日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリレンジャー
中村 聡
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07: 秋の川で
北海道に赴任したら見てみたいものがいくつかあった。そのひとつが鮭の遡上だ。以前に道内を旅したときに出合ったことはあるが、いつも橋の上から眺めるだけなので、もう少し間近に感じたい、ずっとそう願っていた。
そんな折、白老(しらおい)がいいですよと職場の同僚から聞き、9月下旬にさっそく行ってみた。とある川を海から遡ること数キロ。そこは幅が10メートルほどで、流れに沿って小道がついていた。数匹が浅瀬でバシャバシャと水しぶきを上げるのが見える。すごい、すごい。
川を上流に向かって歩く。足元からすぐの淵ではかなりの数の鮭が泳いでいた。このあたりで見られるのはシロザケとのこと。うろこが銀色に光る美しいものもいるが、岩でこすれたのか、多くはどこかが傷つき痛々しい。
圧巻だったのは本流に注ぐ小さな川での光景。ひしめき合うように鮭が泳ぎ、そのうち何匹かが1メートルほどの落差を上ろうとしていた。小滝の上に産卵できるような場所は、ない。それでも果敢に挑戦している。その姿に僕は、何というかすごく感動して思わずガンバレと叫んでいた。本当に泣きそうだった。
途中で川の中に入ってみた。淀みの近くに立ってじっとしていると、僕を枯れ木だと思うのか鮭は近くを自由に泳ぎ、オス同士の争いや卵を産む場所をつくるメスなど、いろいろな行動を見せてくれた。またまた、感動。
岸辺には死んだ鮭が数多く横たわり、オオセグロカモメがついばんでいた。独特のにおいが漂う。次いでキセキレイもやって来た。こちらは腐肉に集まるハエを狙っている。さらにこの鳥を追いかけるハイタカも目にした。生命を全うする鮭に驚き、さまざまな生きものたちのつながりを感じた秋の1日だった。
(原文は「苫小牧民報」2007年10月15日掲載、写真はいずれも2007年9月25日撮影)
(2014-08-16)
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