村田希巳子
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イギリスの鳥たち (その2)
前号で、「セント・ジェームス・パークで、ホオジロガモやツクシガモなど多くのカモ類と5種類のガンを見た」と書いた。
これだけでもウハウハしているところに、黒と白と赤のコントラストが目も覚めるように美しい小さな鳥が泳いできた。地が黒で耳の所に真っ白な扇のような模様があり、目と脇腹が赤い。しかも背中と腹の黒地に白の線の模様が特に美しい。
とりあえず写真に撮って、後でいろいろ調べた。イギリスの鳥、イタリアの鳥、ヨーロッパの鳥、全く見当たらない。アジアの国々の図鑑にも見当たらない。もしかして、とアメリカの図鑑を調べた。あった! 頭の白い模様が頭巾のように見えることから、英名は Hooded merganser 和名は、オウギアイサだ。
アイサ類はどの種も美しい。まあ、あなたは北アメリカから来られたんですか。ようこそはるばるイギリスへ! 私は、日本から来ました。奇遇ですわよね。こんなところでお会いできたなんて!
その他、バンやオオバンもいた。そうそう、水鳥に気を奪われて、丘の上の鳥を忘れるところだった。
どこにでもいるのがムクドリだ。これは当然、ホシムクドリ Starling である。正確には、European starling と言うそうだ。冬の間は星が降るような白い斑点が現れるので、その名がついた。しかし、夏になると白班の星は消え、黒い鳥になる。それでもスターリングだ。面白い。イギリスでは、ホシムクしかいない。私たちが馴染んでいる日本のムクドリは、White-cheeked Starling (白い頬のムクドリ)と言うそうだ。頬の所が白いので、納得だ。そして、ツグミを見た。これは、Song thrush という種類で、ゆっくりと大きな声で鳴く。日本のツグミの声は、半音低い音痴のような声で鳴くのが特徴だが、こちらのツグミはいい声で鳴いていた。
さて、イギリスの有名な料理といえば、フィッシュ・アンド・チップス。これを食べずして、イギリスに行ったというのも恥ずかしい。それで一度食べることにした。
一人分なのに、大きな紙の箱に、でっかいポテトチップスがぎっしり詰められていて、その上に油のぎたぎたしたたるタラのフライが、大きく乗っかっている。魚はどれも大きい。ひぇ〜、これが一人分? もちろん、これを二人で食べたが、食べきれなかった。味はおいしいが油が多すぎる。一度だけで十分だった。
相棒の厚子さんと私は、いつも半分にする。スープ、サラダ、パン、紅茶も、一つ注文して半分にする。「すみません。お皿とスープ用カップと紅茶用カップをもう一つずつお願いします」。皆さん親切で、嫌な顔一つせずに持ってきてくれた。どれも馬鹿でかい量で来るので、半分ずつにするとちょうどよくなる。
これに慣れて旅を続けていたが、旅の終わりごろ、友人に、「私たちいつも半分にしているんですよ」と、さも賢い旅行者ぶりをアピールしたら、彼女から顔を真っ赤にして笑われた。イギリスは、紳士淑女の国なのだから、残すのは当たり前で、紅茶を半分にするようなせこい人はまずいないようである。まあいいか。旅の恥はかき捨てですよね。私たちは、貧乏な日本人だし。
私と厚子さんの旅は、一口で言えば、熱いスープと野菜サラダを求めてさまよった旅とも言える。あまりにも寒いので、熱いスープは生きていくための必需品だった。このスープ、各店で全く味が違っていて、結構いけた。野菜がたっぷり入っていて、味が深いのだ。二人ともスープとサラダの通になった。「味の判定はまかせて!」と自信を持って言える。なんせ、17日間、それだけを食べ続けたのだから。
3月12日。今日は列車に乗って、ソールスベリという所に行き、中世イギリスの大聖堂を見た後に、謎の巨石建造物ストーンヘンジまで行く。
列車の窓からカササギを見て、感動する。カササギは、中国、アジアはもちろん、中近東でも見た。そしてイギリスまでも。もしかして世界を制覇するのは、カササギなのかもしれない。
それから、ストーンヘンジ近くで、タゲリとキジを見る。タゲリは、日本で見るのと全く同じだが、キジは少し違う。もともと東南アジアから来たそうだが、日本のとは種類が違う。日本のは、Green pheasant とも呼ばれ、胸が緑である。それに比べてイギリスのキジは、首が白く胸が茶色である。日本のキジのほうがカラフルで美しい。でもキジはキジなので、かなり興奮した。
そして、ストーンヘンジ(ストリートビュー) に着くと、ホシムクドリが人ごみの中を、ゆっくり歩いていく。たぶんここでもイギリス人が餌付けしているらしく、この野鳥も逃げる気配がない。あまりに可愛くて、寒さも忘れてうっとり眺めていた。
ストーンヘンジのお土産店に入ると、不思議なものを見た。鳥のぬいぐるみが売られているのだ。何の種類か想像してほしい。なんと、なんとカラスのぬいぐるみなのだ。正確には、Raven、オオガラスのぬいぐるみだった。私たち日本人が目の敵にしているカラスを、イギリス人はこよなく愛しているのだ。これを買って野鳥の会の事務所にでも置こうかと思ったが、気持ちが悪いとこっそり捨てられるのではと思うと、とうとう買えなかった。
(注:写真説明右の数字は撮影月日・現地時間、2013年)
(「野鳥だより・筑豊」2013年7月号通巻425号より転載)
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