波多野邦彦
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第16回 Rails and Crakes <クイナ類>
2010年4月ヤンバルクイナ成鳥
昼夜を問わず大声でよく鳴き、林の中、地面付近を「キョーッ!」という鋭い声がかなりのスピードで移動していくことが多かった。原因がこの鳥であることを知らないとオカルト的で結構怖いと思う。同じ成鳥でもイラストのように下尾筒がベージュの個体とそうでないものがある。警戒心はそれほど強くなく、性格は非常におっとりとした感じ。国道脇で採餌する姿をよく観察した。
沖縄県北部ヤンパル Field Noteから
W大学生物同好会の部室。鳥班の本棚には私が生まれる前からのフィールドノートが並んでいました。1970年代前半のあるページには現地で拾得したオオクイナの翼の羽根(片側一揃い)がきれいに貼り付けてあります。拾得場所は沖縄県本島北部(やんぱる)・・・!?
ここまでで気付かれた方はかなりの勉強家でしょう!クイナ類の基礎知識のひとつ、当時沖縄本島には基本的にオオクイナは生息していなかったのです(現在は確認されています)。実はこの羽根、ヤンバルクイナのものだったのです。その後1981年末、山階鳥類研究所により新種の鳥類として発表されました。一方、さらに年数を遡ること14年前の1967年にイリオモテヤマネコが新種の哺乳類として発表されています。このときも同様にこれより以前の鳥班のフィールドノートにOBの方が西表島の現地の方々から聴取した「ヤマピカリャ」(イリオモテヤマネコの現地の呼称)の記述があります。学生時代に所属した同好会の大先輩方が新種として公式に発表される前の鳥類・哺乳類にあと少しのところまで肉薄していた記録です。ロマンですー!!
鳥類や哺乳類の新種発見は我々一般人には到底叶わない夢ですが、国内初記録ということであれば手が届くところではないでしょうか?
日本ではこれまで、クイナ、ヒクイナ、ヒメクイナ、シマクイナ、シロハラクイナ、オオクイナ、ツルクイナ、ヤンバルクイナ、コウライヒクイナ、ミナミクイナ(ハシナガクイナ)、コモンクイナ、ウズラクイナ、オオバン、バンそして絶滅したマミジロクイナの15種類のクイナ類が確認されています。どちらかと言えばふだんそれ程見る機会の多くないマイナーな種類だと思いますが、記録された種数は意外と多いのではないでしょうか。バン、オオバンについては別の機会にお話ししたいと考えています。
■クイナとヒクイナ
今回のクイナ類の中で最もポピュラーなのがこのクイナとヒクイナ。九州北部ではこのクイナは冬鳥、ヒクイナは1年中見ることができます。生息環境はほぼ同じで湿地、水田、クリークなど。
「コンコンコンコン・・」というヒクイナの声は古くから「クイナのたたき」と呼ばれています。
■ヒメクイナ
数少ない夏鳥として関東地方北部以北に渡来し繁殖します。その他の地域では旅鳥または冬鳥。ヒクイナよりもさらにひとまわり小さな種類です。上面は黄褐色の地に複雑な小白斑があります。顔から下面にかけては淡色。雄夏羽は青灰色になります。九州では秋の渡りの時期などに水田の畝を一本一本丁寧に探せば見られることがあると人から聞いたことはありますが、個人的にはこの方法での実績がなく、ベターな探し方かどうかわかりません。九州では越冬個体を観察したことがあります。
■シマクイナ
全長約13cmの非常に小さなクイナ類。全身が暗褐色で上面に細かな白線が散らばります。冬鳥として全国に記録がありますが、東北以北やその他地域でも夏季・繁殖期に声や姿が確認されており繁殖している可能性があります。ほとんど水の無い湿地などでカイツブリに似た「ケレレレレレレレレ・・・」と鳴く声は本種であると聞いたことがあり、福岡県内や長崎県内の離島などでこの声を確認していますが、他のクイナ類でも同様の声を発するようで、本種の同定までには至っていません。個人的に直接聞いた北部九州の情報としては過去に小倉南区曽根の水路で死体拾得、冬季大分県女島干拓地で丈の短い刈田から短距離を飛んだ姿を確認したというこの2例のみです。
■シロハラクイナ
2004年2月シロハラクイナ雄成鳥
山口県長門市 Field Noteから
2004年頃、山口県長門市にある林に囲まれた小さなハス田には4〜5羽のシロハラクイナが繁殖していました。溜池程度の大きさだったが冬季には他にクイナ、ヒクイナも見ることができました。狭い車道のすぐ脇、数メートルの所に営巣していて、驚くほどの近さでした。右のイラストも車窓からスケッチしたもの。繁殖期には真っ黒な小さな雛も観察できたようです。理由は不明ですが、数年後には見られなくなってしまいました。こういった野鳥の楽園のような場所がどんどん無くなっていくのはとても寂しいことです。シロハラクイナは国内では通常奄美大島や琉球諸島などで繁殖しており、個体数も多くごく普通に見られる種類です。渡りの時期には全国で記録があります。顔から下面が白く、上面は緑色の光沢がある黒褐色、下尾筒はオレンジ褐色、嘴は鮮やかな黄緑色で基部は赤味のある濃いピンク色をしておりとても美しいクイナ類の一種です。
■オオクイナ
2014年1月オオクイナ雄成鳥
石垣島ナイトウォッチングで樹上に休む個体を観察した。森林性のクイナ類。鮮紅色の虹彩が印象的。足は青灰色。濃いオレンジ色の頭・顔・上胸、淡青緑色の下嘴、クリーム色の喉、白黒模様の胸・腹、赤褐色の背など南国的な色彩が美しい。
石垣島 Field Noteから
1980年3月初めての南西諸島遠征。石垣島の鬱蒼としたジャングルの中に佇む竹島農園。おじさん、おばさんと野鳥談義をしながら、小さな庭に面した縁側に腰掛けてお茶を飲みながら出現を待ちます。さりげなく置いてある写真は何と手乗りリュウキュウアカショウビン。驚いてそのままひっくり返ってしまいました。この農園の探鳥の目玉がオオクイナとキンバトでした。キンバトは庭に撒いてあるニワトリ(セイロンヤケイかと思われる程、立派なヤツだった)用の餌をついばみにやって来ます。周囲の薄暗いジャングルの中から音も立てず突然降ってくるように飛来します。エメラルドダブ(Emerald Dove)。宝石のように緑色に輝くからだの色彩からこう呼ばれますが、非常に小さくて美しいハトです。雄、雌、幼鳥が次々に飛来します。キンバトに見とれているとき、視界の隅、バックグラウンドの暗い茂み奥の地上を素早く走る影が一瞬眼に入りました。「オオクイナだ!」と思った時はもう既に遅かった。この時を最後にオオクイナとは何故か全く縁がなくなってしまいました。ここ数年宮古島に見に行かなければと考えていましたが、幸運にも今年最初の石垣島・西表島遠征でその姿を確認することができました。しかも至近距離でじっくりと!!実に34年ぶりの再会でした。
■ツルクイナ
前記1980年3月の南西諸島遠征・西表島で雄成鳥夏羽を複数個体同時に観察することができました。祖納部落の湿地で灰紫色のからだに赤く大きな額板が発達した4〜5羽の雄成鳥夏羽が草原の中からポツポツと頭を出しています。雨上がりの黄緑色の草の生えた中に紫色の本種が点在する情景がとても美しかったのを覚えています。渡りの時期には旅鳥として全国各地で観察されており、地元津屋崎でも2012年秋に観察されました。また越冬個体が観察される場合もあり、福岡市西区今津では2009年越冬し、多くのウォッチャーの目を楽しませてくれました。雌や第1回冬羽の個体は全身が黄褐色で背は羽軸が焦げ茶色をしており鱗模様のようになります。
■ヤンバルクイナ(巻頭イラスト参照)
巻頭のイラストは県道沿いの道路脇で自身初めて確認した個体。警戒心が弱く、自動車がすぐ近くを走りすぎてもあまり驚く様子もありません。交通事故で多くの個体が毎年命を落としてしまうのも頷けます。本年2014年は6月末までに27羽が交通事故で死んでいます。環境省発表の推定個体数は2012年度が約1,500羽。発見直後の1985年には1,800羽以上が棲息していたので、27年間で300羽以上が減少した計算になります。ヤンバルクイナがこれからも安心して棲息できる環境を何としてでも守っていかなければならないと考えます。
■その他のクイナ類
コウライヒクイナ<北海道・渡島大島>、ミナミクイナ(ハシナガクイナ)<沖縄県・金武町>、コモンクイナ<沖縄県・金武町>、ウズラクイナ<京都府・巨椋干拓>どの種類も国内で1度だけ観察されています。それぞれ色彩や形に特徴があり、たいへん美しいクイナ類。
マミジロクイナはかつて硫黄島に生息していましたが、1925年の観察記録を最後に絶滅したものと考えられています。現在は別亜種が太平洋の島々に分布しており、往時の姿を想像することができます。
他にセイケイの記録が神奈川県、和歌山県、沖縄県にありますが、どれも「かご抜け」とされています。
終わりに
<参考文献>
◇今年(平成26年)のヤンバルクイナ交通事故確認地点マップおよび状況(平成26年7月5日現在)(PDF)
2014-07-11掲載
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