波多野邦彦
総目次
第8回 Shearwaters <ミズナギドリ類>
2009年9月 オガサワラヒメミズナギドリ Bryan’s Shearwater顔が白く目がはっきり見えること、両脇腹の白い羽毛が背中側に捲き上がること、滑空はほとんどせずはばたきで直線的に飛ぶこと等が特徴。小笠原海域では、他にLittle Shearwaterの仲間オガサワラミズナギドリ(セグロミズナギドリ)が観察される。
小笠原父島周辺海域 Field Noteから
学生時代からの夢だった小笠原・硫黄島3島行きが実現したのはその後30年経った2009年9月でした。
クビワオオシロハラミズナギドリ、オガサワラミズナギドリ、アカオ・シラオネッタイチョウ、シロアジサシ、アカアシカツオドリ、メグロ等ライファー全12種を挙げることができました。中でもこのオガサワラヒメミズナギドリは3度見ることができたのですが、その後2012年2月にBryan’s Shearwaterブライアンズ・シアウォーターの名前で「絶滅海鳥再発見」として大きく新聞報道されました。繁殖期が真冬で海が荒れるため詳細な調査が非常に難しいようです。
これらLittle Shearwaterの仲間は温帯から熱帯にかけての小さな島々の周辺に生息しており、現在DNA分析等による正確な分類が進められています。小型ミズナギドリ類は未知の魅力を持った種類なのです。
アホウドリ類、ミズナギドリ類、ウミツバメ類、ウミスズメ類など外洋性の海鳥(うみどり)は太平洋側に数多く生息しており、九州、特に福岡県在住のバーダーにはとても縁遠い存在です。中でもミズナギドリ類については通常オオミズナギドリくらいしか見る機会がありません。冒頭に挙げたミズナギドリ3種類、名前だけでその姿を正確に思い浮かべることができる方はほとんどいないと思います。たぶん名前さえ初めてだと思います。国内で見られる可能性があるミズナギドリ類全種類の名前を正確に覚えていらっしゃる方となると皆無といっても言い過ぎではないでしょう。
太平洋側外洋航路は九州からですと時間もお金もかかります、本当に大好きな人でないと何度も見に行きません。現在最もメジャーな大洗―苫小牧(おおあらい・とまこまい)航路は通常土曜、日曜で茨城県と北海道を往復するだけです。北海道まで行って北海道を探鳥しないなんて信じられない!とよく冷やかされますが、私は海鳥探鳥にはそれだけの価値が十分にあると考えています。
今回はふだん馴染みのないミズナギドリ類のお話です。興味が湧かない、自分と関係が無い、なんだか面白くなさそう、わからない、そうお考えの方々は今回パスしていただいて構いません。何卒ご了承ください。
これらの海鳥の識別は波に揺れる大型フェリー上から、遥か海上を飛んでいる鳥を見分けるといった非常に特殊な鳥の見方をします。ある意味、識別における一大ジャンルを形成していると言っても良いかもしれません。ただ勉強してみる価値は大いにあるのではないでしょうか。
それではミズナギドリ類の見方を中心に「海鳥探鳥」の基本についてお話していきたいと思います。
■航路
海鳥探鳥の航路として現在よく利用されるのは、前述しました大洗―苫小牧航路、名古屋―仙台―苫小牧航路、苫小牧―八戸航路、東京―三宅航路、東京―八丈島航路、東京―小笠原航路など太平洋側のはるか沖合を通る航路です。過去には東京―釧路航路というたいへん便利な航路があったのですが残念ながら、廃止されてしまいました。
航路の適性は、目標の種類が出現する海域を日中に通過することが第一番の条件です。海上探鳥を好むバーダーは基本的に日が昇って沈むまで食事時間も惜しんで甲板上で鳥を探します。食事や入浴などで、短時間だからとその場を離れると往々にしてそんな時に限って珍鳥が出現する傾向があるのです(私の気のせいかもしれませんが)。
■海鳥探鳥
自分自身の目で鳥を探すのが基本です。普段から鳥を探すのを他人に頼っている方には不向きです。なぜなら海上には目印がありません。不安定な船の上です。どんなに親切で教えるのが上手な指導者でもスコープに入れて見せてあげることができないのです。教え方も「何時の方向、距離水平線までの半分程度」「何時、水平線直下」「何時の方向、手前から約○百メートル、進行方向」など、こういった言い方をします。自分で探すしかありません。
全く目印の無い大海原で上下、左右ジグザグに飛ぶ鳥を揺れる船上から双眼鏡またはスコープで瞬間的に的確に捉えます。日頃からかなりの訓練と慣れが必要です。当然、海鳥についての日頃からの勉強が必要ですし、特に種類別の飛び方の知識が要求されます。ごく一般的な探鳥に比べると条件は非常に厳しいです。「やさしく」はありません。実はこれが海鳥探鳥の醍醐味なのですが・・・。
機材としては、防振双眼鏡を使われる方もいらっしゃいます(ただし少数派)。個人の好みでしょうが、私は画像が不自然に見えるため使いません。それよりも明るく鮮明な画像を瞬間的にでも捕捉できる双眼鏡の方を選びます。スコープの三脚の石突に耐震用ジェルシートを貼っている人もいます。こちらは少し有効かな?簡易組立椅子持参の方は多いです。カメラ撮影の方々は三脚を使うため腰の高さで小さな背もたれのついた椅子が便利なようです。
■気象条件
同じ種類の鳥でも気象条件が違うと飛び方を変えます。低気圧等の影響で波が荒い強風下と風が弱く波穏やかな日とでは全く飛び方が違います。
また、光線の当たり方でもかなり印象が違って見えます。海上は遮るものが何もないため日光の影響をもろに受けます。つまり、晴天下や曇天下、順光下と逆光下の場合の鳥の見え方を覚えておく必要があります。逆光であれば対象は暗く見えますし暗色の部分はほぼ真っ黒に見えます、反対に順光であれば下面の白い種類は非常に明るく光って見え、暗色の部分も反射で明るく見える可能性があります。また海面からの反射光も考慮する必要があります。この場合、暗色のミズナギドリ類でも下からの照り返しを受けると薄い色に見える傾向があります。
このように次々と変化する気象条件にも対応できる識別能力を習得しておく必要があります。
■羽衣
羽衣のバリエーションも覚えておかなければなりません。約20種類以上のアホウドリやミズナギドリ類には淡色型や暗色型などのバリエーションがあります。
例えばオナガミズナギドリなら淡色型、中間型、暗色型と3つのタイプがあります。次に年齢による羽衣の違いについて。大型のアホウドリ類で言えば完全な成鳥になるまで数年かかります。例えばアホウドリで見てみると完全な成鳥の羽衣になるまで8〜10年程度かかりますので、この間、年齢によってチョコレートブラウンの幼鳥から白色部分が次第に増え、頭が金色の成鳥になるまで段階的に違った羽衣が確認されます。
また、羽根が換羽したばかりで新鮮なものか、古くなって擦り切れたものか、などでもかなり色彩が違ってきます。本来明るい色彩をした鳥はからだや翼の羽根が古く擦り切れてくると暗い色になってきます。一方、本来黒っぽいまたは黒色系の色彩の鳥は羽根が古くなると脱色が進行して褐色味が強くなったり、薄い色に変わったりする傾向があります。
また換羽も頭に入れておく必要があります。翼の換羽が進んでいる場合、抜けた部分の形が変わって、さらに白い斑があるように見え、違う種類と誤認する可能性があります。オオミズナギドリでも換羽の時期は上面に非常に変わったパターンが出たりします。皆さんはお気づきだったでしょうか?
■飛び方
2008年9月 ハジロミズナギドリ 往路・復路とも出現場所は青森県尻屋崎沖 Field Noteから
ミズナギドリ類の見方の中で最も重要なのは「飛び方」による識別です。
このハジロミズナギドリは南半球オーストラリア東部タスマン海のロード・ハウ島、フィリップ島等で繁殖し、太平洋を大きく北半球まで周っていく種類で、日本では9月〜10月頃に出現の最盛期を迎える中型のミズナギドリです。特徴はジグザグの高低差がとても大きなダイナミックなソアリング(滑翔)を行うことです。最低地点で2、3回羽ばたく以外は右図のように翼を固めたまま飛翔し、おそらく10〜20m程度の落差で急上昇と急下降を繰り返します。この種類はかなり遠くからでも飛び方である程度目星をつけることができます。
皆さんがよく知っているオオミズナギドリは、強風下では丸く大きなソアリングをします。遠くから見ると大きな半円を描く感じです。このような飛び方をするのはオオミズナギドリだけです。
比較的よく見られるハイイロミズナギドリやハシボソミズナギドリは羽ばたきと滑空の決まったパターンがあります。「パタ、パタ、パタ、ツー」です。基本的な飛び方は羽ばたき3回+滑空です。ただし、強風下では翼を固めた全く違った飛び方をします。
また前述のオガサワラミズナギドリ、オガサワラヒメミズナギドリなどはほとんど滑空をせず、なぐことも無く、羽ばたきだけで海面上の低い位置を直線的にまっすぐ飛びます。これらの仲間は基本的に暗色の上面と白い下面の体色をしており、遠くから見るとこの飛び方は「白黒白黒白黒・・・」と点滅しているように見えます。このことから直線的な白黒の点滅はLittle Shearwaterの仲間だなとすぐに判ります。
このようにミズナギドリ類は種類ごとに様々な飛び方をします。「飛び方」で識別すると言っても過言ではありません。それぞれの種類の飛び方の違いが身につくまでしっかりと図鑑や専門書を読み込んでおく必要があります。
終わりに
参考文献
(2013-11-28掲載)
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