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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

オオコノハズクの声を求めて・・・北対馬の自然に再挑戦

昨年の5月16日から20日まで、オオコノハズクの鳴き声を何とかして録音したいと対馬北部に旅をしたことは、本誌に書かせていただきました。足掛け5日間、頑張ったにも拘わらず、その時は収穫がまったく無く、失意のうちに帰福しました。私は諦めの悪い人間で、この経験をしたことでオオコノハズクの声に対する執着はますます強くなり、その後も現地対馬北部の野鳥に詳しい方々や、ネットで知ったオオコノハズクの生態に詳しい方にもいろいろと情報を頂いた結果、この鳥が今も対馬北部の、それも私が昨年探し回った場所に間違いなく生息していることを知りました。

また、小型の野鳥に比べて、フクロウやオオコノハズクの繁殖は時間がかかること、そこから巣立った幼鳥が容易に多量の餌を口に出来る時期を想定し、逆算すると4月に繁殖初期を迎え、その頃に向かってオス、メスが春早い時期から鳴き合うのではないかと言う仮説を立てました。

前述の方々から頂いた情報の中にも、この仮説を裏付けるものがあり、まず現地の方からは2月の終わりから3月いっぱいよく鳴いた、4月に入っても鳴いているとの連絡をいただきました。また、オオコノハズクの生態について、かつて北対馬に10年間毎年通って調べた経験をお持ちの愛知県のS氏からは「この鳥は4月末に産卵をし、その頃雌雄で鳴きあう」と教えていただきました。しかも、これらの情報が確認された場所は、昨年私が回った対馬北部を流れる美しい川・佐護川の中流域から河口に近い場所にある数箇所の古いお宮の鎮守の森です。

ここまで情報を得た以上は、もう一度兆戦しないわけには行きません。

今年も4月24日の夜10時半博多港発の対馬・比田勝港行きのフェリーに乗って出かけました。このフェリーは寝て行けるので利用しやすいように思えますが、難点は到着時間が早朝4時20分と早い欠点があります。希望すれば朝7時まで船内に留まって寝ていてもいいのですが、到着の4時20分に地元対馬の人たちはぞろぞろと下船してしまうし、船内放送でアナウンスがあったり、その騒音で眠っていてもいったんは目が覚めてしまいます。やがてそれも落ち着き、さあ7時までもう一度眠ろうと思っても、もう簡単には眠ることは出来ません。なにしろ旅の初日なので、神経はただでさえ高ぶっています。まして、今回の場合は昨年のリベンジを果たす旅でもあり、ついつい下船してからの行動を頭の中でシュミレーションしてしまい、とても眠るどころではありません。悶々として眠れぬまま下船時間の7時を待っていると、6時ごろになると接岸している船の外から鳥たちのいろいろな声が聞こえてきます。

身についた習性というもので、鳥の声が聞こえてくると、もうじっとしていることは出来ません。横になっていた体を起こし、マイクとレコーダーをとりあえず手にして後部甲板に出てみます。外は気持ちの良い快晴で、朝日が寝ぼけまなこにまぶしく見えます。船上なのに、不思議なことに沢山のツバメたちが甲板の上を鳴きながら忙しく飛び交っています。港の中にどんな餌があるのか、私には思い当たりませんが、後で見たら、フェリー乗り場の建物の中にもツバメの巣がありました。もう一つ、私を喜ばせ、半分眠っている頭をすっきりと覚醒させてくれたのは、港の建物の屋上の、フェリーにもっとも近い突起物の上に止まって、大きな美声で囀る一羽のオスのイソヒヨドリでした。しばらく囀った後、フワフワとした飛び方で100メートルほど離れた別の建物に飛んで行ってしまいます。しかし、数分その場所で囀ると、また元の場所に帰ってきてくれます。おかげでとくに珍しくも無いのですが、また一つイソヒヨドリの素晴らしい囀りがゲットできました。面白いことにこのイソヒヨドリは幼鳥が親に餌をねだるときのように、また求愛給餌の習性を持つ鳥、例えばメスのモズがオスに餌をねだるときのように、翼を広げて震わせるように動かしながら囀ることでした。なにしろ後部甲板の端に立つ私から10メートルほどのところでこれをやりながら囀るので、ポケットサイズのデジカメで写真が獲れたほどです。

やがて下船時間となり、比田勝の地に降り立ったあと、レンタカー会社が港の駐車場に用意してくれた軽自動車に乗り込んで港を後にして、とりあえずは目的地である佐護川方面に向かいます。

その日の午前中に予約しておいた民宿に入り、仮眠を取ります。なにしろ昨夜のフェリーの船内では、慣れない平床の船室でほかの乗客もいる中なのと、エンジンの音や眠入った人のいびき、また、ゆっくりとした波のうねりに横揺れする動きが気になって、ほとんど熟睡していません。午後にかけて2〜3時間眠ったあと起き出して、今夜使用する4台のレコーダーの最終点検をします。電池残量はもちろんですが、いちばん気をつけなければいけないのはタイマー録音の時間設定です。あわて者の私はこの設定を間違えたために、過去に大事な録音が録れなかったミスを何度も経験しています。

民宿の女将に「悪いけど帰りは午後10時になる、晩飯は簡単でいい」と告げて宿を後にして、その日の予定である佐護川流域にある三つの神社に向かいます。

これらの神社の背後にはそれぞれこんもりと小高い鎮守の森があり、樹種については詳しくないのですが、年数を経た落葉広葉樹の森があります。それらの木の中には太い枝が折れた後が洞になったもの、枝の裂け目が大きく口を開けたものなどがあり、そんなところをオオコノハズクが好んで巣にするのだと言います。

明るいうちに最初のお宮に到着して森に入り、大きな木にはなるべく距離を取っておおよその位置関係を頭に入れておきます。ここには日没後に戻って来て、もし鳴いていれば実際にマイクを向けて録音することになります。

二つ目のお宮に移動、ここは佐護小学校の校庭の端っこの外にあり、明るいうちは子供たちの声が森にもとどく位置です。こんなところなのに、今回いちばん有望視されているのはこのお宮の森と言うから、意外とオオコノハズクと言う鳥は人に近いところでも平気に生息していることになります。

その日の3か所目は、二つ目のお宮からずっと下流に下り、もう対馬北部の海が目前のところにある河口部の畑の中にある鎮守の森です。しかし、鎮守の森なのにここは土地が平坦で、盛り上がってはいません。いかにも河口らしいごろ石の目立つ平地に古い樹木が茂る森がある特別な環境です。

小学校裏のお宮の森に2台と、河口の鎮守の森に1台、あわせて3台のタイマーをセットしたレコーダーを置いて、最初のお宮に戻ってきた時はすでに辺りが薄暗くなり始め、お宮の前に広がる水田ではカエルの合唱が聞こえ始めていました。天気は良いのですが、風が強まってきたのが気になります。

録音にとって風がなにより困ることは言うまでも無いのですが、この強い風によってオオコノハズクが鳴かないのではないかと言う心配もあります。森から30メートルほど離れた場所に車を止めて暗くなるのをひたすら待ちます。その間も窓を開けておいて、森から聞こえてくる音に耳を傾けます。

しかし、聞こえてくるのはカエルの声と、塒に帰るアオサギの大きな声だけです。やがて日が落ちたので、車のドアをそっと閉めてハンドマイクとレコーダー、それに万一のためのヘッドライトを頭部につけて森に近づき、森を一周する道をゆっくりと歩きました。うまい具合に、森に沿って外周を一回りする道があり、どこからでも森の中でもし鳥が鳴いたら聞こえる距離です。

しかし、一層強まった風が大きく梢の枝や葉を揺らす音がザワザワとうるさく聞こえる以外に何の音もしません。注意深く林の縁に近い草むらにも足を踏み入れながら、森の中の物音に耳の神経を集中するのですが、森の半分を取り巻く水田のカエルの声も賑やかに聞こえて、肝心の森からの鳥の声は聞こえません。

「うーん、こんなはずでは・・・」ついこの前までは、この道を日没直後にジョギングするたびにオオコノハズクが鳴いていたと言う、地元情報提供者の話は嘘ではないはず、「頼むから鳴いてくれ」私は祈るような気持ちで森を何周もしましたが、強風が当たるので体も冷えてきました。時間を見るともう8時半を回っています。

あきらめの悪い私もさすがに心が折れてしまい、敗北感の中、あとはこの後の時間と、早朝にも自動的にスタートするタイマー録音に一縷の望みを残して、宿舎に引き上げました。

宿では私一人しか客はいないとかで、高齢の女将さんが優しく迎えてくれます。風呂を浴び、遅い夕食もそこそこに部屋に引き上げると、どっと疲労感を覚えます。なにしろ、昨夜博多港を遅い時間に出発してからロクに眠れていません。そして今日は、まだよくは分からない北対馬の田舎道を馴れない車を運転して走り回り、夜は耳に神経を集中して強風に吹かれました。70歳をとっくに過ぎた体力と気力には十分に応えすぎたこれまでの24時間でした。

翌朝、前日設置したレコーダーを回収して回り、宿に戻って早回しで録音の結果を聞きます。しかし、案の定、強い風の音のほかに私が期待する声は入ってはいませんでした。

ただ、朝早くには前夜の強風は完全に収まったようで、河口のお宮の裏に置いたレコーダーには、横の畑で間歇的に鳴くコウライキジの鳴き声や、いかにも河口らしいトビののどかな声がいっぱいに録音されていて、せめてもの慰めになりました。

第一日目はこうして完敗に終わってしまいました。ここまで遥々とやって来たのに、受け入れがたい結果ですが、自然を相手にするとこんなものなのですね。気持ちを取り直して二日目以後の予定を成功させようと心を奮い立たせたことでした。

(「野鳥だより・筑豊」2013年6月号 通巻424号より転載 2013-07-22)

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