波多野邦彦
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第36回 Eagles & Hawks Ⅱ <クマタカ>
2007年1月 クマタカ幼鳥
昨年生まれの個体。体下面は褐色の部分が少なく非常に白い。前日の大雪で静まり返った山間部。距離30m程しかない。同じ枝に半日以上とまっていた。
福岡県犀川町 Field Noteから
英彦山山系を管轄区域内に内包する日本野鳥の会筑豊支部はおそらく探鳥会で最も多くの回数クマタカを観察している支部だろうと思います。公式ウェブサイトも「くまたか」の名を冠しています。
右イラストは2007年1月犀川町で観察した幼鳥。クマタカは隔年または数年に一度、繁殖することが知られています。全身が白い羽に覆われ、非常に美しい羽衣です。頭頂から後頸の冠羽が逆立ち既にクマタカらしい特徴を備えています。耳羽からほほは黒褐色、虹彩はブルーグレー、蝋膜はごく薄い淡黄色。腮に黒褐色の太い一本線があります。上胸に小さな黒褐色斑が散在し、両脇及び脛に数本の褐色横斑が入っています。尾には数本の黒褐色横斑。距離は30m程度です。
クマタカは思いがけず至近距離で観察することがあります。このときは大雪直後で雲が低く立ち込めており小雪がちらつく非常に冷え込んだ日でした。細い杉の枝にとまり、時々体の位置を入れ替える程度、全く飛びそうな気配がありません。こちらが気づいた時には既にそこにいて、半日以上同じ枝にとまっていました。かなりの積雪のため、人も車も通りません。音の無い世界です。空気も凍りつくような静寂の中、大型の猛禽類と対峙する感覚は何物にもかえ難いものです。こういった体験は何度でも経験してみたいと思います。
クマタカはインド西部、ヒマラヤ、スリランカ、インドシナ、中国南部、台湾に分布する。通常Nisaetus nipalensis orientalis、N. n. nipalensis、N. n. kelaartiの以上3亜種に分けられる。
ほぼ日本にだけ分布するN. n. orientalisは中でも最大で最も高緯度地域に生息する。国内では留鳥として九州から北海道まで主に森林地帯に生息している。山間の伐採地などを餌場としてノウサギなど中型の哺乳類、ヤマドリ等の鳥類、その他爬虫類を捕食することが多い。
トビよりも大型で、全長は雄70〜75cm、雌77〜83cm、翼開長138〜169cm、体重2〜3.5kg。雌雄同色だが、雌の方が少し大きく、飛翔中の翼の形は雌の方が長く先端がより角ばって見える。
成鳥は黒褐色の顔、額から頭頂にかけて黒褐色の細かい斑、後頭に短く逆立った冠羽がある。首から背、翼上面は基本的に褐色だが暗褐色から淡褐色の羽が混じった色彩をしている。尾上面の地色は淡灰色で数本の黒褐色の横帯がある。体下面は首から胸にかけてオフホワイトで喉中央に暗褐色縦斑、上胸に暗褐色斑が散らばる。下胸から腹、わき腹は淡暗褐色地に白色の小さな横斑が密にある。脚は長く跗蹠まで羽毛がある。翼下面は黒褐色の明瞭な鷹斑(たかふ)が密にあり、雨覆い部分は褐色味がある。
翼は幅広く短めで次列風切の部分が後ろに大きく膨らんだ独特の形状をしている。飛び方は羽ばたきが非常に少なく帆翔(はんしょう)していることが多い。帆翔は広げた翼を心持ち前方に押し出し、正面から見ると翼両端をやや上方に持ち上げた姿勢をとる。クマタカ調査を実施している研究者等に聞くと林の中を枝伝いに移動している姿をしばしば見かけることがあるようだ。またクマタカには自分のテリトリー内の決まったコースをほぼ同じ時間帯に飛翔して見回る習性があるため、場所と時間がわかれば高確率で観察することができる。
1〜2月頃はディスプレイフライトが見られる時期。雌雄2羽で並びながら、両翼を上げたまま飛ぶ「V字飛行」や急上昇・急降下を繰り返す「波状飛行」など、非常にダイナミックな飛び方を観察することができる。年中観察することはできるが、やはり活発に活動する春先から夏場にかけてが遭遇するチャンスが増え、観察に適していると考える。
終わりに
参考文献
注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。
(2016-03-14掲載)
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