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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

台北でシロガシラに再会

11月2日〜4日(2012年)の三日間、二泊三日の日程で、私がボランティアとして関わっている視覚障がい者の皆さん13名と、同行するサポートメンバー併せて25名の団体で台湾・台北市に旅行をしました。この旅行は一応私が主催しているもので、平素海外旅行の機会に恵まれない視覚障がい者の人たちに、手近な外国である中国の例えば上海とその周辺、蘇州や杭州などへ旅行して他国の文化に触れて楽しもうというコンセプトで行っているものです。今回が三回目で、過去二回はとても好評裡に終えることができました。

今回三回目を実施したのですが、折からの日中関係を考慮して訪問地を台北としました。

さて、団体旅行なので、いろいろな場所を訪れた時に、鳥が鳴いていても私だけが勝手な行動を取ることができません。

第一日目は三峡と言う古い町に行ったのですが、その途中「鶯歌」と言う陶磁器の街に立ち寄って、台北での第一回目の昼食をとることになりました。レストランへの道は狭い商店街なので、街の入り口辺りの広い駐車場でチャーターバスが止まり、自分が受け持つ視覚障がい者の人の腕を取って路上へおりた途端、私にとっては特別懐かしい、あのシロガシラの元気の良い独特の声が聞こえてきました。

「ピッキュピクラム、ピッキュピクラム」とすぐ近くの道端の樹木の枝で鳴いています。

私と並んで歩く同伴の人も「あっ、鳥が鳴いている、ハッキリした大きな声ですね。名前は何と言うのだろう?」と言います。

「あの鳥は、シロガシラと言って、日本でよく見るヒヨドリに近い鳥ですよ。身体全体は灰褐色だけど、頭の部分が白いのでこの名がつきました。中国語でも、白い頭のお爺さん《白頭翁(バイトウオウン)》と言うようです」と知ったかぶりで話します。

たまたま傍を通りかかった男性に、生齧りの中国語で、鳥を指さして「今鳴いているあの鳥は何と言いますか?」と尋ねると、すぐに「バイトウオウン」と返事が返ってきます。

台湾でも中国本土と同じ呼び方をすることが分かりました。

以後、台北市内の公園や、緑の多い観光施設のどこに行っても、たいていこのシロガシラがいて元気に鳴いていました。

私が初めてシロガシラの声を聞いたのは、日本の録音の草分けとして知られる蒲谷鶴彦先生のCDです。その録音はもう数十年も前に多分宮古島かどこで録音されたもので、録音状態も良くなく、その上に肝心のシロガシラも濁った低い声で、今から思えば、まるで別の種類の鳥に聞こえます。

初めて生きているシロガシラの声を聞いたのは、2002年に上海から無錫、杭州へ個人的な旅をした時です。無錫の太湖のほとりでも、杭州の有名な西湖の周りでもシロガシラはいくらでもいて、賑やかに鳴いていました。この時は同行した中国人の友人と一緒だったので、録音など

は頭からする予定がなかったのですが、中国では街の公園にもシロガシラだけでなく、多くの種類の鳥がいることが分かり、当時趣味で中国語を勉強していた私はその後の中国訪問の旅ではずいぶん多くの鳥たちの声を録音しました。長江下流域のどの街へ行っても、数が多いのと大きな声で楽しそうになくシロガシラの声が気に入って、私は何十回もこの鳥の声を録音しました。

シロガシラについて印象的だった出来事が幾つもあるのですが、初めて蘇州へ行った時、宿泊した国営のぼろホテルの内庭にこの鳥とクロウタドリがいて、両方ともよく通る大きな声で盛んに鳴くので、チェックインをするのを忘れて夢中でマイクを向けていたら、ホテルの従業員の庭の清掃をしている人に怪訝な顔でジロジロ見られたことがありました。

また、紹興酒で有名な、上海の南に位置する紹興市へ行った折は、ホテル近くの小さな丘の公園に早朝出かけたら、ガビチョウの鳥篭を持ち寄って樹木の枝にぶら下げて、盛んに鳴かせながら鳥自慢をしている(?)おじさんたちに「シロガシラもずいぶん良くなく鳥だと思うのですが、中国の人はシロガシラは飼わないのですか?」と聞いたことがあります。

すると、その場にいた四、五人のおじさんたちは「何を馬鹿なことを言うんだ」とばかり大笑いをして、「あのね、中国人はシロガシラの声はただうるさいばかりで嫌いなんだよ。絶対に飼ったりなんかしないね」と言われてしまいました。

シロガシラの鳴き声には、当然ですが地鳴きと囀る声があって、「ジュッ、ジュッ」と鳴く地鳴きは、ただうるさいばかりで確かに面白くないのですが、前述の「ピッキュピクラム」と鳴く囀りには声や節回しに変化もあって私などはとても気に入っているのですが、今考えてみれば、その頃すでに中国では、野生生物保護法制定の機運も高まっていた時期で、野鳥を捕獲して飼うこと自体がはばかられる時代に入っていたのかも知れません。

余談ですが、それでも2005年ぐらいまでは各都市の花鳥市場の小鳥屋を覗くと、まだまだメジロをはじめヒバリやオオルリなど密猟されたらしい野鳥が売られていたのを思い出します。

シロガシラで一番の思い出は、中国の有名な黒酢の産地で、長江に面した鎮江(ちんこう)市の「金山寺」と言う有名な寺院を訪れた際、お堂の軒先に吊るされた風鐸(ふうたく・風鈴の大きなもの)が折からの強めの風に揺られて「カラン、カラン」と美しい音で鳴るのに合わせるように、一羽のシロガシラがすぐ傍でよい声で鳴いていたのが、今も鮮明に頭に残っていて、その場の風景や、風鐸の音とその鳥の声まで鮮明に思い出せます。またこの時は録音もしたので、短い時間でしたが、私の自慢の録音の一つとして未だに大切に保存しています。

さてお話を台北に戻して、二日目の朝、私は五時半に起き出して、近くの公園に出かけてみました。「栄星花園」と名がついた公園には、もう沢山の中高年者がやって来ていて、思い思いの健康法を実践しています。ウォーキング、ジョギング、いろいろな種類のダンス、樹の幹を平手でパンパン叩く人、さまざまな運動をしています。中国も韓国でもそうですが、年配者の健康志向はここ台北でもとても強いようです。こうした人々を目の前に見て、怠惰な日々をむさぼっている私は恥じ入るばかりです。

例によってシロガシラを始めとして、小ぶりな鳥たちも数種類鳴いているのですが、なにしろ人が多く、その上ダンスのグループがガンガンとスピーカーで音楽を鳴らすので、全く録音などは出来ません。

そんな中、嬉しいことがありました。私を日本人と見たお年寄りが(私もそうですが)何人も近寄ってきて「あなた日本人ですか?」と声を掛けてくれたことです。ほとんどの人の発音はずいぶん怪しかったのですが、それでもニコニコしながら話しかけてくれたことにとても暖かさを感じました。台湾の人たちの親日ぶりが感じられたことが、今回の台北旅行での一番の収穫でした。

ホテルへ帰ろうとしていたら、足元の草むらをノソノソと歩く体調45センチほどもある鳥がいました。写真を撮ろうと近づくと1メートルぐらいまで寄っても逃げようとしません。鳥の名前が知りたくて、通りかかるウォーキング中の人に尋ねるのですが、皆さん一様に「ブーチーダオ(分かりません)」とのこと。帰国後図鑑で調べたらどうやら「ズグロミゾゴイ」、それも幼鳥のようでした。この鳥は他にも蒋介石の巨大な銅像が祀られている「中正公園」の芝生にもいて、同じように人が近寄っても平気で、やはりゆっくりとノソノソと歩いていました。

台湾は亜熱帯気候帯に属しているので、鳥相も日本とはずいぶん違う上、種類も多そうです。いつの日か、機会があれば今度は一人でマイクを持って訪れたいものです。

注:2枚の写真はいずれもズグロミゾゴイの幼鳥だと思いますが、ずいぶん色と模様が違います。月齢と雌雄の違いでしょうか、それとも別種の鳥でしょうか。

ズグロミゾゴイ ズグロミゾゴイ

(「野鳥だより・筑豊」2012年12月号 通巻418号より転載 2013-07-08)

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