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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2024-09-08

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

鳴き声録音・韓国の野鳥に初挑戦の記(第二回)

前号では、初めての韓国への録音旅行へ出かけることになったきっかけ、動機についてお話しました。また、野鳥に近づくには寺院を巡るのが近道と考えての旅としたことも書きました。今号からは具体的にどんな旅となり、どんな鳥と出会えて、どんな声が録音できたのか。また、それなりに苦労や失敗もありましたので、エピソードを交えてご報告しようと思います。

出発は5月27日金曜日、午前の博多港からのビートルで釜山へ向けて出発しました。私はこれまで中国にも個人旅行を10回ほどしておりますが、なにしろいつも貧乏旅行なのと、普通の観光旅行ではないので、ホテルなどは私にあった分相応で、交通の便利さなどを考慮して、たいていは前もってインターネットで予約してから出かけていました。

しかし、今回の韓国野鳥の声録音の旅では、いったいどんな旅になって行くのかまったく想像がつかないので、ホテルをあらかじめ予約することはしませんでした。行き当たりばったりのまったくいい加減な話です。普通の人なら絶対にしない旅のやり方でとにかく第一歩を釜山に印しました。

地下鉄一号線で市の中心部に出て、とりあえずその夜のホテルを見つけ、荷物を置いてからまず釜山市役所へ向かいました。なお、余談ですが、今回韓国では12泊しましたが、ホテルに泊まったのはこの初日のみで、残りの11日は全てモーテルか民宿でした。

さて、市役所へ向かったのは、自然環境や野生生物に関わるセクションがあれば、そこでおおよその知識を仕入れてから行動しようと思ったからです。しかし、残念ながらそのような部署は市庁舎の中にはなくて、バスで一時間半もかかる離れたところにある研究機関のようなところにあると言われ、訪問を断念しました。

傑作だったのは、私の訪問目的が1階のインフォーメーションの女性担当者に良く理解されず、わけのわからないことを言いに、変な爺さんが来たと言うことで、最初に通されたところが「老人福祉課」だったことです。私の下手な英語も一因ですが、受付担当の女性の英語力もいい加減だったためのとんだお笑い草でした。貴重な初日の時間を割いての市役所訪問が不発に終わり、何の情報も持たないままに翌日から旅が本格的に始まることになりました。

以後、実際のスケジュールに沿ってお話を続けさせていただきます。

翌5月28日、いよいよ野鳥を探す旅、つまりおもに寺院(山)を巡る私の一人旅が始まります。まずは釜山郊外にある有名な寺、「通渡寺」から一歩を踏み出しました。ここはバスの終点からずっと川に沿った道を歩いて山門に至ります。山門から寺の境内までまた同じ川のほとりを歩くことになります。釜山から近く、また当日は土曜日だったために、参拝客のほかにレジャーで訪れている人たちが多く、人声や車の騒音もする上に川の水音もするので録音にはまったく不向きなところでした。また、目にする野鳥もスズメ、シジュウカラ、ハクセキレイ、ムクドリ、ヒヨドリ、カササギなど福岡で出会えるおなじみの鳥たちばかりで、ここが韓国?と思ってしまうほどだったため、早めにここを後にして、次の訪問地である慶州市へその日のうちにバスで移動しました。

翌日、慶州では路線バスに乗って、世界文化遺産となっている仏国寺と石窟庵を訪ねました。市内からはかなり遠く山の中にあります。しかし、この日は日曜日で、観光地としても名高い仏国寺には多勢の人々が来ている上に、折悪しく台風2号が日本の東海上を通過中の影響で雨、風とも強い最悪の天気となってしまいました。深い山の中にある石窟庵周辺では野鳥の声もしていたのですが、まったく録音どころではなく、衣服を濡らしてしまい風邪を引いてしまう最悪の一日となってしまいました。

ようやく天気にも恵まれて韓国の野鳥第一号に出会えたのは、慶尚北道・安東郊外にある、古い家々がそのまま保存されている「河回民族村」の中でのことでした。その鳥とは、あのコウライウグイスです。

私が野鳥に詳しい皆さんに説明するのも僭越な話ですが、この鳥は晩春に南から朝鮮半島や中国に渡って来て繁殖する夏鳥です。日本ではまれに旅鳥として観察されることがあるようですが、私は去年の春にこのまれな旅鳥と出会って幸運にも鳴き声を録音しています。

到着後すぐ「河回村」の家々の間を巡る、入り組んだ細い道の一本を歩いていた時、あの独特の、それとすぐ分かる柔らかいコウライウグイスの声が聞こえてきました。

去年私が録音できた時は、下草の陰に隠れて鳴いていたので、姿を見ることができなくて残念な思いをしたのですが、ここでは少し距離はあるものの、一軒の藁葺き家の庭にある背の高い木の中ほどの枝に止まっていたので姿もよく見えます。全身の黄色が周りの緑の葉の中にハッキリと目立ちます。

図鑑では何度も見ている鳥ですが、意識をして実物を見るのはこの時が初めてです。

ちょっと感動しながらマイクを向けていたのですが、やがて鳴き止み飛んで行ってしまいました。飛ぶ姿は、やはり体が大きいせいかフワフワした感じです。私は彼を見送った後、あることを思い出しました。

じつはもう十年も前に上海の花鳥市場(ペットと花・盆栽の専門店街)でこの鳥が確かに売られていたような気がしたのです。その頃は中国ではまだ野生生物保護法が本格的に施行されていない時代で、鳥屋さんの店先ではじつに堂々と野鳥が売られていました。メジロやオオルリは当たり前で、ヒバリやレンジャク、ほかに私が知らない多くの野鳥が販売されていました。人工繁殖ができるガビチョウやソウシチョウはその頃はもちろん、現在でも中国のペット市場では一杯に鳥篭が並んでいます。ペット市場で見たほかに、よく思い出してみると2006年にやはり中国・安徽省の省都である合肥市の公園でも、このフワフワと飛ぶ黄色い鳥を見たことが・・・。

図鑑でしか見たことがないためと、旅先での記憶があいまいだったのか、あまり姿が印象になかったコウライウグイス、でもここ「河回村」で実物を目の当たりにして、初めての対面でないことが思い出されて感慨深いものを覚えた次第です。

ここでは、他にコウライキジもいて、村はずれの草地の中で何度もその錆びた声を聞かせてくれ、録音も出来ました。また、韓国が本場と言えるカササギも多くいて、そのうちの一羽を間近で録音中に、目の前の植え込みの茂みからダルマエナガの親子が姿を現してくれ、幼鳥が親に甘える声と、親鳥の鋭く高い警戒の声も録音できました。

安東(アンドン)・「河回民族村」は、本当は村の外を巡る川を渡って、川向こうにある山に行こうと訪ねたのですが、水量が少なく渡し舟が休業していたので、野鳥との出会いは半分あきらめていたのですが、こうして韓国での第一号となるいろいろな鳥たちに出会うことができて幸運でした。

これ以後、コウライウグイス、コウライキジ、カササギはさすがに韓国を代表する鳥たちなので、行く先々で出会うことになります。

翌日は、今回の旅では、もっとも東北にあたる太白山系のうちの小白山・浮石寺に行きました。この旅のきっかけの一つとなった、五木寛之氏が出演したテレビ放送の韓国編の舞台になった山であり寺院です。ずいぶんと大きな期待を持って山深い著名な寺院を訪ねたのですが、ここも夕方遅くから翌朝にかけて雨となり、十分な成果が得られませんでした。

しかし、境内で1羽のジョウビタキが盛んに囀ってくれたこと、またテレビを見て感動した夕刻の大太鼓と梵鐘を特別の許可を貰ってこの目で見て、録音できたことは大きな心の上の収穫となりました。この続きはまた次号で。

(「野鳥だより・筑豊」2011年9月号 通巻403号より転載)


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