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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

早春の里山録音歩きとSFTSについて

★ミヤマホオジロとマダニ

録音を介して野鳥と付き合っている私にとって、晩秋から早春はわりと暇な季節です。

それでもホームフィールドにしている福岡市早良区の西油山の里山と、山頂にも通じる林道歩きは、オシドリ、シロハラやミヤマホオジロなど冬にここにやってきてくれる結構多くの種類の野鳥たちと、年中住んでいるフクロウ、イカルなどと出会え、運がよければ彼らの声も聞ける馴染みの手近な自然です。車を15分も走らせれば行けるので、里山や林道歩きは健康にも良いと思って、時間が空いている時はなるべく出かけるようにしています。

しかし、もう今まで十数年通い続けているので、オシドリもフクロウもイカルも、これといった鳥はたいてい良い録音を取ることができています。いまさら同じ鳥の録音をしても、と思うことがありますが、それでも鳥の声が聞こえるとマイクを向けるのは録音を趣味としている者の性なのと、今年も鳴いている鳥の声が、もしかすると来年は聞かれないかもしれない、そんな思いもあって相も変わらずいろいろな鳥の声を狙ってマイクを向けています。

そんな二月のある日、天気の良さに誘われて、緩やかなのぼりの林道を歩いて行くと、ミヤマホオジロの小さな群れが林道脇の草むらから飛び出して前方に飛んで行ってまた道の脇の草むらに隠れます。私が歩き続けるとまた飛び出してしばらく前方へ飛んで、また草むらに隠れます。時々は完全に隠れないで、道の脇の背の低い潅木の枝に止まっていることがあります。私は立ち止まり、双眼鏡で観察を楽しみます。そんなことを繰り返している時に面白いものに気がつきました。

一羽のミヤマホオジロのメスの頭に何か丸いものがくっついているのを見つけたのです。

「何だろう?」私は不思議に思い、何回もその鳥を追ってなおも見続けます。

余談ですが、私は声で野鳥たちと付き合っているので、長い間練習して鳴き真似である程度何種類かの鳥の注意をひきつけることができるようになりました。例えばウグイスの笹鳴き、ヒヨドリ、メジロなど。とくに冬のメジロは地鳴きの真似をすると、林の少し奥から林道の縁まで呼び出すことが出来るようになりました。もちろんいつも成功するわけではないのですが。

ミヤマホオジロも口から音を出して、動きを少し止めることができます。その時もそのやり方でその変な物を頭にくっつけたメスに少し近づくことができて、よくよく双眼鏡で見てみました。すると彼女の頭(正確には前頭部)の異物は、血を吸って小豆大に膨らんだマダニであることがはっきりと分かりました。小さな鳥にマダニが取り付いて小豆大にまで膨らんでいるのを見たのは今回が初めてでした。

皆さんも今年になって話題になったので、山のマダニがSFTSというウイルスを人に移して死亡者が日本でも出ていることをご存知だと思います。もとはと言えば、このウイルスが原因で中国で30人以上の死者が出たことで問題になったわけですが、そのウイルスがどうして日本にやってきたのか?との疑問をそれまで私は持っていました。そんな訳で、頭に血を吸って大きくなったマダニをくっつけて飛び回るミヤマホオジロのメスを見た途端、「これだ!」と思ったのです。つまり中国のSFTSウイルスを日本に持ち込んだのは渡り鳥かもしれない、あの鳥インフルエンザのようにです。そんな可能性があるかも、とあわて者の私はそう早合点をしてしまいました。

その日自宅に戻った私は、早速ネットで検索してSFTSウイルスについて調べてみました。その結果はやはり私自身がいかにあわて者であるかを改めて自覚させるものでした。分かったことは中国のSFTSとわが国で犠牲者が出たそれとは遺伝子が全く異なる別もので、中国で死者が出た以前からすでに日本にも存在していたらしいことです。

これで私が思いついた渡り鳥伝播説は見事に砕け散ったのですが、どちらにせよこのマダニに咬まれたことから発祥する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、今のところ特効薬がなく死亡率も高いので、私たちのような自然の中に出て行くことの多い人はこれから春、初夏、夏場にかけては十分に注意をしたほうが良さそうです。

とくに私の場合は鳥の声が聞こえると、下草や潅木の多い林にどんどん分け入って行くので危険度が一般のウォッチャーやカメラマンの皆さんより数倍高いかもしれません。気をつけなくちゃ、と改めて感じています。

同様に最近はあまり話題にならないのですが、やはり似たような場所に入る人にはツツガムシ病もあります。また、深い草むらを分け入り込む時に倒木などに足を引っ掛けて向こう脛に擦り傷などを負うと、そこから菌が入って壊疽を引き起こし恐ろしいことになる危険もあります。私の録音仲間である、北九州市の全盲の録音家・山口まさのり氏は、山中でマムシに咬まれて危うく一命を落とすような体験もしています。

今回のマダニとSFTS問題は、楽しいけれども危険もいっぱいの自然の中での趣味を持つ私たちとしては、大いなる警鐘と受け取ることにしたいものですね。

話題は変わりますが、今年のわがホームフィールドの特筆的なニュースとしては、西油山の林道途中から麓の里山にかけて、近接する四つの池が点在していますが、ここにこの冬は50羽を超えるオシドリが来てくれました。おかげでオシドリたちが浅い池に潜って水底に沈んでいるドングリを食べる水音と鳴き声を活き活きとした鮮明な録音に取ることができました。このオシドリの群れの中に一組のアメリカヒドリが混じっていたので、何とかして彼らの声も録音しようと頑張ってみましたが、メスの「グゥエーッ」と言う大きな一声と、水草を食べるために潜る水音だけしか録音できませんでした。

ほかには、この里山に毎年やってくるオオタカのメスが一羽。まったく鳴かないので私はただ出会うたびに呆然と見上げて首が痛くなるだけでしたが、写真を撮る人には良い素材だったかもしれません。私にとってはお馴染みの鳥たちにいつも出会える場所ですが、何十回となく足を運んでも何かしら新しい発見があって、自然の中で過ごす時間の楽しさ、面白さをこの早春も存分に楽しませてもらっています。

(「野鳥だより・筑豊」2013年4月号 通巻422号より転載 2013-07-15)

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