クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

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第29回 Marsh Terns <ヌマアジサシ類>

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上からクロハラアジサシ、ハジロクロハラアジサシ、ハシグロクロハラアジサシ。全て幼羽比較。違いがおわかりになるでしょうか?ポイントは頭頂の斑の状態、嘴の形状、脊の模様・色彩、翼前縁の色彩、腰の色彩、翼付け根の斑など。ヌマアジサシ類の識別には上面の色彩が欠かせません。

Field Note参考

日本国内で記録のあるヌマアジサシ類はクロハラアジサシ、ハジロクロハラアジサシ、ハシグロクロハラアジサシの3種類。コアジサシよりひとまわり大きい程度のアジサシ類です。このうちハシグロクロハラアジサシは繁殖地が中央アジアにあり、本来の渡りのコースからも遠く外れていることから、日本では非常に珍しい種類です。過去の実績から見ても九州本土では出現する可能性が非常に低いと思われます。例えば福岡県内でこれらヌマアジサシ類を観察する場合は、ふだんは主にクロハラアジサシとハジロクロハラアジサシの2種に重点を置いて観察し、しっくりこない場合にはハシグロクロハラアジサシの可能性を考えるといった見方でよいと思います。ヌマアジサシ類の識別で皆さんが理解に苦しむのは完全な成鳥夏羽を見る機会が少なく、成鳥でも夏羽−冬羽の中間羽、幼羽の場合でも幼羽⇒第1回冬羽等換羽中の個体などを見る機会が多いからだと思われます。今回は一般的にヌマアジサシ類と呼ばれる上記3種についてお話したいと思います。以下、幼羽、第1回冬羽の個体などを中心に比較していきたいと思います。

これら3種を総称してヌマアジサシ類(Marsh Terns)と呼びます。全世界でもこの3種だけです。ハシグロクロハラアジサシには北中米にアメリカハシグロクロハラアジサシという別亜種がおり、日本国内でも過去に数回記録があります。幼鳥、成鳥ともに翼下面が黒灰色をしているのが特徴です。
まずは3種の名前を「ハジクロ」「ハシグロ」などと略さないで100%正確に言えるようにきちんと覚えてください。北部九州では春秋の渡りの時期に数羽〜十数羽程度の小群を観察する機会が多いのですが、数年に一度大群が飛来することがあります。「当たり年」です。このような時は各地の溜め池や河川、海岸などいたる所で群れが観察されます。また、湖沼などで越冬する個体もしばしば見られます。九州北部に限ってみると個体数は3種の内、やはりクロハラアジサシが圧倒的に多く、感覚的には10〜20%程度の割合でハジロクロハラアジサシが出現しているような印象を受けます。
ヌマアジサシ類の特徴は、淡水域を好むことです。海岸線にもいることはありますが、水田、川、沼、湖沼等に好んで生息します。また魚だけでなく昆虫類も捕食します。牧場などに群れをなして飛来することがあり、このような時は牧草地を飛びながらイナゴなどのバッタ類を捉えています。体型的な特徴は他のアジサシ類に比べ翼や尾が短く幅広でずんぐりとしたスタイルをしていることです。採餌方法も水中に飛び込んだり、地上に降りて採餌することはあまりなく、上空から下降して水面や地面にいる餌を飛びながら掠め取るような採餌を行うことが多いようです。この採餌時の飛び方により他のコアジサシやアジサシなどと区別することができます。

これらヌマアジサシ類3種の識別において最も重要なことは「常に複数の識別ポイントを見て総合的な判断をする」ということです。前記クロハラアジサシとハジロクロハラアジサシとの誤認は、ほとんどのケースが部分的にしか見ていないことが原因だと考えられます。特に耳羽の黒斑が眼の位置より上か下かということだけで判断しているケースが多いようです。この位置は同じ個体でも常に一定ではなく、姿勢による羽や羽毛の動きをきちんと理解しておくことが必要です。成鳥、幼鳥など年齢による差もあります。また、幼羽の翼の付け根にある暗色斑の有無だけで判断している場合なども誤認に繋がっています。この暗色斑は個体差が大きく、一般的には無いといわれているハジロクロハラアジサシでも小さな暗色斑がある場合があります。翼前縁の明暗の色彩も同様です。以前、ある探鳥会で飛んでいるヌマアジサシ類を見て、翼の前縁が暗色だからハジロクロハラアジサシだといった人がいましたが、これも???です。この個体、実はクロハラアジサシでした。
では、このような誤認をなくすためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
そのためには、

@背中、上面および腰の色彩と模様、
A前述の耳羽の黒斑と頭頂の模様、
B嘴の太さ長さ

の以上3点セットを常に確認する識別をお願いしたいと思います。@を見るためには飛翔時の確認が必要です。また、余裕があれば「その他」の欄、翼前縁や翼付け根の斑にも注意してください。これらの識別ポイントを常時意識するようになれば正確な同定が可能になると思います。

■幼羽・幼羽→第1回冬羽

種類
(出現可能性)
@背中・上面・腰A耳羽・頭頂の模様B嘴の太さ・長さその他
クロハラアジサシ
(高率)
背はジンジャー色(黄褐色)とこげ茶のまだら模様。翼・腰上面は灰白色。耳羽暗色斑ふつう、頭頂は数本の縦線が明瞭。3種の中では最も太く長い。翼前縁は通常淡色だが、中には暗色のものもいる。上面は最も白っぽい。背に黄褐色斑(ジンジャー色)が少しでもあればクロハラアジサシでOK
ハジロクロハラアジサシ
(中率)
背はほぼ一様に暗灰紫褐色。翼上面は淡灰色。腰は白色。耳羽暗色斑やや大きめ、頭頂の黒斑は一つの塊に見える。やや細め長さふつう。翼前縁はやや暗色の場合が多い。翼付け根に小さな暗色斑がある場合がある。
ハシグロクロハラアジサシ
(低率)
背に暗色斑。翼上面はグレー。腰もグレー。耳羽から頭頂は、3種の中で最も黒く見える。非常に細長く尖る。翼前縁暗色、翼付け根に明瞭な暗色斑あり。上面は最も暗色味が強い。

終わりに

  • 春・秋の渡りのシーズン、干潟、水田、河川、ため池などの淡水域や草原、牧草地などでアジサシ類を見つけたときは、まずこのヌマアジサシ類を疑ってみてください。春であれば群中に夏羽の個体を見つけられるでしょうし、秋であれば幼羽から第1回冬羽への移行羽や成鳥なら夏羽から冬羽への中間羽を観察することができるでしょう。また、雪の降るような真冬でもアジサシ類がいればこの仲間の可能性が高いと思われます。地元津屋崎では6月〜7月の梅雨時によく出現します。
  • 鳥の覚え方で皆さんは雄・成鳥・夏羽の姿・色彩をその種の代表格として覚える傾向が強いと思います。ただ識別の勉強を目的とするなら、それ以外の雌、幼羽、第1回冬羽などの羽衣も習得するように心がけてください。3点セットの識別ポイント確認も訓練すれば次第に素早く確認できるようになります。
  • 画像を撮られる方にお願いです。アジサシ類を撮影する場合は飛翔中の上面・下面とも意識して撮影するようにお願いします。他のアジサシ類では初列風切先端の暗色部分の形や範囲を見たりすることはありますが、特にヌマアジサシ類に限って言えば上面の色彩が重要です。下から撮ったお腹側ばかりの写真でヌマアジサシ類を「はい、識別してください」は酷です。種類ごとの識別ポイントをしっかり覚えておくことが大切です。識別ポイントを意識して撮った画像とこれに対しただきれいに撮った画像、どちらの画像が識別に役立つかは言わなくてもおわかりになると思います。目の前に出現してからでは間に合いません。識別は日頃の勉強が大切です。

参考文献:

  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • SEABIRDS OF THE WORLD A Photographic Guide: Peter Harrison CHRISTOPHER HELM London
  • The Audubon Society Field guide to North American Birds Western Region Alfred A. Knopf, New York
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 増補改訂新版 初版第1刷 2015年6月1日発行 (公財)日本野鳥の会
  • 決定版 日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
  • 海鳥識別ハンドブック 箕輪義隆/著 (株)文一総合出版

(2015-08-17掲載)

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