クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第21回 Falcons <ハヤブサ類>

2006年9月 セイカー(ワキスジハヤブサ)Saker Falco cherrug 【幻の国内初記録】

この約1年半後2008年2月宮古島で観察・撮影された個体が正式な国内初記録となった。分類上シロハヤブサに非常に近縁の種類で、大柄で太めのスタイル(体型)、幅広く長い翼等よく似ている部分が多い。頭頂は淡色。ヒゲ状斑はほとんど見えず。胸・腹中央は細かな縦斑で遠目無斑淡色に見える。両脇はポタポタ斑が連なる。上面はやや明るい褐色。初列雨覆い、初列風切は暗色。尾は幅広で長く、尾上面は背よりも明るい地色に暗色の細い横帯が入る。下雨覆いは暗色で細かい斑が密にある。初列・次列風切は淡色で先端が暗色。トビと比較しても一回り小さい程度、遜色ない大きさだった。

福岡県内離島 Field Noteから

2006年9月福岡県内のある離島。海を眼下に見下ろす崖上。突如上空に巨大なハヤブサが現れた。強風の中、向かい風に対し空中に停止して見える。スコープで観察可能、胴が太く丸々として翼や尾は幅広く長い。翼下面、雨覆いは暗色で広範囲に薄い色彩の初列・次列風切と明確なコントラストが出る。背中・翼上面は明るい茶褐色、胴体下面は白っぽいが細かな縦斑が入り脇は大きめのポタポタ斑が繋がる。頭は淡色で細かな模様、髭状斑は細く薄い。トビに数度のモビングをしかける。直後にハヤブサ雄成鳥が出現したがこの個体に比べ二回りほど小さく感じられた。約15分間眼前で強風に乗った飛翔を繰り返す。詳細な部分を何度も確認する。鼓動が次第に激しくなる。いつもの超珍鳥に出遭った時のヒリヒリ感が増してくる。セイカー(ワキスジハヤブサ) Saker Falco cherrugだと確信する。画像記録なし。他の観察者もなし。幻の国内初記録!鷹狩用の種類としても国内で飼育されており、足環等籠脱けかどうかの判別も必要。もともとの棲息環境は広大な平原や荒地など。当日の天候は高曇り時々晴れ、気温18→27℃。汗ばむ暑さ。北風6メートル、波高2メートル。明日から低気圧が近づき雨の予報。同日は他にもこの島ではほとんど見られないチョウゲンボウ2羽、ヤマガラ1羽も観察された。島全体から気のせいかいつもと違った雰囲気が感じられた一日だった。

日本産のハヤブサ類はシロハヤブサ、ワキスジハヤブサ、ハヤブサ、チゴハヤブサ、チョウゲンボウ、コチョウゲンボウ、アカアシチョウゲンボウ、ヒメチョウゲンボウの以上8種類です。ハヤブサは7亜種、チョウゲンボウは3亜種が知られています。

■シロハヤブサ

北極圏周辺の高緯度地域に生息する大型のハヤブサ類。冬季オホーツク海、サハリン地域まで南下し、まれに北海道まで達する。非常に大型で翼が幅広く長く、胴体も丸々と太い。ハヤブサとは全く違ったスタイルをしている。色彩には白色型、中間型、暗色型、銀色型、褐色型など様々なタイプがある。通常は狙われることの少ない大型のカラス類やカモメ類も捕食する。九州では佐賀県で中間型?1例の記録がある。当支部リストにも名前があるが、この記録は検証不足と考えられる。(巻末「終わりに」参照)

■ワキスジハヤブサ

巻頭文章およびイラスト解説参照

■ハヤブサ

現在ではオオハヤブサ、シベリアハヤブサなど7亜種に分類されている。北海道から九州まで全国に生息する。体型は胴体が太く筋肉質的イメージ。羽ばたきと滑空を交えた力強い飛び方をする。狩る方法は通常飛んでいる鳥を強靭な足で蹴り落としたり、ヒヨドリ等小型のものであれば群れに突っ込み足でそのままつかんだりする。通常雄よりも雌のほうがひとまわり大きい。雌雄のコンビネーションによる狩りも行なう。海岸沿いの崖上の岩棚などで繁殖するが、高い鉄塔、煙突、ビルの屋上、橋梁などの人工物もよく利用する。

■チゴハヤブサ

日本国内では北海道で繁殖している小型のハヤブサ類。その他の地域では春秋の渡りの時期に普通に観察される。タカの渡り観察ポイントなどでもよく見られる。体型はスマートで翼が細長く、尾が短い。静止時は初列風切先端が尾端を越える。成鳥では体下面の黒く太い縦斑と赤褐色の腿が特徴。幼鳥は腿が淡黄色。遠距離から見るとアマツバメのような形に見えるときがある。長い翼を使って軽々と飛翔し、主にトンボなどの昆虫や小鳥を捕食する。

■チョウゲンボウ

本州中部以北で繁殖し冬季は全国で見られる。国内では3亜種が知られている。ハトほどの大きさ。翼・尾が細長くスマートな体型をしている。風を受けて滑空が長くなるような時は飛び方がハイタカに以上によく似ており注意が必要。ひらひらとした飛び方は特徴的で、停空飛翔も頻繁に行う。バッタなど昆虫類、ネズミなどの小型哺乳類も捕食する。本州以北で繁殖するため、九州では冬鳥。

■コチョウゲンボウ

1997年1月コチョウゲンボウ雄成鳥

アトリの群れに突っ込む。急降下のスピードはハヤブサ科の中でもダントツ。伸びがあり双眼鏡でも追うのが難しいこともある。小鳥を空中で捕らえるのが上手い。雄はオレンジ色の耳羽、胸・腹、青灰色の背・上雨覆いなどたいへん美しい色彩をしている。

注)中津市今津干拓は現在ダイハツ(株)中津工場になっています。

中津市今津干拓 Field Noteから

日本には冬鳥として全国に飛来する小型のハヤブサ類。スマートなチョウゲンボウに比べるとややコロッとした体型。小柄ながらも羽ばたきはパワフルで滑空を交えた非常にスピード感のある飛び方をする。ひらひらとした飛び方のチョウゲンボウとは違い、力強い羽ばたきでどちらかというと小さなハヤブサといった感じ。畦やちょっとした杭など地表に近い部分にもよく止まる。開けた荒れ地や畑地で主に小鳥を捕食する。眼から下と耳羽のあたり、ひげ状斑が縦に2本あるように見えるのが特徴。雄成鳥は青灰色の上面とオレンジ色の下面が美しい。雌は全身こげ茶色濃淡の複雑な模様をしている。コチョウゲンボウの雌は通常飛び方や尾が短い体型等で識別可能だが、色彩だけでもはっきりとわかれば、チョウゲンボウ雌のように上面に茶褐色味は無いので間違えることはないと思われる。

■アカアシチョウゲンボウ

1994年5月アカアシチョウゲンボウ雄成鳥

純白の下雨覆いと灰紫色のからだのコントラストが非常に美しい。ヒラヒラとした飛び方でトンボやバッタを上手に捕まえていた。足でつかみ、飛びながら食べるところもしばしば観察された。

長崎県対馬 Field Noteから転記

日本で見られるものはAmur Falconアムールファルコンと呼ばれ南ロシア、中国東北部、朝鮮北部で繁殖し、冬季はインドや南アフリカに渡る種類。これとは別にヨーロッパにはRed-footed Falcon ニシアカアシチョウゲンボウが棲息する。Amur Falconの雄成鳥の下雨覆いは純白であるのに対し、Red-footed Falconでは同部分が体色と同じ暗灰色をしている。従来は非常に珍しい種類だったが、近年九州では毎秋10月〜11月にかけて定期的に小群が通過するようになり、観察記録は増加傾向にある。春季も5月頃の遅い時期に見られることがある。畑地、草原、アシ原、牧草地など開けた場所で主にトンボやバッタ等の昆虫類を捕食する。飛び方はややひらひらとした感じがあり、チョウゲンボウに似る。イラストは1994年5月の対馬。雄成鳥が田の浜のアシ原上空を群舞するトンボや草地のバッタを上手に捕食していた。疲れているのか警戒心が弱く、周囲の電線で休んでは採餌を繰り返す姿を至近距離から観察できた。アイリング、ろう膜、脚は鮮やかな朱色。顔は黒いが明瞭な髭状斑は無い。やはり純白の下雨覆いが非常に目立っていた。

■ヒメチョウゲンボウ

ヨーロッパでは集団で繁殖し、また群れで渡りを行うが、日本は生息地域から遠く離れており非常に稀れ。雄成鳥個体であれば特異な色彩から判別可能であるが、雌や若い個体はチョウゲンボウに似ている。確実な相違点は乳白色の爪の色で黒色のチョウゲンボウとは明らかに違うが、乾燥した泥を付けていないかなど注意を要する。厳密に言うと顔やひげ、体の斑、尾などの状態も違う。過去に本州、四国、長崎県対馬・九州、沖縄県与那国島などで観察例があるので、今後も九州で観察される可能性はあるものと考える。

終わりに

  1. シロハヤブサの欄では失礼ながら当支部の記録は検証不足と書きましたが、その理由を述べたいと思います。
    1. 当支部の記録は単独で飛翔中の白いハヤブサ類を見たというもの。これがもしハヤブサ類であるなら、まず第一にアルビノの可能性について検討されるべきであること。
    2. シロハヤブサは通常のハヤブサとは大きさ、スタイル、全体のバランス、飛び方などが違う。観察記録にはこれらの言及が無く、白い色彩以外本種を同定した根拠が述べられていない。
    3. 体色については国内で白いタイプのシロハヤブサが出現する可能性は極めて低いこと。しかも九州でとなるとさらに低くなると言わざるをえない。過去に九州で唯一、佐賀県で記録された個体は画像で見る限り濃グレー or 灰褐色のタイプ(幼鳥?)でした。これまで国内で観察された個体の体色は中間型や暗色型がほとんどで、北海道内でも白いタイプの個体は非常に稀。
    4. 当支部の記録は出現場所が低山地帯の山頂で見られており、シロハヤブサの本来の生息地(主に広大な荒地、原野等)とは環境が全く違っていること。
  2. 以上各項目についての検証が最低限必要だと考えます。
    本種識別を考える際の基本的なポイントは、シロハヤブサ = 白いハヤブサ ではない場合がほとんどだということです。特に希少種の記録などについては日頃の勉強でこういった基本知識を事前に身につけたうえで現場で慎重に識別することが大切です。また、後づけの説明は主観的な期待が入ったり、実際には確認していないところまで理由付けをしたりして、当てになりません。事前に該当種類の特徴をきちんと押さえておくことが重要です。

  3. 巻頭のイラストを見て、瞬間的に通常のハヤブサとはスタイルが明らかに違うことがおわかりになるでしょうか?考えてみてください。こういった感覚が判らないとシロハヤブサは識別できません。ハヤブサ類は基本的には翼が尖り、尾が短く同じような体型をしているように見えます。ただし、この識別講座の読者の皆様には敢えて「すべてスタイルが違う」と申し上げたいと思います。どの種類も全体のバランスやスタイルは違い、個性豊かです。飛び方も違います。この違いをぜひわかるようになっていただきたいと思います。ワンランク・ツーランク上の識別を目指しましょう。

参考文献:

  • Birds of East Asia: Princeton University Press Princeton Oxford
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
  • ハヤブサの仲間大集合 BIRDER 2012年9月 文一総合出版

2014-12-13掲載

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