クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

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第49回 Eagles & Hawks Ⅲ <オオタカ>

2016年4月 オオタカ雄成鳥
繁殖期にあり獲物を捕らえたり、林の木立の中を飛び回ったりするためか体羽や翼・尾の損耗が激しい。胸腹の羽毛は先端が擦れて模様がなくなりほとんど白っぽく見える。下腹の純白の羽毛を球状に広げ目立たせる。外敵を自分に引き付け巣から遠ざけるためだろうか。

福岡県内 Field Noteから転記

「キィヨ、キィヨ、キィヨ・・・」大きくよく通る警戒の声を立て続けに発し、木立の中を飛び回る雄成鳥。今年も繁殖に入ったようだ。見た目はとてもスマート。筋肉質で贅肉を削ぎ落としたような体つき。体羽全体が相当擦れているためか胸・腹の横斑は通常よりさらに不明瞭でほとんど白く見える。初列・次列風切も不揃いでボロボロだ。自分に注意を引き付けるためかもしれないが、下脇腹、下尾筒の羽毛を膨らませ、大きなボンボンを付けているようで、暗い林内遠目からでもよく目立つ。雌成鳥もそばにいて、2羽が協力して警戒している。
この場所の巨大な巣は何年も続けて同じものを利用している。直径1.5m以上、深さ2.0m近くあるように思われる。大きな割に木立の中、ある角度からしか見えないよう、巧妙に営巣場所を決めているのだろう、簡単には発見できない。ほとんど見に行くことはないが、数年前に観察したときは白い産毛に包まれた2羽のヒナが巣から顔を覗かせていた。オオタカ等の希少種は常に密猟者の脅威に晒されているため、詳細な場所や観察記録を公表できない。里山環境が残る地域でひっそりと生息している猛禽類だ。

オオタカは北半球のおよそ北緯70度から24度にかけての開けた森林と林縁に広く分布し、主に留鳥であるが、北方の個体群は南方に渡って越冬する。分布の北限はユーラシアと北アメリカの森林限界、南限はユーラシアでは中国西部のチベットとヒマラヤ山脈、および地中海沿岸、北アメリカではメキシコ西部である。オオタカは現在10亜種が認められている。一般に北方の亜種ほど淡色で大きく南方の亜種ほど暗色で小さい傾向がある。日本産亜種オオタカは日本国内でのみ繁殖する日本固有亜種であり、オオタカの全10亜種の中で最も小さく、最も暗色で黒味の強い亜種である。(オオタカ識別マニュアル改訂版 環境省自然環境局野生生物課2015)
国内のオオタカは雄がハシボソガラス大、メスはハシブトガラス大のハイタカ属に属する中型のタカ。タカ類の中でもクマタカと並んで最も精悍な顔つきをしている。里山に住む生きものの食物循環の頂点にいる鳥類で、里山環境への依存度は高く、意外にも人が住む地域の周辺に生息している。北海道から九州まで全国に生息し、一部は漂鳥として渡りをおこなう。
識別においては、ハイタカと混同されるケースが非常に多い。ただし、オオタカ雄の小型個体とハイタカ雌の大型個体で大きさが重複する部分はない。飛び方はハイタカが「パタパタパタスーッ、パタパタパタスーッ」と速い羽ばたきと滑空をせわしなく交互に繰り返すのに比べると、オオタカは羽ばたきも大きく、帆翔する時間も長く感じる。また、胴体がかなり太く、飛ぶところを横から見ると胸・上腹の部分が盛り上がって見える。これに対しハイタカはかなりスマートな寸胴。翼から前に突き出た頸から頭にかけてオオタカは長く厚みがある。嘴も横から見ると厚みを感じる。ハイタカは嘴が小さく、頭も丸く小さく見え、チョウゲンボウ的な印象を受ける。尾はハイタカが細長く先端が角尾なのに対し、オオタカは全体が太目で先端部分がやや丸味を持ちながら絞り込んだ形状をしている。オオタカは下腹両脇の部分の羽毛がふさふさとしており、時に飛翔中、翼後縁から横にはみ出して捲きあがって見えることがある。

■亜種シロオオタカ

2005年2月 亜種シロオオタカ雄成鳥?
国内では幼鳥の記録がほとんど。

福岡県内 Field Noteから

数千羽のミヤマガラスが突然舞い上がった。と同時に地上でオオタカがダイサギに襲いかかる姿が視界に飛び込んできた。ダイサギも必死に暴れる。数分後、獲物を獲り逃ししばらく地上で休む。
濃オレンジ色の虹彩と胸・腹のごく細い横斑からすると雄成鳥個体と考えられるが、全体的に上面に黄褐色の模様が多くかなり大型。蠟膜は淡黄色。頭頂は細かい暗褐色斑。眉斑は幅広く後ろ頭でつながる。前面を除く頸周囲から背にかけて褐色縦斑。後頸左右に大きな白斑。耳羽の周囲に細かな灰褐色斑。暗褐色の僅かな髭状斑。翼上面の斑は明るい黄褐色で白斑がある。胸から腹にかけて白色の地色に間隔がやや広めのごく薄く細い横斑。脚は淡黄色。尾に数本の太い暗灰褐色横帯がある。
これらのことからシベリア、カムチャツカに分布する亜種シロオオタカ Accipiter gentilis albidus ではないかと考えた。この亜種は成鳥の記録がこれまで国内にほとんど無く、九州でも未記録のため、発見当初はオオタカの白変個体(アルビノ)の可能性を検討した。一方、亜種シロオオタカは外国から移入されているため、籠脱けの可能性も考える必要がある。この個体は一応、装着物等は無かったが、どうだろう。その後何度かダイサギを攻撃、結局失敗し飛去した。

■終わりに

  • 日本産亜種オオタカの学名は、Accipiter gentilis fujiyamae で「富士山」を意味する亜種小名を持つ。現在、国内の多くのワシタカ類が絶滅危惧種に認定され緊急の保護対策が必要になっているが、オオタカは平成18年に行われた環境省レッドリスト更新の際に、絶滅危惧Ⅱ類から準絶滅危惧になり、絶滅の危険性が低くなったと認定された。但し、これはある地域での個体数の増加や成熟個体数から見積もられた結果であり、全体としては多くの繁殖地で環境が悪化していると考えられることから、今後も慎重に様々な見地から総合的に動向を見極めていく必要がある。
  • 各支部の探鳥会などでオオタカが確認される確率はそれほど高くない。ただ、当筑豊支部でも里山環境が残っている地域が多く認められ、そういった地域にはオオタカが生息している可能性が十分にある。一方、探鳥会は定例探鳥地でも月1回、基本的に休日の午前9時から12時までの3時間、つまり一か所について、一か月の間に僅か3時間だけとたいへん限られた時間しか観察時間が取られていないことになる。これではその地域に生息する鳥類を正確に把握することは当然無理である。希少種保護の見地からも特に重要だと認められる地域については会員の協力で可能な限り多くの回数、できれば観察時間もずらすなどして、丁寧に調査を継続してくことが大切ではないかと考える。

■参考文献

  • オオタカ識別マニュアル改訂版 オオタカの日本産固有亜種とヨーロッパ産亜種との識別: 環境省自然環境局野生生物課 2015
  • 猛禽類保護の進め方(改定版) 平成24年12月 環境省自然環境局野生生物課
  • 山階 1941
  • Dickinson and Remsen 2013
  • シンポジウム「オオタカ 希少種指定解除の課題」 2014年10月4日 立教大学
  • Birds of East Asia: Princeton University Press Princeton Oxford
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 2015年6月1日 増補改訂初版第1刷発行 (公財)日本野鳥の会
  • 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
  • BIRDER 2013年9月号 極める!!ハイタカ属 (株)文一総合出版
  • 独断と偏見の識別講座Ⅱ

注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。

2017-03-15掲載

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