波多野邦彦
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第61回 Penduline Tit <ツリスガラ>
2001年3月 ツリスガラ雄成鳥
第1回冬羽は褐色をしている。体色も雄成鳥は鮮やか、他はやや鈍い色合い。アイパッチが無く黄色い嘴をしたかわいい顔の幼鳥をぜひ見てみたいのだが、未だ希望は叶っていない。
北九州市小倉南区曽根 Field Noteから転記
野鳥の分布範囲は年々変化します。ツリスガラの越冬地域も同様です。1970年代終わり頃は九州でもまだそれほどポピュラーな種類ではありませんでした。河川、溜め池、海岸近くのクリーク沿いや水田周りのアシ原などで見つけた時はかなり嬉しかったのを覚えています。1980年代中頃には九州一円、中国西部地域辺りまで進出。その後、年を追うごとに越冬地域が東方に拡大し、1990年代には関東で初記録、その後関東でも稀に観察されるようになりました。
「チーィ、チーィ」という尻下がりの細く甲高い声で存在にまず気づきます。悪天候や強風時はアシの根元近くに潜っていますが、ちょっとした晴れ間や晴れて風の無い時などにはアシの穂先に鳴きながら登ってくるので見易くなります。数羽から数十羽の小群でいることが多く、賑やかに鳴きながら群れ飛ぶ姿が見られます。全長10cm程度。国内最小の部類に入る野鳥です。北部九州では10月頃から5月中旬頃まで比較的長い期間、観察できます。春先には「チーィチュィチュィ」「チュィーッ、チュィーッ」等、賑やかな囀りも聞かれます。本来、樹木の枝先にぶら下がるように大きなトックリ状の巣をかけることから命名されていますが、日本国内では残念ながら営巣を見ることはできません。
ツリスガラは、ヨーロッパ東部から中央アジア、中国北東部にかけ、ユーラシア大陸の広大な地域に分布。国内では、冬季西日本のアシ原に群れで飛来し越冬します。越冬地は前述のように西日本から東日本に向かって拡大しています。九州ではクリーク沿い、溜池、干拓地などのアシ原や河原、ブッシュなどに普通に生息しており、観察の機会も多い。
雄成鳥はうすい灰色の頭部、黒色のアイパッチ、細く尖った嘴、背は淡褐色で赤褐色の襟。雌や第1回冬羽は淡ベージュの頭部に褐色のアイパッチ、体色も雄に比べるとやや鈍い色彩。
見た目の大きさや色彩で他に似た種類はありません。通常は特徴的な声でその存在に気付くことが多いと思われます。声で気づき、じっと待っているとアシの穂先に登ってくるといった感じです。ただ、声は単独で聞いた場合、同じ場所に生息しているオオジュリンと間違う可能性があるかもしれません。強くやや低音の「チュィーン」と細く高音の「チーィ」、声質が全く違うので落ち着いて聴き比べてください。
■終りに
- 探鳥会から帰ったあと今日は何が確認できたのか復習する方は多い?と思いますが、個人的には探鳥会に行く前の予習(準備)の方がずっと大切だろうと思います。現地に行ってリストをもらってから初めて眺めるのではなく、事前に自分で勉強して出現予想をしておき、探鳥会でそのリストを埋めていく。この作業が一歩先をいく探鳥につながると思います。時期と場所が特に重要なポイントです。ぜひご自分で考えてみてください。筑豊支部ホームページの行事予定欄には前年同時期の探鳥会の結果を検索できるようになっているのでとても役に立ちます。これを1年間繰り返すと・・!。探鳥会が二倍面白くなること請け合いです。
- 一例ですが、「冬の九州でアシ原に棲んでいる野鳥」という設定をしてみます。小鳥に限れば予想種は、モズ、ウグイス、ミソサザイ、セッカ、シロハラ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、ホオアカ、アオジ、オオジュリン、そしてツリスガラ。通常はこれくらい。さらに期待を込めるとアリスイ、ムジセッカ、ベニマシコ、コホオアカ、シベリアジュリン等。季節別、地域別、生息環境別、探鳥会別に野鳥の種類を自分で予想してみることが大切です。
■参考文献
- BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
- Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: HarperCollinsPublishers Ltd
- フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 1988年5月10日 初版第10刷発行 財)日本野鳥の会
- A Guide to the Birds of Southeast Asia CRAIG ROBSON: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON,New Jersey
- 決定版 日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
- フィールド図鑑 日本の野鳥 文一総合出版
- (公財)山階鳥類研究所 保全研究室(鳥類標識センター)
- 同センター 日本で繁殖するツリスガラの繁殖地判明
- 鳥類標識調査
注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。
(2018-03-15掲載)
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