クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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*風のたより

日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリくまたか外部サイトレンジャー
中村 聡

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05: ウトナイの夏

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7月の湖岸を彩るホザキシモツケ

(2009-07-20撮影)

僕の職場、フィールドであるウトナイ湖にも本格的な夏がやってきた。ガンやカモ、ハクチョウといった水鳥の多くはロシアなどで子育て中のため、今の湖面にはいつも見られるアオサギの姿ぐらいしかなく、寂しい。いっぽう森や草原の小鳥たちは、親鳥がヒナにエサを運ぶのに大忙しのようだ。1ヶ月ほど前まではさえずりで賑やかだったが、こちらもずいぶんと静かになった。メスを呼んだり縄張りを他のオスに宣言するための美しい歌もその役割を終えたのだろう。

鳥たちの姿や声は少ないが、かわりに夏を彩る花々で湖は生き生きとしている。この時期はホザキシモツケのピンク色が美しい。小さな花が集まって円錐(すい)状となったさまは名前どおり「穂咲き」だ。ちょうど大人の胸から背丈ほどの高さに咲いており、湖岸沿いの観察路を歩くと、場所によってはそんな花の小径(みち)が両側にしばらく続く。風に吹かれて薄紅の穂が波のように揺れる様子は、まさにこの植物の英語名である「クィーン オブ ザ メドウ (Queen of the meadow)\湿原の女王」の名にふさわしい。

花波の向こうには、キラキラと輝く水面や緑の草木が見える。残念ながら工場の煙突が先で視界に入るが、開けた空間がずっと広がっている。風がさわやかで気持ちいい。どこかで同じような風景と出会った気がする。そうだ。何年か前に訪れたフィンランド。あの時はホザキシモツケではなく確か赤紫色のヤナギランが咲いていたが、見かける鳥といい、湖岸の花といい、水の反射かげんといい、風の感じといい、ここは「森と湖の国」によく似ていると思う。この夏は岸辺を歩きながら、北欧に旅した気分を少しだけ味わってみよう。

(原文は「苫小牧民報」2007年7月23日掲載)

(2014-06-17掲載)

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