クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第17回 Eagles and Hawks <ワシタカ類>

1995年12月カタシロワシ幼鳥 飛翔時の色彩は上下雨覆、頭から体全体が黄褐色、翼・尾は黒褐色で特徴的。内側初列風切が抜けたように薄く見える。胸の羽が毛羽立ち縦斑状になっている。成鳥は肩羽の一部だけが白い。蛇足ですが名前は濁らず「カタシロワシ」英名Eastern Imperial Eagle

鹿児島県薩摩川内市高江 Field Noteから

2014年5月春の見島。萩港乗船開始前から詳しい現地情報が次第に入り始めます。今のところ超目玉種はいないようです。情報のひとつに「オジロワシorカタシロワシ?がいる」というものがありました・・。この情報を聞いたときに皆さんはどういうふうにお感じになられますか?「やったーワシを見られる!」「確かにこの2種類の識別は難しいかも?」「同じワシだけどどこが違うのだろうか?」「よく似てるよね!」「どっちが出ても嬉しい!」なんてお考えになるかもしれません。何人もの方が結構平気で同じ質問をしてきます。何とも思わないのかな!?不思議な感じです。ここで大切なのはこの情報を言葉どおりすんなり受け入れられるかどうかということなのです。

私はこの情報を聞いたときにとても奇妙な感じを受けました。何故かというとその理由はこの2種が自分の中では決して比較対照する種類ではないからなのです。たぶん皆さんは同じワシタカ類だから迷っても構わないとお考えかもしれません。しかし、ワシタカの識別においては、この2種類を比較すること自体あり得ないのです・・・。

このことがどういうことなのか説明していきたいと思います。

ひと口にタカ目(ワシタカ類)といっても、ミサゴ属、ハチクマ属、カタグロトビ属、トビ属、オジロワシ属、クロハゲワシ属、カンムリワシ属、チュウヒ属、ハイタカ属、サシバ属、ノスリ属、イヌワシ属、クマタカ属といった仲間に分けることができ、それぞれの属に含まれる種類はほぼ共通した特徴を持っていることを覚えておいてください。同じ属の中であればまだ理解できるのですが、冒頭のように「オジロワシorカタシロワシ?」という疑問は完全に属の枠からはみ出しています。これはオジロワシ属とイヌワシ属といったグループ毎の特徴をよく理解できていないことが原因になっていると思われます。まずはそれぞれの属にはどういった特徴があり、どんな種類のワシタカ類がいるのか勉強してみましょう。

本講座第1回ではワシタカ類の中でもハイタカ属(Accipiter)についてお話ししました。今回は同様の括りでワシタカ類全般の見方について主にお話ししたいと思います。皆さんはどんなところに注意してワシタカ類を観察されているでしょうか?野外識別においても、シギチドリ類やムシクイ類と並んで識別の難しい範疇に入っているようです。それではワシタカ類の見方や識別方法について勉強していきましょう。前述の代表的なものについてそれぞれの属の特徴を説明していきます。

■ミサゴ属

ミサゴのみ。100%魚を餌にしている大型のタカ類。体ごと水中に突っ込んで魚を採る。体型はスマートで、翼は細長く尾は短い。魚の身を引き裂くために嘴は鉤型で大きく曲がり、しっかりと掴むために足指の爪も太く鋭い。大きなゆったりとした羽ばたきと帆翔を交互に交え軽々と飛ぶ。大柄な割りに停空飛翔なども頻繁に行い、高空から水中にいる魚に狙いを定める。樹上や電柱などにとまっていることが多い。英名はOspreyオスプレイ。皆さんもご存じのV−22新型輸送機はこのタカの名前が由来。

■ハチクマ属

ハチクマのみ。スズメバチを餌としている大型のタカ類。胴体は長めの紡錘型、翼は幅広く長い。尾は長く円尾。地面を掘ってスズメバチの巣を破壊し幼虫をつまみ出して食べるため、足は長く、爪はそれほど鋭くはない。顔は板状のウロコで覆われている。飛翔形はトビに似ている。翼前縁から前に突き出した首が長く見える。ゆったりとした羽ばたきと帆翔を交互に繰り返す。上昇気流を上手く使った飛び方をする。群れで鷹柱を作ることもある。東南アジアから日本まで長距離の渡りをするタカとして有名。全国で繁殖する。雌雄、成幼鳥など体色に変化が多い。

■オジロワシ属

1995年11月オジロワシ幼鳥
北九州市小倉南区曽根で観察したオジロワシ幼鳥。数十分の滞在後、上空を通過し小倉南区紫川中流域に至りそこに棲みつき越冬した。

北九州小倉南区曽根 Field Noteから

国内ではオジロワシ、オオワシ、ハクトウワシの3種類。魚を主食としている大型の海ワシ類。首が太く翼前縁から長く突き出る、嘴は長大、体も大きく胴回りが太くがっしりとしており腹部が膨らんだ紡錘形、翼も非常に大きく幅広(前2種は特に後縁が膨れた形)で長い。尾はやや短く楔形。特にゆったりとした羽ばたきと帆翔を交えた飛び方。同じく魚を採るミサゴとは違い、水面に浮いた弱った魚やその他の動物の食べ残しなどを掠め取る。
九州には冬季しばしば南下し各地で記録がある。近年、長崎県対馬では毎冬、このオジロワシとオオワシが越冬しているのがよく知られている。

■クロハゲワシ属

1983年2月クロハゲワシ幼鳥
超巨大なワシ。十数羽の群がるトビを引き連れて悠然と帆翔する姿は王者の風格がある。トビも国内産ワシタカ類の中では大型の部類に属しているがご覧のとおり、1/4程度にしか見えない。数十分間飛翔する姿を観察したが地上に降りる直前まで一度も羽ばたかなかった。実際には、翼後縁はもっとボロボロだった。右のトビは高度が低いためやや大きく見える。向かって左のトビがクロハゲワシとほぼ同じ縮尺。韓国ではかなりの個体数が越冬している模様。

茨城県七会村(ななえむら)塩子 Field Noteから転記

日本産ワシタカ類中最大の種類。右イラストは現在廃刊となった有名なスクープ週刊誌F誌にも掲載された個体。現地に到着する前、かなり遠くから十数羽のトビを従えて悠々と帆翔する姿が視界に入ってきた。「巨大」という言葉はこの鳥のためにあるんだなと実感する。山間部の養鶏場に棲みついたため、経営者の方がにわとりを餌として1日2羽丸ごと与え、付近を立ち入り禁止にし、監視員も1人つけて大切に保護していた。全長100cm超、翼開長は300cm近くあり、翼が幅広いため飛翔中は特に巨大に見える。尾は短くやや凸尾。全身黒褐色で頸には襟巻状の羽毛がある。幼鳥は頭部に羽毛が生えており黒色。嘴基部と足は淡ピンク色。基本的に小さな鳥が好きだが、たまには巨鳥観察もgood!!

■チュウヒ属

チュウヒ、ハイイロチュウヒ、マダラチュウヒ、ヨーロッパチュウヒ、ウスハイイロチュウヒが記録されている。ネズミや小鳥類を捕食するスマートな中型のタカ類。翼や尾が細長くアシ原上を獲物を求めてゆったりと飛ぶのに適している。帆翔するときの翼は前から見ると両端が反り上がったV字に保たれている。たまに高空を帆翔する場合がありこのような時は注意を要する。地上や低い潅木類にとまることが多い。チュウヒは通常冬鳥または留鳥で本州中部以北で繁殖する。一部九州北部や西日本でも繁殖が確認されている。ヨシ原を塒(ねぐら)とするため開発などによる影響を受けやすいところがある。(「第7回 Harriers<チュウヒ類>」参照)

■ハイタカ属

オオタカ、ハイタカ、ツミ、アカハラダカ。最大のオオタカでハシボソガラス大の小型〜中型のタカ類。基本的に上面が暗色、下面は白っぽい色彩をしている。小鳥を主に捕食するタカ類で、短く幅広の翼と長い尾を器用に使った高い旋回性能によりスピードのある狩りをする。枝の繁った林の中を獲物を追って自在に飛ぶことができる。樹木の頂上ではなく、ブッシュや潅木の中にとまることが多い。アカハラダカは少し変わっており、林縁で待ち伏せし、両生類・爬虫類・昆虫・ミミズなどを捕食する。(「第1回 Accipiter<アクシピター>」参照)

■サシバ属

サシバのみ。夏鳥として本州、四国、九州に飛来し繁殖、南西諸島では越冬する。スマートな中型のタカ類。夏の里山で最もよく見られる。ヘビ、トカゲその他爬虫類、両生類、小鳥や昆虫なども捕食する。高い木の頂上で餌が現れるのをじっと待ち伏せする。飛翔中、「ピッ、クイーッ」と大きな声でよく鳴く。翼は細長く淡色で飛翔中は下から見上げると少し透き通ったように感じる。体・翼下面は白っぽい。上面は赤味の強い褐色。尾は長く太い横斑が入る。全身がチョコレート色の黒色型も極稀に観察される。特に秋は大群で渡りをするタカとして有名で、最大のものが愛知県伊良湖岬から紀伊半島、四国、豊後水道、大分県、宮崎県、鹿児島県佐多岬、宮古諸島を通るコースとして知られている。南西諸島ではかなりの数の個体が越冬している。

■ノスリ属

1991年1月オオノスリ幼鳥
雌大型個体はトビ程もある大きなタカ。大きな割に動きは敏捷。ツグミなどの小鳥をよく捕食していた。西日本や九州ではケアシノスリよりもこちらを見る方が頻度が高い。

福岡市西区今津 Field Noteから

ノスリ、ケアシノスリ、オオノスリ。ハシボソガラス大の中型のタカ類。留鳥として北海道、本州中部以北、四国の山地に生息し、冬季は全国の干拓地、農耕地、疎林などに飛来する。ネズミなどの小動物を中心に、両生類、爬虫類、鳥類などを捕食する。待ち伏せによる狩りを行なう。基本的に胴体が太く、翼は丸味があり幅広、尾は円尾。帆翔は翼をやや上に持ち上げた形。どの種類も初列下雨覆いに褐色の大きな斑があり、他のワシタカ類との識別をする際に明瞭な目印になる。ケアシノスリは主に冬鳥として本州中部以北を中心に全国から記録があるが、年によって個体数が大きく増減する。オオノスリは主に西日本で記録が多く、雌の大型個体はトビほどもあるタカ。大きな割に動きは敏捷でツグミなどの小鳥類もよく捕食する。上面初列風切基部に大きな白斑(フラッシュ)が出る。上尾筒が暗褐色で淡色の地に細い褐色の横斑が並ぶ尾と明瞭なコントラストをなすことなどが識別ポイントのひとつ。翼下面および尾下面は全体的に白っぽい。地上に降りたときに足が長く、通常跗蹠に羽毛があるが、少数無い個体もいる。脛の羽毛は暗褐色。Long-legged Buzzardはニシオオノスリ。

■イヌワシ属

イヌワシ、カタシロワシ、カラフトワシ、ソウゲンワシ、サメイロイヌワシなどが含まれる。基本的に翼はやや幅広、長い長方形。尾は通常角尾、帆翔時に開くと円尾。がっしりとした筋肉質的な体。前方からみた翼の形についてみると前2者はやや上に持ち上げた形、後3者は翼角の部分から先が下がる形を示す。帆翔を中心とした飛び方。イヌワシは山岳地帯中心、残りは草原や開けた原野などを中心に生息する。いずれも哺乳類や爬虫類を捕食する。<巻頭イラスト及び解説参照

■クマタカ属

クマタカのみ。留鳥として北海道、本州、四国、九州の山地に生息する大型のタカ類。主に山地の伐採地、山林などで哺乳類、鳥類、爬虫類を捕食する。成鳥は暗色のマスク、後頭に冠羽がある。体上面は褐色で初列・次列風切に横斑がある。黒褐色の太い腮線があり下面は白く胸より下に太い褐色の横斑が密にある。前方から見て翼は上に反った状態を保つ。上昇気流に乗った帆翔をよく行なう。2月〜5月頃の繁殖期前半には大きく急上昇・急降下するディスプレイ飛翔を行なう。翼下面は黒褐色の横斑があり、尾下面はやや太い横斑になる。足は黄色で跗蹠まで羽毛に覆われる。幼鳥は顔、頸、胸、腹、体下面が非常に白っぽく見える。

終わりに

  • 今回は種類ごとの識別ではなく同じワシタカ類でも仲間ごとの特徴を捉えることに注目しました。日常無意識に行なっている識別も目 ⇒ 科 ⇒ 属 ⇒ 種 ⇒ 亜種ときちんと段階を踏んでいます。まずはどのグループに属するのかを正確に把握しましょう。
  • グループごとの識別はワシタカ類だけでなく他の種類でも有効です。ミズナギドリ類、カモ類、シギチドリ類、カモメ類、ツグミ類、ムシクイ類、ヒタキ類、セキレイ・タヒバリ類など他の種類にも十分に応用ができます。これを実施することによって頭の中が整理され識別の速度や正確さがアップします。ぜひ実践してみてください。
  • 「オジロワシ or カタシロワシ?問題」も見島で永年観察している各主力チームが入島し当該個体を見た瞬間、全員が「オジロワシ幼鳥」だと確認し、あっさり決着しました。こんなものです。全く迷わないのです。こう言ってしまうと怒られそうですが、現在の一般的なバードウォッチャー or カメラマン?の勉強不足は否めません、レベルアップが必要です。近年、離島でもこのような情報が氾濫しています。特に離島を訪れるウォッチャーは通常よりもワンランク、ツーランク上の知識と探鳥技術が必要です。とりあえず画像を撮っておけばどうにかなる訳ではないのです。「識別」はもっとハイレベルでずっと奥深いものです。情報などに振り回されること無く「自分の目で見て、自分の頭で考え、技術を習得する」といった日頃からの勉強と訓練と努力が大切です。

<参考文献>

2014-08-08掲載

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