日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリレンジャー
中村 聡
総目次
03: 北の国で暮らし始めて
春が待ち遠しい、ということをこれほど強く意識したことが、かつてあっただろうか。九州は福岡に生まれ育ち、4月に東京から苫小牧へと赴任した僕にとって、はじめの1ヶ月はまさにそんな毎日だった。遅咲きの桜に見送られて出発したのに、到着地はまだ雪の世界。日本列島が南北に長いことをあらためて実感しながら、白いままでなかなか変わらないまわりの景色に、いつになったら暖かくなるんだろうと不安でしかたなかった。新天地で慣れない生活を始めたせいかも知れないが、とにかく春が早く来るのを願っていた。
そうこうするうち、あれよあれよという間に雪がなくなり、枯れ草色の中にようやく、ぽやっと緑が見えるようになった。僕の勤務する野生鳥獣保護センター周辺では、夏鳥たちが南の国からぞくぞくと到着して自慢のさえずりを聞かせ、足元には黄色いナニワズなど愛らしい花が咲き始めた。(ちなみに、モズもヒバリも、そしてカワセミも、北海道では夏鳥)。待ちわびていた季節が一気にやって来たのだ。不安はいつしか消え、春を満喫する余裕も生まれていた。
自然は日に日に変化していく。移り変わりが速い、はやい。きのう芽吹いたばかりの木々は、きょうはすでに葉を広げている。池にはうごめく無数のオタマジャクシ。少し前まで卵だったのに。山菜採りが話題になるなど、人間も急に動きが活発になった。寒く厳しい長い冬があるからこそ、ここに住む人々はなおさら春の訪れを嬉しく感じるのだろう。僕もほんの少しの間だが、その感覚を味わった気がする。
ウトナイでは8月初旬に早くも秋の風を感じるという。短い夏を惜しむかのように・・北の国を形容するこの言葉どおり、これから僕も、思う存分自然を楽しむことにしよう。
(原文は「苫小牧民報」2007年6月11日掲載。着任して間もないころ)
(2014-04-13掲載)
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