日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリレンジャー
中村 聡
総目次
02: 渡りの季節 再び
このところ暖かく穏やかな日が続いている。先日の荒れた天気がうそのようだ。あれほどあった雪はみるみるうちにとけ、土色の地面が顔を出し始めた。木々の根元は特に早く、力強い生命の息吹が感じられる。季節は移り変わり、春がまた一歩近づいたことを知る。
ほぼ全域が結氷して白一色だったウトナイ湖には、あちらこちらに黒いしみのような模様が現れてきた。氷が薄くなったところは下にたゆたう水が透けて見えるのだ。湖へ流入出する美々川(びびがわ)と勇払川(ゆうふつがわ)は一本の線でつながり、氷上に澪(みお)を引いたようになっている。そこだけは水面がきらきらと光り、まぶしい。
開水面が広がると、それを待っていたかのごとく姿を見せる鳥たちがいる。マガンだ。カモやハクチョウと同じ仲間で、大きさはそのちょうど中間ぐらい。主に宮城県の伊豆沼で冬を越しており、繁殖地であるシベリアへ向かう途中、ウトナイに立ち寄る。この春は今月(2008年)6日に160羽ほどを初めて確認した。南下する秋に見送って以来なので、約半年ぶりの再会となる。嬉しい。これからだんだんと数を増し、最大で数万羽にも達するだろう。
春に訪れるマガンは、その行動に特徴がある。すなわち日中は湖でほとんど姿を見ることができない。それは、湖を早朝に飛び立って周辺の田んぼで落ち穂などを食べてくらし、夕暮れ時にまた戻って来るから。湖は夜を安心して過ごせるねぐらとなっているのだ。
ガンたちはこうして来月半ばまで滞在し、次の中継地である美唄市の宮島沼へと向かう。それまでの期間、ウトナイ湖では日の昇るころと沈むころ、空を覆わんばかりの群れに出会える。その感動的な光景を空が赤く染まる中で皆さんにもぜひ見ていただきたい。
(原文は「苫小牧民報」2008年3月17日掲載)
注)日付はいずれも2008年。マガンは今年(2014年)、3月1日現在で未だ確認されていない。ちなみに、昨シーズンは最大66,000羽以上を数えた。
(2014-03-01掲載)
ご意見・ご質問はこちらへ