クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

総目次

第38回 Storm-petrels Ⅰ <ウミツバメ類Ⅰ>

2012年6月 ハイイロウミツバメ成鳥
千島列島、アリューシャン列島、北アメリカ北西沿岸部の島々で繁殖し、周年北部太平洋に生息する。北方系の数少ないウミツバメ。ウミツバメ類には船を追いかけて接近する習性を持つものとそうでないものがいるが、これは前者。通常数羽の小群で出現し、船体すれすれを飛び回るため、甲板直下、比較的近距離で観察することができる。バーダーにはありがたい習性だ。一昔前までは現在のように頻繁にこのハイイロウミツバメは観察されていなかったように思うが、気のせいだろうか?

大洗−苫小牧航路 Field Noteから

2012年6月アホウドリを見るために大洗−苫小牧航路に乗船。アホウドリは順調に出現し、それぞれ年齢の違う5個体を観察できました。うれしい誤算だったのが、ウミツバメ類4種を確認できたこと。ハイイロウミツバメ、コシジロウミツバメ、ヒメクロウミツバメ、そしてアシナガウミツバメ(他観察者)。ほとんどが北海道近海で、その中でも特に嬉しかったのがこのハイイロウミツバメでした。往復路で延べ10羽+を確認。全身が灰色のウミツバメは世界中でもこの種類だけです。翼上面にはイラストのような特徴的で不規則なM字模様が出ます。また、翼下面も下雨覆が黒褐色をしておりかなり特徴的です。翼は先端がやや丸みを帯びています。尾は切れ込みがあり、真ん中から左右両端にかけて反り返った形をしています。はばたきと滑空を交え、海面近くを素早く巧みに飛翔します。
日本産ウミツバメ類にはアシナガウミツバメ、クロコシジロウミツバメ、ヒメクロウミツバメ、コシジロウミツバメ、オーストンウミツバメ、クロウミツバメ、ハイイロウミツバメがいます。ほとんどの種類が太平洋遠洋海上(関東以北、伊豆諸島、小笠原諸島)で観察されるため、九州のバードウォッチャーには馴染みが薄いかもしれません。福岡県では唯一、宗像市沖ノ島の属島・小屋島(こやしま)でヒメクロウミツバメが繁殖しています。この場所は季節を違えてカンムリウミスズメも繁殖しているところです。以前は200〜300羽いた小屋島のヒメクロウミツバメは数年前たった一匹のドブネズミの侵入により絶滅してしまいました。その後ネズミは駆除され、現在はわずかながら個体数が自然回復し始めています。コシジロウミツバメ、クロコシジロウミツバメ等、その他のウミツバメ類も似たような状況です。たいへん危うい環境の中で生息しています。これまで以上にしっかりとした生息環境の保全が必要とされています。

■クロコシジロウミツバメ

太平洋海域ではハワイ諸島・ガラパゴス諸島・日本周辺の島々、大西洋海域ではアフリカ西部沿岸のカナリア諸島・マデイラ諸島・アゾレス諸島など、かなりかけ離れた地域に分布している。日本国内では岩手県の日出島と三貫島の2島で繁殖する。1935年12月「日出島クロコシジロウミツバメ繁殖地」として天然記念物に指定されている。コシジロウミツバメに似るが、少し小さく体色がより黒い褐色、翼上面の淡褐色帯は翼角まで届かず、腰の白い部分が両側から下腹まで食い込む、尾の切れ込みが浅くほぼ角尾に見えることなどが識別ポイントになる。自身、過去に東京−釧路航路(現在はない)で観察したことがある。

■ヒメクロウミツバメ

2006年7月 ヒメクロウミツバメ成鳥
額が張り、目がくりくりとしたかわいい顔をしている。「管鼻」が発達した特長的な嘴の形状。ウミツバメ、ミズナギドリの仲間では上嘴基部に発達し、先端に鼻孔が開いている。鼻孔の穴はひとつ。日本、ロシア沿岸、韓国などの無人島で繁殖し、冬はインド洋周辺で越冬することがわかっている。飛び方ははばたきと滑空を交えてひらひらとした飛び方をする。初列風切り基部数本の軸斑が白く、フラッシュを形成する。大洗−苫小牧航路で飛翔する姿を観察したことがある。

宗像市沖ノ島・小屋島 Field Noteから転記

2006年7月宗像市のヒメクロウミツバメ標識調査に参加する。沖ノ島の南南東約1km沖合いにある属島・小屋島に渡り岩場に座り日が暮れるのを待つ。夜20時45分暗闇の中を帰島した最初の1羽を確認。「チッ、チッ、チッ、チッ」と鳴きながら島の周囲を飛び回った後、次々と島に戻ってくる。巣穴の中でも鳴き始める。暗くて姿は見えないので、耳で探す。密生したヒゲスゲという雑草の群落上に「ドサッ」と音を立てて落ちてくる。この草の根元の土にちょうど大人の片腕ほどの深さの巣穴を掘る。駆け寄って早く捕まえないとすぐに巣穴に潜り込んでしまう。体色は黒味の強い褐色。翼上面に太い淡褐色帯がある。初列風切基部羽軸が淡色でフラッシュを形成する。足は黒く、蹼も黒色。尾は長め、やや深い切れ込みがある(図鑑と少し違う点)。前述したとおり、ドブネズミの侵入により沖ノ島では絶滅とネズミ駆除後の復活を繰り返している。いずれにしても危機的な状態にあることには変わりがない。
ロシア、中国、韓国、日本沿岸の離島・無人島で繁殖し、インド洋などで越冬する。国内繁殖地としては、この福岡県沖ノ島、京都府沓島、東京都八丈小島、岩手県三貫島が知られている。三貫島は1935年「三貫島オオミズナギドリおよびヒメクロウミツバメ繁殖地」として天然記念物に指定されている。

■アシナガウミツバメ

南極周辺で繁殖し、赤道を越え太平洋、インド洋、大西洋を北半球まで北上してきます。からだは小さいですが地球規模で移動している種類です。数年前、関東千葉県銚子沖で定期的に飛来している海域が発見されました。翼は短く、先端に丸味があります。翼上面に太い淡褐色帯が出ます。腰の白斑は両側から回り込み下腹部まで達します。尾は角尾。脚が長く、水かきが黄色です。条件が良ければこの黄色い水かきを観察できます。飛翔中、尾先端から脚が出ています。海表面で採餌する時には脚を垂らしダンスをするように海面を飛び回ります。2012年6月の大洗苫小牧航路でも出現しました。我々とは反対側の甲板でただ一人頑張っていた高校生が、船首から飛んできた個体をすれ違いざまに捉えたワンショット。黄色い蹼(みずかき)まで写っている、全ての識別ポイントを確認することができる渾身の一枚でした!!

終わりに

  1. 九州にいるとウミツバメ類はあまり身近な種類ではありません。福岡県では唯一、宗像市沖ノ島の属島小屋島でヒメクロウミツバメが繁殖していますが、普通に行ける場所ではありませんし、夜間に帰島するため日中周辺の海上で見ることもまずありません。その他の種類は主に太平洋側に生息しています。太平洋外洋航路、伊豆・小笠原航路などに費用と日数をかけて乗りに行く必要があります。少したいへんかもしれませんが、アホウドリ類、ミズナギドリ類、ウミスズメ類なども一緒に観察できますので一度行かれてみるのもお勧めです。ただし、時季を間違えないように。狙う種類によって見ることができる季節が違います。
  2. ウミツバメ類の中で、オーストンウミツバメ、コシジロウミツバメなどは大型で比較的個体数も多く見やすい種類だと思われます。春先から夏にかけて相当数が大洗―苫小牧航路や伊豆七島・小笠原航路などで観察されます。
  3. 今回登場したヒメクロウミツバメは極東の島々(太平洋側)で繁殖し、インド洋で越冬することが知られています。通常の分布域から見ると遠くかけ離れた北大西洋でも観察されており、イギリス、フランス、イタリア、ノルウェー近海などで記録があります。地球儀で考えてみてください。これらの記録、単純に考えるとインド洋から遥か南アフリカ南端の喜望峰を越えてアフリカ大陸をぐるりと周って行く方法がありますが、恐ろしく遠く距離がありすぎ、これでは現実味がありません。もしかしたら海面が凍っていない時期の北極海周りかも?それにしても遠方です。などといろいろ考えてみるとたいへん不思議で興味が尽きません。
  4. 海鳥は我々の知らない、まだわからないことの方が多いと思います。前述3.のような記録があります。また、数年前の千葉県銚子沖のアシナガウミツバメ集団生息海域発見や小笠原諸島・父島海域で絶滅したと考えられていたオガサワラヒメミズナギドリ(第8回Shearwaters参照)再発見のように、これまでの理解や常識の枠を超えた記録や発見がなされています。何が出現するのかわからない!そういったところが海鳥探鳥の大きな魅力でもあります。

参考文献

  • Petrels, Albatrosses & Storm-Petrels of North America: Princeton University Press Princeton and Oxford
  • ALBATROSSES, PETRELS & SHEARWATERS OF THE WORLD: PRINCETON FIELD GUIDES
  • A Guide to the Birds of Southeast Asia CRAIG ROBSON: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON,New Jersey
  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
  • 海鳥識別ハンドブック 箕輪義隆 著 (株)文一総合出版
  • 北九州市立自然史・歴史博物館 いのちのたび博物館 いにしえ探訪<一覧> No.065

注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。

2016-05-11掲載

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