クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)

独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

総目次

第5回 Pipits<タヒバリ類>

ウスベニタヒバリ1年目冬羽2009年1月 発見当日 鉤型の眉斑が特徴 渋田氏画像より転記 Field Noteから

近縁のセキレイ類はツメナガセキレイ、キガシラセキレイなどきれいな種類が多いのに対し、タヒバリ類はどれも比較的地味で褐色の同じような色彩をしており人気はイマイチのようです。

国内で観察例のあるタヒバリ類は、マミジロタヒバリ、コマミジロタヒバリ、マキバタヒバリ、ヨーロッパビンズイ、ビンズイ、セジロタヒバリ、ウスベニタヒバリ、ムネアカタヒバリ、タヒバリ、サメイロタヒバリ、ムジタヒバリ以上11種です。

このうち、マキバタヒバリとウスベニタヒバリは福岡県内初記録 = 日本初記録で、前者は福岡市西区今津、後者は福津市津屋崎で記録されました。サメイロタヒバリも今津、ミズタヒバリは奄美・対馬等、ムジタヒバリは沖縄県与那国島で観察されていて意外に福岡県や九州とは関係が深い種類といえるのではないでしょうか。

タヒバリ類、皆さんは地味で苦手な部類に入るかもしれませんが、身近にいる小鳥です。もう一歩踏み込めば面白さがわかってくる種類だと思いますので、頑張って勉強しましょう。

では、よく似ていて識別の難しい2種組合せで説明していくことにしたいと思います。

■マミジロタヒバリとコマミジロタヒバリ

2005年10月マミジロタヒバリ 胸の模様は様々・小さなスポット状の黒斑が胸に並ぶ個体(コマミジロタヒバリと混同し易いケース)中雨覆い軸斑形状に注意 Field Noteから

「マミタヒ」「コマミタヒ」なんて略して呼ばれることが多いようです(最近の不自然な略し方は苦手です)。両種ともに春秋の渡りの時期に、またマミジロタヒバリは越冬個体も見られます。
以前長崎県対馬でマミジロタヒバリ30羽程度の小群が出現したときにそれを見ていた関東からの団体さんがほんの少しの色合いの差異(個体差)を指摘してコマミジロタヒバリだと安易に発言していましたが、こういった識別はあり得ませんので皆さんは真似をしないようにしてください。このように初心者の方はたくさんいると無意味に異種を期待したり、逆に1羽だと習性も考えずに複数個体を期待したりする傾向にありますが、いないものはいませんので正確かつ冷静な識別を実施するように心がけてください。
両種の識別で確認すべき箇所は、全体の体型、嘴の長さ・形状、足の長さ・太さ、後指の爪の長さ・形状、中雨覆い軸斑の形状、声、尾の長さ・両端各2枚の白斑の形状などです。この中でも中雨覆い軸斑の形状は比較的に見易いため重要な識別ポイントになります(成鳥羽の場合)。マミジロタヒバリが「木の葉状」(イラスト参照)になるのに対し、コマミジロタヒバリの黒褐色の軸斑は「臼のように先が潰れた形で」中央から少し羽軸が飛び出した形状をしています。(第1回冬羽の場合は中雨覆いの中にある換羽したての成鳥羽を見ます。)

■タヒバリとムネアカタヒバリ

タヒバリ類の中では最もポピュラーな2種です。冬季の刈田などでは両種がいることが普通です。ただし、似ていそうで全く似ていません。外見上タヒバリはモスグリーン系で緑色味があるのに対しムネアカタヒバリは黄褐色でまったく緑色味はありません。両種ともに声で気付くことが多く、タヒバリは「キィッキィッキィッ」、「ピィッピィッ」など鋭い声を発し、これに対しムネアカタヒバリは「チィーィ」と高く細く尻下がりで特徴のある声です。
背中の黒褐色の縦線がタヒバリは不明瞭、ムネアカタヒバリは非常に太く明瞭です。また、尾が短くやや寸詰まりの体型です。ムネアカタヒバリ雄個体は冬でも顔に赤味が残っていますが、雌個体はほとんどまたは全く赤味がありません。春先3月下旬〜4月上旬にタヒバリが夏羽に変わる(体羽が換羽します)と判別できなくなられる方がいらっしゃいます。これは上面が灰色、下面が肌色になり冬羽とは色彩が全く変わってしまうことが一因となっているようです。タヒバリ類にも夏羽、冬羽があることをきちんと覚えておきましょう。

■タヒバリとビンズイ

水田が近い防風林近辺や島の探鳥では同じような環境にいることがあります。両種ともに体色に緑色味があります。詳細は比較表を見てください。まず声が全く違います。ビンズイは濁った「ヅィーッ」です。顔のパターンが全く違います。タヒバリは目の周囲が淡色で眉斑が目のすぐ後でぶつりと切れます。ビンズイは眉斑が長く明瞭で上辺は暗色です。また眉斑の前半が黄褐色でぼさぼさしています。耳羽に丸い淡色+黒色斑があるのが通常です。背の黒褐色の縦線は両種ともに不明瞭です。

■セジロタヒバリとムネアカタヒバリ

非常に誤認が多いケースです。「背中に白線があるからセジロタヒバリだ」という理由は全く通用しませんのでご注意ください。両種ともに背中に左右二対の明瞭な白線または淡色線と太い黒褐縦斑があります。背中の縦斑だけでは両種を識別できません。
まず覚えておいて欲しいことはセジロタヒバリは通常、隠れる習性が強く非常に見づらい種類だということです。意識して探さないと見つかりません。何気なく「そこの田んぼに降りていたよ」こんな場合はまず誤認です。水田と水田の間の畦や刈田の残り根周りなどで出たり入ったりちらちらと動き回っているのが普通です。
また、主に朝夕の薄暗い時間帯に鳴きながら飛び回る習性があるため、声で探すのが最も有効だと思われます。声は独特な「チュン、チュン」です。声だけで100%識別可能です。ご存知でしたか? 通常は声で気付くことが多いと思います。
次にセジロタヒバリの重要な識別ポイントは初列風切が三列風切を越えて見えていることです。一方ムネアカタヒバリは三列風切が長く初列風切を完全に覆っています。両種は尾が短い特徴的なスタイルでセジロタヒバリは特に尾が短いためにより寸詰まりの体型に見えます。
九州北部の通過時期は9月中旬から10月中旬頃までです。極稀に越冬記録がありますが、春季の記録はありません。この秋お近くの水田を探してみてはいかがでしょうか?

◆セジロタヒバリ識別ポイント<以下6点を確認できれば間違いありません>

  1. 初列風切が三列風切を越えて見える。
  2. 嘴は太めでピンク色(決して黄色ではない)
  3. 目先のみわずか過眼線がある
  4. 声は「チュン、チュン」
  5. 胸・腹の地色は白色で上胸の部分だけがバフ色。(真っ白な個体もたまにいる)
  6. 隠れる性質がとても強い

■マキバタヒバリとヨーロッパビンズイ

両種ともに非常に珍しい種類です。特にヨーロッパビンズイは基本的に日本海側の島嶼または南西諸島でしか見られません。ヨーロッパビンズイの最大の特徴は胸の太い黒色縦斑が脇腹の部分で針状の非常に細い線になることです。また、嘴の形状がほぼ二等辺三角形で太短いのも特徴になります。眉斑は通常不明瞭です。
マキバタヒバリは1996年10月〜1997年4月福岡市西区今津の記録が国内初記録でした。広大な水田地帯の中の猫の額のように狭い畑を棲息場所の中心として数ヶ月間過ごし越冬しました。狭い地域に執着するのはタヒバリ類の特徴です。その後、数は少ないものの南西諸島や国内各地、地元津屋崎でも発見されています。上面は緑褐色、嘴は細くて下嘴基部は黄色です。後指の爪の湾曲度合いが小さく非常に長いのが特徴です。

■その他のタヒバリ類

ウスベニタヒバリは2009年1月〜4月福津市津屋崎の自己観察例が国内初記録になりました。英名Rosy Pipit、学名 Anthus Roseatus 双方ともに「バラ色の」という意味があることからもまた旧名に合理的な意味合いが無いことからも新たな名前を提案し、チョウセンタヒバリからウスベニタヒバリへ変更していただきました。
濃いピンク色の夏羽は他のタヒバリ類にない特徴です。年間を通して黄緑色の小雨覆いとレモン色の腋羽根はこの種を特定する最重要識別ポイントです。冬羽は非常に黒っぽく、特に鉤型をした眉斑は独特です。
同シーズンは津屋崎でマキバタヒバリも越冬しました。サメイロタヒバリはミズタヒバリ Anthus spinoletta の極東亜種 blakistoni ブラキストンイの和名です。上面は灰褐色、下面は淡バフ色で非常に色が薄く上胸の縦斑も灰褐色なのが特徴です。同シーズンに福岡市今津で観察されました。

タヒバリ類比較対比表

種 類体色背中縦斑胸腹部縦斑その他特徴
マミジロタヒバリ
コマミジロタヒバリ
淡褐色
淡褐色
ビシェーン
ビジュ、ビジュ
不明瞭
不明瞭
胸のみ少ない
胸のみ細い
太く長い
細く尖る
後指爪長大
後指爪長い湾曲
タヒバリ
ムネアカタヒバリ
緑褐色
黄褐色
キィッ、ビィッ
チーィ尻下り
不明瞭
太く明瞭
太く明瞭
太く明瞭
暗色細い
基部黄色細い
タヒバリ
ビンズイ
緑褐色
緑灰色
キィッ、ビィッ
ヅィーッ濁る
不明瞭
不明瞭
太く明瞭
太く明瞭
暗色細い
肌色太さ普通
セジロタヒバリ
ムネアカタヒバリ
淡褐色
黄褐色
チュン、チュン
チーィ尻下り
太く明瞭
太く明瞭
太く明瞭
太く明瞭
肌色太さ普通
基部黄色細い
初列突出あり
初列突出なし
マキバタヒバリ
ヨーロッパビンズイ
黄褐色
黄褐色
キィッ
ツィーッ
明瞭
明瞭
太く明瞭
脇は針状斑
細く尖る黄色
肌色太短い
後指爪長い
眉斑不明瞭

終わりに

  • 今回のタヒバリ類の識別はいかがだったでしょうか? まずは興味を持っていただくことが第一だと思います。一度読んだ程度ではなかなか理解できないかもしれません。分類上もタヒバリの分類は諸説あるようで詳細に勉強しようとするとかなり難解。私もタヒバリ類、セキレイ類については辞書を片手に海外の専門書を読んだりしています。でも、こういったことも面白い作業ですし、好きな人にはたまらないことかもしれません。
  • タヒバリについては、北アメリカに生息するアメリカタヒバリ A. r. rubescens も日本国内で確認されていることを付け加えておきます。
  • 皆さんも「タヒバリ」「ムネアカタヒバリ」辺りで終わらずに、従来よりも1ランク上の識別を目指してみませんか? 時期さえ間違えなければ、9月中旬〜10月中旬頃セジロタヒバリなどは筑豊の探鳥地でも必ず見つかるはずです。コツはお教えしました。あと発見に必要なものは根気と情熱です! 自分で鳥を見つける楽しさ・醍醐味・感動をぜひ実感してください!!

参考文献:

  • PIPITS & WAGTAILS; HELM
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • 「福岡県福津市におけるRosy Pipit Anthus Roseatusの国内初記録」 日本鳥学会誌 第60巻 第2号 (2011)

2013-08-26掲載(「野鳥だより・筑豊」2013年11月号 通巻429号)

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