クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
total 
modify:2025-02-14

独断と偏見の識別講座Ⅱ

波多野邦彦

総目次

第83回 Albatrosses <アホウドリ類>

2012年6月 アホウドリ亜成鳥 成熟度が進むにつれて上面の白い範囲が広がってくる。

大洗−苫小牧航路 Field Noteから

先端がうすい灰色、全体が淡いピンク色をした巨大な嘴が遠距離からでもよく目立ちます。嘴が黒いのは巣立った直後(6ヶ月目くらいまで)のごく僅かな間だけ。ほぼ全年齢を通じてこの美しいピンク色の嘴が重要な識別ポイントになっています。アホウドリは完全な成鳥羽になるまで、10年以上かかります。このイラストは7〜8年目と考えられる個体で、これと比較すると完全な成鳥羽の後頸は暗色部分が無くなって金色になり、翼上面雨覆いの白色斑はより広範囲に大きくなり、体の白色部分と繋がり、背や上面の小さな褐色斑はほとんど消失します。一方、全身チョコレートブラウンで嘴がこのピンク色をした幼鳥もとてもきれいです。
国内で通常観察されるアホウドリ類はこのアホウドリとクロアシアホウドリ、コアホウドリの3種類ですが、アホウドリは実際に目の前で観察すると他の2種よりもひと回り大きな体格とそれにも増して独特な風格・雰囲気が備わっており、格の違いを感じさせます。
日本国内で記録されたアホウドリ類はワタリアホウドリ、アホウドリ、クロアシアホウドリ、コアホウドリの4種類で、このうちワタリアホウドリ以外の3種は国内で繁殖しています。日本で観察されるこれらのアホウドリ類については、主に冬に当たる時期(10月〜6月頃)に繁殖し、夏の間は北太平洋に渡り洋上で暮らしています。国内の繁殖地として、アホウドリおよびクロアシアホウドリが伊豆諸島・鳥島、尖閣諸島の2か所で、コアホウドリは小笠原諸島の一部が知られています。また小笠原諸島・聟島では2005年よりアホウドリ回復計画が開始され鳥島からの移住が進められています。

■クロアシアホウドリ

ハワイ諸島、マーシャル諸島、国内では小笠原諸島の一部、尖閣諸島で繁殖し、夏季はベーリング海、アリューシャン列島周辺の海域に生息します。北太平洋では普通に見られる種類です。全身黒褐色で目の下、嘴基部と上下尾筒に淡色部分が出ます。淡色部の範囲には個体差があり、頭部全体が淡色の個体や下尾筒が広い範囲淡色の個体などがときどき観察されます。全長、翼開長ともに次のコアホウドリとほぼ同大。チョコレートブラウンの体色は広大な海原でもよく目立ちます。2012年6月の大洗-苫小牧航路復路では、50羽以上を観察できました。

■コアホウドリ

北太平洋では最も普通の種類。ライサン島、ミッドウェイ島、ハワイ諸島、国内では小笠原諸島の一部などで繁殖します。太平洋側の外洋航路などで普通に見られます。クロアシアホウドリとほぼ同大。頸が長く、スマートな体型です。嘴は淡肉色で先端は青灰色。足指の先端が尾を越えますが、足指は羽毛の中に入れ全く見えないこともあります。目の周囲に黒斑があり、ちょうどアイシャドウをしているように見えます。頬・耳羽にかけて灰色。背・翼上面、上腰、尾は黒色、腰下部と上尾筒は白色。初列風切上面羽軸が白色で目立ちます。翼下面の特徴的な白黒の色彩(下記イラスト参照)は個体差が大きく、若い個体の方が黒っぽく、年齢を重ねるにつれて白い範囲がより広くなるようです。
2012年6月大洗−苫小牧航路復路では洋上を埋めるハシボソミズナギドリやハイイロミズナギドリの大群の中にバラバラと150羽以上を観察しました。この時期、相当な数が北太平洋上を周回しているのを実感することができます。

2017年6月コアホウドリ左、クロアシアホウドリ右

大洗−苫小牧航路

■参考記録

先日、福岡県福津市玄海灘(日本海側)にてオオミズナギドリ群中にクロアシアホウドリを観察しましたので当日の状況を記述しておきます。

※画像無しのためあくまでも参考記録

観察日・時間2020年5月27日(水) 7:00 am〜7:07 am
観察地点福津市勝浦530 割烹料亭・華杏(はなあんず)裏より西方沖海上
調査員波多野邦彦1名
観察種・数クロアシアホウドリ1羽 ※相当な遠距離だったため、アホウドリ幼鳥の可能性も僅かながらある。
観察状況おそらく万羽を超えるオオミズナギドリ飛翔群中を滑翔するクロアシアホウドリを約7分間にわたり観察した。日本海側でのアホウドリ類観察例はほとんど無いと思われる。
備考尖閣諸島では、アホウドリ、クロアシアホウドリ2種の繁殖が確認されている。過去の調査結果から尖閣群のアホウドリが日本海側を通過している可能性がある。クロアシアホウドリの渡りルートについては不明。

■終わりに

  1. アホウドリ類はからだが大きく、また長大な翼を広げたままダイナミックな飛翔をするため、遭遇できれば感動すること間違いなし!です。コアホウドリやクロアシアホウドリはそれほど珍しい種類ではなく、観察時期だけ確認しておけば数も期待できます。また希少種のアホウドリもまず見逃すことはないように思われます。アホウドリは3月〜6月初旬、コアホウドリ・クロアシアホウドリは3月〜7月ころにかけて本州沖合の海上を北上していきます。
  2. アホウドリ類やミズナギドリ類については、太平洋・インド洋・大西洋・北極海・南極海など広大な洋上を回遊する種類のため、地球儀を頭の中に置いて考えることが必要です。オーストラリア、ニュージーランド、アラスカ、西海岸、遠いところでは日本から見てほとんど地球の裏側に位置する南米チリ、ガラパゴス諸島などから飛んでくる種類も少なくありません。何とも壮大で考えるだけでこちらの気持ちも大きくなり、精神衛生上よい効果が期待できそうです。

■参考文献

  • アホウドリ復活への展望(山階鳥類研究所)
  • 尖閣諸島のアホウドリに集まる注目(山階鳥類研究所)
  • アホウドリ復活への軌跡 アホウドリに関するQ&A(東邦大学メディアネットセンター)
  • BIRDS OF EAST ASIA: PRINCETON UNIVERSITY PRESS PRINCETON AND OXFORD
  • Collins BIRD GUIDE The Most Complete Field Guide To The Birds of Britain and Europe: Harper Collins Publishers Ltd
  • ALBATROSSES, PETRELS & SHEARWATERS OF THE WORLD: PRINCETON FIELD GUIDES
  • Petrels, Albatrosses, and Storm-Petrels of North America: A Photographic Guide: Princeton University Press Princeton and Oxford
  • 決定版日本の野鳥650 真木広造 大西敏一 五百澤日丸 (株)平凡社
  • フィールドガイド 日本の野鳥 高野伸二著 2015年6月1日 増補改訂初版第1刷発行 公財)日本野鳥の会
  • 海鳥識別ハンドブック 箕輪義隆著 文一総合出版

注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。

(2020-06-24掲載)

ご意見・ご質問は本ページのサブタイトルまたはURLを添えてこちらへ

   

Copyright (C) 日本野鳥の会筑豊支部 All Rights Reserved. (著作権者でない者による無断転載禁止)
本ウェブサイトは無断で自由にリンクまたはディープ・リンクができます(画像、動画、録音への直リンクは禁止)。
本ウェブサイトに記載の会社名、システム名、ブランド名、サービス名、製品名は各社の登録商標または商標です。
本文および図表、画像中では必ずしも®、™を表記しておりません。