波多野邦彦
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第69回 Pipits & Wagtails Ⅲ
<タイワンハクセキレイ、シベリアハクセキレイ>
2016年5月 全て亜種タイワンハクセキレイ Motacilla alba ocularis
島内数か所に群れが分散していたが全部合わせると最大100羽程度だった。亜種ハクセキレイは極端に少なく数羽程度しかおらず、どれもこれらの群れとは別行動だったので、多くはおそらく亜種タイワンハクセキレイ単一亜種の群れだと考えることができた。通常は喉の黒色部分が嘴基部に接しているのがタイワンハクセキレイと考えられていて、腮や喉が白く抜けているものは今までほとんど認識されていないのではないだろうか。イラストの個体以外にも腮まで黒く頭頂は灰色のものなど様々なタイプが観察された。便宜上敢えて中・大雨覆が見えるようにイラストを描いているが、実際は肩羽や両脇の羽毛に隠れて見えないことが多い。背の灰色はどの段階でも独特な(僅かに青味を感じる)薄い灰色に見えた。上図に記入した各段階の雌雄、羽衣の名称は客観的な根拠に基づくものではないので注意。考えるきっかけにしていただければと思います。
Field Noteから 山口県萩市見島
一日で、一群最大70羽以上、全島で100羽以上のタイワンハクセキレイの群れを観察した。
国内の図鑑には通常典型的(♂成鳥夏羽?)と思われるひとつのイラスト程度しかないが、実際に様々なタイプの個体を確認でき、これまで頭の中でもやもやとしていたものがかなりスッキリとした。大まかに言うと頭頂・顔・腮・喉・胸黒斑の色彩と中、大雨覆および次列・三列風切の色彩パターンの組み合わせで年齢・性別を識別できると考えています。
タイワンハクセキレイの分布地域は東西が北部中央および北東シベリアからアラスカ西部の一部まで達し、冬期は中国南部から台湾・ハイナン諸島、インドネシア、タイ、ミャンマーを通りインド北東部、バングラデシュに及ぶ地域で越冬します。国内では主に春の渡りの時期に日本海側の離島や南西諸島などで観察されます。腮から喉、胸にかけてのエプロンのような黒色斑が特徴的で、背は僅かに青味が感じられるきれいな薄い灰色をしています。声はハクセキレイに近い音質ですが、やや濁る傾向があります。
これに対しシベリアハクセキレイM. a. baicalensis は、タイワンハクセキレイの生息地域に接するすぐ南側の地域、中央シベリア・東シベリアの南部地域などで繁殖し、中国南部、ハイナン諸島、ベトナム、カンボジア、北部タイ、北部ミャンマー、バングラデシュを通り、ネパール、インド北東部、同北部、中央部にわたる地域で越冬します。シベリアハクセキレイは、イメージ的にちょうどホオジロハクセキレイの背中をきれいな薄い灰色にした感じです。過眼線はありません。胸のエプロン型の黒斑は多くの雄成鳥で喉の中央まで黒く、雌成鳥や一部の雄の黒色部は喉下部までのようです。また、中大雨覆い軸斑のパターンが独特で識別ポイントの一つになっています。
ニシシベリアハクセキレイ M. a. dukhunensis では嘴基部まで黒くなります。
■ホオジロハクセキレイ雌・第1回夏羽(上)、シベリアハクセキレイ雄・成鳥夏羽(下)比較
2013年4月 シベリアハクセキレイ♂成鳥夏羽(下)
ホオジロハクセキレイ♂夏羽のエプロンは大きく喉の中央部分まで届くが、背が真黒なのでシベリアハクセキレイとの区別は容易。ホオジロハクセキレイ雌(上)には背の灰色がイラストより薄い個体もおり(但し黒斑あり)、誤認する可能性がある。
Field Noteから 新潟県佐渡
同時期に出現し混同する可能性がある2亜種を併記。上胸・喉黒斑の形状・範囲、背の色彩、中雨覆羽軸、腰の色彩等できるだけ多くの個所を確認する。背の色彩はホオジロハクセキレイ M. a. leucopsis 雌や幼鳥は灰色で黒斑が混じる場合が多い。シベリアハクセキレイの背は性別・年齢にかかわらず、僅かに青味を感じるような一見して美しい薄い灰色(黒斑無し)。胸の黒いエプロンはホオジロハクセキレイ雌では上胸まで(イラスト上)、雄でも喉下部まで。シベリアハクセキレイの雌は喉下部まで、雄は喉中央上部まで(イラスト下)広がる。イラストには無いが、腰の色彩がホオジロハクセキレイは黒色、シベリアハクセキレイは灰色の場合が多い。年齢や季節による羽衣は様々な組み合わせが考えられるので識別には十分な注意が必要だが、シベリアハクセキレイは春秋の渡りの時期、日本海側離島の記録が多い。
■終わりに
■参考文献
注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。
(2018-11-15掲載)
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