クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-21

独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第15回 Teals & Speculums<小型カモ類と翼鏡>

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2013年12月 トモエガモ2♂1♀とマガモ3♀ やや離れて薄目で見るとトモエガモ♂のからだ前後にある2本の縦線が目立つのがわかる。遠方からの識別ではこの2本線が特に有効なポイントとなる。黒い下尾筒や長く伸びる三列風切も比較的よく見える。一方最も特徴的な黄色と緑色の♂の特徴的な顔のパターンは遠くからや曇り・雨の日などははっきりとわからない場合が多い。♀の嘴基部の丸い白斑は小さいながらも遠方からでもよく見え、識別ポイントとして有効。♀は全身褐色だが顔のパターンや頭の形は♂を連想させる。

福岡市西区今津 Field Noteから転記

先日ある支部の探鳥会。リーダーが「トモエガモがいますよ。皆さん見てくださーい!」と叫んでいます。参加者の方々は次々にスコープで探しています。「わーっ、いたいた」「かわいー」歓声が上がります。しかし、一部の方々は見つけられない様子で複雑な顔をされています。リーダーも「ほら入っていますよ」と極東に生息する希少なカモをぜひ見せようと懸命です。それでもスコープの中を探す瞳がさまよっています。もう一度リーダーが覗きます。「やはり入っていますけどねぇ」こんな会話が繰り返されます。

このような状況を読者の皆さんはどのようにお考えになるでしょうか? これは決して参加者の方の見方が悪いのではありません。状況に応じた鳥の見方がまだできていないためです。教える側もその心構えが必要だと思います。

■小型カモ類の識別

このケースで参加者の方がスコープの視野の中で何を探しているかというと、トモエガモ♂のあの巴模様をした特徴ある「黄色と緑の顔」だけを一生懸命探しているのです。リーダーも黄色と緑の派手な顔を見つけてくださいと説明しています。そうして「いるはずです」「わからない」このやりとりが繰り返されている訳です。私がスコープを覗かせてもらうとやや遠めで数がたくさんいて少しごちゃごちゃとしていますが、マガモとトモエガモの2種類だけが浮いています。大きさは全く違います。それでも参加者の方はトモエガモを認識できないのです。
では何故認識できないのでしょうか?鳥までの距離が近く順光の場合はどのカモも特徴のある色彩の♂を探せば十分です。しかし対象が遠くにいる場合は近くで見るときと違った見方をする必要があります。
このケースではトモエガモ♂の黄色と光沢のある緑色の顔の模様は実際見えないのです。特に天候が曇りや雨の場合や光線の角度が悪い場合など(冬はこちらの場合が多い)は、黄色は目立たず彩度のない薄い色に、また緑色も光沢がなく黒く見えますので、実際にはモノトーンまたは褐色の濃淡だけの顔に見えるのです。このために「黄色と緑の顔」つまり色彩だけを一生懸命探していると、たとえたくさんのトモエガモが目の前にいても意識の上で認識することができなくなります。リーダーの方はこういったことも頭に入れておく必要があります。

■識別ポイント

では、トモエガモを遠距離から何を手がかりに探すのかというと、♂の場合は胸と下尾筒の直前にある白線です。水面に浮いている姿を真横から見た場合、前と後ろにタテの白線が2本並んだように見えます(巻頭イラスト参照)。このタテの白い2本線のある個体を探します。この2本線は他のカモ類にないトモエガモ♂だけの特徴です。この線は遠くからでもはっきりと見えます。もともと白色ですから見え方は天候にもあまり左右されません。顔の模様で探すよりもこちらの方が識別ポイントとしてずっと有効なのです。またトモエガモと大きさがほぼ同じ種類は日本国内では他にコガモ、シマアジの2種類だけです。通常、冬シーズンにはシマアジはいませんので大きさで注意すべきはコガモだけになります。コガモ♂にはこの縦の線はありません。肩羽最下段の羽根が白く、太い横一本の白線になります。
要するにトモエガモ♂の場合は「大きさ + タテの白い2本線」で探せばよいのです。♂が見つかればそのそばにいる同じ大きさの地味なカモが♀の可能性が高くなりますが確認作業は必要です。トモエガモの♀の特徴は口元(嘴の付け根)の丸い白斑です。小さくても周囲が黒っぽいのである程度距離があってもスコープや双眼鏡ではっきりと確認することができます。
これらの方法で一度姿を捉えることができれば、後はトモエガモを次々に認識できるようになります。また、特徴も見えるようになってきます。最初は小さくて見えないと言っていた♀の嘴基部の丸い白斑も一度これを自分の目で捉えられるようになれば、不思議とはっきりと見えてくるのです。星を観察される方はご存じですが、小さなものを見るときは視線をほんの少しずらすと見えやすくなります。

■翼鏡(よくきょう)

次に飛んでいる場合の識別方法についてお話したいと思います。皆さんは水面にゆったりと浮かんでいるカモは一生懸命観察されますが、いったん飛び立ったカモについては双眼鏡で追うことがあまりないのではないでしょうか?野鳥観察の視点から申し上げるとそれは本当にもったいないことなのです。飛んでいるカモ類の識別は主に大きさと翼鏡(よくきょう)を見ます。
翼鏡とは特にカモ類の次列風切の部分を指し、種類ごとに特徴的な色彩と模様をしています。これだけで飛んでいるほとんどのカモ類を識別できるといっても過言ではありません。
羽ばたいている鳥の翼の模様を確認するなんて自分には無理だと言われる方もいらっしゃるでしょう。カモ類は体の重さに比べて翼が小さく短いため、常に高速で羽ばたいています。羽ばたきが速ければ速いほど人間の目の錯覚である残像現象によって止まったように見えるのです。つまり翼鏡(よくきょう)によるカモ類の識別は実際にやってみると意外と簡単でとても有効な手段だと言うことができます。
では、トモエガモの識別に戻ってお話ししましょう。前述しました通り、トモエガモと同大のカモ類は国内では他にコガモとシマアジだけです。ではこの3種の翼鏡に絞ってみてみましょう。翼鏡は中央の太い帯の配色とそれを前後に挟む二条の線の色彩と形状に注目します。

■3種の翼鏡比較(雌個体の場合)

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種 類翼鏡中央の色翼鏡前縁の線の形状翼鏡後縁の線の形状その他

■トモエガモ

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光沢のある緑色だが僅か。

黒い部分が多い
やや太いが褐色で同じ褐色の雨覆との差が無く目立たない

やや細い白線

白線は次列風切後縁に1本のみ

♂は褐色の三列風切りが長く伸びる

■コガモ

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光沢のある緑色 外側は黒くなる白色で内側に少し褐色味がある 外側に向かって太くなる 雄は特にこの傾向が顕著

普通の太さの白線

前が太く後ろが細い2本の白線 ♂は特に顕著

♂の下尾筒は黒に囲まれた黄色

■シマアジ

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濃い灰褐色 緑色味は無い

やや細い白線

普通の太さの白線

ほぼ同じ太さの2本の白線

♂雨覆い青灰色で目立つ ♀雨覆いやや薄い灰褐色
♂の夏羽は特徴のある色彩

それぞれの翼鏡の特徴がわかると思います。実際に観察してみると思った以上にこの翼鏡はよく見えます。また非常に迷いやすい上記3種の♀の識別についても翼鏡による識別はかなり有効です。ほとんどのカモ類が翼鏡だけで識別可能です。図鑑のカモ類には必ず飛んでいるイラストが描かれていますので実物を見比べながら勉強されるといいと思います。

終わりに

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2005年10月 シマアジ 左♀、右♂エクリプス シマアジの特徴は顔の独特な模様、細長い嘴と雄は青灰色の雨覆など。秋の♂エクリプスは♀によく似た色彩をしているが、雨覆は1年中大きく美しい青灰色で、薄い灰褐色の♀と区別できる。

福津市 Field Noteから

  • 今回はトモエガモの識別からカモ類全般に通じる「翼鏡(よくきょう)による識別」まで話が発展しました。この識別方法はカモ類を見る時にはとても役に立ちます。飛び立ったあとも気を抜かずにぜひ実践してみてください。美しい翼鏡が必ず見えてくるはずです。
  • 通常組み合わせる要素が多ければ多いほど正確な識別が可能になります。と同時に難易度はUPします。最初は顔のパターン、次はプラス翼鏡、その次はさらにプラス別の識別ポイントと徐々に増やしていきます。日頃の訓練と意識付けでこれらのことが同時にできるようになります。
  • 識別ポイントは常に同じとは限りません。ケース・バイ・ケース、臨機応変に対応することが大切です。

参考文献

  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd.
  • Birds of Europe with North Africa and the Middle East 1992 Lars Jonsson: Christopher Helm A & C Black・London
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 1988年5月10日発行 初版第10刷 (公財)日本野鳥の会

2014-06-10掲載

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