クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

総目次

第37回 Emberiza Ⅱ <ホオジロ類 Ⅱ>

2011年3月 ホオジロ雄成鳥冬羽
雄、雌、幼鳥、成鳥、第1回冬羽などあらゆる年齢、段階の羽衣を身近で確認できる種類はなかなかいない。ホオジロはあまりにメジャーなため、白い頬以外には注意が向かないようだ。ホオジロ科の小鳥は、背、胸、脇腹、翼上面、腰、尾などを常に意識して見るように心がけると識別の上達が早くなる。薄い体色の雌や胸に黒褐色の縦斑がある幼鳥などが出現したとたんに、何が何だか全くわからなくなってしまう人も多い。マイフィールドを持って、1年を通して腰を落ち着けて、じっくりと観察することが大切。ヒバリやセキレイ、モズ、サギ類なども一年中観察できるので面白い。

Field Noteから 日本海側離島

ホオジロは最も身近な野鳥と言ってもいいでしょう。一年を通して観察される留鳥です。住宅地、畑、水田、雑種地、山、河川、防風林などほとんどの環境に適応し生息しています。それだけ身近ですが、細かな色彩について正確に把握できていらっしゃる方は少ないと思います。目立つ雄でも白黒茶色の単純な色彩ではなく、よく見るととても複雑な色彩と模様をしていることがわかります。ホオジロといっても白いのは外頬線(そとほおせん)の部分。耳羽も真っ黒ではないものもいます。皆さん、「何だ、ホオジロか!」で済ませていませんか?現在、野鳥観察を始めるのにカメラから入門する方がほとんどです。珍しい種類を自分の手で撮影したいという気持ちもわからないでもないです。ただ、すぐ身の回りにいる留鳥を1年間通して詳細に丁寧に観察・撮影するのも、新たな発見がたぶん結構あって、なかなか素敵なことだと思います。
ホオジロはアジア東部の温帯地方, ロシアのアムール,ウスリー,沿海州,モンゴル,中国の北部と東部,北朝鮮,韓国, 済州島,日本,南千島に分布し,冬期には北方の個体群の一部は南方に渡ります。現在5亜種に分類されており、日本国内には亜種ホオジロ Emberiza cioides ciopsis だけが分布し、国外に4亜種が分布しています(モウコホオジロ、シベリアホオジロ、ニシホオジロ、チョウセンホオジロ)。この中で最も日本に近い地域に分布し、朝鮮半島や済州島まで分布域がある亜種チョウセンホオジロ E. c. castaneiceps については国内でも稀に出現情報を耳にしますが、単に色彩が薄いとか、色合いが違うといった程度の根拠の弱いものが散見されますので注意が必要です。
6月から8月にかけてしばしば観察される幼鳥は全体の色彩がぼんやりとして胸に明瞭な褐色縦斑があるため他の種類と誤認されることが多いようです。北九州平尾台、阿蘇、九重などの標高の高い草原では、ホオジロとホオアカの両方が繁殖していますので、特に幼鳥はよく似ており間違われる可能性が高いと思われます。ホオアカ幼鳥の特徴としては、全体的に赤褐色味に乏しく黄褐色味が強く、特に三列風切部分で目立つ。白色の細いが明瞭なアイリング。明瞭な頭央線がある。胸の暗褐色縦斑はホオジロに比べると少なめ。耳羽を取り囲むように不明瞭な暗褐色線がある。腰・上尾筒は黄褐色(ホオジロは赤味あり)などが挙げられます。

■ホオジロ科の小鳥識別ポイント

  1. 雄成鳥の場合は色彩がハッキリしており、ふだんの注目度も高いことから比較的問題ないと思われますが、雌、幼鳥、第1回冬羽などになると途端にわからなくなる人が結構いらっしゃいます。雄成鳥だけがホオジロではなく、これら全てを含めてホオジロなのだといった大袈裟にいうと意識改革がまず必要です。
  2. ホオジロ科の小鳥を識別する場合、観察するポイントは、顔、胸・腹・脇腹の色彩、背・腰の模様、尾の白斑、大きさ、声などです。これらを総合的に捉えます。一度にこんなにたくさんのポイントは確認できないと言われる方は多いのですが、まずは訓練です。慣れるにしたがって一か所ずつ増やしていきます。常時意識して観察を続けると意外とできるようになります。
  3. できることなら、ぜひ地鳴きの勉強をしていただきたいのですが、失礼ながら年齢とともに聴力は衰えてきますし、声の受け取り方は多分に主観的な部分が多く、第三者に言葉で伝えることが非常に難しいところもあります。
  4. しつこいようですが、本識別講座第2回Emberizaで使用した一覧表を再度掲載します。復習の意味でご覧ください。

■雌または1年目冬羽個体比較表

種 類①胸・脇腹の地色同左斑の色・形状②腰の色彩・模様③尾両側の白斑
ホオジロ一様にベージュ色無斑・幼鳥胸縦斑赤褐色あり
アオジ薄い黄色黒褐色・太く明瞭緑灰褐色・暗色斑あり
ノジコ黄緑色味強い脇のみ褐色斑少数緑灰色・無斑あり
ミヤマホオジロ薄いバフ色濃い赤茶・普通斑灰褐色・黒褐色斑あり
カシラダカ白地赤茶・太く明瞭赤褐色地・ベージュ
のウロコ模様
あり
クロジ灰褐色暗色斑・太い赤褐色・無斑無し
ホオアカ薄い黄褐色黒褐色・細い斑ベージュ地褐色斑あり

※太字は他の種類に無い特徴的なポイント
種類ごとに特徴のある部位ですので他の種類についても確認をお願いします。

終わりに

  • 私自身あまり熱心な野鳥の会会員ではありませんが、地元の探鳥会には時々顔を出しています。ありがたいことに「目がいいですね」とか「これで今日、10種は違う(増える)」とかおっしゃっていただきますが、私のアドバンテージのひとつはたぶん他の皆さんより少しばかり声が判るからだろうと思っています。ホオジロ科の小鳥もあの「チッ」「チチッ」という地鳴きでほぼ区別できています。ホオジロ、アオジ、クロジ、ミヤマホオジロ、カシラダカ、ホオアカ、コホオアカ、ノジコ等々。声が判れば、自ずと探す場所も絞られてきます。楽ちんです。省エネ探鳥をやっているだけです。スコープや双眼鏡で鳥の姿を追いながら、耳では他の小鳥を確認しています。これはよくやっています。
  • 可愛くて色彩豊かでとても身近なホオジロ科の小鳥達ですが、九州では留鳥として一年中観察できるのは意外にもホオジロ一種だけです(一部地域でホオアカ、ミヤマホオジロ含む)。ほとんどの種類が冬鳥または春秋に通過する旅鳥に含まれます。では、春の囀りを聞くことができるのはホオジロだけでしょうか?そんなことはありません。多くの冬鳥が繁殖のために北へ帰る直前、3月から4月頃にかけて囀り始めます。カシラダカ、ミヤマホオジロ、アオジ、クロジなどよく注意していると非常に美しい囀りを聞くことができます。意識していれば気づくことができます。特別な場所に行く必要もありません。住宅地の庭木、植込みの多い公園、田んぼ、畑、定例探鳥会などでも観察できます。春ぽかぽか陽気の中を散歩しながら小鳥の囀りに耳を傾けてみるのもいいかもしれません。

参考文献

注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。

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(2016-04-16掲載)

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