波多野邦彦
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第22回 Gulls in Kyushu Ⅰ <九州のカモメ類 Ⅰ>
2013年12月 ホイグリンカモメ成鳥
まず目に付くのがウミネコ的な非常にスマートな体型。嘴は細く膨らみも小さめで下嘴先端の赤色斑は長く大きく、ときに上嘴まで及ぶ。ウミネコとほぼ同じ濃さの背・翼上面。長めの初列突出。この個体の足は黄色味のある淡灰肉色。初列風切先端の黒色部は外側から7〜8枚目まである。この個体はP4まで。換羽は遅く2,3月に完了。一方“taimyrensis”は通常セグロカモメのような体型で、足の色もはっきりとした黄色から非常に薄いものまで様々。セグロカモメとのボーダーライン上の個体もおり、同定が非常に難しい場合も多々ある。
福津市津屋崎 Field Noteから
ホイグリンカモメ成鳥。小型のセグロカモメよりもさらに小さい。頭が小さくとてもスマートな体型。背及び翼上面はウミネコと同様の黒さ。初列風切の突出も長い。足は少し黄色味がある肉色の場合が多い。嘴は細くやや小さめ。下嘴先端の赤色斑は長大で、しばしば上嘴まで及ぶ。初列風切先端の黒色斑は通常外側から7〜8枚目まであり(セグロカモメは5〜6枚)、黒斑のすぐ内側の白色斑は目立たない。第1回冬羽は全体的に暗褐色に見え、飛翔時、内側及び外側初列風切に濃淡差(ウィンドウ)はなく、一様に暗褐色に見える。肩羽は軸斑が太く大きなウロコ模様に見える。冬期の九州では個体数は少ないもののしばしば観察される。セグロカモメとの交雑個体群とされている “taimyrensis” の方が観察される機会が多い。
今回は現在国内で最も信頼されているカモメ類の識別図鑑をもとに大型カモメ類、特にセグロカモメの仲間の識別について考えてみたいと思います。
セグロカモメの仲間一覧表(理解しやすく便宜的に一覧にしたもの。全てを網羅しているものではない。)
日本鳥類目録改訂第7版 | 通常使用する種・亜種名 | 学 名 | 英 名 | |
セグロカモメ | @セグロカモメ | Larus vegae | Vega Gull | |
Aアメリカセグロカモメ | Larus smithsonianus | American Herring Gull | ||
キアシセグロカモメ | Bモンゴルセグロカモメ | Larus (vegae / cachinnans) mongolicus | Mongolian Gull | |
Cカスピセグロカモメ | Larus cachinnans | Caspian Gull | ||
Dカザフセグロカモメ | Larus (cachinnans / heuglini) barabensis | Steppe Gull | ||
ニシセグロカモメ | Eニシセグロカモメ | Larus fuscus fuscus | Lesser Black-backed Gull <国内未記録種> | |
Fホイグリンカモメ | Larus heuglini | Heuglin's Gull | ||
Gタイミルセグロカモメ | Larus heuglini taimyrensis | − |
Dはカスピセグロカモメ亜種
Gはセグロカモメとホイグリンカモメの交雑種と考えられている
第7版ではニシセグロカモメを fuscus, graellsii, intermedius, heuglini の4亜種とし、taimyrensis は保留されている。heuglini は現在独立種として考えるのが一般的。
セグロカモメの仲間の識別においては前記表中の左から2列目(太字)の「通常使用する種名・亜種名」を使うのが一般的です。E以外は全て国内の記録があります。また、公認・未公認を含め上記表中のDE以外は九州で記録があります。
例えばニシセグロカモメについてみてみると、E基亜種ニシセグロカモメ L. f. fuscus は国内未記録種であり、もし出現が確認されれば国内初となり非常に貴重な記録になります。一方、日本鳥類目録改訂第7版(最左欄・以下改訂第7版)で同じ「ニシセグロカモメ」に含まれるFホイグリンカモメやその他Gタイミルセグロカモメは冬期の九州で比較的ふつうに見られる種類です。つまり改訂第7版の分類名である「ニシセグロカモメ」という名称を使っている限りこれらの種類の混同が避けられず、同定結果が不確実なものになります。これらのことから「ニシセグロカモメ」という名称は基亜種 L. f. fuscus にのみ使うべきだと考えます。通常は使わない名称です。
「キアシセグロカモメ」についても同様です。モンゴルセグロカモメは九州で比較的普通に観察されますし、カスピセグロカモメも九州内での観察記録があります。カザフセグロカモメは九州では未記録の亜種ですが今後観察される可能性は十分にあると思います。つまり「キアシセグロカモメ」という名称も通常は使用しません。
各種、各亜種の特徴をきちんと捉えた上で識別を詳細に行い、種名や亜種名を厳正に使い分けることにより混乱や誤解を防ぐことができ、正確な同定が可能になります。カモメ類の識別についてこれから勉強したいと考えている方は是非上記のそれぞれの特徴をしっかりと勉強して正確に識別できるようにしていただきたいと思います。
以下九州で観察される機会が多いと考えられる2種Bモンゴルセグロカモメ、Fホイグリンカモメ、そして1亜種Gタイミルセグロカモメについてお話しいたします。
■モンゴルセグロカモメ
2013年12月 モンゴルセグロカモメ第2回冬羽
一見セグロカモメ風ですが、足が長く、初列突出も長いのがまず目立つ特徴です。頭、首、胸などセグロカモメに比べはっきりと白い。足は淡灰肉色で長い。尾黒帯の幅は狭い。成鳥は初列風切の黒色斑の枚数が7〜8枚目まで及びます。
福津市津屋崎 Field Noteから
モンゴルセグロカモメは上記表中、改訂第7版ではキアシセグロカモメに含まれる種類です。ただし、「キアシ」の名前とは違って本種の足の色は基本的には淡肉色や淡灰肉色をしているものが多く、また長いのが特徴です。通常本種の換羽はセグロカモメよりも1カ月程度早いといわれています。日本に渡ってくる10月下旬〜11月初旬頃、成鳥はすでに頭部が冬羽になり、初列風切旧羽は抜け落ちていることが多いのです。また本種成鳥の特徴としては初列風切先端の黒色部が外側から7〜8枚目まで及ぶ個体が多いようです(セグロカモメは5〜6枚目まで)。嘴は薄い黄色で下嘴の赤色斑+上嘴に暗色斑があるのが普通です。
第1回冬羽、第2回冬羽は頭や体羽が非常に白っぽく、遠目でもはっきりとわかるほどです。嘴は先端が僅かに乳白色の独特な暗色帯を持ちます。また尾羽先端の黒色帯の幅がセグロカモメに比べ狭いのが普通です。第1回冬羽個体は飛翔中、白とこげ茶のコントラストが非常にはっきり見え、これは他の同年齢のカモメ類との識別に役に立ちます。最後になりますが、モンゴルセグロカモメはバイカル湖東部、モンゴル、中国北東部などで繁殖し、黄海、韓国、日本、台湾などで越冬する種類です。
■ホイグリンカモメ
■タイミルセグロカモメ
現在は上記ホイグリンカモメとセグロカモメの交雑個体群と考えられています。両種の間に無段階に存在します。どちらかに似ているもののはっきりとしない様なボーダーライン上の個体も観察されます。通常体型はボッテリとしてセグロカモメに似ています。背の色も濃いものから薄いものまで、足の色も黄色いものからピンク色味のあるものまで様々です。換羽の時期はホイグリンカモメと同様にセグロカモメよりも1か月程度遅いことが多いようです。成鳥初列先端の黒色斑は通常7〜8枚目まで確認できます。
終わりに
■<参考文献>
(2015-01-09掲載の改訂版 2015-01-14)
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