波多野邦彦
総目次
第56回 Snipes Ⅱ <Gallinago タシギ属>
2010年4月 ハリオシギ
北部九州を通過するタシギを除くジシギ類3種の中では最も個体数が少ないと考えられます。尾羽の枚数は22枚〜28枚で標準は26枚、外側数枚が針のように細く短いところから名前が付いています。標準的な個体は大きな目とその位置、やや扁平な頭頂、基部が太い短めの嘴と形状、明るい色調の頭側線や雨覆いなどの翼上面、小さく寸詰まりの体形などの特徴があります。また地域的な差異もありますので様々な状況を考慮しながら識別することになります。ジシギ類の識別には常に総合的な判断が必要です。
津屋崎 渋田朗氏画像から転記
探鳥トラバースに併せ、独偏識別講座でもジシギ類に取組みます。
オオジシギ、チュウジシギ、ハリオシギ、そしてタシギは春秋の渡りシーズンに水田や農耕地、湿地などで観察される種類です。観察時期は春4月〜5月、秋8月〜9月頃です。
全身褐色の細かな複雑な色彩で長く直線的な嘴やずんぐりとした体型など、それぞれがよく似ており、シギ・チドリ類の中でも特に識別が難しい仲間です。最終的には標識調査のように捕獲したうえで、尾羽の枚数や形状を確認するなど詳しく計測しなければなりません。
近年、沖縄や西日本の一部を通過するチュウジシギは東日本の個体に比べ小型で全体的に明るい色調をしておりハリオシギに近い特徴を持っていることがわかっています。一方、東日本ではチュウジシギとオオジシギの識別について注目されています。
野外識別分野におけるジシギ類の同定については、年齢や換羽の状況による方法なども開発されているようで、今後研究が進み、さらに新たな手法が見出されていくものと思われます。
■タシギとその他3種(オオジシギ、チュウジシギ、ハリオシギ)のジシギ類との識別について
ジシギ類は野外識別の中でも特に難しい仲間ですが、「タシギとその他3種との識別」ということであれば、いくつかのポイントを確認することで比較的簡単に区別することができます。今回の識別講座では、ジシギ類識別の入門編として、「タシギとその他3種のジシギ類との見分け方」について画像を使用して説明したいと思います。
平成29年9月8日第862回例会 中津干潟探鳥会 虎尾俊二様撮影(拡大)解説
(写真リンクは、クリックにより拡大・縮小)
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この写真を見た時にたいへん面白いと思いました。
黄色○印内、向こう側を飛んでいる個体はタシギです。右手前の個体を除いて残りは全てタシギだと思われます。
ではこの個体が「なぜタシギではないと判るのか?・・・」それは翼下面(下雨覆い部分)が小さな黒斑でびっしりと覆われているからです。ただしタシギの中にも下雨覆に白い部分が無く、小黒斑でびっしりと覆われた個体がいるようなので注意が必要です。
タシギはこの部分が広く白色になります(赤矢印の個体)。写っている他の個体と比較してみてください。重なって右手前に写っている1羽も日射しが反射して翼下面が明るく見えますが白には見えず、よく見ると細かな模様があり、次列風切り後縁の白色線も不明瞭なので他のジシギ類かもしれません。
ただ、タシギ以外の他のジシギ類3種(オオジシギ、チュウジシギ、ハリオシギ)はどれも下雨覆いの部分が同じような色彩であるため、これだけでは種類を同定できません。3種のうちのどれか?です。
また、タシギは次列風切り後縁部分に太く明瞭な白色線が出ます(赤矢印)。他のジシギ類はほとんど見られないか、あっても細く不明瞭な淡色線です。これも判りますね。
※一方、ジシギ3種オオジシギ、チュウジシギ、ハリオシギについてそれぞれの種類を同定するためには最終的に尾羽の形状・色彩と枚数を確認することが重要です。地上に降りている時、羽繕い時や興奮時を狙って確認します。時間と根気が要りますし、日中は暑さとの戦いになります。地上に降りた個体を丁寧に観察し、尾羽根を広げたところを確認・撮影する必要があります。
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タシギと他のジシギ類3種を外見上で区別する簡単な方法その2。
嘴の基部に注目します。基部に接している暗色の過眼線の幅(A)と淡色の眉斑の幅(B)とを比べます。
基本的に(A)≧(B)の場合はタシギです。これとは逆に(A)<(B)の場合は他ジシギ3種の内のどれかということになります(巻頭ハリオシギのイラスト参照)。100%必ずという訳ではありませんが、簡易的な識別方法としては有効だと思います。
上記1.と組み合わせるとほぼ確実です。まずは「タシギとそれ以外のジシギ類との識別」について、この2点の確認から始められるとよいと思います。
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最後に飛び方。
タシギは地上から飛び立つと「ジェーッ」と比較的間延びした声を発するとともに、体を忙しなく左右に傾けながら高空へ舞い上がる飛び方をします。
オオジシギは「ゲッ」「ジェッ」などと鳴き、重くゆっくりした翼動で低空を直線的に飛翔し短時間のうちに地上に戻ります。
チュウジシギはあまり鳴きませんが、声は「ゲッ」「カッ」と短く、深く遅い翼動で低空を直線的に飛び、高くあがることはほとんどありません。
体を左右に傾けながら上空に舞い上がるのはタシギだけだと考えても良いかもしれません。
終わりに
- 今回は入門編として「タシギとそれ以外のジシギを区別する方法」について説明しましたが、ジシギ類については折を見て今後も当識別講座で扱っていきたいと考えています。
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ハリオシギについては、当筑豊支部サイト「くまたか」に「ハリオシギの標識捕獲(北九州市)」として森本嘉人北九州支部長を中心とした北九州支部の皆様による(標識)調査報告があります。非常に参考になりますので、ぜひご覧になってください。
この個体の尾羽の枚数はハリオシギとしては標準的な26枚です。とでタシギ以外のジシギ類の特徴である<細かな黒斑で密に覆われた下雨覆い>とでハリオシギの最大の特徴である<生・針尾>を確認できます!
- 先日、佐賀県東与賀干拓で実施されたヤング探鳥会に遠路東京から来たメンバーが多数参加していました。見たところ、20代後半〜30代前半といった活きの良い青年たちが多かったように見受けられました。中には「ボクはシギチドリ専門です!」「シギチドリしか見ません!」とさらりと言ってのけるバーダーも。こういったメンバーならジシギ類のような難しい範疇の識別も打破してくれそうで、非常に頼もしく感じました。
参考文献
- BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
- SHOREBIRDS An identification guide to the waders of the world (Peter Hayman, John Marchant and Tony Prater: CROOM HELM London & Sydney)
- フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 2015年6月1日 増補改訂初版第1刷発行 公財)日本野鳥の会
- 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
- シギ・チドリ類ハンドブック 氏原巨雄・氏原道昭/著 文一総合出版
- 日本野鳥の会北九州支部報告 ハリオシギの標識捕獲(北九州市) 2013年5月7日
- BIRDER 2016年10月号 14ジシギ類 小田谷嘉弥 文一総合出版
- BIRDER 2016年10月号 Young Gunsの野鳥ラボ「ジシギ類の形態と識別」
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独断と偏見の識別講座Ⅱ
注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。
(2017-10-15掲載)
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