クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
total 
modify:2017-09-21

独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第11回 Auks<ウミスズメ類>

2010年1月 カンムリウミスズメ 生殖羽
この冬シーズン、イワシの大群が長期間にわたり接岸し、種類・個体数ともに過去に例が無いほどの海鳥が観察された。合計30羽程度のカンムリウミスズメの群れが出現。カモメ類、シロエリオオハム、ウミアイサ、ウミウなどが群れるベタ凪の海面で、4〜6羽の小群に分散し岸近くで潜水採餌を繰り返した。頸を伸ばして少し上を向くこの姿勢は特徴的。3月〜5月重なった岩盤の僅かな隙間などで繁殖する。九州では宮崎県枇榔島が世界最大の繁殖地として有名。他に宗像市沖ノ島、長崎県五島列島など。

福津市津屋崎 Field Noteから

2006年4月。小屋島(こやしま)は沖ノ島の南南東約1kmにある大きな岩礁。空がオレンジから紫色に変わり調査の時間を待ちます。日が暮れてくると、岩の割れ目のあちらこちらから声がし始めます。今回は宗像市のカンムリウミスズメ繁殖調査に参加。初めて沖ノ島・小屋島に渡りました。素っ裸で海につかる禊(みそぎ)も初体験。深夜になると大型の高速瀬渡し船が巨大なサーチライトを照らしながら次々とやってきます。この磯は釣りの世界では超1級の大物釣りポイントなのです。ここはクマネズミの侵入により危機的な状況を繰り返しています。岩場には大量の撒き餌のオキアミやその他のゴミなどが異臭を放っています。クマネズミはこれらを食べて長期間生きることができます。同岩礁では時期を違えて6〜8月の夏にヒメクロウミツバメが繁殖しています。こちらも数度の絶滅の危機を経ていますが、また別の機会にお話ししたいと思います。

それでは九州で記録のあるウミスズメ、カンムリウミスズメ、ウトウ、ハシナガウミスズメそしてヒメウミスズメについてお話しましょう。ウミスズメの仲間は北方系の種類が多いため、九州ではなかなか一般的ではありません。ただ、そのような中でも冬季にはウミスズメを見ることができますし、また沿岸の離島では前述のようにカンムリウミスズメが繁殖しています。

ウミスズメ類を陸地から観察する場合、荒れた海上で距離があることが普通であるため、じっくりと細部まで観察することは難しいと思われます。遠方から見つけるコツは潜り方をよく観察することです。ウミスズメ類の潜り方の特徴は、浮いているところから顔を海面につけて翼を半開きにし、そのまま沈み込むように潜水するところです。今までそこに浮いていたのに突然姿が消えるような感じです。カイツブリ類のように勢いをつけて翼を閉じてジャンプし潜るようなことは決してありません。ウミスズメ類は海中でカイツブリ類のように足で泳ぐのではなく、空を飛ぶときと同様に海の中でも翼を羽ばたかせて泳ぎます。また、飛翔から海面に着水したと同時にそのまま潜り込むのもウミスズメ類の特徴です。このように潜り方や行動からウミスズメ類を他の海鳥から識別することができます。遠距離からの識別にも有効です。

■ウミスズメ

北部九州でウミスズメが見られるピークの時期は3月です。年によって個体数が変化し、多い年は数百羽単位で観察できることもあります。通常はかなり沖合い、上下する波間にちらちらと見える程度で、寒風吹きすさぶ中、北風に涙を飛ばされながら観察することが多いのですが、ごく稀に港などに入ってくることがあります。こんな時は驚くほど近くで観察することができます。コロコロとした体つきと乳白色の小さく短い嘴が特徴です。生殖羽の場合、目の上から始まる鉢巻状の眉斑は通常不明瞭ですが、個体によってはかなりはっきりとしたものもいて眉斑だけでは冠羽を寝せているカンムリウミスズメと誤認される場合があります。また喉の黒色が上胸まで広がり、この部分がカンムリウミスズメとの識別ポイントになります。非生殖羽の場合は顔や喉が広範囲に白くなり眉斑も鉢巻状にはなりません。

■カンムリウミスズメ

福岡県では前述の宗像市沖ノ島・小屋島で繁殖しています。2010年1月地元津屋崎で合計30羽程の群れを岸から観察。セグロカモメ、ウミネコ、ウミアイサ、ウミウ、シロエリオオハムなどが浮いている隙間を4〜6羽の小群が数箇所で採餌を繰り返しました。岸近くでこれほどの群れを観察した経験はこれまでありません。セグロカモメなどを全く恐れずに泳ぎ回っていたのには驚きました。この年はイワシの大群が長期間岸近くまで押し寄せ、通常の種類に加えワシカモメ、ミツユビカモメ、ウトウ、シノリガモ等ふだん見られない多くの海鳥が観察されたシーズンでした。カンムリウミスズメの特徴は、生殖羽の場合、名前の通り冠羽があることです。嘴は青灰色で少し長めです。頸を伸ばしやや上方を向く姿勢をよくとります(巻頭イラスト参照)。この姿勢はカンムリウミスズメに特有なもので、かなり遠距離からの識別にも有効です。繁殖期は4月〜5月にかけて、岩の隙間に営巣します。GW対馬への往復航路などでは黒い雛を連れた親子の姿を観察することがあります。九州では宮崎県東臼杵群門川町にある枇榔島(びろうじま)が世界最大の繁殖地として有名です。また長崎県五島列島にも繁殖地が知られています。非生殖羽の場合は顔や喉が広範囲に白くなり、頭や体上面も全体的に薄い灰色になります。

■ウトウ

2010年2月津屋崎と筑前相島の間の海上で観察されました。生殖羽では嘴基部の突起、顔の二条の白線がはっきりとしています。頻繁に潜水採餌を繰り返します。1回の潜水時間が長く、また長距離を泳ぐことから、次に浮上してくる海面を予測できず、荒れた海面で追跡するのにたいへん苦労しました。九州や西日本ではかなり珍しい種類ですが、本州中部以北の海上ならごく普通に見ることができます。2013年5月には山口県見島でも観察されました。

■ハシナガウミスズメ(マダラウミスズメ)

2013年3月 ハシナガウミスズメ 非生殖羽

白い肩羽根が1年を通しての識別ポイント。イラストは尾羽を跳ね上げたスケッチだが通常はおろしていることが多い。頭の形やスタイル・大きさ等も特徴的。生殖羽ではからだ全体が褐色の複雑なマダラ模様をしている。目の周囲に白いアイリングがあるはずだが、遠距離逆光のためこのときは見ることができなかった。以前から九州北部でも記録があると聞いていたが、実際に見ることができたのはこの時が初めてだった。

福岡県内離島 Field Noteから

2013年3月に福岡県内の離島周辺の海上で観察されました。おそらくこの識別講座の読者のほとんどの方が初めて聞く名前だと思いますLong-billed Murrelet Brachyramphus perdix 現在は別種として分けられていますが、従来はマダラウミスズメの中にひとくくりにされていた種類です。サハリン、カムチャツカ、北オホーツク海、クリル諸島沿岸の森林地帯で繁殖し、冬季は日本近海に棲息します。両種は生態が少し風変わりで、繁殖環境として巨木が生い茂る広大な森林が必要です。巨木の樹上十数メートルの高さに営巣します。ハシナガウミスズメは非生殖羽では暗色の上面、白色の下面、やや長めの特徴的な形の頭と細長い嘴そして左右一対の大きく白い肩羽根の部分が特徴です。この識別ポイントはかなり遠距離からでも確認でき、1年を通して本種の同定に有効です。生殖羽では全身が褐色の複雑なマダラ模様をしています。個人的なことですが私は過去に計4度(うち生殖羽1回)観察していますが、地元九州では今回が初めて、世界的希少種を久しぶりに見ることができ、とても感動しました!(注)

■ヒメウミスズメ

本種は国内では静岡県駿河湾と沖縄県、大分県で過去3度の記録があります。通常は北大西洋から北極海にかけて相当数が棲息しています。詳細は不明ですが、北太平洋側にも一部が棲息している模様です。この中の個体が南下したのではないかと考えられます。

終わりに

北方の海域には他にもエトロフウミスズメ、シラヒゲウミスズメ、ウミオウム、コウミスズメなどのウミスズメ類、他にもウミバト、ケイマフリ、エトピリカ、ツノメドリなどの海鳥が棲息しています。これらの仲間は非常にユニークな色彩・姿をしたものが多く観察できるととても面白いのですが、主に冬季の太平洋航路に乗るか、北海道に行くかなどしない限りなかなか見ることができません。九州、特に日本海側に面した福岡県に住んでいると残念ながらこの辺りのとても魅力的な野鳥達に会うことができないのです。皆さんぜひ一度これらの海鳥観察にチャレンジしてみてください。探鳥の新しい世界が広がりますよ!!

(注)

Long-billed Murrelet Brachyramphus perdix ハシナガウミスズメ(マダラウミスズメ)

Marbled Murrelet  Brachyramphus marmoratus アメリカマダラウミスズメ

参考文献:

  • Birds of East Asia: Princeton University Press Princeton and Oxford
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: Collins
  • 国内におけるヒメウミスズメの記録くまたか外部サイト(PDF) 日本鳥学会誌52(2): 122 123
  • 静岡県の鳥類 (1998) 静岡県環境部自然保護課・静岡の鳥編集委員会三協印刷株式会社 静岡
  • 海鳥識別ハンドブック 箕輪義隆/著 兜カ一総合出版

2014-02-27掲載(「野鳥だより・筑豊」2014年5月号 通巻435号)

ご意見・ご質問はこちらへ

左矢印前へ  上矢印目次  次へ右矢印