波多野邦彦
総目次
第20回 Oenanthe <サバクヒタキ類>
2008年10月 イナバヒタキ雄第1回冬羽 目先の黒が強く出ることから雄個体と思われる。眉斑は細いが白色で長く明瞭。嘴はやや太長。頭頂から頸、背にかけてバフ灰色。黒褐色の小翼羽がバフ色の雨覆羽縁とコントラストをなし目立つ。耳羽から上胸両側にかけて黄褐色。直立姿勢をとった時にお腹がぽっこりと出て見えるのもイナバヒタキの特徴。跗蹠はかなり長く、非常に素早く地上を走る。尾先端の黒帯はハシグロヒタキと比較し幅広い。
福岡市西区今津 Field Noteから
福岡市西区今津。日本でも有数の探鳥地・・・だった場所です。わずか10年前と比較しただけでもとても同じ場所とは思えないほど環境が変わってしまいました。干潟後背地の真ん中に地元私立大学のグラウンド、競技場、テニスコートができ、現在それに隣接する形で汚水最終処理場が完成しました。これら大型施設の間を縫うようにコースを取り、毎月福岡支部今津定例探鳥会が開催されています。干潟だけが残ってもその後背地まで包含する形で保全しなければ、自然環境が維持できないという典型的な事例です。二ツ池・三角池とその周辺、今津湾を大きく取り囲む水田地帯、海岸線などにより、かろうじて探鳥地としての威厳を繋ぎ止めているといった感じがします。野鳥の種類・数も激減しました。
過去には当たり前のようにいた、チュウヒやコミミズクなどの猛禽類は荒地やアシ原が無くなってしまい近年ほとんど見られなくなりました。ここももうダメだろうなと思っていた矢先、2週続けてサバクヒタキ、イナバヒタキが観察されたのです。
日本国内で記録されたサバクヒタキの仲間にはハシグロヒタキ、イナバヒタキ、セグロサバクヒタキ、サバクヒタキ、そして未確認種としてカオグロサバクヒタキがいます。総じて黒・白・黄褐色の同じような色彩パターンをしており、また見る機会もそれほど多くないことからも識別が難しい部類に入ります。この中で識別が特に困難な組み合わせとしてハシグロヒタキとイナバヒタキ、セグロサバクヒタキとカオグロサバクヒタキがあげられますのでその辺を中心にお話していきたいと思います。これらの前にまずサバクヒタキ類を他の種類と識別することが前提ですのでスタートラインまでは各自勉強していただきたいと思います。
■ハシグロヒタキ
ハシグロヒタキの雌成鳥及び第1回冬羽はイナバヒタキによく似ています。識別ポイントとしては眉斑に特徴があり、ハシグロヒタキは目よりも前がバフ色で目よりも後ろの部分は淡色ではっきりと太くなります。イナバヒタキの眉斑は均一で細く淡色をしています。耳羽は僅かに赤味があります。雨覆い・初列風切りの淡バフ色の羽縁はあまり目立たず、イナバヒタキのように黒い小翼羽との強いコントラストは出ません。尾羽にT字の黒い模様が出ますが、先端の幅はイナバヒタキよりも狭いことで区別可能です。脛羽に黒褐色の軸斑があります。アラスカで繁殖する亜種は繁殖地から北部ロシアやカザフスタンを通り越冬地東アフリカまで往復約29,000qの超長距離の渡りをすることが確認されています。春の渡りでは秋に比べて期間が1ヶ月程短く一日の平均距離にして約250qを飛んだ計算になるそうです。途中、日本にどんどん寄って欲しいのですが、ユーラシア大陸のかなり北側を通るので残念ながらコース上には位置していないようです。
■イナバヒタキ
今回ご紹介した5種中最も大型です。他の種類のように雄の顔が黒くなるようなことはなく、雌雄同色です。ただし、雄個体は目先がかなり黒くなります。脛羽は無斑。(巻頭イラスト及び解説参照)
■セグロサバクヒタキ
雄は額・後頸が白色、顔・喉・上胸・背・翼は黒色。顔と翼の黒い部分が繋がります。胸・腹・腰・上下尾筒が白色。尾のT字パターンは先端の黒帯は基本的に幅が狭いが、バリエーションがあります。雌は顔、背、胸がすっぽりと暗灰褐色。胸に暗色縦斑の出る個体もいます。雄第1回冬羽や雌は他のサバクヒタキ類と比較して、褐色味に乏しく暗灰色味が強く出ます。ただし、光線の具合などにもよるようですが、うっすらとピンク色の光沢があるようで観察できればぜひ見てみたいと思います。脛羽には黒褐色の軸斑が見られます。また後述のカオグロサバクヒタキに酷似するタイプが知られています。
■サバクヒタキ
福岡市西区今津 Field Noteから
これまでの4種の中では最もわかりやすく、最小の種類。サバクヒタキ類の識別において、尾の白黒パターンは重要な識別ポイントです。このサバクヒタキだけは両側基部の白色以外、尾全体がほぼ黒色をしています。また、他の種と比べて脚や尾が短く、全体的にコロッとした体型をしています。雄は顔、頬、喉、翼にかけて黒色。顔の黒い部分は翼角の黒色と繋がります。雌は顔から背にかけて灰褐色。雌雄ともに第1回冬羽個体は雨覆い・風切に淡褐色の羽縁が目立ちます。顔にも淡色羽縁が斑模様に残るのが普通です。
■カオグロサバクヒタキ
Eastern Black-eared Wheatear Oenanthe hispanica カオグロサバクヒタキの分布域の中で東側に棲息する亜種O. h. melanoleucaは雄第1回冬羽や雌がセグロサバクヒタキに酷似しており識別が非常に困難。現在国内未確認種とされていますが、過去に本種ではないかと考えられる記録が新潟県・粟島にあります。ここではさらにセグロサバクヒタキの喉の白いタイプ(O. h. vittata)についても言及されています。(「2004年10月粟島のサバクヒタキ類についての検証」参照)
■尾羽の代表的なパターン
ハシグロヒタキ | イナバヒタキ | セグロサバクヒタキ | サバクヒタキ |
サバクヒタキ類の識別において尾羽の白黒パターンは非常に重要な識別ポイントです。
上記のイラストはそれぞれの種の代表的なパターンです(一部バリエーションあり)。最右側のサバクヒタキはほとんどが黒く他種との比較が容易です。左側3種類は逆T字型の形で比較します。中央尾羽の長さに対する黒帯の幅がどれくらいの割合かを確認します。ハシグロヒタキは中央尾羽に対する黒帯の幅は約1/3、イナバヒタキは約2/3、セグロサバクヒタキは中央に近い部分が非常に狭いことがわかります。前述しましたとおり、尾羽のパターンはたいへん重要ですが、もちろんこれだけで同定する訳ではありません。あくまでも識別ポイントの中のひとつとして考えるようにしてください。
終わりに
参考文献:
2014-11-11掲載
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