クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

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第7回 Harriers<チュウヒ類>

2012年10月 マダラチュウヒ幼鳥 長崎県諫早市 赤褐色の体色が非常に美しい 成鳥羽と全く違う幼羽の色彩を覚えておくことが大切 Field Noteから

個人的な話で恐縮ですが、このマダラチュウヒはこれまで不思議と縁がありませんでした。本格的に野鳥を始めた学生時代まで遡ります。6月から8月にかけての炎天下の茨城県霞ヶ浦、日陰は全く無く熱せられたアスファルト道路からは陽炎が揺らめき立ちます。猛暑の中を何度も通いましたが遂に遭遇することはありませんでした。私が永年通っている離島は山口県M島です。もしこれが長崎県対馬であったなら、既にこれまで何度も見ていたと思います。こういったところもツキが無かったのかもしれません。

2012年10月地元でひとしきり早朝探鳥を終えたところに諫早の出現情報!即、直行しました。初めて出遭えた個体があの錨模様の雄成鳥ではなくて全身赤褐色の幼鳥なのが自分らしいなと思いました。それにしても羽根がきれいに揃った美しい個体でした。次に見たいのは雌成鳥個体、その次は雄成鳥に移行途中の本当に継ぎ接ぎだらけの斑(まだら)チュウヒです。白黒の非常に美しい雄成鳥個体は早く見たいような、最後までとっておきたいような、そんな感じがしています。

日本産のチュウヒ類は、ヨーロッパチュウヒ、チュウヒ、ハイイロチュウヒ、マダラチュウヒ、ウスハイイロチュウヒの5種類です。しかもこの内、普通に見られるのはチュウヒとハイイロチュウヒの2種類だけですが、もっとたくさん種類がいるような気がしてなりません。その理由として同じ種類でも雄、雌、成鳥羽、幼羽、移行羽、個体差、国内型・大陸型など羽衣がバラエティに富んでいることが原因になっていると考えられます。

それでは、この順番に沿って説明していきたいと思います。最後に日本未記録種のヒメハイイロチュウヒにも言及したいと思います。

■ヨーロッパチュウヒ

国内では1989年12月7日山口県防府市での幼鳥1例の記録がありますが、私は詳細はよくわかりません。雄成鳥は、褐色の背羽、雨覆い、グレーの初列雨覆い、内側初列・次列風切、尾、黒色の初列風切、赤褐色の下腹・下尾筒が特徴です。雌成鳥は全身チョコレート褐色で額から頭頂にかけてと喉がクリーム色でその間が黒褐色の太い過眼線になります。また上胸にやや幅広のクリーム色の不明瞭なバンドが出ます。体格やスタイルは日本のチュウヒとほとんど変わらないと思われます。大きく、幅広で長く先端が丸い翼を持っています。チュウヒとの識別ではかなり色彩に重点を置いたものになりますので、いずれにしても注意と慎重さが必要だと思われます。

■チュウヒ

スタイル・体型的にはヨーロッパチュウヒと同じです。国内型、大陸型と呼ばれる違ったタイプがあります。通常雄よりも雌のほうが大柄です。大陸型の雄は基本的に薄いグレーと黒の色彩です。頭黒タイプや背が褐色のタイプがあります。下面はほぼ白色でヨーロッパチュウヒ雄のような赤褐色部分はありません。国内型の雄は基本的には褐色の細かな模様がありますが、初列雨覆い・大雨覆い、初列・次列風切に灰色味があり、暗色の横斑が入ります。下面にも全体に小さな褐色斑が点在するのが普通です。初列風切りは通常大きく暗色です。腰は淡色に抜ける場合が多いです。典型的な幼鳥は頭、顔、頸、胸にかけて一様なクリーム色で上雨覆い前縁や下雨覆いもクリーム色が入ります。腹から下尾筒にかけて赤褐色、下面初列風切基部に淡色の大きな斑が出ることがあります。また、おそらく幼鳥、ほぼ全身がチョコレートブラウンで首から上のクリーム色部分が小さい個体もたまに見られ、このような場合ヨーロッパチュウヒ雌との誤認の可能性が高くなります。

■ハイイロチュウヒ

地面をなめるような低空侵入からツグミに襲いかかるハイイロチュウヒ雄成鳥 チュウヒに比べスピード感のある狩りをする。

北九州市小倉南区曽根 

チュウヒと比較するとやや小柄です。翼は幅広く、先端にも丸味があり、何となく固まり感があり筋肉質に感じます。素早いはばたきと滑空で低空をかなりのスピードで飛翔します。海から離れた高原地帯にも棲息する傾向があります。特異な色彩から雄成鳥は間違えることは少ないと思われますが、雌・幼鳥の場合は他のマダラチュウヒ、ヒメハイイロチュウヒ、ウスハイイロチュウヒなどとの識別が難しい場合が考えられます。ハイイロチュウヒはこれら3種よりも骨太な感じで体格ががっしりとしていることを覚えておいてください。雌成鳥は虹彩がレモン色、幼鳥は暗色です。

■マダラチュウヒ

ハイイロチュウヒに比べ大きさはあまり変わらないのですが、スマートで華奢な体型をしているため、少し小さく感じます。全体のバランスは体が小さい分、頭でっかちな感じです。飛び方は翼動が深くゆったりとした羽ばたきでチュウヒの飛び方に似ています。雄成鳥はグレーのからだにくっきりとした黒い錨模様が目立ちます。黒い頭・胸と純白の腹との境目がクリアーです。大陸型チュウヒの中に頭黒タイプがいますが、体が大きく、これら黒い部分がやや斑点状で境目もぼんやりとしています。マダラチュウヒ雌成鳥は翼上面に灰色味があり、暗色横斑があります。背中に雄成鳥を連想させる褐色の錨模様が出ます。翼もそれ程尖らず先端にはやや丸味があります。幼鳥は基本的に赤褐色のからだで、翼下面初列風切基部に大きな淡色斑がでます。(巻頭イラスト参照)

■ウスハイイロチュウヒ

2009年2月千葉県で幼鳥が確認され、国内初記録となりました。マダラチュウヒとほぼ同大。初列風切りの外側から4枚目までが長く5枚目が極端に短いため翼先端が細く尖って見えます。翼基部は幅広です。雄成鳥は淡灰色のからだで初列風切の中央一部のみが黒い特殊な色彩。雌・幼鳥は翼上面には不明瞭な横斑が一様に出ます。雌成鳥は翼下面、次列風切・次列雨覆いが暗色で暗く見えます。幼鳥はオレンジ色の胸・腹、濃い髭状の斑と暗色の頸が二重になって目立ちます。下面内側初列風切の先端は暗色斑が点になって並んで見えるのが特徴です。

■ヒメハイイロチュウヒ

ウスハイイロチュウヒと同様の理由で翼は先端が細く尖って見えますが、翼基部は逆に少し絞った形で細くなります。雄成鳥は上面大雨覆い外側すぐの横斑が太く目立ちます。下面も同様で、さらに下雨覆いに細かな褐色斑が並びます。雌成鳥は翼下面、次列雨覆いの細かい横斑がはっきりと見えます。雄同様、雨覆い外側すぐの横斑が最も太く目立ちます。上面も同様。幼鳥はオレンジ色の胸・腹、髭状の斑は小さくやや薄いのが特徴です。下面内側初列風切先端の暗色部分は点にならず繋がって見えます。日本未記録種ですが、近いうちに出現する可能性が高いと思われます。

終わりに

  • チュウヒ類の識別について少しでもお役に立てましたでしょうか?近年チュウヒ類の塒(ねぐら)になるアシ原が次々と減少し、観察する機会も随分と減ってきました。現在は山口県阿知須干拓(きらら浜自然観察公園)や佐世保市諫早干拓、熊本県横島干拓などチュウヒが複数個体見られるポイントも身近には少なくなってきました。また一方、北九州市若松区のビオトープではチュウヒが数年前から繁殖しています。初夏皿倉山をバックに飛ぶチュウヒの写真を初めて見たときはたいへん驚きました。この環境はぜひ大切にしていきたいものです。
  • 長崎県対馬では毎春マダラチュウヒが観察されています。美しい雄成鳥や赤褐色の幼鳥が見られています。対馬の方々が本当に羨ましい限りです。私もいつになったら雄成鳥のきれいな錨模様を見ることができるのか楽しみにしています。
  • 4年前千葉でウスハイイロチュウヒが発見されたと聞き、遂に出たなぁ!と思いました。学生時代から出現を夢に見たチュウヒです。仕事の関係でどうしても行けなかったのが本当に残念でした。運があればヒメハイイロチュウヒはぜひ自分の手で(目で!)と考えています。雌でも幼鳥でも目の前に出現してくれれば、いつでも必ず識別できる準備はできているのですが・・・。

参考文献:

  • Birds of East Asia: Princeton University Press Princeton Oxford
  • Collins BIRD GUIDE: The Most Complete Field Guid To The Birds of Britain And Europe HarperCollins Publishers Ltd
  • Strix11:377-382(1992)くまたか外部サイト
  • 野鳥情報・観察記録1991.8-1992.7 日本野鳥の会 野鳥記録委員会

2013-10-24掲載(「野鳥だより・筑豊」2014年1月号 通巻431号)

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