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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

野鳥の声を求めて、対馬北部へ初の旅(第三回・最終)

5月16日、17日の二日間は北対馬では大きな町と言える佐須奈の旅館を拠点に、周辺の数箇所のポイントを地元の野鳥に詳しい方たちの勧めで訪ね、夜間に録音をセットしたレコーダーを置いたり、実際に自分の足と耳を使ってオオコノハズクの鳴き声を探したのですが、確かな収穫を得ることは残念ながらできませんでした。

そこで後半の二日間は、泊まりの宿を、佐須奈より少し南に下がった仁田湾に近い樫滝という集落にある民宿に移して、「ツシマヤマネコを守る会」の山村会長、「野生生物保護センター」の川口氏から教えていただいたポイントを回りました。

具体的には、西海岸は田の浜湿地の先にある岬の灯台がある山、東海岸の峰町・佐賀(さか)の天満宮の境内、それにどこよりも素晴らしい鎮守の広大な森を持つ西海岸の木坂と言う集落の外れにある「海神神社」などです。

このうち、オオコノハとは関係なく面白い録音ポイントだったのは田の浜湿地でした。

山の多い上対馬では珍しい広大な水田が広がる中央部に湿地があります。それを囲むように水田が点在しているのですが、数多くのコサギやアマサギが、水田と回りの草地で餌を採っていました。また、湿地(浅い池)には葦や蒲が繁り、開けた水面ではカイツブリやバンが泳いでいるのが遠めに確認できます。また、海が近いせいか多くのトビが上空を舞って盛んに鳴いています。その上アオアシシギまでが来ていて、私の好きな鳴き声である「ピョー、ピョー、ビョー」と鳴いていたりして静かな湿地に声が良く響きます。

アオアシシギは今までに博多湾周辺の干潟や河口部で何度も録音していますが、やはり都市に近い環境では街ならではのノイズが気になる録音となってしまいます。しかし、ここ上対馬の小さな集落近くの湿地では、ほとんどノイズと言うものがなく、クリアな音が入ります。

ただし、この湿地の録音では一つ苦労した問題がありました。それはイノシシのせいです。現在上対馬各地ではイノシシがとても多く、この田の浜湿地でも一枚、一枚の田んぼの周りにイノシシ除けの鉄柵が巡らされているので、中央部の湿地に近づくのがとても厄介なのです。畦道を進むとすぐに鉄柵にぶつかるので、わずかな隙間を広げてすり抜けたり、低く見えるところでは私の短い足で上部を跨いで超えたりと、えらく苦労しました。お陰でズボンには引っかき傷ができたり、汚れがついたり、手首に傷を作ったり、悪銭苦闘してタイマーをセットしたレコーダーを置きました。日没前後の静かな池畔の様子と、鳥たちがもっとも伸び伸びと鳴く夜明け直後の時間帯に期待したのです。戻り道を帰るときも同じ苦労をします。鉄柵を広げて入った個所はもちろん元通りに修復します。それを前日の夕方と、翌朝回収する時と2回繰り返すのですから、録音と言う作業も簡単ではありません。

そんな苦労をしたお陰で、この湿地での録音では思わぬ収穫がありました。一つはカイツブリの珍しい鳴き声です。普通カイツブリは「ケレ、ケレ、ケレ・・・・」あるいは「キリ、キリ、キリ・・・」と鋭い連続的な鳴き声を出します。ところがここのカイツブリはこの声の鳴き始めに「ピン、ピン、ピン」と、とても高く澄んだ声を何度も聞かせてくれました。長い間カイツブリの声を録音してきましたがこの声を聞くのは初めてで、とても嬉しい収穫だったと言えます。

もう一つは、チュウサギ(?)が日没の時間帯に集団を作って近くの山のねぐらに鳴きながら帰って行く声です。一羽、一羽が勝手に飛んでいくことはしないで、湿地の上を何度も回りながらだんだんと数が増えていき、やがて全員がまとまって山へ戻って行くのです。その間中鳴いているのですが、ダイサギやアオサギが「ゴワーッ」と低音で鳴くのに比べると、もっと声が高くて優しい声に聞こえます。

じつは以前、同じ声と状況を経験したことがあります。福岡市の西隣り、糸島市の可也山の麓の池で、秋のはじめに水が落とされた池で夕方遅くまで採餌していたチュウサギが数十羽、池の上空を飛びながらだんだんと数を増して、やがて一段となって山のねぐらにまっすぐに飛んでいったのです。池の上空を何回も旋回している時に同じ声を出して鳴いていたのを思い出しました。しかしこの時の季節は秋、一方今回の田の浜湿地の場合はサギ類も繁殖の時期です。繁殖期の成鳥がこのような集団でねぐらに帰る行動を取ったことが不思議で意外でした。

さて、オオコノハの話に戻りましょう。この水田と湿地の外れから一本の道が山の上へと続いています。山の高さは200メートルほどでしょうか。この岬の山の海に突き出した山頂部に灯台があるのですが、麓からくねくねと曲がりながら登る道の両側は当然のことですが林になっていて、見るからにフクロウ類が好みそうな樹洞(ウロ)がありそうな大木、古木が無数にあります。

湿地でレコーダーを仕掛けたり、ハンドマイクで録音を楽しんでいるうちに暗くなったので、この山道へ向いました。後から「保護センター」の川口さんに聞いた話だと、麓の一体にオオコノハは多く、山を登る必要はない、とのこと。その時はそれを知らないのでとにかく声を求めて暗くなった山道をハンドマイクを握り締めてハァー、ハァー言いながら、でも足音を立てないで登っていきました。まだほの明るい空にシルエットで見える木々の中には無数の巨木が高々と黒い影になって見えます。

どこでフクロウ類が鳴いてもおかしくない光景です。でも、曲がりくねる道をどこまで登っても何の声もしないのです。遠くでアオバズクの声はします。でも対馬に来てアオバズクの声を録音しょうとは思いません。狙いはあくまでオオコノハズクなのです。「でも鳴いてくれない」。こんなにきつい思いをして会いに来ているのだから、頼むから一声でも、二声でも聞かせてくれ。そんな思いはこの夜も叶うことはありませんでした。力なく下山する時ももしかしたらと、耳だけは研ぎ澄ませていますが、時たま私が歩くすぐ道の端っこで大きな音を立てるのはイノシシだけです。麓の一帯でも長く時間をかけて鳴き声を待ちましたが、やはりそれらしい声は聞こえて来ませんでした。

翌晩は、今度は同じ西海岸の木坂という漁港に近い「海神神社」に行きました。ここのお宮を取り巻く鎮守の森は、まことに広大で巨木、古木が無数にあります。本殿は約300段の石段を登りきった山の中腹にありました。まずは明るいうちに本殿まで汗を流して上がり、お社を取り巻く惚れ惚れとするような古木、巨木の近く2箇所にタイマー・レコーダーを取り付けます。そして暗くなるのを待って階段を降り、丁度中間の150段あたりの石段に腰を下ろして耳を澄まして鳴き声を待ちます。もし近くにオオコノハがいて私に気がついて逃げられでもしたらいけないので、待っている間は石になっていなければなりません。そうして待つこと2時間余、なんとも辛い時間です。でも、この夜もとうとうオオコノハは鳴いてくれませんでした。

しかし、このお宮の石段に座ってじっとしている時に、ほんのわずかな時間ですが、天然記念物であるツシマヤマネコが1匹、私から30メートル斜め下にある石段の曲がり角である、つまりは踊り場のような部分をゆっくりと歩いて横切ってくれました。闇になれた私の目には、特徴的な太目の尻尾がハッキリ見えた上、気のせいか体の横にあるあの独特の模様まで見えたような感じがして、野生のツシマヤマネコをこの眼で見た感動で胸が一杯になりました。肝心の音の収穫は無かったのですが、これは忘れられない思い出となりました。

ところで、この「海神神社」に来る前に、東海岸に近い「佐賀(さか)」という町の中にある天満宮の境内の古木にもレコーダーを置いたのですが、翌日回収して確認すると、やはり入っているのはアオバズクの声と行き交う車の騒音だけでした。

こうして、今回正味4日間の北対馬でのオオコノハズクの鳴き声録音の旅は完敗に終りました。私がこの4日間で回ったどの場所にも、いかにも彼らが好んで棲みつきそうな立派な古木、大木がありました。目撃情報もいっぱいいただきました。オオコノハはたしかにいるのです。ただ、私が訪ねた時期は微妙に日にちがずれ、彼らがよく鳴く頃ではなかったと言うことなのでしょう。

今回知り合った対馬の愛鳥家の方々、以前から交流のある山村会長には、お世話になったことに対して心からお礼を申しあげます。

来年こそは下調べを念入りにして、必ずオオコノハズクの、恐い顔つきには似合わない意外に優しい声を必ずゲットするぞ、とリベンジを誓って、比田勝港からの帰りのフェリーに乗り、きつかったけれどもいろいろと勉強と体験をさせてもらった「上対馬」をあとにしました。

(「野鳥だより・筑豊」2012年9月号 通巻415号より転載)

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