クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第18回 Ibises & Spoon-bills <トキ類&ヘラサギ類>

2013年4月トキ雄成鳥(Nipponia nippon )放鳥されたトキは現在、足環の色彩パターンとからだの着色位置(赤と緑)で番号が付されており個体識別できる。この個体は上が緑色、下が赤のカラーリングを装着していた。2006年生まれの雄個体。夏羽の濃灰色は剥がれた皮膚をこすり付けた色で灰色の範囲は個体によって頭部周辺だけのものから上面全体にわたるものまで様々いる。足環や発信機を何も装着していない自然繁殖の個体を見ることが目標だったが、2012年生まれのうちの1羽を観察することができた。

新潟県佐渡島 Field Noteから

私が大学1年生だった頃、まだ野生の純国産トキ5羽が佐渡の青空を飛んでいました。1981年1月繁殖と種の保存のために全て捕獲され、足環の色により『アカ』『シロ』『ミドリ』『キイロ』『アオ』と命名されました。その後中国産トキを譲り受けながら繁殖が試みられました。2011年11羽のヒナが誕生。以降毎年繁殖に成功。現在約70羽がケージの中で飼育され放鳥を待っています。2013年10月10日、日本産最後の野生トキ「キン」が36歳で死亡し日本産トキは絶滅しました。最後の5羽捕獲から34年経って、ようやく新潟県佐渡島に来ることができました。たいへん美しい佐渡の大自然の中で生きる放鳥トキのうち15羽を観察。今回の遠征の目標である、カラーリングをつけていない自然繁殖した個体のうちの1羽も観察することができました。朱鷺色(ときいろ)はNippon人が最も美しいと感じる色彩のひとつに間違いないと確信しました!!

日本産のトキ科の鳥はクロトキ、トキ、ヘラサギ、クロツラヘラサギの4種類と近年記録されるようになったブロンズトキがいます。前4種はどの種類も中型、大型で非常に特徴的な色彩や形態をしており、間違えるようなことはありません。頸をまっすぐに伸ばし、素早い羽ばたきと短い滑空を交えて飛ぶ姿はとても優雅な感じを受けます。

■クロトキ

1990年12月2日クロトキ幼鳥
<コサギの群れと行動を共にする。トラクターの後について懸命に採餌する。

佐賀有明干拓 Field Noteから

中国、東南アジア、インド、スリランカ周辺に分布し、中国で繁殖した個体は冬季東南アジアへ渡り越冬する。過去には日本国内でも繁殖していたようで古い文献などに記載がある。頭から頸にかけての黒色部は成鳥では黒い皮膚が裸出したものであり、幼鳥では灰黒色の羽毛が生えている。三列風切は灰色で、幼鳥の場合は初列風切先端が黒色をしている。下大雨覆い基部に地肌の裸出部があり、肉色のラインとなって見える。動物園でも普通に飼育されており、羽の擦れ具合や腫瘍の有無など籠脱けの可能性も考慮する必要がある。

■トキ

2013年4月初めての佐渡訪問でしたが、島のたいへん美しい自然の中で人々と暮らすトキの姿が目に焼きついて離れません。人と野鳥の共存は本来こうあるべきだということを肌で感じることができました。訪れた時期がよかったのでしょうか、空気が澄んで空は青く、山肌に残雪が残り、新緑が目に鮮やかで、美しく素晴らしい環境にとても感動しました。佐渡滞在中、島内はどこにいってもゴミが落ちていなかったのが記憶に残っています。久しぶりに気持ちの良い遠征でした。<巻頭文章およびイラスト参照>

■ヘラサギ

ヘラサギもクロツラヘラサギ同様九州では比較的ふつうに見られる種類です。通常は目の周囲の状態で見分けますが、寝ていて顔が見えない場合、ヘラサギはクロツラヘラサギに比べてからだが一回り大きく、足が長く、背も高く見えます。成鳥の場合、ヘラサギは嘴の先端が黄色くなるのに対しクロツラヘラサギでは真っ黒です。

■クロツラヘラサギ

1990年1月クロツラヘラサギ成鳥冬羽
嘴を大きく左右に振りながら集団で走り回る様子はダイナミック!

福岡市今津 Field Noteから転記

福岡に住んでいるとクロツラヘラサギはごく普通の冬鳥で身近にいて当たり前のような感覚になる。しかし、世界的に見ると極端に個体数が少なくアジアの中でも朝鮮半島と日本というごく狭い一部地域にのみ生息する希少種。推定個体数は全世界で約2,000羽程度といわれており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧TA類に指定されている。中でも日本は重要な越冬地になっていて、九州沿岸では多数のクロツラヘラサギが冬の間観察される。嘴を左右に大きく振り、走り回る集団採餌はリズミカル&ダイナミックで一見の価値がある(イラスト参照)。数十羽のクロツラヘラサギが同じ方向へ、一斉に駆けずり回る。目先の黄色い部分は個体によって大きさが異なり、虹彩は暗赤色。嘴上面にはしわ模様があり、これで個体識別が可能と言われている。幼鳥は初列風切先端及び外側初列風切が黒く、飛翔中はよく目立つ。春遅くまで残っている個体は冠羽が長く伸び、濃い黄色の美しい夏羽に変わる。

■ブロンズトキ

2014年7月ブロンズトキ成鳥夏羽?

佐賀県小城市芦刈町 Field Noteから

迷鳥として2003年沖縄本島、2012年座間味、沖縄本島で記録があるのみだったが、2014年6月佐賀県小城市、また近年その他地域でも確認されている。今後記録が増える可能性がある。東南アジア、オーストラリア、西アジア、中央ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ東部沿岸まで世界中に広く分布している。佐賀県小城市の個体は体色が全体的に赤褐色味が強く夏羽と思われるが、暗褐色の翼にはわずかに緑色の光沢がある程度。また、顔から側頸にかけて小白斑があるため、やや若い個体の可能性も考えられる。全長はコサギとほぼ同じだが、さらに細く小さく見える。嘴は灰肉色で長く下向きに湾曲、足も同色。虹彩は暗赤色。目から額にかけてと目から腮にかけて薄い水色のラインが特徴的。翼は暗褐色で前縁は赤褐色。下尾筒から尾にかけては黒褐色。飛翔中は特にスマートに見える。観察した早朝の時間帯はハス田の中を機敏な動きで動き回り、ほとんど休むことなく採餌していた。

終わりに

  • 今回ご紹介したトキ、ヘラサギの仲間はどれも特徴的な容姿をしており、ほとんど見間違えることはないと思います。トキ以外の種類は九州で観察できる可能性が高いものが多いようです。
    中でも特にクロツラヘラサギは絶滅が懸念される世界的な希少種です。通常個体数が3,000羽を切ると種の維持が困難になると言われています。九州は国内でも特に越冬個体が多く生息する地域です。今後も安心して越冬できる環境を保全していかなければなりません。
  • 佐渡島の素晴らしい大自然の中で地元の方々に見守られながら生きるトキをぜひ皆さんに一度見ていただきたいと思います。佐渡の青空と緑の山並みをバックに飛翔するあの朱鷺色(とき色)は目の覚めるような美しい色彩です。九州からはちょっと遠いですが、料理も美味しいし温泉につかって美しい景色を眺める、佐渡島発「スローウォッチング」お勧めです。サドッキー(トキのユルキャラ)も待っています!

参考文献

  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 1988年5月10日 初版第10刷発行 財)日本野鳥の会
  • A Guide to the Birds of Southeast Asia CRAIG ROBSON: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON,New Jersey
  • 決定版 日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社

204-09-11掲載

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