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くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

総目次

第60回 Waders Ⅲ <ヨーロッパトウネン、トウネン>

2009年9月 ヨーロッパトウネン幼羽(左)と トウネン幼羽(右)

ヨーロッパトウネンは「トウネンと比べて脚が長いために採餌時、より深い前傾姿勢になる」と言われています。これは常にそのような角度で採餌していることではなく、採餌する姿をしばらく観察しているとそういうふうに感じられることがよくあるといった意味合いです。体型についても同様のことが言えます。たくさんいるトウネンをふだんから丁寧に観察することで、個体差やバリエーション、年齢による羽衣の違い等がわかるようになり、その結果としてヨーロッパトウネンとの違いに気付くことができるようになります。図鑑や書籍で学習した識別ポイントに加えさらに、実際はどう見えるのか、遠くからはどのような感じに見えるのか、各羽衣の場合はどんな印象を受けるのかといった感覚を身につけることが大切です。実物から受けるイメージは信頼のおける経験者に直接聞くのが一番ですが、ふつう身近にはなかなかいません。インターネット画像はいくらでも見ることができますから、できるだけ多くの画像を見て、その辺りの微妙な特徴を読み取る努力が必要かもしれません。

津屋崎 Field Noteから転記

今回はヨロネンと言う略称で親しまれているヨーロッパトウネンについて説明します。過去にはニシトウネンとも呼ばれていました。本種は、比較的珍しい種類ですが、近年は観察例も増えています。春よりも、秋シーズンに観察される幼鳥の出現頻度が高いと思われます。以下、巻頭イラストを参考にしながら解説します。

■ヨーロッパトウネンの識別ポイントについて(トウネンとの比較)

  1. 体型

    後ろ向きに絞り込んだティアドロップ(涙型)形状。
    トウネンは、下腹の部分がやや張り出し、より長方形に近いイメージ。
  2. 頭部・顔・喉

    副眉斑は幼羽で明瞭な場合があり、その他の羽衣では不明瞭なことが多いと思われます。またトウネンでも幼羽で明瞭なケースがあります。幼鳥の耳羽はやや褐色味あり。全ての羽衣で腮から喉・上胸にかけて広範囲に白色になります。
  3. 一般的によく言われるのが「細長く先端が尖っている」。自分はそう見える場合もあるといった程度に考えています。嘴の先端は尖って見えない場合もあります。それよりも嘴全体と比較して嘴基部が僅かに太めに感じることを重視しています。
  4. 上胸両サイドの暗色斑

    各羽衣で見られることがあります。トウネンの同じ部分はごく小さな褐色斑が数列並んでいるか、ポツポツと点在する程度で、ヨーロッパトウネンのような暗色斑の集まりにはなりません。
  5. 脊のV字斑

    幼羽や成鳥夏羽で明瞭なものがいます。但し、その他の羽衣では不明瞭な場合もあるので安定した識別ポイントとは言い切れません。トウネンでも幼羽個体などには鮮明なものがいます。
  6. 肩羽や大雨覆い等

    肩羽の最下段や大雨覆い等の羽根1枚1枚が大きく長く見える場合があります。
    また、大雨覆い下段のスピンドル(糸巻き)形状の暗色軸斑もヨーロッパトウネンの特徴です。
  7. 翼の突出(Wing Projection)・三列風切軸斑

    三列風切りの羽軸斑は幼羽や夏羽の場合、通常この個体のように、太く黒褐色です。ただし、トウネン幼羽の個体でほぼ黒色に近い太い軸斑を持ったものがいますので、この部分の色彩だけで 識別を判断する基準にはなりません。また、尾先端からの翼の突出(Wing Projection)については野外識別では遠距離からであったり、体勢や見る角度で変化したりするために正確な判断が難しく、尾の先端から若干突き出て見えることを確認する程度にとどめています。
  8. 長い脚

    通常脚が長く特に跗蹠より上が長く見えます。ただし、干潟の泥の中では判りにくく、石の上等にあがっている場合等で脚全体が見える場合に限ります。このことにより採餌時の前傾姿勢が深く見えることがあるようです。脚が長い分「ひょこひょこ」とした歩き方に感じる時があります。トウネンと同条件で比較できれば明らかに長いのがわかります。
  9. まとめ

    ひとつひとつの特徴を挙げると上記のようになりますが、識別の際は常に総合的な判断をするように心がけてください。

※注意)本件識別ポイントの説明についてはオーソライズされていないものもありますのでご注意下さい。

■終りに

  1. 今回の内容につきましては、とりあえず参考にしていただいた上で、ご自分の目で実際に確認していただきたいと思います。いずれにしても、常に総合的な判断をするよう心掛けることが大切です。
  2. シギ・チドリ類の識別については、遠距離からの識別、大きさの認識、他種類との比較、飛翔中のパターンの認識、声の識別など経験の積み重ねが必要です。特に遠くから見た時に種類毎にどのように見えるか、どのような特徴的な動きをするのかが判っていないと識別に大変苦労します。図鑑で一種一種の細かな特徴を一生懸命勉強し暗記していても、いざ現地で観察を始めるとせっかく覚えた知識が全く役に立たず、「あんなに勉強したのに全然解らない!!」と愕然とされる方がいらっしゃいます。詳細な知識と野外識別力(Field Identification)とはまた別の問題です。これは現場で、実体験でしか覚えることができません。何度も干潟や水田に通って、経験を積み重ねることが大切です。
  3. ヨーロッパトウネンについては、近年観察例が増えています。海の干潟だけでなく淡水域の水田、ハス田、湿地等にも入ることがあるため、「海の無い」筑豊支部管内でもいずれ発見されるかもしれまぜん。その時になって慌てることがないように今から学習をお願いいたします。

■参考文献

  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • SHOREBIRDS An identification guide to the waders of the world Peter Hayman, John Marchant and Tony Prater: CROOM HELM London & Sydney
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollins Publishers Ltd
  • SHORE BIRDS IN JAPAN http://shorebirds.exblog.jp/
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 2015年6月1日 増補改訂初版第1刷発行 公財)日本野鳥の会
  • 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
  • シギ・チドリ類ハンドブック 氏原巨雄・氏原道昭/著 文一総合出版
  • フィールド図鑑 日本の野鳥 文一総合出版
  • 独断と偏見の識別講座Ⅱ(Wadersシリーズ)

注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。

(2018-02-15掲載)

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