クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2025-02-14

鳥さん、こんにちは

村田希巳子

総目次

イギリスの鳥たち(その3)

前号で、ストーンヘンジでオオガラス(Raven)のぬいぐるみを売っていた話をした。

オオガラスといえば、エドガー・アラン・ポーの詩「オオガラス」は世界的に有名だ。「ネヴァーモア(二度とない)」とオオガラスが繰り返し鳴くのを聞くうちに、若者は亡くなった恋人を思い出し、だんだん狂気の世界に陥ってしまうという内容である。

悪魔の使者ともとれるオオガラスに、西洋の人は、神秘的な畏怖の念をいだいて、ぬいぐるみを作るのかもしれない。オオガラスの深く響くようなラーラーという鳴き声の聞きなしを、「ネヴァーモア」とし、物語を創作したポーの才気を感じる。

オオガラスは、大きさが65センチ。ハシボソガラス(Carrion crow)が50センチなので、さらに大きい。イギリスでは、このハシボソガラスを何度か見かけたが、ハシブトガラスは見かけなかった。調べてみると、なんとハシブトはアジアにしか生息していないのである。日本ではうようよいるのが当たり前のハシブトだが、世界的には一部しか生息していない貴重なカラスなのだ。見る目が変わりそうだ。その半面、ハシボソは、アメリカにはいないが、アジア、ヨーロッパにまで分布している。世界を制覇するのは、カササギかハシボソか、微妙なところだ。

ストーンヘンジでは、ミヤマガラス(rook)にも出会った。嘴がとがっていて白いのですぐにわかる。イギリスのミヤマガラスは、九州と違って、年中見られるそうだ。

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ユリカモメ 03-14
リバプールにて

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3月14日、リバプールに行く。本当は、この日はノッティングハムに行く予定だったが、私のばかでかいキャリーケースを預かってくれる駅が、イギリスでは、大きな駅6つしかないことが分かったのだ。日本では荷物をどこでも預かってもらえるのに、イギリスではコインロッカーもない。やむを得ず、行き先を預かり所のあるリバプールに変えた。

途中の列車の中から、時たまカササギが見られ、ほっとする。そしてイギリス中で見られるのは、スズメでもなく、カラスでもなく、なんとカモメである。海辺でもない内地の奥まで、カモメは飛び交っている。イギリスが、こんなにカモメ王国だったとは。特にユリカモメとセグロカモメは、イギリス全土で見られた。

ビートルズのゆかりの地であるリバプールでは、リバプールなまりに閉口した。英語が分からないのだ! 荷物預かり所のおじさんたちの簡単な英語が、分からない! 焦った。きっと、こんなことを言っているのだろうと、想像しながら会話した。後で聞くと、イギリス人でさえもリバプールなまりは難解で、分からないとのこと。ほっと胸をなでおろした。


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イエガラス 03-20

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そうこうするうちに、どこかでキュッキュッというかわいい声がするではないか。「あ、コクマルガラスだ」と思ってあたりを探した。体は、茶色っぽい黒だが、頭と喉が真っ黒で、目の虹彩がくっきり白色でかわいいカラスだった。笑っているような愉快な声を出す。これがコクマルガラス? うーん、ちょっと違うな。どこかに白色型がいないかな? あたりをよく探すと、いた。灰色と黒のでっかいカラス。でも、声があまりにもきたないガラガラ声だ。イギリスのコクマルガラスは、声がつぶれてしまったのだろうか? でもよく見ると、灰色の模様が違うし、大きさも違うことに気が付いた。これは、イエガラス(Hooded crow)で、イギリスの北のほうにしか生息していないカラスである。そして、私の愛するコクマルガラスは、イギリス人からも絶大に愛されている、Jackdawという、ニシコクマルガラスだったのだ。大きさは、ミヤマガラスと同じ、33センチ。以後、相棒の厚子さんと、「ほら、あそこにジャックドーがいる」と確かめながら旅を続けた。このニシコクマルガラスは、イギリス中にいて、私たちを温かい声で、迎えてくれるのだった。

(つづく)

(注:写真説明右の数字は撮影月日・現地時間、2013年)

(「野鳥だより・筑豊」2013年8月号通巻426号より転載)

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