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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

野鳥の声を求めて、対馬北部へ初の旅(第二回)

5月16日、対馬北部でのオオコノハズクの鳴き声を求めての旅の初日は、「対馬野生生物保護センター」の川口氏より教えていただいた「河内集落」の民家の庭先とそのすぐ裏山の古木に期待をかけました。

前回は夜に入って吹き出した強風のために、それが全く録音にならず、オオコノハが鳴いているかどうかも判断できないほどゴーゴー、ザーザーという風がまともにマイクに当る音と、葉擦れの音でひどい結果に終ったことをご報告しました。

じつは、河内集落を訪れる前に、「ツシマヤマネコを守る会」の山村会長から教えられていた、私の宿(佐須奈)から程近い「島大国魂御子神社」の立派な鎮守の森の中にも、日暮れ直後から録音がスタートするようにタイマーをセットしたレコーダーを2台置いておいたのですが、こちらも河内集落同様激しい強風のために、満足な音が聞こえないひどい結果に終ってしまいました。ただ、ノイズのためにダメだったというだけでなく、オオコノハそのものが鳴いている気配が無かったのです。ただし、2箇所とも遠くでアオバズクが鳴いていることは確認できました。

ここで、オオコノハズクと言う鳥が一体どんな声で鳴くのか、ご存じない皆さんもあると思いますので、簡単にご説明しておきます。鳥の鳴き声をカタカナで表記するのは難しいのですが、蒲谷鶴彦・松田道生共著「日本野鳥大鑑」の記述と付属CDの音を参考にしたところを記します。

  • @プーウー、プーウーと2音の音を繰り返す声・・・これは雄雌ともが出すようで、おもに繁殖初期に鳴き交わすことが多い声だろうと想像しています。
  • Aウォッ、ウォッ、ウォッまたは低い声でホッ、ホッ、ホッと一音ずつ繰り返す声。
  • Bミャオッまたはギャオッと言う猫のような声。
  • Cヒナが出すピ、ピ、ピ、あるいはチ、チ、チ、という高い声。

以上の四種類の声にまとめられると思いますが、CDで聞いた限りでは、私の知っているほかのフクロウ類の声に比べて、オオコノハの四種の声はいずれも幾分か高めで、かつ優しい声に聞こえます。図鑑で見る絵や写真や、今回河内集落の民家の方たちが撮影したオオコノハズクの風貌にはおよそ似つかわしくない可愛いといっても良いほどイメージの違う声であるようです。とくに、ヒナが出すピ、ピ、ピ、あるいはチ、チ、チ、は体の大きさからは信じられないほど高く、可愛い声で、もし昼間にこの声を聞いても誰もフクロウの仲間の子供の声とは思えないでしょう。一言で言えば、オオコノハの声は総じてフクロウの仲間としては意外な感じのするほど優しい声なのです。

以上の四種のオオコノハの声のうち、私が最も録音したかったのは、言うまでもなく@の繁殖初期に雄雌が鳴き交わす「プーウー」、「ポワーオー」と言った声です。

そんな声を求めて上対馬での実質二日目が始まりました。

とは言っても、山村会長から出た「オオコノハズクも今ではずいぶん減ってしまいました」の残念な一言が私の頭にこびりついています。写真を撮る皆さんも同じ思いの人が多いと思いますが、だからこそ、まだ姿があるうちに記録を残したいという思いが一層強く湧き上がってきます。写真にしろ、声の録音にしろ、野鳥観察を趣味とするものにとっては、これらの行為は課せられた義務のようなものだと思っています。

5月17日、山村会長が多忙な時間を割いて、私をいくつかのポイントに案内してくださいました。仁田内の若葉神社やバードウォッチング公園などのほか、少し離れた西海岸の田の浜湿地など。バードウォッチング公園は小高い丘で、野鳥観察のための展望台のほか宿泊施設なども備えた施設ですが、春秋の渡りの頃には出水に行き来するツルたちが周りを取り囲む水田に下りて休むところを見られることもあるとのことでした。

余談ですが、私が今回の最終日前日早朝に一人で訪れた時は、公園そのものの中ではシジュウカラとカワラヒワが数羽ずつ見られただけで、周りの水田にもコサギ、アマサギの姿があったくらいです。しかし、帰りに通ったすぐ近くの低い小山の林で、サンコウチョウが鳴いているのに気がつき、少しだけですが、録音できたのがせめてもの収穫でした。

バードウォチング公園そのものは、周りの田畑の見通しを良くする為に、木々をすっかり間引く伐採をしたために森とはいえない淋しいまばらな木々があるだけなので、この公園内に各種の野鳥がやってきそうもない雰囲気でした。前述の山村会長は林の伐採に反対されたようですが、行政にその真摯な声が届くことがないまま現在のような淋しい姿になってしまったと嘆いておられました。

結局この日の午後は、仁田内の若葉神社の、さして大きくはないものの立派な古木が数本ある鎮守の森に2台のレコーダーをセットして宿舎にもどったところ、私の来島目的を聞いてくれた宿の主人が、それならこんなところがある、と一ヶ所教えてくれたのが、前夜出かけた「河内集落」の少し手前から海側へ入ったところにある「西津屋集落」です。

ここに古い木々に囲まれたお宮があるから行ってご覧、と言うわけで夕食前にふたたび車で出かけて見ました。なるほど、小さいながらも神社と森があり、古い木々が繁っています。しかし、目立つような大木、古木がありません。その上に昨夜同様またもや強風が吹きだし、とても録音など出来ない状態となったため、やむなくレコーダーの取り付けはあきらめ、近くの農家の人にお宮でオオコノハが鳴いていないか聞いてみると、確かに数年前まではいたが、台風で何本もの大木が折れてしまい、それ以来そんな鳥は姿を消してしまったとのこと、意気消沈して宿に戻るしかありませんでした。

翌朝回収した期待の仁田内の若葉神社のレコーダーも、強風のゴーゴーと言う音のほか、やはりアオバズクの声がする以外にオオコノハズクは鳴いてはくれていませんでした。

以上のように書くと、夜に鳴くオオコノハズクだけを標的に行動していたように思われるかもしれません。でも、実際にはせっかく遥々と北対馬まで来たのだから、何かしら目ぼしい音のおみやげを持ち帰りたい、また季節が良い時期なのだから渡りの途中の珍鳥に出会いたいと思って昼間も可能な限り動き回りました。

具体的にはできるだけ脇道に入って歩いてみたり、目保呂ダムの奥に入ってみたりして見ました。お陰でミヤマホオジロのさえずりをゲットできたり、思わぬ収穫もあったのですが、大雑把に言うと対馬は期待したほどではなかったのです。なぜかウグイスとシジュウカラが多くて、前述のミヤマホオジロの録音のときもバックに何羽ものウグイスが鳴いています。さらに言えば、北対馬のウグイスは数ばかり多くて、上手に囀る個体がほとんどいませんでした。

また余談ですが、ウグイスの鳴き方の上手下手は遺伝的なものではなく、後天的に回りのウグイスの声を聞いてその鳴き真似をして歌を覚えるようなのです。ウグイスに関して有名な逸話を何かの本で読んだことがあります。それは、昔、東京は上野の山に、あるお寺があって、そこの住職が寺の回りの山で鳴くウグイスが皆鳴き方が下手なのを嘆いて、檀家から寄付を募って、京都から鳴き声の良いウグイスを沢山買い込み、その山に放したところ、二、三年で全山のウグイスが皆鳴き上手になったと言います。

ウグイスとシジュウカラのほかには、こちらと同様なぜか野鳥は少なく、夏鳥もカッコウ科の鳥もオオルリもほとんど出会わなかったのが不思議でした。わずかにキビタキの声を数箇所で聞いたくらいです。もう一つ楽しみにしていたブッポウソウとの出会いも、前述の川口氏からの情報で何ヶ所か回ってみましたが、一羽も見ることはありませんでした。

最後の日にこの話を川口氏にすると、今年は夏鳥の到来が遅れているようだと話されていました。しかし、ブッポウソウはその後、韓国の慶州の有名寺院「仏国寺」で、梶原会長が繁殖中らしいこの鳥に出会われて姿と声を体験された報告がありましたから、私が対馬を離れたあとに順調に韓国に渡っていたようで安心した次第です。

次回は、残りの対馬での日数をオオコノハを探してどのようにして過ごしたか、その我ながら情けない、でも得がたい体験をしたことをご報告しょうと思います。引き続きよろしくお願い致します。

(「野鳥だより・筑豊」2012年8月号 通巻414号より転載)

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