波多野邦彦
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第40回 Flycatchers Ⅱ <サンコウチョウ>
2005年5月 サンコウチョウ雄成鳥
ガガンボ類に飛びかかろうとする雄成鳥個体。頭についている白いものはクモの巣。ほとんどの個体が顔や頭、からだに付けていた。蜘蛛の巣に飛び込んでクモを捕食したり、巣材としてクモの糸を集めたりするケースが多いからだろうか。フライングキャッチも頻繁に行う。 口内は鮮やかなペパーミントグリーンをしている。
鹿児島市慈眼寺 Field Noteから転記
薄暗い欝蒼とした大木が繁る照葉広葉樹林。鹿児島市南部、シラス台地に点在する林の一つに慈眼寺(じげんじ)の森がある。深い森の中を渓流が流れる静かな公園として整備されている。早朝まだ暗い中を出かけてみたが、意外と静か。巨木が鬱蒼と生い茂り林内がかなり暗いためか、少し遅めの8時30分頃からが野鳥の囀りのピークらしく、あちらこちらからサンコウチョウの声が聴こえ始める。周囲の竹林をバックに数羽が飛び交う姿が垣間見える。一度口笛で真似てみるとすぐ頭上まで飛んできた。この日、うろうろせずにほとんど同じ場所で短時間だけ観察したが、雄5個体、雌1個体を確認できた。生息環境が薄暗い林の中、体は小さく黒っぽく、結構な速さで飛び回るので、姿を追って目で捕捉すること自体、たいへんだ!他にもササゴイ、ホトトギス、ヒメアマツバメ、アカショウビン等も観察することができた。公園北側、谷山神社展望所から鹿児島市街地を眺めると正面に雄大な桜島が噴煙を上げていた。
国内には2亜種が生息。本州から屋久島までの間に亜種サンコウチョウ、そしてトカラ列島以南で繁殖する亜種リュウキュウサンコウチョウが分布している。日本には夏鳥として平地や低山の針広混交林や竹と広葉樹が混じった林などに渡来し、繁殖する。杉の植林地域などでもよく見かける。雄は頭頂から上胸にかけて黒色、背・腰・上尾筒までの上面が紫褐色。頭頂から後ろに向かって冠羽が顕著。中央一対の尾羽が非常に長く伸びる。眼瞼輪は太く、嘴と同様にコバルトブルー色。口内は「はっ」とするような鮮やかなペパーミントグリーンをしている。雌は上面が明るい茶褐色。眼瞼輪も雄に比べ細く、青色の色彩もやや鈍い。尾は角尾。声は特に特徴的で名前の由来にもなっている「ギュィ、ギュィ。フィチュイッ、ホイホイホイッ」最後のフレーズを月日星(つき、ひ、ほし)と聞きなし、三光鳥。ぐぜるように最初の「ギュィ、ギュィ」だけの時もあるが、この声だけでも十分に特徴的である。
サンコウチョウは、薄暗い林内を高速で飛び回るため、黒っぽい体色も相まって目で捉えるのが難しい。雄の長い尾羽は皆さんが想像しているほど、新体操のリボンのようにはクネクネとたなびかない。ただし、採餌のためにフライングキャッチを繰り返しているようなときや雌にディスプレイしているような場合は、ヒラヒラと体を翻して飛び回るので、非常に美しく感じる。
8月下旬、近隣の住宅地に隣接した貯水池で林の樹冠をザワザワと渡っていくムシクイ類、カラ類、ヒタキ類の数百羽単位の大きな混群の中にひときわ目立つ茶褐色の雌個体を見つけたことがあります。これは秋の渡りの一場面ですが、渡りの時期にはこのようにヒタキ類やムシクイ類など違った種類がひとつの大きな群れを作って渡ることがあります。サンコウチョウは日本国内で繁殖し、繁殖期後期になる頃に換羽を行い長い尾羽をこの時期落とし、秋の渡りでは短い尾羽になって南方に渡去するようです。翌年、春の渡りの時期、離島に渡ってくる雄成鳥には既に長い尾羽が備わっています。
終わりに
※多型(たけい)生物学用語 同一種の集団の中で異なった形態を示すものがいること。
参考文献:
注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。
2016-07-14掲載
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