波多野邦彦
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第84回 Acrocephalus Warblers Ⅰ<オオヨシキリ、コヨシキリ>
コヨシキリは九州では熊本県阿蘇地方の標高の高い草原などで初夏6月から盛夏8月頃にかけて繁殖しています(イラスト左・成鳥)。全長14cm、セッカよりも僅かに大きい程度です。幅広く淡色の眉斑とそれに接する上部が暗色なのが特徴です。同一地域ではコジュリンも繁殖しています。コヨシキリの囀りはオオヨシキリにやや似ていますが、より複雑でテンポが速く高音で乾いた声質です。
一方、秋の渡り途中のコヨシキリ(イラスト右・第1回冬羽)は、低地、海岸付近のクリーク沿いや池の縁にあるアシやブッシュの中を隠れながらチョコチョコと静かに移動します。囀り時のように体を伸ばした立ち姿勢ではなく、どちらかと言うと体を縮め横向きの姿勢で葉陰に隠れながら移動していることがほとんどです。つまり繁殖地とは体勢や体形が全く違って見えます。第1回冬羽は特に全体的にベージュ色が濃く、体下面は黄色味が強く出ます。また光線の具合で上面は濃い茶褐色に見えることもあります。地鳴きは一声ずつ小さな乾いた声で「タッ、タッ、タッ」。至近距離だと「タルルツ、タルルツ」と聞こえるごく短い連続音です。慣れればこの特徴的な地鳴きだけで識別可能です。
春はやや遅めの5月連休明け頃から、秋は9月から10月中旬頃までの時期に通過しています。春の離島であれば、水辺とは限りません。乾燥地のブッシュの中で囀っている場合もあります。秋は海岸に近い水田地帯のクリークなど水辺のアシ原で注意して耳を傾けてみてください。
2020年6月6日オオヨシキリ成鳥 小竹町
ご存知の通りオオヨシキリは最も身近な夏鳥のひとつ。日本、中国、朝鮮半島、ロシアの一部で繁殖し、冬期はタイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシアなどの地域で越冬します。クリークや溜池、川のアシ原などで営巣し、アシの上部にとまり、「ギョギョシ、ギョギョシ」とけたたましい声で囀ります。地鳴きは「グルルル、グルルル」。全長19cm、モズとほぼ同大です。カッコウの主要な托卵相手であり、広大なアシ原には数多くのオオヨシキリが生息し、それを狙うカッコウもよく観察されます。
体型は頭でっかち、嘴は長大で上嘴は暗色、下嘴基部が褐色、脚はガッシリと太く青灰色をしています。初列風切りの突出は長め。尾は長く角尾。囀るときによく額から頭頂の羽毛を逆立てています。ハシブトオオヨシキリを除き、通常日本国内で観察されるヨシキリ類は前述のコヨシキリとこのオオヨシキリの2種類ですので迷うケースは少ないと思われますが、オオヨシキリも頭や喉の羽根をぴったりと寝せているとかなり雰囲気が違って見え、また幼鳥や第1回冬羽の体下面はかなり黄色味が強く出るので注意が必要です。
■終わりに
■参考文献
注)本識別講座において過去の記録を検証して意見を述べる場合がありますが、あくまで個人的見解であり、当該記録を否定するものではありません。誤解のないようにお願いいたします。
(2020-07-22掲載)
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