クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第14回 Skuas <トウゾクカモメ類>

トウゾクカモメ

1982年5月 トウゾクカモメ成鳥♂淡色型
干潟に突然2羽が現れ低空を通過。サギ、カモ、カモメ、シギチドリすべての鳥が逃げまどい干潟から全て居なくなってしまった。頭上を悠々と通過する♂個体。トウゾクカモメの仲間はきれいに揃った羽衣の個体は非常に少なく、一部羽根が抜けていたり、ぼろぼろだったりするのが普通。

千葉県谷津干潟 Field Noteから転記

九州でトウゾクカモメなんて見られるの?と疑問視される方もいらっしゃると思います。実は数は少ないものの、オオトウゾクカモメ、トウゾクカモメ、クロトウゾクカモメ、シロハラトウゾクカモメ4種類全てについて福岡県内で記録があります。私も個人的にこれまで全4種を地元福岡県内や周辺航路上等で複数回観察しています。トウゾクカモメの仲間は飛翔力が強く、国内では北は北海道から南は沖縄・小笠原諸島まで、太平洋・日本海を問わず、近海・沖合、様々な場所で季節を問わず出現します。

「トウゾク(盗賊)」という名前が物語っているようにこれらトウゾクカモメの仲間は他のカモメ類を執拗に追いかけ、胃の内容物を吐き出させ横取りしたり、また他の鳥が捕まえた餌を空中で奪い取ったりする習性を持っています。太平洋航路宮城県金華山(きんかざん)沖はトウゾクカモメ類が多数生息していることで有名で、このような海域に行くと前述の「盗賊行為」をしばしば観察することができます。台風通過後などに湾内に入ってきた個体を見る場合もあります。トウゾクカモメ類は北半球・南半球のほぼ全域にわたって分布しています。英語圏と米語圏では呼び方が違い、英名ではSkua(スキュア)、アメリカ読みはJeager(イェーガー)と呼ばれています。

それではトウゾクカモメ類4種について見ていきたいと思います。

オオトウゾクカモメを除くトウゾクカモメ、クロトウゾクカモメ、シロハラトウゾクカモメの3種は羽衣や体色の色彩パターンがよく似ており識別において比較検討が必要な種類になります。それぞれ淡色型、中間型、暗色型の3種類のタイプがあります。また、特徴としては中央尾羽一対の形状が独特で、トウゾクカモメは捻じれたスプーン状(巻頭イラスト参照)、クロトウゾクカモメは短く尖った形、そしてシロハラトウゾクカモメは長く伸びた鞭状になっています。但し、成鳥で全身の羽毛がきれいに揃っている場合に限ります。ただ実際は、羽先が擦れていたり、ところどころ抜けていたり、ぼろぼろだったりという場合が多く、図鑑に載っているような100%綺麗に揃った羽衣をしている個体を観察するケースは少ないと考えておいた方がいいでしょう。また幼羽の場合も注意が必要です。最も特徴的な中央尾羽が無い場合の識別を意識しておかなければなりません。

■オオトウゾクカモメ

トウゾクカモメ類3種はどれも北極圏周辺のツンドラ地帯で繁殖しますが、日本で見られるオオトウゾクカモメSouth Polar Skuaだけは南極周辺で繁殖し北半球まで北上してきたものです。他の種類は基本的に季節を問わず出現しますが、このオオトウゾクカモメには出現のピーク時期があり、太平洋航路などで日本では夏の6〜8月頃によく観察されるようです。胴体が非常に太く、翼も幅広く大きく、全体的にとてもどっしりとした印象です。飛んでいるところを見ることが多いと思いますが、実寸以上に大きく感じます。初列風切基部の白斑も大きく明瞭で遠距離からでも非常に目立ちます。羽衣は基本的に全身褐色で以下3種類のようなタイプ別はありません。

■トウゾクカモメ

トウゾクカモメ類については、羽衣の似たトウゾクカモメ、クロトウゾクカモメ、シロハラトウゾクカモメ3種類について比較してみたいと思います。これらには前述しましたとおり、それぞれ淡色型、中間型、暗色型の3タイプの羽衣があります。成鳥できれいに羽が揃っていれば、中央尾羽の形状が最も有効な識別ポイントになります。ただし通常は翼や尾の羽は痛んでぼろぼろだったり、ところどころ抜けていたり、擦り切れていたりするケースがほとんどです。トウゾクカモメは3種の中で最も大きくウミネコと同大(実際はより大きく感じる)。胴が太くがっしりとした体格。嘴も太く長い。初列風切基部の白斑は大きく、さらに初列下雨覆基部も白くなるため、翼下面には二列の大きな白斑があるように見える。上面の外側初列風切の白い羽軸は明瞭で5〜6本またはそれ以上確認できる。中央尾羽の形状は捻じれたスプーン状をしており、非常に特徴的。(巻頭イラスト参照)

■クロトウゾクカモメ

1982年9月 クロトウゾクカモメ 成鳥冬羽?個体。台風や低気圧通過後などに湾内で観察されることがある。図鑑と色彩が合致する羽衣をした個体は少ないと考えた方がよい。

千葉市幕張 Field Noteから転記

右図はクロトウゾクカモメ(成鳥冬羽?個体)。全身が褐色の複雑な模様。この個体のように年齢別や淡色型〜暗色型のタイプ別による様々なケースがあるため、識別が難しい場合が多い。大きさもオオトウゾク≒セグロカモメ、トウゾク≒ウミネコ、クロトウゾク≒カモメ、シロハラトウゾク≒ユリカモメ、こういった種類のカモメ類と大きさはほぼ同じだが、長く幅広い翼や太い胴体、長めの中央尾羽などの影響で単体で見るとトウゾクカモメ類の方が実寸より大きく感じる場合が多い。オオトウゾクカモメを除くトウゾクカモメ類3種の識別については、特に場数や経験を数多く経てできるだけたくさんの個体を観察することが大切だと考えます。クロトウゾクカモメはカモメとほぼ同大ですが、翼が長く、胴が太くがっしりとした印象はより大きく感じます。上面初列風切の白い羽軸は5〜6本が明瞭です。下面初列風切基部の白斑は明瞭。中央尾羽はやや長く突出し先が尖った形状です。クロトウゾクカモメは3種の中でちょうど中間的な大きさのため、迷う場合があり、中央尾羽が無い場合など、体型的にも似ているトウゾクカモメとの識別が難しくなります。

■シロハラトウゾクカモメ

3種の中では最も小さくユリカモメと同大。中央尾羽は長く伸びる。嘴は小さく細く、胴も細くスマートな体型。淡色型成鳥が飛んでいる姿はとても美しく優雅な感じがします。翼は長く他の種のような初列風切基部の白斑はありません。但し、幼羽の場合は小さな白斑あり。上面の初列風切白い羽軸は最外側の2〜3本が認められる程度です。

■トウゾクカモメ3種比較表

大きさ・胴太さ中央尾羽初列風切基部白斑上面初列羽軸数嘴の形状
トウゾクカモメ
3種中、最も翼は幅広く胴体は太くぼってり見える捻じれたスプーン状大きく目立つ。初列雨覆基部にも白斑があり二列になる5〜6本の白い羽軸が確認できる太く長く頑丈
クロトウゾクカモメ
胴体はやや太い尖った棒状初列基部白斑は大きく目立つ5〜6本の白い羽軸が確認できるやや太く頑丈
シロハラトウゾクカモメ
非常に細くスマートな体型細くかなり長い鞭状ほとんど無い(幼鳥は小さい白斑)外側2〜3本が確認できる程度小さく細い

終わりに

  • 上記3種の幼羽はどれも全身褐色の複雑な模様をしています。また最も特徴的な中央尾羽は伸びておらず、この識別ポイントは役に立ちません。この幼羽の場合は、前述の体格、初列基部の白斑、上面初列風切羽軸本数などで識別します。
  • トウゾクカモメ類は通常太平洋側外洋航路や伊豆諸島、小笠原諸島航路で見る機会が多いのですが、日本海側でもしばしば目撃されています。様々な離島航路などで出現する可能性がありますので心の準備が必要です。
  • また個人的なお話です。私の記念すべき300種目のライファーは十数年前に地元の離島航路で見たシロハラトウゾクカモメ成鳥6羽の小群でした。頭上、手の届きそうな低空を悠々と飛んでいきました。もちろん船上の鳥仲間達(全員十分に経験を積んだバーダー)でさえ驚きと喜びで大パニックでした!シロハラトウゾクカモメについては2年前にも地元周辺の離島航路(日本海側)で成鳥と幼鳥に再度遭遇することができました。

参考文献

  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 1988年5月10日発行 初版第10刷 (公財)日本野鳥の会
  • 海鳥識別ハンドブック 箕輪義隆/著 (株)文一総合出版

2014-05-09掲載

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