日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリレンジャー
中村 聡
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06: むしムシの季節
昨年の今ごろは東京の事務所で働いていた。仕事を終えて乗る電車の中は冷房が効いて涼しいが、梅雨明けすぐは夜になっても蒸し暑く、最寄駅から歩いて帰宅するまでに、汗でびっしょりということもしばしばだった。
自宅にたどり着いて玄関のドアを開けると、こもった熱気がまとわりつく。むんむん、むしむしの部屋。と、隅でカサカサ、音がする。あいつだ。光沢のあるこげ茶色をした、あのムシ。北海道にはほとんど生息していないため、修学旅行で上京した学生が、珍しさのあまり持ち帰ったという話も聞いた(ホント?)。
見たことのない皆さんには想像できるだろうか。パッと灯りをつけた瞬間にささっと床の上を動く姿。それを発見したときの驚きと恐怖が。壁を平気でのぼり、しかもこちらに向かって飛ぶのだ。むしむしの部屋にありがたくないムシ。思い出すだけでもゾッとする。
苫小牧に転勤となり、汗をかくということが、まずなくなった。夜に帰宅しても部屋は全くむんむんしておらず、すがすがしい。あのムシが来る心配がないので、台所の流しに野菜くずなどが少々あったところで気にしなくてすむ(逆にこれではまずいかも)。恐怖の出合いもなく、快適な毎日を送っている。
が、しかし、不快感きわまる場所から逃れられたと喜んでいたら、今度は別のむしと縁があった。それは血を吸うマダニ。野外調査中にくっついていたのだ。クモに近く8本の脚を持つ。厳密にいうと昆虫ではない。同僚にうまく取ってもらい事なきを得たが、病気を媒介することもあるため、ショックだった。
むしむしの部屋とムシから解放されたものの、いや〜な「むし」とのつきあいは、残念ながらこれからも続きそうだ。
(原文は「苫小牧民報」2007年8月6日掲載)
注)このエッセイは、東京から当地に転勤して間もない頃、苫小牧には生息していない!いわゆる油虫の恐怖について、皆さんに紹介しようと書いたものです。
(2014-07-17掲載)
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