クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2025-03-19

独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

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第10回 Hoopoe、Grey Nightjar、Fairy Pitta、Black-naped Oriole <ヤツガシラ、ヨタカ、ヤイロチョウ、コウライウグイス>

2006年3月ヤツガシラのゼブラ模様はこんなケースで保護色として威力を発揮する。少し離れてご覧になるとその効果がよくわかると思います。

福岡県内離島 Field Noteから転記

目立つ冠羽がワサワサとしたオレンジ色の頭、やや下に湾曲した長い嘴、太い白黒のゼブラ模様。皆さんはヤツガシラのあの色彩・形は派手には見えても、地味に感じることはまずないと思います。

2006年3月福岡県内の離島、霧雨に煙っています。林道上で採餌する1羽のヤツガシラを発見しました。春の渡りでこの種類が出現するピークの時期です。毎年この姿を見て、春の到来を感じます。嘴でつまんだ餌を上に放り上げて飲み込む姿も愛嬌があります。突然ふと何かに驚いて背後の細かく枝を広げた枯れ木に飛び上がりました。と同時に姿が見えなくなってしまいました。まだ、そこに居るはずなのに急に姿を消してしまいました。

くすんだ淡いオレンジ灰褐色は遠目には枯れ木の肌の色に溶け込みます。白黒のゼブラ模様は細かい枝振りとその影に重なり、輪郭を消してしまいます。ヤツガシラのあの色彩はこんな時のためにあったんだと初めて気付かされました。それまで色も形も派手な鳥だなぁと思っていましたが、実はとても効果的な保護色だったのです。

ヨタカは皆さんもご存じの通り、保護色+擬態と手が込んでいます。ヤイロチョウは派手な鳥の代表格ですが、あの原色の色彩もジャングルのような暗い広葉樹林の中ではかえって目立たないのです。コウライウグイスのあのどギツイ黄色も暗い木々の繁みの中では同様に意外と目立ちません。

今回は日本国内では他に似た種類のいない、ヤツガシラ、ヨタカ、ヤイロチョウ、コウライウグイスに注目して説明したいと思います。

■ヤツガシラ

日本では通常繁殖しておらず、比較的珍しい部類に入りますが、世界的には北半球、ユーラシア大陸に広く分布する種類です。1属1種、他に仲間はいません。秋田県、岩手県、長野県、広島県で過去に繁殖の記録があります。九州北部では毎年3月〜5月にかけて主に観察されますが、早春3月末頃が渡りのピークです。春先にやって来るこのヤツガシラやオオチドリを見ないと新年度のスタートが切れないとお考えの方も多いと思います。秋、その他の季節にもまれに観察されます。もう何十羽も見てきましたが、運が無いのか一度も声を聞いたことがありません。名前にもなっている「フープー(実際はポポポポ)」という声を一度聞いてみたいと願っています。(巻頭イラスト参照)

■ヨタカ

夏鳥として山地に飛来します。「キョキョキョキョキョ・・・」と連続した鳴き声は夏の夜の風物詩です。また、春秋の渡りの時期は日本海側の離島や市街地の公園などで観察されます。私が学生時代、東京都内に下宿していた頃、秋にヨタカを探しに行く場所は、街中にある墓地でした。公園や墓地は住宅やオフィス街の中で緑の木々が繁るオアシスになっています。また墓地は適度に見通しが効き、樹木も小さく疎らで鳥を探すのに好都合でした。
皆さんはヨタカと言えばほとんどの方が昼間枝の上で薄眼を開けて身動き一つせずにじーっとしている姿を思い浮かべることと思います。ただ、正直に言いまして、それはヨタカを半分も理解していないと言わざるをえません。夜のヨタカを観察されたことがあるでしょうか?細長い翼や尾を巧みに使って非常に敏捷に昆虫を追って飛びまわります。尾を広げバランスを取りながら空中の一点に止まる停空飛翔も頻繁に行います。また一方ではヒタキ類のようにお気に入りの止まり木からフライングキャッチを繰り返すこともあります。懐中電灯の光を反射してピンク色に輝く、大きく丸く見開いた眼も魅力的です。「チリリリリ」といったかわいい声も出します。とても元気です!実はこれらが本来のヨタカの姿なのです。

■ヤイロチョウ

ヤイロチョウと言えば御池、御池と言えばヤイロチョウと言われるくらい、宮崎県御池(みいけ)は全国的にもその繁殖地として有名でした。「ホーヘン、ホーヘン」至近距離で聞くととても大きくてうるさい、ガラガラのだみ声です(聞きなしは「シロペン、クロペン」)。でも姿はこの世のものとも思えないほどの色とりどりの原色を纏っています。上手に観察すれば警戒心もそれ程強くなく、原生林の暗い林の中で何度も対峙することができました。しかしこのヤイロチョウが見られるのも過去のものになろうとしています。
昨年平成25年5月11日〜8月31日御池野鳥の森の一部区域の立ち入りが制限されました。私が通っていた三十数年前は多い年で同時に10羽以上が鳴いていましたので少なくとも倍の個体数はいたと思われます。過去6度訪問し5回観察できました。8割3分3厘の超高打率です!当時はキャンプ場も常設テントはあるものの規模が小さく、テン場内でもヤイロチョウ、アカショウビンやサンコウチョウを観察することがありました。今よりももっと鬱蒼と樹木が繁り、暗かったように記憶しています。シーズン中でも平日はほとんど人がおらず、観察小屋など使わなくても危機感を与えることなく、十分近くで見ることができたのです。
昔のことを考えるととても残念な気持ちになります。近年、御池を訪れるウォッチャーのマナーの悪さや撮影状況の酷さは聞き及んでいましたが、何故ここまでになってしまったのか、理解に苦しむところです。以前の環境を取り戻すたいへんな努力がなされているようですが、もとどおりになるには相当な年月が必要でしょう。
福岡県内英彦山でもある年には一日に7個体(可能な限り重複を避けて)の声を確認したことがあります。北九州市八幡東区河内貯水池でも5月渡りの時季に声を確認しました。2013年春は地元津屋崎でも春の渡りで通過中のその姿と声が地元バーダーによって確認・撮影されました。ヤイロチョウが繁殖できる環境をぜひとも残したいものです。
最後になりますが、仲間のズグロヤイロチョウの落鳥記録1例が南西諸島石垣島で記録されています。

■コウライウグイス

2006年5月コウライウグイス♂成鳥 姿を見るまで相当てこずった個体。2m弱の深さのブッシュで一日中鳴き、時折そこから突き出た松に登り降りを繰り返します。松に登っても幹近くを這うように枝移りするためなかなか姿を捉えられませんでした。帰りの船を2便遅らせて3時間粘ってようやく確認できました。強い日差しと蒸し暑さとの戦いでした。

福岡県内離島 Field Noteから

九州北部では春の渡りの遅い時期、5月中旬過ぎごろから6月上旬にかけて出現のピークになります。2012年春は個体数が多く、地元MFでは4月〜6月初旬まで入れ替わり立ち替わりおそらく4〜5個体が通過していきました。通常は繁みの中で鳴くことガ多く、その中を移動するため非常に見づらい種類ですが、一方個体によっては鉄塔や電線の目立つ所に止まって長時間派手に鳴くものもいます。また、松林を好むところがあり、私が通っている地元の離島では渡ってくると必ず小さな松林を通過します。
声に特徴があり、様々な鳴き方をします。「ポイピー、ポイピー」、「ホーピリョン、ホーピリョン」、猫に似た「ミャーオゥ」など二つと同じ声が無いのではないかと思えるほど、バリエーションに富んでいます。鮮やかな黄色と奇妙な声で通常はまず間違うことはありません。この美しい姿を見るためにはほんの少しの粘りが必要です。頑張ったときに目の前に現れてくれると思います。
北部九州であれば、島でなくても見られる可能性は十分にあると思います。渡りのときに高空を飛ぶことがあるようで、以前日本海側の離島で上空かなりの高さのところを羽ばたきもせずに気流に乗ったまま島に入ってくる姿を観察したことがあります。

終わりに

  • 今回ご紹介した種類はふだんなかなか見られないものばかりです。ただ、どの種類もとても美しく、特徴があり個性的です。バードウォッチャー垂涎の野鳥たちです。
  • これらの種類を見るためには、様々な工夫が必要です。ヤツガシラは時季をはずせませんし、意識して探せるものでもなく、いつも偶然出くわす感じです。コウライウグイスには時季と通常粘りが必要です。ヨタカの本来の姿を見るなら夜間探鳥の技術が必要になりますし、昼間でも発見には経験が必要です。ヤイロチョウは技術ではなく今や運頼みになりつつあります。どれも姿を見るために一筋縄でいかないところも魅力のひとつです。

参考文献

(2014-01-25掲載)

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