クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第19回 Variations <バリエーション>

2004年10月ジョウビタキ雄 個体差バリエーション
この日は70羽以上を観察しました。個体差を見比べるだけでもたいへん興味深く面白い。真ん中のタイプはさすがに一瞬喜びました!何故だかわかりますか?考えてみてください。同じ種類がたくさんいるときにぞんざいな観察はご法度です。こういう時こそ一羽一羽丁寧に観察していく必要があります。日頃の地道な訓練により個体差の範囲がわかるようになります。また、識別のスピードと正確さのアップにも繋がってきます。

新宮町 Field Noteから

MF(マイフィールド)にしている離島では毎年秋になると特定の種類が急増する日があります。そんな日は、コサメビタキ、ミソサザイ、ノビタキ、キクイタダキ「だらけ」です。このジョウビタキも同様で、多いときは1日で60〜70羽以上を観察します。これだけいると様々なタイプを見ることができます。イラストは雄の個体差バリエーション。頭・顔の色彩も一羽一羽違います。翼に白斑が見えない個体は雄雌共に結構いて、見つける度に珍ジョウビタキではないかとドキドキしますが、飛ぶと必ず小さな白斑が確認できジョウビタキだとわかります。こういった個体差をひとつひとつ丁寧に観察していくのも貴重な経験です。識別において個体差の範囲内なのかそれともそうではないのかの線引きをしなければならないときに日頃のこの訓練が役立ちます。

ふだん探鳥をしていて経験された方も多いと思いますが、しばしば図鑑に載っているものとは違った色彩の個体に遭遇することがあります。例えば身近なハクセキレイについて見てみると、白黒がはっきりして過眼線が途切れなく明瞭で、喉から胸にかけて広範囲に黒く、大雨覆いは一点の曇りも無く純白で、三列風切は白黒明瞭、どこからどう見ても120%ハクセキレイ雄成鳥!こういったケースは稀です。背は灰色と黒の羽のまだら、過眼線は不明瞭でたまに左右で状態が違う、胸の斑も中途半端な大きさで、大雨覆いも軸斑がグレーのような、三列風切には褐色味があり、声も澄んでいるような、濁っているような、全体的にぼんやりとした印象、雄なのか雌なのかもよくわからない・・・。こんなケースの方が圧倒的に多いと思います。

こういった年齢別、性差、個体差、換羽状況などをよく理解しておかないと他種との線引きがたいへん難しくなります。また、亜種の違いによっていろいろな色彩のパターンを持つ種類もあります。今回は野鳥のバリエーションに注目してお話していきたいと思います。

■亜種別バリエーション

1998年9月マミジロツメナガセキレイ第1回冬羽、成鳥と(キマユ)ツメナガセキレイ成鳥(下)
ツメナガセキレイは群れで渡ってくることが多いため、一度に複数の亜種を観察することができる。色彩も美しく飽きのこない探鳥ができる。

築上郡椎田干拓 Field Noteから

近年様々な種類の野鳥で亜種の違いを確認するケースが増えてきました。ツメナガセキレイは見た目でも比較的にわかりやすく、亜種別の違いを勉強できます。シベリアツメナガセキレイ、カオジロツメナガセキレイ、キタツメナガセキレイ、マミジロツメナガセキレイ、そして北海道で繁殖している(キマユ)ツメナガセキレイの5亜種が記録されています。

2014年春、長崎で6番目の亜種であるMotacilla flava beemaが国内で初めて確認されました。ツメナガセキレイはユーラシア大陸に広く分布しており、今後ヨーロッパ周辺にいる未記録の亜種が日本国内で観察されることが予想されます。


■地域別バリエーション

1985年6月すべてクロサギ(体色3タイプ)

沖縄県石垣島 Field Noteから転記

クロサギは留鳥として本州以南に分布し、局地的に繁殖します。東北地方以北では夏鳥、北海道では稀に見られる程度です。通常体色には黒色型と白色型の2タイプがあります。跗蹠の色は淡青色、淡灰色、緑色、黄緑色など変異が多いのですが、趾だけはどれも黄色をしています。カラシラサギにもこのような足の色(跗=緑、趾=黄色)をしたタイプがいるので注意を要します。通常クロサギの方が嘴や足、頸などもより太くがっしりとした印象です。

九州本土北部沿岸で見られるクロサギはほとんどが黒いタイプですので問題はありません。ただ、石垣島や西表島などの南西諸島では、逆に白いタイプのクロサギの方が圧倒的に多くなります。また、幼鳥には稀に黒や黒灰色のまだら模様の入った個体も観察されます(右イラスト参照)。南西諸島遠征に行かれる際は黒いクロサギ、白いクロサギ、白黒のクロサギに注意です!!


■詳細不明バリエーション

1985年3月サンカノゴイ雄・成熟個体?
こんな色彩見たことありますか!?通常、嘴は黄色、虹彩は黄色、体色は黄褐色の地に黒褐色の複雑な模様をしています。イラストの個体は一般的な個体とはかなり違った色彩のため、首から上だけを見るとサンカノゴイとは別物です。こういう個体に遭遇したとき、慌てないこと、騒がないこと、落ち着いてよく考えることが大切です。

小倉南区曽根 Field Noteから

1985年当時小倉南区曽根・松山地区には貯木場や広いアシ原が残っていました。アシ原の中の使われていないバンディング用網場は絶好の観察ポイントで、静かに座っているだけでクイナ、ヒクイナ、ツリスガラ、オオジュリンなど至近距離で観察できました。この年、それほど広くないアシ原の一角に3羽のサンカノゴイが越冬しました。その内の1羽が右のイラスト。自分から5メートル程離れたところで擬態している姿です。嘴から顔にかけて鮮やかな青緑色、虹彩は暗赤褐色、耳羽から側頸にかけて茶褐色でこれらの部分の色彩が通常の個体と明らかに違っています。胸から下は他の個体と変わりありません。おそらく派手に婚姻色を発色した雄の成熟個体ではないかと考えています。このように図鑑に載っていないような個体をたまに観察することがあります。こんな時にまず大切なのは「勝手な思い込みをしないこと」です。図鑑に載っていないからといって、すぐに珍鳥や新種になるわけではありません。識別の思考がとんでもない方向に行かないように注意しなければいけません。落ち着いて頭をフル回転させます。当然その時だけやろうとしても知識が間に合いません。そのためにも普段からの識別に対する訓練と勉強が必要です。

終わりに

  • 巻頭ではジョウビタキ雄についての個体差をご紹介しました。雄はこれ以外にも年齢によって上背(じょうはい・mantle)の色彩や風切の状態なども違います。上背は成鳥では真っ黒ですが、第1回冬羽や第1回夏羽では褐色の地に黒い縦斑があります。皆さんも注意深く観察すればこういったところも見えてきて、春の渡りでは繁殖地での縄張りを確保するために雄の成鳥が一番に渡ってしまう(いなくなる)ことなどに気付くと思います。ジョウビタキのような身近な種類でも観察の方法ひとつで様々な見方・楽しみ方が可能です。
  • 現在はほとんどの方がデジタルカメラをお持ちです。身近にいる一種類のバリエーションについて腰を落ちつけ一年を通して観察するとたいへん面白いのではないかと思います。今回ご紹介した中のひとつハクセキレイは個体差が大きいので楽しめます。また留鳥ですから一年中観察可能です。さらに、渡りの時期にはホオジロハクセキレイ、タイワンハクセキレイ、シベリアハクセキレイなど別亜種を観察できる機会も増えますのでバラエティに富み、お勧めの対象です。他に同じように楽しめるのは一年中観察できるサギ類、ヒバリ、ウグイス、ホオジロなど。いかがでしょうか?これまで知らなかった意外な部分を発見できると思いますよ!

参考文献

  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • A Guide to the Birds of Southeast Asia CRAIG ROBSON: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON,New Jersey
  • PIPITS & WAGTAILS of Europe, Asia and North America: Alstrom Mild Zetterstrom HELM
  • 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社

2014-10-09掲載

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