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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

オオコノハズクの声を求めて・・・北対馬の自然に再挑戦(第2回)

前回では今年2013年4月25日の夕方から、宿にしている民宿を出発して、対馬北部を北に流れる「佐護川」の中流域の二つのお宮の森に併せて2台、それと同じ川をさらに北へ下った河口部の平坦な土地に建つお宮のまばらな森に1台、計3台のレコーダーを置いて、夜間と早朝の録音をしたが、強風のためか、または鳴く季節が過ぎたためか、何の収穫も得られなかった無念な結果を報告しました。

また、タイマーが働いて録音が開始される頃から約2時間、中流域の二つのお宮を回って、実際に自分の耳でも聞いて歩いたのですが、それらしい声がまったく聞えず、アオサギやカエルの声だけがむなしく聞こえてくるだけという心が折れてしまう悔しい体験をしたことも書きました。

翌朝回収したレコーダーを、早々と引き上げた宿の部屋で早送りで聞いた結果は、ただ収穫が無かったことを改めて確認する作業となっただけで、残念な気持ちが増幅されただけでした。

さあ、実質二日目の夜はどこにターゲットを絞るか。

当初の予定では、宿舎にしている民宿からすぐの仁田湾に沿って西へ行き、そこからさらに西海岸を北上した「田ノ浜」地区の自然林の森と山に行ってみることにしていたのですが、たまたま佐護川からの帰り道に立ち寄った酒店の主人から、「ツシマヤマネコ応援団」の代表であるN氏を紹介され、そのN氏から「目保呂(めぼろ)ダムへ行ってみないか」と勧められました。このダムは去年北対馬に挑戦した時に、私も一度下調べに訪れたところですが、ダムの奥まった部分と流れ込みの森には確かに自然林が残されていましたが、そんなに有望とは思えなかった場所です。

しかし、N氏は今年の3月ごろ、ダムの左手の奥のノリ面の若い木々の枝や、あるときなどはダム側のガードレールにもオオコノハズクが止まっていたのを何度も見たと言って、とにかくダムに行ってみることを勧めてくれます。

「地元の人がそこまで言うなら・・・」と、現地の事情に疎い訪問者である私は、軟弱にもついつい従ってみることにしました。でも、限られた日程の中で、当初の予定も崩したくないので、欲張りにもほどがあるとはこのことで、前述の田の浜地区への未練も断ちがたく、結局夕方早めに宿を出て、まず田の浜へ向かいました。

ここは人家が十数軒ほどの小さな集落があり、周りは農地と湿地と、その外れから低い山頂部に灯台のある山とで構成されているところです。湿地にもいろいろな鳥がいて、この時期なら海からやってきたアオアシシギや、本来の湿地の住人であるバンやカイツブリも多彩な鳴き声を聞かせてくれるところですが、すでに昨年来た時に彼らの声は十分に録音したので、今回はオオコノハズク一本に絞ることにして、山道に入る部分の両側の林の、太くて洞や裂け目のある大木の近くに計2台のレコーダーにタイマーをセットして配置し、大急ぎユーターンして「目保呂ダム」に向かいました。

細長いダムの左側の道を奥へ向かって急ぎます。やがて流れ込み部に到着、ここは昨年来た時には流れ込む浅い川の底に、無数のアユが群れていて驚いたことがあります。

余談ですが、このダムのアユは琵琶湖のアユと同じで、ダムから下流の川に下ることなく、短い一生を流れ込む清流とダム本体の水の中だけで過ごすダム湖封性の魚だそうで、そのために琵琶湖のアユと同じで、大きく成長できないのだそうです。

さて夕暮れが迫っているので、車を流れ込み部の駐車スペースに置くと、私は一台のタイマーセットのレコーダーとハンドマイクとを手にして車外に出ます。そしてN氏から教えられたダム湖に沿った道を歩き、もっとも可能性の高そうな林の縁に1台レコーダーを置き、あとは手に持ってひたすらオオコノハズクが鳴き出すと言う日没後の暗くなる時間を待ちます。昨夜の初日の夜に比べると風も弱く、録音には絶好のコンディションです。難を言えば、流れ込み部分の渓流の水音が気になるのですが、それも背景音に生かせそうで問題はありません。あとはオオコノハズクが鳴いてくれるのを待つだけです。

しかし、ここの木々は皆若くて、オオコノハズクが営巣できそうな洞や裂け目がある大木はありません。ヒヨドリやシジュウカラ、メジロなどの声以外に何にも聞こえてこない時間が過ぎて行くうちに、私は段々不安になってきて、期待感がどんどんと薄れて行きます。ダム湖に沿った道500メートルほどを足音を殺して何度行き来したでしょうか。

でも、私が期待する声は一声も聞こえてきません。つい先月まで道路わきの若い木々の枝や、ガードレールにまで止まっていたというオオコノハズクたちはいったいどこに行ってしまったのでしょう。「今夜もダメだ・・・」力なく自分に言い聞かせて、タイマーをかけた一台だけを残して、肩を落として宿に引き上げます。あとは夕方早めに行った「田の浜」の林の二台だけがその夜の楽しみです。

結果的には実質二日目にセットした計3台のレコーダーはいずれも空っぽでした。前日の雰囲気を感じてある程度予測していたとは言え、なかなか素直には受け入れがたい結果です。

残された時間はあと24時間です。最後のチャンスをもっとも森が深い「峰町・木坂」の木坂神社に賭けてみることにしました。ここは同じ対馬北部でも少し南へ下った西海岸にある立派なお宮(海神社)とそれを取り巻く広大で古い森があります。周辺には数戸の農家と畑や湿地があるだけで、文字通り人里遠い豊かな自然が残されているところです。このお宮の本殿は入り口の鳥居をくぐったあと曲がりくねった石段を約300段も登ったところにあり、本殿の回りもそれまでの石段の両側も太い木々が茂る理想的な鎮守の森です。昨年もここに行ったのですが、夜暗くなった頃、石段の真ん中辺りで野生のツシマヤマネコを始めて目撃して感動した思い出の地でもあります。人一人いない夜の境内には、ツシマヤマネコのほかにはイノシシとシカたちが我が物顔に闊歩する、自然を肌で感じることの出来る、対馬でも数少ない場所なのです。

そんなわけで、今年も最後のチャンスをこの木坂海神神社に賭けてみることにしました。

まだ夕日が海に沈む前にやって来て、最上段の本殿の両側に各1台と、お宮入り口に近い林の斜面の古木が多いところに1台、計3台のレコーダーを配置し、例によって1台のハンドマイクを握って、300段の石段の中ほどに目立たないように陣取って暗くなる時間を待ちます。

やがて暗くなってくると、私の両側のすぐ近い林の縁を動き回るイノシシとシカたちの足音がガサゴソと聞こえます。暗闇に慣れてきた目で見渡しても彼らの姿は見えません。林の縁といっても、自分たちの姿が見られることの無い、ほんの少し中を移動しているようです。時たま小鹿の高く鋭い声が間近でします。でも肝心のオオコノハズクの声はサッパリ聞こえてきません。階段の中ほどに陣取って、全ての神経を耳に集中し、広い境内の森のどこかで鳴き声が聞こえても、それを感じ取れるほど気持ちも張り詰めているのですが、遠くからアオバズクの声が聞こえたり、寝ぼけたカラスの声が断片的に聞こえる意外は静まり返っています。

「あー・・、今夜もダメかー・・・」さっきまでの期待による緊張が、私の頭と心から崩れ始め、失望感による弛緩が心身を支配し始めます。

「もう少し粘って見よう、今夜が最後のチャンスなんだから」そう思っても、まったく期待する音の聞こえてこない苛立ちと落胆に耐え切れず、ヨロヨロと固まった足腰を伸ばして立ち上がります。階段を下り切り、真っ暗な平地部分の境内を出て外の道に出た時、私の耳に不思議な音と言うか、声が聞こえてきました。そうです、ミゾゴイの声です。「ウー、ウーウー」と超低音の声が目の前の湿地とそれに続く畑から聞こえてくるのです。私はミゾゴイの録音は未体験ですから、さっきまでの失意にひしがれていたことが嘘のように元気が出て来て、真っ暗で細い畑の道をミゾゴイの声がするほうへほとんど手探りで進みます。

ツシマヤマネコ応援団のN代表が「北対馬にはマムシが多いので、夜の湿地周りは要注意」と警告されていたのもすっかり忘れ、時折シカが飛び出してくる畑の小道を奥へ進み、どうにか録音可能な声が聞こえるところで立ち止まり、ハンドマイクを声の方向に向け、レコーダーのRECボタンを押します。私がやってきたことで驚いたシカは逃げて行くのではなく、逆に、まるで何者がやって来たのか確かめるかのように近づいてきて、鋭い高い声で鳴きます。対して、ミゾゴイの声は恐ろしく低い声です。三声ほど鳴いてくれたあと、シカの騒がしさに驚いたのかミゾゴイはとうとう黙ってしまいました。夜露がどんどん降りてくるのが肌に感じられる中、真っ暗な畑の道で待ちましたが、それっきりミゾゴイは鳴くのは止めてしまいました。辺りの静寂に我に返り、とぼとぼと暗い道を引き返します。

翌朝回収した3台のレコーダーにも期待していた声は無く、数種類の小鳥たちの声が入っていただけで、予定の丸3日間の「北対馬オオコノハズク鳴き声録音の旅」は、このようにして今年も収穫が無いまま終わってしまいました。

結論的には、私が行くのが1ヶ月遅かったようです。2月末から3月いっぱいは良く鳴いていたと言う「対馬野生生物保護センター」のK氏、3月にはダム湖のガードレールに止まっていたと言うN氏のお話どおり、オオコノハズクの繁殖初期は春まだ早い頃なのでしょう。

「来年こそ、この二年間の失敗を糧にして頑張ってみよう」と思うには思うのですが、すっかり老いを感じるようになった私に「来年の春の行動力」は果たして残っているでしょうか。もしも幸いにしてどうにか動けるようであれば、オオコノハズクの最後の聖地と呼べる北対馬に再々挑戦することにしましょう。(終わり)

※ このたびは2回にわたった拙文をお読みくださった皆様にお礼を申し上げます。

録音と言う手段で野鳥とのつき合いを楽しんでいる人は数少ないと思います。そうした世界を少しでも知っていただきたく、今後も投稿させていただきます。どうぞよろしく。

(「野鳥だより・筑豊」2013年7月号 通巻425号より転載 2013-07-29)

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