クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

総目次

第45回 Emberiza Ⅲ <カシラダカ、ミヤマホオジロ>

2016年4月 カシラダカ(左)、ミヤマホオジロ(右)雌第1回冬羽
どちらも年によって飛来数が大きく増減します。雌第1回冬羽はコントラストが弱く双方似て見えるので注意。胸・脇腹の色彩、腰の色彩など確認を。カシラダカの尾の短さがわかる。

Field Noteから 宗像市地島

カシラダカ、ミヤマホオジロと言えば冬鳥の代表格です。ミヤマホオジロは西日本に多い種類ですので、九州北部にお住いの皆様にはお馴染みです。関東方面、東日本に行くと意外と少ないことを覚えておいてください。両種とも雄の場合は美しい色彩や明瞭な特徴からあまり迷うことは無いようです。ただし、雌や第1回冬羽などの場合は部分的な判断だけでは間違う場合があります。ホオジロ科の小鳥の識別で大切なのはもちろん顔は大切ですが、それ以外の重要な識別ポイントは、脇腹および腰の色彩と模様です。特に腰は決定的に違います。 カシラダカは開けた耕地や刈田、ミヤマホオジロは明るい雑木林や湖・ダム湖周辺ほか木の多い公園などを好みます。両種ともに通常頭頂の羽毛を逆立てていることが多いのですが、たまに寝せている場合もあります。そのような時は顔つきが変わり別の種類に感じますので、頭を毛羽立たせていない時のイメージも持っておくことが大切です。また、両種は全体的なスタイルが若干違います。カシラダカの方が明らかに短い尾を持っています。意識して観察すると飛んでいても尾が短くやや寸詰まりな感じであることが解ります(巻頭イラスト参照)。

■カシラダカ、ミヤマホオジロの識別ポイント対比表

カシラダカミヤマホオジロ備考
大きさ15cm15.5cm尾の短さ分だけカシラダカ小
地鳴きチョッ、チョッ、チョッチュッ、チュルル
下線部特徴的
ミヤマホオジロ尻下がり声有り
胸の斑赤褐色縦斑の集まり(ひとつの塊にはならない)雄成鳥黒逆三角斑、雌や第1回冬羽はややぼける
胸・脇腹の色彩模様汚白色地にやや太め赤褐色縦斑淡黄褐色地に暗褐色やや細め縦斑
腰・上尾筒の色彩模様赤褐色地にベージュのウロコ模様淡灰褐色地無斑または同地色にごく薄い褐色縦斑
その他頭の羽毛寝せたとき注意頭の羽毛寝せたとき注意

脇腹の色彩および模様は、カシラダカが汚白色地に赤味が強い太目の褐色斑、ミヤマホオジロは淡黄褐色の地に若干太目の黒褐色斑です。腰から上尾筒の色彩はカシラダカが特徴的な赤褐色の地にベージュの細い鱗模様であるのに対し、ミヤマホオジロでは淡灰色の地にごく薄い褐色の縦斑と決定的に違います。余談ですが、ホオジロ科でカシラダカのような色彩の腰をした種類は他にシラガホオジロ、キアオジといった珍鳥しかいません。このようにピンポイントでその種類の特定まではできないが、種類を2、3種類まで絞り込める識別ポイントもあります。一口に識別ポイントといっても使い方次第でいろいろな利用方法があります。
カシラダカの地鳴きは「チョッ、チョッ」。ミヤマホオジロは少し似た「チュッ、チュッ」ですが、しばらく聞いていると「チュルルッ、チュルルッ」という尻下がりの特徴的な声を必ず間に挟みます。この声を聞くことができれば、100%ミヤマホオジロと考えてよいと思います。注意は必要ですが、地鳴きでも十分に識別することができます。
この冬はぜひカシラダカとミヤマホオジロの識別にチャレンジしてください!

終わりに

  • 巻頭のイラスト説明にも述べているとおり、特にホオジロ類の識別では数か所の識別ポイントを常に確認する癖をつけることが大切です。顔、胸・脇腹の色彩と模様、腰の色彩と模様、尾の白斑の有無や長さ、できれば三列風切り黒い軸斑の形状、地鳴き、行動、その他。訓練次第で短時間に同時に確認できるようになります。カメラマンの方には画像とともに常時、声や行動、気が付いたことなどメモを取る癖をつけるようにお願いしています。
  • ミヤマホオジロは冬鳥の代表格ですと書きましたが、実は長崎県対馬では一部が留鳥として繁殖しています。初めて6月頃に行った時に何の囀りだろうと耳を傾けたことがあります。雄は頭頂、嘴、耳羽、胸が真っ黒で黄色も鮮やかな夏羽です。これに関係するかどうかわかりませんが、地元津屋崎でも7月頃に観察されることがあります。対馬では他にも通常冬鳥のシロハラ、通常旅鳥のカラアカハラなども繁殖しているようです。他にも九州には通常生息していないアカゲラが居たり(渡りをするハシブトアカゲラではない)、現在極めて数が減少したオオヨシゴイが毎秋定期的に通過したり、大陸系色彩のノスリが観察されるなど、改めて鳥屋の興味をそそる魅力的な離島だと思います。
  • 春先、渡り直前の3月下旬から4月上旬頃にかけて、カシラダカ、ミヤマホオジロともに非常に美しい声で囀ります。ふだん身の周りをよく注意しているとそれに気づくことができます。きれいな夏羽に変わった雄が枝先などにとまり、一生懸命囀ります。この時期は他にもジョウビタキ、ルリビタキ、ツグミ、シロハラ、アオジ、クロジなど九州では冬鳥と呼ばれている種類が囀る姿を観察できるチャンスです。植込みの多い住宅街や樹木のある公園など朝早い時間帯であれば可能性も高くなります。探鳥会などでも観察できますが、日常の通勤途上などでも見られる機会があるかもしれません。ただし、意識していないとそれに気づくことができません。春先にはこのことをぜひ思い出してください。

参考文献

注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。

(2016-11-12掲載)

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