波多野邦彦
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第39回 Asian Stubtail <ヤブサメ>
1997年4月 ヤブサメ成鳥
中津市今津 Field Noteから転記
このイラストは私の夢ではありません、現実の一場面です。しゃがんだ私の足の間で一心不乱に囀るヤブサメ。微動だにできません。ここは海岸に面した防風林。後背地には水田、畑、湿地、灌木、広葉樹林、河川など多様な環境が隣接しています。春秋の渡りのシーズン中、海が荒れ、島に渡れなかった時などにはよくここで時間を過ごしました。エゾビタキ、コサメビタキ、キビタキ、ムギマキ、オオルリ、クロツグミ、マミチャジナイ、コルリ、センダイムシクイ、エゾムシクイ、サンコウチョウ、サンショウクイなど、わざわざ山や島に行かなくても自宅から近い場所で、渡り途中の小鳥を十分に観察することができました。
ヤブサメは春まだ早い時期、4月初旬に渡って来始めます。また、秋も同様に早く9月上旬ころから渡りの個体が見られます。渡りの時期には市街地の公園や離島などでも観察されます。舌打ちをするような「チョッ」という地鳴きは特徴的な音質で、慣れると一声聞いただけでも十分に識別が可能です。全長は約10.5cm、頭が平らで大きく、尾は極端に短く見えます。クリーム色の太く明瞭で長い眉斑を持ち、頸の付け根あたりまで伸びています。過眼線も黒褐色で太くはっきりとしています。頭頂、頸、背、腰、尾にかけて上面は一様に茶褐色をしています。跗蹠が長く、寸詰まりのからだに長い脚といった特徴的なスタイルをしています。ブッシュの中や林床など地表に近い場所を渡り歩く場合が多く、目線より上の高さまで上がってくることは稀れです。
探鳥会などでベテランの方から「このヤブサメはいつも声ばかりで姿を見るのはたいへん難しい種類だ!」「まず見られない種類だ!」などと言われたことはありませんか?決してそんなことはありませんので安心してください。確かに大勢がいる探鳥会などでは見るのが難しいかもしれません。でも、全く見ることのできない種類ではありません。但し、今回のイラストのような状況になるためには事前準備が必要です。近くで囀りが聞こえてきたら慌てずに待ちます。どこだどこだとがさがさ藪に分け入って探すのはタブーです。じっと待っていれば、そして運が良ければ、向こうからやって来てくれます。野鳥に対するアプローチのやり方ひとつでいろいろと楽しい貴重な体験ができます。ぜひチャレンジしてみてください。
ヤブサメの声に関連してもうひとつ。あの「シシシシシシ・・・」という囀りの声は至近距離で聞くと非常にうるさく感じるほどですが、周波数が非常に高いため年齢とともに聞きとりにくくなるようです。こればかりはどうしようもないことです。目の前で鳴いていても全く聞き取れない方もいらっしゃいます。皆さんご存知のことと思いますが、当支部では特にこれを「ヤブサメ・ショック!」と呼び、野鳥を趣味としている年配の方々に特有の症状であると位置付けています。
終わりに
参考文献
注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。
2016-06-13掲載
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