クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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独断と偏見の識別講座Ⅱ

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波多野邦彦

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第68回 Divers <オオハム、シロエリオオハム>

2001年3月 オオハム 冬羽⇒夏羽移行羽(左)、シロエリオオハム 冬羽⇒夏羽移行羽・やや進んだ状態(右)
両種を並んだ状態で至近距離からゆっくりと比較できるチャンスは多くない。こういう好機は逃さずに是非集中して観察して欲しい。シロエリと比較した場合のオオハムの特徴を列記する。オオハムの方が、からだや頸が大きく、太くがっしりとして見える。嘴はやや太く長めに感じる(但し、実際の計測値は重複する範囲あり)。頭頂が平べったく見える。下脇腹の白い羽毛が見える。冬羽の喉と下尾筒の黒線はオオハムには無い。

山口県角島 Field Noteから

北部九州では両種ともに12月に入った頃から観察される。ピーク時には数百から数千単位の群れになる。主に海上で見ることが多いが、河口付近や河川の中流域、溜め池、ダムなどにも迷って入り込むことがある。脚が体の後端の位置に付いているため、エサの小魚を追って水中潜行する場合には最適だが、陸上ではまともに歩けず胸を地面につけ、足で蹴って這いまわる感じである。潜水をつづけた後に砂浜や岸に上がり休むことがあり、そういう場合はあまり人を恐れず至近距離で観察することができる。
基本的に冬羽は上面が黒色、下面が白色のツートンカラー。海上に浮かんでいる時にオオハムは下腹付近両側の白い羽毛が見え、両種の識別ポイントとなっている。海上では餌探しのために頭を海中につけたまま泳ぐ姿もしばしば観察される。潜水時間は通常30秒から1分近く潜っている。飛翔形は独特で首を伸ばしたまま少し下げて飛び、カンムリカイツブリ等にも似ているが、体が大きく羽ばたいている翼の先端がかなり反りかえって見えるのがオオハム類の特徴である。海面上、低空を飛ぶ姿をみかけることが多いが、かなり高いところを群れでバラバラと同方向に飛んでいく姿もしばしば観察される。
3月から4月頃、北方への渡去直前になると一定の場所に集まり大群になることがある。一部の個体は夏羽に換羽し始め、頭頂から後頸にかけて銀灰色、喉から頸前面は黒くなる。側頸には数本の縦縞模様が入り、前面の黒色部分にはオオハムは紫色、シロエリオオハムでは緑色の光沢が見られる。冬羽から夏羽への換羽が移行中の個体は色彩がバラバラでかなり変わった雰囲気をもっているため注意が必要。

2017年2月 オオハム
玄界灘に面した志賀島周辺は魚介類が豊富で良好な漁場となっている、カツオドリ、アカエリカイツブリを含むカイツブリ類、アビ・オオハム類、オオミズナギドリ、九州では少ないクロガモ、ビロードキンクロ、シノリガモ等の海ガモ類、シロカモメ、ワシカモメ、ミツユビカモメ等のカモメ類、ウミスズメやカンムリウミスズメ等のウミスズメ類など、九州での海鳥観察には最適なポイントになっている。特にオオハム、シロエリオオハムの個体数が多く数千羽の群れが見られることもある。数は少ないがアビやハシジロアビの記録もある。飛翔中のオオハム、シロエリオオハムは翼の先端が反り返って見え、他のウ類幼鳥や大型カイツブリ類などと区別できる。また、群れが海上を次々と同方向に飛んだり、水面近くから高高度までかなりの広範囲の空間に大きな群れが不規則に散らばって飛んだりすることもある。

福岡市志賀島 Field Noteから

3月から4月北方海域への渡り直前になると集団になる傾向があります。この時期は冬羽、中間羽、夏羽への換羽が進んだものなど、様々な羽衣が見られ、色彩的にかなりバリエーションがあり、通常とは違った印象を受けるため、バードウォッチャーの頭を悩ませます。
夏羽の前頸黒色部の光沢色について、通常オオハムは紫色、シロエリオオハムは緑色だと言われています(図鑑日本の野鳥もきちんと色分けされています。ご確認ください。)以前、夏羽へ移行中の2羽を至近距離で観察した際、まだ黒くなる前の暗灰褐色の前頸にうっすらと緑光沢がありシロエリオオハムかと考えていましたが、その後数週間滞在し、換羽が進み予想に反し美しい紫色光沢のオオハム夏羽に換羽しました。光線の具合によっては緑にも紫にも見えるのかもしれません!?

■終わりに

  1. 江戸時代から瀬戸内海で行われ、1931年「アビ渡来群游海面」として国の天然記念物に指定されたアビ漁はほとんどがシロエリオオハムだったと言われています。アビ類が群れになって追い込んだイカナゴを狙ってやってくるタイやスズキを一本釣りで釣りあげる漁です。その後、コンクリート用の建設資材として有効な海底の海砂を大型の海砂採取船やポンプで大量に採取したためにイカナゴが生息できる環境が失われてしまい、大型の魚やアビ類も集まらず、1980年代半ばにこの漁法は途絶えてしまいました。
  2. 「オオハム」ちょっと変わった名前です。ある説によると「魚食む(うおはむ)」からきているそうです。英名はBlack-throated Diver(黒い喉をした)、アメリカ名はArctic Loon(北極の)です。同様にシロエリオオハムは、Pacific Diver(太平洋の) とPacific Loonです。英名のDiverは深く潜ることから、アメリカ名のLoonはグァーンという声から来ているようです。和名、英名、米名を時々比較してみるのも面白いかもしれませんね。
  3. 筑豊支部会員にとって今回のオオハム類などは通常の活動から最も縁遠い種類の野鳥ではないでしょうか?支部探鳥会の枠内だけでは、対応しきれない範疇の鳥です。井の中の蛙にならないためにもたまには地域外に出て、様々な環境に生息している野鳥に親しむことが大切だと思います。

■参考文献

  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • Collins BIRD GUIDE: THE MOST COMPLETE FIELD GUIDE TO THE BIRDS OF BRITAIN AND EUROPE: Harper Collins Publishers Ltd.
  • 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 2015年6月1日 増補改訂初版第1刷発行 (公財)日本野鳥の会
  • 海鳥識別ハンドブック 箕輪義隆著 文一総合出版

注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。

(2018-10-15掲載)

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