色の体色が美しく、長く明瞭な眉斑や長い嘴が端正な顔つきに見せています。ムシクイ類を観察する場合、通常は下から上を見上げる体勢で観察する場合が多いと思います。「おなかばかりしか見えない!」というのもムシクイ類が敬遠されるひとつの理由ではないでしょうか?それではここでセンダイムシクイをおなか側から100%の確度で見分ける方法がありますのでお知らせしておきます。下嘴と下尾筒の2か所を確認します。まず、下嘴。幅が広く暗色部分が全く無く、先端まできれいな黄肌色をしていること。次に下尾筒がレモン色であること。この二つが揃っていればセンダイムシクイでOK!です。他の種類についても同様な見方をしてみてください。面白いですよ。これで「おなか側」が好きになるかもしれませんね!今回の講座で名前を挙げた他のムシクイ類は嘴全体が暗色か先端が暗色です。こういった識別方法もありますので覚えておいてください。またムシクイ類の識別では改めて言うまでもなく、声(囀り・地鳴き)が最も重要な識別ポイントになっています。最後の一覧表にまとめていますのでよく読んで覚えてください。

■エゾムシクイとウスリームシクイ

囀りは全く違いますが、見た目は非常によく似ています。エゾムシクイは頭部に灰色味があり背中の褐色と差が出ます。ウスリームシクイは頭と背が同じ褐色です。下から見た場合、両種ともにおなかは汚白色で黄色味は少ないです。下嘴は先端にかけてやや暗色を帯びます。ウスリームシクイは馴染みのない名前かもしれませんが、通常は渡りの時期に日本海側の島嶼で観察されることが多い種類です。ただし、九州北部では島でなくても海岸に近い場所であれば十分に出現可能性がありますので注意してください。ウスリームシクイには二通りの囀り方がありますが、双方とも特徴のある声なのですぐにわかります。福岡市西区今津で過去に観察記録があり、また今年5月福津市津屋崎や日本海側の島でも観察しました。今後も観察例は増えるものと思われます。このウスリームシクイの囀りは至近距離で聞くととてもうるさいのですが、不思議と携帯電話では全く録音できない周波数帯に入っているようです。

■メボソムシクイとオオムシクイ(旧コメボソムシクイ)

センダイムシクイ、エゾムシクイに次いでポピュラーなムシクイです。北部九州では、春はGW中頃からメボソムシクイが、GW明けからオオムシクイが渡ってきます。秋は9月中旬過ぎ頃メボソムシクイがピークを迎えます。秋季オオムシクイは期間を通して少なめです。両種は大型で頸が太く頭が大きく(長く)がっしりしたスタイルです。眉斑が嘴基部に届かずかなり手前から始まります。また初列風切の突出(Primary Projection)が長い(最長三列風切とほぼ同長)のも特徴です。多くの場合胸に不明瞭な暗色縦斑が入ります。日本のメボソムシクイの分類には諸説あり、これにコムシクイ、アメリカコムシクイを加える場合があります。

■キマユムシクイとカラフトムシクイ

体長9〜10cmの非常に小型のムシクイ。両種ともに春秋の主に日本海側の島嶼や海岸線で見られます。九州では年によって個体数に差はありますが、キマユムシクイは普通に越冬していると思われます。2000年冬には戸畑区夜宮公園でも越冬個体を確認しました。住宅地の真ん中にあるような都市型の公園でも十分に越冬する可能性があります。両種ともムシクイといっても体型はキクイタダキと同じ寸詰まりの形で同種の群れに混じることもあります。両種の嘴は暗色で細く小さく、通常翼に明瞭な2本の淡色線(周囲は黒っぽい)が出ます。カラフトムシクイは顔にオレンジ色味があり、頭央線は細く明瞭です。上腰は四角くレモン色をしていますがホバリング時以外は翼を固く閉じているため見えません。個体数はキマユムシクイにくらべ極端に少ないです。

■ムジセッカとカラフトムジセッカ

両種ともに灰栗褐色(柔らかい色)の特徴的な上面の色合いをしています。ムジセッカの特徴はややなだらかな頭部形状、極細で尖った嘴、後半が褐色の眉斑、極細い足など。一方、カラフトムジセッカの特徴は頭が大きく丸味がある、やや太く先端に丸味のある嘴、目の前がぼさぼさで前半が褐色の眉斑、ムジセッカに比べがっしりとした足、褐色の下尾筒など。両種共に春秋の渡りの時期に島嶼で観察されます。また、ムジセッカは越冬個体が観察されることもあり、2003年12月〜2004年3月福津市久末ダムで1羽が越冬しました。この個体も当初は地鳴きでその存在に気がつきました。声を覚えていると、いろいろなケースでたいへん役に立ちます。

■ヤナギムシクイとフタオビヤナギムシクイ

個体数は非常に少ないですが、九州北部では日本海側の島嶼で秋の渡りの時期に観察されます。「チュリッ」「チュルリッ」というハクセキレイに似た大きな地鳴きが特徴です。上面は三列風切羽縁などにコントラストは出ず、ほとんど模様はありません(フタオビヤナギムシクイ除く)。大き目の頭、目の後ろが最も太くなる眉斑などが外見上の特徴です。どちらも嘴基部上で左右の眉斑が繋がります。初列風切の突出(Primary Projection)は両種ともに短いです。フタオビヤナギムシクイの場合、大雨覆い・中雨覆いに内弁まで白い明瞭な翼帯があります。大きさはメボソムシクイよりもやや小さい程度です。従来、福岡県内の島で何度かこの種と思われる地鳴きを聞いていましたが、確定できていませんでした。2010年10月福岡県内の島でようやくしっかりと確認することができました。この時は明瞭な1本の翼帯がありましたが新鮮な羽衣から1年目冬羽の個体だと思われ、ヤナギムシクイと同定しました。前後しますが、2004年5月福津市津屋崎東郷公園で多くのムシクイ類、カラ類混群中にヤナギムシクイと思われる個体を至近距離で観察しました(全ての識別ポイントを押さえました)が、この時は周囲のキマユムシクイやカラ類がうるさく、地鳴きは特定できませんでした。

■チフチャフとキタヤナギムシクイ

両種とも九州に住んでいる限り見ることはないかなと半分諦め状態の小鳥でしたが、チフチャフが2005年2月〜4月福岡市西区今津で越冬しました(九州内初記録)。一方キタヤナギムシクイは2011年9月福岡県内の島で運よく長時間にわたり1年目冬羽個体を2羽同時に観察することができました(福岡県内2回目の記録、初回は国内初記録)。遡って2003年4月福岡県内の別の島で「フュエーッ、フュエーッ」という尻上がりの大きな地鳴きを聞いたことがあります。これはキタヤナギムシクイ独特の地鳴きですが、春は全国的にもほとんど例がなく、未発表ですが貴重な参考記録になると考えています。チフチャフはサイベリアンチフチャフ Phylloscopus collybita tristis といって極東に分布する亜種で体色が灰色味のある淡バフ色をしています。ごく細い黒色の嘴と細い黒色の足、初列の突出が短いところがポイントです。また、キタヤナギムシクイも極東に分布する亜種 Phylloscopus trochilus yakutensis で同じく灰色味の強い淡バフ色をしています。うしろに長く伸びたスマートな体型がキタヤナギムシクイの特徴です(巻頭イラスト参照)。こちらも黒色の嘴、足が暗褐色です。初列風切の突出は長いのが特徴です。こういったムシクイ類の高レベルの珍鳥が九州でも確認できたことで、他のムシクイ未記録種についても出現の可能性が見えてきました。

■モリムシクイとキバラムシクイ

地元の島でも十分に可能性があるのではないかと考える2種です。モリムシクイは主に秋季日本海側の島嶼で出現します。下から見ると胸の部分に膨らみがあり、後ろに向かって初列風切が長く、尾が短く二等辺三角形のような体型です。上面は黄色味が強く下面は純白の美しいムシクイです。地鳴きは「ジッ、ジッ」と濁ります。非常にすばしっこく動き回るようです。キバラムシクイは春季遅い時季(5月下旬)にのみ観察されます。丸い頭、全身が濃い黄色で「チュン、チュン」という地鳴きが特徴です。

■イイジマムシクイ

緑色味が強くすっきりとした美しいムシクイ。上下に分かれた白いアイリングが特徴です。国内では伊豆諸島とトカラ列島が繁殖地として知られています。越冬地はフィリピン・ルソン島。近年伊豆諸島から秋季に紀伊半島、四国山岳地帯、大隅半島を経由して南西諸島へ南下する渡りのコースが発見されました。2012年1月福岡県白水大池公園で発見と新聞記事になりましたが、詳細についてはわかりません。

ムシクイ類声その他一覧表  ※全てが識別ポイントとして重要

種類囀り地鳴きその他
センダイムシクイチヨチヨビーッ、チヨビーッフィーッ柔らかい下嘴は先端まできれいな肌色
エゾムシクイヒーツーキーヒィッ 強い下嘴は前半分が暗色
ウスリームシクイシシシシシシシシッ
フィリフィリフィリフィリ
ヒィッ 強い北部九州では比較的普通に見られる
メボソムシクイチョリチョリチョリチョリヴィッ・1音節胸にムラムラと暗色縦斑がある
オオムシクイジジロジジロジジロジジロヴィリッ・2音節従来コメボソムシクイと呼ばれていた
キマユムシクイチーチュィチィーッ尻上がりチィウィッ尻上がり声質は非常に細く高音質
カラフトムシクイミソサザイに似た複雑で長い囀り より細く高い声質チュィッ声質は非常に細く高音質
ムジセッカチヨチヨチヨチヨチヨチヨタッタッタッタッ乾いた舌打ち、速いテンポ
カラフトムジセッカチィュチィュチィュチィュトゥルッ、トゥッやや遅く、間が空く
  1. 「地鳴き」を確実に覚えることが大切。
  2. 表のセンダイムシクイからキマユムシクイまでをしっかり覚えておけば、通常の探鳥はOKです。

終わりに

ムシクイ類にちょっとでも興味が湧いていただけたでしょうか? 面白いでしょう!?

  • 北部九州では8月中旬お盆の頃にはセンダイムシクイ、エゾムシクイがたくさん渡ってきます。既に両種の秋の渡りメインの群れが通過しているのです。毎年まだこの暑い時期に汗を流しながら、蚊に刺されながら観察しないといけません。
  • 上記の基本的な太字6種をぜひマスターしてください。この6種をしっかり覚えるだけでもずいぶん探鳥の幅が広がると思います。もう少し勉強したくなったらここからスタートです。
  • ムシクイ類は声の識別が最も大切なことをわかっていただけたと思います。また、それぞれのスタイルの僅かな違いを感じ取る感性も必要です。この部分は勉強と経験が要求されるところだと思います。
  • 今後、ムシクイ類については、バフイロムシクイ、ヒマラヤムシクイ、ヒメセンダイムシクイ、フッケンムシクイ、シセンムシクイ、オジロムシクイなど、中国やモンゴル、中央アジア、東南アジアに分布する種類が新たに確認される可能性が高いと思われます。世界的な分布状況から日本周辺に絞り込んだ見方で勉強する必要があります。

今後も日本産のムシクイ類の種類が増えていくことが十分に予想されます。どんなムシクイ類が発見されるのか?こういったことも楽しみのひとつです。

参考文献:

(2013-07-31掲載)

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