日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリレンジャー
中村 聡(本会会員)
総目次
かり
08: 月に雁
「東海道五十三次」でも有名な江戸時代の浮世絵師、歌川(安藤)広重が19世紀前半に制作したいうこの版画。切手の図案になったため、ご存知の方も多いと思う。短冊に大きな満月をかすめる3羽の雁が、見事に配してある。首を下に向けた姿からすると、まさに地上に舞い降りようとするところなのだろう。
描かれた雁はマガン。水鳥であるガン類の1種だ。よく見かけるカモよりも一回り大きく、からだ全体がこげ茶色。くちばしは淡いピンク色で付け根に白いリングがあり何とも愛らしい。「キャハハン、キャハハン」と甲高く鳴く。ちなみに「雁(かり)」とはガンの別の呼び名だが、どうやらこの声に由来しているらしい。
ウトナイ湖にはちょうど今、このマガンやさらに大型のヒシクイというガンがあわせて2000羽ほど羽を休めている。彼らのふるさと−子育てをする場所は遠くシベリア地方にあり、秋になると冬越しのため日本に渡ってくるのだ。そしてその大半は当地を通過し、さらに南にある宮城県などの越冬地を目指す。
秋のガンたちは日中を湖で過ごすことが多い。旅の疲れか浅瀬で首を翼に入れてじっと休み、時には泳ぎながらしきりに水草を食べている。かと思うと急に飛び立ち、姿が消えてしまったり、逆に上空から突然、大群が飛来するといったこともある。こうした場面に出合うと、渡っていることを実感できるのだ。
広重の名作そのままに、丸い月を横切って飛ぶ姿を一度でいいから見てみたい。映画のワンシーンじゃあるまいし、さすがに夜だと難しい。調べたところ満月が夕暮れ前に顔を出す日を見つけた。この時間ならまだ明るく、可能性はある。お月さまに雲がかかりませんように。今からその日を心待ちにしている。
(原文は「苫小牧民報」2007年11月12日掲載)
(「野鳥だより・筑豊」2014年10月号 通巻440号掲載 2014-09-15)
文中にあるマガンは本日(2014年9月15日)現在、まだ確認されていませんが、ヒシクイは11日に7羽を初認し、すでに100羽ほどとなっています。湖は、これから11月まで水鳥たちの姿でにぎわいます。
参考「ウトナイ日記」
※(公財)日本野鳥の会直営のバードサンクチュアリである北海道苫小牧市ウトナイ湖サンクチュアリの“今”をご紹介しています。
(2014-09-15)
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